ケイマン諸島にファンドを作って後悔した、って話を最近よく聞くけど、なんで相談してくれなかったの?という件

最近、色々な人がケイマン諸島に作ったけど、高いよね、面倒だよね、というのを聞くけど、そもそも、それ、本当にケイマンで作る必要があった?ってケースが多いように思って聞いています。ケイマン諸島は確かにファンドを作る意味では、世界中の「みんな」がするけど、今は21世紀、個性の時代なのだから、「みんな」と同じことをする必要があるの?

ということで、最初に大事なことを

絶対、人のいない浜辺=オフショアって思うでしょ?

実際、私のような日本に数少ない本物の、ファンドのストラクチャリングのプロはこう考えます。もう、私のビジネスのノウハウを大公開ですが、まぁ、国内のいろいろな事情を踏まえると、本当にこれで再現できる人っていないから公開するのです。

ファンドを作るときのレシピ

  • 投資対象と投資家のいる場所
  • それぞれの国や地域の法律とその書かれている言語、税金、そして
  • それらをつなぐ租税条約などの条約

すごく簡単でシンプルでしょ?で、このレシピをどう使うか、というと。。。

  1. 投資家はどこにいて、投資先はどこにある?
  2. 投資先の国の外国人に対する投資規制や税制を考える
  3. 投資家のいる国の海外投資に対する規制や税務を考える
  4. 二国間の租税条約や、その他の投資を阻害/支援する可能性のある条約を考える
  5. 検討結果として、第三国を入れることでコスト対比で税務が「劇的」に改善するか考える

あれ?ケイマンどこに行ったの?と思ったでしょ?そうなんです。実はセカンドオプションに過ぎないのです。もし、ここから先を読む時間がもう時間がない、という方は年間でそこそこコンサルフィーを頂けるノウハウを手に入れた、しめしめ、とここで離脱していただいても結構ですが、まだ時間があるぜ、という方は、なぜこのフローで考えるべきなのか、ちょっと下記のあれこれまとめたので見ていきましょう。

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オランダのプロ投資家って? – 世界のプロ投資家の世界から

いつもながら、と思いつつも、このプロ投資家って、気づいたらシリーズ化してしまい、個人的には調べて、知って、比較して楽しんでいるのですが、なかなかその楽しみというのが理解されないようです。

まぁ、それを知ってどうするの?何かのお得なの?と思うのは、当然ですよね。大抵のファンドな人からすれば、プロ投資家って人にあって出資して貰えばいいのであって、その法的根拠とか、その人に募集する際の制限なんてものはあまり気にしなくてもそれこそ「プロなんだからなんとかするでしょ」くらいに思っていても十分、プロのファンドの人の顔をしていられますからねぇ。

とはいえ、そもそも、これを調べることになった大きな理由というのが、某Ariake Secondary Fund なんて無名のケイマン諸島籍のファンドでセカンダリー投資をしていて私自身がファンドのいわゆるdirectorでUS-SECとか金融庁に諸般の登録で名前を出しつつ、コントローラーとして全ての取引の契約書のレビューと署名をしているわけですが、そうなると、セカンダリーで買ってこようとするファンドの持分の発行体であるファンドのGPにとっては新しく投資家になる新参者な訳ですので、それぞれが、その設立国や運用者のライセンス国、ファンドアドミの所在地などにおけるAML/KYTCは当然のこと、プロ投資家であることの表明保証を求めてくるのです。

で、過去の色々なプロ投資家の定義を見てわかる通り、どこかの国のプロ投資家であれば、他の国のプロ投資家として認めてくれる、なんて都合のいい話なんでどこにもなかったのですから、常にAML/KYTCだけでなく、求めてくる表明保証についてはしっかりと理解して、表明保証出来るかどうか検討する必要があるのです。

で、まぁ、ざっくりというと、それをやっていると、なんで他の(特に日本の)投資家っていうのはこんな意味のない表明保証を求められているからっていう理由だけでやっているの?という、馬鹿げたことを平気で受け入れてやっているなんていうことにも気付くし、ど直球のロジックとやんわりとしたアプローチでそんな馬鹿げた要求をまだ対応可能なものに変更させるネゴ能力もついてきた一方で、それすらしていないことが透けて見えてきた業界の人たちの顔を思い浮かべては。。。いや、これ以上言うと石を投げられるからやめておこう。

ということで、そんなことの繰り返しを気づけばもう数十ファンドでやっているため、こんなにストックが出来てしまった、という訳なのです。が、今回はなぜかオランダ。残念ながらベネルクス三国で行ったことがあるのはルクセンブルクだけでオランダには行ったことがない。とはいえ、数年前に、6ヶ月かけて一生懸命就労ビザを取って3ヶ月のインターンで受け入れた子の出身地がオランダですので、弟子のいる国、と思えば縁がある、とも言えますので、私的にはその意味では不思議はない、ということでいつものように、これ以上長い話に付き合えない方向けのセットはこちらからどうぞ。

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AMLCOとか MLROとか DMLROとか、知ってますか?準備できています? – 多分今ケイマン諸島籍ファンドで一番熱いネタの一つから

Rule is rule

常にコンテンツを書くのが遅い当ブログですので、最新の法規制の話を書こう、とすると気づくと締め切り後になりかねず、というのもありあまり触らないでおこうかな、とか思うこともあるのですが、最近だいたい2週間に一度程度、2000文字に起承転結をちゃんと入れて書かせていただいているサイトがありまして、そこでちょっと文字数少なめに取り上げた表題のネタがあるので、こちらでは普段通りのペースでちょっと書かせていただこうかな、と。クロスポストにならないように一から書きますので損はさせませんよ。

ケイマン諸島のAML/CTFはある意味OECD諸国で最先端(?)

Rule is rule大きく出てみましたが、今回のネタの確信ってここにあると個人的には思っています。何かというと、2018年の6月1日以降にケイマン諸島で設立されたファンドや、それ以前に設立されたファンドについては、その登録の有無を問わず、2018年9月30日までに、専任の Anti-Money Laundering Compliance Officer (AMLCO)、Money-laundering Reporting Officer (MLRO)とDeputy Money-laundering Reporting Officer (DMLRO)を任命して、Cayman Islands Monetary Authority (CIMA)に届け出る義務付けを行いました。

もともとケイマン諸島では AML Procedureを各ファンドが定めて投資家を受け入れる時に AML/CTF (Anti-money laundering / Combatting terrorist-financing) の調査を行うように定められていたのですが、これを一段厳しくして、この投資家 due diligence の遵法確認をする担当者を置き、またもし疑わしい場合には当局に届け出る責任者を定めるように求めた、ということです。

ファンドを設立したことのある人ならイメージはあるかもしれませんが、AML Procedure の導入前を考えると、ファンドの設立の時にファンドのスポンサーに対するdue diligence をファンドの口座開設の際に行い、その際にAML/CTFの側面での確認も行なっていました。他方で投資資金の出し手である投資家に対するdue diligence というのも一応は行なっていましたが、US-FATCA/CRSの観点での税務的側面での確認が主なものでした。となると、実は資金の大きな流れである、投資家の資金に対するAML/CTF的なチェック機能が不十分では、という問題が生じ得るのです。そこで、ケイマン諸島ではAML Procedureを導入するように規制をかけたのです。

とはいえ、その実効性という意味でいうならば、投資家の投資申し込みの手続きでの本人確認を行うのがファンド・アドミであり、現実的にその本人確認のプロセスもそのファンド・アドミの規制を行うその所在国における本人確認の要件に依存することになり、またその結果の疑わしい投資家などの情報収集という観点でも機能しづらいことが見えてきます。そこで、後者に対する対応として今回のAMLCO/MLRO/DMLROの登録制度を導入することとなったというわけです。著者の知る限り、ファンドレベルにまでAML/CTFの義務をここまで厳しく導入している国というのは実はありません。

ちなみに日本はどうなの?

日本におけるAML/CTFについては、世界的なAML/CTFへの対応強化の流れに合わせて、今年3月に金融機関等に対して従前より高いレベルでのAML/CTF対応を行う取引先 due diligence を行うようガイドラインが提示されました。このガイドラインの基本的な作りは政府間機関のひとつである金融活動作業部会 FATF (Financial Action Task Force)の第4次勧告に基づいたものでして、実は来年の後半に金融当局とランダムに選ばれた金融機関や金融商品取引業者へのヒアリングが行われてそのガイドラインの実効性や実務的組み込みの実態を調査されることになっています。特にランダムに選ばれた金融機関等というのが、悪意を持って取引を行おうとする人ならば規制に対して意識が薄かったりコスト的な観点で「狙い目」となる零細業者を入り口に選びがち、という現実を踏まえて、国内の金融当局がお勧めする「規模的にも実務的にも模範」というウィンドウドレッシングをさせない、という現実的なアプローチの検査をされる、ということなのです。

今年の前半あたりからこの辺りの実務、特にリスクベース・アプローチと呼ばれる、顧客の属性(資金の出所が怪しいとか、職業が微妙とか)だけでなく、金融商品取引業者が提供するサービスによってマネーローンダリングとかテロ組織への資金供給する可能性についても評価し、それぞれの可能性の高さによって取引開始すべきかどうか判断する、というプロセスをいかに日本中の隅々まで導入できるかがポイントになりそうです。

他方で、日本では犯罪収益移転防止法に基づく取引時における本人確認が行われてきました。この際、個人は本人確認の出来る書類(運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなど)の提示で済むのですが、法人の場合、個人を隠して取引が可能、ということで、法人の設立を証明する資料やその窓口での取引担当者の本人確認に合わせて、法人の支配的地位にある人(株主や取締役など)の情報を提供することが求められています。この考え方は日本に限らず世界中で同じように法人口座を開設する時にはその法人の支配的地位にある人の情報提供を求めます。

世界基準と日本基準の狭間には

さて、テクノロジーからサービスのクオリティまで、日本は世界の最先端にある、というのがどうも私たち日本人の矜持であり、信じるところではあるのですが、ではこの辺りの規制の実効性や妥当性という観点ではどうなのでしょうか。

FATF が2014年に定めた「透明性並び受益権に関する指針」(“FATF Guidance – Transparency and Beneficiary Ownership”)の中で、議決権保有者に関する所有権比率による基準として、数値的なものは特に決めないものの「例えば25%」と書いてあります。ということは、世界的な取り決めならば25%以下なら数値的にはどれでもよくないか?ということになり、日本は一番ゆるい25%を選んでいることになります。ええ、世界の最先端の日本が、です。

で、オフショアという金持ちの資産隠しのための楽園、ケイマン諸島での情報開示の規制はいくつか、というと、10%です。ちなみに、この10%というのはケイマン諸島だけでなく、オンショア、オフショア含めてかなり多くの国でも採用されていることが知られています。

資産を隠す、というだけではなく資産を世界中に移転させるための口座の開設や移転手続きをするために、その支配的権限をもつ個人の情報をより多く出させているのは、日本よりもオフショアだ、という事実があるのです。

じゃあ、情報を出せばいいじゃないか、と単純に思うかもしれませんが、本人確認資料を準備するのは思うほど簡単ではありません。本人が本人であり、またそこに税金を納めるだけ生活を根付かせている証拠なんてものは、その人の出生地や現在の居住地の発行する証明書であって、パスポートや運転免許証で本当に足りるかと言う問題がある一方、その写しを提出することになる訳ですからそのコピーが「本当にその写しである」という証明、そして日本人なら特に、それらの書類を発行する役所の文書が日本語である以上、「その記載内容が提出先に理解されるように翻訳され、その翻訳が正しく翻訳されている」、と言うことも証明せねばならないのです。(香港あたりだと広東語と英語の表記だからこんな問題はないんですよね。ま、役所が公用語以外の言語で責任持って公的文書を発行できるかどうか、でこう言うところに民間のコストが増加させてるんですよね。国内の手続きの効率化だけに止まらない話ですよね、この英語問題って。)

日本においてファンドレベルでのAML/CFT確認は必要?

さて、ちょっと話を別の角度から見たいと思います。

日本においては通常の有価証券等の取引というのは銀行か証券会社を経由して行われるケースがほとんどですので、これらの金融機関の口座開設時点での調査や継続的なモニタリングによる口座の実質的保有者の素性確認を行い続けていれば、公募や私募の国内投信や会社型ファンドの投資家に関するチェックが間接的に行われていることになるので、ファンドレベルで改めて調査を行う必要はない、と考えることが可能です。だから、日本でファンドレベルの調査なんて不要じゃないか、と結論づけるのはちょっと尚早です。

これらの金融機関の証券口座を作らずに投資できるファンド、というものが存在する、としたらどうでしょう。ケースは理論的には二つ考えられます。

一つは日本に取引口座を開設していない海外投資家が直接投資しようとするケース。これは国内のファンドが海外で募集したら、という話ですが、技術的には国内ファンドをマスターファンドにして、海外投資家向けの外国籍フィーダーファンドを作ってそこで投資家を受け入れる、なんてことがあれば、外国投資家が直接マスターに投資させろ、と言ってもおかしくはない、のです。ま、受け入れないことで事務的に発生させない可能性が高い話ではありますが。。。

もう一つは、現実に今そこにあるケースです。例えば プライベート・エクイティファンドやベンチャーキャピタルファンドで使われる投資事業有限責任組合スキームの場合、証券会社にその持分を販売させる、ということをほぼしませんし、通常よくわかっているプロ投資家相手ですから、直接の取引をするのがほとんどです。

とはいえ、これもいわゆる金商法第63条の適格機関投資家向け特例業務の登録をして一人の適格機関投資家と複数のプロじゃない個人向けの投資家を持ってくるという使い道をすると、プロじゃない個人投資家も直接投資することになります。銀行から組合に送金しながら組合契約にサインすればいいだけですからね。それなりの金額ですから銀行は送金の目的を確認しますが、ファンドのための調査ではなく、自身の取引に対するAML/CTFへの関与の有無のチェックに過ぎないのです。

言い方は悪いのですが、この手のスキームを使って個人から資金集めしたい、というニーズの背景に規制対応が面倒、コストが掛かる、というものが聞こえる一方で、じゃあ、その手間を惜しんで投資家保護の措置をちゃんと自主的に取っているか、といえばかなり否定的に見ざるを得ません。そんな世界ですので、AML/CTFに対する意識があるかといえば。。。

とはいえ、いわゆる63条業者と呼ばれる人たちはまだまし、です。それでもギリギリ法律の免除規定を使おうという努力と、最近ではかなりスタンダードの高くなった年次の事業報告を当局にしよう、と思っているからです。もっとひどい(!)のは、「コンプライアンスのスペシャリストが考え出した完璧な抜け道」と称して使っている「合同会社」を使った投資スキーム(と呼べるかどうかすら疑問な手口)です。金商法上、いわゆる2項証券ということで組合持分と同じ扱いであることから、その私募というのが適格機関投資家ではない投資家は最大500名まで募集することが出来る、という読み方をして、かつ直接縁故的に自分たちから営業せずに受け身にメーリングリストで自主的に申し込ませたりウェブサイトからの問い合わせ、といった、いわゆるリバース・ソリシテーションで合同会社の社員を集めれば募集行為にすら当たらないじゃない、的にやっているケースですね。ここまでくると、自分たちは金商法の外の世界だと考えている節もあるほどですから、AML/CTF意識なんて皆無、というか自身のMLのためにやっているんじゃないか、と思えるくらいです(ごめん、でも、正直そんな話に以前昔出くわしたからはっきり言わせてもらう)。と言いながらも、前述の通り、合同組合の持分は金商法の取り扱いの範囲内です。ですので、会社の事業として株式を取得することだ、といって自己運用するのは、自分の資産のためならばまだしも、赤の他人を巻き込むならば、63条特例業務くらいは届け出ろよ、と言う感じです。でも、これも間違えて投資するとなると、当然証券会社等を経由しないで持分の取得が可能なものなのですからこれらの金融機関でファンドの資金に対するAML/CTFの確認が抜け落ちるケースでもあるのです。

最近このスキームを使って投資家を集めているエンゲージメント投資が数件いると言う話を聞いたので、警鐘を鳴らす意味でちょっと触れて見ました。

まとめ

と言うことを考えてみると、実は金融機関以外にもファンドに資金がプールされて投資に振り向けられる以上は金融機関と同じように資金の流れをカバーする限りにおいてはAML/CTFのゲートキーパーにならざるを得ない、と言う世界的な潮流についていく必要があるのかもしれません。

ファンドを立ち上げて運営する、って格好のいい話です。でも、第三者のお金を責任持って運用する、と言うのはリターンを投資家に提供する前に、それ相当の社会的責任を負う話でもある以上、世の中がAML/CTFに対して厳しい姿勢を打ちだそうとするならば、それに追随するのもファンドがより社会のための器としての認知されるためには当然のこと、とこの投資の世界のエコシステムにいる人たちや入ってきたいと考える人たちに考えて欲しい、と思う次第です。

Say something on cryptcurrency: ICOって儲かるの?

(著者注:2017年11月19日にあれこれ加筆修正しました。まずは書いてそれから加筆修正する、と言う方がよりたくさん書けるような気がしたので遅筆な私にとって良いような気がして実践して見ました。)

この間某ヘッジファンド関連で仲良くさせて頂いている方から呑みの席で

「なんか、最近ETFネタばかり書いてるじゃない?あれ、bitcoin に流れるんじゃなかったの?」

あ、読んでくれてるんだ、とそっちを喜んでしまった自分がいたのは内緒なのですが、どうもbitcoin ETFの話を軸にあれこれ書かせて頂いたことで、最近ちらほらと、bitcoin関連のお問い合わせを頂くようになってきました。(で、ETFの仕組み関連の問い合わせはぱったりなくなったのは。。。嫌になっちゃったからかな(笑))

で、そのお問い合わせの中で必ず出てくるフレーズが

「ICOやりたいんですよね」

うん、最近、ICOで資金調達、なんて話は、仮想通貨というか暗号通貨、というかcryptocurrency という表現でbitcoin を含んだ全般的な話をする時の総称ですけど、そんな話をしていると、bitcoinの売買益でフェラーリを数台買ってリース業を始める、なんて類の結局のところ、日本にいるならば仮想通貨は取引対象に過ぎなくて生活して儲けた結果の評価をするための通貨は日本円じゃないと食えないから泡銭をロンダリングしてんじゃん、という話を同じくらい頻繁に聞こえてきますが、普通に聞いているとよくわからないですよね。それがなぜ儲かるのか、とか、そもそもの仕組みとか。

とはいえ、これってファンドでもオフショアでもなんでもない話なんですよね。それでも、日本が世界に誇る(ことにはまだまだならないだろう)ファンドのストラクチャラーによる ICOの解説、聞きたい?

ということで、この手の話をする時に、ストラクチャラーとしてみるのは法的な作り付けと、経済的な効果の二つ。なので、それぞれの側面で、ICOというより cryptocurrency とそれを ICOしたい企業との関係で考えてみたいと思います。

cryptcurrency とICOを含めたその売買の法的側面とは?

そもそも、bitcoin や ether、最近だと、ICOした Qashなどなど、いわゆる cryptocurrency とは一体なんなんでしょう。Qash で ICOした Quoinex のウェブサイトの下に思いっきり答えが書いてあります。

仮想通貨は、日本円やドルなどのように国がその価値を保証している「法定通貨」ではありません。インターネット上でやりとりされる電子データです。

法定通貨が「国がその価値を保証している」、という表現は正直疑問はあります(その昔のイギリスポンドが1ポンド紙幣をイングランド銀行に持ち込むと1ポンド(450g)の金を受け取れた、というような支払いの裏付けがなく、国の信用力/法的強制力が裏付け、ですからね。)が、法律で定められた通貨としての円のようなものではなく、仮想通貨はそもそも、ただの電子データ、なのです。いくら、暗号化された取引履歴を元にしたもの、とは言え。。。

ICOで資金調達、ってことはIPOに似てるからそのICOした会社の株とか、会社の保証みたいなものじゃないの?

会社が資金調達する、というと、通常は銀行などからの借り入れ、といういつか返さなければならない債務を負うか、会社の権利の一部を株式という形で渡す代わりに債務と異なって返さなくともいい資金を得るか、のどちらかです。IPO(Initial Public Offering)というのはその株式での資金調達の方法の一つで、その会社が初めて(initial)公開(Public)市場、すなわち株式市場にて取引できる環境を通じて、株式を提供する(Offering)ことをさします。なお、上場しない企業だって、第三者割当て、という形で第三者な投資家から株式譲渡を通じて株式での資金調達が可能です。

では、ICO (Initial Coin Offering)はこのどちらに当てはまるのでしょう。これを書いている2017年11月現在、進行形で進んでいるICOをしているのはQUOINEという会社さんですが、ここは3.5億のQash トークンをICOして134億円相当の資金調達をしたそうなのですが、実はこの会社の株式はすでにベンチャーキャピタル数社などが取得しています。そんな状態で134億円の株式を世界98ヶ国およそ5,000人弱の不特定多数に発行したら古くからいるベンチャーキャピタルの支配権が薄まってしまいますので困りますよね。

ということは、どうやら、ICOでQashトークンという電子データを売って134億円相当を資金調達した、というよりも売り上げた、と考えた方が良さそうですね。

そうなると、会社の側からすればcryptocurrency のインフラの維持という義務は負うものの cryptocurrency の構造に内包されていると考えてしまえばさしたる負担ではなさそうで、そうなると、通常に資金調達したい会社がその権利を売ったわけでも借金しているわけでもない、と考えるのが良さそうです。ある意味、会社の側からすればお得なお話、ですよね。「電子データ」を売り切っちゃったわけですから。。。(となると、この会社のとって資金調達、とはいえ売上ですので収益扱いになるので巨額に集めた = 巨額の売上が計上されるのでそれ相応の税金の負担も発生する、ということになりますよね。。。インフラの維持は半永久的、に対して。。。)

じゃあ、ICOは何を求めて集まったの?

と考えた時に、この5,000人弱のQashトークンという「ただの電子データ」を手に入れた人はQuoine 社に何を期待して買ったのでしょう。単純にいえば、Qashの値上がり、ですが、それを裏付ける取引の流動性の高さや安定性の期待、他のcryptocurrencyや法定通貨との交換の簡便性、はたまた普段のショッピングなどでの決済の汎用性などがその取引量を増やして値上がりに繋がる背景ともいえて、実際にQuoine社はそのような取引所としてのインフラを提供することのために資金調達をしてサーバーの増強などに使う、とされています。

ちなみに、IPOの後の株と同じで、ICOしたこの会社、Qashトークン全体の時価総額が増えたとしても、自分たちが調達できたのは最初に売った時に手にした134億「だけ」です。野に放たれたcryptocurrency の値上がりを享受するのは、ICOによる売り出し市場以降で手元のQashトークンを誰かさんに取引所経由で売却した時に実際の利益になる(冒頭で触れたbitcoin長者的な、安く仕込んで高く売った人、のような例ですね。)、のも株を同じですね。

その意味では、cryptocurrencyと株式との類似性、というのが見えてきます。そこで cryptocurrency の経済的なメリット、デメリット、と言う観点で話を進めていきましょう。

ICOになぜこれだけの注目が集まるの?

企業の資金調達の手法として、今までは株式や債券などを使ってきましたが、金融行政や過去からの商習慣などから資金調達できる範囲も通常は一つの国で、その国の規制にも続いた形に合わせる必要があり、結果としてだいたい調達資金の1%程度が手数料として銀行や証券会社、弁護士などに払わねばなりませんでしたし、いわゆる有価証券で上場していたりすると、四半期ごとに報告書を作成して提出する義務もついてまわります。しかも馬鹿高い監査を受ける必要すらあります。その労力たるやかなりのもので、おかげで上場廃止した方が本来的な株主や会社のためではないのか?という声が上がるのも当然です。

それに対して、もともと国の縛りのないcryptocurrencyならば、取引所にアクセスできる人ならば世界中だれでも、ということで、より幅の広い人たちからICOへの参加を求めることもできますし、何よりいわゆる有価証券ではないことから、定期的な報告もいらなければ会社の何か、ではないので会社の監査等に縛られることもありません。もちろん証券会社や銀行の関与も不要ですから、高い手数料を支払う必要もありません。

そして、流通市場も全世界的ですから、市場参加者もその国へのアクセスが可能な人たちだけ、という狭い市場ではないこと、そして、法定通貨に縛られていないから24時間365日常に動いている流動性の枯渇の心配のない投資対象、と言えちゃうんじゃないの、と信者さんたちは言うのでしょうね。多分。

で、本当に全てがバラ色なの?

どうなんでしょうね。個人的には流動性の問題は市場参加者が常に一定に存在する、と言う仮説は成立し得ないと考えていますから、何かのショックで流動性が枯渇してもおかしくはない、と言うのは多分地球上で一番流動性の高い取引と言われる為替の世界ですら起こると考えていますので。。。「絶対」はないのですから、そもそも。

そもそも、ICOをやりたい、という企業が自社のcryptocurrencyを作ってICOすればいい、という話なのでしょうけど、そのためにはcryptocurrencyの仕組みを作らねばならないでしょうし、Quoinex のような取引所で取り扱ってもらえるように条件を適合させる必要もあります。

となると、while-label 化された取引所での取り扱い実績のある cryptocurrencyを使って自社ブランドをつけて、とするのが早そうですが。。。それってあのcryptocurrencyもこの cryptocurrency も仕組みは一緒、なので資金調達したい会社のブランド・知名度に依存する、ことになるのかもしれません。となると流通量や取引量勝負?ほぼ日経225連動ETFで見た風景と変わらなくなってきますね。とすればcryptocurrency は一定数出てきては入れ替わって淘汰されていく、のでしょう。では淘汰されたcryptocurrency の末路ってどうなるのでしょうね。株で言うところの紙切れ?いや、ただの電子データになるのでしょう。。。

まぁ、そもそも売りっぱなしモデルですから、資金調達したい会社からすればICOしてあとは cryptocurrency の仕組み上の堅牢性と投資家と取引所にリスクだけ丸投げ、にすらなりかねないのですので、そう考えると、ICOで一番美味しい思いをするのは、ICOした人だけ、ですな。

あとはセカンダリー市場で常に市場リスクに晒され続けながらボールの受け渡しをし続けていきながら一喜一憂し、Ms. Watanabe たちのような高級バッグや高級ランチに興じたり、フェラーリを買う人もいれば、「電子データになっちゃった」と笑って次に行くか、はたまた金融系の監督官庁に「よくわからない取引に巻き込まれた」と泣きついて、と言う風景がcryptocurrency でも起こるのかもしれませんね、ってすでに起きてるか。。。

More on ETF: 運用会社の巨大化に伴う、大量保有は何か市場や投資家にとってデメリットって?

ETFやbitcoin の話を書いていると、どうも興味を持ってもらえることが多いようで、この数週間であれこれお仕事のオファーを頂いたりしていて本当に感謝です、というのもあるのですが、その陰に隠れて、当の本人は絶対に匿名でかつ内緒にして欲しい(というか、こんな形で公開されたくはない)はずなのですが、私にこれ以外にも(付き合っているのか、というくらいに何度も)メールを頂いたこともあることから、それに免じて今回のタイトルにあるような下記のブログネタに持ってこいのご質問をくれたのでご紹介したいと思います。(ごめんなさいね。忙しいから、回答含めて記事にさせて頂きますね。)

ETFの功罪 – 大量保有した場合の権利行使は?

質問です。

現在のETF業界は、ブラックロック、バンガード、ステートストリートの寡占が進んでいます。特にブラックロックとバンガードに至っては、指数採用頻度の高い多数大型株の、筆頭株主になりつつあります。もちろん、事実上の株式の管理は信託銀行にあるとは言え、議決権等の権利は運用会社に寄与させると考えております。このような運用会社の巨大化に伴う、大量保有は何か市場や投資家にとってデメリットに繋がる可能性があるのでしょうか?

ぜひ、専門家である宮田様の意見が聞いてみたいです。

残念ながら、ファンドの設立や運営については、多分日本で5本の指に入るくらいまともなセンスと投資家のことを考える専門家ではあると自負はします(これは本気ね。投資家のことを考えない、運用者の都合と自己満足を優先するストラクチャーをする輩が多いのが事実ですから)が、ファンドの運用方針とか戦略についてはかなり無頓着な私ですから、ファンドの保有する株式の議決権行使については本源的にはあまり気にしませんし、さらに言えば、その先にある運用会社の議決権行使の方針による市場への影響、なんてそうそうイメージすることもありません。

ですが、この昨今の日本版スチュワードシップコードのような話を踏まえるならば、次のような一般論程度は言えるとは思っています。

筆者の考えるETFによる大量保有に基づく議決権とその市場への影響とは

まぁ、当の本人にはメールで返した内容なので、記事としては手抜きですが、こんな感じです。

多分にご質問にある問題点は投資家のポジショニングを考える際に影響することでしょうから本来であれば自己の裁量により勘案すべきことと思いますが、私見を述べるならばETFだけが斯様な大量保有とされるポジションを抱えている訳ではないですのでそれを持って市場へのデメリット、という影響があると考えるのは早計でしょう。
そもそも会社への支配的、もしくは影響を及ぼす保有割合は日本のルールでいうならば大量保有届出を義務付けられている 5%ではなく50%でありまた、25%であったりと、ケースにより変わる訳ですので、ETFの市場規模がそこまで増えた時に初めてこの問題が現実のものになり得ると思われます。
# 日銀による J-REIT保有が過半を占めている、という話についても
# とはいえ、それぞれの J-REIT 銘柄の半数を超えて保有している訳ではないので
# 今の所は問題にはならないでしょう。多分。

他方で、運用会社としての大量保有による影響というのは、その運用方針による保有の仕方が問題になる話ですので、個々の運用会社のウェブサイト等で開示されている保有時の方針、例えば日本であれば日本版スチュワードシップコードの表明の有無などから運用会社ごとの対応を推して考えることと思います。

また、支配的保有であれば go-to-private のようなプライベートエクイティのような買収案件ですので市場への影響より個別銘柄のその他の少額投資家への影響、という問題に話が変わることになります。

その上で申し上げますが、ETFのような支配的目的での保有でない保有で結果的に影響を多少なり与える保有になった場合にも経済的効果のみを目的とする以上、議決権を留保するという権利行使をすることもある、と理解すべきです。これはETFが市場に現れる前の日本の機関投資家が取っていた方針でもあるので別段新しい話ではありません。

少額投資家の利益と思われていたETFが増えれば増えるほど、その意味では会社運営の観点で監視し、利益を主張し得る立場にあるはずの議決権が死蔵される可能性が上がるという意味にもなりえること理解しておく方が良いでしょう。これらを勘案して、それでもETFの動きを見て同調して保有する(することで死蔵に加担する)のか、その他の大量保有者の動きを見るのかをして、個別銘柄やETFを保有し/売り越すのかを考えるのがETF趨勢の時代におけるポジショニングの構築、ではないでしょうか。

ま、何も言ってないじゃないか、と言われそうですが、実際には二つの考え方が支配すると言ってもいいけどそれがどっちに転ぶかは知らん、としか言いようがないのです。

スチュワードシップコードという名の経営への関与 – お前らPE崩れか?

いや、まじで。スチュワードシップコードって大量かどうかはさて置いたとしても、運用会社として取得保有するならば長期的に保有して株主としての地位を使って取締役会と対話してその株式の評価額の向上に関与すべし、という話なのです。それって、友好的なアクティビストとどう違うんでしょう。本気で経営にテコ入れて企業価値を押し上げたいならば PEのように過半数以上保有して経営陣を送り込んで交代して投資家の思う経営をさせる方がより効果的だ、というのは PEファンドがすでに証明しているはずなのです。

いずれにせよ、この取締役会はクズいから不信任ということでショートします、だって取締役会への大きなアピールのはず、なのですが、どうも理解されずにロング側に立った話でしかしないのは

「株式は長期保有がマスト、というか短期売買で株式市場を下げるようなこと(= 株は売ること)はするなよ、分かってるよな?」

という国や与党から押し付けられた大人の事情、としか個人的には思えないのは私だけでしょうか。

経済的効果だけ欲しいから余計なことは言わない – 希望的マグロな投資でいいの?

と言って、この株の経済的な効果だけ欲しいから議決権行使は何があっても行使しない、という運用会社や適格機関投資家が大多数だったのは、本当にこの数年までの超長期の話。曰く自分たちの意見が株価を動かしたなんて思われたくないから、なんて、どこの誘い受けの乙女だよ。そもそも議決権を行使したところで株価がそれ通りに反応するとは限らないのだから、思い上がるなよ、という気もする(ええ、著者は株式市場なんて所詮は企業努力による株価向上など投資家のセンチメントの前には相関性の極めて低いイベント、くらいにしか思っていませんのは、前回までの ETFの取引価格の構成要素の議論を見ていただければ一目瞭然ですね。)訳です。その意味では議決権行使をするしないに関わらず株価が動くのだから行使せずに受け身でい続けたって問題はなさそうに思えるし、どうもこのセクションの論調だってそうだろ、と言われかねない。

とは言え、経済効果とは本当に株価の上昇や下降を口を開けてぼんやり黙って見て享受していれば良い、のだろうか。株価と議決権行使などのイベントが極めて低い相関性だ、と言ったところで、株主である以上、その権利ではなく義務として議決権の行使の判断をすべきなのは、株式というものが投資家のための株式の流通市場にて取引されようがされまいが、その本源的価値を向上するのが取締役会であり株主の役割であることに違いがないから、その使命は果たすべきだとは思うのです。

とすれば、誰かさんによるその企業価値の創造に第三者的にタダ乗りする運用会社って、選球眼はあるけどどうよ?としか思えなくなるのです。

で、ETFが大量保有することの影響っていいの?悪いの? -結果論に過ぎないのだから気にするな

でも、ETFってそういうタダ乗りの箱、なのですよね。結局のところ。だって、自分でどの株がいいか悪いか判断せずに丸っと保有しているだけに過ぎないのですから。その意味では影響が良いほうでも悪い方でも、出たとしても気にする必要だってないのかもしれません。

ETFを保有することが投資家の市場全体への参与を束ねているだけに過ぎない一方で個別株という個性についてはあまり配慮していない、のですから、個性がどう振る舞ったところで、日経 225であればたかだか数パーセントの影響に過ぎないのです。そりゃ、個別の株主総会への影響なんて仮に株価への影響があったところで指数全体から見れば気にならなくなりますね。

ということで、ETFで投資するなら、他人のコストストラクチャーもガバナンス的な命令系統も何もあったものではない、むしろ気にせずETFの対象戦略だけを気にする方が良いのではないか?という結論にここではしたいと思います。というか、結局そこを看破した稼げる紙としてETFにはあって欲しい方がニーズが強いから、なのでしょう。

あーあ、こんなんでいいのか?(笑)

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