[投資のコストと効果] iDeCoのメリットは確定申告で得るあれだけではなくて

以前書かせていただいた、30代から40代までの金融リテラシーを強化しよう、というメディアでオフショアの話というのはなかなか目立たなかったのですが、目立つコンテンツはどうしても、「ふるさと納税制度」、前回の「NISA」といった個人の所得税減税というお得感に訴求するような何か、というものばかりだったようです。その中で、同じように目立ったコンテンツとして、やはり昨年あたりから銀行さんが力を入れてきたのが、今回取り上げる iDeCoなのですが、某りそな銀行さんの店舗に貼られた某カタカナ五文字の喜劇俳優さん以外のポスターで目を引くのはどうしても、減税効果のこと。しかし、iDeCoはそれだけのためにやるべきことなのでしょうか。。。

そもそもiDeCoってなに?

iDeCoとか言って、金融系商品にありがちなアルファベットな言葉ですが、じゃあ、これが何の略かといえば。。。 individual type Defined Contribution Plan – 個人型確定拠出年金の太文字部分だけ取ってキャッチーな言葉にしようとしたんだろうなぁ、ということが透けて見える感じ、ですね。でも、年金、という言葉が出てきちゃったので、どうやら適当に作られて流行った商品ではなさそうなことだけは見えてきました。むしろ年金ですので国の大掛かりな仕掛けが背景にありそうな。

というか、年金って何?

そもそも、この国の年金の仕掛けってこの瞬間、どこまで理解してますでしょう。知ってるよ、という人もいるのは分かるものの、大抵は年金手帳を持ってるけど、給料から天引きされてるけど、で止まる可能性が高いでしょうから、その辺りを基礎から丁寧に始めてみようと思います。

国民年金 – 実は誰もが入っている年金で、その筋ではいわゆる一階部分

(国籍問わず)日本に住み、働く人たちは法律に基づき、国民年金に入らねばならない、という国民年金法、という法律がありましてこれに基づいて、この国に住んで働いている20才以上60才未満の人は大抵この国民年金に入っています。

通常、「国民年金というと自営業の人たちが入るもの、会社勤めは厚生年金」、と思いがちですが、厚生年金の加入は国民年金法では第2号被保険者と位置付けられていまして、厚生年金の保険料として納められたものの一部が基礎年金拠出金という形で国民年金に拠出されて、自営業の人たちなどの第1号被保険者からの保険料とともに、世界最大の年金運用者として知られ(世界中の運用会社にちやほやされるから運用報酬を渋り倒すことでも知られ)る年金積立金管理運用独立行政法人(GPIFの方が分かる人の方がきっと読者では多いでしょうね(笑))運用され、年金受給者への年金としての支払いに回ったりする、という流れになっています。

ちなみに、いわゆる会社勤めの方の配偶者で認定基準年間所得が130万円未満の方は第3号被保険者ということで厚生年金の手続きの時に届出することで加入しますが、この時の保険料はただ。だけど、この第3号被保険者の分も厚生年金で基礎年金拠出金を拠出する時に負担していることになっている、のですから、実は稼いでいる人の配偶者でいることというのは年金の観点で言えば費用負担ゼロで年金をもらえるという非常に美味しいと言えますし、これって実は働く女性の数と労働時間を年額所得130万円で抑制している原因のひとつだということに政府は直視すべき事実だと思うのですがね。(関係者の方、見てますかー?)

厚生年金とか共済組合とか国民年金基金とか – 国民年金の上にあるその筋で言う所の二階建て部分とは

さて、一階部分の次は二階部分の話。第2号被保険者という勤め人な人たちが年金に入ると言えば思いつくのが厚生年金ですが、前述の通り、実はこれは国民年金に付け加えて入っている年金制度、なのですね。ちなみに、勤め人のうち、私企業に働く人は厚生年金法の第1号被保険者に当たって、第2号被保険者な国家公務員な人たちだと国家公務員共済組合や国家公務員共済連合会(後者はアルファベット三文字でKKRKokka-koumuin Kyosai Rengokai -になるので、日本中のあちこちにこれ関係の宿泊施設とか見られますが、プライベート・エクイティ・ファンドの大手、KKRKohlberg Kravis Roberts – とは関係ない、のは業界初心者のネタですな(笑))に、第3号被保険者な地方公務員な人たちだと、地方公務員共済組合や、地方公務員共済組合連合会、全国市町村職員共済組合連合会に、第4号被保険者な私学の先生方には日本私立学校振興・共済事業団に所属する、けどこれらは全部2015年10月以降、第1号とその他が一元化されたことでこうやって一纏めに厚生年金、と説明できるようになったそうな。ちなみに、そういう資金ですので、運用は。。。またGPIFさんが国民年金と一括して、とはならず、第2号以降はそれぞれの組織が運用して、第1号が国民年金と一緒にGPIFさんが運用しているそうな。そりゃ、GPIFの運用資産が大きくなる訳だ。。。

では企業に勤めていない国民年金の第1号被保険者な方に対する2階部分は何になるか、というと、国民年金基金というのがありまして、もし加入手続きをしたことのある人ならば分かるのですが、国民年金に上乗せしませんか、という資料を渡されたことがあるかもしれません。あれです。あ、ちなみに、国民年金の保険料に毎月400円上乗せして払ったら、「200円 x 付加保険料納付月」の額が年金に上乗せされますよ、という話がありますが、あれは国民年金の保険料の話なので、国民年金基金とは別のお話です。しかし。。。日本年金機構のページで説明がありますが、

これを払えば2年で元が取れますよ

とオススメするなんて。。。(汗)

ちなみに。。。第3号被保険者な勤め人の配偶者の皆さんにはこの2階建て部分はございません。そもそも一階部分がただなんだしさ、それ以上に何をタダで期待するのよ(ベーっだ)

厚生年金基金とか、企業年金とか、年金払い退職給付とか、いわゆるその筋のいう所の三階部分

さて、年金制度ってまだまだあって、国民年金に国民年金基金という上乗せがあるように、厚生年金には厚生年金基金という屋上屋のような仕組みがあったりしました。その昔、厚生年金の運用を企業が代行して行う代わりに企業側で独自の上乗せをします、という制度を厚生年金基金ということで1966年あたりから導入されていました。

こいつは勤め人ならば誰にでもあるもの、ではなく、勤めた企業の福利厚生の制度で設定されている企業に勤めるとある、という類のものです。しかも、これがあるときは、一般的にその保険料は企業が負担して雇用される被保険者からの拠出はない、というなんと太っ腹!まさに企業が従業員の退職後の豊かな生活のために準備してくれるとても素敵な制度、ですよねぇ。。

というと、とてもいい話なのですが、当然、これって企業側からすればコスト負担以外の何者でもない話ですよね。しかも、これをその昔は勤務年数や退職時の給与のようなある程度決まった要素で計算することで支給額が決まってしまう仕組みしかなかったものの、90年代に入るまでは株もインフレも自然に上昇するから給付するよりもそんな基金の資金は増えて問題はなかったのです。が、インフレもなければ株や債券の値動きがここまでぶれる世の中においては将来の支払いを約束することは、最悪企業からの追加持ち出しも求められて結果企業すら倒れるリスクも負いかねない、というところまできた基金が増えてしまいました。

そんなある日、リーマンショックも終わったところで、これまたアルファベット3文字で始まるヘッジファンド運用で儲けさせまっせと、詐欺を働いたAIJ投資顧問、という連中がその口車にまんまと乗ったこういった企業系の年金の資金を使い込んで消失させて(ついでに独立系運用会社の信用も失墜させて、メディアにオフショアファンドの信用に泥を塗らせて)しまったことから、かなり損害が広がり、2014年からそんなことを企業に任せてはいけない(じゃあ、国がやればいいの?という疑問はさておき)、ということで、厚生年金基金の新規設立は認めなくなり、また財務内容が悪い所は特に(五年以内に)代行返上して解散しなさい、という方針になったのです。

他方で、2002年に出来た確定給付型企業年金制度を利用して厚生年金の代行をしないけど退職時の条件で年金の支給額が決まる仕組みで3階部分だけの提供をする、という制度が出来ていてこれを利用したり、2001年に出来た、今回のiDeCoを含めた最終的な給付額は運用方法を選択した被保険者のリスクで行う確定拠出型年金制度の企業型(なので掛け金は企業持ち – マッチング拠出とかもあるけどここでは割愛ね)を利用するところが出てきたり、と、実はここには(3階を提供しないからiDeCoやっていいよ、という選択肢を含めて)色々なケースが存在します。

ちなみに、国家公務員など人たちにも同じような3階部分はありまして、特に2015年の一元化のあとでは、年金払い退職給付と一元化による制度移行の間を繋げるための「職域部分」と称するものがあります。これも解説はパスね。長くなるから。

さて、個人事業主などの第一号被保険者の人たちへの3階部分は、2階部分のない第3号被保険者の人たち同様に。。。実はありません、でした。が、2017年1月からiDeCoが一部の例外(制度の重複ということを避けるため、企業型の確定拠出年金に加入している時に、企業型年金規約がiDeCoに加入することを許容していない場合のみ加入不可。)を除いて国民のうち20才以上60才未満であれば誰でも加入できるようになったことで、実は、この3階部分としての iDeCoの守備範囲は広範囲なのです。

で、なんでこんな基本を説明したかというと。。。

これらの年金制度って、考えて見たら、一階部分も二階部分も支払っている保険料はある程度一定(毎年微妙に変わりますけど)ですが、支払われる年金も納付月数などからある程度計算できる一定の額、にお約束されています。いわゆる確定給付年金の仕掛けを利用していますが、前述の通り、年金の運用が上手でなかったり、AIJ事件のような運用以前の問題とはいえ給付金の財源を毀損するようなことがあれば、期待している将来の給付が実現できなくなるか、財源の元となる企業や国の財源に手をつけてしまい、根っこから破綻しかねないリスクがある、のです。また、少子化による保険料の減少と高齢化による年金給付額の増加、という根本的なキャッシュフローの前提の変化に対応していないのも明白ですから。。。まじヤバイんすよ(笑)

となると、個人で年金を守る方法ってこの制度上は三階部分で自分でリスクをとる、か、この年金制度の外で巨額の富を蓄えるか、のいずれかもしくはその両方のようです。とはいえ、年金制度の外で富を蓄積する、というのは、いくら税制上のメリットが期待できる生命保険商品を使ったりしたところですら、結局利益に対して個人の所得税なり法人化した企業に法人税がかかるわけですから運用益の再投資の効果が税金で取られる分だけ悪くなるのが単純に予想できます。としたら、年金制度の中ならば税金はかかりませんから、再投資という時間と利回りのマジックを最大限に利用した富の蓄積を目指せそうな気がしますよね。

このことを理解するにも、この屋上屋な年金制度をまず知っておくべきだと思ったわけです。いや、文字数稼ぎじゃないですから(笑)

で、確定拠出年金ってどういうこと?

ということで、iDeCoの説明にやっと入ります(苦笑)が、まず確定拠出年金の仕組みでも。キャッシュフロー的には、企業型なら企業が、個人型(要はiDeCo)なら加入する個人が、毎月一定の掛け金をこの年金制度に拠出していくのですが、問題は、この拠出したものをどう運用するか、なのです。確定拠出年金の場合は、運用先として複数の選択肢が提示されるのでその中からどれで運用するかを選択して行くことになります。例えば、iDeCo の場合、某りそな銀行だと選択肢として

  • りそな据置定期預金『フリーポケット401k』
  • 「りそなDC信託のチカラ ターゲットイヤー20X0年」など資産分散型投資信託が11本
  • 日本債券型投資信託が4本
  • 日本株式型投資信託が8本
  • 外国債券型投資信託が3本
  • 外国株式型投資信託が4本
  • 国内不動産(リート)が1本
  • 外国不動産(リート指数連動型投資信託)が1本

と、元本確保な定期預金を除くと実は確定拠出型年金向けに設定された投資信託に投資することになるのです。これが、もし日本生命にiDeCoの口座を作ったならば、その投資可能となる商品は

  • 「ニッセイ利率保証年金(10年保証プラス/日々設定)」
  • (なぜか)りそな据置定期預金『フリーポケット401k』

のような元本確保型商品と

  • 株式と債券の比率一定運用型投資信託3本
  • バランス リスクコントロール型投資信託1本
  • 国内/海外株式/債券指数連動投資信託4本
  • 国内株式アクティブ型投資信託3本
  • 海外株式アクティブ型投資信託2本
  • 海外債券アクティブ型投資信託1本
  • 新興国指数型投資信託2本
  • リート指数型投資信託2本

と、いう品揃えだったります。いわば、iDeCoの口座を開ける先である運営管理機関によりその商品の揃えが毎月の掛け金の拠出先の選択肢になり、その中で選んだ投資商品のリターン(それが定期預金だったり、その同等のリターンの生保であっても、もしくはリスクを取りにいっても)がiDeCoの年金積立期間の終了時期であるあなたの60才になった時の受け取り原資になるのです。

さて、運営管理機関によって商品の選択肢が変わるので、この運営管理機関を選ぶか、その取り扱い商品を選ぶか、と言った話になると思いますが、そのあたりの話は後回しにして、いつものようにキャッシュフロー分析をやってみたいと思います。ここから先は、確定拠出年金もiDeCoに話を絞っていこうと思います。

0. iDeCoの運営管理機関を選んで口座を開ける

何を始めるにもまずは口座を開く必要があります。今では iDeCoを提供する金融機関(運営管理機関、とこの場合は呼ばれます)が多くあります。前述のように商品の品揃えは機関ごとに異なりますし、手数料も、国民年金基金連合会への口座開設時の手数料の2,777円や月々の国民年金基金連合会への月次手数料の103円と信託銀行への月次手数料の64円の合計167円を除くと機関ごとに0円(楽天証券やSBI証券、大和証券)から数百円(りそなだと口座が給与振込口座ならば262円かそうでなければ316円、三井住友銀行やSMBC日興で一律255円、野村証券で資産額に応じて203円から283円まで、みずほ銀行で一定条件で0円もしくは255円、など)かなり開きが出てきます。

なお、NISAと同じく、口座を開けられる運営管理機関は一つだけです。複数を開けることが出来ません。とはいえ、管理機関の移動は可能ですが国民年金基金連合会への2,777円の支払いが発生します。その際は買い積み立てた投資信託などを持って移動出来るはず、ですが、移った先の運営管理機関が(系列の都合が主で)取り扱えない可能性が極めて高いので、売却して資金の形で移動することになります。

1. 月々の掛け金を決める

手数料が運用管理機関、ひいてはiDeCoで運用する商品の選択肢を決めるという気はサラサラないものの、月々の掛け金との兼ね合いを考えると、どうしても前述の手数料が投資効率に影響するというのは隠せない事実、でもあります。

さて、この掛け金、この後に述べる税金の効果を考えると、長期投資をしたいポケットだとか、毎月積み立てていくというのが投資を始めたばかりでは投資の効果を実感できない、とかを鑑みて出来るだけ大きく「張りたい」という気持ちになってしまうのですが、残念ながら加入している年金制度(年金制度の一階部分のカテゴリー)で上限額が決まってしまいます。まとめるとこんな感じ。

カテゴリー掛け金の上限額

自営業者等(第1号被保険者)月6万8000円(年81万6000円)(国民年金基金と合算した額として)
企業年金を導入していない企業に勤める会社員(第2号被保険者)月2万3000円(年27万6000円)
既に企業型DCに加入している会社員(第2号被保険者)月2万円(年24万円)
既に確定給付企業年金に加入している会社員(第2号被保険者)月1万2000円(年14万4000円)
公務員(第2号被保険者)月1万2000円(年14万4000円)
いわゆる専業主婦(第3号被保険者)月2万3000円(年27万6000円)

前述を思い出すと見えてきますが、第1号被保険者には国民年金基金以外の2階部分がありませんから、そこを補うためにiDeCoを、という意図があり、同じように3階部分のない企業年金のない企業勤めの会社員にも3階部分代わりを、DCなりDBなりに入っている人や3階もしっかりしている公務員には掛け金を比較的少なめに、ただのりしている(ベーっだ)専業主婦はもともとフリーランチで1階だけはあるので2階がわりに、という意図が見えてきますね。あ、最低掛け金額は月5,000円です。

と思うと、掛け金がいくらであってもそれに追加して月々167円と運用管理機関への手数料が乗っかるということは。。。最低額の5,000円としても3%以上、一般的な20,000円ならば 0.8%、目一杯の68,000円としても0.2% 以上の手数料がかかる(ということはその分パフォーマンスが最初から押し下げられている)ことになります。となると、手数料を払っても、最低でも年率1-3%のリターンを確実に出せる商品に積み立てていかないと手数料負けする(定期預金なんてもってのほか)、ことにな流のが見えてきます。まぁ、この次の税効果を考えるとそうでもない、のですが。。。いずれにせよ、この辺りを考えて運用管理機関の商品リストと手数料率との組み合わせを選択していくことになります。

2. 期中のキャッシュフローと税金

さて、iDeCo における投資期間、すなわち60才になる日まで、の税金の考え方は次のようになります。お待たせしました。みなさんお待ちかねの確定申告のお話ですよ。

iDeCo のために支払った掛け金と手数料(というか、手数料こみの掛け金、と言った方がいいですね)は全額所得控除の対象になります。どういうことかというと、企業年金等のない「協会けんぽ」加入な会社に務める年収が額面で600万円の東京在住の独り者の30代の男性(女性でもいいのですが)、という前提(面倒なのでボーナスなしの12ヶ月均等払い、って外資系みたい(笑))にします。

まず、600万円の額面の給与に対して、給与所得控除が 600万 x 20% + 54万円 = 174万円、となるので所得税を考える時の給与所得が 600 – 174 = 426万円、となります。

次に健康保険と厚生年金がそれぞれ(介護保険が不要だから:今の平成30年前提で)毎月のお給料が50万円なので、個人負担としては24,750.0円、45,750円ですので月額70,500円、年額で846,000円になります。これも丸々所得控除扱いです。

計算が面倒なので、生命保険も地震保険も入っていない、とすると、あとは基礎控除の38万円が控除されて。。。 426 – 84.6 – 38 = 303.4万円の課税所得を得たことになり、これに対する所得税は国税庁のサイトによれば (303.4 x 10%)万円 – 9.75万円 = 20.59万円、になります。

もしここで、月2万、年間24万円でiDeCo でやると、[(303.4 – 24) x 10% 万円 – 9.75万円] = 18.19万円となり2.4万円 (iDeCoの24万円の10%分)の減税効果があった、のです。ちなみに、これ、りそな銀行さんが広告で使う数値の根拠になったと思われる日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー株式会社さんの作ったシミュレーションだと 4.8万円になるそうですが、これは多分所得税率が20%適用だった計算なので、多分健康保険と厚生年金を低く見積もったからじゃないかな、と思います。

これが、もし同じ条件で1,100万円の給与だとしたら、給与所得控除が上限を超えているので 220万となり、給与所得としては 880万円になりまる。

次に健康保険と厚生年金が、月給で91.6万円なので保険料は46,035円と56,730円の月額102,765円。年額にして1,233,180円です。また、単純な計算で基礎控除の38万円が控除適用になって、880 – 123 – 38 = ざっくり719万円です。

この場合、税金はといえば、課税所得が695万円を超えていますので (719 x 23%)万円 – 63.6万円 = 101.77万円、となります。ですが、同じように月2万、年間24万円でiDeCo でやると、課税所得が 719 – 24 = 695万円となり、税率が 20%に下がります(控除額も減りますが。。。)ので [(719 – 24) x 20% 万円 – 42.75万円] = 96.25 万円となり5.52 万円の減税効果が出てくるのです。これはiDeCoに拠出した24万円の23%に当たります。これが最終的な課税率出会った20%を超えているのは税率区分を一つ下に押し下げる効果も手伝っているから、なのです。まぁ、このようなケースはちょっと稀ですが、とはいえ、所得税率の高い人ほど毎年の所得税を押し下げる効果が高いことがわかるかと思います。

という事で、もし毎年の所得が一定と仮定すると、所得税率が10%の人ならば10年分の税還付で1年分の投資が可能になります。運用とは別に10%の再投資する資金ができる、とも言えますよね。となると、所得税率が20%の人ならば5年分の税還付で1年の投資ですから。。。ま、そんな再投資、と思うよりも、運用管理機関に支払った手数料程度は回収している、と思う方が良いかもしれませんね。

それだけじゃない期中の税金のメリット

60才の運用期間の終了までは一旦入れた掛け金や掛け金で買い集めた投資信託などの金融商品を現金化したものを引き出すことが出来ません。となると、通常は毎月毎月掛け金を移動して(多分自動的に)とある投信などを買って持ち続けることになるはずです。

ですが、前述の通り運営管理機関はただ一つしか使えず、その取り扱い商品には極めて偏りがあるので、どうしても運営管理機関を移動してでもあの商品に投資したい!という時にはそれまでのポジションを売却して資金化して移動することになります。で、売却する、となると通常はキャピタルゲインが発生しがちですよね。となると、今だと20%の譲渡課税が掛かってきますが、iDeCoの口座の中での売却については非課税です!

なぜか。60才以降に発生する年金の支払いのところで(それでも、老後の生活を支えることを考えると当然に通常の所得税やキャピタルゲイン課税に比べれば課税額が安くなる形で)課税することが出来る、からなのです。いわゆる税の繰り延べ効果を年金の仕組みの中に取り込まれている、のです。

Exit となる年金の支払いの時の税務については後ほど細かく触れるとしますが、売却益への課税がないと思うと、案外気軽に利益の乗った投資対象を売却して、その後の市場環境や運用方針の変更に合わせて別の投資対象に乗り換えることができそうですね。通常の証券口座での取引で頭を悩ませる利益に対するキャピタルゲイン税の取り扱い(例えば同じタイミングで含み損のある投資対象も合わせて売却して含み益と相殺させてキャピタルゲイン税を抑える、など)を考えずに、もちろん買い付け時の手数料も気にせずに、機動的なアロケーション変更が可能になる、と思えば。。。って、投資信託をそんな風に回転売買に使っちゃダメですよ!

60歳を過ぎて年金受給者になった時に税金を納める事になるのですが。。。

さて、ずっと貯め続けてきたiDeCo な年金も60歳を過ぎると運用終了となるので、拠出することが出来なくなり、引き続き投資先のファンドで運用し続けるか、年金として給付を受けるか、と言う選択をすることになります。

ちなみに、何もせずに運用し続けても、年金として月々でも毎年でも継続して引き出していく場合でも、月に64円ずつ信託銀行に支払い続けることになります。また、年金として定期的に引き出しても、一時金として一括で運用資金を一気に引き上げても、一回につき432円が信託銀行に送金手数料として支払うことになります。そう考えると、60才になった月、すなわち確定拠出が出来なくなって最初の月、年金受給者となった最初の月に一時金で全額を引き出してしまうのが手数料的にはもっとも有利、と思えてきますよね。

税制についての比較をしてみましょう。

年金として引き出していく場合、雑所得扱いになります。所得税を知っている人だと、雑所得って一番メリットの少ない所得、と言う印象があるかもしれません。例えばFXや為替の差益だったり、最近ならば仮想通貨だったり。これが一時所得ならば50万円の控除があったりするのですが、公的年金以外の場合は本当に税務上の控除がないので収入金額から経費控除後の利益が20万円以上の場合には、その額を他の給与所得などと合算して累進課税の適用を受けることになります。

では、公的年金については、と言うと、流石にここまで厳しくはなく、こんな整理になっています。

65才未満の場合
公的年金等の収入の合計額割合控除額
公的年金等の収入金額の合計額が700,000円までの場合は所得金額は0。
700,001円から1,299,999円まで100%700,000円
1,300,000円から4,099,999円まで75%375,000円
4,100,000円から7,699,999円まで85%785,000円
7,700,000円以上95%1,555,000円
65才以上の場合
公的年金等の収入の合計額割合控除額
公的年金等の収入金額の合計額が1,200,000円までの場合は所得金額は0。
1,200,001円から3,299,999円まで100%1,200,000円
3,300,000円から4,099,999円まで75%375,000円
4,100,000円から7,699,999円まで85%785,000円
7,700,000円以上95%1,555,000円

これに基づいて計算すると、例えば61才の時に年間iDeCo からだけ 350万円を年金として引き出した場合、350万円 x 75% – 37.5万円 = 225万円が課税所得扱いになります。これがもし、70才になって、厚生年金からの年金支給を上乗せしまくって(65才から70才まで受け取らずにあと送りにすると最大42%ほど年金受給額が上乗せできます。)受け取り始めたら、この350万円に厚生年金保険などを上乗せして計算することになります。

もし、これを一時金として受け取る場合、退職所得と同じ計算が適用されます。どう言うことかと言うと、確定拠出年金の拠出期間に合わせた控除額を適用した退職所得扱いになります。所得控除のテーブルを載せるならば

勤続年数退職所得控除
20年以下40万円 × 勤続年数(80万円以下のときは、80万円)
20年超800万円 + 70万円 ×(勤続年数 - 20年)

例えば、21年間iDeCo に拠出したならば、控除額は 800万 + 70万円 x (21 -20) = 870万円となります。

と言うことは。。。税務的にうまくやろうとする一つのアイデアは

21年間、毎月2万円ずつ積み上げたとしたら、2万 x 12ヶ月 x 21年 = 504万円ですので、一時金として引き出す場合には、最終的に拠出額に対して73%勝たないと税金が掛からないことになります。

また、仮に870万円まで勝ち上がったとして、60才から全額控除となる70万円ずつを5年間引き出しても手数料を考慮せずに残額は520万円ですから、65才からの4年間も全額控除となる120万円を引き出し、70才で残額の40万円を引き出せばキャピタルゲイン課税を見事に逃れて全額引き出すことが可能だと言うことになります。

73%のキャピタルゲインを60才まで繰り延べたあと、かかる税制優遇を使うとうまく課税されずに引き出すことすら可能になる、のです。まぁ、実際は、厚生年金や企業年金の受け取りなども発生しますから、ここまで綺麗にいくはずはないですので、これはかなりファインチューンしたケースではありますが。。。

まとめ

本当は、こんなiDeCoにあった投資戦略(前述の例じゃないですが、最終リターンが70%を目指しても無税なのですからね。頑張っちゃいますよね。)とか、それを採用している運用管理機関とその手数料との兼ね合いまで分析するのが筋かもしれませんが、実はこのiDeCo と前回のNISAを使って、個人だから出来る超長期投資の世界的トレンドについて語りたくて仕方がないものですから、今回はここらで終わりにしようかと。

とはいえ、税制のメリットがここまであちこちに散りばめられたこの商品、出来るだけ若いうちに始めた方がオススメなのは確かです。が、NISAと iDeCoで毎月5万円を確実にためていく、と言うのは若い頃には厳しいですからねぇ。。。優先順位をどうつけるか、と言うAFPの腕の見せ所的な話でもありますが、それこそそう言う話は個別でお話すべきですから。。。

Asia Region Fund Passport – アジア地域ファンド・パスポートが本格始動する、らしいけど

ファンドの世界でのパスポートって?お金が旅する為に必要なの?

ファンドの世界でのパスポートって?お金が旅する為に必要なの?NISAのネタを書いて、普通ならすんなりiDeCo の話を書いて、そのあとにそんな税制優遇された長期投資環境を使って投資するなら。。。みたいな話を書くのが流れと言うか予定、のはずなのですが、いつものように、時間がかかり過ぎるし注意力散漫な性格のおかげで、金融庁のホームページにアジア地域ファンド・パスポートの進展を見つけてしまったのと、これを書いている数日前に某米系カストディ・ファンドアドミの会社さんのセミナーで弁護士先生と会計士先生とでこの話を当局に近い立場で話をされていたので、以前このARFPの話を取り上げた経緯もあることからちょっと調べた感じでの最近の動きとそれに対する雑感(と言うか、いつものように放言、ですな)でも書かせていただこうかと。

なお、これを書いている時点において、著者はといえば投資信託な商品からちょっと距離を置いていますので、最新の実務の観点であれこれ言えるわけではない、と言うのはご了承頂ければと。。。

そもそも Asia Region Fund Passport (ARFP) – アジア地域ファンド・パスポートって?

詳細はAPEC の ARFPウェブサイトをご参照いただくとして、ではダメなので概略でも。

“The ARFP aims to reduce regulatory duplication by establishing a standardised set of requirements for fund operators, and benefit investors through broader and more diverse fund offerings while maintaining investor protection.”

ざっくり訳すならば「ARFPはファンド運営者に対する必要条件の標準化を定めることで法規制の重複を軽減することと、投資家保護を守りつつも国境を超えてより多様化したファンドの提供を投資家に対して享受させることを目標にしている。」と感じだろうか。要は国境を超えてファンドが複数国で販売出来るようにファンド商品の条件の標準化を多国間で整備する、と言えばいいかもしれません。

まずはその歴史でも

元々は2010年のオーストラリア金融センターフォーラムでパスポート構想が推奨されて、それを受けて2013年のバリでのAPEC財務大臣間会議に於いてオーストラリア、ニュージーランド、韓国とシンガポールで同意した多国間構想の一つで、2016年にパスポートが機能することを目指していたそうな。その後タイとフィリピンもこの構想に参加を表明したのですが、2015年9月の多国間でのStatement of Understandings に署名したのは、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、タイ、フィリピンと日本と言う顔ぶれ。シンガポールが抜けて日本が入ったと言う感じですね。その後2016年に協力覚書をオーストラリア、ニュージーランド、韓国と日本が署名してこのパスポート構想を押し進めてやっと昨年9月にARFPガイダンスのコンサルテーション(日本で言うところのパブコメ)が発表して意見を求めて、12月にパスポート申請手続きが公表された、と言うことなのです。

で、このファンドのパスポートをとると何が出来るの?

ざっくり言えば、パスポートを自国の当局に申請して登録すると、日本、オーストラリア、ニュージーランド、タイ、韓国、シンガポールに於いてその登録ファンドの販売をする手続きが簡便化される、と言うことが期待されている(ってダイエット商品か?)。

実際に日本でその手続きってどうなるの?

さて、金融庁のホームページでその手続きについて記載があるのでぼちぼち手続き申請が始まるのかと思うのですが、実際のところどうなるのか。書いてあることからちょっと考えてみたいと思います。

日本で投資信託を作って海外で売りたい場合

まずは輸出しよう、と言うケースを考えてみます。

輸出するにはまず作らねばなりませんので日本の投信法に基づいてファンドを設定することになります。

その際に運用会社とその役職員について色々と条件があるようですので、その条件を満たしていることも証明する必要がありそうです。とは言え、取締役に求められる「IOSCO関連の金融サービス業務での経験」って、これを文字通りIOSCO 参加国の当局と読むのか、IOSCOに参加している金融庁の規制下にある金融商品取引業者での勤務経験で足りると解釈するのか。。。普通に考えると後者のはずなのですが、表現が微妙におっかないですよね。

また、ファンドの資産にも制限があり、当然仮想通貨というか暗号通貨はダメで(笑)でも、金の預託証書はいけるのが不思議かも。当然のことながらデリバティブ取引についても色々と制限があります。集中保有規制もあって、通常5%、一定の条件で20%まで単一発行体の証券を保有可能だとか。

また、ファンドからの貸付は禁止、借り入れもAUM対比10%が上限、空売りもだめ、報酬体系としてパフォーマンスフィーは導入不可。まぁ、この辺りは投信協会の運用規定の範囲内、と思われるので多分日本の投信ならクリアー出来るでしょうね。

あ、上記は条件のほんの一部ですからね。で、これらをちゃんと満たすことを確認出来る資料とともに金融庁に申請をします。申請が完了すると、そのファンドはパスポート・ファンドということで、登録コードが与えられます。多分、設定国(ホスト国)での手続き関係はここまで。

その後は販売したい国での商品登録手続きを行い、現地の販売会社さんに販売してもらう、ということになるのでしょう。

海外で作って国内に持ち込みたい場合

では、逆方向の輸入についてみてみますと。。。

まず、パスポート参加国(で、当然日本以外の国)でその現地国の法規制に従ってファンドを設定し、前述の日本でのパスポート申請と同じことをして、登録コードを取得することになります。

登録コードを持って今度は日本での販売のための当局の手続きをするのですが。。。これは外国投資信託の持ち込みの手続きとほとんどと言っていいほど何も変わっていません。この持ち込みの基準等を定める日本証券業協会の外国証券の取引に関する規則の第16条と第17条が公募外国籍投資信託の持ち込み基準を定めていますが、今回のARFPの動きを受けて改正されてARFP対応の条項は出来ていますが、それは、外国投信の持ち込みの際の諸条件の一部がホスト国で確認すること登録コードが与えられているということを踏まえて、省略されているように見えているだけで、結果としてパスポート参加国以外のケイマン諸島の Japan regulations の適用やルクセンブルクやアイルランドのUCITs適合なファンドを持ち込むことと基本的な設計等については変わりはないのです。

当然、(交付・請求)目論見書や運用報告書の義務がARFPで緩和されることもありません。

じゃあ、ARFPのメリットとは一体なんだと捉えればいいの?

日本に輸入するメリットってどうよ?

正直言えば、日本にだけ持ち込む上でARFPを使うことのメリットは、UCITSや Japan regulations適合のケイマン諸島のファンドとの差が見えない以上ないと言い切っていいと思います。例えば韓国の運用会社が韓国株のファンドを日本に持ち込むためにパスポート登録して外国籍投資信託として(最大手証券会社4社とプレスティア、三井住友銀行と数少ない)外国籍投資信託の販売インフラを持った国内の販売会社のどこかと組んで販売するための調整をするならば、どこかの国内投資信託のファンドオブファンズの運用エンジンとして既存のファンドに資金をフィードしてもらう方が販売会社の数も段違いに多いし、商品が国内で販売するための商習慣に合わせやすい、などのメリットを享受しやすい、というのは間違いありません。

じゃあ、どうしたらメリットが出るの?

個人的には複数国での販売のためならば、ARFPへの登録は意味と一定の効果を出せるのではないかと思っています。複数国の公募ファンドの規制適応、となると通常は前述のような国ごとの事情に合わせたフィーダーファンドを作り、そこからマスターファンドに資金を集中させることが一般的ですが、フィーダーファンドごとに設立コストも掛かります。それが一つのファンドで複数国にアクセス出来るならば費用的なメリットを見いだすことが出来るでしょうし、そこは参加国が増えれば増えるほど一つのファンドでアクセス出来る国が増える、という意味で魅力的に映るかもしれません。

本当にそれってメリットなの?

どうなんでしょうね。個人的には特に個人投資家が主になる以上、販売される国においては既にある商品との競争になる、ということはその国の商習慣や法規制等で求められている報告書等を現地の言葉に翻訳しながらその頻度等も現地に合わせた上で作成し続けていく訳で、日本を例にとればそのような報告書等の翻訳などは販売会社が特定のファンドの代理人のようなことをやるはずもなく、運用会社などの商品を推進するサイドがそのコストで行うことが事実上のデフォルトであり、他国でも同じと想像して良いでしょうから、作って登録して各国で届け出ればおしまい、では無く、進出する国ごとに販売サポートのリソースの確保とコミットメントが不可欠と言えるでしょう。となると、グローバル展開している運用会社ならば使える、という見えないハードルが置かれてしまうようにも思えています。ま、投資家保護、ということを考えると、規制当局含めて運用会社にそれなりの規模を求めるのも当然かもしれませんが。。。

では、日本の運用会社はこれをビジネスチャンスと思うか、海外からの外圧のゲートが開いたかと思うかと言えば。。。

本当はビジネスチャンス、のはずなんです。国内が販売サイドの縛りも出てきているからAUMが頭打ちになる訳ですし、だから海外展開を始めるべきなのだと思います。でも、国内市場だけですでに疲弊しそうな状況で海外展開にリソースを割くなんて、と出来るところは。。。すでにARFPを使える素地のあるグローバル展開している欧米系の運用会社を除くから、国内勢と考えると数社程度しかないでしょうねぇ(あそことあそこくらいかなぁ。。。)。

だからと言って、外圧のゲートが開いたか、と言えば前述のようにその外圧は外国籍投資信託のチャネルでしか来られないから外圧にはなり得ないのです(これは自分でビジネスを頑張ったから言えることなのですが。。。)。

とすると。。。ARFPが出来ても何も変わらないし変われないように思えるのは私だけでしょうかねぇ。。。ま、これはまた数年置いたところで評価すべきかもしれませんね。

[投資のコストと効果] NISAを使った株式関連投資のメリットとデメリットを改めて考える

NISAって何ですか?

気づいたらずいぶん前の記事になってしまっていた ETF(というかファンドに投資することの隠された意義とETFにすることでメリットを受ける人たち)の話のなかで思わず触れてしまった NISA。以前書かせていただいていたSoldie でも、人気のコンテンツの一つはこのNISA。だから多分言葉だけは耳にしたことがある、という人も多いかと思います。

NISAって何ですか?
NISAって聞いたことはありますよね?

実際のところ、証券投資、特に株式投資と投信の投資をしている人ならば積極的に使っていて然るべきツール、のはずなのですが、よくよく仕組みを知らないとただの塩漬け専用口座になりかねないし、とはいえうまく使いたい税制面のメリットがある(ということは、それを使って誘導したい人がいる、という意味でもあるのですが。。。)のをみすみす見逃すこともなかろう((※)ただし、株式投資が制限なくできる人に限る)、ということで、じっくり見直しながら、どんな戦略ならば一番うまくハマるのか、というのも考えていきたい、というのが今回の記事の目標にしてしてみます。

NISAってそもそも何ですか?

NISA とは日本版 ISAということで N-ISAなのですが、じゃあ、ISAとは何か、というと Individual Savings Account の略でして、英語で書かれているとなんのこと?と思われる方もそこそこにいらっしゃると踏むので(ついこの間も私のtwitter をみて帰国子女ですか?と言われたのですが、そんなことはないです。私の英語は足立のヤンキーイングリッシュです。)説明すると、アメリカやイギリスなどの国々で、個人による資産形成のための証券投資に対して一定の税制優遇を与える税法が導入されていて、その条件を満たすための個人向け(=individual)貯蓄(=savings)口座(=account)、なのです。と言うことは、NISA は日本の租税特別措置法の中の株式等に係る譲渡所得等関係、第37条の14に、定められた非課税口座、なのです。

ですので、このファンドやらストラクチャーやら cryptocurrencyやらオフショアやらを扱うブログにしては珍しく、ファンド商品でも戦略の話でもなく、日本の税制に基づく証券口座の一つ、について話をする、とまず理解してくださいな。って、ここに来るような人なら皆まで言うな、ですな。

じゃあ、どう言う条件で非課税になるの?

はい、投資で一番のコスト、税金、特に日本ならばキャピタルゲイン課税が課税されない、と言うのはとても魅力的なことですよね。NISAの口座での取引ならば全ての株式の取引で発生するキャピタルゲインに対する課税がない。。。なんてそんなに都合のいい話でもなさそうでして

利用できる方日本にお住まいの20歳以上の方(*1)(口座を開設する年の1月1日現在)
非課税対象株式・投資信託等への投資から得られる配当金・分配金や譲渡益
口座開設可能数1人1口座(*2)
非課税投資枠新規投資額で毎年120万円が上限(*3) (非課税投資枠は最大600万円)
非課税期間最長5年間(*4)
投資可能期間2014年~2023年
  1. …0歳~19歳の方は、ジュニアNISA口座をご利用いただけます。詳しくはジュニアNISAページをご覧ください。
  2. …NISA口座を開設する金融機関は1年単位で変更可能です。ただし、開設済みのNISA口座で既に株式・投資信託等を購入している場合、その年は他の金融機関に変更することはできません。
  3. …2015年以前分は100万円。未使用分があっても翌年以降への繰り越しはできません。
  4. …期間終了後、新たな非課税投資枠への移管(ロールオーバー)による継続保有が可能です。

と言うことが金融庁のホームページの NISA特集にありましたので引用してみましたが、ちょっとイメージがつきづらいと思いますので、少し例を交えながら説明していこうかと思います。

NISAのイメージってこんな感じ

例えば、株式の取引を検討しているミヤタ君がいるとします。彼が株式取引をするのに、当然ながら証券会社に取引口座を空けねばなりません。

今ですと、1月から12月までの取引を全て自分でリストにして提出して、その他に得た年間の所得と合わせて確定申告しなければいけない「一般口座」か、証券会社が各取引の利益に対して源泉徴収を行い(負けたら源泉徴収しすぎている金額を返してくれて)、年に一回の報告書を纏めてくれるので確定申告は書類提出だけで追加の納税も発生しないし格段に楽チンな「特定口座」の二つしか選べなかったのですが、今はこのNISAという口座も開設することが出来るです(しかも2018年からは「つみたてNISA」という選択肢も!)。

このNISAは、1月から12月までの1年間における国内および海外の株式(と投資信託)の新規購入額のうち最初の120万円については、その株を買った年を含めて5年間は、その株式の売却益が確定しても、株式の分配金にも税金がかからないというものなのです。もし5年経っても売らないでもっと儲けを期待したい、という場合には5年経って終了するNISA口座からその翌年に新しく開設されるNISA口座に全額移管することが出来るので、NISAの制度が存続する2023年の開設/2028年の終了まではその株式が仮に3倍になっても税金がかからない、ということなのです。

また、2018年から始まったつみたてNISA の場合は、1月から12月までの1年間における国が定めた基準を満たした投資信託の定期的な購入に対する、年間の累計購入額の40万円については、その株を買った年を含めて20年間は、その投資信託の売却益が確定しても、投資信託の分配金にも税金がかからないというものなのです。

とはいえ、その代わり、売却損が出ても一般口座や特定口座の売却益と相殺が出来なかったり、損が出そうだからということで相殺させるためにNISAから一般口座や特定口座に株式を(そして、つみたてNISAから普通のNISAに、もしくはその逆方向に、投資信託を)移管したり、逆に、一般口座や特定口座に持っている株式がもう買っちゃったからといって、税金を回避するべくNISAに移管したりすることが出来ません。

また、今ですと一つの口座で120万円の非課税枠がある、と解釈して、複数に口座を開けて例えば120万 x 5口座 = 600万円(つみたてNISAならば40万 x 7口座 = 280万円!)の非課税口座が持てる、わけがなく、最初に口座を開くと他の証券会社や銀行にも並行して口座開設をすることが出来ず、また他の金融機関に口座を開けようとするならば翌年にならなければ開けられないのです。

そして。。。一般NISAを持つとその年にはつみたてNISAを、逆につみたてNISAを開けるとその年には一般NISAを、同じ年の間には開設することが出来ません。

実際の投資の流れ的に見ると(一般NISA編)

そこで、ミヤタ君は某ネット系の証券会社で口座開設をして、この2018年に一般NISAも開設してみました。開設する際には他で開設していないかどうかを含めて税務署と証券会社で審査が行われるので申し込んで最長でも数週間程度待つことに。。。

株式の配当って

で、実際に口座が開いたので、100万円ほど口座に資金を動かしてとある株式の銘柄、ここではAとしましょうか、を100万円で買ってみました。すると、株式の分配金を受け取ったときに源泉徴収額が掛からず全額受け取っていました。さすが非課税口座。

年内に速攻売っちゃった場合

そして、年末を待たずして、A株式が2倍になったことで売却しました。すると、これにも特定口座ならば売却益に対する20.315%のキャピタルゲイン税が掛かるところが掛かっていませんでした。

そこで、売却したことで非課税枠の100万円の枠が開いたはずだから、さっきの200万のうちの120万円でもう一度別の儲かりそうな株式、Bを買おうとしたら。。。非課税枠は残り20万円しか残っていなかったことに気づいた、という感じです。

5年の期限前に売却した場合

では、5年の期間満了前に売却した場合にはどうなるでしょう。2倍になったので売却する、ということで100万円に対して特定口座で起きていた20.315%の源泉徴収は発生せずに終わります。さすが非課税口座。そこで新規投資を始めよう、というならば、その年のNISA口座を開設して購入することになります。

5年経っても売らなかった場合

これが、5年間放置していて2倍になっていた場合、ですが、5年経つとNISA口座は終了になります。でも、2023年までは新規のNISA口座を開設できるので5年が終了する2022年に開設して5年間放置していたA銘柄をこの新規口座で引き継ぐ(ロールオーバー)することにしました。このとき、200万円相当ですが、ロールオーバーの場合には2018年の新規の購入枠を引き継いだことになっているので追加購入することは出来ません。

今の所、この2022年に開始する5年期間の終了時点である2027年に一般NISAの設定が出来るという法律が出来ていません。もしこのままですと、特定口座か一般口座に移管して、売却時に20.315%のキャピタルゲイン税が課せられることになります。

では、つみたてNISAだと、この話がどうなるか、というと。。。

実際の投資の流れ的に見ると(つみたてNISA編)

ミヤタ君は某ネット系の証券会社で口座開設をして、この2018年につみたてNISAも開設してみました。開設する際には他で開設していないかどうかを含めて税務署と証券会社で審査が行われるので申し込んで最長で1-2週間程度待つことに。。。

投資信託の分配って

で、実際に口座が開いたので、40万程度を口座に資金を動かして、月に3万円ほど、ここではXという適格な投資信託しましょうか、を積立で買う設定をしました。すると、この投資信託の配当金を受け取ったときに源泉徴収額が掛からず全額受け取っていました。さすが非課税口座。おかげで再投資にそのままそっくり回すことができました。目指せ複利のスノーボール効果!

配当金が特別配当、要は元本の償還だった場合

そして、年末を待たずして、X投信からの配当が実はパフォーマンスが悪くて特別配当、ということで元本の払い戻しになってしまっていました。

そこで、元本の償還したことで非課税枠の40万円の枠の一部が開いたはずだから、さっきの帰ってきた元本にちょっと上乗せして別の投信 Yでも積立始めようかな、なんて思ったら。。。非課税枠は着実に毎月の3万円のX投信の購入代金で減らして、元本償還されても減ることはありませんでした。

20年の期限前に売却した場合

では、20年の期間満了前に売却した場合にはどうなるでしょう。積立してきたのでドルコスト平均法で適当に低いところで平均取得単価になってくれたおかげで利益が出ていました。

ということで年36万円を継続させた年数分に対してそこそこ利益が乗っていたものの、それに対して特定口座で起きていた20.315%の源泉徴収は発生せずに終わります。さすが非課税口座。そこで仕切り直しで別のファンドに新規の新規投資を始めよう、というならば、その年のつみたてNISA口座の枠を引き続き利用して購入することになります。

20年経っても売らなかった場合

これが、20年間放置していて積立てきた場合ですが、20年経つとつみたてNISA口座は終了になります。で、一般NISAのように、2038年に新規のつみたてNISA口座を開設できるか、というと今のところは不透明。なにせ、つみたてNISAは2037年までの口座開設分の話しかしていないのです。いわゆる時限立法ってやつですね。ですので、今のままで行くと、売らなかったら特定口座か一般口座に移管して売却時にキャピタルゲイン税の課税対象になってしまうのです。

ちなみに、キャッシュフロー的に何か見落としてない?取引コストとか

はい、株式を買うときや売るときには手数料がかかるのが一般的ですよね。ですが、NISAについてはオンライン系の証券会社さんですと無料にしたり、キャッシュバックすることで実質無料にするところが多いようです。前述のように、一人の投資家にとって一般かつみたてかのいずれにせよNISAを取り扱えるのは一年で一つの金融機関だけ、となれば手数料の競争も起こります。

その他のメリットってないの?生命保険の保険料控除みたいなやつとか

実は。。。ないんですよ。税制的なメリットで言えば投資対象が儲かった時のキャピタルゲイン税が掛からないだけで、証券の購入価格に対応して所得税減税が起きるとか、投資対象が負けたときに損益通算出来るとか、翌年以降に繰り越せるとか、そういうのが全くありません。もし所得税減税を狙うならばiDeCoを使う方がいいでしょう。実際、つみたてNISAとの違いってそこくらいでしかないのですから。って、あーあ、これで次はiDeCoの解説が決定だ(笑)

じゃあ、NISAで何に投資したらいいの?

と、いうキャッシュフローや税務的な影響について見たので、これを踏まえて、じゃあ、NISAで何を買いましょう、という話になりますよね。ご存知の通り、ストラクチャラーではあるけれども投資のプロではない私の意見ですので、まぁ、話半分に聞いてくださいね。

そもそも、一般NISAなのか、つみたてNISAなのか?

個人的には、今年から始めるならば、つみたてNISAかな、と思ってます。というのも、iDeCo の年間積立額が通常ならば27万6000円(一般的な会社勤めの人の場合。自営業ならば81万6000円)ですが、実際にこれを積立てみても最初の数年って仮に10%増えても2万円程度。実額で考えると投資額としてかなり小さいですよね。と考えると、iDeCoにつみたてNISAをやれば年額67万円になるので、将来の年金として結構悪くない足しになりそうですよね。ちょうど40才代ならば、65才定年とか70才にならないと年金がもらえなくなるのでは、みたいな話があるとすればこの20年でどこまで年金資金を貯められるかが勝負。ならばコツコツ積み立てるほうが負担も少なくて良さそうじゃないですか?

となると、国の定めた低コストな(ってお役所が言うんですよね。。。)適格性に合致した投資信託か、一部のETFが購入可能な口座ですから、結局投信しか買えず(ETFだって投信ですからね。たかだか上場している程度でしかないんですよっ)、投信を選ぶときの第一の判断基準はこれ、アクティブかパッシブか、であって、その観点で見ると結構商品として並んでいるのがパッシブ系で、ベンチマークとなる指数連動型の商品。長期投資を考えると、どうしたってアルファを取りに行くよりもベータで手堅くインフレに対応できるようにする方が20年間の長いスパンで投資を積立てることのドルコスト平均法でいくならば相対的なコスト感も良いでしょう。

となると、一旦つみたてNISAを始めると、最後までつみたてNISAに魂を預けることになりそうですね。でも、これのおかげで iDeCo と併用して自分年金をどれだけ大きく出来るか、と言う話になるわけですが、iDeCo の方がアクセス出来る商品性がアクティブ系もそこそこある(お勧め等はiDeCoの記事の時にでも。。。)のでそちらに任せて、つみたてNISAは対インフレと言う意味でのパッシブなベンチマーク運用すると言う分散を目指すのがバランスのいい投資スタイル、と言えるでしょう。

あ、そうそう、ちゃんと20年間でポジションを閉鎖することになるのであれば、20年間毎年積立た分を1年分ごとに(ドルコスト平均法の解約版みたいに)解約して行くのもよし、最初の投資分が20年経ったところで、全部のポジションを一気に売り抜くのだって問題ありません。

一般NISAだって捨てきれないものがある

とは言え、一般NISAについては株のキャピタルゲインが最長5年間の保有期間において非課税になり、うまくロールオーバーを使えば、今年と来年から始めるならば10年間の保有期間でのリターンを狙えることになります。とすると、最長10年の持ちきりで株のキャピタルゲインが非課税になることをうまく使うならば、大化けする株式を買ってしまうこと、でしょう。となると、流動性の高い大型株ではそんな大化けを狙いに行きすらできないですから、自然と中小型株に目が行きますよね。それでいいんです。なにせ、狙うのは数倍から数十倍になることを目指すのですから。仮に11倍(笑)になったとしましょう。上がりの部分が投資額の10倍と言うことですから、もしキャピタルゲイン課税があるならば2倍分を国に持っていかれるんですよ。それがNISAには全くないのですから長期戦で仕込んで大物を待つのも悪くない戦略ではないでしょうか。

ちなみに120万円と言う投資枠で買える銘柄は中型株で364社、小型株で3,140社。毎年同じ銘柄を向こう5年で買い集めるもよし、毎年テーマを決めて選んで買うもよし。

まとめ

個人的には、会社自体が当局の規制の外にあったことから、株式の取引は事実上可能でしたが、職業上の倫理観等で株式の取得は控えていて、結果投資信託に投資することもありませんでした(なにせ作っていましたからね。。。)。

ですが、今回調べて見て、またファンドに投資することは自分が投資判断をしていないと判断されることから、金融規制業種にいて、ディーリング出来ない類の仕事をしている人たちにとって株式への直接投資が事実上禁止されていますから、資産形成・運営せねばならないときの回避ツール的意味合いもあるのだな、と感じました。

まぁ、やって損は。。。銘柄選定の結果で起こるかもしれない、ですね。でも、この手の政略系な意味合いがあるので、やらないよりはやったほうがあれこれ良いのだろうと思います。

アジア地域ファンドパスポートの話が出てきたのでUCITs とかも合わせて考えてみた

ファンドの世界でのパスポートって?お金が旅する為に必要なの?
ファンドの世界でのパスポートって?お金が旅する為に必要なの?
今日、というかもうすでに昨日(というか、実は先週の金曜である9月11日)、金融庁のホームページでこんな発表がありました。
これは、このページのリンクにあるように、「2013 年 9 月 20 日にインドネシアのヌサドゥアで各国財務大臣が 署名したアジア地域ファンド・パスポート創設のための意図表明文書に全体と して代わるもの」ということで、豪州、日本、韓国、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール及びタイが中心になって、このアジア地域でのファンド・パスポートの制定に向けて協力していく、というそうなのです。

ファンド・パスポートとは?

で、いきなり、ファンド・パスポート、と言われてもピンとこない方もいるように思ったりするので、ちょっと解説させていただいちゃいます。

通常、ファンドを(世界中のどこでもいいのでどこかの国か地域で、ファンドを作るための制度を利用して)単純に設立しても、通常はそのまま世界中にいる投資家に販売というか投資家に勧誘し投資を募るすることは出来ません

そもそも、ファンドを販売するには?

え?と思ったでしょ。ええ、一般的にはファンドの契約書等には投資を募る時の手続きやその資金の運用方法、そのリスク、最後に投資資金を変換するための手続きについて記載するものなのです。そこがファンドの運営にとって一番大事なところですので。

でも、ファンドを作って大事なことはソレだけではないですよね。大事な投資家を募るにあたり、その募集の仕方についていろいろと制限などを明示しなければならないのですが、そもそも、ファンドの契約書はファンド設立国の法律に基づいて作成されるものですので、ファンド設立国での募集ルールを最低でも記載しますが、もし設立国の外で販売するのが最初から予見されるならば、募集行為がファンドの設立国の外で行われるその国独自の募集のルールに基づく記述をして、かつ、ファンドの運用方法や投資家への制限、(この手の話で一番多い)投資持分の譲渡制限の話、といった波及的な影響をその国の法律と照らし合わせて反映させねばならない、という、単純に翻訳すればいいわけではない作業があるのです。しかも、これが複数の国で販売されるとなると、ファンド設立国とファンド販売国の数だけの当局規制や法律の影響の最大公約数の折り合いを見つけなければならない、というかなり苦痛な作業が発生することになります。

で、ファンド・パスポートの概念。

ひとたびファンド・パスポートの基準に合致したら、パスポートの有効な複数の国で共通する、ファンドの募集するための基準を充している、とみなしてもらえるので、上記でいうところの

個別の「国独自の募集のルールに基づく記述をして、かつ、ファンドの運用方法や投資家への制限、(この手の話で一番多い)投資持分の譲渡制限の話、といった波及的な影響をその国の法律と照らし合わせて反映」する

という作業が複数国に対して一瞬にして完了する、ということで、ファンドを設立して運用する側からするとその分のドキュメンテーションの作業が簡略化され、その結果ファンドレイズの意味で効率化が計れるからメリットがある、ように思える概念、です。

これが特に個人投資家向けの公募の基準を満たすファンド・パスポートだとしたら、複数国の公募市場で販売できちゃうからより多くの AUM を積み上げられるのでは、という期待も大きくなる、のでそりゃあ、アセット・マネジメント業界的には期待が大きいですし、ファンドを売るディストリビューター(日本では証券会社や銀行)あたりも商品の幅が期待できるから、と期待を膨らませるでしょうし、当局としても自国市場の活性化が期待できるから頑張って制定しようとする、という(もし銀行員が好きな表現を使うなら)三方よし、なアイデアとされています。

著者の予見するファンド・パスポートの未来とは?

で、お気づきかと思いますが、著者は実は、このファンド・パスポートについては懐疑的な思いで見ています。なので、さっきから語尾が「期待される」だの、「されている」だの、とダイエットの売り口上に対する期待感くらい他人事なのです。その理由とは。。。

ファンド・パスポートの先駆である UCITs が完全なパスポートの役割の機能を果たしきれていないから

UCITs とは、ざっくり言えばヨーロッパ連合版のファンド・パスポートで歴史は古く、1985年に最初の Undertakings for Collective Investment in Transferable Securities Directive = 譲渡可能証券に対する集団投資の引き受けに関する指令がEUで定められたのが始まりです。で、この「譲渡可能証券に対する集団投資」がいわゆるファンド、特に個人投資家等が投資する公募ファンドを指しているので、ヨーロッパにおける公募ファンドの募集・販売に関する共通ルールに関する規定、として認識されています。この指令は今では UCITs IV とバージョンを重ねており、もともと上場株や流通性の高い債券といった証券への投資をターゲットにしていたものが、先物やスワップを許容し、スワップを使った商品のおかげで、間接的にではあるものの、ヘッジファンドへの投資と同等のパフォーマンスを得ることまで出来てきました。

ちなみに、2008年の信用危機により特にヘッジファンドに対する強い規制の要請があったことから、UCITs ファンドに属する公募ファンド以外のいかなるファンドに対して、AIFMD = Alternative Investment Fund Manager Directive = オルタナティヴ投資ファンド運用会社指令が制定されたことで、ごく一部の例外を除くと、ヨーロッパ連合で募集されるファンドは UCITs か AIFMD のいずれかに規制されることになる、とされています。ですので、AIFM になるコストを考えたら、と、UCITs プラットフォームに乗っかって、トータルリターンスワップを使ったスキームで自分たちのヘッジファンド戦略を UCITs 化する流れが最近強まっていたり、投資家サイドも UCITs 化されたヘッジファンドを複数投資する Fund of UCITs Fund に投資する傾向が強まったり、と、UCITs がヘッジファンド業界で再評価されているという話もあったりします。

とはいえUCITSってパワフルですよ。EU域外では

また、UCITs がヨーロッパの公募規制のある意味代名詞となっていることで、何が起きたかというと、ヨーロッパでの公募規制だから、という「イメージ」が先行した結果、ヨーロッパ以外の投資家が UCITs に適合したファンドに投資する、ということが起こって、2013年の終わりには実際には UCITs に適合したファンドがヨーロッパ以外の国含めて86カ国で販売のための当局への登録がなされています(PwC Ireland 調べ)し、ヨーロッパ以外の国の機関投資家の一部では UCITs であることが投資基準の一つにしている、というものすらあります。そのおかげで、UCITs の最大の設立国である Luxembourg と Ireland はアジア各国でファンドを作るなら、運用会社の海外拠点を作るなら我が国へ、と積極的な誘致活動をし、毎年派手なロードショウをしています。

閑話休題。

あれ、と思った読者の方がいると思います。86カ国で、何かしら UCITs 登録されたファンドが現在販売されている、という事実があるのに、他方で著者はヨーロッパ域内でのパスポートとして機能しきれていない、と主張する矛盾。

UCITs の実情

実際は、こういうことなのです。販売登録のためのパスポートとしての概念は EU 域内での資本流通のための基本ルールとしては存在するのですが、各国で公募ファンドに対する要求基準が微妙に異なるため、結果として商品組成の時点で販売のターゲットとなる国に対するカスタマイズがどうしても残る、というものなのです。前述の PwC Ireland の資料の12ページに UCITs が如何に EU 内でパスポートとして機能するか、という説明をしているのですが、ここでも留保している通り

国によっては追加の書類や、サービスプロバイダーを要求するケースがある、

のです。ということは、Luxembourg や Ireland のようなファンド設立の意味では中心的なオンショア国 (や、Malta や Cyprus といった、これらに続くファンド設立を誘致している国)で作るだけでなく、普通に日本で国内投信を作って国内で売るのと同じように France や Germany で作って売る、というケースにおいても国内だけで募集するか、他国でも募集するか、という観点で UCITs-compliant にするかどうか、という検討が必要になり、後者になった場合には、ターゲットになる国の公募規制も合わせて考え、準備する必要がどうしても残る、ということなのです。

そこで、たぶん疑問が一つ出てきます。

じゃあ、UCITs をヨーロッパの外でこれだけ売っているのは、UCITs をそれぞれの国でパスポートとして許容しているから、ではないのか?

よく誤解のある質問なのできっぱり申し上げます。

違います(きっぱり)

日本を例にとるならば、日本国外のファンド商品を日本国内で募集する場合には、日本証券業協会が定める「外国証券選別基準」に合致する必要があります。これは、日本と同様のファンドに関する法規制が定められている国において設定され、かつ日本独自の公募のための投資制限やファンド関係者に対する要請、法的構成に対する要請(例えばユニットトラストならば信託宣言型は不可)、そして当該ファンドを販売する際にそれを日本証券業協会に届け出る代行協会員が必要(言い換えれば、商品の国内における対日本証券業協会の窓口をする日本証券業協会の会員が必要)など、あるので、UCITs-compliant だから顔パス、ということは絶対ないのです。

同じことは、UCITs が大好き、と言われている香港もシンガポールも同じで、運用会社の現地法人がいないとダメ、など、それぞれの国における規制があるため、持ち込む際にはそれぞれのローカライゼーションをきちんとする必要があるのです。

ローカライゼーションとは法令遵守だけじゃない。言葉だって売り方だって現地化しないとだめ。

言い換えれば、販売のための法的要件が整ったらどこでも売れるわけではなく、当然に商品が販売するために魅力的であり、かつ国内で特に個人投資家に販売されるならば、実際に説明し販売するローカルの販売会社(証券会社や銀行など)が責任をもって販売できるための体制も維持されるようにしないといけない、のです。そのためには、実は、開示資料がすべてローカルの言語に翻訳される必要もあるでしょうし、開示内容については、日本ならば昨年末から開始した運用報告書におけるパフォーマンスと一般的な市場ベンチマークとの比較、といったその国特有のルールに適合することも必要になってくるのです。

では、アジア地域ファンドパスポートの話に戻しましょうか。

これはまだ作業が始まったところですので、今後に期待したいところは当然いろいろありますが、日本での公募ファンドにおける「個人投資家を保護するため」という背景でいろいろと導入された開示要求や、根っこのところでいえば商品の受け渡しのルール(資金が申込日に受け渡さずに約定完了してから数日後に行う、という株や債券の慣習を引きずっている点)などが海外のスタンダードと異なること、さらに、海外ファンドですので外国籍投資信託としての登録になることで、日本の証券会社で取り扱える会社数が極めて少ないあたりで、海外ファンドが国内にパスポートをもって入ってくる時の事実上の障害がいろいろ残ってしまうのではないか、という懸念があります。

他方で、日本語以外でのレポーティングや販売サポートを行わねばならない、という点で今までそこに注力を注いできていない国内の運用会社さんが海外市場にパスポートを使って進出したいとどれだけ思えるか、これも引っかかります。その点ではヘッジファンドマネジャーの方が海外投資家への接点が多い分ハードルが低いはずですが、公募化したいか、というところから始まるので。。。

ということで、これを機にあらゆる面で海外と国内との間での違いというものが意識され、そこにどう歩み寄るか、という話が始まればいいなぁ、と個人的には思うのですが、重い話になる、だろうなぁ。。。今後も注視していきたいトピックです。

オフショアでの商品設計はオフショアだけで完結。。。するはずがないっ!

商品のストラクチャーを考える時は こんな感じです。。。

と、泣き事のようなタイトルにしましたが、規制が少ない、と一般的に言われるオフショア。本当になんでもやりたい放題、と思われがちです。よく、「○○って出来ますか?」(いやいや、それやるならそのストラクチャーじゃなくってこっち使えば早いんだけど。。。)とか、「XXって感じでやりたんですけど。。。」(。。。やってもいいけど、あとで実務上絶対にハマるぞ。。。(汗))ってご相談を時折耳にします。

ファンド構造とやりたいことのギャップ、それと柔軟性の間にて

商品のストラクチャーを考える時は こんな感じです。。。
ええ、やろうとすれば大抵のことは3つの基本ストラクチャーの本来の構造を無視してでも出来る位、オフショアのファンドのための法制度は柔軟に出来るようです。でも、これって本質論を蔑ろにしている自己満足な技術的な議論では、なんですよね。例えばケイマン諸島。会社型でもユニット・トラストでも、LPS 型でも、当局への届け出については大別して3つのカテゴリーがあって、最低どれかに入れるべく、それぞれの条件(例えば関係者に当局への業法上の届け出がされているか、とか、投資家の数と最低投資金額と投資家の特性での制限だったりとか)に合わせねばなりませんから、極端な話、日本人の(当然ケイマン諸島では何事も無免許な)個人が数人で「君は受託会社で信託設定を宣言して、僕が一任運用者ってことで指名するってことでファンド作っちゃおうぜ。どうせ仲間うちなんだし」と、やったところでケイマン諸島の金融当局はさすがに受け入れません(笑)

The Mutual Fund (Japan) Regulation の罠

で、そんななんでもありなケイマン諸島に、面白いレギュレーションがあるんです。その名も “The Mutual Fund (Japan) Regulation”。名前からも想像が難くないのですが、日本での公募投信として設定するケイマン諸島籍のユニット・トラストはこのレギュレーションに合致しないといけませんよ、と言わんがばかりのレギュレーションです。で、実際、これを通すとどうなるかというと。。。日本での海外籍公募投資信託の規則といえば、日本証券業協会の定める「外国証券の取引に関する規則」の第16条にある、「外国投資信託受益証券の選別基準」を満たさねばならない、というものなのですが、このケイマン諸島のレギュレーションを満たしていれば自然とこれを満たす、という仕掛けになっています。それに対して、例えばEU 域内のどこかで設定された公募ファンドがEUのどの国でも公募ファンドとして販売を自由にできるようにした UCITS というものがありますが、このUCITS の基準を満たしたとしても必ずしも前述の外国投資信託受益証券の選別基準を満たすわけではないのです。でも、ケイマンはなぜか。。。

Japan Regulation の表向きの狙い

実は、このJapan Regulation はこの選別基準をそのまま採用しているからにほかならないのです。まことしやかに言われている話によれば(多分そのとおりだと思うのですが)、日本とケイマン諸島のそれぞれのファンド設立の際に起用される最大手の弁護士事務所2社が数多く設立されるケイマン諸島籍の日本の公募向けユニット・トラストの日本における選別基準の合致の確認について繰り返し弁護士意見書などで確認するのが非効率であると考えてレギュレーションにしてしまえ、と導入された、らしいです(その結果、これらの事務所の寡占がより進むだろう、とも考えたと言われてます(しーっ))。確かにケイマン諸島の当局のお墨付きとあれば意見書も書きやすく、日本証券業協会に届け出る代行協会員(当該ファンドを日本に持ち込む責任を負う証券会社)も安心です。で、当然ながら、ケイマン諸島の当局にこのレギュレーションの合致を確認してもらわず普通のファンドとして当局に届け出て、選別基準を合致していることを逐次確認することも出来ます。ケイマン当局に出すか出さないか、の問題でしかない、という話でもあるわけですが。。。

ちなみに、実はこんな裏話

で、面白いことに、もともとケイマン諸島のファンド関連法はバーミューダ諸島のファンド関連法の一部を(そのまま)コピーされている、とされていますが、元ネタであったバーミューダ諸島が 2007年4月にこれらの法改正をしたことで日本向け公募向けユニット・トラストの認可プロセスをそっくり作るのを忘れた、という珍事が発生しました。当時は再保険やアメリカ向けビジネスで潤っていたので日本のことをすっかり忘れた、ということらしいのですが、数年たち日本向けのビジネスが激減したことに気づいたバーミューダ諸島の当局が慌ててその島の最大手の弁護士事務所に認可プロセスを作らせようとしたところ、一箇所だけ頑なに拒んば部分があったのです。それは、ケイマン諸島における Japan Regulation だったのですが、理由がとても簡単で、今適切に認可条件を定めても、将来日本で選別基準を変更されたらそれに追随して変更せねばならないのが解せなかった、そうなのです。ちなみに、2012年頃にやっとバーミューダ諸島にも日本の公募向けユニット・トラストの認可プロセスが導入されましたが、その時には既にケイマン諸島が新規案件の大半を占めていたので改めて新しい法規制を金融庁に説明して認可を受ける、という余計な手間を誰もしたがらないので、みんな引き続きケイマン諸島籍に流れています。

さて、バーミューダ諸島の懸念は長い間起きなかったのですが、つい執筆時で2ヶ月ちょっと前に発生してしまいました。これでやっと本題に入れます。長い枕でした(笑)

日本の公募投信のルールが大きく変わった

2014年12月1日に日本の公募向け外国籍ユニット・トラストの選別基準に新しい条項が入りました。これは、国内の公募投信と国内の公募投信が投資先とするファンド・オブ・ファンズ等に適用するルールをある意味そのまま移植することで、外国籍公募投信が抜け道とならないように、という手当がなされた、というものです。

で、どんな条項が入ったかというと、コンセプトで説明するならば

  1. 投資信託は分散投資するのが基本なのだから、最低10銘柄の証券は保有しましょうね。
  2. デリバティブ取引は大きく資産評価が動きかねないし取引先の信用リスクに大きく依存しかねないほどリスクが高いから、ファンド全体の取引についてもそのリスク量が純資産の80%までしか取ってはいけませんよ。
で、それぞれを説明していくならば、まず比較的簡単な2. から。

デリバティブ規制

これはファンドの仕組み上、デリバティブ取引(金利/為替/株式/指数スワップ及びオプション、先物、先渡取引、などなど)を使うファンドというものがヘッジ目的でもそうでない(言い換えるならば、それ自身が投資目的という意味の)目的でも、増えてきているものの、それぞれの目的だからといって、リスク管理を怠ってはいけませんよ、という趣旨から(か?)、日々、デリバティブ取引のリスク量を適正な方法(例えば銀行でリスク管理するときに使う標準的手法とか、一般的なリスク管理で使われる VaR – Value at Riskとか、欧州の公募ファンド規制であるUCITs で求めているリスク管理手法と言った、一般に適正とされる方法)で算出して、それが純資産額の 80%を超えないようにしましょうね、ということを管理会社等(管理会社、もしくは運用者)が行っているファンドでなければ日本の公募市場に持ち込んじゃ駄目よ、というルールです。(ちなみに、ヘッジ目的でない場合のVaRなり標準的手法なりで計算する場合、デリバティブ取引だけでなく全体のポートフォリオで見なければならない、ともされています。)
言ってしまえば、単一のスワップに投資することが目的のファンドを作るときに、ファンドの目論見書に「これこれこういうスワップに入ること」が投資目的だからそれ通りにやっていればいいんだ、では日本に持ち込めない、ということなのです。ええ、私の昔の仕事そのままでは機能しない、という意味です。

集中投資規制

これはこれで、単純な単一資産/契約だけの仕組みもののファンドを許さない、ということの表れなのもしれませんが、1.はそれを厳密に全面に押し出した、といえます。というのも、これは正しくは「信用リスクの管理」という範疇において

信用リスクの適正な管理方法として、具体例として、一の者に係るエクスポージャーの投資信託財産の純資産総額に対する比率が次にあげる区分ごとのそれぞれ10% 、合計で20% を超えることのないように運用すること、および、価格、金利、通貨もしくは投資資産財産の純資産総額の変動等により当該比率を超えることとなった場合に、純資産価格の計算を行い、定められた比率を超えることが判明した日から一か月以内に当該比率以内となるよう調整を行い、通常の対応で一カ月以内に調整を行うことが困難な場合には、その事跡を明確にしたうえでできるだけ速やかに当該比率以内に調整を行う方法が考えられます。ただし、投資信託の設定当初、買戻し及び償還への対応並びに投資環境等の運用上やむを得ない事情があるときには、このような方法による必要はないと考えられます。

(a) 株式及び投資信託証券の保有:「株式等エクスポージャー」

(b) 有価証券(組合出資持ち分を含み、(a) に定めるものを除く)及び金銭債権((c) に該当するものを除く。)の保有:「債券等エクスポージャー」

(c) デリバティブ取引その他取引により生じる債権:「デリバティブ等エクスポージャー」

ということを行いなさい、と明示されました。特に上記の太字にしたところだけでも十分意味が通じるはずですが、要は、とある会社の発行する株式、債券、デリバティブ取引の3つにおいて、それぞれ 10%以下までなら持てます、もし複数のカテゴリーに渡って持つならば合計でも 20%以下までなら持てます、ということなのです。で、これですが、計算方法にリスクの考え方を入れるわけですからちょっと調整が入りまして。。。

まずは簡単なところで

なお、それぞれの計算方法については次の通り。
(a) 及び(b) は、当該有価証券及び金銭債権(以下「有価証券等」)を発行もしくは組成した者または債券の相手方(以下「発行体等」)に対するものとし、保有評価額または債権額(担保付取引の場合には当該担保の評価額、当該発行者等に対する債務がある場合には当該債務額を差し引くことが出来る。以下同じ)をもってエクスポージャーとすることが考えられます。
なお、次に掲げる有価証券等についてはエクスポージャーをゼロとすることが考えられます。

  1. 信用力が高いと認められる国等の中央政府、中央銀行、もしくは地方政府またはこれらが設立した政府機関の発行または保証する債権
  2. 現地通貨建ての中央政府、中央銀行、もしくは地方政府またはこれらが設立した政府機関の発行または保証する債権
  3. 国際機関の発行又は保証する債権
  4. コールローン、預金、CP(短期社債等を含む)、海外CDまたは金商法第2条第1項第18号に定める有価証券(第1号に定めるものを除く)については、満期までの期間が120日以内のもの
  5. 一か月以内の現先取引またはリバースレポ取引で、保有する有価証券等(上記1. から4. までに定めるものを除く)

このうち、信用力の高いと認められる国等とは、日本、アイルランド、アメリカ合衆国、イタリア、オーストラリア、オーストリア、オランダ王国、カナダ、UK 、シンガポール、スイス、スウェーデン、スペイン、デンマーク、ドイツ、ニュージーランド、ノルウェー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポルトガル、ルクセンブルク、香港、とされています。

とすると、私の2009年までの仕事は一つ、もしくはあっても2つの発行体の債券だけを保有する、ということは、ほぼ100%(2つの発行体の場合はそれでも、それぞれ10%を超える)のエクスポージャーなのでこれも出来ない、ということになります。

で、残るデリバティブ取引ですが、

(c) について、まず、下記のような取引を想定しています。

  1. デリバティブ取引
  2. 為替予約取引
  3. 信用取引(売付を目的としたものに限ります)
  4. 株式の借り入れ(売付を目的としたものに限ります)
  5. 有価証券の貸付
  6. 証券貸借取引(レポ、現金担保付債券借り入れ(「リバース・レポ取引」))
  7. 債権の借り入れ(リバース・レポ取引を含みます。)
  8. 債券(転換社債券、他社株転換可能債券、新株引受権付社債券及び新株予約券付社債券を除く)の空売り
  9. 現先取引(債券、CD、CP に係るものに限ります。)
  10. 金銭の貸し付け
  11. 資金の借り入れ(コール市場を通じたもの取引も含みます。)
  12. 外国為替の取引(2. に該当するものを除きます。)
  13. 発行日決済取引

このうち、為替予約取引(店頭デリバティブ取引に該当するものを除きます。)のエクスポージャーは取引の相手方に対するものとし、たとえば予約期日に応じてそれぞれ次の定めによることが考えられます。

  1. 120日以内に予約期日が到来するものについてはゼロ。
  2. 120日を超えるものについては、評価益の額をエクスポージャーとする。

おっと。為替予約取引のうち 120日以内に期日が来るものはゼロ、って、これは不思議ですね。これのお陰で、いわゆる通貨クラスの商品における高分配を下支えする高金利通貨との為替フォワードのほとんどが無罪放免になります(通常最大一ヶ月のロールですからね。)何故かアメリカのCFTC のルールでもこの120日以内の為替予約取引は対象外、のような話もあるので、この商品の取扱いというのはある意味需要や取引量などなどの観点で例外扱いなのでしょう。さて、これの続きを読み進めていきましょう。

これを除くデリバティブ等エクスポージャーの算出方法は、有価証券の発行者等及び取引の相手方に対するものとし、たとえば、それぞれ次の定めるものによることが考えられます。

  1. 有価証券の発行者等に対するエクスポージャーは、デリバティブ取引のうち有価証券等を対象(原資産)とするものについては、それぞれ次のように定めるところによる(ただし、原資産が上記の発行体によりエクスポージャーをゼロとできる有価証券等である場合を除きます。)ものとし、デリバティブ取引のうち、金融指標等(利子率、為替レート、株式指数、先物取引等)を対象とするものその他のデリバティブ取引等についてはゼロとする。
    1. 先物取引の買いについては、当該先物の評価額をエクスポージャーとする
    2. 先物取引の売りについては、エクスポージャーをゼロとする。
    3. コールオプションの買い及びプットオプションの売りについては、当該取引の店頭デリバティブ取引のうち、権利の数に原資産の価格を乗じた額をエクスポージャーとする。ただし、原資産の変化率に対するオプションの価格の感応度(デルタ)を勘案して計算することができるものとする。
    4. コールオプションの売り及びプットオプションの買いについては、エクスポージャーをゼロとする。
  2. 取引の相手方に対するエクスポージャーについては、それぞれ次に定めるところによるものとする。
    1. 市場デリバティブ取引及び外国市場デリバティブ取引についてはゼロ
    2. デリバティブ取引等(i. 及び為替予約取引を除く)については、評価益の額(当該取引に担保または証拠金が差し入れられている場合(クリアリングハウスで決済する場合を含む)には、当該担保または証拠金の評価額を差し引きものとする。)をエクスポージャーとする。

要はデリバティブ取引ですので、取引の相手方のリスクは当然として、取引にて参照する有価証券を持つという想定があることからその有価証券の発行体のリスクも勘案する、という、というダブルカウントをするそうです。が、大抵の場合、ここでいう金融指数等にまずなってしまう(それが幾ら独自にカスタマイズされた指数であっても、原資産自体が存在しないことにより)ので、たいていはゼロとみなして考えると、あとは取引の相手方のエクスポージャーとなり、これは評価益、すなわち負けていれば考える必要はなく、勝っていれば勝ち分を見ましょう、ということのようです。まぁ、そうですよね。勝ち分が将来引き渡されるわけですからそこだけ見ればいい訳です。ということは、実はデリバティブ取引の場合、取引開始当初は 0% のエクスポージャー、ということでもあります。

でも、ということは、この勝ち分が10%を超えてしまうといけない、ということでもあり、ある意味違和感がありますよね。といって、10%になりそうなら一旦デリバティブ取引を精算してファンドに取引相手から 10%程度の勝ち分の現金を払ってもらってデリバティブ取引を再度開始する(ことでエクスポージャーを0に戻す)、という回避の方法も考ええますが、精算する前の取引と同条件で取引に入れるとは限らない訳ですのであまり現実的でもなさそうですね。

回避スキーム?

まぁ、一つ思いつくところで、担保による相殺というルールを使うなら、差額決済のデリバティブ取引ではなく、full-funded swap といって、取引当初にファンドが取引相手に取引元本相当額を支払い、反対に取引相手はファンドに当初は取引元本相当額の担保を供出し、その後は評価額が増えるに従って取引相手から担保の追加供出を受ける、という取引にすれば、基本的に取引の評価額は想定元本に本来の経済効果の勝ち負けを合計した額になる一方で、取引相手から掛かる評価額相当額の担保が常に供出されているため評価額の全額が相殺されて常に 0になる、ことになります。こうすることで、ファンドが上記の定義による信用リスクが全くない状態で常に運営されていくことになります。

ただ、そのためには担保が基本的には「信用力の高いとされる国の国債」が使われる必要があって、この手の案件をするときにポジションのヘッジのために取引相手とされる会社さんが取得する株や社債がそのまま使えない、といって国債を塩漬けにするようなコストの高いことが出来ない、という声も実はちらほら聞こえています。また、信用リスクが 0になったとしても、デリバティブ取引の日々のリスク管理の観点でちゃんと80%の枠に収まっていることが日々管理できるかどうかは、管理会社もしくは運用者の実務的体制に大きく依存する、というか、ここまで来ると、ストラクチャーだけでは解決できない、実務インフラの要求レベルへの対応、という話に変わってきてしまいます(笑)

ということで、まぁ、これはオンショアの包括的要求がオフショアでの商品設計に大きく影響を与える一例、という、まぁ、長ったらしい話になってしまいましたが、本来はこれを持ち出すまでもなく、投資家、投資対象国、そしてファンド組成地の3つの間にある租税条約の基づくタックス・プランニングも、ファンドの組成に大きな要素ともなります。とはいえ、何故か日本ではこのタックス・プランニングをしさえすればほぼストラクチャリングは終わった、みたいな考えになる人が多いようですが、実際は最終的な投資効果に影響するのは税制だけではなくトータルのコストも合わせて勘案せねばならない、のですよ。なにせ、税金以上に余計なタックスブロッカーを作ったら意味が無いわけですしね。

ええ、ちょっと個人的にこの公募ファンドのルール改正をどこかで解説したかっただけ、なのです(笑)

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