オルタナティブ投資のインセンティブ・フィーの計算って(プライベート・エクイティ編)

と、こんなタイトルで書き始めてふと、やばっ、と思った事が(早速ですが)

オルタナティブ投資、という言葉。ちょっと前なら、

ヘッジファンドでしょー
プライベートエクイティとかベンチャーキャピタルとかエンジェルみたいなのでしょー
不動産投資も、まぁ入るかなぁ

なんて言う雰囲気でした。要は、伝統的資産、つーか上場株式とか公社債、を、レバレッジを掛けずに、投資対象を分散させながら買い持ちして投資対象の資産が自然と上昇するのを待つ、というのが正統派の投資で、そうでない、ショートに振る、とか、借り入れを使ったり、先物やオプションのように証拠金取引を使ってレバレッジを掛けたり上場していない株式を取得したり、とか上場していてもほぼすべての株式を取得して経営権を取得して非上場化して、投資対象の成長をコントロールする、というか、あるべき価値になる、かする、のを待つ、と、いう投資戦略を取るもの、を指す言葉、だったように思えていました。

が、最近では、オルタナティブ投資の世界に入ったんです、というので聞いてみると

バンクローン、とか
ハイブリッド証券(劣後債や優先出資証券)、とか
MLP や BDCのように、上場しているリミテッドパートナーシップ持ち分

という、資産クラスでの分類で使われる事も出てきているようです。まぁ、実際に、前者の意味でのオルタナティブ投資、というところでも、後者の中にあるような MLP や BDC のように、本来ならばクローズドな投資機会のものが、そのクローズドの意味の裏返しであるほとんど皆無の流動性を上場化によって得られるようになるのと同様に、ヘッジファンドもヨーロッパの公募ファンド市場に出て来た Alternative UCITs や、アメリカのそれである 40 Act (1940年法)に基づく Liquid Alternative というような戦略はそのままに流動性を伝統的な運用のそれに近づけることで、オルタナティブ運用戦略、という意味付けに変わりつつあるのも事実ですので、それもまたありなん、ということでしょうか。

報酬の計算、電卓だけではさすがに厳しいです。。。
さて、のっけから横道にそれましたが、表題の本題。
数年来お付き合い頂いているプライベート・エクイティへの投資に詳しい某氏とこの間食事をしていた時に、ふっと胸の内ポケットから取り出されたのは、日本ですから当然拳銃ではなく一枚のノート。そこには、食事の前に考えていたとある問題が書かれていたのです。

キャリーの計算ってどうするの?

問題とは、「Preferred Return: 8% Carried Interest: 20% GP Catch-up rate: 80%」という条件のときの実際の運用者への成功報酬の支払いの額はどうなるのか。というものでした。

まずキャリーの概念の解説から

って、そもそも、それぞれが何を意味しているか、念のために説明しないといけませんね。一番分かりやすいのが “Carried Interest”。これがまさに、成功報酬/インセンティブ・フィー。20% ということは、投資元本以上に稼いだ分の 20% を運用者が頂戴しますよ、という意味。これはヘッジファンドでは「インセンティブ・フィー」とか「成功報酬」と呼ぶのですが、なぜかこちら側では Carried Interest とか、キャリーとか呼ばれています。(これでぱみゅぱみゅな人たちが間違えて Google して来ちゃうのかしら(笑))。

続いて、”Preferred Return”。ひとによっては “Hurdle Rate” ということもある(というか、なんで、色々な言い方するんだかなぁ。。。)のですが、これは LP 投資家に優先的に収益から支払われる時に使う利回り。あまり考えたくない例ですが、もし、とある会社に投資して、なんとか投資元本の 5% 稼いで資金回収した、なんてケースで、Preferred Return が 8% だと、ヘッジファンドなら 5% の 20% だから 1%を運用者が普通にもらうのですが、こちらの世界だと、 Preferred Return 分はLPに優先して(Preferred) 支払われるので、運用者の取り分は 0で全額 LP投資家に行ってしまう。

ということは、どういうことかというと。。。

この8% の Hurdle を越えて(というと、Hurdle の方がしっくり来ますよねぇ。)稼いだ時に初めて成功報酬がもらえる、という世界だというのが分かってきました。例えば、 10%の超過収益だった、としたら、10% の 20% なので、2% を成功報酬にもらえる、ということだから、 8% のPreferred Return を先に払った後、残った2% を成功報酬としてもらえるし、20%の超過収益だったら、最初の 8% は Preferred Return により LP、次の 2% は運用者に、残る 10% は 20% が運用者、残りの 80% が LP投資家、という事ならば、2%が運用者、 8% がLP投資家、ということで、それぞれ合計して 16% (全体の 80%) を LP投資家が、4% (全体の 20%) が運用者が、収受することになります。

では、問題を解いてみましょう。って塾の先生か?(笑)

となるならば、話は簡単ですよね。でも、くせ者なのが、”GP Catch-up rate”。これは、Preferred Return を LP に払ったあと、GP がLP の既に受け取った報酬に対応するだけの成功報酬を受け取るにあたって、未分配分の収益のうち運用者に分配される比率、という意味なのです。ええ。上記の 20% の超過収益の時の前提は GP Catch-up rate が 100%、全額運用者に当てていい場合のケースだったのです。ということは、これが 100% でない場合、元々 Preferred Return で 8% もらっていて、さらに GP Catch-up rate のお陰で未収分のうち 20% が分配されることになるので、実はcatch-up といいつつも運用者への成功報酬の分配が永遠に続くのではないか、という疑問だったのです。

本当に、追いつけないのでしょうか。

まぁ、そのためには中学校に戻って計算をするのが一番のようです。
全体の収益を X(%) とすると
(a) 成功報酬は全体の 20%: (X x 0.2)であり
(b) 成功報酬は X から 8% を引いた部分のうちの 80%: (X-8) x 0.8
のそれぞれなので、ちょうどそれぞれが拮抗する点があるかどうか、ということなのです。いわば

0.2X = 0.8 (X-8)

ね?中学の数学でしょ?答えは X = 64/6 = 10.666… (%)です。
実際、 8% より先の 2.666…% については、2.666 * 0.8 = 2.13333…(%) ですが、これは 10.666… x 0.2 = 2.1333…(%) と一致します。

って、なに偉そうにしているんだか。まぁ、言ってしまえば、過去において運用者が投資家に有利になる条件の一つとして、導入したのでしょうけれども、ある意味計算が面倒になるなんて思わないでしょうねぇ。。。

ということで、上記の前提に基づくならば、超過収益が

  • 8% 未満の場合には超過収益がすべて LP 投資家に
  • 8%以上 10.666…% ならば (1) 8% は LP投資家に、(2) 8%を越える収益部分は 1:4 で運用者と LP 投資家で山分け、
  • 10.666…% を越えるならば、超過収益を1:4 で運用者と LP投資家とで山分け

という場合分けになります。

まとめ

うーむ。こうしてみると、結構投資から得られる収益に対して、このハードルというかは案外低いところにおいてある、というか、本当にあまり稼げなかった時の投資家を優先という意味では、これでいいのか?というか、こんなものかなぁ、という気になってきております(苦笑)

実際には、各投資案件ごとにするのか、全体の投資案件の回収を終わったところでする(と、投資家の資金が手元に置かれて寝るし、投資失敗した案件分だけ運用者の取り分が目減りする、と双方にメリットがないように見えるのですが。。。)のか、など、方法が違うそうなので、投資家と運用者の間の交渉ごとは尽きませんねぇ(笑)

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