ESG とか SDGs とか TCFD とか – (純)投資で本当に世界を変えたいの?

最近、投資の中に ESG – environment, social and governance- とか SDGs – sustainably developed goals – 、TCFD – taskforce for Climet-related Financial Disclosure – という言葉を散りばめて投資の呼び込みの手口を働きかける(ここ以上に怪しい)コンサルとか、投資を促そうとする運用会社とか、取引所とか(笑)果ては行政機関とか(爆)増えたというか、そんなのばかり、という気がして仕方がありません。

実際、最近私が深く関わっている、というのが公然の秘密になっている某運用会社で立ち上げたセカンダリー戦略ファンドのDDQ – due diligence questionnaire – も ILPA – international limited partners association – 要は世界的なプライベート資産への投資家の団体の標準的な質問票 (Questionnaire) に準拠するように数10ページにわたるものを作成していたのですが(ライセンス回避でファンド運用をしようとしている人たち(もしくは、その振りをして投資家のお金をいいように使おうなんて考えている不届き者ども)、本気でまともな投資家さんと向き合うならば名刺がわりにそれくらい作らないと、ですよ。と言って、これを作ったからと言って投資家が投資するわけではないですが。。。)、その後半の質問は主に、運用機関の ESG の取り組みのみならず投資先企業への ESG の取り組みの推進度合い、であったり、diversity and inclusion – 日本語ではそのままカタカナでダイバーシティ・アンド・インクルージョンで使われていますが、単純に社会とか組織の多様性にのみならずそこにより多くの多様性のある人や考え方、ライフスタイルなどを内包し受け入れていくか、という概念への取り組みについて答えることが求められていました。

また、ちょうどこれを書いている最中(といいつつ、既に1ヶ月以上経っています。あ、その時の雑感は某運用会社の従業員ブログに載せる、はず。今書き上がったから(笑))に毎年訪問しているベトナムの運用会社の投資家年次総会に参加した際にも、ベトナムのプライベートエクイティ投資にも拘らず(いや、欧米の贈収賄関連の法律のおかげで海外からの企業投資のリスクが最も高い国の一つ、とまで言われたこの国だからこそ、投資への安心材料として)、欧米のスタンダードレベルのESG 目線での投資判断を入れている、ということで、その投資のアドバイスをする ESGコンサル会社によるプレゼンまで行われたのです。

そこのいずれの根底には多分、日本より先を行っているだろう海外の投資家の投資・運用に求める社会への還元という考え方やそれ以上に超長期的なブランドイメージや経営資源の保全が根付いたものの表れ、なのかもしれませんが、そこは少数先鋭といえば言葉はいいが、実質平均年齢50才以上のおじさんたち6人プラスアルファな組織では最初からダイバーシティどころか偏りしかない組織ですので何を語りそれが投資のアルファに影響するのか、なんて難しいどころの騒ぎではないのです。

とはいえ、世の中はそういうことを求める風潮にあるわけですが、さて、本当にそれって投資を通じて実現できるのでしょうか。いくつかの、そしていくつもの現実を踏まえていつものように超個人的目線で語らせていただきます。ストラクチャーなのに的外れな投資を語るのか、なんて言わないように。

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拡張する概念 – パフォーマンス計測の裏側を数学的に考えると

あまり知られていないことなので自分で言わないと知られないことの一つに、自分の経歴、というものがあります(笑)

算数って難しい。。。

気づくと偉そうに日本のオルタナ業界のメインストリーム、というニッチな世界でも戦略関係なくあちこちの人たちとお話しさせていただける程度に認知されてしまっていますが、その前に証券化商品に手を染めていた、とか、さらに昔はデリバティブの人だった、とか、履歴書を表立って出さない限りは分からない、くらい昔の話になった、とも言えると、学生の頃に何を学んでいたかなんて想像も出来ないし、当然自分の知人が何学部だったかなんて、ぱっと見で想像なんて出来ませんから、自分が他人様に当てられることなどほぼ不可能、なはずなのです。

で、今の仕事から想像されると、どうしても法学部か経済学部、と思われがち、なのですがまさか理工学部で数学が専攻だった、って思わないですよね。でも、その数学の考え方で、昨年の証券アナリストジャーナルの記事が書けた、と言ったら、みなさん、どう思うでしょうか。

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最近投資するのに時間がかかるのはなぜ? – AMLとかKYCとか、気づいたら適格投資家まで説明しているぞ

申し込み用紙、これくらい簡単なら

このところ、ちょっと芸風を変えて、コンテンツをまずPowerPointで作って、SlideShare に投げてます。こうすると、本当に要点だけのコンテンツが出来るので、いつものような脱線が起こらない。。。はず、なのですが、ちょっとだけはみ出てますね。

で、その勢いでコンテンツを音声のない動画というかスライド動画にして こんな風にYoutube にあげてみたり。

まぁ、Youtuberになるとは思わないものの、どうも最近このサイトへのアクセスブロックを某銀行さんが始めたらしく、読者が激減。まぁ、それ以上に、記事がアップされたと思ったら食べ物ばかり、では飽きられちゃいますよね。ですので、色々な形でお送りしたらより多くの人に届けられるのでは、と思って試行錯誤中です。

で、本編の AML/KYC の話ですが

タイトルの通り、最近、AML/KYC の手続きが厳格化されているのは、FATF の査察を控えた日本だけに限った話ではなく、OECD諸国をはじめとする世界各国で(それこそ、CRSに入らないと言っていた台湾ですら、2020年9月から日本とAEOIを始めるそうですから)その程度はあれ起こっていることです。

よくオフショアはそういうのが緩い、なんて思っている人もいるのですが、ケイマン諸島は以前の記事の通り、AMLに関する法規制を導入して各ファンドに専任の担当者を置いて当局への報告を直接出来るようにせねばならなくなった、というのは実はオフショアのみならずオンショアですら結構例を見ない、厳しい制度なのです。

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PE問題ってなぁに?

オフショアでファンドを建てて運用するファンドマネジャーにとって、投資先の国における課税問題というのは常に古くて新しい問題です。ある程度小慣れたものも現地政府の都合やその他の国との税制等との平仄を合わせるなどのかなり大人な事情で、しかも突然に変更されるので、それまで盤石だと思っていたものがいきなり崩れて税金という投資コストが上乗せされるリスクを孕みます。

最近の税務は基本厳しい方向で規制が進む

とはいえ、そのリスクの予見は(最近のOECD諸国を中心とする BEPS – Base Erosion and Profit Shifting: 税源浸食と利益移転への対応強化の流れを見ると緩和の方向には絶対にない、という傾向以外は)難しいため、せめてファンドが立ち上がった時には機能する、すなわち合法的な税務対応の最適化、を目指すことになります。

この中で、とはいえ、例えば日本から米国へ、のような単純なクロスボーダーならば二国間の租税条約に従えばいいのでまだ比較的取り組みやすいのですが、日本の運用者がその地の利を生かした日本での投資に対して海外の投資家を連れてこよう、という時に、海外から日本への投資の際の税制を考えるに当たって非居住者の税制のメリットを享受出来るようにしながら居住者として得られる情報に基づく運用等のメリットを提供するか、言い換えれば、非居住者が居住者と同じような資産処分時の源泉所得税の対象とならないようにしてあげるにはどうしたらいいか、という問題に直面すると話が一気に複雑になります。

そんな中のPE問題の歩き方、とは

過日、とある方からこの問題について説明してほしい、と言われたのと同時にちょうど今抱えている案件でもこの問題の取り組みをしていたことから、税理士ではないため考え方の概要を説明するのにまとめる文章を書く機会を得ました。本当はそれをそのまま掲載するのがいいのですが、それではちょっと芸がない。しかも、このブログは無題に長いことで有名だから、たまにはその予想を覆してみよう、と、こんな動画を作ってみました。パワポで。

で、何が言いたいのかというと

ざっくりとまとめるならば、日本国内で日本人だけでやっているならば国内税制の適用があるけど、国外で非居住者だけでやっているなら日本に課税権がないのでスッキリ。でも、国内に拠点があるのに海外からの投資、というのはその中間でどう考えたらいいのか、という話であり、非居住者という顔をするファンド自身が国内に恒久的施設を持って国内で居住者同様に投資活動をしているならば、居住者と同じだけの課税権を持っていいよね?国内の恒久的施設を有しなくても、代理人があたかも海外のファンドと一体化してその一部として活動しているのもダメだよね、という時に、その代理人の独立性とは、とか国内の恒久的施設に当たるにはどういう条件なの?という整理をすればいいのですよ、というのがこの動画におけるPE問題の取り組み方、なのです。

詳細は本編でどうそ。4分程度の動画ですから税金の話とはいえ寝ることもないですよ。

当然のことですが、税務については税理士さんと必ずご相談を。それだって時と解釈が変われば使い物にならないケースも多々ありますので、そう思う前提で(決してクレームは当方に持ち込まれないよう)よろしくお願いします。

ね、たまには文章が短いのもいいでしょ?(笑)

余談

あ、ちなみに、SlideShare にも投稿してみました。

スチュワードシップ・コードと、エンゲージメントと総会屋と- スチュワードシップ・コードを個人投資家が考えるときの一考

前回、上場企業の経営に課せられたコードであるコーポレートガバナンスコードについてある意味遠回りしながら(読み終わるのに39分かかるらしいですよ)根本で誰のために何をするのか、という所をみていった記事を書いたのは、このところプライベート・エクイティやベンチャーキャピタルファンドへの投資を間接的とは行なっている中で、その投資手法の延長線上に、PIPEs やエンゲージメント投資のような上場株の特に小型株のような比較的流動性の低く、投資家数も実際に多くないような企業への集中投資というものが見えている一方で、このエンゲージメントという言葉を明らかに乱用しているタイプの投資家がいて、個人的に許せないものを感じているので、スチュワードシップ・コードと投資家の権利、義務、そしてやっちゃいけないこと、そして、そういうのを見ながら少数株の保有となりがちな個人投資家としてこの関連で何を気にしておけばいいのか、というような話にまで踏み込めたらいいな、というのが今回の記事の目標です。前回同様、書くのに数ヶ月、間を挟みながらだらだら長文になると思いますので、ご容赦を。。。

その前に株主の法的な権利を整理しようかと

通常、個人投資家として株式の権利といってきになるのはどうしても株主優待。保有する株式数に応じた優待品を株式を所有する会社から年に1−2回もらえる、ので、その株式数を勘案して保有しよう、という戦略を立てたりしますよね。それだけで生活している人、なんていうのも居るくらいですから。

株主優待狙いは悪くはない。お金に色はないのだから。でも。。。

当然、経済的効果から見ればそれだって大事なこと。これに合わせて株式への配当金が支払われれば、投資した元本に対してのリターンは分配金に株主優待品の現金相当額を合わせて考えることになる訳ですから悪い話ではないとは思います。投資家の観点で言えば。

でも、これ、その会社のバランスシートから考えると、出てくるポケットが微妙に異なるんです。株式配当金は売り上げから経費を差し引いた利益、について法人税等を支払った後の利益から支払われている、ので、まさに会社への投資の結果の果実を受け取っている、という意味なのです。

が、株主優待の出どころは会社によって異なるものの大きく分けると次のどれかになる、そうな。

  • 売り上げからの控除
  • 交際費として処理
  • 広告宣伝費として処理
  • その他販管費(例えば株式事務取扱い費など)で処理
  • 利益処分項目として処理

最後の一つは分配金と同じなので良いとしても、残りの四つって売り上げを減らすか費用を増やすか、ということで、会社の事業成績を図るという意味で見ると株主優待分だけ成績を悪くしている、ことになってしまう。その分、法人税の課税対象所得が減っている、というメリットはあるのかもしれないが。でも、これって、株主が売り上げに手をつけているようにも見えるという言い方もできるし、この宣伝広告費として処理する、なんて会社の宣伝をして「返さなくていい資本を持ってもらう」という釣りを優待品で消費者がされている、なんて言い方すらする人もいる。実際、株主優待の制度は日本くらいにしかない、とも言われているくらいですから。

じゃあ、本来の株主の権利って何?

ということで、ベーシックに戻って、じゃあ、どんな権利があるのか、という話をしますと、そもそも株式ってやつはその発行する株式会社の

  • 自益権(株主自身の利益のために認められた権利)
    • 剰余金配当請求権
    • 残余財産分配請求権
  • 共益権(会社の経営に参加することを目的とした権利)
    • 株主総会での議決権
    • 決議の取消しを訴える権利
    • 議案権
    • 総会招集権
    • 代表訴訟提起権
    • 役員等の解任請求権

などなどが、株式会社を法的に定めた会社法にて定められています。そのうち、どの株主にも等しく与えられている「単独株主権」と、持ち株、というよりは総会での議決権の数によって権利が変わる「少数株主権」とに分けて理解することになります。

例えば、自益権は単独株主権です。ですが、経営に関連する共益権について、単独株主権があるのは

  • 株主総会での議決権
  • 株主総会の「議案」提出権
  • 取締役会「非」設置会社での株主総会「議題」提案権
  • 取締役会「非」設置会社での「議案要領通知請求」権
  • 取締役の違法行為差止請求権
  • 責任追及等の訴えの提起権

そのうち、最後の二つは、公開会社、すなわちいわゆる上場企業ですと最低6ヶ月株主として株式を所有していることが条件にあります。

が、この時ちょっとだけ気をつけなきゃいけないのが、株式、と言っても、通常売り買いされている株(=普通株式)以外にも色々と特色のある株式が存在していて、通常はスタートアップの調達や破綻しそうな金融機関の支援のために国が資本注入するときに使うなど、一般的ではないものの、時たま上場市場に出回ることがあるので、そこには注意が必要だったりします。

off-talk : じゃあ、普通じゃない株って?

優先株式、って聞いたことがあるでしょうか?名前の通り何かしら優先権を与えられていそうですが、当然優先権がある代わりに失うものがありまして、どういうことかというと、この優先株というのは、よくあるのが

分配金を普通株式より多く支払う代わりに議決権がない

という配当の支払いを優先的に受けることの出来る、どちらかというと劣後債のようなメザニン・ファイナンス的な意味合いの強い優先株式、です。でも、債券ではないのでいわゆる返す必要のない資本的意味合いが強いという意味では普通株と同じで(言い換えれば永久劣後債であっても債務であり、その意味では劣後と言いつつも優先株式に優先するし企業破綻時に債権者として他の債権者に劣後するものの資産分配を要求できる、というのが劣後債、なのです。)このような経済効果が見えやすいもの、以外にも実は優先株を作ることは可能でして、例えば

  • 残余財産の分配優先権(その名の通り、会社を清算する時に普通株主に優先して会社の財産をまず元本まで回収し、その後の精算時の分配に持ち株比率分だけ受け取ることが出来る)
  • 転換請求権(IPO前の発行される各ラウンドの優先株式はIPOの時に発行価格で普通株式に転換されるのが常、ですので普通株式に転換するメリットはIPOまではないものの、例えばダウンラウンド – 過去の発行価格/会社の評価価格に満たない価格で株式増資すること – による自分の株式の評価額の減少を防ぐ意味で、転換価格を下げて転換できることにより自分の持ち株数を増やして株式の希釈化 – 持ち分比率の低下 – を防ぐ)
  • 強制転換条項(優先条件を与えられている優先株式に、投資家の意思とは無関係に一定の条件を満たした時に自動的に普通株式に転換される条項を入れる)
  • 拒否権条項(比較的少数株主になりがちな優先株式に、株主総会での多数決で不利にならないように一定の議決内容に対して拒否権を与える)
  • 役員選解任権(優先株主のための会社のガバナンス維持のための社外取締役の選解任の権利)

と言った、通常の株式に対して一定の(少数)株主としての利益供与や資産保全を意図するような条件を入れたもの、というところです。その分議決権行使のような権利がない、というトレードオフが存在する訳ですが、経済的利益を得れば議決権のような面倒な義務を失ってもいいんじゃないか、なんていう投資先企業の行く末に極めてパッシブで無責任な(ベーっだ)従来型の日本の投資家(そうなんですよ、結構平気で議決権行使を捨てていましたし、それを行使する責任を放棄する戦略を普通にあちこちで取っていましたから。。。)ならばいいのですが、今回の記事の本題になる「スチュワードシップ・コード」みたいなアセットオーナーやその代理人としては投資先の(株価じゃなくて)企業価値の向上に参加せねばならないので、この議決権とやらを行使して行かねばならなくなった、のです。

議決権と保有比率、そして株主の権利の関係って

ということで、金に変えることも出来た議決権、な訳ですが、これって基本一株につき一票投票権を持っている、という意味でどの株主にも平等な権利です。この議決権を株式会社の最高決定機関である株主総会の議事で行使することで会社の重要課題の決定の賛否に参加する、という大事な義務を負うのです。ええ、権利って言いながら義務です。当然白紙票を入れる権利だって棄権することだって権利です。でも最終的に株主の資産である会社の将来を左右するのですからその議決について向き合う必要がありますよね、というのが基本にあるのですから、これは行使する義務を負っている、というべきでしょう。

さて、票を投じる、ということは、です。一株一票ですから、単純に2株持てば二票投じることができます。一票持っている人より大きな声を持つことになります。ですので、某秋葉原地方の有名アイドルグループ集団(ん?変な日本語だ、って相変わらずか)がほぼ毎年恒例行なっている「総選挙」のように、CD一枚に一票あるから、1万枚CDを買って一万票を自分の推しメンに入れて応援するのと同じで、この会社の将来を自分が動かしたいから、その会社の株を一定数、まあ、ぶっちゃけ過半数買い占めてしまえば多数決の原理で株式総会の議決について自分の思い通りの賛否に動かすことができてしまう訳です。

さらに、2015年5月に改正された会社法では次のように、議決権の保有比率に応じて次のようなおまけもついてくる、のです。

議決権保有割合権利等
190% 以上 (10 分の 9 以上)特別支配株主の株式等売渡請求
290% 以上 (10 分の 9 以上)略式合併等における総会決議省略
366 2/3% 以上 (3 分の 2 以上)株主総会の特別決議を単独で成立させられる
450% 超 (2 分の 1 超)株主総会の普通決議を単独で成立させられる
550% 以上 (2 分の 1 以上)株主総会の普通決議を単独で阻止できる
633 1/3% 超 (3 分の 1 超)株主総会の特別決議を単独で阻止できる
725% 以上 (4 分の 1 以上)相互保有株式の議決権停止
816 2/3% 超 (6 分の 1 超)簡易合併等の反対権
910% 以上 (10 分の1以上)一定の募集株式発行等における株主総会決議要求権
解散請求権
103% 以上 (100 分の 3 以上)総会招集請求権
役員の解任請求権
業務の執行に関する検査役選任請求権
役員等の責任軽減への異議権
会計帳簿閲覧請求権
111% 以上 (100 分の1以上)総会検査役選任請求権
多重代表訴訟提起権
121% 以上 (100 分の1以上) or 300 個以上株主提案権

ちなみに、ちょっと解説をするならば

普通決議とは、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数の賛成をもって可決となる決議をいいます。上記の表で言えば45が関連しますが、その決議事項の例としては

  • 自己株式の取得[会社法160条1項により特定の者からの取得する場合を除く](会社法156条1項)
  • 決算の承認(会社法438条2項、441条4項)
  • 取締役・監査役・会計監査人の選任(会社法329条、341条)
  • 取締役・会計監査人の解任(会社法339条)
  • 取締役の報酬の決定[定款で定めていない場合](会社法361条)
  • 監査役の報酬の決定[定款で定めていない場合](会社法387条)
  • 総会検査役の選任(会社法316条2項)

があります。この辺りは過半数を持つことで取締役会の人事権を持つことになるので議題の賛否以上に会社の運営を思い通りにできる、という意味が見えてきます。これに対して特別決議とは、

議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の賛成をもって可決となる決議をいいます。上記の表で言えば36が関連するのがわかりますがその決議事項の例としては

  • 自己株式の取得[会社法160条1項により特定の者からの自己株式を取得する場合](会社法309条2項2号、160条1項)
  • 定款の変更(会社法309条2項11号、466条)
  • 資本金の額の減少(会社法309条2項9号、447条)
  • 株式の併合(会社法309条2項4号、180条)
  • 事業の全部の譲渡などの承認決議(会社法309条2項11号、467条)
  • 監査役の解任(会社法309条2項7号)
  • 合併・会社分割・株式交換・株式移転の承認決議(会社法309条2項11号、783条、795条、804条)

が挙げられます。特にこれらは重要な経営上の判断になりますので、もし6の議決権を33.3%以上持っているというのは、実は経営に対する拒否権を発動できる、という意味を持っているのです。

ということを考えると、仮に議決権を1/3とは言わないもののそれなりに束ねて持っていると、株式総会の議決を左右するだけでなく、役員の解任請求や、株主総会を開催請求してそこで株主提案に行う、のも出来る、というのがわかります。

ちなみに、会社法以外でも株式の保有比率によって色々と影響を受けることがありまして、ざっとこんな感じでしょうか。

議決権比率権利・義務など参照法令等
20%以上50%以下持分法適用となり損益の取り込む企業会計処理
50%超100%未満子会社扱いとなり資産と負債を取り込み、損益は少数株主分を除外して計上(連結決算対象となる)企業会計処理
100%子会社扱いとなり損益も資産と負債も取り込む(連結決算対象となる)企業会計処理
100%連結納税可能(税務上一体化)となる税法
発行済株式保有比率義務など参照法令等
5%以上(その後1%以上の増減があるごとに)(上場株式やREITなど上場商品のみ)大量保有報告書の提出と開示金融商品取引法

まぁ、会計上の連結処理などはさておいても、この保有開示義務と会社法上の株主の権利を考慮して、株主はその会社の企業価値をどう影響することができるのか、というのが、この記事の本題であるスチュワードシップ・コードを考えるにあたって大事な基本、ということがこれで見えてきたかと思います。ええ、相変わらず前置きが長いです(笑)

で。スチュワードシップ・コードって?

端的に言えば、投資先企業の持続的成長を促し、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図るために、機関投資家が行う原則、として国が定めるもの、とされています。ちなみに、法律ではないのでやるやらない各機関投資家の判断に委ねられています。要は、強制ではない、ということになっています。

  1. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針
    を策定し、これを公表すべきである。
  2. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利
    益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
  3. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシッ
    プ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきであ
    る。
  4. 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通
    じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努める
    べきである。
  5. 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針
    を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基
    準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとな
    るよう工夫すべきである。
  6. 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をど
    のように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対
    して定期的に報告を行うべきである。
  7. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業
    やその事業環境等に関する深い理解に基づき、当該企業との対話やス
    チュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備える
    べきである。

ちなみに、ここでいう「スチュワードシップ責任」とは、機関投資家が、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、「顧客・受益者」(最終受益者を含む。以下同じ。)の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任、を意味します。

いわば、機関投資家というのはこのスチューワードシップコードを採用すると、最終受益者や顧客から預かったお金を中長期的に運用してリターンを作り上げていく責任のもと、投資対象の価値向上や持続的成長を促すべく、その投資先企業やその事業環境を理解し、その上で投資先と対話することが求められる、のです。その上で、その対話等を行っていくにあたって、上記の7つに基づいて行うことが求められる、ということなのです。が。

そもそも、これを採用する必要、あるの?

投資を行ってリターンをあげるのがお仕事、な機関投資家にとって、短期的な収益の積み重ねが中期や長期のリターンの拡大につながる、という貪欲なアプローチをしても本来はいいでしょう。持続的成長など不要、そこにある収益源を刈り取り続ければいいじゃないか、という搾取的な投資を行うことだって可能です。

問題は、果たしてそのような短期的で搾取的な投資機会が未来永久に続けることができるのか、という天然資源の枯渇問題のような観点もある一方でそこは完全な情報の対称性が存在し得ない以上、ヘッジファンドが唱える株価の合理的価格への収斂というのは永遠に続く(言い換えるならばどこにも収斂しない)と考える方が現実的で、となると収益性の多寡はさておき短期的搾取的投資の機会も永遠に残りえるわけですし、そういう価格調整の役割を HFTやヘッジファンド、といったミスプライスを叩いたり裁定取引をする人たちがポジションをショートするのです。その意味でポジションをショートすることが必ずしも悪いことではないのですし、実需による売りだけよりもより多くの取引機会を作る、という意味でも市場の活性化に寄与しているのです。

とはいえ、この手の短期的視点での株価の上昇への期待が四半期ごとの財務状況報告への過度なプレッシャーを起こし、短期的に見ると株価の不安定性を助長し、また長期的に見るならば企業が成長することなく疲弊してしまったり、不正行為へ誘導してしまうのでは、という株式市場への不健全性、不信任を助長する懸念材料となる、だから、投資というものを昨日今日の値動きで一喜一憂するのではなく、スチュワードシップコードを通じて中長期的視野で見ましょうよ、という、さもすれば株式市場の運営側の都合、とも見えるような理由が存在します。それこそ、限りある資源を長期的、かつ安定的に利用しましょう、という天然資源の枯渇対応のような話との類似性はどうしても否めませんが。

だから、とはいえ、です。(取引所経由で取引相手がいる限りにおいて、という限定条件ですが)好きな時にいつでも買えて、好きな時にいつでも売ることのできる上場株式です。投資戦略として、中長期保有して、かつそれなりの比率を保有して、企業を理解して対話して、というそれなりの時間とコストを要する投資を追加してまで、自らの投資戦略を縛る必要があるのか?という疑問が出てきても当然です。

保有比率と発言力の関係を改めて考えてみる

まず、このスチュワードシップ・コードというのを投資戦略として捉えるとき、投資先企業と建設的な対話が出来る立場に立てるのか?というポイントを考える必要があります。

そのために、前述の株主の権利と株数の関係を準備したのですが、それなりにプレッシャーをかける事が出来そうなのが10%以上保有する事で総会の開催を求めたり役員の解任請求が可能になる、という事で、1%以上保有すると出来る総会での株主提案権と合わせて株主総会の決議内容について自主的な提案が出来る立場になれる、ようです。ここまであれば取締役会からはちゃんと話をしておかねば、と思わざるを得ませんが、それでも残る9割、しかも誰が持っているのかわからない投資家、から反対を受けるような提案をしたら否決されますので 10%で思い通りになる、訳ではなさそうです。

もしそこまでねじ伏せたい、と考えるならば5割を超えて握ってしまえばいい、と考えればいいですし、バイアウト戦略をとって非上場化して、だっていいのです。実際、5割を超えてを買い集めても、市場で流通する株式数が上場数の5%を超えていれば上場廃止基準をまだ満たしていないことになるので、株式総会をコントロールしながらも上場状態を保って取引所経由での Exit を図ることも可能なのです。とはいえ、この状態だと機関投資家に連結されてしまいますので自分の株主に何を言われるかわからない、という別の問題が起こり得ます(笑)

では、10%を下回っても投資先企業と対話する、というのは、会社の機関決定である株主総会を通じて発言して関与する、というよりは取締役会という会社の運営体にいかに働きかけを行って自主的な会社の価値創造を行うか、という話になっていくことだという理解になっていきます。いわば、株主と取締役会との対話による会社の方向性づけ、というところ、なのですがそれってどれだけの効果を生み出せるのでしょう。確かに会社の日々の運営から情報発信に至るまで、取締役会での決定に基づいて会社運営というものがなされ、株主総会というのはそんな取締役の専解任を決める、という役割になる以上、会社の価値を決めるのは取締役たちの行動に掛かっている、といえばそうなのですが。。。

対話という発言とその効果測定

ここで、一つ10%未満の株式保有であっても取締役などが投資家と対話を持ち、会社の成長をサポートしているケース、というのをあげるとすれば、それはベンチャーキャピタル企業とその投資家の関係、があります。前述のガバナンスコードの記事における株主の位置付けを読んでいただくとわかるのですが、特に会社の創業期というリスクの高い時期に投資するキャピタリストたちは、リスクマネーを供給しながら取締役たちとその事業の方向性を共に考え(時に事業の転換などを促し)ながら、協業相手や新しい資本提携先の紹介などを含めて企業の成長を助ける役割を担っています。このようなリードを取るキャピタリストのような投資家が企業の取締役と対話し、時に二人三脚で企業の成長に関与していく、というのはとてもわかりやすいしその効果も見えやすい、と言えるかもしれません。

当然、この未上場のステージにおける企業のあり方は上場後の「公器」としての企業のあり方と異なり、資本提携や協業、事業転換などはある意味インサイダー情報になりかねず、当然に同じことを上場株式に対して行うことは投資回収機会の制限を産むこととなるので自らの投資の機動性を失うというデメリットに繋がります。

となると、投資家が直接でも、運用会社を通じて間接的でもいいのですが、エンゲージメントということで「企業と対話して」その企業価値を向上させる、という行為は前述のような直接的な財務状況を改善する、という側面からのものではなさそうです。いや、インサイダー情報となり得るくらい踏み込んだことをコンサル的に行い、それが自社のサポートで行われた、とアナウンスさせて相当期間の売却禁止期間を設けてそれに従って保有し続けた後に売却すればいいのですから。ただその時にはそのアナウンス効果がなくなった株価が下落している可能性も否定できませんし、それは直接投資の場合であればその裏側にいる受益者が、運用会社であればその顧客である投資家に対するフィデューシャリーデューティを全うしていないと問われる可能性すらあります。なにせ、自らの行為のせいで売却の機会をみすみす逃す訳ですから(運用会社は特に、インサイダー情報を得た瞬間からその情報を元に取引をしてはならない、という縛りがあります。といって、運用業を登録していないファンドや機関投資家がインサイダー情報を元に取引していい訳ではないですし、証券等監視委員会は当然処分対象とみる案件となりますのでご注意を)。

となると、投資家なり運用会社が効果的なエンゲージメントを行うこととは、企業価値を向上させること、というよりは、より効果的なIRを行うことで投資家を引きつけましょうね(で、株価をあげましょうよ)、的なことがより多くなりそうだということが容易に想像できます。なぜかって?そうすることで運用ファンドのパフォーマンス向上になるから。ただし、当然のことながら、一社に対して複数の投資家が運用会社がアクティブ戦略であれパッシブ戦略であれ投資し、大抵の運用会社がスチュワードシップ・コードに則った運用をするのですから、会社サイドとしては複数の運用会社からあれこれ言われている、というのが想像に難くないです。

会社によっては一通り聞くでしょうし、ガバナンスコードにサインして投資家との対話をする、と言いつつも、ある意味通りすがりの株主である運用会社の意見に対してそもそも聞く耳持たず、事業サイドでの有力なパートナーとなり得る出資関係にある会社の意見のみ聞く会社だってあるでしょう。そして、聞いた、をエンゲージメント出来た、としても、そのうちどれだけを個社の意見を取り入れて実行し、そして企業価値(株価ではなく)に反映させられたか、という評価はどうするのでしょう。

エンゲージメントをした日の株価からの値動き?いやいや、株価と企業価値は別物です。といって、企業価値をM&Aするかの如く算出しますか?それだって評価目的が異なれば計算ツールが変わるし企業の状態によっては複数のツールの併用のような恣意性を孕むことだってあるのです。

その上で、エンゲージメントを通じて提案した意見の寄与率?しかも、同じような対話による意見を交換した同業他社の話を聞いたのとの差別化ができるのでしょうか(多分、手柄は全部自分って考えるでしょうけどねw)

となると、最近の運用会社は特に、エンゲージメントのためのチームを別に作って企業とのエンゲージメントで対話しました、といったところでそれがスチュワードシップ・コードの求める企業価値の向上にどれだけ寄与することが出来たか、という公正な分析ができるのでしょうか。そして、それに対してどれだけのコスト負担を投資家がせねばならない、のでしょうか。その費用対効果の議論のないまま、闇雲に大口投資家は長期保有する縛りをかけられるのってどうなのでしょうね。しかも、コードは法律じゃないからやらなくていい、と言いつつやらない理由を説明しないとしないといけない的な空気にすらするのって。。。

エンゲージメント、という名前のコンサルタント

ちょっと(って随分だらだらと話をしていますが)コンサル的、とか書いたので、このコンサル的なエンゲージメントを運用会社がするときにちょっと考えるべきことがあるんじゃないの?という話を一つ。

もし運用会社が投資先企業への株式を自社の運用するファンドを経由して保有して、その投資先企業のコンサル的に事業運営に助言等を行う場合、その助言に対する対価をその企業から運用会社が受け取ったら、どう考えるべきでしょう。

運用会社は当然、ファンドから運用報酬を得ています。その投資先企業からも報酬を受け取ってしまうというのは間接的に投資先企業の財務状況にネガティブな影響を与えているにも関わらず投資している、という状態になるので投資家に対して背任的、というと言葉は強いかもしれないけれども、そういう利益相反の状態になっている、と考えられます。

だから、ではないのですが、より経営に踏み込むバイアウト戦略の場合、ファンドの運用者から派遣された取締役の報酬は運用報酬の一部として取り込み、投資家に対してその分の報酬の徴収を行わない、ということを行っています。

これと同様のことを投資信託のような形を考えた場合にどうなるのかを考えてみましょう。もし投資信託の運用者がコンサル的な対話をするとして、その報酬の対価を企業から取るとすると投資信託の運用報酬も取ることで利益相反になります。と言って事前に定めている報酬を減額すると実は投資信託の投資家に対して利益供与を行なっている、ということになるので減額することが出来ません。とすると、コンサル的なことをしつつも企業から報酬を取ることが出来ず、投資信託の運用報酬がそのような投資信託の運用者のコンサル活動の報酬の一部を構成することになる、のです。

企業に対する対話だけでなく、コンサル費用も負担して企業の成長を支えねばならない、ってどうなのでしょうね。しかも、それが株価に反映するかどうか保証もないのに。。。

パッシブ運用時のエンゲージメント

これまでの話は、もしアクティブ運用、という言い方をする特定の企業に目して投資するスタイルの運用ならば、それでもまだ行動と目的との方向性は一致しているように思えます。でも、さらに曲者なのが、特に大手投信会社にみられるような前述のようなアクティブ運用を行う横で、ETFの運営をしていたり、インデックス連動のリターンを提供するマンデートを運用受任する運用会社がスチュワードシップ・コードに基づいたエンゲージメントをする場合です。この場合、インデックスを構成する企業群の価値向上を目指す、ということならばこれらの企業群全てに対してエンゲージメントを行わねばならなくなります。となると、アクティブ運用の対象企業と同じセクターの他の企業に対しても同様のエンゲージメントを行うことになるので、効果測定が出来ないというものの、その効果としてアクティブ運用の対象企業の競合相手の企業価値、ひいては株価すら引き上げてしまい、インデックス運用に対して相対的にアクティブ運用の成績を引き下げる効果を生じ得るのです。とした場合に、エンゲージメントのチームはアクティブ運用のチームに対して利益相反となる行為を行なっている、という言い方すら出来るのです。エンゲージメント推進派からすれば、社会的に上場企業の底上げがなされることが重要、という方便を使うでしょう。ただ、投資家に対するフィデューシャリーの観点でどうなのか再考すべきでしょう。

エンゲージメントの皮を被ったアクティビスト

さて、ざっくりと言うならば、ファンドなどの資金をバックに投資先企業の株式を保有して、企業の経営陣に対して株主の権利を主張することであれこれ経営方針に反することを要求するタイプの運用者を、アクティビストと呼ぶことが多いのですが、このところのエンゲージメントという流行り言葉を使ってアクティビストがエンゲージメントをしているんです、という態度を取っているのが結構散見されるのをご存知でしょうか。

株式を取得して、ある程度の期間に経営陣に対して非公式の要求を行い、それが実現されない場合に、前述のように1%以上の株式保有により株主総会における株主提案権を有することからかかる要求を株主総会にて提案して他の株主の同調を求める、というものです。

そして厄介なことに、提案する以前より、今時ならば投資先企業について自分たちはこんな問題意識を持っていて株式保有をしてエンゲージメントを進めているんだ、ということを大量保有報告書の提出をするしないに関わらず、今時なのでウェブサイトの専用サイトや自分たちの運用会社のホームページなどで興味を引きそうな投資家達に知らしめ、株主には同調を呼びかけようとするのです。

これって市場操縦?それとも。。。

さて、これって、本当に問題があるのであればやっていいこと、なのか、という線引きが非常に難しいでしょう。例えば利益留保がひたすら行われて、その結果株主は引き出すことの出来ない現金を裏付けにした証券を保有するような状態にさせられている、というのをどう評価すべきか、という問題にどう向き合うか、ということでしょう。そのためにアクティビストが投資効率性を引き上げてくれるから同調する、というのも一つの選択肢、でしょうし、世に期待される企業の価値向上、という意味では一つの解を示しているのかもしれません。でも、単純に株式を売却して投資効率の良い株式に乗り換えればいいだけ、というのも一つの解ではあります。

ただし、アクティビストが今後頑張って配当金をひねり出しますから買うべきです、と暗に示しているというのは本人達からすれば同調する株主を増やす手口かもしれませんが、同時に買う投資家を増やし、また幻滅する投資家を増やして売り買いを増やし、株価を釣り上げていくことにもなります。テレビで占い師が「あなたの会社の株、上がるわよ」と言って翌日株価が爆騰してもその占い師が市場の風説の流布を行なったとして時の証券取引法の違反に問われなかったものの、では、同様にGoogleの検索に最適化を行なって人に読まれて行動を起こさせることを意図したウェブサイトを立ち上げ、そこを通じて自らの投資行為を明示し、またそんな投資行動を公共のセミナーなどで話すことというのは今時のメディアへの影響を考えれば同じようなもので、本来は占い師共々罰せられてもおかしくなはいのでは、とは個人的には思っています。本来の企業価値や将来性に対する判断を狂わす短期的な株価変動の可能性を示す情報を提供しているわけですから。。。

ではアクティビストが悪なのか? – エンゲージメントとは自分の会社経営の日頃の通知表とみる

でも、そういう権利行使を強硬に行わないという世界においては、残念ながら投資家に対する利益を尊重する企業運営を行う経営者ばかりではない、のが事実でしょう。そう思えばそういう毒が自分のところに振り向けられるリスクがあるからそれに備えて投資家の利益に向き合った経営を、と促すことが出来ることも多分事実なのでしょう。

まぁ、仮にそのような株主提案を架けられても多数決の原理を考えれば最終的に自分の経営判断に同調してもらえるように日々運営すれば良いわけですし、そうならなかったとしたら株主を尊重していなかったのだ、という判断を株主から下されただけ、なのです。

とすれば、そういうことを踏まえたうえで、株主、特にエンゲージメントということで株主の中でも大きな影響をもつ大口投資家と日々会社経営に対して意見交換していくことはそういうことの予防であり投資家サイドの期待値を理解する機会、という意味ではコーポレートガバナンスコードの一環としての対話は大事なのかもしれませんし、そういう評価をしながら会社経営の動きをモニターするのが本来のエンゲージメントのツールとしての一側面なのかもしれません。

で、個人投資家はどう見たらいいの?

いや、アクティビストやエンゲージメント・ファンドの口車に乗るのも短期的に収益を得るというのだって投資の手口と考えたっていいかもしれません。個人投資家、特に小口投資家にスチュワードシップコードは存在しませんから。ただし、それだって本当に成功するかどうかはわかりません。

と言って、集中投資アプローチのファンドが買ってエンゲージメントするのに相乗りしながら長期保有するのがいいのか?これは。。。その効果をどう測るのか考えてから投資すべきでしょう。エンゲージメントの効果を期待するのか、単純にファンドマネジャーの銘柄選びに依存するのか、これだけでも投資の期待値が随分変わるでしょう。

スチュワードシップコードとETF?もはや、やっていても投資家として効果を実感できることはほぼないのではないでしょうか。

と考えると。。。個人的にはそういうのはプロの大手に任せて、個人的に好きだとか応援したいとか、そういう理由と自分の思う市場や景気のストーリーに合致する株式に投資して定期的にモニターして心変わりしているかどうか自分と向き合うほうがいいのではないかな、と思うのです。

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