ETF の続き、というよりファンドや証券そのものの本質的なところをもうちょっとだけ書かないといけない気がしたので

元々このブログで意図していたのがオフショアのファンドのイロハ的、とある意味金融商品でも割とニッチである意味上級者向けな(だから、読者層も極めて限られている)ところだったところに、AFPなんてものを著者が取得してしまい、かつ30代男性読者の金融リテラシーを補わねば、という人向けの記事をいくつか書いたものですから、投資というものを細かくかみ砕くような記事をちらちら書いてしまったおかげで、ETFの記事をポストした後に数人の方からのこの記事に対するフィードバックを聞いているとどうやらプロ向けと初心者向けの間の部分が抜け落ちた構造になってしまっていないか、ということに気づかされることがありまして。。。

そこで、ちょっとだけ ETF の話の延長をしつつ、ファンドへの投資ということや証券の取引の本質的なところをいくつかかいつまんでみようかな、と思ったのが今回の記事の狙い、と思ってください。

Bitcoin してる?

現物資産っぽいbitcoin (イメージに過ぎません(笑))AIMA Japan の創設メンバーの一人で、時々(当の二人に自覚症状は全くないものの、オルタナ系ファンド業界では有名な2mの大男から“Dangerous Men” の称号を一緒に頂くほどのハードな)飲みにお付き合い頂いているオルタナファンド投資の日本での第一人者、白木さんと珍しく(?)素面で話した時に聞かれたのがこの一言。このリンク先でも彼が取り扱うように、ビットコインなどの仮想通貨というもののあり方というのが投資の世界でもいろいろな形でかかわることが想定されつつあるのですが、ではどんな風に、というのはまだいろいろな可能性もあり見えてきそうで来ないというのが、fintech 特有の「急に現れる未来感」なのかもしれません。

といって、ある意味著名な投資家である彼と同じような投資家目線での高尚なことは書けませんから、ここでちょっと取り上げたいのは、仕組み的なところで一つ。

このところ、出てくるだろう、と言われ続けて世の中に登場してこなかったもの、として言われるのがbitcoin ETF。その名の通り、bitcoin を裏付けにしたファンドの持ち分を上場させたもの、なのですが、過去に何社もトライしつつも当局のストップによって出来ずにいるものです。

といいつつ、実は今、米国 NASDAQ の登竜門と目されている OTCQXに、Glayscale 社というところが GBTCというティックコードで上場させているものが多分事実上のbitcoin ETFなのでしょう。ETFではないファンド、であれば、4年前にジャージー島で私募で作っているという話を聞いていて、実際にGlobal Advisors というジャージー島のファンドが2014年からのトラックレコードが示されていますから、多分そういう形で世界中のあちこちでファンドの組成を行っていたと思われます。実際、Forbes の記事によれば今年7月の時点で13ファンドがETFではないにせよ、bitcoinなどに関連して投資をしているようです。ちなみに、このGlobal Advisors のGABIはケイマン諸島の証券取引所、The International Exchange に上場しているそうな。とはいえ、この上場の意味は。。。前回のETFの記事で説明した広義の意味での「届出目的の上場」と思ってもいいかもしれませんね。

あ、余談ですが、このGlobal Advisorsは2017年6月にAltcoin (bitcoin 以外の仮想通貨)の一つで有名なEthereum platform の通貨、 Ether 建のファンド、CoinShare Fund I を立ち上げて、その他のAltcoin のICO(Initial Coin Offering)やその後のステージで所有者間で流通しているものの取得するなどして運用していくそうな。感覚的にはAltcoinは株みたいな資金流通手段になっているから株と同じようにタイミングを見て売り買いして運用できる、というのを示していくように見えてきます。

で、ここで一つポイントにしたいのが、bitcoin って実際のところETFにしなくとも比較的手軽に口座を開けて取得可能なもの、ですよね。実際に近所のIT好きな店主のいる喫茶店でのコーヒーのお支払いに(そして、それと同じくらい手軽にdark web 経由で依頼したアンダーグラウンドな活動の対価として)bitcoin、のように決済にも使える訳ですから。ではなぜ、わざわざ(GBTCの場合なら年率2%の)フィーを払ってでもETFになったbitcoin を持ちたい、というか投資したいのでしょう。

bitcoin ETFだけに限らない 「ETF する」ことのご利益(その1)

なぜそれをするのか?という質問は、ファンドに限らず、また事業に限らず、ある意味すべての行動において問われるものですが、特にお金が絡むものならば「誰かが」儲かるからそれをする訳でして、ということは、その金融商品にはそのメリットをデザインされて作られているのです。では、bitcoin ETFの場合、フィーを払っても得たいメリットとはいったい何か、ですね。

bitcoin に限らず実際には現物資産を裏付けにした ETF やファンド全般に当てはまることなのですが、ファンドという金融資産にすることで、これらの資産を直接取得・売却することで得られた利益に対する課税と異なる課税ルールを適用出来るように変換するのです。

どういうことかといえば、bitcoinの場合でいえば、話を単純にするため(というのも、bitcoin についてはいろいろなところで課税利益が発生するようなので。。。)に単純にお金を払って bitcoin を取得し後日売却してお金を得た、とすると、取得した価格と売却した価格の差額が利益になります。この利益については日本に住む個人であれば雑所得として取り扱われるそうです。この場合、ざっくり言えば給与所得等と合算して累進課税の計算の対象となります。(もし、確定申告を要しない給与所得だけの人の雑所得が年間20万円以下であれば確定申告しなくともよいそうです。ですが、住宅ローン減税のための控除を受けたい、年間2000万円以上の給与所得がある、など確定申告しなければならない場合には、雑所得が20万円未満でも申告対象になるので注意が必要です。)

これがもし(というのも、ごく一般的な日本の居住者では多分にGBCTの取引できる人がいないと思えるので、仮に出来たら、という前提で書きます。ただ、これがこの記事を書いて時間が経って、日本国内で普通に組成・上場されたら、その時の法令等に従ってくださいね。)bitcoin ETFを取引して結果差益が出たならば、株式の譲渡差益と同じ「上場株式等に係る譲渡所得」として申告分離課税の20%の対象になります。

実は同種の議論が既にあって、例えば金の積立投資ならば譲渡所得扱い(なので、差益に対して50万円の控除をした額、ただし、5年を超える保有期間ならばその控除後の額を1/2に圧縮した額、が給与所得等と合算して累進課税の対象になるのです)なのですが、金のETFならば株式扱い、になるのです。

あと、似たところでは、一般に FX と呼ばれる為替証拠金取引での差益がbitcoin と同じく雑所得扱い(というか、為替差損益の取り扱いが雑所得だからbitcoinが類似性から雑所得扱いになった、というべきか)のところ、その上場バージョンである「くりっく365」であればその差益は上場株式等と同じ申告分離課税の20%の対象になります。

課税区分の変換だけじゃない税制面でのメリット – 多分みんなはこっちを見ている

また、ETFにする、ということは上場株式と同じ商品の取り扱いになる、ということですので、日本ならばNISA口座での取得が可能になる、ということでその非課税性を享受することが可能になる、のです。実際、GBCT のウェブサイトを見ると、米国のIRA (individual retirement account: 個人退職口座)での取得が可能という税制面でのメリットを謳っています。そう思うと、bitcoin を直接保有することでの税制面での影響とどちらが有利か、考えますよね。

まぁ、金のETF をNISA口座のメリットの出る期間保有するなら個人に適用される累進課税税率次第ですが、同じ期間だけ金の直接保有する方がメリットがありそうにも思えますが。。。

ということで、NISA の話もどこかでしないといけませんね。。。

それ以外のメリットってあるの?

それ以外、って、言われても税制面が一番投資家にとってその最終損益に影響する要因ですから大事、といえば大事だと個人的には思いますが、それ以外に経済合理性の観点であるのか、というと正直ストラクチャーを見る限りはメリットはないと思っています。

というのは、ファンドというワンステップを入れる、ということは、そのファンドを維持・管理するためのコストが当然に発生します。ということは、その費用をだれかが負担する(ということはそれらのサービス提供者はこれに絡むことの経済合理性のある理由はそこからのフィー収入が発生するから、ですね。)かといえば、当然ファンドの投資家が、ファンドの資産の一部から、となるのです。ということは直接保有することに比較してその費用分だけ収益が減少するのは誰が見ても明らかです。ということは直接保有に対して費用分を差し引いても税制面でのメリットがあるからやる、メリットがなければやらない、というのが合理的行動に基づく投資の選択、ですよね(心理学だか経済学だか学んだことがないのでこの言葉遣いが正しいのか知りませんが。。。)。

と言いつつも、これが個人ではなく行動規範に制限のある法人になるとちょっと話が変わってきます。前回のETFに関する記事でちらっと触れた、世界中のどこかで上場していないと投資できないという機関投資家の投資対象の縛り、ありましたよね。それに、BBB格付けのない債券は投資不適格、ということで機関投資家は投資しない(といいつつ、バンクローンとかCとか平気でありますけどなにか?)、というようなリスク管理などの事情で彼らは投資行為がいろいろと狭められているのです。

としたら、そういう人に向けて商品化するためには器とか形式上の整えが必要だ、ということになってくるのです。

ファンドじゃないと買えない!

例えば、日本で言えば信託銀行の信託口座からしか投資の出来ない年金投資家であれば、その受託者の受託者責任によって求められ、また銀行として果たさねばならない(ということは商業的な範疇で言うならば最大限にエラーフリー – 間違いを起こさない – であることを求める)「善良な管理者の注意義務」を全うしながらbitcoin の取引用の口座を開設、維持管理することが出来るか、と言えば、まぁ無理でしょう。金融庁検査に入られて検査官が理解できるような説明がつかないでしょうね(べーっ、だ)。となると、実際に受託者が現物資産を保有するのではなく、金融商品化された上場株式と同等のETFならば、上場基準等々を満たしている訳だから大丈夫だろう、という説明で切り抜けられる、と判断して受け入れることになるのではないかな、と理解しています。

例えば銀行。銀行も実物資産を保有するファンドへの投資が出来ないという規制があるようで、例えば卑金属を保有する可能性のあるファンドへの投資出来ない、という話を聞いたことがある(でも、不動産を保有したりREITに投資したりするから、いわゆる商品取引系の資産がダメなのかもしれませんね。そこまで調べませんけど。)ので、もしかしたらbitcoin ETFにしたところでだめ、と言われるかもしれません。とはいえ、銀行も担当部署の都合で、外国債券の形での仕組債はダメだけどそんな仕組債を単一資産として保有するファンドならば投資できる、という大人な事情を抱えることもあるので、 ファンドにする、という経済的合理性を超える理由というのはこうやって出来る事だってあるのです。そもそも、考えてみれば、(J-)REITなんかも不動産の直接保有を金融商品に変換している商品ですが、銀行が大家さんな事業をやることはなくとも、J-REITでも私募REITでもいいから投資するあたりは、そういう事例としてみるには分かりやすかったかもしれませんね。

ちょっと余談:ひと手間掛けることで化ける金融商品たち

さて、ちょっと余談でも(ちょっと、と言いながら長くなりそうですね)。
さて、今までファンドで投資対象の性質を変える、という話をしていますが、こんな金融商品の性質を変えることが出来る機能を持っているのはファンドだけではないのです。

例えば、アメリカ株をやったことのある人なら聞いたことがあると思うのが ADR(American Depository Receipt)。これは、アメリカ国外の企業がアメリカの証券取引所に上場する(ということは米ドル建てで資金調達する)にあたって、本国で(第三者割当で)発行した株式を米国内のDepository に預け、それによって発行された預託証書 (Depository Receipt)を上場させたもの、です。これによって実は本国の法律に基づいて発行された株式が米国内で米国法に基づく証券ということで間接的に流通させることが出来る、という仕組みなのですが、これを応用して、例えば日本で上場・流通させたい時には日本国内の信託を使ってJDR(Japan Depository Receipt)化して上場させる上場信託というスキームがあり、同じことを欧州でやると GDR (Global Depository Receipt)と呼ばれます。

で、なぜ、この話をしたか、というと、イスラム金融に基づいて作られた金融商品をGDR化して非イスラムな投資家に対してアクセスを与えている、という面白いことをして(大儲けして)いる知人がヨーロッパにいて、上記のファンドによるコンバージョン同様に商品性のコンバージョンというのが金融の世界ではあちこちで行われている、という話をしたくなった、だけなのですが。。。

ファンドが変換するのは税務上の性質だけではなく課税のタイミングも変える

さてと。資産の直接投資とファンド経由の投資を税務上の取り扱いの観点で比較したならば、もう一つ税務上での性質の変換を行っている点があります。あまりに当然すぎて気にならないことでもあるものの、極めて重要なことなのでここでご紹介したいと思います。

それは、ファンドを経由して投資すると課税されるタイミングをファンドの持ち分の売却の時点まで遅らせることが出来る、ということです。

例えば、こういう例をみると分かりやすいかもしれません。直接保有する場合とファンドのポートフォリオとして保有する場合と下記の全く同じポートフォリオの入れ替えを行うとします。なお、話を単純化するためにポートフォリオには銘柄Xしか持たないで入れ替えと言いつつも持ち分を増減させるだけ、取引コストや維持コストも0とします。

  1. 2017年5月:ポートフォリオに 銘柄Xを単価100円で10,000単位取得
  2. 2017年11月:ポートフォリオの銘柄Xの、3,000単位を単価110円で売却
  3. 2018年6月:ポートフォリオの銘柄Xの、3,000単位を単価90円で売却
  4. 2019年3月:ポートフォリオの銘柄Xの、4,000単位を単価120円で売却

さて、上記を直接保有した形で取引した場合、2017年末は30,000円(=3,000 単位 x (110 – 100) 円)の売却益、2018年は30,000円(=3,000 単位 x (90 – 100) 円)の売却損が、2019年は単年で見ると80,000円(=4,000 単位 x (120 – 100) 円)の売却益が出ましたが(日本の税務ルールを適用するならば)前年の売却損があるので繰り越し欠損を充当することで50,000円 (=80,000円 – 30,000円)の課税利益が出たことになります。

もしこれをファンドで行ったとして、2017年4月末にこのファンドに100万円(100円 x 10,000単位)投資したとしたら、その持ち分を2019年3月末まで途中で手放さずに持ち続ける限りはこの3回の売却損益を課税申告することはなく、また、これらに関係なくファンドの持ち分を取得した価格と売却した価格との差額である 80,000円 (= 1,080,000 = (330,000 + 270,000 + 480,000)  – 1,000,000) が2019年の課税利益、となるのです。

こうしてみると、結果だけ見ると同額の課税利益が発生するものの直接保有すると利益を出した年に細かく税務処理をすることになるところ、ファンドであれば持ち分を売却する時点まで2017年の売却益を課税されずに繰り延べることが出来るということが分かるかと思います。 このメリットは、この例でいうならば、2017年の売却益に対して20%の課税がされる、ということは、6,000円が手元から無くなっている訳ですから2018年の頭に再投資をするための資金が330,000円ではなく 324,000円だったことになり(この例では再投資をしていないので実感できませんが)投資効率がファンドに比べると直接保有だと(キャピタルゲインタックス分だけ)落ちる、ということなのです。

よく節税の教科書あたりだと、これを例えば大きめの経費等が発生する年に含み益のある投資商品を売却して実現利益にして大きめの経費にぶつけることで課税利益を圧縮する、なんて簡単に書きますが、問題は手元にそんなに都合よく含み益のある投資商品をもっているのか(全部負けてたらどーすんだよっ!)と思うのですが、利益の繰り延べが出来るというのは、含み益の実現化のタイミングを自分の都合で出来る、というメリットがある、と解されるのです。

まぁ、そのためにはファンドでキャピタルゲイン課税がなされないこと、なのですが、日本なら投資信託のようなものならば課税しないことになっているので実現しやすいのですが、日本の会社では法人税がかかるので使えない、ですね。

そこで、キャピタルゲイン課税のない国に会社を作ってそこで投資行為全般を集約してしまえば、日本で利益を実現したいタイミングまで海外で運用を行っていけば税務のタイミングをコントロール出来ますよ、というのが、実は以前書いた記事のひとつである、個人で海外に法人と銀行口座を持つメリット、という以前の記事の総まとめにもなるわけなのですが。。。。

と、気付けばだいぶ話がbitcoin ETFから離れてしまったので一気に引き戻しましょう。

bitcoin ETFだけに限らない 「ETF する」ことのご利益(その2)

ETFにすることで、投資家の側に立ってみると

  • 投資単位が小口化される – 前回のETFの記事で見た通り、日経225ならば現物株で5.3億円程度で構築できるポートフォリオに10,000円前後で参加できる。
  • 流動性が証券取引所が動いている時間ならばいつでも、しかも価格は瞬時に – 通常のファンドならば最短でも一日一回、しかも価格の確定は申し込んだ翌日以降にならないとわからない。

といったメリットを提供されていると考えられます。なお、前回の記事から再三申し上げますが、ここではファンドの運用報酬が安い、というのはETFでは取引所での価格確定のメカニズムが入ることで投資家の投資のリターンに事実上影響がない、という立場を取っています。というのも、これから説明することがETFの価格構成要素としては大きな影響を与えるものであって、それゆえ本源的なファンドとしてのETFの資産価値を構成する運用報酬などが価格の構成要素としての影響力が事実上ない、と考えているからです。

ETFにすることでETFの発行・流通に関連する関係者の大きなメリット – 流通量のコントロールを通じた価格形成が可能になるということ

これは何を言いたいのか、というと、ETFではないファンドが投資戦略を実行するために「資金募集」を行う際には、そのファンドの持分を時価相当額で発行してその代わりとして資金を受け入れます。ということは、この通常のファンドの持分の発行というのはファンドの投資戦略への需要と一致した量だけ、しかも小口化してより多くの投資家が保有できる形で、発行されていると考えることができます。

当然、ファンドを作るときにある程度当初の投資見込みを勘案してファンドというのは設定するかどうかを検討されますが、とはいえ、一般的な株のIPOや債券の売り出し、果てはaltcoinの ICO (Initial Coin Offering) のように、ある程度需要を見込んだ上での一定量の持分の発行に対してそこから最終的な需要と供給のバランスで価格が決まる、というような持分の取引価格の決め方をすることはありません。また、これらの持分は一度発行されたならばその発行量は柔軟に調整される、ということも(下記に述べることを除けば)ありません。bitcoin や altcoin に至っては金貨同様にマイニングによって僅かずつとはいえ増えはしますが減ることはまずありませんね。

とすると、株や債券、bitcoinやaltcoin の価格というのは一度発行されると、その後の流通市場において、本源的には原資産の評価額というよりは純粋にかかる持分に対する需要と供給のバランスによってその評価額(いわゆる売買価格)が決まるのです。その時にその需要や供給の判断材料として使われるものが、株や債券ならばその会社の業績や債務に対する返済能力、今後の事業の見通しといったファンドで置き換えるならばその会社の事業「戦略」や財務状況のようなミクロ、また、その会社を取り巻く市場環境などのマクロの両方なのですし、bitcoinや altcoinであればその参加者の増加による流動性の多寡や利用できる利便性、そしてこれらのcoinの仕組みの堅牢性(もしくはその脆弱性が判明すること)、などでしょうか。

では、ETFはどうなのか、といえば株や債券と一緒で、それこそ日経225ならばおよそ5.3億の単位で持分が投資信託から市場参加者に交付されて市場の売買の供せられるわけですが、では、市場での日経225への需要がこの5.3億の整数の倍数だけあるのか、といえば。。。当然一致することはないですよね。確かに日本銀行が日本で売買されているETFの75%程度をこの記事を書いているときには保有しているとブルームバーグが試算してますが、であったとしても、残る25%の需要に合致しているとは言い切れないでしょう。

だからこそ、前回の記事でも書いたように、同じ日経225のETFが世の中に7種類も存在していても、それぞれの発行体等への需要が均一してあるはずもなく、流通量の多いETFになればなるほど市場参加者の価格へのコンセンサスが原資産の動きに近いものに構築されやすく(されやすいだけで一致する保証はどこにもなく)、逆に流通量が少ないと少ない意見での価格構成ですから原資産よりもその時に売りたい・買いたいという需要と供給の原理に大きく依存される、のです。

とすると、実は発行数の少ない証券というのはその希少性から取得したい人の需要を満たしづらいことから価格が上昇しやすい、と一般には考えられています。また、流通量が(需要以上に)増えすぎてしまうと、需要と供給のバランスが崩れて需要が減って供給過多になることで自然と価格が下落し易くなります。

後者の面白い例として、閉じた世界としてのオンラインRPGゲームのなかで、プレイヤーが無限に貨幣を取得できるメカニズムになっていると時間が経つにつれて全てのプレイヤーが金持ちになるので貨幣価値が下がって一気にインフレになった、という事例があります。要はファンドの持分ですら必要以上に増えてしまうと価値が下がりえる、ということなのです。

そのファンドの実例の一つとしてあげるならば、前回紹介したベトナムの上場ファンドですが、ベトナムの株式市場全体が大きく値を下げたことを受けて、上場ファンドの取引価格が急落し、原資産となるファンドの純資産額よりも大きく下回ることになったのです。それを受けてファンドの運用会社が投資家の利益というべき取引価格と純資産価格との乖離を減らすために取ったアクションというのが

  • 分配金を多く出すことで投資家の需要を掘り起こす
  • ファンドが持分を自分で買い戻すことで流通量を減らして需要と供給のバランスを調整する
だったのです(実際に、ヨーロッパを中心に投資家へのロードショーを行うことで投資家を増やす、という努力もしていましたが)。

とすると、株も債券も一応は発行数を減らす方法が(株なら自己取得、債券ならば部分償還)ありますが、あまり機動的に行うことが出来ません。でも、ETFであればマーケットメイカーである市場参加者の裁定取引の一環でその流通量(ひいては価格の調整)をコントロールすることも可能なのです。

ということで、一旦キリをつける、ということで

実際、この記事を書くのに2ヶ月近くあれこれ時間をかけてしまいました。その間Bitcoin の世界もあれこれ変わったようですが、他方で Bitcoin ETFについてはBitcoin の先物がないからまだダメよ、という US-SECの見解が出て来たので、何か進展があるのかもしれません。

という中で、ファンドに形を変換する、ETFとして流通性を強化する、小口化する、という投資家にとってメリットと思われるものは色々あるので止めはしませんが、まぁ、通常は、とある資産を裏付けに新しい証券を作り出すことで取得価格と販売価格の差額で儲けて、追加発行する際も自分が発行する元手以上の価格の時に行いますし、買い戻しをするのは本来の価値より市場価格が低く評価されているときに買い戻す(これ、大手系列の子会社がIPOして長い時間を経てまたグループの完全子会社になるべく上場廃止する、のとあまり変わらないですよね。。。)、ということが出来るのは全ての価格を知り、調整できるからですから

ギャンブルにおいては胴元が必ず勝つ

という原則は覚えておくべきですし、投資家を儲けさせるために取引コストの負担をするなどの胴元が自腹を切ることなど利益供与になるので今時は出来ないししたくもないことだからあり得ない、と心得ておくべきでしょう。

CRS対応、大変ですよねぇ。じゃあ、CRSのない世界に行ってみますか?

CRSのない世界にいざ出発! って、それって一体。。。

このところ、本業もちょっと変わった取り組み方でお仕事をさせていただくことになり、その準備で追われたりする中、その関係で外貨での報酬を受け取ることになりそうなことから、新しく銀行さんとの取引を始めることになり口座開設をさせていただくことになりまして、その書類の準備をしていてふと

あ、日本の銀行開設も CRSがとうとう来たか

と思う瞬間がありました。その横で、関連の会社をケイマン諸島に昨年の頭(2016年1月)に作ったのものの、未だに銀行口座を開けられずにいるのですが、その大きな理由に CRSの影響による会社の関係人の情報開示、というまさにCRSの影響をもろに受けてる管理人ですが、皆様におかれても。。。

CRS、大変ですか?

ですよね。自分の過去のCRSに関する記事を読み返して、ああ、あれって2015年の終わりのearly adoptor たちの話だった、と思い返し、そういえばそのあとの第二陣のころだよなぁ、と思ったら、その第二陣に日本が入っているから今年の1月からプロセスが変わって大変になったんですよ、なんて会話をしているのです。最近。

何が大変かといえば

大変大変、と言いますが、何が大変なのかといえば、口座を開ける側からすればCRSを通じて税務関連情報を提供できるようにするため

  • 本人確認の厳格化
  • 法人に対してはその実質的所有者や影響力を持つ関係者に関する情報の取得(もちろん、それらの本人確認についても厳格に行われる)

により、より多くの情報提供を求められて来ました(ということは口座を開ける側からすれば情報をかき集めねばならなくなった、ので、双方にとって明らかに手間が増えたのです)。しかも、今は入口、すなわち口座開設当初、だけですが、途中での所有権の移動等もあるので今後は定期的な情報更新すら求められることになります。

実例を挙げるならば

日本でも、法人口座の開設の場合には代表取締役の個人情報の提供はまず必須、会社の事業と口座開設目的のヒアリングは当然のこと、税務的観点での居住国がどこであることかの確認、そして法人の直接/間接を問わず影響力をもたらす所有者(この場合25%以上の株式保有を一つの目処としています)に関する情報提供も必須です。
でも、まだいい方です。ケイマン諸島で今銀行口座を作ると、取締役や所有者に関する
  • 銀行からの取引歴を含む紹介状
  • 業界内での評価の高いと思われる人からの紹介状

がそれぞれ必要なので銀行が紹介状を書いてもらえない日本の居住者にとってケイマン諸島での銀行口座の開設は十分ハードルが上がりきった感が出ますが、さらに、本人確認書類の写しに加えて現在の住所に関する情報提供ということで utility bills、すなわち光熱費関係の領収書の提出も求められるのです。しかも、写しの原本証明、かつ日本なら全ての英訳なんかも必要になるのです。管理人の実体験ではないものの、海外でマイナンバーの流出に対する罰則規定が無駄に高いのを知らずに、アメリカの年金番号のごとく軽ーく「日本にはマイナンバーって個人を特定できる番号があるのだからそれを出せ」、とすらいうところもあります。

そうなってくると、自国の銀行に資産を置いておこう、海外には手間かけて開ける意味はないんじゃない?なんてだんだん思い始めてもおかしくないのです。

CRS?うちは参加しないけど、来る?

そんなCRS(と、当然US-FATCA)の要請に対応すべくいろいろな書類をかき集めたり作成する、なんて作業を四苦八苦してやっている横で、LinkedIn 経由でコンタクトをしてきた人が一人。って、まぁ、LinkedIn で繋がってという依頼は結構あるのでそういう当たって砕けていく系か、と思ったら、facebook messenger にまで連絡してきた。しかも興味深いことがちらほら。(以下、カッコ内は管理人の突っ込みというか心の声。)

「あなたのブログを見てCRS 関連の問題を抱えていらっしゃるようですね。(いや、あれは記事にしただけで特にその当時はCRSで問題は抱えてなかったんだけどな。。。)私たちは台湾の保険ブローカーとして20年以上の業歴を持つ会社ですが、台湾は CRSに参加しない国として金融業界の発展を目指すことから、資産を隠す目的の(って、言っちゃったよ。。。)お手伝いが出来るものと考えます。また、日本にまだない保険商品を紹介していきたいと考えています(。。。日本の保険法とか分かってるかな。。。)。今、弊社の人間が東京におりますので一度お会いしませんか。」

で、会って話を聞いてみました。

保険商品のこともちょうど商品分析の記事を書いた後と言うこともあって興味深いのであとで取り上げるとして、まず CRSに関する興味深い話についてまとめてみましょう。

CRSの導入する国、そのタイミングとは

以前のCRSに関する記事では、ジャージー島やケイマン諸島、BVIといったオフショア金融センターで2016年1月から先行導入する、という話を説明していますが、これは2016年1月以降に新規口座開設する者に対する CRSの適用をする、と言う話でした。実際にこの最初の波に乗ったのは 54カ国でこれらの国は2017年までに税務情報の交換が開始できるようにしたのです。

それに対して、2017年1月以降は、日本や中国、マカオや香港、シンガポール、カナダやオーストラリアのような47か国も参加し、2018年までに税務情報交換に参加するとしています。その結果2018年には 101カ国が税務情報の交換が出来る状態にあるということなのです。
ちなみに、日本では2016年12月31日までに開設された口座のうち、CRSの対象取引を行う口座(例えば海外送金を行うことが含まれます)については2018年末までに手続きを完了させる必要がありますので、他国においても同様の追加的情報提供が求められることになるのです。

さて、このOECD のサイトにある参加国のリスト、ぱっと見るとイギリスはCRSに入ったのでUK-FATCAと言いつつリストの中に入っていますが、当然アメリカは入っていません。その他にいわゆる有名どころで入っていない国、ありますね。そりゃ、世界250カ国以上あると言われている中で101カ国しかないのですから、あるんです。その一つが台湾なのです。曰く、台湾は第三の波にも乗る予定がないそうです。

CRSのない台湾、それってどういうこと?

あった人間はマーケティング担当であって税務の専門家ではないのでそこに依拠するのは危険なのでこれは個人的見解での書くことになりますが、まぁ、このブログ自体個人的見解の塊ですので。。。

CRSがなく、日本と台湾の間には租税条約が一つ、しかも日本と台湾との間には正式な政府間の国交がある訳でなく非政府間の実務関係でしかないことから、交流窓口機関を通じて締結された(なので、日本国内では国際条約としての効力のない)ものとして二重課税を回避することの確認だけが定められた条約があるだけです。ということは、日本から台湾の税務当局に対して(もしくはその逆向きにおいて)居住者が現地に開設したと思われる銀行情報の開示を求めにいく合意がなされていない、と解することが出来るのです。要は CRSのなかった頃のままにある、と言ってもいいかもしれません。

そうなれば、確かに口座を開設してもその個人情報を税務当局間で共有することはない、というように考えるかもしれません。それをもって「隠す(hideout)」と言うのですが。。。えっとそれは今どきなので大っぴらに言っちゃいけません(って、彼らは私にだけ言ったのであっておおっぴらに言っているのは私ですね)。

本当に隠せるの?

多分、資産隠しを本気で考える人がこれをみて、いける、と思うかもしれません。でも、個人的見解を重ねるならば多分無理。出国するときの送金先でばれます。いくら外為法の網をかいくぐって100万円以下の送金を重ねたところで、CRSのない国への送金となれば反復的に行えばマークされてもおかしくない、と思った方が安全じゃないですか?
なので、個人的には隠す目的ではなく、その先で何をしたいかで台湾を選ぶべき、だと思うのですが。。。
ということで、CRSの話的には確かに台湾のポジションは興味深いところではあります。本当にそれで資金があつまり金融セクターが盛り上がったら。。。素直にごめんなさいと言って、考え直すかもしれません。でも、どうでしょう。台湾の不動産?台湾をハブに海外投資?うーん。。。

おまけ:で、どんな保険商品だったか

さて、彼らの本題はCRSではなく保険商品を日本にリモートで売りたいそうなのです。ただ、商品性は実は分析した米ドル建て一定期間払い込み型終身保険のそれでした。利回りが少しいい、という違いはありますが。。。
台湾では死亡時の保険金支払いに対する相続税は無税だそうですが、日本では法定相続人一人当たり500万円の控除枠があるので、他の生命保険に加入している場合には使いづらい可能性がある、と言うのは分析の時に述べた通りですが、これの問題点は、保険料の払込期間の生命保険保険料控除の適用外であること、以上に、そもそも海外の生命保険を日本の居住者が旅行先に行ったついでに加入したといって入ることの保険法上の問題があります。保険法では海外の保険会社が日本に参入するには国内拠点の設置を義務付けています。となると、非居住者は現地の法律の適用を受けるからよしとしても、旅行先にいい運用商品があるといって買うことの合法性のリスクを海外の保険会社が負うのか(と言っても、日本の金融当局の監視外の企業ですので何もできませんが)、旅行者が罰せられるのか(罰するってどういうこと?保険業を営むわけでないので法律を知っているとは限らない訳ですし)、ということでなんか扱いが微妙なのです。この点は実はもう少し整理したいところではあるのですが、少なくとも保険代理店のような仲介をしたら確実に怒られそうなのは分かるのですが。。。
いずれにせよ、日本で類似商品が買える以上、あえて海外で買う理由がない、というのが一番な理由になりそうな気がします。。。

インドとモーリシャスの蜜月関係、やっぱり予想通り解消に向かう

なぜハスの花かって?インドの国花なのですよ。
なぜハスかって?今回のお話がインドだから、ですよ。
オフショアで投資をする時のメリットとして、租税条約を使って二重課税を回避するための国選びがしやすい、ということがあります。どういうこと?と思った人、多分多いと思います。何せ、このところの「オフショア、租税回避」というキーワードだと、税金が掛からない国や地域、という言葉が引っかかるでしょうから、その国での租税関係だけがイメージとして強いと思います。

しかしながら、今回のインドのように、ある特定の国からの投資に対してはキャピタルゲインタックスを減免する、とか、アイルランドのように、G7国などに対する投資からの利息や分配金に対して課税を減免する、というように、特定の国の組み合わせを使うことで投資に対する課税のメリットを得ることが出来る、というものがあるのです。

インドとモーリシャス – 多分一番わかりやすい二重課税回避の例

そのある意味一番有名な組み合わせとして結構知られていたのが、実は、モーリシャスからインドへの投資、でした。インドの税務当局がモーリシャス籍の会社などによるインドの会社の株式の譲渡にかかるキャピタルゲイン税に対しては課税を免除する、ということをしていました。この免税措置のおかげで、海外の企業がインド国内への株式投資を行うにあたって、もっぱらモーリシャス籍の会社やファンドを作り、またその会社がインド国内への投資のライセンスを得た上で、インド国内への投資を行っていました。

インドにとってのメリットとデメリット

モーリシャスはここ
インドにとって、この特定の国に対する課税免除の特典というのは、海外からの資金流入・流出を管理するという意味では国を限定して誘導することにメリットがありました。モーリシャスがインド洋に浮かぶ、インドと同じ英連邦の島、ではあるものの、もともとがインド貿易の中継地となるアフリカ東部の島、であったことなどから、インドとの経済的なつながりも太いことや、1968年の独立以降、この島自身のタックスヘイブンとしての役割を相まって、インドへの投資のゲートウェイとして海外から注目を浴び続けてきてきました。

しかしながら、外資流入という比較的成長のための資金を求める国にとって大きなツールというのは、得てして意図しない使われ方にも流用されてしまうのです。しかも、インド政府の高官たちに。なんと、自身の海外拠点の資金をモーリシャスを経由してインド国内に還流させ、株式の売買を無税で行っているケースが後を絶たなかったのです。このため、実はこの5年ほど、インド税務当局は実業としての投資としての実体の少ない、モーリシャスに対する免税措置をやめる、という噂が後を絶たなかったのですが、税務当局以外の政府筋が上記の事情を守るため、かどうかはわかりませんが、免税措置を残すように働きかけていた、という政府内の対立が続いてたと言われています。

今回の影響

2016年5月10日にインドとモーリシャスの両政府が締結した既存の二重課税回避のための租税条約に上記の免税措置を終わらすものが入るとされていて、インド政府側からそのような発表がされました。
これによって、12か月未満の短期保有のインド国内の会社のモーリシャス籍の保有者による譲渡にかかるキャピタルゲイン税が 0%から 15%に引き上げられる、ということです。なお、もともと12か月以上の長期保有のインド国内の上場会社の譲渡にかかるキャピタルゲイン税については 0%となっております。この導入にあたっては一定の暫定期間を置かれるともされています。

で、この結果、日本に持ち込まれているインド株ファンドのほとんどはモーリシャス経由ですので、これによってゲインの 15%をインドの税務署に取られてしまう、ということです。これは結果としてパフォーマンスの劣化、とも意味します。

モーリシャス以外の租税に関するメリットのある国とその影響は?

インド国内への投資に関して、この5年ほど注目を浴びていた国が一つあります。それはシンガポールです。実際にアジアの拠点としてアジア各国のビジネスを統括する拠点に目されるシンガポールですので、シンガポール法人がインド国内の拠点となる法人の株式を取得・保有するのは実務的に行なわれていることでしたので、モーリシャスほど税務当局としても白い目で見ることもなかったのですが、他方で、特にシンガポール籍の LPSなどについては、投資履歴が 2年経つまではシンガポール国内での課税対象にもなるため、シンガポールからの PEのために使われると期待されていた LPS のニーズはさほど増えなかった、と記憶しています。
とはいえ、租税免除のメリットはあったはず、なのですが、今資料を見る限りでは、今回のモーリシャスとの租税免除の解除と同じくシンガポールとも(見直しと再交渉がなければ)租税免除が解除される、そうです。
従って、どのルートを使っても、今まで享受してきたメリットはなくなる、ということのようです。

まとめ

世界的な課税強化の流れを受ければ、今回の決定は当然のことでしょうけれども、なかなかこれでインド投資への影響が出るのだろうとは予想しています。実は今、インドのファンドマネジャーと商品設計をしているのですが、彼らのシンガポール籍のファンドは最初からこの短期投資に対する15%のキャピタルゲイン税の課税を行っていたので、モーリシャスだけでなくシンガポールも閉じられたとしても、パフォーマンスの劣化はここからは発生しない、ということのようです。

[追記: 17/May/2016] この話をよく寝たあとに数か所でし始めている(上記含めて、大抵記事は夜中に書いておりますので、誤字脱字以上に論調もおかしい時があります。。。)と、脳が動き出したからか、別の側面での意図がみえてきたので忘れずにアップデートすると。。。

元々12ヶ月以上の保有後の譲渡についてはキャピタルゲイン税は非課税で、それより短い期間の保有の場合の譲渡のキャピタルゲイン税が本来は掛けるところを免税にしていたのを免税解除とした、訳ですので、海外投資家に対して長期保有に誘導したい、という意図が働いた、のだと解する方がすんなりいきそうです。特にインドへの海外からのアクセスについてはシンガポールよりもモーリシャスが大きいことを踏まえるならば、その影響はパフォーマンスよりも保有期間やそのための保有銘柄の選別条件の方に更に大きくなると考えられるでしょう。

ですので、短絡的にネガティブとみるよりはより長期保有でバリューアップを狙える運用スタイルに多くの運用者がシフトするのかもしれません。

パナマ・ペーパーで大騒ぎしてますが、これの本当の問題ってなんですの?

レポートを見てなにを舞い上がるのか。。。
レポートを見てなにを舞い上がるのか。。。

これを慌ててアップしようとしている今日(笑)、その日本時間の早朝(2016/May/10日本時間午前3時)に、いわゆるパナマ文書、とかパナマ・ペーパー、とか言われるパナマの法律事務所から流出されたとされる文書の全貌が公表されました。

あ、ちなみに、一通り見ましたが、ごく普通の人、なんだろうなぁ、という日本人の名前が1000人近くさらされているのもどうなの?と思ったりしましたが、念の為確認しましたが私の名前はありませんでした(笑)

台湾が Province of China という扱いなのに怒っている人がいるだろうな、ということと、日本にいるとされる外国人の名前の多さ、そして多分、知人ひとりの名前を見つけたのはさておいて。

オフショアのファンドを生業の一つとしている私的には、変な風評被害になりかねないなぁ、とずーっと気になっていることではあるものの、なんで世の中がこれにそんなに騒ぎ立てているのか、本質じゃないところで騒いでるようにしか見えないので、「擁護するとはけしからん」という声が聞こえることを前提に、ちょっときわめて個人的な視点でまとめてみようかと思います。

ちょっと注目してほしいと思っている点

  1. どういう訳か顧客の情報機密性の高いはずの弁護士事務所、しかもパナマなんてオフショアの金融センターとしては極めて微妙な国の法律に携わる事務所から情報が出た、というのが個人的には何かしらの悪意があるようにしか思えない。実際、これをリークしたのがジャーナリスト集団ですので、別の意図で追いかけていた流れで見つけたんでしょうけど。。。言い換えると、情報自体が盗難品の可能性があるわけです。信ぴょう性はあるでしょうけれども、その情報ソースと取得方法について誰も違法性を問わないのはなんでしょう。クラッカーたち(世の中的にはハッカーと呼ぶでしょうけど、IT geek 的には人様のサーバーに不法に入りこむ連中はハッカーではなくクラッカーと呼ぶべきと、20年以上前から主張してますので、わたくし。。。)による被害、とされていますが、この連中はいったい誰に頼まれたのか。。。
  2. 確かにパナマは 2000年までは FATF (Financial Action Task Force) のブラックリストに、つい今年の2月まではグレーリストに載っているほど、反マネーローンダリング/反テロリストへの資金供給に対して協力的ではありませんでしたが、今では協力的になっている(というより、最近の方向転換を歓迎されてグレーリストから外れたばかり)なので、いわゆる US/UK FATCA や CSR (Common Standard Reportings) を通じての税務情報交換協定に協力的。ということは、ここに記されている、アメリカが指定した独裁国家の独裁者の家族、のような人を含むいわゆる各国の政府高官関係者など (PEPs: Politically Exposed Persons、ってこの間の記事で紹介しましたよね)が今のこの時代に自己の資金管理のためのオフショアの会社などを作り、取引口座を開ける、というのが難しいのが今のルール。この間ファンドを作った時ですら、かなり厳しい手続きを求められました。言い換えると、ここに名前が上がってきている諸国の政府高官から大金持ち、セレブリティたちは、昔のヨーロッパの富裕層が資金とその秘匿性を守るために作った仕組みに乗っかって、20世紀後半から21世紀の最初の7年の間にその当時のルールに基づいて行ったことの結果である以上、その当時の居住国と口座開設国の双方の国での法制度上の問題点や現在の法制度との違いを問うことをせずに、後だしジャンケンで、今の世の中で解いている倫理上の問題点を突き上げて資産隠しで税金逃れ、といるとみることが出来ます。ぶっちゃけ、最近かなり増えた、自分のその瞬間に感じた主観だけが正義と大声で言えば通ると思い込んでいる、よくいる近視眼的な連中と変わらない、というか、時代遅れの情報を引っ張り出して騒いでいるゴシップと変わらないようにしか見えませんが、そういうと怒られるのかな。
  3. 以上のことをここではパナマに限って話しているものの、私たちが普通にファンドを組成するときのように複数の国の複数の投資ビークルなどを組み合わせた投資スキームを使うのは(日本国内で売られている公募投資信託ですら)普通のことなのです。しかし、パナマ・ペーパーで「も」パナマ以外のオフショアの様々な関与をつまびらかにして、オフショアがいかにお金に汚らしいか、のように見せてますが、オフショアとオンショアを結び、オフショアとオフショアを結び、オンショアとオンショアを結ぶ、世界中の銀行と中央銀行をつなぎ合わせたお金の流れるネットワークは、今や世界中の情報の流れを一手に担っているインターネットと同じ社会インフラであり、またこれと対比する説明をするならば、ウェブサーバーが情報に意味づけをして再配信する役割をするのと同じように、ファンドなどの投資ビークルなどはお金がその力を特定の目的のために使われるように集めて利用する役割を担っているわけです。そこにはオンショア/オフショアの違いはなく、利用する人の意図によって使われ方や影響が大きく変わる、というのは情報インフラであるインターネットが誰もが分け隔てなく使えるがために、人助けにもテロリストの情報発信にも同じように使われるのと変わりがない、のです。(これも怒られるんだろうなぁ。(笑))
  4. ちなみに、今回オフショアの舞台としてあげられている国として、パナマはもとより、BVI、バハマ、(あと、本ブログでもご紹介したベリーズか(笑))のようなカリブ海の島々だけでなく、香港、セイシェル諸島、ジャージー島、ガーンジー島、マン島といった英連邦系オフショア地域、マルタやキプロスのようなEU 加盟国でもファンド設立に使われる国、シンガポール、そして、ニュージーランドやイギリス、ワイオミング州といった、一見オンショアのはずなのに非居住者が設定すると非課税になるメリットを生かせるスキームの存在するオンショアまで、縦横無尽に使われていることがわかります。が、実は日本の信託勘定も非居住者が設立して使うと非課税のメリットがあることが海外では知られています。なので、オフショアがとかオンショアが、という観点で租税回避地をつるし上げるのは早計ではないかな、と。
  5. ちなみに、今回ケイマン諸島とバーミューダがほとんど出てきてませんが、前項のそれぞれの国のビークル管理の観点で比較するとこの二つの地域は個人資産を抱えるには維持費などがかかりすぎる、ので敬遠されていたのかもしれません。

で、結局これで得するのは誰?

各国の税務当局だけ、な気がしてるのは私だけ?でも、こんな租税回避地に逃げたいと思わせる課税ルールを作った自分たちの結果、という反省がないんですよね。ええ、私は働いた人たちが正しく報われて、かつ社会インフラの費用は国民全部が公平に負担する仕掛けを作るべき、と考えているフラット・タックス信者ですので、こんな累進課税の結果のなれの果て、である今回の騒動については、すべては課税ルールが悪いから起きただけじゃねーの、くらいにしか思ってません。はい。
とまぁ、久しぶりに、個人的なブログで書くぐらいの私的感情丸出しになりましたが、ゴシップの人たちから比べれば公平性を保つように書いたつもりですのでご容赦を。

[追記 10/May/2016 23:51 JST]

ちなみに、interactive 版で企業名や名前を入れると関連するオフショアでの会社や他の関連する人物などが図示されます。ある意味わかりやすいのですが、わかりやすすぎて個人の住所とおぼしき情報まで出てきますので、正直こんな社会的制裁を加えることに疑義を覚えずにはいられません。

財産債務調書ってなんじゃ、と確定申告を作ると気付いた人、少ないと思いつつもちょっと書いてみる

そろそろ確定申告の季節ですね
そろそろ確定申告の季節ですね

もうそろそろ確定申告の季節がやってまいりますが、皆さん、ちゃんと一年掛けて準備しましたか?山のような生損保の支払い証明書と源泉徴収票、そしてふるさと納税の領収書に、医療費の領収書、ローンの残高証明書などなど、そんな書類の山と確定申告ソフトとにらめっこ、ですかね?

私もまんまそんな感じで、ちょうど今、自分の分の作成が一旦終わりました。でも、毎年のことながら、国税局のサイトの作成ソフトはよく出来てますよねぇ。正直なところ、外部のソフトを買って使う気がしないくらい、毎年ちゃんと法令等に対応して(そりゃそうだ)いるので、いろいろと遊んでみるのですが、今年ちょっとあれ?と思ったことがあったので、関連する人がどれくらいいるのかわからないのですが、そんなお話です。

財産と債務の明細書がなくなった?

よく考えてみると、こんなソフトを使って確定申告を作る人って

  • 医療費控除で所得税を取り返そうとする人
  • 住宅ローン控除で所得税を取り返そうとする人
  • ふるさと納税の控除を使って所得税を取り返そうとする人

が、基本的なところだと思うのですが、世の中にはこんな人もいるんですよねぇ。

  • 年収が2,000万円を超えるので年末調整しても確定申告をしないといけない人

ちなみに、26年の給与所得者の平均年収は、国税庁の調査によれば 415万円、だそうな。となると、ここに該当する人って何人なのかといえば、同じ資料を見ると、20.6万人、全体の0.4%程度、ということで、いるといえばいそうで、まぁ、普通に考えるとそんなに縁がなさそうな世界、かもしれません。

確定申告書、あれこれありますよねぇ。。。

が、このレベルの人たちに対して、どういうわけか平成26年度まで、確定申告の際に「財産と債務の明細書」という資料の提出を求めていたんです。何かといえば、確定申告でフローに当たる年間の所得についての開示を求める一方で、ストックに相当する自分の保有する資産と負債も開示するようにしていた、ということなんです。

で、もし覚えている人がいれば、ですが、昔々、高額納税者番付なんて言うものがありましたよね。あれでいくら税金を納めたかも公開されていたので、前年の年収もある程度逆算できる、なんて下世話な制度だったのですが、さすがにあれは誘拐とかも起こるのでやめたものの資産と負債については税務署にだけは開示を求めていたんですね。実際に国税庁のプログラムでもこの明細書が出てくるんです。

でも、今年、普通にこんな人たちのシナリオで確定申告資料を作ってみたら、出てこなかったんです。

財産債務調書の創設

平成27年度から、これまでの「財産と債務の明細書」に変わる制度として導入されたのが「財産債務調書」と呼ばれる資料の作成・提出義務。この対象となるのが

  1. 所得税等の確定申告書を提出しなければならない方で、
  2. その年分の総所得金額及び山林所得金額の合計額(注1)が 2 千万円を超え、かつ、
  3. その年の 12 月 31 日において、その価額の合計額が3億円以上の財産又はその価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産(注2)を有する方

は、その財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項を記載した財産債務調書を提出しなければなりません。
注1) 申告分離課税の所得がある場合には、それらの特別控除後の所得金額の合計額を加算した金額です。ただし、①純損失や雑損失の繰越控除、②居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除、③特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除、④上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除、⑤特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除、⑥先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除を受けている場合は、その適用後の金額をいいます。
(注2) 「国外転出特例対象財産」とは、所得税法第 60 条の2第1項に規定する有価証券等並びに同条第2項に規定する未決済信用取引等及び同条第3項に規定する未決済デリバティブ取引に係る権利をいいます。

で。一体、それってどういうこと?

さて、何のこっちゃ、縁もない話だし、と思って流さずに、もしもそれだけ稼げるようになった時に困らないようにちょっと頭に入れてみましょう。
そもそも、条件の最初の二つで、確定申告しなければならない、総所得金額と山林所得金額の合計で、となってますが、そこに分離申告課税も含める、ということは、株式譲渡とか不動産譲渡の譲渡益で荒稼ぎした時にも引っかかる可能性がある、ということ、です。ほら、気をつけないとやばそうですね(笑)

ただ、資産評価額として3億円以上、もしくは「国外転出特例対象資産」で1億円以上持っていなければ対象にならない、そうなので、ひとまず安心、という人も増えたかもしれませんが、逆に、代々からの引き継いだ土地を持ったまんまだった、という人だと引っかかる可能性がありますね。しかも、「国外転出特例対象資産」というのが、端的にいえば株や債券、投資信託あたりなどを指していますから、株で大儲けしつつ、雪だるま式に膨れ上がったポジションが残っていると引っかかる可能性がある、ということでもあるんですね。確かに、株や債券、デリバティブのポジションなら非居住者になるために国外に持ち出して売り払うことで譲渡益に対する課税を逃れることが可能になりますからね。

で、このルールで何がしたいの?

ということで、なんとなく、この制度の目的が見えてきましたね。そうなんです。この数年、相続税に対する強化が進んでいる中で、相続税を逃れるために資産を海外に移転させる人たちが増えている中で、すでに国外に持ち出すときに資産に課税するルールが導入されていますが、その前にある程度捕捉しておきたい、ということの表れなのでしょう。その意味で資産を持っている人に絞り込んだ、という解釈も出来そうですね。

実際、世界的に US/UK FATCA が導入された背景に、先進国諸国から所得税や相続税を逃れるために資産を持ち出して、かつ非居住者になろうとする人が増えていることに対して、逃げ出せないようにしつつ、海外にすでに移転した資金の流れに対して非居住者のふりをしてコントロールしているようなケースに対応したい、ということがあるのです。ですので、ある意味今回のルールの改正はそこに海外、特にCRS、と歩調を合わせている、と思えば納得の行くところかもしれません。

が、悩ましいですよね。給与所得者の 0.4% の動きを捕捉してどれだけ税収に影響があるのか、という話のはずですが、そこが無視できない、という現実が各国の税務当局を動かしている、という事実でもあるわけですので。。。富の偏在化、と言われれば、それまで、かもしれませんし、それを持って金持ち批判するべき、とも思えないのです、個人的には(それは彼らが税収を支える人たちなのですから、非難して国外に逃げられるとダメージが大きい、という裏返しでもあることに気付くべきなのですが。。。)。

ということで、まぁ、こんな議論、気付いたら FPな話と思ったら、ファンドの世界の流れにもちゃんとからめて面白かった、と思っていただけたら感謝です。

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