外貨建債券が償還された場合の償還差益及び為替差損益の取扱い:FPらしい話でも

そーなんです。私、一応これを書いている今(2015年7月25日)のところ、2級FP技能士なんて国家資格(!)を持ってます。で、今鋭意これを AFP に格上げすべく通信教育で単位を取ろうとしている努力をダイエットの横でやっているのですが、ダイエットの話は余計ですね。ええ、これは与太話ブログではないのですから。。。

で、そうすると、個人向けの税務もある程度頭に入れるようにしておかないといけない、というか、投資信託商品とかの商品設計をするときにこの辺りも念頭に置いておかないといかないのですが、そんなときに、スマホの Google のブログカードにこんな記事がなぜか上がってきたんです。

外貨建債券が償還された場合の償還差益及び為替差損益の取扱い

えっと。。。これ、国税庁のホームページの一部だよねぇ。よくこんなの引っ張り出してきたねぇ。という感じ。外貨建て債券の償還時の税金のことなんて調べた覚えもないのに。。。
まぁ、でも、読んでみたら、ちょっと目から鱗がぼろぼろ落ちる内容でしたので、ちょっとご紹介してみようかと。とはいえ、展開としては前回のようにページからの引用にツッコミを入れるだけになりそうですが。。。

まず、話の前提はこんな感じ。

【照会要旨】
1万ドルで購入した米ドル建ての債券が同額の米ドルで償還されましたが、この場合、1万ドルを満期時の為替レートと購入時の為替レートでそれぞれ円換算し、その差額を償還差益又は為替差益として認識する必要はありますか。

  • 購入時のレート・・・1ドル=100円(円からドルへの交換と債券の取得は同日)
  • 払出時のレート・・・1ドル=120円
  • 差益・・・(120円-100円)×1万ドル=20万円

まぁ、外貨建て債券に投資したことのある人だとイメージがつきやすいですね。パー発行された外貨建て債券を円から外貨に入って投資して、数年経って債券が償還した時に円安が進んでいたので円価で評価しちゃうと儲かっちゃっていたけど

税金ってどーしよう

という状態ですね。本当に2-3年前に外貨建て債券を仕込んだ人たちにはとってもホットなトピックですよねぇ。

で、それに対する回答ですが

また全部引用しちゃうと長ったらしくなるので、要旨だけ持ってくるなら

【回答要旨】
照会の債券については、購入した金額と同額で償還されていますので、償還差益は発生しません。また、同一の外国通貨で支払われていますので、為替差益を所得として認識する必要はありません。

ん?税務署のホームページなのに、税金がかかりません、って言ってる文章がとっても不思議に思われるものの、税務署の見解なので仕方ない。とりあえず分析しましょう。上記の要旨は二つの観点で話をしていて、

  • 一つは外貨建て債券の償還なので、債券の償還益があるのか、という点での論点
  • もう一つが円から外貨に換えて投資している以上、為替差益が発生しているのでは、という点での論点

というその意味では真っ当な話なのですが、前者に対しては

購入した金額と同額で償還されていますので、償還差益は発生しません。

と言い切り、後者に対しても

同一の外国通貨で支払われていますので、為替差益を所得として認識する必要はありません。

と、断じてます。すごい。でも、確かにそうだよね。それぞれをさらに分析してくれています。

債券の償還益は?

債券の償還益かどうか、の論点ですが

1 償還差益について
外貨建取引とは、外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいい、居住者が外貨建取引を行った場合には、その外貨建取引の金額の円換算額はその外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとされています(所得税法第57条の3第1項)。
公社債の償還差益とは、償還金額(又は償還により受ける金額)がその発行価額(又は取得価額)を超える場合におけるその差益をいい(租税特別措置法第41条の12第7項、第41条の13第1項、第2項)、その経済的実質は預金利子と類似していますが、利子所得には該当せず、雑所得として取り扱われています(所得税基本通達35-1(3))。
このように、償還差益は、償還金額がその発行価額を超える場合のその差益とされており、また、債券の償還によって発生する利子類似の所得であることから、外貨建債券の償還によって生ずる償還差益とは、外貨ベースでの償還差益にほかならず、これを上記外貨建取引の換算規定に従い、償還時の為替レートで円換算した金額が雑所得の収入金額になると解されます。
したがって、照会の債券については、購入した金額と同額で償還されていますので、償還差益は発生していません。

と、分析しているのですが、まず外貨建て取引がなんたるか(所得税法第57条の3第1項)と、その円建て評価額の算出基準(当該外貨取引を行った時の外国為替の売買相場)公社債の償還差益とはなんなのか(租税特別措置法第41条の12第7項、第41条の13第1項、第2項)とその税務上の取り扱い(一番厳しい雑所得扱い)、という定義に戻っています。

思った以上に厳密な議論をしますよね。そのお陰でその時々で議論の方向性が変わって課税するかどうかが変わる、という素地を作っているのかもしれませんが。。。

で、まず、
償還差益とは、償還額がその発行価格を超える場合のその差益
であると確認して、償還によって生じる発生する利子類似の所得という収益の性質を認識した上で、でも、雑所得扱いね、としていますが、この時の考え方は

外貨建て債券の場合には外貨ベースでの償還差益
であって、
償還時点の円価ベースでの償還額と投資時点の円価ベースの投資額との差額ではない
と計算根拠を明確にして、
投資額と償還額が外貨ベースで同じである以上、0 に償還時の通貨レートを用いて円価にしたところで 0 なので適用されない

と明確化しています。

で、為替差益は?

続いて、為替差益の論点についても

2 為替差損益について
外貨建債券の取得及び償還は外貨建取引に該当しますので、上記外貨建取引の換算規定に従い、償還金額及び発行価額をそれぞれ円換算すると差額が発生します。この差額は為替差損益とされるものですが、これを所得として認識すべきかどうかは、所得税法第36条《収入金額》に規定する「収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額」として実現しているかどうかにより判断することとなります。

照会の債券の償還のように、券面に表示された金額(元本相当額)と同じ金額が同一の外国通貨で支払われる場合の為替差損益は、単に債券購入時の円換算額と償還時の円換算額の評価差額にすぎず、同一の外国通貨である限り、為替差損益に相当する経済的価値が実現しているとは認められません。

したがって、照会の債券の償還時においては、為替差損益は収入すべき金額として実現しておらず、所得として認識する必要はありません。

言い換えると、前述で計算方法として使わない、とした
償還時点の円価ベースでの償還額と投資時点の円価ベースの投資額との差額において、本来外貨建取引に当たる外貨建て債券の取得から償還までの一連の流れについて、この差額は外貨建取引の換算規定に従うと為替差損益に該当するのでは、という考え方に対して、

所得税法第36条《収入金額》に規定する「収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額」として実現しているかどうかにより判断することとなります。照会の債券の償還のように、券面に表示された金額(元本相当額)と同じ金額が同一の外国通貨で支払われる場合の為替差損益は、単に債券購入時の円換算額と償還時の円換算額の評価差額にすぎず、同一の外国通貨である限り、為替差損益に相当する経済的価値が実現しているとは認められません。

と、償還した場合には外国通貨で支払われている場合には円価に戻していない以上、ただの評価益に過ぎず、実現益ではないから収入金額とはならない、としています。

そうすると、

したがって、照会の債券の償還時においては、為替差損益は収入すべき金額として実現しておらず、所得として認識する必要はありません。

言い換えると、

パー発行の外貨建て債券を発行時から取得して、償還まで持ち切って、外貨のまま保有する

と、この取引からは償還差益も為替差益も課税対象にはならない、という結論になってしまいますね。じゃあ、継続して外貨投資し続けようか、と思っちゃいますね(笑)

で、これを深読みしてみましょう

さて、一番興味深いのが、これに続く一文でして。。。

なお、外貨建の割引債又は割引発行の利付債のその元本部分(発行価額)に係る為替差損益についても同様です。

外貨建て債券投資をしている人たちの多くが、割引債やほぼそれに類する利付債(通貨のイールドとしては7%なのに、あえて 0.5%程度のクーポン支払いにして、あえて利付債にしながら割引債のようにディスカウントで取得可能にしている債券)への投資で、クーポンに課税される源泉徴収税を回避(oops)しようとしているかと思います。これに対して、発行/取得時点の割引された元本に対しては為替差損益の議論はしないよ、とだけ言っています。とすると、償還したときの投資元本として増加した償還差益と認識される部分については為替差損益の議論はない、と読めますが、償還差益として雑所得で課税します、ということなんでしょうね。ポイントとしては、税務署として、この償還差益を利子所得に類似する所得と認定しているにも関わらず雑所得扱いすることで、

利子所得なら源泉徴収の20.315% で許してあげるけど、割引債で先送りするなら雑所得として累進課税に当てちゃうからねー

という、ちょっとしたペナルティ的な意味合いを持たせているように読めてしまうのは気のせいでしょうか。いわば債券投資の収益構造が

  • クーポンは取得時の為替評価による円価での利息所得扱い
  • 償還差益は償還時の為替評価による円価での雑所得扱い
  • 投資元本は利益が実現化したときに為替差益扱い

で捕捉します、ということなのです。あ、ちなみに、償還ではなく売却した場合には

  • 利付債ならば譲渡は非課税
  • ディスカウント債ならば譲渡所得として総合課税(譲渡所得)

と、さらにややこしいことになっていましたね。

それに対して外国株の場合は

 

  • 配当金は取得時の為替評価による円価での配当所得扱い
  • 売買損益は投資時点の円貨相当額の投資元本と、売却時点の円貨相当額の回収金額との差額に対する譲渡所得扱い

と、元本の取り扱いが微妙に違うんですよねぇ。

さて、こんなに行数を費やしてあれこれ言っていますが、実は、来年からの株と債券への証券課税の一体化、ということで、債券の償還益・売却益とクーポンに対する課税も一括で 20.315% の申告分離課税(かつ、上場株式と損益通算可能)と、話でだいぶ整理がついてきたのですが、問題は、外貨建て債券の譲渡益/償還益を算出するための計算方法がこの税制変更で外国株と同じ形に代わるのでしょうか。明確にこの説明をしているひとがいないんですよねぇ。。。ただ、外国株式と同じにする方が合理性が高いですので、その覚悟で継続して投資するほうがいいかもしれませんね。

って残り半年になり、外国債券投資している人にとって、今売るか、来年以降売るか、悩ましい時期が続くかと思いますが、もし知らずにこれを見つけてしまったならば、検討する契機になればと思います。(これが一番重要)

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