AMLCOとか MLROとか DMLROとか、知ってますか?準備できています? – 多分今ケイマン諸島籍ファンドで一番熱いネタの一つから

Rule is rule

常にコンテンツを書くのが遅い当ブログですので、最新の法規制の話を書こう、とすると気づくと締め切り後になりかねず、というのもありあまり触らないでおこうかな、とか思うこともあるのですが、最近だいたい2週間に一度程度、2000文字に起承転結をちゃんと入れて書かせていただいているサイトがありまして、そこでちょっと文字数少なめに取り上げた表題のネタがあるので、こちらでは普段通りのペースでちょっと書かせていただこうかな、と。クロスポストにならないように一から書きますので損はさせませんよ。

ケイマン諸島のAML/CTFはある意味OECD諸国で最先端(?)

Rule is rule大きく出てみましたが、今回のネタの確信ってここにあると個人的には思っています。何かというと、2018年の6月1日以降にケイマン諸島で設立されたファンドや、それ以前に設立されたファンドについては、その登録の有無を問わず、2018年9月30日までに、専任の Anti-Money Laundering Compliance Officer (AMLCO)、Money-laundering Reporting Officer (MLRO)とDeputy Money-laundering Reporting Officer (DMLRO)を任命して、Cayman Islands Monetary Authority (CIMA)に届け出る義務付けを行いました。

もともとケイマン諸島では AML Procedureを各ファンドが定めて投資家を受け入れる時に AML/CTF (Anti-money laundering / Combatting terrorist-financing) の調査を行うように定められていたのですが、これを一段厳しくして、この投資家 due diligence の遵法確認をする担当者を置き、またもし疑わしい場合には当局に届け出る責任者を定めるように求めた、ということです。

ファンドを設立したことのある人ならイメージはあるかもしれませんが、AML Procedure の導入前を考えると、ファンドの設立の時にファンドのスポンサーに対するdue diligence をファンドの口座開設の際に行い、その際にAML/CTFの側面での確認も行なっていました。他方で投資資金の出し手である投資家に対するdue diligence というのも一応は行なっていましたが、US-FATCA/CRSの観点での税務的側面での確認が主なものでした。となると、実は資金の大きな流れである、投資家の資金に対するAML/CTF的なチェック機能が不十分では、という問題が生じ得るのです。そこで、ケイマン諸島ではAML Procedureを導入するように規制をかけたのです。

とはいえ、その実効性という意味でいうならば、投資家の投資申し込みの手続きでの本人確認を行うのがファンド・アドミであり、現実的にその本人確認のプロセスもそのファンド・アドミの規制を行うその所在国における本人確認の要件に依存することになり、またその結果の疑わしい投資家などの情報収集という観点でも機能しづらいことが見えてきます。そこで、後者に対する対応として今回のAMLCO/MLRO/DMLROの登録制度を導入することとなったというわけです。著者の知る限り、ファンドレベルにまでAML/CTFの義務をここまで厳しく導入している国というのは実はありません。

ちなみに日本はどうなの?

日本におけるAML/CTFについては、世界的なAML/CTFへの対応強化の流れに合わせて、今年3月に金融機関等に対して従前より高いレベルでのAML/CTF対応を行う取引先 due diligence を行うようガイドラインが提示されました。このガイドラインの基本的な作りは政府間機関のひとつである金融活動作業部会 FATF (Financial Action Task Force)の第4次勧告に基づいたものでして、実は来年の後半に金融当局とランダムに選ばれた金融機関や金融商品取引業者へのヒアリングが行われてそのガイドラインの実効性や実務的組み込みの実態を調査されることになっています。特にランダムに選ばれた金融機関等というのが、悪意を持って取引を行おうとする人ならば規制に対して意識が薄かったりコスト的な観点で「狙い目」となる零細業者を入り口に選びがち、という現実を踏まえて、国内の金融当局がお勧めする「規模的にも実務的にも模範」というウィンドウドレッシングをさせない、という現実的なアプローチの検査をされる、ということなのです。

今年の前半あたりからこの辺りの実務、特にリスクベース・アプローチと呼ばれる、顧客の属性(資金の出所が怪しいとか、職業が微妙とか)だけでなく、金融商品取引業者が提供するサービスによってマネーローンダリングとかテロ組織への資金供給する可能性についても評価し、それぞれの可能性の高さによって取引開始すべきかどうか判断する、というプロセスをいかに日本中の隅々まで導入できるかがポイントになりそうです。

他方で、日本では犯罪収益移転防止法に基づく取引時における本人確認が行われてきました。この際、個人は本人確認の出来る書類(運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなど)の提示で済むのですが、法人の場合、個人を隠して取引が可能、ということで、法人の設立を証明する資料やその窓口での取引担当者の本人確認に合わせて、法人の支配的地位にある人(株主や取締役など)の情報を提供することが求められています。この考え方は日本に限らず世界中で同じように法人口座を開設する時にはその法人の支配的地位にある人の情報提供を求めます。

世界基準と日本基準の狭間には

さて、テクノロジーからサービスのクオリティまで、日本は世界の最先端にある、というのがどうも私たち日本人の矜持であり、信じるところではあるのですが、ではこの辺りの規制の実効性や妥当性という観点ではどうなのでしょうか。

FATF が2014年に定めた「透明性並び受益権に関する指針」(“FATF Guidance – Transparency and Beneficiary Ownership”)の中で、議決権保有者に関する所有権比率による基準として、数値的なものは特に決めないものの「例えば25%」と書いてあります。ということは、世界的な取り決めならば25%以下なら数値的にはどれでもよくないか?ということになり、日本は一番ゆるい25%を選んでいることになります。ええ、世界の最先端の日本が、です。

で、オフショアという金持ちの資産隠しのための楽園、ケイマン諸島での情報開示の規制はいくつか、というと、10%です。ちなみに、この10%というのはケイマン諸島だけでなく、オンショア、オフショア含めてかなり多くの国でも採用されていることが知られています。

資産を隠す、というだけではなく資産を世界中に移転させるための口座の開設や移転手続きをするために、その支配的権限をもつ個人の情報をより多く出させているのは、日本よりもオフショアだ、という事実があるのです。

じゃあ、情報を出せばいいじゃないか、と単純に思うかもしれませんが、本人確認資料を準備するのは思うほど簡単ではありません。本人が本人であり、またそこに税金を納めるだけ生活を根付かせている証拠なんてものは、その人の出生地や現在の居住地の発行する証明書であって、パスポートや運転免許証で本当に足りるかと言う問題がある一方、その写しを提出することになる訳ですからそのコピーが「本当にその写しである」という証明、そして日本人なら特に、それらの書類を発行する役所の文書が日本語である以上、「その記載内容が提出先に理解されるように翻訳され、その翻訳が正しく翻訳されている」、と言うことも証明せねばならないのです。(香港あたりだと広東語と英語の表記だからこんな問題はないんですよね。ま、役所が公用語以外の言語で責任持って公的文書を発行できるかどうか、でこう言うところに民間のコストが増加させてるんですよね。国内の手続きの効率化だけに止まらない話ですよね、この英語問題って。)

日本においてファンドレベルでのAML/CFT確認は必要?

さて、ちょっと話を別の角度から見たいと思います。

日本においては通常の有価証券等の取引というのは銀行か証券会社を経由して行われるケースがほとんどですので、これらの金融機関の口座開設時点での調査や継続的なモニタリングによる口座の実質的保有者の素性確認を行い続けていれば、公募や私募の国内投信や会社型ファンドの投資家に関するチェックが間接的に行われていることになるので、ファンドレベルで改めて調査を行う必要はない、と考えることが可能です。だから、日本でファンドレベルの調査なんて不要じゃないか、と結論づけるのはちょっと尚早です。

これらの金融機関の証券口座を作らずに投資できるファンド、というものが存在する、としたらどうでしょう。ケースは理論的には二つ考えられます。

一つは日本に取引口座を開設していない海外投資家が直接投資しようとするケース。これは国内のファンドが海外で募集したら、という話ですが、技術的には国内ファンドをマスターファンドにして、海外投資家向けの外国籍フィーダーファンドを作ってそこで投資家を受け入れる、なんてことがあれば、外国投資家が直接マスターに投資させろ、と言ってもおかしくはない、のです。ま、受け入れないことで事務的に発生させない可能性が高い話ではありますが。。。

もう一つは、現実に今そこにあるケースです。例えば プライベート・エクイティファンドやベンチャーキャピタルファンドで使われる投資事業有限責任組合スキームの場合、証券会社にその持分を販売させる、ということをほぼしませんし、通常よくわかっているプロ投資家相手ですから、直接の取引をするのがほとんどです。

とはいえ、これもいわゆる金商法第63条の適格機関投資家向け特例業務の登録をして一人の適格機関投資家と複数のプロじゃない個人向けの投資家を持ってくるという使い道をすると、プロじゃない個人投資家も直接投資することになります。銀行から組合に送金しながら組合契約にサインすればいいだけですからね。それなりの金額ですから銀行は送金の目的を確認しますが、ファンドのための調査ではなく、自身の取引に対するAML/CTFへの関与の有無のチェックに過ぎないのです。

言い方は悪いのですが、この手のスキームを使って個人から資金集めしたい、というニーズの背景に規制対応が面倒、コストが掛かる、というものが聞こえる一方で、じゃあ、その手間を惜しんで投資家保護の措置をちゃんと自主的に取っているか、といえばかなり否定的に見ざるを得ません。そんな世界ですので、AML/CTFに対する意識があるかといえば。。。

とはいえ、いわゆる63条業者と呼ばれる人たちはまだまし、です。それでもギリギリ法律の免除規定を使おうという努力と、最近ではかなりスタンダードの高くなった年次の事業報告を当局にしよう、と思っているからです。もっとひどい(!)のは、「コンプライアンスのスペシャリストが考え出した完璧な抜け道」と称して使っている「合同会社」を使った投資スキーム(と呼べるかどうかすら疑問な手口)です。金商法上、いわゆる2項証券ということで組合持分と同じ扱いであることから、その私募というのが適格機関投資家ではない投資家は最大500名まで募集することが出来る、という読み方をして、かつ直接縁故的に自分たちから営業せずに受け身にメーリングリストで自主的に申し込ませたりウェブサイトからの問い合わせ、といった、いわゆるリバース・ソリシテーションで合同会社の社員を集めれば募集行為にすら当たらないじゃない、的にやっているケースですね。ここまでくると、自分たちは金商法の外の世界だと考えている節もあるほどですから、AML/CTF意識なんて皆無、というか自身のMLのためにやっているんじゃないか、と思えるくらいです(ごめん、でも、正直そんな話に以前昔出くわしたからはっきり言わせてもらう)。と言いながらも、前述の通り、合同組合の持分は金商法の取り扱いの範囲内です。ですので、会社の事業として株式を取得することだ、といって自己運用するのは、自分の資産のためならばまだしも、赤の他人を巻き込むならば、63条特例業務くらいは届け出ろよ、と言う感じです。でも、これも間違えて投資するとなると、当然証券会社等を経由しないで持分の取得が可能なものなのですからこれらの金融機関でファンドの資金に対するAML/CTFの確認が抜け落ちるケースでもあるのです。

最近このスキームを使って投資家を集めているエンゲージメント投資が数件いると言う話を聞いたので、警鐘を鳴らす意味でちょっと触れて見ました。

まとめ

と言うことを考えてみると、実は金融機関以外にもファンドに資金がプールされて投資に振り向けられる以上は金融機関と同じように資金の流れをカバーする限りにおいてはAML/CTFのゲートキーパーにならざるを得ない、と言う世界的な潮流についていく必要があるのかもしれません。

ファンドを立ち上げて運営する、って格好のいい話です。でも、第三者のお金を責任持って運用する、と言うのはリターンを投資家に提供する前に、それ相当の社会的責任を負う話でもある以上、世の中がAML/CTFに対して厳しい姿勢を打ちだそうとするならば、それに追随するのもファンドがより社会のための器としての認知されるためには当然のこと、とこの投資の世界のエコシステムにいる人たちや入ってきたいと考える人たちに考えて欲しい、と思う次第です。

ファンドの基本- ユニットトラスト型ファンドとその関係者

Unit Trust with Manager for governance
ということで、今回はユニットトラスト形態のファンドについてあれこれやろうかと思います。前回の通り、会社で事業を運営するのと、会社型ファンドで資産運用という事業を運営するのと、本源的にそう違いは無い、そうだからガバナンスと言う点で同レベルのものが要求されるのが自然の流れ、と書いたりしましたが、今回の目標としては、世の中にある、これはお得で凄いんだ、とこれみよがしに考えもなく提示されているコメント、

「信託宣言型ユニットトラストで管理会社を入れずに作ると安くていい」

が如何に安易で投資家に対して思慮の無いアイデアであるかを示して行こうかと思っています。

日本の信託

さて。ユニットトラスト。日本の信託をご存知ならばそれを思って貰えばほぼ同等のものと思っていいのですが、日本の信託法に基づく信託は、

  • 信託会社が受託者として、
  • 委託される資産を
  • 委託者との間の信託契約に基づいて、
  • 受益者の為に保有し管理する

契約関係、とざっくりとした感じでイメージしてもらえば良いかと思います。ちなみに、そうなると投資信託に投資する、という行為は自分が委託者になるのか、それとも受益者?という疑問が起きますが、あなたの投資は、受託された信託契約に基づいて、任命された運用会社(実際はこの信託商品を立案し信託契約を締結する委託者でもあります)が運用契約に基づいて行う運用行為に資されます。ということなので、法的には受益者なので、よく投資持ち分を投資信託の受益権証書とかいいますよね。

日本の信託と海外のトラスティの違い

投資信託で、日本の信託法や信託業法は結構信託会社、特に信託銀行、に高度(過度?)の受託者責任を求めますので、結果的に受託者が海外でいうところのカストディに相当する信託口座の銀行口座と証券口座を一義的に管理し(信託銀行なら自社のリソースでもあるので当然ですが)、アドミニストレーターの機能を行い、当然に信託財産の計算を行い、トランスファーエージェントの仕事である受益者管理もしちゃいます。ある意味ここまで全部が受託者の役割、と云わんがばかりですね。絵で言うならこんな感じ。

海外のユニットトラスト

でも、ケイマン諸島の信託宣言型のトラストだと、何もしないとこうなっちゃいます。

まぁ、なっちゃう、というよりは、せざるを得ない、というのが本音。信託としてモノの所有者にはなるために名義を出すけど、持つツールは事実上ない(キッパリ)という事業なので、一般的には、トラスティが宣言したユニットトラストの目的に沿うような関係者、例えばアドミニストレータだったり、カストディだったり、を指名して契約し、締結(絵の中ではオレンジ色の矢印)します。するとこんな感じ。何となくそれっぽいですよね。

でも、これだと何かが足りない。これでものを持つことは可能ですがいつどうやって取得するか、とか、保有した資産を処分する判断をし、実行するための指示をする人がいない。だって、名前を貸すだけなんだもん、という声が聞こえてきますよね。当然、関係者に手数料を払う指図もしなければ、投資家を含めたステークホルダー利益を守る判断をし、指示をする人がいない。

ということで、そういう役割の人を入れる訳ですが、そうすると、こんな絵になるわけです。この運用する人に資産を動かしたりする権限やら、ファンドの資産評価する人に対する関与の権限を入れたりするわけです。次の図の赤い矢印のように。

で、これを持って、よくある知ったかぶりの「投資家を煽るブログ」やウェブ、モノの本あたりだと、

ここで一任運用会社をいれておしまい。上記の諸々をこの人たちにやらせましょう、そうしたら後述の契約型信託形式に「意味もなく居座る金食い虫の」管理会社が不用で全体のコストが下がってあなたの為ですよ

なんて言う。

実際、そうでしょうか(というか、そんなわけねーだろ)と言うのがここからのミソ。

ユニットトラストにおけるガバナンスとは?

前回の会社型スキームで、取締役会とポートフォリオの運用判断する人を分けないと投資家対して利益相反が起きる、という話をしましたが、この管理会社を外したケースは正に同じ状態。調子がいい時はまだいいものの、気づいたら運用方針以外の「もっと儲かる」と思い込んでる投資に手を出したり、流動性が枯渇したりAUMが激減した時に運用報酬を優先して投資家の利益を後回しにされやすい、のは、

「運用者の善管注意義務があるから大丈夫」

なんて性善説でものを見ているからで、やられたら取り返しがつかないのは過去の幾多の事例を見れば明らか、なんですよねぇ。。。

Unit Trust with Manager for governance

なのでこんな風にユニットトラストの指図権(赤い矢印)を管理会社(“Manager”)に一旦渡して責任を明確にして、そこから資産運用部分の指図権だけ再委任している形にする方がまだ安心、と言うのはこれで(もか、というくらい)ご理解頂けるかと思います。するとファンドの資産評価についても運用者による関与が入らない、従って改ざんも行われない、という訳です。

信託宣言型と契約型信託の違いとは

Bilateral Unit Trustで、これが信託の委託者/指図権者と受託者の役割を最初から分担して契約に落とし込んでいるのが、契約型信託、な訳で、宣言型とちょっと違う程度ですが違いが判りますか?(笑)

違いは、といえば、図で言うならば、前者の宣言型の場合にTrustee から Manager への赤い矢印でしたが、宣言型の場合にはTrustee と Manager との間の紫色の両方の矢印、ですよね。契約の内容で言うならば

  1. trustee が manager にその役割と権限を委任する(一方向の矢印)のが、契約型なので、trustee と manager の間の役割と権限を契約上規定する(双方向の矢印)契約関係に変わった事
  2. trustee が トランスファーエージェントやアドミ、カストディを(ユニットトラストとして)任命していたが、契約型の場合はユニットトラストととして、manager もしくは trustee が任命する(ので、どちらが任命するかは契約次第ということなので絵ではユニットトラストが、という形にしてあります。)

という感じなのです。

公募の外国籍投資信託が求めるスキームでもあるこれ、国内の投資信託と同等の仕組みと関係を求める、という概念に基づいている訳ですが、ファンドのガバナンス、ひいては投資家の保護という概念に立つと機関投資家や年金であっても要求したいレベル感にそう違いがないのが実態でしょうから、投資リターンに影響するから全体のコストを下げたい、という気持ちは理解できないわけでは無いですが、スキームで資産を守るには必要なコストは払うことも理解して欲しい、とあちこちで話をさせ頂いています。はい。

次回は

ファンドの基本三形態のうち、残るは有限責任組合スキーム、もしくはLPS スキームを次にご説明したいと思います。日本ではVC や PE など利用方法がちょっと限定的ですので興味の薄いところかもしれませんが、当然覚えておけばお得なケースもありますので是非ご覧ください。

ファンドの基本- 会社型ファンドとその関係者

前回の宣言通り、今回からファンドの形態やその関係者、その結果としてのガバナンスについて、と、少し意欲的という、まぁ欲張った方針で書いてみようと思います。

そのおかげで毎週月曜にアップ予定でしたがペースが遅くなりました。ごめんなさい。
なにせ、貼付けられる絵を書くのが苦手でして(汗)というか、このところ仕事の休暇中のはずなのに妙に忙しくて。。。

さて。最初は、日本人に親しみのあるユニットトラスト、ではなく、会社型ファンドから始めようと思います。と、言いますのも、この読者ならば株式会社に務めたことのある人が殆どの筈ですから、ファンドの機能やガバナンスと言う点での会社との対比、ということで、進めるほうが判りやすいと思ったからです。きっと誰もこの観点で語った人も居ないだろうし(笑)

会社とは

さて。会社型ファンドの前に会社とは、ですね。
発起人が

  • ある目的(事業)を行う為に
  • 投資家から投資を募って
  • 事業を行う

主体が、株式会社ですよね。

で、これをちょっと細かく書いてみると

  • 会社の目的とか取締役や監査人の数、事業年度や株主総会の開催ルールなどなどを定款に決め、
  • その定款に従って事業を行う為の取締役を決め、株主総会で承認を受けて、
  • 取締役の指示に従って事業を行う為の専門性のある従業員を雇うことで事業を行い、収益を上げ、
  • 年度が終わって監査人が監査の上、株主総会で年度での事業を報告し、承認を受けて、
  • 収益を分配する、
  • 事業が上手く行かなければ従業員を変え、もしくは取締役を変える

などして、事業を達成しようとする、という感じ、ですよね。

で、事業を運営するために、資本金を管理し、必要に応じて支払いや売上を受領する為の銀行口座も開設して資金管理をし、必要に応じて証券口座も開設して運営することもありますよね。

更には、事業活動を記録する、という意味で日々経理処理が発生し、それを最終的な年次の財務諸表の形にし(監査人や、もし上場企業なら外部の監査法人が適切に事業を運営されたか、という監査を経て)株主(や、債権者など)に開示する、ということもしますよね。

そして、誰がどれだけ株式を保有している(言い換えれば、出資した)か、適切に管理する必要もありますよね。上場企業なら株主名簿管理人として信託銀行のどこかが任命されたりしますね。

会社を最低限で作ると

多分、上記がどんな事業を運営する会社であっても最低限、必要となるもの、のはずです。これを図にするとよくあるこんな感じ。

当然、私の作ってきた会社のような非上場の零細企業、いわゆるMBAを取ったタイプの人間(ベーっだ!)が「papa’s and mama’s」と蔑むあれ、あたりでは、金も人もないので

  • 株主名簿管理人なんて居ないし(株主がひとりですが何か?)
  • 外部の監査なんてないし(一人株主、債権者もほぼなしですが?)
  • 取締役自ら仕組みを日々試行錯誤しながら、構築し、変更し、を繰り返して従業員と変わらず(いや、それ以上に)働く(低予算で最大の収益を上げてますが、any question?)

と、絵に描いてみたらこんな感じの

会社のステークホルダー(この場合、利害関係者)が限定少数ならばこそ、ガバナンスがどうの、と、問うことも多くは無い訳ですが、取引が広がって、また、借金して債権者が増え、上場はせずとも株主が増え、日本なら最優先される債権者こと従業員も増えれば、どうしたって会社が適切に運営されて、適切に経理処理されていることがステークホルダーに共通の利益になる(というか、適切にされていないとステークホルダーの誰かしらの不利益になる)ということで、コーポレート・ガバナンス、社内統制というのが大事ですよ、なんて話がこの10年近く叫ばれてきた訳です。(知ってますよね?やってますよね?)

ファンドでは?

で、ファンドに目を向けてみましょう。
ファンドを簡単に立ち上げよう、なんて考えると、最低限ってなにかといえば

運用者が

  • ある投資目的を行う為に
  • 投資家から投資資本を募って
  • 投資運用を行う

主体が、ファンドですよね。

ならば、

  • ファンドの目的とか取締役や監査人の数、事業年度や株主総会の開催ルールなどなどを定款に決め、
  • その定款に従って事業を行う為の取締役を決め、株主総会で承認を受けて、
  • 取締役の指示に従って事業を行う為の専門性のある運用会社を雇うことで投資事業を行い、収益を上げ、
  • 年度が終わって監査人が監査の上、株主総会で年度での事業を報告し、承認を受けて、
  • 収益を分配する

とすればいいわけで、そのために

資産運用を運営するために、投資元本を管理し、必要に応じて証券決済の支払いを収受する為の銀行口座も開設して資金管理をし、証券投資ならば必要な証券口座(先物なら先物口座などなど)も開設して運営することもありますよね。

更には、事業活動を記録する、という意味で日々経理処理が発生し、それを最終的な年次の財務諸表の形にし(外部の監査法人が適切に資産運用が運営されたか、という監査を経て)投資家(や、レバレッジしているならばローンの出し手である債権者など)に開示する、ということもしますよね。

そして、誰がどれだけ投資持ち分を保有している(言い換えれば、出資した)か、適切に管理する必要もありますよね。

 

会社とファンドの違いとは?

 

あれ?これって会社のそれとどこが違うんでしょうね。固有名詞の入れ替えはあれど、基本的にはほとんど変わらないですよね。
ですが、ファンドを簡単に作っちゃおうとすると、こんな絵になっちゃうんですよね。。。

取締役が自分で運用判断をして、実際にそれを執行して、決済して、自分で帳簿つけて資産を評価して、ファンドの純資産を計算して、投資家に報告。いわゆる自己運用、という形態です。これって、企業としてやったら MBA の方達ならば mama’s and papa’s と揶揄するのですが、案外 MBA 出て投資銀行やってそれからファンドを立ち上げよう、なんて始め立ての頃って普通にこれでやっちゃうというかやらざるを得ないんですよね。自分たちとその家族の資金運用で運用戦略のトラックレコードを作らなきゃ行けないのですから。

もっと企業らしいファンドの形とは?

でも、これって、ファンドの内部統制が利いてないですよね。どうみたって。papa’s and mama’s (って順番が入れ替わったけど、どっちでもいいや)なんですから。でも、これが実はまかり通っていた時期ってつい最近までだったんですよね。Madoff が self-administration で問題を起こすまでは(しかも、この場合は監査が入っていたにも関わらず、ですが)。。。

じゃあ、これじゃあ、ってんで企業らしい形態だとどうなるの、というと、一般的にはこんな感じになってきます。
会社が専門性のある従業員を雇うのと同じく、
運用業務を専門性のある運用会社に
資産保有を専門性のあるカストディに
経理/資産評価を専門性のあるアドミニストレーターに
投資家管理を専門性のあるトランスファーエージェントに
監査を外部監査に
と、会社ならば従業員を雇うところ外部のそれぞれのサービスプロバイダーに任せることで、相互監視の中運用業務を遂行していく、というのが会社とファンドの違い、かもしれません。
で、この絵を見ると、もうこれで安心、って思えますよね。全部外部だし。
でも、ファンドの成り立ちを考えると、ファンドのガバナンスという観点でまだ足りていない、絵には見えない問題があったりします。それは。。。

 

ファンドとガバナンス

 

ファンドを作りたい、と思う人は二通り居て、一つは世の中にあるファンドに投資する為のファンドを作りたい、という投資家側のニーズ、もう一つは資産運用したいから投資家から資金を調達したい、という運用者側のニーズがあります。
前者ならば、投資家に近い取締役を集めてファンドを作ります。後者ならば、運用者に近い取締役を集めてファンドを作ります。例えば、運用会社の内部の人間がファンドの取締役を兼務する、など。
前者ならば、投資家の保護、という観点ならば投資家に有利な判断を常にすることになるはずなのでまだ良いのですが、後者の場合、投資家の利益よりも運用会社にとって利益となる判断をしやすい立場に取締役が置かれていることが多いとみて間違いないです。一般には、そうであっても、fiduciary duty があるからしない、と言い張ると思います(笑)が、雇い主が誰であるか、という影響力が高いのは、会社の親子関係における取締役の派遣による人的支配という議論で世の中的に認知されていることから明らかなのです。
となると、会社型ファンドの取締役においても普通の企業と同じく、社外取締役が投資家の利益を守るべく働く事が求められてくるのが必然と見られてきます。
で、よくこの形態になると聞かれる事があります。
「取締役会に、ファンドマネジャーがいないことになって取締役会が機能するのか」
と。確かに、ファンドの目的が運用である以上、ファンドマネジャーの代表がいない会というのが成立しえるのか、という疑問はあるかもしれません。とはいえ、取締役会で運用の巧拙を吟味するよりは、定款や目論見書に定められた運用方針が正しく行われているかをカストディやアドミからの情報で確認し、もしおかしければファンドマネジャーを呼んで説明を求める、という、会社の運営を取締役会でどう取り扱うか、と同じように考える方がすっきりするかもしれません。会社型ファンドと会社との間で、基本的にそう違いはないのですから。。。

 

次回はユニットトラスト

 

ということで、今回は会社型ファンドについての説明でした。
次回はユニットトラスト形態をご説明しようと思いますが、こんなペースなので、もしかしたら1週間以上掛かるかもしれません。そうなったらごめんなさい。ではでは。
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