あなたにとっての「オルタナ投資」とは? 数年前のこと、オルタナ投資、という言葉を使う時に皆が必ずしもヘッジファンドを意図せずに使っている、ということに気付きました。その時は、とある米系の銀行さんでカストディビジネスを主に行いながらファンドアドミを提供する、という会社さんなのですが、カストディビジネスを主に行うとなると、資産を保有してなんぼ、のビジネスモデルである以上、ヘッジファンドのような資産が事実上プライムブローカーが保有する戦略にお付き合いすることはほぼない、と個人的に思っていました。
そんな彼らから「最近、オルタナ投資の世界にも手を広げているのですよ」と聞いたときに、これはアドミ勝負に転換したのか?と思いつつも、このパートナー制で極めてコンサバで堅い社風の会社が薄利多売に来るとは思えなかったので半信半疑に聞いてみると、なんと彼らのいう「オルタナ投資」というものは、「不動産ファンド」や「バンクローン」といった、従来ファンドの投資対象という意味ではメジャーではなかったことから取り扱われなかった資産クラスのカストディを行う、という意味だったのです。ある意味納得する一方で、「オルタナティブ」の言葉の懐の深さというか、なんでも当てはめることが出来ちゃういい加減さ、というのを感じつつ、今後「オルタナ投資」という言葉を使う時には気を付けねば、と思った瞬間でもあったのです。
で、そういえばヘッジファンドって 昔は投資信託(ミューチュアル・ファンド)ではないもの全般をヘッジファンドと呼んでいたこともあって、オルタナ投資といえばヘッジファンドを意図するものと解されていた時期もあったなぁ、とふと思い出しました。というのも、私がヘッジファンドに片足を突っ込み始めた頃に読んだ解説書にこうあったのです。
ヘッジファンドは、ミューチュアル・ファンドの抱える以下の当局の規制を回避すべく私募ファンドとして設定されたものを意味するのです。
借り入れ規制 空売り規制 報酬体系 どういうことか、というと、日本の投資信託を例に説明するならば、日本で投資信託を設定する際にその運用方針として
借り入れは解約代金支払い目的及び分配金再投資型投資信託の分配金支払い目的に限られる 空売りはその建て玉の時価総額が純資産額を上回らないこと 投資対象の株式については上場していること 先物などのデリバティブ取引はヘッジ目的に限る が投信協会のレベルで定められて おり(実際には今の投資制限は集中投資規制やデリバティブ規制、などかなり複雑で高度化されたもののなっています。)、また、報酬体系についても日次取引等高頻度の投資家の出入りが想定されるため、公平な成功報酬体系を導入 することができないのです。
そこで、それらの規制や業界の投資制限等から敢えて外れることで、投資信託の範疇である単純な買い持ちだけの投資戦略ではなく、例えば純資産額の3倍から10倍程度の借り入れを行って買い持ちのポジションを純資産額の数倍にしたり空売りのポジションを作ることで市場の下降傾向においてもリターンを出せることを目指せるような自由な投資戦略の設計と、その原動力となるべく成功報酬制を導入できるようにしたのがヘッジファンド、だとされていたのです。今思えば、単純なロングファンド以外であってもただの私募投信でしかないのですが、確かにいわゆるミューチュアル・ファンドと異なる(オルタナティブな)投資手法を取れるようにしている、と言われればその通りですね。というより敢えて取っているわけですから。
しかも、運用者が自分の資金もそのファンドに入れることで投資家と利益を一にする、という発想を持ち込んだのも興味深いものだなぁ、なんて初学者だった私は思ったのですが、これも国内の投資信託の立ち上げの時にスポンサーである投信会社さんがシードマネーを入れて立ち上げるのを考えれば、案外一緒なのかもしれませんね。
じゃあ、ヘッジファンドって一体どんな運用をするの? 確かに、借り入れや空売り、デリバティブを使った運用をする、と言われて、あれもこれもヘッジファンドに見える場合もありますが、例えば、完全なショート・ファンド、いわば全部買い持ちのロングファンドの真逆で絶対に株価が下落するだろうと思われる銘柄を全部売り持ちするファンド、は、どう見てもヘッジファンド、とは言えなさそうですよね。ヘッジのかけらも見えないのですから。また、一時期流行って、また最近また注目されていると言われている130/30(ワンサーティ・サーティ)も、30%の借り入れをして買い持ちのポジションを投資元本の130%にするものの、同時に売り持ちのポジションを投資元本の30%を作ることで相殺後のポジションがちょうど投資元本になるようにすることで、市場の下落局面では売り持ちのポジションで収益機会をめざしながら、上昇局面では通常のロングファンド以上の収益を確保しよう、という発想のファンド、なども、単純な買い持ちと売り持ちのポジションを掛け合わせただけ、にしか見えませんし実際のところヘッジではないですしね。
じゃあ、そもそもヘッジファンドのヘッジ、という言葉が何を示すのか、改めて見て見ましょう。 ヘッジ (hedge )とは、英語で本来「生垣」とか「垣根」、「防御物」を指し、そこから、保険という意味が出てきたり、動詞として「大きな損失が出ないように手を打つ」こと、という意味合いを持つようになりました。英語で hedgehogと呼ばれるハリネズミは身を守るために全身針だらけ、ですから。
多分、ヘッジファンドを知らなくとも、国内投信に投資したことのある人ならば、例えば米ドル建ての資産に投資するファンドに、「ヘッジあり」コースと「ヘッジなし」コースとが準備されているのに気づいているかもしれません。この時のヘッジ、とは、外国為替リスクに対するヘッジを意味するのですが、どういうことかといえば、投資家が円建てて投資しているけれども、投資対象が米ドル建てなので、仮に投資対象の評価が当初の10,000米ドルから増えも減りもしなくても、円/米ドル通貨レートが1米ドルあたり100円から1米ドルあたり90円や110円に変動するだけでこのファンドの評価額が変わってしまいます。そこで、通貨レートの変動を「ヘッジ」することで、円建ての投資という観点で米ドルの日本円に対する価格変動による投資資産価値の変動が抑えられるのが好ましいと思う人がいるのでファンドがヘッジするヘッジありコースを作ると投資します、という人が出てくるのです。
ちなみに、この「為替ヘッジ」、どうやるかというと、仮に当初の投資金額が100万円、為替レートが1米ドルあたり100円とします。この時に当初の投資金額全額を1ドルあたり100円で交換して10,000米ドルを手に入れて投資するのですが、その為替を取る時に同時に、1ヶ月先に予め1米ドルあたり101円の先渡し取引をして、一ヶ月後の為替レートの変動を先に固定してしまう、のです。この場合、この為替レートで先渡し契約が出来たとしたら、投資元本の10,000米ドルがそのままの10,000米ドルで帰ってきた一ヶ月後まで残ると仮定して、この1ヶ月で、
10,000米ドル x 101 円/ドル = 101万円
に増えていることになります。ちなみに、ファンドも一ヶ月で終わることがありませんので、この約束の一ヶ月後に、予め決めていた 101円/ドルで10,000米ドルを円に売り戻したら、その日のレート、例えば100円50銭とすると、で10,000米ドルをまた買いながら、先の一ヶ月後の先渡し取引に入ることになります。そうすると、101万円が一旦手元に戻るものの、 100.50 x 10,000米ドル = 100万5000円を米ドル調達のために支払うことになります。結果として、実際には二つの取引を相殺することで米ドルの移動はなし、円の移動は、101万円 – 100万5000円 = 5,000円の受け取り、という追加の収益が発生することになりますが、もしその日のレートが101.50円だったならば、逆に 101万円 – 101万5000円 = 5,000円のマイナス、となり支払い義務を負うことになります。
ここで、いくつか気づくことや、気づいて欲しいことがあったりします。
まず、今ドルを買って、一ヶ月後に先渡しレートで売る、ということをした結果、今回適当なレートをつけたので、1ドルあたり 101 – 100 = 1円の利益がもたらされたのですが、実際の先渡しレートは、この場合ならば、日本円と米ドルのそれぞれの一ヶ月の金利で自動的に決まります。とはいえ、ある意味、この金利の差によってこのような将来の利益(か損失)がこの瞬間にヘッジすることで確定する、のです。これをもし今ヘッジせずに一ヶ月後の為替レートに運を任せることだって当然出来ますが、その瞬間のレートを見るまでは利益(もしくは損失)額が決まりません。その代わり、為替レートがヘッジした 1米ドル101円より大きく上回って例えば102円まで変動すればその利益(1ドルあたり2円)を享受することになりますし、当然のことながら、100円を割り込んでしまうと損失を計上することになります。
ここでお気づきだと思いますが、ヘッジファンド、というのは、このようなある一定の状況下に於いてヘッジすることで確定できる利益の機会を見つけて投資するファンド、なのです。その意味では、将来大化け(上の例で言えば、一ヶ月後に為替レートが100円から120円に極端な円安に走ったり)する可能性を捨てて確実にあげられる1ドルあたり1円の利益を積み上げていく、という、見た目や話と大きく違ったかなり地道な投資戦略なのです。
もう一つは、今の前提はヘッジをかけたい資産、要は10,000米ドル、が一ヶ月後にそのまま10,000米ドルのまま、というちょっと特殊な状況にある、ということです。どういうことか、というと、この10,000米ドルは債券なり株なり、何かしらの投資資産に化けているでしょうから、一ヶ月後にいくらになっているのかはわからない、のです。例えば10,000米ドル元本の米国債だったとすれば、1ヶ月の米ドル金利分程度は増えているでしょうし、株だったらそれこそ大化けしているか大負けしているか(笑)。とすると、一ヶ月後に10,000米ドルの売りの先渡し契約はその時の投資資産の評価額によって、もし資産が増えて11,000米ドルになっていればヘッジが資産に対して過小であったと言えるし、逆に9,000米ドルになっていたら、ヘッジが資産に対して過大であった、と言えます。
ヘッジが過小であったり過大であった場合の影響を見るならば、(先ほどの先渡しレート101円、実勢レートが100.50円の仮定)
投資資産が10,000米ドルだった場合、実勢レートでの評価が 10,000 x 100.50 = 1,005,000円に、ヘッジポジションの(101-100.50) x 10,000 = 5,000円の計 1,010,000円 (= 10,000 x 101.00) 投資資産が9,000米ドルだった場合、実勢レートでの評価が 9,000 x 100.50 = 904,500円に、ヘッジポジションの(101-100.50) x 10,000 = 5,000円の計 909,500円 (=9,000 x 101.056) 投資資産が11,000米ドルだった場合、実勢レートでの評価が 11,000 x 100.50 = 1,105,500円に、ヘッジポジションの(101-100.50) x 10,000 = 5,000円の計 1,110,500円 (=11,000 x 100.9545) という仕上がりになります。これを、「ヘッジしていると言っても完璧にヘッジすることは難しい」と解釈するもよし、「ならば期間を短くして為替の変動要因の影響を小さくすればいいんだ」と解釈するもよし、様々ですが、一つここで言いたいことは、「ヘッジ」というのはヘッジした瞬間の前提に対してのみ機能している 、ということなのです。 なぜこの話をしているのかって?それが今後の話の展開の鍵を握るから、ですよ(笑)
ヘッジファンドは何をヘッジしまくって稼ごうとするの? さて、ヘッジの基礎を見たところで、では、実際にヘッジファンドがどこに収益の源泉を見出そうとしているのか、いわゆる投資戦略、というのを見ていこうかと思いますが、ご存知の通り、著者はファンドの組成や運営が得意であって、投資戦略の評価を云々することをある意味放棄した仕事の仕方をしている、のはよく知られたこと(まじかぁ。。。)、ですので、ここから先は結構ざっくりとマユツバ的なことになって、結果、これを読んで実践しても保証の限りではない、というかいつも通りの自己責任で、ということを予め申し上げておきます。
と、いつものちょっとした責任逃れの一文を書いたところで、先ほどの為替ヘッジの本質をまず考えて見たいと思います。この為替ヘッジによる収益は、確かに二つの通貨の金利差から生じるものですが、他方で、もう一つポイントになるのは時間軸における今とある一定の将来の二点というズレがある、のです。実際、収益性を高めるために、金利差を広げる通貨ペアを見つけることも一つで、ミセスワタナベたちが日本円と高金利通貨だったオーストラリアドルのペアでキャリートレードをすることで、日々値洗いと決済をすることから1日分の金利差相当のキャッシュを得て色々とお買い物に興じ、それが高じて取引元本も(夫には内緒で)さらに増えて日々のキャッシュをより多く得ようとして、最後に市場がバーストした時に(以下略)たのがいい例でしょう。でも、もう一つの方法として時間を長くとる、というのも手法としては取り得るものです。まぁ、通常長い時間での案件をやるか、といえば、その間に起こるその他の変動要因を踏まえれば取りづらい、というのが実際ですが。。。
とはいえ、なんとなく、ヘッジでの収益源というのが見えてきましたね。何か二つのズレから生じる価格差を使えばいい(しかも、その差が大きければ大きいほど好ましい)、のです。人によって、また事象によっては、これをヘッジと言わずに時間的な収斂性のある価格差に対するアービトラージ(裁定取引)ということもありますが、ある意味二つの評価の間に生じた価格差が収益源、だとしたら、確かに確実に刈り取れる収益に思えてきます。
例えば、複数の株式市場に上場している株式の価格。異なる通貨での評価であり、また異なる国での企業評価でもあることから一物二価になるチャンスがありそうです。 例えば、為替ヘッジの延長で、現物市場と先物市場。分かりやすくいうならば日経225のETFと最大三ヶ月先の受け渡しの日経225先物の価格差を利用する、というもの。もしくは、一時期マネー雑誌で取り上げられていた、株主優待狙いの「個別株の現物買い+CFDでの売りポジション」の価格差を狙う、なんていうのもありです。 まぁ、パッと思いついたもの、ですのですでに多くの人たちが手がけているはずで、裁定機会というのは参加者が増えれば増えるほど減るもの、とされていますので、このような機会を継続的に見出そうとするのは大変なことです。となると、他の人が手を出さないような裁定機会を探していくことになるのです。
ペアトレード – ヘッジファンドの代表的な取引方法の説明書 さてここまでは、一つの資産の複数の評価方法による価格のズレ、という観点で見てきていた、というのに気づいて頂いていたでしょうか。当然、わかりやすい一方でそれならばより多くの人の目も引きやすいわけですので結果的にそのような価格差の発生するチャンスが取り合いになるし価格差も小さくなりますので、別の視線 – 二つの資産の価格差 – で探す必要があるのですが、ヘッジファンドの取引の説明というと、このペアトレードがよく使われるので、話の流れ的にもちょうどいいのでご紹介して見ましょう。
一つの資産では裁定取引の機会の限度が出てきそうでした。では、複数の投資対象の間にある関係性で考えたらどうなるか、というのがペアトレードです。例えば、ある一つの業界を考えると景気動向などの影響の受け方は基本的には同じですので株価の推移も多かれ少なかれ似たようなものになりそうです。でも、その業界内でも伸び盛りの会社(=評価が相対的に低い会社)と、伸び悩んでいる会社(=評価が相対的に高い会社)とがあるので、その二つの株価の関係が時間が経つと適正になる、と考えて、評価の低い会社を買い、高い会社を売る、という取引を行うのがペアトレード、と呼ばれています。10年前に盛んに使われた実例が、
JALを売って ANA を買う
でした。10年前は航空会社業界は伸びていましたが、実際に JALは一旦破綻しましたしね。今だとどうなんでしょう。
それはともかく、一つの業界(セクター)の中で見ると適正より高値で取引されているものはセクター全体で短期間で上昇したとしてもその中での相対的に高値に見られ、過小評価されているものも同じ上昇の中にあっても相対的に過小評価されるという意味では変わらないでしょう。ただ、これらの過大評価、過小評価は時間とともに(市場における情報の完全性などのおかげで)解消されていく、ということで、このペアトレードはセクターの動きに対して収益性はあまり関係ない、ように思えてきます。このようなセクターの動きに対して収益性が連動しない取引手法(戦略)を、セクター・ニュートラルと呼ぶこともあります。
さて、考えて見ると、世の中はそんなセクターが集まって株式市場が出来上がっていると見ることが出来るので、色々なセクター・ニュートラルな戦略をまとめると株式市場全体の動きに収益性が連動しない投資手法ができそうな気がしますよね。こうなると、株式市場の動きが下落しても収益を上げることが出来るわけですのでロングオンリー戦略からすれば夢のような(?)手法とも言えます。これをマーケット・ニュートラルと呼ぶことになります。
でも、株式市場全体の動き、って何でしょう。日本の株式市場で見るならば、本源的には東証一部・二部、JASDAQなどなど、株式の取引の出来る市場の発行株全部に、それぞれの株価を掛け合わせたものの合計が日本の株式市場全体、と見たら良いような気がします。でも、一般的に見られているのは東証一部の時価総額を1968年1月4日のそれを100として指数化したもの、TOPIX であったり、これまた東証一部で主に取引されている225銘柄を選んでその株価を合計して銘柄数である225で割った単純なもの(実際には、1960年4月を100とした指数なので、その後の株式分割/併合の影響を考慮するため今は24.917になっているそうです。)、日経225だったりしますが、これらの指数が市場全体の動きとして捉えて考えることになります。このような市場の平均的な動き方をベータ(β)と呼びます。
多分、世界中で多くの人が訳が分からなくなるというギリシャ文字の示す世界 さて、ベータの話が出たので(今さら)脱線ついでに、ベータに始まるギリシャ文字の世界の話でも。株を買って稼ごう、という話になると、この市場平均に勝てるかどうか、というのが一つの目安(ベンチマーク)になるのですが、実際に買って(ヘッジ戦略ならば更に売って)出来上がったそれぞれの株のポジションは多かれ少なかれこのベータの動きに連動する値動きをするはずです。というのも、この株単体の動きですら指数の動きに影響するのですから当然に指数との相関性(β値)を見ることが出来ます。とすると、個別株の値動きは、市場全体に引きずられて動く部分、すなわちβ連動部分と、その個別株固有の値動きの部分とに分解することが可能だと考えて、市場の動きに関係しない固有の値動きだけを切り出せば絶対収益になる!と結論づけることが出来たりします。この、個別株固有の値動き部分を、β連動部分と対比してアルファ(α)と呼ぶことがあり、ヘッジファンドは如何にβヘッジをすることでこのアルファを抜き出すことで絶対収益を生み出すか、という話にだんだん変わってくることがわかるかと思います。
(余談しかないこのブログでよく使う接続語ですが)ちなみに、このアルファ、公募投信で特に大和証券さんあたりが取り扱っている商品にαとつくことが多かったのですが、この時のアルファは上述の個別株のアルファやそれから派生した、運用技術の付加価値としてのアルファ(それに対してベータは、運用者の誰もが一般的に市場の動きに伴って生み出すパフォーマンス、を指すことがあります)ではなく、月次分配金を払うために通貨先物やオプションの売りでプレミアムを得よう、などの追加的な運用があることを示すアルファ、のようです。
まぁ、これは自分でそんな商品に加担していうのもなんですが、前述に挙げた為替ヘッジはヘッジと言いつつもポジション/リスク管理の観点で言えば、投資元本相当の為替の先物のポジションを本来の投資に上乗せしているので、事実上投資元本の2倍(これに投資対象の株や株式指数のオプションを入れれば3倍)のポジションをファンドが抱えている訳でして、それを為替のヘッジに使えば値動きは抑えられる効果を得るものが、経済効果の方向を変えるべく通貨の組み合わせを選んでは高金利通貨との金利差を利用したりオプションを売ることでキャッシュをひねり出す道具(α)に化けていた、という訳です。当然、現金化した分だけ将来の(かつ本源的な投資目的とは異なる)リスクは残るので、今や二階建て/三階建て/四階建て商品で月次分配を目指す、というのが過度の月次分配競争に対する当局からの監視に置かれて今では姿をひそめたのですが。。。
さて、本来の(いや、まだ脱線状態か。。。)アルファベータの話に戻すとして、では、このアルファやベータ、ベータ値などなどは正確に測れ、結果として本当にマーケット・ニュートラルでアルファだけ抜き出せるのか、というところにもし持論で述べるならば、まぁ理論的に無理でしょ?とか思ってます。というのも、市場が終わった状態でその日までの値動きと指数との動きの相関性からベータ値が計算され、アルファに相当する部分がこれだけだったんだ、という統計上の計算までは可能です。ですが、それが翌朝の市場が始まった後も引き続き有効な情報なのか、と言えば、いろいろな意味で無理があるのは、それが過去の事実に基づく統計上の情報に過ぎず未来の株価の構成要素の一つになりえても突然の市場介入(REITなんていい例ですよね。)や(未だにこれはアウトだと思っているのですが)テレビで占い師が「あんたの会社の株、上がるわよ」と流言を流布したのにみんなが乗っちゃう、的な意図的かどうかは別にした市場操作、(会計監査の結果からポケモンGOの影響まで)隠れていた事実が明らかになったことで投資家の動向が左右される、などなど、それ以外の要素も当然影響するから、と考えています。とすると、マーケット・ニュートラルって目指して作るけど実際には出来ないんじゃないの?というのが個人的な意見だったりします。ほら、言ったでしょ?ヘッジはヘッジした瞬間の前提に基づいて成立するにすぎない 、って。
じゃあ、ベータとかアルファとか、意味はないのか?というとそんなことはないと思っています。市場に連動して投資しなければいけない投資家、というのがいらっしゃいます。例えば私たちの大事な年金を運用している人たちですね。彼らにとっては将来の債務、すなわち私たちへの将来の年金支払い、というのはその支払い時点までのインフレ等が影響してその額が決まるので、インフレ等に動きが近いとされる市場の動き(まぁ、これも日本の株価とインフレ率の長期にわたる相関関係を見ると、どうなのよ、という話もありますけど、じゃあ、代わりに何を投資の基本軸に考えねばならないか、というと予定利率という数値目標は存在するものの、結局市場のパフォーマンスの何かを選ぶほかない、という現実的な選択肢に落ち着いている、ということでもあるようですが。。。)にパフォーマンスを作っていくことの方がALMの都合上よい(というか、仮に絶対収益型の投資でガンガン稼いでも、年金を払い終わって最後に解散するときに余らせても困る、という方が分かりやすいですかね。。。)のでベータ投資が基本になっていく(けどベータ投資もコスト負けするからちょっとは絶対収益系に投資して費用分は稼がないとね、的なことも考えてほしいし、やっているところもあるようです)、のは至極まっとうに思えるのです。他方で、当然市場連動してみんなで大崩れ、も困るので市場に連動しない、アルファ追求型の投資もだからこそ存在する、と思うのですよ。
とはいえ、今時はスマートベータなんてものがあって、幅を利かせてますが、正直いえば、そもそものベータのロジックから考えたらば、スマートベータって、単にベータの本源的単純合算に経済的根拠っぽい色付けをしているだけだから、スマートかもしれないけどベータじゃない、意図的にベータに特徴のあるトラッキングエラーを大幅に起こさせている、もしくはプライベートインデックスの一種、なんじゃないの、とは思ってますが、そんなこと言うと指数ベンダーさんとETF屋さんのお友達から刺されそうなのでこれくらいにします。
アルファベータだけじゃない株式戦略 さて、これだけギリシャ文字の話をしていると、ヘッジファンドっていうのはある意味煎じ詰めるとアクティブ運用のファンドのうちベータヘッジしているものだけなのか、と思われそうなので、もう少し、そうでないものも紹介しておくべきでしょう。
前述で株価の構成要因についてちらっと書いたこと、覚えてますか。
突然の市場介入(REITなんていい例ですよね。)や(未だにこれはアウトだと思っているのですが)テレビで占い師が「あんたの会社の株、上がるわよ」と流言を流布したのにみんなが乗っちゃう、的な意図的かどうかは別にした市場操作、(会計監査の結果からポケモンGOの影響まで)隠れていた事実が明らかになったことで投資家の動向が左右される
これって、理由はさておき、人為的な価格の変動があった状態を指してますよね。よくこの変動を取引量が増えているところから見つけて「ウーェイ」しちゃうのがある意味デイトレさんたちが稼ぐ方法、と言われるのですが、見方を変えると、これってある意味本来の価格とのかい離が発生している状態だから、祭りが終われば元の値段に戻るんじゃない?と考えるのも一つです。まさに本来の価格に収れんする裁定取引(アービトラージ)の考え方ですよね。また、これはさもすればインサイダーとも言われかねないのですが、ある程度の企業調査をしていたりすると近々大化けするような商品やサービスの発表が予想される、となると株価が上がることが容易に想像できる、だから先に仕込んじゃおう、という投資手法もありですよね。イベントで大きく値動きするのを予想して先んじて仕込んで待つ、イベントドリブン、と呼ばれています。
まぁ、いずれも価格のゆがみが発生している、もしくは発生するという仮説に基づく投資手法で、その仮説に基づけばリスクフリーでの収益を目指す、というものです。ということは、当然仮説が正しければいいのですが、仮説が外れていたら。。。というのは前述のセクター/マーケット・ニュートラルとも同じ、というのはヘッジとはヘッジした瞬間の前提にのみ機能する 、のですから。。。
で、ヘッジファンドって株しかできないの?いえいえ。。。 さて、まだまだ話が長くなりそうなサブタイトルですね。分ければいいのに、と言われそうですが、まぁ、一気に書いちゃいましょうよ、一気に読んじゃいましょうよ。その前に、株での投資手法、一般的に行けそうなものを書いてみましたが、「俺の独創的で美しい手法が取り扱われてないじゃないか!」というお叱りが聞こえそうにも。。。いや、そんな独創的な手法ならばこんなところで公開されるのはもったいないのでこっそり教えてください。
で、ヘッジ投資手法、株以外はないのか、と言えば当然あります。今時の人たちだと名前を聞いたことのない人も多いような気がする、90年代のヘッジファンドで有名だったLTCM がやっていた金利曲線の歪みに裁定取引の機会を見出す方法とか(そういえば、90年の終わりころにシティにいたころにワラント商品の投資家さん向けのリーフレットの中で、「天王洲図書館分室より」なんて金融よもやま話を好き放題書かせていただいていた時にLTCM の投資手法と破綻した経緯を取り上げたのをふと思い出しました。あの記事、もう残ってませんでしたが、あれも今のブログの原型みたいなものですね。懐かしいなぁ。。。)ありますが、個人的に投資商品のアンバンドリング化について最近えらーい長官様がいろいろおっしゃっていただいている一方で、いや、個人がやろうとしたら現実的に難しくね?と思うところもあるので、そんな投資商品のアンバンドリング化を交えた話でも(って、これだけでも充分一つのネタになるのですが。。。)
CBアーブ – 転換社債を分解する CB – 転換社債ってご存知ですよね。FPジャーナルでもこの間の号で取り上げられていたので、思わずあれこれ考えたのですが、どういうものかというと、社債、なのですが、ある一定の条件で社債の元本を株に交換できる権利がある社債なのですが、この一定の条件というのが、株価幾らで何株を償還時の元本額に替えて交付する、という条件ですので、この定められた株価(例えば一株1,000円)を市場で上回って(例えば一株1,200円)いれば、この転換社債を持っていればその株を1,000円で調達して1,200円で売却可能ですから儲かりますし、市場価格が900円と条件を下回っていると、これは交換しないで元本を現金で受け取って市場で調達した方が有利だ、ということがわかります。
このような経済効果のデリバティブ、ありますよね。個別株のストライクプライスが1株1,000円のコールオプションですね。ということは、このCBというのは債券にこのコールオプションが組み合わさった商品だということがわかります。
さて、コールオプションを持っている状態、ですので、債券を取得するときに、このコールオプションを買っている状態になっていますので、コープオプションのプレミアムを支払っていることになります。でも、債券に埋め込まれているので払っている実感がありません。でも、ちゃんとよく出来たもので、CBのクーポンレートは同じ会社が同じタイミングで同じ期間で発行する債券よりも通常は低くなります。というのも、経済効果的には金利を低くする代わりにその等価のプレミアムが必要とするコールオプションを債券保有者に対して付与している、と考えるから、なのです。
とすると、CBを保有する、ということは金利が通常より低いとはいえこの債券の発行体の社債を保有しながらその会社の株のコールオプションを保有していることと同じになります。会社の株のコールオプションですが、個別株オプションの市場があれば同じストライクプライスと権利行使日(とヨーロピアン: 行使日のみ行使可能、かアメリカン:行使日までいつでも行使可能、かの違い)が一致すればそのプレミアムがわかりますし、仮に市場の取引がなくとも、株式オプションですので計算は可能といえば可能です。そこで、CBのうち、その価格を低金利社債の部分の価値(ボンドフロアーとも呼ばれています。というのも、CBにとって、株が無価値になってオプションの価値が0になったとしてもこの社債の価値が残ってキャッシュフローを生み出すから、です。)とオプション部分に分けることが出来て、このオプションのプレミアムに相当するものが市場で取引されているならば市場でオプションを売って低く抑えられているクーポンの現在価値に置き換えることで、同じ会社の社債と比較することが可能になります。さらに同じような国債があればショートポジションを作ることでその会社のクレジットリスクを切り出したことになりますので、これとクレジットデフォルトスワップとの間での裁定取引機会が作れる、というものです(と思います、保証しませんが)。
ここでわかることは、CBの構造上の裁定取引をするには、多分にセカンダリーマーケットで債券を仕込むよりプライマリー市場、当初発行の時の引き受けの際のプライシングの隙間を突いて償還まで買い持ちする方がポジションを作るが良さそう、というかセカンダリーで買ってきた時に合わせてあれこれデリバティブを使ったヘッジポジションを組むのが大変です。
でも、それ以上に、このCB戦略に限らず、というか、ヘッジファンドに限らず、ここで強く主張したいのが、複数の資産を組み合わせて作り出した合成ポジションを持っている時に、投資期間完了の途中でポジションを崩すとなるとあれこれ同時にポジションの売却をせねばならないものの、ほぼ同時に売却することが出来ないことから当初意図してヘッジして確保したヘッジ効果による利益が実現化する際に目減りし、場合によっては売却しきれずに損失にすら化ける可能性がある、ということです。ですので、一つの投資商品が複数の商品の組み合わせで出来ていて、かつそれぞれの手数料等が安いからといってその組み合わせを買って商品の合成が仮に出来たとしても(実際、うまく同日、もしくは同タイミングで買って合成するのだって大変なことです)、途中で解約することでお互いの商品の相互作用が崩れるので本当に売却のタイミングがずれて損失に転じるリスクが高まる、というのは、個人でも機関投資家でも複数の商品を同時に取り扱える体制がない限りは理解すべきだと強く言いたいと思っています。
さて、CB戦略については、上記もある一方で、そもそも一銘柄あたりの発行額や発行件数も少なく、そこに隠れている裁定部分がかなり小さいことから、レバレッジをかけながら数多くのCBで裁定取引をしないと儲からないし、こんなものは日次流動性には到底無理な戦略、ということなのです。
その他のヘッジファンド戦略 – バナナ CTAはおやつ ヘッジファンドに入りますか? ここまで、まぁヘッジファンドといえば金融商品を使った取引、と言うことで株や債券が、と言う話をしてきましたが、そんなことをやっていたらSoldieの連載がストップ することに。ちゃんと次の記事をアップできてなかったのが原因なのですが。。。
グローバル・マクロって最近よく聞くけど。。。 さて、株、債券ときたら、通貨戦略。有名なところで、ジョージ・ソロスが率いていたクォンタム・ファンドが、1992年9月に、その当時イギリスが加盟していたヨーロッパ諸国との通貨連動制度(欧州為替相場メカニズム: ERM)と当時の経済政策の不十分さから人為的にポンドが本来よりも高止まりしているとみて、イングランド中央銀行にポンド売りを2日続けて浴びせ続けたところ、イングランド中銀の買い支え資金が尽きたことからその翌日にERMから脱退して変動為替相場制に移行し、ユーロに併合されることなく今度Brexit するので当面も併合はないだろう、と言うのがありますが、これも通貨レートの景気などの環境から本来あるべき水準と政策誘導による環境との間のアービトラージ、と見ることができます。まぁ、クォンタム・ファンドは、通貨だけでなく、株式、債券、先物などでポジションを作っていたことから、どちらかといえばグローバル・マクロ戦略だ、と認知されています。
で、もっとよく聞くCTAって。。。 そして、通貨やグローバル・マクロまで来るとあとは、金や大豆といった商品取引系、いわゆるCTAとかマネージド・フューチャーズじゃないか、と思うのですが、個人的にだいぶお仕事させて頂いた立場で言うのも何ですが、このマネージド・フューチャーズの戦略というのが、一般的にはトレンド・フォローといって、商品市場や株式指数、通貨などの価格の推移(トレンド)を短期(5日間程度)、中期(20営業日/一ヶ月程度)と長期(90日/一四半期)で見て、上昇トレンドならば買いポジションを、下降トレンドならば売りポジションを、それぞれの市場で見ながら、トレンドの方向が変わったらそれに合わせたポジション取りをする、というものですから、どちらかというとヘッジというよりは、上がっているならちょっと後追いで買いで入って、ピークでは売らないけどピークをちょっと過ぎたあたりで売って利益確定する、という感じですので、個人で株を投資している人からすれば、「それってスイングトレードしてんじゃね?」と思われるでしょう。まさにその通りです。いわゆるシステマティックトレードです。でも、それを株銘柄ではなく、商品先物や株式/債券指数、為替など、以前一緒にお仕事させて頂いた世界最大のCTA (ちなみに、CTAは Commodity Trading Advisor: 商品取引顧問業者を意味するので、ファンドの戦略でCTAと呼ぶのが本来的には。。。というのがあるのですが、それでも結構みんな使ってますのでここでもCTAともマネージド・フューチャーズとも呼びます)さんは世界中の120の市場をモニターし、データを集めて分析しているということですから、規模が違います。とはいえ、基本スイングトレードですから、安く買って高く売っているのでヘッジファンドなの?と言われると個人的には違うと思うのですが、先物取引のようなデリバティブを使っているとどうもヘッジファンドの扱いになるようでして。まぁ、昔から儲かるオルタナティブ投資戦略という意味で括られてきているから、かもしれません。
で、よくCTAとグローバルマクロは同じ括りで比較されるのですが、実際のところは、グローバル・マクロ戦略の中に、ある意味人の介在が入らないシステムトレード系としてのマネージド・フューチャーズが入り、それとは別にクォンタム・ファンドがそうであるようにシステム管理するというよりは人の裁量に基づく取引を基本とする投資をする、というスタイルと二つに分かれるのです。
で、戦略をあれこれ見て行ったけど、実際のところ儲かるの? さて、投資する側からすれば、ヘッジファンドというのは、ある意味日々ヘッジされたポジションを積み上げて収益をロックインし、投資完了時に収益を実現化していくということを繰り返していくのでまず負けないし、その昔は結構稼いでいたという話を聞くので投資家さんもリーマン・ショックで離れた人たちが戻り、さらに多くの新規の投資家、特に機関投資家が増えたとされていて、投資残高はすでにリーマン・ショック直前の頃を上回っています。さらに、業界関係者もビッグ・ビジネスということで集まったようで、AIMA の最近の調査によると、ヘッジファンド業界に関わる人は、運用者からファンドアドミ、弁護士や監査人など含めて世界中で400,000人いる そうな。おかげで、10年前に比べてヘッジファンドのビジネスが、スタートアップの零細企業にその成長とその結果の両方に対して賭けてみる、というようなものから、投資家も運用者もより「企業的」なアプローチでの投資と関係を求められるようになったようにも感じています。
でも、これだけ多くのヘッジファンド戦略をとる人たちとその投資資金が増え、さらに当然ロングオンリーの投資額もこのところの世界的な低金利でリターンを求めて同様に増えたこと、さらには高頻度取引(High Frequent Trading / HFT) の存在のおかげで市場の裁定取引機会が減っていることや中央銀行等による市場介入が増えたことでの半恒常的な人為的市場形成がなされている、といった今まで想定していた市場を前提とした戦略構成が機能しづらくなってきているようで2015年から2016年は多くのマネジャーたちにとって厳しい時期だったのは確かですし、そのおかげで従前にヘッジファンドの代名詞でもあった報酬体系 – two-twenty – がパフォーマンスが出ていないのに高すぎる、という批判にさらされて値下げの提案やファンドの解散を余儀なくされたものも出てきた、のもニュース等で聞こえてきています。
とはいえ、その環境下でも新しいアプローチの投資機会を見つけてファンドを立ち上げる人も、以前より数は減ったものの毎年います(とはいえ、業界的には絶賛募集中ですが)から、まだこのヘッジファンドに勝機があるとみる人もいます。また、ベータ投資への相関性を外す投資をしながら、市場のダウンサイドリスクを回避したいと考える投資家からすればヘッジファンド投資はポートフォリオに入れるべき投資戦略であることは(前述のメカニズムの説明が正しくなされていれば)納得できるところかと思いますし、もっというならば
単体で投資して大儲けする対象ではなくなった
のだけは確か、かもしれません。