海外に銀行口座、持つのはメリット?デメリット? – 今時のオフショア投資の拠点はどこがベスト?

お気付きのことと思いますが、このところ既に連載中止が決まったものの、Soldieで掲載されることを前提としたネタ選びをして書いておりますが、他方で、2,000文字の制限を本気で守る気があるのか?というくらいの情報量で毎回書いているのもばればれでして、おかげさまで、現在鋭意文章をがっつり書いては削るという作業に終始しております。

オフショアのイメージか、バカンスか実際のところ、簡便で分かりやすいコンテンツにしようと思った時に、最初にできるだけ書けるところまで書いて、そこからどれだけ省けるか、もしくは冗長的なところがないか、という自分の脳内整理をしているような感じではあるものの、おかげさまで、最初の稿として書いているこのブログの記事を読まされる皆様はきっと長すぎてたまったものじゃない、できればどこかで切って二部構成とかにしてよ、と思っていると察しますが。。。ごめんなさい。てんこ盛りが信条の私、引き続きおつきあいくださいませ。

さて、海外に銀行口座を持つ、というのは、色々な海外資産への投資をしたい人にとってはやってみたいことであり、また投資の第一歩、でもあるのですが、他方で、今時のCRS/FATCA の影響を受けて非居住者口座の開設には結構困難がつきまとう、というのも現実としてあります。そこで、海外に銀行口座をもつメリット、デメリットを考えながら、それでも海外に銀行口座を持って投資をするならばどこがいいのか、という話を筆者の経験を踏まえてお話ししていこうかと思います。

なお、今回の記事の前提として、私と同じ、日本に永住している日本国籍の人、というのがありますので、例えば、シンガポール(でも、香港でも、マレーシアでも、どこでもいいですが日本以外)に永住権があって今も日本国外に住んでいる日本国籍の人、とか、日本語が読み書きできてなぜかこんなブログを読んでいるアメリカ国籍だけど日本に住んでいる人、というのはまた話が変わってくるのでご注意を。

海外に銀行口座を持つ、その前に忘れないでおきたいこと

さて、海外投資の冒険の始まり、と思いきや、そもそも海外に資産を保有することに関するいくつか大事なことをお話しておくべき、と思います。

まず、一つ目に、海外で発生するいかなる所得はちゃんと所得税の申告をしなければいけない、ということです。

結構勘違いされることなのですが、日本国籍で日本に住所のある、いわゆる日本の居住者については、その個人の所得税の課税対象は世界中で発生した所得です。よく日本から離れて住む非居住者の方の話として、非居住者だから日本国外で発生した所得については日本国内に納税義務がない、という話があることから、その逆パターンとして、居住者だから、国内の所得にのみ課税権が及ぶ、と思いがち、です。ですが、このブログの読者の大半である(だから、日本の外に住んでいる人が読んでいるのも知ってますからねー)日本に住み、生活しているあなた、まずはここを基本として読み進めてくださいね。

多分直感的にわかる実例

でも、例えば、日本の証券会社に口座を持って、ニューヨークの株式市場(NYSEやNASDAQ)で取引されている米国株の取引をしている場合、その取引自体はアメリカ国内で起こっていますが、米国内では米国の非居住者ということからそのキャピタルゲイン課税はなく、日本の居住者としての有価証券の譲渡に伴う課税は発生することになるのです。しかも、2017年からは外国証券取引についてもいわゆる特定口座のルールが適用されるので、取得時と売却時の円建てでの売買価格を自分で記録しておかなくとも、証券会社のシステムで計算され(源泉徴収すらされ、時には通年で見たら源泉徴収しすぎていたあら返金までされ)て、年明けの確定申告での提出も簡便化される、というのが現状です。

そう考えると、これがアメリカ国内に個人の銀行口座(と証券口座)を持って同じ取引を行なったとしても同じ課税関係にある、ということは想像にかたくないです。言い換えるならば、課税・非課税を考えるのは口座の所在地ではなく、取引の成立した場所、と口座の所有者の納税地の二つで考える、ということです(ただし、取引の成立した場所に関して言えば、口座を管理する銀行やブローカーがその口座の所有者が米国の非居住者であると認知して、それに対応する税務処理を行えば、という前提です。これはCRS/FATCAの話に絡むので後ほど改めて解説しましょう)。で、日本は所得の発生場所が全世界で見ている、ということなので日本の居住者である限りはアメリカで稼ごうが、日本で稼ごうが、東南アジアの片隅でこっそり稼ごうが、稼ぎは全て申告して納税せねばならない、のです。

そう考えると、例えば日本から取引可能な外国株、例えば米国株や中国株、シンガポール株、あるいは、証券会社が限定されるものの、ベトナム株や中東株のようなマイナーな市場であっても、については、楽天証券やSBI証券、マネックス証券のような大手オンライン証券であれば特定口座を通じて取引可能ならば税務の面で、現地に口座を開けずに国内からアクセスした方が楽、とは言えます。じゃあ、外国株式を取引するならば海外に口座を開けなくてもいいじゃないか、と思えてきますが、そうとも言えないのです。

現地だから出来ること – 日本では出来ないこと

海外に口座を開けることで出来る取引の醍醐味は、日本では出来ないことが出来る、という所にあります。

前述の外国株に関して言えば日本の大手オンライン証券で十分に思えてきますが、実は三社を集めたところで出来る市場というのは

  • SBI証券:米国株(海外ETFを含む)、中国株、韓国株、ロシア株、ベトナム株、インドネシア株、シンガポール株、タイ株、マレーシア株
  • マネックス証券:米国株(海外ETFを含む)、中国株
  • 楽天証券:米国株(海外ETFを含む)、中国株(香港と上海A株)、シンガポール株、タイ株、マレーシア株、インドネシア株

ですので、例えば欧州株や豪州、新興国株式の預託証券(DR: Depository Receipt)の取引については大和証券やSMBC 日興証券、みずほ証券や三菱UFJモルガン・スタンレー証券のような大手証券会社にいくことになります。

また、フィリピン株やイスラエル株になるとさらに限定的になってアイザワ証券くらい。

どうですか?自分が取引したい国がありましたか?あってもまだ安心できません。なぜかって?それは、証券会社で国として取引可能であっても銘柄として取り扱っていない銘柄がある場合があるからです。事情は色々あるようですが、株式市場へのアクセスが証券会社として確保されていても取り扱えない銘柄があるとそれは買いたくても買えない、のです。

例えば、S-REITと呼ばれるシンガポール版のREIT (不動産ファンド)。これは非居住者個人では取得不可、のようなので、仮にシンガポール証券所での取引のある証券会社ですらS-REITを扱うことができないようなのです。

例えば、今流行りのETF。このところの国内投信の月次ベースでのファンドへの流入額のランキングで必ずトップになっているのがETFですが、国内で投資可能な銘柄数、というとこれを書いている2017年の6月現在で国内もので163、外国もので47の計210銘柄(日本取引所グループ調べ)。これだけあれば世界中のETFを全部カバーしているのでは?と思えそうですが、ETFの発行体が異なると同じ指数(例えばNikkei 225とかTOPIXとか JPX日経400とか)のETFを作るので、重複したものがいくつも存在することになります。それに対して、ETFの大手、iSharesを例にとると、世界中で700以上のETFを上場しているそうですが、本国であるアメリカではそのうちの337にしかアクセスができないのです。なぜかって?日本の場合、海外ものを国内に持ち込もうとする場合には、マーケットメイクをしてくれる(ということは、ETF業界で結構問題になっている「流動性」を提供してくれる)証券会社を2社確保しなければいけなかったり、あまり売れなくとも継続的な届出の費用を負担しなければいけなかったり、など、費用対効果の面でワークしないと判断されるケースが多いから、でしょう。

じゃあ、質問です(って、どこかの芸人さんのフレーズ?いえいえ)。
国内でアクセスできないけど投資したい銘柄があるときはどうしたらいいのでしょーかっ。(だから、意識してないって。)

現地の証券会社に口座を開いて投資するしかない、としか言いようがないのです。
その代わり、特定口座のメリットを享受することは出来ず、超手間のかかる一般口座での確定申告と、そのための円換算の手間が待っているのです。

まだある、覚えておいてほしいこと

実は、まだ、大きなポイントの一つ目でしかなかったのですよ(苦笑)

では二つ目は、というと、海外での契約締結が違法性を問われる可能性があるものが存在する、ということです。

結構怖い表現を使っていますが、どういうことかと実例を挙げていうならば、保険商品のことです。以前、海外で販売されている保険商品を日本に持ち込みたいんだけど、という相談を受けた時の記事に書いたのがこんなこと。

これの問題点は、保険料の払込期間の生命保険保険料控除の適用外であること、以上に、そもそも海外の生命保険を日本の居住者が旅行先に行ったついでに加入したといって入ることの保険法上の問題があります。保険法では海外の保険会社が日本に参入するには国内拠点の設置を義務付けています。となると、非居住者は現地の法律の適用を受けるからよしとしても、旅行先にいい運用商品があるといって買うことの合法性のリスクを海外の保険会社が負うのか(と言っても、日本の金融当局の監視外の企業ですので何もできませんが)、旅行者が罰せられるのか(罰するってどういうこと?保険業を営むわけでないので法律を知っているとは限らない訳ですし)、ということでなんか扱いが微妙なのです。この点は実はもう少し整理したいところではあるのですが、少なくとも保険代理店のような仲介をしたら確実に怒られそうなのは分かるのですが。。。

もしちょっとだけ細かく書くならば、保険業法の第186条というのが外国の保険会社と日本の居住者との関わり合いを規定している条文なのですが、

第186条(日本に支店等を設けない外国保険業者等)

  1. 日本に支店等を設けない外国保険業者は、日本に住所若しくは居所を有する人若しくは日本に所在する財産又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に係る保険契約(政令で定める保険契約を除く。次項において同じ。)を締結してはならない。ただし、同項の許可に係る保険契約については、この限りでない。
  2. 日本に支店等を設けない外国保険業者に対して日本に住所若しくは居所を有する人若しくは日本に所在する財産又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に係る保険契約の申込みをしようとする者は、当該申込みを行う時までに、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣の許可を受けなければならない。

により、1項は外国の保険業社さんは日本で営業したかったらちゃんと支店を出しなさいね、という方針が示されている一方で2項により、もし日本に住んでいるあなたが国内に支店を有しない保険業社さんの保険商品を買うならば、あなたが内閣総理大臣から許可を受けなさいね、という流れを示されているのです。

でも、これ、国内法です。海外の人は基本知らないと思っていいです(まぁ、日本の外で散々保険商品を海外に来た日本人に売りさばいた人は知っているはず、ではありますが。。。)し、日本にいないのですから処罰することが出来ません。となると、お咎めの対象は2項に基づいて国内居住者に向かいます。ちなみに、これの罰則は第337条によって、50万円までの過料だそうです。
ということは、海外に旅行中に向こうで保険商品を買うと罰せられちゃう、というのが論理的な結論になります。と言って、今のところそれで過料を払わされた話は聞いたことはありませんが、某所で匿名で聞いた(ので本当は口外してはいけないと言われているのですが)ところによると、これについてはかかる保険商品の国外販売によるトラブルがあとを立たない(そりゃそうです、元々保険商品のアフターケアは国内生保でもあれこれ問題があったくらいですから、国内代理店がないのに複雑で日本語ではない契約書で締結した外もの保険商品なら起きても不思議ではないですよね。。。)ことから、その関係する外国企業複数と金融監督官庁との間の調整がだいぶ進んでいるので早晩決着がつく、とも言われています。そうなると、一網打尽、となるか、それとも。。。
とはいえ、日本では終身保険や年金保険が一般的であることから、最近になって海外で売られているような貯蓄目的の保険商品が国内で売られるようになったりしたものの、まだ、海外での保険商品が魅力的に見えるものは数多くあるのは事実です。

fly-and-buy は保険だけじゃない – ヘッジファンドを買いにちょっと豪華旅行でも

さて、この手の、日本人が海外旅行のついでに海外の保険商品を買う(もしくは、そのついでを装わせるべく、海外に保険商品を買いに行くツアーを企画して参加させる)ケース(こういうのをfly-and-buyというそうです)、というのは、保険商品だけではないのです。

知人が一時期勤めていた某世界最大級のCTA(コモディティ・トレーディング・アドバイザー)の運営しているファンド商品を含む複数のヘッジファンドを、日本の富裕層個人投資家に販売するために、シンガポールの超一流ホテル、Fullerton Hotel に宿泊して、そこのバンケットルームでの豪華な食事付きのセミナーに参加して、日本国外だから、ということで募集行為を行う、という旅行を企画して参加者を募っていた、という業者が(某ナンチャラとかいうプライベートバンクのふりした輩含めて)複数いるのはこの業界だと有名な話でして、他方で、こういう人たちの言い分としては

「日本の金融行政は海外籍のファンドの販売に厳しすぎる。要求されるライセンスは取得に時間はかかるし維持コストも掛かりすぎる。これでは国内の投資家の投資ニーズに合わない。(だから助言ライセンスで投資家の申し込みの手伝いをする、イギリスでいうところのIFA –  individual financial adviserをやっているんだ(注:助言でこれをやるのは違法です。))」

なんて言っています。けど、(金商法63条適格機関投資家特例を使って個人にファンドを売ろうとしている連中も含めてだけど)お前ら売るだけで、売ったあとちゃんと正しくフォローしてるか?出来るか?一人も消◯者庁に駆け込ませないように出来るか?というか、そういうのが多いから規制のハードルが上がるんだって。

とはいえ、確かに fly-and-buyで投資信託商品を買う、というのは前述の上場株式や上場ファンドのような現地での開示内容よりも少ない開示内容で行われ、また、特に富裕層個人向けに紹介されるようなプロ向けの私募ファンド、になると、コストを下げるために開示頻度も低かったり(本当はそれでもやるべきなんですよ、今は21世紀なんだし)と、さもすれば詐欺まがいにすら見えるものだってありますから、本当は日本の金融監督官庁としては国民を守り自らに苦情が来ないようにするために、この辺りのやばそうなものには投資しないようにしたい、という希望はあるはず、ですが、なにぶん海外で起きていることですからね。。。投資するなら自分の責任でちゃんと安心出来るまで調べられるか、ゼロになってもいいものだけにしろよ、ときっと思っているでしょうね。

実際、最近のヘッジファンドなどの目論見書を見ていると、保険商品で日本人が海外で契約しようとすると違法性を孕むことと同じことを想定しているのか

「本目論見書を入手し、またその上で投資の申し込みをすることにより違法となる場合にはかかる国や地域における居住者の投資を拒否することができる。」

という文言が結構あちこちで入り始めています。とはいえ、日本にある投資信託で満足できない、という気持ちはまぁ、わからないでもないですよね。投資戦略に偏りがありますから。例えばスリランカの株式ファンドとかマレーシアのESGファンドに投資したい、と思っても、多分今、ほぼ出来ませんから。。。

その他、海外でしか出来ない投資といえば。。。

まぁ、不動産投資、ですよね。現地のアパートから、コンドミニアムあたりを買って賃貸に出して、定期的な収入を得つつ、日本の税制の想定を超えるような耐久性を武器に税務のメリットすら追求したい(確か、テキサスの木造家屋の案件は、そのいい例だったはず。湿気の多い
日本の木造住宅の減価償却は22年ですが、テキサスの木造家屋だと耐用年数が全然長いことから、築25年くらいのものを取得して、日本の減価償却として4年(=22×0.2)で建物部分を加速度的に償却可能、というのがあちこち吹聴されていますね。)、と思う人もいると思います。この場合は当然がっつり日本の税法に基づく確定申告が必要になりますし、その際には前述のような円換算を全てにおいてやらねばならなくなりますが。。。
それとか、フィリピンだと不動産の外国人保有規制があるため現地パートナーを持って、そいつ名義で取得・保有させる、なんてやってたりしますしね。(この場合、国内での税務申告ってどうなるんだろう。形式上このパートナーと匿名組合契約を結んだことにするのかしら。。。)いずれにしたって、これらをやろうとしたら賃料の回収もあるので現地銀行が必要になりそうですよね。

じゃあ、どこでどう銀行口座を開くのがいいの?

で、どこでどの銀行を開くのがいいのでしょうか。

個人的には香港のHSBCが日本から近いし、その後の海外展開という意味でも Premier 口座を開けるのがお勧め、ではありますが、CRS/FATCA 以前から香港の銀行はHSBCだけでなくCitibank も日本の旅行者による銀行口座の開設に後ろ向きになっている、というのを聞いています。多分当局からの要請があったのでしょうね。

ちなみに、同じアジアのオフショア、シンガポールは、というと、島自体が裕福になっているからか、口座維持の額のレベルがちょっと高すぎる感じがします。HSBCならばPremier 繋がりならばまだいいのですが、シティバンクだと3,000万円相当以上、仮に日本の旧シティバンクのゴールド口座のホルダーだと言っても免除されません。とはいえ、まだアジアはいい方でしょう。多分パスポートの原本を見せつつ、utility billing の英訳を持って行くことで自分の自宅の所在地の証明をすることで済むか、念のため、すでにその銀行に取引のある人に紹介してもらっていくか、することでなんとか頑張れるとは思います。

問題はヨーロッパ。多分に、ジャージーでも今ではうるさいはずです。ヨーロッパにおいては銀行取引は信用取引ですので、誰かさんの紹介状が必要になるのは間違い無いでしょう。その流れがカリブ海の島々ですら起きているのですから。。。

その意味でいうと、実はアメリカは穴場だったり(って、最近行っていないのでなんともいえませんが、自国のFATCAさえ守ればいいだけの人たちですから、元来甘々な身元確認はヨーロッパほどは厳格にはなれないでしょう。。。)

個人的には日本が一番甘い国の一つだと思っていますが(ぼそっ)

口座も開けた後の維持が結構面倒

ちなみに、HSBCの話をすると、シンガポールとベトナムに関しては口座を最後に使ってから1年間何も動かさないと、口座にロックがかかってATMでお金が下ろせなくなります。ロックがかかったら、銀行の窓口に行って解除してもらうことになるのですが。。。。まぁ、面倒です。

もう一つの銀行口座の開設方法 – 法人を作ってしまう

さて、誰かの紹介状を取り付けることが求められるけど、誰もそんな相手の信用しそうな紹介者なんていない、というときにはこの手も考える必要があるかもしれません。それは、現地法人を作ってしまう、のです。

実は、維持コストがそれなりに掛かる一方で、前述の投資に関する細々とした為替などの計算や毎年の確定申告などがほぼ不要になるのです。なぜか、法人名義での契約ですので、個人としての計上が発生せず、利益も会社に留保されたまま、なので株式としての評価額が増えるだけで、実現化するまでは課税されない、のです。

ええ、これが本来のファンドのメリットの一つ、課税の先送り、なのです。いわば、一人ファンドを作っちゃいましょうよ、ということなのです。そうすれば、会社設立を手伝ってくれる現地の会社が銀行も紹介してくれるので、開設も比較的しやすいのです。

とはいえ、これも会社を作って追加投資して、最終的に回収するときに清算しつつ確定申告にも上がるものですので、完璧に逃げられるわけでは無いですし、維持費用を上回るリターンを出さないと維持費が払えなくなる、という面倒もあります。

まとめ

海外投資、儲かりそうだから、というイメージはありますが、個人的あれこれ口座開けて見ましたが、あまり投資せずに財布がわりに使っていたことから、さほどのメリットを享受できなかったように感じています。まさに、

クレジットカードでゴールドより上を持つことでメリットが得られるか?

というのと同じ世界です。とはいえ、国内での限界を感じたら確かに海外の商品を、と思うのも当然です。ただそこは日本の法律や規制で守られていない世界ですので、本当にご注意を。

ハブ・アンド・スポークス – お金と情報は集まるところに集まって力を産む、だからファンドはオフショアに行く

つい先日のこと。とある著名な中小型のプライベート・エクイティを運営されている方に人のご紹介がてらお話を伺うことが出来ました。プライベート・エクイティの運営戦略も今や単純に未公開株を買って上場したところを売る、という単純なものではなく、VCからの延長でそのまま一気に上場させる手伝いをするものや、破綻しかかっている上場株を再生すべくTBOで買い集めて非上場化して会社を綺麗にして、再上場するようなターンアラウンド、私の以前いた会社の母体がそうだったように、企業の一部門を切り出して企業化していく、などなど、色々な戦略というかシナリオで投資をしているのですが、今回お会いさせていただいた方はその一つの事業承継を主軸に行なっている方でした。

となると比較的小ぶり、と言われそうですが、それでも最終的な投資額の目標が150億、実際にはローンを使ったりするので投資する企業価値の合計は300億以上にはなるのではないかと思います。それでも中小型、と日本では呼ばれ、アメリカのPE業界と比較すると、下手をすれば小型どころかマイクロ、とまで言われかねないサイズ感ですが、この彼にとっての今回のチームで最初となるこのファンドには海外の投資家を含めるものの大多数が国内の機関投資家を占めていた、というのです。

実際、関わりを持たせて頂くようになったこの10年を見ていても、日本の大型株のプライベート・エクイティは海外の投資家と国内の投資家とが程よく混ざり合った投資家の顔ぶれが続いていますが、中小型株となると、いくつかの例外を除くとそのファンドの募集する額に対してほぼちょうどか多いくらいに国内の投資家からの資金が入ってくるので、国内スキームと国内投資家とのお付き合いにとどまるケースになってしまっているそうです。そのいくつかの例外、というのは、最初から海外の投資家と国内の投資家とに投資家を分散させて置きたい、という意識を持って投資家回りをして募集している、という準備もあり、また、やはりそれなりにいいパフォーマンスを過去に出して海外の投資家に認知されている、というのもあるとも見られています。

他方で、海外からの国内に投資する際の税務上の規制(いわゆるShinsei Tax:新生銀行に対する海外の投資家による再生プランの一環での株式再上場の際、血税が使われての再生でもあったのことから課税の難しかった海外投資家に対する譲渡利益への源泉徴収義務の強化が、一般的な海外からの国内企業への過半数株式保有の形での投資にまで適用されると解釈されたこと、が、海外からの国内へのPE投資への阻害要件になっていた、とされています。)や、国内スキーム(国内投資有限責任組合スキーム)での会計処理の特異性(IFRSなどは投資対象の時価評価を求めるのに対して、国内スキームでは原則簿価計上)や報告書等の言語、などが海外投資家を日本から遠ざけていた、と言われた時期が長かったともされています。

とすると、国内の中小型株のプライベート・エクイティは国内の投資資金がぐるぐる国内で回っているだけ、という見方をすることができるのですが、それでも、銀行が今や地元の有力企業の株式を保有することで支援することが難しくなった今、国内の機関投資家の資金をハブのごとく集中化して未公開株への投資を通じて事業育成に役立てている、という意味では、ファンドの役割の一つ、お金を大きく集めてまとまった投資を可能とする、ということを実践している証左になるのかと思います。

ハブ・アンド・スポーク – 物流から金融まで、小さなものを大きくまとめて効率よく移転する構図


さて、今更ですが、ハブ・アンド・スポークってご存知、ですよね。ご存知の方は「ファンドがお金のハブとして果たす役割」まで読み飛ばしていただいても良いかと思いますが、そうでない方のために念のための解説をすると、自転車の車輪をこんな風に思い出していただくとわかるかと思いますが、車輪の中心の車軸受けをハブ、そこに向かって車輪から伸びている数々の棒をスポークとそれぞれ呼ばれています。

そこで、外側の輪っかを忘れてもらって、たくさんのスポークの両端の関係だけを想像していただきたいのですが、ある意味ハブにスポークの一端が集中している、と見えますよね。このように、ある種の中央集中型の構造をハブ・アンド・スポーク型と呼ばれているのです(数学のトポロジーの授業と計算機科学の授業を受けたことのある人なら、なんだ、スター型じゃないか、といいそうですが、まぁ、グッとこらえてもらって。。。)。

で、このタイヤ一つだけを見るとどこかの国のような中央集権型システムの構造にしか見えてこないのですが、上記の絵のように二つのタイヤを並べて、ハブ同士を繋いだ構造を想像していただいて、これが物流、例えば飛行機のネットワークに当てはめるとどうなるでしょう。地方空港から成田や関西空港に移動し、そこで乗り換えてアジアやアメリカ、ヨーロッパに移動する、という流れとの類似性が見えてきませんでしょうか。

例えば、二つの国があってそれぞれに首都と衛星都市があるとします。

それぞれの都市が、歴史的繋がりや需要から飛行機を思い思いに飛ばすと。。。

ある意味全て直行便ばかりですが、行きたいところに行こうとしてもいけなかったり、航空会社も飛行機の有効的利用も出来ませんからコストがどうしても高くついてしまいます。そこで、このハブ・アンド・スポーク型の航路の設定をすると。。。

と、ハブとなる首都と衛星都市をむすび、また首都同士を結ぶことで、確かに1回から2回の乗り換えが発生するものの、飛行機は使い回しが聞いたり単純な往復だけですので飛行距離の短い中小型飛行機を当て、首都間は旅客人数が多く見込めることから大型機で運行することでより効率化が測れ(移動コストも次第と下がるだろう状況にな)るのです。

ファンドがお金のハブとして果たす役割

ハブ・アンド・スポーク型の流れとしてのファンドの役割を見て行きましょう。
企業は成長のための増資のための投資家やギリギリの日々を生き延びるために運転資金の調達など、色々な財政状況や事情などで資金調達をしたいと考えていますし、投資家もその投資額の大小からリスクの取り方、投資経験や知識、投資機会の情報の有無、などなど様々です。

もし、この資金の出し手と資金需要との間をつなぐ人がいないと、

互いの情報のミスマッチで投資できない、もしくは資金調達できない、という場合があったり、仮に出来たとしても資金需要に見合った投資を受けられなかったり、もしくは投資できてもおもて向きは安心できるように見えて実は倒産しかかっているところだったため回収の見込みが立たなくなった、などの投資できているけれどもミスマッチ状態が続く、という場合も起こり得るのです。

考えて見るとわかりますが、よく企業を立ち上げて少し経つと古い友達が「一枚噛ませろ」と、50万円程度(いや、程度といってはいけないかもしれませんが)の投資をさせろ、という話を持ちかけてくるケースがありますが、拙著の「外資系企業の簡単な作り方(笑)」に書いた通り、50万円って、資本規制を求められる業種でない限り、スタートアップの会社の事実上の最低資本金、なのですよね。となるとスタートアップで自分の意思で始めた会社の経営権の半分を投機目的(持ちかけた側からすれば信用しているから確実に倍にしてくれ、という都合のいい話)に渡すか、といえば、まぁ、Noですよね。仮に50万円ならそれくらいの会社乗っ取りの話になりそうなものですが、とはいえ株主構成を考えての1万円とか少額を言われると。。。預かった方も何も使えないのが実際ですよね。却って50万円の方が設備投資に回せてビジネスに貢献してくれるかもしれません。

では、この話を上場株投資をする側に回って一気に切り替えたとしても似たような問題は起こります。1万円で株式って何が買えるでしょう。2017年5月9日現在で日本国内の上場株だと、35銘柄は1万円で買えるようです(取引手数料は除く)。とはいえ、ざっと見る限り、監査報告書に事業継続に疑義がついたり上場廃止直前の監視ポスト入りしそうだったりと、まぁ、おっかないものがゴロゴロ。それならば、1万円で買えるETFというのが72ほどあるのでそちらを買う方が分散が効いていていいのかもしれません。

50万円ならどうでしょう。3225銘柄になります。それなりの流動性の見込める大型株も56社入ってきますので、いざという時に逃げられる銘柄を仕込める、かもしれませんし、一発逆転を狙いたい小型株も2,901社ありますから、調べに調べ抜けば夢が叶うかもしれません。でも、50万円で分散を効かせたいと思うと、ポートフォリオ理論に基づいて最低数である20銘柄くらい持たないといけませんが、そうなると一銘柄2.5万円。先ほどの1万円ほど狭くはないですが楽天証券さんのスクリーニングの機能の都合上、ざっくり3万円で見ると、3万円で買える株が204社、大型株としてみずほフィナンシャルホールディングが(そしてこれだけ)、中型でも双日、オリコ、あとガンホーが入ってきます。とはいえ、実際、20銘柄を買い揃える取引コストが高くつきそうですね。楽天証券さんを例にとれば、10万円までの取引で139円(消費税込みで150円)、ですから平均2.5万円を20銘柄で 取引コストが3000円になる計算です。50万円に対して0.6%ですか。保有期間中ずっとコストの掛かる投信よりいい、と思われるかもしれませんが、投資するまでの銘柄選定と売却目標額の設定、実際の投資、そして投資後のモニタリングと投資回収(目標額達成でも、損切りルールに基づくものでも)、ということを日々自分でやり続けなければいけないのです。しかも、もともと204社の投資可能銘柄範囲で満足のいく投資対象が20銘柄出てくるのかどうか。平均して10銘柄の内の1つに投資する、というと結構妥協が入ってくることになります。

株の投資ではなく、貸し付けたとしたらどうでしょう。何もなければ、定期的に元利金を支払ってくれるかもしれません。でも、払わなくなった時にどうやって回収すれば良いでしょう。知人が社長をやっている会社への貸付ならば、社長に直々に談判して支払わせる、なんて出来ますが、それだって相手の会社のキャッシュフローが回っていれば、です。事実、大勢に影響のない利息額すらコストだから何とか出来ないか、と、社長業をすると考えてもおかしくないのです(し、実際にそう言われて「おいおい、誰の入れ知恵だ?そんなふざけた事言った会計士と話しようか?」と押し返したこともあります)。となると、実際、貸付は株より回収の優先順位としては高いものの、それだって毎月の回収の手間は大変なのです。(いや、ほんと、金貸し商売は高利貸しになりますよ。じゃないと回収できなかった時の元本棄損のリスクが高すぎますから。。。)

では直接企業(?)に貸し付けるのではなく、同種の性質を持ちつつ譲渡性のある債券を購入する、としたらどうでしょう。また楽天証券さんにお手伝いいただいて、買えそうな債券を、と思ったのですが、1万円で買えるのは個人向けの国債。FPの試験でも取り上げられる商品ですが、他方で金融の世界の教科書で考えると、国債はリスクプレミアムの乗っていない、ある意味その通貨の中では一番リスクフリー、したがってその国では一番安い金利が付与されている、と考える商品です。個人向け国債は金利の下限として 0.05%が定められていますので、一年で最低でも税引き前で1万円の投資額に対して5円の利息がもらえる計算になります(それに対して20.315%の源泉徴収税が掛かりますので実質3円)。となると、もっと高い金利の商品を探したくなるのですが、楽天証券さんではこの時点で社債の取り扱いが0。大抵取り扱いとして上がっても国債と比較して金利が高いことからあっという間に売れてしまう、というのが実際です。仮にあったとしても最低取引単位が銘柄によって幅があるものの、最低でも50万円は下回らないことから、なかなか取引額の都合で取り組みづらい投資対象、と思えてきます。

そう考えると、残念ながら、金融の世界で50万円の投資というのは結構少額の扱いにならざるを得なくなり、むしろそんな50万円を多くの人から集めて束ねて数億、数十億円にして、それを厳選した投資先に振り分け、監視し、回収する、という一連の投資行為を管理する仕組みにコストを払って委ねた方が、自分の通常の仕事ができていいのでは、と考えることになります(無理やり?(笑))。その仕組みが、ファンド、なのです。


絵的にもハブ・アンド・スポークになったでしょ?実際、冒頭にご紹介したプライベート・エクイティ投資がまさにこの図の通りになっているのです(投資家は50万円を出す個人ではなく、数億円単位の投資をする機関投資家ではあるのですが。。。)。

飛行機の世界に国際線があるようにファンドにだって。。。

私たちは日本にいて、(間接的にお金を預けている銀行や生命保険、年金などを通じて、もしくは)自分の意思で直接に日本に拠点のあるファンドに投資をしていることが多いのですが、でも、そうなると投資対象が日本の株や債券、不動産に限定されてしまいそうです。投資の基本が分散、と言われるならば、投資対象となる国や地域、投資資産も分散した方がいいに決まっています。でも、そのような資産に日本からリサーチして投資判断することは難しいのは想像に難くないですね。

「投資信託に米国株投資ファンドやUS REITファンドとか欧州株ファンドとか、ブラジル国債ファンドとかあるじゃない?」

ええ、おっしゃる通りです。でも、そのようなファンドが日本から直接海外の株や債券、REIT(不動産投資信託)などを買っているのでしょうか。答えとしては、そういうファンドも実際にあるので否定はしないけれども、そればかりではない、のです。

日本の投資家に向けたファンドに多いのが、日本の投資家(もっといえばそのファンドの国内での販売会社)のために設定されるファンドですので、その投資資金だけで100億から1000億円単位になるため、単独で投資対象を得意分野とする現地の運用会社のアドバイスを受けながら直接投資を行うことが可能になっていたケースが多かったのです。とはいえ、そのためにはそれぞれのファンドを設定するために投資対象の国と日本との間の租税条約やそれに基づくキャピタルゲイン税(源泉徴収税)の取り扱いを調べ、外国人としての投資規制を理解し、現地の証券取引の実務と日本におけるファンドの実務とのギャップを調べて出来るだけ日本ルールに合わせるような方法論を編み出し、ということを繰り返してきたのです。

とはいえ、これでは複数の国に向けてのファンドの設定となると同じ調査を一から繰り返すことになり、またそれぞれファンドの運用期間中の税制変更の監視や変更の際の対応についての協議・検討を行うことになるので、実際のファンド運営はかなりの手間が生じることになります。なかなか非効率ですよね。

そこで、海外の大手運用会社などが一般に行うこと、として、世界中の投資家が等しく入れるような税制的に中立な場所であるオフショアにファンドを設定して、そこから投資対象の国への投資を行う、という仕組みです。これにより、多くの投資家が経験している自国からオフショアへの投資にかかる税務と実務の負担を投資家が負い、オフショアから投資対象国での投資行為に関する税務や実務の負担をファンドとその運用者が負う、という役割の線引きを置くことで、ファンド設立や運営にかかるコストを集約化することにより下げ、また、一般的な投資ファンドの設立国であるオフショアへの投資ならば一般的な投資家が経験して理解を持っているはずなので、通常の投資と同じく、特段の負担を強いることはないようにしているのです。こうすることで、より多くの投資家からの投資資金を集める素地、すなわちより多くの国で同じ戦略の投資商品を販売するための土台が出来るのです。

前者はより単発の直行便であるチャーター便的な発想(個別の投資家の要望に寄り添った形)で作られていますし、後者はよりハブ・アンド・スポークを使った定期便的な発想(世界中の多くの投資家の要望の最大公約数を満たすような形)になっている、とも言えるでしょう。こういうと、日本発のファンド商品が従来までは特に、リテール向け商品ですら比較的大きなサイズでのファンドの設定が出来たことを武器に日本の商習慣に合致する商品を作れてこれたのがわかるかと思います。

最近見られる傾向は?

ヘッジファンドの全投資額に関する統計によれば、2016年にはリーマンショック直前の2007年の全投資額を上回った、ということが示されていたと記憶していますが、2007年当時と比べて投資家層がより機関投資家や年金、そしてファミリーオフィスのような機関投資家化した富裕層に入れ替わってきていることから、ファンドの運営体制もより企業的であることを求められており、そのためより効率的で多くの実績のあるオフショアでのフラッグシップファンドでの投資資金の一元化と投資家の所在国に向けての入り口となるファンド(フィーダーファンド)の構造を求められるようになってきています。実際に、それが増加していることからケイマン諸島ではマスターファンド規制が2013年から導入されています。その意味で世界的に投資資金がハブの機能を果たすオフショアに一旦流れ込み、投資先となる世界中に、運用者の意思に基づく振る舞いをしながら動いている、という流れは今後も続くのだと思います。

[投資のコストと効果] 不動産投資の場合

家、自分で住む?それとも貸す投資をする?
前回の保険商品の分析、読んでいただけたでしょうか。あれ、結構細かいので最後まで読むのが疲れたかと思いますが、他方で面白い結果も出て来て個人的にはやってよかったかな、と自己満足しています。 で、同じことを他の商品でもやろう、と思った時に、実はきっちりやりたかった投資商品があるんです。それは不動産投資。それにはこんな理由があるのです。。。

「新築マンション投資を勧められたのだけど。。。」

それはとある日のことでした。facebook メッセンジャーに古くからの友人からのそんな一言が届いたのです。もううん十年の知り合いでもあり、このところ年に一度か二度は顔をあわせる家族ぐるみのお付き合いをさせていただいていたので、ある程度の財政的なイメージを作りつつ、この個人的には絶対に手を出したくない投資商品についてセールスマンに熱く語られた熱をそのまま伝えてくる言葉の羅列を見ながら、どんなアドバイスをすべきなのか、頭を抱えたのでした。 最終的なアドバイスについては、このエクセサイズをした後でも変わらないと思うので最後にご紹介するとして、まずは前回の保険商品と同じく、これが投資商品である、という資金の動きについて追いかけていきたいと思います。

不動産って投資なの?

この「投資商品」の分析を始める前に、もしかしたら、不動産を購入し、住み、売却して転居する、という「自家用」の不動産のみが念頭にある方もいらっしゃるかもしれませんが、不動産を購入・保有・売却するのは前述の自分使い用の「自家用」と、賃貸で暮らしている人ならば必ずお世話になる大家さんが不動産を保有して貸し出す、自家用ではない場合には「賃貸目的」の二つが大きくあると言うのがこのお話のスタートポイントになります。そして、賃貸目的は貸すことで収益を上げていくわけですので実はこれが「投資目的保有」の不動産とほぼ同義であることもすぐにわかっていただけるかと思います。

じゃあ、自家用不動産は投資じゃないの?

ちょっと余談に入りますが、自分で住むための不動産はそれ自身から当然収入を発生させることはないですので、一般に言われる不動産投資、と言う観点から見れば違う、となります。でも、個人の資産を考えた場合、自家用も自分で保有する限りはその資産の一部ですので当然に相続の対象になりますし、何よりも自分の資産の大きい部分を占める資産であることから売却して次の家を取得するときの頭金の原資にもなる、と思えば株や債券ほどの動きはないものの、その資産評価はその時々の社会環境や周辺の利便性などの状況に応じて変化すること資産であり、また、場合によっては賃貸に出せることで投資資産に変わることすらあります。そして、毎月の家賃を払わないでいい、という自分のお財布への影響もあります。そう考えると選び方一つで自分の資産に大きく影響をすることを考えると、キャッシュフローが入口と出口しかないもののその差額が損益になる以上これも広い意味で投資、と見なす事ができます。今回の話のターゲットは投資対象としての不動産の話ですので、居住用の不動産とその他目的の不動産とで税制上の取り扱いも違います。その辺りの違いについてもちょこちょこ解説できればとは思います。

商品性をまず確認

前回の保険商品と同じフォーマットで、不動産をまず資金の流れという側面でまず分析することで、投資商品性について確認してみたいと思います。 例えば、自宅の折り込み広告などで新築のマンションから中古まで、不動産の売り物の情報を目にすることは多分に皆さんあろうかと思います。その時に書いてある情報として、物件の概要、例えばどこにあるのか(駅から歩いてどれくらいの時間で着くか、という目安も含めて)、マンションなら何階建ての建物の何階にあるのか、間取りを示す図面、水道、電気、ガスと言ったライフラインがどこが供給するか、管理人さんがどこの会社で常駐なのか通いなのか、この物件はこの投函してきた不動産会社の仲介物件か、売主として売っているのか、という情報以上に一番最初に目につくのがその不動産の売値ですね。あと、気にして欲しいのが月々掛かる修繕積立金と管理費用です。これだけで少なくとも買う時にこの売値を払わないと買えないし、自分で住もうが人に貸そうがこの月々の修繕積立金と管理費用を支払わねばならない、ということが理解できると思います。 でも、実際のところどれくらい掛かるものなのでしょうか。

不動産取得時

不動産を購入するとき、物件紹介にある金額だけを相手に渡せば物件が取得できる、はずもなく、それぞれの事情で次のような費用が掛かります。
  • 不動産仲介手数料 – 不動産会社さんが物件売買の仲介をしてくれた手数料を払う必要があります。金額は一般的な物件売買ならば普通に400万円を超えるので、売買価格の 3% に 60,000円を足した額(に消費税)
  • 不動産登録免許税 – 不動産を取得したら、その所有権を第三者に主張するために登記所に登録してもらう必要があります。なんで登記なんてするの、と思う人もいるかもしれませんが、ざっくり言うならば民法的には自分で住んだり賃貸借で第三者に住まわせることで自分の所有権を主張することは出来ますが、これは売ってくれた相手にだけしか効果がありませんので、その他の人たちにも自分の物だと主張するためには登記をしないといけない、と思ってください。ちなみに、しなくてもいい、ことにはなっていますが、登記しないでおいて、そのままの登記情報を使って売主が他の人にも売ってその第三者が登記しちゃったら、あなたの所有権は主張できませんので、ご注意を。登記費用は、土地ならば2017年の3月末までならば売買価格、ではなく「固定資産課税台帳登録価格」の 15/1000、それ以降は 20/1000、建物は20/1000です。ですが、もし(1) 自分で住む、(2) 取得して1年以内に登記、(3) 登記簿上の床面積が50平米以上、(4) 耐火建築物なら築25年以内、それ以外は築20年以内、もしくは、築年数がそれ以上であっても新耐震基準に適合していることについて証明されたものや、既存住宅売買瑕疵保険に加入している一定のもの、については建物の登記費用のかけ目は3/1000に値下がります。ちなみに、この「固定資産課税台帳登録価格」というのは、売買価格とは関係なく、市町村(東京都なら都)が新築のタイミングで調査して、この固定資産台帳に物件ごとにいくらなのかを記帳し、3年ごとに更新されていく金額です。この金額は「固定資産税評価額」とほぼ同義ですので、以下では「固定資産税評価額」としましょう。
  • 司法書士さんへの報酬 – 不動産の登記の作業をしてもらうのに報酬をお支払いするのですが。。。通常、不動産会社が手配することが多く、また事前に資料等の提供をするものの売買契約の締結の時に初めて顔合わせすることが大抵で、したがって彼らの全体の報酬が幾らかは知らされることも少ないです。しかも、経験上「言い値」ですので幅がありすぎて平均いくら、とここで書けないのが悩ましいものの、イメージとしては登録免許税と同じくらい、と思うといいかもしれません。と言って、知り合いの司法書士さんがいる人ってそうそういないですからねぇ。
  • 印紙税 – 不動産の売買契約書には印紙を貼らねばいけません。登記完了したところで確認するための登記簿謄本をもらうためにも印紙が必要です。登記簿謄本は480円から500円、と決まっています(って、今実例を見て書いていますが、これでも二つのパターンがあるのでどうよ、って感じですが、よくよく思い出すと、印紙費用をケチりましょう、ということで、売買契約書を1通だけ作って、登記に必要な飼い主が保有する形でどうです、と提案されたから、2通作ってそれぞれが負担するパターンとの二パターンなんだ、と別件で思い出しました。粗忽の使者みたい。。。)が自分の登記完了を確認するだけでなく購入時に登記申請するための調査目的で事前に取得するコストも負担することになります。、売買代金によって、あと締結時期によって貼らねばならない金額が変わります。例えば2018年3月31日までに締結される場合には軽減税率が適用されます。とはいえ、不動産会社によってこの解釈が違って準備しろ、もしくは買っておきました、という印紙の額が異なりますので要注意です。なお、貼り忘れている売買契約書を税務署の人に見られた場合、本来貼るべき金額の2倍を過怠税が本来貼るべき印紙に付け加えて掛かります。貼って消印をしていない場合にも、同額の印紙を追加で過怠税として追徴されますのでご注意を。え?そうそう見られないんじゃないの?いやいや住宅ローン減税とか取引の証明にとか色々な事情で見せることになるんですよ。。。
  • 固定資産税・都市計画税の日割り計算 – 下記の保有期間でも書きますが、不動産を保有すると固定資産税が、さらに都市計画地域内に不動産を保有すると都市計画税が、それぞれ掛かります。これは基本的に年に一回、基準日に保有する人に請求書が届いてその先の一年分の支払いをすることになりますので、不動産の譲渡を受けた日以降に保有することで負担すべきこれらの税金を売主さんにお支払いすることになります。固定資産税などの計算方法は、固定資産税は「固定資産税評価額」の1.4/100、都市計画税は0.3/100です。
  • 管理費用と大規模修繕積立金の日割り計算 – こちらも下記の保有期間でも書きますが、ここで想定するマンション投資を考えると、日々のマンションの維持管理、例えばゴミ出しから廊下の電灯の交換やそれを毎日やってくれる管理のお姉さまの雇用費用、上水道のくみ上げのポンプのメンテ、エレベーターの遠隔監視の費用、そして10年以上ごとに行う壁面の補修まで、をマンションのオーナー全員で負担するために毎月出し合う費用があります。管理費用は年単位で管理する支出のための費用負担、大規模修繕積立金は10年以上ごとに行う「大掛かりな」補修費用を一括で出すには大変だから毎月に分割して支払うもの、と思ってください。これはマンションの管理組合の大きさ(大規模マンションならコスト負担が減りますよね)、築年数(古いと維持コストがかかりますよね)、そして財政管理方法(コンサバに運営するか、適当に普段を安くして問題が起きた時にみんなから慌てて集めるか)に依存します。まぁ、この日割り計算は通常一ヶ月分のうち決済日の来るタイミングで調整しますが、物件によっては一ヶ月前倒しで払うケースもあるので、その時にはその一か月分も丸々上乗せされます。あ、そうそう、ちなみに、管理費用と大規模修繕積立金ですが、仮に売主が滞納している場合、新しい買い主が譲渡を受けた後で滞納分を納付させられます。これはマンションの所有権に付随するもの、と考えられているからです。対照的なのが、これに性質上似ているように見えるマンションの敷地内の駐車場や駐輪場の利用料についてはマンションの所有権が移転してもこの未払い債務は売主に残るそうです。ですので、買うときには滞納がないかどうか確認する必要がありますが、通常は不動産業者さんが準備する重要事項説明書にこの辺りの滞納の状況は報告されます。
  • 不動産取得税 – 今までの項目は実は売買時の決済時にやり取りされる費用等なのですが、この不動産取得税は取引が完了して大体半年から一年以内に(ということは結構忘れた頃に)郵送で納付書が送られてきて支払うことになります。どれくらいかかるか、というと、「固定資産税評価額」の4/100、と結構なお値段ですが、例えば2018年3月31日までの土地と建物の取引ですと3/100に、また宅地については2018年3月31日までの特例として 「固定資産税評価額」に当たる額を1/2に置き換えることが出来たり、新築の建物は自分で住もうが賃貸に出そうが固定資産税評価額を1,200万円減額して評価することが出来たり、新築の建物の敷地も「固定資産税評価額」に当たる額を1/2に置き換えた上で45,000円(か一定の計算による額)を減額されたり、中古建物についても、賃貸目的以外、ということは自分で住むかセカンドハウスで使おうが、前述の減額措置が(建物は1,200万円を築年数によって変えることになりますが)適用される、と計算があれこれあります。
って、あれこれありますね。株式の取引手数料くらいにしてくれればいいのに、と思っちゃいますよね。

でも、これでも、ここまでで、いわゆる即金で買えちゃう人とか、即金で買うことの出来るレベルの物件の場合です。もし恥を忍んで個人的な経験における実際の数値を挙げるならば、某地方都市のワンルーム、20平米弱、売買価格が470万円という物件に対して

  • 仲介手数料:217,080円
  • 印紙代:2,000円
  • 登録免許税など:56,228円
  • 司法書士報酬:89,000円 + 7,120円(消費税)- 8,065円(源泉徴収分)
  • 固定資産税・都市計画税日割り分:24,246円(9ヶ月半分)
  • 管理費用・大規模修繕積立金日割り分:16,530円(一ヶ月半分)

と、合計5,104,139円のお支払いを決済時点で行い、8,065円を別途源泉徴収税として国庫に納付し、後日 69,400円を不動産取得税として支払いました。結果、総額 5,181,604円掛かり、記載の470万円からは 481,604円上乗せがあった、と見ることが出来ます。10%強ですか。。。取引手数料関連としては保険商品の7%よりもさらに高いと見ることも出来ますが、日割り計算している固定資産税や都市計画税、管理費用や大規模修繕積立金は、性質上保有期間中の負担と見ることが出来ますので、これらを控除した440,828円が実質の取引手数料関連、と考えてもいいでしょう。それでも、10%弱、ですからね。。。 さて、都心でワンルームを考えると、こんな500万円程度ではなかなか買えません。となると、手持ちの資金を頭金にしてローンを借りて購入、というシナリオを考えることになります。この時、物件取得の性質でローンの種類も変わるのですが、その違いは金利のレベル感や物件価格に対するローン額の上限と思うと分かり易いと思います。 例えば、自家用の場合、実際に自分で住む訳ですので投機性がないので物件の100%まで貸しますよ、金利も低めに設定しますよ、ということが多いのですが、これが投資目的となるとその投資に一枚噛ませろ、ということで金利も上がりますし、他方でリスクは取りたくないのでローンの上限額は銀行が査定する物件評価額の80%、といった具合によりリスクリターン重視なものになってきます。 とはいえ、実際にローンを受けるとなると、借入時事務手数料ということで、ローン額に対して一定の割合(例えば、以下、特に意図はないもののプレスティアさんを例にすると、自家用の変動金利だと2%+消費税)とか、固定額(自家用の固定金利だと2万円+消費税、投資用だと一律15万円)とかが掛かります。また、保証人/保証会社を求められると、その事務手数料や保証料が必要になり、 また、不動産ローンは物件の資産価値に依拠する商品ですので、これを担保として取ることから、第一抵当権(もしローンが払えなくなったら、抵当権を行使してこの物件を売却してその代金の一部からローンの弁済を優先的に受けることができる権利)を設定し、物件の登記情報にも明示することを求められます。そうなると、この抵当権の登記設定が必要になるので司法書士さんにまた仕事をしてもらうことになります。そのコストは登録免許税としてローンの額の0.4%、司法書士さんへの報酬が大体6-10万円、が相場のようです。なお、登録免許税の利率については2017年3月末までの抵当権設定であれば、自家用の50平米以上の物件で登記もローン実行から一年以内に行われて、中古ならば築20年以内(耐火物件ならば25年)などの条件を満たせば0.1%に下がるのは取得時の登録免許税と同じ優遇措置のようです。

保有期間中

不動産を購入しました、の次に、不動産を持ってしまったことでかかる費用等を見ていきましょう。

  • 管理費用と大規模修繕積立金 – 前述の通り、これは住んでいようがいまいが住まわせていようが空室状態であろうが、オーナーであればマンションを所有する限りは毎月負担しなければいけない費用です。そうそう、新築の時は割とこの費用等は安く設定されていることが多いのですが、実際に新築から5年くらい経つと大規模修繕工事が頭にちらつくので見積もりを取りながら試算してみると全然積立が足りなかったり、環境の変化により管理費用が足りなくなることもあります。そうなるとマンションの管理組合の理事会が主導でこの金額の見直しと増額を行うのが常なのですが、最終決定権は管理組合の総会ですので、出席するなりしなければなりません。が、たいていの場合、賃貸向けで買った人は住んでいない一方、住んでいる人の利害関係が切実ですので住む人の声が比較的大きくなりがちです。ですので、管理費用が値上がるときに自分の利益が減るからという理由で反対してはいけません。というか、そこでケチると売却する時などの資産価値が減りますので目先の利益に囚われないようにしましょうね。
  • 固定資産税・都市計画税 – こちらも前述の通り、住んでいてもいなくても、人を住まわせていてもいなくても、所有権を登記している限り支払わねばならない税金です。金額は固定資産税は「固定資産税評価額」の1.4/100、都市計画税は0.3/100です。ちなみに、複数で共有している時にはその代表となる人に届くのでその人が一旦払って、残りの人からもらうなりすることになるので、相続直後とかその結果の共有状態に揉め事の種になりやすいので注意が必要です。そういえば最近、これもクレジットカードで支払えるようになったんですよね。あと、これに関する関心事、といえば、「固定資産税評価額」の根拠、ですが、国土交通省が定める土地の公的価格や家屋の時価評価額の70%程度、と言われています。かつ、この見直しは3年に一度行われます。が、どうも市区町村長が最終的な決定権を持つことからこの辺りはばらつきがあるようです。また、税率も1.4%と書いてはいるもののこれは標準税率とされているため、これまた市区町村で引き上げることも可能らしく、財政難なところはもっと高いらしいです。
  • 火災保険 – 案外忘れがちなのが建物に対する火災保険への加入です。賃貸に出したら、賃借人(入居者さん、ですね。)が入るからいらないのでは、と思いがちですが、不動産の所有者は建物に対する保険をかけ、賃借人は自分の持ち込んだ家財や自分が火を出した時の賃貸人(大家さん、というかあなたの立場、ですね。)に対する損害補償をする必要があるのでそのための保険にも入ってもらいます。でも、賃借人が入るからいらないのでは?と思いがちですが、隣の家の火事からの貰い火とか不審者による放火も可能性としてはありますが、貰い火は失火責任法によって、放火は加害者不明ということで、それぞれこれらに対して入居者さんをはじめ誰にも責任と補償を求めることが出来ません。また、そもそも不動産の所有者は無過失責任を負う、と言って、例えばその建物の壁のタイルが経年劣化の結果はがれおちたところ、下を歩いていた人にぶつかって怪我をさせた、なんて時には建物のオーナーがその責任を理由がいかなるものであっても負わねばならないので、特に、一棟丸ごと持っている場合ならばその辺りの「施設賠償保険」を込みで入っておくことになります。区分所有の場合、管理組合で共用部分に対するこのような保険も入るので、自分の保有する部分は自分の責任で入る必要が出てくるのはそういう事情から来るのです。

と、ここまでが、何をしなくとも負担する費用です。もしくは、普通に買ったマンションに住むと保有することで負担する費用、とも言えますね(この場合には保険は建物と家財と両方ともカバーしましょうね)。 もし入居者が入ることになると、賃料が入ってくる訳ですが、そうなると、これに付け加えて次のキャッシュフローが発生することになります。

  • 敷金・礼金・更新手数料 – 入居するタイミングや通常2年契約の賃貸借契約を継続するにあたって、入居者「様」からこのような名目で受け取ることになります。これらは土地柄によったり、その時の契約によって水準が変わりますので一概には言えないのですが、ただし、気を付けないといけないのが、敷金。これは退去時に(必要に応じて壁紙などの張替と言った清掃費を控除して)返さねばいけない「預り金」ですので、使い込んでもいいけど退去時にはちゃんと払えるようにしましょうね。とはいえ、最近では敷金を0にして入居時の費用負担を下げることで入居者を探すのも増えてきていますし、実際にそれをやったことであっという間に入居者が決まったこともあります。この場合には退去時に貰い受ける清掃費を予め提示して合意してもらうことで対応しますが、当然夜逃げとかされたら自分の負担になるので、どちらを取るかは戦略次第、と言えるでしょう。
  • 仲介手数料・更新事務手数料 – 入居者を探してくれた不動産屋さんに手数料をお支払いすることになります。とはいえ、こちらは宅建業法により貸主と借主のそれぞれから上限で 0.5ヶ月分、特例を使っても総額で賃料の1ヶ月分しか不動産屋さんは取れませんので、そうそう見越して更新手数料を賃料の1ヶ月等の慣習に合わせておくのがいいのかもしれません。
  • 退去後のクリーニング費用 – ということで、もし更新してもらえずに退去された場合には次の入居者を迎えるために綺麗にする必要があります。壁紙を張り替える、床などの清掃、必要に応じて備品の入れ替え、果てはリフォームまで、物と今後の賃貸するときの戦略に応じてお金の掛け方は変わってきます。が、上記の通り、退去する人から取れるのは貸したときの状態に戻す程度の費用だけ、です。
  • 賃料 – やっと、不動産投資の目的である賃料が入ってきます。おめでとうございます。でも、結構あるのが2か月目の支払いを忘れられてしまうことです。最初の月は敷金や礼金などの決済の時に合わせて預かるのでいいのですが、2か月目については結構忘れる方が多いです。ですので、入ってませんよ、と連絡を付ける必要があります。このような賃料入金の管理がある意味この投資の肝と言ってもいいでしょう。しかも、もしそれでも払ってもらえない場合、入居の時に提示された連帯保証人に連絡したり、保証会社に入って貰った場合にはその保証会社に連絡をして、入金を確保しつつ、今後のお付き合いの仕方を考える、という不幸な展開にもなりえますので案外きめ細やかに見ていないといけないでしょう。
  • 備品などの補修 – 長年住んでいると、ガス給湯器が壊れてみたり、洗面台やバスタブが水漏れを起こす、据え付けのエアコンが壊れる、といったトラブルが生じて入居者から大家さんであるあなたに「なんとかしてー」と連絡が入ることもあるでしょう。このあたりの物件の付帯物はオーナーのあなたの物ですのであなたの責任で修理して入居者「様」に使ってもらえるようにしないと入居者「様」の生活に支障が出てしまいます。使ってもらって賃料を頂けるわけですから。となると、部屋に立ち入る訳にはいかないものの、知り合いで物件のそばにいる専門の業者さんに連絡をして現場に行ってもらい、入居者「様」の立会いのもと調べてもらって修理してもらって、その請求書を送ってもらって支払う、ことになります。でも、遠隔地の物件を持っている場合、近くに知り合いの修理屋さんなんていないし、どうしましょう。。。
  • 管理業務委託手数料 – ということで、賃料の回収から物件まわりのトラブル、入居者からの賃貸借に関するクレームなどを一義的に受け止めて対応してもらえる管理業務を、不動産を取得するときにお付き合いした不動産会社さんなどが提供してくれるケースが多いです。相場的には賃料の5%程度、と言われています。当然手取りが減りますが、任せておけば対応してくれますので副業的に投資するときや遠隔地でどうしようもない時にはお願いするに限ります。
  • ローンの元利金 – もしローンを借りているならば、その金利相当分と元本の一部を(通常は)毎月支払うことになります。プレスティアさんを例にとると、その商品説明書を見ると月々の返済が基本元利均等払いになっています。ですので、毎月一定額を返済にあてることになりますが、毎月元本が少しずつですが減少していくので毎月の利息相当額が減少していくことになります。
  • (団体信用)生命保険 – ローンを借りていると自然と入らされる保険なので、ここに入れるべきか悩ましいものの、もしもローン返済中にあなたの身に何かが起きたら返済能力がなくなるので、その担保ということで居住用であれ投資用であれローン元本相当額の保険金の降りる生命保険に入ることになります。ローンの貸し手である金融機関等がローンの利用者についてまとめて加入することから、通常より割安になっている一方で、年末調整や確定申告の時の生命保険控除の対象にはなりません。居住用の一番メジャーなローンである35年間固定金利のフラット35の場合、年に一度保険料を支払うのですが、民間金融機関のローンの場合は金利負担に含まれているので自分から別途払うことはありません。

以上が不動産を運用することで発生する一般的なキャッシュフローの全容ですが、保険商品や債券などと異なり結構あれこれあって面倒ですよね。しかも、頻度の低いもの(年に一回とか火災保険などは長期契約したら5年に1回)や偶発性の高い(居室内の備品の修理費用や、上記では取り上げていませんが、火災事故等が起きた時に支払われる火災保険からの保険金)ものもありますので、債券の利金のように半年ごとに確実にいくらになる、という目算が作りづらい部分があるもののキャッシュフロー的には

 [家賃収入] – [事務管理手数料] – [管理費用並びに大規模修繕積立金] – [ローン元利金支払い]

が毎月起こるキャッシュフローで、通常ならばこの引き算の結果は黒字になる、はずですし、それを目指して投資をしているはず、なのですが。。。  さて、一つすっかり忘れていたキャッシュフローの項目がありました。年次で発生する、所得税への影響です。日本に住んでいると1月から12月までの間の収入については全て所得税の対象となり、この不動産投資もそのご多聞に漏れることはありません。 ここで、話を単純化するために多分読まれているあなたがそうであるように、会社に勤めてお給料を毎月もらっている人が不動産投資を行なった場合、ということでこの所得税への影響を考えてみます。前述の月々の収入

 [家賃収入] – [事務管理手数料] – [管理費用並びに大規模修繕積立金] – [ローン元利金支払い]

を軸に、その他の年次で掛ける火災保険の費用や備品等の修繕にかかった費用、固定資産税や都市計画税を追加の費用として差し引くと。。。年間の収益、のように見えますが、実は二つほど修正しなければならないものがあります。

一つは、ローンの支払総額から、元本返済部分を差し引く必要があります。というのも、元本返済ですから利息のような経費の類のものではないからなのはわかりますよね。

もう一つは、不動産の建物の部分に対する減価償却を経費として追加することです。どういうことか、というと、不動産は大きく分けると土地と建物に分けることができますが、土地は使っても消費することはありません(ので、不動産の売買の時、もし相手が不動産会社だとしても土地相当額に消費税は掛かりません。)が、建物は長い時間使い続けていけば経年劣化や摩耗などしますので、ある一定の期間で使えなくなると考えると、これは長期にわたって継続的に消費されるとして費用として計上していいよ、というルールになっています。

ちなみに、減価償却の計算は、一般的な鉄筋コンクリート造りのマンションの場合、新築ならば耐用年数が47年、と決められていて、また、定額法と言ってこの47年をかけて、均等に償却して行くことが求められていますので、この47年に対応する税務署の定める償却率である、0.022(=2.2%)を建物の取得価格にかけた額を毎年減価償却として計上することになります。もし中古マンションならば、竣工から取得時までの期間を年単位に切り上げて、0.8を掛けたものを47年から差し引いた年数を、中古マンションの耐用年数、と定められています。例えば10年落ちで買った場合、 47 – (10 x 0.8) = 47 – 8 = 39 年です。この場合の償却率は 0.026 (2.6%) となります。

なお、耐用年数を経過したものについては耐用年数 x 0.2 年と決まっているので、通常の鉄筋コンクリートの投資ならば 47年超の築年数の物件を取得すると一律9年 (端数切り捨て)になります。

となると、税金の計算上はローンの毎年変動する元本返済額ではなく、毎年一定額で計上される建物の減価償却額を、建物への投資相当額に対して収益の一部として回収していると見ることができます。もしローンを借りていなければその回収したキャッシュは手元に置いておけますので、次の投資に使ったり、別の使い道に廻せますが、ローンを借りていれば額は違えどその元本返済に流れている、というわけです。 とすると、ローンを借りた最初の数年は元利均等返済の性質上、利息部分が大きいため元本充当も大した額になりませんから、結果として費用の総額が賃料収入総額より大きくなる可能性がでてきます。そうなると税金上は赤字になります。不動産所得はもし赤字が出るとその分を給与所得から控除することが出来る、というルールがあるため、不動産投資をすると節税になりますよ、という触れ込みで不動産会社やマンション・デベさんが一生懸命売り込みがやってくる、のです。

でもちょっと不思議ですよね。キャッシュフローはそこそこに生み出されているのに、税務上は減価償却がその一部を圧縮してくれる、というのですから。  因みにどれだけの影響があったかと言えば、こんなあからさまな累進課税のトリックを使った例を見ると分かりやすいでしょう。

もし給与所得が750万円、不動産所得が100万円の赤字だったとしたら、その他の控除も面倒なので基礎控除の38万円だけと仮定すると不動産所得の赤字があると課税所得は562万円となります。不動産所得のない750万円の時は課税所得が712万円ですので税金はざっくり

712 x 0.23 – 63.6 = 100.16万円

であるのに対して、不動産所得のある 650万円の時は、課税所得が 612万円ですので税金が

612 x 0.2 – 42.75 = 79.65万円

になるので  20.51万円節税出来た!というのが彼らの主張なのです。

まぁ、今回の例は、いろいろと派手に仕込んだ裏がありまして、その大きいものとして、課税所得が 695万円を超えると税率が 23%に対して下回ると 20% と 3%のメリットも受けるような計算になっています。

とはいうものの、赤字があるので納税負担出来る能力も下がっている、ことになっている訳ですがこの説税額を得るために、100万円の赤字を出そうとすると、個人的な経験上、通常のワンルーム投資を考えると管理費用と大規模修繕積立金が月にかかっても15,000円くらいと思えば、年間でも 18万円。固都税・都市計画税もかかっても3万程度と思えば、基本的な維持費だけでは100万円も行くことはなく、と言って、1000万円のローンを受けて投資したところで、今の金利水準では2.5%程度でしょうから 年間25万円程度の金利支払い、では合わせても 50万円には満たず、取得の際の諸々の手数料がかかる初年度を除くと、仮に貸せていない状態であっても、そんなに100万円のロスで穴を開ける、ほどにもならないのは想像に難くないのです。

というか、100万の費用を払っても20万が国から帰ってくるからラッキー、みたいな算数出来ないような感じの事、嬉しいですか?

ということで、ちゃんと貸せた結果、マンションオーナーとしては黒字になりますので、まともにやったらそちらでの税負担が増えてしまうと考えた方がいいのだと思います。と言っても、追加で稼いだ分の一部を支払う、のでお財布的におまけのキャッシュが増える、というのが実情でしょうが、実は、この追加の収益のお陰で税率が、それこそ前述の逆パターンのように、20%から23%の世界に押し上げられてしまうこともあり得ます。 まとめると、給与所得の人が不動産を始めると、その不動産所得と合算して所得税の計算がされる、ということになります。ですので人により税率が異なるのは分かって頂けますが、まぁ、費用控除後の20%程度になるのが一般的なところでしょう。と思うと、株式や債券、ファンドの受け取り分配金、預金の利息とほぼ変わらないことが分かります。

不動産投資終了時

さて、投資するということは、最終的な回収もせねばなりません。とはいえ、人間ですので、投資の終わりかた、というとどうしても生命保険の時のような3つのケースを想定せねばなりません。一つは、通常私たちが投資として考える出口としての第三者に売却した場合という普通のケース、二つ目は、生前贈与で身内に譲渡すること、そして最後が自分が死亡した場合に相続人である家族に相続させる場合、という資産の継承目的のものです。

売却時

不動産を売却する時、負担すべきは売却先を探してきてくれた不動産会社さんへの手数料(計算方法は取得時と同じ)、契約書に貼付・捺印する印紙税、あとはもしローンの残債が残っている場合の譲渡の時には抵当権抹消手続き関連の登記費用と司法書士さんへの手数料(こちらも取得時と同じ)が掛かりますが、保有に関する登記は買い主の責任で行うのでこちら側では特に負担することもありません。そう考えると、売却直後は全然手間がないですね。 でも、不動産譲渡による収入が発生したわけですので、確定申告時に不動産の譲渡所得に関する課税が発生します。ちなみに、不動産の譲渡から発生した収益は給与所得や退職所得などとの相殺の出来ない分離課税となります(ただし、複数の不動産を売却してその損益を合算することは出来ます)。 計算方法ですが、

「売却代金」 –  (「取得費」+ 「譲渡費用」)

と、シンプルですが、この「取得費」には、実際に購入した際の土地と建物の価格に、取得時に掛かった費用(前述の、不動産仲介手数料や登記費用、司法書士さんへの報酬、印紙、といった諸々の費用ですね)を足して、そこから、保有した時に計上していった建物の減価償却を差し引いた額になります。他方で、譲渡費用には上述の売却時の不動産仲介手数料や印紙税、登記抹消関連の登記費用に加えて、もし貸している時に空室を条件に譲渡する場合なら賃借人に立ち退いてもらうための費用が掛かったならその費用や、譲渡対象となる資産の価値を上げるために行ったこと、例えばリフォームをしたならば、その費用も(ただし、それも減価償却の対象になるので、その分上乗せ出来る費用は減りますが)この譲渡費用に上乗せすることが出来ます。 と考えると、実は不動産の譲渡の時は、株式や債券のように買った値段と売る値段との差額を利益と見ることが出来ないのと同時に場合によっては買った値段より安い値段で売却したとしても税務上とはいえ利益が出てしまう可能性がある、ということでもあるのです。 さて、実際の税金の計算は、というと、居住目的とそうでないか、あと保有期間が5年未満かそれ以上かで、いろいろと変わってきます。というのも、まず「課税譲渡所得」を計算する必要があるのですが、これには先ほどの

「売却代金」 –  (「取得費」+ 「譲渡費用」)

に対して、特別控除の適用があるか考える必要があります。特別控除ってなんじゃ?と思いますよね。次の5つのケースに当てはまるとそれぞれのケースに対して最大で

  •  公共事業などのために土地建物を売った場合の5,000万円の特別控除の特例
  •  マイホーム(居住用財産)を売った場合の3,000万円の特別控除の特例
  •  特定土地区画整理事業などのために土地を売った場合の2,000万円の特別控除の特例
  •  特定住宅地造成事業などのために土地を売った場合の1,500万円の特別控除の特例
  •  農地保有の合理化などのために土地を売った場合の800万円の特別控除の特例

があって、上から適用があるか調べて、かつ合計で最大5,000万円の特別控除が適用可能、というものですが、そもそも「売却代金」- (「取得費」+「譲渡費用」)という譲渡益が0になるまで控除可能、というものですので、例えば、仮に5000万円の特別控除が適用可能であっても、譲渡益が2000万円ですと、その年の特別控除は 2000万円となり、譲渡益は0となり、余った3000万円はというと、翌年に繰り越しもできない、という計算になります。 上記のそれぞれを考えると、自分の居住用に買って利用したものならば3000万円の特別控除が適用できそうですが、投資用に、という今回の記事のメインテーマですと、所有している物件が公共事業や区画整理のための立ち退きを余儀されることがなければ当てはまることはまずないものです。むしろ、ここが居住用の物件と投資物件の出口での譲渡益での差が出るところなのです。これがどれだけ効いてくるかは次の税率の適用でも変わるのですが、最大3000万円の課税対象の控除は大きいです。 さて、その特別控除の適用後の課税譲渡所得に対して適用される税率なのですが

  1. もし、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年以下の土地や建物を売ったときの税額の計算は、
    • 所得税として課税所得の30%
    • 復興特別所得税として所得税額の2.1%
    • 地方税として課税所得の9%
  2. もし、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えるの土地や建物を売ったときの税額の計算は、
    • 所得税として課税所得の15%
    • 復興特別所得税として所得税額の2.1%
    • 地方税として課税所得の5%

となります。分かりやすくするならば、もし、課税譲渡所得が3000万円だったとするならば

  1. もし、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年以下の土地や建物を売ったときの税額は、
    • 所得税として課税所得の30%: 3000万円 x 30% = 900万円
    • 復興特別所得税として所得税額の2.1%: 900万円 x 2.1% = 18.9万円
    • 地方税として課税所得の9%: 3000万円 x 9% = 270万円

    の合計 1188.9万円 (39.63%)

  2. もし、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えるの土地や建物を売ったときの税額は、
    • 所得税として課税所得の15%: 3000万円 x 15% = 450万円
    • 復興特別所得税として所得税額の2.1%: 450万円 x 2.1% = 9.45万円
    • 地方税として課税所得の5%: 3000万円 x 5% = 150万円

    の合計609.45万円(20.315%)

と、実額で579.45万円の差が起こります。そう考えると、少なくとも5年間は保有せねばならない、という気になりますよね。ちなみに、この5年、というのも計算方法がややこしく、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が期間の基準日となっているので、売却日で5年かどうかを考えることができません。ということで、5年を優に超える期間の保有に誘導されていることが分かります。これは20年も昔のバブルの時に不動産の短期回転売買が数多く起きたことから導入されたルールだと言われています。 また、この計算を見ると、居住用不動産に対する3000万円の控除という大きなメリットが見えてきます。なにせ、仮に短期売買であっても課税所得が0になるので納税額も0になります。1188.9万円が浮く計算になるのです。しかも、譲渡所得に短期と長期の区分がありますが、もし譲渡した年の1月1日現在で10年以上所有し居住した後の売却となると、一定の条件を満たすならば税率がさらに有利になって

  1. 譲渡所得のうち6000万までは、
    • 所得税として課税所得の10%
    • 復興特別所得税として所得税額の2.1%
    • 地方税として課税所得の4%
  2. 譲渡所得のうち6000万を超える部分は、
    • 所得税として課税所得の15%
    • 復興特別所得税として所得税額の2.1%
    • 地方税として課税所得の5%

となります。しかも、これは前述の3000万円の控除と併用可能ですので、特別控除前で9000万円の譲渡益が出る、という人にはどう見たってお得でしかありません。ただ、注意が必要なのが、一度これを使うと、向こう2年は特別控除の適用が受けられません。とはいえ、居住用の家やマンションを三年未満で常にコロコロ移り住みながら売却して適用を受けようとする、ってどこまで現実的な想定なのでしょうね。

相続という出口

次に売却しない投資の終わり方について考えてみたいと思います。よく、相続対策に持ってる土地にアパートを作りましょう、という話が出たり、一時期、湾岸エリアの高層マンションの高層階の部屋から売れた理由の一つとして相続目的だった、と言われていましたが、これらの背景をひも解くような解説になっていきます。 自分では予定しないものの、投資の途中で諸般の事情で投資終了前に人生が終わってしまう可能性がないわけではありません。そうなった場合、この投資物件は個人名義で保有しているならば当然に相続の対象となります。この場合、もしローンを組んで取得していてローンの返済が終わっていないならば、ローンの条件として団体信用生命保険に加入していることがほとんどでしょうから、団体信用生命保険の保険金でローンが片付いてい(て、余剰のキャッシュが手元に残)ることでしょう。その前提にすればローンを借りずに取得した人と条件が同じになるのでその前提で進めるとします。

この場合、税率は相続資産と法定相続人の関係で決まってしまうことから一概に言えないため、当然に問題になるのが相続人に対していくらで相続するのか、という評価の問題が大きな焦点となりますので、ここを重点に見ることになります。 なお、今までは如何に収益性をあげるか、と言うことが問題になっていたのが、相続や生前贈与の観点では如何に資産を移転する際の課税対象となる資産評価額を下げるか、結果として受け取る側の税務負担をどこまで下げられるか、が問題になることに頭を切り替える必要があります。

不動産は一物四価 – 相続で使う価格はどれ?

そこで、不動産の評価のメカニズムを改めて見直してみましょう。 土地の値段には4つの評価額がある、と言われています。

まずは、実勢価格。これは売買取引の際に使われる価格を指します。

続いて、前述の固定資産評価額。固定資産税や都市計画税を払うための算出根拠、とされていて、市区町村(東京都内なら都税事務所)が三年に1回公表するのですが、通常、実勢価格の60%から70%だとされいます。

次は公示価格。これは国土交通省が、特定の土地(地価公示標準地)について、その土地の価格を国土交通省土地鑑定委員会が不動産鑑定士の意見を参考に決定するもので、毎年1月1日の評価基準日時点での価格を3月下旬に発表しています。元は公共事業用地の取得価格算定のための基準になるものとして使われていますが、一般の近隣の土地の売買の価格の目安となっています。ちなみに、この地価公示標準地における公示価格や、同じように都道府県が定める特定の土地(地価調査基準値)に対する値段を都道府県基準地価と呼ぶのですがこれとが、その近隣での土地の売買の適正な価格かどうかを判断する客観的な材料になるとされています。

そして、最後に、路線価があります。これは、国税庁が年に一度、1月1日を評価時点として8月頃に示すもので、全国の主要な市街地の道路に沿って決めています。だいたい、実勢価格の70%-80%程度、とは言われています。 さて、相続や生前に行うだろう贈与では不動産の資産価値については一般には最後に紹介した路線価を使って土地の評価を行います。とはいえ、すべての土地建物が主要な市街地の道路に沿っているはずもありません。そういう時には、固定資産税評価額を使うことになるのですが、そのまま使うと路線価より低い水準になることから、この場合には国税庁が定める倍率を固定資産税評価額に掛けた額を採用することになります。この倍率は路線価と一緒に「路線価図・評価倍率表 – 財産評価基準書」にて閲覧可能です。

と考えると、相続や生前贈与の際の評価額は自然と取引価格の80%程度にまで押し下げられることがわかります。だから、現金で相続等をさせるより税金がかからない効果が期待出来るというわけなのです。また、その評価の仕方が、都心ならその建物に面した道路に定められた一定の額になる一方で、マンションは通常上層階に行けば行くほど売買価格が上がることから、「高く買って安く資産評価出来る」、ため、上層階を購入することでより多額のキャッシュを相続や生前贈与するよりも相続・贈与評価額という形で圧縮できることになるのです。

また、相続税より高い課税率の贈与税を回避すべく売買の形で譲渡課税の形をとる場合、資金移動が伴うこともあって取引価格を恣意的に下げがちなのですが、市場価格の半額以下に取引価格を設定すると低額譲渡により譲渡した側は時価で譲渡したと見なされて譲渡所得の課税がなされ、また譲渡された側も時価と取引価格との差額の贈与を受けたと見なされて贈与税が課税される、ケースがあります(個人から法人の譲渡の場合や個人から個人への譲渡でも親族間の場合など)。また、この場合の時価とは上記の路線価を 0.8で割ったもの、すなわち実勢の取引価格に準ずるものと言う計算が適用されがちと言われています。とすると、贈与税回避の譲渡のメリットがあまり見出せない可能性もあるようです。まぁ、ここは実際に計算して検討すべきところかもしれません。

評価額をさらに下げる方法 – 建物を作って貸せばいい。でもなぜ?

さて、この課税対象となる資産評価額をさらに下げたくなるのが人情です。そのための方法がいくつかあります。

まず、土地だけ持っている場合、その土地にアパートなり建物を建築し始めましょう。出来上がるまでの間は、まだ建物の登記もしていませんので固定資産税の評価額がつけられていないことから、建築の際の費用現価(相続の場合、被相続人の死亡の日、贈与ならば贈与によって資産を取得した日までに建物の建築に投下された建築費用の総額を課税の時期に引き直した額)の70%の評価で済むのです。ちなみに、出来上がってしまうと固定資産税の評価額がそのまま適用されますので建築中の方がお得に思われている、のですが、その時期はかなり短いです。

また、出来上がった建物を貸しましょう。人に貸すための建物が土地の上にあると、収益が上げることが出来るもののその土地を自分で自由に使うことが出来なくなるため、その土地は「借家建付地」という扱いになります。これになると、土地の評価が、本来の評価額=自用地としての評価額に対して借地権割合や借家権割合、そして貸している建物の稼働率=賃貸割合(床面積ベースでの稼働部分の割合)だけ差し引くことになります。式で言えば

借家建付地の評価額 = 自用地としての評価額 x (1 – 借地権割合 x 借家権割合 x 賃貸割合)

となります。なお、借地権割合や借家権割合は路線価と同じく「路線価図・評価倍率表 – 財産評価基準書」を参照することになり、自分で勝手に決めることができません。でも、人に貸している分だけ減額されているのがわかります。

もし更地を持っていて、もっと評価額を下げたい、となると、借地権、として土地ごと人に貸してその人に家を建てさせましょう。そうなると、土地の評価額が

借地の評価額 = 自用地としての評価額 x (1 – 借地権割合)

となることから、借家建付地より評価が下がります。

今まで土地の評価の話だけでしたが、建物は、というと同じ議論があり、もし自用ならば固定資産税評価額をそのまま適用することになりますが、もし賃貸に出しているならば、貸家ということで評価方法が借地の評価と同様に

貸家の評価額 = 自用家屋としての評価額 x (1 – 借家権割合 x 賃貸割合)

となります。

ちょっと分かりづらいですよね。こんな絵を描いてみました。土地、建物それぞれに対して、実際の売買価格と、土地ならば相続の際の評価額となる路線価、もしそれが借家建付地となった場合、建物ならば相続の際の評価額となる固定資産税評価額、もしそれが借家となった場合との比較です。ここでは借地権割合を70%、借家権割合を一律と言われている30%にそれぞれ仮定して計算しましたが、所有する土地の上に人に貸すために建物を作って貸している場合の「相続時の」評価額は、土地ならば実勢価格の63%、建物ならば49%にまで減額することが可能といえます。

なぜ土地持ちな人がアパート経営に走るのか?

さて、この土地の評価額を下げるルールがわかると、なぜ土地を持っている人がアパート経営に走るのかが見えてきますね。こういう土地持ちの人ですので、当然自分が住むための家があるでしょうから、その上でもし更地を持っていて、単純に青空駐車場として貸していると、更地と同じ固定資産税の税率(すなわち宅地にすることで1/3から1/6に引き下げられるメリットがない状態)でかかることに加えて、駐車場として人に貸していても自用地扱いになるので前述の借地権割合だけ相続の時の評価額を押し下げる効果もありません。そうなると、建物を立てて宅地にして継続的にかかる固定資産税を下げた上で、それを貸すことで借家建付地にすることで評価額を下げることを狙うことになるのです。また、アパートにして複数の部屋を貸すことで空室リスクを確率の上で減らすことが狙えますし、アパートを作るに当たってローンを借りて作れば、ローン金利は経費として課税対象となる賃料の一部を相殺し、またアパートの減価償却によって賃料の一部を手元に留保することが出来るのでローンの元本返済に充当することも可能になります。とすると、本来の土地の評価額を圧縮したものにこれまた借家による評価額を圧縮した建物が相続の対象資産となるにも関わらず、ローンによって資産評価額をさらに押し下げる効果が期待できる上に、本来更地で高い固定資産税を払うだけの土地をキャッシュフローを生む物件として引き継ぐことが出来る、というメリットがある、という謳い文句でアパート経営を勧められることになるのです。

で、土地持ちでない私たちのワンルーム投資はどうなの?

おっと、本題から離れてしまってました。でも、今回取り上げているマンションを買って貸す投資の場合、類似点は色々とあります。改めて手持ちの更地に建物を作るわけではないですが、人に貸す目的の部屋を取得し貸し出すわけですので、土地相当部分は借家建付地と同じ扱いの評価になり、また、建物部分も、借家扱いになるのでそれぞれ自分で住む時より評価額が下がる、という意味では同じことになります。ましてやローンを借りて投資しているのなら債務による資産額控除が出来るのもなおのこと同じです。

やっと本題。で、新築マンションの区分保有投資ってどうなの?

お待たせしました。新築マンションの区分保有投資がいいのか悪いのか、という本来の目的のために、その基礎となる知識をこれだけ羅列しないといけないので、なかなか判断がしづらい、という気持ちになりますよね。書いていても目的を見失いそうになったくらいですから。。。

まず、考えねばならないのが、区分保有に投資する、といったときにどこに目的を求めるか、という点を絞る必要があります。というのも、上述の通り、最初から相続目的となれば、そこそこに収益性があることよりも高い資産価値なのに税制上より安く評価される物件を選び、かつ継続的に貸し出している状態にするために賃料が実勢より下がって収益性が劣後しても仕方なし、と思わざるを得ないのです。

では、純粋な投資目的、となった場合、投資元本に対する利回りがまず大事になりますが、他方で、建物部分の減価償却が発生し、その結果減価償却に対応する賃料部分が手元に留保可能になるので、減価償却の期間の短い方が好ましいのも理に叶うところでしょう。そう考えると、減価償却の公式を思い出すと新築だと 47年(年 2.2%の償却)、中古では 47 – 経過年数 x 0.8 年、耐用年数を超えたものならば 9年(年11.2%の償却)、ということから、減価償却の観点で見ると古ければ古いほどいい、ことになります。

とはいえ、当然人が借りたいと思うものは新しいもの、ですので、その意味ではより新築に近い方が貸しやすそうですが、新築で一番ネックになるのが取得価格です。というのも、俗にいう「新築が中古になった瞬間に2割価格が下がる」という点です。週刊ダイヤモンドが面白い調査をしていて、2割は大げさではあったものの、首都圏で新築が築1年なると平均10%下がっていた(東京23区は5%程度、千葉、埼玉だと15%ということでの10%の)ようです。彼らの結論として東京23区ならば新築も中古も差はないが、それ以外の地域は新築が不利、だったそうです。実際に1年で10%の売却価格の値下がりは、上述の建物の年2.2%の減価償却では追いつかないですし、その後も首都圏で一年で2%平均下落してきていたということを踏まえると、新築の方が投資終了時の売却の際に利益を出しづらいことが容易に予想できます。それに対して中古物件であれば年2%の市場価格の下落水準であればそれ以上の減価償却が行われていることから、売却時に計算される税務上の取得価格は売却価格よりも下回りやすいことが予想できます。

また、新築の取得価格が比較的高くなっている、ということは利回りも自然と押し下げられていることを意味します。そうなるとローンを借りて取得した場合の利ざやが少なくなる、ということでもあります。そこを嫌がられることを懸念してマスターリース方式で賃料保証的な借り上げ契約をつけるケースが(知人のケースを含めて)あると思うのですが、マスターリースも永遠に同水準の賃料収入が保証されるはずもないですから、当初数年間下駄を穿かされている、と思う方が妥当でしょう。

とはいえ、中古物件は確かにテナントを見つけるのはそう簡単ではないのも事実です。オーナーチェンジ物件で当初からテナントがいる状態で始める方がプランも立てやすいですし、まだ借り手がつかない、なんて結構ストレスに感じるものです。。。

まとめ – と言ってはみたものの

ちなみに、こんな風に不動産市場は下落する、なんて前提で書いていますが、実は、自分の住んでいるアパートの、最近のオンラインでわかる評価額によるとつい二ヶ月前までは取得時の3割減だったのが、つい公示価格が公表されたばかりのところで、20年近く前の取得時の価格の1割減、とだいぶ近づいている上に、知人の不動産会社の社長さんからも今なら取得した時に支払った額程度で売れる、とまで言われたので、本当にオリンピック景気なのかオリンピックバブルなのか、と訝しがってしまいますが、現実としては昭和の頃のような確実な右肩上がりではないので、元本回収というのは長期的なタイミングの問題になる、のは株と変わらないかもしれません。

景気に左右されやすい一方で株との相関はいうほどではないでしょうから、資産の分散という観点ではなんだかんだ言いつつも持っておきたい資産、かもしれませんね。

いやぁ、しかし今まで一番長いと思うくらい長い記事になりました。ここまで頑張って読んでくださったならば本当に感謝です。

[投資のコストと効果] 保険商品の場合 – 積立利率変動型終身保険の場合

あけましておめでとうございます。
本年も当ブログをご愛顧のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、今年から新シリーズを始めてみようかと。。。

前振り(笑)

保険商品って複雑だから。。。

年の瀬押し迫るある日、久しぶりに Prestia 大手町支店に行きました。というのも、長年使って来た ATMカードの磁気が読み取れなくなったようで、ATMで使えなくなったので再発行してもらうことにしたのです。

隠す話ではないのですが、私が社会に出て金融の世界の第一歩を踏み出したのはこの Prestia の元となるシティバンクの、最初はディーリング・デスクのバックオフィス、そこからリスクに異動して、最後の数年はこの大手町支店を含めた個人金融部門で販売されていた投資信託の輸入や事務サポート、販売支援システムの運営などをしていたのがもう16年も昔のことになっていました。

そんな昔話をちょっとしながら、昔のサインを思い出しながら書いたり(苦笑)しながら、当然対応してくれるスタッフさんは間持たせも含めて、保険商品とか不動産ローンとか何かお手伝い出来ないですか、なんて話を振ってくれるので、一応FPでもあるので、保険商品って投信よりもフィーが高いから銀行さんとかのインセンティブになるよね(だから投信を積極的には売って貰えないじゃない?(笑))、とはいえ勉強のために頂きますよ、と最新の取扱商品の資料などをもらって支店を後にしました。

そこで、ふと、思い出したのです。FPとしての目線は世の中にある資産運用・管理のための商品を理解して提案するところにある一方で、金融商品のストラクチャリングを生業としてやっているもう一人の自分の目線には、如何にして商品のフィーを合理的な範囲で下げることが出来るのか、もしくは、どこに(特に法外な)費用負担が潜んでいるのか見つけ出すことにあるのです。としたら、多分そういうそれぞれの商品に掛かる費用を横断的に分析することはFP的には商品提案としては大事だし、商品設計する側から見ても、どこで比較されるのかを理解することで強みを出していけるようになるのでは、と。

ということで、商品投資のステージごとにどんな費用負担が掛るのか、分解して説明していきたいと思います。本来ならばオフショアファンドを取り巻くネタを一貫してここで紹介すべきでしょうけれども、そんなに新しいことがある訳ではないので、それを期待して本ブログに来る人には申し訳ないと思いつつも、そういう商品の選択範囲のひとつとして海外籍のファンドというのがあって、と思ってもらえれば、幸いです。

さて、その第一回目ですが、折角保険商品の資料を頂いたので、それを読み解きながら保険商品って金融庁の森長官がいうように「コストが法外に高い」(笑)と言えるのか見てみたいと思います。(まぁ、彼が高いと言ったのは変額年金保険という投資信託の性質の強い保険商品なのですが、他方で、あのひとことで保険商品全般に高いイメージを作った可能性もあるので検証すべきところかもしれません。)

今回取り上げるのは、せっかく窓口で紹介してもらったこともあるので、こちらの積立利率変動型終身保険と呼ばれる商品にしたいと思います。あ、ちなみに、リンクを張っていることは私がお勧めする、という意味とは限りませんのでご注意を。

商品性をまず確認

さて、この手の商品を考えるにあたって、ざっとどんな経済効果があるのか見てみようと思います。多分に分かりづらいと言われそうですが、概略を説明しているのが、このリンクの先の契約締結前交付書面(契約概要・注意喚起情報)兼商品パンフレットの23ページ目にある商品の概要を追ってみることにしましょう。

保険商品なので、(1) 保険料をある一定の期間払い続けたのち(2) ある一定のライフイベントに基づき保険金が支払われる、というのが一般的ですが、この商品も(1) 「年払込満了」として、10年間もしくは15年間として一定に定められた期間、もしくは「歳払込満了」として、55歳から90歳までの5歳刻みで指定する年齢まで契約開始から継続して保険料を毎年支払い、(2) 被保険者、すなわちこの保険契約の支払い条件として判断基準となる、契約者、契約者の配偶者、もしくは契約者の二親等以内の血族の人が亡くなるか高度障害を負った時に、一定の保険金が支払われる、というものです。と言っても、イメージが湧きづらいでしょうから、13ページから16ページを見ながらイメージをつくってみましょう。

ここで、あなたが46歳男性、だと仮定すると、男性用のページである13ページの左端にある契約年齢が16歳から70歳までを前提にした表ができていますが、この時、46歳の右横にある数値は5,365.20米ドルという記載になっていると思います。この13ページの他の情報からこの保険商品の前提が「男性、年払いを10回、被保険者の死亡もしくは高度障害を負った時の受け取り保険金額 100,000米ドル」となっていることが読み取れることから、そのような条件の保険商品に46歳男性が加入するには、年に1回ごとに5,365.20米ドルを支払い、それを10回支払う必要があって、そうすればこの「合計最大支払額」 53,652.00米ドルに対して、被保険者が死亡したら 100,000米ドルを受け取ることができる、というように解釈できます。

さて、ここで二つほどポイントがあります。一つは、20ページの一番最初に書いてあることなのですが、上記の年払いを10回行う義務を保険契約者は負っているにも関わらず、もしその10回の途中で被保険者が死亡する、もしくは高度障害を負った場合にはそれ以降の保険料の支払いが免除になって保険金を受け取ることになる、ということです。ですので、上記ではあえて「合計支払額」ではなく、「合計最大支払額」と書いたのです。この点が保険商品とその他の金融商品との大きな違い、と言うところかもしれませんし、その分、金融商品的に言うならばオプションを買っている訳ですので、少なくともそのオプション料を保険料の中から支払っていることを理解する必要も出てきます。

ただ、この保険に入るときにその10年以内に死亡する可能性が予見できるから入ることはあまりなく、むしろ次のポイントがメリットとして検討され(またこのパンフレットでも強く前面に押し出されてい)る点でしょう。それは、「払い込まれた保険料の大半」が解約返戻金の原資に当てられているため、例えば13ページの解約返戻金の割合について、常にこの契約の最低保証利率である3%で運用されたとした場合、契約開始後20年で 120.4%となり、解約返戻金が64,597.00米ドルになる、というものです。当然積立利率とこの資料で称している運用利回りが上昇すればこの解約返戻金の割合は上昇し、契約開始後20年で、常に3.5%であれば132.5%、4.0%ならば145.7%になるという計算結果を提示しています。

ここでいくつか気付くべきところがありまして、もしこの保険商品と同じく毎年 5,365.20米ドルを積み立てながら、積み立てたお金を単純に3%で運用していくならば

  1. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.3439倍に
  2. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.3047倍に
  3. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.2667倍に
  4. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.2298倍に
  5. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.1940倍に
  6. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.1592倍に
  7. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.1255倍に
  8. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.0927倍に
  9. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.0609倍に
  10. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.0300倍に

にそれぞれなるので、10年目の終わりの時点では毎年の払い込み額の 11.8077倍、もしくは総払い込み額の 1.18077倍である 63,351.18米ドルになります。 また、そこから 3%で複利運用が行われていくとすれば、その 1.3439倍である 総支払額の 1.5868倍、もしくは 85,138.69米ドルになるはず、ですが、「払い込まれた保険料の大半」が解約返戻金の原資に当てられる、というのは言い換えればその「大半」の残りは前述に述べた保険期間の途中での死亡等の際の保険金支払いのためのオプション料を含めた手数料等で取られている、という意味でもあるのです。

実際、20年間預けた場合のちょっとバラ色な数値を並べた後で見せるのが微妙なのですが、払い込み期間終了後の10年目の終わりの時の解約返戻金、というのが3%の運用の場合には前述の13-14ページにあるように98.3%、3.5%の運用で初めて101.8%、4%で回ったならば 105.4%と、それでも、3%に全額を投資して運用した場合に比べて13%から 20%ポイント弱減ることがわかります。ということは、毎年色々な名目で28ページに記載された費用として控除されているかが気になります。

理論値として費用を逆算することも可能なのですが、実際のところいつどれくらい、ということまでは不可能ではあるものの、年平均として払い込み期間終了時点(保険契約開始後10年間)で 3.22%が、もし払い込み期間終了から10年置いた(保険契約開始後20年間)場合ですと全期間を通じて 毎年預けている額に対して1.75%を費用として取られている計算になります。

このうち、死亡や高度障害のために支払う保険金額の 100,000米ドルのためのオプション料や保険商品の運用のための事務コスト、そして当然に商品を販売した保険代理店(この場合ならばプレスティア/SMBC信託銀行)への販売報酬などが含まれるのですが、上記のように期間が長くなると平均費用が下がるのは、死亡時の支払い保険金額へのオプション料が、年々解約返戻金が増加することにより実際の保険金額が 「100,000米ドル から解約返戻金を引いた差額」となることで下がっていく(ただし死亡率等が一定である前提ですが年々歳を重ねていくので死亡する確率的には上がっていく要素もないわけではない、のですが。。。)ことの恩恵を受けていることが長期になるほど費用が下がる仕組みではないかと予想されます。

いずれにせよこの商品が、20年間の運用期間と定めた場合に、最初に10年間に5,365.20米ドルを毎年払うことで総額53,652.00米ドルの投資に対して、向こう20年間に毎年 1.75%の費用を支払いながら3%の利回りで運用して64,597.00米ドルとなるか、いざという時は100,000米ドルを受け取る、という資金の流れが見えたかと思います。

また、これが運用期間が10年間に縮めると、費用負担が毎年3.22%で最終的な受け取りが52,739.91米ドルと支払った総額より減ってしまうという商品性も分かりました。ただ、この商品は終身商品なので解約はいつでも可能にはなっていますが、商品開始から10年未満での解約や減額の際には解約控除といって解約返戻金から更に手数料相当額(性別や年齢などの条件により定まるためこの時点でいくらになるのか不明、と更に不透明なもの)が控除される、と言う点も注意が必要です。

商品のまわりにある費用やメリットの検証

続いては、商品に内包される費用だけでなく、その周りに付随する費用やメリットについて検討してみたいと思います。

投資開始時

まず、投資する際のコストとして何が掛かるでしょう。一般的な金融商品と異なり、保険商品は投資対象の対価に付け加えた手数料等や不動産のような登記コストなどは発生しません。

とはいえ、もともと米ドル建てでの支払いですので、私たちが日本円で物事を考える以上、外貨預金や仕組み預金の結果等の事情で米ドルをたくさん抱えていない限りは、日本円/米ドルの為替レートによって日本円ベースでの支払額が左右されることになります。今回の商品は10年にわたって同じ米ドルベースでの金額を支払うことから、どうしてもその時々の為替レートの変動でそれぞれの日本円ベースでの支払額は変動しますが、10年掛けて為替レートを分散して米ドルを取得しているという見方もできますので、時と場合によっては、下記にて紹介する全期前納のために一括で米ドルに変えた時より円ベースで総額が少なくなる場合も起こり得ます。

他方で、今回対象としている保険商品のように長期にわたって分割して支払いを行なっていくタイプの場合、資料の11ページにあるように、契約期間が10年以下の場合、支払う総額を全期前納と言って、一括で支払うことが可能です。その場合、例えば3年後に発生する4回目の支払いについては、全期前納で保険会社に「預けた」保険料の一部を支払いに自動的に充当する、という形式を取ることから、保険会社が自ら設定する金利でこの全期前納で預かった保険料を運用した上で保険料に充当することから、全期前納する保険料の総額は、単純に支払い期間に発生する支払い保険料の総額より割り引かれた金額になる、次の「投資期間中」でも触れますが所得税の計算に(減税という形で)影響する生命保険料控除に対しても、保険料の支払いに充当される支払い期間の間は毎年適用することが出来る、というメリットがあります。

しかしながら、保険料として受理されていないので単純な預かり金に過ぎず、また保険約款(保険商品の一般的なお約束を定めた、申し込んだら否応無く適用される契約内容をまとめたもの)により任意に払い戻しを受けることが出来ないのですが、保険会社が破綻したときには、保険契約が消滅した場合、又は将来の保険料の払込みを要しなくなった場合は、全額返却されますので流動性に制限があるということは理解しておく必要があります。しかも、保険会社が破綻したときに保険料払込期間中に未経過部分の前納保険料を引き出す場合は、早期解約控除制度が適用される可能性がありますので。割引率と保険会社の将来の経営の安定性や信用度とを勘案して(もちろん財布の具合とも相談して)全期前納を選択するか、年払いを選択するか考えることになります。

投資期間中

保険商品ですので、途中で保険内容を変更しない限りにおいては保険料の変動が発生することはありませんので、何かしら追加で費用を負担することはありません。

その一方で、「投資開始時」で触れましたが、支払い保険料は払った年の所得税の計算をする際に、生命保険料控除の対象になります。なお、この保険商品は介護保険でも個人年金保険にも該当しないことから、生命保険契約等の適用になりますが、いずれの商品カテゴリーでもそれぞれ年間 80,000円以上の保険料の支払いはいくら支払っても 40,000円の所得控除となり、もし所得税率が20%の人ならば 8,000円の減税に留まることになります。特に生命保険契約等は生命保険契約ならなんでも適用されがちですので、もし既にこの他の生命保険契約による生命保険料控除を受けているならば当然にその減税メリットはさらに限定され、もしくは全くメリットを享受することができない可能性があることになります。

とはいうものの、減税効果は実質の投資金額の減少にもなるのでないよりはあったほうがお得なのは言うまでもありません。もし仮に前述の前提に従って8,000円の減税効果があったとした場合、年払いで5,365.20米ドル払って 8,000円が戻ってきたとしたら、現在のざっくりレートで1米ドル 115円換算でも、70米ドル弱は帰ってくるので実質負担が 毎年5,295.20米ドルになることから、総額の負担が 52,950.00 米ドルとなり、20年後の早期解約の形で処理した場合20年間3%で運用した成績として 64,597.00米ドルはを回収するとしたら、121.99%と、従来の120.4%とより1.5% ポイント向上することになります。

ちなみに、この計算は、最近はやりの個人型確定拠出型年金をやらないともったいないよ、と言う時に使う計算方法と同じですね。

投資回収時点

やっと、投資が終わって回収するときの話です。これが単純に二つに場合分け出来ればいい話、になればいいのですが。。。

途中解約する場合

元々この商品は終身保険ですので、通常ならば被保険者の死亡もしくは高度障害による保険金の払い出しで終わるのが商品性の意図するところですが、上記で散々書いた通り、かなり貯蓄性の高い商品ですので、被保険者に何かが起こる前に現金化することで運用結果を享受することが意図されて作られていると言ってもいいでしょう。実際、上記でも20年経って解約する場合、と10年で解約する場合、と盛んに計算していますので。。。

では、その場合にどんなコスト等が発生するか見てみましょう。まず、10年を超えた保険契約期間ならば解約手数料相当額を払う必要がないのがこの商品でした。また保険商品ですので、入り口同様特段何か手数料や不動産のような登記コストなどを負担することもありません。

としたら、10年間を最低利回りである3%で運用されていた場合、支払い総額の53,652.00米ドルに対して受取額は52,739.91米ドルになりますので、米ドルで見ると912.09米ドルほど目減りしていますので投資としては損が出たことになります。20年置いた場合には、支払い総額の53,652.00米ドルに対して受取額は64,597.00米ドルになりますので、米ドルで見ると10,945.00米ドルほど増えていますので投資としては利益が出たことになります。

ですが、日本円で考える以上、日本円ベースで損益を計算する必要が出てきます。何故かって?それは所得税の為です。はい、日本にいる以上所得が発生したら所得税の納税義務が課せられます。残念ながら、日本において世の中で一番高い取引コストはこの所得税とそれに関連する住民税です。

では、どうやって円ベースで計算するかというと、毎年の保険料の支払いの際の日本円相当額の合計と、解約返戻金の解約効力発生日におけるTTM(対顧客電信売買相場仲値)の差額で損益を計算せねばならない、のです。解約返戻金の円評価額は単純な掛け算で済むからいいですが、毎年の保険料の支払いはどうでしょう。年払いの場合ですと、過去10回のそれぞれの支払いの際の米ドルを調達した際の為替レートと円で支払った額を全部記録しておく必要があります。もし全期前納した場合は、前納した米ドルの円価相当額を記憶しておきましょう。もし遠い昔の外貨預金や仕組み預金で調達した米ドルを使うならば。。。その当時の米ドルに換えたときのレートで計算してください。外貨投資ってめんどうなのはこれなんですよね。。。

10年で回収する場合、米ドルベースで2%弱の損失ですから、案外円ベースで考えると勝ってしまっているケースもあり得ると思います。20年で回収する場合には米ドルベースで20%以上の利益ですのでさすがに円ベースで負けることは過去10年の円安基調を考えると想定しづらいと思います。

さて、損益が出ましたか?損の場合、一時所得は損失となります。この場合、もし同じ年に他の保険商品の解約などで収益が出たならばそれと合算することで納税対象額を減らすことが出来ますが、そこまで。一応、競馬や懸賞、福引の当選金と合算することは出来ますが、例えば不動産で得た収益(不動産所得や譲渡所得)や給与所得、為替で稼いだ利益(雑所得)などとの合算が出来ません。当然、不動産の譲渡損や、株や債券のように、損失を数年先まで繰越すことも出来ません。

では、利益が出た場合を考えましょう。他の保険商品からの利益などの合算の結果、最終的に利益が出た場合は、その額から最大50万円の特別控除金を差し引いて、それでもまだ利益があるならば、その1/2が所得税の課税対象となって、他の給与所得と合算して累進課税の対象となります。まぁ、利益から50万円さっぴいて、更にその1/2が課税対象なので、今後見ていく株や債券、不動産から見ればかなり優遇されていることになります。例えば、最終利益が30万円だったならば課税されない、ということですし、仮に保険期間の間ずっと為替レートが変わらず1米ドル100円だったと仮定して20年運用した結果は、109万4500円が利益に相当しますので、課税対象は

109万4500円 - 50万円 = 59万4500円

からその半額の29万4500円となり、所得税を20%と仮定するならば58,900円、と利益の5.4%程度に収まる計算になります。有価証券の譲渡益に対する20%課税より全然いいですよね。

余談ですが、なぜ、最大50万円かというと、もし最終利益が30万円だったならば、控除できる額が30万円しかない、と考えるからです。これがもし最終利益が100万円だったならば、最大の50万円を控除してもまだ50万円利益が残りますので最大額を使い切るケースになるのです。

保険金を受け取る時

結構がりがりと計算したりしたので、終わったつもりになっていますし、ここまで読み返すとそれだけも十分飽きるくらいの文章量になってきましたが、このケースもFP的には忘れてはいけないポイントです。というのも、前述のある意味投資目的の使い道が現役世代のための長期投資のツールになる一方で、相続を考えねばならない人たちにとって保険商品はこのケースでの、特に税務上の取り扱いが資産承継の大事なカギを握るからです。

といっても、資料の39ページを見ると分かるように、
契約者:本人 / 被保険者:配偶者 / 死亡保険金受取人:本人
ですと、前述の途中解約の場合と何ら変わりはなく受け取った保険金は一時所得の課税となるので、先ほどの税負担も併せて考えると、これのお陰で保険金殺人事件がなくならない、のかもしれません(苦笑)

とはいえ、これも、例えば、年間110万円の贈与税控除枠を使って向こう10年間、子や孫に60万円ずつ渡してそれでこの保険に被保険者を自分にして加入させることで、資産運用をしながら自分の死亡時に子孫の受取額を大きくする、という戦略に使うことはパンフレットの売り文句にあるようにいい使い道と言えるでしょう。

では、それ以外のまっとうなケースを考えてみましょう。例えば
契約者:本人 / 被保険者:本人 / 死亡保険金受取人:配偶者もしくは子

この場合、税務上の取り扱いは受け取った配偶者もしくは子の相続税としての課税対象になります。この場合、米ドルで受け取るので円価で評価する必要がありますが、その時はTTB(対顧客電信買相場)といって、もしわかりやすく言うならば為替レートが提示されたときの自分にとって安い方(例えば、TTMが100円で、手数料が1円と言われたら、TTBは99円、TTSは101円)になるのですが、この場合TTBで評価してもらえるのは課税対象額を小さくしてくれるという意味ではお得ですね。
また、相続の場合そもそも課税評価額の計算とかそれぞれの相続人に対する課税額の計算が複雑なところ、生命保険金に対する控除の方法はちょっと特殊で、

死亡保険金の総額に対して「500万円に法定相続人の数を掛けた額」を控除した残りが相続税の課税対象となり、個々の相続人への控除額は全ての相続人が受け取った保険金総額に対する自分が受け取った保険金の額の割合分だけ、上記の死亡保険金の控除総額が割り当てられるという計算になっています。ね?概念だけで説明するとめんどうでしょ?(苦笑)

とはいえ、ある程度の資産が見えているならば相続する額と相続税がある程度算出することが可能(というか、しておきましょうね)なので、その相続税の資金負担のために死亡保険金を使えるようにしてあげる、というプランを立てるのも大事です。あ、そうそう、死亡時に銀行口座は凍結されるので相続税の支払いにあてこむのは難しい一方で死亡保険金は直接相続人に振り込まれますので自由に使える、という保険ならではのメリットもあるのです。

あと、最後のケースも考えましょう。
契約者:本人 / 被保険者:配偶者 / 死亡保険金受取人:子

これも、ある意味配偶者の死亡時の資産移転や相続税の支払い対策に使える形ですが、この場合は資産移転が本人から子に行くため相続税対象ではなく贈与税の対象になります。ある意味一番税率の高いカテゴリーですが、他方で、相続時精算課税を使えば(そのためには親は65才以上、子供は20才以上で、予め税務署に届け出ておく必要がありますが)、届け出後親の相続開始までの間の資産の贈与に対してその時々においては総額2500万円までは無税、それ以上は一律20%の課税、そして相続時に生前贈与したという計算に基づき相続額を再計算して税額の精算をすることになります。この保険商品のベンチマークとして使っている死亡保険料が100,000米ドルなので、これだけならば相続時精算課税の枠内で収まる、と考えることが出来ます。

もし、相続時精算課税を使わないで暦年の110万円の控除額だけを使う場合、為替レートを1米ドル100円とすると。。。一番高い、子供が未成年の場合(一般贈与財産用)

(1,000万円 – 110万円) x 40% – 125万円 = 231万円

子供が成人の場合(特例贈与財産用)でも

(1,000万円 – 110万円) x 30% – 90万円 = 177万円

と、17%から23%の税負担を強いられることになります。とはいえ、支払い総額の53,652.00米ドルですから、それ以上の資産の移転が可能になることが分かります。

まとめ

さて、こうやってあれこれつらつらと書いてみましたが。。。保険商品って一般的な金融商品と似て非なるところが多いと感じることが多かった、というのが実際に手を動かしてみて感じたことです。特に最後の贈与のケースでの税引き後ですら単純な資産移転以上の効果がある、と思うと、費用が高いと揶揄される保険商品を回避して自分で3%以上の利回りの商品に投資する以上の意味が費用の支払う対価として評価する必要があるのかもしれません。

さて、こんな感じでいろいろな商品を評価していきたいと思います。
時間はかかると思います。でも、お付き合い頂ければ幸いです。

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