同義語 – 金融に創造性は不要、なのか、時代が繰り返されるだけなのか

私を仕事を通じてご存知ならまさに周知の事実ですが、金融の中でも「すみっこ」の領域をいくつも歩いて気付いたら20年も居させてもらっていますが、その時間と領域をあれこれ渡り歩いたおかげなのか、最近いろいろなものに既視感を覚えることがあるのです。多分本人たちは創造性を駆使して作り上げた、というのかもしれませんが、過去に別の領域では普通に行われてきたことで、それが出てくること自体が市場環境の、世にいう「フラグが立った」状態になりつつあるんじゃないか、という数学で言うところのフラクタルというかまるっといえば類似性すら見えてきているんです。最近。いや、人間ディープラーニングやっている訳ではないのですが。。。

ファンドにレバレッジをかけて投資しませんか?

こんな商品アイデアはどう?とちょっと話を聞いたのがこんな話でした。投資対象は担保付きのシニアデットというファンドで一応某公募規制に準じた作りになっている。それをこの低金利時代にセクシーなリターンの取れる安定収益型の商品にしたいから、4倍レバレッジになるようなラッピングをするファンドに仕立てたいのだけど、というのだ。ちなみに、投資対象となるファンドは再投資はするものの、償還期限日を決めているので、投資対象となるシニアデットの償還日もファンドの償還日を超えないようにするそうな。ということは高金利を狙って、新規資金が入るごとにデュレーションを出来るだけ長くしつつも償還日の手前になるものを buy-and-hold するんだろうな、というのが予想できる。

ふーん、と思って聞いていたけど、聞きつつイメージしたのはバランスシート的にはこんな図。

これ、ファンドの人だと、ふーん、そうやってレバレッジが掛かるんだ、と思って眺めてくれると思います(多分)。でも、この商品、どこかで見たことがあるような。。。あ。これだ。

CLO ですわ。ざっくりこんな感じ。

そっくりさん商品、現る(いや、昔からあったから)


一応元利金の返ってくる可能性の高い銀行貸付債権をCLOをやる器(信託でもSPCでも可)に譲渡(といっても、債務者に第三者対抗要件通知をするかどうかは別)して、優先部分を市場金利に色を付けた程度(?)の固定利付商品にして売って、格付け(べーっ)と協議した(貸し倒れリスク等に基づく返済不能可能性)リスクの残りそうな部分に対応した劣後部分を債権譲渡した銀行が抱える、というのがCLO。

構造的にはほぼ一緒。もちろん、シニアデットのファンドへの投資、という意味で一枚器を挟んで、かつその債権の取得の選別を運用者が投資目的や投資制限等の中で行って組み入れて、というのに対して、パススルー型のCLOならば譲渡した貸付債権の元利金をまずは優先トランシェの元利金に、その後劣後持ち分にそれぞれ配分するから違うように見えるものの、仮にパススルーでなかったら利金は優先と劣後に順序良く渡すけど回収元本で銀行からCLOの組み入れ条件に合致した債権をある意味買い取る形で譲渡を受けるようにすることで再投資するようにしていたので、さらに商品の類似性が高まってきます。

しかも、器での債権取得・処分の責任をライセンスを持った運用会社がファンドのガイドラインに基づいて行うか、オリジネーターが案件における表明保証の範囲と格付け等と一緒になって事前に定めた組み入れ債権適合基準で選別して譲渡・引き上げを行うか、という違いと、市場から買ってくるのか自腹の債権を譲渡するのかというソースの違いは確かにあれど、ガイドラインなのか基準なのかってほぼ日本語か英語かの違いでしかない。

さらに構造とかキャッシュフローとかで似てるのと言えば。。。

でまぁ、あまり言いたくはないのですが、これらの構造ってこれにも実はそっくりでして。。。


はい、複数の不動産物件を保有するJ-REITや私募リートですね。ローンを使って取得の際にレバレッジを掛けてしまうと、図式の中では(以前書いた不動産投資の分析の記事の通り)賃料収入が収益源の不動産持ち分が、ただの変動金利な債券と変わらなく見えてきてしまいます。

ちなみに、J-REIT で4倍レバレッジというか、ここでは不動産投資的に言い換えるとLTV (Loan to Value: 総資産有利子負債比率) 75%とここまで高いものはないようですが、ここでは比較のためだけ、ということで。。。

で、思うことは。。。

まあ、最後のが似ているというのは言い過ぎかもしれませんが、最近の調達コストに対する投資リターンの低下に伴うハイイールドアセットへの投資嗜好が高まっている状況において、企業向け債権のキャピタルストラクチャーの違い(優先債権/普通債権/劣後債権/優先株/普通株/劣後株)とか貸し出し手の違い(バンクローン/銀行貸付債権かその他のプライベートレンディング/プライベートデット)か、担保付きか無担保か、企業の格付け(べーっだ)が投資適格なのかそうでないのか、それに伴う流動性の高さというか低さなどの組み合わせをどこまでもどこまでも試し続けて、高金利だというものをひねり出す作業しかやっていないように見え、かつそんな性質のアセットと、キャッシュフローを生み出すから、というだけで不動産(一時期あったMLP-プライベート・エクイティ持ち分で上場したものなどもですね)までもが同じ土俵で利回りの比較をして云々しているのは、昔見た、不動産投資のイールドが不動産特有のリスクプレミアムを度外視してでも国債よりわずかに上回っているから投資していいんだ、と豪語したCMBS の組成販売をしていた外資系証券会社の姿に重なるものがあるんですよ。

また、劣後部分の商品化も、リーマンショックの前夜くらいにとある投資銀行が劣後部分だけをまとめたポートフォリオを投資信託化して富裕層に売りたいんですけど、と持ち込んできては
「このポートフォリオに格付けがついているからファンドの維持費用見合いのキャッシュフローは必ず出ます!」
と、この格付け嫌いの私に説得しようとしている姿がちらつくんですよ。

10年経てば商品のリスク管理能力も高まっただろうし、格付けも馬鹿みたいに後追いで格付けを引き下げることももうない、はずはないか。金融の世界に絶対はないからなぁ。。。

とはいえ、まさか、商品アイデアがあちこちで焼き直されてイノベーティブに提案されるとは。でも、無理はないか。結局金融の世界、出来る事はどんなアセットであってもせいぜい「買い持ち、売り持ち、借り入れ」しかないのですからねぇ。。。そりゃストラクチャリングでイノベーティブな商品が出来ないわけだ(って自己の存在否定をしてみたり)。。。

オルタナ投資関連の業界団体、日本国内にどれだけあったっけ。。。

業界皆で輪になって。。。どこに向かう?

前回の記事を書いてから随分間が空いてしまいました。ネタ切れを起こしていた、というよりは、CFPの試験勉強に集中したり、その後もバタついていたので私的なブログすらアップできていないという体たらく。。。なのはいつもの事ですね(苦笑)。

オルタナ投資業界の横のつながり、何があったっけ?

業界皆で輪になって。。。どこに向かう?さて、実は今週の某日の晩に、ヘッジファンドの投資関連では業界内でとても顔の広い方が主宰されて極めて私的なネットワーキングの会の忘年会がありまして、久しぶりにお邪魔させていただきました。主宰者さまが今年は本業が変わられたこともあってお仕事に忙殺されて会の開催も頻度が減ったりしたらしいのですが、それでも、忘年会ということで、毎度のこと業界内の多方面のビッグネームが数多く参加されている(ので名刺交換と情報交換が盛んにおこなわれている)のを見て

「相変わらず、みんなすごいなぁ」

と末席でお酒をすすりつつ静かに近くにいた(某直近ビッグなポジションに着任された方を含む数名の)方たちと語らっておりました。

その席の最後で、とある業界内の団体の立ち上げが動き出している、という話が出たので、ふと、そういえばこの狭いと言われるオルタナ投資業界、その中でいわゆる業界団体ってどれだけあったっけ、とふと思い、その立ち上がる団体のご紹介も兼ねてつらつらと羅列していこうかと思います。といっても、さして業界に顔が広い訳でもないですから、私も見落としがたくさんあるとおもいます。そんな時はここで紹介してもいいぞ、とご指摘ください。喜んでリンクを張らせていただきます。どれだけ貢献できるかはまた別として。。。

AIMA (Alternative Investment Managers Association)

私も随分長くおせわになっているので、これは最初にご紹介せねばならないでしょう。英国ロンドンに本拠を置く、主にヘッジファンドの運用者と、それに関連した法律事務所や会計士、ファンド・アドミにリスクマネジメントサービスといったサービスプロバイダーが構成して、ヘッジファンド業界の声を各国当局者に届けることを主な目的として設立された団体です。今では、ヨーロッパ、アメリカ(米国とカナダ)、アジア(日本、上海、香港、シンガポール、シドニー)などに拠点があり、互いの情報交換や世界各国の規制当局の動きのまとめを月次で報告したり、ヘッジファンド投資の際には今や標準となった質問票(Due Diligence Questionnaire) の提供などを会員に提供しています。余談ですが、日本語版 DDQ は私めがだいぶ監修をさせて頂きました。いや、日本語のクオリティは大事ですから。。。

ちなみに、元々は先物取引などの運用者の集まりが会の始まりで、それが今ではヘッジファンドの業界団体になっていますが、今後は “Alternative”らしくその他の戦略の運用者の人たちも参加を望んで行こうとしていくようです。が、ヘッジとプライベートエクイティ、ベンチャーキャピタルはそもそも別の生き物ですので交わっていけるのか。。。

CAIA (Chartered Alternative Investment Analysts) Association

AIMAが運用者や投資家の教育を推し進める一環として組織されたのがCAIAというヘッジファンド投資に関する国際資格認定組織である CAIA Association。世界中で 8,400人以上の有資格者がいるのですが、英語での試験ということもあって日本では有資格者が少なかったのですが、今年の6月に CAIA の日本法人も出来てさらにメンバーを増やして行こうとアジアでの拡大路線の一端として日本も入れてもらえているのはちょっと安心です。まぁ、どちらかというと投資家サイドにいる人が多い感覚がありますが、やはり投資判断の一助となるべく、ということなのでしょうか。

ちなみに、この数年、AIMA Japanと CAIAの日本にいるメンバーで忘年会を合同で開いています。

CFA (Chartered Financial Analysts) Institute

CAIA がヘッジファンド投資に特化しているのに対して、日本の証券アナリストの国際資格に位置するのは CFAでそれを国際的に運営しているのが CFA Institute。CAIAとの違いは、というとCFAの守備範囲がヘッジファンドに限定されない、広範囲の知識を要求される、という意味ではヘッジファンド以外の世界でも食べていける強さがある一方で、CAIA にはヘッジファンド特有の専門性が求められるのでその筋では強みが発揮される、というところでしょうか。日本では日本CFA協会さんが運営基盤になっています。

AAIN (Asian Alternative Investors Network)

AAIN さんもロンドン発祥の組織で、ロンドンでオルタナティブ投資をするアジア人のネットワークを作ろう、ということで始まり、それがニューヨークでも集まって、日本でもやろう、と言って3-4年前に数回イベントがあって呼んでもらった記憶があります。
ただ、有志による集まりと言いつつもメンバーシップが結構高額なのと、イベントもメンバーだけ、というところで運営のコストが高いのかな、と思っていたら気づいたらあまり最近聞こえて来ず、今回調べたら本体のウェブサイトにアクセス不可。。。もしかした自然発生したように自然消滅したのかもしれません。
なかなか、この手の組織を作り、運営し、維持するのって資金面でも企画運営の面でも大変なんですよ。 AIMA Japanでだいぶ鍛えられました(笑)

ヘッジファンドの話から、少し別のオルタナの話もしてみたいと思います。特にアドミの世界ではアジアではプライベートエクイティやベンチャーキャピタルにそのビジネスの重きが置かれつつあるようですので。。。

JPEA (Japan Private Equity Association)

日本プライベートエクイティ協会さんはその名の通り、プライベートエクイティの運営者を中心に構成される組織で、この業界の運用側の声となる組織でもあるそうです。以前話を伺ったら、常任理事となる会社さんの持ち回りで事務局も管理する、ということで結構手弁当が大変だろうなぁ、という組織です。
運用者が中心ですので、アドミなどのサービスプロバイダーは賛助会員という形でしか入れない、という本当に運用者に軸足が置かれた組織だということもわかると思います。

JVCA (Japan Venture Capital Association)

日本ベンチャーキャピタル協会さんも、同じくベンチャーキャピタルの運用者を中心に構成される業界団体です。お世話になっている方がつい昨年まで事務局をされていましたが、その際に金融商品取引法第63条の適格機関投資家向け特例業務のルール改正の時に、パブリックコメントを経て施行させず作り直しを求めた時のメインとなった団体さんの一つです。あの時の改正がもろに自身が見せねばならないコミットメントを出せないようにするものでしたので死活問題からあそこまで差し戻させた、という実力のある業界団体さんと個人的には思っております。

JASVE (Japan Academic Society for Venture Capital and Entrepreneurs)

日本ベンチャー学会さんはちょっと毛色の変わったところですが、起業やその後のステージでの会社運営や、それに対するエンジェル投資などについて学術的アプローチで検証しようとする人たちの集まりです。一時期参加させていただきましたがかなり高尚な研究をされていたのでついていけなくなりました。。。

JVPN (Japan Venture Philanthropy Fund)

日本ベンチャーフィランソロピー 基金さんは、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティの投資のスキルと基金や年金と言った投資家の社会的投資、そして余剰利益の社会還元、といったことを組み合わせて所謂ソーシャルインベストメントをして社会貢献をしよう、とロンドンで始まった European Venture Philanthropy Association の、アジア版、Asia Venture Philanthropy Network に触発されて出来た日本版。ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティの関係者が手弁当や勤労奉仕の形で参加していて、その意義などを考えると私もいつかは、なんて思いつつも指をくわえて見ています。

NPEL (Nippon Private Equity Ladies)

NPEL さんは、日本におけるプライベートエクイティファンド業界に携わる女性たちがその互いの知識やネットワークを互助することで業界での女性の地位向上であったり業界内の横断的なつながりを維持していこう、ということで始まったそうです。元々香港に同じコンセプトの集まりがあるそうで、その日本版、ということですが、定期的に集まって、食事会や勉強会を開いて男性の業界内の著名な人に話してもらったり、と有意義に活動されているらしいです。そりゃ、私が男性だから参加できませんから知る由もないのですが。。。

100WHF (100 women in hedge funds)

100 women in hedge funds はニューヨークでヘッジファンド業界に携わる女性が100人集まったら、ということで始まったそうで、こちらも女性の業界内ので地位向上であったり知識の共有であったりを目的として活動を始めたそうで、今や世界全体で18,000人以上が集まっているそうです。リンク先を見ると、今では金融業界全体を包括しているようですが、まだ日本には支部がなく、これから立ち上げようと有志が集まっているそうです。

終わりに

さて、実はここにいくつか出てきていない業界内のネットワークを作っている人たちがおります。例えばヘッジファンドの世界では有名な Tokyo Hedge Fund Club は元Bear Sternのプライムブローカーだった人が在籍中から会社とは切り離して個人的に機関投資家とファンドマネジャーを直接つなげるパーティ形式のイベントを始めたのを端に今も継続的に行っている会ですし、冒頭でご紹介した会も、私的な会、とはいえヘッジファンドの業界を横断的にカバーする会として正直名前とは裏腹に巨大なネットワーキングになっています。また、私が個人的にお世話になっている方が会社名義で行うネットワーキングイベントも微妙にかぶりつつも重ならない人たちとお会いできる会ですし、その人と私とで開催するネットワーキングイベントも小さいながらも密度の濃い人たちとの横のつながりを飲みながら作りだしたりします。

思ったほど大きくない業界なので、人と人がどこでどう出くわすと化学反応が起きるか、それが間近で起こる世界ですのでおもしろいな、と個人的に思いつつ顔を出す日々です。逆にいれば、悪いことも全部あっという間にみんなに知れてしまう小さな世界、とも言えますが。。。

ということで、これを読まれたあなたともどこかでお会いするのでしょうね。きっと。私がこんなことを書いている人間と知ってか知らずか(笑)

なぜ、日本でファンド・アドミニストレーターが流行らず、新しいプレーヤーが出てこないのか?

アドミ仕事、魅力を感じますか? 地味で地道な仕事、って思ってません?

つい先日のこと、以前より大変御世話になっている方に、お昼をご馳走になりつつテニスの試合、今はちょうどウィンブルドンですので私も仕事に手がつかないのは公然の秘密ではあるものの、そんな話をしながらも、「自分の中での整理がついていないのですが」という前置きをしつつも、「どうして日本ではファンド・アドミが流行らないのでしょう」というご質問を頂きました。

その方はプライベート・エクイティの方ですので、当然その立場と、あとは金融業界の主だったプレーヤーを念頭に置かれて幾つかのお考えを伺ったのですが、当然、お忙しい方でもあり、ランチ時間では議論と検討を深めるには短すぎました。

という事で、例によって、ここで私なりの整理をしつつ、あと、出来る事ならば、そういう認識をされてしまっているこの業界をどうしたらさらに活性化できるのか、そんな整理をしてみようかと思います。

ちなみに、書きあがって読み返したら結構長い文章になってしまいました。ですが、多分ファンドアドミについてここまで日本語で語っている文章もそうそうないですので、ぜひ最後の一文までお付き合いください。損はさせません(笑)

そもそも、ファンド・アドミって何をする商売でしょう。

実は前回のファンド・アドミの中立性に関する記事でまとめてしまっていた記憶があるのですが、ちょっとそこから抜き出してみましょうか。

ファンドの運営に関する事務一般を執行すること、というのが基本にある中で、ファンドの評価や資金や証券と言った保有資産の保有・移転に関する指示(保有自身はカストディアンが行います)、投資家の異動(投資持ち分の購入による保有者としての名義登録や、譲渡に基づく持ち分移動の記録、そして売却に基づく地位喪失といった履歴や個別投資家の持ち分管理自体はトランスファーエージェント、日本で言うところの名簿管理・名義書換業務にあたりますが、通常兼務するか投資家管理に特化した兄弟会社に実務を集約するので、アドミが一元的に窓口になるケースが一般的ですので、厳密にはアドミの仕事ではないものの、広義の意味でアドミの業務としてここでは扱うとします)やそれに関連して投資家の(FATCA/CRS対応を含めた)本人確認などが通常期待されています。

このように定義して、ピンと来て頂けるならばいいのですが、多分それらの違いが分からない、線引きはどこにあるの、という声が聞こえてきそうですので、ちょっと整理してみましょう。

ファンドの評価

これ、案外ファンド・アドミの仕事の根幹である一方で案外軽視されがちな仕事、なんですよね。ファンドの純資産評価の仕事、というと、「簡単に言えば」ファンドの資産と負債のそれぞれの現在の評価額を出して、合算することで得られますから「簡単そう」に見えますよね。これが軽視される背景ではあるのですが、考えてみればそんなに甘くはなくて。。。

負債の計算

ファンドの負債って何でしょう。各種サービスプロバイダーへの報酬やブローカレッジフィーなどの実費、ファンド設定や継続開示のための弁護士費用、年次監査のための監査費用、といったもののの未払い額が主だったところですが、そこにレバレッジを掛けるならば当然そのローンとその利息も入ってきます。問題は、実費や弁護士費用当たりは実際の請求書ベースでかんがえればいいものの、サービスプロバイダーへの報酬、となるとある一定の計算式に「入れるだけ」で計算できる、と思われがちですがその計算式を構成するロジック(日割り計算するの?とか、日割りの端数はどのタイミングで計上する?とか、フィーの計算根拠はグロスNAVで、それとも当期費用控除後?)の確定を契約書とにらめっこして合理性のある形にまとめなければならないのです。監査費用に至っては毎年いくらくらいになるか、見込みベースで計算基準日ごとに期間按分したものを計上しないと最終的に出来上がる純資産価格の動きに費用計上のタイミングでぶれが生じるので好ましくない、という配慮も必要になったりします。ファンドの設立費用も最近だと5年償却が増えてきているようなので、その期間はずっと費用計上しつづけなければなりません。

この当たりはシステムでやるから気にしなくていいんじゃない?なんて声も聞こえてきそうですが、上記を全部システムのパラメーターに出来るかというとなかなか難しい。しかもファンドごとの特殊事情が常に付きまとうので、結局人の手による管理が残ってしまうのも事実だったりします。

資産の計算

これ、公開情報な市場の終値を使えばいいだけなんだから楽勝でしょ?

と思ったでしょ?保有しているのが上場株のうち流動性が高い大型株、だったらね。これが上場していても流動性が低い小型株だったら終値つかないので、どうしましょうね。気配値?それとも最終取引価格?もしその最終取引価格から取引が10営業日も取引がつかなかったら?株ならいいけど国債は?社債は?オプションは?だんだんその資産価格の第三者的公平性の担保が難しくなりますよね。といって、ファンドにとってある意味第三者であるアドミが勝手につけていい訳じゃないですよね。一応ファンドの目論見書やアドミ契約には、上記のような終値が付かなかったら、などなどの状態における価格参照ルールを決めることで、出来るだけ恣意的に価格が決まることのないようにする努力はされています。

とはいえ、悩ましいのは流動性の低い資産、特に取引量が少ない通貨ペア、が市場の終了時に一瞬だけオフマーケット価格でや苦情がついちゃった時、のような形式的に参照できる価格があるけどどうみても実勢価格からはかい離しているものをどう取り扱うか、という更なる問題も存在するのです。

とはいえ、まだ市場性がある資産ならばいいですよね。最後は誰かしらがマーケットメイクする訳ですから。未上場株やプライベートレンディング、不動産といった個別具体性の極めて高いものになると評価方法は人によって大きく分かれることも多々ある訳ですから、これらの価格の妥当性は第三者が仮に算出したとしてもファンドの財務諸表として適切かどうかの監査人の意見も反映されることになり、言い換えれば監査人との不幸で不毛な資産評価の論争が毎年行われることになってしまうのです。

純資産価格の算出へのプレッシャー

更に、算出プロセスに対する挑戦というかプレッシャーも高いのです、実は。例えば日本の公募ファンドがよく取り入れている、いわゆるファンドオブファンズ商品は、公募ファンドが外国ファンドへその資産のほとんどを投資している訳ですが、その結果、公募ファンドが純資産評価をするためには外国ファンドの評価がないと出来ないことになります。公募ファンドはだいたい毎営業日の午後3時までに純資産価格を開示することが求められているのですが、そのためには同日の正午までに外国ファンドの評価が届かないと出来ない、とされています。

前日のファンドの評価でしょ?翌朝の正午なんて余裕じゃない!

と、思うでしょ?もし外国ファンドが米国株を持っていたとします。その終値が出るのがニューヨーク時間の午後5時。日本との時差は14時間(サマータイムだと13時間)なので、東京時間の翌朝7時(サマータイムだと午前6時)。気付けば5時間しか残っていないことになります。

5時間でしょ?余裕じゃないの?

上場株を直接保有するファンドであればまだいけるかもしれません。でも、夕方5時からということはもしニューヨークに拠点のあるアドミだとしてもその作業は残業で行うことになります。しかも毎日。普通に我々が残業だといってやる仕事、正確性を求められたとすると大変ですよね。それを毎日。

では、残業させずに(かつアメリカ人クオリティではない)サービス提供となるとアジアでやるほうがよさそうですが、アジアのファンド・アドミの中心地は香港やシンガポールで時差は日本から一時間遅れ。彼らが現地時間の午前9時から作業しても手持ちの時間は2時間のみ(現地11時が日本の正午)。そんなタイトなスケジュールでエラーなく毎日行え、というのは相当のプレッシャーです。

余談ですが、これを解決するために、日本から4時間の時差のところにあるニュージーランドで評価業務を行えば、残業もない通常業務の範囲内で処理が出来るのでどうでしょう、とあちこちのファンドアドミ会社さんに呼びかけています。が、まだどこも実現できていません(笑)

では、私募は余裕か、というとそんなこともなく、当然ある程度の期限を決められている一方で資産評価等を行うにあたってその評価のためのソースが時間通り来るとは限らないですし、来ても何か足りない、ということもあるので、このあたりも多かれ少なかれ時間との戦いになるのも事実です。

保有資産の保管・移転の指示

前回の記事にて取り上げたように、アドミの仕事のもう一つ大きなところは保有する金銭や証券などの資産の保管や移転の指示を、運用会社等からの指図に基づいて行うこと、でもあります。この時、前回の記事にあったように、ファンドの資産管理を行う運用会社等がいくら指図を行ったとしても、ファンドの本来の目的に合致した指図以外の指図を盲目的に行うのは投資家への背任行為に当たるので行ってはいけない訳ですがそれを除けば(というと、あまりに簡単に聞こえますが、よく考えてください。この指図がファンドの契約書類のどれに該当するものなのか、逐次確認判断する必要がある訳です。それはそれでルーティン化するまでは手間なことには違いありません。)如何に指図に対して適切にアクションが取れるか、がこの業務のキーになるところです。

資産移転は思っているほど楽じゃない

資金移動に証券の決済、それが仕事としたら言われたものを言われたとおりにすればいいのだから楽なんじゃないの?そう思われがちですが、ヘッジファンドはもちろんの事、ただのロングオンリーであっても大量な取引を毎日するようなファンドだと当然処理能力を問われます。証券決済の締め切りまでに手続きを終わらせなければいけないわけですからSTP(straight-through processing: 証券取引の発注から、売買成立、そして決済までの一連の事務処理を人手を介さずに電子的に行う事)の導入と、そのプロセスに対してアドミならずも運用者を含めたすべての関係者が対応する必要が出てきます。

と言って、STPが導入できたらそれに任せきりで良いかというとそんなこともなく、一旦走り出したら修正が効かなくなる危険がある以上、提供された取引情報や約定情報と決済情報が常に一致しているかどうか再照合を行う監査プロセスも並行して行う必要が出てくるため、それでも常に時間との戦いになります。

では、上場株がそうならば、年に数件程度とさほど取引量が多くないはずのプライベートエクイティやベンチャーキャピタル投資のような非上場株式ならばどうか、というと、例えばgo-to-private な買収案件ならば上場廃止手続きが伴うのでその手続きが、とか、もともと非上場であれば払いこみと名義書換えのタイミングや段取り、その前に譲渡承諾を取締役界などから取り付ける、常任株主代理人の選別、などなど、資産譲渡に絡むもろもろの作業を運用者のチームと共同で対応していくことになります。

じゃあ、株や債券でもないファンドの持分は?というと、これも単純にファンドのアドミ/名義書換事務代行者にファンド名義で買ったよ、売ったよ、資金決済しておしまい、というわけには最近ではいかないのも事実。ファンド名義で買うということはファンドのいわゆる本人確認のDue diligence をCRSや FATCA 基準に合わせて証明書類を提出していくことになるのですが、これがまたかなり手間。時にはファンドの投資家や運用者、スポンサーの本人確認資料まで求められるケースも増えてきていますのでこれも時間との戦いになることもしばし。。。

そしてもっと大事なのはその結果ファンドが何を保有しているかの管理であって

今まではどうやってファンドの資産を入れたり出したりするか、という話でしたが、実際にもっと大事になるのは結果としてファンドとして何をどれだけ保有しているのか、が運用者との認識と一致していないと問題になります。当然に一致するだろう、と思いがちですが。。。

投資家の異動やそれに関連して投資家の本人確認

多分今、投資家や運用者が一番「アドミ、ひどくない?」と思っているに違いないアドミの業務が本人確認の冗長的なプロセス、ではないでしょうか。とはいえ、これはアドミが悪いのではなく、US/UK FATCA やそれの派生としてのCRSが投資家やその投資資金に関して従前にないほど多くの情報をファンドに対して結果的に求めるようになったので本当に悪いのはそんな各国の税務当局(笑)、に他ならないのです。ですが、ファンドの事務委任を受けているアドミにしてみれば、その compliance の観点でどこまで資料を徴求するかがどうしても会社ごとに微妙なズレを生じるのでどうしてもコンサバな会社ほど嫌がられる傾向にあるのも事実。しかも、これを投資開始までにあれこれ出さないと投資できない、という無用なプレッシャーの中でストレスを感じながら行われるのでどうしても不幸な会話にならざるをえないのがアドミにとっては更に悪い立場に置かれざる状況にあるのです。

もう一度言いますが、アドミはファンドの事務代行に過ぎず、本源的には税務当局への対応のための手続きなのでアドミが悪いわけではないのですよ。。。

では、このビジネスを日本で立ち上げるとしたら何が必要なの?

だいぶアドミが劣悪な環境でビジネスをしているような表現になってしまっていますが、実は本質的な話をするならば、日本でこのビジネスを始めようとしたら何が必要かというと、極論を言えばPC一台で十分です。ファンド名義で銀行口座と証券口座を開設し、運用者の指図に従って証券や資金を移動出来るようにオンラインで動かせるようにして、各種イベントなどのスケジュール管理はカレンダーに書き入れて、Excel に証券や資金の残高を取り込んで各種フィーの計算を正しく行えばNAVの算出は完了。もし未公開株なら証券口座が不要で単にファンドでございと、譲渡契約にファンド名義で捺印して、名義書き換え人にファンドの代理人として登録してもらうだけでおしまい。財務諸表を作成して監査を受ける必要があるなら、NAVの算出情報を元にファンドが準拠する会計ルールに従った財務諸表を作成(するか会計事務所にアウトソース)して監査人に監査してもらえばいいだけ。事実、ファンド・アドミを監督する関係省庁は存在しないのでライセンスを取る、また取るために人的・資本的リソースを準備しなければならないこともないのです。なぜって?会社の経理処理や財務諸表を作成するのに何かライセンスを取得する必要はないですよね?会社型ファンドと会社との間において、事務上の違いは存在しないのですから逆にライセンスでいずれも縛ることも出来ないのです。

あれ?信託銀行はどうなの?あれは信託形式のファンドを預かるのだし

はい、信託形式であれば受託者として信託会社が受託者となり、また信託業法の求めるところから、アドミ業務やカストディ業務、不動産案件ならプロパティ・マネジメント業務など資産の保全・管理業務全般を自分で行っていますし、それを求められています。これは日本の法規制から受託者に求められている要求の高さから来ているのですが、ただし、これは受託者ならば、という前提があります。

言い換えれば、会社型のファンド有限責任組合スキームに対してもアドミ業務やカストディ業務だけを提供することも技術的には可能でしょうし、実際に信託銀行さんのカストディ業務はその単体だけでも充分海外のプレーヤーと肩を並べるほどの規模になっています。ですが、それだけのスケールを要するカストディを必要とするのは投資信託のようなロングオンリーかヘッジファンドのときがメインで、その際には会社型スキームにアドミとカストディを合わせて提供することになりますが、有限責任組合/LPSスキームを主戦場とするのが非上場株を取り扱うプライベートエクイティやベンチャーキャピタルですからカストディとして求められる機能が世界規模での証券決済よりも一つ一つの証券の全てをきちんと保有しているか、という装置産業と真逆になリ、また、会計システムの取り扱いを一つ取っても、個別投資家に対するキャリー(成功報酬)の計算というかなり柔軟性を求められるものですので、こちらも装置産業で画一的なサービスで対応、とはいかないため、なかなか本格的に踏み込めない領域と化しているところでもあります。

そう考えると、前述のPC一台でできるファンドアドミもあれば、業界標準とされるアドミシステムなどを導入して管理運営していくのもファンドアドミ。その違いはどこにあると考えるべきなのでしょう。

そこで考えてみる。世界中のファンドアドミはどうやって立ち上がって大きくなっていくのか?

世界中を見回すと、結構いろいろなサイズや特色のファンドアドミがいるものでして、例えばジャージー島なら70社程度があると言われていますが、これがルクセンブルクだと130前後とも言われています。その中には世界規模も銀行系ファンドアドミも当然ありますが、小さなファンドアドミも独立してビジネスを継続しています。一番小さいところでは、親密先のファミリーオフィスを数件扱うためだけに、数人で運営しているという会社があります。当然、そのサイズであれば導入に数千万円掛ると言われるシステムを使わなくとも、というよりExcel とカレンダーを使った手作業で管理も十分可能になります。

また、取引量が少ないファンド・オブ・ヘッジファンドやファンド・オブ・プライベートエクイティファンドといったファンド投資系の商品もカストディもシステムやネットワークも不要ですから取り扱い案件数が少ないうちはシステムがなくとも管理可能と言えるでしょう。同じことは不動産投資ファンドも同様です。

とすると、大掛かりなシステムインフラやグローバルなネットワークを要しない低流動性・低頻度取引のファンドのアドミ業務が小規模の頃の事業対象としてはスイートスポットだと言えるでしょう。また、このステージにあるならば、各顧客の顔もニーズもよくわかり、それにきめ細やかに対応しようという余裕もありますし、そうすることが顧客を掴む大きな要素でもあるのです。

そこから事業基盤を拡充していき、システムインフラ投資が出来るようになると、システムを生かした(Excel とカレンダーのようないつ壊れたりするかわからないものを使わない)より企業らしい管理業務にシフト出来るのと他方に、このシステムを最大限に活用できるように案件数と対象ファンド戦略を広げていくことになります。

そうやって顧客ベースが広がると対象となるファンド設定地や運用者・投資家の地理的分散が広がっていくため、世界中の複数拠点への進出や買収(または、買収されることで比較的大きいグローバル展開したフランチャイズの一部に組み込まれる)という形での展開が次のステージである地理的拡大を進めていくことになる、というのが想定されるファンド・アドミの企業としての成長モデルの一つと言えると思います。

成長モデルを考えたときの日本初のアドミがあまり出てこない理由

では、この成長モデルを考えたときに、日本発でアドミを始めた時に何が成長の妨げになるのか、考えてみたいと思います。

まず取っ掛かりとしての低流動性資産を対象にした、低頻度取引のファンド、が日本だとどのあたりが手ごろなのか、という問題があります。というのも、不動産投資ファンドを例にすると、確かに手ごろな事務量になると思いますが、他方で既に会計事務所さんを中心に対象となる特定目的会社に対して記帳業務や決算作成といった一般的な会社向け業務を取締役派遣などと併せて提供し続けてきたため、かなり安価な費用体系が業界の標準となってしまっています。ただし、そこには通帳管理や資金決済の執行に対する業務など上記のような通常の会社向けサービスにないその他の業務代行廻りの対費用でみた評価がその責任に見合わない形で提供されていた為、この業務から撤退しているところも増えているのも確かですが、報酬という点で上昇しているかというとなかなか難しいのが現実です。

次に未公開株取引の伴うプライベートエクイティやベンチャーキャピタルですが、不思議なことにこの二つの似た戦略にもかかわらずファンドアドミの採用という点で大きく違うという現実があります。

ベンチャーキャピタルの場合、企業ベンチャーキャピタルや大学ベンチャーキャピタルというのもあることから、全体的なファンドのスケール感があまり大きくない為にそこに対する専門性のあるリソースを運用者側で抱えられないことから「餅は餅屋に」という発想が強いようですが、プライベートエクイティの場合、ファンドのサイズ感としてはベンチャーキャピタルより大きいものの、全体に対する費用へのプレッシャーが大きいことと、運用チームに自社の経理担当を既に抱えていることからそのリソースにファンドの運営を行わせていることが一般的になっているため、追加費用として見られがちな事務の外部委託、という印象がどうしてもぬぐえないでいるのが現状にあります。

残るはファンド・オブ・ヘッジファンドやファンド・オブ・プライベートエクイティファンドのようなファンド投資のファンドですが、投資家の多くが機関投資家である以上外部委任という発想は当然に持っているのですが、リーマン危機以降、如何せん案件自体あまり多くないのが現実です。

もしヘッジファンドやロングオンリーファンドなどの上場株等を取り扱うファンドをスタートアップしたアドミが受任したとしても、システムでの対応が出来ない、カストディやプライムブローカーとのやり取りの先の作業が手作業になる、といった実務的な観点で疑問が残ることもさることながら、いまどきは投資家もかなり専門性が高くなってきていることから、 operational due diligence (実務廻りの精査)において掛る事業インフラで大量の取引を処理するということに対する懸念がどうしても発生する、という運営リスクとして見られる可能性が高いため、採用されづらいという問題が存在します。といって、起業したタイミングでシステム投資が出来るか、というと、豊富な資金力のある後ろ盾があるのならば、という限定条件が付かざるを得ません。

そう考えていくと、起業という観点でのファンドアドミを考えたときにその生まれ育つ環境としては結構厳しいものだというのが見て取れるかと思います。

また、案外理解されていないことなのですが、例えばオルタナ投資でヘッジファンド、プライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、不動産投資、インフラ投資、などが括られますが、これらのアドミの実務というのは、インセンティブ・フィーの計算だけの違い、という訳ではなく、それぞれの特殊性が様々なところにあるため、例えば、ヘッジファンドのアドミが出来るのだからプライベートエクイティも普通にできるだろう、ということは決してないのです。実際に業界標準とされるシステムひとつとっても、ヘッジファンド用のものとプライベートエクイティ用のものでは異なる会社がそれぞれ開発した全く別物のシステムです。それくらいワークフローから何からが異なるので、実はすでにロングオンリーを扱っているからヘッジも出来る、とかヘッジファンドの受任をしているからベンチャーキャピタルの受任も問題なくできる、ということはなく、結果として大手ですら新しい戦略に事業を拡大しようとするならば、システムや経験を持った人的リソースも手に入れる必要があるものの、日本国内に限定して話をするならば、そもそも独立系のファンドアドミの数が極めて少ないため、買収対象や人の引き抜きを含めた経験者の採用が困難なのです。

何が日本でのファンドアドミの背中を押すのか?

まだまだ未熟な業界、なので 背中を押してください。ではどうしたら、新しいプレーヤーが出やすくなるのでしょう。
端的に言えば、上記で挙げた足枷を解消できればいいのでしょう。それは

  1. アドミサービスに対する適正な報酬体系
  2. アドミを運用者が内製化せずに第三者が適切に行うことを求められる投資環境
  3. ファンドアドミの経験者もしくは周辺業務の経験者の増加

どうみても都合のいい世界ですよね(笑)

1.は特に更に圧力が掛っていますので、逆行するのですが、他方で安いけどクオリティが、という声も散見されますので、そろそろ費用対効果という観点で評価する環境に代わってほしいなぁ、とは思っています。

また、2. については、実は年金投資家によるファンド投資が AIJ 事件で取りざたされた時に、ファンドの評価報告についてアドミから直接受託者に送付されるよう求められていましたが、それでも特にプライベートエクイティの世界ではアドミ=運用者の構図が変わっていませんので、このタイミングでMadoff 事件で米国のファンドのアドミは外部委任することが求められたのと同じようになることを期待したのですが。。。

3. については仮に増えたとしてもファンドアドミのビジネスが魅力的に見えないと増加しても成り手が増えない訳ですので、ビジネスとしての魅力が高めるという自助努力も必要だということは認知しております(笑)

私もこの業界の末席を汚しておりますので、どうにかして盛り上げたいなぁ、と日々思っています。さてどうしたもんじゃろなぁ。。。

パナマ・ペーパーで大騒ぎしてますが、これの本当の問題ってなんですの?

レポートを見てなにを舞い上がるのか。。。
レポートを見てなにを舞い上がるのか。。。

これを慌ててアップしようとしている今日(笑)、その日本時間の早朝(2016/May/10日本時間午前3時)に、いわゆるパナマ文書、とかパナマ・ペーパー、とか言われるパナマの法律事務所から流出されたとされる文書の全貌が公表されました。

あ、ちなみに、一通り見ましたが、ごく普通の人、なんだろうなぁ、という日本人の名前が1000人近くさらされているのもどうなの?と思ったりしましたが、念の為確認しましたが私の名前はありませんでした(笑)

台湾が Province of China という扱いなのに怒っている人がいるだろうな、ということと、日本にいるとされる外国人の名前の多さ、そして多分、知人ひとりの名前を見つけたのはさておいて。

オフショアのファンドを生業の一つとしている私的には、変な風評被害になりかねないなぁ、とずーっと気になっていることではあるものの、なんで世の中がこれにそんなに騒ぎ立てているのか、本質じゃないところで騒いでるようにしか見えないので、「擁護するとはけしからん」という声が聞こえることを前提に、ちょっときわめて個人的な視点でまとめてみようかと思います。

ちょっと注目してほしいと思っている点

  1. どういう訳か顧客の情報機密性の高いはずの弁護士事務所、しかもパナマなんてオフショアの金融センターとしては極めて微妙な国の法律に携わる事務所から情報が出た、というのが個人的には何かしらの悪意があるようにしか思えない。実際、これをリークしたのがジャーナリスト集団ですので、別の意図で追いかけていた流れで見つけたんでしょうけど。。。言い換えると、情報自体が盗難品の可能性があるわけです。信ぴょう性はあるでしょうけれども、その情報ソースと取得方法について誰も違法性を問わないのはなんでしょう。クラッカーたち(世の中的にはハッカーと呼ぶでしょうけど、IT geek 的には人様のサーバーに不法に入りこむ連中はハッカーではなくクラッカーと呼ぶべきと、20年以上前から主張してますので、わたくし。。。)による被害、とされていますが、この連中はいったい誰に頼まれたのか。。。
  2. 確かにパナマは 2000年までは FATF (Financial Action Task Force) のブラックリストに、つい今年の2月まではグレーリストに載っているほど、反マネーローンダリング/反テロリストへの資金供給に対して協力的ではありませんでしたが、今では協力的になっている(というより、最近の方向転換を歓迎されてグレーリストから外れたばかり)なので、いわゆる US/UK FATCA や CSR (Common Standard Reportings) を通じての税務情報交換協定に協力的。ということは、ここに記されている、アメリカが指定した独裁国家の独裁者の家族、のような人を含むいわゆる各国の政府高官関係者など (PEPs: Politically Exposed Persons、ってこの間の記事で紹介しましたよね)が今のこの時代に自己の資金管理のためのオフショアの会社などを作り、取引口座を開ける、というのが難しいのが今のルール。この間ファンドを作った時ですら、かなり厳しい手続きを求められました。言い換えると、ここに名前が上がってきている諸国の政府高官から大金持ち、セレブリティたちは、昔のヨーロッパの富裕層が資金とその秘匿性を守るために作った仕組みに乗っかって、20世紀後半から21世紀の最初の7年の間にその当時のルールに基づいて行ったことの結果である以上、その当時の居住国と口座開設国の双方の国での法制度上の問題点や現在の法制度との違いを問うことをせずに、後だしジャンケンで、今の世の中で解いている倫理上の問題点を突き上げて資産隠しで税金逃れ、といるとみることが出来ます。ぶっちゃけ、最近かなり増えた、自分のその瞬間に感じた主観だけが正義と大声で言えば通ると思い込んでいる、よくいる近視眼的な連中と変わらない、というか、時代遅れの情報を引っ張り出して騒いでいるゴシップと変わらないようにしか見えませんが、そういうと怒られるのかな。
  3. 以上のことをここではパナマに限って話しているものの、私たちが普通にファンドを組成するときのように複数の国の複数の投資ビークルなどを組み合わせた投資スキームを使うのは(日本国内で売られている公募投資信託ですら)普通のことなのです。しかし、パナマ・ペーパーで「も」パナマ以外のオフショアの様々な関与をつまびらかにして、オフショアがいかにお金に汚らしいか、のように見せてますが、オフショアとオンショアを結び、オフショアとオフショアを結び、オンショアとオンショアを結ぶ、世界中の銀行と中央銀行をつなぎ合わせたお金の流れるネットワークは、今や世界中の情報の流れを一手に担っているインターネットと同じ社会インフラであり、またこれと対比する説明をするならば、ウェブサーバーが情報に意味づけをして再配信する役割をするのと同じように、ファンドなどの投資ビークルなどはお金がその力を特定の目的のために使われるように集めて利用する役割を担っているわけです。そこにはオンショア/オフショアの違いはなく、利用する人の意図によって使われ方や影響が大きく変わる、というのは情報インフラであるインターネットが誰もが分け隔てなく使えるがために、人助けにもテロリストの情報発信にも同じように使われるのと変わりがない、のです。(これも怒られるんだろうなぁ。(笑))
  4. ちなみに、今回オフショアの舞台としてあげられている国として、パナマはもとより、BVI、バハマ、(あと、本ブログでもご紹介したベリーズか(笑))のようなカリブ海の島々だけでなく、香港、セイシェル諸島、ジャージー島、ガーンジー島、マン島といった英連邦系オフショア地域、マルタやキプロスのようなEU 加盟国でもファンド設立に使われる国、シンガポール、そして、ニュージーランドやイギリス、ワイオミング州といった、一見オンショアのはずなのに非居住者が設定すると非課税になるメリットを生かせるスキームの存在するオンショアまで、縦横無尽に使われていることがわかります。が、実は日本の信託勘定も非居住者が設立して使うと非課税のメリットがあることが海外では知られています。なので、オフショアがとかオンショアが、という観点で租税回避地をつるし上げるのは早計ではないかな、と。
  5. ちなみに、今回ケイマン諸島とバーミューダがほとんど出てきてませんが、前項のそれぞれの国のビークル管理の観点で比較するとこの二つの地域は個人資産を抱えるには維持費などがかかりすぎる、ので敬遠されていたのかもしれません。

で、結局これで得するのは誰?

各国の税務当局だけ、な気がしてるのは私だけ?でも、こんな租税回避地に逃げたいと思わせる課税ルールを作った自分たちの結果、という反省がないんですよね。ええ、私は働いた人たちが正しく報われて、かつ社会インフラの費用は国民全部が公平に負担する仕掛けを作るべき、と考えているフラット・タックス信者ですので、こんな累進課税の結果のなれの果て、である今回の騒動については、すべては課税ルールが悪いから起きただけじゃねーの、くらいにしか思ってません。はい。
とまぁ、久しぶりに、個人的なブログで書くぐらいの私的感情丸出しになりましたが、ゴシップの人たちから比べれば公平性を保つように書いたつもりですのでご容赦を。

[追記 10/May/2016 23:51 JST]

ちなみに、interactive 版で企業名や名前を入れると関連するオフショアでの会社や他の関連する人物などが図示されます。ある意味わかりやすいのですが、わかりやすすぎて個人の住所とおぼしき情報まで出てきますので、正直こんな社会的制裁を加えることに疑義を覚えずにはいられません。

オフショアって、なあに?今更だけど、ついでにもう一つ。

絶対、人のいない浜辺=オフショアって思うでしょ?
絶対、人のいない浜辺=オフショアって思うでしょ?

前回、諸般の事情、と匂わせたことがありますが、その諸般の事情さまの偉い方からこんなありがたい言葉を頂戴したそうです。きっと読んでいるんだろうなぁ、と思いつつ、晒させていただくならば(晒すんだ、と思ったでしょ?)

「オフショアって、脱税天国とか投資詐欺とか悪いことをする場所というネガティブなイメージが先行する」

ええ、そうでしょうよ。直近で言えば、AIJ 事件は新聞を読んでいれば詐欺の手口がケイマン諸島のファンドを使ったものだったから、という印象だけを植え付けられていましたからね。それに、この脱税天国、tax haven がカタカナ英語で「タックス・ヘイブン」から「タックス・ヘブン」にすり替わった結果という、如何にも音だけで判断する日本人らしい(ベーッ、だ)理由があるわけです。そのおかげで、オフショアを仕事にしている私なぞ常に怪しい人扱い。風評被害です。実際に詐欺師がメインで詐欺を働いたのは日本国内でオフショアの関係者は問題がなかったのは後から出たけどまともにメディアは取り上げなかったし訂正すらしなかったのですから、扱いとしてはひどいものです。

と、言いつつも、期待できないマスメディアに依存せずに、自分からちゃんと発信して理解を得ることが一番大事、と思い、ぐっとこらえて下記のようにまとめてみました。本当は一番最初に書くべきだった内容ですが、今更、でも、今だからこそ。

そもそもオフショアってどこ?

オフショア、という言葉を聞いて、先ほどのような「どう自分が正しい知識と無関係な個人的な感覚と印象論でものを語る」かはさておき、筆者のように金融にとっぷりと身を浸かった人間と、例えば IT の開発に携わる人とでは、その印象は微妙に異なるはずです。こちらの世界だと、オフショア開発といえばベトナムやインドといった「海外の(低賃金な)開発拠点」をさしますよね。(ええ、私自身の1/10 はえせプログラマーのつもり、ですから一応両方を知っているつもりです。)

ファンドや証券化などのストラクチャー・ファイナンスといった金融の世界ですと、ケイマン諸島、ブリティッシュ・バージン諸島(BVI) 、バーミューダ、ジャージー島、ガーンジー島、モーリシャス、セイシェルあたりをまず指し、人によってはオランダ領アンチルス(2008年に既に解体されてましたね、そういえば)やマレーシア領ラブワン、香港、シンガポール、ミクロネシア、パナマ、バハマ、ニュージーランドなどなどを含めたり、あえて外したりします。ファンドの世界ですと、この他に有名なファンド設定地としてルクセンブルク、アイルランド、キプロス、マルタといったEU 加盟国を入れたがる人がいますし、オフショアに共通のあるルールに基づくと、ロンドンが実は世界最大のオフショアなんじゃない、という人すら出てきます。

で、オフショアってなんなの?

じゃあ、オフショアってどういう定義なの、と立ち返ればいいわけなのですが、その言葉の本源的なところを捕まえて語るならば、

オフショア(Offshore)は岸(shore)から離(off)れ海に流れる風、つまり「陸風」のこと。 反対語は、「海風」を意味するオンショア(Onshore)(cf. 海陸風)。 転じて陸から離れた沖合や、本拠の外の海外のことをさす。(Wikipedia)

となりますが、ITで使う際には「コスト」の要素も入れる必要があります(シリコンバレーでの開発をオフショアとは呼びませんよね。)し、同様に、金融、特にファンドの世界で見るならば、概して次の条件を満たす自国以外の国や地域を指す、と考えてよいかと思います。

  1. ファンドを設立するための法制度が完備されていて(従って、問題が起きた時に裁判をすることで解決出来る法務インフラや法制度の運営を管理する金融当局が整っている)
  2. かかる法制度に基づいて設立されたファンドに対して(特にその国の非居住者投資家に対する)一定の条件が満たされていると免税もしくは低税率での課税が適用される(ということで、それに満たさないファンドはその国の住人同様に課税されるリスクがある、ということでもあります。)
  3. 設立されたファンドに対する企業向け商業サービスの提供があること(従って、そのサービスを持って非居住者が居住することなくファンドを維持することが出来る、のです。)

この条件で見ると、前述の国や地域、都市であてはまるのは。。。

ケイマン諸島、ブリティッシュ・バージン諸島(BVI) 、バーミューダ、ジャージー島、ガーンジー島、モーリシャス、セイシェル、オランダ領アンチルス、マレーシア領ラブワン、香港、シンガポール、ルクセンブルク、アイルランド、キプロス、マルタ、ニュージーランド、

あたりになります。

オフショアっぽいのにオフショアじゃない。オフショアなのにオフショアじゃない振りしている。

というのも、ミクロネシアは実は法人税が税率が21%と日本のタックスヘイブン対策税制における外国子会社等に該当させないように設定されているので低税率にあたらないのです。ですので、持株会社や金融サービス会社の設立、あとは保険会社の設立には適しているとされていますが、ファンドの設立地には不向きと言えます。

また、ロンドンについては2つの意味でオフショア金融センターだと呼ばれていたのですが、一つは、世界最大のユーロダラー市場、すなわち、米国の外で取引される米ドルの流通市場という国外資産の非居住者の取引(いわゆる外外取引)に対する「場所貸し」、もう一つはファンド・マネジャーのような特定の業種(しかも一般的には高給取りになり得る、と思われている業種)に対する誘致目的での低税率の所得税の導入、や非居住者による不動産取引へのキャピタルゲイン課税の免除、といった、どちらかといえばオフショアの本来の意図というよりは「タックスヘイブン」の側面から来ていた話なのです。ちなみに、後者のうち優遇税制は金持ち優遇の批判が高まったことから終わり、それに伴ってロンドンからジャージー島やガーンジー島、スイスにその殆どが本拠地を移したと言われていますし、不動産取引への課税は2015年4月からそれぞれ始まっていますので、その意味ではロンドンは今では外外取引としてのオフショア市場として世界最大の取引量のある市場としての地位だけ(それでも十分なはずですが。。。)を保持している、と言えます。ですが、ファンドを始めとするストラクチャー商品を組成する本拠地としては非居住者にとってのメリットは見いだせません。

オフショアの偏見を正していただきます。

さて、少し世の中(というか、少なくとも、諸般の事情の某偉い人)にその偏見を払拭してもらわないといけないので、問題を整理しましょう。

1を見ればわかるように、ファンドの設立というのはそもそも当事国における法制度がしっかりしていないと世界中の投資を目的とした資金を集めては、そのファンドの目的の通りに投資が行われて、投資が終わった時に投資家の権利である投資資金と余剰収益を返還する、という約束事を法的に担保する仕組みがないことになり、誰もおっかなくて見向きもしない、という結果に終わるのです。その意味では、この日本語で書かれた文章を読んでいるあなたや私にとって一番安心して信頼できる日本の法律とファンド関連の権利義務関係を定める法制度という意味ではオフショア地域のそれはほとんど変わりがないか、さらに柔軟性や保全性を高めたものがあります。なぜかって?そうでなければ世界中のファンド設立地の間での競争に勝ってより多くの投資資金と投資事業、そしてそれに関連する雇用・ビジネスを誘致できないからです。

そこで絶対にこんな質問が出てくるのは容易に想像できます。

では、そんなにきっちりしているはずなのに、なぜオフショアを舞台にした詐欺案件が出てくるのか?

簡単なことです。同程度の法制度のある日本では詐欺案件がない、と言いきれますか?日本の金融商品取引法の第63条の適格機関投資家向け特例業務を用いて簡易的に設立された個人向けの投資案件で多くの高齢者などが詐欺を働かれた結果この特例業務の適用条件を変更しよう、という動きが起きていますよね?
同じように世界最大の投資家の本拠地であるアメリカ合衆国でも詐欺案件がなかった、でしょうか。Madoff はアメリカのオンショア・ファンドが舞台でしたよね?確かSEC監督下にあった運用会社が問題を起こしてませんでした?

オンショアだから安全で、オフショアだから危険、ではないのです。この辺りは以前の記事で書いていますのでこちらもご参照ください。

オフショア=低コスト、だから低クオリティ?

さて、先ほどの IT のオフショアの時にキーとなったのが「コスト」だと説明しましたが、ファンドにとってコストとはなんでしょう。

上記の3のような金融サービス会社に払う費用、例えば法務費用(弁護士先生ですね)、監査費用(会計士先生ですね)、ビークル管理費用(ファンド・アドミニストレーターや現地当局への登録・年次届け出費用)、資産保有・管理費用(カストディ、銀行、トラスティ)、ファンドの運営・統治費用(ディレクターや管理会社)、資産運用報酬(ファンド・マネジャー)あたりが必然的にかかります。

これもそこそこかかりますが、もっとインパクトのある「コスト」は、税金です。証券取引に関連するキャピタルゲイン課税や利金・分配金への源泉徴収、などなどありますが、利益の10-40% も取られる(アメリカが高税率の所得税から逃げるために国を捨てるのを防ぐために世界中に無理強いしている FATCA に至っては、もしアメリカの納税義務者でないことを証明できない場合には米国関連資産の売却額(利益相当分ではなく、元本も含めて、ですからね)の 30%を課税する)のは前述のサービス会社に払う費用から比べればとんでもないインパクトがあります。

そこで、ファンド設立地の一部、例えば、シンガポール、アイルランド、ルクセンブルク、キプロス、マルタ、ジャージー、ガーンジーあたりは、金融サービス会社への費用収入が設立地の雇用促進、結果として税収の増加につながることから、現地の金融サービス会社を使った場合にのみ取引に係る税金を減免する措置をとりますし、そもそも人の少ない(!)ケイマン諸島やBVI あたりは監査やトラスティは設立地にて当局からのライセンスを受けたもののみが受任することで課税関連を減免し、その他の機能、例えばアドミニストレーターは世界中のどこで行っても良いとすることでファンドの組成・運営に柔軟性を持たせることでより多くのファンド設定(と結果的にそれに伴う当局への当初及び年次の登録費用の支払い)を呼び込む、のです。

ちなみに、言いたくないですが、日本の私募投信を作る方が設立コストだけ見ればものすごく安いです。というのも、届け出書類はほぼ雛形状態ですので内容を埋めてコンプライアンス・オフィサーがチェックしたらおしまい。弁護士費用はほぼなし、なのですが。。。法務と法令遵守とがごちゃ混ぜになっているいい例、というべきかもしれません。それが正しいかどうかは本当に微妙です。

タックス・ヘイブンはタックスヘブン?

ところで、このいわゆるtax haven、正しく翻訳するなら「租税回避地」、ですが、ファンド設立地では課税しません、というだけの話、なのはよく誤解を生むのです。というのも、まず、オフショア拠点の居住者や前述のように非居住者による投資を行うためのファンドが適切にストラクチャーされなかったり手続きミスなどのせいで減免措置を受けられない場合には課税される、ので、まず租税回避地は全く課税しない、わけではないのです。そりゃそうです、現地の政府を維持するには税収が必要なのですから。

また、もっと大事なポイントとして、課税が行われる場所が、(1) 実際の投資活動が行われるところ、(2)投資活動の拠点、そして(3) 投資家の所在地、と3つ可能性があるうち、ファンド設立地が(2) にあたり、そこが租税回避地であり減免措置を受けたとしても、(1) や(3) で課税される可能性が残っているのです。例えば、(1) でいうならば、ケイマン諸島籍のファンドが日本国内で発行される国債や公社債を保有した場合の利金に対しては源泉徴収税が15%かかります。また、(3) について言うならば、単純なケースであれば私たちが日本の証券会社で購入したケイマン諸島籍のファンドを売却して利益が出た場合にはその利益に対して日本で課税されます。とすると、(3) のような最終投資家の課税問題は(2) としてオフショアというか租税回避地を使ったところで最終投資家の拠点で課税されるのです。ですが、(2) で課税されて(3) で課税されるよりは投資効率が高いので好ましいと考えることから(2) にオフショアが選ばれるのです。

お金だって人と同じように効率的に移動する。

結果として、飛行機のハブ空港に地方空港から飛行機が集まって人が集まり、ハブ空港間のフライトが増えることでより多くの人や物が効率よく運べるのと同じように、オンショアからオフショアに投資資金が集まり、オフショアからよりたくさん集まった資金を使って世界中に投資してリターンを上げていくことがより効率的であり、今は少なくともその流れでオフショアに資金が流れ込んでいるの事がある意味合理的な実務の結果による、世界的な流れなのです。

という事で、もし、ここまでちゃんと読みきってもらえたならば、その諸般の事情の某氏にもオフショアがいうほど怪しくも怖くもないところだと理解していただけたのではないか、そう期待してますし、そうでないとしたら、私の説明不足という事で、コメントでご指摘いただければ加筆をしていこう、と思うのでしたとさ。

error: This Content is protected !! この記事は印刷不可です。