[投資のコストと効果] ETFの場合

この「投資のコストと効果」のシリーズ、今回取り扱うのはETFなのですが、多分、多くの人がなぜ敢えてこの(長ったらしい分析が延々続く)シリーズで、世の中で一番費用が安くて効率的な投資が出来る、と考えられている ETF- Exchange-Traded Funds を取り扱うのだろう、と思ったかもしれません。

なんとなく、グローバル投資を デスクトップでお手軽に、って感じ?海外に口座を作って投資する際のメリット、デメリットの時にも触れたこの投資商品、個人的にはいろいろな思い入れがあるのですよ。個人やFPの目線で言えば投資対象としてはこれほどよく出来た(つまらない)投資商品は他にはないですし、ファンドを組成する側からすればやっていることがシステマティックであるがためにコスト的な競争力の高さは脅威でしかない、のです。それくらい実は、(世界の富裕層がやっているけどあなたにもすぐにできる、と自尊心と虚栄心を煽りやすい)投資のインセンティブに対する訴求力のあるパワフルな商品なのですが、前述の煽りマーケティングを含めてどうも使われ方があまりよろしくないように思えて仕方なかったりしますし、売る側とかETF業界も売るための理由をあれこれ無理に作り出して売ろうとしているむきがあって、それも気になって仕方がないのです。

ですので、今回はいつも通りにコスト的な検証も含めて色々と角度を変えながら思いっきり(と言うことはいつも以上にダラダラと長ったらしく)やりますが、それ以上に投資の際の効果という点であれこれ掘り下げてみたいと思います。

あ、このブログにしては枕が真面目だ(笑)連載がなくなったプレッシャーからの解放?(笑)

ETF – そもそも定義はなあに?

さて、ETF。その名の通り、Exchange Traded Fund – 日本語だと上場ファンド、ですが、広義での上場ファンド、と、多分に読者のみなさんが想像する今そこにあるETFと異なる世界があるのをまずご紹介したいと思います(ほら、これだけで2000字くらいになるネタでしょ?)

ほら天邪鬼だから広義から見ちゃうわけで

広義の上場ファンド、というと、まさに上場しているファンド、でして、例えば著者が10年のおつきあいになってきた、某ベトナムのファンドマネジャーと某投資銀行さんとちょうど10年前に、著者が2週間でケイマン諸島籍のユニット・トラストを作って日本に持ち込んだ時の投資対象だったファンド、というのが、当時ベトナムに投資したいというとこの方法でしか投資できなかった、クローズエンド(言い換えると、追加投資不可、決められた日のみ解約可能)のファンドをロンドン証券取引所のAIM市場というプロ向けの取引所に上場させたもの、だったのです。ね?これも上場ファンドでしょ?でも、これのおかげでファンドに投資したい人は市場で売りに出ているファンドを買えばいいし、もし現金化したいと思ったら10年以上先の償還日まで待たずとも市場で売却すればよかったのです。それもあってか、ベトナムでのこの運用者の年次投資家向けカンファレンスにはヨーロッパのファミリーオフィスの(ということはいわゆる超金持ちだけどカジュアルな格好をした)人たちをちらほら見たのです。

ちなみに、この時そのファンドマネジャーが上場させた3つのファンドのうち、一つはロンドン証券取引所のメインボードに「格上げ」され、一つはそのままAIM市場にとどまり、著者が絡んでいたファンドは、というと、二つに分離してその一つは今ではルクセンブルク籍のUCITSになってしまった、というのですから10年という時間ってのは。。。いやいや、今はそんな話をする場合じゃなかった。。。

それ以外にも、ロンドン証券取引所のメインボードにはごく普通にプライベートエクイティファンドが上場しています(例えば、クウェートの Global Investment House の運営する GMFA – Global MENA Financial Asset)し、日本で一時期高分配だからともてはやされた MLP – Master Limited Partnership も、主にエネルギー関連のインフラ投資をするリミテッド・パートナーシップの持分を米国内の証券取引所に上場させたもの、ですから、世の中にはそれなりにありそうだ、ということがわかっていただけたのではないかな、と。

もう一つの広義の上場ファンドというと、ファンドを普通に組成するのですが、投資家サイドで投資のための条件として上場していること、というものが(特に機関投資家「様」に)あると、今ほどETFが流行らなかった2000年より前から、上場しているという「箔をつける」ために、チャネル諸島証券取引所(今では The International Stock Exchange と名乗ってますね。。。知らんかった。。。)やアイルランド証券取引所、といった、マイナーでファンドの上場を必要とする人たちのために機能している証券取引所に上場登録をする、のです。

実際に、上場されているファンドを見るとヘッジファンドやプライベートエクイティ、といったオルタナ、ということは流動性の低いファンドすら上場されているのです。でも、こういった上場登録されたファンドは、そこでの相対取引をする、というよりは定期的なNAVや監査済み財務諸表の開示を取引所のルールに基づいて行う、という方に主眼が置かれているのも見えてきます。実際にアイルランド証券取引所に listing されているファンドを見ると、ETFではおなじみのこの瞬間の株価の表示はなく、直近のNAV算出日付の 一口あたりのNAVが開示されているのです。とはいえ、これは Exchange Tradedではなく、Listed Fund という方が正解なのです。

で、もったいぶって引っ張って見た狭義の定義はといえば

では、狭義の ETFというとどうなるかと言いますと、投資信託協会さんのホームページに依拠するならば

証券取引所に上場し、株価指数などに代表される指標への連動を目指す投資信託

となります。ここでポイントなのが、投資信託の中でも「証券取引所に上場する」ことだけでなく、株価指数などに代表される「指標への連動を目指す」ものである、のです。となると、前述の広義の上場ファンドの中でも、名目上の上場だけでなく市場での取引も求められるのでいわゆる  listing だけでは足りず、かつ仮にLSE/AIM での取引がある、としてもベトナムの上場株を自分の裁量で売買するようなファンドではなく、株式指数のような、ある一定の銘柄の選別方法と保有割合を定めたルールに基づき、その結果となる指標の動きと連動することを「目指す」ファンド、である必要がある、のです。となると、そりゃ、いわゆるアクティブ・ファンドというものがETFに入れないよう思えてきますよね。

でも、このある一定の銘柄と保有割合を定めたルールというのがちょっと曲者っぽいのです。

ETFが目指すもの - 投資対象はどこまで広がる?

というのも、一般的な指数、といえば、ヘッジファンドの話で出た、ベータ = 市場の動き。とはいえ、その市場というのが日本の株式市場をパッと見ただけでも日経225と TOPIXと  JPX日経 400と三つあります(って、JPX日経400がベータか、というのは異論はたくさんあるでしょうけど、そこがこの話のポイントなので、グッと飲み込んでくださいな)。当然、それぞれに対して ETFが出来上がります。また、日経225でも、TOPIXでもセクターごとのセクター指数が存在し、また、インバースといって指数の動きに正反対の動きをする、正確にいえば、日次騰落率に-1を掛けたもの、ということはその指数をショートした時の値動きに一致する指数も作られたり、日次騰落率を2倍にするレバレッジ指数、外貨建て投資の人たちに向けた外貨ヘッジ指数、などなど、たった一つのロジックですらあれこれ広げることが出来ます。

そのようなベータな株式指数は各国に当然あるし、それらの地域や全世界という括りでのでのバスケットもアロケーションの方法論はGDP比率から単純平均から、理屈がつくならば如何ようにだって出来る。

そして、その理屈をつけてアロケーションを変えることを株価の計算レベルで行なっているのがスマートベータ、と呼ばれる指数。ESG指数なら、なんとなくそれっぽいから納得しがちなものの(あ、それがJPX 日経400でしたね)、ちょうど今眺めているiShares Edge MSCI Minimum Volatility Japan ETFに至っては、株価変動率の小さな日本株だけで構成している、とまでくると、前述のベータとして挙げられている日経225とは採用銘柄数では188と近いものの、組入比率も最大1.6%から最小0.04%ですから、日経225指数の構成比率とは全くもって異なることがわかります。

となると、これすごくいいパフォーマンスの出るトレーディングロジックだから、指数化したらいけるかも?なんて発想すら出てきてもおかしくないですよね。実際、MOAT –VanEck Vectors Morningstar Wide MOAT ETFというファンドはモーニングスターの株式リサーチが見つけてきた「持続可能な競争力をもつ」「魅力的な株価」の40銘柄の等配分ポートフォリオ、ってどう見てもバリュー株投資のアクティブファンドだし、ALFA – AlphaClone Alternative Alpha ETF は公開されているアメリカ株のヘッジファンドマネジャーによる銘柄選択に依拠したファンドということなので、もはやこれを指数連動と呼んでいいのか。。。ほぼ前述のベトナム株ファンドVOFと変わらないように思えてきているのは著者だけだろうか。。。

実際、iSharesには上場プライベートエクイティUCITS ETFなるものがあって、世界中のプライベートエクイティ関連の上場株、運用者から上場プライベートエクイティファンドまでを買いあさっているものすら存在します。しかも、そのアロケーション方法が「最適化法」とあって、一体それがロジカルなのか判断できなくなりました。。。

さて、コスト分析でも

やっと、コスト分析に移りますが、多分楽勝。なぜかって?株を買うのと同じですので

取得時は投資額に株式取引手数料ですから、いつも引き合いに出させていただいている楽天証券さんだと10万円以下の取引で一回90円(に消費税、8%だと7円)、3,000万円を越えると851円(に消費税、8%だと68円)が掛かることになります。

また、保管中は保管手数料、ですが楽天証券さんだと無料。

そして、売却時はまた株式取引手数料が上記と同じだけ掛かることになります。
また、売却益には一年間での上場株の利益の合計に対して 15.315%の所得税と5%の住民税が掛かる、というので、特定口座を使うことで確定申告すらスキップできる場合もあるのでオススメだったりします。

ね?簡単でしょ?

ファンドなのに期中のファンドの管理報酬とか考えなくていいの?

そんな声が聞こえてきそうですよね。もし、ETFが上場していないファンドならば、ファンドの純資産価格の算出に当たって管理報酬等が影響するので考慮しなければならないのは当然ですよね。でも、

ETFは、ファンドの純資産価格そのもので取引、していないですよね?

なぜか?それは、市場での相対取引価格でファンドの持分を取得し、また売却するのですから、もしファンドが人気があれば本来の純資産評価額を上回って(プレミアムが乗って)取引されますし、人気がないならば本来の純資産評価額を下回って(ディスカウントされて)取引されるので、そこにはファンドの純資産価格の算出の影響を受けないから、なのです。

もし例えるならば、指原莉乃さんと渡辺麻友さん(と限定すると角がたつから、その他のAKBグループの選挙に出た彼女たち)の芸能人としての商品価値(思わず現在価値とか描こうとするのが金融系に染まったおっちゃんの悲しい性か。。。)と、前回の(というよりその時々の)AKB総選挙での得票数(ということはその裏側にある投票券付きのCDの売上としての貢献額)との間に当然一致するものはないですし、相関関係が成立するか、というと。。。ないでしょうね。

あ、炎上対応が苦手なので先に申し上げますが、著者はさっしー推しです。あの(自分も他のアイドルも含めた)プロデューサーとしての手腕には感服しているので、その価値は総選挙での得票数では全然ディスカウントでしょ、というのが主張です。(いや、だから、まゆゆの得票数に純潔系アイドル的プレミアムが乗ってる、という意図もないから、お願いだから石とか投げないでっ!)

そこで純情なあなたは思ったかもしれません。ファンドの目論見書に記載されている投資方針としてファンドの騰落率をその指数の値動きと連動するように、と書いてあるのだからそんなプレミアム/ディスカウントなんて起きないのでは、と。

落ち着いて考えて見てください。あなたがこれからETFを買う、とした時に、その価格は誰が決めるのでしょう。ファンドの純資産価格で買えますか?リアルタイムにファンドの資産の評価額は値動きしますけれど、市場が動いているこの瞬間に、あなたは誰からファンドを買うのでしょう。ファンドが追加で、しかもその瞬間の時価で発行はしません(というか出来ません)よね。発行された数が限られたファンド持分を既に持っている人か後述の指定参加者と呼ばれる、ETFの銘柄のマーケットメイカーのどちらか(もしくは、アービトラージ狙いのHFT)、でしょう。とはいうものの、それは取引所という場でマッチングされるのですから、もはや売買の際の需給の関係だけが価格を決めるのです。

余談ですが、どこかの投資銀行さんが無理くり一日2回ファンドのNAVを算出して取引できるようにした、というファンド商品を作って売っている、という噂を聞いたことがあります。これは当然金融機関たる適格機関投資家様専用の商品なのですが、そこまでしてファンドの形態にしながら市場性証券への投資をしたい、というわがままをどうして叶える必要があるのか、しかも低コスト、という経済合理性にとっても合わないことをしてまで、と考えたことがあったなぁ、と思い出したり。これならETF買えば?というのが今の解決法でしょうけど、そうすると上記のような価格構成に伴うトラッキングエラーを避けたい、というこれまた難儀なわがままがあるのでしょう。ほんと、こんな無茶を言う金融機関ってのはどこなんでしょうね。。。

実際、この需給に関連して面白い話があって、とある東証マザーズ・コア指数という指数に連動するETFをとある(というか特定できちゃいますね。。。)運用会社さんが作っています。これがある時期、このETFに対する貸し株のニーズが高まりすぎて逆日歩が発生する状況に陥ったというのです。

ちなみに、この逆日歩というのはどういうものかというと、一般に個人の投資家がいわゆる空売りをする際には取引所が定めた銘柄を使った最長6ヶ月の期間で信用売りをする、という制度信用取引を使うのですが、通常ですと、楽天証券さんだと年率1.1%の品貸料を払って空売りするために株を借りてくることになります。ですが、市場全体でその銘柄を借りたい、というニーズが出て物が足りない、という状態になると、個別の証券会社さん単体だけでなく、複数の証券会社さんの間を資金や貸し株を融通する証券金融会社さんを使っても足りなくなって、長期投資をしているような機関投資家さんから入札して借りることで不足分を補おうとするのです。追加的なコストを払わないと出来ない、というこのような時のコストを逆日歩と呼んでいます。

で、この話のポイントなのが、なぜ、ある時期にこのETFが貸し株の対象、というかいわば売りの対象になったのか、という点です。今一応確認したらその状況が解消されているようなので書いちゃいますが、当時ミクシィの売りをしたいと考えた時に制度信用取引で売りが出来なかったらしいのですが、このETFは制度信用取引での売りが出来た、ということで、

じゃあ、どうせマザーズ・コアって15銘柄しかないし、ETFを売って他の14銘柄を買ってミクシィ売りしたらいんじゃね?

というのがネットで広まってミクシィ売りをしたかった人がこぞってやった、というらしいのです。あ、今はこれをやる必要はないですからねっ。

ちなみに、これってむかーし昔、中国株をショートしたい人が現物のショートがなかなかできないことから、指数をショートして、ショートしたくない銘柄を買ってヘッジする手口と全く同じなんですよね。

また、需給の違いが価格構成の違いを生んでいる実例としてあげるならば、日本で取り扱われているETFの一覧を日本取引所グループさんがまとめてくれているのを見るとわかるように、日経225のETFは7本あります。本当にETFの意図する通りに日経平均の日次変動率に一致するように動くか、というと、こちらのページにある通り、このデータをまとめた日付(2017年8月4日)に限っていうならば時価評価額と日次取引高のトップ2本だけが当日の日経平均の日次変動率である -0.39%に一致し、続く時価評価額と日次取引高で3位から5位までの3本が -0.34%、そして下位2本は 0.00%、すなわち変動がなかった、のです。とすると、時価総額が大きいと取引高も増えて、対象となる資産との間での価格変動という意味での相関性が高くなり時価総額が小さいと取引高も小さくなり、価格との相関性が低くなる、ということが予想できます。そして、ETFの方が日経よりパフォーマンスが費用分だけ当然に低くなるはず、なのですが、実際のところはETFのファンドとしての費用の要素との間に相関がなさそうです。

最後にトドメを刺すならば、同じく上場している企業の株式、これって、会社の企業価値とも言える純資産総額と会社の株式にその時の一株あたりの売買価格をかけた、いわゆる時価総額との間では、通常純資産総額が小さくて時価総額が大きい、のです。というのも、株を買う時ってその会社の将来性をみて買うのであって、その会社の財務諸表の費用の部分が高い安いでは取引価格を云々することはほぼないでしょう。また、もし純資産総額が時価総額より高い場合、それは株を買い込んで会社を解散させた方がお得、という意味ですので、通常は起こり得ない、とされている状態(PBRが1未満、ってやつですね。実際には結構ありますが。。。)なのです。

で、まぁ、余談で思いっきり横道に入ったように見えますよね。でも実はこれらが、ETFの需給の根本的な問題を提示していますし、前述のファンドとしての管理報酬等が実際に私たちのような普通の投資家ならば看破でき、また、看破できない唯一の市場参加者がいるけれども実はその唯一の市場参加者すらきにする必要はなく、そして、実はその先の驚くだろうあまり知られていない事実、すなわち、ファンドの本来の運用とファンドの取得/売却との関連性のなさやETFで行われているオペレーションの裏側、へと続くいい入り口の話なのです。

それを考えるために、そもそもETFとはどのように作られているのか、理解しておく必要があります。

ETFの仕組みとは

絵を描くのが面倒なので、チャートは投信協会さんのETFの解説の真ん中にあるものを見ていただければと思うのですが、投信会社さんと信託銀行さんとでETFを設定するのですが、当初は空っぽです。そこに、このETFを始めるに当たって事前に商品を設定・維持することに同意した指定参加者、と呼ばれる証券会社さんがETFの裏付け資産となる証券ポートフォリオを投信会社さんを通じて信託銀行に預け、その同額のETFの持分となる受益権を指定参加者に交付することで、初めてETFが指定参加者から売り出されるのです。

ということは、この指定参加者が当初証券ポートフォリオと交換で手に入れたETFの持分だけ世の中に出回る、ということです。

では問題なのは、もしそのETFの人気が出て、もっと欲しいと取り合いになった場合流通量を増やすことで追加で発行できるのでしょうか?もちろん可能です。指定参加者が増やしたい分だけ証券ポートフォリオをETFに交付してその受益権を手に入れれば良いのです。そして、先ほどの東証マザーズ・コア20ETFのように、(売り目的とはいえ)需要に見合っただけの証券が発行されていないと、ETFの取り合いになり、逆日歩のような品不足に起因する問題が発生するのです。

逆に、ETFの裏付けとなる資産を抱えている信託銀行と投信会社は、といえば、極端な話、日経225ETFであれば、アロケーション比率はそうそう変わることもないですので、追加発行しない限りは特段何もしないでよく、時折発生する銘柄入れ替えに対応していくことでいいのです(株式分割/併合と思ったのですが、持っている限りは勝手に発生するだけなので影響がない、はずです。多分。)

これがTOPIXのように時価総額加重平均ということであるとリバランスが必要になるのでシステマティックにできるものの、個人ではやりたくないですよね。

ただ、ここでもう一言付け加えるならば、もし文字通り、ファンドとしてのETFの受益証券を発行させるための作業が株式などの有価証券の譲渡でのみで行われるならば、このファンド、運用会社や受託者に対する報酬を払う現金を持ち合わせておらず、保有する有価証券からの分配金や利金だけが報酬を払うための現金を得るための手段、にしかならない、のです。この問題を解決しつつ、ファンドの裏側で何が起きているのかを解説するのはちょっとだけ後に回したいと思います。

もし日経225を自分のポートフォリオとして作るなら

ここで、ちょっとETFとのコストの比較ということで実際に自分で日経225のポートフォリオを作るならば何をどれだけ買わねばならないか、というのを計算して見ました。
単純平均のポートなんだから簡単じゃね?と言われそうですが、TOPIX全銘柄の取引単位の最大公約数にまで小さくするよりは楽なので。。。

実際に計算したのは2017年7月14日、とまだ東芝が東証二部に移動していない、10年後には伝説的と呼ばれるだろうポートフォリオ(笑)でやっています。

このリンク先にその実際の計算のスプレッドシートがあるのでご覧いただければと思いますが(とはいえ、自分の思考パターンを丸裸にしているのがいやーん、って感じですが。。。)実際のところ

  1. まず、225銘柄のそれぞれの株価を50円額面に割り戻して株価を計算(H列)
  2. その合計額に株式分割の影響を入れることで。。。日経平均が計算できる(セルH3)。(出来なかったら、計算間違いしているので見直す。)
  3. 続いて、それぞれの株の最低取引サイズの最小公倍数になるロットをそれぞれ見つける(I/J列)。

ポートフォリオの構築時のコストって?

その結果。。。最低の元手として5.3億円くらいないと作れないことになっているようです。
ということは平均266万円を225銘柄買うことになりますので、楽天証券さんだとこの平均値で一銘柄あたり、3000万円までの921円(と消費税の73円)が掛かり、手数料だけでも223,650円掛かることになります。実際は、小型で買えるものもあるので、値段が下がって15万円弱、にはなりました。(ただし、各銘柄一回で取引がつけば、ですが。複数日で取得するとなるとコストはさらにかさみます。)

これに比べると、仮に5.3億の日経平均ETFを買えば、手数料は973円(と消費税の77円)だけ、ですので、ひとまとまりになっているのはお買い得、と思えてきます。

さらに、日経225先物をするならば、1取引単位あたりが指数の1,000倍の想定元本になることから、今なら2,000万円程度。とすると、前述と同じくらいのポジションを作ろうとすると、27枚を買い立てることになるので、取引手数料も300.24円(8%の消費税込みの金額) x  27 = 8,106円。先物という性質上ポジションは最長3ヶ月まで、ではあるものの、1枚あたりの証拠金が60万円、ということで、今回の場合でも1,620万円で足りる、のです。

なお、投資を終了させる時のコストもそれぞれ同等、と考えてもいいでしょう。

では維持コストってどう?

さて、設立コストは見事に200倍近くの差が実額で出てしまいましたが、維持コストはどうでしょう。もし楽天証券さんだと株の現物なら 0円。さすがです。

先物ですと、四半期ごとの限月越えの時に 8,106 x 2 = 16,212円の取引手数料を払って同じポジションを構築し直すことになります。ですので、年間でも 64,848円。

それに対して ETFは、といえば、前述の日本で取り扱われているETFの一覧を日本取引所グループさんがまとめてくれているのでそれを参照するならば、日経225のETFの期中コストは年率で、下はiShares の 0.13%、上は日興アセットさんの0.225%(と思ったら三菱さんがあれこれ合わせて0.40%だった。。。)。話の都合上、年平均の残高が5.2億円のポートフォリオに対しては、下は676,000円、上は1,170,000円。

おっと、いきなりここでコスト競争の順位が入れ替わりました。さすがに5億もあると0.13%ですら年間100万円の維持コストの世界に近づいてしまうのですね。(まぁ、ファンドを企画運営する側からすれば、それだけでも出てもらわないと人件費が出ないよ、と思いますが。。。)

で、念のため詳細を見るべきだろうと思い、iShares の簡単な方の目論見書を見てみたのですが、費用については、0.13%に消費税が上乗せされるので実質 0.1404%になるのですが、それ以上にあまりマネー系雑誌とかが取り上げない不都合な真実が一つ。

上場に係る費用、対象指数の商標の使用料について、 ファンドの純資産総額の0.0432%(税抜0.04 %)を上限として、毎計算期末または信託終了のとき、 ファンドから支払うことができます。 ファンドの諸経費、売買委託手数料等について、その 都度もしくは毎計算期末または信託終了のとき、ファ ンドから支払われます。

まぁ、ファンドですからこういうコストは発生しますよ。確かに。でも。。。

また、株式の貸付を行った場合はその都度、信託財産 の収益となる品貸料の2分の1相当額以内が報酬とし てファンドから運用の委託先等に支払われます。

って、これ。ちょっと待って。ETFが貸し株をやった時にはその収益の半分を運用者が取るってこと?もう一ついうならば、貸し株やったらポートフォリオ的にはその分だけキャッシュ比率が上がるからポートフォリオ的には指数への連動率がわずかにとはいえ下がるじゃない。

まぁ、後者については運営費用を捻出する、という観点ではある意味正しいとはいえます。というのも、考えてみたら前述の問題提起の通り、設定時に株のポートフォリオだけを渡されて運用を開始するのですから、関係各社に対して支払うべきキャッシュがどこにも存在しないのです。そうなると、運営上はどこかでポートフォリオの一部を売って現金化する必要があるのです。それを避ける、という意味では貸し株をやって現金収入を得るのはいいでしょう。問題は前者の取り分の問題です。

自分の資産を使っているわけでなく、投資家からの買い戻し依頼に備えて株を保有しなければいけないことがほぼない商品ですから事実上全て貸し株に出したっていいくらいでしょう。しかし、そこから得られる報酬の半分を最大で運用会社が受け取れるって。。。

ちなみに、明確に上限として半分とるぞ、と宣言しているのはiShares だけでなく大和、日興、AM One、三井住友、もでした。野村と三菱は宣言してませんのでどうなのか不明ですが、とはいえ、ここでも横並び。。。

さて、その品貸し料ですが楽天証券さんで 1.1%払うのですから卸には0.8%程度を踏んでみても、手元に残るのは 0.4%。運営費用の分程度は現金化できそうですね。言い換えれば費用支払いのためだけに株式ポートフォリオの一部を売却して現金化する必要がない、ということですね。

他方、もし自分でポートフォリオを構築したら、それを全部貸し株に回せばそれだけ品貸し料を得られますから丸々儲かりそうですね。(もちろん、先物では貸し株はできません。)

間接費用とはいえコスト比較をまとめるならば

そう考えると、もし5.3億ほど日経225に連動する資産に投資するならば、ETFよりも現物で持った方が入口と出口のコストが掛かるように見えますが、期間中はコストフリーで運用できるし、ETFで発生しえる対象資産との連動率の不一致という市場リスクがない分だけ、より純粋な指数投資が出来るといえます(ただし、終値で全ポジションが売却できれば、という流動性リスクの問題は当然残りますけどね)。

さらに言えば、先物ならばより投資元本の持ち出しも小さく、費用も抑えてできますから、実際、デイトレーダーたちが取引量とレバレッジを求めて先物に主戦場を移している、と言われてもこれを見ると納得してしまいます。

もちろん、普通に5.3億程度(!)の投資を個人でするはずはなく、だからこその、ETFの特徴の一つである指数の小口化、と考えるならば小口化する分だけのコスト負担をファンドの裏側で間接的にしているけど、そもそもETFで発生しえる対象資産との連動率の不一致という市場リスクがあるからこそ、前述に話が戻るものの、ファンドとしての費用負担自体を無視できえる、とも言えるのです。

そう考えるとETFの提供会社って運用に責任は負わないし(指数設定だけですからね)、ファンドから徴収できる費用は投資家サイドの運用結果に影響しないからプレッシャーはないし、である意味お得、なのかもしれません。あーあ、そういうビジネスを立ち上げればよかった。。。

唯一、ファンドとしてのETFの管理報酬を気にするべき関係者:指定参加者

ここでもう一つの事実に目を向ける必要があります。

ETFの持分の発行メカニズムを考えると、もし万が一発行持分数が多すぎるということならば、マーケットメイカーである指定参加者が、自分の保有するETFを発行体である信託に返して、その裏付けである有価証券、例えば日経225ならばその株式バスケットを受け取ることで、ETFの世の中に出回っている発行数を調整することが可能になるのです。

ということは、ETFの持分を唯一ファンドというかETFである投資信託に償還請求できるのが指定参加者なのです。ということは、この人たちは通常のファンドの投資家と同じ経済性を負っていることになります。言い換えると、ETFの保有する資産の時価評価額を引き出すことになりますし、この指定参加者には、ETFの持分の評価として、取引市場での時価とETFの純資産額の二つを参照できる立場にある、ということでもあるのです。

とすると、実はマーケットメイカーをする指定参加者が指数とETFの実勢価格との間の裁定取引を行う機会を持っていることがわかります。どう言うことか、といえば

  1. もしETFが参照指数より安値で取引されている(ディスカウントの)時、マーケットメイクということでそのETFを買い漁っては発行体に償還依頼をすれば時価を構成している証券バスケットを手に入れて売却すれば利益が出る。
  2. もしETFが参照資産より高値で取引されている(プレミアムの)時、証券バスケットを時価で買い集めてETFに譲渡することでETFの持分を手に入れ、それをETFの時価で売ればプレミアム分だけ儲かる。

のです。まぁ、マーケットメイカーをするということは価格のリスクを吸収して流動性を供給する仕事である以上、価格リスクのヘッジが出来なければ困りますので、その意味での出口としてETFの持分の増加/償還ができるようになっている、と言われれば、ああそうか、と納得しそうですよね。

となると、リスク管理上、ETFの純資産額が出来るだけ保有資産である参照指数を構成する証券ポートフォリオに近づいてほしいですし、そのためにはファンドの管理報酬が出来るだけ低いことが好ましいのです。

ですが、思い出してください。

ETFはその費用を捻出するために貸し株をして、その貸し株料の半分を運用者が持っていくものの残りがファンドにあるのでそれを管理報酬として充当している、ということを。とすると、少なくとも前述のケーススタディである日経225ETFについては貸し株で得られる(運用会社への報酬支払い後の)現金で管理報酬を賄うため、純資産額は株式ポートフォリオの評価額を下回ることがないのです(貸し株料が下がったら話は変わりますが。。。)。

としたら、指定参加者は管理報酬の影響を気にせず安心してETFの持分が手元に増えたら株式を引っ張り出す選択肢を取ることが出来るのです。

ETFの流動性問題 – マーケットメイカーが頑張ればいいだけなの?

さて、ETFの世界では、どうも参加者がリテール投資家を含めてだいぶ増えたそうで、投資家が増えるとどうしても投資したいときに出来ないのはおかしい、的な論調が出てきて(これもおかしな話ですよね。アセットオーナーだから、自らが投資したいときに投資できて、投資を終了したいときに適正な価格と言われるもので出られなければいけない、という主張な訳ですが、市場参加者はみんな等しく価格リスクや今回問題になる流動性リスクなどを加味した上で自己の裁量にて投資することで利益追及をすることが基本にあるわけですから、例えばリーマンショックの時のように上場株式ですら取引が成立しないから流動性が枯渇した、という状況にあってですら、契約書にあるから(実際、契約書にはそういう突発的事態等の場合に備えてNAVの算出停止や投資持分の売買停止などの流動性の停止で投資家間の公平性を担保するのが通常ですので、契約書に既にあるのですが。。)通常通りに資金化できないのはおかしい、と無茶をいうことはできない、はずなのです。)、まぁ、とても日本的になんとかします、という話が、とあるETFの関係者が一同に会したフォーラムで議論されたそうだとか。

流動性ねぇ。。。前述の逆日歩の話、あれも流動性の枯渇に近い状態の結果、なのですが、その理由はそもそもの発行数が少なかったから、でした。ということで、では発行数を増やすべくマーケットメイカーである指定参加者が証券バスケットを闇雲にETFの受託者に突っ込んで持分を発行させたとしても、実際に指定参加者に割り当てられたETFの持分を買う人がいないとずっと指定参加者が市場リスクを孕んだまま保有し続けることになります。ですので、ETFの市場に出回る量は通常の(言い換えると突発的な需要の増加などは考慮しない)需要と供給に見合う程度になるのです。

例えば、日経225のETFの場合、ETFの市場時価総額は7本で10.8兆円ですが、日経225の採用銘柄合計の市場時価総額は352.9兆円(2017/8/15現在)ですので、いくらETFの人気が出てきたからといっても、まだ市場の3%程度でしかない、のです。(更にいえば、もし日銀のETF購入オペの対象に日経225 ETFが入っているので、実際に市場で流動しているETFはそれ以下、ということです。)そして、特に市場時価総額の下の方は価格変動について原資産の変動との乖離が大きい、のは同じ日経225連動ETFとはいえ、売買の成立数が比較的少ないから、なのです。こればかりはマーケットメイカーでなんとかなる話ではないのは直感的に理解できるところでしょう。言い換えれば、マーケットメイカーが、売ったり買ったりする相手がそもそもいないから成立しない、のですから、もはやマーケットメイカーの努力の外、なのです。

とすると、上場株でも大型株ならば流動性が高いのでデイトレに向いているけど、中小型株だと市場での取引数が少ないこともあり、長期保有でのキャピタルゲイン狙い、というストーリーがETFでも当てはまりそうですね。

では、マーケットメイカーでなんとかならない問題ならばどうしたらいいか。ETFへの市場参加者が増える、しかなさそうです。参加者が増えれば増えるほど取引件数が増えるわけですので、流動性が増えていく、のです。とはいえ、2008年の信用危機の時には参加者が売りにのみ集まって取引件数が積み上がらなかった、のですから、買い一辺倒、売り一辺倒ではなく、常に投機的な目的であれ、ショートする人をも含めてバランスよく市場参加者がい続けることが最良なのかもしれません。

その意味ではヘッジファンドなどに代表される売りから入る人、というのは株をもち続けて株主として会社と対話して価値を創造するという最近のスチュワードシップ・コードから見ると真逆の社会悪くらいの扱いになってい(て、その結果として、GPIFとか、東京都のEmerging Manager Program あたりでも絶対に取り上げない戦略とされてい)ますが、安定した売り手がいることが市場流動性という観点からは不可欠、な訳ですから、そんなに目の敵にする必要もないとおものですけどね。個人的には。

で、ETF投資ってアクティブ!ってまじか?

やっと書きたい最後のネタにたどり着きました。
前述のフォーラムで、ETFの提供者の人たちが盛んに言っていたそうです。
「ETFのポートフォリオの動的な組替えをしていくことでベータ以上のリターンを創造できる。だからETFはもはやパッシブ運用ではなくアクティブなんだ」とかなんとかかんとか。

それを聞いた時、正直言っている意味がわかりませんでした(ああ、今時の表現だ)。まぁ、言わんとしていることはこうなのでしょう。ポートフォリオの中のETFバスケットの銘柄を入れ替えて行けば動的にアセットアロケーションを変えることが可能になるから、
ETFだけで十分アクティブ運用と同等の結果を出せまっせ、くらいかな、と。

実際、ETFの銘柄入れ替えってやってることってグローバルマクロの中でもトレンドフォローやシグナルベースでのダイナミックアロケーションに代表されるようなロジックベースでのポジション変更を行うマネージドフューチャーズでも、昔のソロスファンドがそうだったような、ディレクショナル戦略でも、どちらでも出来てしまいますよね。いずれにせよ、そこで何がアクティブか、といえばポートフォリオ管理がアクティブであって、ここのETFはその作りはパッシブそのものなのです。

なので、前述の表現って誤った誇張表現でしかないよね、としか思えないのが個人的感想です。

とはいうものの、確かに安価で手頃な取引サイズの商品ですから簡単にETFの銘柄組み替えでアセットアロケーションを変えてポートフォリオの性質をガラリと変えることが可能ですから、そりゃ

世界の富裕層の投資をあなたにも

とか言っちゃうのでしょうね。それごとに証券会社の取り分たる取引コストが発生するんですけどね。。。

一応まとめるか

とはいえ、これだけ安価で普通の人にとって投資可能な取引サイズで世界各国の指数への投資機会を提供したり、現地に直接投資できないものへのアクセスを提供するETFは、確かに便利なツールだと思います。今回その基本的なところは実際の手計算で示せたのはよかったかな、とは思っています。

他方で、ツールが目的化しかねない怖さもあるのは、その投資手法によってはアクティブでもパッシブでも資産運用が可能になる手軽さと、そこを煽りやすいキャッチーな商品性にあるようにも改めて思いました。

ということで、投資は計画的に、かつ自分の投資戦略を守りながら、ですね。

海外に銀行口座、持つのはメリット?デメリット? – 今時のオフショア投資の拠点はどこがベスト?

お気付きのことと思いますが、このところ既に連載中止が決まったものの、Soldieで掲載されることを前提としたネタ選びをして書いておりますが、他方で、2,000文字の制限を本気で守る気があるのか?というくらいの情報量で毎回書いているのもばればれでして、おかげさまで、現在鋭意文章をがっつり書いては削るという作業に終始しております。

オフショアのイメージか、バカンスか実際のところ、簡便で分かりやすいコンテンツにしようと思った時に、最初にできるだけ書けるところまで書いて、そこからどれだけ省けるか、もしくは冗長的なところがないか、という自分の脳内整理をしているような感じではあるものの、おかげさまで、最初の稿として書いているこのブログの記事を読まされる皆様はきっと長すぎてたまったものじゃない、できればどこかで切って二部構成とかにしてよ、と思っていると察しますが。。。ごめんなさい。てんこ盛りが信条の私、引き続きおつきあいくださいませ。

さて、海外に銀行口座を持つ、というのは、色々な海外資産への投資をしたい人にとってはやってみたいことであり、また投資の第一歩、でもあるのですが、他方で、今時のCRS/FATCA の影響を受けて非居住者口座の開設には結構困難がつきまとう、というのも現実としてあります。そこで、海外に銀行口座をもつメリット、デメリットを考えながら、それでも海外に銀行口座を持って投資をするならばどこがいいのか、という話を筆者の経験を踏まえてお話ししていこうかと思います。

なお、今回の記事の前提として、私と同じ、日本に永住している日本国籍の人、というのがありますので、例えば、シンガポール(でも、香港でも、マレーシアでも、どこでもいいですが日本以外)に永住権があって今も日本国外に住んでいる日本国籍の人、とか、日本語が読み書きできてなぜかこんなブログを読んでいるアメリカ国籍だけど日本に住んでいる人、というのはまた話が変わってくるのでご注意を。

海外に銀行口座を持つ、その前に忘れないでおきたいこと

さて、海外投資の冒険の始まり、と思いきや、そもそも海外に資産を保有することに関するいくつか大事なことをお話しておくべき、と思います。

まず、一つ目に、海外で発生するいかなる所得はちゃんと所得税の申告をしなければいけない、ということです。

結構勘違いされることなのですが、日本国籍で日本に住所のある、いわゆる日本の居住者については、その個人の所得税の課税対象は世界中で発生した所得です。よく日本から離れて住む非居住者の方の話として、非居住者だから日本国外で発生した所得については日本国内に納税義務がない、という話があることから、その逆パターンとして、居住者だから、国内の所得にのみ課税権が及ぶ、と思いがち、です。ですが、このブログの読者の大半である(だから、日本の外に住んでいる人が読んでいるのも知ってますからねー)日本に住み、生活しているあなた、まずはここを基本として読み進めてくださいね。

多分直感的にわかる実例

でも、例えば、日本の証券会社に口座を持って、ニューヨークの株式市場(NYSEやNASDAQ)で取引されている米国株の取引をしている場合、その取引自体はアメリカ国内で起こっていますが、米国内では米国の非居住者ということからそのキャピタルゲイン課税はなく、日本の居住者としての有価証券の譲渡に伴う課税は発生することになるのです。しかも、2017年からは外国証券取引についてもいわゆる特定口座のルールが適用されるので、取得時と売却時の円建てでの売買価格を自分で記録しておかなくとも、証券会社のシステムで計算され(源泉徴収すらされ、時には通年で見たら源泉徴収しすぎていたあら返金までされ)て、年明けの確定申告での提出も簡便化される、というのが現状です。

そう考えると、これがアメリカ国内に個人の銀行口座(と証券口座)を持って同じ取引を行なったとしても同じ課税関係にある、ということは想像にかたくないです。言い換えるならば、課税・非課税を考えるのは口座の所在地ではなく、取引の成立した場所、と口座の所有者の納税地の二つで考える、ということです(ただし、取引の成立した場所に関して言えば、口座を管理する銀行やブローカーがその口座の所有者が米国の非居住者であると認知して、それに対応する税務処理を行えば、という前提です。これはCRS/FATCAの話に絡むので後ほど改めて解説しましょう)。で、日本は所得の発生場所が全世界で見ている、ということなので日本の居住者である限りはアメリカで稼ごうが、日本で稼ごうが、東南アジアの片隅でこっそり稼ごうが、稼ぎは全て申告して納税せねばならない、のです。

そう考えると、例えば日本から取引可能な外国株、例えば米国株や中国株、シンガポール株、あるいは、証券会社が限定されるものの、ベトナム株や中東株のようなマイナーな市場であっても、については、楽天証券やSBI証券、マネックス証券のような大手オンライン証券であれば特定口座を通じて取引可能ならば税務の面で、現地に口座を開けずに国内からアクセスした方が楽、とは言えます。じゃあ、外国株式を取引するならば海外に口座を開けなくてもいいじゃないか、と思えてきますが、そうとも言えないのです。

現地だから出来ること – 日本では出来ないこと

海外に口座を開けることで出来る取引の醍醐味は、日本では出来ないことが出来る、という所にあります。

前述の外国株に関して言えば日本の大手オンライン証券で十分に思えてきますが、実は三社を集めたところで出来る市場というのは

  • SBI証券:米国株(海外ETFを含む)、中国株、韓国株、ロシア株、ベトナム株、インドネシア株、シンガポール株、タイ株、マレーシア株
  • マネックス証券:米国株(海外ETFを含む)、中国株
  • 楽天証券:米国株(海外ETFを含む)、中国株(香港と上海A株)、シンガポール株、タイ株、マレーシア株、インドネシア株

ですので、例えば欧州株や豪州、新興国株式の預託証券(DR: Depository Receipt)の取引については大和証券やSMBC 日興証券、みずほ証券や三菱UFJモルガン・スタンレー証券のような大手証券会社にいくことになります。

また、フィリピン株やイスラエル株になるとさらに限定的になってアイザワ証券くらい。

どうですか?自分が取引したい国がありましたか?あってもまだ安心できません。なぜかって?それは、証券会社で国として取引可能であっても銘柄として取り扱っていない銘柄がある場合があるからです。事情は色々あるようですが、株式市場へのアクセスが証券会社として確保されていても取り扱えない銘柄があるとそれは買いたくても買えない、のです。

例えば、S-REITと呼ばれるシンガポール版のREIT (不動産ファンド)。これは非居住者個人では取得不可、のようなので、仮にシンガポール証券所での取引のある証券会社ですらS-REITを扱うことができないようなのです。

例えば、今流行りのETF。このところの国内投信の月次ベースでのファンドへの流入額のランキングで必ずトップになっているのがETFですが、国内で投資可能な銘柄数、というとこれを書いている2017年の6月現在で国内もので163、外国もので47の計210銘柄(日本取引所グループ調べ)。これだけあれば世界中のETFを全部カバーしているのでは?と思えそうですが、ETFの発行体が異なると同じ指数(例えばNikkei 225とかTOPIXとか JPX日経400とか)のETFを作るので、重複したものがいくつも存在することになります。それに対して、ETFの大手、iSharesを例にとると、世界中で700以上のETFを上場しているそうですが、本国であるアメリカではそのうちの337にしかアクセスができないのです。なぜかって?日本の場合、海外ものを国内に持ち込もうとする場合には、マーケットメイクをしてくれる(ということは、ETF業界で結構問題になっている「流動性」を提供してくれる)証券会社を2社確保しなければいけなかったり、あまり売れなくとも継続的な届出の費用を負担しなければいけなかったり、など、費用対効果の面でワークしないと判断されるケースが多いから、でしょう。

じゃあ、質問です(って、どこかの芸人さんのフレーズ?いえいえ)。
国内でアクセスできないけど投資したい銘柄があるときはどうしたらいいのでしょーかっ。(だから、意識してないって。)

現地の証券会社に口座を開いて投資するしかない、としか言いようがないのです。
その代わり、特定口座のメリットを享受することは出来ず、超手間のかかる一般口座での確定申告と、そのための円換算の手間が待っているのです。

まだある、覚えておいてほしいこと

実は、まだ、大きなポイントの一つ目でしかなかったのですよ(苦笑)

では二つ目は、というと、海外での契約締結が違法性を問われる可能性があるものが存在する、ということです。

結構怖い表現を使っていますが、どういうことかと実例を挙げていうならば、保険商品のことです。以前、海外で販売されている保険商品を日本に持ち込みたいんだけど、という相談を受けた時の記事に書いたのがこんなこと。

これの問題点は、保険料の払込期間の生命保険保険料控除の適用外であること、以上に、そもそも海外の生命保険を日本の居住者が旅行先に行ったついでに加入したといって入ることの保険法上の問題があります。保険法では海外の保険会社が日本に参入するには国内拠点の設置を義務付けています。となると、非居住者は現地の法律の適用を受けるからよしとしても、旅行先にいい運用商品があるといって買うことの合法性のリスクを海外の保険会社が負うのか(と言っても、日本の金融当局の監視外の企業ですので何もできませんが)、旅行者が罰せられるのか(罰するってどういうこと?保険業を営むわけでないので法律を知っているとは限らない訳ですし)、ということでなんか扱いが微妙なのです。この点は実はもう少し整理したいところではあるのですが、少なくとも保険代理店のような仲介をしたら確実に怒られそうなのは分かるのですが。。。

もしちょっとだけ細かく書くならば、保険業法の第186条というのが外国の保険会社と日本の居住者との関わり合いを規定している条文なのですが、

第186条(日本に支店等を設けない外国保険業者等)

  1. 日本に支店等を設けない外国保険業者は、日本に住所若しくは居所を有する人若しくは日本に所在する財産又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に係る保険契約(政令で定める保険契約を除く。次項において同じ。)を締結してはならない。ただし、同項の許可に係る保険契約については、この限りでない。
  2. 日本に支店等を設けない外国保険業者に対して日本に住所若しくは居所を有する人若しくは日本に所在する財産又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に係る保険契約の申込みをしようとする者は、当該申込みを行う時までに、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣の許可を受けなければならない。

により、1項は外国の保険業社さんは日本で営業したかったらちゃんと支店を出しなさいね、という方針が示されている一方で2項により、もし日本に住んでいるあなたが国内に支店を有しない保険業社さんの保険商品を買うならば、あなたが内閣総理大臣から許可を受けなさいね、という流れを示されているのです。

でも、これ、国内法です。海外の人は基本知らないと思っていいです(まぁ、日本の外で散々保険商品を海外に来た日本人に売りさばいた人は知っているはず、ではありますが。。。)し、日本にいないのですから処罰することが出来ません。となると、お咎めの対象は2項に基づいて国内居住者に向かいます。ちなみに、これの罰則は第337条によって、50万円までの過料だそうです。
ということは、海外に旅行中に向こうで保険商品を買うと罰せられちゃう、というのが論理的な結論になります。と言って、今のところそれで過料を払わされた話は聞いたことはありませんが、某所で匿名で聞いた(ので本当は口外してはいけないと言われているのですが)ところによると、これについてはかかる保険商品の国外販売によるトラブルがあとを立たない(そりゃそうです、元々保険商品のアフターケアは国内生保でもあれこれ問題があったくらいですから、国内代理店がないのに複雑で日本語ではない契約書で締結した外もの保険商品なら起きても不思議ではないですよね。。。)ことから、その関係する外国企業複数と金融監督官庁との間の調整がだいぶ進んでいるので早晩決着がつく、とも言われています。そうなると、一網打尽、となるか、それとも。。。
とはいえ、日本では終身保険や年金保険が一般的であることから、最近になって海外で売られているような貯蓄目的の保険商品が国内で売られるようになったりしたものの、まだ、海外での保険商品が魅力的に見えるものは数多くあるのは事実です。

fly-and-buy は保険だけじゃない – ヘッジファンドを買いにちょっと豪華旅行でも

さて、この手の、日本人が海外旅行のついでに海外の保険商品を買う(もしくは、そのついでを装わせるべく、海外に保険商品を買いに行くツアーを企画して参加させる)ケース(こういうのをfly-and-buyというそうです)、というのは、保険商品だけではないのです。

知人が一時期勤めていた某世界最大級のCTA(コモディティ・トレーディング・アドバイザー)の運営しているファンド商品を含む複数のヘッジファンドを、日本の富裕層個人投資家に販売するために、シンガポールの超一流ホテル、Fullerton Hotel に宿泊して、そこのバンケットルームでの豪華な食事付きのセミナーに参加して、日本国外だから、ということで募集行為を行う、という旅行を企画して参加者を募っていた、という業者が(某ナンチャラとかいうプライベートバンクのふりした輩含めて)複数いるのはこの業界だと有名な話でして、他方で、こういう人たちの言い分としては

「日本の金融行政は海外籍のファンドの販売に厳しすぎる。要求されるライセンスは取得に時間はかかるし維持コストも掛かりすぎる。これでは国内の投資家の投資ニーズに合わない。(だから助言ライセンスで投資家の申し込みの手伝いをする、イギリスでいうところのIFA –  individual financial adviserをやっているんだ(注:助言でこれをやるのは違法です。))」

なんて言っています。けど、(金商法63条適格機関投資家特例を使って個人にファンドを売ろうとしている連中も含めてだけど)お前ら売るだけで、売ったあとちゃんと正しくフォローしてるか?出来るか?一人も消◯者庁に駆け込ませないように出来るか?というか、そういうのが多いから規制のハードルが上がるんだって。

とはいえ、確かに fly-and-buyで投資信託商品を買う、というのは前述の上場株式や上場ファンドのような現地での開示内容よりも少ない開示内容で行われ、また、特に富裕層個人向けに紹介されるようなプロ向けの私募ファンド、になると、コストを下げるために開示頻度も低かったり(本当はそれでもやるべきなんですよ、今は21世紀なんだし)と、さもすれば詐欺まがいにすら見えるものだってありますから、本当は日本の金融監督官庁としては国民を守り自らに苦情が来ないようにするために、この辺りのやばそうなものには投資しないようにしたい、という希望はあるはず、ですが、なにぶん海外で起きていることですからね。。。投資するなら自分の責任でちゃんと安心出来るまで調べられるか、ゼロになってもいいものだけにしろよ、ときっと思っているでしょうね。

実際、最近のヘッジファンドなどの目論見書を見ていると、保険商品で日本人が海外で契約しようとすると違法性を孕むことと同じことを想定しているのか

「本目論見書を入手し、またその上で投資の申し込みをすることにより違法となる場合にはかかる国や地域における居住者の投資を拒否することができる。」

という文言が結構あちこちで入り始めています。とはいえ、日本にある投資信託で満足できない、という気持ちはまぁ、わからないでもないですよね。投資戦略に偏りがありますから。例えばスリランカの株式ファンドとかマレーシアのESGファンドに投資したい、と思っても、多分今、ほぼ出来ませんから。。。

その他、海外でしか出来ない投資といえば。。。

まぁ、不動産投資、ですよね。現地のアパートから、コンドミニアムあたりを買って賃貸に出して、定期的な収入を得つつ、日本の税制の想定を超えるような耐久性を武器に税務のメリットすら追求したい(確か、テキサスの木造家屋の案件は、そのいい例だったはず。湿気の多い
日本の木造住宅の減価償却は22年ですが、テキサスの木造家屋だと耐用年数が全然長いことから、築25年くらいのものを取得して、日本の減価償却として4年(=22×0.2)で建物部分を加速度的に償却可能、というのがあちこち吹聴されていますね。)、と思う人もいると思います。この場合は当然がっつり日本の税法に基づく確定申告が必要になりますし、その際には前述のような円換算を全てにおいてやらねばならなくなりますが。。。
それとか、フィリピンだと不動産の外国人保有規制があるため現地パートナーを持って、そいつ名義で取得・保有させる、なんてやってたりしますしね。(この場合、国内での税務申告ってどうなるんだろう。形式上このパートナーと匿名組合契約を結んだことにするのかしら。。。)いずれにしたって、これらをやろうとしたら賃料の回収もあるので現地銀行が必要になりそうですよね。

じゃあ、どこでどう銀行口座を開くのがいいの?

で、どこでどの銀行を開くのがいいのでしょうか。

個人的には香港のHSBCが日本から近いし、その後の海外展開という意味でも Premier 口座を開けるのがお勧め、ではありますが、CRS/FATCA 以前から香港の銀行はHSBCだけでなくCitibank も日本の旅行者による銀行口座の開設に後ろ向きになっている、というのを聞いています。多分当局からの要請があったのでしょうね。

ちなみに、同じアジアのオフショア、シンガポールは、というと、島自体が裕福になっているからか、口座維持の額のレベルがちょっと高すぎる感じがします。HSBCならばPremier 繋がりならばまだいいのですが、シティバンクだと3,000万円相当以上、仮に日本の旧シティバンクのゴールド口座のホルダーだと言っても免除されません。とはいえ、まだアジアはいい方でしょう。多分パスポートの原本を見せつつ、utility billing の英訳を持って行くことで自分の自宅の所在地の証明をすることで済むか、念のため、すでにその銀行に取引のある人に紹介してもらっていくか、することでなんとか頑張れるとは思います。

問題はヨーロッパ。多分に、ジャージーでも今ではうるさいはずです。ヨーロッパにおいては銀行取引は信用取引ですので、誰かさんの紹介状が必要になるのは間違い無いでしょう。その流れがカリブ海の島々ですら起きているのですから。。。

その意味でいうと、実はアメリカは穴場だったり(って、最近行っていないのでなんともいえませんが、自国のFATCAさえ守ればいいだけの人たちですから、元来甘々な身元確認はヨーロッパほどは厳格にはなれないでしょう。。。)

個人的には日本が一番甘い国の一つだと思っていますが(ぼそっ)

口座も開けた後の維持が結構面倒

ちなみに、HSBCの話をすると、シンガポールとベトナムに関しては口座を最後に使ってから1年間何も動かさないと、口座にロックがかかってATMでお金が下ろせなくなります。ロックがかかったら、銀行の窓口に行って解除してもらうことになるのですが。。。。まぁ、面倒です。

もう一つの銀行口座の開設方法 – 法人を作ってしまう

さて、誰かの紹介状を取り付けることが求められるけど、誰もそんな相手の信用しそうな紹介者なんていない、というときにはこの手も考える必要があるかもしれません。それは、現地法人を作ってしまう、のです。

実は、維持コストがそれなりに掛かる一方で、前述の投資に関する細々とした為替などの計算や毎年の確定申告などがほぼ不要になるのです。なぜか、法人名義での契約ですので、個人としての計上が発生せず、利益も会社に留保されたまま、なので株式としての評価額が増えるだけで、実現化するまでは課税されない、のです。

ええ、これが本来のファンドのメリットの一つ、課税の先送り、なのです。いわば、一人ファンドを作っちゃいましょうよ、ということなのです。そうすれば、会社設立を手伝ってくれる現地の会社が銀行も紹介してくれるので、開設も比較的しやすいのです。

とはいえ、これも会社を作って追加投資して、最終的に回収するときに清算しつつ確定申告にも上がるものですので、完璧に逃げられるわけでは無いですし、維持費用を上回るリターンを出さないと維持費が払えなくなる、という面倒もあります。

まとめ

海外投資、儲かりそうだから、というイメージはありますが、個人的あれこれ口座開けて見ましたが、あまり投資せずに財布がわりに使っていたことから、さほどのメリットを享受できなかったように感じています。まさに、

クレジットカードでゴールドより上を持つことでメリットが得られるか?

というのと同じ世界です。とはいえ、国内での限界を感じたら確かに海外の商品を、と思うのも当然です。ただそこは日本の法律や規制で守られていない世界ですので、本当にご注意を。

[投資のコストと効果] 不動産投資の場合

家、自分で住む?それとも貸す投資をする?
前回の保険商品の分析、読んでいただけたでしょうか。あれ、結構細かいので最後まで読むのが疲れたかと思いますが、他方で面白い結果も出て来て個人的にはやってよかったかな、と自己満足しています。 で、同じことを他の商品でもやろう、と思った時に、実はきっちりやりたかった投資商品があるんです。それは不動産投資。それにはこんな理由があるのです。。。

「新築マンション投資を勧められたのだけど。。。」

それはとある日のことでした。facebook メッセンジャーに古くからの友人からのそんな一言が届いたのです。もううん十年の知り合いでもあり、このところ年に一度か二度は顔をあわせる家族ぐるみのお付き合いをさせていただいていたので、ある程度の財政的なイメージを作りつつ、この個人的には絶対に手を出したくない投資商品についてセールスマンに熱く語られた熱をそのまま伝えてくる言葉の羅列を見ながら、どんなアドバイスをすべきなのか、頭を抱えたのでした。 最終的なアドバイスについては、このエクセサイズをした後でも変わらないと思うので最後にご紹介するとして、まずは前回の保険商品と同じく、これが投資商品である、という資金の動きについて追いかけていきたいと思います。

不動産って投資なの?

この「投資商品」の分析を始める前に、もしかしたら、不動産を購入し、住み、売却して転居する、という「自家用」の不動産のみが念頭にある方もいらっしゃるかもしれませんが、不動産を購入・保有・売却するのは前述の自分使い用の「自家用」と、賃貸で暮らしている人ならば必ずお世話になる大家さんが不動産を保有して貸し出す、自家用ではない場合には「賃貸目的」の二つが大きくあると言うのがこのお話のスタートポイントになります。そして、賃貸目的は貸すことで収益を上げていくわけですので実はこれが「投資目的保有」の不動産とほぼ同義であることもすぐにわかっていただけるかと思います。

じゃあ、自家用不動産は投資じゃないの?

ちょっと余談に入りますが、自分で住むための不動産はそれ自身から当然収入を発生させることはないですので、一般に言われる不動産投資、と言う観点から見れば違う、となります。でも、個人の資産を考えた場合、自家用も自分で保有する限りはその資産の一部ですので当然に相続の対象になりますし、何よりも自分の資産の大きい部分を占める資産であることから売却して次の家を取得するときの頭金の原資にもなる、と思えば株や債券ほどの動きはないものの、その資産評価はその時々の社会環境や周辺の利便性などの状況に応じて変化すること資産であり、また、場合によっては賃貸に出せることで投資資産に変わることすらあります。そして、毎月の家賃を払わないでいい、という自分のお財布への影響もあります。そう考えると選び方一つで自分の資産に大きく影響をすることを考えると、キャッシュフローが入口と出口しかないもののその差額が損益になる以上これも広い意味で投資、と見なす事ができます。今回の話のターゲットは投資対象としての不動産の話ですので、居住用の不動産とその他目的の不動産とで税制上の取り扱いも違います。その辺りの違いについてもちょこちょこ解説できればとは思います。

商品性をまず確認

前回の保険商品と同じフォーマットで、不動産をまず資金の流れという側面でまず分析することで、投資商品性について確認してみたいと思います。 例えば、自宅の折り込み広告などで新築のマンションから中古まで、不動産の売り物の情報を目にすることは多分に皆さんあろうかと思います。その時に書いてある情報として、物件の概要、例えばどこにあるのか(駅から歩いてどれくらいの時間で着くか、という目安も含めて)、マンションなら何階建ての建物の何階にあるのか、間取りを示す図面、水道、電気、ガスと言ったライフラインがどこが供給するか、管理人さんがどこの会社で常駐なのか通いなのか、この物件はこの投函してきた不動産会社の仲介物件か、売主として売っているのか、という情報以上に一番最初に目につくのがその不動産の売値ですね。あと、気にして欲しいのが月々掛かる修繕積立金と管理費用です。これだけで少なくとも買う時にこの売値を払わないと買えないし、自分で住もうが人に貸そうがこの月々の修繕積立金と管理費用を支払わねばならない、ということが理解できると思います。 でも、実際のところどれくらい掛かるものなのでしょうか。

不動産取得時

不動産を購入するとき、物件紹介にある金額だけを相手に渡せば物件が取得できる、はずもなく、それぞれの事情で次のような費用が掛かります。
  • 不動産仲介手数料 – 不動産会社さんが物件売買の仲介をしてくれた手数料を払う必要があります。金額は一般的な物件売買ならば普通に400万円を超えるので、売買価格の 3% に 60,000円を足した額(に消費税)
  • 不動産登録免許税 – 不動産を取得したら、その所有権を第三者に主張するために登記所に登録してもらう必要があります。なんで登記なんてするの、と思う人もいるかもしれませんが、ざっくり言うならば民法的には自分で住んだり賃貸借で第三者に住まわせることで自分の所有権を主張することは出来ますが、これは売ってくれた相手にだけしか効果がありませんので、その他の人たちにも自分の物だと主張するためには登記をしないといけない、と思ってください。ちなみに、しなくてもいい、ことにはなっていますが、登記しないでおいて、そのままの登記情報を使って売主が他の人にも売ってその第三者が登記しちゃったら、あなたの所有権は主張できませんので、ご注意を。登記費用は、土地ならば2017年の3月末までならば売買価格、ではなく「固定資産課税台帳登録価格」の 15/1000、それ以降は 20/1000、建物は20/1000です。ですが、もし(1) 自分で住む、(2) 取得して1年以内に登記、(3) 登記簿上の床面積が50平米以上、(4) 耐火建築物なら築25年以内、それ以外は築20年以内、もしくは、築年数がそれ以上であっても新耐震基準に適合していることについて証明されたものや、既存住宅売買瑕疵保険に加入している一定のもの、については建物の登記費用のかけ目は3/1000に値下がります。ちなみに、この「固定資産課税台帳登録価格」というのは、売買価格とは関係なく、市町村(東京都なら都)が新築のタイミングで調査して、この固定資産台帳に物件ごとにいくらなのかを記帳し、3年ごとに更新されていく金額です。この金額は「固定資産税評価額」とほぼ同義ですので、以下では「固定資産税評価額」としましょう。
  • 司法書士さんへの報酬 – 不動産の登記の作業をしてもらうのに報酬をお支払いするのですが。。。通常、不動産会社が手配することが多く、また事前に資料等の提供をするものの売買契約の締結の時に初めて顔合わせすることが大抵で、したがって彼らの全体の報酬が幾らかは知らされることも少ないです。しかも、経験上「言い値」ですので幅がありすぎて平均いくら、とここで書けないのが悩ましいものの、イメージとしては登録免許税と同じくらい、と思うといいかもしれません。と言って、知り合いの司法書士さんがいる人ってそうそういないですからねぇ。
  • 印紙税 – 不動産の売買契約書には印紙を貼らねばいけません。登記完了したところで確認するための登記簿謄本をもらうためにも印紙が必要です。登記簿謄本は480円から500円、と決まっています(って、今実例を見て書いていますが、これでも二つのパターンがあるのでどうよ、って感じですが、よくよく思い出すと、印紙費用をケチりましょう、ということで、売買契約書を1通だけ作って、登記に必要な飼い主が保有する形でどうです、と提案されたから、2通作ってそれぞれが負担するパターンとの二パターンなんだ、と別件で思い出しました。粗忽の使者みたい。。。)が自分の登記完了を確認するだけでなく購入時に登記申請するための調査目的で事前に取得するコストも負担することになります。、売買代金によって、あと締結時期によって貼らねばならない金額が変わります。例えば2018年3月31日までに締結される場合には軽減税率が適用されます。とはいえ、不動産会社によってこの解釈が違って準備しろ、もしくは買っておきました、という印紙の額が異なりますので要注意です。なお、貼り忘れている売買契約書を税務署の人に見られた場合、本来貼るべき金額の2倍を過怠税が本来貼るべき印紙に付け加えて掛かります。貼って消印をしていない場合にも、同額の印紙を追加で過怠税として追徴されますのでご注意を。え?そうそう見られないんじゃないの?いやいや住宅ローン減税とか取引の証明にとか色々な事情で見せることになるんですよ。。。
  • 固定資産税・都市計画税の日割り計算 – 下記の保有期間でも書きますが、不動産を保有すると固定資産税が、さらに都市計画地域内に不動産を保有すると都市計画税が、それぞれ掛かります。これは基本的に年に一回、基準日に保有する人に請求書が届いてその先の一年分の支払いをすることになりますので、不動産の譲渡を受けた日以降に保有することで負担すべきこれらの税金を売主さんにお支払いすることになります。固定資産税などの計算方法は、固定資産税は「固定資産税評価額」の1.4/100、都市計画税は0.3/100です。
  • 管理費用と大規模修繕積立金の日割り計算 – こちらも下記の保有期間でも書きますが、ここで想定するマンション投資を考えると、日々のマンションの維持管理、例えばゴミ出しから廊下の電灯の交換やそれを毎日やってくれる管理のお姉さまの雇用費用、上水道のくみ上げのポンプのメンテ、エレベーターの遠隔監視の費用、そして10年以上ごとに行う壁面の補修まで、をマンションのオーナー全員で負担するために毎月出し合う費用があります。管理費用は年単位で管理する支出のための費用負担、大規模修繕積立金は10年以上ごとに行う「大掛かりな」補修費用を一括で出すには大変だから毎月に分割して支払うもの、と思ってください。これはマンションの管理組合の大きさ(大規模マンションならコスト負担が減りますよね)、築年数(古いと維持コストがかかりますよね)、そして財政管理方法(コンサバに運営するか、適当に普段を安くして問題が起きた時にみんなから慌てて集めるか)に依存します。まぁ、この日割り計算は通常一ヶ月分のうち決済日の来るタイミングで調整しますが、物件によっては一ヶ月前倒しで払うケースもあるので、その時にはその一か月分も丸々上乗せされます。あ、そうそう、ちなみに、管理費用と大規模修繕積立金ですが、仮に売主が滞納している場合、新しい買い主が譲渡を受けた後で滞納分を納付させられます。これはマンションの所有権に付随するもの、と考えられているからです。対照的なのが、これに性質上似ているように見えるマンションの敷地内の駐車場や駐輪場の利用料についてはマンションの所有権が移転してもこの未払い債務は売主に残るそうです。ですので、買うときには滞納がないかどうか確認する必要がありますが、通常は不動産業者さんが準備する重要事項説明書にこの辺りの滞納の状況は報告されます。
  • 不動産取得税 – 今までの項目は実は売買時の決済時にやり取りされる費用等なのですが、この不動産取得税は取引が完了して大体半年から一年以内に(ということは結構忘れた頃に)郵送で納付書が送られてきて支払うことになります。どれくらいかかるか、というと、「固定資産税評価額」の4/100、と結構なお値段ですが、例えば2018年3月31日までの土地と建物の取引ですと3/100に、また宅地については2018年3月31日までの特例として 「固定資産税評価額」に当たる額を1/2に置き換えることが出来たり、新築の建物は自分で住もうが賃貸に出そうが固定資産税評価額を1,200万円減額して評価することが出来たり、新築の建物の敷地も「固定資産税評価額」に当たる額を1/2に置き換えた上で45,000円(か一定の計算による額)を減額されたり、中古建物についても、賃貸目的以外、ということは自分で住むかセカンドハウスで使おうが、前述の減額措置が(建物は1,200万円を築年数によって変えることになりますが)適用される、と計算があれこれあります。
って、あれこれありますね。株式の取引手数料くらいにしてくれればいいのに、と思っちゃいますよね。

でも、これでも、ここまでで、いわゆる即金で買えちゃう人とか、即金で買うことの出来るレベルの物件の場合です。もし恥を忍んで個人的な経験における実際の数値を挙げるならば、某地方都市のワンルーム、20平米弱、売買価格が470万円という物件に対して

  • 仲介手数料:217,080円
  • 印紙代:2,000円
  • 登録免許税など:56,228円
  • 司法書士報酬:89,000円 + 7,120円(消費税)- 8,065円(源泉徴収分)
  • 固定資産税・都市計画税日割り分:24,246円(9ヶ月半分)
  • 管理費用・大規模修繕積立金日割り分:16,530円(一ヶ月半分)

と、合計5,104,139円のお支払いを決済時点で行い、8,065円を別途源泉徴収税として国庫に納付し、後日 69,400円を不動産取得税として支払いました。結果、総額 5,181,604円掛かり、記載の470万円からは 481,604円上乗せがあった、と見ることが出来ます。10%強ですか。。。取引手数料関連としては保険商品の7%よりもさらに高いと見ることも出来ますが、日割り計算している固定資産税や都市計画税、管理費用や大規模修繕積立金は、性質上保有期間中の負担と見ることが出来ますので、これらを控除した440,828円が実質の取引手数料関連、と考えてもいいでしょう。それでも、10%弱、ですからね。。。 さて、都心でワンルームを考えると、こんな500万円程度ではなかなか買えません。となると、手持ちの資金を頭金にしてローンを借りて購入、というシナリオを考えることになります。この時、物件取得の性質でローンの種類も変わるのですが、その違いは金利のレベル感や物件価格に対するローン額の上限と思うと分かり易いと思います。 例えば、自家用の場合、実際に自分で住む訳ですので投機性がないので物件の100%まで貸しますよ、金利も低めに設定しますよ、ということが多いのですが、これが投資目的となるとその投資に一枚噛ませろ、ということで金利も上がりますし、他方でリスクは取りたくないのでローンの上限額は銀行が査定する物件評価額の80%、といった具合によりリスクリターン重視なものになってきます。 とはいえ、実際にローンを受けるとなると、借入時事務手数料ということで、ローン額に対して一定の割合(例えば、以下、特に意図はないもののプレスティアさんを例にすると、自家用の変動金利だと2%+消費税)とか、固定額(自家用の固定金利だと2万円+消費税、投資用だと一律15万円)とかが掛かります。また、保証人/保証会社を求められると、その事務手数料や保証料が必要になり、 また、不動産ローンは物件の資産価値に依拠する商品ですので、これを担保として取ることから、第一抵当権(もしローンが払えなくなったら、抵当権を行使してこの物件を売却してその代金の一部からローンの弁済を優先的に受けることができる権利)を設定し、物件の登記情報にも明示することを求められます。そうなると、この抵当権の登記設定が必要になるので司法書士さんにまた仕事をしてもらうことになります。そのコストは登録免許税としてローンの額の0.4%、司法書士さんへの報酬が大体6-10万円、が相場のようです。なお、登録免許税の利率については2017年3月末までの抵当権設定であれば、自家用の50平米以上の物件で登記もローン実行から一年以内に行われて、中古ならば築20年以内(耐火物件ならば25年)などの条件を満たせば0.1%に下がるのは取得時の登録免許税と同じ優遇措置のようです。

保有期間中

不動産を購入しました、の次に、不動産を持ってしまったことでかかる費用等を見ていきましょう。

  • 管理費用と大規模修繕積立金 – 前述の通り、これは住んでいようがいまいが住まわせていようが空室状態であろうが、オーナーであればマンションを所有する限りは毎月負担しなければいけない費用です。そうそう、新築の時は割とこの費用等は安く設定されていることが多いのですが、実際に新築から5年くらい経つと大規模修繕工事が頭にちらつくので見積もりを取りながら試算してみると全然積立が足りなかったり、環境の変化により管理費用が足りなくなることもあります。そうなるとマンションの管理組合の理事会が主導でこの金額の見直しと増額を行うのが常なのですが、最終決定権は管理組合の総会ですので、出席するなりしなければなりません。が、たいていの場合、賃貸向けで買った人は住んでいない一方、住んでいる人の利害関係が切実ですので住む人の声が比較的大きくなりがちです。ですので、管理費用が値上がるときに自分の利益が減るからという理由で反対してはいけません。というか、そこでケチると売却する時などの資産価値が減りますので目先の利益に囚われないようにしましょうね。
  • 固定資産税・都市計画税 – こちらも前述の通り、住んでいてもいなくても、人を住まわせていてもいなくても、所有権を登記している限り支払わねばならない税金です。金額は固定資産税は「固定資産税評価額」の1.4/100、都市計画税は0.3/100です。ちなみに、複数で共有している時にはその代表となる人に届くのでその人が一旦払って、残りの人からもらうなりすることになるので、相続直後とかその結果の共有状態に揉め事の種になりやすいので注意が必要です。そういえば最近、これもクレジットカードで支払えるようになったんですよね。あと、これに関する関心事、といえば、「固定資産税評価額」の根拠、ですが、国土交通省が定める土地の公的価格や家屋の時価評価額の70%程度、と言われています。かつ、この見直しは3年に一度行われます。が、どうも市区町村長が最終的な決定権を持つことからこの辺りはばらつきがあるようです。また、税率も1.4%と書いてはいるもののこれは標準税率とされているため、これまた市区町村で引き上げることも可能らしく、財政難なところはもっと高いらしいです。
  • 火災保険 – 案外忘れがちなのが建物に対する火災保険への加入です。賃貸に出したら、賃借人(入居者さん、ですね。)が入るからいらないのでは、と思いがちですが、不動産の所有者は建物に対する保険をかけ、賃借人は自分の持ち込んだ家財や自分が火を出した時の賃貸人(大家さん、というかあなたの立場、ですね。)に対する損害補償をする必要があるのでそのための保険にも入ってもらいます。でも、賃借人が入るからいらないのでは?と思いがちですが、隣の家の火事からの貰い火とか不審者による放火も可能性としてはありますが、貰い火は失火責任法によって、放火は加害者不明ということで、それぞれこれらに対して入居者さんをはじめ誰にも責任と補償を求めることが出来ません。また、そもそも不動産の所有者は無過失責任を負う、と言って、例えばその建物の壁のタイルが経年劣化の結果はがれおちたところ、下を歩いていた人にぶつかって怪我をさせた、なんて時には建物のオーナーがその責任を理由がいかなるものであっても負わねばならないので、特に、一棟丸ごと持っている場合ならばその辺りの「施設賠償保険」を込みで入っておくことになります。区分所有の場合、管理組合で共用部分に対するこのような保険も入るので、自分の保有する部分は自分の責任で入る必要が出てくるのはそういう事情から来るのです。

と、ここまでが、何をしなくとも負担する費用です。もしくは、普通に買ったマンションに住むと保有することで負担する費用、とも言えますね(この場合には保険は建物と家財と両方ともカバーしましょうね)。 もし入居者が入ることになると、賃料が入ってくる訳ですが、そうなると、これに付け加えて次のキャッシュフローが発生することになります。

  • 敷金・礼金・更新手数料 – 入居するタイミングや通常2年契約の賃貸借契約を継続するにあたって、入居者「様」からこのような名目で受け取ることになります。これらは土地柄によったり、その時の契約によって水準が変わりますので一概には言えないのですが、ただし、気を付けないといけないのが、敷金。これは退去時に(必要に応じて壁紙などの張替と言った清掃費を控除して)返さねばいけない「預り金」ですので、使い込んでもいいけど退去時にはちゃんと払えるようにしましょうね。とはいえ、最近では敷金を0にして入居時の費用負担を下げることで入居者を探すのも増えてきていますし、実際にそれをやったことであっという間に入居者が決まったこともあります。この場合には退去時に貰い受ける清掃費を予め提示して合意してもらうことで対応しますが、当然夜逃げとかされたら自分の負担になるので、どちらを取るかは戦略次第、と言えるでしょう。
  • 仲介手数料・更新事務手数料 – 入居者を探してくれた不動産屋さんに手数料をお支払いすることになります。とはいえ、こちらは宅建業法により貸主と借主のそれぞれから上限で 0.5ヶ月分、特例を使っても総額で賃料の1ヶ月分しか不動産屋さんは取れませんので、そうそう見越して更新手数料を賃料の1ヶ月等の慣習に合わせておくのがいいのかもしれません。
  • 退去後のクリーニング費用 – ということで、もし更新してもらえずに退去された場合には次の入居者を迎えるために綺麗にする必要があります。壁紙を張り替える、床などの清掃、必要に応じて備品の入れ替え、果てはリフォームまで、物と今後の賃貸するときの戦略に応じてお金の掛け方は変わってきます。が、上記の通り、退去する人から取れるのは貸したときの状態に戻す程度の費用だけ、です。
  • 賃料 – やっと、不動産投資の目的である賃料が入ってきます。おめでとうございます。でも、結構あるのが2か月目の支払いを忘れられてしまうことです。最初の月は敷金や礼金などの決済の時に合わせて預かるのでいいのですが、2か月目については結構忘れる方が多いです。ですので、入ってませんよ、と連絡を付ける必要があります。このような賃料入金の管理がある意味この投資の肝と言ってもいいでしょう。しかも、もしそれでも払ってもらえない場合、入居の時に提示された連帯保証人に連絡したり、保証会社に入って貰った場合にはその保証会社に連絡をして、入金を確保しつつ、今後のお付き合いの仕方を考える、という不幸な展開にもなりえますので案外きめ細やかに見ていないといけないでしょう。
  • 備品などの補修 – 長年住んでいると、ガス給湯器が壊れてみたり、洗面台やバスタブが水漏れを起こす、据え付けのエアコンが壊れる、といったトラブルが生じて入居者から大家さんであるあなたに「なんとかしてー」と連絡が入ることもあるでしょう。このあたりの物件の付帯物はオーナーのあなたの物ですのであなたの責任で修理して入居者「様」に使ってもらえるようにしないと入居者「様」の生活に支障が出てしまいます。使ってもらって賃料を頂けるわけですから。となると、部屋に立ち入る訳にはいかないものの、知り合いで物件のそばにいる専門の業者さんに連絡をして現場に行ってもらい、入居者「様」の立会いのもと調べてもらって修理してもらって、その請求書を送ってもらって支払う、ことになります。でも、遠隔地の物件を持っている場合、近くに知り合いの修理屋さんなんていないし、どうしましょう。。。
  • 管理業務委託手数料 – ということで、賃料の回収から物件まわりのトラブル、入居者からの賃貸借に関するクレームなどを一義的に受け止めて対応してもらえる管理業務を、不動産を取得するときにお付き合いした不動産会社さんなどが提供してくれるケースが多いです。相場的には賃料の5%程度、と言われています。当然手取りが減りますが、任せておけば対応してくれますので副業的に投資するときや遠隔地でどうしようもない時にはお願いするに限ります。
  • ローンの元利金 – もしローンを借りているならば、その金利相当分と元本の一部を(通常は)毎月支払うことになります。プレスティアさんを例にとると、その商品説明書を見ると月々の返済が基本元利均等払いになっています。ですので、毎月一定額を返済にあてることになりますが、毎月元本が少しずつですが減少していくので毎月の利息相当額が減少していくことになります。
  • (団体信用)生命保険 – ローンを借りていると自然と入らされる保険なので、ここに入れるべきか悩ましいものの、もしもローン返済中にあなたの身に何かが起きたら返済能力がなくなるので、その担保ということで居住用であれ投資用であれローン元本相当額の保険金の降りる生命保険に入ることになります。ローンの貸し手である金融機関等がローンの利用者についてまとめて加入することから、通常より割安になっている一方で、年末調整や確定申告の時の生命保険控除の対象にはなりません。居住用の一番メジャーなローンである35年間固定金利のフラット35の場合、年に一度保険料を支払うのですが、民間金融機関のローンの場合は金利負担に含まれているので自分から別途払うことはありません。

以上が不動産を運用することで発生する一般的なキャッシュフローの全容ですが、保険商品や債券などと異なり結構あれこれあって面倒ですよね。しかも、頻度の低いもの(年に一回とか火災保険などは長期契約したら5年に1回)や偶発性の高い(居室内の備品の修理費用や、上記では取り上げていませんが、火災事故等が起きた時に支払われる火災保険からの保険金)ものもありますので、債券の利金のように半年ごとに確実にいくらになる、という目算が作りづらい部分があるもののキャッシュフロー的には

 [家賃収入] – [事務管理手数料] – [管理費用並びに大規模修繕積立金] – [ローン元利金支払い]

が毎月起こるキャッシュフローで、通常ならばこの引き算の結果は黒字になる、はずですし、それを目指して投資をしているはず、なのですが。。。  さて、一つすっかり忘れていたキャッシュフローの項目がありました。年次で発生する、所得税への影響です。日本に住んでいると1月から12月までの間の収入については全て所得税の対象となり、この不動産投資もそのご多聞に漏れることはありません。 ここで、話を単純化するために多分読まれているあなたがそうであるように、会社に勤めてお給料を毎月もらっている人が不動産投資を行なった場合、ということでこの所得税への影響を考えてみます。前述の月々の収入

 [家賃収入] – [事務管理手数料] – [管理費用並びに大規模修繕積立金] – [ローン元利金支払い]

を軸に、その他の年次で掛ける火災保険の費用や備品等の修繕にかかった費用、固定資産税や都市計画税を追加の費用として差し引くと。。。年間の収益、のように見えますが、実は二つほど修正しなければならないものがあります。

一つは、ローンの支払総額から、元本返済部分を差し引く必要があります。というのも、元本返済ですから利息のような経費の類のものではないからなのはわかりますよね。

もう一つは、不動産の建物の部分に対する減価償却を経費として追加することです。どういうことか、というと、不動産は大きく分けると土地と建物に分けることができますが、土地は使っても消費することはありません(ので、不動産の売買の時、もし相手が不動産会社だとしても土地相当額に消費税は掛かりません。)が、建物は長い時間使い続けていけば経年劣化や摩耗などしますので、ある一定の期間で使えなくなると考えると、これは長期にわたって継続的に消費されるとして費用として計上していいよ、というルールになっています。

ちなみに、減価償却の計算は、一般的な鉄筋コンクリート造りのマンションの場合、新築ならば耐用年数が47年、と決められていて、また、定額法と言ってこの47年をかけて、均等に償却して行くことが求められていますので、この47年に対応する税務署の定める償却率である、0.022(=2.2%)を建物の取得価格にかけた額を毎年減価償却として計上することになります。もし中古マンションならば、竣工から取得時までの期間を年単位に切り上げて、0.8を掛けたものを47年から差し引いた年数を、中古マンションの耐用年数、と定められています。例えば10年落ちで買った場合、 47 – (10 x 0.8) = 47 – 8 = 39 年です。この場合の償却率は 0.026 (2.6%) となります。

なお、耐用年数を経過したものについては耐用年数 x 0.2 年と決まっているので、通常の鉄筋コンクリートの投資ならば 47年超の築年数の物件を取得すると一律9年 (端数切り捨て)になります。

となると、税金の計算上はローンの毎年変動する元本返済額ではなく、毎年一定額で計上される建物の減価償却額を、建物への投資相当額に対して収益の一部として回収していると見ることができます。もしローンを借りていなければその回収したキャッシュは手元に置いておけますので、次の投資に使ったり、別の使い道に廻せますが、ローンを借りていれば額は違えどその元本返済に流れている、というわけです。 とすると、ローンを借りた最初の数年は元利均等返済の性質上、利息部分が大きいため元本充当も大した額になりませんから、結果として費用の総額が賃料収入総額より大きくなる可能性がでてきます。そうなると税金上は赤字になります。不動産所得はもし赤字が出るとその分を給与所得から控除することが出来る、というルールがあるため、不動産投資をすると節税になりますよ、という触れ込みで不動産会社やマンション・デベさんが一生懸命売り込みがやってくる、のです。

でもちょっと不思議ですよね。キャッシュフローはそこそこに生み出されているのに、税務上は減価償却がその一部を圧縮してくれる、というのですから。  因みにどれだけの影響があったかと言えば、こんなあからさまな累進課税のトリックを使った例を見ると分かりやすいでしょう。

もし給与所得が750万円、不動産所得が100万円の赤字だったとしたら、その他の控除も面倒なので基礎控除の38万円だけと仮定すると不動産所得の赤字があると課税所得は562万円となります。不動産所得のない750万円の時は課税所得が712万円ですので税金はざっくり

712 x 0.23 – 63.6 = 100.16万円

であるのに対して、不動産所得のある 650万円の時は、課税所得が 612万円ですので税金が

612 x 0.2 – 42.75 = 79.65万円

になるので  20.51万円節税出来た!というのが彼らの主張なのです。

まぁ、今回の例は、いろいろと派手に仕込んだ裏がありまして、その大きいものとして、課税所得が 695万円を超えると税率が 23%に対して下回ると 20% と 3%のメリットも受けるような計算になっています。

とはいうものの、赤字があるので納税負担出来る能力も下がっている、ことになっている訳ですがこの説税額を得るために、100万円の赤字を出そうとすると、個人的な経験上、通常のワンルーム投資を考えると管理費用と大規模修繕積立金が月にかかっても15,000円くらいと思えば、年間でも 18万円。固都税・都市計画税もかかっても3万程度と思えば、基本的な維持費だけでは100万円も行くことはなく、と言って、1000万円のローンを受けて投資したところで、今の金利水準では2.5%程度でしょうから 年間25万円程度の金利支払い、では合わせても 50万円には満たず、取得の際の諸々の手数料がかかる初年度を除くと、仮に貸せていない状態であっても、そんなに100万円のロスで穴を開ける、ほどにもならないのは想像に難くないのです。

というか、100万の費用を払っても20万が国から帰ってくるからラッキー、みたいな算数出来ないような感じの事、嬉しいですか?

ということで、ちゃんと貸せた結果、マンションオーナーとしては黒字になりますので、まともにやったらそちらでの税負担が増えてしまうと考えた方がいいのだと思います。と言っても、追加で稼いだ分の一部を支払う、のでお財布的におまけのキャッシュが増える、というのが実情でしょうが、実は、この追加の収益のお陰で税率が、それこそ前述の逆パターンのように、20%から23%の世界に押し上げられてしまうこともあり得ます。 まとめると、給与所得の人が不動産を始めると、その不動産所得と合算して所得税の計算がされる、ということになります。ですので人により税率が異なるのは分かって頂けますが、まぁ、費用控除後の20%程度になるのが一般的なところでしょう。と思うと、株式や債券、ファンドの受け取り分配金、預金の利息とほぼ変わらないことが分かります。

不動産投資終了時

さて、投資するということは、最終的な回収もせねばなりません。とはいえ、人間ですので、投資の終わりかた、というとどうしても生命保険の時のような3つのケースを想定せねばなりません。一つは、通常私たちが投資として考える出口としての第三者に売却した場合という普通のケース、二つ目は、生前贈与で身内に譲渡すること、そして最後が自分が死亡した場合に相続人である家族に相続させる場合、という資産の継承目的のものです。

売却時

不動産を売却する時、負担すべきは売却先を探してきてくれた不動産会社さんへの手数料(計算方法は取得時と同じ)、契約書に貼付・捺印する印紙税、あとはもしローンの残債が残っている場合の譲渡の時には抵当権抹消手続き関連の登記費用と司法書士さんへの手数料(こちらも取得時と同じ)が掛かりますが、保有に関する登記は買い主の責任で行うのでこちら側では特に負担することもありません。そう考えると、売却直後は全然手間がないですね。 でも、不動産譲渡による収入が発生したわけですので、確定申告時に不動産の譲渡所得に関する課税が発生します。ちなみに、不動産の譲渡から発生した収益は給与所得や退職所得などとの相殺の出来ない分離課税となります(ただし、複数の不動産を売却してその損益を合算することは出来ます)。 計算方法ですが、

「売却代金」 –  (「取得費」+ 「譲渡費用」)

と、シンプルですが、この「取得費」には、実際に購入した際の土地と建物の価格に、取得時に掛かった費用(前述の、不動産仲介手数料や登記費用、司法書士さんへの報酬、印紙、といった諸々の費用ですね)を足して、そこから、保有した時に計上していった建物の減価償却を差し引いた額になります。他方で、譲渡費用には上述の売却時の不動産仲介手数料や印紙税、登記抹消関連の登記費用に加えて、もし貸している時に空室を条件に譲渡する場合なら賃借人に立ち退いてもらうための費用が掛かったならその費用や、譲渡対象となる資産の価値を上げるために行ったこと、例えばリフォームをしたならば、その費用も(ただし、それも減価償却の対象になるので、その分上乗せ出来る費用は減りますが)この譲渡費用に上乗せすることが出来ます。 と考えると、実は不動産の譲渡の時は、株式や債券のように買った値段と売る値段との差額を利益と見ることが出来ないのと同時に場合によっては買った値段より安い値段で売却したとしても税務上とはいえ利益が出てしまう可能性がある、ということでもあるのです。 さて、実際の税金の計算は、というと、居住目的とそうでないか、あと保有期間が5年未満かそれ以上かで、いろいろと変わってきます。というのも、まず「課税譲渡所得」を計算する必要があるのですが、これには先ほどの

「売却代金」 –  (「取得費」+ 「譲渡費用」)

に対して、特別控除の適用があるか考える必要があります。特別控除ってなんじゃ?と思いますよね。次の5つのケースに当てはまるとそれぞれのケースに対して最大で

  •  公共事業などのために土地建物を売った場合の5,000万円の特別控除の特例
  •  マイホーム(居住用財産)を売った場合の3,000万円の特別控除の特例
  •  特定土地区画整理事業などのために土地を売った場合の2,000万円の特別控除の特例
  •  特定住宅地造成事業などのために土地を売った場合の1,500万円の特別控除の特例
  •  農地保有の合理化などのために土地を売った場合の800万円の特別控除の特例

があって、上から適用があるか調べて、かつ合計で最大5,000万円の特別控除が適用可能、というものですが、そもそも「売却代金」- (「取得費」+「譲渡費用」)という譲渡益が0になるまで控除可能、というものですので、例えば、仮に5000万円の特別控除が適用可能であっても、譲渡益が2000万円ですと、その年の特別控除は 2000万円となり、譲渡益は0となり、余った3000万円はというと、翌年に繰り越しもできない、という計算になります。 上記のそれぞれを考えると、自分の居住用に買って利用したものならば3000万円の特別控除が適用できそうですが、投資用に、という今回の記事のメインテーマですと、所有している物件が公共事業や区画整理のための立ち退きを余儀されることがなければ当てはまることはまずないものです。むしろ、ここが居住用の物件と投資物件の出口での譲渡益での差が出るところなのです。これがどれだけ効いてくるかは次の税率の適用でも変わるのですが、最大3000万円の課税対象の控除は大きいです。 さて、その特別控除の適用後の課税譲渡所得に対して適用される税率なのですが

  1. もし、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年以下の土地や建物を売ったときの税額の計算は、
    • 所得税として課税所得の30%
    • 復興特別所得税として所得税額の2.1%
    • 地方税として課税所得の9%
  2. もし、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えるの土地や建物を売ったときの税額の計算は、
    • 所得税として課税所得の15%
    • 復興特別所得税として所得税額の2.1%
    • 地方税として課税所得の5%

となります。分かりやすくするならば、もし、課税譲渡所得が3000万円だったとするならば

  1. もし、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年以下の土地や建物を売ったときの税額は、
    • 所得税として課税所得の30%: 3000万円 x 30% = 900万円
    • 復興特別所得税として所得税額の2.1%: 900万円 x 2.1% = 18.9万円
    • 地方税として課税所得の9%: 3000万円 x 9% = 270万円

    の合計 1188.9万円 (39.63%)

  2. もし、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えるの土地や建物を売ったときの税額は、
    • 所得税として課税所得の15%: 3000万円 x 15% = 450万円
    • 復興特別所得税として所得税額の2.1%: 450万円 x 2.1% = 9.45万円
    • 地方税として課税所得の5%: 3000万円 x 5% = 150万円

    の合計609.45万円(20.315%)

と、実額で579.45万円の差が起こります。そう考えると、少なくとも5年間は保有せねばならない、という気になりますよね。ちなみに、この5年、というのも計算方法がややこしく、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が期間の基準日となっているので、売却日で5年かどうかを考えることができません。ということで、5年を優に超える期間の保有に誘導されていることが分かります。これは20年も昔のバブルの時に不動産の短期回転売買が数多く起きたことから導入されたルールだと言われています。 また、この計算を見ると、居住用不動産に対する3000万円の控除という大きなメリットが見えてきます。なにせ、仮に短期売買であっても課税所得が0になるので納税額も0になります。1188.9万円が浮く計算になるのです。しかも、譲渡所得に短期と長期の区分がありますが、もし譲渡した年の1月1日現在で10年以上所有し居住した後の売却となると、一定の条件を満たすならば税率がさらに有利になって

  1. 譲渡所得のうち6000万までは、
    • 所得税として課税所得の10%
    • 復興特別所得税として所得税額の2.1%
    • 地方税として課税所得の4%
  2. 譲渡所得のうち6000万を超える部分は、
    • 所得税として課税所得の15%
    • 復興特別所得税として所得税額の2.1%
    • 地方税として課税所得の5%

となります。しかも、これは前述の3000万円の控除と併用可能ですので、特別控除前で9000万円の譲渡益が出る、という人にはどう見たってお得でしかありません。ただ、注意が必要なのが、一度これを使うと、向こう2年は特別控除の適用が受けられません。とはいえ、居住用の家やマンションを三年未満で常にコロコロ移り住みながら売却して適用を受けようとする、ってどこまで現実的な想定なのでしょうね。

相続という出口

次に売却しない投資の終わり方について考えてみたいと思います。よく、相続対策に持ってる土地にアパートを作りましょう、という話が出たり、一時期、湾岸エリアの高層マンションの高層階の部屋から売れた理由の一つとして相続目的だった、と言われていましたが、これらの背景をひも解くような解説になっていきます。 自分では予定しないものの、投資の途中で諸般の事情で投資終了前に人生が終わってしまう可能性がないわけではありません。そうなった場合、この投資物件は個人名義で保有しているならば当然に相続の対象となります。この場合、もしローンを組んで取得していてローンの返済が終わっていないならば、ローンの条件として団体信用生命保険に加入していることがほとんどでしょうから、団体信用生命保険の保険金でローンが片付いてい(て、余剰のキャッシュが手元に残)ることでしょう。その前提にすればローンを借りずに取得した人と条件が同じになるのでその前提で進めるとします。

この場合、税率は相続資産と法定相続人の関係で決まってしまうことから一概に言えないため、当然に問題になるのが相続人に対していくらで相続するのか、という評価の問題が大きな焦点となりますので、ここを重点に見ることになります。 なお、今までは如何に収益性をあげるか、と言うことが問題になっていたのが、相続や生前贈与の観点では如何に資産を移転する際の課税対象となる資産評価額を下げるか、結果として受け取る側の税務負担をどこまで下げられるか、が問題になることに頭を切り替える必要があります。

不動産は一物四価 – 相続で使う価格はどれ?

そこで、不動産の評価のメカニズムを改めて見直してみましょう。 土地の値段には4つの評価額がある、と言われています。

まずは、実勢価格。これは売買取引の際に使われる価格を指します。

続いて、前述の固定資産評価額。固定資産税や都市計画税を払うための算出根拠、とされていて、市区町村(東京都内なら都税事務所)が三年に1回公表するのですが、通常、実勢価格の60%から70%だとされいます。

次は公示価格。これは国土交通省が、特定の土地(地価公示標準地)について、その土地の価格を国土交通省土地鑑定委員会が不動産鑑定士の意見を参考に決定するもので、毎年1月1日の評価基準日時点での価格を3月下旬に発表しています。元は公共事業用地の取得価格算定のための基準になるものとして使われていますが、一般の近隣の土地の売買の価格の目安となっています。ちなみに、この地価公示標準地における公示価格や、同じように都道府県が定める特定の土地(地価調査基準値)に対する値段を都道府県基準地価と呼ぶのですがこれとが、その近隣での土地の売買の適正な価格かどうかを判断する客観的な材料になるとされています。

そして、最後に、路線価があります。これは、国税庁が年に一度、1月1日を評価時点として8月頃に示すもので、全国の主要な市街地の道路に沿って決めています。だいたい、実勢価格の70%-80%程度、とは言われています。 さて、相続や生前に行うだろう贈与では不動産の資産価値については一般には最後に紹介した路線価を使って土地の評価を行います。とはいえ、すべての土地建物が主要な市街地の道路に沿っているはずもありません。そういう時には、固定資産税評価額を使うことになるのですが、そのまま使うと路線価より低い水準になることから、この場合には国税庁が定める倍率を固定資産税評価額に掛けた額を採用することになります。この倍率は路線価と一緒に「路線価図・評価倍率表 – 財産評価基準書」にて閲覧可能です。

と考えると、相続や生前贈与の際の評価額は自然と取引価格の80%程度にまで押し下げられることがわかります。だから、現金で相続等をさせるより税金がかからない効果が期待出来るというわけなのです。また、その評価の仕方が、都心ならその建物に面した道路に定められた一定の額になる一方で、マンションは通常上層階に行けば行くほど売買価格が上がることから、「高く買って安く資産評価出来る」、ため、上層階を購入することでより多額のキャッシュを相続や生前贈与するよりも相続・贈与評価額という形で圧縮できることになるのです。

また、相続税より高い課税率の贈与税を回避すべく売買の形で譲渡課税の形をとる場合、資金移動が伴うこともあって取引価格を恣意的に下げがちなのですが、市場価格の半額以下に取引価格を設定すると低額譲渡により譲渡した側は時価で譲渡したと見なされて譲渡所得の課税がなされ、また譲渡された側も時価と取引価格との差額の贈与を受けたと見なされて贈与税が課税される、ケースがあります(個人から法人の譲渡の場合や個人から個人への譲渡でも親族間の場合など)。また、この場合の時価とは上記の路線価を 0.8で割ったもの、すなわち実勢の取引価格に準ずるものと言う計算が適用されがちと言われています。とすると、贈与税回避の譲渡のメリットがあまり見出せない可能性もあるようです。まぁ、ここは実際に計算して検討すべきところかもしれません。

評価額をさらに下げる方法 – 建物を作って貸せばいい。でもなぜ?

さて、この課税対象となる資産評価額をさらに下げたくなるのが人情です。そのための方法がいくつかあります。

まず、土地だけ持っている場合、その土地にアパートなり建物を建築し始めましょう。出来上がるまでの間は、まだ建物の登記もしていませんので固定資産税の評価額がつけられていないことから、建築の際の費用現価(相続の場合、被相続人の死亡の日、贈与ならば贈与によって資産を取得した日までに建物の建築に投下された建築費用の総額を課税の時期に引き直した額)の70%の評価で済むのです。ちなみに、出来上がってしまうと固定資産税の評価額がそのまま適用されますので建築中の方がお得に思われている、のですが、その時期はかなり短いです。

また、出来上がった建物を貸しましょう。人に貸すための建物が土地の上にあると、収益が上げることが出来るもののその土地を自分で自由に使うことが出来なくなるため、その土地は「借家建付地」という扱いになります。これになると、土地の評価が、本来の評価額=自用地としての評価額に対して借地権割合や借家権割合、そして貸している建物の稼働率=賃貸割合(床面積ベースでの稼働部分の割合)だけ差し引くことになります。式で言えば

借家建付地の評価額 = 自用地としての評価額 x (1 – 借地権割合 x 借家権割合 x 賃貸割合)

となります。なお、借地権割合や借家権割合は路線価と同じく「路線価図・評価倍率表 – 財産評価基準書」を参照することになり、自分で勝手に決めることができません。でも、人に貸している分だけ減額されているのがわかります。

もし更地を持っていて、もっと評価額を下げたい、となると、借地権、として土地ごと人に貸してその人に家を建てさせましょう。そうなると、土地の評価額が

借地の評価額 = 自用地としての評価額 x (1 – 借地権割合)

となることから、借家建付地より評価が下がります。

今まで土地の評価の話だけでしたが、建物は、というと同じ議論があり、もし自用ならば固定資産税評価額をそのまま適用することになりますが、もし賃貸に出しているならば、貸家ということで評価方法が借地の評価と同様に

貸家の評価額 = 自用家屋としての評価額 x (1 – 借家権割合 x 賃貸割合)

となります。

ちょっと分かりづらいですよね。こんな絵を描いてみました。土地、建物それぞれに対して、実際の売買価格と、土地ならば相続の際の評価額となる路線価、もしそれが借家建付地となった場合、建物ならば相続の際の評価額となる固定資産税評価額、もしそれが借家となった場合との比較です。ここでは借地権割合を70%、借家権割合を一律と言われている30%にそれぞれ仮定して計算しましたが、所有する土地の上に人に貸すために建物を作って貸している場合の「相続時の」評価額は、土地ならば実勢価格の63%、建物ならば49%にまで減額することが可能といえます。

なぜ土地持ちな人がアパート経営に走るのか?

さて、この土地の評価額を下げるルールがわかると、なぜ土地を持っている人がアパート経営に走るのかが見えてきますね。こういう土地持ちの人ですので、当然自分が住むための家があるでしょうから、その上でもし更地を持っていて、単純に青空駐車場として貸していると、更地と同じ固定資産税の税率(すなわち宅地にすることで1/3から1/6に引き下げられるメリットがない状態)でかかることに加えて、駐車場として人に貸していても自用地扱いになるので前述の借地権割合だけ相続の時の評価額を押し下げる効果もありません。そうなると、建物を立てて宅地にして継続的にかかる固定資産税を下げた上で、それを貸すことで借家建付地にすることで評価額を下げることを狙うことになるのです。また、アパートにして複数の部屋を貸すことで空室リスクを確率の上で減らすことが狙えますし、アパートを作るに当たってローンを借りて作れば、ローン金利は経費として課税対象となる賃料の一部を相殺し、またアパートの減価償却によって賃料の一部を手元に留保することが出来るのでローンの元本返済に充当することも可能になります。とすると、本来の土地の評価額を圧縮したものにこれまた借家による評価額を圧縮した建物が相続の対象資産となるにも関わらず、ローンによって資産評価額をさらに押し下げる効果が期待できる上に、本来更地で高い固定資産税を払うだけの土地をキャッシュフローを生む物件として引き継ぐことが出来る、というメリットがある、という謳い文句でアパート経営を勧められることになるのです。

で、土地持ちでない私たちのワンルーム投資はどうなの?

おっと、本題から離れてしまってました。でも、今回取り上げているマンションを買って貸す投資の場合、類似点は色々とあります。改めて手持ちの更地に建物を作るわけではないですが、人に貸す目的の部屋を取得し貸し出すわけですので、土地相当部分は借家建付地と同じ扱いの評価になり、また、建物部分も、借家扱いになるのでそれぞれ自分で住む時より評価額が下がる、という意味では同じことになります。ましてやローンを借りて投資しているのなら債務による資産額控除が出来るのもなおのこと同じです。

やっと本題。で、新築マンションの区分保有投資ってどうなの?

お待たせしました。新築マンションの区分保有投資がいいのか悪いのか、という本来の目的のために、その基礎となる知識をこれだけ羅列しないといけないので、なかなか判断がしづらい、という気持ちになりますよね。書いていても目的を見失いそうになったくらいですから。。。

まず、考えねばならないのが、区分保有に投資する、といったときにどこに目的を求めるか、という点を絞る必要があります。というのも、上述の通り、最初から相続目的となれば、そこそこに収益性があることよりも高い資産価値なのに税制上より安く評価される物件を選び、かつ継続的に貸し出している状態にするために賃料が実勢より下がって収益性が劣後しても仕方なし、と思わざるを得ないのです。

では、純粋な投資目的、となった場合、投資元本に対する利回りがまず大事になりますが、他方で、建物部分の減価償却が発生し、その結果減価償却に対応する賃料部分が手元に留保可能になるので、減価償却の期間の短い方が好ましいのも理に叶うところでしょう。そう考えると、減価償却の公式を思い出すと新築だと 47年(年 2.2%の償却)、中古では 47 – 経過年数 x 0.8 年、耐用年数を超えたものならば 9年(年11.2%の償却)、ということから、減価償却の観点で見ると古ければ古いほどいい、ことになります。

とはいえ、当然人が借りたいと思うものは新しいもの、ですので、その意味ではより新築に近い方が貸しやすそうですが、新築で一番ネックになるのが取得価格です。というのも、俗にいう「新築が中古になった瞬間に2割価格が下がる」という点です。週刊ダイヤモンドが面白い調査をしていて、2割は大げさではあったものの、首都圏で新築が築1年なると平均10%下がっていた(東京23区は5%程度、千葉、埼玉だと15%ということでの10%の)ようです。彼らの結論として東京23区ならば新築も中古も差はないが、それ以外の地域は新築が不利、だったそうです。実際に1年で10%の売却価格の値下がりは、上述の建物の年2.2%の減価償却では追いつかないですし、その後も首都圏で一年で2%平均下落してきていたということを踏まえると、新築の方が投資終了時の売却の際に利益を出しづらいことが容易に予想できます。それに対して中古物件であれば年2%の市場価格の下落水準であればそれ以上の減価償却が行われていることから、売却時に計算される税務上の取得価格は売却価格よりも下回りやすいことが予想できます。

また、新築の取得価格が比較的高くなっている、ということは利回りも自然と押し下げられていることを意味します。そうなるとローンを借りて取得した場合の利ざやが少なくなる、ということでもあります。そこを嫌がられることを懸念してマスターリース方式で賃料保証的な借り上げ契約をつけるケースが(知人のケースを含めて)あると思うのですが、マスターリースも永遠に同水準の賃料収入が保証されるはずもないですから、当初数年間下駄を穿かされている、と思う方が妥当でしょう。

とはいえ、中古物件は確かにテナントを見つけるのはそう簡単ではないのも事実です。オーナーチェンジ物件で当初からテナントがいる状態で始める方がプランも立てやすいですし、まだ借り手がつかない、なんて結構ストレスに感じるものです。。。

まとめ – と言ってはみたものの

ちなみに、こんな風に不動産市場は下落する、なんて前提で書いていますが、実は、自分の住んでいるアパートの、最近のオンラインでわかる評価額によるとつい二ヶ月前までは取得時の3割減だったのが、つい公示価格が公表されたばかりのところで、20年近く前の取得時の価格の1割減、とだいぶ近づいている上に、知人の不動産会社の社長さんからも今なら取得した時に支払った額程度で売れる、とまで言われたので、本当にオリンピック景気なのかオリンピックバブルなのか、と訝しがってしまいますが、現実としては昭和の頃のような確実な右肩上がりではないので、元本回収というのは長期的なタイミングの問題になる、のは株と変わらないかもしれません。

景気に左右されやすい一方で株との相関はいうほどではないでしょうから、資産の分散という観点ではなんだかんだ言いつつも持っておきたい資産、かもしれませんね。

いやぁ、しかし今まで一番長いと思うくらい長い記事になりました。ここまで頑張って読んでくださったならば本当に感謝です。

[投資のコストと効果] 保険商品の場合 – 積立利率変動型終身保険の場合

あけましておめでとうございます。
本年も当ブログをご愛顧のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、今年から新シリーズを始めてみようかと。。。

前振り(笑)

保険商品って複雑だから。。。

年の瀬押し迫るある日、久しぶりに Prestia 大手町支店に行きました。というのも、長年使って来た ATMカードの磁気が読み取れなくなったようで、ATMで使えなくなったので再発行してもらうことにしたのです。

隠す話ではないのですが、私が社会に出て金融の世界の第一歩を踏み出したのはこの Prestia の元となるシティバンクの、最初はディーリング・デスクのバックオフィス、そこからリスクに異動して、最後の数年はこの大手町支店を含めた個人金融部門で販売されていた投資信託の輸入や事務サポート、販売支援システムの運営などをしていたのがもう16年も昔のことになっていました。

そんな昔話をちょっとしながら、昔のサインを思い出しながら書いたり(苦笑)しながら、当然対応してくれるスタッフさんは間持たせも含めて、保険商品とか不動産ローンとか何かお手伝い出来ないですか、なんて話を振ってくれるので、一応FPでもあるので、保険商品って投信よりもフィーが高いから銀行さんとかのインセンティブになるよね(だから投信を積極的には売って貰えないじゃない?(笑))、とはいえ勉強のために頂きますよ、と最新の取扱商品の資料などをもらって支店を後にしました。

そこで、ふと、思い出したのです。FPとしての目線は世の中にある資産運用・管理のための商品を理解して提案するところにある一方で、金融商品のストラクチャリングを生業としてやっているもう一人の自分の目線には、如何にして商品のフィーを合理的な範囲で下げることが出来るのか、もしくは、どこに(特に法外な)費用負担が潜んでいるのか見つけ出すことにあるのです。としたら、多分そういうそれぞれの商品に掛かる費用を横断的に分析することはFP的には商品提案としては大事だし、商品設計する側から見ても、どこで比較されるのかを理解することで強みを出していけるようになるのでは、と。

ということで、商品投資のステージごとにどんな費用負担が掛るのか、分解して説明していきたいと思います。本来ならばオフショアファンドを取り巻くネタを一貫してここで紹介すべきでしょうけれども、そんなに新しいことがある訳ではないので、それを期待して本ブログに来る人には申し訳ないと思いつつも、そういう商品の選択範囲のひとつとして海外籍のファンドというのがあって、と思ってもらえれば、幸いです。

さて、その第一回目ですが、折角保険商品の資料を頂いたので、それを読み解きながら保険商品って金融庁の森長官がいうように「コストが法外に高い」(笑)と言えるのか見てみたいと思います。(まぁ、彼が高いと言ったのは変額年金保険という投資信託の性質の強い保険商品なのですが、他方で、あのひとことで保険商品全般に高いイメージを作った可能性もあるので検証すべきところかもしれません。)

今回取り上げるのは、せっかく窓口で紹介してもらったこともあるので、こちらの積立利率変動型終身保険と呼ばれる商品にしたいと思います。あ、ちなみに、リンクを張っていることは私がお勧めする、という意味とは限りませんのでご注意を。

商品性をまず確認

さて、この手の商品を考えるにあたって、ざっとどんな経済効果があるのか見てみようと思います。多分に分かりづらいと言われそうですが、概略を説明しているのが、このリンクの先の契約締結前交付書面(契約概要・注意喚起情報)兼商品パンフレットの23ページ目にある商品の概要を追ってみることにしましょう。

保険商品なので、(1) 保険料をある一定の期間払い続けたのち(2) ある一定のライフイベントに基づき保険金が支払われる、というのが一般的ですが、この商品も(1) 「年払込満了」として、10年間もしくは15年間として一定に定められた期間、もしくは「歳払込満了」として、55歳から90歳までの5歳刻みで指定する年齢まで契約開始から継続して保険料を毎年支払い、(2) 被保険者、すなわちこの保険契約の支払い条件として判断基準となる、契約者、契約者の配偶者、もしくは契約者の二親等以内の血族の人が亡くなるか高度障害を負った時に、一定の保険金が支払われる、というものです。と言っても、イメージが湧きづらいでしょうから、13ページから16ページを見ながらイメージをつくってみましょう。

ここで、あなたが46歳男性、だと仮定すると、男性用のページである13ページの左端にある契約年齢が16歳から70歳までを前提にした表ができていますが、この時、46歳の右横にある数値は5,365.20米ドルという記載になっていると思います。この13ページの他の情報からこの保険商品の前提が「男性、年払いを10回、被保険者の死亡もしくは高度障害を負った時の受け取り保険金額 100,000米ドル」となっていることが読み取れることから、そのような条件の保険商品に46歳男性が加入するには、年に1回ごとに5,365.20米ドルを支払い、それを10回支払う必要があって、そうすればこの「合計最大支払額」 53,652.00米ドルに対して、被保険者が死亡したら 100,000米ドルを受け取ることができる、というように解釈できます。

さて、ここで二つほどポイントがあります。一つは、20ページの一番最初に書いてあることなのですが、上記の年払いを10回行う義務を保険契約者は負っているにも関わらず、もしその10回の途中で被保険者が死亡する、もしくは高度障害を負った場合にはそれ以降の保険料の支払いが免除になって保険金を受け取ることになる、ということです。ですので、上記ではあえて「合計支払額」ではなく、「合計最大支払額」と書いたのです。この点が保険商品とその他の金融商品との大きな違い、と言うところかもしれませんし、その分、金融商品的に言うならばオプションを買っている訳ですので、少なくともそのオプション料を保険料の中から支払っていることを理解する必要も出てきます。

ただ、この保険に入るときにその10年以内に死亡する可能性が予見できるから入ることはあまりなく、むしろ次のポイントがメリットとして検討され(またこのパンフレットでも強く前面に押し出されてい)る点でしょう。それは、「払い込まれた保険料の大半」が解約返戻金の原資に当てられているため、例えば13ページの解約返戻金の割合について、常にこの契約の最低保証利率である3%で運用されたとした場合、契約開始後20年で 120.4%となり、解約返戻金が64,597.00米ドルになる、というものです。当然積立利率とこの資料で称している運用利回りが上昇すればこの解約返戻金の割合は上昇し、契約開始後20年で、常に3.5%であれば132.5%、4.0%ならば145.7%になるという計算結果を提示しています。

ここでいくつか気付くべきところがありまして、もしこの保険商品と同じく毎年 5,365.20米ドルを積み立てながら、積み立てたお金を単純に3%で運用していくならば

  1. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.3439倍に
  2. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.3047倍に
  3. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.2667倍に
  4. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.2298倍に
  5. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.1940倍に
  6. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.1592倍に
  7. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.1255倍に
  8. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.0927倍に
  9. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.0609倍に
  10. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.0300倍に

にそれぞれなるので、10年目の終わりの時点では毎年の払い込み額の 11.8077倍、もしくは総払い込み額の 1.18077倍である 63,351.18米ドルになります。 また、そこから 3%で複利運用が行われていくとすれば、その 1.3439倍である 総支払額の 1.5868倍、もしくは 85,138.69米ドルになるはず、ですが、「払い込まれた保険料の大半」が解約返戻金の原資に当てられる、というのは言い換えればその「大半」の残りは前述に述べた保険期間の途中での死亡等の際の保険金支払いのためのオプション料を含めた手数料等で取られている、という意味でもあるのです。

実際、20年間預けた場合のちょっとバラ色な数値を並べた後で見せるのが微妙なのですが、払い込み期間終了後の10年目の終わりの時の解約返戻金、というのが3%の運用の場合には前述の13-14ページにあるように98.3%、3.5%の運用で初めて101.8%、4%で回ったならば 105.4%と、それでも、3%に全額を投資して運用した場合に比べて13%から 20%ポイント弱減ることがわかります。ということは、毎年色々な名目で28ページに記載された費用として控除されているかが気になります。

理論値として費用を逆算することも可能なのですが、実際のところいつどれくらい、ということまでは不可能ではあるものの、年平均として払い込み期間終了時点(保険契約開始後10年間)で 3.22%が、もし払い込み期間終了から10年置いた(保険契約開始後20年間)場合ですと全期間を通じて 毎年預けている額に対して1.75%を費用として取られている計算になります。

このうち、死亡や高度障害のために支払う保険金額の 100,000米ドルのためのオプション料や保険商品の運用のための事務コスト、そして当然に商品を販売した保険代理店(この場合ならばプレスティア/SMBC信託銀行)への販売報酬などが含まれるのですが、上記のように期間が長くなると平均費用が下がるのは、死亡時の支払い保険金額へのオプション料が、年々解約返戻金が増加することにより実際の保険金額が 「100,000米ドル から解約返戻金を引いた差額」となることで下がっていく(ただし死亡率等が一定である前提ですが年々歳を重ねていくので死亡する確率的には上がっていく要素もないわけではない、のですが。。。)ことの恩恵を受けていることが長期になるほど費用が下がる仕組みではないかと予想されます。

いずれにせよこの商品が、20年間の運用期間と定めた場合に、最初に10年間に5,365.20米ドルを毎年払うことで総額53,652.00米ドルの投資に対して、向こう20年間に毎年 1.75%の費用を支払いながら3%の利回りで運用して64,597.00米ドルとなるか、いざという時は100,000米ドルを受け取る、という資金の流れが見えたかと思います。

また、これが運用期間が10年間に縮めると、費用負担が毎年3.22%で最終的な受け取りが52,739.91米ドルと支払った総額より減ってしまうという商品性も分かりました。ただ、この商品は終身商品なので解約はいつでも可能にはなっていますが、商品開始から10年未満での解約や減額の際には解約控除といって解約返戻金から更に手数料相当額(性別や年齢などの条件により定まるためこの時点でいくらになるのか不明、と更に不透明なもの)が控除される、と言う点も注意が必要です。

商品のまわりにある費用やメリットの検証

続いては、商品に内包される費用だけでなく、その周りに付随する費用やメリットについて検討してみたいと思います。

投資開始時

まず、投資する際のコストとして何が掛かるでしょう。一般的な金融商品と異なり、保険商品は投資対象の対価に付け加えた手数料等や不動産のような登記コストなどは発生しません。

とはいえ、もともと米ドル建てでの支払いですので、私たちが日本円で物事を考える以上、外貨預金や仕組み預金の結果等の事情で米ドルをたくさん抱えていない限りは、日本円/米ドルの為替レートによって日本円ベースでの支払額が左右されることになります。今回の商品は10年にわたって同じ米ドルベースでの金額を支払うことから、どうしてもその時々の為替レートの変動でそれぞれの日本円ベースでの支払額は変動しますが、10年掛けて為替レートを分散して米ドルを取得しているという見方もできますので、時と場合によっては、下記にて紹介する全期前納のために一括で米ドルに変えた時より円ベースで総額が少なくなる場合も起こり得ます。

他方で、今回対象としている保険商品のように長期にわたって分割して支払いを行なっていくタイプの場合、資料の11ページにあるように、契約期間が10年以下の場合、支払う総額を全期前納と言って、一括で支払うことが可能です。その場合、例えば3年後に発生する4回目の支払いについては、全期前納で保険会社に「預けた」保険料の一部を支払いに自動的に充当する、という形式を取ることから、保険会社が自ら設定する金利でこの全期前納で預かった保険料を運用した上で保険料に充当することから、全期前納する保険料の総額は、単純に支払い期間に発生する支払い保険料の総額より割り引かれた金額になる、次の「投資期間中」でも触れますが所得税の計算に(減税という形で)影響する生命保険料控除に対しても、保険料の支払いに充当される支払い期間の間は毎年適用することが出来る、というメリットがあります。

しかしながら、保険料として受理されていないので単純な預かり金に過ぎず、また保険約款(保険商品の一般的なお約束を定めた、申し込んだら否応無く適用される契約内容をまとめたもの)により任意に払い戻しを受けることが出来ないのですが、保険会社が破綻したときには、保険契約が消滅した場合、又は将来の保険料の払込みを要しなくなった場合は、全額返却されますので流動性に制限があるということは理解しておく必要があります。しかも、保険会社が破綻したときに保険料払込期間中に未経過部分の前納保険料を引き出す場合は、早期解約控除制度が適用される可能性がありますので。割引率と保険会社の将来の経営の安定性や信用度とを勘案して(もちろん財布の具合とも相談して)全期前納を選択するか、年払いを選択するか考えることになります。

投資期間中

保険商品ですので、途中で保険内容を変更しない限りにおいては保険料の変動が発生することはありませんので、何かしら追加で費用を負担することはありません。

その一方で、「投資開始時」で触れましたが、支払い保険料は払った年の所得税の計算をする際に、生命保険料控除の対象になります。なお、この保険商品は介護保険でも個人年金保険にも該当しないことから、生命保険契約等の適用になりますが、いずれの商品カテゴリーでもそれぞれ年間 80,000円以上の保険料の支払いはいくら支払っても 40,000円の所得控除となり、もし所得税率が20%の人ならば 8,000円の減税に留まることになります。特に生命保険契約等は生命保険契約ならなんでも適用されがちですので、もし既にこの他の生命保険契約による生命保険料控除を受けているならば当然にその減税メリットはさらに限定され、もしくは全くメリットを享受することができない可能性があることになります。

とはいうものの、減税効果は実質の投資金額の減少にもなるのでないよりはあったほうがお得なのは言うまでもありません。もし仮に前述の前提に従って8,000円の減税効果があったとした場合、年払いで5,365.20米ドル払って 8,000円が戻ってきたとしたら、現在のざっくりレートで1米ドル 115円換算でも、70米ドル弱は帰ってくるので実質負担が 毎年5,295.20米ドルになることから、総額の負担が 52,950.00 米ドルとなり、20年後の早期解約の形で処理した場合20年間3%で運用した成績として 64,597.00米ドルはを回収するとしたら、121.99%と、従来の120.4%とより1.5% ポイント向上することになります。

ちなみに、この計算は、最近はやりの個人型確定拠出型年金をやらないともったいないよ、と言う時に使う計算方法と同じですね。

投資回収時点

やっと、投資が終わって回収するときの話です。これが単純に二つに場合分け出来ればいい話、になればいいのですが。。。

途中解約する場合

元々この商品は終身保険ですので、通常ならば被保険者の死亡もしくは高度障害による保険金の払い出しで終わるのが商品性の意図するところですが、上記で散々書いた通り、かなり貯蓄性の高い商品ですので、被保険者に何かが起こる前に現金化することで運用結果を享受することが意図されて作られていると言ってもいいでしょう。実際、上記でも20年経って解約する場合、と10年で解約する場合、と盛んに計算していますので。。。

では、その場合にどんなコスト等が発生するか見てみましょう。まず、10年を超えた保険契約期間ならば解約手数料相当額を払う必要がないのがこの商品でした。また保険商品ですので、入り口同様特段何か手数料や不動産のような登記コストなどを負担することもありません。

としたら、10年間を最低利回りである3%で運用されていた場合、支払い総額の53,652.00米ドルに対して受取額は52,739.91米ドルになりますので、米ドルで見ると912.09米ドルほど目減りしていますので投資としては損が出たことになります。20年置いた場合には、支払い総額の53,652.00米ドルに対して受取額は64,597.00米ドルになりますので、米ドルで見ると10,945.00米ドルほど増えていますので投資としては利益が出たことになります。

ですが、日本円で考える以上、日本円ベースで損益を計算する必要が出てきます。何故かって?それは所得税の為です。はい、日本にいる以上所得が発生したら所得税の納税義務が課せられます。残念ながら、日本において世の中で一番高い取引コストはこの所得税とそれに関連する住民税です。

では、どうやって円ベースで計算するかというと、毎年の保険料の支払いの際の日本円相当額の合計と、解約返戻金の解約効力発生日におけるTTM(対顧客電信売買相場仲値)の差額で損益を計算せねばならない、のです。解約返戻金の円評価額は単純な掛け算で済むからいいですが、毎年の保険料の支払いはどうでしょう。年払いの場合ですと、過去10回のそれぞれの支払いの際の米ドルを調達した際の為替レートと円で支払った額を全部記録しておく必要があります。もし全期前納した場合は、前納した米ドルの円価相当額を記憶しておきましょう。もし遠い昔の外貨預金や仕組み預金で調達した米ドルを使うならば。。。その当時の米ドルに換えたときのレートで計算してください。外貨投資ってめんどうなのはこれなんですよね。。。

10年で回収する場合、米ドルベースで2%弱の損失ですから、案外円ベースで考えると勝ってしまっているケースもあり得ると思います。20年で回収する場合には米ドルベースで20%以上の利益ですのでさすがに円ベースで負けることは過去10年の円安基調を考えると想定しづらいと思います。

さて、損益が出ましたか?損の場合、一時所得は損失となります。この場合、もし同じ年に他の保険商品の解約などで収益が出たならばそれと合算することで納税対象額を減らすことが出来ますが、そこまで。一応、競馬や懸賞、福引の当選金と合算することは出来ますが、例えば不動産で得た収益(不動産所得や譲渡所得)や給与所得、為替で稼いだ利益(雑所得)などとの合算が出来ません。当然、不動産の譲渡損や、株や債券のように、損失を数年先まで繰越すことも出来ません。

では、利益が出た場合を考えましょう。他の保険商品からの利益などの合算の結果、最終的に利益が出た場合は、その額から最大50万円の特別控除金を差し引いて、それでもまだ利益があるならば、その1/2が所得税の課税対象となって、他の給与所得と合算して累進課税の対象となります。まぁ、利益から50万円さっぴいて、更にその1/2が課税対象なので、今後見ていく株や債券、不動産から見ればかなり優遇されていることになります。例えば、最終利益が30万円だったならば課税されない、ということですし、仮に保険期間の間ずっと為替レートが変わらず1米ドル100円だったと仮定して20年運用した結果は、109万4500円が利益に相当しますので、課税対象は

109万4500円 - 50万円 = 59万4500円

からその半額の29万4500円となり、所得税を20%と仮定するならば58,900円、と利益の5.4%程度に収まる計算になります。有価証券の譲渡益に対する20%課税より全然いいですよね。

余談ですが、なぜ、最大50万円かというと、もし最終利益が30万円だったならば、控除できる額が30万円しかない、と考えるからです。これがもし最終利益が100万円だったならば、最大の50万円を控除してもまだ50万円利益が残りますので最大額を使い切るケースになるのです。

保険金を受け取る時

結構がりがりと計算したりしたので、終わったつもりになっていますし、ここまで読み返すとそれだけも十分飽きるくらいの文章量になってきましたが、このケースもFP的には忘れてはいけないポイントです。というのも、前述のある意味投資目的の使い道が現役世代のための長期投資のツールになる一方で、相続を考えねばならない人たちにとって保険商品はこのケースでの、特に税務上の取り扱いが資産承継の大事なカギを握るからです。

といっても、資料の39ページを見ると分かるように、
契約者:本人 / 被保険者:配偶者 / 死亡保険金受取人:本人
ですと、前述の途中解約の場合と何ら変わりはなく受け取った保険金は一時所得の課税となるので、先ほどの税負担も併せて考えると、これのお陰で保険金殺人事件がなくならない、のかもしれません(苦笑)

とはいえ、これも、例えば、年間110万円の贈与税控除枠を使って向こう10年間、子や孫に60万円ずつ渡してそれでこの保険に被保険者を自分にして加入させることで、資産運用をしながら自分の死亡時に子孫の受取額を大きくする、という戦略に使うことはパンフレットの売り文句にあるようにいい使い道と言えるでしょう。

では、それ以外のまっとうなケースを考えてみましょう。例えば
契約者:本人 / 被保険者:本人 / 死亡保険金受取人:配偶者もしくは子

この場合、税務上の取り扱いは受け取った配偶者もしくは子の相続税としての課税対象になります。この場合、米ドルで受け取るので円価で評価する必要がありますが、その時はTTB(対顧客電信買相場)といって、もしわかりやすく言うならば為替レートが提示されたときの自分にとって安い方(例えば、TTMが100円で、手数料が1円と言われたら、TTBは99円、TTSは101円)になるのですが、この場合TTBで評価してもらえるのは課税対象額を小さくしてくれるという意味ではお得ですね。
また、相続の場合そもそも課税評価額の計算とかそれぞれの相続人に対する課税額の計算が複雑なところ、生命保険金に対する控除の方法はちょっと特殊で、

死亡保険金の総額に対して「500万円に法定相続人の数を掛けた額」を控除した残りが相続税の課税対象となり、個々の相続人への控除額は全ての相続人が受け取った保険金総額に対する自分が受け取った保険金の額の割合分だけ、上記の死亡保険金の控除総額が割り当てられるという計算になっています。ね?概念だけで説明するとめんどうでしょ?(苦笑)

とはいえ、ある程度の資産が見えているならば相続する額と相続税がある程度算出することが可能(というか、しておきましょうね)なので、その相続税の資金負担のために死亡保険金を使えるようにしてあげる、というプランを立てるのも大事です。あ、そうそう、死亡時に銀行口座は凍結されるので相続税の支払いにあてこむのは難しい一方で死亡保険金は直接相続人に振り込まれますので自由に使える、という保険ならではのメリットもあるのです。

あと、最後のケースも考えましょう。
契約者:本人 / 被保険者:配偶者 / 死亡保険金受取人:子

これも、ある意味配偶者の死亡時の資産移転や相続税の支払い対策に使える形ですが、この場合は資産移転が本人から子に行くため相続税対象ではなく贈与税の対象になります。ある意味一番税率の高いカテゴリーですが、他方で、相続時精算課税を使えば(そのためには親は65才以上、子供は20才以上で、予め税務署に届け出ておく必要がありますが)、届け出後親の相続開始までの間の資産の贈与に対してその時々においては総額2500万円までは無税、それ以上は一律20%の課税、そして相続時に生前贈与したという計算に基づき相続額を再計算して税額の精算をすることになります。この保険商品のベンチマークとして使っている死亡保険料が100,000米ドルなので、これだけならば相続時精算課税の枠内で収まる、と考えることが出来ます。

もし、相続時精算課税を使わないで暦年の110万円の控除額だけを使う場合、為替レートを1米ドル100円とすると。。。一番高い、子供が未成年の場合(一般贈与財産用)

(1,000万円 – 110万円) x 40% – 125万円 = 231万円

子供が成人の場合(特例贈与財産用)でも

(1,000万円 – 110万円) x 30% – 90万円 = 177万円

と、17%から23%の税負担を強いられることになります。とはいえ、支払い総額の53,652.00米ドルですから、それ以上の資産の移転が可能になることが分かります。

まとめ

さて、こうやってあれこれつらつらと書いてみましたが。。。保険商品って一般的な金融商品と似て非なるところが多いと感じることが多かった、というのが実際に手を動かしてみて感じたことです。特に最後の贈与のケースでの税引き後ですら単純な資産移転以上の効果がある、と思うと、費用が高いと揶揄される保険商品を回避して自分で3%以上の利回りの商品に投資する以上の意味が費用の支払う対価として評価する必要があるのかもしれません。

さて、こんな感じでいろいろな商品を評価していきたいと思います。
時間はかかると思います。でも、お付き合い頂ければ幸いです。

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