ケイマン諸島にファンドを作って後悔した、って話を最近よく聞くけど、なんで相談してくれなかったの?という件

最近、色々な人がケイマン諸島に作ったけど、高いよね、面倒だよね、というのを聞くけど、そもそも、それ、本当にケイマンで作る必要があった?ってケースが多いように思って聞いています。ケイマン諸島は確かにファンドを作る意味では、世界中の「みんな」がするけど、今は21世紀、個性の時代なのだから、「みんな」と同じことをする必要があるの?

ということで、最初に大事なことを

絶対、人のいない浜辺=オフショアって思うでしょ?

実際、私のような日本に数少ない本物の、ファンドのストラクチャリングのプロはこう考えます。もう、私のビジネスのノウハウを大公開ですが、まぁ、国内のいろいろな事情を踏まえると、本当にこれで再現できる人っていないから公開するのです。

ファンドを作るときのレシピ

  • 投資対象と投資家のいる場所
  • それぞれの国や地域の法律とその書かれている言語、税金、そして
  • それらをつなぐ租税条約などの条約

すごく簡単でシンプルでしょ?で、このレシピをどう使うか、というと。。。

  1. 投資家はどこにいて、投資先はどこにある?
  2. 投資先の国の外国人に対する投資規制や税制を考える
  3. 投資家のいる国の海外投資に対する規制や税務を考える
  4. 二国間の租税条約や、その他の投資を阻害/支援する可能性のある条約を考える
  5. 検討結果として、第三国を入れることでコスト対比で税務が「劇的」に改善するか考える

あれ?ケイマンどこに行ったの?と思ったでしょ?そうなんです。実はセカンドオプションに過ぎないのです。もし、ここから先を読む時間がもう時間がない、という方は年間でそこそこコンサルフィーを頂けるノウハウを手に入れた、しめしめ、とここで離脱していただいても結構ですが、まだ時間があるぜ、という方は、なぜこのフローで考えるべきなのか、ちょっと下記のあれこれまとめたので見ていきましょう。

“ケイマン諸島にファンドを作って後悔した、って話を最近よく聞くけど、なんで相談してくれなかったの?という件” の続きを読む

AMLCOとか MLROとか DMLROとか、知ってますか?準備できています? – 多分今ケイマン諸島籍ファンドで一番熱いネタの一つから

Rule is rule

常にコンテンツを書くのが遅い当ブログですので、最新の法規制の話を書こう、とすると気づくと締め切り後になりかねず、というのもありあまり触らないでおこうかな、とか思うこともあるのですが、最近だいたい2週間に一度程度、2000文字に起承転結をちゃんと入れて書かせていただいているサイトがありまして、そこでちょっと文字数少なめに取り上げた表題のネタがあるので、こちらでは普段通りのペースでちょっと書かせていただこうかな、と。クロスポストにならないように一から書きますので損はさせませんよ。

ケイマン諸島のAML/CTFはある意味OECD諸国で最先端(?)

Rule is rule大きく出てみましたが、今回のネタの確信ってここにあると個人的には思っています。何かというと、2018年の6月1日以降にケイマン諸島で設立されたファンドや、それ以前に設立されたファンドについては、その登録の有無を問わず、2018年9月30日までに、専任の Anti-Money Laundering Compliance Officer (AMLCO)、Money-laundering Reporting Officer (MLRO)とDeputy Money-laundering Reporting Officer (DMLRO)を任命して、Cayman Islands Monetary Authority (CIMA)に届け出る義務付けを行いました。

もともとケイマン諸島では AML Procedureを各ファンドが定めて投資家を受け入れる時に AML/CTF (Anti-money laundering / Combatting terrorist-financing) の調査を行うように定められていたのですが、これを一段厳しくして、この投資家 due diligence の遵法確認をする担当者を置き、またもし疑わしい場合には当局に届け出る責任者を定めるように求めた、ということです。

ファンドを設立したことのある人ならイメージはあるかもしれませんが、AML Procedure の導入前を考えると、ファンドの設立の時にファンドのスポンサーに対するdue diligence をファンドの口座開設の際に行い、その際にAML/CTFの側面での確認も行なっていました。他方で投資資金の出し手である投資家に対するdue diligence というのも一応は行なっていましたが、US-FATCA/CRSの観点での税務的側面での確認が主なものでした。となると、実は資金の大きな流れである、投資家の資金に対するAML/CTF的なチェック機能が不十分では、という問題が生じ得るのです。そこで、ケイマン諸島ではAML Procedureを導入するように規制をかけたのです。

とはいえ、その実効性という意味でいうならば、投資家の投資申し込みの手続きでの本人確認を行うのがファンド・アドミであり、現実的にその本人確認のプロセスもそのファンド・アドミの規制を行うその所在国における本人確認の要件に依存することになり、またその結果の疑わしい投資家などの情報収集という観点でも機能しづらいことが見えてきます。そこで、後者に対する対応として今回のAMLCO/MLRO/DMLROの登録制度を導入することとなったというわけです。著者の知る限り、ファンドレベルにまでAML/CTFの義務をここまで厳しく導入している国というのは実はありません。

ちなみに日本はどうなの?

日本におけるAML/CTFについては、世界的なAML/CTFへの対応強化の流れに合わせて、今年3月に金融機関等に対して従前より高いレベルでのAML/CTF対応を行う取引先 due diligence を行うようガイドラインが提示されました。このガイドラインの基本的な作りは政府間機関のひとつである金融活動作業部会 FATF (Financial Action Task Force)の第4次勧告に基づいたものでして、実は来年の後半に金融当局とランダムに選ばれた金融機関や金融商品取引業者へのヒアリングが行われてそのガイドラインの実効性や実務的組み込みの実態を調査されることになっています。特にランダムに選ばれた金融機関等というのが、悪意を持って取引を行おうとする人ならば規制に対して意識が薄かったりコスト的な観点で「狙い目」となる零細業者を入り口に選びがち、という現実を踏まえて、国内の金融当局がお勧めする「規模的にも実務的にも模範」というウィンドウドレッシングをさせない、という現実的なアプローチの検査をされる、ということなのです。

今年の前半あたりからこの辺りの実務、特にリスクベース・アプローチと呼ばれる、顧客の属性(資金の出所が怪しいとか、職業が微妙とか)だけでなく、金融商品取引業者が提供するサービスによってマネーローンダリングとかテロ組織への資金供給する可能性についても評価し、それぞれの可能性の高さによって取引開始すべきかどうか判断する、というプロセスをいかに日本中の隅々まで導入できるかがポイントになりそうです。

他方で、日本では犯罪収益移転防止法に基づく取引時における本人確認が行われてきました。この際、個人は本人確認の出来る書類(運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなど)の提示で済むのですが、法人の場合、個人を隠して取引が可能、ということで、法人の設立を証明する資料やその窓口での取引担当者の本人確認に合わせて、法人の支配的地位にある人(株主や取締役など)の情報を提供することが求められています。この考え方は日本に限らず世界中で同じように法人口座を開設する時にはその法人の支配的地位にある人の情報提供を求めます。

世界基準と日本基準の狭間には

さて、テクノロジーからサービスのクオリティまで、日本は世界の最先端にある、というのがどうも私たち日本人の矜持であり、信じるところではあるのですが、ではこの辺りの規制の実効性や妥当性という観点ではどうなのでしょうか。

FATF が2014年に定めた「透明性並び受益権に関する指針」(“FATF Guidance – Transparency and Beneficiary Ownership”)の中で、議決権保有者に関する所有権比率による基準として、数値的なものは特に決めないものの「例えば25%」と書いてあります。ということは、世界的な取り決めならば25%以下なら数値的にはどれでもよくないか?ということになり、日本は一番ゆるい25%を選んでいることになります。ええ、世界の最先端の日本が、です。

で、オフショアという金持ちの資産隠しのための楽園、ケイマン諸島での情報開示の規制はいくつか、というと、10%です。ちなみに、この10%というのはケイマン諸島だけでなく、オンショア、オフショア含めてかなり多くの国でも採用されていることが知られています。

資産を隠す、というだけではなく資産を世界中に移転させるための口座の開設や移転手続きをするために、その支配的権限をもつ個人の情報をより多く出させているのは、日本よりもオフショアだ、という事実があるのです。

じゃあ、情報を出せばいいじゃないか、と単純に思うかもしれませんが、本人確認資料を準備するのは思うほど簡単ではありません。本人が本人であり、またそこに税金を納めるだけ生活を根付かせている証拠なんてものは、その人の出生地や現在の居住地の発行する証明書であって、パスポートや運転免許証で本当に足りるかと言う問題がある一方、その写しを提出することになる訳ですからそのコピーが「本当にその写しである」という証明、そして日本人なら特に、それらの書類を発行する役所の文書が日本語である以上、「その記載内容が提出先に理解されるように翻訳され、その翻訳が正しく翻訳されている」、と言うことも証明せねばならないのです。(香港あたりだと広東語と英語の表記だからこんな問題はないんですよね。ま、役所が公用語以外の言語で責任持って公的文書を発行できるかどうか、でこう言うところに民間のコストが増加させてるんですよね。国内の手続きの効率化だけに止まらない話ですよね、この英語問題って。)

日本においてファンドレベルでのAML/CFT確認は必要?

さて、ちょっと話を別の角度から見たいと思います。

日本においては通常の有価証券等の取引というのは銀行か証券会社を経由して行われるケースがほとんどですので、これらの金融機関の口座開設時点での調査や継続的なモニタリングによる口座の実質的保有者の素性確認を行い続けていれば、公募や私募の国内投信や会社型ファンドの投資家に関するチェックが間接的に行われていることになるので、ファンドレベルで改めて調査を行う必要はない、と考えることが可能です。だから、日本でファンドレベルの調査なんて不要じゃないか、と結論づけるのはちょっと尚早です。

これらの金融機関の証券口座を作らずに投資できるファンド、というものが存在する、としたらどうでしょう。ケースは理論的には二つ考えられます。

一つは日本に取引口座を開設していない海外投資家が直接投資しようとするケース。これは国内のファンドが海外で募集したら、という話ですが、技術的には国内ファンドをマスターファンドにして、海外投資家向けの外国籍フィーダーファンドを作ってそこで投資家を受け入れる、なんてことがあれば、外国投資家が直接マスターに投資させろ、と言ってもおかしくはない、のです。ま、受け入れないことで事務的に発生させない可能性が高い話ではありますが。。。

もう一つは、現実に今そこにあるケースです。例えば プライベート・エクイティファンドやベンチャーキャピタルファンドで使われる投資事業有限責任組合スキームの場合、証券会社にその持分を販売させる、ということをほぼしませんし、通常よくわかっているプロ投資家相手ですから、直接の取引をするのがほとんどです。

とはいえ、これもいわゆる金商法第63条の適格機関投資家向け特例業務の登録をして一人の適格機関投資家と複数のプロじゃない個人向けの投資家を持ってくるという使い道をすると、プロじゃない個人投資家も直接投資することになります。銀行から組合に送金しながら組合契約にサインすればいいだけですからね。それなりの金額ですから銀行は送金の目的を確認しますが、ファンドのための調査ではなく、自身の取引に対するAML/CTFへの関与の有無のチェックに過ぎないのです。

言い方は悪いのですが、この手のスキームを使って個人から資金集めしたい、というニーズの背景に規制対応が面倒、コストが掛かる、というものが聞こえる一方で、じゃあ、その手間を惜しんで投資家保護の措置をちゃんと自主的に取っているか、といえばかなり否定的に見ざるを得ません。そんな世界ですので、AML/CTFに対する意識があるかといえば。。。

とはいえ、いわゆる63条業者と呼ばれる人たちはまだまし、です。それでもギリギリ法律の免除規定を使おうという努力と、最近ではかなりスタンダードの高くなった年次の事業報告を当局にしよう、と思っているからです。もっとひどい(!)のは、「コンプライアンスのスペシャリストが考え出した完璧な抜け道」と称して使っている「合同会社」を使った投資スキーム(と呼べるかどうかすら疑問な手口)です。金商法上、いわゆる2項証券ということで組合持分と同じ扱いであることから、その私募というのが適格機関投資家ではない投資家は最大500名まで募集することが出来る、という読み方をして、かつ直接縁故的に自分たちから営業せずに受け身にメーリングリストで自主的に申し込ませたりウェブサイトからの問い合わせ、といった、いわゆるリバース・ソリシテーションで合同会社の社員を集めれば募集行為にすら当たらないじゃない、的にやっているケースですね。ここまでくると、自分たちは金商法の外の世界だと考えている節もあるほどですから、AML/CTF意識なんて皆無、というか自身のMLのためにやっているんじゃないか、と思えるくらいです(ごめん、でも、正直そんな話に以前昔出くわしたからはっきり言わせてもらう)。と言いながらも、前述の通り、合同組合の持分は金商法の取り扱いの範囲内です。ですので、会社の事業として株式を取得することだ、といって自己運用するのは、自分の資産のためならばまだしも、赤の他人を巻き込むならば、63条特例業務くらいは届け出ろよ、と言う感じです。でも、これも間違えて投資するとなると、当然証券会社等を経由しないで持分の取得が可能なものなのですからこれらの金融機関でファンドの資金に対するAML/CTFの確認が抜け落ちるケースでもあるのです。

最近このスキームを使って投資家を集めているエンゲージメント投資が数件いると言う話を聞いたので、警鐘を鳴らす意味でちょっと触れて見ました。

まとめ

と言うことを考えてみると、実は金融機関以外にもファンドに資金がプールされて投資に振り向けられる以上は金融機関と同じように資金の流れをカバーする限りにおいてはAML/CTFのゲートキーパーにならざるを得ない、と言う世界的な潮流についていく必要があるのかもしれません。

ファンドを立ち上げて運営する、って格好のいい話です。でも、第三者のお金を責任持って運用する、と言うのはリターンを投資家に提供する前に、それ相当の社会的責任を負う話でもある以上、世の中がAML/CTFに対して厳しい姿勢を打ちだそうとするならば、それに追随するのもファンドがより社会のための器としての認知されるためには当然のこと、とこの投資の世界のエコシステムにいる人たちや入ってきたいと考える人たちに考えて欲しい、と思う次第です。

CRS対応、大変ですよねぇ。じゃあ、CRSのない世界に行ってみますか?

CRSのない世界にいざ出発! って、それって一体。。。

このところ、本業もちょっと変わった取り組み方でお仕事をさせていただくことになり、その準備で追われたりする中、その関係で外貨での報酬を受け取ることになりそうなことから、新しく銀行さんとの取引を始めることになり口座開設をさせていただくことになりまして、その書類の準備をしていてふと

あ、日本の銀行開設も CRSがとうとう来たか

と思う瞬間がありました。その横で、関連の会社をケイマン諸島に昨年の頭(2016年1月)に作ったのものの、未だに銀行口座を開けられずにいるのですが、その大きな理由に CRSの影響による会社の関係人の情報開示、というまさにCRSの影響をもろに受けてる管理人ですが、皆様におかれても。。。

CRS、大変ですか?

ですよね。自分の過去のCRSに関する記事を読み返して、ああ、あれって2015年の終わりのearly adoptor たちの話だった、と思い返し、そういえばそのあとの第二陣のころだよなぁ、と思ったら、その第二陣に日本が入っているから今年の1月からプロセスが変わって大変になったんですよ、なんて会話をしているのです。最近。

何が大変かといえば

大変大変、と言いますが、何が大変なのかといえば、口座を開ける側からすればCRSを通じて税務関連情報を提供できるようにするため

  • 本人確認の厳格化
  • 法人に対してはその実質的所有者や影響力を持つ関係者に関する情報の取得(もちろん、それらの本人確認についても厳格に行われる)

により、より多くの情報提供を求められて来ました(ということは口座を開ける側からすれば情報をかき集めねばならなくなった、ので、双方にとって明らかに手間が増えたのです)。しかも、今は入口、すなわち口座開設当初、だけですが、途中での所有権の移動等もあるので今後は定期的な情報更新すら求められることになります。

実例を挙げるならば

日本でも、法人口座の開設の場合には代表取締役の個人情報の提供はまず必須、会社の事業と口座開設目的のヒアリングは当然のこと、税務的観点での居住国がどこであることかの確認、そして法人の直接/間接を問わず影響力をもたらす所有者(この場合25%以上の株式保有を一つの目処としています)に関する情報提供も必須です。
でも、まだいい方です。ケイマン諸島で今銀行口座を作ると、取締役や所有者に関する
  • 銀行からの取引歴を含む紹介状
  • 業界内での評価の高いと思われる人からの紹介状

がそれぞれ必要なので銀行が紹介状を書いてもらえない日本の居住者にとってケイマン諸島での銀行口座の開設は十分ハードルが上がりきった感が出ますが、さらに、本人確認書類の写しに加えて現在の住所に関する情報提供ということで utility bills、すなわち光熱費関係の領収書の提出も求められるのです。しかも、写しの原本証明、かつ日本なら全ての英訳なんかも必要になるのです。管理人の実体験ではないものの、海外でマイナンバーの流出に対する罰則規定が無駄に高いのを知らずに、アメリカの年金番号のごとく軽ーく「日本にはマイナンバーって個人を特定できる番号があるのだからそれを出せ」、とすらいうところもあります。

そうなってくると、自国の銀行に資産を置いておこう、海外には手間かけて開ける意味はないんじゃない?なんてだんだん思い始めてもおかしくないのです。

CRS?うちは参加しないけど、来る?

そんなCRS(と、当然US-FATCA)の要請に対応すべくいろいろな書類をかき集めたり作成する、なんて作業を四苦八苦してやっている横で、LinkedIn 経由でコンタクトをしてきた人が一人。って、まぁ、LinkedIn で繋がってという依頼は結構あるのでそういう当たって砕けていく系か、と思ったら、facebook messenger にまで連絡してきた。しかも興味深いことがちらほら。(以下、カッコ内は管理人の突っ込みというか心の声。)

「あなたのブログを見てCRS 関連の問題を抱えていらっしゃるようですね。(いや、あれは記事にしただけで特にその当時はCRSで問題は抱えてなかったんだけどな。。。)私たちは台湾の保険ブローカーとして20年以上の業歴を持つ会社ですが、台湾は CRSに参加しない国として金融業界の発展を目指すことから、資産を隠す目的の(って、言っちゃったよ。。。)お手伝いが出来るものと考えます。また、日本にまだない保険商品を紹介していきたいと考えています(。。。日本の保険法とか分かってるかな。。。)。今、弊社の人間が東京におりますので一度お会いしませんか。」

で、会って話を聞いてみました。

保険商品のこともちょうど商品分析の記事を書いた後と言うこともあって興味深いのであとで取り上げるとして、まず CRSに関する興味深い話についてまとめてみましょう。

CRSの導入する国、そのタイミングとは

以前のCRSに関する記事では、ジャージー島やケイマン諸島、BVIといったオフショア金融センターで2016年1月から先行導入する、という話を説明していますが、これは2016年1月以降に新規口座開設する者に対する CRSの適用をする、と言う話でした。実際にこの最初の波に乗ったのは 54カ国でこれらの国は2017年までに税務情報の交換が開始できるようにしたのです。

それに対して、2017年1月以降は、日本や中国、マカオや香港、シンガポール、カナダやオーストラリアのような47か国も参加し、2018年までに税務情報交換に参加するとしています。その結果2018年には 101カ国が税務情報の交換が出来る状態にあるということなのです。
ちなみに、日本では2016年12月31日までに開設された口座のうち、CRSの対象取引を行う口座(例えば海外送金を行うことが含まれます)については2018年末までに手続きを完了させる必要がありますので、他国においても同様の追加的情報提供が求められることになるのです。

さて、このOECD のサイトにある参加国のリスト、ぱっと見るとイギリスはCRSに入ったのでUK-FATCAと言いつつリストの中に入っていますが、当然アメリカは入っていません。その他にいわゆる有名どころで入っていない国、ありますね。そりゃ、世界250カ国以上あると言われている中で101カ国しかないのですから、あるんです。その一つが台湾なのです。曰く、台湾は第三の波にも乗る予定がないそうです。

CRSのない台湾、それってどういうこと?

あった人間はマーケティング担当であって税務の専門家ではないのでそこに依拠するのは危険なのでこれは個人的見解での書くことになりますが、まぁ、このブログ自体個人的見解の塊ですので。。。

CRSがなく、日本と台湾の間には租税条約が一つ、しかも日本と台湾との間には正式な政府間の国交がある訳でなく非政府間の実務関係でしかないことから、交流窓口機関を通じて締結された(なので、日本国内では国際条約としての効力のない)ものとして二重課税を回避することの確認だけが定められた条約があるだけです。ということは、日本から台湾の税務当局に対して(もしくはその逆向きにおいて)居住者が現地に開設したと思われる銀行情報の開示を求めにいく合意がなされていない、と解することが出来るのです。要は CRSのなかった頃のままにある、と言ってもいいかもしれません。

そうなれば、確かに口座を開設してもその個人情報を税務当局間で共有することはない、というように考えるかもしれません。それをもって「隠す(hideout)」と言うのですが。。。えっとそれは今どきなので大っぴらに言っちゃいけません(って、彼らは私にだけ言ったのであっておおっぴらに言っているのは私ですね)。

本当に隠せるの?

多分、資産隠しを本気で考える人がこれをみて、いける、と思うかもしれません。でも、個人的見解を重ねるならば多分無理。出国するときの送金先でばれます。いくら外為法の網をかいくぐって100万円以下の送金を重ねたところで、CRSのない国への送金となれば反復的に行えばマークされてもおかしくない、と思った方が安全じゃないですか?
なので、個人的には隠す目的ではなく、その先で何をしたいかで台湾を選ぶべき、だと思うのですが。。。
ということで、CRSの話的には確かに台湾のポジションは興味深いところではあります。本当にそれで資金があつまり金融セクターが盛り上がったら。。。素直にごめんなさいと言って、考え直すかもしれません。でも、どうでしょう。台湾の不動産?台湾をハブに海外投資?うーん。。。

おまけ:で、どんな保険商品だったか

さて、彼らの本題はCRSではなく保険商品を日本にリモートで売りたいそうなのです。ただ、商品性は実は分析した米ドル建て一定期間払い込み型終身保険のそれでした。利回りが少しいい、という違いはありますが。。。
台湾では死亡時の保険金支払いに対する相続税は無税だそうですが、日本では法定相続人一人当たり500万円の控除枠があるので、他の生命保険に加入している場合には使いづらい可能性がある、と言うのは分析の時に述べた通りですが、これの問題点は、保険料の払込期間の生命保険保険料控除の適用外であること、以上に、そもそも海外の生命保険を日本の居住者が旅行先に行ったついでに加入したといって入ることの保険法上の問題があります。保険法では海外の保険会社が日本に参入するには国内拠点の設置を義務付けています。となると、非居住者は現地の法律の適用を受けるからよしとしても、旅行先にいい運用商品があるといって買うことの合法性のリスクを海外の保険会社が負うのか(と言っても、日本の金融当局の監視外の企業ですので何もできませんが)、旅行者が罰せられるのか(罰するってどういうこと?保険業を営むわけでないので法律を知っているとは限らない訳ですし)、ということでなんか扱いが微妙なのです。この点は実はもう少し整理したいところではあるのですが、少なくとも保険代理店のような仲介をしたら確実に怒られそうなのは分かるのですが。。。
いずれにせよ、日本で類似商品が買える以上、あえて海外で買う理由がない、というのが一番な理由になりそうな気がします。。。

パナマ・ペーパーで大騒ぎしてますが、これの本当の問題ってなんですの?

レポートを見てなにを舞い上がるのか。。。
レポートを見てなにを舞い上がるのか。。。

これを慌ててアップしようとしている今日(笑)、その日本時間の早朝(2016/May/10日本時間午前3時)に、いわゆるパナマ文書、とかパナマ・ペーパー、とか言われるパナマの法律事務所から流出されたとされる文書の全貌が公表されました。

あ、ちなみに、一通り見ましたが、ごく普通の人、なんだろうなぁ、という日本人の名前が1000人近くさらされているのもどうなの?と思ったりしましたが、念の為確認しましたが私の名前はありませんでした(笑)

台湾が Province of China という扱いなのに怒っている人がいるだろうな、ということと、日本にいるとされる外国人の名前の多さ、そして多分、知人ひとりの名前を見つけたのはさておいて。

オフショアのファンドを生業の一つとしている私的には、変な風評被害になりかねないなぁ、とずーっと気になっていることではあるものの、なんで世の中がこれにそんなに騒ぎ立てているのか、本質じゃないところで騒いでるようにしか見えないので、「擁護するとはけしからん」という声が聞こえることを前提に、ちょっときわめて個人的な視点でまとめてみようかと思います。

ちょっと注目してほしいと思っている点

  1. どういう訳か顧客の情報機密性の高いはずの弁護士事務所、しかもパナマなんてオフショアの金融センターとしては極めて微妙な国の法律に携わる事務所から情報が出た、というのが個人的には何かしらの悪意があるようにしか思えない。実際、これをリークしたのがジャーナリスト集団ですので、別の意図で追いかけていた流れで見つけたんでしょうけど。。。言い換えると、情報自体が盗難品の可能性があるわけです。信ぴょう性はあるでしょうけれども、その情報ソースと取得方法について誰も違法性を問わないのはなんでしょう。クラッカーたち(世の中的にはハッカーと呼ぶでしょうけど、IT geek 的には人様のサーバーに不法に入りこむ連中はハッカーではなくクラッカーと呼ぶべきと、20年以上前から主張してますので、わたくし。。。)による被害、とされていますが、この連中はいったい誰に頼まれたのか。。。
  2. 確かにパナマは 2000年までは FATF (Financial Action Task Force) のブラックリストに、つい今年の2月まではグレーリストに載っているほど、反マネーローンダリング/反テロリストへの資金供給に対して協力的ではありませんでしたが、今では協力的になっている(というより、最近の方向転換を歓迎されてグレーリストから外れたばかり)なので、いわゆる US/UK FATCA や CSR (Common Standard Reportings) を通じての税務情報交換協定に協力的。ということは、ここに記されている、アメリカが指定した独裁国家の独裁者の家族、のような人を含むいわゆる各国の政府高官関係者など (PEPs: Politically Exposed Persons、ってこの間の記事で紹介しましたよね)が今のこの時代に自己の資金管理のためのオフショアの会社などを作り、取引口座を開ける、というのが難しいのが今のルール。この間ファンドを作った時ですら、かなり厳しい手続きを求められました。言い換えると、ここに名前が上がってきている諸国の政府高官から大金持ち、セレブリティたちは、昔のヨーロッパの富裕層が資金とその秘匿性を守るために作った仕組みに乗っかって、20世紀後半から21世紀の最初の7年の間にその当時のルールに基づいて行ったことの結果である以上、その当時の居住国と口座開設国の双方の国での法制度上の問題点や現在の法制度との違いを問うことをせずに、後だしジャンケンで、今の世の中で解いている倫理上の問題点を突き上げて資産隠しで税金逃れ、といるとみることが出来ます。ぶっちゃけ、最近かなり増えた、自分のその瞬間に感じた主観だけが正義と大声で言えば通ると思い込んでいる、よくいる近視眼的な連中と変わらない、というか、時代遅れの情報を引っ張り出して騒いでいるゴシップと変わらないようにしか見えませんが、そういうと怒られるのかな。
  3. 以上のことをここではパナマに限って話しているものの、私たちが普通にファンドを組成するときのように複数の国の複数の投資ビークルなどを組み合わせた投資スキームを使うのは(日本国内で売られている公募投資信託ですら)普通のことなのです。しかし、パナマ・ペーパーで「も」パナマ以外のオフショアの様々な関与をつまびらかにして、オフショアがいかにお金に汚らしいか、のように見せてますが、オフショアとオンショアを結び、オフショアとオフショアを結び、オンショアとオンショアを結ぶ、世界中の銀行と中央銀行をつなぎ合わせたお金の流れるネットワークは、今や世界中の情報の流れを一手に担っているインターネットと同じ社会インフラであり、またこれと対比する説明をするならば、ウェブサーバーが情報に意味づけをして再配信する役割をするのと同じように、ファンドなどの投資ビークルなどはお金がその力を特定の目的のために使われるように集めて利用する役割を担っているわけです。そこにはオンショア/オフショアの違いはなく、利用する人の意図によって使われ方や影響が大きく変わる、というのは情報インフラであるインターネットが誰もが分け隔てなく使えるがために、人助けにもテロリストの情報発信にも同じように使われるのと変わりがない、のです。(これも怒られるんだろうなぁ。(笑))
  4. ちなみに、今回オフショアの舞台としてあげられている国として、パナマはもとより、BVI、バハマ、(あと、本ブログでもご紹介したベリーズか(笑))のようなカリブ海の島々だけでなく、香港、セイシェル諸島、ジャージー島、ガーンジー島、マン島といった英連邦系オフショア地域、マルタやキプロスのようなEU 加盟国でもファンド設立に使われる国、シンガポール、そして、ニュージーランドやイギリス、ワイオミング州といった、一見オンショアのはずなのに非居住者が設定すると非課税になるメリットを生かせるスキームの存在するオンショアまで、縦横無尽に使われていることがわかります。が、実は日本の信託勘定も非居住者が設立して使うと非課税のメリットがあることが海外では知られています。なので、オフショアがとかオンショアが、という観点で租税回避地をつるし上げるのは早計ではないかな、と。
  5. ちなみに、今回ケイマン諸島とバーミューダがほとんど出てきてませんが、前項のそれぞれの国のビークル管理の観点で比較するとこの二つの地域は個人資産を抱えるには維持費などがかかりすぎる、ので敬遠されていたのかもしれません。

で、結局これで得するのは誰?

各国の税務当局だけ、な気がしてるのは私だけ?でも、こんな租税回避地に逃げたいと思わせる課税ルールを作った自分たちの結果、という反省がないんですよね。ええ、私は働いた人たちが正しく報われて、かつ社会インフラの費用は国民全部が公平に負担する仕掛けを作るべき、と考えているフラット・タックス信者ですので、こんな累進課税の結果のなれの果て、である今回の騒動については、すべては課税ルールが悪いから起きただけじゃねーの、くらいにしか思ってません。はい。
とまぁ、久しぶりに、個人的なブログで書くぐらいの私的感情丸出しになりましたが、ゴシップの人たちから比べれば公平性を保つように書いたつもりですのでご容赦を。

[追記 10/May/2016 23:51 JST]

ちなみに、interactive 版で企業名や名前を入れると関連するオフショアでの会社や他の関連する人物などが図示されます。ある意味わかりやすいのですが、わかりやすすぎて個人の住所とおぼしき情報まで出てきますので、正直こんな社会的制裁を加えることに疑義を覚えずにはいられません。

7週間でケイマン諸島でユニットトラストを立ち上げる方法

ファンドを作るのは建築物を作るのに相通じる?
ファンドを作るのは建築物を作るのに相通じる?
たまには、最近の仕事のことでも。
つい先週にとあるヘッジファンドの日本国内向け私募フィーダーファンドを設定して国内のとある適格機関投資家様に投資していただいたのですが、ヘッジファンド単体への投資となるフィーダーを一つ、とはいえ、実際に7週間で仕上がりました。これを早いと思うか、遅いと思うか、これでその人の最近のファンド設定への時間軸の感覚が見えてきます。ぶっちゃけいえば、アンブレラ・トラストを一から立ち上げるという意味での新規設定でこれは異様な早さ、の扱いになりつつあります。確かにその昔2週間で立ち上げたこともあるのですが、今は昔。世の中の環境の変化でこれくらいは、というレベル感が変わりつつあるのが現実です。

あ、サブファンドを作る場合はまた別の議論があるのですがここでは本当に一から、ということに限定するものの、今回は、その辺りを踏まえた、最短レベルでの立ち上げについてちょっと振り返りつつ、実はファンドを立ち上げるのってこんなに大変!というのを少しでも実感していただければ、というのが、目標とします。

まず、ファンドを立ち上げるって何をするの?

そもそも、ファンドを立ち上げるって、どういうことを意味するのでしょうか。簡単にまとめると次の通りでしょう。

  1. 投資対象と投資戦略を決める
  2. 上記を実行するためのストラクチャーとその設立地を決める
  3. ストラクチャーに求められるサービスを提供するサービスプロバイダーを選定する
  4. ストラクチャーに基づくビークルの設立や募集のための目論見書、そしてこのビークルとサービスプロバイダーとの間のサービス提供に関する契約を作る
  5. 設立されたビークルの設立地における登記や関係当局への届け出を行う
  6. 必要に応じて、ファンドを募集・販売する国における、販売・募集のための事前届け出を行う

で、やっと募集「は」始められるのです。

で、実際、何するの?

ちなみに、上記のそれぞれについて、今回私がどうしたか、というと

  1. とあるヘッジファンドのフィーダーですので、そのヘッジファンドを投資対象として、ファンドの資産のほとんどを投資して持ち続ける、という戦略になります。
  2. 将来のシリーズ化を念頭に置いて、ケイマン諸島籍のアンブレラ・トラストにぶら下がるシリーズ・トラストにクラス構造を入れてみました。
  3. ユニット・トラストのストラクチャーですので、ケイマン諸島の金融当局に届け出ているトラスティ・プロバイダーで過去に付き合いのあるところをトラスティに、ユニット・トラストのガバナンスと管理監督を考えた場合と将来の公募ファンドの設立も視野に入れることで、信託宣言型ではなく信託契約型を採用するため、管理会社の機能を提供する会社を1社、ケイマン諸島で設立して今回の管理会社とし、アドミニストレーターとカストディとしては以前から付き合いのある、ファンド・オブ・ヘッジファンドのアドミとしてはアジア随一のクオリティを誇る銀行系アドミ会社にそれぞれをお願いすることにしました。なお、このファンドの日本国内での販売のために金融商品取引業者の届け出をしているとある会社さんに販売会社として動いてもらうことにもなっています。
  4. アンブレラ・トラストの設立のために基本信託約款を、今回の戦略のためのシリーズ・トラストを設定するために補遺信託約款をそれぞれトラスティと管理会社の間で締結し、また、シリーズ・トラストと管理会社、そしてアドミ会社との間でファンドの純資産額の算出などの事務管理代行業務に関するアドミ契約を、またトラスティとカストディとの間で資産保全のためのカストディ契約をそれぞれ締結します。合わせて、管理会社と販売会社さんとの間でユニットの募集・販売に関する取り決めを定める販売契約も締結します。ということは、これらの契約書がそれぞれ必要になります。
  5. 今回、ケイマン諸島でのユニット・トラストの設立ですので、トラストとしての登記が必要になるとともに、ケイマン諸島金融当局(CIMA)にMutual Funds Law Article 4(3) regulated mutual fund としての届け出を行います。
  6. 今回は国内の適格機関投資家への募集・販売のみ、ですので当初募集開始前までに外国投資信託に関する届出書を提出します。

でも、これで本当に終わり?しかも、7週間って余裕じゃないの?

いい勘してますね。ファンドのセットアップ = 目論見書を作る、ではないんですよね。ファンドが実際に動き出したら必要になるものも予め準備する必要があるのも、文字どおりセットアップ、です。それは何か、といえばファンドの名義の銀行口座や証券口座を開けること、です。

なんだ、口座開設?余裕じゃん。なんのためにカストディ契約結んでるの?

普通はそう思いますよね。契約を結べば自動的に開けて当然。
そんなのは残念ながら、このテロリストから広域ほにゃらら組織、果ては某国の政府高官関係者 (PEPs – Politically Exposed Persons、という言葉があって口座開設の時には注意するように、と海外ではお達しがでるくらいですからね、マジで)まで、ヤバめのお金の移動を制限しようという世界的な動きがあり、また、FATCA でアメリカのためになんで日本で(ブツブツ)なんて言っていたのは今は昔、FATCA も US- と UK- とが出来、さらにFATCA をその他の多国間への拡張の柱になるの CRS まで、自国の富裕層のお金を国外に逃がさない網をあちこちの国が張り始めた結果、銀行口座を開設するために、自分が誰であることを証明し、もしその「自分」が会社やファンドの場合、設立に関わる関係者が一体誰であるのか(少なくともちゃんと名の通った人なのか、それとも黒い影がちらつくのか)を確認する義務を金融機関は負うことになってしまっているのです。

そのため、口座開設のプロセスとして、そのような資料の提出があってから5週間かかる、というのは、ファンドアドミが銀行口座や証券口座をファンドのために開設するシンガポールやダブリン、ルクセンブルクなどでは普通なことになってしまっているのです。確かに、今思えば2015年の12月に CRS の記事を書いた時にこのことは容易に想像できていたわけですし、実際、その覚悟は始める前にはありました。

もちろん、その提出しなければいけない書類の一つに、ユニットトラストや会社型ファンドならば設立した国での登記証明書が入ってきますが、ユニットトラストの場合、信託約款の署名ののち登記に持ち込むのが通常ですし、他の目論見書との平仄を合わせて作る都合もあるので、その署名を行うのも募集を開始する数日前に他の契約書とまとめて、というのがよくある流れ、でした。しかし、もしそれをやれば、目論見書はできたものの口座が向こう5週間以内は開設できていないので、当初募集期間を始めたとしてもまだ口座が開設されていないので買付申込書に送金先口座を明示することが出来ず、そこで目論見書を交付しても投資家も送金先が明示されないので、申し込んでも入金できず買付不成立、ということになりかねないのです。

と言って、口座が開く5週間を何もせずに待つのか、というと、それも困ったちゃんですが、その時点では他には何も出来ない状態になっていますので待つしかないのです。

ということは、すべてのドキュメンテーションを2週間で終わらせて5週間ぼーっとしてたのか?

いえいえ、無理です。通常、目論見書でもその他の契約書でも、最低4回から5回の加筆修正が必要で、その間には法的/ビジネス的背景を持った交渉が発生します。一回のドラフトの作成・レビュー・修正には最初の二回くらいは一回転で2週間、それから徐々にレビューと修正箇所が減ることで契約書のターンアラウンドの時間が縮まるものの平均1週間と見積もっても、だいたい6週間はかかるとみてよいでしょう。

さて、どうやったのでしょう。

企業秘密です。

というと怒られそうですので種を明かすと、実は契約書類の骨組みとなる信託約款だけ最初の2週間で署名して登記、そこからカストディの審査に入ったのです。
というのも、信託約款で定めるべきことは本当に基本的なこと(ファンド営業日や取引日、ファンドの基本通貨など)だけで、実際の運用等については目論見書に記載することから、ファンドの基本構造だけ先にしっかり固めて信託約款だけ先にすすめることが可能なのです。とはいえ、この基本構造をしっかり固められるか、というと常にできる話ばかりではないのも現実なのですが。。。

しかし、こんなやり方は実際はちょっと乱暴なんですけどねぇ。契約書面の承認を各関係者が二回行わなければならないので手間も増えます(手間は増えてもセットアップってあまり評価されないんですよねぇ。。。やれたかどうか、でしか判断ができないので。。。)し、いくら前倒しにしたところで、5週間で確実に口座が開く確証はないのも事実。さらに言えば、今回はヘッジファンドのフィーダーなので単純でしたが、本気で証券取引をする普通のファンドの場合、証券執行する証券会社に取引口座を開く、とか、発生しますのでさらに複雑にまた時間も読めなくなるので、そろそろファンドの設定を◯週間でやることを投資条件にするのは勘弁してほしいな、とは思うんですよねぇ。予算の都合とかはわかるのですが。。。

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