なぜプライベート資産への投資ってLPS / 組合方式を使うの?

投資ストラクチャーは喧々諤々やって決まるものです。

最近の私自身の個人的興味が投資信託形式でのストラクチャード・ファンドのようなリテール向けの世界からプライベート資産への投資の世界にそのウェイトが大きくなってきている中で、同様にこのプライベート資産への投資についてはこの投資難のご時世においては機関投資家の注目も上がってきていることもあり、その投資スキームへの問い合わせ、というより、なぜ従来までの上場株式や債券投資で使われている投資スキームが使えないのか、という問い合わせを受けることが増えてきました。

そこで、なぜプライベート資産への投資において、上場株などの慣れ親しんだ投資で使う投信と比べて、会計処理も投資の手続きも異なる組合方式を使うことになるのか、例によって分解しながら説明していこうかと思います。

その前に上場株式や債券投資では何が起きているのかを見ると

さて、いわゆる投資信託とかヘッジファンドといった”パブリック”な資産への投資をするファンドを考えてみたいと思います。

この資産クラス、一番わかりやすいのは上場株式の中でも、日中の取引高が比較的多い銘柄や外国為替あたりのいつでも売り買いできると考えやすいものを手始めに検討するならば、投資戦略として○○な条件に合致する銘柄を一定のルールで分散して(最近ならば厳選した2○銘柄に集中して、とかいうのもありますが)投資します、と設定すれば、よほどのマーケットクラッシュの起きている状況でなければ売買可能ですので、いつでも(戦略の持つ投資許容サイズの範囲ならば)幾らでも投資資金が入ってきても翌日以降の比較的早い段階で投資可能な状態にありますし、投資資金の引き上げに対しても現金化が比較的早く行うことが出来ます。こうなるといつでも不特定多数の投資家がファンドに参加し、また投資から撤退したいと思った時に出来るような仕組みを導入することが投資家にとっても、(投資家の資金には長くいて欲しいとは思うものの)ファンドを運営する側にとってもメリットがあります。

まぁ、この仕組みや取引する市場の流動性の都合、そして税制などのファンドの制度上の都合などからこの都合上お金が入ってきたらすぐに買えるものを買わねばならないことで、戦略で投資できる以上にお金が集まってしまうと戦略上ベストじゃないものを無理無理買ってパフォーマンスを落とさざるを得ない状態に陥る可能性もあるし、例えば全面安が読めるからポジションを全て現金化しちゃえ、とポートフォリオを全部現金にして置いておく、と言った大胆なことをすることが許されていないケース、というのもあるのですが。。。

ファンドの3つ仕組み、信託・ユニットトラスト、会社型、組合形式、で言うならば信託・ユニットトラストや会社型がこれら不特定多数の投資家が随時、その時々のポートフォリオの持分を切り売りするように設計されています。ポイントは、この「ポートフォリオの切り売り」というところで、例えば、その時のポートフォリオの1億円相当の持分を購入する、といってファンドに1億円を払えばその持分が交付されますが、投資家としてはその持分に支払うことで追加の債務や費用負担をすることがありません。もしファンドに取引や維持のための費用が発生するならばそこから支弁されますし、仮に投資が失敗したとしても、その一億円を超えて損失を負担することもありませんし、追加出資の義務もありません。この辺りは投資信託等に投資したことのある人ならばごく普通のこと、と感じるかと思います。

プライベート投資 – いつ投資出来るかわからないことにどう対応するか?

さて、プライベート投資を前述と比較しながら見てきましょう。

プライベート投資は一般的に投資がいつでも出来るものではありません。(誤解を承知で書くならば)上場株のように取引市場が存在して一つの銘柄に対して潤沢な量の証券が発行されていて、いつでも誰かが売り買い出来るように(HFT – 高頻度取引 – マネジャーのような)マーケットメイクしてくれる、なんてことはなく、都心の一等地の土地建物のようにそこに唯一存在する稀少性の高い不動産の取得案件がそう多くないように、気に入った企業のオーナー株主さんに数年かけて頼み込んで(でもいいし、仲良くなって飲みに行って心からの信頼を得てでもいいし、なんにせよ)世の中にそれしかないユニークな企業の株の大多数を引き受け「させて頂く」ことで初めてその企業の所有権と経営権を手にして思い描いた企業運営を始められる、とか、そういう努力の結果においてそんな隠れた私有企業の取得の際に融資を一緒になって行える、という投資機会なのです。

とすると、プライベート資産への投資機会は「年間で、そうだなぁ、うちのチームだと3-4件程度、一件あたりのチケットサイズが2-30億円くらい(すみません、どことは言いません。でもこれくらいのサイズ感の運用者さんとよくお話をさせて頂いていたので。。。)」という将来の予想は語れるものの、今この時点で買います!という確実な取引は存在しない可能性が極めて高い(まぁ、とはいうものの、そろそろ買える案件があるので、ということでプライベート資産への投資ファンドのファンドレイズにおいて説明しながらファーストクローズ – ファンドの最初の買収案件の決済のための資金調達 – を目指す訳なのですが。。。)のです。であれば、この瞬間にお金を預けてしまうより、案件がいついつに決済になるので、その数日前に送金してください、という投資資金がファンドの銀行口座で眠っているより投資家の手元で他に有効利用される方がよさそうです。

とすると、プライベート資産への投資するファンドというのは、パブリック資産への投資でいうならば、投資対象資産とその銘柄選別のための戦略に基づくポートフォリオに投資する、というよりは運用者のストックピックの能力の巧拙を品定めするかのごとく、運用者の投資案件の発掘から投資実行、そして回収といった一連のプロセスに対する投資ということになる一方で、資金の出入りだけ見てしまうと、運用者の作る将来の投資機会に対する出資約束とその実行、という将来債務を最初に負うこと、と理解できます。

この場合、ファンドの3形態のうち、会社型も信託・ユニットトラスト形式も、形は何であれ投資家に対して債務を要求する仕掛けにはなっていませんので、前述のような将来の出資の約束とその実行ということがこれらの仕組を使う限りにおいては実現可能とは思えてきませんね。そこで、組合形式の登場となるのです。

一応組合形式って説明するならば。。。

日本の法体系でお話をするならば、民法において、複数の個人や法人が出資して共同で事業を行うことについて合意する契約を組合契約と言います。これは世の中では任意組合として知られていますが、これに類するもので商行為を行うための商法上で規定されているのが匿名組合、あとはこのブログで何度か紹介している、投資事業有限責任組合法に基づいて設定される投資事業有限責任組合(日本版 LPS)とか、名前的には似ているものの根拠法が別になる、有限責任事業組合法に基づく有限責任事業組合 (世に言うLLP)なんかがあります。

あれ、健康保険組合とか、労働組合、生協だって生活協同組合だし、銀行っぽい信用組合(しんくみ、しんそ)だってそうでしょ?マンションの管理組合とかも組合って名前についてるじゃない?

ですよね。この辺りになると、確かに同じように一定の目的としての事業を行うために組合員から出資を受けて活動している、といえばその通りですよね。これらもそのための特別な法律を根拠にして設立されているのです。が、投資の世界で使うといえば、LPSかクラウドファンディングに使われる匿名組合あたりですので、ここではこれらに絞ることにします。

組合って前述のように、同じ志を持った人たちが一つの契約にみんなで揃って署名捺印して必要に応じて出資し、その結果の投資の果実を配分されて享受する、と言う仕組です。ですので、出資も締結した組合の成立日に全額行う、と定めずに必要に応じて出資をする形でも良いため、前述のようなキャッシュフローに対応できる、と言う訳なのです。

また、組合員の間での利益分配や出資割合についても契約上柔軟に定めることが出来るので、例えば特定の組合員がこの案件の出資は気にくわないからしない/都合上出来ないからしない、と言うような出資しない選択肢を与えることが出来ますし、その結果、その参加しなかった案件からの収益配分に当然に参加させない、といったことが出来ます。これはポートフォリオの持分を均等に配分される信託・ユニットトラストや会社型では実現できないことです。

と言うことは、実は組合ってすごくいいスキームなんじゃないの?なんで投資信託とかに使わないの?

って、そんな声が聞こえてきそうですよね。実際、アメリカからのヘッジファンド投資なんかでは、デラウェア州LPSとかを使うケースも多いそうです。事実、組合を締結したその日に出資約束額の全額を入金すれば通常の投信や会社型ファンドへの投資とあまり違いがなさそうに見えますしね。これはアメリカの税制に依るところが大きくて、ファンドの費用を純資産額の減少として扱うより、自分の支払った費用として認識する方が個人であっても税務上メリットが得られるケースがあるから、のようなのです。って、なぜ投資信託や株式ではそんな費用の計上を投資家サイドでせねばならないようなことが組合だと発生するのでしょうか。

実は、組合は事業共同体と言う性質から法人格が認められないそうなのです。となると、組合で行った事業の収支(と言うことは費用の支払いや資産売却益)や資産・負債の状況はその持分に合わせて投資家自身が直接行っているかのように取り扱わなければならない、のです。

日本でこれを実際に行うと何が起こるかと言うと。。。投資関連費用を毎年損金計上出来るならばする一方で投資対象を売却したらその年にキャピタルゲインとして納税申告する必要がある、のです。と言うことは。。。ほぼ毎年確定申告せねばならない、と言う意味です。

投資信託経由で投資している場合に、こんな手間はそうそうないですよね。なにせ費用は純資産額の減額ですし、保有有価証券は時価評価で純資産額が上下動するだけだし、投資対象が売却されたとしても純資産額の変動からは何が起きているか事細かにわかることもないのです。言い換えると、個別の投資対象の売却益をいちいち税務報告する必要がないのです。自分で税務的にしなければいけないのは、その投資信託を売却した時ですので、投資信託の保有期間に発生したファンドの中でのキャピタルゲインについては税務的にその利益が繰り延べられているのです。多分個人投資家は嫌がりますよね。

まぁ、いわゆるプライベートエクイティ投資と認知されているバイアウト戦略だとどうしても一口10億円(それより小額は要相談)からの、出来るだけプロの機関投資家向けで投資家の数も限定的に、仮にベンチャーキャピタル投資であっても投資額はより小額かも知れないものの10社投資して1社当たればいい、と言う個人が投資するにはハイリスクハイリターンそのものという世界ですので個人が入るには別の意味でも敷居が本来は高い投資ではあるのですが。。。

じゃあ、その逆で、投資信託でプライベート投資って出来ないの?

当然、考えますよね。日本人ですから。まぁ、そこが海外から理解してもらえないところでもあるのですが。。。

実際のところ、出来なくはない、と言う言い方をするしかないのです。かなり色々なところに歪みを生みながら、実際にやっちゃっている人たちがいます。

例えば。。。一番大きいところで、GPIF (年金積立金管理運用独立行政法人)さんの初の海外インフラ投資案件。これはパブリックだから言ってもいいですよね。インフラ投資もプライベート資産への投資の一環でして、初の投資で投資信託を使っているんですね。

私の知人のインド人がインドで株式投資をするにあたって未上場の頃から投資して、上場後も大きく育つまで付き合うと言う戦略を取っているファンドの運営方法を取っている、と言っていましたが、こちらも投資信託とほぼ同じインド籍のオープンエンドファンド。

まぁ、日本の投資信託ですと投資対象の流動性を、特に公募ファンドにおいてはかなり厳しく見ているのでそんなインドのファンドに投資することは出来ないですし、GPIFさんのケースも確か外貨建てですので日本の投資信託では私募であっても実現不可能(信託さんには日本の会計基準で外貨を扱えないですからね)。なので、どれもこれも海外だから出来ている、と言う言い方も出来る、のですが、上記の二つではちょっと事情が異なるのです。

インドが特別、ではなくて、流動性への考え方が異なる

まず、インドのケース。もし上記を見た投資信託協会か信託協会の関係者か、投信会社の人ならば、インドのルールが日本と異なって緩いからだよ、と言って切り捨てそうですが、実際のところ、未上場の時点での各銘柄への投資額はファンドの1%程度。投資後数年見てさらに目が出そうと思ったらアロケーションを増やしていくと言う戦略です。となるとそうやって育った結果、だいたい5年から7年くらいで手仕舞うか、するようなのですが、その頃にはだいたい3-5%程度のアロケーションをしているのです。日本の投資信託の分散どころじゃないですよ。UCITS準拠なくらいです。しかも、そこそこ大きい受託資産を抱えるファンドですので、そうやって成長した銘柄の卒業がちょうど流動性を担保できるような仕組みになっているので。

まさにこれはインドの投資信託が始まってからずっと運用し続けてきただけある、のです。常にプライベート資産への投資ポケットが存在する、だからいつ来ても投資可能、と出来る技なのです。通常なら待機資金をどうするの?と悩むところをこうやって解決するって、ある意味順当な話ではあるのですが。。。

じゃあ、GPIFさんは?

こちらは、実際に担当者に直接聞いたわけではないのですが、関わった関係者や、関わっただろう関係者たちの話を聞く限りでは、キャピタルコールに対応するようにしている、ようなのです。あれ?投資信託/ユニットトラストにはキャピタルコールのような組合形式で投資家が負うような債務というのを投資家が負うことはなかったはず、ですよね。ある意味投資家が自発的に追加投資をしない限り投資信託/ユニットトラストにはお金を入れる理由がない、のです。なので、普通に考えると、当初設定時点に予定投資先のコミットメント額を全額突っ込んでおく、というIRRの低下を無視した方法で実現する、と考えがち、なのです。

しかも、今は投資家の目線で話していますが、ユニットトラストを設定するにはtrustee / 受託者がいるのですが、このようなスキームですと投資対象となる組合に対しては自分が投資家になるのですから、組合員としての債務を負うことになります。片や債務を負い、もう片方に対して遡求できる仕掛けがないので、受託者はそんなリスクは通常取りたくない、のです。これが投資信託/ユニットトラストを使ってプライベート資産への投資を行うにあたって直面する問題、なのです。

さてこれをどうしたか。。というと。。。内緒です。これだけで多分数百万円単位のコンサルフィーを頂けるとお話なので(嘘)

ま、一言だけ言えば、これが出来たからと言って、公募投信には出来ません(やってる人は知ってますが)から、手頃にプライベート資産への投資が個人に手の届くようにできる、という話ではありません。でも、これを使ってプライベート資産への投資をしているのが、本当に国内でちゃんとしている機関投資家たちなので、出来ない話ではない、でもあれこれ関係者たちの苦労が通常より嵩んでいるんだろうな、ということは予想できます。実際、そのおかげでの副次的メリットも享受しているそうなので。。。おっと、これ以上多くは言えない言えない。。。

まとめ

と考えると、個人投資家の方へのコメントとしては。。。未公開株への投資、とか色々と個人、特に高齢の方への誘惑は多いと思いますが、こういう仕組み一つとって見ても、rest of us (普通な私たち)にこの手のハイリターンかもしれないけど、どう見てもハイリスクで投資にはコスト高な投資、というのは実はちょっと割りが合わない、と思って構えて見たほうが安心なんですよ、とFP的には言いたいです。

で、ストラクチャラー的に言えば、まぁ、この領域って実のところ、かなりフォーメーションって固まっているのでこう言ったちょっとしたイノベーションを加えるのって楽しいんですよねぇ。とは言え、関係者の制約条件の中でどこまで頑張ってみんなにとってメリットのある仕組みが作れるか、は腕と知恵の見せ所ですので、そういう機会にまた早く巡り会いたいものです。

Say something more on ICO: もう少し勉強してみて思う、リパッケージ商品との類似性とETFとの相違点

前回の記事でICOってさー、なんて書いちゃった訳ですが、その後色々とお話をする機会を頂いたり(その流れで今時の MLM – Multi-Label-Marketing – な人たちに捕まりそうになったりしましたが。。。)、Etherがらみのデータ消失による2億ドル以上の資産評価額の消失や、これまたEther がらみのICOによる詐欺事件とか起きて、色々と学びましたので、それを絡めつつ、以前書いた金融商品の非創造性の記事を深めるようなネタでも。。。

本当は NISAとか iDeCo のネタ書いて Soldie 的な読者さんでも増やしたいのに。。。(嘘)

ICO はリパッケージなトークンを発行するのが一般的?

さて、冒頭で書いた詐欺事件の話。Ether を裏付けにした、と言うか、Ether と等価交換できると言うトークンをICOで発行して資金調達をしたらそのままトンズラした、と言うことらしいのです。しかも、今時らしく、その発行したチームとは基本 Twitter で情報のやり取り出来るようにしていたがICO以降twitter での反応はなくなり、ICO関連のウェブサイトもなくなり、と言う、夜逃げのネット版みたいな状態なのだとか。

多分、ここでポイントになるのがいわゆるcryptocurrency といったときに、世の中にこの記事を書き初めている(2017/11/30)時点でcryptocurrency market capitalisation によると1326ほどのcryptocurrency が6997もあると言うどこかしらの取引所で取引されている(市場規模で$329,456,400,661、そのうちbitcoinは55%を占めているような)のですが、そのうちcoinと token の二つに大きく分かれるということをまず理解としないといけないようです。

そもそも coin とtoken の違いって?

で、coin と token の違いは、と言うと、coin と言うのは bitcoin がopen source で作られていることから、そのコードを利用して新しい機能等を付け加えられて作られた、いわば bitcoin の親戚、で altcoin とも呼ばれているもの。前回の記事でICOするのにそこまで作るの?と思ったのがこのレベルのもの。それだって916も存在するようだ。。。

で、token と言うのが実は前回取り上げたQash も含まれるもので、これは実はEthereumのような altcoin の blockchain プラットフォームのフォーマットに従って、資産を裏付けにしながら比較的簡単に機能拡張しながら作ることが可能なもの、らしく、ICOに実に適したもの、なのだとか。なので、このtoken を使ってのICOが世の中一般に言われるICOのようだ。だから、Etherと等価交換なtoken での詐欺とか、と言う話になる訳だ。ちなみに、まともに動いているtoken は Qash 含めて409あるそうな。token の方が altcoin より簡単だ、という割に altcoin より少ないのが不思議な気がするが。。。

と言うことは、ICOってある意味altcoinやbitcoin を裏付けにしたリパッケージじゃん、と言うことになるのですよ。実際、最近聞いた話では ICO では詐欺事件等の印象も悪いから、ということで、投資銀行な人たちが TGE (Token Generating Event) という言葉を再発明してイメージを一新して行こうとしている、という話らしい、が、看板を掛け替えたところで、というのはここの読者ならばお分かりだろう。。。

さて、この Token って、資産を裏付けにして兌換性をある意味提供する、となれば株とかの世界ならば、ファンドかETFのようなもの、とも言える訳です。しかも、金融商品と違って、独自の拡張機能が付いてくることもある、というのが open source の世界らしい。金融の場合は、どうしたって(日経225ならば最低5億の最低取引単位のような)原資産の性質の呪縛しかない訳ですから。

といって、普通に金融商品がリパッケージされる、というのは分かりづらいかもしれないのでまずはちょっとその辺りでも解説を。。。

金融商品のリパッケージの手法その1 – 資産ポートフォリオを小口化する

ETFを含めた、ファンド、という商品は、いわゆるバランスシートを見たときに、単純にいえば、資産として投資対象と現金を、反対側には債務は(未払費用を除けば)なく、あとは投資家の持分がある、という状態です。ということは、保有する資産の評価額がそのまま投資家の持分全体の評価額になり、自分の持分については、といえばその全体の持分合計に対する自分の持分の割合だけ(ファンドの保有する資産の何か特定の資産に一対一で紐づけられることなく)資産ポートフォリオを保有している状態にある、といえます。

絵でいえばこんな感じで、よく法律っぽい言葉で言うならば各持分が pari-passu 、各持分の間に優先劣後関係はなく、全てが等しく扱われる、と言うもの。

この場合、例えば日経225ETFを例にするならば、資産ポートフォリオは255銘柄の最小単位である 5.3億の倍数でしか組むことが出来ないのですが、投資家の持分については、商品設計上、例えば10,000円単位の小口で53,000口集めることで 5.3億を募集して投資を募ればいい訳で、そうなると、5.3億円相当の資産ポートフォリオが 10,000円単位の持分 53,000口に細分化されることになるのです。

この場合経済効果は各持分に対して均等にかつ公平に配分される、というのもキーになります。言い換えると、日経225ETFを持ったら、ETFのうち、トヨタが俺のもの、なんてことにはならないのです。これは、よくある馬主ネタ「ああ、俺、あの馬の尻尾のオーナー」のようなことはない、のです(一口馬主だって尻尾だけオーナーに、とはなりませんからっ)

なので、大口投資家がETFをブロック取引がわりに使えることから、大口なだけに5.3億相当のETFを持って現物を引き出せる訳ですが、そのときには好き嫌いにかかわらず上記の例で言えば、トヨタだけ 5.3億円相当引き出せる、のではなく、ポートフォリオの構成銘柄 255を受け取ることになる、のです。

ちなみに、その昔のこと、仕組債のマーケットメイクをしているときに債券が事実上買い集めたけど償還まで持ち続けるのはきつい、といった時に、所有していた仕組債を SPCあたりに持たせて、債券の金利部分をスワップで簡単な固定金利などに変換した上で、このキャッシュフローを担保とした債券を SPCに発行させては別の投資家に売りさばく、なんてことをフロントがやっていたなぁ、なんて思い出すと、実はファンド持分だけでなく、発行体にとって負債だって資産に対して等配分なリパッケージだって出来るんだ、とも言えます。ま、やる側からすれば、マーケットでスプレッドを持って買い集めて、かつスワップでも稼ぎ、オフバランスまでしているのですから誰のための案件だったのやら。。。

金融商品のリパッケージの手法その2 – 資産ポートフォリオへの権利に優先劣後をつける

さて、リパッケージのもう一つのメリット、と言えば小口化の過程で資産ポートフォリオの本来の収益特性を分解して複数のリスク特性の商品を作り出すことが可能だと言うことなのですが、どう言うことかといえば、以前の記事で紹介したこんな感じでしょうか。

資産ポートフォリオのキャッシュフロー、元本や利益、についてその配分方法として複数の投資家の間に優先劣後関係を入れて、安定して先にもらえる人はリターンは低めで、元本を完全に回収できないリスクを追いつつ支払いが後回しになる人にはリターンが高い、とするのです。これによって、複数のリスク特性の投資家に対するアクセスが一つの資産を裏付けにしても作れるのです。

こう書くと、例えばCLOや以前の記事のようなレバレッジをかけて UCITSに投資するファンド、のようなイメージが先行しがち、ですが、マイホームを銀行からお金を借りながら購入したら、転勤させられるから人に貸して、転勤が終わって帰ってきたら家族構成が変わったので手狭だから売る、なんてケース(ってどんなケースだ?)ですと実質的には同じで、取得時に頭金として置く分が上記で言えば元本の毀損リスクが高い劣後証券のポジションで、銀行からのローンが優先証券に値して、売却時には売却金はまずローンの返済に回理、もしローン返済に足りなかったら、頭金は毀損したことになるし、仮にローン返済後に頭金以上に手元に残ったらいい投資だった、といってピンと来るでしょうか。

しかも、最近のアメリカあたりだと、資産ポートフォリオをプライベートエクイティファンドが買いに行く個別の投資先の企業として、優先証券にあたるところに銀行がローンを出せなくなってきたことから、ローンを専業で出すファンドがいてそこから出て来ては担保をしっかり取った形でのローン、劣後証券に当たる部分が案件のスポンサーになるプライベートエクイティファンドからでて、もしこれで足りなかったらメザニンローンを出すような前述のローン提供ファンドから高めの金利で埋め合わせる、と言う構造になり、と言うことは、優先証券やメザニンなんかが束になった(その一の時のような投資家間で均等にリスクを分ける)ダイレクトレンディング・ファンド、のようなプライベート・デット投資の商品として提供されることになるのです。

まぁ、一時期流行ったバンクローンファンドの投資対象も、その意味では格付けで言うところのCとかのような機関投資家的には投資不適格な企業に対して銀行が審査した上でローンを一旦出して、バンクローンの取引市場を通じて売却したものを束ねたものですから、似たようなもの、と言えばそれまで、です。とは言え、流動性の違いやローンの貸出先の性質の違い、担保の質や管理、などの点でポートフォリオの質と生み出すリターンが違って来るのでこの辺りはストラクチャーよりも運用者の手腕がもろにでて来るところ、ではあるのですが。。。

いずれにせよ、この優先劣後のストラクチャー、資産がBBBとかBとかいった低格付けのポートフォリオから確率論的に安全だと思われる程度のキャッシュフローの上澄みだけを優先部分に当てることでAAA格付けの商品を作り出せる、的な「格付け(ベーっだ)エンジニリアリング」が出来るので、案外無から有を作り出す魔法のように思われますが、その付けを劣後が払うことになるので全体のリスク量は変らないので優先劣後のストラクチャーの中でのゼロサムゲームが行われているに過ぎず、サブプライム問題のようなポートフォリオ全体の質の劣化なんて起きれば優先すら大変なことになった、が10年も前には起こったわけです。

また、先ほどの馬主的な言い方をすれば、まさに「このトヨタのキャッシュフロー部分は俺の」的な事が(資産と持分とが法的には紐付けになっていないものの契約書上の割り当て的には)言えてしまう、のは一般的に見れは不思議なことであり、金融工学的な側面にも見えてしまいますよね。

で、リパッケージって何がいい、と思われてるの?

結局のところ、pari-passu であれば小口化であったり、スワップを使えばキャッシュフローの変更などができますが、キャピタルストラクチャーを変えてしまえば、リスク特性も変える事ができるので投資家の幅を広げる事もでき得る、とも考える事ができるかも知れません。といっても、このリスク特性を変えるのは特定の投資家には与えないようにしてこちらの投資家に寄せている、のである以上どこかしらに偏在するのは、ポートフォリオ自体に何かの手を加えたわけではないから、ポートフォリオ全体のリスクが変わったわけではない(上記の絵でいえば、左側は何ら変わっていないけど、右側はキャピタルストラクチャーによってリスクの取り手とその対価としてのリターンが調整されている)にすぎないのです。その意味ではゼロサムゲーム、とも言えるのです。

ICOと言うか TGE におけるリパッケージって、どうよ

で、話を冒頭に戻すとするならば、Token が原資産をもとに発行されてある意味等価交換可能なもの、とされている訳ですが、そもそも bitcoin における最低取引単位、と言うのが、546Satoshi で、この Satoshi と言うのが 1億分の1BTC だそうですから、最近の高騰で 1BTC 100万円としても 1 Satoshi が 0.01円、したがって最低取引単位は  5.46円、と言うことになりますわな。と思うと。。。ETFのような細分化できない訳じゃなさそうだ。ほんと、なんでそのまま取引しないんでしょうね、と思うのは私だけでしょうか。

そこが、Token がプログラムである以上、機能的な向上もおまけで付いて回っているから、と言うバランスシートの左側が何も変わっていない、のではなく、変わっていて、それ特有だから評価出来るので、と言うこと、になりそうですね。そこは ICOと言うか TGEをするスポンサーへの信認の証、かも知れませんね。

としたら、10件に1件しか本物はいない、のはその通り、なのかも知れませんが、まぁ、所詮はデジタルデータ、ですからねぇ。

Say something on cryptcurrency: ICOって儲かるの?

(著者注:2017年11月19日にあれこれ加筆修正しました。まずは書いてそれから加筆修正する、と言う方がよりたくさん書けるような気がしたので遅筆な私にとって良いような気がして実践して見ました。)

この間某ヘッジファンド関連で仲良くさせて頂いている方から呑みの席で

「なんか、最近ETFネタばかり書いてるじゃない?あれ、bitcoin に流れるんじゃなかったの?」

あ、読んでくれてるんだ、とそっちを喜んでしまった自分がいたのは内緒なのですが、どうもbitcoin ETFの話を軸にあれこれ書かせて頂いたことで、最近ちらほらと、bitcoin関連のお問い合わせを頂くようになってきました。(で、ETFの仕組み関連の問い合わせはぱったりなくなったのは。。。嫌になっちゃったからかな(笑))

で、そのお問い合わせの中で必ず出てくるフレーズが

「ICOやりたいんですよね」

うん、最近、ICOで資金調達、なんて話は、仮想通貨というか暗号通貨、というかcryptocurrency という表現でbitcoin を含んだ全般的な話をする時の総称ですけど、そんな話をしていると、bitcoinの売買益でフェラーリを数台買ってリース業を始める、なんて類の結局のところ、日本にいるならば仮想通貨は取引対象に過ぎなくて生活して儲けた結果の評価をするための通貨は日本円じゃないと食えないから泡銭をロンダリングしてんじゃん、という話を同じくらい頻繁に聞こえてきますが、普通に聞いているとよくわからないですよね。それがなぜ儲かるのか、とか、そもそもの仕組みとか。

とはいえ、これってファンドでもオフショアでもなんでもない話なんですよね。それでも、日本が世界に誇る(ことにはまだまだならないだろう)ファンドのストラクチャラーによる ICOの解説、聞きたい?

ということで、この手の話をする時に、ストラクチャラーとしてみるのは法的な作り付けと、経済的な効果の二つ。なので、それぞれの側面で、ICOというより cryptocurrency とそれを ICOしたい企業との関係で考えてみたいと思います。

cryptcurrency とICOを含めたその売買の法的側面とは?

そもそも、bitcoin や ether、最近だと、ICOした Qashなどなど、いわゆる cryptocurrency とは一体なんなんでしょう。Qash で ICOした Quoinex のウェブサイトの下に思いっきり答えが書いてあります。

仮想通貨は、日本円やドルなどのように国がその価値を保証している「法定通貨」ではありません。インターネット上でやりとりされる電子データです。

法定通貨が「国がその価値を保証している」、という表現は正直疑問はあります(その昔のイギリスポンドが1ポンド紙幣をイングランド銀行に持ち込むと1ポンド(450g)の金を受け取れた、というような支払いの裏付けがなく、国の信用力/法的強制力が裏付け、ですからね。)が、法律で定められた通貨としての円のようなものではなく、仮想通貨はそもそも、ただの電子データ、なのです。いくら、暗号化された取引履歴を元にしたもの、とは言え。。。

ICOで資金調達、ってことはIPOに似てるからそのICOした会社の株とか、会社の保証みたいなものじゃないの?

会社が資金調達する、というと、通常は銀行などからの借り入れ、といういつか返さなければならない債務を負うか、会社の権利の一部を株式という形で渡す代わりに債務と異なって返さなくともいい資金を得るか、のどちらかです。IPO(Initial Public Offering)というのはその株式での資金調達の方法の一つで、その会社が初めて(initial)公開(Public)市場、すなわち株式市場にて取引できる環境を通じて、株式を提供する(Offering)ことをさします。なお、上場しない企業だって、第三者割当て、という形で第三者な投資家から株式譲渡を通じて株式での資金調達が可能です。

では、ICO (Initial Coin Offering)はこのどちらに当てはまるのでしょう。これを書いている2017年11月現在、進行形で進んでいるICOをしているのはQUOINEという会社さんですが、ここは3.5億のQash トークンをICOして134億円相当の資金調達をしたそうなのですが、実はこの会社の株式はすでにベンチャーキャピタル数社などが取得しています。そんな状態で134億円の株式を世界98ヶ国およそ5,000人弱の不特定多数に発行したら古くからいるベンチャーキャピタルの支配権が薄まってしまいますので困りますよね。

ということは、どうやら、ICOでQashトークンという電子データを売って134億円相当を資金調達した、というよりも売り上げた、と考えた方が良さそうですね。

そうなると、会社の側からすればcryptocurrency のインフラの維持という義務は負うものの cryptocurrency の構造に内包されていると考えてしまえばさしたる負担ではなさそうで、そうなると、通常に資金調達したい会社がその権利を売ったわけでも借金しているわけでもない、と考えるのが良さそうです。ある意味、会社の側からすればお得なお話、ですよね。「電子データ」を売り切っちゃったわけですから。。。(となると、この会社のとって資金調達、とはいえ売上ですので収益扱いになるので巨額に集めた = 巨額の売上が計上されるのでそれ相応の税金の負担も発生する、ということになりますよね。。。インフラの維持は半永久的、に対して。。。)

じゃあ、ICOは何を求めて集まったの?

と考えた時に、この5,000人弱のQashトークンという「ただの電子データ」を手に入れた人はQuoine 社に何を期待して買ったのでしょう。単純にいえば、Qashの値上がり、ですが、それを裏付ける取引の流動性の高さや安定性の期待、他のcryptocurrencyや法定通貨との交換の簡便性、はたまた普段のショッピングなどでの決済の汎用性などがその取引量を増やして値上がりに繋がる背景ともいえて、実際にQuoine社はそのような取引所としてのインフラを提供することのために資金調達をしてサーバーの増強などに使う、とされています。

ちなみに、IPOの後の株と同じで、ICOしたこの会社、Qashトークン全体の時価総額が増えたとしても、自分たちが調達できたのは最初に売った時に手にした134億「だけ」です。野に放たれたcryptocurrency の値上がりを享受するのは、ICOによる売り出し市場以降で手元のQashトークンを誰かさんに取引所経由で売却した時に実際の利益になる(冒頭で触れたbitcoin長者的な、安く仕込んで高く売った人、のような例ですね。)、のも株を同じですね。

その意味では、cryptocurrencyと株式との類似性、というのが見えてきます。そこで cryptocurrency の経済的なメリット、デメリット、と言う観点で話を進めていきましょう。

ICOになぜこれだけの注目が集まるの?

企業の資金調達の手法として、今までは株式や債券などを使ってきましたが、金融行政や過去からの商習慣などから資金調達できる範囲も通常は一つの国で、その国の規制にも続いた形に合わせる必要があり、結果としてだいたい調達資金の1%程度が手数料として銀行や証券会社、弁護士などに払わねばなりませんでしたし、いわゆる有価証券で上場していたりすると、四半期ごとに報告書を作成して提出する義務もついてまわります。しかも馬鹿高い監査を受ける必要すらあります。その労力たるやかなりのもので、おかげで上場廃止した方が本来的な株主や会社のためではないのか?という声が上がるのも当然です。

それに対して、もともと国の縛りのないcryptocurrencyならば、取引所にアクセスできる人ならば世界中だれでも、ということで、より幅の広い人たちからICOへの参加を求めることもできますし、何よりいわゆる有価証券ではないことから、定期的な報告もいらなければ会社の何か、ではないので会社の監査等に縛られることもありません。もちろん証券会社や銀行の関与も不要ですから、高い手数料を支払う必要もありません。

そして、流通市場も全世界的ですから、市場参加者もその国へのアクセスが可能な人たちだけ、という狭い市場ではないこと、そして、法定通貨に縛られていないから24時間365日常に動いている流動性の枯渇の心配のない投資対象、と言えちゃうんじゃないの、と信者さんたちは言うのでしょうね。多分。

で、本当に全てがバラ色なの?

どうなんでしょうね。個人的には流動性の問題は市場参加者が常に一定に存在する、と言う仮説は成立し得ないと考えていますから、何かのショックで流動性が枯渇してもおかしくはない、と言うのは多分地球上で一番流動性の高い取引と言われる為替の世界ですら起こると考えていますので。。。「絶対」はないのですから、そもそも。

そもそも、ICOをやりたい、という企業が自社のcryptocurrencyを作ってICOすればいい、という話なのでしょうけど、そのためにはcryptocurrencyの仕組みを作らねばならないでしょうし、Quoinex のような取引所で取り扱ってもらえるように条件を適合させる必要もあります。

となると、while-label 化された取引所での取り扱い実績のある cryptocurrencyを使って自社ブランドをつけて、とするのが早そうですが。。。それってあのcryptocurrencyもこの cryptocurrency も仕組みは一緒、なので資金調達したい会社のブランド・知名度に依存する、ことになるのかもしれません。となると流通量や取引量勝負?ほぼ日経225連動ETFで見た風景と変わらなくなってきますね。とすればcryptocurrency は一定数出てきては入れ替わって淘汰されていく、のでしょう。では淘汰されたcryptocurrency の末路ってどうなるのでしょうね。株で言うところの紙切れ?いや、ただの電子データになるのでしょう。。。

まぁ、そもそも売りっぱなしモデルですから、資金調達したい会社からすればICOしてあとは cryptocurrency の仕組み上の堅牢性と投資家と取引所にリスクだけ丸投げ、にすらなりかねないのですので、そう考えると、ICOで一番美味しい思いをするのは、ICOした人だけ、ですな。

あとはセカンダリー市場で常に市場リスクに晒され続けながらボールの受け渡しをし続けていきながら一喜一憂し、Ms. Watanabe たちのような高級バッグや高級ランチに興じたり、フェラーリを買う人もいれば、「電子データになっちゃった」と笑って次に行くか、はたまた金融系の監督官庁に「よくわからない取引に巻き込まれた」と泣きついて、と言う風景がcryptocurrency でも起こるのかもしれませんね、ってすでに起きてるか。。。

ETF の続き、というよりファンドや証券そのものの本質的なところをもうちょっとだけ書かないといけない気がしたので

元々このブログで意図していたのがオフショアのファンドのイロハ的、とある意味金融商品でも割とニッチである意味上級者向けな(だから、読者層も極めて限られている)ところだったところに、AFPなんてものを著者が取得してしまい、かつ30代男性読者の金融リテラシーを補わねば、という人向けの記事をいくつか書いたものですから、投資というものを細かくかみ砕くような記事をちらちら書いてしまったおかげで、ETFの記事をポストした後に数人の方からのこの記事に対するフィードバックを聞いているとどうやらプロ向けと初心者向けの間の部分が抜け落ちた構造になってしまっていないか、ということに気づかされることがありまして。。。

そこで、ちょっとだけ ETF の話の延長をしつつ、ファンドへの投資ということや証券の取引の本質的なところをいくつかかいつまんでみようかな、と思ったのが今回の記事の狙い、と思ってください。

Bitcoin してる?

AIMA Japan の創設メンバーの一人で、時々(当の二人に自覚症状は全くないものの、オルタナ系ファンド業界では有名な2mの大男から“Dangerous Men” の称号を一緒に頂くほどのハードな)飲みにお付き合い頂いているオルタナファンド投資の日本での第一人者、白木さんと珍しく(?)素面で話した時に聞かれたのがこの一言。このリンク先でも彼が取り扱うように、ビットコインなどの仮想通貨というもののあり方というのが投資の世界でもいろいろな形でかかわることが想定されつつあるのですが、ではどんな風に、というのはまだいろいろな可能性もあり見えてきそうで来ないというのが、fintech 特有の「急に現れる未来感」なのかもしれません。

といって、ある意味著名な投資家である彼と同じような投資家目線での高尚なことは書けませんから、ここでちょっと取り上げたいのは、仕組み的なところで一つ。

このところ、出てくるだろう、と言われ続けて世の中に登場してこなかったもの、として言われるのがbitcoin ETF。その名の通り、bitcoin を裏付けにしたファンドの持ち分を上場させたもの、なのですが、過去に何社もトライしつつも当局のストップによって出来ずにいるものです。

といいつつ、実は今、米国 NASDAQ の登竜門と目されている OTCQXに、Glayscale 社というところが GBTCというティックコードで上場させているものが多分事実上のbitcoin ETFなのでしょう。ETFではないファンド、であれば、4年前にジャージー島で私募で作っているという話を聞いていて、実際にGlobal Advisors というジャージー島のファンドが2014年からのトラックレコードが示されていますから、多分そういう形で世界中のあちこちでファンドの組成を行っていたと思われます。実際、Forbes の記事によれば今年7月の時点で13ファンドがETFではないにせよ、bitcoinなどに関連して投資をしているようです。ちなみに、このGlobal Advisors のGABIはケイマン諸島の証券取引所、The International Exchange に上場しているそうな。とはいえ、この上場の意味は。。。前回のETFの記事で説明した広義の意味での「届出目的の上場」と思ってもいいかもしれませんね。

あ、余談ですが、このGlobal Advisorsは2017年6月にAltcoin (bitcoin 以外の仮想通貨)の一つで有名なEthereum platform の通貨、 Ether 建のファンド、CoinShare Fund I を立ち上げて、その他のAltcoin のICO(Initial Coin Offering)やその後のステージで所有者間で流通しているものの取得するなどして運用していくそうな。感覚的にはAltcoinは株みたいな資金流通手段になっているから株と同じようにタイミングを見て売り買いして運用できる、というのを示していくように見えてきます。

で、ここで一つポイントにしたいのが、bitcoin って実際のところETFにしなくとも比較的手軽に口座を開けて取得可能なもの、ですよね。実際に近所のIT好きな店主のいる喫茶店でのコーヒーのお支払いに(そして、それと同じくらい手軽にdark web 経由で依頼したアンダーグラウンドな活動の対価として)bitcoin、のように決済にも使える訳ですから。ではなぜ、わざわざ(GBTCの場合なら年率2%の)フィーを払ってでもETFになったbitcoin を持ちたい、というか投資したいのでしょう。

bitcoin ETFだけに限らない 「ETF する」ことのご利益(その1)

なぜそれをするのか?という質問は、ファンドに限らず、また事業に限らず、ある意味すべての行動において問われるものですが、特にお金が絡むものならば「誰かが」儲かるからそれをする訳でして、ということは、その金融商品にはそのメリットをデザインされて作られているのです。では、bitcoin ETFの場合、フィーを払っても得たいメリットとはいったい何か、ですね。

bitcoin に限らず実際には現物資産を裏付けにした ETF やファンド全般に当てはまることなのですが、ファンドという金融資産にすることで、これらの資産を直接取得・売却することで得られた利益に対する課税と異なる課税ルールを適用出来るように変換するのです。

どういうことかといえば、bitcoinの場合でいえば、話を単純にするため(というのも、bitcoin についてはいろいろなところで課税利益が発生するようなので。。。)に単純にお金を払って bitcoin を取得し後日売却してお金を得た、とすると、取得した価格と売却した価格の差額が利益になります。この利益については日本に住む個人であれば雑所得として取り扱われるそうです。この場合、ざっくり言えば給与所得等と合算して累進課税の計算の対象となります。(もし、確定申告を要しない給与所得だけの人の雑所得が年間20万円以下であれば確定申告しなくともよいそうです。ですが、住宅ローン減税のための控除を受けたい、年間2000万円以上の給与所得がある、など確定申告しなければならない場合には、雑所得が20万円未満でも申告対象になるので注意が必要です。)

これがもし(というのも、ごく一般的な日本の居住者では多分にGBCTの取引できる人がいないと思えるので、仮に出来たら、という前提で書きます。ただ、これがこの記事を書いて時間が経って、日本国内で普通に組成・上場されたら、その時の法令等に従ってくださいね。)bitcoin ETFを取引して結果差益が出たならば、株式の譲渡差益と同じ「上場株式等に係る譲渡所得」として申告分離課税の20%の対象になります。

実は同種の議論が既にあって、例えば金の積立投資ならば譲渡所得扱い(なので、差益に対して50万円の控除をした額、ただし、5年を超える保有期間ならばその控除後の額を1/2に圧縮した額、が給与所得等と合算して累進課税の対象になるのです)なのですが、金のETFならば株式扱い、になるのです。

あと、似たところでは、一般に FX と呼ばれる為替証拠金取引での差益がbitcoin と同じく雑所得扱い(というか、為替差損益の取り扱いが雑所得だからbitcoinが類似性から雑所得扱いになった、というべきか)のところ、その上場バージョンである「くりっく365」であればその差益は上場株式等と同じ申告分離課税の20%の対象になります。

課税区分の変換だけじゃない税制面でのメリット – 多分みんなはこっちを見ている

また、ETFにする、ということは上場株式と同じ商品の取り扱いになる、ということですので、日本ならばNISA口座での取得が可能になる、ということでその非課税性を享受することが可能になる、のです。実際、GBCT のウェブサイトを見ると、米国のIRA (individual retirement account: 個人退職口座)での取得が可能という税制面でのメリットを謳っています。そう思うと、bitcoin を直接保有することでの税制面での影響とどちらが有利か、考えますよね。

まぁ、金のETF をNISA口座のメリットの出る期間保有するなら個人に適用される累進課税税率次第ですが、同じ期間だけ金の直接保有する方がメリットがありそうにも思えますが。。。

ということで、NISA の話もどこかでしないといけませんね。。。

それ以外のメリットってあるの?

それ以外、って、言われても税制面が一番投資家にとってその最終損益に影響する要因ですから大事、といえば大事だと個人的には思いますが、それ以外に経済合理性の観点であるのか、というと正直ストラクチャーを見る限りはメリットはないと思っています。

というのは、ファンドというワンステップを入れる、ということは、そのファンドを維持・管理するためのコストが当然に発生します。ということは、その費用をだれかが負担する(ということはそれらのサービス提供者はこれに絡むことの経済合理性のある理由はそこからのフィー収入が発生するから、ですね。)かといえば、当然ファンドの投資家が、ファンドの資産の一部から、となるのです。ということは直接保有することに比較してその費用分だけ収益が減少するのは誰が見ても明らかです。ということは直接保有に対して費用分を差し引いても税制面でのメリットがあるからやる、メリットがなければやらない、というのが合理的行動に基づく投資の選択、ですよね(心理学だか経済学だか学んだことがないのでこの言葉遣いが正しいのか知りませんが。。。)。

と言いつつも、これが個人ではなく行動規範に制限のある法人になるとちょっと話が変わってきます。前回のETFに関する記事でちらっと触れた、世界中のどこかで上場していないと投資できないという機関投資家の投資対象の縛り、ありましたよね。それに、BBB格付けのない債券は投資不適格、ということで機関投資家は投資しない(といいつつ、バンクローンとかCとか平気でありますけどなにか?)、というようなリスク管理などの事情で彼らは投資行為がいろいろと狭められているのです。

としたら、そういう人に向けて商品化するためには器とか形式上の整えが必要だ、ということになってくるのです。

ファンドじゃないと買えない!

例えば、日本で言えば信託銀行の信託口座からしか投資の出来ない年金投資家であれば、その受託者の受託者責任によって求められ、また銀行として果たさねばならない(ということは商業的な範疇で言うならば最大限にエラーフリー – 間違いを起こさない – であることを求める)「善良な管理者の注意義務」を全うしながらbitcoin の取引用の口座を開設、維持管理することが出来るか、と言えば、まぁ無理でしょう。金融庁検査に入られて検査官が理解できるような説明がつかないでしょうね(べーっ、だ)。となると、実際に受託者が現物資産を保有するのではなく、金融商品化された上場株式と同等のETFならば、上場基準等々を満たしている訳だから大丈夫だろう、という説明で切り抜けられる、と判断して受け入れることになるのではないかな、と理解しています。

例えば銀行。銀行も実物資産を保有するファンドへの投資が出来ないという規制があるようで、例えば卑金属を保有する可能性のあるファンドへの投資出来ない、という話を聞いたことがある(でも、不動産を保有したりREITに投資したりするから、いわゆる商品取引系の資産がダメなのかもしれませんね。そこまで調べませんけど。)ので、もしかしたらbitcoin ETFにしたところでだめ、と言われるかもしれません。とはいえ、銀行も担当部署の都合で、外国債券の形での仕組債はダメだけどそんな仕組債を単一資産として保有するファンドならば投資できる、という大人な事情を抱えることもあるので、 ファンドにする、という経済的合理性を超える理由というのはこうやって出来る事だってあるのです。そもそも、考えてみれば、(J-)REITなんかも不動産の直接保有を金融商品に変換している商品ですが、銀行が大家さんな事業をやることはなくとも、J-REITでも私募REITでもいいから投資するあたりは、そういう事例としてみるには分かりやすかったかもしれませんね。

ちょっと余談:ひと手間掛けることで化ける金融商品たち

さて、ちょっと余談でも(ちょっと、と言いながら長くなりそうですね)。
さて、今までファンドで投資対象の性質を変える、という話をしていますが、こんな金融商品の性質を変えることが出来る機能を持っているのはファンドだけではないのです。

例えば、アメリカ株をやったことのある人なら聞いたことがあると思うのが ADR(American Depository Receipt)。これは、アメリカ国外の企業がアメリカの証券取引所に上場する(ということは米ドル建てで資金調達する)にあたって、本国で(第三者割当で)発行した株式を米国内のDepository に預け、それによって発行された預託証書 (Depository Receipt)を上場させたもの、です。これによって実は本国の法律に基づいて発行された株式が米国内で米国法に基づく証券ということで間接的に流通させることが出来る、という仕組みなのですが、これを応用して、例えば日本で上場・流通させたい時には日本国内の信託を使ってJDR(Japan Depository Receipt)化して上場させる上場信託というスキームがあり、同じことを欧州でやると GDR (Global Depository Receipt)と呼ばれます。

で、なぜ、この話をしたか、というと、イスラム金融に基づいて作られた金融商品をGDR化して非イスラムな投資家に対してアクセスを与えている、という面白いことをして(大儲けして)いる知人がヨーロッパにいて、上記のファンドによるコンバージョン同様に商品性のコンバージョンというのが金融の世界ではあちこちで行われている、という話をしたくなった、だけなのですが。。。

ファンドが変換するのは税務上の性質だけではなく課税のタイミングも変える

さてと。資産の直接投資とファンド経由の投資を税務上の取り扱いの観点で比較したならば、もう一つ税務上での性質の変換を行っている点があります。あまりに当然すぎて気にならないことでもあるものの、極めて重要なことなのでここでご紹介したいと思います。

それは、ファンドを経由して投資すると課税されるタイミングをファンドの持ち分の売却の時点まで遅らせることが出来る、ということです。

例えば、こういう例をみると分かりやすいかもしれません。直接保有する場合とファンドのポートフォリオとして保有する場合と下記の全く同じポートフォリオの入れ替えを行うとします。なお、話を単純化するためにポートフォリオには銘柄Xしか持たないで入れ替えと言いつつも持ち分を増減させるだけ、取引コストや維持コストも0とします。

  1. 2017年5月:ポートフォリオに 銘柄Xを単価100円で10,000単位取得
  2. 2017年11月:ポートフォリオの銘柄Xの、3,000単位を単価110円で売却
  3. 2018年6月:ポートフォリオの銘柄Xの、3,000単位を単価90円で売却
  4. 2019年3月:ポートフォリオの銘柄Xの、4,000単位を単価120円で売却

さて、上記を直接保有した形で取引した場合、2017年末は30,000円(=3,000 単位 x (110 – 100) 円)の売却益、2018年は30,000円(=3,000 単位 x (90 – 100) 円)の売却損が、2019年は単年で見ると80,000円(=4,000 単位 x (120 – 100) 円)の売却益が出ましたが(日本の税務ルールを適用するならば)前年の売却損があるので繰り越し欠損を充当することで50,000円 (=80,000円 – 30,000円)の課税利益が出たことになります。

もしこれをファンドで行ったとして、2017年4月末にこのファンドに100万円(100円 x 10,000単位)投資したとしたら、その持ち分を2019年3月末まで途中で手放さずに持ち続ける限りはこの3回の売却損益を課税申告することはなく、また、これらに関係なくファンドの持ち分を取得した価格と売却した価格との差額である 80,000円 (= 1,080,000 = (330,000 + 270,000 + 480,000)  – 1,000,000) が2019年の課税利益、となるのです。

こうしてみると、結果だけ見ると同額の課税利益が発生するものの直接保有すると利益を出した年に細かく税務処理をすることになるところ、ファンドであれば持ち分を売却する時点まで2017年の売却益を課税されずに繰り延べることが出来るということが分かるかと思います。 このメリットは、この例でいうならば、2017年の売却益に対して20%の課税がされる、ということは、6,000円が手元から無くなっている訳ですから2018年の頭に再投資をするための資金が330,000円ではなく 324,000円だったことになり(この例では再投資をしていないので実感できませんが)投資効率がファンドに比べると直接保有だと(キャピタルゲインタックス分だけ)落ちる、ということなのです。

よく節税の教科書あたりだと、これを例えば大きめの経費等が発生する年に含み益のある投資商品を売却して実現利益にして大きめの経費にぶつけることで課税利益を圧縮する、なんて簡単に書きますが、問題は手元にそんなに都合よく含み益のある投資商品をもっているのか(全部負けてたらどーすんだよっ!)と思うのですが、利益の繰り延べが出来るというのは、含み益の実現化のタイミングを自分の都合で出来る、というメリットがある、と解されるのです。

まぁ、そのためにはファンドでキャピタルゲイン課税がなされないこと、なのですが、日本なら投資信託のようなものならば課税しないことになっているので実現しやすいのですが、日本の会社では法人税がかかるので使えない、ですね。

そこで、キャピタルゲイン課税のない国に会社を作ってそこで投資行為全般を集約してしまえば、日本で利益を実現したいタイミングまで海外で運用を行っていけば税務のタイミングをコントロール出来ますよ、というのが、実は以前書いた記事のひとつである、個人で海外に法人と銀行口座を持つメリット、という以前の記事の総まとめにもなるわけなのですが。。。。

と、気付けばだいぶ話がbitcoin ETFから離れてしまったので一気に引き戻しましょう。

bitcoin ETFだけに限らない 「ETF する」ことのご利益(その2)

ETFにすることで、投資家の側に立ってみると

  • 投資単位が小口化される – 前回のETFの記事で見た通り、日経225ならば現物株で5.3億円程度で構築できるポートフォリオに10,000円前後で参加できる。
  • 流動性が証券取引所が動いている時間ならばいつでも、しかも価格は瞬時に – 通常のファンドならば最短でも一日一回、しかも価格の確定は申し込んだ翌日以降にならないとわからない。

といったメリットを提供されていると考えられます。なお、前回の記事から再三申し上げますが、ここではファンドの運用報酬が安い、というのはETFでは取引所での価格確定のメカニズムが入ることで投資家の投資のリターンに事実上影響がない、という立場を取っています。というのも、これから説明することがETFの価格構成要素としては大きな影響を与えるものであって、それゆえ本源的なファンドとしてのETFの資産価値を構成する運用報酬などが価格の構成要素としての影響力が事実上ない、と考えているからです。

ETFにすることでETFの発行・流通に関連する関係者の大きなメリット – 流通量のコントロールを通じた価格形成が可能になるということ

これは何を言いたいのか、というと、ETFではないファンドが投資戦略を実行するために「資金募集」を行う際には、そのファンドの持分を時価相当額で発行してその代わりとして資金を受け入れます。ということは、この通常のファンドの持分の発行というのはファンドの投資戦略への需要と一致した量だけ、しかも小口化してより多くの投資家が保有できる形で、発行されていると考えることができます。

当然、ファンドを作るときにある程度当初の投資見込みを勘案してファンドというのは設定するかどうかを検討されますが、とはいえ、一般的な株のIPOや債券の売り出し、果てはaltcoinの ICO (Initial Coin Offering) のように、ある程度需要を見込んだ上での一定量の持分の発行に対してそこから最終的な需要と供給のバランスで価格が決まる、というような持分の取引価格の決め方をすることはありません。また、これらの持分は一度発行されたならばその発行量は柔軟に調整される、ということも(下記に述べることを除けば)ありません。bitcoin や altcoin に至っては金貨同様にマイニングによって僅かずつとはいえ増えはしますが減ることはまずありませんね。

とすると、株や債券、bitcoinやaltcoin の価格というのは一度発行されると、その後の流通市場において、本源的には原資産の評価額というよりは純粋にかかる持分に対する需要と供給のバランスによってその評価額(いわゆる売買価格)が決まるのです。その時にその需要や供給の判断材料として使われるものが、株や債券ならばその会社の業績や債務に対する返済能力、今後の事業の見通しといったファンドで置き換えるならばその会社の事業「戦略」や財務状況のようなミクロ、また、その会社を取り巻く市場環境などのマクロの両方なのですし、bitcoinや altcoinであればその参加者の増加による流動性の多寡や利用できる利便性、そしてこれらのcoinの仕組みの堅牢性(もしくはその脆弱性が判明すること)、などでしょうか。

では、ETFはどうなのか、といえば株や債券と一緒で、それこそ日経225ならばおよそ5.3億の単位で持分が投資信託から市場参加者に交付されて市場の売買の供せられるわけですが、では、市場での日経225への需要がこの5.3億の整数の倍数だけあるのか、といえば。。。当然一致することはないですよね。確かに日本銀行が日本で売買されているETFの75%程度をこの記事を書いているときには保有しているとブルームバーグが試算してますが、であったとしても、残る25%の需要に合致しているとは言い切れないでしょう。

だからこそ、前回の記事でも書いたように、同じ日経225のETFが世の中に7種類も存在していても、それぞれの発行体等への需要が均一してあるはずもなく、流通量の多いETFになればなるほど市場参加者の価格へのコンセンサスが原資産の動きに近いものに構築されやすく(されやすいだけで一致する保証はどこにもなく)、逆に流通量が少ないと少ない意見での価格構成ですから原資産よりもその時に売りたい・買いたいという需要と供給の原理に大きく依存される、のです。

とすると、実は発行数の少ない証券というのはその希少性から取得したい人の需要を満たしづらいことから価格が上昇しやすい、と一般には考えられています。また、流通量が(需要以上に)増えすぎてしまうと、需要と供給のバランスが崩れて需要が減って供給過多になることで自然と価格が下落し易くなります。

後者の面白い例として、閉じた世界としてのオンラインRPGゲームのなかで、プレイヤーが無限に貨幣を取得できるメカニズムになっていると時間が経つにつれて全てのプレイヤーが金持ちになるので貨幣価値が下がって一気にインフレになった、という事例があります。要はファンドの持分ですら必要以上に増えてしまうと価値が下がりえる、ということなのです。

そのファンドの実例の一つとしてあげるならば、前回紹介したベトナムの上場ファンドですが、ベトナムの株式市場全体が大きく値を下げたことを受けて、上場ファンドの取引価格が急落し、原資産となるファンドの純資産額よりも大きく下回ることになったのです。それを受けてファンドの運用会社が投資家の利益というべき取引価格と純資産価格との乖離を減らすために取ったアクションというのが

  • 分配金を多く出すことで投資家の需要を掘り起こす
  • ファンドが持分を自分で買い戻すことで流通量を減らして需要と供給のバランスを調整する
だったのです(実際に、ヨーロッパを中心に投資家へのロードショーを行うことで投資家を増やす、という努力もしていましたが)。

とすると、株も債券も一応は発行数を減らす方法が(株なら自己取得、債券ならば部分償還)ありますが、あまり機動的に行うことが出来ません。でも、ETFであればマーケットメイカーである市場参加者の裁定取引の一環でその流通量(ひいては価格の調整)をコントロールすることも可能なのです。

ということで、一旦キリをつける、ということで

実際、この記事を書くのに2ヶ月近くあれこれ時間をかけてしまいました。その間Bitcoin の世界もあれこれ変わったようですが、他方で Bitcoin ETFについてはBitcoin の先物がないからまだダメよ、という US-SECの見解が出て来たので、何か進展があるのかもしれません。

という中で、ファンドに形を変換する、ETFとして流通性を強化する、小口化する、という投資家にとってメリットと思われるものは色々あるので止めはしませんが、まぁ、通常は、とある資産を裏付けに新しい証券を作り出すことで取得価格と販売価格の差額で儲けて、追加発行する際も自分が発行する元手以上の価格の時に行いますし、買い戻しをするのは本来の価値より市場価格が低く評価されているときに買い戻す(これ、大手系列の子会社がIPOして長い時間を経てまたグループの完全子会社になるべく上場廃止する、のとあまり変わらないですよね。。。)、ということが出来るのは全ての価格を知り、調整できるからですから

ギャンブルにおいては胴元が必ず勝つ

という原則は覚えておくべきですし、投資家を儲けさせるために取引コストの負担をするなどの胴元が自腹を切ることなど利益供与になるので今時は出来ないししたくもないことだからあり得ない、と心得ておくべきでしょう。

ハブ・アンド・スポークス – お金と情報は集まるところに集まって力を産む、だからファンドはオフショアに行く

つい先日のこと。とある著名な中小型のプライベート・エクイティを運営されている方に人のご紹介がてらお話を伺うことが出来ました。プライベート・エクイティの運営戦略も今や単純に未公開株を買って上場したところを売る、という単純なものではなく、VCからの延長でそのまま一気に上場させる手伝いをするものや、破綻しかかっている上場株を再生すべくTBOで買い集めて非上場化して会社を綺麗にして、再上場するようなターンアラウンド、私の以前いた会社の母体がそうだったように、企業の一部門を切り出して企業化していく、などなど、色々な戦略というかシナリオで投資をしているのですが、今回お会いさせていただいた方はその一つの事業承継を主軸に行なっている方でした。

となると比較的小ぶり、と言われそうですが、それでも最終的な投資額の目標が150億、実際にはローンを使ったりするので投資する企業価値の合計は300億以上にはなるのではないかと思います。それでも中小型、と日本では呼ばれ、アメリカのPE業界と比較すると、下手をすれば小型どころかマイクロ、とまで言われかねないサイズ感ですが、この彼にとっての今回のチームで最初となるこのファンドには海外の投資家を含めるものの大多数が国内の機関投資家を占めていた、というのです。

実際、関わりを持たせて頂くようになったこの10年を見ていても、日本の大型株のプライベート・エクイティは海外の投資家と国内の投資家とが程よく混ざり合った投資家の顔ぶれが続いていますが、中小型株となると、いくつかの例外を除くとそのファンドの募集する額に対してほぼちょうどか多いくらいに国内の投資家からの資金が入ってくるので、国内スキームと国内投資家とのお付き合いにとどまるケースになってしまっているそうです。そのいくつかの例外、というのは、最初から海外の投資家と国内の投資家とに投資家を分散させて置きたい、という意識を持って投資家回りをして募集している、という準備もあり、また、やはりそれなりにいいパフォーマンスを過去に出して海外の投資家に認知されている、というのもあるとも見られています。

他方で、海外からの国内に投資する際の税務上の規制(いわゆるShinsei Tax:新生銀行に対する海外の投資家による再生プランの一環での株式再上場の際、血税が使われての再生でもあったのことから課税の難しかった海外投資家に対する譲渡利益への源泉徴収義務の強化が、一般的な海外からの国内企業への過半数株式保有の形での投資にまで適用されると解釈されたこと、が、海外からの国内へのPE投資への阻害要件になっていた、とされています。)や、国内スキーム(国内投資有限責任組合スキーム)での会計処理の特異性(IFRSなどは投資対象の時価評価を求めるのに対して、国内スキームでは原則簿価計上)や報告書等の言語、などが海外投資家を日本から遠ざけていた、と言われた時期が長かったともされています。

とすると、国内の中小型株のプライベート・エクイティは国内の投資資金がぐるぐる国内で回っているだけ、という見方をすることができるのですが、それでも、銀行が今や地元の有力企業の株式を保有することで支援することが難しくなった今、国内の機関投資家の資金をハブのごとく集中化して未公開株への投資を通じて事業育成に役立てている、という意味では、ファンドの役割の一つ、お金を大きく集めてまとまった投資を可能とする、ということを実践している証左になるのかと思います。

ハブ・アンド・スポーク – 物流から金融まで、小さなものを大きくまとめて効率よく移転する構図


さて、今更ですが、ハブ・アンド・スポークってご存知、ですよね。ご存知の方は「ファンドがお金のハブとして果たす役割」まで読み飛ばしていただいても良いかと思いますが、そうでない方のために念のための解説をすると、自転車の車輪をこんな風に思い出していただくとわかるかと思いますが、車輪の中心の車軸受けをハブ、そこに向かって車輪から伸びている数々の棒をスポークとそれぞれ呼ばれています。

そこで、外側の輪っかを忘れてもらって、たくさんのスポークの両端の関係だけを想像していただきたいのですが、ある意味ハブにスポークの一端が集中している、と見えますよね。このように、ある種の中央集中型の構造をハブ・アンド・スポーク型と呼ばれているのです(数学のトポロジーの授業と計算機科学の授業を受けたことのある人なら、なんだ、スター型じゃないか、といいそうですが、まぁ、グッとこらえてもらって。。。)。

で、このタイヤ一つだけを見るとどこかの国のような中央集権型システムの構造にしか見えてこないのですが、上記の絵のように二つのタイヤを並べて、ハブ同士を繋いだ構造を想像していただいて、これが物流、例えば飛行機のネットワークに当てはめるとどうなるでしょう。地方空港から成田や関西空港に移動し、そこで乗り換えてアジアやアメリカ、ヨーロッパに移動する、という流れとの類似性が見えてきませんでしょうか。

例えば、二つの国があってそれぞれに首都と衛星都市があるとします。

それぞれの都市が、歴史的繋がりや需要から飛行機を思い思いに飛ばすと。。。

ある意味全て直行便ばかりですが、行きたいところに行こうとしてもいけなかったり、航空会社も飛行機の有効的利用も出来ませんからコストがどうしても高くついてしまいます。そこで、このハブ・アンド・スポーク型の航路の設定をすると。。。

と、ハブとなる首都と衛星都市をむすび、また首都同士を結ぶことで、確かに1回から2回の乗り換えが発生するものの、飛行機は使い回しが聞いたり単純な往復だけですので飛行距離の短い中小型飛行機を当て、首都間は旅客人数が多く見込めることから大型機で運行することでより効率化が測れ(移動コストも次第と下がるだろう状況にな)るのです。

ファンドがお金のハブとして果たす役割

ハブ・アンド・スポーク型の流れとしてのファンドの役割を見て行きましょう。
企業は成長のための増資のための投資家やギリギリの日々を生き延びるために運転資金の調達など、色々な財政状況や事情などで資金調達をしたいと考えていますし、投資家もその投資額の大小からリスクの取り方、投資経験や知識、投資機会の情報の有無、などなど様々です。

もし、この資金の出し手と資金需要との間をつなぐ人がいないと、

互いの情報のミスマッチで投資できない、もしくは資金調達できない、という場合があったり、仮に出来たとしても資金需要に見合った投資を受けられなかったり、もしくは投資できてもおもて向きは安心できるように見えて実は倒産しかかっているところだったため回収の見込みが立たなくなった、などの投資できているけれどもミスマッチ状態が続く、という場合も起こり得るのです。

考えて見るとわかりますが、よく企業を立ち上げて少し経つと古い友達が「一枚噛ませろ」と、50万円程度(いや、程度といってはいけないかもしれませんが)の投資をさせろ、という話を持ちかけてくるケースがありますが、拙著の「外資系企業の簡単な作り方(笑)」に書いた通り、50万円って、資本規制を求められる業種でない限り、スタートアップの会社の事実上の最低資本金、なのですよね。となるとスタートアップで自分の意思で始めた会社の経営権の半分を投機目的(持ちかけた側からすれば信用しているから確実に倍にしてくれ、という都合のいい話)に渡すか、といえば、まぁ、Noですよね。仮に50万円ならそれくらいの会社乗っ取りの話になりそうなものですが、とはいえ株主構成を考えての1万円とか少額を言われると。。。預かった方も何も使えないのが実際ですよね。却って50万円の方が設備投資に回せてビジネスに貢献してくれるかもしれません。

では、この話を上場株投資をする側に回って一気に切り替えたとしても似たような問題は起こります。1万円で株式って何が買えるでしょう。2017年5月9日現在で日本国内の上場株だと、35銘柄は1万円で買えるようです(取引手数料は除く)。とはいえ、ざっと見る限り、監査報告書に事業継続に疑義がついたり上場廃止直前の監視ポスト入りしそうだったりと、まぁ、おっかないものがゴロゴロ。それならば、1万円で買えるETFというのが72ほどあるのでそちらを買う方が分散が効いていていいのかもしれません。

50万円ならどうでしょう。3225銘柄になります。それなりの流動性の見込める大型株も56社入ってきますので、いざという時に逃げられる銘柄を仕込める、かもしれませんし、一発逆転を狙いたい小型株も2,901社ありますから、調べに調べ抜けば夢が叶うかもしれません。でも、50万円で分散を効かせたいと思うと、ポートフォリオ理論に基づいて最低数である20銘柄くらい持たないといけませんが、そうなると一銘柄2.5万円。先ほどの1万円ほど狭くはないですが楽天証券さんのスクリーニングの機能の都合上、ざっくり3万円で見ると、3万円で買える株が204社、大型株としてみずほフィナンシャルホールディングが(そしてこれだけ)、中型でも双日、オリコ、あとガンホーが入ってきます。とはいえ、実際、20銘柄を買い揃える取引コストが高くつきそうですね。楽天証券さんを例にとれば、10万円までの取引で139円(消費税込みで150円)、ですから平均2.5万円を20銘柄で 取引コストが3000円になる計算です。50万円に対して0.6%ですか。保有期間中ずっとコストの掛かる投信よりいい、と思われるかもしれませんが、投資するまでの銘柄選定と売却目標額の設定、実際の投資、そして投資後のモニタリングと投資回収(目標額達成でも、損切りルールに基づくものでも)、ということを日々自分でやり続けなければいけないのです。しかも、もともと204社の投資可能銘柄範囲で満足のいく投資対象が20銘柄出てくるのかどうか。平均して10銘柄の内の1つに投資する、というと結構妥協が入ってくることになります。

株の投資ではなく、貸し付けたとしたらどうでしょう。何もなければ、定期的に元利金を支払ってくれるかもしれません。でも、払わなくなった時にどうやって回収すれば良いでしょう。知人が社長をやっている会社への貸付ならば、社長に直々に談判して支払わせる、なんて出来ますが、それだって相手の会社のキャッシュフローが回っていれば、です。事実、大勢に影響のない利息額すらコストだから何とか出来ないか、と、社長業をすると考えてもおかしくないのです(し、実際にそう言われて「おいおい、誰の入れ知恵だ?そんなふざけた事言った会計士と話しようか?」と押し返したこともあります)。となると、実際、貸付は株より回収の優先順位としては高いものの、それだって毎月の回収の手間は大変なのです。(いや、ほんと、金貸し商売は高利貸しになりますよ。じゃないと回収できなかった時の元本棄損のリスクが高すぎますから。。。)

では直接企業(?)に貸し付けるのではなく、同種の性質を持ちつつ譲渡性のある債券を購入する、としたらどうでしょう。また楽天証券さんにお手伝いいただいて、買えそうな債券を、と思ったのですが、1万円で買えるのは個人向けの国債。FPの試験でも取り上げられる商品ですが、他方で金融の世界の教科書で考えると、国債はリスクプレミアムの乗っていない、ある意味その通貨の中では一番リスクフリー、したがってその国では一番安い金利が付与されている、と考える商品です。個人向け国債は金利の下限として 0.05%が定められていますので、一年で最低でも税引き前で1万円の投資額に対して5円の利息がもらえる計算になります(それに対して20.315%の源泉徴収税が掛かりますので実質3円)。となると、もっと高い金利の商品を探したくなるのですが、楽天証券さんではこの時点で社債の取り扱いが0。大抵取り扱いとして上がっても国債と比較して金利が高いことからあっという間に売れてしまう、というのが実際です。仮にあったとしても最低取引単位が銘柄によって幅があるものの、最低でも50万円は下回らないことから、なかなか取引額の都合で取り組みづらい投資対象、と思えてきます。

そう考えると、残念ながら、金融の世界で50万円の投資というのは結構少額の扱いにならざるを得なくなり、むしろそんな50万円を多くの人から集めて束ねて数億、数十億円にして、それを厳選した投資先に振り分け、監視し、回収する、という一連の投資行為を管理する仕組みにコストを払って委ねた方が、自分の通常の仕事ができていいのでは、と考えることになります(無理やり?(笑))。その仕組みが、ファンド、なのです。


絵的にもハブ・アンド・スポークになったでしょ?実際、冒頭にご紹介したプライベート・エクイティ投資がまさにこの図の通りになっているのです(投資家は50万円を出す個人ではなく、数億円単位の投資をする機関投資家ではあるのですが。。。)。

飛行機の世界に国際線があるようにファンドにだって。。。

私たちは日本にいて、(間接的にお金を預けている銀行や生命保険、年金などを通じて、もしくは)自分の意思で直接に日本に拠点のあるファンドに投資をしていることが多いのですが、でも、そうなると投資対象が日本の株や債券、不動産に限定されてしまいそうです。投資の基本が分散、と言われるならば、投資対象となる国や地域、投資資産も分散した方がいいに決まっています。でも、そのような資産に日本からリサーチして投資判断することは難しいのは想像に難くないですね。

「投資信託に米国株投資ファンドやUS REITファンドとか欧州株ファンドとか、ブラジル国債ファンドとかあるじゃない?」

ええ、おっしゃる通りです。でも、そのようなファンドが日本から直接海外の株や債券、REIT(不動産投資信託)などを買っているのでしょうか。答えとしては、そういうファンドも実際にあるので否定はしないけれども、そればかりではない、のです。

日本の投資家に向けたファンドに多いのが、日本の投資家(もっといえばそのファンドの国内での販売会社)のために設定されるファンドですので、その投資資金だけで100億から1000億円単位になるため、単独で投資対象を得意分野とする現地の運用会社のアドバイスを受けながら直接投資を行うことが可能になっていたケースが多かったのです。とはいえ、そのためにはそれぞれのファンドを設定するために投資対象の国と日本との間の租税条約やそれに基づくキャピタルゲイン税(源泉徴収税)の取り扱いを調べ、外国人としての投資規制を理解し、現地の証券取引の実務と日本におけるファンドの実務とのギャップを調べて出来るだけ日本ルールに合わせるような方法論を編み出し、ということを繰り返してきたのです。

とはいえ、これでは複数の国に向けてのファンドの設定となると同じ調査を一から繰り返すことになり、またそれぞれファンドの運用期間中の税制変更の監視や変更の際の対応についての協議・検討を行うことになるので、実際のファンド運営はかなりの手間が生じることになります。なかなか非効率ですよね。

そこで、海外の大手運用会社などが一般に行うこと、として、世界中の投資家が等しく入れるような税制的に中立な場所であるオフショアにファンドを設定して、そこから投資対象の国への投資を行う、という仕組みです。これにより、多くの投資家が経験している自国からオフショアへの投資にかかる税務と実務の負担を投資家が負い、オフショアから投資対象国での投資行為に関する税務や実務の負担をファンドとその運用者が負う、という役割の線引きを置くことで、ファンド設立や運営にかかるコストを集約化することにより下げ、また、一般的な投資ファンドの設立国であるオフショアへの投資ならば一般的な投資家が経験して理解を持っているはずなので、通常の投資と同じく、特段の負担を強いることはないようにしているのです。こうすることで、より多くの投資家からの投資資金を集める素地、すなわちより多くの国で同じ戦略の投資商品を販売するための土台が出来るのです。

前者はより単発の直行便であるチャーター便的な発想(個別の投資家の要望に寄り添った形)で作られていますし、後者はよりハブ・アンド・スポークを使った定期便的な発想(世界中の多くの投資家の要望の最大公約数を満たすような形)になっている、とも言えるでしょう。こういうと、日本発のファンド商品が従来までは特に、リテール向け商品ですら比較的大きなサイズでのファンドの設定が出来たことを武器に日本の商習慣に合致する商品を作れてこれたのがわかるかと思います。

最近見られる傾向は?

ヘッジファンドの全投資額に関する統計によれば、2016年にはリーマンショック直前の2007年の全投資額を上回った、ということが示されていたと記憶していますが、2007年当時と比べて投資家層がより機関投資家や年金、そしてファミリーオフィスのような機関投資家化した富裕層に入れ替わってきていることから、ファンドの運営体制もより企業的であることを求められており、そのためより効率的で多くの実績のあるオフショアでのフラッグシップファンドでの投資資金の一元化と投資家の所在国に向けての入り口となるファンド(フィーダーファンド)の構造を求められるようになってきています。実際に、それが増加していることからケイマン諸島ではマスターファンド規制が2013年から導入されています。その意味で世界的に投資資金がハブの機能を果たすオフショアに一旦流れ込み、投資先となる世界中に、運用者の意思に基づく振る舞いをしながら動いている、という流れは今後も続くのだと思います。

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