組合型ファンド、ラスボス的事務:equalization

ファンドの世界でequalisation (あ、イギリス英語で書くと、ですよ。日本で最も通用しているアメリカ英語だと equalization、カタカナで書くとイクアライゼーションかイコライゼーションか、まあ、そもそも日本語で組合型ファンドにおけるこの論点をちゃんと語っているのをそもそも聞いたことがないので、以下文中は、以上のどれかで指しますが。。。)というと、このブログの中でならヘッジファンドのパフォーマンスフィーの計算の時に 、財務年度の途中で入った投資家と、年初(というかそれ以前)からずっと入っている投資家とで、年末時点のNAVを見たら、年間でそのファンドに投資したことで享受する資産の増加分が異なるので、その調整を後から入った投資家さんとファンドとの間で行い、年末になったらそれを踏まえてその時点で残っている投資家さんを全部揃えて綺麗に正月を迎える、というのがequalisation よ、という記事を書いています。

Equalisation 要は公平に、平等に

さて、組合型ファンドだって、ファーストクロージングで入った投資家ばかりではなく、セカンドだったりファイナルだったり、その他のクロージングで入る投資家さんだっている訳です。他方で、ファンドというのはファーストで入ってもらってお金をコールして集めたら投資してますよね?ということは、同じように入ったタイミングが異なることに対する調整が必要じゃないの?って気がしませんか?公平に、均等に扱う、だからequal-isation なのですが、実務的には無茶苦茶手間なのです。

かつ、海外の実例を見た上で、日本の投資事業有限責任組合のよくいう経産省雛形に基づく実務を見ていると、どうもなぁ、と思うことがあったり、さらには、これらを踏まえた時に、よく後から入ってきては、大きな顔をする某投資家が要求する話とか、ちょっと頭おかしいんじゃないの?と思うことがあるので、その辺りの、ちょっと日本のファンド業界、そんなことやってるからだめなんちゃうの?という話まで踏み込んで行こうと思います。

“組合型ファンド、ラスボス的事務:equalization” の続きを読む

ケイマン諸島にファンドを作って後悔した、って話を最近よく聞くけど、なんで相談してくれなかったの?という件

最近、色々な人がケイマン諸島に作ったけど、高いよね、面倒だよね、というのを聞くけど、そもそも、それ、本当にケイマンで作る必要があった?ってケースが多いように思って聞いています。ケイマン諸島は確かにファンドを作る意味では、世界中の「みんな」がするけど、今は21世紀、個性の時代なのだから、「みんな」と同じことをする必要があるの?

ということで、最初に大事なことを

絶対、人のいない浜辺=オフショアって思うでしょ?

実際、私のような日本に数少ない本物の、ファンドのストラクチャリングのプロはこう考えます。もう、私のビジネスのノウハウを大公開ですが、まぁ、国内のいろいろな事情を踏まえると、本当にこれで再現できる人っていないから公開するのです。

ファンドを作るときのレシピ

  • 投資対象と投資家のいる場所
  • それぞれの国や地域の法律とその書かれている言語、税金、そして
  • それらをつなぐ租税条約などの条約

すごく簡単でシンプルでしょ?で、このレシピをどう使うか、というと。。。

  1. 投資家はどこにいて、投資先はどこにある?
  2. 投資先の国の外国人に対する投資規制や税制を考える
  3. 投資家のいる国の海外投資に対する規制や税務を考える
  4. 二国間の租税条約や、その他の投資を阻害/支援する可能性のある条約を考える
  5. 検討結果として、第三国を入れることでコスト対比で税務が「劇的」に改善するか考える

あれ?ケイマンどこに行ったの?と思ったでしょ?そうなんです。実はセカンドオプションに過ぎないのです。もし、ここから先を読む時間がもう時間がない、という方は年間でそこそこコンサルフィーを頂けるノウハウを手に入れた、しめしめ、とここで離脱していただいても結構ですが、まだ時間があるぜ、という方は、なぜこのフローで考えるべきなのか、ちょっと下記のあれこれまとめたので見ていきましょう。

“ケイマン諸島にファンドを作って後悔した、って話を最近よく聞くけど、なんで相談してくれなかったの?という件” の続きを読む

AMLCOとか MLROとか DMLROとか、知ってますか?準備できています? – 多分今ケイマン諸島籍ファンドで一番熱いネタの一つから

Rule is rule

常にコンテンツを書くのが遅い当ブログですので、最新の法規制の話を書こう、とすると気づくと締め切り後になりかねず、というのもありあまり触らないでおこうかな、とか思うこともあるのですが、最近だいたい2週間に一度程度、2000文字に起承転結をちゃんと入れて書かせていただいているサイトがありまして、そこでちょっと文字数少なめに取り上げた表題のネタがあるので、こちらでは普段通りのペースでちょっと書かせていただこうかな、と。クロスポストにならないように一から書きますので損はさせませんよ。

ケイマン諸島のAML/CTFはある意味OECD諸国で最先端(?)

Rule is rule大きく出てみましたが、今回のネタの確信ってここにあると個人的には思っています。何かというと、2018年の6月1日以降にケイマン諸島で設立されたファンドや、それ以前に設立されたファンドについては、その登録の有無を問わず、2018年9月30日までに、専任の Anti-Money Laundering Compliance Officer (AMLCO)、Money-laundering Reporting Officer (MLRO)とDeputy Money-laundering Reporting Officer (DMLRO)を任命して、Cayman Islands Monetary Authority (CIMA)に届け出る義務付けを行いました。

もともとケイマン諸島では AML Procedureを各ファンドが定めて投資家を受け入れる時に AML/CTF (Anti-money laundering / Combatting terrorist-financing) の調査を行うように定められていたのですが、これを一段厳しくして、この投資家 due diligence の遵法確認をする担当者を置き、またもし疑わしい場合には当局に届け出る責任者を定めるように求めた、ということです。

ファンドを設立したことのある人ならイメージはあるかもしれませんが、AML Procedure の導入前を考えると、ファンドの設立の時にファンドのスポンサーに対するdue diligence をファンドの口座開設の際に行い、その際にAML/CTFの側面での確認も行なっていました。他方で投資資金の出し手である投資家に対するdue diligence というのも一応は行なっていましたが、US-FATCA/CRSの観点での税務的側面での確認が主なものでした。となると、実は資金の大きな流れである、投資家の資金に対するAML/CTF的なチェック機能が不十分では、という問題が生じ得るのです。そこで、ケイマン諸島ではAML Procedureを導入するように規制をかけたのです。

とはいえ、その実効性という意味でいうならば、投資家の投資申し込みの手続きでの本人確認を行うのがファンド・アドミであり、現実的にその本人確認のプロセスもそのファンド・アドミの規制を行うその所在国における本人確認の要件に依存することになり、またその結果の疑わしい投資家などの情報収集という観点でも機能しづらいことが見えてきます。そこで、後者に対する対応として今回のAMLCO/MLRO/DMLROの登録制度を導入することとなったというわけです。著者の知る限り、ファンドレベルにまでAML/CTFの義務をここまで厳しく導入している国というのは実はありません。

ちなみに日本はどうなの?

日本におけるAML/CTFについては、世界的なAML/CTFへの対応強化の流れに合わせて、今年3月に金融機関等に対して従前より高いレベルでのAML/CTF対応を行う取引先 due diligence を行うようガイドラインが提示されました。このガイドラインの基本的な作りは政府間機関のひとつである金融活動作業部会 FATF (Financial Action Task Force)の第4次勧告に基づいたものでして、実は来年の後半に金融当局とランダムに選ばれた金融機関や金融商品取引業者へのヒアリングが行われてそのガイドラインの実効性や実務的組み込みの実態を調査されることになっています。特にランダムに選ばれた金融機関等というのが、悪意を持って取引を行おうとする人ならば規制に対して意識が薄かったりコスト的な観点で「狙い目」となる零細業者を入り口に選びがち、という現実を踏まえて、国内の金融当局がお勧めする「規模的にも実務的にも模範」というウィンドウドレッシングをさせない、という現実的なアプローチの検査をされる、ということなのです。

今年の前半あたりからこの辺りの実務、特にリスクベース・アプローチと呼ばれる、顧客の属性(資金の出所が怪しいとか、職業が微妙とか)だけでなく、金融商品取引業者が提供するサービスによってマネーローンダリングとかテロ組織への資金供給する可能性についても評価し、それぞれの可能性の高さによって取引開始すべきかどうか判断する、というプロセスをいかに日本中の隅々まで導入できるかがポイントになりそうです。

他方で、日本では犯罪収益移転防止法に基づく取引時における本人確認が行われてきました。この際、個人は本人確認の出来る書類(運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなど)の提示で済むのですが、法人の場合、個人を隠して取引が可能、ということで、法人の設立を証明する資料やその窓口での取引担当者の本人確認に合わせて、法人の支配的地位にある人(株主や取締役など)の情報を提供することが求められています。この考え方は日本に限らず世界中で同じように法人口座を開設する時にはその法人の支配的地位にある人の情報提供を求めます。

世界基準と日本基準の狭間には

さて、テクノロジーからサービスのクオリティまで、日本は世界の最先端にある、というのがどうも私たち日本人の矜持であり、信じるところではあるのですが、ではこの辺りの規制の実効性や妥当性という観点ではどうなのでしょうか。

FATF が2014年に定めた「透明性並び受益権に関する指針」(“FATF Guidance – Transparency and Beneficiary Ownership”)の中で、議決権保有者に関する所有権比率による基準として、数値的なものは特に決めないものの「例えば25%」と書いてあります。ということは、世界的な取り決めならば25%以下なら数値的にはどれでもよくないか?ということになり、日本は一番ゆるい25%を選んでいることになります。ええ、世界の最先端の日本が、です。

で、オフショアという金持ちの資産隠しのための楽園、ケイマン諸島での情報開示の規制はいくつか、というと、10%です。ちなみに、この10%というのはケイマン諸島だけでなく、オンショア、オフショア含めてかなり多くの国でも採用されていることが知られています。

資産を隠す、というだけではなく資産を世界中に移転させるための口座の開設や移転手続きをするために、その支配的権限をもつ個人の情報をより多く出させているのは、日本よりもオフショアだ、という事実があるのです。

じゃあ、情報を出せばいいじゃないか、と単純に思うかもしれませんが、本人確認資料を準備するのは思うほど簡単ではありません。本人が本人であり、またそこに税金を納めるだけ生活を根付かせている証拠なんてものは、その人の出生地や現在の居住地の発行する証明書であって、パスポートや運転免許証で本当に足りるかと言う問題がある一方、その写しを提出することになる訳ですからそのコピーが「本当にその写しである」という証明、そして日本人なら特に、それらの書類を発行する役所の文書が日本語である以上、「その記載内容が提出先に理解されるように翻訳され、その翻訳が正しく翻訳されている」、と言うことも証明せねばならないのです。(香港あたりだと広東語と英語の表記だからこんな問題はないんですよね。ま、役所が公用語以外の言語で責任持って公的文書を発行できるかどうか、でこう言うところに民間のコストが増加させてるんですよね。国内の手続きの効率化だけに止まらない話ですよね、この英語問題って。)

日本においてファンドレベルでのAML/CFT確認は必要?

さて、ちょっと話を別の角度から見たいと思います。

日本においては通常の有価証券等の取引というのは銀行か証券会社を経由して行われるケースがほとんどですので、これらの金融機関の口座開設時点での調査や継続的なモニタリングによる口座の実質的保有者の素性確認を行い続けていれば、公募や私募の国内投信や会社型ファンドの投資家に関するチェックが間接的に行われていることになるので、ファンドレベルで改めて調査を行う必要はない、と考えることが可能です。だから、日本でファンドレベルの調査なんて不要じゃないか、と結論づけるのはちょっと尚早です。

これらの金融機関の証券口座を作らずに投資できるファンド、というものが存在する、としたらどうでしょう。ケースは理論的には二つ考えられます。

一つは日本に取引口座を開設していない海外投資家が直接投資しようとするケース。これは国内のファンドが海外で募集したら、という話ですが、技術的には国内ファンドをマスターファンドにして、海外投資家向けの外国籍フィーダーファンドを作ってそこで投資家を受け入れる、なんてことがあれば、外国投資家が直接マスターに投資させろ、と言ってもおかしくはない、のです。ま、受け入れないことで事務的に発生させない可能性が高い話ではありますが。。。

もう一つは、現実に今そこにあるケースです。例えば プライベート・エクイティファンドやベンチャーキャピタルファンドで使われる投資事業有限責任組合スキームの場合、証券会社にその持分を販売させる、ということをほぼしませんし、通常よくわかっているプロ投資家相手ですから、直接の取引をするのがほとんどです。

とはいえ、これもいわゆる金商法第63条の適格機関投資家向け特例業務の登録をして一人の適格機関投資家と複数のプロじゃない個人向けの投資家を持ってくるという使い道をすると、プロじゃない個人投資家も直接投資することになります。銀行から組合に送金しながら組合契約にサインすればいいだけですからね。それなりの金額ですから銀行は送金の目的を確認しますが、ファンドのための調査ではなく、自身の取引に対するAML/CTFへの関与の有無のチェックに過ぎないのです。

言い方は悪いのですが、この手のスキームを使って個人から資金集めしたい、というニーズの背景に規制対応が面倒、コストが掛かる、というものが聞こえる一方で、じゃあ、その手間を惜しんで投資家保護の措置をちゃんと自主的に取っているか、といえばかなり否定的に見ざるを得ません。そんな世界ですので、AML/CTFに対する意識があるかといえば。。。

とはいえ、いわゆる63条業者と呼ばれる人たちはまだまし、です。それでもギリギリ法律の免除規定を使おうという努力と、最近ではかなりスタンダードの高くなった年次の事業報告を当局にしよう、と思っているからです。もっとひどい(!)のは、「コンプライアンスのスペシャリストが考え出した完璧な抜け道」と称して使っている「合同会社」を使った投資スキーム(と呼べるかどうかすら疑問な手口)です。金商法上、いわゆる2項証券ということで組合持分と同じ扱いであることから、その私募というのが適格機関投資家ではない投資家は最大500名まで募集することが出来る、という読み方をして、かつ直接縁故的に自分たちから営業せずに受け身にメーリングリストで自主的に申し込ませたりウェブサイトからの問い合わせ、といった、いわゆるリバース・ソリシテーションで合同会社の社員を集めれば募集行為にすら当たらないじゃない、的にやっているケースですね。ここまでくると、自分たちは金商法の外の世界だと考えている節もあるほどですから、AML/CTF意識なんて皆無、というか自身のMLのためにやっているんじゃないか、と思えるくらいです(ごめん、でも、正直そんな話に以前昔出くわしたからはっきり言わせてもらう)。と言いながらも、前述の通り、合同組合の持分は金商法の取り扱いの範囲内です。ですので、会社の事業として株式を取得することだ、といって自己運用するのは、自分の資産のためならばまだしも、赤の他人を巻き込むならば、63条特例業務くらいは届け出ろよ、と言う感じです。でも、これも間違えて投資するとなると、当然証券会社等を経由しないで持分の取得が可能なものなのですからこれらの金融機関でファンドの資金に対するAML/CTFの確認が抜け落ちるケースでもあるのです。

最近このスキームを使って投資家を集めているエンゲージメント投資が数件いると言う話を聞いたので、警鐘を鳴らす意味でちょっと触れて見ました。

まとめ

と言うことを考えてみると、実は金融機関以外にもファンドに資金がプールされて投資に振り向けられる以上は金融機関と同じように資金の流れをカバーする限りにおいてはAML/CTFのゲートキーパーにならざるを得ない、と言う世界的な潮流についていく必要があるのかもしれません。

ファンドを立ち上げて運営する、って格好のいい話です。でも、第三者のお金を責任持って運用する、と言うのはリターンを投資家に提供する前に、それ相当の社会的責任を負う話でもある以上、世の中がAML/CTFに対して厳しい姿勢を打ちだそうとするならば、それに追随するのもファンドがより社会のための器としての認知されるためには当然のこと、とこの投資の世界のエコシステムにいる人たちや入ってきたいと考える人たちに考えて欲しい、と思う次第です。

東京版 EMPファンド構想を勝手に紐解いて解説しちゃいます

2018年4月27日に東京都が発表した「東京版EMPファンド創設」補助金交付について、オフィシャルで要綱が開示されているのですが、どうしても「EMPファンド」という言葉が先行しているからか、このプログラムに対してなかなか意図されているものが伝わっていないように、先日のAIMA Japan Forum 2018で話した人たちからの印象を受けました。まぁ、実際のところ関与できそうな人は一握り、という感もあるのですが、多くの人のもつ過大な期待をちょっとだけ正常値に戻すべく、一体誰が何をして、結果東京都がどうなるのか、というのをまとめてみたいと思います。

EMPって?

まず、EMPです。 Emerging Managers Programです。某北の国が使うとか言われているElectro-magnetic Plus – 電磁パルスではありません。Emerging Manager、すなわち新興運用者を発掘して育成するプログラムです。どういうことか、というと、ヘッジファンドのような腕に覚えのあるファンド・マネジャーが、例えば大きな組織にいるものの自分の腕を試したい、企業でもらう給料以上に稼ぎたい、一生に一度は自分が自分のボスになりたい、などの理由で自分のファンドを立ち上げたい、という夢を実現しようとするのですが、そのためには自分の会社を作って、その会社で資産運用業の登録を行って、投資家を募り(ということは相手にお金を出してもらえるように説得して)、ファンドを設定して、やっとファンドが運用できるようになるのです。

でも、自分で会社を設定して、資本を入れて人を集めて会社のルールを定めてファンド運用に必要な投資運用業のライセンスを当局に届け出て、とするだけで最低でも半年以上の時間と数千万円の会社の資本含めた元手が必要になります。

閑話休題 – いい機会なので一言

なので、適格機関投資家向け特例業務を使って資産運用業の登録をせずにファンドを安く立てたいとか言っちゃう人は常に一定数いらっしゃるようで、またそんな問い合わせを時折受ける(しかも丁寧に返事しても返事しないんですよ、大抵の場合。。。)のですが、人様のお金を預かって正しく運用して、適切なリターンを返すのが運用者の仕事なのでそれなりの運用の体制や環境、そして法令遵守へのコミットメントを示せない運用者に対しては、少なからずまともな投資経験を持つ機関投資家の多くはお金を預けるに足らず、と言う判断をし、そうでない(と言うことは良からぬ意図を持つか、投資ということに本源的な意味で無知な)機関投資家が名前貸しのような形でファンドの組成に手を貸し、その大半が残念ながら財務局のホームページで行政処分や悪質な無登録運用者として名前を挙げられて、二度と表で資金調達が出来なくなるか別の詐欺的手法を使って資金集めを行うかのいずれかの道を歩むことになるのです。自分は違う、ちゃんとやる、という人が実際ほとんどですが、その後そのほとんどが消息不明になっているのも事実です。

ですので、少なくとも当方にコンサルを、とおっしゃる前に、上記を踏まえて方向性をご検討ください。もし手頃に特例業務を届ければいいや、程度ならば、適当なコストを払うことで適当な書類を何も考えずに出してくる行政書士や弁護士などはいくらでもいますので、そちらの方が早いと思います。その後どうなるかは知りませんが。。。

投資家から見た EMPって

さて、投資家から見た場合、見ず知らずの人間に10億なりをお金を預けて運用させよう、なんて思える特異な人って。。。そうそういなさそうですよね。実際に、AIMA Japan Forum 2018の最後のパネルであった投資家パネルで登壇された国内大手投資家であるゆうちょ銀行、みずほ銀行、年金基金連合会、と言ったオルタナ投資については陣容も経験値も国内有数の人たちでしたが、そんな彼らですら、今回のEMP構想に対しては協力したいが諸手を挙げて参加する、とはその場では言いませんでした。それくらい投資家というのは慎重に投資対象を選ぶものなのです。

ですので、著名なヘッジファンド運用会社などで成功を収めて、そのトラックレコードを再現できる環境ができる、というならばまだ預けてもいいかも、と思うかもしれませんけれども、そんな過去の栄光すらない場合なかなか難しいのが現実ですので、こう言った「起業をしよう!」という人の気持ちをペキペキに折り、スタート時は自分たちの退職時の蓄えと、もしいいスポンサーがいればその人たちからの投資(このようなファンドのスタート時に設定のためにいれてもらう資金をシードマネー、といいます)で、スタートすることになるのです。

実際に2008年の信用不安に端を発した市場の混乱(ええ、あえてリーマン・ショックなんて言いません。)のあと、米国の銀行等への自己勘定での投資に対する規制により事実上退社を迫られた、腕利きのトレーダーたちの多くは自分でファンドを立てるべく独立するよりも、大型のファンド運用会社に入ってそのファンドの受任残高の一部を管理する形を取ることでより多くの投資家の信頼を(大型ファンド運用会社の名前と信用力で)得ながらファンド運営をして言った、という現実すら存在するのです。

インキュベーション・プラットフォームという存在

とはいうものの、運用業界もそんなスターマネジャーばかりの立ち上がりに期待したのでは先細ってしまうので、可能性のあるありそうな運用者を発掘して育成しないといけない、という意識も業界の中ではあるのも事実です。投資家の一部で、そんな駆け出しの運用者に早い段階で運用者自体に投資して大きく成功した経験を持つ人も少なくないのも事実でして、かくいう著者も2006年から2007年にかけてそう言った前途有望なファンド運用者の卵を発掘して育てて(その分の見返りをたっぷり稼がせてもらおう!)というインキュベーション・プラットフォームの設立と当初の数ファンドの運営に携わっていました。そのプラットフォームには、そういうファンド運用者の卵と数多く面談して、その中でも有望と思える人をプラットフォームに連れてきて運用する、という目利きの機能と、そういう運用者たちが負担なくファンドを立ち上げ(て、同時に投資する人たちやプラットフォームが将来的に儲けられ)る仕組みを兼ね備えているのです。

でも、このプラットフォームであれば運用者も投資家も世界中のどこにいたっていいんですよね。実際にそんなインキュベーション・プラットフォームは世界の主要な都市で投資家や目利きたちによって立ち上がっていますし、私が関与したプラットフォームでもケイマン諸島籍のファンドに仕立てて、アジア拠点の現地の投資運用ライセンスを持つ会社を通じてファンド名義で証券の売買執行をしていました。その時の証券の売買のアイデアを見つけていたのは日本にもいましたし、香港やシンガポールにいても場所は関係なく同じように機能するようになっていました。

EMPを東京がやる – なぜ?

さて、今回の東京都には金融都市機能の再生、という大前提があります。そのため、この数年間、JIAMという海外の運用会社や fintech企業の国内誘致を行うコンソーシアムが欧米からアジアの金融都市で東京への誘致活動をしてきています。そこに平仄を合わせるべく、東京都と金融庁とが2017年4月に海外運用会社による国内拠点に対する運用業の届出に対する英語での対応や届出プロセスの迅速化の制度を立ち上げています。その結果を受けて、昨年一社、確かイギリスで大手の生保系の運用会社が国内拠点の立ち上げと運用業の届出をこの仕組みをフルに使って行った、というアナウンスが出ていました。

しかし、このような大手運用会社の日本拠点が立ち上がっても、実質的には国内の投資資金がこの拠点の作る海外ファンドのフィーダーを経由して海外で運用される巨大なファンドに取り込まれるだけですので、運用拠点と言ってもさほど大きな体制を要することもありません。単純に右から左に流すだけ、の運用の頭を使わない仕組みを作るだけです(って、お前が昔ジャージー島やケイマン諸島でやっていた外国籍投資信託だって、単一資産を持ち続けるだけの頭を使わない仕組みだったじゃないか、と言われそうですね。ええ、その意味では全く同じです)。

となると、もし金融都市としての東京に拠点を置いて運用スキルを持つ運用者事業を育成したいとなると、そう言った腕に覚えのある運用者で東京に会社を立ち上げたいという野望を持った人や海外の運用会社で東京にオフィスと実質的な運用拠点を置くことで国内資産の投資運用したいという企業のプールに対して、東京で運用ビジネスをするメリットを感じさせるものを提供することが早道、のようです。そして、その運用者が喉から手が出るほどほしいものとは。。。投資資金への比較的容易なアクセスする手段、と言えるでしょう。

とはいえ、東京都が直接投資家と運用者のプールを闇雲にマッチングする、というのは、運用者からすれば紹介して話す機会がもらえるのでラッキーと思えるものの、投資家からすれば東京都の紹介とはいえ、素性のよくわからない運用者を片っ端から会って検討するなんてことは現実的ではない、ただのうざい話になるので、運用者のプールに一定のフィルターを掛ける目利きが入ることでより現実的な投資ストーリーに繋がるのではないか、と考えたのでしょう。

ということで、これらの運用者の卵から優秀なタレントを発掘し育成する目利きとなるゲートキーパー、そして早期投資に慣れた投資家がいて、そんな投資家と新興運用者とをマッチさせるためのゲートキーパーによるファンド・プラットフォームが必要になる、というストーリーが出来上がります。

ここで一つ疑問が出てくるかと思います。東京都の役割は?

前述のストーリーの中で二つほど疑問が出てくることになります。

一つは、東京都が投資家になっちゃえばいいんじゃないか?という疑問です。これ、「東京都のEMP」だから、東京都がシードマネーを出すのでは、とみんなが思ってしまうわけですが、実は東京都はシードマネーを出しませんし、出せません。大きな声ではいえないのでザクっと書きますが、きらぼし銀行の一部となった新銀行東京の一件があって出資ができない一方で補助金を出すことは可能、という縛りがあるそうです。

そこで、もう一つの質問の答えに繋がります。それは、出資しないのに東京都はどうやって誘致をしようというの?

それは、東京都がファンドプラットフォームの運営費用の一部を補助金の形で負担する、のです。ここでポイントなのが、ファンドプラットフォームを通じて投資される新興マネジャーの運営費用や新興マネジャーのファンドの運営費用ではなく、ファンド・プラットフォームの運営費用です。これは本来シードマネーを提供する投資家がゲートキーパーに対する運用手数料やファンドの維持費用を負担するところの一部を東京都が肩代わり、ということなのです。

確かに運用費用はパフォーマンスを押し下げる要因とは言えるものの、その負担が最大半分軽減されるから、といってもファンドの運用成績が思いっきり下がったら軽減された費用なんて意味がない、と言えるかもしれませんが、リスクマネーを供給する投資家へのできる限りのサポート、というところ、でしょうか。

で、最終的にEMPって誰が東京都に申請するの?

ということで、この構図が見えてくると、東京都が申請を受けるのは投資家と目利きとなるゲートキーパーがペアになって、EMPを立ち上げるので補助金を申請します、という形になってくるというのがわかります。しかもポイントがゲートキーパーと投資家のマッチングは自分たちで頑張ってやって、というスタンス、というか、ゲートキーパーに投資家を捕まえて連れてこい、と言っているというか。。。でも、投資家がキーになるこのプログラムとしては仕方のないところかもしれません。

じゃあ、新興マネジャーはどうしたらいいのでしょう。

EMPの申請の通ったゲートキーパーに「シードマネーを出してくださいよー」、と働きかける他になさそうです。東京都には今年4月以降に運用業の届出をした企業に対する補助金プログラムがあるのでそれには申請可能でしょうけれども、それはEMPとは異なる話ですので、シードマネーが欲しい場合には、ゲートキーパーが誰になったかをまず調べてから、ということのようです。なお、東京版EMPレベルでは戦略に縛りはありません。ゲートキーパーが掛けるかも知れませんが、ここでヘッジ限定とかすると対象となる新興マネジャーの選択肢を自ら敢えて狭めることになるのでしないだろうな、と思う一方で目利きの効く戦略の都合もあるので、最終的にどこまでバラエティに富む新興マネジャーのラインナップになるのかも興味のあるところです。

まとめ

さて、この仕掛け、ここまでよくぞこぎつけたものだ、という評価もあります。なにせ、この手の試みは今までここまで公開されたことすらなかったのです。そこから見れば頑張った、というべきでしょう。あとは実際に機能するか、というのは世の中のプレーヤーたちにこれが響いたか、という結果を見る他になさそうです。

さて、誰がゲートキーパーになるのかな。私も新興マネジャーとして売り込みに行く準備をしなきゃ(笑)

Further on ETF: 指定参加者以外のマーケット・メイカーや大口投資家にとってのETFのメリットとは?

さて、気づいたら ETF関連のネタでこれだけのことを書けるなんて当初思いもしなかった、というのが本音な ETF の第4弾です。ほんと、どこまであれこれ言いたいんでしょう、私。。。

HFTとETFのもっといい関係は近い将来できる?

実は、これを執筆しているタイミング(2017年10月25日の深夜) に、金融庁のホームページでパブリックコメントが募集されています。その内容はいわゆる高速取引 (High Frequent Trade – HFT)に関する規制関連についてなのですが、その中の一つが興味深いので取り上げるとすると

ETF市場の流動性の向上を図る観点から、空売り規制の適用除外の対象に、金融商品取引所からETFのマーケット・メイカーとして指定を受けた高速取引行為者がETFの円滑な流通を確保するために行う空売りを追加する。

ということで、ETFのマーケット・メイカーの指定、というのが取引所が行なっていて、既にその中にHFTがいる、ということなのです。価格の乖離を即座に感知して高いものを売り、安いものを買う、ことを高速回転で行うHFTの性質上、当然やっていて然るべきではあれ、空売りまで今回許そう、というのです。実際に、現物のポートフォリオを買ってETFを売る、という裁定取引だってあり得るわけですが、それを信用取引として借りてからやりましょう、ではサーバーの自動運転で取引を執行し続ける HFTにとっては間に合わないから出来ない状態にあった、と言われても納得感もあろうと思います。また、こうすることで、HFTから ETFの取引玉が売りに出され(あとで買い戻すか一日の終わりにネットポジションで借りるとして帳尻を合わせられ)るならば、ETFの供給源としてのマーケット・メイカーである HFTにもっと頑張ってもらってETFの流動性を創造して欲しい、ということなのでしょう。

指定参加者以外のETFのマーケット・メイカーっているの?

ところで、過去の記事で指定参加者というある意味 ETFの上場の幹事証券会社だけがマーケット・メイカーの役割をしている、かのごとく書いていましたが、前述の HFT だけでなく、よくよく考えて見れば、最近では海外でもそれを専業とするブローカーが増えていて、証券の貸し出しをしている会社さんに対してETFの貸し借りの話をしている、のを思い出しました。

そもそもマーケット・メイカーというのは ETFに限らず上場商品、果ては未上場でもいいのですが、取引の常に中心にいて自己の算段に基づいて、今の売りと買いの価格を提示することで取引に応じる人のことです。その際に売りと買いとの間にはスプレッドと呼ばれる差額が存在して、その瞬間にマーケット・メイカーと売り、買いを同時にすると、スプレッド分だけ確実に負けるのですが、これはマーケット・メイカーからすれば、例えば買いの価格を提示して買い取ったあとに他の人に売るにあたっては、このスプレッドの範囲の利幅の中で売れるという目算というかリスクをとって売り買いを常に成立させることを生業としている、と見ることが出来ます。

しかも、もしこのスプレッドをその瞬間のETFの参照する指数などの値動きと全く同じ価格を中心に上下一定幅で提示されているとしたら、確かに一般に言われる ETFと参照指数との間の価格の連動性というのが形成され得る、と言えるでしょう。でも、果たしてこの価格の提示は ETFと参照指数の連動性を提供したいがために行なっている、のでしょうか。

実はここに、マーケット・メイカーの立場が大口取引をする人の観点から言えばメリットがあるから行う、というのが見え隠れします。

指定参加者が ETFの設定・交換を応じる相手とは

さて、HFTやマーケット・メイカーたちはそのリスクを取引スプレッドや現物対ETFの差額だけで吸収しているのでしょうか。実は、そうでもなく、大口にかき集められた ETFの持分や日経225を例にすれば 6億程度掛かる現物による参照指数の構成銘柄ポートフォリオとを交換するのに応じてもらうことが出来るため、そのリスクがヘッジされて安心して小口のマーケット・メイキング取引に応じられるし、市場としてもその流動性が担保されるというのです。その意味では指定参加者だけの特権、というわけではなく、最近の流れでは指定参加者はマーケット・メイクすることなく、この現物ポートフォリオと ETFの交換手続きだけに特化しているところもあるそうなのです。

まぁ、これらの取引関係者ならば、日経225ならば 6億前後の取引単位で取引が出来る人たちなので指定参加者としても対応できる、のです。

実際、それ以外にも、現物の売買が市場への影響が大きいような大口の機関投資家も ETFを使ってポジションを作ったり売ったりする、バスケット取引の代わりとして使う場合には指定参加者が ETFの設定や交換に応じるとされています。

いずれにせよ、大口の取引でなければ対応しないので私たちのような小口取引が使えるツールと考えてはいけないでしょう。

で、こんなメカニズムだから ETFと参照資産の値動きは一致するんじゃないの? – ETFネタを終わらすにあたり

さて、このようなマーケット・メイカーたちのリスクヘッジが現物資産とETFの値動きの裁定取引に基づいて行われているのだから、その思惑通りにETFってのは現物資産の値動きに近しいんじゃない?この4回に渡って、著者が主張するような市場参加者のセンチメントが参照資産の動きと乖離することはないんじゃないの?とここまで読むと思うかもしれません。

確かに、注文が発生すれば、HFTを含む裁定取引を狙ったマーケット・メイカーがミスプライスを叩き、そこからこぼれ落ちた適正価格に近い注文だけが板に集まって取引成立、ということで、取引は参照資産に近いところで取引がされることになるでしょう。

ただし、売りと買いの注文が適度にあれば、なのです。

もともと注文が売りや買いだけに一方向に注文が集まれば自然と参照資産からの乖離が発生してしまいますし、注文があっても取引が成立しません。この状態はマーケットクラッシュした時によく見られますね。

そして、そもそも取引のニーズがない銘柄であれば注文数が少ないか、発生しないのでマーケット・メイカーですら気配値を出して一日終わるけど取引は不成立、なんてことだってあり得るのです。これは中小型株式や債券で普通に見られる光景でしょう。

そうなると、いずれにしても流動性を増やすことで解決できる問題だとしても、ニーズがなければ解決しようがない、のです。とはいえ、不人気銘柄や認知の低い銘柄という意味では新しいようで古い問題なのです。

どうしても流動性の大きい人気のあるものだけを見て一般論は語られやすいのですが、裾野をみると見える風景は変わり、案外そこに儲けるチャンスが隠れていたりするのかもしれません。まぁ、それが取引の思惑、という奴なのですけどね。。。

error: This Content is protected !! この記事は印刷不可です。