組合型ファンド、ラスボス的事務:equalization

ファンドの世界でequalisation (あ、イギリス英語で書くと、ですよ。日本で最も通用しているアメリカ英語だと equalization、カタカナで書くとイクアライゼーションかイコライゼーションか、まあ、そもそも日本語で組合型ファンドにおけるこの論点をちゃんと語っているのをそもそも聞いたことがないので、以下文中は、以上のどれかで指しますが。。。)というと、このブログの中でならヘッジファンドのパフォーマンスフィーの計算の時に 、財務年度の途中で入った投資家と、年初(というかそれ以前)からずっと入っている投資家とで、年末時点のNAVを見たら、年間でそのファンドに投資したことで享受する資産の増加分が異なるので、その調整を後から入った投資家さんとファンドとの間で行い、年末になったらそれを踏まえてその時点で残っている投資家さんを全部揃えて綺麗に正月を迎える、というのがequalisation よ、という記事を書いています。

Equalisation 要は公平に、平等に

さて、組合型ファンドだって、ファーストクロージングで入った投資家ばかりではなく、セカンドだったりファイナルだったり、その他のクロージングで入る投資家さんだっている訳です。他方で、ファンドというのはファーストで入ってもらってお金をコールして集めたら投資してますよね?ということは、同じように入ったタイミングが異なることに対する調整が必要じゃないの?って気がしませんか?公平に、均等に扱う、だからequal-isation なのですが、実務的には無茶苦茶手間なのです。

かつ、海外の実例を見た上で、日本の投資事業有限責任組合のよくいう経産省雛形に基づく実務を見ていると、どうもなぁ、と思うことがあったり、さらには、これらを踏まえた時に、よく後から入ってきては、大きな顔をする某投資家が要求する話とか、ちょっと頭おかしいんじゃないの?と思うことがあるので、その辺りの、ちょっと日本のファンド業界、そんなことやってるからだめなんちゃうの?という話まで踏み込んで行こうと思います。

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プロの投資家の定義って? – 日米にみる考え方の違い

このところ某運用会社でバイアウトファンドやベンチャーキャピタルファンドのLP持分の買取なんてやっているので、特に海外のファンドの持分の買取の際に買おうとする自分のファンドの属性を聞かれます。しかも、例えばケイマン諸島籍の組合なのにアメリカの法律に基づいたプロ投資家に関する質問だったりします。ちょっと不思議ですよね?

また、この手の話をしていると、プロの投資家、という投資家の資格で言うと、案外日本のプロなら海外でも、みたいに思われるところもあるようでして、この辺りを日米で比較しながらみていきたいと思います。

まずは、久しぶりに slideshare 用やYoutube用に簡単なものを作りました。

急いでいる人はこれでざっくりとどーぞ(笑)あ、ちなみに、それぞれちょっとバージョンが違いますよ。

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管理会社 – manager / management company / ManCo

まず最初にはっきり言っておきたい。日本の資産運用業界にない概念なだけに、この概念をしっかりと理解してほしい、というのが、日本に管理会社業務の伝道師として10年ほど働いたこの著者のこの言葉の解説における願いです。

なぜ日本にない概念?

最初に管理会社というものを紹介したのが海外籍投資信託 (mutual fund) の中で登場した manager という役割。日本の投資信託と同種の考え方、ということから、日本の投資信託における委託者の役割をする「投信投資委託会社」と同じようなもの、という間違った理解がまず先行してしまいました。曰く、ユニットトラストの投資ポートフォリオに対して投資一任行為が出来る、と。

管理会社が国内に最初に紹介された時

確かに、日本の公募投資信託と同等の法制度に基づく海外の法律で設定されたもの、というのが外国籍投資信託を国内で公募にて販売できる、という日本証券協会の外国証券選別基準にあるため、このような理解が先走ったことや、2000年前後の外国籍公募投信で持ち込まれた商品、いわゆる銀行窓販解禁のころの第一世代の投信商品が大手運用会社の海外の商品をそのまま持ってくる、というところで日本国内の公募投信のそれぞれの役割により近しいものだったことから、より管理会社と投信投資委託会社との類似性を飲み込みやすい状況にあったとも言えます。

管理会社の役割をより細かく見ると見えてくること

その後、2002年以降の単一資産を投資信託でくるむ、ストラクチャードファンド商品が日本に持ち込まれるようになって、従来の投信投資委託のような裁量権をむしろ必要としない、(ええ、著者が国内でその名前を知らしめた Moore Management (Bermuda) Limited に代表される)非一任型の管理会社の存在が国内に持ち込まれることになったのです。そこで、初めて日本における委託者の役割 – 指図権と資産拠出 – のうち、指図権というのが資産運用(ポートフォリオ管理、要は株を売ったり買ったり)と信託機能の維持のための判断(投資信託の関係者 – 受託者や法務費用、監査費用や運用者報酬の支払い許可や、それ以上に運用者をはじめとする関係者の監視 -場合によっては利益相反に基づく解任の判断)とが分離される概念が海外にはある、というのが説明された、はずだったのです。

ですが、非一任運用者としての管理会社の仕事が、費用等の支払いの許可以上に、投資判断をしないで日本の届出をはじめとする関連官庁への届出業務、ということにハイライトされてしまったために、商品を売っている証券会社などですら「管理会社 = 届出だけする人」というとか、「ユニットを発行するだけの人」という扱いにされてしまったのです。これも、証券・銀行系の海外拠点における管理会社業務に携わる人間もいたはずなのに、社内での役割説明を明らかに軽んじてフィーを下げて仕事を増やすことに傾倒した結果、でもあるのです(キッパリ)

ということで、管理会社というのは、まずは契約型信託 (bilateral trust) でのユニットトラストにおける運営のガバナンス機能を提供する役割を担っている、というのが正しい認識です。

ですので、例えばケイマン諸島でユニットトラストを設定する際にとることのできるもう一つの設定方法、受託会社 (trustee) が自身の宣言に基づいて信託 (trust) を設定できる、いわゆる宣言型信託 (unilateral trust) – 日本では管理会社みたいなまどろっこしくて小うるさい関係者不要だからコストを抑えて私募用のユニットトラストを作れてお手軽、と売り込んだ輩があちこちにいますが – においても、信託宣言の瞬間にその指図権を受託会社が抱えていることになるので、これを受託会社やその資産保全機能である保管会社 (custodian) などに指図することで全体の管理を行う管理会社を設定したい、というのが本当の受託会社の希望、なのです。

となると、契約型であっても宣言型であっても、ユニットトラストの運営の管理、すなわち判断をする人、は本来は管理会社が行うべきところなのです。でも管理会社を付ないと誰がするか、というと、投資一任会社がポートフォリオ運用のついでに、となるのです。ですが、こうなると、投資一任業務に専任できない、とか前述のようにポートフォリオ運用において投資家と利益相反になる行為を行ったり、事前の投資戦略と異なるもしくは投資制限に抵触する行為を行っても止める関係者が存在しないことになるのです。それで本当にいいんですか?

訳語もよく間違えられます

なお、管理、という言葉がよく administration と訳されるので、(某大手信託ですら数年前まで)この業界のプロであっても管理会社を administrator と訳する人がいまだにいらっしゃいます。administrator は判断しません。決められたファンド運営業務を行うだけ、ですので「(ファンド)事務代行会社」と訳すべきです。

さらに、の話をしましょう

この管理会社、の業務。実は、ユニットトラストだけではないのです。例えば、会社型ファンドの場合を考えてみましょう。投資家が会社型ファンドの株式の割り当てを受けてその資金を投入し、その資金を一任運用者がポートフォリオ運営を行う、わけですが、会社型ファンドとは言え、会社法人です。取締役(director)が存在しますが、この会社の活動を支えるのは一体誰でしょう。

実際のNAVの計算とかはadmin (事務代行会社、ですね)、資産の保管・受け渡しは保管会社(custodian)や保管銀行 (custody bank)とかが一任運用からの指図で動く、というところまではわかりますよね。でも、これらの一連の流れを取締役が常日頃監視監督できるものでしょうか。そのファンドのスポンサーが取締役になっていればやるでしょうけど、このスポンサーはどんな名目でファンドである会社法人の運営に携わり、取締役会を召集し判断させ決断し、報告する、関係者の業務の監視監督を行えるのでしょうか。従業員を貼り付けるわけにもいかないですしね。。。

それが管理会社の役割になるのです。ですので、実は、会社型ファンドに投資一任者 (investment manager)だけでなく管理会社も全体を掌握し、管理するのです。この場合、manager という言い方もしますが、management company (さらに略して ManCo)という場合もあります。

ということは。。。組合形式でも?

はい、感のいいあなたなら想像できると思います。海外のLPSストクラクチャーの場合、GP会社はそのために新設されるので、日本のGPのように役職員がいる、というわけではないのは、上述の会社型ファンドと同じ事情です。としたら、GPの取締役会や投資委員会などの運営などのお世話をする誰かが必要になり。。。登場するのが管理会社、という概念になるのです。

ということで、管理会社はスキームに関係なく登場してファンドビークルの運営を担う仕事なのだ、というのを理解していただけると、より公正なファンド運営のあり方をイメージしていただけるようになるかと信じております。はい。

運用報酬 – management fee

ファンドの世界で、「ポートフォリオ運用にかかる報酬」、という意味ではある一方で、これ自体色々な意味を持つ言葉なので特に戦略やスキームに注意して判断する必要がある。

投資信託の場合

例えば、「ポートフォリオ運用にかかる報酬」という意味で国内籍投資信託の世界だと「信託報酬」という言葉で括られることがほとんど。でも、この場合の信託報酬には

  • ポートフォリオ運用をする投信委託会社に対する報酬
  • 受託者で資産を保有・管理する信託銀行に対する報酬
  • 投資信託の販売を行い、継続的に投資家に情報開示を行う販売会社に対する報酬

をさす。一応、目論見書などではこれらの役割ごとの報酬がいくらになっているのか明細を開示することになっているものの、商品を売る際に「信託報酬」が高いか安いか、というと安いと売りやすいから、ということでこの総額を削るべく、これらの関係者で取り分を減らす圧力を掛け合っている(と言って、大きな声では言えないが、販売会社の報酬が下がったことをみたことはないが)。

ちなみに、信託報酬が高いから運用成績がいいとは限らないが、安いからと言ってパフォーマンスが手堅いわけでもない。

外国籍投資信託の場合

もしこれをケイマン諸島やアイルランド、ルクセンブルクのような外国籍投資信託の世界になると、ポートフォリオ運用にかかる報酬は一義的には実際のポートフォリオの売り買いだけでなくファンド全体の管理をする責任者である「管理会社 – management company / manager」に対する報酬 (management fee) を指す。

ちなみに、実際にポートフォリオの資産の売り買いの判断と執行を行うのは投資一任業者 (investment manager) なのですが、その権限は管理会社から委任されているのでその一任手数料 (investment management fee) は管理会社から支払われることになる。日本の投信だと、投信委託会社がこの役割を兼ねてしまうので、管理会社 = 一任運用者に思われるが、海外のケースでは一任業者が運用のガイドラインから離れるような運用を行うと管理会社が見つけて辞任させることも出来るので運用にけん制が効く(内部統制が効いている)状態になる、のが日本と大きく異なるところである。

同様に、受託者 (trustee) は単純にその名義で資産を保有し、その責任を負うだけなので、純資産(net asset) の計算や資産売買の際の資産移動の管理や有高チェックのような部分は事務代行会社 (fund administrator)が行い、実際の資産の保管・決済による出し入れの作業を保管会社/保管銀行 (custody / custody bank)が行い、投資家の出入り、持分の移動の管理を行う名義書き換え代行会社 (registry) がそれぞれ行うので、報酬もこれらに対して払うべく、細分化される。

となると、国内投資信託の「信託報酬」と同じ意味のものは「管理報酬」ではなく、管理報酬や受託報酬 (trustee fee)、事務代行報酬 (administrator fee)、保管会社報酬 (custody fee)、名義書き換え代行報酬 (registry fee) の合計を指し、その料率 (Total Expense Ratio – TER) が安いか高いかが呼応することになる。

ちなみに、これらの様々な報酬について、ファンドの資産からこれらの関係者は報酬を支払ってもらっているのでファンドのためにそれぞれの役割を果たすと言えます。もしこれが、一度運用会社が全額受け取って、それをそれぞれの関係者に支払う、なんていう仕掛けになっていたら、それぞれの関係者はファンドではなく運用会社のために働いていることになるので注意が必要である(最近はこんな見えすいたのはあまり見ないが。。。)

オルタナティブ投資の場合

前述の従来型の伝統的資産運用と異なり、オルタナティブ資産や戦略を使うファンドになると報酬の計算根拠が預かり資産ではないものを使い出したり、預かり資産を増やしたことに対する成功報酬 (incentive fee) の概念を入れることが極めて多い。

ヘッジファンドの(hedge funds)ようにユニットトラストや会社形態のファンドで投資期間に期限のないようなものだと、投資してからか年度はじめから年度末の上昇率に対して成功報酬を決めることになるが、バイアウトファンド(buy-out funds)やベンチャーキャピタルファンド (venture capital funds) と言った未上場株式などに使われる組合形式のような投資期間や投資対象が個別に評価できる場合だと、投資期間中の超過収益に対して成功報酬を決めることが一般的。

なお、興味深い話の一つ(ということはただの余談)として、ヘッジファンドの成功報酬は運用報酬の一部を構成するため運用会社の法人税 (income tax)の対象となるが、バイアウトファンドやベンチャーキャピタルファンドは、自身の投資する無限責任組合員の超過収益の配分の結果として受領するので無限責任組合員のキャピタルゲイン税(capital gain tax)の対象となると解されることが多い。

ファンド – fund

ファンド (fund)とは、複数の資金の供給者(投資家: investor や資金の貸出人: loan provider / loan lender)から供給された資金を、予め定められたある一定の投資方法や戦略 (investment strategy)、目的 (investment purpose)や制限(investment restriction)に基づいて投資を行い、また投資資金を回収、再分配するための仕組みをいう。

一般的に、投資信託 (mutual fund / investment trust や Luxembourg FCP – fond commun de placement) のような契約により資金を保有・保全する形態、(J-) REIT や Singapore VCC (Variable Capital Company) と言った、(可変資本)株式会社法人の形態、そして limited partnership や商法上の匿名組合/民法上の任意組合のように、組合の形態をとるものと大別することができる。

似たような意味の言葉として、集団投資スキーム (collective investment scheme、略して CISと呼ぶ人もいる) という言葉がある。広義の意味としてはファンドと変わるものではないものの、国内では、投資信託や会社型投信のような有価証券扱い出来ない組合形式の投資形態のもの(金融商品取引法 – Financial Instruments Exchange Act でいうところの2項有価証券と呼ばれる、従来型である投資信託以外の投資スキーム全般)や、法制度を利用することで金融商品取引法上明確な定義に基づいて(2項含めた)有価証券とは呼べないがこのような意図を持って設定された投資主体を呼ぶことが多い。

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