「SWIFT の闇」ってほんと? – お金が国境を超える仕掛けを改めて考える

ちょっと告知、なのですが、 Soldie という金融を分かりやすく説明するニュース・コラム・サイトに寄稿させて頂くことになりました。といって、私が書けることと言えば、「オフショア」金融の話ですので、そのあたりをあれこれ怪しげに書く予定ではあるのですが、これがなかなかチャレンジングなものでして、まずこのサイトの対象がミドルエイジ男性で、目指すことが金融リテラシーを多くの人に、ということなので、当ブログに来るだろう金融に籍を置いて狙ってググった人か、ニュースでわからない「オフショア」とかいう怪しい単語が出たからググったら(運悪く)来ちゃった人か、と言えばどちらかと言えば後者の、金融知識の比較的浅い人向けです。ということは、

「わかってるよね?どれくらい知ってる?まじかぁ(JK風に)じゃあその辺は省きつつも。。。これはね(かくかくしかじかだらだら続く)」

という、金融の知識と私の性格をある程度知ってるだろうことを前提に、無駄な情報てんこ盛りに文字数無制限で、読む人が「これ、いつ終わるの?」、と変な不安を感じさせるかの如く書いている当ブログの性質と真逆の、2,000文字程度、簡潔に分かりやすい言葉でまとめるようにして(無駄なくというより個性を入れる余裕もなく)説明しなければならない、のです。

となると、本来個人的には書きたいと思うことも書ききれず、個性を発揮することもなので。。。すみません、ここでは個人的欲求を発散してもいいですか(笑)

「SWIFTの闇」とは?

橘玲という作家さんがいて、オフショア投資とかマネロンだとかそういうのをあれこれ勉強して書いている方がいます。私も一時期読んでいた時期もありましたが、自分でそこに書かれたことをやってみたりしているうちに読むこともなくなった、のですが、その彼の本の一つ、たしかお金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめの中で、自分がオフショアのとある口座に送金しようとしたら途中で誰にもお金のありかが分からなくなった、ということをして「SWIFTの闇」と称したのを思い出したのです。曰く、オフショアのプライベートバンクの口座は別のオフショアの銀行の下にぶら下がっていて、さらにそのオフショアの銀行は別のオンショアの銀行にぶら下がり、そのオンショアの銀行がやっと大手銀行にぶら下がるから、入れ子の状態になっているため、送金情報のチェーンがどこかで切れると届かなくなる、というのです。2017年の世界ならばブロックチェーンを使って取引情報の監査をしつつ仲介するものを排除しながら送金すればいいじゃないか、とでも言いそうな話ではありますが、銀行には銀行伝統の方法があるので。。。

しかし、そもそものお金の流れを考えるとこの銀行口座の多段構造と呼ばれるものの理由と、性質を理解することが出来、くだんの送金中の消失問題を解決する方法論も見えてくる(というか、そうやってこの10年以上ファンドの買い付けや償還資金に関連する問題を(信託を含めた)銀行員や証券会社員よりも多く解決してきた、というか、言っちゃなんですが海外送金をちゃんと理解する金融マンは残念ながら多くはなく、お金が届かない、とクレームすれば仕事に足りるほうが多い – 文句ある人、いつでもどーぞ、な)のです。

お金を動かす – 何が必要?

本来、送金業務とは為替、と呼ばれていました。今では外国為替という言葉と、それが円を売って米ドルを買う、という意味に理解されることの方が多いのですが、法律あたりを見てもらうと分かる通り、為替とは本来、「現金を授受する代わりに、手形、小切手、証書のようなものを使って金銭のやり取りをすること、またはそれに使われる手形などの総称」とググると出てきます。その意味において、最近で一番身近に使える為替というと、郵便小為替、でしょうか。

送金の一番の基本 – 為替での決済

この図のように、郵便小為替を郵便局で買って、相手に郵送すると、相手が郵便局に小為替を持ち込むと郵便局が小為替にある金額を渡してくれる、というものです。ある意味、郵便局が小為替の裏付けとなる資金を預かって(郵便局の全国に広がるネットワークによって)どこに持ち込んでも預かった資金を引き渡す約束をしているのが小為替、と理解することが出来ます。

でも、これってPaypal と一緒じゃない?Paypal にお金を預けて、それをメールで送るよ、と相手に連絡したら、相手がPaypal に口座を開けて初めてその送金すると言われた金額を引き出せるようし

いやいや、Amazon ギフトを買ってコードをメールで相手に教えることで事実上個人間の資金決済ができるじゃない?

仰る通り。Paypal や今だと Line Pay などの私人間の送金の仕組みは郵便小為替を置き換えたもの、と見ることが出来ますし、その事業者は送金目的だけのために預かっている、という意味で資金決済法にある資金移動業を行っている、ということが出来ますし、それが整備されるまでは銀行法に基づく銀行業の一つ、として扱われていました。また、プリペイドカードも、郵便小為替と同じような証書として使える訳です(ので、ギフトコードの詐欺も多発するからブロックチェーンで多重譲渡を回避する、みたいな話にも展開しかねない話なのです)から、前払式支払い手段ということでこちらも資金決済法に定められたものになっているのです。

いずれにせよ、送金の時に、あとはこの資金移動業者に事実上資金を預けることになるのを理解して任せられるかどうか、(回収した後にどこまで自分で自由に使える資金になるのか、それともLine スタンプに化ける以外ない、という流動性の低いものになるのか?)を判断すべき、なんていうと金融の人は信用リスクだとか(私は格付け会社が嫌いなので信用しませんが、とはいえ一般的には)格付けがどうだとか、色々とうるさいねぇ、と言われる話に突入するのです。

今ならスマホやオンラインバンキングを使って送金できるじゃない? – 銀行の提供する決済手段

さて、資金決済をみんな揃って為替で済めばいいのですが、そうなるとこの記事もここで終わりとなるので、ある意味書いている私が困るものの、それ以上に為替を物理的に紛失したときのリスクが受け取り側にあるのを嫌うこともあるし、一般的には郵便局もゆうちょ銀行になったことも含めて、銀行を使った送金システムを使うことになります。でも、今や円で送金しようとすると、平日の午前9時から午後3時までなら瞬時に送金できちゃうし、同じ銀行内なら24時間いつでも、というところが散見されているし、みんなそういうものだと思ってますよね。でも、ちゃんとこの仕組みを理解しておかないと米ドル送金の問題とかわからなくなるのでちょっとうざいですがステップワイズに説明していこうと思います。

銀行送金の基礎の基礎

まず、同じA銀行で同じX支店に口座を持っている二人が送金する場合、絵的にはこんな感じ。支店さんの事務 – Aさんの残高を減らしてBさんの口座を増やす – ことで送金手続き完了。そうなのです。銀行内では残高を付け替えるだけなので銀行としては預金総額では一緒であり将来の支払い債務総額(=口座残高の合計額)では一緒、という話なのです。だから口座の付け替えだけの手間なので手数料が表を見ると一番安いのです(笑)

ここでいくつか注意したいことがあります。まずは、あまり気にならない話ではあるのですが、銀行にとって私たちの口座残高は債務で、預けた資金は資産になります。一般的な会計と異なるのでたまに間違いそうになるのですが銀行からみるとそうなのです。となると、債務に対しては資産の裏付けが必要になる、のですが、Bさんへの支払いの裏付けは送金指示かそれ以前にAさんから現金を受け取っているかそのほかの人からの送金を受けている結果としての残高として確認しているのでそれ以上はいらないのです。また、Bさんからすれば残高が増えているので、小為替を好きな時に換金できるのと同じように好きな時に現金を引き出せばいいだけなのです。実はこの先の議論で、この資産の裏付け、というのがキーワードになるのでここは(大学受験の勉強と同じく)押さえておきましょう。

銀行内の応用編 – でも、これが分からないと世界はおろか日本に行けない

続いて、同じA銀行だけど別の支店に口座を持っている場合。絵を見ると、AさんのX支店と BさんのY支店の間に本店が挟まっています。なぜでしょう。幾つか複雑な理由が存在します。

まず、X支店では、Aさんの口座残高を減らすことは出来ても、Y支店にあるBさんの口座を直接触ることが出来ません。そうすると、間に何かを挟むことになるのですが、一番手っ取り早いのは前述の同じ支店での口座間の送金と同じように、X支店にY支店の口座を作って、その残高を増やし、「Y支店さん、そちらの残高を増やしたけど、それはBさんへの送金の依頼に基づいてだから、Bさんの残高を増やしてあげてね」という連絡をしてあげて、それを受けてY支店は額の増えているX支店にある自分の口座に相当するだけのBさんの口座残高を増やすことになります。

ここで、ちょっと頭が混乱しそうですね。X支店がY支店の口座を増やすところまでは先ほどの話と似ているからいいかもしれません。でも、それを受けてY支店は何かを減らすわけではなく増やしてますよね。これは、Y支店からすると自分のX支店の口座は資産ですので、資産が増えた=支払いの裏付けが増えたけど、これなんでだっけ?ああ、送金指図でBさんの口座残高が増えたから、なのね、とBさんの口座を増やす(=Y支店の債務も増える)ことで送金完了、となる、のです。

さて、送金がこの一件だけならば、いいのかもしれませんが、そもそも、この銀行がX支店とY支店しかなくて、Y支店がX支店に口座を開けている、から出来るものの、このような一方向な話で銀行業務が済みそうでしょうか。このままでは永遠にX支店にあるY支店口座は膨れ上がっていきそうですし、仮にY支店のCさんがX支店のDさんに送金する、となれば今の逆方向である、Y支店にX支店の口座を作ってCさんの口座残高を減らしてX支店の口座の残高を増やして。。。ということが起きることになります。でも、そうなるとY支店のX支店口座も同じように一方向で膨れ上がりそうです。となると、膨れ上がるのを嫌って、互いが互いにいちいち債権債務を相殺する、なんて手間ですよね。

しかも、今は2支店だけの話ですが、これが全国100店舗、となったら、X支店は99店舗の口座を開けて、毎日相殺を99店舗とすることになり、また送金指示という意味でもP2Pのセッションが銀行内で99+98+…+1 の5000本が必要となる、ということは送金情報が同じ銀行内であちこちにかなり錯綜することになってしまいます。

そこで、実際にどうするかというと、それぞれの支店は本店に口座を開けておき、Aさんの残高を減らして本店の残高を増やしたのち、

  1. 本店に「送金依頼に基づき、X支店の残高を減らしてBさんの口座のあるY支店の残高を増やしてください」と、
  2. Y支店には「本店のY支店の口座の残高を増やすのでBさんの口座の残高を増やしてください」、という指示を

それぞれにします。そうすることで、

  • X支店は、本店にあるX支店の口座の残高(資産ですね)が減ると同時にX支店にある本店の口座残高を増やし、また同額だけAさんの口座残高が減ります。(ただし、X支店の現金はこの瞬間は動きません。)
  • Y支店は、本店の口座残高が増えたのを見て、同額だけY支店の本店口座の残高を減らすと同時にBさんの口座残高を増やします。(Y支店でBさんが引き出さない限りはY支店の現金は動きません。)
  • 本店は、前述の同一支店内の送金と同じく、X支店の口座残高を減らし、Y支店の口座残高を増やします。(こちらも、本店の現金は動きません。)

こうすると、前述のP2Pのようなセッションが発生することなく(むしろ本支店間のハブアンドスポーク型というか、ツリー型の情報伝達構造になる)、また相殺とか日々せずとも、管理が可能になりそうですね。実際は、システム上銀行全体で口座/勘定を管理しているので、支店間の通知とか実際に起きていないでしょうけど、第X次オンラインシステム導入前の前時代的に情報と資金との移動をみるならば、というところでは、上記が分かりやすい、ということで書いてみました。ちなみに、各支店にある本店口座を今時ですと銀行勘定と呼ぶこともあります。

今後の話の展開として、キーになるところを押さえたいと思います。一つは資金がどこにあるか、もう一つが送金の情報のルートです。

資金の裏付けという観点でみると、現金の移動はこの一連の流れでは起きていませんよね。銀行全体、という観点で裏付け資産であるAさんからの現金がX支店に置きっぱなしなのでオッケー、と考えるのです。Y支店単体で見ると、そこには対応する現金の準備がないまま、引き出される可能性がある、ということですが、預金量に対する物理的な現金の準備というのは別途管理するので、大丈夫でしょう(今どきは他行のATMで引き出したりするので現金の保有管理はさらに難しい問題になっているとは思いますが)、というか、ここでは別の問題ということにして気にしないでおきましょう(笑)

そして情報のルートについては、上記で番号付けした、

  1. X支店とY支店の残高を管理する本店への付け替えの指示、と
  2. Y支店の口座を増やした理由がBさんへの振り込み、というY支店への指示

の二つの指示が飛ぶ、ということです。これが世界規模になっても、実は同じ構造になっていることに、後ほど触れる予定ですので覚えておいてくださいね。

日本国内で円はどうやって送金されるのか?

ということで、次に銀行間を跨いで送金がされる、一般的な送金のメカニズムを見てましょう。絵を見ると分かりますが、銀行の本支店が二組あって、それに挟まれるようにあるのが日本銀行、そして矢印で円を描いているのが送金データのやり取りをする、全銀ネット(全国銀行資金決済ネットワーク)の全国銀行データ通信システム(全銀システム)です。

実際にP銀行 X支店のAさんの口座から Q銀行Y支店のBさんの口座に送金をする、と言う時に、何が起こるかというと、

  1. AさんがP銀行X支店に送金指示を出す。
  2. 送金指示を受けて、P銀行はX支店にあるAさんの口座残高を減らして、本店にある銀行勘定を増やします
  3. 送金指示は全銀システムを通じてQ銀行に送られます。
  4. 送金指示を受けて、Q銀行は本店にある銀行勘定を減らしてY支店にあるBさんの口座を増やします。
  5. 全銀システムは一日の送金情報を集計して、この取引による日本銀行にあるP銀行の当座預金を減らしてQ銀行の当座預金を増やすことを含めたすべての取引の集計結果の残高の増減を午後4時15分の決算尻と呼ばれるタイミングで行います。

実際、送金が1億円を超える場合にはRTGS(RealTime Gross Settlement:即時グロス決済)と呼ばれる、送金手続きをした瞬間に5の日本銀行の当座預金の付け替えを行うのですが、それより少ない場合にはその日の終わりまで事実上Q銀行は送金のための資金を受け取れないことにはなっています。が、そこは最長8時間ということと、1億円未満と少額(?)であることや、同種の送金が他にもたくさんあるため、P銀行とQ銀行の間で相殺されることもあるので、決済リスク – 支払いの担保となる資金が手元にない – ということで実務上飲み込んでいる、というのが現実なのですが、私たちが通常、平日の昼間にお金が振り込まれた、というのがだいたいリアルタイムに送金されたように感じるのはこのお陰、なのです。

ここでポイントなのが前述のように、資金の担保が同じ銀行ならば支店網のどこかにあればよかったのが銀行を跨いだ時には、その日1日の送金情報をまとめて、結果として相殺された状態ではあるものの、日本銀行にある全国の銀行の名義の当座預金残高の間の付け替えの形で見ることになる、ということと、送金指示の情報が、全銀システムでの、(a)資金移動の情報と、(b)送金先のQ銀行への送金詳細の情報、の二つになる、というところに、同じ銀行の支店間取引との類似性と相違点がみられる、というところです。

さて、今までの話は、実は日本に住んでいる人の間の銀行口座間の円の資金の送金方法についてでした。と、なぜこんなに回りくどく言っているか、というと、実はいわゆる普通の私たちのように日本に住む人の銀行口座から(例えばケイマン諸島のファンドでも、台湾の保険に加入するための口座でも、スイスにあるあなたの隠し資産を管理する(笑)口座でもいいのですが)海外にある円口座に送金をしたり、海外にある円口座の間での送金をする、と言ったように、日本に住んでいない、非居住者に保有する円を送金するときには、前述の全銀システムとは異なる送金システムを使うことで、国内にある円と国外にある円の流れを区別されるのです。

とはいえ、実際の資金と情報の流れは前述の全銀システムで送金情報を管理し、日本銀行の当座預金間の付け替えで銀行間の資金移動が管理される、というのとほぼ似た状況になります。その意味では、送金の流れを示す絵はこのように前回と同じ絵を使うことになります。大きな違いがある、とすれば、

  1. 送金情報を伝達するのが、全国銀行協会の外国為替円決済制度に基づく日銀ネット
  2. 資金移動も、日銀ネットでの送金情報の伝達と同時に日本銀行の当座預金決済を利用した次世代 RTGSによる即時決済を使っている

という二つの点が挙げられます。

と言いつつも、とうとう非居住者の口座の話が出てきたので、海外送金のもっとも本質的な部分に話が突入することになります。

コルレス銀行?なにそれ美味しいの?

例えば、私たちが日本に住んでいれば、その近所の銀行の性質を持つ金融機関なら、よほど特殊な銀行や信金、信組さん、労働金庫にJAさんなどに口座を開けない限り、その銀行等の本店は日銀ネットに参加していますので、送金するときには支店から本店、本店から日銀、という流れで進めばよかったのです。ですが、パッと思いつくところで、海外の銀行の日本支店、例えば、(すでに個人金融部門が撤退した)HSBCならばまだ法人金融部門があることから日銀ネットに参加していますので香港やジャージーなどにある海外のHSBCの支店から円を送金しようと思えばHSBCの東京支店を通じて日銀ネット経由で送金が可能ですが、同じイギリス(笑)系のロイズバンクTSBのような現地ではそこそこ大きいけれども海外展開をしていないけれども円預金を扱う銀行となると当然に日本法人がないので日銀ネットへのアクセスがないので送金できないように思えてきます。それに日銀ネットへのアクセスがない以上に、これらの銀行が円資産をどう保有するか、という問題も発生します。

そこで、日銀ネットに銀行として接続していない銀行は、日銀ネットに接続している銀行に銀行口座を開設してそこで円資産を保管し、それを裏付けとして銀行顧客への送金業務を提供することになります。このような送金の際の中継地点の機能を果たしてくれる銀行を「コルレス銀行(Correspondent Bank)」と言います。
ただ、送金は銀行口座という資金の担保だけでなく、前述の

  1. X支店とY支店の残高を管理する本店への付け替えの指示、と
  2. Y支店の口座を増やした理由がBさんへの振り込み、というY支店への指示

に対応する

  1. 送金元となる銀行とコルレス銀行との間の通信手段、と
  2. 送金元となる銀行と送金先の銀行との間の通信手段

として日銀システム以外の通信手段が必要になることが想像できると思います。今なら「インターネット!」と言いたくなりますが、為替業務はインターネットが始まる前からありますので別の何かがあるのは想像がつきますね。それが、今回の記事にある SWIFT (Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication SCRL 日本語訳としては「国際銀行間金融通信協会」) なのです。これは1973年にベルギーで設立された非上場会社ですが、元々はヨーロッパでの証券決済のシステムとして始まったものが金融全般の通信フォーマットの共通化や2005年に本格稼働しているSWIFT Net と呼ばれる、金融版インターネットの提供などが主な仕事になっています。

そこで、円送金ならば送金元とコルレス銀行の間の送金指図を SWIFTのメッセージで送り、それに基づきコルレス銀行が送金先(のコルレス銀行)に日銀ネット経由の外為円決済で送金し、また、送金元から送金先の銀行へもSWIFTのメッセージで送ることで送金指図の詳細を通知する、という流れになるのです。

で、世界でお金はどうやって回っているの?

では、これが米ドル送金ならばどうなるの?という疑問があると思いますが、基本は一緒です。例えば日本の某SMBC信託銀行の某大手町支店にある米ドル預金から某ジャージー島の某HSBCの自分の口座に送金したい、と某私が思うと、SMBC信託銀行の米ドルでのコルレスバンクであるCitibank N.A. New York に対してSWIFTで送金先のコルレスバンクであるHSBC USA に送金することを指示し、Citibank N.A. New York はそのSMBC信託銀行の口座を減額してCHIPS、もしくは FedWire と呼ばれる米国内の銀行間の送金ネットワークを通じてHSBC USA に送金を実行します。

また、SWIFTで送金先である HSBC Jersey に対してその送金の詳細を伝えることで送金先である口座に入金処理することを伝えるのです。それを受けて HSBC Jersey は、といえば、自分たちの米ドルのコルレスバンクであるHSBC USAにある自分たちの口座に該当する米ドルに着金を確認したら送金先である口座の残高を増やすことになります。

ね?基本は円送金と何にも変わりがないでしょ?ということで、海外に送金をする際には その通信手段としてのSWIFTがキーを握る、というところまでわかっていただけたかと思います。

余談ですが、この米ドルの送金でもう一つ気づきたいことがあります。例えば、日本で今日付で送金手続きをした、としても、Jerseyで米ドルが着金したことがわかるのは早くとも明日のJersey時間が始まってからになる、ということです。

というのも、米ドルの資金移動が実際に起こるのが今日のニューヨーク時間ですので、HSBC USAでHSBC Jersey の米ドル口座が増える時にはジャージー島は今日のジャージー島のビジネスの終わった時間ですので彼らの営業時間のうちには着金作業が出来ない、というよりも知る由も無いのです。ですので、翌日のジャージー島の朝以降にHSBC USD にある自分たちの口座が増えているか確認して、初めて送金当日付で入金があったよ、とあたかも過去日付での記録がされる、という仕掛けなのです。ちなみに、送金手続きの締め切りはファンドなどの世界では結構早く、送金したい日付の2営業日前までの送金指図をしてほしい、と言われることがあります。一つは時差の問題(着金確認が翌営業日になることが多い)、もう一つはコルレスバンクへの送金指図の締め切りが1日一回の通信の中でやることが多いからか、結構早い、ということがあります。

もしこれが豪ドルの送金ならばどうなるの?ともう一つ例を出したいと思います。これは実は私が以前、毎月のごとく、某銀行の投資信託の事務部隊から「お金が届かないのです」と何度となく言われたものの、仕組みをそれ以上に説明したのに全く理解がされなかった、という曰く付きの例です。

某 HSBC Securities Services に豪ドル口座を持つ某ケイマン諸島籍投資信託が某私の古巣の銀行の豪ドル口座を投資信託の買い戻し資金を送金する、とします。その時、某ケイマン諸島籍投資信託(の、実際にはファンドアドミ)は、その買い戻し資金である豪ドルの送金を某 HSBC Securities Services に豪ドル口座から某HSBC 香港と、その豪ドルのコルレスバンクでである HSBC Sydney を経由して某 C●t●bank Sydney に送金し、その送金の詳細を SWIFTで送ることで、C●t●bank Sydney は  C●t●bank 東京支店の豪ドル口座に着金があったことを知らせ、銀行の海外送金部署が投資信託の部署に送金があったことを伝える、というのが送金の際の流れになります。

支払日当日の二日前に送金指図を行い、送金を行って、その証拠としての SWITF の送金指図のメッセージを渡しても、その日の昼前になっても(円送金のように)着金確認ができない、と電話が毎月あったのですが、思い出してみましょう。オーストラリアは日本より一時間時差が先に進んでいて、送金が仮にシドニーで朝一で行われたとしても着金があってそれが某私の古巣の銀行の豪ドル口座に着金したという処理をするのはC●t●bank Sydneyの都合とタイミング、そして、その着金したことを確認するのは彼らの同僚の海外送金部署とそこが使うシステムの確認頻度の問題なので、すでにファンドには手の出せないところなの、むしろ自社グループ内でSWIFTメッセージを使って解決する他ない、のです。というか、外部の人間が出来たら銀行の構造上問題がある話、なのですが。。。最後までわかってもらえなかったですね、内緒ですが。
(関係者の方、読んでも怒らないでくださいね。というか未だに同じことやってないか心配なのですから。)

じゃあ、このSWIFTの何が闇、だというの?

やっと本題です。ふぅ。このSWIFTの闇の話の一つの例をこんな風にしてみたいと思います。

あなたが、資金を日本政府からどうしても隠したくなって、ベリーズという中米の国に会社を作ってそこに送金したくなった、という刺激的な話にします。いや、ベリーズに会社を作って、世界中の面白そうな会社を買収していこうと思い立った、にしましょう。まぁ、送金の話をする都合上はどっちでも変わりはないのですが。。。

その際、あなたはこの記事で何度も陰日なたとなく出てくる某SMBC信託銀行にある米ドル預金口座からこのベリーズに作った会社の口座に送金する、のですが、その際にどうなるか、というと。。。

ベリーズには国際的な銀行が存在しないので、現地にあるプライベートバンクに銀行口座を作ることになります。このプライベートバンク(例えば、Atlantic International Bankというのですが)、これも当然米国内に銀行口座を持っていることもなく、どこかにコルレスバンクになってもらう必要があるのですが、幸か不幸か米国内の大手銀行から小さい銀行に至るまで銀行取引をさせてもらえません。考えてみてください。普通に考えても、日本の銀行さんは非居住者の口座は簡単に開けてくれませんし、仮に居住者であっても、法人だと口座開設のハードルはあるのですから、これと同様で誰もが簡単に米ドル口座を作れるはずがない(と思いたいのだけど、アメリカの本人確認って。。。)、のです。そこで、米国外で米ドル口座の取引のある銀行(この場合、Crown Agents Bankなのですが、個人的に聞いたことはなかったのですが、グループの日本語のサイトのあるNGO等からスピンオフした金融サービスグループの会社のようです。通りで名前からして仰々しいわけだ。)に銀行口座を開くことでコルレスバンクになってもらうことになるのですが、そのコルレスバンクすら実は米国内に銀行法人を持っていないのです。でも、幸い米国内の大手銀行(この場合、Bank of New York)に銀行口座を持つことが出来ましたので、ここがコルレスバンクにとってのコルレスバンクになるのです。絵にしてみるとこんな感じでしょうか。日本国内での送金の時にはみられない多重構造が出来上がっているのがわかります。

この時、送金元である某 SMBC信託銀行は、コルレスバンクである Citibank N.A. に対して、Bank of New York Mellon (BoNY)) に送金指示と、同時にAtlantic International Bank (AIB) にも送金したからおたくのお客の誰々の口座に入金してあげて、という指示をそれぞれ SWIFT経由ですることになるのですが、そうなると問題なのは、BoNYとAIBの間にある Crown Agents Bank にも、おたくの BoNYの口座に入金があったのはおたくの口座の一つ、AIBのものだから入金してあげて、という指示をしなければならない、のです。SWIFTにはそうするために中継地点になる intermediary bank 向けのメッセージも準備されてはいるので、個別にSWIFTメッセージを送るのにコストがかかるなどの理由で送金元のコルレスから伝えてね、的に扱うこともあるので、実はこれによって送金情報のチェーンが見失われることがあるのです。そうなると、先ほどの豪ドルの送金の話同様、送金の担保となる資金は動いているのに、どの口座に入金するのか手間取ったりその情報が適切に伝わらないから、ということで「闇に消えていく」というのです。

しかも、この多段構造、例えば前述のベリーズの会社があなたのただの投資会社ならばいいのですが、これが銀行ライセンスを取って知人たちの資金だけを管理するプライベートバンクを始める、なんて言えば。。。さらに階層が増えることになるのでより途中で送金情報が失われる可能性が高くなる、のです。

では、闇な雲の切れ目はどこにあるの?

さて、これって確かに、オフショアと呼ばれる国や地域に限定される話かというと、そうでもなさそうですよね。例えば香港やシンガポールで設立されたファンドなどにそこの通貨の送金をしようとしたら、前述のような多段構造にはそうそうならないのです。逆に、例えば日本国内でオーストラリアドルを送金しようとしたら(実務的な経験がないことから)多段構造にはなっていないけれどもこれに近い状況に陥りそうです(なので、日本国内で日本円以外を送金するのはできるけれどもかなり嫌がられますよね)。ということで、送金先の現地通貨以外の送金の場合は闇とは言わないけれどもオンショアだろうともすんなりいかないもの、と思う方が妥当なのです。
ではもし、実際に送金することになって、途中で届かなくなった、という時にどうしたら良いでしょう(そんなことになる人はそうそういないと思いますが。。。)。著者の経験から言えば次のステップで解決しています。
  1. 送金を依頼した銀行に既に現地での銀行間での送金が完了していることを確認させる  - 裏付け資産が移動していなければ情報が届いていても入金処理してもらえませんから
  2. 送金先の相手に SWIFTメッセージを渡して、その銀行に対して送金指示の証左があるのだから着金確認しているならば入金しろ、と言ってもらう – 送金指示が届かない、埋もれている、という状態ならば送っている証拠を見せてそれで対応してもらう。SWIFTメッセージが、暗号化された形で送られることもあって、その写しを見せるだけでもその指示の確証性が高いと認知されているのです。
  3. 仮に着金確認ができないから入金できない、と言われたならば、通常この場合は intemediary bank なので、その送金元は既に送金済みだからコルレスに確認しろ、と促す
  4. 最後まで諦めないで相手を動かす(爆)

まとめ

いや、これ、まとまらないって。しかも2000文字にまとめるって。。。どうしましょう(笑)Soldie での記事がどれだけ原型をとどめないか、楽しみにしてください。ってそっちのまとめか?
なんにせよ、送金業務って本来は銀行の根幹業務なのですが、外国送金ってこれまで貿易か投資か、というところで国内送金に比べて件数も多いわけではないので携わる人自体多くはなかったものだと思います。かくいう私とて、自分で送金担当部署にいたわけではないのですが。。。
とは言え、ファンド運営という観点では着金して、投資対象を買うために送金して、というのが出来てなんぼ、ですので、この辺りは他人任せにせず、また、ちゃんとスムーズにいかないことを他人のせいにして怒るのではなく、自分でタイムラインで理解してリスク管理することをオススメします。

同義語 – 金融に創造性は不要、なのか、時代が繰り返されるだけなのか

私を仕事を通じてご存知ならまさに周知の事実ですが、金融の中でも「すみっこ」の領域をいくつも歩いて気付いたら20年も居させてもらっていますが、その時間と領域をあれこれ渡り歩いたおかげなのか、最近いろいろなものに既視感を覚えることがあるのです。多分本人たちは創造性を駆使して作り上げた、というのかもしれませんが、過去に別の領域では普通に行われてきたことで、それが出てくること自体が市場環境の、世にいう「フラグが立った」状態になりつつあるんじゃないか、という数学で言うところのフラクタルというかまるっといえば類似性すら見えてきているんです。最近。いや、人間ディープラーニングやっている訳ではないのですが。。。

ファンドにレバレッジをかけて投資しませんか?

こんな商品アイデアはどう?とちょっと話を聞いたのがこんな話でした。投資対象は担保付きのシニアデットというファンドで一応某公募規制に準じた作りになっている。それをこの低金利時代にセクシーなリターンの取れる安定収益型の商品にしたいから、4倍レバレッジになるようなラッピングをするファンドに仕立てたいのだけど、というのだ。ちなみに、投資対象となるファンドは再投資はするものの、償還期限日を決めているので、投資対象となるシニアデットの償還日もファンドの償還日を超えないようにするそうな。ということは高金利を狙って、新規資金が入るごとにデュレーションを出来るだけ長くしつつも償還日の手前になるものを buy-and-hold するんだろうな、というのが予想できる。

ふーん、と思って聞いていたけど、聞きつつイメージしたのはバランスシート的にはこんな図。

これ、ファンドの人だと、ふーん、そうやってレバレッジが掛かるんだ、と思って眺めてくれると思います(多分)。でも、この商品、どこかで見たことがあるような。。。あ。これだ。

CLO ですわ。ざっくりこんな感じ。

そっくりさん商品、現る(いや、昔からあったから)


一応元利金の返ってくる可能性の高い銀行貸付債権をCLOをやる器(信託でもSPCでも可)に譲渡(といっても、債務者に第三者対抗要件通知をするかどうかは別)して、優先部分を市場金利に色を付けた程度(?)の固定利付商品にして売って、格付け(べーっ)と協議した(貸し倒れリスク等に基づく返済不能可能性)リスクの残りそうな部分に対応した劣後部分を債権譲渡した銀行が抱える、というのがCLO。

構造的にはほぼ一緒。もちろん、シニアデットのファンドへの投資、という意味で一枚器を挟んで、かつその債権の取得の選別を運用者が投資目的や投資制限等の中で行って組み入れて、というのに対して、パススルー型のCLOならば譲渡した貸付債権の元利金をまずは優先トランシェの元利金に、その後劣後持ち分にそれぞれ配分するから違うように見えるものの、仮にパススルーでなかったら利金は優先と劣後に順序良く渡すけど回収元本で銀行からCLOの組み入れ条件に合致した債権をある意味買い取る形で譲渡を受けるようにすることで再投資するようにしていたので、さらに商品の類似性が高まってきます。

しかも、器での債権取得・処分の責任をライセンスを持った運用会社がファンドのガイドラインに基づいて行うか、オリジネーターが案件における表明保証の範囲と格付け等と一緒になって事前に定めた組み入れ債権適合基準で選別して譲渡・引き上げを行うか、という違いと、市場から買ってくるのか自腹の債権を譲渡するのかというソースの違いは確かにあれど、ガイドラインなのか基準なのかってほぼ日本語か英語かの違いでしかない。

さらに構造とかキャッシュフローとかで似てるのと言えば。。。

でまぁ、あまり言いたくはないのですが、これらの構造ってこれにも実はそっくりでして。。。


はい、複数の不動産物件を保有するJ-REITや私募リートですね。ローンを使って取得の際にレバレッジを掛けてしまうと、図式の中では(以前書いた不動産投資の分析の記事の通り)賃料収入が収益源の不動産持ち分が、ただの変動金利な債券と変わらなく見えてきてしまいます。

ちなみに、J-REIT で4倍レバレッジというか、ここでは不動産投資的に言い換えるとLTV (Loan to Value: 総資産有利子負債比率) 75%とここまで高いものはないようですが、ここでは比較のためだけ、ということで。。。

で、思うことは。。。

まあ、最後のが似ているというのは言い過ぎかもしれませんが、最近の調達コストに対する投資リターンの低下に伴うハイイールドアセットへの投資嗜好が高まっている状況において、企業向け債権のキャピタルストラクチャーの違い(優先債権/普通債権/劣後債権/優先株/普通株/劣後株)とか貸し出し手の違い(バンクローン/銀行貸付債権かその他のプライベートレンディング/プライベートデット)か、担保付きか無担保か、企業の格付け(べーっだ)が投資適格なのかそうでないのか、それに伴う流動性の高さというか低さなどの組み合わせをどこまでもどこまでも試し続けて、高金利だというものをひねり出す作業しかやっていないように見え、かつそんな性質のアセットと、キャッシュフローを生み出すから、というだけで不動産(一時期あったMLP-プライベート・エクイティ持ち分で上場したものなどもですね)までもが同じ土俵で利回りの比較をして云々しているのは、昔見た、不動産投資のイールドが不動産特有のリスクプレミアムを度外視してでも国債よりわずかに上回っているから投資していいんだ、と豪語したCMBS の組成販売をしていた外資系証券会社の姿に重なるものがあるんですよ。

また、劣後部分の商品化も、リーマンショックの前夜くらいにとある投資銀行が劣後部分だけをまとめたポートフォリオを投資信託化して富裕層に売りたいんですけど、と持ち込んできては
「このポートフォリオに格付けがついているからファンドの維持費用見合いのキャッシュフローは必ず出ます!」
と、この格付け嫌いの私に説得しようとしている姿がちらつくんですよ。

10年経てば商品のリスク管理能力も高まっただろうし、格付けも馬鹿みたいに後追いで格付けを引き下げることももうない、はずはないか。金融の世界に絶対はないからなぁ。。。

とはいえ、まさか、商品アイデアがあちこちで焼き直されてイノベーティブに提案されるとは。でも、無理はないか。結局金融の世界、出来る事はどんなアセットであってもせいぜい「買い持ち、売り持ち、借り入れ」しかないのですからねぇ。。。そりゃストラクチャリングでイノベーティブな商品が出来ないわけだ(って自己の存在否定をしてみたり)。。。

ファンドにおける中立性は誰の為といえば、投資家の為。

最近、「わが社に新人が入った時に(本ブログを)読ませるようにしています。」と、言って頂くことがあり、ちょっと内容以上に文調(と誤字脱字)に慎重にならねば、なんて思って書くペースが遅くなってます。ごめんなさい。

さて、いきなりの表題、何があったんだ、と思われそうですが、ご存知の通り著者は第三者がファンドに関与することで最終的に世界的な標準となっているファンド・ガバナンスが適切に機能したファンドを日本市場で理解を得て、普及していきたいと考えて仕事の機会を頂戴したり、こうやってインターネットの隅っこでいろいろ書かせていただいている(と上記の事情で舌を噛みそうな言葉使いになっております。。。)のですが、そんな中、ちょっと残念なニュースが飛び込んできたのでご紹介しつつ、表題の目指すところについてちょっと私情全開で書かせていただこうかと思います。

独立系ファンド・アドミが詐欺行為に幇助?

こんなニュースが今月とびこんできました。

Private Fund Administrator Charged With Gatekeeper Failures

ざっくりとした内容は次の通りです(が、当局のプレスリリースですので、内容の正確性はプレスリリースをご覧いただき、個人個人でGoogle Translation など使って翻訳するなりして理解してください。下記は著者のいつものざっくり要約ですので正確性は保証しません!)

米国SEC はファンドに事務代行業務を提供する会社が、2つの顧客に関して、その問題に対して留意せず、また不完全な会計処理を修正しなかったことに対して、350,000米ドル以上の罰金を支払うことに同意したことを公表しました。

Apex Fund Services (US) が明白な詐欺の兆候を見逃し、もしくは無視し、米国SEC から詐欺として処分を受けた二つのファンドと契約して、帳簿を記録して財務諸表を作り、そしてそれぞれのファンドの投資家向けの報告書を作成していたことを米国SEC が調査していました。

「ファンド・アドミはファンドの資産評価とその存在について正しい情報を提供することを確実にする責務を負っているが、Apex はそのゲートキーパーとしての役割を果たさず、SEC の介入までの間それぞれの運用会社の固執するスキームを本質的に可能とさせていた」とSECの高官は説明してた。(以下略)

ファンド・アドミが果たすべき役割とは?

ここで興味深いのは、米国金融当局はファンド・アドミがファンドのゲートキーパーとしての責務を果たすべき、と考えている、ということです。言い換えるならば、ファンドが投資家の資産として適切にファンドの契約書などに記載されているように運用に使われるかどうか、ということを監視する役目としてファンド・アドミに期待されている、ということなのです。

これは、Madoff 事件以降の米国当局のスタンスとして捉えるべきことでもあると思います。それまでアメリカではヘッジファンドの運用とアドミを運用者が兼務する、もしくは運用者の関連会社が行うことで費用を抑えるなどの効果を求めていたところ、Madoff 事件を受けて運用者とアドミの間に資本関係のないことを求めているのです。その意味ではアドミにはより中立的な立場(もしくは少なくとも運用者に相対する立場)でファンドの運営の管理を期待されていた、ということでもあったのです。

ところが、今回の事件においては、第三者的立場でファンドの運営にかかわるべきだったファンドアドミが、運用者のある意味いいなりになって運用に関連性の薄い送金先に送金を行ったり、ファンドの評価や投資家の持分について誤ったまま投資家に送付し続けていた、というところに、詐欺事件の幇助ということも手伝って当局の期待を満たさなかったと言う事での罰金処分となったと言えます。

では、一般的にアドミに求められるものは何でしょう。

ファンドの運営に関する事務一般を執行すること、というのが基本にある中で、ファンドの評価や資金や証券と言った保有資産の保有・移転に関する指示(保有自身はカストディアンが行います)、投資家の異動(投資持ち分の購入による保有者としての名義登録や、譲渡に基づく持ち分移動の記録、そして売却に基づく地位喪失といった履歴や個別投資家の持ち分管理自体はトランスファーエージェント、日本で言うところの名簿管理・名義書換業務にあたりますが、通常兼務するか投資家管理に特化した兄弟会社に実務を集約するので、アドミが一元的に窓口になるケースが一般的ですので、厳密にはアドミの仕事ではないものの、広義の意味でアドミの業務としてここでは扱うとします)やそれに関連して投資家の(FATCA/CRS対応を含めた)本人確認などが通常期待されています。

これらの業務は投資・運用からみると比較的「受け身」になりがちなのは、それらの業務が指示や依頼を端として業務が始まることが大きい事や、その性質上独自の判断や情報(資産評価情報は特に)に基づいて行うことが極めて少なく、また与えられた指示や情報に基づいて行った作業結果に誤りがあった場合の影響の大きさもあるため、でもあります。そのため、アドミ契約をよく見ると結構免責条項が入っている、と言われるのですが、自らの事務エラーではない限りは外部からの情報に極めて多くを依拠しているので自らを守る必要性が高くなっている今は当然に求められるものではありますし、では依頼されたものはすべてやるから免責か、というと対投資家などを考えてファンドの契約書関連にないことはしない、とすることでファンドのために役割を果たす、という立ち位置を明確にしているものがほとんど、ではあるのです。

では、この業務上の役割から要請されるものと、前述の行政当局が期待するものとの間に不整合があったのか、というと個人的には基本的にはないはず、と思う一方で、AIJ 事件以降に年金の資産を受託する日本の信託銀行に対する過度の期待に似たものがあるのでは、という感覚が残るのは正直なところではあります。それは比較的受け身になりがちな業務に指示や情報の再精査を積極的に求めている、というところの温度差、でしょうか。現実問題として、ファンドの契約書にない払い先などについては、当然に見つけ出してしかるべきところですので、温度差であって実務上は基本的には組み込まれているもの、だとは思うのです。

とすれば今回の問題は、ゲートキーパー機能への疑念、という取り上げ方をされていますが、実質的なアドミのファンドの諸々の契約書類に書かれた業務の不適切な執行であり、適切な執行への故意もしくは重過失での不作為であった、と理解する方がすんなり腹に落ちるのかもしれません。

今回の事件の意味するところ

さて、今回の事件から私たちは何を学ぶべきなのでしょうか。

いろいろな解釈が可能になってしまいました。

一番願わしくない解釈はこうでしょう。

「だから、独立系のアドミは信頼ならない。はやり大手企業系ですべてを抱えてその企業の責任としてファンドを管理運営せねばならない。」

果たして本当ですか?残念ながら、大手銀行系アドミによる毎年のNAV算出のエラーに基づく損害賠償金の額は年々増えているそうです。これは米系だから、欧州系だから、(もちろん日系だから)では片付かない問題になっていますし、だからこそ前述のアドミ契約での免責条項にNAV算出に関する免責が年々長くなっていることでもあるのです。

また、前述のオフショアを中心とした海外のファンドの潮流としての、ファンド運営の第三者性の担保という話に思いっきり逆行している話だということにも気付いてほしいところです。当然に一つの案件からの収益の抱え込みは企業グループにとっては効率的な収益源になるため狙いたいのは分かりますし、商品販売の際に、「グループで責任もって面倒見ています!」という言い方をしたいのもよくわかります。でも、ファンドの関係者間の利益相反をどうやって解決するのか、考えてください。ファンドは誰の投資のためであって、誰の利益を最終的に最大化するのか(それはフィーの値下げで利益幅をわずかに広げるのが最大化と呼ばないことにも気付くべきことです)、今一度考えて頂きたいところです。

これ以上書くと某社さんの上層部から怒られそうですので、次の解釈に。

「外部のアドミでも結託可能なのか。じゃあ、詐欺案件出来そうなアドミ、小さいところをだまし込んで。。。」

えっと、なめるなよ(怒)では次。

「外部のアドミでも結託される可能性があるのか。そうしたらむしろ自社のアカウントに運用権限を与える形での運用に限定するかな。。。」

大手機関投資家さまでしたら、確かに可能なお話です。マネージド・アカウントの元々の発想がそうですから、アリだと思いますが、失礼ながら御社の事務担当の方が付いてこられるでしょうか。。。

「外部のアドミでも信頼を汚されるリスクがあるならやはり内製化したほうが。。。」

ちょっと待ってください。今回は詐欺の意図をもった運用者がまずありきなのです。しかも一人はSEC登録しないで運営していたくらいなので、詐欺師は法の外からやってくるのです。ですので、大事なことは、ファンドの関係各社を見て、適切な情報開示を要求して対応することを見ながら、このファンドが信頼できるのかどうか投資家が判断して詐欺案件に捕まらないようにする、ことでもあるのです。

「AIJ の時も独立系だったので、独立系なんてもう信じない。やっぱり確固たる企業系列の会社さんにおねがいするのが確実では」

仰ることはよくわかります。悔しいかな、運用についてもパフォーマンスと同じくらい運用会社の知名度が投資選択の際の重要視される要素になっているのも事実ですから、アドミにしても当然のお話なのです。

ですが、大手の画一的な装置産業的なアドミサービスがある一方で、中堅以下では個別対応をすることで柔軟なサービスの対応が可能になるアドミサービスが存在し、また、運用金額のサイズで大手の方がキャパシティーが合う、小さすぎて大手では受けないので中堅に、というようなすみ分けがなされているのが現状です。また、10年も昔では銀行系のアドミがほとんどであったこの世界も、今では銀行系以上に独立系/プライベートエクイティの投資を受けたアドミが徐々に数を増やしているので、その中から選別を進めていくことになりますし、当然のことながら、今回のような事件があると淘汰されるきっかけになってしまう、ということなので、そこは表層だけを眺めるという機能停止にならないで頂きたいなぁ、というのが個人的な見解であり、願いでもあります。

「じゃあ、アドミは今後どうしたらいいのでしょう。」

基本に立ち返って、アドミとしての業務がなんであり、何をして何をしてはいけないのか、それが起きないようにするにはどういう仕組みを組織に導入すべきなのか、それを考えていくしかないのでしょうね。特に今回のリリースを読む限り、担当者レベルでの幇助なのか、それともチームごとなのか、ということが分からないため判断しづらいところではあるのですが、他方で、そもそもそういうことが可能になる管理体制を本来は問うべきところでしょう。これは知人を介して聞ければとは思っているのですが、いずれにせよ、その改善なくば少なくとも日本では次に進めないだろうな、というのも、これは誰もが思うところかと思います。

じゃあ、普通に仕事をしている私たちは安泰かというと、いい機会なのでそういうことが出来ない仕組みになっているのか見直すいい機会かもしれません。こういう時に使われるテクニックであるソーシャルエンジニアリングとはそういうないと思われている隙間をほころびから広げていくものですから、常に業務プロセスを評価し、またその評価方法も適切な評価が出来るのか評価しなおす、という意識も必要になると思われます。

まとめ(本当にまとまる?)

AIJの時がいい例なのですが、一社が事故を起こすと、同業他社に影響が起こるのがどうも金融系のこの業界の常のようですが、他方で、この手の問題は一社だけの問題として自社には関係ない、と放置できないのも現実です。ですので、ちょうど2016年も半期を終えたところ、ということで自社の運営方法の再評価のタイミングと捉えてみるのもいいのかもしれませんし、投資家や運用者の方々に申し上げたいのは、とはいえ、業界の問題か、業界の一部分の問題か、一社の問題か、一社の一部の問題か、という切り分けを手間が掛るもののしてフェアな目で見て頂けたら、と切に願うばかり、です。

インドとモーリシャスの蜜月関係、やっぱり予想通り解消に向かう

オフショアで投資をする時のメリットとして、租税条約を使って二重課税を回避するための国選びがしやすい、ということがあります。どういうこと?と思った人、多分多いと思います。何せ、このところの「オフショア、租税回避」というキーワードだと、税金が掛からない国や地域、という言葉が引っかかるでしょうから、その国での租税関係だけがイメージとして強いと思います。

しかしながら、今回のインドのように、ある特定の国からの投資に対してはキャピタルゲインタックスを減免する、とか、アイルランドのように、G7国などに対する投資からの利息や分配金に対して課税を減免する、というように、特定の国の組み合わせを使うことで投資に対する課税のメリットを得ることが出来る、というものがあるのです。

インドとモーリシャス – 多分一番わかりやすい二重課税回避の例

そのある意味一番有名な組み合わせとして結構知られていたのが、実は、モーリシャスからインドへの投資、でした。インドの税務当局がモーリシャス籍の会社などによるインドの会社の株式の譲渡にかかるキャピタルゲイン税に対しては課税を免除する、ということをしていました。この免税措置のおかげで、海外の企業がインド国内への株式投資を行うにあたって、もっぱらモーリシャス籍の会社やファンドを作り、またその会社がインド国内への投資のライセンスを得た上で、インド国内への投資を行っていました。

インドにとってのメリットとデメリット

インドにとって、この特定の国に対する課税免除の特典というのは、海外からの資金流入・流出を管理するという意味では国を限定して誘導することにメリットがありました。モーリシャスがインド洋に浮かぶ、インドと同じ英連邦の島、ではあるものの、もともとがインド貿易の中継地となるアフリカ東部の島、であったことなどから、インドとの経済的なつながりも太いことや、1968年の独立以降、この島自身のタックスヘイブンとしての役割を相まって、インドへの投資のゲートウェイとして海外から注目を浴び続けてきてきました。

しかしながら、外資流入という比較的成長のための資金を求める国にとって大きなツールというのは、得てして意図しない使われ方にも流用されてしまうのです。しかも、インド政府の高官たちに。なんと、自身の海外拠点の資金をモーリシャスを経由してインド国内に還流させ、株式の売買を無税で行っているケースが後を絶たなかったのです。このため、実はこの5年ほど、インド税務当局は実業としての投資としての実体の少ない、モーリシャスに対する免税措置をやめる、という噂が後を絶たなかったのですが、税務当局以外の政府筋が上記の事情を守るため、かどうかはわかりませんが、免税措置を残すように働きかけていた、という政府内の対立が続いてたと言われています。

今回の影響

2016年5月10日にインドとモーリシャスの両政府が締結した既存の二重課税回避のための租税条約に上記の免税措置を終わらすものが入るとされていて、インド政府側からそのような発表がされました。
これによって、12か月未満の短期保有のインド国内の会社のモーリシャス籍の保有者による譲渡にかかるキャピタルゲイン税が 0%から 15%に引き上げられる、ということです。なお、もともと12か月以上の長期保有のインド国内の上場会社の譲渡にかかるキャピタルゲイン税については 0%となっております。この導入にあたっては一定の暫定期間を置かれるともされています。

で、この結果、日本に持ち込まれているインド株ファンドのほとんどはモーリシャス経由ですので、これによってゲインの 15%をインドの税務署に取られてしまう、ということです。これは結果としてパフォーマンスの劣化、とも意味します。

モーリシャス以外の租税に関するメリットのある国とその影響は?

インド国内への投資に関して、この5年ほど注目を浴びていた国が一つあります。それはシンガポールです。実際にアジアの拠点としてアジア各国のビジネスを統括する拠点に目されるシンガポールですので、シンガポール法人がインド国内の拠点となる法人の株式を取得・保有するのは実務的に行なわれていることでしたので、モーリシャスほど税務当局としても白い目で見ることもなかったのですが、他方で、特にシンガポール籍の LPSなどについては、投資履歴が 2年経つまではシンガポール国内での課税対象にもなるため、シンガポールからの PEのために使われると期待されていた LPS のニーズはさほど増えなかった、と記憶しています。
とはいえ、租税免除のメリットはあったはず、なのですが、今資料を見る限りでは、今回のモーリシャスとの租税免除の解除と同じくシンガポールとも(見直しと再交渉がなければ)租税免除が解除される、そうです。
従って、どのルートを使っても、今まで享受してきたメリットはなくなる、ということのようです。

まとめ

世界的な課税強化の流れを受ければ、今回の決定は当然のことでしょうけれども、なかなかこれでインド投資への影響が出るのだろうとは予想しています。実は今、インドのファンドマネジャーと商品設計をしているのですが、彼らのシンガポール籍のファンドは最初からこの短期投資に対する15%のキャピタルゲイン税の課税を行っていたので、モーリシャスだけでなくシンガポールも閉じられたとしても、パフォーマンスの劣化はここからは発生しない、ということのようです。

[追記: 17/May/2016] この話をよく寝たあとに数か所でし始めている(上記含めて、大抵記事は夜中に書いておりますので、誤字脱字以上に論調もおかしい時があります。。。)と、脳が動き出したからか、別の側面での意図がみえてきたので忘れずにアップデートすると。。。

元々12ヶ月以上の保有後の譲渡についてはキャピタルゲイン税は非課税で、それより短い期間の保有の場合の譲渡のキャピタルゲイン税が本来は掛けるところを免税にしていたのを免税解除とした、訳ですので、海外投資家に対して長期保有に誘導したい、という意図が働いた、のだと解する方がすんなりいきそうです。特にインドへの海外からのアクセスについてはシンガポールよりもモーリシャスが大きいことを踏まえるならば、その影響はパフォーマンスよりも保有期間やそのための保有銘柄の選別条件の方に更に大きくなると考えられるでしょう。

ですので、短絡的にネガティブとみるよりはより長期保有でバリューアップを狙える運用スタイルに多くの運用者がシフトするのかもしれません。

パナマ・ペーパーで大騒ぎしてますが、これの本当の問題ってなんですの?

これを慌ててアップしようとしている今日(笑)、その日本時間の早朝(2016/May/10日本時間午前3時)に、いわゆるパナマ文書、とかパナマ・ペーパー、とか言われるパナマの法律事務所から流出されたとされる文書の全貌が公表されました。

あ、ちなみに、一通り見ましたが、ごく普通の人、なんだろうなぁ、という日本人の名前が1000人近くさらされているのもどうなの?と思ったりしましたが、念の為確認しましたが私の名前はありませんでした(笑)

台湾が Province of China という扱いなのに怒っている人がいるだろうな、ということと、日本にいるとされる外国人の名前の多さ、そして多分、知人ひとりの名前を見つけたのはさておいて。

オフショアのファンドを生業の一つとしている私的には、変な風評被害になりかねないなぁ、とずーっと気になっていることではあるものの、なんで世の中がこれにそんなに騒ぎ立てているのか、本質じゃないところで騒いでるようにしか見えないので、「擁護するとはけしからん」という声が聞こえることを前提に、ちょっときわめて個人的な視点でまとめてみようかと思います。

ちょっと注目してほしいと思っている点

  1. どういう訳か顧客の情報機密性の高いはずの弁護士事務所、しかもパナマなんてオフショアの金融センターとしては極めて微妙な国の法律に携わる事務所から情報が出た、というのが個人的には何かしらの悪意があるようにしか思えない。実際、これをリークしたのがジャーナリスト集団ですので、別の意図で追いかけていた流れで見つけたんでしょうけど。。。言い換えると、情報自体が盗難品の可能性があるわけです。信ぴょう性はあるでしょうけれども、その情報ソースと取得方法について誰も違法性を問わないのはなんでしょう。クラッカーたち(世の中的にはハッカーと呼ぶでしょうけど、IT geek 的には人様のサーバーに不法に入りこむ連中はハッカーではなくクラッカーと呼ぶべきと、20年以上前から主張してますので、わたくし。。。)による被害、とされていますが、この連中はいったい誰に頼まれたのか。。。
  2. 確かにパナマは 2000年までは FATF (Financial Action Task Force) のブラックリストに、つい今年の2月まではグレーリストに載っているほど、反マネーローンダリング/反テロリストへの資金供給に対して協力的ではありませんでしたが、今では協力的になっている(というより、最近の方向転換を歓迎されてグレーリストから外れたばかり)なので、いわゆる US/UK FATCA や CSR (Common Standard Reportings) を通じての税務情報交換協定に協力的。ということは、ここに記されている、アメリカが指定した独裁国家の独裁者の家族、のような人を含むいわゆる各国の政府高官関係者など (PEPs: Politically Exposed Persons、ってこの間の記事で紹介しましたよね)が今のこの時代に自己の資金管理のためのオフショアの会社などを作り、取引口座を開ける、というのが難しいのが今のルール。この間ファンドを作った時ですら、かなり厳しい手続きを求められました。言い換えると、ここに名前が上がってきている諸国の政府高官から大金持ち、セレブリティたちは、昔のヨーロッパの富裕層が資金とその秘匿性を守るために作った仕組みに乗っかって、20世紀後半から21世紀の最初の7年の間にその当時のルールに基づいて行ったことの結果である以上、その当時の居住国と口座開設国の双方の国での法制度上の問題点や現在の法制度との違いを問うことをせずに、後だしジャンケンで、今の世の中で解いている倫理上の問題点を突き上げて資産隠しで税金逃れ、といるとみることが出来ます。ぶっちゃけ、最近かなり増えた、自分のその瞬間に感じた主観だけが正義と大声で言えば通ると思い込んでいる、よくいる近視眼的な連中と変わらない、というか、時代遅れの情報を引っ張り出して騒いでいるゴシップと変わらないようにしか見えませんが、そういうと怒られるのかな。
  3. 以上のことをここではパナマに限って話しているものの、私たちが普通にファンドを組成するときのように複数の国の複数の投資ビークルなどを組み合わせた投資スキームを使うのは(日本国内で売られている公募投資信託ですら)普通のことなのです。しかし、パナマ・ペーパーで「も」パナマ以外のオフショアの様々な関与をつまびらかにして、オフショアがいかにお金に汚らしいか、のように見せてますが、オフショアとオンショアを結び、オフショアとオフショアを結び、オンショアとオンショアを結ぶ、世界中の銀行と中央銀行をつなぎ合わせたお金の流れるネットワークは、今や世界中の情報の流れを一手に担っているインターネットと同じ社会インフラであり、またこれと対比する説明をするならば、ウェブサーバーが情報に意味づけをして再配信する役割をするのと同じように、ファンドなどの投資ビークルなどはお金がその力を特定の目的のために使われるように集めて利用する役割を担っているわけです。そこにはオンショア/オフショアの違いはなく、利用する人の意図によって使われ方や影響が大きく変わる、というのは情報インフラであるインターネットが誰もが分け隔てなく使えるがために、人助けにもテロリストの情報発信にも同じように使われるのと変わりがない、のです。(これも怒られるんだろうなぁ。(笑))
  4. ちなみに、今回オフショアの舞台としてあげられている国として、パナマはもとより、BVI、バハマ、(あと、本ブログでもご紹介したベリーズか(笑))のようなカリブ海の島々だけでなく、香港、セイシェル諸島、ジャージー島、ガーンジー島、マン島といった英連邦系オフショア地域、マルタやキプロスのようなEU 加盟国でもファンド設立に使われる国、シンガポール、そして、ニュージーランドやイギリス、ワイオミング州といった、一見オンショアのはずなのに非居住者が設定すると非課税になるメリットを生かせるスキームの存在するオンショアまで、縦横無尽に使われていることがわかります。が、実は日本の信託勘定も非居住者が設立して使うと非課税のメリットがあることが海外では知られています。なので、オフショアがとかオンショアが、という観点で租税回避地をつるし上げるのは早計ではないかな、と。
  5. ちなみに、今回ケイマン諸島とバーミューダがほとんど出てきてませんが、前項のそれぞれの国のビークル管理の観点で比較するとこの二つの地域は個人資産を抱えるには維持費などがかかりすぎる、ので敬遠されていたのかもしれません。

で、結局これで得するのは誰?

各国の税務当局だけ、な気がしてるのは私だけ?でも、こんな租税回避地に逃げたいと思わせる課税ルールを作った自分たちの結果、という反省がないんですよね。ええ、私は働いた人たちが正しく報われて、かつ社会インフラの費用は国民全部が公平に負担する仕掛けを作るべき、と考えているフラット・タックス信者ですので、こんな累進課税の結果のなれの果て、である今回の騒動については、すべては課税ルールが悪いから起きただけじゃねーの、くらいにしか思ってません。はい。
とまぁ、久しぶりに、個人的なブログで書くぐらいの私的感情丸出しになりましたが、ゴシップの人たちから比べれば公平性を保つように書いたつもりですのでご容赦を。

[追記 10/May/2016 23:51 JST]

ちなみに、interactive 版で企業名や名前を入れると関連するオフショアでの会社や他の関連する人物などが図示されます。ある意味わかりやすいのですが、わかりやすすぎて個人の住所とおぼしき情報まで出てきますので、正直こんな社会的制裁を加えることに疑義を覚えずにはいられません。

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