合同会社の社員になって一緒に儲け話に乗らないか?

本来ならば、「パナマ・ペーパー」のことを書くのが本来のブログの目的であるオフショアの金融事情をご紹介するところですので自然なこと、なのですが、 当然のことながらレポートそのものを読んでいませんし、内容の意味もよくわからずに無駄に大騒ぎして民衆を煽り立てるメディアの情報もあまり耳にしていないので、その状態で何かを語るのもどうかなぁ、と思いつつも、掻い摘んで話すならば。。。

いや、一旦いろいろ書いたけど、やっぱりやめた。いろいろ面倒が多そうだから。。。

さて、表題にある本題にいきましょうか。

believe or not – 世の中にはこんな人がいます。

個人的に流し読みをしている、某怪しい人が主宰するメルマガがあります。本人曰く、某メーカーに就職して、アジア某国で英語も話せないのに成功しながら、プライベートでメルマガで荒稼ぎしたら副業禁止だったので会社をクビになり、アジア某国に拠点を移して似たようなネット系の商売をしている人たちと横のつながりを生かしていろいろと投資案件をしたり、スピ系のネタで人の性格などをプロファイリングをしたり、派手に遊んでいるのをメルマガで流しながら、ちょっとタチが悪いとネットでは評判の投資助言業者のシグナル配信のサービスの宣伝をしたり、仲間内限定で為替相場との相関性の高い株の信用取引のロジックを共有してデイトレで稼いでいるのを見せながら自分のメルマガの有料サービスに誘導したり、と、まぁ、怪しいそうなので眺めているのですが、その中でちょっとこれはヤバかろう、というのがあったので、注意喚起の意味を含めてちょっとご紹介してみようと思います。

基本的にこの連中の商売に加担する気もないので出来るだけ検索に使えそうなキーワードは外すようにしていますが。。。知っている人が読むと分かるかな。すでに上記だけでも十分特定できそうですが。。。

話の前に、まず金融商品取引法の復習から

以前の記事で書いた通り、現在の金融商品取引法において、個人が機関投資家が参加するようなハイリスク・ハイリターンな事業投資系の案件に投資をしようと思うと、適格機関投資家向けではない一般的な私募案件に仕立ててもらって参加するほかはありませんでした。

また、逆にそんな事業投資や不動産投資などをちょっと広めの個人から投資資金を募って運用したい、と思うと、本来ならば資産運用業(この場合一任運用業)の届け出をしなければならないのですが、届け出が受理されるまでに運用やコンプライアンスなどの複数の部門の責任者を雇い続けていかねばならないので、事業を行うまでに資金的問題が起こり得る、など運営コストの負担が大きすぎるという事業開始の際のハードルが存在します。そこを回避したい、といって匿名組合や投資事業有限責任組合の無限責任会社を金融商品取引法第63条に基づく適格機関投資家向け特例業務を行う事業者として届け出て、またそのために適格機関投資家から形式上でもいいから投資資金を受けることで特例業務を行うようにして、私募での個人へのアプローチをする、というルートを目指す人が後を絶たなかったわけです。

私募の本当のハードル

上記のリンク先の記事で最近のルール変更で個人向け投資勧誘へのハードルが上がったことをご紹介していますが、ハードルが上がる前から、実はそもそも個人向け私募勧誘には一つの大きな問題があったのです。何かといえば、通常、証券会社などで私募であっても公募であっても、商品勧誘を行っても 100%投資する、はずはないのです。10人に一人、もしくはもっと低い確率で投資すると考えられています。でも、考えてみれば当然ですよね。常に余剰資金があるとは限らないですし、私募案件になればリスクリターンが高くなるので、投資対象への理解などがないものには投資しない、と判断する人が増えて当然なのです。

でも、例えば投資信託ならば私募は如何なる6か月の間に49人までにしか「勧誘」を行ってはいけないのです。投資ではないのです。勧誘なのです。ということは、6か月に49人勧誘して、実際に投資するのはよくても5人行けばいい方。一人当たり、1,000万円としても 5,000万円。個人の資金からすれば十分大きく思えますが、事業投資ともなれば微妙に足りず、不動産投資ならば全然足りない計算になるのです。確かに理論上、最初の6ヶ月と次の6か月で全く別の49人ずつにアプローチすれば各半年ごとに5人ずつ徐々に積みあげて50人を超えた投資家を受け入れることは可能ですが、投資自体一括投資というものだと十分集まらない、という話になるでしょうし、投資スキームの設立費用等が最初の5人に大きく負担させることになるので、投資タイミングの違いでの不公平感も発生しやすくなるのです。

私募のハードルを越える

そこで。考えました(私が、ではないですよ。)。

もし、美味しい投資話にいつでも乗りたい、という投資家候補を最大 499人常にプールすることのできる仕組みがあれば、上記の10%の投資家のヒットレートが格段に上がるので運営管理報酬が大きく期待できる、と。そのために、投資事業に継続的に参加することが会社の目的となる合同会社を作って、その投資家候補をそれぞれ合同会社の社員として出資をさせて、社員集会という名前の投資情報提供を行えばいいのではないか。投資も社員からの追加出資をまとめて一本にすれば企業投資家としての参加になるので個人投資家のハードルもなくなるし、投資の分配も合同会社なので参加した社員にだけ分配することも当然可能。仮に社員が個人で共同投資の形をとるとしても、社員が最大499名だから私募の範疇に収まるから問題はないだろう。

ちなみに、なぜ499名か。それは事業投資につかう匿名組合も投資事業有限責任組合の投資持分も、そして合同会社の社員持分も、全部、金融商品取引法上、いわゆる第2項有価証券なので、私募の上限が499名。下手な株や債券、投資信託より上限が大きいので都合もいい。

しかも、社員として当初入るのに、後から入ると諸々のトレーニング費用など、と名目で徐々に高くする、といえば慌てて我先に、と入って提灯で釣り上げた案件などに食いつこうとするだろう。

この、秘密結社的で、日本でまだなじみの薄い合同会社のスキームを使えばリターンのより大きいと思われる案件に参加したいと思っている個人をうまく取り籠めるんじゃないか。しかも、そういう投資をしてみたいとメルマガに参加しているわけだからここでもヒットレートは高いだろうし。。。

という事で、そんな投資プラットフォームの勧誘がメールマガジンで配信されているんです。時々。

でも、ちょっと待ってくださいな。

確かに、一度合同会社の社員になれば投資機会も私募の範囲で紹介されるしその範囲で自分の責任で投資すればいい話、ではあるのですが。。。そもそも合同会社の持分をメールマガジンやそれに連動するウェブサイトでその存在を公共の閲覧となるインターネットで知らしめて参加について投資家候補から問い合わさせる、リバース・ソリシテーションを行うのって、実は私募ではなくて公募に当たるんじゃないの?

日本では、金融商品を公共の閲覧に具することで紹介することや、その存在を知らしめて投資家候補から問い合わせをさせることで自ら紹介しないリバース・ソリシテーションも、勧誘行為に当たる、という判断がされています。なので、私募商品が一般的に証券会社の窓口やお店の窓に並んでいない、のです。しかも、今回は自己募集、ですからねぇ。。。お友達とかに資本参加を求めるならまだしも、何人参加しているのかわからないですが、メルマガを通じて不特定多数への声がけって。。。やばいんじゃない?しかも、この投資スキーム、メルマガ曰く、日本の金融商品取引のコンプライアンスを知り尽くした、M&A の名手、とされる人が考えて作り、投資案件もソーシングしてくる、という触れ込みもあるんですが。。。

なんか大丈夫なんですかねぇ。というか、こういう話も世の中でてくるようになってきたんだなぁ、と思うと、パナマ・ペーパーどころじゃないような気がしている著者でした。
常に言いますが、投資は自己責任で。

7週間でケイマン諸島でユニットトラストを立ち上げる方法

たまには、最近の仕事のことでも。
つい先週にとあるヘッジファンドの日本国内向け私募フィーダーファンドを設定して国内のとある適格機関投資家様に投資していただいたのですが、ヘッジファンド単体への投資となるフィーダーを一つ、とはいえ、実際に7週間で仕上がりました。これを早いと思うか、遅いと思うか、これでその人の最近のファンド設定への時間軸の感覚が見えてきます。ぶっちゃけいえば、アンブレラ・トラストを一から立ち上げるという意味での新規設定でこれは異様な早さ、の扱いになりつつあります。確かにその昔2週間で立ち上げたこともあるのですが、今は昔。世の中の環境の変化でこれくらいは、というレベル感が変わりつつあるのが現実です。

あ、サブファンドを作る場合はまた別の議論があるのですがここでは本当に一から、ということに限定するものの、今回は、その辺りを踏まえた、最短レベルでの立ち上げについてちょっと振り返りつつ、実はファンドを立ち上げるのってこんなに大変!というのを少しでも実感していただければ、というのが、目標とします。

まず、ファンドを立ち上げるって何をするの?

そもそも、ファンドを立ち上げるって、どういうことを意味するのでしょうか。簡単にまとめると次の通りでしょう。

  1. 投資対象と投資戦略を決める
  2. 上記を実行するためのストラクチャーとその設立地を決める
  3. ストラクチャーに求められるサービスを提供するサービスプロバイダーを選定する
  4. ストラクチャーに基づくビークルの設立や募集のための目論見書、そしてこのビークルとサービスプロバイダーとの間のサービス提供に関する契約を作る
  5. 設立されたビークルの設立地における登記や関係当局への届け出を行う
  6. 必要に応じて、ファンドを募集・販売する国における、販売・募集のための事前届け出を行う

で、やっと募集「は」始められるのです。

で、実際、何するの?

ちなみに、上記のそれぞれについて、今回私がどうしたか、というと

  1. とあるヘッジファンドのフィーダーですので、そのヘッジファンドを投資対象として、ファンドの資産のほとんどを投資して持ち続ける、という戦略になります。
  2. 将来のシリーズ化を念頭に置いて、ケイマン諸島籍のアンブレラ・トラストにぶら下がるシリーズ・トラストにクラス構造を入れてみました。
  3. ユニット・トラストのストラクチャーですので、ケイマン諸島の金融当局に届け出ているトラスティ・プロバイダーで過去に付き合いのあるところをトラスティに、ユニット・トラストのガバナンスと管理監督を考えた場合と将来の公募ファンドの設立も視野に入れることで、信託宣言型ではなく信託契約型を採用するため、管理会社の機能を提供する会社を1社、ケイマン諸島で設立して今回の管理会社とし、アドミニストレーターとカストディとしては以前から付き合いのある、ファンド・オブ・ヘッジファンドのアドミとしてはアジア随一のクオリティを誇る銀行系アドミ会社にそれぞれをお願いすることにしました。なお、このファンドの日本国内での販売のために金融商品取引業者の届け出をしているとある会社さんに販売会社として動いてもらうことにもなっています。
  4. アンブレラ・トラストの設立のために基本信託約款を、今回の戦略のためのシリーズ・トラストを設定するために補遺信託約款をそれぞれトラスティと管理会社の間で締結し、また、シリーズ・トラストと管理会社、そしてアドミ会社との間でファンドの純資産額の算出などの事務管理代行業務に関するアドミ契約を、またトラスティとカストディとの間で資産保全のためのカストディ契約をそれぞれ締結します。合わせて、管理会社と販売会社さんとの間でユニットの募集・販売に関する取り決めを定める販売契約も締結します。ということは、これらの契約書がそれぞれ必要になります。
  5. 今回、ケイマン諸島でのユニット・トラストの設立ですので、トラストとしての登記が必要になるとともに、ケイマン諸島金融当局(CIMA)にMutual Funds Law Article 4(3) regulated mutual fund としての届け出を行います。
  6. 今回は国内の適格機関投資家への募集・販売のみ、ですので当初募集開始前までに外国投資信託に関する届出書を提出します。

でも、これで本当に終わり?しかも、7週間って余裕じゃないの?

いい勘してますね。ファンドのセットアップ = 目論見書を作る、ではないんですよね。ファンドが実際に動き出したら必要になるものも予め準備する必要があるのも、文字どおりセットアップ、です。それは何か、といえばファンドの名義の銀行口座や証券口座を開けること、です。

なんだ、口座開設?余裕じゃん。なんのためにカストディ契約結んでるの?

普通はそう思いますよね。契約を結べば自動的に開けて当然。
そんなのは残念ながら、このテロリストから広域ほにゃらら組織、果ては某国の政府高官関係者 (PEPs – Politically Exposed Persons、という言葉があって口座開設の時には注意するように、と海外ではお達しがでるくらいですからね、マジで)まで、ヤバめのお金の移動を制限しようという世界的な動きがあり、また、FATCA でアメリカのためになんで日本で(ブツブツ)なんて言っていたのは今は昔、FATCA も US- と UK- とが出来、さらにFATCA をその他の多国間への拡張の柱になるの CRS まで、自国の富裕層のお金を国外に逃がさない網をあちこちの国が張り始めた結果、銀行口座を開設するために、自分が誰であることを証明し、もしその「自分」が会社やファンドの場合、設立に関わる関係者が一体誰であるのか(少なくともちゃんと名の通った人なのか、それとも黒い影がちらつくのか)を確認する義務を金融機関は負うことになってしまっているのです。

そのため、口座開設のプロセスとして、そのような資料の提出があってから5週間かかる、というのは、ファンドアドミが銀行口座や証券口座をファンドのために開設するシンガポールやダブリン、ルクセンブルクなどでは普通なことになってしまっているのです。確かに、今思えば2015年の12月に CRS の記事を書いた時にこのことは容易に想像できていたわけですし、実際、その覚悟は始める前にはありました。

もちろん、その提出しなければいけない書類の一つに、ユニットトラストや会社型ファンドならば設立した国での登記証明書が入ってきますが、ユニットトラストの場合、信託約款の署名ののち登記に持ち込むのが通常ですし、他の目論見書との平仄を合わせて作る都合もあるので、その署名を行うのも募集を開始する数日前に他の契約書とまとめて、というのがよくある流れ、でした。しかし、もしそれをやれば、目論見書はできたものの口座が向こう5週間以内は開設できていないので、当初募集期間を始めたとしてもまだ口座が開設されていないので買付申込書に送金先口座を明示することが出来ず、そこで目論見書を交付しても投資家も送金先が明示されないので、申し込んでも入金できず買付不成立、ということになりかねないのです。

と言って、口座が開く5週間を何もせずに待つのか、というと、それも困ったちゃんですが、その時点では他には何も出来ない状態になっていますので待つしかないのです。

ということは、すべてのドキュメンテーションを2週間で終わらせて5週間ぼーっとしてたのか?

いえいえ、無理です。通常、目論見書でもその他の契約書でも、最低4回から5回の加筆修正が必要で、その間には法的/ビジネス的背景を持った交渉が発生します。一回のドラフトの作成・レビュー・修正には最初の二回くらいは一回転で2週間、それから徐々にレビューと修正箇所が減ることで契約書のターンアラウンドの時間が縮まるものの平均1週間と見積もっても、だいたい6週間はかかるとみてよいでしょう。

さて、どうやったのでしょう。

企業秘密です。

というと怒られそうですので種を明かすと、実は契約書類の骨組みとなる信託約款だけ最初の2週間で署名して登記、そこからカストディの審査に入ったのです。
というのも、信託約款で定めるべきことは本当に基本的なこと(ファンド営業日や取引日、ファンドの基本通貨など)だけで、実際の運用等については目論見書に記載することから、ファンドの基本構造だけ先にしっかり固めて信託約款だけ先にすすめることが可能なのです。とはいえ、この基本構造をしっかり固められるか、というと常にできる話ばかりではないのも現実なのですが。。。

しかし、こんなやり方は実際はちょっと乱暴なんですけどねぇ。契約書面の承認を各関係者が二回行わなければならないので手間も増えます(手間は増えてもセットアップってあまり評価されないんですよねぇ。。。やれたかどうか、でしか判断ができないので。。。)し、いくら前倒しにしたところで、5週間で確実に口座が開く確証はないのも事実。さらに言えば、今回はヘッジファンドのフィーダーなので単純でしたが、本気で証券取引をする普通のファンドの場合、証券執行する証券会社に取引口座を開く、とか、発生しますのでさらに複雑にまた時間も読めなくなるので、そろそろファンドの設定を◯週間でやることを投資条件にするのは勘弁してほしいな、とは思うんですよねぇ。予算の都合とかはわかるのですが。。。

LPS with LLP-GP なんてVC 投資スキームは実は最先端のストラクチャー

ストラクチャーのイノベーションはどこで起きる?

ほんの数日前のこと、お仕事を頂戴している方たちから、ファンドのストラクチャリングで最近見ている新しい潮流とその先の影響の議論を伺ったので、ちょっと興味深い話でもあったのでこちらで少し触れてみようかと思います。

金融に特許なし、でもそれで金融は発展した

金融のいいことであり悪いことでもあるのはある目的を達成するためのストラクチャリングが特許権のような属人的な扱いをされることがほぼほぼ存在せず、最先端のストラクチャーを作ってファンドを立ち上げて、そこそこ成功している、なんてのんびりしていると、どういう訳か気付いたらそのストラクチャーは同業他社に早速コピーされてしまう、なんてことは基本的に起こり得るもの、という前提でいなければいけない、わけです。まぁ、そのおかげで初期に開発されたスキームがすぐに特段の前提条件を要しない汎用化されたり、その後の様々な実務上の問題点や法制度の変化などを受けてその解決法を組み込みながら進化したり(言い換えれば面倒なほどに複雑化したり)していくので、特許で守られないことのメリットは業界全部に還元される、というその意味ではいいエコシステムだよな、と思うことも多いです。

で、今回は何よ?

今回聞いた話は、国内の投資法制度の一つ、投資有限責任組合法に基づく組合の設立に絡むことで、普通に考えると、組合をつくるにあたっては無限責任社員が一社、法人格をもったものが通常置かれるのが当然、そうでなければ自然人がリスク取りまくりではあるものの無限責任社員の任に就くことになる、よなぁ、考えるのです。が、今回聞いた話では、サイズも小さいし知り合い同士でお金を出し合っている側面の高いベンチャーキャピタル(VC)投資の世界では、投資の責任を事実上取る案件のスポンサーがLLPを構成して、その LLP が無限責任社員の任に就く、というのが増えつつあるというのです。

確かに、LLP ならば最初の組合設立の登記さえしてしまえば、乱暴な言い方をしてしまえば、登記後は放置しても維持費は言うほどかからず、投資運用の実質は変わらないし、その結果、キャリーを取ろうとすればほぼ全額を山分け可能(笑)という、投資の運営側にとっては会社運営という作業のオーバーヘッドを省けることもあってかなりお得、というものです。

でも、それだけの話?

いえいえ。話の本質はここからなのです。
従来、LLPがGP業務を行うことについては法律上は特段問題はなかったのですが、投資有限責任組合法に基づいて組合の登記を行う際に、GPはLLPではなくLLPの組合員、すなわち実質の運用者が複数名で登記をしていました。その背景としては、LLPは法人格を有しないことから、GP登録したくてもできずLLP の組合員のそれぞれの名前で登記する必要があった、という状態にありました。

しかし、どうやら法務局がその判断でLLPそのものをGP登録できるようにしているそうなのです。実際に登記申請した際に、普通に受け付けているそうなのです。これって、いつの間にかLLPに法人格の付与がされてしまった?と関係者で頭を抱える問題になってしまうのです。

なんで?単なる登記手続き上の法人格の有無だけの問題じゃないの?

ええ、その法人格が実は税金の観点で余計な論議を起こしかねないのです。前述の通り、法人格がないことからビークルとして税務上透過性があるとして、課税すべきポイントが組合の構成員にまでそれぞれ落ちてきていた(構成員課税、と呼ばれています。)わけで、だからこそ構成員レベルでの個別のタックスプラニングに対応出来るというメリットがあるのです。

ですが、これがもし法人格を認めるというと、上記にある課税方法の根拠がなくなってしまうので、他の法人格のあるビークルと同じようにこのビークルで課税できる(ので組合員の取り分が減ってしまう。)、という議論を作りだす素地が出来てしまったのです。

確かに今回は登記手続き上の問題、ではありますが、そもそも登記だって法律に基づく手続きを行うわけですから、LLP を成立させる法の枠組みの中で法人格に関する不整合が起きてしまった、と捉えるべきところかもしれません。

で、どうなるの?

実務上は歓迎されるべきこと、と見ていますので、法人格のないビークルだけど特例でできるように投資有限責任組合法の登記手続きなどを手直しする方が本当はいいのでしょうねぇ。でも、法令の手直しですからねぇ。手間かかるでしょうねぇ。と言っても、税務署がそれまでの間にここに手を出さない no action letter なんかを取るのが安心ですが、やりますかねぇ。

また、これが本当に普及した場合、ベンチャーキャピタルのみならずプライベートエクイティ投資の際の GP として LLP を作ることで運用者自身の会社の GPと実質の運用機能は変わらず「軽い」セットアップで始めて、運営のコストや負担が下がるというのは GP側にとってメリットがいろいろと見いだすことができるはずです。とはいえ、LLP が GP というと、自然人でも法人でもない組織が責任を取れるのか、という形式上の信頼性の問題がどうしても気になる機関投資家はいるんでしょうねぇ。この辺りが、VC と PE との間のプレーヤーの性質の違い、かもしれません。

ファンドって何?今更だけど、基本に帰ろう。

諸般の事情で、過去の記事をこことプライベートのブログと両方共読み返したのですが、そもそもファンドって何?という根本的な話を書いたことがなかったようです。

いや、あるにはあるんですよ。ずいぶん前の大学でのレクチャーを焼き直した記事として一つ。でも、何か整理されていない感じが。。。
なので、ちょっと描き直してみました。諸般の事情で。
どうでしょう。

In a nutshell: ぶっちゃけ、ファンドって何?

法務的な側面はさておいたところで、ファンドとは一体なんでしょう。端的に言えば
  1. 複数の出資者により資財をまとめ、
  2. 一つの目的を遂行するため
の行為、と言えるのではないでしょうか。
どうしても、ファンドというと投資するためにいろいろと作業し、運営していく、というイメージを持ちがちですが、「fund」という言葉を辞書で引けば「基金」という言葉が出てきますが、その際に使われるのは、例えば育英資金の提供であったり、研究費用の援助、というものがまず思いつくところであり、その際には基金として供された資金の運用は二の次、というより、そもそも運用して基金を維持しているなんてあまり思われないでしょう。とはいえ、単に資金援助を行って何も運用をしなければ基金は日々減少していくのも想像に難くなく、となれば資金運用を横で行っているんだろう、くらいにも考えられるわけです。とすれば、私たちが日常思いつく「ファンド」というものは「投資」行為が目的であり、そのリターンを出資者である投資家に返すことが目標になる、ということになります。

ケーススタディに見る、個人投資とファンドでの投資の違い

では、その基本的には比較的シンプルな目的を達成するために、私たちはどうしたらよいのでしょうか。そこで、幾つかのケースを考えていくことにしましょう。

Case 1. ミヤタさんはとあるルールで日本株の投資をすると確実にリターンをあげられる、という秘密の投資のルールを作り上げました。彼はそれを実践するために、自分の名義の証券口座を開けて投資を行いました。

これは、どう見ても個人投資家が自分の思惑で投資を行う、というものですので、ファンドとは呼べるものではないですよね。でも、これではどうでしょうか。

Case 2. ミヤタさんはとあるルールで日本株の投資をすると確実にリターンをあげられる、という秘密の投資のルールを作り上げました。彼はそれを実践するために、自分の名義の証券口座を開けて投資を行いました。彼は、実際に稼いでいる証券口座の履歴をお友達のシオカワくんに見せると「僕にもそのリターンに一口乗せろよ」と、彼の資金をミヤタさんに預け、彼はシオカワくんから預かった資金と自分のそれまでの投資資金を一緒に証券口座において運用を行いました。

多分、こういう話は、株に限らず、FXや、はたまた宝くじの共同購入や競馬の馬券の購入に限らずあちこちで見られる話だと思いますが、先ほどのファンドの基本原理である「複数の出資者の資財」が「一つの目的」に供される、というルールに当てはまるので、一つのファンド、をこれだけで出来てしまう、とも言えます。とはいえ、これでは、私たちの期待する「ファンド」からいろいろな意味で程遠い形ですので、ここに、いろいろな側面から「形式」を入れていく、という作業が必要になります。
例えば、Case 2は単純な「口約束」でお金を預けただけなので、シオカワくんの投資した証拠やいつどうやって預けたお金が返ってくるのか、という約束事が書面上どこにも残りませんし、ミヤタさんもお金を預かってそれを彼の秘密の投資のルールによって投資することを約束することもしていません。そこで、日本の法律でこのような、実際に資金を運用する(実際には事業を行う、ですが)ために、資金を提供する、というケースを契約にする「匿名組合」という法律上のルールがあります。こうすると、

Case 3. ミヤタさんはとあるルールで日本株の投資をすると確実にリターンをあげられる、という秘密の投資のルールを作り上げました。彼はそれを実践するために、自分の名義の証券口座を開けて投資を行いました。彼は、実際に稼いでいる証券口座の履歴をお友達のシオカワくんに見せると「僕にもそのリターンに一口乗せろよ」と、シオカワくんとミヤタさんの間でシオカワくんはミヤタさんにお金を預け、ミヤタさんはその資金と自分の資金を合わせて秘密の投資ルールに基づく投資を、自分の証券口座を通じて行う、という匿名組合契約を締結して、シオカワくんはミヤタさんに資金を預け、ミヤタさんはその資金と自分のそれまでの投資資金を一緒に証券口座において運用を行いました。

と、なります。これでなんとなく日本の法律に基づく契約で守られた、ような形になりました。実際、この匿名組合契約を使って投資を組成し、個人投資家に売られるケースも散見されますが、新しい資産などへの投資を行う必要があるために、既存の法整備が追いつかないがために使わざるをえないのか、もしくは、金融庁のホームページに事業停止の勧告をされたと掲載されねばならないようなケースになるか、そう言ったものも含まれるので気をつける必要があります。

より企業化された投資基盤に

ところで。匿名組合契約を見ると、普段見るファンドに比べて投資家保護の観点で欠落しているものがいくつか見られます。
例えば、一番大きな点としては、シオカワくんが預けたお金はミヤタさんのお金と一緒くたになってミヤタさんの証券口座にあるわけですから、シオカワくんが一度預けたお金は表向きはミヤタさんのお金になってしまっています。その結果、シオカワくんのお金が本来の投資以外にも使われてしまう可能性が否定できない、のです。
また、ミヤタさんは秘密のルールで運用する、と言っていますが、自分のお金だけで運用するだけならば、すっからかんになっても自己責任、といえばおしまいになりますが、シオカワくんのお金を預かる、という点で見ると、シオカワくんにとって、仮に秘密のルールで運用した結果として損失を生じたとしても、例えば途中で諦めて運用を中止して残った資金をシオカワくんに返還する方がベストとなる、といった判断が出来るか、という運用者としての判断が適切にできるのか、という疑問が起こりえます。(運用を中止して資金を返しましょう、なんて判断できる運用者は、とはいえ、実際マーケットにどれだけいるか。。。いないことはない、のは知っていますが。。。)
合わせて、ミヤタさんはお友達のシオカワくんにこの投資話をしていましたが、これがシオカワくんだけでなく、別のお友達のシラキさんや、もっと言えば知り合いでもなんでもない人たちにも乗らないか、と言うかも知れません。そうなった場合に、友人や知人のみならず不特定の人たちにこのような投資機会が提供される場合に、それに投資するのは自己責任で、というわけにいかない、という問題が出てきます。

In the end: 結局どんなスキームを使うのが良いの?

これらの問題を解決するのが、前者が集団投資スキームとして一般的に採用されているユニットトラストであり、会社型ファンドであり、またリミテッドパートナーシップ(日本法でいうところの、投資有限責任組合スキーム)になるのです。
二番目の話については、このような運用を生業として行うならば、運用者の能力や運用体制などに一定の条件を課すようにしましょう、という運用業登録という話になります。
そして、最後については、ファンドの募集や販売に関して、一定の規制や手続きを課すことで、ファンドへの投資機会が、投資家の投資判断に相応のものが提供されるようにする、という募集・販売に関する規制、という話になります。
これらはどれも法令等が定められ、それぞれが適用される国や地域の規制当局の監視のもと運営されていくのですが、前者は、ファンドを設立する場所、すなわち、日本国内で設立するなら日本法が、ケイマン諸島で設立するならばケイマン諸島の法律のもとで設立されますし、二番目の場合、運用を判断する運用業者の所在地の国の法律等が適用され、最後については、ファンドの募集や販売が行われる場所、今私たちが念頭に置くのは日本国内で、と思えば日本法が、ということになります。
そうすると、ファンドを作りましょう、運用しましょう、募集しましょう、というだけで、それぞれでターゲットになる場所を検討し決定する必要が出てくる、ということになるのです。

アジア地域ファンドパスポートの話が出てきたのでUCITs とかも合わせて考えてみた

今日、というかもうすでに昨日(というか、実は先週の金曜である9月11日)、金融庁のホームページでこんな発表がありました。
これは、このページのリンクにあるように、「2013 年 9 月 20 日にインドネシアのヌサドゥアで各国財務大臣が 署名したアジア地域ファンド・パスポート創設のための意図表明文書に全体と して代わるもの」ということで、豪州、日本、韓国、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール及びタイが中心になって、このアジア地域でのファンド・パスポートの制定に向けて協力していく、というそうなのです。

ファンド・パスポートとは?

で、いきなり、ファンド・パスポート、と言われてもピンとこない方もいるように思ったりするので、ちょっと解説させていただいちゃいます。

通常、ファンドを(世界中のどこでもいいのでどこかの国か地域で、ファンドを作るための制度を利用して)単純に設立しても、通常はそのまま世界中にいる投資家に販売というか投資家に勧誘し投資を募るすることは出来ません

そもそも、ファンドを販売するには?

え?と思ったでしょ。ええ、一般的にはファンドの契約書等には投資を募る時の手続きやその資金の運用方法、そのリスク、最後に投資資金を変換するための手続きについて記載するものなのです。そこがファンドの運営にとって一番大事なところですので。

でも、ファンドを作って大事なことはソレだけではないですよね。大事な投資家を募るにあたり、その募集の仕方についていろいろと制限などを明示しなければならないのですが、そもそも、ファンドの契約書はファンド設立国の法律に基づいて作成されるものですので、ファンド設立国での募集ルールを最低でも記載しますが、もし設立国の外で販売するのが最初から予見されるならば、募集行為がファンドの設立国の外で行われるその国独自の募集のルールに基づく記述をして、かつ、ファンドの運用方法や投資家への制限、(この手の話で一番多い)投資持分の譲渡制限の話、といった波及的な影響をその国の法律と照らし合わせて反映させねばならない、という、単純に翻訳すればいいわけではない作業があるのです。しかも、これが複数の国で販売されるとなると、ファンド設立国とファンド販売国の数だけの当局規制や法律の影響の最大公約数の折り合いを見つけなければならない、というかなり苦痛な作業が発生することになります。

で、ファンド・パスポートの概念。

ひとたびファンド・パスポートの基準に合致したら、パスポートの有効な複数の国で共通する、ファンドの募集するための基準を充している、とみなしてもらえるので、上記でいうところの

個別の「国独自の募集のルールに基づく記述をして、かつ、ファンドの運用方法や投資家への制限、(この手の話で一番多い)投資持分の譲渡制限の話、といった波及的な影響をその国の法律と照らし合わせて反映」する

という作業が複数国に対して一瞬にして完了する、ということで、ファンドを設立して運用する側からするとその分のドキュメンテーションの作業が簡略化され、その結果ファンドレイズの意味で効率化が計れるからメリットがある、ように思える概念、です。

これが特に個人投資家向けの公募の基準を満たすファンド・パスポートだとしたら、複数国の公募市場で販売できちゃうからより多くの AUM を積み上げられるのでは、という期待も大きくなる、のでそりゃあ、アセット・マネジメント業界的には期待が大きいですし、ファンドを売るディストリビューター(日本では証券会社や銀行)あたりも商品の幅が期待できるから、と期待を膨らませるでしょうし、当局としても自国市場の活性化が期待できるから頑張って制定しようとする、という(もし銀行員が好きな表現を使うなら)三方よし、なアイデアとされています。

著者の予見するファンド・パスポートの未来とは?

で、お気づきかと思いますが、著者は実は、このファンド・パスポートについては懐疑的な思いで見ています。なので、さっきから語尾が「期待される」だの、「されている」だの、とダイエットの売り口上に対する期待感くらい他人事なのです。その理由とは。。。

ファンド・パスポートの先駆である UCITs が完全なパスポートの役割の機能を果たしきれていないから

UCITs とは、ざっくり言えばヨーロッパ連合版のファンド・パスポートで歴史は古く、1985年に最初の Undertakings for Collective Investment in Transferable Securities Directive = 譲渡可能証券に対する集団投資の引き受けに関する指令がEUで定められたのが始まりです。で、この「譲渡可能証券に対する集団投資」がいわゆるファンド、特に個人投資家等が投資する公募ファンドを指しているので、ヨーロッパにおける公募ファンドの募集・販売に関する共通ルールに関する規定、として認識されています。この指令は今では UCITs IV とバージョンを重ねており、もともと上場株や流通性の高い債券といった証券への投資をターゲットにしていたものが、先物やスワップを許容し、スワップを使った商品のおかげで、間接的にではあるものの、ヘッジファンドへの投資と同等のパフォーマンスを得ることまで出来てきました。

ちなみに、2008年の信用危機により特にヘッジファンドに対する強い規制の要請があったことから、UCITs ファンドに属する公募ファンド以外のいかなるファンドに対して、AIFMD = Alternative Investment Fund Manager Directive = オルタナティヴ投資ファンド運用会社指令が制定されたことで、ごく一部の例外を除くと、ヨーロッパ連合で募集されるファンドは UCITs か AIFMD のいずれかに規制されることになる、とされています。ですので、AIFM になるコストを考えたら、と、UCITs プラットフォームに乗っかって、トータルリターンスワップを使ったスキームで自分たちのヘッジファンド戦略を UCITs 化する流れが最近強まっていたり、投資家サイドも UCITs 化されたヘッジファンドを複数投資する Fund of UCITs Fund に投資する傾向が強まったり、と、UCITs がヘッジファンド業界で再評価されているという話もあったりします。

とはいえUCITSってパワフルですよ。EU域外では

また、UCITs がヨーロッパの公募規制のある意味代名詞となっていることで、何が起きたかというと、ヨーロッパでの公募規制だから、という「イメージ」が先行した結果、ヨーロッパ以外の投資家が UCITs に適合したファンドに投資する、ということが起こって、2013年の終わりには実際には UCITs に適合したファンドがヨーロッパ以外の国含めて86カ国で販売のための当局への登録がなされています(PwC Ireland 調べ)し、ヨーロッパ以外の国の機関投資家の一部では UCITs であることが投資基準の一つにしている、というものすらあります。そのおかげで、UCITs の最大の設立国である Luxembourg と Ireland はアジア各国でファンドを作るなら、運用会社の海外拠点を作るなら我が国へ、と積極的な誘致活動をし、毎年派手なロードショウをしています。

閑話休題。

あれ、と思った読者の方がいると思います。86カ国で、何かしら UCITs 登録されたファンドが現在販売されている、という事実があるのに、他方で著者はヨーロッパ域内でのパスポートとして機能しきれていない、と主張する矛盾。

UCITs の実情

実際は、こういうことなのです。販売登録のためのパスポートとしての概念は EU 域内での資本流通のための基本ルールとしては存在するのですが、各国で公募ファンドに対する要求基準が微妙に異なるため、結果として商品組成の時点で販売のターゲットとなる国に対するカスタマイズがどうしても残る、というものなのです。前述の PwC Ireland の資料の12ページに UCITs が如何に EU 内でパスポートとして機能するか、という説明をしているのですが、ここでも留保している通り

国によっては追加の書類や、サービスプロバイダーを要求するケースがある、

のです。ということは、Luxembourg や Ireland のようなファンド設立の意味では中心的なオンショア国 (や、Malta や Cyprus といった、これらに続くファンド設立を誘致している国)で作るだけでなく、普通に日本で国内投信を作って国内で売るのと同じように France や Germany で作って売る、というケースにおいても国内だけで募集するか、他国でも募集するか、という観点で UCITs-compliant にするかどうか、という検討が必要になり、後者になった場合には、ターゲットになる国の公募規制も合わせて考え、準備する必要がどうしても残る、ということなのです。

そこで、たぶん疑問が一つ出てきます。

じゃあ、UCITs をヨーロッパの外でこれだけ売っているのは、UCITs をそれぞれの国でパスポートとして許容しているから、ではないのか?

よく誤解のある質問なのできっぱり申し上げます。

違います(きっぱり)

日本を例にとるならば、日本国外のファンド商品を日本国内で募集する場合には、日本証券業協会が定める「外国証券選別基準」に合致する必要があります。これは、日本と同様のファンドに関する法規制が定められている国において設定され、かつ日本独自の公募のための投資制限やファンド関係者に対する要請、法的構成に対する要請(例えばユニットトラストならば信託宣言型は不可)、そして当該ファンドを販売する際にそれを日本証券業協会に届け出る代行協会員が必要(言い換えれば、商品の国内における対日本証券業協会の窓口をする日本証券業協会の会員が必要)など、あるので、UCITs-compliant だから顔パス、ということは絶対ないのです。

同じことは、UCITs が大好き、と言われている香港もシンガポールも同じで、運用会社の現地法人がいないとダメ、など、それぞれの国における規制があるため、持ち込む際にはそれぞれのローカライゼーションをきちんとする必要があるのです。

ローカライゼーションとは法令遵守だけじゃない。言葉だって売り方だって現地化しないとだめ。

言い換えれば、販売のための法的要件が整ったらどこでも売れるわけではなく、当然に商品が販売するために魅力的であり、かつ国内で特に個人投資家に販売されるならば、実際に説明し販売するローカルの販売会社(証券会社や銀行など)が責任をもって販売できるための体制も維持されるようにしないといけない、のです。そのためには、実は、開示資料がすべてローカルの言語に翻訳される必要もあるでしょうし、開示内容については、日本ならば昨年末から開始した運用報告書におけるパフォーマンスと一般的な市場ベンチマークとの比較、といったその国特有のルールに適合することも必要になってくるのです。

では、アジア地域ファンドパスポートの話に戻しましょうか。

これはまだ作業が始まったところですので、今後に期待したいところは当然いろいろありますが、日本での公募ファンドにおける「個人投資家を保護するため」という背景でいろいろと導入された開示要求や、根っこのところでいえば商品の受け渡しのルール(資金が申込日に受け渡さずに約定完了してから数日後に行う、という株や債券の慣習を引きずっている点)などが海外のスタンダードと異なること、さらに、海外ファンドですので外国籍投資信託としての登録になることで、日本の証券会社で取り扱える会社数が極めて少ないあたりで、海外ファンドが国内にパスポートをもって入ってくる時の事実上の障害がいろいろ残ってしまうのではないか、という懸念があります。

他方で、日本語以外でのレポーティングや販売サポートを行わねばならない、という点で今までそこに注力を注いできていない国内の運用会社さんが海外市場にパスポートを使って進出したいとどれだけ思えるか、これも引っかかります。その点ではヘッジファンドマネジャーの方が海外投資家への接点が多い分ハードルが低いはずですが、公募化したいか、というところから始まるので。。。

ということで、これを機にあらゆる面で海外と国内との間での違いというものが意識され、そこにどう歩み寄るか、という話が始まればいいなぁ、と個人的には思うのですが、重い話になる、だろうなぁ。。。今後も注視していきたいトピックです。

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