投資信託にだって特殊な報酬システムがあるんです – CDSC のお話

いくら簡単な手数料計算とはいえ、そろばんでは。。。
前回まで、ヘッジファンドやプライベート・エクイティといった、私募ファンドでも「特殊な」運用手法を使った投資ファンド特有の報酬システムとその考え方についてご説明したのですが、まぁ、これはその「特殊な」運用の結果を運用者と投資家とそれぞれの役割(運用手法とその結果を提供するという運用者と、結果を出すための資本を提供することの出来るリスクの取れる投資家)に見合うだろう報酬システム、なわけですが、単純に報酬システムだけをとってみれば、受託資産に連動する報酬システムを採用している投資信託から見れば特殊なもの、と見えますよね。なにせ、投資信託とは不特定多数の投資家の資産を運用する、という性質上、報酬システムに(投資のタイミングや額などといった投資家間の個人差に対する)柔軟性というものがあることが

公平性に欠ける

とされてしまいますので、いつでもどの投資金額でも入れる rest of us な私達が投資できる公募の投資信託の報酬システムは、どうしたって最大公約数な報酬体系、すなわち、今日の資産に対して幾らという受託資産に対して比例する報酬を課する信託報酬、に収斂してしまいます。

でも。

報酬システムにもう一つ自由度のある部分があるんです。

CDSC – 購入時手数料のないファンドの裏側へようこそ

それは、投資する時と投資を完了して買い戻すときに課される販売手数料と償還手数料、です。これは日本ならば事実上、ファンドを販売する証券会社に支払われるものですが、幾ら手数料を取るか、というのは、投資額などに対して証券会社サイドで明示された報酬テーブルを上限として徴収することが出来るようになっているので、売りやすさとの兼ね合いで調整される部分、という位置づけになっています。

そもそも手数料の位置付けと意味合いって?

ん?日本の公募投資信託でしょ?販売手数料は確かにx.xx% を上限とし、という表現があるけれども、償還/解約手数料ってなくて信託留保金が一律に掛かるだけじゃない、と思ったあなた、さすがです。よくご存知で。そうなんです。日本の公募投資ですと、「手前」というか投資するときに販売手数料を取り、運用期間中に信託報酬を支払い、投資終了時にファンドの解体などの費用をみんなで一律に負担しよう、というか、ファンドをたたむのにもいろいろコストが掛かるんですよ、実は。なので、その費用を投資に参加した人が一部負担しよう、ということで掛かるのがこの信託留保金というものなのです。

でも。上を改めて見ると。。。信託報酬と信託留保金はファンドの維持や運営、そして終了のために使われる報酬等なので、運用を任せる側としてはまだ払う意味が見えますよね(とはいえ、これだって高いのはいや、という声が聞こえて、結構今では誰もがキツキツでやっていますが。。。)。でも、販売手数料って。。。

販売する証券会社に全部いくんでしょ?(はい、行きます。
紹介して売ってそれだけじゃない?(まぁ、販売するためにあれこれ説明したりしますので。。。
期中だって信託報酬の一部を持って行くじゃない?(あれは期中のお客様への運用報告書などのフォローアップの手間賃ですから。。。

なんて事情を鑑みると、これは心情的にも払いたくないし、実際、投資するのに、100じゃなくて例えば手数料の 3 を載せた 103からスタートするのとでは運用のリターンを回収するのに影響するので、という観点でも嫌がられますよ。実際税務上の収益計算するときには、

収益 =(売却代金 – 買戻手数料-信託留保金) – (取得代金 + 販売手数料)

と、手数料等は取引価格に入れていいそうですから。。。

ノーロードファンド、万歳?って誰の言葉?

その御蔭で、手数料のかからないノーロードファンドが売りやすいし、売れるのも事実です。しかも、世の中には変な統計を取る人がいて、

販売手数料とファンドのパフォーマンスに相関性はない

なんて結論を出した人がいるそうな。一応、ハイリスク・ハイリターンほどフィーが高くなる、らしいのですが。。。

そこで、こういう手数料体系はどう?

販売手数料を最初に取らないことで売りやすくする一方で、販売する証券会社にとって適切なフィーを取る仕掛けはないのか、なんて考える人がいまして、そこで考えだされた方法が今回のタイトルにある CDSC (Contingent Deferred Sales Commission) というもの。英文を見ただけでその意味は。。。よくわからないですよねぇ。これは別名 Bシェアとかシティバンク(現SMBC信託/プレスティア)の昔あった既に滅びたワンハンドレッド、とも呼ばれる手数料体系で、何かといえば

販売報酬の後払い

というものです。例えば、販売手数料を 0% にする代わりに

  • 最初の一年以内に買い戻したら 4%
  • 次の一年以内に買い戻したら 3%
  • その次の一年以内に買い戻したら 2%
  • さらに次の一年以内に買い戻したら 1%
  • 4年を超えて保有した後に買い戻したら 0%

と買戻し手数料を導入する、というものです。こうすることで、投資家に対して長期保有を促すことも期待できる、ということもあり、実は一時期ちょっとした注目を浴びて導入を検討した証券会社さんも少なくはない一方で、実際に導入できたファンドは結構限られています。それにはいくつかの事情があるのです。。。

CDSC を導入するいくつもの壁

まずは、上記の、買戻し手数料を日本の投資信託には入れられないよね、という問題。実際にも、商品性の柔軟な外国籍公募投資信託では導入出来ますので、この手の商品の大半は外国籍公募投資信託、ではあるのですが、国内投信であっても、単純に国内投信で直接資産を保有するスキームはもとより、外国籍公募投資信託に投資する、いわゆるファンド・オブ・ファンズのタイプであれば、国内投信の投資するファンド・オブ・ファンズレベルで買い戻し手数料を控除した純資産価格を投資先ファンドの評価として計算すれば一応国内投信でも可能になります。

とはいえ、外国籍公募投資信託ですら、簡単にこれが導入できるのは単位型、すなわち全ての投資家が同じタイミングで投資を始める場合、に限られます。なぜか。単位型であれば誰もが同じ投資期間ですから、外国籍公募投資信託レベルで単純に買戻し手数料を控除すればいいだけなのに対して、途中参加者を許容する追加型のファンドの場合には、実際の投資を行っている個人や企業レベルの投資家の投資期間に応じて手数料を取るべきなのですが、外国籍公募投資信託の場合、ファンドのレベルで投資家の名義はかかる証券会社ひとつになるので、証券会社の裏側では投資家が 100名いてもそのファンドの追加投資を誰かがした、とか幾らで売ったという匿名レベルの情報しかファンド側にはこないですから、個別の投資家レベルでの動きは認知できるはずもないのです。

もちろん、無理に毎日新しいクラスを作ってその日の買い付けをした投資分をそのクラスにあてて、投資家が買い戻しを依頼するときにその投資家の持つクラスを first-in-first-out で買戻をすれば実現可能かもしれません。ですが、どうみてもそんな顧客管理とともに各クラスとのヒモ付を行う、という時点で複雑すぎることになります。

既に分かる通り、

どの投資家がどれだけの期間を保有したか

を管理できる立場にあるのは、販売会社ただ一人、となるので、実は、追加型の投信でCDSCを販売するには、顧客の管理システムでそれを出来るようにして、前述のようなクラスなんてことをせずに、普通にファンドからの買戻しを全額受け取って、販売会社で報酬を控除するほか実現するのが一番事故の少ない方法と言えます。

さて。

対投資家さんは、なんとかキャッシュフローは作れそうですが、でも、これを販売会社の立場で考えるとどうなのでしょう。実際販売の手間を最初にかけるのに、その報酬が、先ほどの買戻手数料ですが、このテーブルが入っていると、実際には、最初の4年間、毎年1%ずつファンドから取られていきます。これによって、4年未満の投資家も、4年以上の投資家も等しく4%を負担するのですが、それでも、4年間掛けてフィーを回収していく、と思えるでしょうか。売ったら売っただけの報酬を販売員に払わねばならないのですから、売った時に欲しい、というのが実情です。

そこで、実際には、最初に売った時(追加型なら適宜売れた時に)売れた額に対応する報酬を誰かが建て替えて販売会社等に支払っています。それを、ファンドの期中や途中で買い戻された時の買戻手数料で、回収している、ということで、普通のファンドとほぼ同じような取り扱いであり、報酬負担をさせられているということがわかりますね(笑)

以上が表に出てこないお話だったりします(笑)

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