オルタナティブ投資のインセンティブ・フィーの計算って(プライベート・エクイティ編)

と、こんなタイトルで書き始めてふと、やばっ、と思った事が(早速ですが)

オルタナティブ投資、という言葉。ちょっと前なら、

ヘッジファンドでしょー
プライベートエクイティとかベンチャーキャピタルとかエンジェルみたいなのでしょー
不動産投資も、まぁ入るかなぁ

なんて言う雰囲気でした。要は、伝統的資産、つーか上場株式とか公社債、を、レバレッジを掛けずに、投資対象を分散させながら買い持ちして投資対象の資産が自然と上昇するのを待つ、というのが正統派の投資で、そうでない、ショートに振る、とか、借り入れを使ったり、先物やオプションのように証拠金取引を使ってレバレッジを掛けたり上場していない株式を取得したり、とか上場していてもほぼすべての株式を取得して経営権を取得して非上場化して、投資対象の成長をコントロールする、というか、あるべき価値になる、かする、のを待つ、と、いう投資戦略を取るもの、を指す言葉、だったように思えていました。

が、最近では、オルタナティブ投資の世界に入ったんです、というので聞いてみると

バンクローン、とか
ハイブリッド証券(劣後債や優先出資証券)、とか
MLP や BDCのように、上場しているリミテッドパートナーシップ持ち分

という、資産クラスでの分類で使われる事も出てきているようです。まぁ、実際に、前者の意味でのオルタナティブ投資、というところでも、後者の中にあるような MLP や BDC のように、本来ならばクローズドな投資機会のものが、そのクローズドの意味の裏返しであるほとんど皆無の流動性を上場化によって得られるようになるのと同様に、ヘッジファンドもヨーロッパの公募ファンド市場に出て来た Alternative UCITs や、アメリカのそれである 40 Act (1940年法)に基づく Liquid Alternative というような戦略はそのままに流動性を伝統的な運用のそれに近づけることで、オルタナティブ運用戦略、という意味付けに変わりつつあるのも事実ですので、それもまたありなん、ということでしょうか。

報酬の計算、電卓だけではさすがに厳しいです。。。
さて、のっけから横道にそれましたが、表題の本題。
数年来お付き合い頂いているプライベート・エクイティへの投資に詳しい某氏とこの間食事をしていた時に、ふっと胸の内ポケットから取り出されたのは、日本ですから当然拳銃ではなく一枚のノート。そこには、食事の前に考えていたとある問題が書かれていたのです。

キャリーの計算ってどうするの?

問題とは、「Preferred Return: 8% Carried Interest: 20% GP Catch-up rate: 80%」という条件のときの実際の運用者への成功報酬の支払いの額はどうなるのか。というものでした。

まずキャリーの概念の解説から

って、そもそも、それぞれが何を意味しているか、念のために説明しないといけませんね。一番分かりやすいのが “Carried Interest”。これがまさに、成功報酬/インセンティブ・フィー。20% ということは、投資元本以上に稼いだ分の 20% を運用者が頂戴しますよ、という意味。これはヘッジファンドでは「インセンティブ・フィー」とか「成功報酬」と呼ぶのですが、なぜかこちら側では Carried Interest とか、キャリーとか呼ばれています。(これでぱみゅぱみゅな人たちが間違えて Google して来ちゃうのかしら(笑))。

続いて、”Preferred Return”。ひとによっては “Hurdle Rate” ということもある(というか、なんで、色々な言い方するんだかなぁ。。。)のですが、これは LP 投資家に優先的に収益から支払われる時に使う利回り。あまり考えたくない例ですが、もし、とある会社に投資して、なんとか投資元本の 5% 稼いで資金回収した、なんてケースで、Preferred Return が 8% だと、ヘッジファンドなら 5% の 20% だから 1%を運用者が普通にもらうのですが、こちらの世界だと、 Preferred Return 分はLPに優先して(Preferred) 支払われるので、運用者の取り分は 0で全額 LP投資家に行ってしまう。

ということは、どういうことかというと。。。

この8% の Hurdle を越えて(というと、Hurdle の方がしっくり来ますよねぇ。)稼いだ時に初めて成功報酬がもらえる、という世界だというのが分かってきました。例えば、 10%の超過収益だった、としたら、10% の 20% なので、2% を成功報酬にもらえる、ということだから、 8% のPreferred Return を先に払った後、残った2% を成功報酬としてもらえるし、20%の超過収益だったら、最初の 8% は Preferred Return により LP、次の 2% は運用者に、残る 10% は 20% が運用者、残りの 80% が LP投資家、という事ならば、2%が運用者、 8% がLP投資家、ということで、それぞれ合計して 16% (全体の 80%) を LP投資家が、4% (全体の 20%) が運用者が、収受することになります。

では、問題を解いてみましょう。って塾の先生か?(笑)

となるならば、話は簡単ですよね。でも、くせ者なのが、”GP Catch-up rate”。これは、Preferred Return を LP に払ったあと、GP がLP の既に受け取った報酬に対応するだけの成功報酬を受け取るにあたって、未分配分の収益のうち運用者に分配される比率、という意味なのです。ええ。上記の 20% の超過収益の時の前提は GP Catch-up rate が 100%、全額運用者に当てていい場合のケースだったのです。ということは、これが 100% でない場合、元々 Preferred Return で 8% もらっていて、さらに GP Catch-up rate のお陰で未収分のうち 20% が分配されることになるので、実はcatch-up といいつつも運用者への成功報酬の分配が永遠に続くのではないか、という疑問だったのです。

本当に、追いつけないのでしょうか。

まぁ、そのためには中学校に戻って計算をするのが一番のようです。
全体の収益を X(%) とすると
(a) 成功報酬は全体の 20%: (X x 0.2)であり
(b) 成功報酬は X から 8% を引いた部分のうちの 80%: (X-8) x 0.8
のそれぞれなので、ちょうどそれぞれが拮抗する点があるかどうか、ということなのです。いわば

0.2X = 0.8 (X-8)

ね?中学の数学でしょ?答えは X = 64/6 = 10.666… (%)です。
実際、 8% より先の 2.666…% については、2.666 * 0.8 = 2.13333…(%) ですが、これは 10.666… x 0.2 = 2.1333…(%) と一致します。

って、なに偉そうにしているんだか。まぁ、言ってしまえば、過去において運用者が投資家に有利になる条件の一つとして、導入したのでしょうけれども、ある意味計算が面倒になるなんて思わないでしょうねぇ。。。

ということで、上記の前提に基づくならば、超過収益が

  • 8% 未満の場合には超過収益がすべて LP 投資家に
  • 8%以上 10.666…% ならば (1) 8% は LP投資家に、(2) 8%を越える収益部分は 1:4 で運用者と LP 投資家で山分け、
  • 10.666…% を越えるならば、超過収益を1:4 で運用者と LP投資家とで山分け

という場合分けになります。

まとめ

うーむ。こうしてみると、結構投資から得られる収益に対して、このハードルというかは案外低いところにおいてある、というか、本当にあまり稼げなかった時の投資家を優先という意味では、これでいいのか?というか、こんなものかなぁ、という気になってきております(苦笑)

実際には、各投資案件ごとにするのか、全体の投資案件の回収を終わったところでする(と、投資家の資金が手元に置かれて寝るし、投資失敗した案件分だけ運用者の取り分が目減りする、と双方にメリットがないように見えるのですが。。。)のか、など、方法が違うそうなので、投資家と運用者の間の交渉ごとは尽きませんねぇ(笑)

OPERA、お好きですか?

OPERA と言っても、オペラを聞こうってわけではないですよ。

<div<金融の、しかもオフショアのファンドの話だけをする、って宣言したのに
なぜ、著者に似つかわしくないオペラの話をここでしようとするのか?

と、思ったあなた。正しいです。無理です。ご安心ください。

出来ません

でも、Open Protocol Enabling Risk Aggregation というファンドのリスク管理の為のオープンなデータ通信に関する取り決めについてなら、ちょっとは話せますが、聞いちゃいますか?

ファンドの世界のOPERAってなに?

さて、OPERA。左記のリンクに飛べば分かるのですが、ヘッジファンドのリスク分析をやり取りする為の情報フォーマットをオープンソースで決めましょう、ということで、著名なファンド・オブ・ヘッジファンドの運用者や、プライム・ブローカー、アドミニストレーターやヘッジファンド・データベース/リスク分析会社、などなどが参加してますね(Working Group を参照の事)。で、この目的は、といえば、共通のデータフォーマットでやり取りすればリスク分析等を行う時に簡単にデータベースに取り込みやすいからいいよね、というところでしょうか。確かに、フォーマットも何もないと、どの情報を、どの位置に、どの計算根拠で、なんてことをそれぞれの作り手に聞きながら、データ取り込みのマッピングを個別対応させたり、計算方法の違いの調整をしたり、なんて、手間が増えますからねぇ。その意味では共通フォーマット、というコンセプトは皆の為、ではありますな。

で、中身を見ていくと(download から、あなたの所属等を開示したら提供されます)、最初にファンドやその運用会社に関する定量的情報をいれるフォーマット(ちなみに、人間が読みやすいように Excel フォーマットと、コンピュータが理解しやすい XML 言語と二つありますので、ご自分の属性にあわせて見ていく方がよろしいかと。。。)、続いて、株式ポートフォリオについてのパフォーマンス分析、セクターアロケーション分析や発行体の地域分析、所有銘柄 top10の一覧、などなどが 入っていきます。続いて、債券ポートフォリオ、CTA 向けの先物市場、などなど、アセットクラス別にそれぞれ似たような分析情報を入れるコラムが続きます。

マニュアルも読むと分かりますが、計算式もちゃんと定義されているので、ポートフォリオ情報が SQL データベースにでも奇麗に入っていればロジックを組んで吐き出させれば出来てしまいそうです。

で、どんなご利益があるの?

が。これ、究極的には誰の為、なんでしょう。個人的には FoF がリスク分析をする為に、シングルの運用者、もしくはそのアドミか PB あたりに出させる為の共通フォーマット、程度にしか見えてこないんですよねぇ。まぁ、個別投資をしている機関投資家やSWF なんかも恩恵を受けるとは思いますが、シングルのアドミや PB から見れば運用者からこれに対応するリスク分析をOPERA フォーマットで作って送って欲しい、なんて言われそうですからねぇ。。。

個人的に思ったこととしては。。。うーむ。いまいち。

あと、これでは銀行投資家の要求する BIS 規制に対応するレポーティングには全く使えません。債券とかの分析で発行体の分析を格付け別に行う、なんてこのフォーマットはしませんからねぇ。BIS 規制の要求するように格付けごとに分類するならば、個別の四半期末におけるファンドの保有するアセットや負債などの情報提供を求めにくる、ことになるんだと思います。まぁ、OPERA フォーマットのリスク分析については、これを使うのは銀行だけではないですかねぇ、FoFなどの事情が前に押し出されるでしょうから。。。

ファンドの基本- LPS型ファンドとその関係者

さて。本当はもっと頻繁にネタを書いていくつもりでしたが、どうも図を書かねばなんて思い始めたらスピードが遅くなってすみません。元々の遅筆に輪をかけてしまっていて、自分でなんとかせねばとは思っているのですが。。。

ということで、今回が基本シリーズの第三回。日本ではプライベート・エクイティやベンチャー・キャピタルの世界で使われる事の多い、有限責任組合スキーム、もしくはリミテッド・パートナーシップ型についてです。といっても、この概念は、会社型ユニットトラスト型から比較すると一見分かりづらい部分があるのも事実なので、コーポレート・ガバナンスがどうの、という所よりは、これに類してまだ分かりやすい日本の法制度上の仕組みとしてある「匿名組合」というものとの比較を行う事で、まず仕組み自体に理解を進めていき、その上で、仕組み上の問題点を考えながらコーポレート・ガバナンスがどのように機能すべきか、という着目を上乗せしていこうと思います。

匿名組合とは?

さて、本筋に入る前の、前段階として、匿名組合という仕組みについて見てみたいと思います。匿名組合というのは、日本においては商法にて定められる仕組みで、名前は「組合」とあるものの、実際には出資する「匿名組合員」と実際にその出資に基づいて事業を行う「営業者」との間で

匿名組合
  • 「匿名組合員」が「営業者」が行う予定のとある「事業」に対して「出資」をし、
  • 「営業者」はその「事業」の終了時に「事業」から発生した損益を「匿名組合員」に返還する、

という双務契約なのです。絵的にいうと、こんな感じ。

で、この契約の結果、

  • 「出資」された資本は匿名組合の財産になり
  • 「事業」も「営業者」の名義で行われ(従って、「事業」に関して取得した資産も発生した負債も「営業者」の名義となり)
  • そのため「匿名組合員」は契約期間中は当然終了後も「事業」として行われる「営業者」の行為について第三者としての権利を有せず、結果として
  • 「事業」による損益は全額を「匿名組合員」に分配する(損失については出資額を上限とする)

という、お金は出すけど口もなにも出せない、とっても都合のいい出資者扱いであり、他方で、自分がとある事業を行いたいが表立ってすることが出来ない、関与していない体を取りたい、なんていうケースには、もし「営業者」がとっても第三者で信用のおける相手であればこれほど都合のいい仕組みはない、という代物です。(外国人による事業に対する規制のある東南アジアで名目上現地のパートナーに名前を出して事業を行うのに似てますね(笑))

また、最後にあるように、損失については出資額を上限とするので、匿名組合員としては事業に対するリスクは出資額の全額損失程度の有限責任で許してもらえるのも実はメリットがあるとも言えます。

投資有限責任組合とは?

とすると、投資家の観点から見れば、投資の責任が有限なのはよいとしても、自分の資産が営業者のそれと混同してしまうのは、営業者の信用状況に左右されることになり不安定(というか持ち逃げされるのは嫌だ)になるので困るので、もう少しこのあたりを投資家フレンドリーにならんかい、ということで、日本で導入されたのが有限責任組合という、海外の Limited Partnership の概念。特に投資の世界で使われるのが、法律上および実務上、有限責任組合より先に制定された法律に基づく「投資事業有限責任組合」というもの。

投資事業有限責任組合

「有限責任組合員」が「無限責任組合員」が行う予定のとある「投資事業」に対して「出資」をし、「無限責任組合員」はその「投資事業」の終了時に「投資事業」から発生した損益を「有限責任組合員」に返還する、

という意味では、絵的にもご覧の通り、匿名組合と何の変わりもない。

で、じゃあ、何が違うか、というと、この組合は法律で登記する事で法人格を得るので、無限責任組合員が組合の目的である投資事業を行う際に、「組合としての」無限責任組合員名義で例えば銀行口座を開けて財産を所有し、また債務を負うことで無限責任組合員自身の資産や負債と区別される、というか、分別管理を求められる、のです。

とすると、

資産の分別管理が為されるし、もういいんじゃね?

と思っちゃってますよね。書いてる自分でも一瞬これ以上いっか、と思ったり(笑)

でも、これはまだファンドの器としてのレベルというかレイヤーでの議論に過ぎません。ある意味、これで信託や会社型ファンドと同程度になった、だけです。

LPS とガバナンスの仕組みとは?

実際、この状況だと、無限責任組合員、あー、長ったらしいから、以下 GP と呼びますね、が予定している投資事業を本当に実行するかどうか(出来るかどうか、ではなく、するか、です。ええ、適切な案件がなかったのでしなかった、出来なかった、という事例が過去5年で散見されました。これって、無理矢理高値で掴んで元本既存するくらないならやらないという勇気、だったと私は個人的には思ってますが。。。)、という点で大きく GP に依存してますよね。つーか、ぶっちゃけ組合名義の印鑑を持っているGP による資産の持ち逃げ(笑)についてだってまだその懸念も残ってますし。

とすると、どうしたらいいんでしょう。

GP の会社としての構造を変えてしまえばいいんです。

一般的な GP って運用者の会社そのものがなってしまい(かつ、金融商品取引法第63条に基づく特定機関投資家向け特例業務の一環として運用運用業や第二種金融商品取引業のライセンスを取ったり取らなかったりしますが、それはまた別の問題として。。。)、運用判断からファンドの資産の管理保全を一手に引き受けているケースが、まぁほとんど。かつ、有限責任組合員(というか、GPをGPと呼ぶから、LPと呼びましょうか)への投資状況のご報告から投資時の資金請求、投資完了時の資金返還、ということは投資中の投資案件の時価評価とか組合としての帳簿作成、などなどを、一義的には自身の責任に基づく業務として行っているのが一般的。まぁ、投資中の資産なんて、現金なんて一瞬で非上場株式をずっと保管するのだからGP自身との混同だったり持ち逃げのリスクだなんて、結構そんなことされるチャンスなんて少ないじゃん、という前提でプロの方々は投資して、されているんですが。。。

LPSと投資家保護

とはいえ、個人を食い物にしようとする 63業者あたりだと、怖いっすよねぇ(笑)

としたら、どうしたらいいんでしょう。要はこれって、会社型でいうところの self-administration な訳ですからねぇ。同じアプローチで行くならば

GP から運用判断をする部分を切り離して、運用判断をする人は運用業に専念して、GPは運用判断に基づく執行とファンド(組合ですね、この場合)の資産の保有と保全に専念する。

のが第一歩でしょう。実際、SPC として投資導管として使う合同会社というのが不動産投資あたりでは一般的ですから、これをGP に据えて、従来 GP として投資判断等を行っていた会社さんが投資一任/助言業として動く、というのは(業登録することで発生するコストはさておき)出来る話です。

で、そうなると、そんな GPには会社型スキームと同じく、取締役会で取締役が提供された投資判断をLPと事前に締結している有限責任投資契約(LPA)などに定められている投資方針などを元に投資するかどうかを判断し、投資すると決定したら、GPの会社業務を行うアドミニストレーターが株式や債権の取得等を行う、と取締役と執行部分も切り離していくのです。

でも、その投資する為には LP に投資資金の請求をする訳ですが、これは LPA に基づく作業なので、組合の業務として取り扱うので組合のアドミニストレーション、と GPに対する業務と切り分けて考えることも出来ます(まぁ、GPの面倒を見るなら 組合というか LPS だって、と思いますが。。。)。同種の作業は LPA に基づく持ち分に対する財務情報などの投資情報の提供だったり、この他いろいろある訳ですが、AIJ 問題以降の年金による投資の際に第三者が行うアドミニストレーターが作成した運用報告書が必要、だったりしますから、このあたりは今後そういう解釈になるならキーになるところでしょう。

なんて考えると、構図はこんな風に変わってくるのでしょう。

世界基準のストラクチャー

さて。

ここまで、立場としての関係者をこういれると、という話をしていますが、例えば同一人物が兼務だってすることは可能です。例えば、運用者のキーパーソンがGPの取締役になる、というのが一番分かりやすいところです。そうなると、当然、同じ個人でも一方で運用者としての判断をし、他方でファンド運営のコーポレートガバナンスを保つ立場としてふるまうわけですので、投資家からすれば、その使い分けはちゃんとするでしょ、と期待しますし、実際はといえば運用者としての意思決定のバイアスがファンド運営のコーポレートガバナンスに多大に影響し得る、という実務的観点から見ての相反が同一人の中で発生することは容易に想像できてしまいます、よね?同一人物による兼務だけでなく、運用者とその実質的支配下に置かれた子会社が運用と執行をになっちゃう、とか。スキームの形式だけでなく、関係者の利害関係もスキームを見るときには気を付けないといけない、というのは、実はLPS スキームに限ったことではなく、会社型であってもユニットトラストであっても同じ。。。ということを書きそびれていたのでここで書いてます(笑)。

まとめ

ということで、とりあえずは当初の目的は果たせたと思いつつ、一旦今回の記事はおしまいにして、次は。。。どうやって展開させましょうかねぇ。。。

ファンドの基本- ユニットトラスト型ファンドとその関係者

Unit Trust with Manager for governance

ということで、今回はユニットトラスト形態のファンドについてあれこれやろうかと思います。前回の通り、会社で事業を運営するのと、会社型ファンドで資産運用という事業を運営するのと、本源的にそう違いは無い、そうだからガバナンスと言う点で同レベルのものが要求されるのが自然の流れ、と書いたりしましたが、今回の目標としては、世の中にある、これはお得で凄いんだ、とこれみよがしに考えもなく提示されているコメント、

「信託宣言型ユニットトラストで管理会社を入れずに作ると安くていい」

が如何に安易で投資家に対して思慮の無いアイデアであるかを示して行こうかと思っています。

日本の信託

さて。ユニットトラスト。日本の信託をご存知ならばそれを思って貰えばほぼ同等のものと思っていいのですが、日本の信託法に基づく信託は、

  • 信託会社が受託者として、
  • 委託される資産を
  • 委託者との間の信託契約に基づいて、
  • 受益者の為に保有し管理する

契約関係、とざっくりとした感じでイメージしてもらえば良いかと思います。ちなみに、そうなると投資信託に投資する、という行為は自分が委託者になるのか、それとも受益者?という疑問が起きますが、あなたの投資は、受託された信託契約に基づいて、任命された運用会社(実際はこの信託商品を立案し信託契約を締結する委託者でもあります)が運用契約に基づいて行う運用行為に資されます。ということなので、法的には受益者なので、よく投資持ち分を投資信託の受益権証書とかいいますよね。

日本の信託と海外のトラスティの違い

投資信託で、日本の信託法や信託業法は結構信託会社、特に信託銀行、に高度(過度?)の受託者責任を求めますので、結果的に受託者が海外でいうところのカストディに相当する信託口座の銀行口座と証券口座を一義的に管理し(信託銀行なら自社のリソースでもあるので当然ですが)、アドミニストレーターの機能を行い、当然に信託財産の計算を行い、トランスファーエージェントの仕事である受益者管理もしちゃいます。ある意味ここまで全部が受託者の役割、と云わんがばかりですね。絵で言うならこんな感じ。

海外のユニットトラスト

でも、ケイマン諸島の信託宣言型のトラストだと、何もしないとこうなっちゃいます。

まぁ、なっちゃう、というよりは、せざるを得ない、というのが本音。信託としてモノの所有者にはなるために名義を出すけど、持つツールは事実上ない(キッパリ)という事業なので、一般的には、トラスティが宣言したユニットトラストの目的に沿うような関係者、例えばアドミニストレータだったり、カストディだったり、を指名して契約し、締結(絵の中ではオレンジ色の矢印)します。するとこんな感じ。何となくそれっぽいですよね。

でも、これだと何かが足りない。これでものを持つことは可能ですがいつどうやって取得するか、とか、保有した資産を処分する判断をし、実行するための指示をする人がいない。だって、名前を貸すだけなんだもん、という声が聞こえてきますよね。当然、関係者に手数料を払う指図もしなければ、投資家を含めたステークホルダー利益を守る判断をし、指示をする人がいない。

ということで、そういう役割の人を入れる訳ですが、そうすると、こんな絵になるわけです。この運用する人に資産を動かしたりする権限やら、ファンドの資産評価する人に対する関与の権限を入れたりするわけです。次の図の赤い矢印のように。

で、これを持って、よくある知ったかぶりの「投資家を煽るブログ」やウェブ、モノの本あたりだと、

ここで一任運用会社をいれておしまい。上記の諸々をこの人たちにやらせましょう、そうしたら後述の契約型信託形式に「意味もなく居座る金食い虫の」管理会社が不用で全体のコストが下がってあなたの為ですよ

なんて言う。

実際、そうでしょうか(というか、そんなわけねーだろ)と言うのがここからのミソ。

ユニットトラストにおけるガバナンスとは?

前回の会社型スキームで、取締役会とポートフォリオの運用判断する人を分けないと投資家対して利益相反が起きる、という話をしましたが、この管理会社を外したケースは正に同じ状態。調子がいい時はまだいいものの、気づいたら運用方針以外の「もっと儲かる」と思い込んでる投資に手を出したり、流動性が枯渇したりAUMが激減した時に運用報酬を優先して投資家の利益を後回しにされやすい、のは、

「運用者の善管注意義務があるから大丈夫」

なんて性善説でものを見ているからで、やられたら取り返しがつかないのは過去の幾多の事例を見れば明らか、なんですよねぇ。。。

Unit Trust with Manager for governance

なのでこんな風にユニットトラストの指図権(赤い矢印)を管理会社(“Manager”)に一旦渡して責任を明確にして、そこから資産運用部分の指図権だけ再委任している形にする方がまだ安心、と言うのはこれで(もか、というくらい)ご理解頂けるかと思います。するとファンドの資産評価についても運用者による関与が入らない、従って改ざんも行われない、という訳です。

信託宣言型と契約型信託の違いとは

Bilateral Unit Trustで、これが信託の委託者/指図権者と受託者の役割を最初から分担して契約に落とし込んでいるのが、契約型信託、な訳で、宣言型とちょっと違う程度ですが違いが判りますか?(笑)

違いは、といえば、図で言うならば、前者の宣言型の場合にTrustee から Manager への赤い矢印でしたが、宣言型の場合にはTrustee と Manager との間の紫色の両方の矢印、ですよね。契約の内容で言うならば

  1. trustee が manager にその役割と権限を委任する(一方向の矢印)のが、契約型なので、trustee と manager の間の役割と権限を契約上規定する(双方向の矢印)契約関係に変わった事
  2. trustee が トランスファーエージェントやアドミ、カストディを(ユニットトラストとして)任命していたが、契約型の場合はユニットトラストととして、manager もしくは trustee が任命する(ので、どちらが任命するかは契約次第ということなので絵ではユニットトラストが、という形にしてあります。)

という感じなのです。

公募の外国籍投資信託が求めるスキームでもあるこれ、国内の投資信託と同等の仕組みと関係を求める、という概念に基づいている訳ですが、ファンドのガバナンス、ひいては投資家の保護という概念に立つと機関投資家や年金であっても要求したいレベル感にそう違いがないのが実態でしょうから、投資リターンに影響するから全体のコストを下げたい、という気持ちは理解できないわけでは無いですが、スキームで資産を守るには必要なコストは払うことも理解して欲しい、とあちこちで話をさせ頂いています。はい。

次回は

ファンドの基本三形態のうち、残るは有限責任組合スキーム、もしくはLPS スキームを次にご説明したいと思います。日本ではVC や PE など利用方法がちょっと限定的ですので興味の薄いところかもしれませんが、当然覚えておけばお得なケースもありますので是非ご覧ください。

ファンドの基本- 会社型ファンドとその関係者

前回の宣言通り、今回からファンドの形態やその関係者、その結果としてのガバナンスについて、と、少し意欲的という、まぁ欲張った方針で書いてみようと思います。

そのおかげで毎週月曜にアップ予定でしたがペースが遅くなりました。ごめんなさい。
なにせ、貼付けられる絵を書くのが苦手でして(汗)というか、このところ仕事の休暇中のはずなのに妙に忙しくて。。。

さて。最初は、日本人に親しみのあるユニットトラスト、ではなく、会社型ファンドから始めようと思います。と、言いますのも、この読者ならば株式会社に務めたことのある人が殆どの筈ですから、ファンドの機能やガバナンスと言う点での会社との対比、ということで、進めるほうが判りやすいと思ったからです。きっと誰もこの観点で語った人も居ないだろうし(笑)

会社とは

さて。会社型ファンドの前に会社とは、ですね。
発起人が

  • ある目的(事業)を行う為に
  • 投資家から投資を募って
  • 事業を行う

主体が、株式会社ですよね。

で、これをちょっと細かく書いてみると

  • 会社の目的とか取締役や監査人の数、事業年度や株主総会の開催ルールなどなどを定款に決め、
  • その定款に従って事業を行う為の取締役を決め、株主総会で承認を受けて、
  • 取締役の指示に従って事業を行う為の専門性のある従業員を雇うことで事業を行い、収益を上げ、
  • 年度が終わって監査人が監査の上、株主総会で年度での事業を報告し、承認を受けて、
  • 収益を分配する、
  • 事業が上手く行かなければ従業員を変え、もしくは取締役を変える

などして、事業を達成しようとする、という感じ、ですよね。

で、事業を運営するために、資本金を管理し、必要に応じて支払いや売上を受領する為の銀行口座も開設して資金管理をし、必要に応じて証券口座も開設して運営することもありますよね。

更には、事業活動を記録する、という意味で日々経理処理が発生し、それを最終的な年次の財務諸表の形にし(監査人や、もし上場企業なら外部の監査法人が適切に事業を運営されたか、という監査を経て)株主(や、債権者など)に開示する、ということもしますよね。

そして、誰がどれだけ株式を保有している(言い換えれば、出資した)か、適切に管理する必要もありますよね。上場企業なら株主名簿管理人として信託銀行のどこかが任命されたりしますね。

会社を最低限で作ると

多分、上記がどんな事業を運営する会社であっても最低限、必要となるもの、のはずです。これを図にするとよくあるこんな感じ。

当然、私の作ってきた会社のような非上場の零細企業、いわゆるMBAを取ったタイプの人間(ベーっだ!)が「papa’s and mama’s」と蔑むあれ、あたりでは、金も人もないので

  • 株主名簿管理人なんて居ないし(株主がひとりですが何か?)
  • 外部の監査なんてないし(一人株主、債権者もほぼなしですが?)
  • 取締役自ら仕組みを日々試行錯誤しながら、構築し、変更し、を繰り返して従業員と変わらず(いや、それ以上に)働く(低予算で最大の収益を上げてますが、any question?)

と、絵に描いてみたらこんな感じの

会社のステークホルダー(この場合、利害関係者)が限定少数ならばこそ、ガバナンスがどうの、と、問うことも多くは無い訳ですが、取引が広がって、また、借金して債権者が増え、上場はせずとも株主が増え、日本なら最優先される債権者こと従業員も増えれば、どうしたって会社が適切に運営されて、適切に経理処理されていることがステークホルダーに共通の利益になる(というか、適切にされていないとステークホルダーの誰かしらの不利益になる)ということで、コーポレート・ガバナンス、社内統制というのが大事ですよ、なんて話がこの10年近く叫ばれてきた訳です。(知ってますよね?やってますよね?)

ファンドでは?

で、ファンドに目を向けてみましょう。
ファンドを簡単に立ち上げよう、なんて考えると、最低限ってなにかといえば

運用者が

  • ある投資目的を行う為に
  • 投資家から投資資本を募って
  • 投資運用を行う

主体が、ファンドですよね。

ならば、

  • ファンドの目的とか取締役や監査人の数、事業年度や株主総会の開催ルールなどなどを定款に決め、
  • その定款に従って事業を行う為の取締役を決め、株主総会で承認を受けて、
  • 取締役の指示に従って事業を行う為の専門性のある運用会社を雇うことで投資事業を行い、収益を上げ、
  • 年度が終わって監査人が監査の上、株主総会で年度での事業を報告し、承認を受けて、
  • 収益を分配する

とすればいいわけで、そのために

資産運用を運営するために、投資元本を管理し、必要に応じて証券決済の支払いを収受する為の銀行口座も開設して資金管理をし、証券投資ならば必要な証券口座(先物なら先物口座などなど)も開設して運営することもありますよね。

更には、事業活動を記録する、という意味で日々経理処理が発生し、それを最終的な年次の財務諸表の形にし(外部の監査法人が適切に資産運用が運営されたか、という監査を経て)投資家(や、レバレッジしているならばローンの出し手である債権者など)に開示する、ということもしますよね。

そして、誰がどれだけ投資持ち分を保有している(言い換えれば、出資した)か、適切に管理する必要もありますよね。

 

会社とファンドの違いとは?

 

あれ?これって会社のそれとどこが違うんでしょうね。固有名詞の入れ替えはあれど、基本的にはほとんど変わらないですよね。
ですが、ファンドを簡単に作っちゃおうとすると、こんな絵になっちゃうんですよね。。。

取締役が自分で運用判断をして、実際にそれを執行して、決済して、自分で帳簿つけて資産を評価して、ファンドの純資産を計算して、投資家に報告。いわゆる自己運用、という形態です。これって、企業としてやったら MBA の方達ならば mama’s and papa’s と揶揄するのですが、案外 MBA 出て投資銀行やってそれからファンドを立ち上げよう、なんて始め立ての頃って普通にこれでやっちゃうというかやらざるを得ないんですよね。自分たちとその家族の資金運用で運用戦略のトラックレコードを作らなきゃ行けないのですから。

もっと企業らしいファンドの形とは?

でも、これって、ファンドの内部統制が利いてないですよね。どうみたって。papa’s and mama’s (って順番が入れ替わったけど、どっちでもいいや)なんですから。でも、これが実はまかり通っていた時期ってつい最近までだったんですよね。Madoff が self-administration で問題を起こすまでは(しかも、この場合は監査が入っていたにも関わらず、ですが)。。。

じゃあ、これじゃあ、ってんで企業らしい形態だとどうなるの、というと、一般的にはこんな感じになってきます。
会社が専門性のある従業員を雇うのと同じく、
運用業務を専門性のある運用会社に
資産保有を専門性のあるカストディに
経理/資産評価を専門性のあるアドミニストレーターに
投資家管理を専門性のあるトランスファーエージェントに
監査を外部監査に
と、会社ならば従業員を雇うところ外部のそれぞれのサービスプロバイダーに任せることで、相互監視の中運用業務を遂行していく、というのが会社とファンドの違い、かもしれません。
で、この絵を見ると、もうこれで安心、って思えますよね。全部外部だし。
でも、ファンドの成り立ちを考えると、ファンドのガバナンスという観点でまだ足りていない、絵には見えない問題があったりします。それは。。。

 

ファンドとガバナンス

 

ファンドを作りたい、と思う人は二通り居て、一つは世の中にあるファンドに投資する為のファンドを作りたい、という投資家側のニーズ、もう一つは資産運用したいから投資家から資金を調達したい、という運用者側のニーズがあります。
前者ならば、投資家に近い取締役を集めてファンドを作ります。後者ならば、運用者に近い取締役を集めてファンドを作ります。例えば、運用会社の内部の人間がファンドの取締役を兼務する、など。
前者ならば、投資家の保護、という観点ならば投資家に有利な判断を常にすることになるはずなのでまだ良いのですが、後者の場合、投資家の利益よりも運用会社にとって利益となる判断をしやすい立場に取締役が置かれていることが多いとみて間違いないです。一般には、そうであっても、fiduciary duty があるからしない、と言い張ると思います(笑)が、雇い主が誰であるか、という影響力が高いのは、会社の親子関係における取締役の派遣による人的支配という議論で世の中的に認知されていることから明らかなのです。
となると、会社型ファンドの取締役においても普通の企業と同じく、社外取締役が投資家の利益を守るべく働く事が求められてくるのが必然と見られてきます。
で、よくこの形態になると聞かれる事があります。
「取締役会に、ファンドマネジャーがいないことになって取締役会が機能するのか」
と。確かに、ファンドの目的が運用である以上、ファンドマネジャーの代表がいない会というのが成立しえるのか、という疑問はあるかもしれません。とはいえ、取締役会で運用の巧拙を吟味するよりは、定款や目論見書に定められた運用方針が正しく行われているかをカストディやアドミからの情報で確認し、もしおかしければファンドマネジャーを呼んで説明を求める、という、会社の運営を取締役会でどう取り扱うか、と同じように考える方がすっきりするかもしれません。会社型ファンドと会社との間で、基本的にそう違いはないのですから。。。

 

次回はユニットトラスト

 

ということで、今回は会社型ファンドについての説明でした。
次回はユニットトラスト形態をご説明しようと思いますが、こんなペースなので、もしかしたら1週間以上掛かるかもしれません。そうなったらごめんなさい。ではでは。
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