More on ETF: 運用会社の巨大化に伴う、大量保有は何か市場や投資家にとってデメリットって?

ETFやbitcoin の話を書いていると、どうも興味を持ってもらえることが多いようで、この数週間であれこれお仕事のオファーを頂いたりしていて本当に感謝です、というのもあるのですが、その陰に隠れて、当の本人は絶対に匿名でかつ内緒にして欲しい(というか、こんな形で公開されたくはない)はずなのですが、私にこれ以外にも(付き合っているのか、というくらいに何度も)メールを頂いたこともあることから、それに免じて今回のタイトルにあるような下記のブログネタに持ってこいのご質問をくれたのでご紹介したいと思います。(ごめんなさいね。忙しいから、回答含めて記事にさせて頂きますね。)

ETFの功罪 – 大量保有した場合の権利行使は?

質問です。

現在のETF業界は、ブラックロック、バンガード、ステートストリートの寡占が進んでいます。特にブラックロックとバンガードに至っては、指数採用頻度の高い多数大型株の、筆頭株主になりつつあります。もちろん、事実上の株式の管理は信託銀行にあるとは言え、議決権等の権利は運用会社に寄与させると考えております。このような運用会社の巨大化に伴う、大量保有は何か市場や投資家にとってデメリットに繋がる可能性があるのでしょうか?

ぜひ、専門家である宮田様の意見が聞いてみたいです。

残念ながら、ファンドの設立や運営については、多分日本で5本の指に入るくらいまともなセンスと投資家のことを考える専門家ではあると自負はします(これは本気ね。投資家のことを考えない、運用者の都合と自己満足を優先するストラクチャーをする輩が多いのが事実ですから)が、ファンドの運用方針とか戦略についてはかなり無頓着な私ですから、ファンドの保有する株式の議決権行使については本源的にはあまり気にしませんし、さらに言えば、その先にある運用会社の議決権行使の方針による市場への影響、なんてそうそうイメージすることもありません。

ですが、この昨今の日本版スチュワードシップコードのような話を踏まえるならば、次のような一般論程度は言えるとは思っています。

筆者の考えるETFによる大量保有に基づく議決権とその市場への影響とは

まぁ、当の本人にはメールで返した内容なので、記事としては手抜きですが、こんな感じです。

多分にご質問にある問題点は投資家のポジショニングを考える際に影響することでしょうから本来であれば自己の裁量により勘案すべきことと思いますが、私見を述べるならばETFだけが斯様な大量保有とされるポジションを抱えている訳ではないですのでそれを持って市場へのデメリット、という影響があると考えるのは早計でしょう。
そもそも会社への支配的、もしくは影響を及ぼす保有割合は日本のルールでいうならば大量保有届出を義務付けられている 5%ではなく50%でありまた、25%であったりと、ケースにより変わる訳ですので、ETFの市場規模がそこまで増えた時に初めてこの問題が現実のものになり得ると思われます。
# 日銀による J-REIT保有が過半を占めている、という話についても
# とはいえ、それぞれの J-REIT 銘柄の半数を超えて保有している訳ではないので
# 今の所は問題にはならないでしょう。多分。

他方で、運用会社としての大量保有による影響というのは、その運用方針による保有の仕方が問題になる話ですので、個々の運用会社のウェブサイト等で開示されている保有時の方針、例えば日本であれば日本版スチュワードシップコードの表明の有無などから運用会社ごとの対応を推して考えることと思います。

また、支配的保有であれば go-to-private のようなプライベートエクイティのような買収案件ですので市場への影響より個別銘柄のその他の少額投資家への影響、という問題に話が変わることになります。

その上で申し上げますが、ETFのような支配的目的での保有でない保有で結果的に影響を多少なり与える保有になった場合にも経済的効果のみを目的とする以上、議決権を留保するという権利行使をすることもある、と理解すべきです。これはETFが市場に現れる前の日本の機関投資家が取っていた方針でもあるので別段新しい話ではありません。

少額投資家の利益と思われていたETFが増えれば増えるほど、その意味では会社運営の観点で監視し、利益を主張し得る立場にあるはずの議決権が死蔵される可能性が上がるという意味にもなりえること理解しておく方が良いでしょう。これらを勘案して、それでもETFの動きを見て同調して保有する(することで死蔵に加担する)のか、その他の大量保有者の動きを見るのかをして、個別銘柄やETFを保有し/売り越すのかを考えるのがETF趨勢の時代におけるポジショニングの構築、ではないでしょうか。

ま、何も言ってないじゃないか、と言われそうですが、実際には二つの考え方が支配すると言ってもいいけどそれがどっちに転ぶかは知らん、としか言いようがないのです。

スチュワードシップコードという名の経営への関与 – お前らPE崩れか?

いや、まじで。スチュワードシップコードって大量かどうかはさて置いたとしても、運用会社として取得保有するならば長期的に保有して株主としての地位を使って取締役会と対話してその株式の評価額の向上に関与すべし、という話なのです。それって、友好的なアクティビストとどう違うんでしょう。本気で経営にテコ入れて企業価値を押し上げたいならば PEのように過半数以上保有して経営陣を送り込んで交代して投資家の思う経営をさせる方がより効果的だ、というのは PEファンドがすでに証明しているはずなのです。

いずれにせよ、この取締役会はクズいから不信任ということでショートします、だって取締役会への大きなアピールのはず、なのですが、どうも理解されずにロング側に立った話でしかしないのは

「株式は長期保有がマスト、というか短期売買で株式市場を下げるようなこと(= 株は売ること)はするなよ、分かってるよな?」

という国や与党から押し付けられた大人の事情、としか個人的には思えないのは私だけでしょうか。

経済的効果だけ欲しいから余計なことは言わない – 希望的マグロな投資でいいの?

と言って、この株の経済的な効果だけ欲しいから議決権行使は何があっても行使しない、という運用会社や適格機関投資家が大多数だったのは、本当にこの数年までの超長期の話。曰く自分たちの意見が株価を動かしたなんて思われたくないから、なんて、どこの誘い受けの乙女だよ。そもそも議決権を行使したところで株価がそれ通りに反応するとは限らないのだから、思い上がるなよ、という気もする(ええ、著者は株式市場なんて所詮は企業努力による株価向上など投資家のセンチメントの前には相関性の極めて低いイベント、くらいにしか思っていませんのは、前回までの ETFの取引価格の構成要素の議論を見ていただければ一目瞭然ですね。)訳です。その意味では議決権行使をするしないに関わらず株価が動くのだから行使せずに受け身でい続けたって問題はなさそうに思えるし、どうもこのセクションの論調だってそうだろ、と言われかねない。

とは言え、経済効果とは本当に株価の上昇や下降を口を開けてぼんやり黙って見て享受していれば良い、のだろうか。株価と議決権行使などのイベントが極めて低い相関性だ、と言ったところで、株主である以上、その権利ではなく義務として議決権の行使の判断をすべきなのは、株式というものが投資家のための株式の流通市場にて取引されようがされまいが、その本源的価値を向上するのが取締役会であり株主の役割であることに違いがないから、その使命は果たすべきだとは思うのです。

とすれば、誰かさんによるその企業価値の創造に第三者的にタダ乗りする運用会社って、選球眼はあるけどどうよ?としか思えなくなるのです。

で、ETFが大量保有することの影響っていいの?悪いの? -結果論に過ぎないのだから気にするな

でも、ETFってそういうタダ乗りの箱、なのですよね。結局のところ。だって、自分でどの株がいいか悪いか判断せずに丸っと保有しているだけに過ぎないのですから。その意味では影響が良いほうでも悪い方でも、出たとしても気にする必要だってないのかもしれません。

ETFを保有することが投資家の市場全体への参与を束ねているだけに過ぎない一方で個別株という個性についてはあまり配慮していない、のですから、個性がどう振る舞ったところで、日経 225であればたかだか数パーセントの影響に過ぎないのです。そりゃ、個別の株主総会への影響なんて仮に株価への影響があったところで指数全体から見れば気にならなくなりますね。

ということで、ETFで投資するなら、他人のコストストラクチャーもガバナンス的な命令系統も何もあったものではない、むしろ気にせずETFの対象戦略だけを気にする方が良いのではないか?という結論にここではしたいと思います。というか、結局そこを看破した稼げる紙としてETFにはあって欲しい方がニーズが強いから、なのでしょう。

あーあ、こんなんでいいのか?(笑)

[投資のコストと効果] ETFの場合

この「投資のコストと効果」のシリーズ、今回取り扱うのはETFなのですが、多分、多くの人がなぜ敢えてこの(長ったらしい分析が延々続く)シリーズで、世の中で一番費用が安くて効率的な投資が出来る、と考えられている ETF- Exchange-Traded Funds を取り扱うのだろう、と思ったかもしれません。

なんとなく、グローバル投資を デスクトップでお手軽に、って感じ?海外に口座を作って投資する際のメリット、デメリットの時にも触れたこの投資商品、個人的にはいろいろな思い入れがあるのですよ。個人やFPの目線で言えば投資対象としてはこれほどよく出来た(つまらない)投資商品は他にはないですし、ファンドを組成する側からすればやっていることがシステマティックであるがためにコスト的な競争力の高さは脅威でしかない、のです。それくらい実は、(世界の富裕層がやっているけどあなたにもすぐにできる、と自尊心と虚栄心を煽りやすい)投資のインセンティブに対する訴求力のあるパワフルな商品なのですが、前述の煽りマーケティングを含めてどうも使われ方があまりよろしくないように思えて仕方なかったりしますし、売る側とかETF業界も売るための理由をあれこれ無理に作り出して売ろうとしているむきがあって、それも気になって仕方がないのです。

ですので、今回はいつも通りにコスト的な検証も含めて色々と角度を変えながら思いっきり(と言うことはいつも以上にダラダラと長ったらしく)やりますが、それ以上に投資の際の効果という点であれこれ掘り下げてみたいと思います。

あ、このブログにしては枕が真面目だ(笑)連載がなくなったプレッシャーからの解放?(笑)

ETF – そもそも定義はなあに?

さて、ETF。その名の通り、Exchange Traded Fund – 日本語だと上場ファンド、ですが、広義での上場ファンド、と、多分に読者のみなさんが想像する今そこにあるETFと異なる世界があるのをまずご紹介したいと思います(ほら、これだけで2000字くらいになるネタでしょ?)

ほら天邪鬼だから広義から見ちゃうわけで

広義の上場ファンド、というと、まさに上場しているファンド、でして、例えば著者が10年のおつきあいになってきた、某ベトナムのファンドマネジャーと某投資銀行さんとちょうど10年前に、著者が2週間でケイマン諸島籍のユニット・トラストを作って日本に持ち込んだ時の投資対象だったファンド、というのが、当時ベトナムに投資したいというとこの方法でしか投資できなかった、クローズエンド(言い換えると、追加投資不可、決められた日のみ解約可能)のファンドをロンドン証券取引所のAIM市場というプロ向けの取引所に上場させたもの、だったのです。ね?これも上場ファンドでしょ?でも、これのおかげでファンドに投資したい人は市場で売りに出ているファンドを買えばいいし、もし現金化したいと思ったら10年以上先の償還日まで待たずとも市場で売却すればよかったのです。それもあってか、ベトナムでのこの運用者の年次投資家向けカンファレンスにはヨーロッパのファミリーオフィスの(ということはいわゆる超金持ちだけどカジュアルな格好をした)人たちをちらほら見たのです。

ちなみに、この時そのファンドマネジャーが上場させた3つのファンドのうち、一つはロンドン証券取引所のメインボードに「格上げ」され、一つはそのままAIM市場にとどまり、著者が絡んでいたファンドは、というと、二つに分離してその一つは今ではルクセンブルク籍のUCITSになってしまった、というのですから10年という時間ってのは。。。いやいや、今はそんな話をする場合じゃなかった。。。

それ以外にも、ロンドン証券取引所のメインボードにはごく普通にプライベートエクイティファンドが上場しています(例えば、クウェートの Global Investment House の運営する GMFA – Global MENA Financial Asset)し、日本で一時期高分配だからともてはやされた MLP – Master Limited Partnership も、主にエネルギー関連のインフラ投資をするリミテッド・パートナーシップの持分を米国内の証券取引所に上場させたもの、ですから、世の中にはそれなりにありそうだ、ということがわかっていただけたのではないかな、と。

もう一つの広義の上場ファンドというと、ファンドを普通に組成するのですが、投資家サイドで投資のための条件として上場していること、というものが(特に機関投資家「様」に)あると、今ほどETFが流行らなかった2000年より前から、上場しているという「箔をつける」ために、チャネル諸島証券取引所(今では The International Stock Exchange と名乗ってますね。。。知らんかった。。。)やアイルランド証券取引所、といった、マイナーでファンドの上場を必要とする人たちのために機能している証券取引所に上場登録をする、のです。

実際に、上場されているファンドを見るとヘッジファンドやプライベートエクイティ、といったオルタナ、ということは流動性の低いファンドすら上場されているのです。でも、こういった上場登録されたファンドは、そこでの相対取引をする、というよりは定期的なNAVや監査済み財務諸表の開示を取引所のルールに基づいて行う、という方に主眼が置かれているのも見えてきます。実際にアイルランド証券取引所に listing されているファンドを見ると、ETFではおなじみのこの瞬間の株価の表示はなく、直近のNAV算出日付の 一口あたりのNAVが開示されているのです。とはいえ、これは Exchange Tradedではなく、Listed Fund という方が正解なのです。

で、もったいぶって引っ張って見た狭義の定義はといえば

では、狭義の ETFというとどうなるかと言いますと、投資信託協会さんのホームページに依拠するならば

証券取引所に上場し、株価指数などに代表される指標への連動を目指す投資信託

となります。ここでポイントなのが、投資信託の中でも「証券取引所に上場する」ことだけでなく、株価指数などに代表される「指標への連動を目指す」ものである、のです。となると、前述の広義の上場ファンドの中でも、名目上の上場だけでなく市場での取引も求められるのでいわゆる  listing だけでは足りず、かつ仮にLSE/AIM での取引がある、としてもベトナムの上場株を自分の裁量で売買するようなファンドではなく、株式指数のような、ある一定の銘柄の選別方法と保有割合を定めたルールに基づき、その結果となる指標の動きと連動することを「目指す」ファンド、である必要がある、のです。となると、そりゃ、いわゆるアクティブ・ファンドというものがETFに入れないよう思えてきますよね。

でも、このある一定の銘柄と保有割合を定めたルールというのがちょっと曲者っぽいのです。

ETFが目指すもの - 投資対象はどこまで広がる?

というのも、一般的な指数、といえば、ヘッジファンドの話で出た、ベータ = 市場の動き。とはいえ、その市場というのが日本の株式市場をパッと見ただけでも日経225と TOPIXと  JPX日経 400と三つあります(って、JPX日経400がベータか、というのは異論はたくさんあるでしょうけど、そこがこの話のポイントなので、グッと飲み込んでくださいな)。当然、それぞれに対して ETFが出来上がります。また、日経225でも、TOPIXでもセクターごとのセクター指数が存在し、また、インバースといって指数の動きに正反対の動きをする、正確にいえば、日次騰落率に-1を掛けたもの、ということはその指数をショートした時の値動きに一致する指数も作られたり、日次騰落率を2倍にするレバレッジ指数、外貨建て投資の人たちに向けた外貨ヘッジ指数、などなど、たった一つのロジックですらあれこれ広げることが出来ます。

そのようなベータな株式指数は各国に当然あるし、それらの地域や全世界という括りでのでのバスケットもアロケーションの方法論はGDP比率から単純平均から、理屈がつくならば如何ようにだって出来る。

そして、その理屈をつけてアロケーションを変えることを株価の計算レベルで行なっているのがスマートベータ、と呼ばれる指数。ESG指数なら、なんとなくそれっぽいから納得しがちなものの(あ、それがJPX 日経400でしたね)、ちょうど今眺めているiShares Edge MSCI Minimum Volatility Japan ETFに至っては、株価変動率の小さな日本株だけで構成している、とまでくると、前述のベータとして挙げられている日経225とは採用銘柄数では188と近いものの、組入比率も最大1.6%から最小0.04%ですから、日経225指数の構成比率とは全くもって異なることがわかります。

となると、これすごくいいパフォーマンスの出るトレーディングロジックだから、指数化したらいけるかも?なんて発想すら出てきてもおかしくないですよね。実際、MOAT –VanEck Vectors Morningstar Wide MOAT ETFというファンドはモーニングスターの株式リサーチが見つけてきた「持続可能な競争力をもつ」「魅力的な株価」の40銘柄の等配分ポートフォリオ、ってどう見てもバリュー株投資のアクティブファンドだし、ALFA – AlphaClone Alternative Alpha ETF は公開されているアメリカ株のヘッジファンドマネジャーによる銘柄選択に依拠したファンドということなので、もはやこれを指数連動と呼んでいいのか。。。ほぼ前述のベトナム株ファンドVOFと変わらないように思えてきているのは著者だけだろうか。。。

実際、iSharesには上場プライベートエクイティUCITS ETFなるものがあって、世界中のプライベートエクイティ関連の上場株、運用者から上場プライベートエクイティファンドまでを買いあさっているものすら存在します。しかも、そのアロケーション方法が「最適化法」とあって、一体それがロジカルなのか判断できなくなりました。。。

さて、コスト分析でも

やっと、コスト分析に移りますが、多分楽勝。なぜかって?株を買うのと同じですので

取得時は投資額に株式取引手数料ですから、いつも引き合いに出させていただいている楽天証券さんだと10万円以下の取引で一回90円(に消費税、8%だと7円)、3,000万円を越えると851円(に消費税、8%だと68円)が掛かることになります。

また、保管中は保管手数料、ですが楽天証券さんだと無料。

そして、売却時はまた株式取引手数料が上記と同じだけ掛かることになります。
また、売却益には一年間での上場株の利益の合計に対して 15.315%の所得税と5%の住民税が掛かる、というので、特定口座を使うことで確定申告すらスキップできる場合もあるのでオススメだったりします。

ね?簡単でしょ?

ファンドなのに期中のファンドの管理報酬とか考えなくていいの?

そんな声が聞こえてきそうですよね。もし、ETFが上場していないファンドならば、ファンドの純資産価格の算出に当たって管理報酬等が影響するので考慮しなければならないのは当然ですよね。でも、

ETFは、ファンドの純資産価格そのもので取引、していないですよね?

なぜか?それは、市場での相対取引価格でファンドの持分を取得し、また売却するのですから、もしファンドが人気があれば本来の純資産評価額を上回って(プレミアムが乗って)取引されますし、人気がないならば本来の純資産評価額を下回って(ディスカウントされて)取引されるので、そこにはファンドの純資産価格の算出の影響を受けないから、なのです。

もし例えるならば、指原莉乃さんと渡辺麻友さん(と限定すると角がたつから、その他のAKBグループの選挙に出た彼女たち)の芸能人としての商品価値(思わず現在価値とか描こうとするのが金融系に染まったおっちゃんの悲しい性か。。。)と、前回の(というよりその時々の)AKB総選挙での得票数(ということはその裏側にある投票券付きのCDの売上としての貢献額)との間に当然一致するものはないですし、相関関係が成立するか、というと。。。ないでしょうね。

あ、炎上対応が苦手なので先に申し上げますが、著者はさっしー推しです。あの(自分も他のアイドルも含めた)プロデューサーとしての手腕には感服しているので、その価値は総選挙での得票数では全然ディスカウントでしょ、というのが主張です。(いや、だから、まゆゆの得票数に純潔系アイドル的プレミアムが乗ってる、という意図もないから、お願いだから石とか投げないでっ!)

そこで純情なあなたは思ったかもしれません。ファンドの目論見書に記載されている投資方針としてファンドの騰落率をその指数の値動きと連動するように、と書いてあるのだからそんなプレミアム/ディスカウントなんて起きないのでは、と。

落ち着いて考えて見てください。あなたがこれからETFを買う、とした時に、その価格は誰が決めるのでしょう。ファンドの純資産価格で買えますか?リアルタイムにファンドの資産の評価額は値動きしますけれど、市場が動いているこの瞬間に、あなたは誰からファンドを買うのでしょう。ファンドが追加で、しかもその瞬間の時価で発行はしません(というか出来ません)よね。発行された数が限られたファンド持分を既に持っている人か後述の指定参加者と呼ばれる、ETFの銘柄のマーケットメイカーのどちらか(もしくは、アービトラージ狙いのHFT)、でしょう。とはいうものの、それは取引所という場でマッチングされるのですから、もはや売買の際の需給の関係だけが価格を決めるのです。

余談ですが、どこかの投資銀行さんが無理くり一日2回ファンドのNAVを算出して取引できるようにした、というファンド商品を作って売っている、という噂を聞いたことがあります。これは当然金融機関たる適格機関投資家様専用の商品なのですが、そこまでしてファンドの形態にしながら市場性証券への投資をしたい、というわがままをどうして叶える必要があるのか、しかも低コスト、という経済合理性にとっても合わないことをしてまで、と考えたことがあったなぁ、と思い出したり。これならETF買えば?というのが今の解決法でしょうけど、そうすると上記のような価格構成に伴うトラッキングエラーを避けたい、というこれまた難儀なわがままがあるのでしょう。ほんと、こんな無茶を言う金融機関ってのはどこなんでしょうね。。。

実際、この需給に関連して面白い話があって、とある東証マザーズ・コア指数という指数に連動するETFをとある(というか特定できちゃいますね。。。)運用会社さんが作っています。これがある時期、このETFに対する貸し株のニーズが高まりすぎて逆日歩が発生する状況に陥ったというのです。

ちなみに、この逆日歩というのはどういうものかというと、一般に個人の投資家がいわゆる空売りをする際には取引所が定めた銘柄を使った最長6ヶ月の期間で信用売りをする、という制度信用取引を使うのですが、通常ですと、楽天証券さんだと年率1.1%の品貸料を払って空売りするために株を借りてくることになります。ですが、市場全体でその銘柄を借りたい、というニーズが出て物が足りない、という状態になると、個別の証券会社さん単体だけでなく、複数の証券会社さんの間を資金や貸し株を融通する証券金融会社さんを使っても足りなくなって、長期投資をしているような機関投資家さんから入札して借りることで不足分を補おうとするのです。追加的なコストを払わないと出来ない、というこのような時のコストを逆日歩と呼んでいます。

で、この話のポイントなのが、なぜ、ある時期にこのETFが貸し株の対象、というかいわば売りの対象になったのか、という点です。今一応確認したらその状況が解消されているようなので書いちゃいますが、当時ミクシィの売りをしたいと考えた時に制度信用取引で売りが出来なかったらしいのですが、このETFは制度信用取引での売りが出来た、ということで、

じゃあ、どうせマザーズ・コアって15銘柄しかないし、ETFを売って他の14銘柄を買ってミクシィ売りしたらいんじゃね?

というのがネットで広まってミクシィ売りをしたかった人がこぞってやった、というらしいのです。あ、今はこれをやる必要はないですからねっ。

ちなみに、これってむかーし昔、中国株をショートしたい人が現物のショートがなかなかできないことから、指数をショートして、ショートしたくない銘柄を買ってヘッジする手口と全く同じなんですよね。

また、需給の違いが価格構成の違いを生んでいる実例としてあげるならば、日本で取り扱われているETFの一覧を日本取引所グループさんがまとめてくれているのを見るとわかるように、日経225のETFは7本あります。本当にETFの意図する通りに日経平均の日次変動率に一致するように動くか、というと、こちらのページにある通り、このデータをまとめた日付(2017年8月4日)に限っていうならば時価評価額と日次取引高のトップ2本だけが当日の日経平均の日次変動率である -0.39%に一致し、続く時価評価額と日次取引高で3位から5位までの3本が -0.34%、そして下位2本は 0.00%、すなわち変動がなかった、のです。とすると、時価総額が大きいと取引高も増えて、対象となる資産との間での価格変動という意味での相関性が高くなり時価総額が小さいと取引高も小さくなり、価格との相関性が低くなる、ということが予想できます。そして、ETFの方が日経よりパフォーマンスが費用分だけ当然に低くなるはず、なのですが、実際のところはETFのファンドとしての費用の要素との間に相関がなさそうです。

最後にトドメを刺すならば、同じく上場している企業の株式、これって、会社の企業価値とも言える純資産総額と会社の株式にその時の一株あたりの売買価格をかけた、いわゆる時価総額との間では、通常純資産総額が小さくて時価総額が大きい、のです。というのも、株を買う時ってその会社の将来性をみて買うのであって、その会社の財務諸表の費用の部分が高い安いでは取引価格を云々することはほぼないでしょう。また、もし純資産総額が時価総額より高い場合、それは株を買い込んで会社を解散させた方がお得、という意味ですので、通常は起こり得ない、とされている状態(PBRが1未満、ってやつですね。実際には結構ありますが。。。)なのです。

で、まぁ、余談で思いっきり横道に入ったように見えますよね。でも実はこれらが、ETFの需給の根本的な問題を提示していますし、前述のファンドとしての管理報酬等が実際に私たちのような普通の投資家ならば看破でき、また、看破できない唯一の市場参加者がいるけれども実はその唯一の市場参加者すらきにする必要はなく、そして、実はその先の驚くだろうあまり知られていない事実、すなわち、ファンドの本来の運用とファンドの取得/売却との関連性のなさやETFで行われているオペレーションの裏側、へと続くいい入り口の話なのです。

それを考えるために、そもそもETFとはどのように作られているのか、理解しておく必要があります。

ETFの仕組みとは

絵を描くのが面倒なので、チャートは投信協会さんのETFの解説の真ん中にあるものを見ていただければと思うのですが、投信会社さんと信託銀行さんとでETFを設定するのですが、当初は空っぽです。そこに、このETFを始めるに当たって事前に商品を設定・維持することに同意した指定参加者、と呼ばれる証券会社さんがETFの裏付け資産となる証券ポートフォリオを投信会社さんを通じて信託銀行に預け、その同額のETFの持分となる受益権を指定参加者に交付することで、初めてETFが指定参加者から売り出されるのです。

ということは、この指定参加者が当初証券ポートフォリオと交換で手に入れたETFの持分だけ世の中に出回る、ということです。

では問題なのは、もしそのETFの人気が出て、もっと欲しいと取り合いになった場合流通量を増やすことで追加で発行できるのでしょうか?もちろん可能です。指定参加者が増やしたい分だけ証券ポートフォリオをETFに交付してその受益権を手に入れれば良いのです。そして、先ほどの東証マザーズ・コア20ETFのように、(売り目的とはいえ)需要に見合っただけの証券が発行されていないと、ETFの取り合いになり、逆日歩のような品不足に起因する問題が発生するのです。

逆に、ETFの裏付けとなる資産を抱えている信託銀行と投信会社は、といえば、極端な話、日経225ETFであれば、アロケーション比率はそうそう変わることもないですので、追加発行しない限りは特段何もしないでよく、時折発生する銘柄入れ替えに対応していくことでいいのです(株式分割/併合と思ったのですが、持っている限りは勝手に発生するだけなので影響がない、はずです。多分。)

これがTOPIXのように時価総額加重平均ということであるとリバランスが必要になるのでシステマティックにできるものの、個人ではやりたくないですよね。

ただ、ここでもう一言付け加えるならば、もし文字通り、ファンドとしてのETFの受益証券を発行させるための作業が株式などの有価証券の譲渡でのみで行われるならば、このファンド、運用会社や受託者に対する報酬を払う現金を持ち合わせておらず、保有する有価証券からの分配金や利金だけが報酬を払うための現金を得るための手段、にしかならない、のです。この問題を解決しつつ、ファンドの裏側で何が起きているのかを解説するのはちょっとだけ後に回したいと思います。

もし日経225を自分のポートフォリオとして作るなら

ここで、ちょっとETFとのコストの比較ということで実際に自分で日経225のポートフォリオを作るならば何をどれだけ買わねばならないか、というのを計算して見ました。
単純平均のポートなんだから簡単じゃね?と言われそうですが、TOPIX全銘柄の取引単位の最大公約数にまで小さくするよりは楽なので。。。

実際に計算したのは2017年7月14日、とまだ東芝が東証二部に移動していない、10年後には伝説的と呼ばれるだろうポートフォリオ(笑)でやっています。

このリンク先にその実際の計算のスプレッドシートがあるのでご覧いただければと思いますが(とはいえ、自分の思考パターンを丸裸にしているのがいやーん、って感じですが。。。)実際のところ

  1. まず、225銘柄のそれぞれの株価を50円額面に割り戻して株価を計算(H列)
  2. その合計額に株式分割の影響を入れることで。。。日経平均が計算できる(セルH3)。(出来なかったら、計算間違いしているので見直す。)
  3. 続いて、それぞれの株の最低取引サイズの最小公倍数になるロットをそれぞれ見つける(I/J列)。

ポートフォリオの構築時のコストって?

その結果。。。最低の元手として5.3億円くらいないと作れないことになっているようです。
ということは平均266万円を225銘柄買うことになりますので、楽天証券さんだとこの平均値で一銘柄あたり、3000万円までの921円(と消費税の73円)が掛かり、手数料だけでも223,650円掛かることになります。実際は、小型で買えるものもあるので、値段が下がって15万円弱、にはなりました。(ただし、各銘柄一回で取引がつけば、ですが。複数日で取得するとなるとコストはさらにかさみます。)

これに比べると、仮に5.3億の日経平均ETFを買えば、手数料は973円(と消費税の77円)だけ、ですので、ひとまとまりになっているのはお買い得、と思えてきます。

さらに、日経225先物をするならば、1取引単位あたりが指数の1,000倍の想定元本になることから、今なら2,000万円程度。とすると、前述と同じくらいのポジションを作ろうとすると、27枚を買い立てることになるので、取引手数料も300.24円(8%の消費税込みの金額) x  27 = 8,106円。先物という性質上ポジションは最長3ヶ月まで、ではあるものの、1枚あたりの証拠金が60万円、ということで、今回の場合でも1,620万円で足りる、のです。

なお、投資を終了させる時のコストもそれぞれ同等、と考えてもいいでしょう。

では維持コストってどう?

さて、設立コストは見事に200倍近くの差が実額で出てしまいましたが、維持コストはどうでしょう。もし楽天証券さんだと株の現物なら 0円。さすがです。

先物ですと、四半期ごとの限月越えの時に 8,106 x 2 = 16,212円の取引手数料を払って同じポジションを構築し直すことになります。ですので、年間でも 64,848円。

それに対して ETFは、といえば、前述の日本で取り扱われているETFの一覧を日本取引所グループさんがまとめてくれているのでそれを参照するならば、日経225のETFの期中コストは年率で、下はiShares の 0.13%、上は日興アセットさんの0.225%(と思ったら三菱さんがあれこれ合わせて0.40%だった。。。)。話の都合上、年平均の残高が5.2億円のポートフォリオに対しては、下は676,000円、上は1,170,000円。

おっと、いきなりここでコスト競争の順位が入れ替わりました。さすがに5億もあると0.13%ですら年間100万円の維持コストの世界に近づいてしまうのですね。(まぁ、ファンドを企画運営する側からすれば、それだけでも出てもらわないと人件費が出ないよ、と思いますが。。。)

で、念のため詳細を見るべきだろうと思い、iShares の簡単な方の目論見書を見てみたのですが、費用については、0.13%に消費税が上乗せされるので実質 0.1404%になるのですが、それ以上にあまりマネー系雑誌とかが取り上げない不都合な真実が一つ。

上場に係る費用、対象指数の商標の使用料について、 ファンドの純資産総額の0.0432%(税抜0.04 %)を上限として、毎計算期末または信託終了のとき、 ファンドから支払うことができます。 ファンドの諸経費、売買委託手数料等について、その 都度もしくは毎計算期末または信託終了のとき、ファ ンドから支払われます。

まぁ、ファンドですからこういうコストは発生しますよ。確かに。でも。。。

また、株式の貸付を行った場合はその都度、信託財産 の収益となる品貸料の2分の1相当額以内が報酬とし てファンドから運用の委託先等に支払われます。

って、これ。ちょっと待って。ETFが貸し株をやった時にはその収益の半分を運用者が取るってこと?もう一ついうならば、貸し株やったらポートフォリオ的にはその分だけキャッシュ比率が上がるからポートフォリオ的には指数への連動率がわずかにとはいえ下がるじゃない。

まぁ、後者については運営費用を捻出する、という観点ではある意味正しいとはいえます。というのも、考えてみたら前述の問題提起の通り、設定時に株のポートフォリオだけを渡されて運用を開始するのですから、関係各社に対して支払うべきキャッシュがどこにも存在しないのです。そうなると、運営上はどこかでポートフォリオの一部を売って現金化する必要があるのです。それを避ける、という意味では貸し株をやって現金収入を得るのはいいでしょう。問題は前者の取り分の問題です。

自分の資産を使っているわけでなく、投資家からの買い戻し依頼に備えて株を保有しなければいけないことがほぼない商品ですから事実上全て貸し株に出したっていいくらいでしょう。しかし、そこから得られる報酬の半分を最大で運用会社が受け取れるって。。。

ちなみに、明確に上限として半分とるぞ、と宣言しているのはiShares だけでなく大和、日興、AM One、三井住友、もでした。野村と三菱は宣言してませんのでどうなのか不明ですが、とはいえ、ここでも横並び。。。

さて、その品貸し料ですが楽天証券さんで 1.1%払うのですから卸には0.8%程度を踏んでみても、手元に残るのは 0.4%。運営費用の分程度は現金化できそうですね。言い換えれば費用支払いのためだけに株式ポートフォリオの一部を売却して現金化する必要がない、ということですね。

他方、もし自分でポートフォリオを構築したら、それを全部貸し株に回せばそれだけ品貸し料を得られますから丸々儲かりそうですね。(もちろん、先物では貸し株はできません。)

間接費用とはいえコスト比較をまとめるならば

そう考えると、もし5.3億ほど日経225に連動する資産に投資するならば、ETFよりも現物で持った方が入口と出口のコストが掛かるように見えますが、期間中はコストフリーで運用できるし、ETFで発生しえる対象資産との連動率の不一致という市場リスクがない分だけ、より純粋な指数投資が出来るといえます(ただし、終値で全ポジションが売却できれば、という流動性リスクの問題は当然残りますけどね)。

さらに言えば、先物ならばより投資元本の持ち出しも小さく、費用も抑えてできますから、実際、デイトレーダーたちが取引量とレバレッジを求めて先物に主戦場を移している、と言われてもこれを見ると納得してしまいます。

もちろん、普通に5.3億程度(!)の投資を個人でするはずはなく、だからこその、ETFの特徴の一つである指数の小口化、と考えるならば小口化する分だけのコスト負担をファンドの裏側で間接的にしているけど、そもそもETFで発生しえる対象資産との連動率の不一致という市場リスクがあるからこそ、前述に話が戻るものの、ファンドとしての費用負担自体を無視できえる、とも言えるのです。

そう考えるとETFの提供会社って運用に責任は負わないし(指数設定だけですからね)、ファンドから徴収できる費用は投資家サイドの運用結果に影響しないからプレッシャーはないし、である意味お得、なのかもしれません。あーあ、そういうビジネスを立ち上げればよかった。。。

唯一、ファンドとしてのETFの管理報酬を気にするべき関係者:指定参加者

ここでもう一つの事実に目を向ける必要があります。

ETFの持分の発行メカニズムを考えると、もし万が一発行持分数が多すぎるということならば、マーケットメイカーである指定参加者が、自分の保有するETFを発行体である信託に返して、その裏付けである有価証券、例えば日経225ならばその株式バスケットを受け取ることで、ETFの世の中に出回っている発行数を調整することが可能になるのです。

ということは、ETFの持分を唯一ファンドというかETFである投資信託に償還請求できるのが指定参加者なのです。ということは、この人たちは通常のファンドの投資家と同じ経済性を負っていることになります。言い換えると、ETFの保有する資産の時価評価額を引き出すことになりますし、この指定参加者には、ETFの持分の評価として、取引市場での時価とETFの純資産額の二つを参照できる立場にある、ということでもあるのです。

とすると、実はマーケットメイカーをする指定参加者が指数とETFの実勢価格との間の裁定取引を行う機会を持っていることがわかります。どう言うことか、といえば

  1. もしETFが参照指数より安値で取引されている(ディスカウントの)時、マーケットメイクということでそのETFを買い漁っては発行体に償還依頼をすれば時価を構成している証券バスケットを手に入れて売却すれば利益が出る。
  2. もしETFが参照資産より高値で取引されている(プレミアムの)時、証券バスケットを時価で買い集めてETFに譲渡することでETFの持分を手に入れ、それをETFの時価で売ればプレミアム分だけ儲かる。

のです。まぁ、マーケットメイカーをするということは価格のリスクを吸収して流動性を供給する仕事である以上、価格リスクのヘッジが出来なければ困りますので、その意味での出口としてETFの持分の増加/償還ができるようになっている、と言われれば、ああそうか、と納得しそうですよね。

となると、リスク管理上、ETFの純資産額が出来るだけ保有資産である参照指数を構成する証券ポートフォリオに近づいてほしいですし、そのためにはファンドの管理報酬が出来るだけ低いことが好ましいのです。

ですが、思い出してください。

ETFはその費用を捻出するために貸し株をして、その貸し株料の半分を運用者が持っていくものの残りがファンドにあるのでそれを管理報酬として充当している、ということを。とすると、少なくとも前述のケーススタディである日経225ETFについては貸し株で得られる(運用会社への報酬支払い後の)現金で管理報酬を賄うため、純資産額は株式ポートフォリオの評価額を下回ることがないのです(貸し株料が下がったら話は変わりますが。。。)。

としたら、指定参加者は管理報酬の影響を気にせず安心してETFの持分が手元に増えたら株式を引っ張り出す選択肢を取ることが出来るのです。

ETFの流動性問題 – マーケットメイカーが頑張ればいいだけなの?

さて、ETFの世界では、どうも参加者がリテール投資家を含めてだいぶ増えたそうで、投資家が増えるとどうしても投資したいときに出来ないのはおかしい、的な論調が出てきて(これもおかしな話ですよね。アセットオーナーだから、自らが投資したいときに投資できて、投資を終了したいときに適正な価格と言われるもので出られなければいけない、という主張な訳ですが、市場参加者はみんな等しく価格リスクや今回問題になる流動性リスクなどを加味した上で自己の裁量にて投資することで利益追及をすることが基本にあるわけですから、例えばリーマンショックの時のように上場株式ですら取引が成立しないから流動性が枯渇した、という状況にあってですら、契約書にあるから(実際、契約書にはそういう突発的事態等の場合に備えてNAVの算出停止や投資持分の売買停止などの流動性の停止で投資家間の公平性を担保するのが通常ですので、契約書に既にあるのですが。。)通常通りに資金化できないのはおかしい、と無茶をいうことはできない、はずなのです。)、まぁ、とても日本的になんとかします、という話が、とあるETFの関係者が一同に会したフォーラムで議論されたそうだとか。

流動性ねぇ。。。前述の逆日歩の話、あれも流動性の枯渇に近い状態の結果、なのですが、その理由はそもそもの発行数が少なかったから、でした。ということで、では発行数を増やすべくマーケットメイカーである指定参加者が証券バスケットを闇雲にETFの受託者に突っ込んで持分を発行させたとしても、実際に指定参加者に割り当てられたETFの持分を買う人がいないとずっと指定参加者が市場リスクを孕んだまま保有し続けることになります。ですので、ETFの市場に出回る量は通常の(言い換えると突発的な需要の増加などは考慮しない)需要と供給に見合う程度になるのです。

例えば、日経225のETFの場合、ETFの市場時価総額は7本で10.8兆円ですが、日経225の採用銘柄合計の市場時価総額は352.9兆円(2017/8/15現在)ですので、いくらETFの人気が出てきたからといっても、まだ市場の3%程度でしかない、のです。(更にいえば、もし日銀のETF購入オペの対象に日経225 ETFが入っているので、実際に市場で流動しているETFはそれ以下、ということです。)そして、特に市場時価総額の下の方は価格変動について原資産の変動との乖離が大きい、のは同じ日経225連動ETFとはいえ、売買の成立数が比較的少ないから、なのです。こればかりはマーケットメイカーでなんとかなる話ではないのは直感的に理解できるところでしょう。言い換えれば、マーケットメイカーが、売ったり買ったりする相手がそもそもいないから成立しない、のですから、もはやマーケットメイカーの努力の外、なのです。

とすると、上場株でも大型株ならば流動性が高いのでデイトレに向いているけど、中小型株だと市場での取引数が少ないこともあり、長期保有でのキャピタルゲイン狙い、というストーリーがETFでも当てはまりそうですね。

では、マーケットメイカーでなんとかならない問題ならばどうしたらいいか。ETFへの市場参加者が増える、しかなさそうです。参加者が増えれば増えるほど取引件数が増えるわけですので、流動性が増えていく、のです。とはいえ、2008年の信用危機の時には参加者が売りにのみ集まって取引件数が積み上がらなかった、のですから、買い一辺倒、売り一辺倒ではなく、常に投機的な目的であれ、ショートする人をも含めてバランスよく市場参加者がい続けることが最良なのかもしれません。

その意味ではヘッジファンドなどに代表される売りから入る人、というのは株をもち続けて株主として会社と対話して価値を創造するという最近のスチュワードシップ・コードから見ると真逆の社会悪くらいの扱いになってい(て、その結果として、GPIFとか、東京都のEmerging Manager Program あたりでも絶対に取り上げない戦略とされてい)ますが、安定した売り手がいることが市場流動性という観点からは不可欠、な訳ですから、そんなに目の敵にする必要もないとおものですけどね。個人的には。

で、ETF投資ってアクティブ!ってまじか?

やっと書きたい最後のネタにたどり着きました。
前述のフォーラムで、ETFの提供者の人たちが盛んに言っていたそうです。
「ETFのポートフォリオの動的な組替えをしていくことでベータ以上のリターンを創造できる。だからETFはもはやパッシブ運用ではなくアクティブなんだ」とかなんとかかんとか。

それを聞いた時、正直言っている意味がわかりませんでした(ああ、今時の表現だ)。まぁ、言わんとしていることはこうなのでしょう。ポートフォリオの中のETFバスケットの銘柄を入れ替えて行けば動的にアセットアロケーションを変えることが可能になるから、
ETFだけで十分アクティブ運用と同等の結果を出せまっせ、くらいかな、と。

実際、ETFの銘柄入れ替えってやってることってグローバルマクロの中でもトレンドフォローやシグナルベースでのダイナミックアロケーションに代表されるようなロジックベースでのポジション変更を行うマネージドフューチャーズでも、昔のソロスファンドがそうだったような、ディレクショナル戦略でも、どちらでも出来てしまいますよね。いずれにせよ、そこで何がアクティブか、といえばポートフォリオ管理がアクティブであって、ここのETFはその作りはパッシブそのものなのです。

なので、前述の表現って誤った誇張表現でしかないよね、としか思えないのが個人的感想です。

とはいうものの、確かに安価で手頃な取引サイズの商品ですから簡単にETFの銘柄組み替えでアセットアロケーションを変えてポートフォリオの性質をガラリと変えることが可能ですから、そりゃ

世界の富裕層の投資をあなたにも

とか言っちゃうのでしょうね。それごとに証券会社の取り分たる取引コストが発生するんですけどね。。。

一応まとめるか

とはいえ、これだけ安価で普通の人にとって投資可能な取引サイズで世界各国の指数への投資機会を提供したり、現地に直接投資できないものへのアクセスを提供するETFは、確かに便利なツールだと思います。今回その基本的なところは実際の手計算で示せたのはよかったかな、とは思っています。

他方で、ツールが目的化しかねない怖さもあるのは、その投資手法によってはアクティブでもパッシブでも資産運用が可能になる手軽さと、そこを煽りやすいキャッチーな商品性にあるようにも改めて思いました。

ということで、投資は計画的に、かつ自分の投資戦略を守りながら、ですね。

今さらだけど、ヘッジファンドってなんだっけ? – 「オルタナ投資」という言葉が氾濫する世の中で改めて

あなたにとっての「オルタナ投資」とは?

数年前のこと、オルタナ投資、という言葉を使う時に皆が必ずしもヘッジファンドを意図せずに使っている、ということに気付きました。その時は、とある米系の銀行さんでカストディビジネスを主に行いながらファンドアドミを提供する、という会社さんなのですが、カストディビジネスを主に行うとなると、資産を保有してなんぼ、のビジネスモデルである以上、ヘッジファンドのような資産が事実上プライムブローカーが保有する戦略にお付き合いすることはほぼない、と個人的に思っていました。

そんな彼らから「最近、オルタナ投資の世界にも手を広げているのですよ」と聞いたときに、これはアドミ勝負に転換したのか?と思いつつも、このパートナー制で極めてコンサバで堅い社風の会社が薄利多売に来るとは思えなかったので半信半疑に聞いてみると、なんと彼らのいう「オルタナ投資」というものは、「不動産ファンド」や「バンクローン」といった、従来ファンドの投資対象という意味ではメジャーではなかったことから取り扱われなかった資産クラスのカストディを行う、という意味だったのです。ある意味納得する一方で、「オルタナティブ」の言葉の懐の深さというか、なんでも当てはめることが出来ちゃういい加減さ、というのを感じつつ、今後「オルタナ投資」という言葉を使う時には気を付けねば、と思った瞬間でもあったのです。

で、そういえばヘッジファンドって

what is your judge?昔は投資信託(ミューチュアル・ファンド)ではないもの全般をヘッジファンドと呼んでいたこともあって、オルタナ投資といえばヘッジファンドを意図するものと解されていた時期もあったなぁ、とふと思い出しました。というのも、私がヘッジファンドに片足を突っ込み始めた頃に読んだ解説書にこうあったのです。

ヘッジファンドは、ミューチュアル・ファンドの抱える以下の当局の規制を回避すべく私募ファンドとして設定されたものを意味するのです。

  1. 借り入れ規制
  2. 空売り規制
  3. 報酬体系

どういうことか、というと、日本の投資信託を例に説明するならば、日本で投資信託を設定する際にその運用方針として

  1. 借り入れは解約代金支払い目的及び分配金再投資型投資信託の分配金支払い目的に限られる
  2. 空売りはその建て玉の時価総額が純資産額を上回らないこと
  3. 投資対象の株式については上場していること
  4. 先物などのデリバティブ取引はヘッジ目的に限る

投信協会のレベルで定められており(実際には今の投資制限は集中投資規制やデリバティブ規制、などかなり複雑で高度化されたもののなっています。)、また、報酬体系についても日次取引等高頻度の投資家の出入りが想定されるため、公平な成功報酬体系を導入することができないのです。

そこで、それらの規制や業界の投資制限等から敢えて外れることで、投資信託の範疇である単純な買い持ちだけの投資戦略ではなく、例えば純資産額の3倍から10倍程度の借り入れを行って買い持ちのポジションを純資産額の数倍にしたり空売りのポジションを作ることで市場の下降傾向においてもリターンを出せることを目指せるような自由な投資戦略の設計と、その原動力となるべく成功報酬制を導入できるようにしたのがヘッジファンド、だとされていたのです。今思えば、単純なロングファンド以外であってもただの私募投信でしかないのですが、確かにいわゆるミューチュアル・ファンドと異なる(オルタナティブな)投資手法を取れるようにしている、と言われればその通りですね。というより敢えて取っているわけですから。

しかも、運用者が自分の資金もそのファンドに入れることで投資家と利益を一にする、という発想を持ち込んだのも興味深いものだなぁ、なんて初学者だった私は思ったのですが、これも国内の投資信託の立ち上げの時にスポンサーである投信会社さんがシードマネーを入れて立ち上げるのを考えれば、案外一緒なのかもしれませんね。

じゃあ、ヘッジファンドって一体どんな運用をするの?

確かに、借り入れや空売り、デリバティブを使った運用をする、と言われて、あれもこれもヘッジファンドに見える場合もありますが、例えば、完全なショート・ファンド、いわば全部買い持ちのロングファンドの真逆で絶対に株価が下落するだろうと思われる銘柄を全部売り持ちするファンド、は、どう見てもヘッジファンド、とは言えなさそうですよね。ヘッジのかけらも見えないのですから。また、一時期流行って、また最近また注目されていると言われている130/30(ワンサーティ・サーティ)も、30%の借り入れをして買い持ちのポジションを投資元本の130%にするものの、同時に売り持ちのポジションを投資元本の30%を作ることで相殺後のポジションがちょうど投資元本になるようにすることで、市場の下落局面では売り持ちのポジションで収益機会をめざしながら、上昇局面では通常のロングファンド以上の収益を確保しよう、という発想のファンド、なども、単純な買い持ちと売り持ちのポジションを掛け合わせただけ、にしか見えませんし実際のところヘッジではないですしね。

じゃあ、そもそもヘッジファンドのヘッジ、という言葉が何を示すのか、改めて見て見ましょう。

ヘッジ (hedge)とは、英語で本来「生垣」とか「垣根」、「防御物」を指し、そこから、保険という意味が出てきたり、動詞として「大きな損失が出ないように手を打つ」こと、という意味合いを持つようになりました。英語で hedgehogと呼ばれるハリネズミは身を守るために全身針だらけ、ですから。

多分、ヘッジファンドを知らなくとも、国内投信に投資したことのある人ならば、例えば米ドル建ての資産に投資するファンドに、「ヘッジあり」コースと「ヘッジなし」コースとが準備されているのに気づいているかもしれません。この時のヘッジ、とは、外国為替リスクに対するヘッジを意味するのですが、どういうことかといえば、投資家が円建てて投資しているけれども、投資対象が米ドル建てなので、仮に投資対象の評価が当初の10,000米ドルから増えも減りもしなくても、円/米ドル通貨レートが1米ドルあたり100円から1米ドルあたり90円や110円に変動するだけでこのファンドの評価額が変わってしまいます。そこで、通貨レートの変動を「ヘッジ」することで、円建ての投資という観点で米ドルの日本円に対する価格変動による投資資産価値の変動が抑えられるのが好ましいと思う人がいるのでファンドがヘッジするヘッジありコースを作ると投資します、という人が出てくるのです。

ちなみに、この「為替ヘッジ」、どうやるかというと、仮に当初の投資金額が100万円、為替レートが1米ドルあたり100円とします。この時に当初の投資金額全額を1ドルあたり100円で交換して10,000米ドルを手に入れて投資するのですが、その為替を取る時に同時に、1ヶ月先に予め1米ドルあたり101円の先渡し取引をして、一ヶ月後の為替レートの変動を先に固定してしまう、のです。この場合、この為替レートで先渡し契約が出来たとしたら、投資元本の10,000米ドルがそのままの10,000米ドルで帰ってきた一ヶ月後まで残ると仮定して、この1ヶ月で、

10,000米ドル x  101 円/ドル = 101万円

に増えていることになります。ちなみに、ファンドも一ヶ月で終わることがありませんので、この約束の一ヶ月後に、予め決めていた 101円/ドルで10,000米ドルを円に売り戻したら、その日のレート、例えば100円50銭とすると、で10,000米ドルをまた買いながら、先の一ヶ月後の先渡し取引に入ることになります。そうすると、101万円が一旦手元に戻るものの、 100.50 x 10,000米ドル = 100万5000円を米ドル調達のために支払うことになります。結果として、実際には二つの取引を相殺することで米ドルの移動はなし、円の移動は、101万円 – 100万5000円 = 5,000円の受け取り、という追加の収益が発生することになりますが、もしその日のレートが101.50円だったならば、逆に 101万円 – 101万5000円 = 5,000円のマイナス、となり支払い義務を負うことになります。

ここで、いくつか気づくことや、気づいて欲しいことがあったりします。

まず、今ドルを買って、一ヶ月後に先渡しレートで売る、ということをした結果、今回適当なレートをつけたので、1ドルあたり 101 – 100 = 1円の利益がもたらされたのですが、実際の先渡しレートは、この場合ならば、日本円と米ドルのそれぞれの一ヶ月の金利で自動的に決まります。とはいえ、ある意味、この金利の差によってこのような将来の利益(か損失)がこの瞬間にヘッジすることで確定する、のです。これをもし今ヘッジせずに一ヶ月後の為替レートに運を任せることだって当然出来ますが、その瞬間のレートを見るまでは利益(もしくは損失)額が決まりません。その代わり、為替レートがヘッジした 1米ドル101円より大きく上回って例えば102円まで変動すればその利益(1ドルあたり2円)を享受することになりますし、当然のことながら、100円を割り込んでしまうと損失を計上することになります。

ここでお気づきだと思いますが、ヘッジファンド、というのは、このようなある一定の状況下に於いてヘッジすることで確定できる利益の機会を見つけて投資するファンド、なのです。その意味では、将来大化け(上の例で言えば、一ヶ月後に為替レートが100円から120円に極端な円安に走ったり)する可能性を捨てて確実にあげられる1ドルあたり1円の利益を積み上げていく、という、見た目や話と大きく違ったかなり地道な投資戦略なのです。

もう一つは、今の前提はヘッジをかけたい資産、要は10,000米ドル、が一ヶ月後にそのまま10,000米ドルのまま、というちょっと特殊な状況にある、ということです。どういうことか、というと、この10,000米ドルは債券なり株なり、何かしらの投資資産に化けているでしょうから、一ヶ月後にいくらになっているのかはわからない、のです。例えば10,000米ドル元本の米国債だったとすれば、1ヶ月の米ドル金利分程度は増えているでしょうし、株だったらそれこそ大化けしているか大負けしているか(笑)。とすると、一ヶ月後に10,000米ドルの売りの先渡し契約はその時の投資資産の評価額によって、もし資産が増えて11,000米ドルになっていればヘッジが資産に対して過小であったと言えるし、逆に9,000米ドルになっていたら、ヘッジが資産に対して過大であった、と言えます。

ヘッジが過小であったり過大であった場合の影響を見るならば、(先ほどの先渡しレート101円、実勢レートが100.50円の仮定)

  1. 投資資産が10,000米ドルだった場合、実勢レートでの評価が 10,000 x 100.50 = 1,005,000円に、ヘッジポジションの(101-100.50) x 10,000 = 5,000円の計 1,010,000円 (= 10,000 x 101.00)
  2. 投資資産が9,000米ドルだった場合、実勢レートでの評価が 9,000 x 100.50 = 904,500円に、ヘッジポジションの(101-100.50) x 10,000 = 5,000円の計 909,500円 (=9,000 x 101.056)
  3. 投資資産が11,000米ドルだった場合、実勢レートでの評価が 11,000 x 100.50 = 1,105,500円に、ヘッジポジションの(101-100.50) x 10,000 = 5,000円の計 1,110,500円 (=11,000 x 100.9545)

という仕上がりになります。これを、「ヘッジしていると言っても完璧にヘッジすることは難しい」と解釈するもよし、「ならば期間を短くして為替の変動要因の影響を小さくすればいいんだ」と解釈するもよし、様々ですが、一つここで言いたいことは、「ヘッジ」というのはヘッジした瞬間の前提に対してのみ機能している、ということなのです。
なぜこの話をしているのかって?それが今後の話の展開の鍵を握るから、ですよ(笑)

ヘッジファンドは何をヘッジしまくって稼ごうとするの?

さて、ヘッジの基礎を見たところで、では、実際にヘッジファンドがどこに収益の源泉を見出そうとしているのか、いわゆる投資戦略、というのを見ていこうかと思いますが、ご存知の通り、著者はファンドの組成や運営が得意であって、投資戦略の評価を云々することをある意味放棄した仕事の仕方をしている、のはよく知られたこと(まじかぁ。。。)、ですので、ここから先は結構ざっくりとマユツバ的なことになって、結果、これを読んで実践しても保証の限りではない、というかいつも通りの自己責任で、ということを予め申し上げておきます。

と、いつものちょっとした責任逃れの一文を書いたところで、先ほどの為替ヘッジの本質をまず考えて見たいと思います。この為替ヘッジによる収益は、確かに二つの通貨の金利差から生じるものですが、他方で、もう一つポイントになるのは時間軸における今とある一定の将来の二点というズレがある、のです。実際、収益性を高めるために、金利差を広げる通貨ペアを見つけることも一つで、ミセスワタナベたちが日本円と高金利通貨だったオーストラリアドルのペアでキャリートレードをすることで、日々値洗いと決済をすることから1日分の金利差相当のキャッシュを得て色々とお買い物に興じ、それが高じて取引元本も(夫には内緒で)さらに増えて日々のキャッシュをより多く得ようとして、最後に市場がバーストした時に(以下略)たのがいい例でしょう。でも、もう一つの方法として時間を長くとる、というのも手法としては取り得るものです。まぁ、通常長い時間での案件をやるか、といえば、その間に起こるその他の変動要因を踏まえれば取りづらい、というのが実際ですが。。。

とはいえ、なんとなく、ヘッジでの収益源というのが見えてきましたね。何か二つのズレから生じる価格差を使えばいい(しかも、その差が大きければ大きいほど好ましい)、のです。人によって、また事象によっては、これをヘッジと言わずに時間的な収斂性のある価格差に対するアービトラージ(裁定取引)ということもありますが、ある意味二つの評価の間に生じた価格差が収益源、だとしたら、確かに確実に刈り取れる収益に思えてきます。

  • 例えば、複数の株式市場に上場している株式の価格。異なる通貨での評価であり、また異なる国での企業評価でもあることから一物二価になるチャンスがありそうです。
  • 例えば、為替ヘッジの延長で、現物市場と先物市場。分かりやすくいうならば日経225のETFと最大三ヶ月先の受け渡しの日経225先物の価格差を利用する、というもの。もしくは、一時期マネー雑誌で取り上げられていた、株主優待狙いの「個別株の現物買い+CFDでの売りポジション」の価格差を狙う、なんていうのもありです。

まぁ、パッと思いついたもの、ですのですでに多くの人たちが手がけているはずで、裁定機会というのは参加者が増えれば増えるほど減るもの、とされていますので、このような機会を継続的に見出そうとするのは大変なことです。となると、他の人が手を出さないような裁定機会を探していくことになるのです。

ペアトレード – ヘッジファンドの代表的な取引方法の説明書

さてここまでは、一つの資産の複数の評価方法による価格のズレ、という観点で見てきていた、というのに気づいて頂いていたでしょうか。当然、わかりやすい一方でそれならばより多くの人の目も引きやすいわけですので結果的にそのような価格差の発生するチャンスが取り合いになるし価格差も小さくなりますので、別の視線 – 二つの資産の価格差 – で探す必要があるのですが、ヘッジファンドの取引の説明というと、このペアトレードがよく使われるので、話の流れ的にもちょうどいいのでご紹介して見ましょう。

一つの資産では裁定取引の機会の限度が出てきそうでした。では、複数の投資対象の間にある関係性で考えたらどうなるか、というのがペアトレードです。例えば、ある一つの業界を考えると景気動向などの影響の受け方は基本的には同じですので株価の推移も多かれ少なかれ似たようなものになりそうです。でも、その業界内でも伸び盛りの会社(=評価が相対的に低い会社)と、伸び悩んでいる会社(=評価が相対的に高い会社)とがあるので、その二つの株価の関係が時間が経つと適正になる、と考えて、評価の低い会社を買い、高い会社を売る、という取引を行うのがペアトレード、と呼ばれています。10年前に盛んに使われた実例が、

JALを売って ANA を買う

でした。10年前は航空会社業界は伸びていましたが、実際に JALは一旦破綻しましたしね。今だとどうなんでしょう。

それはともかく、一つの業界(セクター)の中で見ると適正より高値で取引されているものはセクター全体で短期間で上昇したとしてもその中での相対的に高値に見られ、過小評価されているものも同じ上昇の中にあっても相対的に過小評価されるという意味では変わらないでしょう。ただ、これらの過大評価、過小評価は時間とともに(市場における情報の完全性などのおかげで)解消されていく、ということで、このペアトレードはセクターの動きに対して収益性はあまり関係ない、ように思えてきます。このようなセクターの動きに対して収益性が連動しない取引手法(戦略)を、セクター・ニュートラルと呼ぶこともあります。

さて、考えて見ると、世の中はそんなセクターが集まって株式市場が出来上がっていると見ることが出来るので、色々なセクター・ニュートラルな戦略をまとめると株式市場全体の動きに収益性が連動しない投資手法ができそうな気がしますよね。こうなると、株式市場の動きが下落しても収益を上げることが出来るわけですのでロングオンリー戦略からすれば夢のような(?)手法とも言えます。これをマーケット・ニュートラルと呼ぶことになります。

でも、株式市場全体の動き、って何でしょう。日本の株式市場で見るならば、本源的には東証一部・二部、JASDAQなどなど、株式の取引の出来る市場の発行株全部に、それぞれの株価を掛け合わせたものの合計が日本の株式市場全体、と見たら良いような気がします。でも、一般的に見られているのは東証一部の時価総額を1968年1月4日のそれを100として指数化したもの、TOPIX であったり、これまた東証一部で主に取引されている225銘柄を選んでその株価を合計して銘柄数である225で割った単純なもの(実際には、1960年4月を100とした指数なので、その後の株式分割/併合の影響を考慮するため今は24.917になっているそうです。)、日経225だったりしますが、これらの指数が市場全体の動きとして捉えて考えることになります。このような市場の平均的な動き方をベータ(β)と呼びます。

多分、世界中で多くの人が訳が分からなくなるというギリシャ文字の示す世界

さて、ベータの話が出たので(今さら)脱線ついでに、ベータに始まるギリシャ文字の世界の話でも。株を買って稼ごう、という話になると、この市場平均に勝てるかどうか、というのが一つの目安(ベンチマーク)になるのですが、実際に買って(ヘッジ戦略ならば更に売って)出来上がったそれぞれの株のポジションは多かれ少なかれこのベータの動きに連動する値動きをするはずです。というのも、この株単体の動きですら指数の動きに影響するのですから当然に指数との相関性(β値)を見ることが出来ます。とすると、個別株の値動きは、市場全体に引きずられて動く部分、すなわちβ連動部分と、その個別株固有の値動きの部分とに分解することが可能だと考えて、市場の動きに関係しない固有の値動きだけを切り出せば絶対収益になる!と結論づけることが出来たりします。この、個別株固有の値動き部分を、β連動部分と対比してアルファ(α)と呼ぶことがあり、ヘッジファンドは如何にβヘッジをすることでこのアルファを抜き出すことで絶対収益を生み出すか、という話にだんだん変わってくることがわかるかと思います。

(余談しかないこのブログでよく使う接続語ですが)ちなみに、このアルファ、公募投信で特に大和証券さんあたりが取り扱っている商品にαとつくことが多かったのですが、この時のアルファは上述の個別株のアルファやそれから派生した、運用技術の付加価値としてのアルファ(それに対してベータは、運用者の誰もが一般的に市場の動きに伴って生み出すパフォーマンス、を指すことがあります)ではなく、月次分配金を払うために通貨先物やオプションの売りでプレミアムを得よう、などの追加的な運用があることを示すアルファ、のようです。

まぁ、これは自分でそんな商品に加担していうのもなんですが、前述に挙げた為替ヘッジはヘッジと言いつつもポジション/リスク管理の観点で言えば、投資元本相当の為替の先物のポジションを本来の投資に上乗せしているので、事実上投資元本の2倍(これに投資対象の株や株式指数のオプションを入れれば3倍)のポジションをファンドが抱えている訳でして、それを為替のヘッジに使えば値動きは抑えられる効果を得るものが、経済効果の方向を変えるべく通貨の組み合わせを選んでは高金利通貨との金利差を利用したりオプションを売ることでキャッシュをひねり出す道具(α)に化けていた、という訳です。当然、現金化した分だけ将来の(かつ本源的な投資目的とは異なる)リスクは残るので、今や二階建て/三階建て/四階建て商品で月次分配を目指す、というのが過度の月次分配競争に対する当局からの監視に置かれて今では姿をひそめたのですが。。。

さて、本来の(いや、まだ脱線状態か。。。)アルファベータの話に戻すとして、では、このアルファやベータ、ベータ値などなどは正確に測れ、結果として本当にマーケット・ニュートラルでアルファだけ抜き出せるのか、というところにもし持論で述べるならば、まぁ理論的に無理でしょ?とか思ってます。というのも、市場が終わった状態でその日までの値動きと指数との動きの相関性からベータ値が計算され、アルファに相当する部分がこれだけだったんだ、という統計上の計算までは可能です。ですが、それが翌朝の市場が始まった後も引き続き有効な情報なのか、と言えば、いろいろな意味で無理があるのは、それが過去の事実に基づく統計上の情報に過ぎず未来の株価の構成要素の一つになりえても突然の市場介入(REITなんていい例ですよね。)や(未だにこれはアウトだと思っているのですが)テレビで占い師が「あんたの会社の株、上がるわよ」と流言を流布したのにみんなが乗っちゃう、的な意図的かどうかは別にした市場操作、(会計監査の結果からポケモンGOの影響まで)隠れていた事実が明らかになったことで投資家の動向が左右される、などなど、それ以外の要素も当然影響するから、と考えています。とすると、マーケット・ニュートラルって目指して作るけど実際には出来ないんじゃないの?というのが個人的な意見だったりします。ほら、言ったでしょ?ヘッジはヘッジした瞬間の前提に基づいて成立するにすぎない、って。

じゃあ、ベータとかアルファとか、意味はないのか?というとそんなことはないと思っています。市場に連動して投資しなければいけない投資家、というのがいらっしゃいます。例えば私たちの大事な年金を運用している人たちですね。彼らにとっては将来の債務、すなわち私たちへの将来の年金支払い、というのはその支払い時点までのインフレ等が影響してその額が決まるので、インフレ等に動きが近いとされる市場の動き(まぁ、これも日本の株価とインフレ率の長期にわたる相関関係を見ると、どうなのよ、という話もありますけど、じゃあ、代わりに何を投資の基本軸に考えねばならないか、というと予定利率という数値目標は存在するものの、結局市場のパフォーマンスの何かを選ぶほかない、という現実的な選択肢に落ち着いている、ということでもあるようですが。。。)にパフォーマンスを作っていくことの方がALMの都合上よい(というか、仮に絶対収益型の投資でガンガン稼いでも、年金を払い終わって最後に解散するときに余らせても困る、という方が分かりやすいですかね。。。)のでベータ投資が基本になっていく(けどベータ投資もコスト負けするからちょっとは絶対収益系に投資して費用分は稼がないとね、的なことも考えてほしいし、やっているところもあるようです)、のは至極まっとうに思えるのです。他方で、当然市場連動してみんなで大崩れ、も困るので市場に連動しない、アルファ追求型の投資もだからこそ存在する、と思うのですよ。

とはいえ、今時はスマートベータなんてものがあって、幅を利かせてますが、正直いえば、そもそものベータのロジックから考えたらば、スマートベータって、単にベータの本源的単純合算に経済的根拠っぽい色付けをしているだけだから、スマートかもしれないけどベータじゃない、意図的にベータに特徴のあるトラッキングエラーを大幅に起こさせている、もしくはプライベートインデックスの一種、なんじゃないの、とは思ってますが、そんなこと言うと指数ベンダーさんとETF屋さんのお友達から刺されそうなのでこれくらいにします。

アルファベータだけじゃない株式戦略

さて、これだけギリシャ文字の話をしていると、ヘッジファンドっていうのはある意味煎じ詰めるとアクティブ運用のファンドのうちベータヘッジしているものだけなのか、と思われそうなので、もう少し、そうでないものも紹介しておくべきでしょう。

前述で株価の構成要因についてちらっと書いたこと、覚えてますか。

突然の市場介入(REITなんていい例ですよね。)や(未だにこれはアウトだと思っているのですが)テレビで占い師が「あんたの会社の株、上がるわよ」と流言を流布したのにみんなが乗っちゃう、的な意図的かどうかは別にした市場操作、(会計監査の結果からポケモンGOの影響まで)隠れていた事実が明らかになったことで投資家の動向が左右される

これって、理由はさておき、人為的な価格の変動があった状態を指してますよね。よくこの変動を取引量が増えているところから見つけて「ウーェイ」しちゃうのがある意味デイトレさんたちが稼ぐ方法、と言われるのですが、見方を変えると、これってある意味本来の価格とのかい離が発生している状態だから、祭りが終われば元の値段に戻るんじゃない?と考えるのも一つです。まさに本来の価格に収れんする裁定取引(アービトラージ)の考え方ですよね。また、これはさもすればインサイダーとも言われかねないのですが、ある程度の企業調査をしていたりすると近々大化けするような商品やサービスの発表が予想される、となると株価が上がることが容易に想像できる、だから先に仕込んじゃおう、という投資手法もありですよね。イベントで大きく値動きするのを予想して先んじて仕込んで待つ、イベントドリブン、と呼ばれています。

まぁ、いずれも価格のゆがみが発生している、もしくは発生するという仮説に基づく投資手法で、その仮説に基づけばリスクフリーでの収益を目指す、というものです。ということは、当然仮説が正しければいいのですが、仮説が外れていたら。。。というのは前述のセクター/マーケット・ニュートラルとも同じ、というのはヘッジとはヘッジした瞬間の前提にのみ機能する、のですから。。。

で、ヘッジファンドって株しかできないの?いえいえ。。。

さて、まだまだ話が長くなりそうなサブタイトルですね。分ければいいのに、と言われそうですが、まぁ、一気に書いちゃいましょうよ、一気に読んじゃいましょうよ。その前に、株での投資手法、一般的に行けそうなものを書いてみましたが、「俺の独創的で美しい手法が取り扱われてないじゃないか!」というお叱りが聞こえそうにも。。。いや、そんな独創的な手法ならばこんなところで公開されるのはもったいないのでこっそり教えてください。

で、ヘッジ投資手法、株以外はないのか、と言えば当然あります。今時の人たちだと名前を聞いたことのない人も多いような気がする、90年代のヘッジファンドで有名だったLTCM がやっていた金利曲線の歪みに裁定取引の機会を見出す方法とか(そういえば、90年の終わりころにシティにいたころにワラント商品の投資家さん向けのリーフレットの中で、「天王洲図書館分室より」なんて金融よもやま話を好き放題書かせていただいていた時にLTCM の投資手法と破綻した経緯を取り上げたのをふと思い出しました。あの記事、もう残ってませんでしたが、あれも今のブログの原型みたいなものですね。懐かしいなぁ。。。)ありますが、個人的に投資商品のアンバンドリング化について最近えらーい長官様がいろいろおっしゃっていただいている一方で、いや、個人がやろうとしたら現実的に難しくね?と思うところもあるので、そんな投資商品のアンバンドリング化を交えた話でも(って、これだけでも充分一つのネタになるのですが。。。)

CBアーブ – 転換社債を分解する

CB – 転換社債ってご存知ですよね。FPジャーナルでもこの間の号で取り上げられていたので、思わずあれこれ考えたのですが、どういうものかというと、社債、なのですが、ある一定の条件で社債の元本を株に交換できる権利がある社債なのですが、この一定の条件というのが、株価幾らで何株を償還時の元本額に替えて交付する、という条件ですので、この定められた株価(例えば一株1,000円)を市場で上回って(例えば一株1,200円)いれば、この転換社債を持っていればその株を1,000円で調達して1,200円で売却可能ですから儲かりますし、市場価格が900円と条件を下回っていると、これは交換しないで元本を現金で受け取って市場で調達した方が有利だ、ということがわかります。

このような経済効果のデリバティブ、ありますよね。個別株のストライクプライスが1株1,000円のコールオプションですね。ということは、このCBというのは債券にこのコールオプションが組み合わさった商品だということがわかります。

さて、コールオプションを持っている状態、ですので、債券を取得するときに、このコールオプションを買っている状態になっていますので、コープオプションのプレミアムを支払っていることになります。でも、債券に埋め込まれているので払っている実感がありません。でも、ちゃんとよく出来たもので、CBのクーポンレートは同じ会社が同じタイミングで同じ期間で発行する債券よりも通常は低くなります。というのも、経済効果的には金利を低くする代わりにその等価のプレミアムが必要とするコールオプションを債券保有者に対して付与している、と考えるから、なのです。

とすると、CBを保有する、ということは金利が通常より低いとはいえこの債券の発行体の社債を保有しながらその会社の株のコールオプションを保有していることと同じになります。会社の株のコールオプションですが、個別株オプションの市場があれば同じストライクプライスと権利行使日(とヨーロピアン: 行使日のみ行使可能、かアメリカン:行使日までいつでも行使可能、かの違い)が一致すればそのプレミアムがわかりますし、仮に市場の取引がなくとも、株式オプションですので計算は可能といえば可能です。そこで、CBのうち、その価格を低金利社債の部分の価値(ボンドフロアーとも呼ばれています。というのも、CBにとって、株が無価値になってオプションの価値が0になったとしてもこの社債の価値が残ってキャッシュフローを生み出すから、です。)とオプション部分に分けることが出来て、このオプションのプレミアムに相当するものが市場で取引されているならば市場でオプションを売って低く抑えられているクーポンの現在価値に置き換えることで、同じ会社の社債と比較することが可能になります。さらに同じような国債があればショートポジションを作ることでその会社のクレジットリスクを切り出したことになりますので、これとクレジットデフォルトスワップとの間での裁定取引機会が作れる、というものです(と思います、保証しませんが)。

ここでわかることは、CBの構造上の裁定取引をするには、多分にセカンダリーマーケットで債券を仕込むよりプライマリー市場、当初発行の時の引き受けの際のプライシングの隙間を突いて償還まで買い持ちする方がポジションを作るが良さそう、というかセカンダリーで買ってきた時に合わせてあれこれデリバティブを使ったヘッジポジションを組むのが大変です。

でも、それ以上に、このCB戦略に限らず、というか、ヘッジファンドに限らず、ここで強く主張したいのが、複数の資産を組み合わせて作り出した合成ポジションを持っている時に、投資期間完了の途中でポジションを崩すとなるとあれこれ同時にポジションの売却をせねばならないものの、ほぼ同時に売却することが出来ないことから当初意図してヘッジして確保したヘッジ効果による利益が実現化する際に目減りし、場合によっては売却しきれずに損失にすら化ける可能性がある、ということです。ですので、一つの投資商品が複数の商品の組み合わせで出来ていて、かつそれぞれの手数料等が安いからといってその組み合わせを買って商品の合成が仮に出来たとしても(実際、うまく同日、もしくは同タイミングで買って合成するのだって大変なことです)、途中で解約することでお互いの商品の相互作用が崩れるので本当に売却のタイミングがずれて損失に転じるリスクが高まる、というのは、個人でも機関投資家でも複数の商品を同時に取り扱える体制がない限りは理解すべきだと強く言いたいと思っています。

さて、CB戦略については、上記もある一方で、そもそも一銘柄あたりの発行額や発行件数も少なく、そこに隠れている裁定部分がかなり小さいことから、レバレッジをかけながら数多くのCBで裁定取引をしないと儲からないし、こんなものは日次流動性には到底無理な戦略、ということなのです。

その他のヘッジファンド戦略 – バナナCTAはおやつヘッジファンドに入りますか?

ここまで、まぁヘッジファンドといえば金融商品を使った取引、と言うことで株や債券が、と言う話をしてきましたが、そんなことをやっていたらSoldieの連載がストップすることに。ちゃんと次の記事をアップできてなかったのが原因なのですが。。。

グローバル・マクロって最近よく聞くけど。。。

さて、株、債券ときたら、通貨戦略。有名なところで、ジョージ・ソロスが率いていたクォンタム・ファンドが、1992年9月に、その当時イギリスが加盟していたヨーロッパ諸国との通貨連動制度(欧州為替相場メカニズム: ERM)と当時の経済政策の不十分さから人為的にポンドが本来よりも高止まりしているとみて、イングランド中央銀行にポンド売りを2日続けて浴びせ続けたところ、イングランド中銀の買い支え資金が尽きたことからその翌日にERMから脱退して変動為替相場制に移行し、ユーロに併合されることなく今度Brexit するので当面も併合はないだろう、と言うのがありますが、これも通貨レートの景気などの環境から本来あるべき水準と政策誘導による環境との間のアービトラージ、と見ることができます。まぁ、クォンタム・ファンドは、通貨だけでなく、株式、債券、先物などでポジションを作っていたことから、どちらかといえばグローバル・マクロ戦略だ、と認知されています。

で、もっとよく聞くCTAって。。。

そして、通貨やグローバル・マクロまで来るとあとは、金や大豆といった商品取引系、いわゆるCTAとかマネージド・フューチャーズじゃないか、と思うのですが、個人的にだいぶお仕事させて頂いた立場で言うのも何ですが、このマネージド・フューチャーズの戦略というのが、一般的にはトレンド・フォローといって、商品市場や株式指数、通貨などの価格の推移(トレンド)を短期(5日間程度)、中期(20営業日/一ヶ月程度)と長期(90日/一四半期)で見て、上昇トレンドならば買いポジションを、下降トレンドならば売りポジションを、それぞれの市場で見ながら、トレンドの方向が変わったらそれに合わせたポジション取りをする、というものですから、どちらかというとヘッジというよりは、上がっているならちょっと後追いで買いで入って、ピークでは売らないけどピークをちょっと過ぎたあたりで売って利益確定する、という感じですので、個人で株を投資している人からすれば、「それってスイングトレードしてんじゃね?」と思われるでしょう。まさにその通りです。いわゆるシステマティックトレードです。でも、それを株銘柄ではなく、商品先物や株式/債券指数、為替など、以前一緒にお仕事させて頂いた世界最大のCTA (ちなみに、CTAは Commodity Trading Advisor: 商品取引顧問業者を意味するので、ファンドの戦略でCTAと呼ぶのが本来的には。。。というのがあるのですが、それでも結構みんな使ってますのでここでもCTAともマネージド・フューチャーズとも呼びます)さんは世界中の120の市場をモニターし、データを集めて分析しているということですから、規模が違います。とはいえ、基本スイングトレードですから、安く買って高く売っているのでヘッジファンドなの?と言われると個人的には違うと思うのですが、先物取引のようなデリバティブを使っているとどうもヘッジファンドの扱いになるようでして。まぁ、昔から儲かるオルタナティブ投資戦略という意味で括られてきているから、かもしれません。

で、よくCTAとグローバルマクロは同じ括りで比較されるのですが、実際のところは、グローバル・マクロ戦略の中に、ある意味人の介在が入らないシステムトレード系としてのマネージド・フューチャーズが入り、それとは別にクォンタム・ファンドがそうであるようにシステム管理するというよりは人の裁量に基づく取引を基本とする投資をする、というスタイルと二つに分かれるのです。

で、戦略をあれこれ見て行ったけど、実際のところ儲かるの?

さて、投資する側からすれば、ヘッジファンドというのは、ある意味日々ヘッジされたポジションを積み上げて収益をロックインし、投資完了時に収益を実現化していくということを繰り返していくのでまず負けないし、その昔は結構稼いでいたという話を聞くので投資家さんもリーマン・ショックで離れた人たちが戻り、さらに多くの新規の投資家、特に機関投資家が増えたとされていて、投資残高はすでにリーマン・ショック直前の頃を上回っています。さらに、業界関係者もビッグ・ビジネスということで集まったようで、AIMA の最近の調査によると、ヘッジファンド業界に関わる人は、運用者からファンドアドミ、弁護士や監査人など含めて世界中で400,000人いるそうな。おかげで、10年前に比べてヘッジファンドのビジネスが、スタートアップの零細企業にその成長とその結果の両方に対して賭けてみる、というようなものから、投資家も運用者もより「企業的」なアプローチでの投資と関係を求められるようになったようにも感じています。

でも、これだけ多くのヘッジファンド戦略をとる人たちとその投資資金が増え、さらに当然ロングオンリーの投資額もこのところの世界的な低金利でリターンを求めて同様に増えたこと、さらには高頻度取引(High Frequent Trading / HFT) の存在のおかげで市場の裁定取引機会が減っていることや中央銀行等による市場介入が増えたことでの半恒常的な人為的市場形成がなされている、といった今まで想定していた市場を前提とした戦略構成が機能しづらくなってきているようで2015年から2016年は多くのマネジャーたちにとって厳しい時期だったのは確かですし、そのおかげで従前にヘッジファンドの代名詞でもあった報酬体系 – two-twenty – がパフォーマンスが出ていないのに高すぎる、という批判にさらされて値下げの提案やファンドの解散を余儀なくされたものも出てきた、のもニュース等で聞こえてきています。

とはいえ、その環境下でも新しいアプローチの投資機会を見つけてファンドを立ち上げる人も、以前より数は減ったものの毎年います(とはいえ、業界的には絶賛募集中ですが)から、まだこのヘッジファンドに勝機があるとみる人もいます。また、ベータ投資への相関性を外す投資をしながら、市場のダウンサイドリスクを回避したいと考える投資家からすればヘッジファンド投資はポートフォリオに入れるべき投資戦略であることは(前述のメカニズムの説明が正しくなされていれば)納得できるところかと思いますし、もっというならば

単体で投資して大儲けする対象ではなくなった

のだけは確か、かもしれません。

ハブ・アンド・スポークス – お金と情報は集まるところに集まって力を産む、だからファンドはオフショアに行く

つい先日のこと。とある著名な中小型のプライベート・エクイティを運営されている方に人のご紹介がてらお話を伺うことが出来ました。プライベート・エクイティの運営戦略も今や単純に未公開株を買って上場したところを売る、という単純なものではなく、VCからの延長でそのまま一気に上場させる手伝いをするものや、破綻しかかっている上場株を再生すべくTBOで買い集めて非上場化して会社を綺麗にして、再上場するようなターンアラウンド、私の以前いた会社の母体がそうだったように、企業の一部門を切り出して企業化していく、などなど、色々な戦略というかシナリオで投資をしているのですが、今回お会いさせていただいた方はその一つの事業承継を主軸に行なっている方でした。

となると比較的小ぶり、と言われそうですが、それでも最終的な投資額の目標が150億、実際にはローンを使ったりするので投資する企業価値の合計は300億以上にはなるのではないかと思います。それでも中小型、と日本では呼ばれ、アメリカのPE業界と比較すると、下手をすれば小型どころかマイクロ、とまで言われかねないサイズ感ですが、この彼にとっての今回のチームで最初となるこのファンドには海外の投資家を含めるものの大多数が国内の機関投資家を占めていた、というのです。

実際、関わりを持たせて頂くようになったこの10年を見ていても、日本の大型株のプライベート・エクイティは海外の投資家と国内の投資家とが程よく混ざり合った投資家の顔ぶれが続いていますが、中小型株となると、いくつかの例外を除くとそのファンドの募集する額に対してほぼちょうどか多いくらいに国内の投資家からの資金が入ってくるので、国内スキームと国内投資家とのお付き合いにとどまるケースになってしまっているそうです。そのいくつかの例外、というのは、最初から海外の投資家と国内の投資家とに投資家を分散させて置きたい、という意識を持って投資家回りをして募集している、という準備もあり、また、やはりそれなりにいいパフォーマンスを過去に出して海外の投資家に認知されている、というのもあるとも見られています。

他方で、海外からの国内に投資する際の税務上の規制(いわゆるShinsei Tax:新生銀行に対する海外の投資家による再生プランの一環での株式再上場の際、血税が使われての再生でもあったのことから課税の難しかった海外投資家に対する譲渡利益への源泉徴収義務の強化が、一般的な海外からの国内企業への過半数株式保有の形での投資にまで適用されると解釈されたこと、が、海外からの国内へのPE投資への阻害要件になっていた、とされています。)や、国内スキーム(国内投資有限責任組合スキーム)での会計処理の特異性(IFRSなどは投資対象の時価評価を求めるのに対して、国内スキームでは原則簿価計上)や報告書等の言語、などが海外投資家を日本から遠ざけていた、と言われた時期が長かったともされています。

とすると、国内の中小型株のプライベート・エクイティは国内の投資資金がぐるぐる国内で回っているだけ、という見方をすることができるのですが、それでも、銀行が今や地元の有力企業の株式を保有することで支援することが難しくなった今、国内の機関投資家の資金をハブのごとく集中化して未公開株への投資を通じて事業育成に役立てている、という意味では、ファンドの役割の一つ、お金を大きく集めてまとまった投資を可能とする、ということを実践している証左になるのかと思います。

ハブ・アンド・スポーク – 物流から金融まで、小さなものを大きくまとめて効率よく移転する構図


さて、今更ですが、ハブ・アンド・スポークってご存知、ですよね。ご存知の方は「ファンドがお金のハブとして果たす役割」まで読み飛ばしていただいても良いかと思いますが、そうでない方のために念のための解説をすると、自転車の車輪をこんな風に思い出していただくとわかるかと思いますが、車輪の中心の車軸受けをハブ、そこに向かって車輪から伸びている数々の棒をスポークとそれぞれ呼ばれています。

そこで、外側の輪っかを忘れてもらって、たくさんのスポークの両端の関係だけを想像していただきたいのですが、ある意味ハブにスポークの一端が集中している、と見えますよね。このように、ある種の中央集中型の構造をハブ・アンド・スポーク型と呼ばれているのです(数学のトポロジーの授業と計算機科学の授業を受けたことのある人なら、なんだ、スター型じゃないか、といいそうですが、まぁ、グッとこらえてもらって。。。)。

で、このタイヤ一つだけを見るとどこかの国のような中央集権型システムの構造にしか見えてこないのですが、上記の絵のように二つのタイヤを並べて、ハブ同士を繋いだ構造を想像していただいて、これが物流、例えば飛行機のネットワークに当てはめるとどうなるでしょう。地方空港から成田や関西空港に移動し、そこで乗り換えてアジアやアメリカ、ヨーロッパに移動する、という流れとの類似性が見えてきませんでしょうか。

例えば、二つの国があってそれぞれに首都と衛星都市があるとします。

それぞれの都市が、歴史的繋がりや需要から飛行機を思い思いに飛ばすと。。。

ある意味全て直行便ばかりですが、行きたいところに行こうとしてもいけなかったり、航空会社も飛行機の有効的利用も出来ませんからコストがどうしても高くついてしまいます。そこで、このハブ・アンド・スポーク型の航路の設定をすると。。。

と、ハブとなる首都と衛星都市をむすび、また首都同士を結ぶことで、確かに1回から2回の乗り換えが発生するものの、飛行機は使い回しが聞いたり単純な往復だけですので飛行距離の短い中小型飛行機を当て、首都間は旅客人数が多く見込めることから大型機で運行することでより効率化が測れ(移動コストも次第と下がるだろう状況にな)るのです。

ファンドがお金のハブとして果たす役割

ハブ・アンド・スポーク型の流れとしてのファンドの役割を見て行きましょう。
企業は成長のための増資のための投資家やギリギリの日々を生き延びるために運転資金の調達など、色々な財政状況や事情などで資金調達をしたいと考えていますし、投資家もその投資額の大小からリスクの取り方、投資経験や知識、投資機会の情報の有無、などなど様々です。

もし、この資金の出し手と資金需要との間をつなぐ人がいないと、

互いの情報のミスマッチで投資できない、もしくは資金調達できない、という場合があったり、仮に出来たとしても資金需要に見合った投資を受けられなかったり、もしくは投資できてもおもて向きは安心できるように見えて実は倒産しかかっているところだったため回収の見込みが立たなくなった、などの投資できているけれどもミスマッチ状態が続く、という場合も起こり得るのです。

考えて見るとわかりますが、よく企業を立ち上げて少し経つと古い友達が「一枚噛ませろ」と、50万円程度(いや、程度といってはいけないかもしれませんが)の投資をさせろ、という話を持ちかけてくるケースがありますが、拙著の「外資系企業の簡単な作り方(笑)」に書いた通り、50万円って、資本規制を求められる業種でない限り、スタートアップの会社の事実上の最低資本金、なのですよね。となるとスタートアップで自分の意思で始めた会社の経営権の半分を投機目的(持ちかけた側からすれば信用しているから確実に倍にしてくれ、という都合のいい話)に渡すか、といえば、まぁ、Noですよね。仮に50万円ならそれくらいの会社乗っ取りの話になりそうなものですが、とはいえ株主構成を考えての1万円とか少額を言われると。。。預かった方も何も使えないのが実際ですよね。却って50万円の方が設備投資に回せてビジネスに貢献してくれるかもしれません。

では、この話を上場株投資をする側に回って一気に切り替えたとしても似たような問題は起こります。1万円で株式って何が買えるでしょう。2017年5月9日現在で日本国内の上場株だと、35銘柄は1万円で買えるようです(取引手数料は除く)。とはいえ、ざっと見る限り、監査報告書に事業継続に疑義がついたり上場廃止直前の監視ポスト入りしそうだったりと、まぁ、おっかないものがゴロゴロ。それならば、1万円で買えるETFというのが72ほどあるのでそちらを買う方が分散が効いていていいのかもしれません。

50万円ならどうでしょう。3225銘柄になります。それなりの流動性の見込める大型株も56社入ってきますので、いざという時に逃げられる銘柄を仕込める、かもしれませんし、一発逆転を狙いたい小型株も2,901社ありますから、調べに調べ抜けば夢が叶うかもしれません。でも、50万円で分散を効かせたいと思うと、ポートフォリオ理論に基づいて最低数である20銘柄くらい持たないといけませんが、そうなると一銘柄2.5万円。先ほどの1万円ほど狭くはないですが楽天証券さんのスクリーニングの機能の都合上、ざっくり3万円で見ると、3万円で買える株が204社、大型株としてみずほフィナンシャルホールディングが(そしてこれだけ)、中型でも双日、オリコ、あとガンホーが入ってきます。とはいえ、実際、20銘柄を買い揃える取引コストが高くつきそうですね。楽天証券さんを例にとれば、10万円までの取引で139円(消費税込みで150円)、ですから平均2.5万円を20銘柄で 取引コストが3000円になる計算です。50万円に対して0.6%ですか。保有期間中ずっとコストの掛かる投信よりいい、と思われるかもしれませんが、投資するまでの銘柄選定と売却目標額の設定、実際の投資、そして投資後のモニタリングと投資回収(目標額達成でも、損切りルールに基づくものでも)、ということを日々自分でやり続けなければいけないのです。しかも、もともと204社の投資可能銘柄範囲で満足のいく投資対象が20銘柄出てくるのかどうか。平均して10銘柄の内の1つに投資する、というと結構妥協が入ってくることになります。

株の投資ではなく、貸し付けたとしたらどうでしょう。何もなければ、定期的に元利金を支払ってくれるかもしれません。でも、払わなくなった時にどうやって回収すれば良いでしょう。知人が社長をやっている会社への貸付ならば、社長に直々に談判して支払わせる、なんて出来ますが、それだって相手の会社のキャッシュフローが回っていれば、です。事実、大勢に影響のない利息額すらコストだから何とか出来ないか、と、社長業をすると考えてもおかしくないのです(し、実際にそう言われて「おいおい、誰の入れ知恵だ?そんなふざけた事言った会計士と話しようか?」と押し返したこともあります)。となると、実際、貸付は株より回収の優先順位としては高いものの、それだって毎月の回収の手間は大変なのです。(いや、ほんと、金貸し商売は高利貸しになりますよ。じゃないと回収できなかった時の元本棄損のリスクが高すぎますから。。。)

では直接企業(?)に貸し付けるのではなく、同種の性質を持ちつつ譲渡性のある債券を購入する、としたらどうでしょう。また楽天証券さんにお手伝いいただいて、買えそうな債券を、と思ったのですが、1万円で買えるのは個人向けの国債。FPの試験でも取り上げられる商品ですが、他方で金融の世界の教科書で考えると、国債はリスクプレミアムの乗っていない、ある意味その通貨の中では一番リスクフリー、したがってその国では一番安い金利が付与されている、と考える商品です。個人向け国債は金利の下限として 0.05%が定められていますので、一年で最低でも税引き前で1万円の投資額に対して5円の利息がもらえる計算になります(それに対して20.315%の源泉徴収税が掛かりますので実質3円)。となると、もっと高い金利の商品を探したくなるのですが、楽天証券さんではこの時点で社債の取り扱いが0。大抵取り扱いとして上がっても国債と比較して金利が高いことからあっという間に売れてしまう、というのが実際です。仮にあったとしても最低取引単位が銘柄によって幅があるものの、最低でも50万円は下回らないことから、なかなか取引額の都合で取り組みづらい投資対象、と思えてきます。

そう考えると、残念ながら、金融の世界で50万円の投資というのは結構少額の扱いにならざるを得なくなり、むしろそんな50万円を多くの人から集めて束ねて数億、数十億円にして、それを厳選した投資先に振り分け、監視し、回収する、という一連の投資行為を管理する仕組みにコストを払って委ねた方が、自分の通常の仕事ができていいのでは、と考えることになります(無理やり?(笑))。その仕組みが、ファンド、なのです。


絵的にもハブ・アンド・スポークになったでしょ?実際、冒頭にご紹介したプライベート・エクイティ投資がまさにこの図の通りになっているのです(投資家は50万円を出す個人ではなく、数億円単位の投資をする機関投資家ではあるのですが。。。)。

飛行機の世界に国際線があるようにファンドにだって。。。

私たちは日本にいて、(間接的にお金を預けている銀行や生命保険、年金などを通じて、もしくは)自分の意思で直接に日本に拠点のあるファンドに投資をしていることが多いのですが、でも、そうなると投資対象が日本の株や債券、不動産に限定されてしまいそうです。投資の基本が分散、と言われるならば、投資対象となる国や地域、投資資産も分散した方がいいに決まっています。でも、そのような資産に日本からリサーチして投資判断することは難しいのは想像に難くないですね。

「投資信託に米国株投資ファンドやUS REITファンドとか欧州株ファンドとか、ブラジル国債ファンドとかあるじゃない?」

ええ、おっしゃる通りです。でも、そのようなファンドが日本から直接海外の株や債券、REIT(不動産投資信託)などを買っているのでしょうか。答えとしては、そういうファンドも実際にあるので否定はしないけれども、そればかりではない、のです。

日本の投資家に向けたファンドに多いのが、日本の投資家(もっといえばそのファンドの国内での販売会社)のために設定されるファンドですので、その投資資金だけで100億から1000億円単位になるため、単独で投資対象を得意分野とする現地の運用会社のアドバイスを受けながら直接投資を行うことが可能になっていたケースが多かったのです。とはいえ、そのためにはそれぞれのファンドを設定するために投資対象の国と日本との間の租税条約やそれに基づくキャピタルゲイン税(源泉徴収税)の取り扱いを調べ、外国人としての投資規制を理解し、現地の証券取引の実務と日本におけるファンドの実務とのギャップを調べて出来るだけ日本ルールに合わせるような方法論を編み出し、ということを繰り返してきたのです。

とはいえ、これでは複数の国に向けてのファンドの設定となると同じ調査を一から繰り返すことになり、またそれぞれファンドの運用期間中の税制変更の監視や変更の際の対応についての協議・検討を行うことになるので、実際のファンド運営はかなりの手間が生じることになります。なかなか非効率ですよね。

そこで、海外の大手運用会社などが一般に行うこと、として、世界中の投資家が等しく入れるような税制的に中立な場所であるオフショアにファンドを設定して、そこから投資対象の国への投資を行う、という仕組みです。これにより、多くの投資家が経験している自国からオフショアへの投資にかかる税務と実務の負担を投資家が負い、オフショアから投資対象国での投資行為に関する税務や実務の負担をファンドとその運用者が負う、という役割の線引きを置くことで、ファンド設立や運営にかかるコストを集約化することにより下げ、また、一般的な投資ファンドの設立国であるオフショアへの投資ならば一般的な投資家が経験して理解を持っているはずなので、通常の投資と同じく、特段の負担を強いることはないようにしているのです。こうすることで、より多くの投資家からの投資資金を集める素地、すなわちより多くの国で同じ戦略の投資商品を販売するための土台が出来るのです。

前者はより単発の直行便であるチャーター便的な発想(個別の投資家の要望に寄り添った形)で作られていますし、後者はよりハブ・アンド・スポークを使った定期便的な発想(世界中の多くの投資家の要望の最大公約数を満たすような形)になっている、とも言えるでしょう。こういうと、日本発のファンド商品が従来までは特に、リテール向け商品ですら比較的大きなサイズでのファンドの設定が出来たことを武器に日本の商習慣に合致する商品を作れてこれたのがわかるかと思います。

最近見られる傾向は?

ヘッジファンドの全投資額に関する統計によれば、2016年にはリーマンショック直前の2007年の全投資額を上回った、ということが示されていたと記憶していますが、2007年当時と比べて投資家層がより機関投資家や年金、そしてファミリーオフィスのような機関投資家化した富裕層に入れ替わってきていることから、ファンドの運営体制もより企業的であることを求められており、そのためより効率的で多くの実績のあるオフショアでのフラッグシップファンドでの投資資金の一元化と投資家の所在国に向けての入り口となるファンド(フィーダーファンド)の構造を求められるようになってきています。実際に、それが増加していることからケイマン諸島ではマスターファンド規制が2013年から導入されています。その意味で世界的に投資資金がハブの機能を果たすオフショアに一旦流れ込み、投資先となる世界中に、運用者の意思に基づく振る舞いをしながら動いている、という流れは今後も続くのだと思います。

「SWIFT の闇」ってほんと? – お金が国境を超える仕掛けを改めて考える

今どきはスマホでお金が世界中を移動する ように思えますが。。。

ちょっと告知、なのですが、 Soldie という金融を分かりやすく説明するニュース・コラム・サイトに寄稿させて頂くことになりました。といって、私が書けることと言えば、「オフショア」金融の話ですので、そのあたりをあれこれ怪しげに書く予定ではあるのですが、これがなかなかチャレンジングなものでして、まずこのサイトの対象がミドルエイジ男性で、目指すことが金融リテラシーを多くの人に、ということなので、当ブログに来るだろう金融に籍を置いて狙ってググった人か、ニュースでわからない「オフショア」とかいう怪しい単語が出たからググったら(運悪く)来ちゃった人か、と言えばどちらかと言えば後者の、金融知識の比較的浅い人向けです。ということは、

「わかってるよね?どれくらい知ってる?まじかぁ(JK風に)じゃあその辺は省きつつも。。。これはね(かくかくしかじかだらだら続く)」

という、金融の知識と私の性格をある程度知ってるだろうことを前提に、無駄な情報てんこ盛りに文字数無制限で、読む人が「これ、いつ終わるの?」、と変な不安を感じさせるかの如く書いている当ブログの性質と真逆の、2,000文字程度、簡潔に分かりやすい言葉でまとめるようにして(無駄なくというより個性を入れる余裕もなく)説明しなければならない、のです。

となると、本来個人的には書きたいと思うことも書ききれず、個性を発揮することもなので。。。すみません、ここでは個人的欲求を発散してもいいですか(笑)

「SWIFTの闇」とは?

今どきはスマホでお金が世界中を移動する ように思えますが。。。橘玲という作家さんがいて、オフショア投資とかマネロンだとかそういうのをあれこれ勉強して書いている方がいます。私も一時期読んでいた時期もありましたが、自分でそこに書かれたことをやってみたりしているうちに読むこともなくなった、のですが、その彼の本の一つ、たしかお金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめの中で、自分がオフショアのとある口座に送金しようとしたら途中で誰にもお金のありかが分からなくなった、ということをして「SWIFTの闇」と称したのを思い出したのです。曰く、オフショアのプライベートバンクの口座は別のオフショアの銀行の下にぶら下がっていて、さらにそのオフショアの銀行は別のオンショアの銀行にぶら下がり、そのオンショアの銀行がやっと大手銀行にぶら下がるから、入れ子の状態になっているため、送金情報のチェーンがどこかで切れると届かなくなる、というのです。2017年の世界ならばブロックチェーンを使って取引情報の監査をしつつ仲介するものを排除しながら送金すればいいじゃないか、とでも言いそうな話ではありますが、銀行には銀行伝統の方法があるので。。。

しかし、そもそものお金の流れを考えるとこの銀行口座の多段構造と呼ばれるものの理由と、性質を理解することが出来、くだんの送金中の消失問題を解決する方法論も見えてくる(というか、そうやってこの10年以上ファンドの買い付けや償還資金に関連する問題を(信託を含めた)銀行員や証券会社員よりも多く解決してきた、というか、言っちゃなんですが海外送金をちゃんと理解する金融マンは残念ながら多くはなく、お金が届かない、とクレームすれば仕事に足りるほうが多い – 文句ある人、いつでもどーぞ、な)のです。

お金を動かす – 何が必要?

本来、送金業務とは為替、と呼ばれていました。今では外国為替という言葉と、それが円を売って米ドルを買う、という意味に理解されることの方が多いのですが、法律あたりを見てもらうと分かる通り、為替とは本来、「現金を授受する代わりに、手形、小切手、証書のようなものを使って金銭のやり取りをすること、またはそれに使われる手形などの総称」とググると出てきます。その意味において、最近で一番身近に使える為替というと、郵便小為替、でしょうか。

送金の一番の基本 – 為替での決済

この図のように、郵便小為替を郵便局で買って、相手に郵送すると、相手が郵便局に小為替を持ち込むと郵便局が小為替にある金額を渡してくれる、というものです。ある意味、郵便局が小為替の裏付けとなる資金を預かって(郵便局の全国に広がるネットワークによって)どこに持ち込んでも預かった資金を引き渡す約束をしているのが小為替、と理解することが出来ます。

でも、これってPaypal と一緒じゃない?Paypal にお金を預けて、それをメールで送るよ、と相手に連絡したら、相手がPaypal に口座を開けて初めてその送金すると言われた金額を引き出せるようし

いやいや、Amazon ギフトを買ってコードをメールで相手に教えることで事実上個人間の資金決済ができるじゃない?

仰る通り。Paypal や今だと Line Pay などの私人間の送金の仕組みは郵便小為替を置き換えたもの、と見ることが出来ますし、その事業者は送金目的だけのために預かっている、という意味で資金決済法にある資金移動業を行っている、ということが出来ますし、それが整備されるまでは銀行法に基づく銀行業の一つ、として扱われていました。また、プリペイドカードも、郵便小為替と同じような証書として使える訳です(ので、ギフトコードの詐欺も多発するからブロックチェーンで多重譲渡を回避する、みたいな話にも展開しかねない話なのです)から、前払式支払い手段ということでこちらも資金決済法に定められたものになっているのです。

いずれにせよ、送金の時に、あとはこの資金移動業者に事実上資金を預けることになるのを理解して任せられるかどうか、(回収した後にどこまで自分で自由に使える資金になるのか、それともLine スタンプに化ける以外ない、という流動性の低いものになるのか?)を判断すべき、なんていうと金融の人は信用リスクだとか(私は格付け会社が嫌いなので信用しませんが、とはいえ一般的には)格付けがどうだとか、色々とうるさいねぇ、と言われる話に突入するのです。

今ならスマホやオンラインバンキングを使って送金できるじゃない? – 銀行の提供する決済手段

さて、資金決済をみんな揃って為替で済めばいいのですが、そうなるとこの記事もここで終わりとなるので、ある意味書いている私が困るものの、それ以上に為替を物理的に紛失したときのリスクが受け取り側にあるのを嫌うこともあるし、一般的には郵便局もゆうちょ銀行になったことも含めて、銀行を使った送金システムを使うことになります。でも、今や円で送金しようとすると、平日の午前9時から午後3時までなら瞬時に送金できちゃうし、同じ銀行内なら24時間いつでも、というところが散見されているし、みんなそういうものだと思ってますよね。でも、ちゃんとこの仕組みを理解しておかないと米ドル送金の問題とかわからなくなるのでちょっとうざいですがステップワイズに説明していこうと思います。

銀行送金の基礎の基礎

まず、同じA銀行で同じX支店に口座を持っている二人が送金する場合、絵的にはこんな感じ。支店さんの事務 – Aさんの残高を減らしてBさんの口座を増やす – ことで送金手続き完了。そうなのです。銀行内では残高を付け替えるだけなので銀行としては預金総額では一緒であり将来の支払い債務総額(=口座残高の合計額)では一緒、という話なのです。だから口座の付け替えだけの手間なので手数料が表を見ると一番安いのです(笑)

ここでいくつか注意したいことがあります。まずは、あまり気にならない話ではあるのですが、銀行にとって私たちの口座残高は債務で、預けた資金は資産になります。一般的な会計と異なるのでたまに間違いそうになるのですが銀行からみるとそうなのです。となると、債務に対しては資産の裏付けが必要になる、のですが、Bさんへの支払いの裏付けは送金指示かそれ以前にAさんから現金を受け取っているかそのほかの人からの送金を受けている結果としての残高として確認しているのでそれ以上はいらないのです。また、Bさんからすれば残高が増えているので、小為替を好きな時に換金できるのと同じように好きな時に現金を引き出せばいいだけなのです。実はこの先の議論で、この資産の裏付け、というのがキーワードになるのでここは(大学受験の勉強と同じく)押さえておきましょう。

銀行内の応用編 – でも、これが分からないと世界はおろか日本に行けない

続いて、同じA銀行だけど別の支店に口座を持っている場合。絵を見ると、AさんのX支店と BさんのY支店の間に本店が挟まっています。なぜでしょう。幾つか複雑な理由が存在します。

まず、X支店では、Aさんの口座残高を減らすことは出来ても、Y支店にあるBさんの口座を直接触ることが出来ません。そうすると、間に何かを挟むことになるのですが、一番手っ取り早いのは前述の同じ支店での口座間の送金と同じように、X支店にY支店の口座を作って、その残高を増やし、「Y支店さん、そちらの残高を増やしたけど、それはBさんへの送金の依頼に基づいてだから、Bさんの残高を増やしてあげてね」という連絡をしてあげて、それを受けてY支店は額の増えているX支店にある自分の口座に相当するだけのBさんの口座残高を増やすことになります。

ここで、ちょっと頭が混乱しそうですね。X支店がY支店の口座を増やすところまでは先ほどの話と似ているからいいかもしれません。でも、それを受けてY支店は何かを減らすわけではなく増やしてますよね。これは、Y支店からすると自分のX支店の口座は資産ですので、資産が増えた=支払いの裏付けが増えたけど、これなんでだっけ?ああ、送金指図でBさんの口座残高が増えたから、なのね、とBさんの口座を増やす(=Y支店の債務も増える)ことで送金完了、となる、のです。

さて、送金がこの一件だけならば、いいのかもしれませんが、そもそも、この銀行がX支店とY支店しかなくて、Y支店がX支店に口座を開けている、から出来るものの、このような一方向な話で銀行業務が済みそうでしょうか。このままでは永遠にX支店にあるY支店口座は膨れ上がっていきそうですし、仮にY支店のCさんがX支店のDさんに送金する、となれば今の逆方向である、Y支店にX支店の口座を作ってCさんの口座残高を減らしてX支店の口座の残高を増やして。。。ということが起きることになります。でも、そうなるとY支店のX支店口座も同じように一方向で膨れ上がりそうです。となると、膨れ上がるのを嫌って、互いが互いにいちいち債権債務を相殺する、なんて手間ですよね。

しかも、今は2支店だけの話ですが、これが全国100店舗、となったら、X支店は99店舗の口座を開けて、毎日相殺を99店舗とすることになり、また送金指示という意味でもP2Pのセッションが銀行内で99+98+…+1 の5000本が必要となる、ということは送金情報が同じ銀行内であちこちにかなり錯綜することになってしまいます。

そこで、実際にどうするかというと、それぞれの支店は本店に口座を開けておき、Aさんの残高を減らして本店の残高を増やしたのち、

  1. 本店に「送金依頼に基づき、X支店の残高を減らしてBさんの口座のあるY支店の残高を増やしてください」と、
  2. Y支店には「本店のY支店の口座の残高を増やすのでBさんの口座の残高を増やしてください」、という指示を

それぞれにします。そうすることで、

  • X支店は、本店にあるX支店の口座の残高(資産ですね)が減ると同時にX支店にある本店の口座残高を増やし、また同額だけAさんの口座残高が減ります。(ただし、X支店の現金はこの瞬間は動きません。)
  • Y支店は、本店の口座残高が増えたのを見て、同額だけY支店の本店口座の残高を減らすと同時にBさんの口座残高を増やします。(Y支店でBさんが引き出さない限りはY支店の現金は動きません。)
  • 本店は、前述の同一支店内の送金と同じく、X支店の口座残高を減らし、Y支店の口座残高を増やします。(こちらも、本店の現金は動きません。)

こうすると、前述のP2Pのようなセッションが発生することなく(むしろ本支店間のハブアンドスポーク型というか、ツリー型の情報伝達構造になる)、また相殺とか日々せずとも、管理が可能になりそうですね。実際は、システム上銀行全体で口座/勘定を管理しているので、支店間の通知とか実際に起きていないでしょうけど、第X次オンラインシステム導入前の前時代的に情報と資金との移動をみるならば、というところでは、上記が分かりやすい、ということで書いてみました。ちなみに、各支店にある本店口座を今時ですと銀行勘定と呼ぶこともあります。

今後の話の展開として、キーになるところを押さえたいと思います。一つは資金がどこにあるか、もう一つが送金の情報のルートです。

資金の裏付けという観点でみると、現金の移動はこの一連の流れでは起きていませんよね。銀行全体、という観点で裏付け資産であるAさんからの現金がX支店に置きっぱなしなのでオッケー、と考えるのです。Y支店単体で見ると、そこには対応する現金の準備がないまま、引き出される可能性がある、ということですが、預金量に対する物理的な現金の準備というのは別途管理するので、大丈夫でしょう(今どきは他行のATMで引き出したりするので現金の保有管理はさらに難しい問題になっているとは思いますが)、というか、ここでは別の問題ということにして気にしないでおきましょう(笑)

そして情報のルートについては、上記で番号付けした、

  1. X支店とY支店の残高を管理する本店への付け替えの指示、と
  2. Y支店の口座を増やした理由がBさんへの振り込み、というY支店への指示

の二つの指示が飛ぶ、ということです。これが世界規模になっても、実は同じ構造になっていることに、後ほど触れる予定ですので覚えておいてくださいね。

日本国内で円はどうやって送金されるのか?

ということで、次に銀行間を跨いで送金がされる、一般的な送金のメカニズムを見てましょう。絵を見ると分かりますが、銀行の本支店が二組あって、それに挟まれるようにあるのが日本銀行、そして矢印で円を描いているのが送金データのやり取りをする、全銀ネット(全国銀行資金決済ネットワーク)の全国銀行データ通信システム(全銀システム)です。

実際にP銀行 X支店のAさんの口座から Q銀行Y支店のBさんの口座に送金をする、と言う時に、何が起こるかというと、

  1. AさんがP銀行X支店に送金指示を出す。
  2. 送金指示を受けて、P銀行はX支店にあるAさんの口座残高を減らして、本店にある銀行勘定を増やします
  3. 送金指示は全銀システムを通じてQ銀行に送られます。
  4. 送金指示を受けて、Q銀行は本店にある銀行勘定を減らしてY支店にあるBさんの口座を増やします。
  5. 全銀システムは一日の送金情報を集計して、この取引による日本銀行にあるP銀行の当座預金を減らしてQ銀行の当座預金を増やすことを含めたすべての取引の集計結果の残高の増減を午後4時15分の決算尻と呼ばれるタイミングで行います。

実際、送金が1億円を超える場合にはRTGS(RealTime Gross Settlement:即時グロス決済)と呼ばれる、送金手続きをした瞬間に5の日本銀行の当座預金の付け替えを行うのですが、それより少ない場合にはその日の終わりまで事実上Q銀行は送金のための資金を受け取れないことにはなっています。が、そこは最長8時間ということと、1億円未満と少額(?)であることや、同種の送金が他にもたくさんあるため、P銀行とQ銀行の間で相殺されることもあるので、決済リスク – 支払いの担保となる資金が手元にない – ということで実務上飲み込んでいる、というのが現実なのですが、私たちが通常、平日の昼間にお金が振り込まれた、というのがだいたいリアルタイムに送金されたように感じるのはこのお陰、なのです。

ここでポイントなのが前述のように、資金の担保が同じ銀行ならば支店網のどこかにあればよかったのが銀行を跨いだ時には、その日1日の送金情報をまとめて、結果として相殺された状態ではあるものの、日本銀行にある全国の銀行の名義の当座預金残高の間の付け替えの形で見ることになる、ということと、送金指示の情報が、全銀システムでの、(a)資金移動の情報と、(b)送金先のQ銀行への送金詳細の情報、の二つになる、というところに、同じ銀行の支店間取引との類似性と相違点がみられる、というところです。

さて、今までの話は、実は日本に住んでいる人の間の銀行口座間の円の資金の送金方法についてでした。と、なぜこんなに回りくどく言っているか、というと、実はいわゆる普通の私たちのように日本に住む人の銀行口座から(例えばケイマン諸島のファンドでも、台湾の保険に加入するための口座でも、スイスにあるあなたの隠し資産を管理する(笑)口座でもいいのですが)海外にある円口座に送金をしたり、海外にある円口座の間での送金をする、と言ったように、日本に住んでいない、非居住者に保有する円を送金するときには、前述の全銀システムとは異なる送金システムを使うことで、国内にある円と国外にある円の流れを区別されるのです。

とはいえ、実際の資金と情報の流れは前述の全銀システムで送金情報を管理し、日本銀行の当座預金間の付け替えで銀行間の資金移動が管理される、というのとほぼ似た状況になります。その意味では、送金の流れを示す絵はこのように前回と同じ絵を使うことになります。大きな違いがある、とすれば、

  1. 送金情報を伝達するのが、全国銀行協会の外国為替円決済制度に基づく日銀ネット
  2. 資金移動も、日銀ネットでの送金情報の伝達と同時に日本銀行の当座預金決済を利用した次世代 RTGSによる即時決済を使っている

という二つの点が挙げられます。

と言いつつも、とうとう非居住者の口座の話が出てきたので、海外送金のもっとも本質的な部分に話が突入することになります。

コルレス銀行?なにそれ美味しいの?

例えば、私たちが日本に住んでいれば、その近所の銀行の性質を持つ金融機関なら、よほど特殊な銀行や信金、信組さん、労働金庫にJAさんなどに口座を開けない限り、その銀行等の本店は日銀ネットに参加していますので、送金するときには支店から本店、本店から日銀、という流れで進めばよかったのです。ですが、パッと思いつくところで、海外の銀行の日本支店、例えば、(すでに個人金融部門が撤退した)HSBCならばまだ法人金融部門があることから日銀ネットに参加していますので香港やジャージーなどにある海外のHSBCの支店から円を送金しようと思えばHSBCの東京支店を通じて日銀ネット経由で送金が可能ですが、同じイギリス(笑)系のロイズバンクTSBのような現地ではそこそこ大きいけれども海外展開をしていないけれども円預金を扱う銀行となると当然に日本法人がないので日銀ネットへのアクセスがないので送金できないように思えてきます。それに日銀ネットへのアクセスがない以上に、これらの銀行が円資産をどう保有するか、という問題も発生します。

そこで、日銀ネットに銀行として接続していない銀行は、日銀ネットに接続している銀行に銀行口座を開設してそこで円資産を保管し、それを裏付けとして銀行顧客への送金業務を提供することになります。このような送金の際の中継地点の機能を果たしてくれる銀行を「コルレス銀行(Correspondent Bank)」と言います。
ただ、送金は銀行口座という資金の担保だけでなく、前述の

  1. X支店とY支店の残高を管理する本店への付け替えの指示、と
  2. Y支店の口座を増やした理由がBさんへの振り込み、というY支店への指示

に対応する

  1. 送金元となる銀行とコルレス銀行との間の通信手段、と
  2. 送金元となる銀行と送金先の銀行との間の通信手段

として日銀システム以外の通信手段が必要になることが想像できると思います。今なら「インターネット!」と言いたくなりますが、為替業務はインターネットが始まる前からありますので別の何かがあるのは想像がつきますね。それが、今回の記事にある SWIFT (Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication SCRL 日本語訳としては「国際銀行間金融通信協会」) なのです。これは1973年にベルギーで設立された非上場会社ですが、元々はヨーロッパでの証券決済のシステムとして始まったものが金融全般の通信フォーマットの共通化や2005年に本格稼働しているSWIFT Net と呼ばれる、金融版インターネットの提供などが主な仕事になっています。

そこで、円送金ならば送金元とコルレス銀行の間の送金指図を SWIFTのメッセージで送り、それに基づきコルレス銀行が送金先(のコルレス銀行)に日銀ネット経由の外為円決済で送金し、また、送金元から送金先の銀行へもSWIFTのメッセージで送ることで送金指図の詳細を通知する、という流れになるのです。

で、世界でお金はどうやって回っているの?

では、これが米ドル送金ならばどうなるの?という疑問があると思いますが、基本は一緒です。例えば日本の某SMBC信託銀行の某大手町支店にある米ドル預金から某ジャージー島の某HSBCの自分の口座に送金したい、と某私が思うと、SMBC信託銀行の米ドルでのコルレスバンクであるCitibank N.A. New York に対してSWIFTで送金先のコルレスバンクであるHSBC USA に送金することを指示し、Citibank N.A. New York はそのSMBC信託銀行の口座を減額してCHIPS、もしくは FedWire と呼ばれる米国内の銀行間の送金ネットワークを通じてHSBC USA に送金を実行します。

また、SWIFTで送金先である HSBC Jersey に対してその送金の詳細を伝えることで送金先である口座に入金処理することを伝えるのです。それを受けて HSBC Jersey は、といえば、自分たちの米ドルのコルレスバンクであるHSBC USAにある自分たちの口座に該当する米ドルに着金を確認したら送金先である口座の残高を増やすことになります。

ね?基本は円送金と何にも変わりがないでしょ?ということで、海外に送金をする際には その通信手段としてのSWIFTがキーを握る、というところまでわかっていただけたかと思います。

余談ですが、この米ドルの送金でもう一つ気づきたいことがあります。例えば、日本で今日付で送金手続きをした、としても、Jerseyで米ドルが着金したことがわかるのは早くとも明日のJersey時間が始まってからになる、ということです。

というのも、米ドルの資金移動が実際に起こるのが今日のニューヨーク時間ですので、HSBC USAでHSBC Jersey の米ドル口座が増える時にはジャージー島は今日のジャージー島のビジネスの終わった時間ですので彼らの営業時間のうちには着金作業が出来ない、というよりも知る由も無いのです。ですので、翌日のジャージー島の朝以降にHSBC USD にある自分たちの口座が増えているか確認して、初めて送金当日付で入金があったよ、とあたかも過去日付での記録がされる、という仕掛けなのです。ちなみに、送金手続きの締め切りはファンドなどの世界では結構早く、送金したい日付の2営業日前までの送金指図をしてほしい、と言われることがあります。一つは時差の問題(着金確認が翌営業日になることが多い)、もう一つはコルレスバンクへの送金指図の締め切りが1日一回の通信の中でやることが多いからか、結構早い、ということがあります。

もしこれが豪ドルの送金ならばどうなるの?ともう一つ例を出したいと思います。これは実は私が以前、毎月のごとく、某銀行の投資信託の事務部隊から「お金が届かないのです」と何度となく言われたものの、仕組みをそれ以上に説明したのに全く理解がされなかった、という曰く付きの例です。

某 HSBC Securities Services に豪ドル口座を持つ某ケイマン諸島籍投資信託が某私の古巣の銀行の豪ドル口座を投資信託の買い戻し資金を送金する、とします。その時、某ケイマン諸島籍投資信託(の、実際にはファンドアドミ)は、その買い戻し資金である豪ドルの送金を某 HSBC Securities Services に豪ドル口座から某HSBC 香港と、その豪ドルのコルレスバンクでである HSBC Sydney を経由して某 C●t●bank Sydney に送金し、その送金の詳細を SWIFTで送ることで、C●t●bank Sydney は  C●t●bank 東京支店の豪ドル口座に着金があったことを知らせ、銀行の海外送金部署が投資信託の部署に送金があったことを伝える、というのが送金の際の流れになります。

支払日当日の二日前に送金指図を行い、送金を行って、その証拠としての SWITF の送金指図のメッセージを渡しても、その日の昼前になっても(円送金のように)着金確認ができない、と電話が毎月あったのですが、思い出してみましょう。オーストラリアは日本より一時間時差が先に進んでいて、送金が仮にシドニーで朝一で行われたとしても着金があってそれが某私の古巣の銀行の豪ドル口座に着金したという処理をするのはC●t●bank Sydneyの都合とタイミング、そして、その着金したことを確認するのは彼らの同僚の海外送金部署とそこが使うシステムの確認頻度の問題なので、すでにファンドには手の出せないところなの、むしろ自社グループ内でSWIFTメッセージを使って解決する他ない、のです。というか、外部の人間が出来たら銀行の構造上問題がある話、なのですが。。。最後までわかってもらえなかったですね、内緒ですが。
(関係者の方、読んでも怒らないでくださいね。というか未だに同じことやってないか心配なのですから。)

じゃあ、このSWIFTの何が闇、だというの?

やっと本題です。ふぅ。このSWIFTの闇の話の一つの例をこんな風にしてみたいと思います。

あなたが、資金を日本政府からどうしても隠したくなって、ベリーズという中米の国に会社を作ってそこに送金したくなった、という刺激的な話にします。いや、ベリーズに会社を作って、世界中の面白そうな会社を買収していこうと思い立った、にしましょう。まぁ、送金の話をする都合上はどっちでも変わりはないのですが。。。

その際、あなたはこの記事で何度も陰日なたとなく出てくる某SMBC信託銀行にある米ドル預金口座からこのベリーズに作った会社の口座に送金する、のですが、その際にどうなるか、というと。。。

ベリーズには国際的な銀行が存在しないので、現地にあるプライベートバンクに銀行口座を作ることになります。このプライベートバンク(例えば、Atlantic International Bankというのですが)、これも当然米国内に銀行口座を持っていることもなく、どこかにコルレスバンクになってもらう必要があるのですが、幸か不幸か米国内の大手銀行から小さい銀行に至るまで銀行取引をさせてもらえません。考えてみてください。普通に考えても、日本の銀行さんは非居住者の口座は簡単に開けてくれませんし、仮に居住者であっても、法人だと口座開設のハードルはあるのですから、これと同様で誰もが簡単に米ドル口座を作れるはずがない(と思いたいのだけど、アメリカの本人確認って。。。)、のです。そこで、米国外で米ドル口座の取引のある銀行(この場合、Crown Agents Bankなのですが、個人的に聞いたことはなかったのですが、グループの日本語のサイトのあるNGO等からスピンオフした金融サービスグループの会社のようです。通りで名前からして仰々しいわけだ。)に銀行口座を開くことでコルレスバンクになってもらうことになるのですが、そのコルレスバンクすら実は米国内に銀行法人を持っていないのです。でも、幸い米国内の大手銀行(この場合、Bank of New York)に銀行口座を持つことが出来ましたので、ここがコルレスバンクにとってのコルレスバンクになるのです。絵にしてみるとこんな感じでしょうか。日本国内での送金の時にはみられない多重構造が出来上がっているのがわかります。

この時、送金元である某 SMBC信託銀行は、コルレスバンクである Citibank N.A. に対して、Bank of New York Mellon (BoNY)) に送金指示と、同時にAtlantic International Bank (AIB) にも送金したからおたくのお客の誰々の口座に入金してあげて、という指示をそれぞれ SWIFT経由ですることになるのですが、そうなると問題なのは、BoNYとAIBの間にある Crown Agents Bank にも、おたくの BoNYの口座に入金があったのはおたくの口座の一つ、AIBのものだから入金してあげて、という指示をしなければならない、のです。SWIFTにはそうするために中継地点になる intermediary bank 向けのメッセージも準備されてはいるので、個別にSWIFTメッセージを送るのにコストがかかるなどの理由で送金元のコルレスから伝えてね、的に扱うこともあるので、実はこれによって送金情報のチェーンが見失われることがあるのです。そうなると、先ほどの豪ドルの送金の話同様、送金の担保となる資金は動いているのに、どの口座に入金するのか手間取ったりその情報が適切に伝わらないから、ということで「闇に消えていく」というのです。

しかも、この多段構造、例えば前述のベリーズの会社があなたのただの投資会社ならばいいのですが、これが銀行ライセンスを取って知人たちの資金だけを管理するプライベートバンクを始める、なんて言えば。。。さらに階層が増えることになるのでより途中で送金情報が失われる可能性が高くなる、のです。

では、闇な雲の切れ目はどこにあるの?

さて、これって確かに、オフショアと呼ばれる国や地域に限定される話かというと、そうでもなさそうですよね。例えば香港やシンガポールで設立されたファンドなどにそこの通貨の送金をしようとしたら、前述のような多段構造にはそうそうならないのです。逆に、例えば日本国内でオーストラリアドルを送金しようとしたら(実務的な経験がないことから)多段構造にはなっていないけれどもこれに近い状況に陥りそうです(なので、日本国内で日本円以外を送金するのはできるけれどもかなり嫌がられますよね)。ということで、送金先の現地通貨以外の送金の場合は闇とは言わないけれどもオンショアだろうともすんなりいかないもの、と思う方が妥当なのです。
ではもし、実際に送金することになって、途中で届かなくなった、という時にどうしたら良いでしょう(そんなことになる人はそうそういないと思いますが。。。)。著者の経験から言えば次のステップで解決しています。
  1. 送金を依頼した銀行に既に現地での銀行間での送金が完了していることを確認させる  - 裏付け資産が移動していなければ情報が届いていても入金処理してもらえませんから
  2. 送金先の相手に SWIFTメッセージを渡して、その銀行に対して送金指示の証左があるのだから着金確認しているならば入金しろ、と言ってもらう – 送金指示が届かない、埋もれている、という状態ならば送っている証拠を見せてそれで対応してもらう。SWIFTメッセージが、暗号化された形で送られることもあって、その写しを見せるだけでもその指示の確証性が高いと認知されているのです。
  3. 仮に着金確認ができないから入金できない、と言われたならば、通常この場合は intemediary bank なので、その送金元は既に送金済みだからコルレスに確認しろ、と促す
  4. 最後まで諦めないで相手を動かす(爆)

まとめ

いや、これ、まとまらないって。しかも2000文字にまとめるって。。。どうしましょう(笑)Soldie での記事がどれだけ原型をとどめないか、楽しみにしてください。ってそっちのまとめか?
なんにせよ、送金業務って本来は銀行の根幹業務なのですが、外国送金ってこれまで貿易か投資か、というところで国内送金に比べて件数も多いわけではないので携わる人自体多くはなかったものだと思います。かくいう私とて、自分で送金担当部署にいたわけではないのですが。。。
とは言え、ファンド運営という観点では着金して、投資対象を買うために送金して、というのが出来てなんぼ、ですので、この辺りは他人任せにせず、また、ちゃんとスムーズにいかないことを他人のせいにして怒るのではなく、自分でタイムラインで理解してリスク管理することをオススメします。
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