オンショア・ファンドとオフショア・ファンド、どっちが信頼が置ける?

業界関係の方は既にお聞き及びの事かと思いますが、私、このたび会社を辞める事になりました。詳細は文章に残すとあれこれ面倒でもあるので、お会いした時にいろいろとお話し致しますが、そんなご連絡をさせて頂いている最中に、そんな事とつゆ知らず、私の社会人最初の会社の先輩であり、投資業界においても先輩であり、学生時代も実は似たような勉強をしていた、実はほぼ年齢は同じ、という吾人よりお電話を頂戴したのです。

お電話の内容は。。。おっと。結んでませんが機密情報にあたると思うので多くは語りませんが、実はこの吾人、このお電話に先んじて、私の夢の中でとある質問をし、かつ熱く語った、という私だけしか知らない(当然、当の本人もご存じない)話がございます。

その際、私がリアルに知る限りにおいてはこの吾人がそのような意見に加担するとは到底思えない展開だったのですが、夢の中ならば何でもありの世界。仕方ありません。でも、ここはリアルな現実。ならば、ここでは私が熱く語ってもいいですよね(笑)その質問とは。。。今回のタイトル、

「オンショア・ファンドとオフショア・ファンド、どっちが信頼が置ける?」

なのです。この先に進む前に、一応心の中に答えを持っていてくださいね。では、すこし暑苦しいブログ上の語りにお付き合いくださいませ。

オンショアとオフショア、それぞれのイメージから比較しましょう。

さて。オフショア・ファンド、そもそも、信頼が置けるかどうか、というのは、イメージの問題に依存するケースが大きいように思えます。そもそも、オフショアというと、前回の記事にあったような、

金融がなかったら、ほぼほぼ観光と酪農だけの小さな島々。人口だって10万人行くか行かないか。下手すれば現地の牛の方が人口より多いのでは(実際多くないのですが。。。)。しかも、人を外部から呼び込みたくないから非居住者への免税措置を増やしているのだから、金融当局だって少人数で機能しないだろうし、ということは当局の規制なんて機能しないかゆるゆるか。そうしたらやりたい放題じゃないの?

って感じですよねぇ。それに比べてオンショアというのは

日本を見れば一目瞭然。金融当局は常に登録業者の検査や監査などを要求してその業務に怪しい事がないか目を配り、常に毅然とした態度で市場と向き合っているのだから、悪い事なんで出来るはずはない。だから、怪しいところなんて見つからない!

なんて思ってません?特に自分の国ですからねぇ。。。

見た目だけが全て?本当?

でも。

MRI みたいなアメリカや日本で詐欺まがいのファンド商品の設立やその被害の話、聞きますよね。
最近話題の、六三業者、あれ、金融商品取引法の特例業務の裏をついた仕組みですよね。
AIJ 事件まで、運用助言業者への立入検査はなかったですよねぇ(ぼそっ)
Madoff 事件、あれ、アメリカ合衆国のSEC 登録運用業者だったよなぁ。。。

などなど。オンショアとオフショアをまたがったスキームも含めて、オンショアだけが何も起きなかったか、といえば嘘になりますよねぇ。というか、詐欺師は業法の外からやってきますよねぇ。。。

無論、オフショアだって、一人の人間が 100や 1000の会社やファンドの取締役として登記されているケースがあるので、この人が果たして適切に取締役として機能しているか甚だ疑問がありますし、取締役の不作為と能力の欠落に端を発した問題として Weavering case というのがあって取締役の仕事と受任できる資格とは、というような話になっている位ですので、当然問題がなかった訳ではないのです。当然、過去においては詐欺事件等があったことも事実です。

しかし、単純に、オンショアが良くて、オフショアが駄目、ではないことだけは上記だけでも十分わかって頂けると思います。むしろ、どのような投資対象で、どのような投資家で、誰が運用者で、という所に対して適切な投資スキームと現地での法規制にあわせた登録レベルを選ぶ事の方が大事なのです。

ということなので(夢ネタなのに、うまくつないでますが)、次回以降、投資スキームとその関係者、それぞれに対する規制などについてゆっくりじっくりと解説・検証してみたいと思います。ではでは。

日本でオフショアというと、ケイマン諸島となりがちですが。。。なぜ?

皆さんこんにちは。

emichanproduction であれこれ書いていましたが、内容の整理を含めて、金融、特にオフショア・ファンドやその動向等については、こちらのブログでまとめていこう、と思い立ちました。あれこれテンコ盛り、は個人的には好きですが、どうもそういう人ばかりではないようなので(笑)

写真はケイマン諸島ではないですが、こんなイメージをしますよね?

なぜケイマン諸島?

さて、その栄えある第一回ですが、ちょうど書いている本日、プライベート・エクイティやベンチャー・キャピタルの世界ではなくてはならない方から、こんな質問を頂戴したのです。

「オフショアでタックスメリットを取ってファンドを組成する場合に、ケイマンの他、デラウェアなども考えられるかと思いますが、一般的にケイマンを選択されるケースの方が多いように思うのですが、それは何故なのでしょうか。レギュレーション等で多少違いがあるように記憶しているのですが。。。」

ですよねぇ。他にもオフショア金融センターなんて幾らでもあるじゃないですか。でも、なぜか最初に出てくるのはケイマン諸島。なぜなんでしょうねぇ。

ということで、そんな疑問について、ちょっと考えてみました。

そもそもオフショアとは?

日本から見たオフショアのファンド設定地の著名なところは、やはりケイマン諸島が最初に名前が出て、その他に、バーミューダ、ブリティッシュ・バージン諸島(BVI)あたりが出て、その他、(我らが)チャネル諸島ジャージー島 / ガンジー島、などが出てきますが、この他にも、オランダ領アンティル、マレーシア・ラブアン島、ミクロネシア、モーリシャス、セイシェル、香港、シンガポールなどなど、いわゆる非居住者にとって税制面でのメリットからファンド設定地として使う事が可能ではあるけれども。。。という所は結構多いのも事実です。

それに、オフショアでなくとも、アイルランド、ルクセンブルク、そして前述のアメリカ合衆国デラウェア州、といったいわゆる先進国に入ってくるような、オフショアに対比されるオンショアというでも、国際的なファンドを立てる選択肢も当然あります。

他にもたくさんあるのに、なぜケイマン諸島?

なのに、なぜ、日本だと国外でファンドを作るとなると、まずケイマン諸島籍を考える事になるのでしょうか。

法制度の優位性

法制度としては、実はケイマン諸島のファンド関連法の基礎はバーミューダのファンド関連法の大半をコピーした、とされています(ただし、バーミューダ自体が<2007年4月にファンド関連法の枠組みを大きく変更してしまったので、そのオリジナルというのはあるようなないような、という状態にはあります)ので、ケイマン諸島とバーミューダ、あと似たところでBVIを比較するとこの3つの地域はそう違いはない、と思えてきます。

とすると、それ以外の違い、ということになるのですが。。。

一つには日本の法制度における歴史的経緯が大きく影響していると考えております。
1990年代に海外のファンドを持ち込むという時には、普通にジャージー島籍のファンドも持ち込まれていましたし、ルクセンブルク籍やアイルランド籍、私の過去の実体験ではフランス籍のファンドも持ち込んでいました。当時は、個別に投資対象や税制等を考えてプランして、当局に届け出ても案件ごとに設定地にも問題がないか確認する事がほとんどだったように記憶しております。

公募の世界で、ですが、2004年に当局への届け出の方法が電子的な形 (EDINET) に変わったことでファンドの設定地として一度当局に持ち込まれて通れば基本的には再確認の必要がないため設立地の「相乗り」が可能になるという状態が生まれた事から、誰かが既に通したファンド設定地を使う、というメリットが使う側に生まれました。その意味では、ケイマン諸島、バーミューダ、アイルランド、ルクセンブルクがほとんどで、あと BVI もあったのですがここはライブドア事件の簿外取引の舞台になった事からそれ以降当局が許さなくなった、とされる背景があります。

バーミューダも 2007年の法改正の後、既に類似の法制度のあるケイマン諸島がある中でバーミューダの新しい法制度を当局にチャレンジするメリットを誰も見いださない事からほとんど見なくなりました。ちなみに、ジャージー島は、元々プロ向けのファンドを作る法制度にある為、公募ファンドを作る時でも最終投資家の身元確認が必要となるため日本の外国籍投資信託のストラクチャーでは対応し切れないので公募に向いていないことから公募ファンドに使われたことがありません。

ちなみに、この裏側には、ファンドの設定地を拠点とする法律事務所と日本の法律事務所の間のつながりの深さ、も実は影響していたようです。ファンドを誘致したいケイマン諸島やルクセンブルク、アイルランドは2000年を前後して、現地の弁護士事務所と日本の弁護士事務所との間で人事交流が進んで、相互理解を深め、さらには法務作業を円滑に進めるべく現地の弁護士事務所が現地当局に働きかけをする事で、より日本の法制度に親和性の高い枠組みを作れるようにしていく、という当局と民間の間の対話が進められていたのも事実です。

ですので、ファンド設定地の寡占状態は実は弁護士事務所の寡占状態も作り出すという感じでもあるのです。

で、以上は公募の世界ですが、案件数としては私募もそれなりにあるものの、このあたりの規制の考え方等は自然と公募の影響をうけますので、実績の多いところにだんだんノウハウも人の理解も集中してきた、というトレンドが出来上がったようです。

金融センターの立ち位置

二つ目に、オフショア・センターの中の、ケイマン諸島の立ち位置があります。

実際、ヨーロッパへの/からの投資を考えた場合に、案件の実績数を見るとジャージー島やガンジー島の方がメジャーです。これも、ヨーロッパの歴史的背景に基づく結果のようです。ですが、アジアやアメリカからの、という視点になると、日本同様にケイマン諸島が多いそうです。

このあたりは、非居住者への税制がパススルーであるケイマン諸島が世界的な投資資金のハブというか入り口となって集約することで、大きな流れとしての資金の集約化と投資への効率化が進められているようです。他方、特定の国や地域との間の租税条約上のメリットのあるオフショア・センターは、その投資先の国や地域に対する法制度/>税制面でメリットを活かしたゲートウェイに徹することがある意味オフショア・センター間の競争で生き残る方法になっているようです。

その結果、オンショアの投資資金がファンド・オブ・PEファンドのように一旦ケイマン諸島やジャージー島などの税制上ニュートラルなオフショアに設定されたファンドに集まり、同様にオフショアに設定される特定の地域やテーマに基づく投資の為のファンドに入った後に、投資対象の地域に(例えばインドならばモーリシャスやシンガポール、中国なら香港のような非居住者にとっての税制や外国為替規制上のメリットのあるゲートウェイを通じて)流れていく、という分業の構図が出来上がってきたようです。

無論、このケースですと、日本と投資対象国との間の租税条約上のメリットを活かせない、という声も普通にあがります。
ですが、上記の考え方は複数国からより多くの資金を集めて運用することを考えた場合の最大公約数としてのメリットの追求ですので、あとは、個別の投資家の為のカスタマイズ(セパレート・アカウントや共同投資/コ・インベストメント)と上記のようなものとの間での全体での費用対効果の面などの観点で棲み分けが進むように思われます。
その意味で考えると、日本発の投資案件で使うケイマン諸島籍ファンドの使い方は、それでもセパレート・アカウントにより近い性質があるので、常に他のファンド設定地と税制面などの比較をされ続ける可能性は否めません。

ファンド組成でのメリット

三つ目に、ファンド設定の時の柔軟性の高さが他のファンド設定地より高い、という特筆すべき点があります。というのも、例えば、

  • 免税ファンドを設定するのに、ファンド設定地の当局に登録/認可を受けたファンド関係者の数がケイマン諸島だと監査人ともう一つ程度(ユニットトラストだとトラスティ、LPS だと。。。下手したら不要)。そのお陰でアドミやカストディ、管理会社や運用会社を世界中の好きなところにいる会社に委託することが可能になります。これが、例えばアイルランドだと、GP会社の取締役の複数名が居住者でないと駄目、アドミもアイルランド籍の会社でなければ駄目、要はアイルランドに雇用を生まないものは駄目、など、結構うるさいです。
  • ファンドの契約書類等の当局への提出について事前の当局によるレビューが不要。実はオンショアのルクセンブルクやアイルランドはもとより、オフショアのバーミューダですら、ファンド設定の2-4週間前に最終ドラフトの提出と当局によるレビューと修正が入る事があるので、ファンドの設定のスケジュールが読めない、という不確定要素を含むことになるのです。一方ケイマン諸島ですと、ケイマン諸島法の弁護士による契約書の実効性、正当性等の法律意見書と(国際的な銀行等)著名なスポンサーの発行するスポンサーレターの提出で大抵は受理されて、後日修正、というのはほぼなし。その分、一緒に働くべき弁護士事務所を選ぶ必要も出てきますが、その結果、過去には2週間でファンドを設定したなんてこともあります(二度としたくないですが。。。)。他方、事前レビュー等がないため、ファンドの登録完了の証明となるライセンスの受領が4-8週間後ですので、その間、本当にファンドが適切に登録されたのか、という微妙に不安定な状況にあることになりますが、ファンドの運営上は問題がないとされています。

というところで、色々な意味で使い勝手がそれなりにあることでケイマン諸島に案件が集まりやすくなっている、と言えるかもしれません。

念のためのディスクレマーを。。。

あ、ちなみに、実務からの経験則で書いていますので、法規制等の背景に付いては微妙な誤りや時代的なずれがあるかもしれません。そのあたりは読者の皆様の責任にて上記を踏まえて頂ければと存じます。ではでは。

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