なぜ、ファンドが AML/KYCをしっかりやらなければいけないのか?

のっけから国を敵に回す発言で、このブログの存続を危ぶませる感じなのはいつもの通りですが、FPな私でなくてもいうことだと思いますが、誰にとっても、稼いで食べて、貯めて買って、持って使って、という一般的な暮らしをするにあたって一番の敵、といえば、税金、です。稼げば(5%から40%以上の)所得税(に10%の地方所得税)、慎ましやかに家で食べるための食費を使えば(8%の)消費税、趣味のアイテムなんて買えば(10%の)消費税、今のところ預貯金に税金は掛からないもののその利息にも(20.315%)所得税が掛かっていて源泉徴収されているし、不動産を買えば不動産取得税、保有していれば固定資産税、売却すれば売却益に所得税、株や債券も買って売れば売却益に(20.315%以上の)所得税。

IDECOは無税じゃないかって?あんなものは将来の年金所得の時に所得税の一つ、雑所得に繰延されているだけ。だからみんなNISAを使おうとしているけど、その上がりで美味しいものでも食べたり、車でも買おうものなら、そこで税金が掛かるから、そんなものは一時のまやかし(笑)でどこかしらで何かしらの税金に引っかかり、そして、万が一、それら諸々のトラップのごとく張り巡らされた税金の網の目を潜り抜けたとして、死んでしまえば三途の川の向こうに物理的な(勿論、あの世に電気とインターネットと巨大なサーバー群があるとは思いませんのでデジタルなものも含めて)お金を始めとするあらゆる資産を持っていけないので、残された遺族が代わりに(借金もろとも)引き継ぐわけですから、今や10人に一人以上の確率で相続税が発生して最大70%の税金が掛かる、という始末。この税率を見ていると、ファンドの運用報酬はおろか、ファンドアドミの費用なんて無視してもいいくらいに思えてくるのです(笑)

ちなみに、この税率というのは、生まれたての赤ん坊から100歳を過ぎた方まで、今時の言葉で言えば「広くあまねく例外なく平等に」日本国において生活する人全てに適用されるのです。もちろん、年齢に差がない、ということは、当然職業にだって関係がない、のです。

とすると、です。汗水垂らして事業リスクと自分の資産にリスクを負いながら成功して巨万の富を得た人も、同じように汗水垂らして、非正規雇用として時給ベースでがっつり勤務時間に比例して働いて稼ぐ人も、会社に正規雇用として腰掛け程度に座りながら朝からひなが日経とスマホ漫画とネットニュースを読んで気づけば1日が終わって給料を頂く人も、生まれながらに引き継いだ資産が勝手に日々の生活を支える以上の収益を生み出してくれている人も、そして、警察に捕まって有罪判決を受けて刑務所で数年間生活するようなリスクと引き換えに得られる報酬を得ている人も、何かしらの所得を得ている限りは日本の所得税法に基づいて納税義務が(とはいえ、後者が、個人事業主として青色申告の届出をするかどうかはさておき、事業収益として納税をしているのかはもちろん大きな疑問ではありますし、仮に納税していたとしたら、この記事の核心の一部が崩れかね。。。ないことはないか。多分。)発生します。で、納付された税金には色はなく、国の歳入として国としてのあらゆる経済活動のために利用される、のです。

とはいえ、です。終電で泥酔した人の懐から落ちかかった財布を抜き取る窃盗で得られた資金から、治安の悪い⚪︎学生でも出来るようなカツアゲと呼ばれる恐喝から商品に手を出さないという強い精神力を求められる麻薬の売買などの不法に売買することで得られた収益、はたまた公序良俗に反した(人身売買からプライバシー侵害、果ては誘拐、殺人までの)契約に基づく報酬というのは、その資金の発生の裏付けを踏まえるとなかなか使えるところ、というのが限られるものです(なので、犯罪収益をご丁寧に納税するバカがいるのか?という先ほどの疑問にたどり着くのです。とはいえ、アル・カポネは脱税で捕まった訳ですので、国としては場合によっては収益を上げたならなんでも課税する、と考えてもおかしくはないかもしれませんね)。

例えば、よく現金は足のつかない決済方法だとして紹介されますし、アタッシュケースに入れた巨額の塊を怪しい埠頭の倉庫で怪しいものと物々交換に使う、なんて光景はちょっと前までの映画の中では常に使われていたのですが、銀行券にはユニークな番号が振ってあるので、その昔、手っ取り早く稼ぐ方法として流行った銀行強盗で得られた札束がどこで使われたかをその銀行券の番号から割り出すことが可能です。ですので、実は現金というのは「足のつかない」決済手段だと思われがちですが、時と場合によってはそうも言えない、のです。とすると、どうしても、このような資金を使って警察と税務署の目の光る世界ではちょっとした洋服なんてものも買えず、もう一度麻薬の仕入れに使ってはさらに売り上げを増やすなど、次の「お仕事」のための仕込みに使うしかなくなるのです。

でも、それを元手に違法というリスクを負いながら仮に成功して巨万の富を得ても、最終目的としての富として自由に使えないのでは何の意味もなくなりますよね。当然、世界中のあちこちに神の目のごとく警察と税務署がいるはずもないので、犯罪で得られた収益をそのまま使うのではなく、後ろめたさのない普通の資金になるように犯罪という泥を洗い流す資金洗浄 – マネーロンダリング – を行なって、何食わぬ顔で(あなたと同じ)善良な市民と同じような資金源から得た資金にして、外車を乗り回しては高級腕時計が手首で控えめに自己主張をしながら、といった、本来の欲求を満たせる形にしたくなるのです。

もしかしら、こういう例をお話しした方がわかりやすいかも知れません。

国内の、とある片田舎の、(だから当然)人気のない、ただっ広い畑のあざ道を歩いていたら、どう言う訳か目の前にお財布が置いてあって周りには誰もいません。もちろん、リアリティ番組のようにどこか遠くで(もしくは、畑の中に当然生えている野菜に隠れて)(望遠でも、監視でも)カメラでこの財布を狙っているカメラもぱっと見回しても見えません。ほっ、これで一安心。と言うことで、足元にある財布を手に取ると、おっと、一万円札が5枚ほどだけ。今時ならありそうなマイナンバーカードも運転免許も、もちろんクレジットカードもキャッシュカードも、果ては病院の診察券や数時間前に行ったコンビニのレシートのような紙切れすらありませんので誰のものだか全くわかりません。となると。。。残るはもの心がついた頃からあなたを見守り、背中を押し、時としてあなたの行動を押し留める「あなたの良心」です。が、まぁ、ここは話の都合でそれがいなかったので経済的優位性が優先したことにしましょう。

その5枚の一万円札をそのまま自分の財布の中に入れて、既に入っていた5000円札と1000円札3枚と昔からのお友達にしましたが、なんだか心が落ち着きません。ふと、畑の外れに見える市道の先にパチンコがあったことを思い出します。そこには、最近ケーブルテレビで攻略法を見たばかりのCR機があったはずなので、そこでその攻略法を実践してみようと思います。ほら、元々なかったはずのお金ですから負けてもなかったことにすればいいのです。

でも、確率論ってこう言う時には正しく働くんですよね(笑)攻略法がその名の通りの仕事をしてくれたので気づいたら5万円が10万円になり、調子にのって別の機種でも勝てる気分になって5万円突っ込んだら綺麗に負けちゃいました。で、なんだかんだして駐車場の片隅にある商品交換所を後にして手元に残ったのは、入店時と同じ58,000円と、ちょっとしたチョコレート。だけど、パチンコ屋で勝ち負けを両方味わったことで、さっきまでの、それでも(話の都合上ではあるものの)なんとなくどこかにあった良心の呵責はどこへやら、自分の気持ちが気づいたらスッキリしたことに気づきます。で、改めて財布を見ると、ああ、これがパチンコで勝って負けての結果だよね、と、なんとなく納得してしまっています。

その後、飲み会があったのに気づいて、飲み会に参加すると、なんとなく羽振りがいい感じになっている自分がいて、それを友達が聞きます。

「いいことあったの?」
「パチンコでそこそこ勝ったんだよね」

と言うことで、拾ったとはいえ不法に得た資金が気づいたら(それでもまだなんとなく合法な)パチンコで(負けもしたが)勝って手にした資金にすり替わってしまいました。それなら、なんか飲み会でちょっと余計に払ったとしても後ろめたさも消えてしまっていますね。これがマネロンです。あれ、マネロンっていわゆる広域ほにゃらら団だけの話なんじゃないの?そんなことでもなく、構成員として警察にマークされるはずもない、どこにでもいるあなたとそう変わらない誰かさんのこんな拾った少額のお金ですらマネロンが必要になることがわかりますよね。

と言うことで、まぁ、言い換えれば、そんな(スケールの大きさに関係なく)資金洗浄が行われない – 反マネロン : Anti-Money Laundering – の世界にしたら、犯罪収益が自由に使えなくなるので、犯罪の抑制(どころか抹殺)になるのではと、特にG7からG20くらいの色々な国のえらーい人たちが1990年になる前から考え始めたのです。しかも、当時は麻薬犯罪だけが注目されていました。

しかも、この取り組みは自分の国だけでやっても効果が薄いのも事実です。と言うのも、今や、海外の片隅から電話を使って自称(したことも多分ないだろう)俳優さんの役割をした人たちがそれっぽいストーリーで日本国内にいる、会ったことも見たこともない電話の(主に高齢者と思しき)相手先にお金を出させなきゃ、と思わせる演技をして、その結果、お金を出さなきゃって思わせたお金の回収を国内にいる宅配業者(のふりをした荷物運び)が引き取ってはその送り先である、この俳優や宅配業者たちの国内の元締めに届けては、そんな一味のメンバーにギャラを払って残りをポケットに、なんて特殊詐欺の構成一つを取ってみても、もう全体像としては国内では収まらないです。さらにいうならば、アメリカ大陸の南北に広がっている、麻薬の栽培、製品化から消費地までの配送、そしてその売り上げの回収と再投資までのビジネスインフラをベースに、臓器から、なんなら盗難車に人身売買まで、今やクロスボーダーで効率的で再現性の高い(裏)ビジネスとして成立してしまっていて、聞けばその収益や年間でGAFAMの売り上げの合計といい勝負となっているのですから、他の国との連携でなければ資金の流れでもある資金洗浄も犯罪そのものの撲滅も叶わない、のです。

と言うことなので、資金の流れるところ、お金とものの交換の起こるところは、どうしてもこのマネロンに使われる可能性がある、だから気をつけなければいけない、と言う話になってくるのです。(ふぅ、やっと本題です。でも、今回は仕方ないですよね。マネロンの背景ってこれくらい、実は意識しないと見えないものを相手にしているのですから。)

ざっくり言うと、日本のファンドはマネロンにちょうどいい

こういう話をすると、(私のような、関西生まれ足立育ち、上野動物園の檻の中には友達がたくさん、なんてことのない)お上品な家庭で育ち、高等教育をお受けあそばされた、日本のファンドの投資に携わるようなハイソな方達は、ほぼ全員がこう言います。

「ないない。投資家は機関投資家だから、そこでお金の流れをちゃんと食い止めているよ。」

ダウト。投資家は機関投資家だけではないですよね?だから一生懸命国内の業界団体から官庁に至るまで、日本のファンドに機関投資家や年金基金からの投資を引き込もうとしているのではなかったでしたっけ?としたら、信頼できる個人だから大丈夫?

もう一回聞くけど、本当にその人信用できますか?ということで、事実、最近のファンドへの出資申込の時から、銀行口座や証券口座の開設の時、そこそこ大きい額の送金をするときなど、規制業種である銀行や証券会社、信託銀行がAML/KYCの調査をします。だから大丈夫、というより、この手続きが面倒で手間で時間が掛かるからビジネスにならないって、文句すら唱えるファンドのGPとか運用者が増えているのも事実です。だけど繰り返しもう一遍聞きますが、あなたのその投資家、本当に大丈夫?

それとは別の観点でも考えるべきところがあります。というのも、お金の流れは、投資家とファンドの間だけ考えれば良さそうでしょうか。ファンドの仕事ってなんでしたっけ?預かった資金で金融商品を買って、売るんですよね。

まぁ、流動性の高くて取引を取引所でのみ行って、中央決済機関を通じて決済するような上場株式や国債のようなものであれば、その取引相手は国相当のものだから問題はないでしょう(とはいえ、厳密に言えば、問題がないのはその売買だけで、保有する証券から支払われる株なら配当金、債券なら利息についてはそうとも言い切れない、というのは後ほど)。でも、今や投資先は未上場株にプライベートデット、不動産にファンド持分まで。なんなら、証券化商品のように複数の債権をまとめて資金を優先度合いに分配するようなものだってあるとすると、そうなると、その証券の売買相手と同時に、その証券を保有している時にその発行体から支払われる資金も、疑う必要が出てきます。

え?って声が聞こえそうですね。

では、実例を見てみます?

例えば、著者がずいぶん携わってきたベンチャー企業の株式のダイレクトセカンダリーのケースを考えてみます。

売り手は、当然ながらとある企業の株式を保有していて、買い手に売却することで資金を手に入れることになります。と言うことは、株式の取得時の資金を今回の売却で回収することになりますから、マネロンの手口的に言えば、株式の取得時点の資金の性質を売却で得る代金に変換することになるのです。

一般的な国内のベンチャーキャピタルファンドの間で締結されている株式の売買契約書ですが、メルカリやヤフオクの中古売買のプラットフォームを利用するときの誓約事項から比べてもゆるゆるの契約書で1ページのみ、売買対象の株式やその売り手の所有権に関する表明保証はおろか、なんなら売り手(や買い手)が広域ほにゃらら団かそれに類するものではない、もし後からそうだと分かった時は契約は自動的に無効になる、と言う金融機関ならば如何なる契約にも入れなければいけないとされている、いわゆる「暴排条項」が入っていないのです。

と言うことは、マネロンにだけ集中して言うならば、相手が誰であっても売買が成立してしまう、のです(他にも、譲渡周りでむちゃくちゃ気になる論点があるとしたら、売り手による所有権の表明保証がないことで、例えば、実は株式が担保に入っているのでその後取得しても担保権者に移転されるリスクがあったり、売却資金の送金後に発生した売り手の倒産等に起因して売り手の債権者から売買契約の無効の申立てをされ、払い込んだ売却資金が売り手への一般債権となって回収不能になるリスクがある、とか、モノの売買の基本がまずなっていないんですよ(ベーっ、だ))。

ちなみに、なんでこんなことになってしまっているか知っています?一般的なベンチャーキャピタルファンドの多くは、金融商品取引法第63条に定める適格機関投資家等特例業務を行う形でファンドの運用については「投資運用業の事業届出をせず」に行える、ということに依拠しているのですが、これを事業届出をしていないから金融商品取引業者ではない、と考えている人が多い、と言う点です。むしろ、特例業務を行っているので金融商品取引法に基づく金融商品取引業者、なんですけどね。と言う時点で、なかなか問題があるのですが、この辺りの周知ってしきれていないと言う問題点に気づいている人が少ないんですよね(この話ってとあるところで対談の中で超偉い弁護士先生とYouTubeで話しているのですが知ってます?)

さて、この売却対象になる株式を取得するには、セカンダリーファンドのような二次取得でなければ、その企業のなんちゃらラウンドで出資した、と言うわけですが、まぁ、これって株式の割り当てに参加した、と言うことですよね。と言うことは一定の額をその企業に支払っているわけです。そのお金の原資は?出資者がファンドならそのファンドの投資家からの出資払込金ですが、企業ならば企業のビジネスでの売上で留保した資金、個人なら。。。って形で、資金にはそれなりの理由が存在することになります。日本でAML/KYCの概念をしっかり導入して調査を始めるようになったのはこの数年ですから、それより前の時点で取得した株式の資金の裏付けについてはちょっと微妙ですよね。

とすると、もし、私のように超怪しい個人が出所不明の超怪しい資金を元手に結構な成長しそうな未上場企業の株式をコロナ前あたりにあちこちに出資することで大量に仕込んでいて、最近のセカンダリー戦略ファンドのブームと(ベンチャーキャピタルファンド界隈だけでの)未上場株式の流動性向上という社会的必要性に乗ってあらかじめ仕込んだ株式を、最近出来たような、出物はなんでも買いに行かないといけないという意味不明のプレッシャーの中で動いているセカンダリーファンドに対して、一般的に使われている一枚ペラの薄い表明保証つきの株式売買契約書を使って売却したとしたら、どうでしょう?(ちょっとした演習問題です)

次に、出資先となっている企業についても少し考えてみましょう。

例えば、スタートアップのような人数の少ない、でもそれなりのスキルを持った人間の集まりのような企業がだんだん成長する中で、人が足りない、と言うところですと、採用の基準は微妙に下がっても不思議ではないですよね。何せ、10人に満たない企業ならば、労働基準法の特例もあって、従業員の就業規程よりビジネスを回す方が優先されますからね。そこに、スマートに影のある人が入り込んで本来のビジネスを拡大するようにしながら、その人が連れてきた、そこそこ太めに付き合ってくれるけどなんとなく黒っぽいところが取引先として入るようになりました。こうなると、この企業を乗っ取る、とか派手なことをする必要もなく、そんなことに気が付かれないようにしながら、取引先のマネロンのツールとしてこの会社とのサービスと資金の流れが使われてしまいます。

そんな状態でアップラウンドでの調達がある場合、その調達された資金は、確かに日々の取引に手当てされると言うよりも、マーケティングのために使う、設備投資のために使う、などなど、他の理由に当然充てられますが、とはいえ、場合によってはこの会社の資金として、黒いものとクリーンなものが混じり合うことになるので、マネロンの手法の最も基本的なものである、(さっき拾ったお金を財布に入れてお友達にしてしまうように)資金の混合が起きてしまうのです。

となると、株式の割り当て時の契約書の中に、発行体が役職員や取引先、株主に対するこのようなマネロン対策がなされていると言う表明保証を取り付けることで投資先として回避が可能になるのですが、個人的に過去見たケースですと、必ずしも入っていると言う感じではありませんので、ファンドの中にはそういう企業に投資している可能性を拭いきれないことになります。

しかも、この話の厄介なところは、マネロン対策を入れました、と表明保証していない場合、仮に出資時点でクリーンであっても、将来にわたってどこかで入り込む可能性があるため、出資者としてそのあたりの体制整備を押し進めない限り、出資した企業がマネロンの舞台になるリスクがあるのです。言い換えると、そういう脇の甘い企業は今や新しい資金を調達できない、ということにもなるのです。

日本のファンドがちょろいって、こういう意味です。

これ、甘く見ていると怖いですよ。企業の中身(すなわち、役職員に取引先、そこから気付けば株主も、と言うことになるので、当然、性質)がだんだん変わっていくことになるのですから、ファンドとして、まず根本的に、投資の際の目論見が壊れる、と言う投資の観点で一番大事なことでもあるのですし、いくら中小、零細企業であるベンチャー企業とはいえ、特にファンドから出資しているならばヘッドラインリスクに晒され、投資家対応を迫られることになります。ええ、知らなかった、では許されないのです。で、このような話は、未上場企業に限らず、上場企業だってガバナンスが機能していないと起こり得る、のです(だから、上場株の配当で気が抜けない、と書いたわけです)。

正直いえば、最近あちこちで EGSの重要性とか言われてますけど、あれもその効果を期待する、と言うよりも煮詰めて言えばテールリスクの回避って話なわけですが、それよりもAML対応の方がよっぽど費用対効果の高い話です。

それって、自分の周りにはないから気にしなくてもいい話じゃないの?

そうですよねぇ。令和4年末時点で指定暴力団とその関連構成員で22,400人ちょっといる、とされているに過ぎません。この数って、従業員数での大企業ランキングで言えば150位に入る規模、です。ざっくり言えば、平均すると全人口的に見ても、10,000人のうち2人いる計算ですが、これだとそう簡単に出会わないように思えますよね。

とはいえ、です。区民数が 21万人と都内23区でも一二を争うくらい人の少ない台東区で当てはめても、42人。これくらいしかいないように思われますが、これはよく言う話ですが、台東区浅草は、そっち系の方達にとっては、千代田区丸の内と同じくらい、「いつかはクラウン」的に事務所があることにステータスを感じる場所だそうで、大小に関わらずそういう事務所があちこちにあるとかあるとか。としたら、個人的な感覚としては、42人なんて正直少ないです。

それくらい、頭のいい誰かさんがつい使いがちな「統計」なんてものは単純に使ってしまうと偏りという現実を忘れさせる厄介なものなのです。

それこそ、古き良き歓楽街の中心であった浅草だけでなく、今時の歓楽街といえば、という、それこそみんなが遊びに行ったりオフィスを持っていたくなるような六本木や渋谷、歌舞伎町など、人が集まり、お金の流れが生まれているところには仕事がある、と考えて彼らも集まっているわけです。でもこの情報社会においては、物理的な制約もないわけですから、そこそこ儲かっていて脇が甘いところを嗅ぎつけられたら、合法的なアプローチを掛けられてあっという間に取引開始、そして企業に入り込まれておしまいです。

じゃあ、どうしたらいいの?(知らなかった、で許してくれる?)

基本関わらない、取引をしない、当然社員にも入れないし資本も受け入れない、要は基本信じない、しかありません。そのためには何かしらの契約を結ぶ前に相手の素性を理解する、に徹するのです。100回やって、100回問題のない人や企業しか出てこない、だから、101回目は楽していい、ではないのです。知らなかったんです、って泣いても101回目の(やばい)相手も官公庁も、当然投資家だって許してくれません。

常にしっかり見ている、と言う姿勢を見せて実行することがまず大事なのです。時間もコストも掛かるし、そのプロセスでちょっと不明な点が見えたらさらに詳細を調べていく、って基本的な姿勢に対して、それではすぐにやりたい取引ができないので困る、をビジネス側は言いがちですが、その結果として、本当に問題のある相手と契約を結んだら終わりなのです。テールエンドリスクを引いてしまって、その後の処理の時間とコストがどれだけ掛かり、どうせその事態にびびって逃げる案件担当者(えてしてGPとかえらい奴だったりするんですよね)のせいで、直接対応せざるを得なくなるスタッフのメンタルコストや生活をリアルに脅かされる可能性、そして会社に押し寄せてくる波及的な影響の方がもっと問題になるのです。

そのためにも、仮にそう言う相手との取引をした場合に備えて、前述の「暴排条項」を全ての契約書に入れることも、金融商品取引業者でなくても必要になってきます。これの強いところは、表明保証違反により相手先に関わることなく契約を無効にすることが出来るところです。もし条項なく契約解除にするためには、相手と交渉すると言うステップが入ることになり、当然自分の会社に乗り込んでこられるか、向こうの事務所に行くことになるわけですから、いずれにせよ役職員の安全を確保できないことになるのが問題なのです。それがどれくらい危険なことなのかは。。。この事態を軽く見るならば人任せにせずに自分で一度体験してみればわかる話です。

まとめ – だからみんなのために大事なんだってば。

正直、常に世界は進化する過程にある以上、こういう手口だって高度化するし、思いもよらない方法で実行されることだってあるのです。そのため、このやり方であれば絶対に大丈夫、というチェックボックスアプローチはあっという間に過去のものになります。そのため、常に意識して学び、想像していくとともに、基本は疎かにしない、しかないのです。とすると、自分の目の前にいるこの人は、この瞬間こう見えているけど、本当は?と、出来るだけフラットに理解する、という作業を一度することが大事、とも言えるでしょう。

それと同時に、その資金ってどこからどういう意図できたの?というのも想像する必要が出てきます。

目的は違いますが、ちょっと前のエイズ検査のキャンペーンで使われた「カレシの元カノの元カレを知っていますか」というキャッチコピーは、まさにこれを示しています。資金に色はない、と言いましたが、その出所はちょっと遡っても本当にクリーンですか?それ以上に、その出所を説明できますか?そういう目線を常に持つことが、自分たちの身をちゃんと守れるかどうか、に関わってくるのです。

ケイマン諸島でファンドをこれから作る時、気にするべき Guideline の考え方

ファンドの世界に限らずですが、金融の世界というのは、(私が経験したビジネスで言うと、デリバティブ取引から証券化、そしてファンドまで)ある一定のビジネスドメインが出来上がる頃には一定の商習慣や関係者間の一種の阿吽の呼吸みたいな不文律、なんてものも出来上がっていくものですが、面白いもので、そこそこ盛り上がりそうだ、というビジネスドメインには外部からビジネスチャンスを狙って入ってくる人たちなんてのもいて、過去の経験則と新しい領域との相似性を元に、もっとこうした方が合理的だ、なんて言い始めてだんだん物事が複雑になる傾向があったりします。また、そうやって、どんどん参加者が増えていくと、当然、金融当局なんて下世話なお節介焼きが入ってきては、やれ投資家保護だ、やれ市場の健全性だ、なんて今まで聞いたこともないような概念で法令なんて形で規制を強いてくる、やれやれ、なんて古参の市場参加者は思ったり思わなかったり。

しかも、それを称してエコシステムの醸成のために民官が協力しあって、なんて格好いいことを言う御仁というのも本当にどのビジネスドメインに複数、それこそ地元の町会にそれぞれ三人くらい偏屈親父がいて、その横で近所の民生委員のような、これまた町内に必ず一人はいそうな、区役所の職員か税務署の役人か、と思うくらいに堅物でお節介焼きと、行政からこう言われているから、あんたちゃんとこーしなさいよ、なんて言われて、何言ってやがるんだい、俺は昔からずっとこうしているんだ、なんて、あーでもない、こーでもない、とやっているのと同じようくらいの確率でいたりするわけで、まぁ、そう考えると、ビジネスだろうがご近所付き合いだろうと、人間のやっていることは規模と扱うお金の差程度であまり変わらないのかもしれません。

ケイマン諸島で始まった Guideline って?

で、ファンドの世界で、無駄に頑固でいじっぱりのルクセンブルクの関係者は絶対に表向きは認めない(のもあって、EUという大枠とは全く関係なくAMLや税務で常にケイマン諸島を最後までブラックリストにするのですよ。まー、国の嫉妬ってのも男の嫉妬くらいねちっこいですな。)だろうけど、実質的なところを見れば、ファンドの設立数やそのスキームに対する自由度などからケイマン諸島がどうしても一番大きな法域、と言わざるを得ません。ということは、たくさんの参加者がいて、法律の許す限りあれこれ自分のルールでファンドを運営して投資活動に勤しんでいるわけですが、そうなると、ファンドの運営という観点で、法令等で求めている最低限の実務的な手続きというものがあるはずだけど、本当にそれをやっているのか?という疑問が生じるのです。

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ケイマン諸島にファンドを作って後悔した、って話を最近よく聞くけど、なんで相談してくれなかったの?という件

最近、色々な人がケイマン諸島に作ったけど、高いよね、面倒だよね、というのを聞くけど、そもそも、それ、本当にケイマンで作る必要があった?ってケースが多いように思って聞いています。ケイマン諸島は確かにファンドを作る意味では、世界中の「みんな」がするけど、今は21世紀、個性の時代なのだから、「みんな」と同じことをする必要があるの?

ということで、最初に大事なことを

実際、私のような日本に数少ない本物の、ファンドのストラクチャリングのプロはこう考えます。もう、私のビジネスのノウハウを大公開ですが、まぁ、国内のいろいろな事情を踏まえると、本当にこれで再現できる人っていないから公開するのです。

ファンドを作るときのレシピ

  • 投資対象と投資家のいる場所
  • それぞれの国や地域の法律とその書かれている言語、税金、そして
  • それらをつなぐ租税条約などの条約

すごく簡単でシンプルでしょ?で、このレシピをどう使うか、というと。。。

  1. 投資家はどこにいて、投資先はどこにある?
  2. 投資先の国の外国人に対する投資規制や税制を考える
  3. 投資家のいる国の海外投資に対する規制や税務を考える
  4. 二国間の租税条約や、その他の投資を阻害/支援する可能性のある条約を考える
  5. 検討結果として、第三国を入れることでコスト対比で税務が「劇的」に改善するか考える

あれ?ケイマンどこに行ったの?と思ったでしょ?そうなんです。実はセカンドオプションに過ぎないのです。もし、ここから先を読む時間がもう時間がない、という方は年間でそこそこコンサルフィーを頂けるノウハウを手に入れた、しめしめ、とここで離脱していただいても結構ですが、まだ時間があるぜ、という方は、なぜこのフローで考えるべきなのか、ちょっと下記のあれこれまとめたので見ていきましょう。

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オランダのプロ投資家って? – 世界のプロ投資家の世界から

いつもながら、と思いつつも、このプロ投資家って、気づいたらシリーズ化してしまい、個人的には調べて、知って、比較して楽しんでいるのですが、なかなかその楽しみというのが理解されないようです。

まぁ、それを知ってどうするの?何かのお得なの?と思うのは、当然ですよね。大抵のファンドな人からすれば、プロ投資家って人にあって出資して貰えばいいのであって、その法的根拠とか、その人に募集する際の制限なんてものはあまり気にしなくてもそれこそ「プロなんだからなんとかするでしょ」くらいに思っていても十分、プロのファンドの人の顔をしていられますからねぇ。

とはいえ、そもそも、これを調べることになった大きな理由というのが、某Ariake Secondary Fund なんて無名のケイマン諸島籍のファンドでセカンダリー投資をしていて私自身がファンドのいわゆるdirectorでUS-SECとか金融庁に諸般の登録で名前を出しつつ、コントローラーとして全ての取引の契約書のレビューと署名をしているわけですが、そうなると、セカンダリーで買ってこようとするファンドの持分の発行体であるファンドのGPにとっては新しく投資家になる新参者な訳ですので、それぞれが、その設立国や運用者のライセンス国、ファンドアドミの所在地などにおけるAML/KYTCは当然のこと、プロ投資家であることの表明保証を求めてくるのです。

で、過去の色々なプロ投資家の定義を見てわかる通り、どこかの国のプロ投資家であれば、他の国のプロ投資家として認めてくれる、なんて都合のいい話なんでどこにもなかったのですから、常にAML/KYTCだけでなく、求めてくる表明保証についてはしっかりと理解して、表明保証出来るかどうか検討する必要があるのです。

で、まぁ、ざっくりというと、それをやっていると、なんで他の(特に日本の)投資家っていうのはこんな意味のない表明保証を求められているからっていう理由だけでやっているの?という、馬鹿げたことを平気で受け入れてやっているなんていうことにも気付くし、ど直球のロジックとやんわりとしたアプローチでそんな馬鹿げた要求をまだ対応可能なものに変更させるネゴ能力もついてきた一方で、それすらしていないことが透けて見えてきた業界の人たちの顔を思い浮かべては。。。いや、これ以上言うと石を投げられるからやめておこう。

ということで、そんなことの繰り返しを気づけばもう数十ファンドでやっているため、こんなにストックが出来てしまった、という訳なのです。が、今回はなぜかオランダ。残念ながらベネルクス三国で行ったことがあるのはルクセンブルクだけでオランダには行ったことがない。とはいえ、数年前に、6ヶ月かけて一生懸命就労ビザを取って3ヶ月のインターンで受け入れた子の出身地がオランダですので、弟子のいる国、と思えば縁がある、とも言えますので、私的にはその意味では不思議はない、ということでいつものように、これ以上長い話に付き合えない方向けのセットはこちらからどうぞ。

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AMLCOとか MLROとか DMLROとか、知ってますか?準備できています? – 多分今ケイマン諸島籍ファンドで一番熱いネタの一つから

常にコンテンツを書くのが遅い当ブログですので、最新の法規制の話を書こう、とすると気づくと締め切り後になりかねず、というのもありあまり触らないでおこうかな、とか思うこともあるのですが、最近だいたい2週間に一度程度、2000文字に起承転結をちゃんと入れて書かせていただいているサイトがありまして、そこでちょっと文字数少なめに取り上げた表題のネタがあるので、こちらでは普段通りのペースでちょっと書かせていただこうかな、と。クロスポストにならないように一から書きますので損はさせませんよ。

ケイマン諸島のAML/CTFはある意味OECD諸国で最先端(?)

大きく出てみましたが、今回のネタの確信ってここにあると個人的には思っています。何かというと、2018年の6月1日以降にケイマン諸島で設立されたファンドや、それ以前に設立されたファンドについては、その登録の有無を問わず、2018年9月30日までに、専任の Anti-Money Laundering Compliance Officer (AMLCO)、Money-laundering Reporting Officer (MLRO)とDeputy Money-laundering Reporting Officer (DMLRO)を任命して、Cayman Islands Monetary Authority (CIMA)に届け出る義務付けを行いました。

もともとケイマン諸島では AML Procedureを各ファンドが定めて投資家を受け入れる時に AML/CTF (Anti-money laundering / Combatting terrorist-financing) の調査を行うように定められていたのですが、これを一段厳しくして、この投資家 due diligence の遵法確認をする担当者を置き、またもし疑わしい場合には当局に届け出る責任者を定めるように求めた、ということです。

ファンドを設立したことのある人ならイメージはあるかもしれませんが、AML Procedure の導入前を考えると、ファンドの設立の時にファンドのスポンサーに対するdue diligence をファンドの口座開設の際に行い、その際にAML/CTFの側面での確認も行なっていました。他方で投資資金の出し手である投資家に対するdue diligence というのも一応は行なっていましたが、US-FATCA/CRSの観点での税務的側面での確認が主なものでした。となると、実は資金の大きな流れである、投資家の資金に対するAML/CTF的なチェック機能が不十分では、という問題が生じ得るのです。そこで、ケイマン諸島ではAML Procedureを導入するように規制をかけたのです。

とはいえ、その実効性という意味でいうならば、投資家の投資申し込みの手続きでの本人確認を行うのがファンド・アドミであり、現実的にその本人確認のプロセスもそのファンド・アドミの規制を行うその所在国における本人確認の要件に依存することになり、またその結果の疑わしい投資家などの情報収集という観点でも機能しづらいことが見えてきます。そこで、後者に対する対応として今回のAMLCO/MLRO/DMLROの登録制度を導入することとなったというわけです。著者の知る限り、ファンドレベルにまでAML/CTFの義務をここまで厳しく導入している国というのは実はありません。

ちなみに日本はどうなの?

日本におけるAML/CTFについては、世界的なAML/CTFへの対応強化の流れに合わせて、今年3月に金融機関等に対して従前より高いレベルでのAML/CTF対応を行う取引先 due diligence を行うようガイドラインが提示されました。このガイドラインの基本的な作りは政府間機関のひとつである金融活動作業部会 FATF (Financial Action Task Force)の第4次勧告に基づいたものでして、実は来年の後半に金融当局とランダムに選ばれた金融機関や金融商品取引業者へのヒアリングが行われてそのガイドラインの実効性や実務的組み込みの実態を調査されることになっています。特にランダムに選ばれた金融機関等というのが、悪意を持って取引を行おうとする人ならば規制に対して意識が薄かったりコスト的な観点で「狙い目」となる零細業者を入り口に選びがち、という現実を踏まえて、国内の金融当局がお勧めする「規模的にも実務的にも模範」というウィンドウドレッシングをさせない、という現実的なアプローチの検査をされる、ということなのです。

今年の前半あたりからこの辺りの実務、特にリスクベース・アプローチと呼ばれる、顧客の属性(資金の出所が怪しいとか、職業が微妙とか)だけでなく、金融商品取引業者が提供するサービスによってマネーローンダリングとかテロ組織への資金供給する可能性についても評価し、それぞれの可能性の高さによって取引開始すべきかどうか判断する、というプロセスをいかに日本中の隅々まで導入できるかがポイントになりそうです。

他方で、日本では犯罪収益移転防止法に基づく取引時における本人確認が行われてきました。この際、個人は本人確認の出来る書類(運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなど)の提示で済むのですが、法人の場合、個人を隠して取引が可能、ということで、法人の設立を証明する資料やその窓口での取引担当者の本人確認に合わせて、法人の支配的地位にある人(株主や取締役など)の情報を提供することが求められています。この考え方は日本に限らず世界中で同じように法人口座を開設する時にはその法人の支配的地位にある人の情報提供を求めます。

世界基準と日本基準の狭間には

さて、テクノロジーからサービスのクオリティまで、日本は世界の最先端にある、というのがどうも私たち日本人の矜持であり、信じるところではあるのですが、ではこの辺りの規制の実効性や妥当性という観点ではどうなのでしょうか。

FATF が2014年に定めた「透明性並び受益権に関する指針」(“FATF Guidance – Transparency and Beneficiary Ownership”)の中で、議決権保有者に関する所有権比率による基準として、数値的なものは特に決めないものの「例えば25%」と書いてあります。ということは、世界的な取り決めならば25%以下なら数値的にはどれでもよくないか?ということになり、日本は一番ゆるい25%を選んでいることになります。ええ、世界の最先端の日本が、です。

で、オフショアという金持ちの資産隠しのための楽園、ケイマン諸島での情報開示の規制はいくつか、というと、10%です。ちなみに、この10%というのはケイマン諸島だけでなく、オンショア、オフショア含めてかなり多くの国でも採用されていることが知られています。

資産を隠す、というだけではなく資産を世界中に移転させるための口座の開設や移転手続きをするために、その支配的権限をもつ個人の情報をより多く出させているのは、日本よりもオフショアだ、という事実があるのです。

じゃあ、情報を出せばいいじゃないか、と単純に思うかもしれませんが、本人確認資料を準備するのは思うほど簡単ではありません。本人が本人であり、またそこに税金を納めるだけ生活を根付かせている証拠なんてものは、その人の出生地や現在の居住地の発行する証明書であって、パスポートや運転免許証で本当に足りるかと言う問題がある一方、その写しを提出することになる訳ですからそのコピーが「本当にその写しである」という証明、そして日本人なら特に、それらの書類を発行する役所の文書が日本語である以上、「その記載内容が提出先に理解されるように翻訳され、その翻訳が正しく翻訳されている」、と言うことも証明せねばならないのです。(香港あたりだと広東語と英語の表記だからこんな問題はないんですよね。ま、役所が公用語以外の言語で責任持って公的文書を発行できるかどうか、でこう言うところに民間のコストが増加させてるんですよね。国内の手続きの効率化だけに止まらない話ですよね、この英語問題って。)

日本においてファンドレベルでのAML/CFT確認は必要?

さて、ちょっと話を別の角度から見たいと思います。

日本においては通常の有価証券等の取引というのは銀行か証券会社を経由して行われるケースがほとんどですので、これらの金融機関の口座開設時点での調査や継続的なモニタリングによる口座の実質的保有者の素性確認を行い続けていれば、公募や私募の国内投信や会社型ファンドの投資家に関するチェックが間接的に行われていることになるので、ファンドレベルで改めて調査を行う必要はない、と考えることが可能です。だから、日本でファンドレベルの調査なんて不要じゃないか、と結論づけるのはちょっと尚早です。

これらの金融機関の証券口座を作らずに投資できるファンド、というものが存在する、としたらどうでしょう。ケースは理論的には二つ考えられます。

一つは日本に取引口座を開設していない海外投資家が直接投資しようとするケース。これは国内のファンドが海外で募集したら、という話ですが、技術的には国内ファンドをマスターファンドにして、海外投資家向けの外国籍フィーダーファンドを作ってそこで投資家を受け入れる、なんてことがあれば、外国投資家が直接マスターに投資させろ、と言ってもおかしくはない、のです。ま、受け入れないことで事務的に発生させない可能性が高い話ではありますが。。。

もう一つは、現実に今そこにあるケースです。例えば プライベート・エクイティファンドやベンチャーキャピタルファンドで使われる投資事業有限責任組合スキームの場合、証券会社にその持分を販売させる、ということをほぼしませんし、通常よくわかっているプロ投資家相手ですから、直接の取引をするのがほとんどです。

とはいえ、これもいわゆる金商法第63条の適格機関投資家向け特例業務の登録をして一人の適格機関投資家と複数のプロじゃない個人向けの投資家を持ってくるという使い道をすると、プロじゃない個人投資家も直接投資することになります。銀行から組合に送金しながら組合契約にサインすればいいだけですからね。それなりの金額ですから銀行は送金の目的を確認しますが、ファンドのための調査ではなく、自身の取引に対するAML/CTFへの関与の有無のチェックに過ぎないのです。

言い方は悪いのですが、この手のスキームを使って個人から資金集めしたい、というニーズの背景に規制対応が面倒、コストが掛かる、というものが聞こえる一方で、じゃあ、その手間を惜しんで投資家保護の措置をちゃんと自主的に取っているか、といえばかなり否定的に見ざるを得ません。そんな世界ですので、AML/CTFに対する意識があるかといえば。。。

とはいえ、いわゆる63条業者と呼ばれる人たちはまだまし、です。それでもギリギリ法律の免除規定を使おうという努力と、最近ではかなりスタンダードの高くなった年次の事業報告を当局にしよう、と思っているからです。もっとひどい(!)のは、「コンプライアンスのスペシャリストが考え出した完璧な抜け道」と称して使っている「合同会社」を使った投資スキーム(と呼べるかどうかすら疑問な手口)です。金商法上、いわゆる2項証券ということで組合持分と同じ扱いであることから、その私募というのが適格機関投資家ではない投資家は最大500名まで募集することが出来る、という読み方をして、かつ直接縁故的に自分たちから営業せずに受け身にメーリングリストで自主的に申し込ませたりウェブサイトからの問い合わせ、といった、いわゆるリバース・ソリシテーションで合同会社の社員を集めれば募集行為にすら当たらないじゃない、的にやっているケースですね。ここまでくると、自分たちは金商法の外の世界だと考えている節もあるほどですから、AML/CTF意識なんて皆無、というか自身のMLのためにやっているんじゃないか、と思えるくらいです(ごめん、でも、正直そんな話に以前昔出くわしたからはっきり言わせてもらう)。と言いながらも、前述の通り、合同組合の持分は金商法の取り扱いの範囲内です。ですので、会社の事業として株式を取得することだ、といって自己運用するのは、自分の資産のためならばまだしも、赤の他人を巻き込むならば、63条特例業務くらいは届け出ろよ、と言う感じです。でも、これも間違えて投資するとなると、当然証券会社等を経由しないで持分の取得が可能なものなのですからこれらの金融機関でファンドの資金に対するAML/CTFの確認が抜け落ちるケースでもあるのです。

最近このスキームを使って投資家を集めているエンゲージメント投資が数件いると言う話を聞いたので、警鐘を鳴らす意味でちょっと触れて見ました。

まとめ

と言うことを考えてみると、実は金融機関以外にもファンドに資金がプールされて投資に振り向けられる以上は金融機関と同じように資金の流れをカバーする限りにおいてはAML/CTFのゲートキーパーにならざるを得ない、と言う世界的な潮流についていく必要があるのかもしれません。

ファンドを立ち上げて運営する、って格好のいい話です。でも、第三者のお金を責任持って運用する、と言うのはリターンを投資家に提供する前に、それ相当の社会的責任を負う話でもある以上、世の中がAML/CTFに対して厳しい姿勢を打ちだそうとするならば、それに追随するのもファンドがより社会のための器としての認知されるためには当然のこと、とこの投資の世界のエコシステムにいる人たちや入ってきたいと考える人たちに考えて欲しい、と思う次第です。

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