Further on ETF: 指定参加者以外のマーケット・メイカーや大口投資家にとってのETFのメリットとは?

さて、気づいたら ETF関連のネタでこれだけのことを書けるなんて当初思いもしなかった、というのが本音な ETF の第4弾です。ほんと、どこまであれこれ言いたいんでしょう、私。。。

HFTとETFのもっといい関係は近い将来できる?

実は、これを執筆しているタイミング(2017年10月25日の深夜) に、金融庁のホームページでパブリックコメントが募集されています。その内容はいわゆる高速取引 (High Frequent Trade – HFT)に関する規制関連についてなのですが、その中の一つが興味深いので取り上げるとすると

ETF市場の流動性の向上を図る観点から、空売り規制の適用除外の対象に、金融商品取引所からETFのマーケット・メイカーとして指定を受けた高速取引行為者がETFの円滑な流通を確保するために行う空売りを追加する。

ということで、ETFのマーケット・メイカーの指定、というのが取引所が行なっていて、既にその中にHFTがいる、ということなのです。価格の乖離を即座に感知して高いものを売り、安いものを買う、ことを高速回転で行うHFTの性質上、当然やっていて然るべきではあれ、空売りまで今回許そう、というのです。実際に、現物のポートフォリオを買ってETFを売る、という裁定取引だってあり得るわけですが、それを信用取引として借りてからやりましょう、ではサーバーの自動運転で取引を執行し続ける HFTにとっては間に合わないから出来ない状態にあった、と言われても納得感もあろうと思います。また、こうすることで、HFTから ETFの取引玉が売りに出され(あとで買い戻すか一日の終わりにネットポジションで借りるとして帳尻を合わせられ)るならば、ETFの供給源としてのマーケット・メイカーである HFTにもっと頑張ってもらってETFの流動性を創造して欲しい、ということなのでしょう。

指定参加者以外のETFのマーケット・メイカーっているの?

ところで、過去の記事で指定参加者というある意味 ETFの上場の幹事証券会社だけがマーケット・メイカーの役割をしている、かのごとく書いていましたが、前述の HFT だけでなく、よくよく考えて見れば、最近では海外でもそれを専業とするブローカーが増えていて、証券の貸し出しをしている会社さんに対してETFの貸し借りの話をしている、のを思い出しました。

そもそもマーケット・メイカーというのは ETFに限らず上場商品、果ては未上場でもいいのですが、取引の常に中心にいて自己の算段に基づいて、今の売りと買いの価格を提示することで取引に応じる人のことです。その際に売りと買いとの間にはスプレッドと呼ばれる差額が存在して、その瞬間にマーケット・メイカーと売り、買いを同時にすると、スプレッド分だけ確実に負けるのですが、これはマーケット・メイカーからすれば、例えば買いの価格を提示して買い取ったあとに他の人に売るにあたっては、このスプレッドの範囲の利幅の中で売れるという目算というかリスクをとって売り買いを常に成立させることを生業としている、と見ることが出来ます。

しかも、もしこのスプレッドをその瞬間のETFの参照する指数などの値動きと全く同じ価格を中心に上下一定幅で提示されているとしたら、確かに一般に言われる ETFと参照指数との間の価格の連動性というのが形成され得る、と言えるでしょう。でも、果たしてこの価格の提示は ETFと参照指数の連動性を提供したいがために行なっている、のでしょうか。

実はここに、マーケット・メイカーの立場が大口取引をする人の観点から言えばメリットがあるから行う、というのが見え隠れします。

指定参加者が ETFの設定・交換を応じる相手とは

さて、HFTやマーケット・メイカーたちはそのリスクを取引スプレッドや現物対ETFの差額だけで吸収しているのでしょうか。実は、そうでもなく、大口にかき集められた ETFの持分や日経225を例にすれば 6億程度掛かる現物による参照指数の構成銘柄ポートフォリオとを交換するのに応じてもらうことが出来るため、そのリスクがヘッジされて安心して小口のマーケット・メイキング取引に応じられるし、市場としてもその流動性が担保されるというのです。その意味では指定参加者だけの特権、というわけではなく、最近の流れでは指定参加者はマーケット・メイクすることなく、この現物ポートフォリオと ETFの交換手続きだけに特化しているところもあるそうなのです。

まぁ、これらの取引関係者ならば、日経225ならば 6億前後の取引単位で取引が出来る人たちなので指定参加者としても対応できる、のです。

実際、それ以外にも、現物の売買が市場への影響が大きいような大口の機関投資家も ETFを使ってポジションを作ったり売ったりする、バスケット取引の代わりとして使う場合には指定参加者が ETFの設定や交換に応じるとされています。

いずれにせよ、大口の取引でなければ対応しないので私たちのような小口取引が使えるツールと考えてはいけないでしょう。

で、こんなメカニズムだから ETFと参照資産の値動きは一致するんじゃないの? – ETFネタを終わらすにあたり

さて、このようなマーケット・メイカーたちのリスクヘッジが現物資産とETFの値動きの裁定取引に基づいて行われているのだから、その思惑通りにETFってのは現物資産の値動きに近しいんじゃない?この4回に渡って、著者が主張するような市場参加者のセンチメントが参照資産の動きと乖離することはないんじゃないの?とここまで読むと思うかもしれません。

確かに、注文が発生すれば、HFTを含む裁定取引を狙ったマーケット・メイカーがミスプライスを叩き、そこからこぼれ落ちた適正価格に近い注文だけが板に集まって取引成立、ということで、取引は参照資産に近いところで取引がされることになるでしょう。

ただし、売りと買いの注文が適度にあれば、なのです。

もともと注文が売りや買いだけに一方向に注文が集まれば自然と参照資産からの乖離が発生してしまいますし、注文があっても取引が成立しません。この状態はマーケットクラッシュした時によく見られますね。

そして、そもそも取引のニーズがない銘柄であれば注文数が少ないか、発生しないのでマーケット・メイカーですら気配値を出して一日終わるけど取引は不成立、なんてことだってあり得るのです。これは中小型株式や債券で普通に見られる光景でしょう。

そうなると、いずれにしても流動性を増やすことで解決できる問題だとしても、ニーズがなければ解決しようがない、のです。とはいえ、不人気銘柄や認知の低い銘柄という意味では新しいようで古い問題なのです。

どうしても流動性の大きい人気のあるものだけを見て一般論は語られやすいのですが、裾野をみると見える風景は変わり、案外そこに儲けるチャンスが隠れていたりするのかもしれません。まぁ、それが取引の思惑、という奴なのですけどね。。。

More on ETF: 運用会社の巨大化に伴う、大量保有は何か市場や投資家にとってデメリットって?

ETFやbitcoin の話を書いていると、どうも興味を持ってもらえることが多いようで、この数週間であれこれお仕事のオファーを頂いたりしていて本当に感謝です、というのもあるのですが、その陰に隠れて、当の本人は絶対に匿名でかつ内緒にして欲しい(というか、こんな形で公開されたくはない)はずなのですが、私にこれ以外にも(付き合っているのか、というくらいに何度も)メールを頂いたこともあることから、それに免じて今回のタイトルにあるような下記のブログネタに持ってこいのご質問をくれたのでご紹介したいと思います。(ごめんなさいね。忙しいから、回答含めて記事にさせて頂きますね。)

ETFの功罪 – 大量保有した場合の権利行使は?

質問です。

現在のETF業界は、ブラックロック、バンガード、ステートストリートの寡占が進んでいます。特にブラックロックとバンガードに至っては、指数採用頻度の高い多数大型株の、筆頭株主になりつつあります。もちろん、事実上の株式の管理は信託銀行にあるとは言え、議決権等の権利は運用会社に寄与させると考えております。このような運用会社の巨大化に伴う、大量保有は何か市場や投資家にとってデメリットに繋がる可能性があるのでしょうか?

ぜひ、専門家である宮田様の意見が聞いてみたいです。

残念ながら、ファンドの設立や運営については、多分日本で5本の指に入るくらいまともなセンスと投資家のことを考える専門家ではあると自負はします(これは本気ね。投資家のことを考えない、運用者の都合と自己満足を優先するストラクチャーをする輩が多いのが事実ですから)が、ファンドの運用方針とか戦略についてはかなり無頓着な私ですから、ファンドの保有する株式の議決権行使については本源的にはあまり気にしませんし、さらに言えば、その先にある運用会社の議決権行使の方針による市場への影響、なんてそうそうイメージすることもありません。

ですが、この昨今の日本版スチュワードシップコードのような話を踏まえるならば、次のような一般論程度は言えるとは思っています。

筆者の考えるETFによる大量保有に基づく議決権とその市場への影響とは

まぁ、当の本人にはメールで返した内容なので、記事としては手抜きですが、こんな感じです。

多分にご質問にある問題点は投資家のポジショニングを考える際に影響することでしょうから本来であれば自己の裁量により勘案すべきことと思いますが、私見を述べるならばETFだけが斯様な大量保有とされるポジションを抱えている訳ではないですのでそれを持って市場へのデメリット、という影響があると考えるのは早計でしょう。
そもそも会社への支配的、もしくは影響を及ぼす保有割合は日本のルールでいうならば大量保有届出を義務付けられている 5%ではなく50%でありまた、25%であったりと、ケースにより変わる訳ですので、ETFの市場規模がそこまで増えた時に初めてこの問題が現実のものになり得ると思われます。
# 日銀による J-REIT保有が過半を占めている、という話についても
# とはいえ、それぞれの J-REIT 銘柄の半数を超えて保有している訳ではないので
# 今の所は問題にはならないでしょう。多分。

他方で、運用会社としての大量保有による影響というのは、その運用方針による保有の仕方が問題になる話ですので、個々の運用会社のウェブサイト等で開示されている保有時の方針、例えば日本であれば日本版スチュワードシップコードの表明の有無などから運用会社ごとの対応を推して考えることと思います。

また、支配的保有であれば go-to-private のようなプライベートエクイティのような買収案件ですので市場への影響より個別銘柄のその他の少額投資家への影響、という問題に話が変わることになります。

その上で申し上げますが、ETFのような支配的目的での保有でない保有で結果的に影響を多少なり与える保有になった場合にも経済的効果のみを目的とする以上、議決権を留保するという権利行使をすることもある、と理解すべきです。これはETFが市場に現れる前の日本の機関投資家が取っていた方針でもあるので別段新しい話ではありません。

少額投資家の利益と思われていたETFが増えれば増えるほど、その意味では会社運営の観点で監視し、利益を主張し得る立場にあるはずの議決権が死蔵される可能性が上がるという意味にもなりえること理解しておく方が良いでしょう。これらを勘案して、それでもETFの動きを見て同調して保有する(することで死蔵に加担する)のか、その他の大量保有者の動きを見るのかをして、個別銘柄やETFを保有し/売り越すのかを考えるのがETF趨勢の時代におけるポジショニングの構築、ではないでしょうか。

ま、何も言ってないじゃないか、と言われそうですが、実際には二つの考え方が支配すると言ってもいいけどそれがどっちに転ぶかは知らん、としか言いようがないのです。

スチュワードシップコードという名の経営への関与 – お前らPE崩れか?

いや、まじで。スチュワードシップコードって大量かどうかはさて置いたとしても、運用会社として取得保有するならば長期的に保有して株主としての地位を使って取締役会と対話してその株式の評価額の向上に関与すべし、という話なのです。それって、友好的なアクティビストとどう違うんでしょう。本気で経営にテコ入れて企業価値を押し上げたいならば PEのように過半数以上保有して経営陣を送り込んで交代して投資家の思う経営をさせる方がより効果的だ、というのは PEファンドがすでに証明しているはずなのです。

いずれにせよ、この取締役会はクズいから不信任ということでショートします、だって取締役会への大きなアピールのはず、なのですが、どうも理解されずにロング側に立った話でしかしないのは

「株式は長期保有がマスト、というか短期売買で株式市場を下げるようなこと(= 株は売ること)はするなよ、分かってるよな?」

という国や与党から押し付けられた大人の事情、としか個人的には思えないのは私だけでしょうか。

経済的効果だけ欲しいから余計なことは言わない – 希望的マグロな投資でいいの?

と言って、この株の経済的な効果だけ欲しいから議決権行使は何があっても行使しない、という運用会社や適格機関投資家が大多数だったのは、本当にこの数年までの超長期の話。曰く自分たちの意見が株価を動かしたなんて思われたくないから、なんて、どこの誘い受けの乙女だよ。そもそも議決権を行使したところで株価がそれ通りに反応するとは限らないのだから、思い上がるなよ、という気もする(ええ、著者は株式市場なんて所詮は企業努力による株価向上など投資家のセンチメントの前には相関性の極めて低いイベント、くらいにしか思っていませんのは、前回までの ETFの取引価格の構成要素の議論を見ていただければ一目瞭然ですね。)訳です。その意味では議決権行使をするしないに関わらず株価が動くのだから行使せずに受け身でい続けたって問題はなさそうに思えるし、どうもこのセクションの論調だってそうだろ、と言われかねない。

とは言え、経済効果とは本当に株価の上昇や下降を口を開けてぼんやり黙って見て享受していれば良い、のだろうか。株価と議決権行使などのイベントが極めて低い相関性だ、と言ったところで、株主である以上、その権利ではなく義務として議決権の行使の判断をすべきなのは、株式というものが投資家のための株式の流通市場にて取引されようがされまいが、その本源的価値を向上するのが取締役会であり株主の役割であることに違いがないから、その使命は果たすべきだとは思うのです。

とすれば、誰かさんによるその企業価値の創造に第三者的にタダ乗りする運用会社って、選球眼はあるけどどうよ?としか思えなくなるのです。

で、ETFが大量保有することの影響っていいの?悪いの? -結果論に過ぎないのだから気にするな

でも、ETFってそういうタダ乗りの箱、なのですよね。結局のところ。だって、自分でどの株がいいか悪いか判断せずに丸っと保有しているだけに過ぎないのですから。その意味では影響が良いほうでも悪い方でも、出たとしても気にする必要だってないのかもしれません。

ETFを保有することが投資家の市場全体への参与を束ねているだけに過ぎない一方で個別株という個性についてはあまり配慮していない、のですから、個性がどう振る舞ったところで、日経 225であればたかだか数パーセントの影響に過ぎないのです。そりゃ、個別の株主総会への影響なんて仮に株価への影響があったところで指数全体から見れば気にならなくなりますね。

ということで、ETFで投資するなら、他人のコストストラクチャーもガバナンス的な命令系統も何もあったものではない、むしろ気にせずETFの対象戦略だけを気にする方が良いのではないか?という結論にここではしたいと思います。というか、結局そこを看破した稼げる紙としてETFにはあって欲しい方がニーズが強いから、なのでしょう。

あーあ、こんなんでいいのか?(笑)

ETF の続き、というよりファンドや証券そのものの本質的なところをもうちょっとだけ書かないといけない気がしたので

元々このブログで意図していたのがオフショアのファンドのイロハ的、とある意味金融商品でも割とニッチである意味上級者向けな(だから、読者層も極めて限られている)ところだったところに、AFPなんてものを著者が取得してしまい、かつ30代男性読者の金融リテラシーを補わねば、という人向けの記事をいくつか書いたものですから、投資というものを細かくかみ砕くような記事をちらちら書いてしまったおかげで、ETFの記事をポストした後に数人の方からのこの記事に対するフィードバックを聞いているとどうやらプロ向けと初心者向けの間の部分が抜け落ちた構造になってしまっていないか、ということに気づかされることがありまして。。。

そこで、ちょっとだけ ETF の話の延長をしつつ、ファンドへの投資ということや証券の取引の本質的なところをいくつかかいつまんでみようかな、と思ったのが今回の記事の狙い、と思ってください。

Bitcoin してる?

現物資産っぽいbitcoin (イメージに過ぎません(笑))AIMA Japan の創設メンバーの一人で、時々(当の二人に自覚症状は全くないものの、オルタナ系ファンド業界では有名な2mの大男から“Dangerous Men” の称号を一緒に頂くほどのハードな)飲みにお付き合い頂いているオルタナファンド投資の日本での第一人者、白木さんと珍しく(?)素面で話した時に聞かれたのがこの一言。このリンク先でも彼が取り扱うように、ビットコインなどの仮想通貨というもののあり方というのが投資の世界でもいろいろな形でかかわることが想定されつつあるのですが、ではどんな風に、というのはまだいろいろな可能性もあり見えてきそうで来ないというのが、fintech 特有の「急に現れる未来感」なのかもしれません。

といって、ある意味著名な投資家である彼と同じような投資家目線での高尚なことは書けませんから、ここでちょっと取り上げたいのは、仕組み的なところで一つ。

このところ、出てくるだろう、と言われ続けて世の中に登場してこなかったもの、として言われるのがbitcoin ETF。その名の通り、bitcoin を裏付けにしたファンドの持ち分を上場させたもの、なのですが、過去に何社もトライしつつも当局のストップによって出来ずにいるものです。

といいつつ、実は今、米国 NASDAQ の登竜門と目されている OTCQXに、Glayscale 社というところが GBTCというティックコードで上場させているものが多分事実上のbitcoin ETFなのでしょう。ETFではないファンド、であれば、4年前にジャージー島で私募で作っているという話を聞いていて、実際にGlobal Advisors というジャージー島のファンドが2014年からのトラックレコードが示されていますから、多分そういう形で世界中のあちこちでファンドの組成を行っていたと思われます。実際、Forbes の記事によれば今年7月の時点で13ファンドがETFではないにせよ、bitcoinなどに関連して投資をしているようです。ちなみに、このGlobal Advisors のGABIはケイマン諸島の証券取引所、The International Exchange に上場しているそうな。とはいえ、この上場の意味は。。。前回のETFの記事で説明した広義の意味での「届出目的の上場」と思ってもいいかもしれませんね。

あ、余談ですが、このGlobal Advisorsは2017年6月にAltcoin (bitcoin 以外の仮想通貨)の一つで有名なEthereum platform の通貨、 Ether 建のファンド、CoinShare Fund I を立ち上げて、その他のAltcoin のICO(Initial Coin Offering)やその後のステージで所有者間で流通しているものの取得するなどして運用していくそうな。感覚的にはAltcoinは株みたいな資金流通手段になっているから株と同じようにタイミングを見て売り買いして運用できる、というのを示していくように見えてきます。

で、ここで一つポイントにしたいのが、bitcoin って実際のところETFにしなくとも比較的手軽に口座を開けて取得可能なもの、ですよね。実際に近所のIT好きな店主のいる喫茶店でのコーヒーのお支払いに(そして、それと同じくらい手軽にdark web 経由で依頼したアンダーグラウンドな活動の対価として)bitcoin、のように決済にも使える訳ですから。ではなぜ、わざわざ(GBTCの場合なら年率2%の)フィーを払ってでもETFになったbitcoin を持ちたい、というか投資したいのでしょう。

bitcoin ETFだけに限らない 「ETF する」ことのご利益(その1)

なぜそれをするのか?という質問は、ファンドに限らず、また事業に限らず、ある意味すべての行動において問われるものですが、特にお金が絡むものならば「誰かが」儲かるからそれをする訳でして、ということは、その金融商品にはそのメリットをデザインされて作られているのです。では、bitcoin ETFの場合、フィーを払っても得たいメリットとはいったい何か、ですね。

bitcoin に限らず実際には現物資産を裏付けにした ETF やファンド全般に当てはまることなのですが、ファンドという金融資産にすることで、これらの資産を直接取得・売却することで得られた利益に対する課税と異なる課税ルールを適用出来るように変換するのです。

どういうことかといえば、bitcoinの場合でいえば、話を単純にするため(というのも、bitcoin についてはいろいろなところで課税利益が発生するようなので。。。)に単純にお金を払って bitcoin を取得し後日売却してお金を得た、とすると、取得した価格と売却した価格の差額が利益になります。この利益については日本に住む個人であれば雑所得として取り扱われるそうです。この場合、ざっくり言えば給与所得等と合算して累進課税の計算の対象となります。(もし、確定申告を要しない給与所得だけの人の雑所得が年間20万円以下であれば確定申告しなくともよいそうです。ですが、住宅ローン減税のための控除を受けたい、年間2000万円以上の給与所得がある、など確定申告しなければならない場合には、雑所得が20万円未満でも申告対象になるので注意が必要です。)

これがもし(というのも、ごく一般的な日本の居住者では多分にGBCTの取引できる人がいないと思えるので、仮に出来たら、という前提で書きます。ただ、これがこの記事を書いて時間が経って、日本国内で普通に組成・上場されたら、その時の法令等に従ってくださいね。)bitcoin ETFを取引して結果差益が出たならば、株式の譲渡差益と同じ「上場株式等に係る譲渡所得」として申告分離課税の20%の対象になります。

実は同種の議論が既にあって、例えば金の積立投資ならば譲渡所得扱い(なので、差益に対して50万円の控除をした額、ただし、5年を超える保有期間ならばその控除後の額を1/2に圧縮した額、が給与所得等と合算して累進課税の対象になるのです)なのですが、金のETFならば株式扱い、になるのです。

あと、似たところでは、一般に FX と呼ばれる為替証拠金取引での差益がbitcoin と同じく雑所得扱い(というか、為替差損益の取り扱いが雑所得だからbitcoinが類似性から雑所得扱いになった、というべきか)のところ、その上場バージョンである「くりっく365」であればその差益は上場株式等と同じ申告分離課税の20%の対象になります。

課税区分の変換だけじゃない税制面でのメリット – 多分みんなはこっちを見ている

また、ETFにする、ということは上場株式と同じ商品の取り扱いになる、ということですので、日本ならばNISA口座での取得が可能になる、ということでその非課税性を享受することが可能になる、のです。実際、GBCT のウェブサイトを見ると、米国のIRA (individual retirement account: 個人退職口座)での取得が可能という税制面でのメリットを謳っています。そう思うと、bitcoin を直接保有することでの税制面での影響とどちらが有利か、考えますよね。

まぁ、金のETF をNISA口座のメリットの出る期間保有するなら個人に適用される累進課税税率次第ですが、同じ期間だけ金の直接保有する方がメリットがありそうにも思えますが。。。

ということで、NISA の話もどこかでしないといけませんね。。。

それ以外のメリットってあるの?

それ以外、って、言われても税制面が一番投資家にとってその最終損益に影響する要因ですから大事、といえば大事だと個人的には思いますが、それ以外に経済合理性の観点であるのか、というと正直ストラクチャーを見る限りはメリットはないと思っています。

というのは、ファンドというワンステップを入れる、ということは、そのファンドを維持・管理するためのコストが当然に発生します。ということは、その費用をだれかが負担する(ということはそれらのサービス提供者はこれに絡むことの経済合理性のある理由はそこからのフィー収入が発生するから、ですね。)かといえば、当然ファンドの投資家が、ファンドの資産の一部から、となるのです。ということは直接保有することに比較してその費用分だけ収益が減少するのは誰が見ても明らかです。ということは直接保有に対して費用分を差し引いても税制面でのメリットがあるからやる、メリットがなければやらない、というのが合理的行動に基づく投資の選択、ですよね(心理学だか経済学だか学んだことがないのでこの言葉遣いが正しいのか知りませんが。。。)。

と言いつつも、これが個人ではなく行動規範に制限のある法人になるとちょっと話が変わってきます。前回のETFに関する記事でちらっと触れた、世界中のどこかで上場していないと投資できないという機関投資家の投資対象の縛り、ありましたよね。それに、BBB格付けのない債券は投資不適格、ということで機関投資家は投資しない(といいつつ、バンクローンとかCとか平気でありますけどなにか?)、というようなリスク管理などの事情で彼らは投資行為がいろいろと狭められているのです。

としたら、そういう人に向けて商品化するためには器とか形式上の整えが必要だ、ということになってくるのです。

ファンドじゃないと買えない!

例えば、日本で言えば信託銀行の信託口座からしか投資の出来ない年金投資家であれば、その受託者の受託者責任によって求められ、また銀行として果たさねばならない(ということは商業的な範疇で言うならば最大限にエラーフリー – 間違いを起こさない – であることを求める)「善良な管理者の注意義務」を全うしながらbitcoin の取引用の口座を開設、維持管理することが出来るか、と言えば、まぁ無理でしょう。金融庁検査に入られて検査官が理解できるような説明がつかないでしょうね(べーっ、だ)。となると、実際に受託者が現物資産を保有するのではなく、金融商品化された上場株式と同等のETFならば、上場基準等々を満たしている訳だから大丈夫だろう、という説明で切り抜けられる、と判断して受け入れることになるのではないかな、と理解しています。

例えば銀行。銀行も実物資産を保有するファンドへの投資が出来ないという規制があるようで、例えば卑金属を保有する可能性のあるファンドへの投資出来ない、という話を聞いたことがある(でも、不動産を保有したりREITに投資したりするから、いわゆる商品取引系の資産がダメなのかもしれませんね。そこまで調べませんけど。)ので、もしかしたらbitcoin ETFにしたところでだめ、と言われるかもしれません。とはいえ、銀行も担当部署の都合で、外国債券の形での仕組債はダメだけどそんな仕組債を単一資産として保有するファンドならば投資できる、という大人な事情を抱えることもあるので、 ファンドにする、という経済的合理性を超える理由というのはこうやって出来る事だってあるのです。そもそも、考えてみれば、(J-)REITなんかも不動産の直接保有を金融商品に変換している商品ですが、銀行が大家さんな事業をやることはなくとも、J-REITでも私募REITでもいいから投資するあたりは、そういう事例としてみるには分かりやすかったかもしれませんね。

ちょっと余談:ひと手間掛けることで化ける金融商品たち

さて、ちょっと余談でも(ちょっと、と言いながら長くなりそうですね)。
さて、今までファンドで投資対象の性質を変える、という話をしていますが、こんな金融商品の性質を変えることが出来る機能を持っているのはファンドだけではないのです。

例えば、アメリカ株をやったことのある人なら聞いたことがあると思うのが ADR(American Depository Receipt)。これは、アメリカ国外の企業がアメリカの証券取引所に上場する(ということは米ドル建てで資金調達する)にあたって、本国で(第三者割当で)発行した株式を米国内のDepository に預け、それによって発行された預託証書 (Depository Receipt)を上場させたもの、です。これによって実は本国の法律に基づいて発行された株式が米国内で米国法に基づく証券ということで間接的に流通させることが出来る、という仕組みなのですが、これを応用して、例えば日本で上場・流通させたい時には日本国内の信託を使ってJDR(Japan Depository Receipt)化して上場させる上場信託というスキームがあり、同じことを欧州でやると GDR (Global Depository Receipt)と呼ばれます。

で、なぜ、この話をしたか、というと、イスラム金融に基づいて作られた金融商品をGDR化して非イスラムな投資家に対してアクセスを与えている、という面白いことをして(大儲けして)いる知人がヨーロッパにいて、上記のファンドによるコンバージョン同様に商品性のコンバージョンというのが金融の世界ではあちこちで行われている、という話をしたくなった、だけなのですが。。。

ファンドが変換するのは税務上の性質だけではなく課税のタイミングも変える

さてと。資産の直接投資とファンド経由の投資を税務上の取り扱いの観点で比較したならば、もう一つ税務上での性質の変換を行っている点があります。あまりに当然すぎて気にならないことでもあるものの、極めて重要なことなのでここでご紹介したいと思います。

それは、ファンドを経由して投資すると課税されるタイミングをファンドの持ち分の売却の時点まで遅らせることが出来る、ということです。

例えば、こういう例をみると分かりやすいかもしれません。直接保有する場合とファンドのポートフォリオとして保有する場合と下記の全く同じポートフォリオの入れ替えを行うとします。なお、話を単純化するためにポートフォリオには銘柄Xしか持たないで入れ替えと言いつつも持ち分を増減させるだけ、取引コストや維持コストも0とします。

  1. 2017年5月:ポートフォリオに 銘柄Xを単価100円で10,000単位取得
  2. 2017年11月:ポートフォリオの銘柄Xの、3,000単位を単価110円で売却
  3. 2018年6月:ポートフォリオの銘柄Xの、3,000単位を単価90円で売却
  4. 2019年3月:ポートフォリオの銘柄Xの、4,000単位を単価120円で売却

さて、上記を直接保有した形で取引した場合、2017年末は30,000円(=3,000 単位 x (110 – 100) 円)の売却益、2018年は30,000円(=3,000 単位 x (90 – 100) 円)の売却損が、2019年は単年で見ると80,000円(=4,000 単位 x (120 – 100) 円)の売却益が出ましたが(日本の税務ルールを適用するならば)前年の売却損があるので繰り越し欠損を充当することで50,000円 (=80,000円 – 30,000円)の課税利益が出たことになります。

もしこれをファンドで行ったとして、2017年4月末にこのファンドに100万円(100円 x 10,000単位)投資したとしたら、その持ち分を2019年3月末まで途中で手放さずに持ち続ける限りはこの3回の売却損益を課税申告することはなく、また、これらに関係なくファンドの持ち分を取得した価格と売却した価格との差額である 80,000円 (= 1,080,000 = (330,000 + 270,000 + 480,000)  – 1,000,000) が2019年の課税利益、となるのです。

こうしてみると、結果だけ見ると同額の課税利益が発生するものの直接保有すると利益を出した年に細かく税務処理をすることになるところ、ファンドであれば持ち分を売却する時点まで2017年の売却益を課税されずに繰り延べることが出来るということが分かるかと思います。 このメリットは、この例でいうならば、2017年の売却益に対して20%の課税がされる、ということは、6,000円が手元から無くなっている訳ですから2018年の頭に再投資をするための資金が330,000円ではなく 324,000円だったことになり(この例では再投資をしていないので実感できませんが)投資効率がファンドに比べると直接保有だと(キャピタルゲインタックス分だけ)落ちる、ということなのです。

よく節税の教科書あたりだと、これを例えば大きめの経費等が発生する年に含み益のある投資商品を売却して実現利益にして大きめの経費にぶつけることで課税利益を圧縮する、なんて簡単に書きますが、問題は手元にそんなに都合よく含み益のある投資商品をもっているのか(全部負けてたらどーすんだよっ!)と思うのですが、利益の繰り延べが出来るというのは、含み益の実現化のタイミングを自分の都合で出来る、というメリットがある、と解されるのです。

まぁ、そのためにはファンドでキャピタルゲイン課税がなされないこと、なのですが、日本なら投資信託のようなものならば課税しないことになっているので実現しやすいのですが、日本の会社では法人税がかかるので使えない、ですね。

そこで、キャピタルゲイン課税のない国に会社を作ってそこで投資行為全般を集約してしまえば、日本で利益を実現したいタイミングまで海外で運用を行っていけば税務のタイミングをコントロール出来ますよ、というのが、実は以前書いた記事のひとつである、個人で海外に法人と銀行口座を持つメリット、という以前の記事の総まとめにもなるわけなのですが。。。。

と、気付けばだいぶ話がbitcoin ETFから離れてしまったので一気に引き戻しましょう。

bitcoin ETFだけに限らない 「ETF する」ことのご利益(その2)

ETFにすることで、投資家の側に立ってみると

  • 投資単位が小口化される – 前回のETFの記事で見た通り、日経225ならば現物株で5.3億円程度で構築できるポートフォリオに10,000円前後で参加できる。
  • 流動性が証券取引所が動いている時間ならばいつでも、しかも価格は瞬時に – 通常のファンドならば最短でも一日一回、しかも価格の確定は申し込んだ翌日以降にならないとわからない。

といったメリットを提供されていると考えられます。なお、前回の記事から再三申し上げますが、ここではファンドの運用報酬が安い、というのはETFでは取引所での価格確定のメカニズムが入ることで投資家の投資のリターンに事実上影響がない、という立場を取っています。というのも、これから説明することがETFの価格構成要素としては大きな影響を与えるものであって、それゆえ本源的なファンドとしてのETFの資産価値を構成する運用報酬などが価格の構成要素としての影響力が事実上ない、と考えているからです。

ETFにすることでETFの発行・流通に関連する関係者の大きなメリット – 流通量のコントロールを通じた価格形成が可能になるということ

これは何を言いたいのか、というと、ETFではないファンドが投資戦略を実行するために「資金募集」を行う際には、そのファンドの持分を時価相当額で発行してその代わりとして資金を受け入れます。ということは、この通常のファンドの持分の発行というのはファンドの投資戦略への需要と一致した量だけ、しかも小口化してより多くの投資家が保有できる形で、発行されていると考えることができます。

当然、ファンドを作るときにある程度当初の投資見込みを勘案してファンドというのは設定するかどうかを検討されますが、とはいえ、一般的な株のIPOや債券の売り出し、果てはaltcoinの ICO (Initial Coin Offering) のように、ある程度需要を見込んだ上での一定量の持分の発行に対してそこから最終的な需要と供給のバランスで価格が決まる、というような持分の取引価格の決め方をすることはありません。また、これらの持分は一度発行されたならばその発行量は柔軟に調整される、ということも(下記に述べることを除けば)ありません。bitcoin や altcoin に至っては金貨同様にマイニングによって僅かずつとはいえ増えはしますが減ることはまずありませんね。

とすると、株や債券、bitcoinやaltcoin の価格というのは一度発行されると、その後の流通市場において、本源的には原資産の評価額というよりは純粋にかかる持分に対する需要と供給のバランスによってその評価額(いわゆる売買価格)が決まるのです。その時にその需要や供給の判断材料として使われるものが、株や債券ならばその会社の業績や債務に対する返済能力、今後の事業の見通しといったファンドで置き換えるならばその会社の事業「戦略」や財務状況のようなミクロ、また、その会社を取り巻く市場環境などのマクロの両方なのですし、bitcoinや altcoinであればその参加者の増加による流動性の多寡や利用できる利便性、そしてこれらのcoinの仕組みの堅牢性(もしくはその脆弱性が判明すること)、などでしょうか。

では、ETFはどうなのか、といえば株や債券と一緒で、それこそ日経225ならばおよそ5.3億の単位で持分が投資信託から市場参加者に交付されて市場の売買の供せられるわけですが、では、市場での日経225への需要がこの5.3億の整数の倍数だけあるのか、といえば。。。当然一致することはないですよね。確かに日本銀行が日本で売買されているETFの75%程度をこの記事を書いているときには保有しているとブルームバーグが試算してますが、であったとしても、残る25%の需要に合致しているとは言い切れないでしょう。

だからこそ、前回の記事でも書いたように、同じ日経225のETFが世の中に7種類も存在していても、それぞれの発行体等への需要が均一してあるはずもなく、流通量の多いETFになればなるほど市場参加者の価格へのコンセンサスが原資産の動きに近いものに構築されやすく(されやすいだけで一致する保証はどこにもなく)、逆に流通量が少ないと少ない意見での価格構成ですから原資産よりもその時に売りたい・買いたいという需要と供給の原理に大きく依存される、のです。

とすると、実は発行数の少ない証券というのはその希少性から取得したい人の需要を満たしづらいことから価格が上昇しやすい、と一般には考えられています。また、流通量が(需要以上に)増えすぎてしまうと、需要と供給のバランスが崩れて需要が減って供給過多になることで自然と価格が下落し易くなります。

後者の面白い例として、閉じた世界としてのオンラインRPGゲームのなかで、プレイヤーが無限に貨幣を取得できるメカニズムになっていると時間が経つにつれて全てのプレイヤーが金持ちになるので貨幣価値が下がって一気にインフレになった、という事例があります。要はファンドの持分ですら必要以上に増えてしまうと価値が下がりえる、ということなのです。

そのファンドの実例の一つとしてあげるならば、前回紹介したベトナムの上場ファンドですが、ベトナムの株式市場全体が大きく値を下げたことを受けて、上場ファンドの取引価格が急落し、原資産となるファンドの純資産額よりも大きく下回ることになったのです。それを受けてファンドの運用会社が投資家の利益というべき取引価格と純資産価格との乖離を減らすために取ったアクションというのが

  • 分配金を多く出すことで投資家の需要を掘り起こす
  • ファンドが持分を自分で買い戻すことで流通量を減らして需要と供給のバランスを調整する
だったのです(実際に、ヨーロッパを中心に投資家へのロードショーを行うことで投資家を増やす、という努力もしていましたが)。

とすると、株も債券も一応は発行数を減らす方法が(株なら自己取得、債券ならば部分償還)ありますが、あまり機動的に行うことが出来ません。でも、ETFであればマーケットメイカーである市場参加者の裁定取引の一環でその流通量(ひいては価格の調整)をコントロールすることも可能なのです。

ということで、一旦キリをつける、ということで

実際、この記事を書くのに2ヶ月近くあれこれ時間をかけてしまいました。その間Bitcoin の世界もあれこれ変わったようですが、他方で Bitcoin ETFについてはBitcoin の先物がないからまだダメよ、という US-SECの見解が出て来たので、何か進展があるのかもしれません。

という中で、ファンドに形を変換する、ETFとして流通性を強化する、小口化する、という投資家にとってメリットと思われるものは色々あるので止めはしませんが、まぁ、通常は、とある資産を裏付けに新しい証券を作り出すことで取得価格と販売価格の差額で儲けて、追加発行する際も自分が発行する元手以上の価格の時に行いますし、買い戻しをするのは本来の価値より市場価格が低く評価されているときに買い戻す(これ、大手系列の子会社がIPOして長い時間を経てまたグループの完全子会社になるべく上場廃止する、のとあまり変わらないですよね。。。)、ということが出来るのは全ての価格を知り、調整できるからですから

ギャンブルにおいては胴元が必ず勝つ

という原則は覚えておくべきですし、投資家を儲けさせるために取引コストの負担をするなどの胴元が自腹を切ることなど利益供与になるので今時は出来ないししたくもないことだからあり得ない、と心得ておくべきでしょう。

[投資のコストと効果] ETFの場合

この「投資のコストと効果」のシリーズ、今回取り扱うのはETFなのですが、多分、多くの人がなぜ敢えてこの(長ったらしい分析が延々続く)シリーズで、世の中で一番費用が安くて効率的な投資が出来る、と考えられている ETF- Exchange-Traded Funds を取り扱うのだろう、と思ったかもしれません。

なんとなく、グローバル投資を デスクトップでお手軽に、って感じ?海外に口座を作って投資する際のメリット、デメリットの時にも触れたこの投資商品、個人的にはいろいろな思い入れがあるのですよ。個人やFPの目線で言えば投資対象としてはこれほどよく出来た(つまらない)投資商品は他にはないですし、ファンドを組成する側からすればやっていることがシステマティックであるがためにコスト的な競争力の高さは脅威でしかない、のです。それくらい実は、(世界の富裕層がやっているけどあなたにもすぐにできる、と自尊心と虚栄心を煽りやすい)投資のインセンティブに対する訴求力のあるパワフルな商品なのですが、前述の煽りマーケティングを含めてどうも使われ方があまりよろしくないように思えて仕方なかったりしますし、売る側とかETF業界も売るための理由をあれこれ無理に作り出して売ろうとしているむきがあって、それも気になって仕方がないのです。

ですので、今回はいつも通りにコスト的な検証も含めて色々と角度を変えながら思いっきり(と言うことはいつも以上にダラダラと長ったらしく)やりますが、それ以上に投資の際の効果という点であれこれ掘り下げてみたいと思います。

あ、このブログにしては枕が真面目だ(笑)連載がなくなったプレッシャーからの解放?(笑)

ETF – そもそも定義はなあに?

さて、ETF。その名の通り、Exchange Traded Fund – 日本語だと上場ファンド、ですが、広義での上場ファンド、と、多分に読者のみなさんが想像する今そこにあるETFと異なる世界があるのをまずご紹介したいと思います(ほら、これだけで2000字くらいになるネタでしょ?)

ほら天邪鬼だから広義から見ちゃうわけで

広義の上場ファンド、というと、まさに上場しているファンド、でして、例えば著者が10年のおつきあいになってきた、某ベトナムのファンドマネジャーと某投資銀行さんとちょうど10年前に、著者が2週間でケイマン諸島籍のユニット・トラストを作って日本に持ち込んだ時の投資対象だったファンド、というのが、当時ベトナムに投資したいというとこの方法でしか投資できなかった、クローズエンド(言い換えると、追加投資不可、決められた日のみ解約可能)のファンドをロンドン証券取引所のAIM市場というプロ向けの取引所に上場させたもの、だったのです。ね?これも上場ファンドでしょ?でも、これのおかげでファンドに投資したい人は市場で売りに出ているファンドを買えばいいし、もし現金化したいと思ったら10年以上先の償還日まで待たずとも市場で売却すればよかったのです。それもあってか、ベトナムでのこの運用者の年次投資家向けカンファレンスにはヨーロッパのファミリーオフィスの(ということはいわゆる超金持ちだけどカジュアルな格好をした)人たちをちらほら見たのです。

ちなみに、この時そのファンドマネジャーが上場させた3つのファンドのうち、一つはロンドン証券取引所のメインボードに「格上げ」され、一つはそのままAIM市場にとどまり、著者が絡んでいたファンドは、というと、二つに分離してその一つは今ではルクセンブルク籍のUCITSになってしまった、というのですから10年という時間ってのは。。。いやいや、今はそんな話をする場合じゃなかった。。。

それ以外にも、ロンドン証券取引所のメインボードにはごく普通にプライベートエクイティファンドが上場しています(例えば、クウェートの Global Investment House の運営する GMFA – Global MENA Financial Asset)し、日本で一時期高分配だからともてはやされた MLP – Master Limited Partnership も、主にエネルギー関連のインフラ投資をするリミテッド・パートナーシップの持分を米国内の証券取引所に上場させたもの、ですから、世の中にはそれなりにありそうだ、ということがわかっていただけたのではないかな、と。

もう一つの広義の上場ファンドというと、ファンドを普通に組成するのですが、投資家サイドで投資のための条件として上場していること、というものが(特に機関投資家「様」に)あると、今ほどETFが流行らなかった2000年より前から、上場しているという「箔をつける」ために、チャネル諸島証券取引所(今では The International Stock Exchange と名乗ってますね。。。知らんかった。。。)やアイルランド証券取引所、といった、マイナーでファンドの上場を必要とする人たちのために機能している証券取引所に上場登録をする、のです。

実際に、上場されているファンドを見るとヘッジファンドやプライベートエクイティ、といったオルタナ、ということは流動性の低いファンドすら上場されているのです。でも、こういった上場登録されたファンドは、そこでの相対取引をする、というよりは定期的なNAVや監査済み財務諸表の開示を取引所のルールに基づいて行う、という方に主眼が置かれているのも見えてきます。実際にアイルランド証券取引所に listing されているファンドを見ると、ETFではおなじみのこの瞬間の株価の表示はなく、直近のNAV算出日付の 一口あたりのNAVが開示されているのです。とはいえ、これは Exchange Tradedではなく、Listed Fund という方が正解なのです。

で、もったいぶって引っ張って見た狭義の定義はといえば

では、狭義の ETFというとどうなるかと言いますと、投資信託協会さんのホームページに依拠するならば

証券取引所に上場し、株価指数などに代表される指標への連動を目指す投資信託

となります。ここでポイントなのが、投資信託の中でも「証券取引所に上場する」ことだけでなく、株価指数などに代表される「指標への連動を目指す」ものである、のです。となると、前述の広義の上場ファンドの中でも、名目上の上場だけでなく市場での取引も求められるのでいわゆる  listing だけでは足りず、かつ仮にLSE/AIM での取引がある、としてもベトナムの上場株を自分の裁量で売買するようなファンドではなく、株式指数のような、ある一定の銘柄の選別方法と保有割合を定めたルールに基づき、その結果となる指標の動きと連動することを「目指す」ファンド、である必要がある、のです。となると、そりゃ、いわゆるアクティブ・ファンドというものがETFに入れないよう思えてきますよね。

でも、このある一定の銘柄と保有割合を定めたルールというのがちょっと曲者っぽいのです。

ETFが目指すもの - 投資対象はどこまで広がる?

というのも、一般的な指数、といえば、ヘッジファンドの話で出た、ベータ = 市場の動き。とはいえ、その市場というのが日本の株式市場をパッと見ただけでも日経225と TOPIXと  JPX日経 400と三つあります(って、JPX日経400がベータか、というのは異論はたくさんあるでしょうけど、そこがこの話のポイントなので、グッと飲み込んでくださいな)。当然、それぞれに対して ETFが出来上がります。また、日経225でも、TOPIXでもセクターごとのセクター指数が存在し、また、インバースといって指数の動きに正反対の動きをする、正確にいえば、日次騰落率に-1を掛けたもの、ということはその指数をショートした時の値動きに一致する指数も作られたり、日次騰落率を2倍にするレバレッジ指数、外貨建て投資の人たちに向けた外貨ヘッジ指数、などなど、たった一つのロジックですらあれこれ広げることが出来ます。

そのようなベータな株式指数は各国に当然あるし、それらの地域や全世界という括りでのでのバスケットもアロケーションの方法論はGDP比率から単純平均から、理屈がつくならば如何ようにだって出来る。

そして、その理屈をつけてアロケーションを変えることを株価の計算レベルで行なっているのがスマートベータ、と呼ばれる指数。ESG指数なら、なんとなくそれっぽいから納得しがちなものの(あ、それがJPX 日経400でしたね)、ちょうど今眺めているiShares Edge MSCI Minimum Volatility Japan ETFに至っては、株価変動率の小さな日本株だけで構成している、とまでくると、前述のベータとして挙げられている日経225とは採用銘柄数では188と近いものの、組入比率も最大1.6%から最小0.04%ですから、日経225指数の構成比率とは全くもって異なることがわかります。

となると、これすごくいいパフォーマンスの出るトレーディングロジックだから、指数化したらいけるかも?なんて発想すら出てきてもおかしくないですよね。実際、MOAT –VanEck Vectors Morningstar Wide MOAT ETFというファンドはモーニングスターの株式リサーチが見つけてきた「持続可能な競争力をもつ」「魅力的な株価」の40銘柄の等配分ポートフォリオ、ってどう見てもバリュー株投資のアクティブファンドだし、ALFA – AlphaClone Alternative Alpha ETF は公開されているアメリカ株のヘッジファンドマネジャーによる銘柄選択に依拠したファンドということなので、もはやこれを指数連動と呼んでいいのか。。。ほぼ前述のベトナム株ファンドVOFと変わらないように思えてきているのは著者だけだろうか。。。

実際、iSharesには上場プライベートエクイティUCITS ETFなるものがあって、世界中のプライベートエクイティ関連の上場株、運用者から上場プライベートエクイティファンドまでを買いあさっているものすら存在します。しかも、そのアロケーション方法が「最適化法」とあって、一体それがロジカルなのか判断できなくなりました。。。

さて、コスト分析でも

やっと、コスト分析に移りますが、多分楽勝。なぜかって?株を買うのと同じですので

取得時は投資額に株式取引手数料ですから、いつも引き合いに出させていただいている楽天証券さんだと10万円以下の取引で一回90円(に消費税、8%だと7円)、3,000万円を越えると851円(に消費税、8%だと68円)が掛かることになります。

また、保管中は保管手数料、ですが楽天証券さんだと無料。

そして、売却時はまた株式取引手数料が上記と同じだけ掛かることになります。
また、売却益には一年間での上場株の利益の合計に対して 15.315%の所得税と5%の住民税が掛かる、というので、特定口座を使うことで確定申告すらスキップできる場合もあるのでオススメだったりします。

ね?簡単でしょ?

ファンドなのに期中のファンドの管理報酬とか考えなくていいの?

そんな声が聞こえてきそうですよね。もし、ETFが上場していないファンドならば、ファンドの純資産価格の算出に当たって管理報酬等が影響するので考慮しなければならないのは当然ですよね。でも、

ETFは、ファンドの純資産価格そのもので取引、していないですよね?

なぜか?それは、市場での相対取引価格でファンドの持分を取得し、また売却するのですから、もしファンドが人気があれば本来の純資産評価額を上回って(プレミアムが乗って)取引されますし、人気がないならば本来の純資産評価額を下回って(ディスカウントされて)取引されるので、そこにはファンドの純資産価格の算出の影響を受けないから、なのです。

もし例えるならば、指原莉乃さんと渡辺麻友さん(と限定すると角がたつから、その他のAKBグループの選挙に出た彼女たち)の芸能人としての商品価値(思わず現在価値とか描こうとするのが金融系に染まったおっちゃんの悲しい性か。。。)と、前回の(というよりその時々の)AKB総選挙での得票数(ということはその裏側にある投票券付きのCDの売上としての貢献額)との間に当然一致するものはないですし、相関関係が成立するか、というと。。。ないでしょうね。

あ、炎上対応が苦手なので先に申し上げますが、著者はさっしー推しです。あの(自分も他のアイドルも含めた)プロデューサーとしての手腕には感服しているので、その価値は総選挙での得票数では全然ディスカウントでしょ、というのが主張です。(いや、だから、まゆゆの得票数に純潔系アイドル的プレミアムが乗ってる、という意図もないから、お願いだから石とか投げないでっ!)

そこで純情なあなたは思ったかもしれません。ファンドの目論見書に記載されている投資方針としてファンドの騰落率をその指数の値動きと連動するように、と書いてあるのだからそんなプレミアム/ディスカウントなんて起きないのでは、と。

落ち着いて考えて見てください。あなたがこれからETFを買う、とした時に、その価格は誰が決めるのでしょう。ファンドの純資産価格で買えますか?リアルタイムにファンドの資産の評価額は値動きしますけれど、市場が動いているこの瞬間に、あなたは誰からファンドを買うのでしょう。ファンドが追加で、しかもその瞬間の時価で発行はしません(というか出来ません)よね。発行された数が限られたファンド持分を既に持っている人か後述の指定参加者と呼ばれる、ETFの銘柄のマーケットメイカーのどちらか(もしくは、アービトラージ狙いのHFT)、でしょう。とはいうものの、それは取引所という場でマッチングされるのですから、もはや売買の際の需給の関係だけが価格を決めるのです。

余談ですが、どこかの投資銀行さんが無理くり一日2回ファンドのNAVを算出して取引できるようにした、というファンド商品を作って売っている、という噂を聞いたことがあります。これは当然金融機関たる適格機関投資家様専用の商品なのですが、そこまでしてファンドの形態にしながら市場性証券への投資をしたい、というわがままをどうして叶える必要があるのか、しかも低コスト、という経済合理性にとっても合わないことをしてまで、と考えたことがあったなぁ、と思い出したり。これならETF買えば?というのが今の解決法でしょうけど、そうすると上記のような価格構成に伴うトラッキングエラーを避けたい、というこれまた難儀なわがままがあるのでしょう。ほんと、こんな無茶を言う金融機関ってのはどこなんでしょうね。。。

実際、この需給に関連して面白い話があって、とある東証マザーズ・コア指数という指数に連動するETFをとある(というか特定できちゃいますね。。。)運用会社さんが作っています。これがある時期、このETFに対する貸し株のニーズが高まりすぎて逆日歩が発生する状況に陥ったというのです。

ちなみに、この逆日歩というのはどういうものかというと、一般に個人の投資家がいわゆる空売りをする際には取引所が定めた銘柄を使った最長6ヶ月の期間で信用売りをする、という制度信用取引を使うのですが、通常ですと、楽天証券さんだと年率1.1%の品貸料を払って空売りするために株を借りてくることになります。ですが、市場全体でその銘柄を借りたい、というニーズが出て物が足りない、という状態になると、個別の証券会社さん単体だけでなく、複数の証券会社さんの間を資金や貸し株を融通する証券金融会社さんを使っても足りなくなって、長期投資をしているような機関投資家さんから入札して借りることで不足分を補おうとするのです。追加的なコストを払わないと出来ない、というこのような時のコストを逆日歩と呼んでいます。

で、この話のポイントなのが、なぜ、ある時期にこのETFが貸し株の対象、というかいわば売りの対象になったのか、という点です。今一応確認したらその状況が解消されているようなので書いちゃいますが、当時ミクシィの売りをしたいと考えた時に制度信用取引で売りが出来なかったらしいのですが、このETFは制度信用取引での売りが出来た、ということで、

じゃあ、どうせマザーズ・コアって15銘柄しかないし、ETFを売って他の14銘柄を買ってミクシィ売りしたらいんじゃね?

というのがネットで広まってミクシィ売りをしたかった人がこぞってやった、というらしいのです。あ、今はこれをやる必要はないですからねっ。

ちなみに、これってむかーし昔、中国株をショートしたい人が現物のショートがなかなかできないことから、指数をショートして、ショートしたくない銘柄を買ってヘッジする手口と全く同じなんですよね。

また、需給の違いが価格構成の違いを生んでいる実例としてあげるならば、日本で取り扱われているETFの一覧を日本取引所グループさんがまとめてくれているのを見るとわかるように、日経225のETFは7本あります。本当にETFの意図する通りに日経平均の日次変動率に一致するように動くか、というと、こちらのページにある通り、このデータをまとめた日付(2017年8月4日)に限っていうならば時価評価額と日次取引高のトップ2本だけが当日の日経平均の日次変動率である -0.39%に一致し、続く時価評価額と日次取引高で3位から5位までの3本が -0.34%、そして下位2本は 0.00%、すなわち変動がなかった、のです。とすると、時価総額が大きいと取引高も増えて、対象となる資産との間での価格変動という意味での相関性が高くなり時価総額が小さいと取引高も小さくなり、価格との相関性が低くなる、ということが予想できます。そして、ETFの方が日経よりパフォーマンスが費用分だけ当然に低くなるはず、なのですが、実際のところはETFのファンドとしての費用の要素との間に相関がなさそうです。

最後にトドメを刺すならば、同じく上場している企業の株式、これって、会社の企業価値とも言える純資産総額と会社の株式にその時の一株あたりの売買価格をかけた、いわゆる時価総額との間では、通常純資産総額が小さくて時価総額が大きい、のです。というのも、株を買う時ってその会社の将来性をみて買うのであって、その会社の財務諸表の費用の部分が高い安いでは取引価格を云々することはほぼないでしょう。また、もし純資産総額が時価総額より高い場合、それは株を買い込んで会社を解散させた方がお得、という意味ですので、通常は起こり得ない、とされている状態(PBRが1未満、ってやつですね。実際には結構ありますが。。。)なのです。

で、まぁ、余談で思いっきり横道に入ったように見えますよね。でも実はこれらが、ETFの需給の根本的な問題を提示していますし、前述のファンドとしての管理報酬等が実際に私たちのような普通の投資家ならば看破でき、また、看破できない唯一の市場参加者がいるけれども実はその唯一の市場参加者すらきにする必要はなく、そして、実はその先の驚くだろうあまり知られていない事実、すなわち、ファンドの本来の運用とファンドの取得/売却との関連性のなさやETFで行われているオペレーションの裏側、へと続くいい入り口の話なのです。

それを考えるために、そもそもETFとはどのように作られているのか、理解しておく必要があります。

ETFの仕組みとは

絵を描くのが面倒なので、チャートは投信協会さんのETFの解説の真ん中にあるものを見ていただければと思うのですが、投信会社さんと信託銀行さんとでETFを設定するのですが、当初は空っぽです。そこに、このETFを始めるに当たって事前に商品を設定・維持することに同意した指定参加者、と呼ばれる証券会社さんがETFの裏付け資産となる証券ポートフォリオを投信会社さんを通じて信託銀行に預け、その同額のETFの持分となる受益権を指定参加者に交付することで、初めてETFが指定参加者から売り出されるのです。

ということは、この指定参加者が当初証券ポートフォリオと交換で手に入れたETFの持分だけ世の中に出回る、ということです。

では問題なのは、もしそのETFの人気が出て、もっと欲しいと取り合いになった場合流通量を増やすことで追加で発行できるのでしょうか?もちろん可能です。指定参加者が増やしたい分だけ証券ポートフォリオをETFに交付してその受益権を手に入れれば良いのです。そして、先ほどの東証マザーズ・コア20ETFのように、(売り目的とはいえ)需要に見合っただけの証券が発行されていないと、ETFの取り合いになり、逆日歩のような品不足に起因する問題が発生するのです。

逆に、ETFの裏付けとなる資産を抱えている信託銀行と投信会社は、といえば、極端な話、日経225ETFであれば、アロケーション比率はそうそう変わることもないですので、追加発行しない限りは特段何もしないでよく、時折発生する銘柄入れ替えに対応していくことでいいのです(株式分割/併合と思ったのですが、持っている限りは勝手に発生するだけなので影響がない、はずです。多分。)

これがTOPIXのように時価総額加重平均ということであるとリバランスが必要になるのでシステマティックにできるものの、個人ではやりたくないですよね。

ただ、ここでもう一言付け加えるならば、もし文字通り、ファンドとしてのETFの受益証券を発行させるための作業が株式などの有価証券の譲渡でのみで行われるならば、このファンド、運用会社や受託者に対する報酬を払う現金を持ち合わせておらず、保有する有価証券からの分配金や利金だけが報酬を払うための現金を得るための手段、にしかならない、のです。この問題を解決しつつ、ファンドの裏側で何が起きているのかを解説するのはちょっとだけ後に回したいと思います。

もし日経225を自分のポートフォリオとして作るなら

ここで、ちょっとETFとのコストの比較ということで実際に自分で日経225のポートフォリオを作るならば何をどれだけ買わねばならないか、というのを計算して見ました。
単純平均のポートなんだから簡単じゃね?と言われそうですが、TOPIX全銘柄の取引単位の最大公約数にまで小さくするよりは楽なので。。。

実際に計算したのは2017年7月14日、とまだ東芝が東証二部に移動していない、10年後には伝説的と呼ばれるだろうポートフォリオ(笑)でやっています。

このリンク先にその実際の計算のスプレッドシートがあるのでご覧いただければと思いますが(とはいえ、自分の思考パターンを丸裸にしているのがいやーん、って感じですが。。。)実際のところ

  1. まず、225銘柄のそれぞれの株価を50円額面に割り戻して株価を計算(H列)
  2. その合計額に株式分割の影響を入れることで。。。日経平均が計算できる(セルH3)。(出来なかったら、計算間違いしているので見直す。)
  3. 続いて、それぞれの株の最低取引サイズの最小公倍数になるロットをそれぞれ見つける(I/J列)。

ポートフォリオの構築時のコストって?

その結果。。。最低の元手として5.3億円くらいないと作れないことになっているようです。
ということは平均266万円を225銘柄買うことになりますので、楽天証券さんだとこの平均値で一銘柄あたり、3000万円までの921円(と消費税の73円)が掛かり、手数料だけでも223,650円掛かることになります。実際は、小型で買えるものもあるので、値段が下がって15万円弱、にはなりました。(ただし、各銘柄一回で取引がつけば、ですが。複数日で取得するとなるとコストはさらにかさみます。)

これに比べると、仮に5.3億の日経平均ETFを買えば、手数料は973円(と消費税の77円)だけ、ですので、ひとまとまりになっているのはお買い得、と思えてきます。

さらに、日経225先物をするならば、1取引単位あたりが指数の1,000倍の想定元本になることから、今なら2,000万円程度。とすると、前述と同じくらいのポジションを作ろうとすると、27枚を買い立てることになるので、取引手数料も300.24円(8%の消費税込みの金額) x  27 = 8,106円。先物という性質上ポジションは最長3ヶ月まで、ではあるものの、1枚あたりの証拠金が60万円、ということで、今回の場合でも1,620万円で足りる、のです。

なお、投資を終了させる時のコストもそれぞれ同等、と考えてもいいでしょう。

では維持コストってどう?

さて、設立コストは見事に200倍近くの差が実額で出てしまいましたが、維持コストはどうでしょう。もし楽天証券さんだと株の現物なら 0円。さすがです。

先物ですと、四半期ごとの限月越えの時に 8,106 x 2 = 16,212円の取引手数料を払って同じポジションを構築し直すことになります。ですので、年間でも 64,848円。

それに対して ETFは、といえば、前述の日本で取り扱われているETFの一覧を日本取引所グループさんがまとめてくれているのでそれを参照するならば、日経225のETFの期中コストは年率で、下はiShares の 0.13%、上は日興アセットさんの0.225%(と思ったら三菱さんがあれこれ合わせて0.40%だった。。。)。話の都合上、年平均の残高が5.2億円のポートフォリオに対しては、下は676,000円、上は1,170,000円。

おっと、いきなりここでコスト競争の順位が入れ替わりました。さすがに5億もあると0.13%ですら年間100万円の維持コストの世界に近づいてしまうのですね。(まぁ、ファンドを企画運営する側からすれば、それだけでも出てもらわないと人件費が出ないよ、と思いますが。。。)

で、念のため詳細を見るべきだろうと思い、iShares の簡単な方の目論見書を見てみたのですが、費用については、0.13%に消費税が上乗せされるので実質 0.1404%になるのですが、それ以上にあまりマネー系雑誌とかが取り上げない不都合な真実が一つ。

上場に係る費用、対象指数の商標の使用料について、 ファンドの純資産総額の0.0432%(税抜0.04 %)を上限として、毎計算期末または信託終了のとき、 ファンドから支払うことができます。 ファンドの諸経費、売買委託手数料等について、その 都度もしくは毎計算期末または信託終了のとき、ファ ンドから支払われます。

まぁ、ファンドですからこういうコストは発生しますよ。確かに。でも。。。

また、株式の貸付を行った場合はその都度、信託財産 の収益となる品貸料の2分の1相当額以内が報酬とし てファンドから運用の委託先等に支払われます。

って、これ。ちょっと待って。ETFが貸し株をやった時にはその収益の半分を運用者が取るってこと?もう一ついうならば、貸し株やったらポートフォリオ的にはその分だけキャッシュ比率が上がるからポートフォリオ的には指数への連動率がわずかにとはいえ下がるじゃない。

まぁ、後者については運営費用を捻出する、という観点ではある意味正しいとはいえます。というのも、考えてみたら前述の問題提起の通り、設定時に株のポートフォリオだけを渡されて運用を開始するのですから、関係各社に対して支払うべきキャッシュがどこにも存在しないのです。そうなると、運営上はどこかでポートフォリオの一部を売って現金化する必要があるのです。それを避ける、という意味では貸し株をやって現金収入を得るのはいいでしょう。問題は前者の取り分の問題です。

自分の資産を使っているわけでなく、投資家からの買い戻し依頼に備えて株を保有しなければいけないことがほぼない商品ですから事実上全て貸し株に出したっていいくらいでしょう。しかし、そこから得られる報酬の半分を最大で運用会社が受け取れるって。。。

ちなみに、明確に上限として半分とるぞ、と宣言しているのはiShares だけでなく大和、日興、AM One、三井住友、もでした。野村と三菱は宣言してませんのでどうなのか不明ですが、とはいえ、ここでも横並び。。。

さて、その品貸し料ですが楽天証券さんで 1.1%払うのですから卸には0.8%程度を踏んでみても、手元に残るのは 0.4%。運営費用の分程度は現金化できそうですね。言い換えれば費用支払いのためだけに株式ポートフォリオの一部を売却して現金化する必要がない、ということですね。

他方、もし自分でポートフォリオを構築したら、それを全部貸し株に回せばそれだけ品貸し料を得られますから丸々儲かりそうですね。(もちろん、先物では貸し株はできません。)

間接費用とはいえコスト比較をまとめるならば

そう考えると、もし5.3億ほど日経225に連動する資産に投資するならば、ETFよりも現物で持った方が入口と出口のコストが掛かるように見えますが、期間中はコストフリーで運用できるし、ETFで発生しえる対象資産との連動率の不一致という市場リスクがない分だけ、より純粋な指数投資が出来るといえます(ただし、終値で全ポジションが売却できれば、という流動性リスクの問題は当然残りますけどね)。

さらに言えば、先物ならばより投資元本の持ち出しも小さく、費用も抑えてできますから、実際、デイトレーダーたちが取引量とレバレッジを求めて先物に主戦場を移している、と言われてもこれを見ると納得してしまいます。

もちろん、普通に5.3億程度(!)の投資を個人でするはずはなく、だからこその、ETFの特徴の一つである指数の小口化、と考えるならば小口化する分だけのコスト負担をファンドの裏側で間接的にしているけど、そもそもETFで発生しえる対象資産との連動率の不一致という市場リスクがあるからこそ、前述に話が戻るものの、ファンドとしての費用負担自体を無視できえる、とも言えるのです。

そう考えるとETFの提供会社って運用に責任は負わないし(指数設定だけですからね)、ファンドから徴収できる費用は投資家サイドの運用結果に影響しないからプレッシャーはないし、である意味お得、なのかもしれません。あーあ、そういうビジネスを立ち上げればよかった。。。

唯一、ファンドとしてのETFの管理報酬を気にするべき関係者:指定参加者

ここでもう一つの事実に目を向ける必要があります。

ETFの持分の発行メカニズムを考えると、もし万が一発行持分数が多すぎるということならば、マーケットメイカーである指定参加者が、自分の保有するETFを発行体である信託に返して、その裏付けである有価証券、例えば日経225ならばその株式バスケットを受け取ることで、ETFの世の中に出回っている発行数を調整することが可能になるのです。

ということは、ETFの持分を唯一ファンドというかETFである投資信託に償還請求できるのが指定参加者なのです。ということは、この人たちは通常のファンドの投資家と同じ経済性を負っていることになります。言い換えると、ETFの保有する資産の時価評価額を引き出すことになりますし、この指定参加者には、ETFの持分の評価として、取引市場での時価とETFの純資産額の二つを参照できる立場にある、ということでもあるのです。

とすると、実はマーケットメイカーをする指定参加者が指数とETFの実勢価格との間の裁定取引を行う機会を持っていることがわかります。どう言うことか、といえば

  1. もしETFが参照指数より安値で取引されている(ディスカウントの)時、マーケットメイクということでそのETFを買い漁っては発行体に償還依頼をすれば時価を構成している証券バスケットを手に入れて売却すれば利益が出る。
  2. もしETFが参照資産より高値で取引されている(プレミアムの)時、証券バスケットを時価で買い集めてETFに譲渡することでETFの持分を手に入れ、それをETFの時価で売ればプレミアム分だけ儲かる。

のです。まぁ、マーケットメイカーをするということは価格のリスクを吸収して流動性を供給する仕事である以上、価格リスクのヘッジが出来なければ困りますので、その意味での出口としてETFの持分の増加/償還ができるようになっている、と言われれば、ああそうか、と納得しそうですよね。

となると、リスク管理上、ETFの純資産額が出来るだけ保有資産である参照指数を構成する証券ポートフォリオに近づいてほしいですし、そのためにはファンドの管理報酬が出来るだけ低いことが好ましいのです。

ですが、思い出してください。

ETFはその費用を捻出するために貸し株をして、その貸し株料の半分を運用者が持っていくものの残りがファンドにあるのでそれを管理報酬として充当している、ということを。とすると、少なくとも前述のケーススタディである日経225ETFについては貸し株で得られる(運用会社への報酬支払い後の)現金で管理報酬を賄うため、純資産額は株式ポートフォリオの評価額を下回ることがないのです(貸し株料が下がったら話は変わりますが。。。)。

としたら、指定参加者は管理報酬の影響を気にせず安心してETFの持分が手元に増えたら株式を引っ張り出す選択肢を取ることが出来るのです。

ETFの流動性問題 – マーケットメイカーが頑張ればいいだけなの?

さて、ETFの世界では、どうも参加者がリテール投資家を含めてだいぶ増えたそうで、投資家が増えるとどうしても投資したいときに出来ないのはおかしい、的な論調が出てきて(これもおかしな話ですよね。アセットオーナーだから、自らが投資したいときに投資できて、投資を終了したいときに適正な価格と言われるもので出られなければいけない、という主張な訳ですが、市場参加者はみんな等しく価格リスクや今回問題になる流動性リスクなどを加味した上で自己の裁量にて投資することで利益追及をすることが基本にあるわけですから、例えばリーマンショックの時のように上場株式ですら取引が成立しないから流動性が枯渇した、という状況にあってですら、契約書にあるから(実際、契約書にはそういう突発的事態等の場合に備えてNAVの算出停止や投資持分の売買停止などの流動性の停止で投資家間の公平性を担保するのが通常ですので、契約書に既にあるのですが。。)通常通りに資金化できないのはおかしい、と無茶をいうことはできない、はずなのです。)、まぁ、とても日本的になんとかします、という話が、とあるETFの関係者が一同に会したフォーラムで議論されたそうだとか。

流動性ねぇ。。。前述の逆日歩の話、あれも流動性の枯渇に近い状態の結果、なのですが、その理由はそもそもの発行数が少なかったから、でした。ということで、では発行数を増やすべくマーケットメイカーである指定参加者が証券バスケットを闇雲にETFの受託者に突っ込んで持分を発行させたとしても、実際に指定参加者に割り当てられたETFの持分を買う人がいないとずっと指定参加者が市場リスクを孕んだまま保有し続けることになります。ですので、ETFの市場に出回る量は通常の(言い換えると突発的な需要の増加などは考慮しない)需要と供給に見合う程度になるのです。

例えば、日経225のETFの場合、ETFの市場時価総額は7本で10.8兆円ですが、日経225の採用銘柄合計の市場時価総額は352.9兆円(2017/8/15現在)ですので、いくらETFの人気が出てきたからといっても、まだ市場の3%程度でしかない、のです。(更にいえば、もし日銀のETF購入オペの対象に日経225 ETFが入っているので、実際に市場で流動しているETFはそれ以下、ということです。)そして、特に市場時価総額の下の方は価格変動について原資産の変動との乖離が大きい、のは同じ日経225連動ETFとはいえ、売買の成立数が比較的少ないから、なのです。こればかりはマーケットメイカーでなんとかなる話ではないのは直感的に理解できるところでしょう。言い換えれば、マーケットメイカーが、売ったり買ったりする相手がそもそもいないから成立しない、のですから、もはやマーケットメイカーの努力の外、なのです。

とすると、上場株でも大型株ならば流動性が高いのでデイトレに向いているけど、中小型株だと市場での取引数が少ないこともあり、長期保有でのキャピタルゲイン狙い、というストーリーがETFでも当てはまりそうですね。

では、マーケットメイカーでなんとかならない問題ならばどうしたらいいか。ETFへの市場参加者が増える、しかなさそうです。参加者が増えれば増えるほど取引件数が増えるわけですので、流動性が増えていく、のです。とはいえ、2008年の信用危機の時には参加者が売りにのみ集まって取引件数が積み上がらなかった、のですから、買い一辺倒、売り一辺倒ではなく、常に投機的な目的であれ、ショートする人をも含めてバランスよく市場参加者がい続けることが最良なのかもしれません。

その意味ではヘッジファンドなどに代表される売りから入る人、というのは株をもち続けて株主として会社と対話して価値を創造するという最近のスチュワードシップ・コードから見ると真逆の社会悪くらいの扱いになってい(て、その結果として、GPIFとか、東京都のEmerging Manager Program あたりでも絶対に取り上げない戦略とされてい)ますが、安定した売り手がいることが市場流動性という観点からは不可欠、な訳ですから、そんなに目の敵にする必要もないとおものですけどね。個人的には。

で、ETF投資ってアクティブ!ってまじか?

やっと書きたい最後のネタにたどり着きました。
前述のフォーラムで、ETFの提供者の人たちが盛んに言っていたそうです。
「ETFのポートフォリオの動的な組替えをしていくことでベータ以上のリターンを創造できる。だからETFはもはやパッシブ運用ではなくアクティブなんだ」とかなんとかかんとか。

それを聞いた時、正直言っている意味がわかりませんでした(ああ、今時の表現だ)。まぁ、言わんとしていることはこうなのでしょう。ポートフォリオの中のETFバスケットの銘柄を入れ替えて行けば動的にアセットアロケーションを変えることが可能になるから、
ETFだけで十分アクティブ運用と同等の結果を出せまっせ、くらいかな、と。

実際、ETFの銘柄入れ替えってやってることってグローバルマクロの中でもトレンドフォローやシグナルベースでのダイナミックアロケーションに代表されるようなロジックベースでのポジション変更を行うマネージドフューチャーズでも、昔のソロスファンドがそうだったような、ディレクショナル戦略でも、どちらでも出来てしまいますよね。いずれにせよ、そこで何がアクティブか、といえばポートフォリオ管理がアクティブであって、ここのETFはその作りはパッシブそのものなのです。

なので、前述の表現って誤った誇張表現でしかないよね、としか思えないのが個人的感想です。

とはいうものの、確かに安価で手頃な取引サイズの商品ですから簡単にETFの銘柄組み替えでアセットアロケーションを変えてポートフォリオの性質をガラリと変えることが可能ですから、そりゃ

世界の富裕層の投資をあなたにも

とか言っちゃうのでしょうね。それごとに証券会社の取り分たる取引コストが発生するんですけどね。。。

一応まとめるか

とはいえ、これだけ安価で普通の人にとって投資可能な取引サイズで世界各国の指数への投資機会を提供したり、現地に直接投資できないものへのアクセスを提供するETFは、確かに便利なツールだと思います。今回その基本的なところは実際の手計算で示せたのはよかったかな、とは思っています。

他方で、ツールが目的化しかねない怖さもあるのは、その投資手法によってはアクティブでもパッシブでも資産運用が可能になる手軽さと、そこを煽りやすいキャッチーな商品性にあるようにも改めて思いました。

ということで、投資は計画的に、かつ自分の投資戦略を守りながら、ですね。

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