AIMA Japan フォーラム 2016 、無事終わりました!

白木さん、3年間の会長職お疲れ様でした。

白木さん、3年間の会長職お疲れ様でした。
白木さん、3年間の会長職お疲れ様でした。
このブログを読んで頂いている方の半分は多分ご存知のことと思いますが、このブログの筆者は世界的なヘッジファンドの業界団体、Alternative Investment Management Association (AIMA) の日本での活動の2009年からお手伝いをさせて頂いておりまして(と、今、こちらのウェブサイトでの自己紹介をみて確認しました。もう7年もお手伝いしていたか。。。)、特に私の得意分野、というより、出来ることが翻訳作業とプロセス管理、というところで、業界標準となっているヘッジファンドの関係者の調査をするための Due Diligence Format の翻訳をしつつ、年次で開催しております一日がかりのイベントの担当をさせて頂いております。

今年も東証ホールで6月8日に開催いたしましたが、当日の参加者の方たちから結構好評を頂いたので、ちょっとどんな会だったのか、こちらでご紹介したいと思います。

AIMA Japan フォーラムってなにするの?

ざっくり言えば、一日掛けていろいろなプレゼンテーションやパネルディスカッションを聞くことでヘッジファンドを中心としたオルタナ投資の今、が分かるイベントです。

今年は(気付いたら)特に話の軸になるテーマを決めずに演目が一気に埋まった(というより、アイデアが集まりすぎてスロットを増やすために一つ一つのスロットを35分、と平均的な大人の集中力の持続可能な時間すれすれに縮めて、それでも一つ演目を諦めた、という裏話もあります)のですが、例年はその年の市場の注目すること、例えば昨年ならば「日本でのコーポレートガバナンスコードの導入とその影響」、のようなものを軸にして、それぞれの演目が構成されていきます。

今年は前述の通り特に軸になるテーマはなかったものの、自然とコーポレートガバナンスコードが導入されて一年経ったことに対する評価であったり、アベノミクスの第三の矢の話だったり、投資家の動向調査であったり、当局の規制の直近のアップデートであったり、パナマ文書の影響までも入った、タイムリーな話が盛りだくさんな会になりました。そのお陰もあってどのセッションにおいても会場のかなりの席が埋まる、という大盛況な会になりました。

ちなみに、今回の内容については、オフレコの内容もそれなりにあったこともあり、総括もしないでおこうと思います。じゃないと、来なくてもわかる、では困りますからね(笑)

ちなみに Educational Sessions というのもやってます(笑)

はい、昨年は実はAIMA Hedge Fund Forum として10周年を迎えた年でしたので、ちょっと記念ということもあり、それ以上に、国内での新しい世代の関係者をもっと増やしていきたい、ということを執行委員の間で議論されたこともあって、メイン・イベントの前日の午後の2時間に教育的な無料セッションを行うことで、いわゆる若手の人たちが気軽に参加して学んでもらえるようなイベントを始めよう、という試みがされました。
で、これが思った以上に好評だったので、今年もやったのですが、こちらも登録者数も実参加者数も前年を上回る結果となりました。今年は特に、スピーカーがすべて英語圏の人たち(と言いつつ、一人は頑張って日本語で話してくれましたが。。。)でしたので、英語に自信の持てない人たちから参加しづらい、という声を頂き、急きょ同時通訳を入れることを決めました。それも増員の一因になったようです。

今年はそんなによかったの?

おかげさまで、スポンサー数が過去最高で、事前登録数もスポンサー様による招待を含めて過去最高、そして、実参加者数もまだ正確な数字を見ていませんが過去最高水準になると実感しています。一番席が埋まっていなかったセッションですら空席がそんなに見られませんでしたから。

で、今年はなんでそんなによかったの?

CFA Institutes の CEO は Paul Smith さんといいます。どこかで聞いたことがあるような。。。
CFA Institutes の CEO は Paul Smith さんといいます。どこかで聞いたことがあるような。。。

なんででしょうねぇ。多分、私以上に(笑)オルタナ投資のマニアならば、AIMA とオルタナ投資の分析に関する世界的な資格である CAIA (Certified Alternative Investment Analyst) を提供する教育機関CAIA Association、そして証券アナリストの世界的な資格、Chartered Financial Analyst の組織、CFA InstitutesのそれぞれのCEO が一堂に会した、という世界的にも稀な場になった、というのがあるものの、そんなのは本当にマニア向けの話であって(笑)、

例えば基調講演に、河野太郎国務大臣と日銀の原田委員にそれぞれお願いしたことで、政府と中央銀行のそれぞれから、それぞれの立場で何に注目し、何をしようとしているのかが聞けるのでは、という期待感が高まったから、というのは一つ大きかったのかと理解しています。

また、正直そんなに安くはない参加費用ですのでそれでも聞きたい、と思って頂けた方が増えたのも一因だと思いますが、他方で、過去最大のスポンサー数だったことから、スポンサー各社さんのお声がけで招待されて関心を持って来て頂けた方も自然と過去最高になったのも当然にあるかと思います。

でも、無料だと案外あっさりといかなくてもいいや、と思いがちのところを実参加者数としても通常の会だと70%程度のところを上回るのはいつもながら、本当に関心を持って参加を受けて頂いている方が多いんだな、という熱意でもあり、こちらは開催する側からすれば毎度とても感謝しているところです。

スポンサーの数が過去最大になったことについてもちょっと考えてみたいと思います。実は、毎年スポンサーの方にスポンサーのお願いをするのが年明けも4月の中旬から、というのが過去ずっと続いていました。でも、外資系の会社さんですと翌年の予算は11月くらいにはある程度、日本の企業さんでも3月には決まっている、というのが通常ですので、予め予算を組んでもらえていない状態でお願いをして無理無理出して頂いていた、というのが過去の実際だったようです。

それに対して、今年はアジア地域には11月にアジア地域全体へのパッケージとして、日本国内でも3月になるかどうか、というところで、ある程度の値段的な目安を話しながら予算への組み入れをお願いし始めてみました。
とはいえ、日本の市場への関心が薄ければ当然出して頂けない訳ですから、この環境下でも日本への関心がまだ強い会社さんが多かったんだ、ということが分かったのも、日本に軸を置いて仕事をしている身としては喜ばしいことだと理解しています。

来年はどうする?どうなる?

どうなるんでしょうねぇ。2日イベントにしよう、という声があがってますし、そうなれば個人的にはそろそろ運用者のパネルだけではなくアドミやトラスティのようなファンドのインフラを担当する関係者のパネルを久しぶりにやって、実務的な観点での近年の規制強化への対応について話をして多くの人に理解を求めるようなことをしたいな、と思っているのでそのチャンスも広がるかな、と思っていますが。。。

実際に仕事をしながら会の運営をしていくのは結構大変なんですよ。マジで(笑)
なので、よかったよ、という声を聴くと嬉しいし、頑張っちゃいますが、もう少し一緒に頑張りたいな、という人が欲しいな、というのも事実。なので、業界含めて一緒に盛り上げたい、という方大募集です(笑)

なんにせよ、また来年もこのイベントでお目に掛りましょう!
#って誰に言ってるんだか。。。

7週間でケイマン諸島でユニットトラストを立ち上げる方法

ファンドを作るのは建築物を作るのに相通じる?
ファンドを作るのは建築物を作るのに相通じる?
たまには、最近の仕事のことでも。
つい先週にとあるヘッジファンドの日本国内向け私募フィーダーファンドを設定して国内のとある適格機関投資家様に投資していただいたのですが、ヘッジファンド単体への投資となるフィーダーを一つ、とはいえ、実際に7週間で仕上がりました。これを早いと思うか、遅いと思うか、これでその人の最近のファンド設定への時間軸の感覚が見えてきます。ぶっちゃけいえば、アンブレラ・トラストを一から立ち上げるという意味での新規設定でこれは異様な早さ、の扱いになりつつあります。確かにその昔2週間で立ち上げたこともあるのですが、今は昔。世の中の環境の変化でこれくらいは、というレベル感が変わりつつあるのが現実です。

あ、サブファンドを作る場合はまた別の議論があるのですがここでは本当に一から、ということに限定するものの、今回は、その辺りを踏まえた、最短レベルでの立ち上げについてちょっと振り返りつつ、実はファンドを立ち上げるのってこんなに大変!というのを少しでも実感していただければ、というのが、目標とします。

まず、ファンドを立ち上げるって何をするの?

そもそも、ファンドを立ち上げるって、どういうことを意味するのでしょうか。簡単にまとめると次の通りでしょう。

  1. 投資対象と投資戦略を決める
  2. 上記を実行するためのストラクチャーとその設立地を決める
  3. ストラクチャーに求められるサービスを提供するサービスプロバイダーを選定する
  4. ストラクチャーに基づくビークルの設立や募集のための目論見書、そしてこのビークルとサービスプロバイダーとの間のサービス提供に関する契約を作る
  5. 設立されたビークルの設立地における登記や関係当局への届け出を行う
  6. 必要に応じて、ファンドを募集・販売する国における、販売・募集のための事前届け出を行う

で、やっと募集「は」始められるのです。

で、実際、何するの?

ちなみに、上記のそれぞれについて、今回私がどうしたか、というと

  1. とあるヘッジファンドのフィーダーですので、そのヘッジファンドを投資対象として、ファンドの資産のほとんどを投資して持ち続ける、という戦略になります。
  2. 将来のシリーズ化を念頭に置いて、ケイマン諸島籍のアンブレラ・トラストにぶら下がるシリーズ・トラストにクラス構造を入れてみました。
  3. ユニット・トラストのストラクチャーですので、ケイマン諸島の金融当局に届け出ているトラスティ・プロバイダーで過去に付き合いのあるところをトラスティに、ユニット・トラストのガバナンスと管理監督を考えた場合と将来の公募ファンドの設立も視野に入れることで、信託宣言型ではなく信託契約型を採用するため、管理会社の機能を提供する会社を1社、ケイマン諸島で設立して今回の管理会社とし、アドミニストレーターとカストディとしては以前から付き合いのある、ファンド・オブ・ヘッジファンドのアドミとしてはアジア随一のクオリティを誇る銀行系アドミ会社にそれぞれをお願いすることにしました。なお、このファンドの日本国内での販売のために金融商品取引業者の届け出をしているとある会社さんに販売会社として動いてもらうことにもなっています。
  4. アンブレラ・トラストの設立のために基本信託約款を、今回の戦略のためのシリーズ・トラストを設定するために補遺信託約款をそれぞれトラスティと管理会社の間で締結し、また、シリーズ・トラストと管理会社、そしてアドミ会社との間でファンドの純資産額の算出などの事務管理代行業務に関するアドミ契約を、またトラスティとカストディとの間で資産保全のためのカストディ契約をそれぞれ締結します。合わせて、管理会社と販売会社さんとの間でユニットの募集・販売に関する取り決めを定める販売契約も締結します。ということは、これらの契約書がそれぞれ必要になります。
  5. 今回、ケイマン諸島でのユニット・トラストの設立ですので、トラストとしての登記が必要になるとともに、ケイマン諸島金融当局(CIMA)にMutual Funds Law Article 4(3) regulated mutual fund としての届け出を行います。
  6. 今回は国内の適格機関投資家への募集・販売のみ、ですので当初募集開始前までに外国投資信託に関する届出書を提出します。

でも、これで本当に終わり?しかも、7週間って余裕じゃないの?

いい勘してますね。ファンドのセットアップ = 目論見書を作る、ではないんですよね。ファンドが実際に動き出したら必要になるものも予め準備する必要があるのも、文字どおりセットアップ、です。それは何か、といえばファンドの名義の銀行口座や証券口座を開けること、です。

なんだ、口座開設?余裕じゃん。なんのためにカストディ契約結んでるの?

普通はそう思いますよね。契約を結べば自動的に開けて当然。
そんなのは残念ながら、このテロリストから広域ほにゃらら組織、果ては某国の政府高官関係者 (PEPs – Politically Exposed Persons、という言葉があって口座開設の時には注意するように、と海外ではお達しがでるくらいですからね、マジで)まで、ヤバめのお金の移動を制限しようという世界的な動きがあり、また、FATCA でアメリカのためになんで日本で(ブツブツ)なんて言っていたのは今は昔、FATCA も US- と UK- とが出来、さらにFATCA をその他の多国間への拡張の柱になるの CRS まで、自国の富裕層のお金を国外に逃がさない網をあちこちの国が張り始めた結果、銀行口座を開設するために、自分が誰であることを証明し、もしその「自分」が会社やファンドの場合、設立に関わる関係者が一体誰であるのか(少なくともちゃんと名の通った人なのか、それとも黒い影がちらつくのか)を確認する義務を金融機関は負うことになってしまっているのです。

そのため、口座開設のプロセスとして、そのような資料の提出があってから5週間かかる、というのは、ファンドアドミが銀行口座や証券口座をファンドのために開設するシンガポールやダブリン、ルクセンブルクなどでは普通なことになってしまっているのです。確かに、今思えば2015年の12月に CRS の記事を書いた時にこのことは容易に想像できていたわけですし、実際、その覚悟は始める前にはありました。

もちろん、その提出しなければいけない書類の一つに、ユニットトラストや会社型ファンドならば設立した国での登記証明書が入ってきますが、ユニットトラストの場合、信託約款の署名ののち登記に持ち込むのが通常ですし、他の目論見書との平仄を合わせて作る都合もあるので、その署名を行うのも募集を開始する数日前に他の契約書とまとめて、というのがよくある流れ、でした。しかし、もしそれをやれば、目論見書はできたものの口座が向こう5週間以内は開設できていないので、当初募集期間を始めたとしてもまだ口座が開設されていないので買付申込書に送金先口座を明示することが出来ず、そこで目論見書を交付しても投資家も送金先が明示されないので、申し込んでも入金できず買付不成立、ということになりかねないのです。

と言って、口座が開く5週間を何もせずに待つのか、というと、それも困ったちゃんですが、その時点では他には何も出来ない状態になっていますので待つしかないのです。

ということは、すべてのドキュメンテーションを2週間で終わらせて5週間ぼーっとしてたのか?

いえいえ、無理です。通常、目論見書でもその他の契約書でも、最低4回から5回の加筆修正が必要で、その間には法的/ビジネス的背景を持った交渉が発生します。一回のドラフトの作成・レビュー・修正には最初の二回くらいは一回転で2週間、それから徐々にレビューと修正箇所が減ることで契約書のターンアラウンドの時間が縮まるものの平均1週間と見積もっても、だいたい6週間はかかるとみてよいでしょう。

さて、どうやったのでしょう。

企業秘密です。

というと怒られそうですので種を明かすと、実は契約書類の骨組みとなる信託約款だけ最初の2週間で署名して登記、そこからカストディの審査に入ったのです。
というのも、信託約款で定めるべきことは本当に基本的なこと(ファンド営業日や取引日、ファンドの基本通貨など)だけで、実際の運用等については目論見書に記載することから、ファンドの基本構造だけ先にしっかり固めて信託約款だけ先にすすめることが可能なのです。とはいえ、この基本構造をしっかり固められるか、というと常にできる話ばかりではないのも現実なのですが。。。

しかし、こんなやり方は実際はちょっと乱暴なんですけどねぇ。契約書面の承認を各関係者が二回行わなければならないので手間も増えます(手間は増えてもセットアップってあまり評価されないんですよねぇ。。。やれたかどうか、でしか判断ができないので。。。)し、いくら前倒しにしたところで、5週間で確実に口座が開く確証はないのも事実。さらに言えば、今回はヘッジファンドのフィーダーなので単純でしたが、本気で証券取引をする普通のファンドの場合、証券執行する証券会社に取引口座を開く、とか、発生しますのでさらに複雑にまた時間も読めなくなるので、そろそろファンドの設定を◯週間でやることを投資条件にするのは勘弁してほしいな、とは思うんですよねぇ。予算の都合とかはわかるのですが。。。

オルタナティブ投資のインセンティブ・フィーの計算って(ヘッジ ・ファンド編)

このお肉を切り分けるようにパフォーマンスフィーを分けられるかな。。。
このお肉を切り分けるようにパフォーマンスフィーを分けられるかな。。。
ということで、オルタナ投資のメジャーなもう一つといえばヘッジファンド。
これのインセンティブ ・フィーというのは、サラリーマンにして長者番付トップなんてのをその昔は作り出したくらいなので、それはそれなりに有名な話。

いわゆる 2%/20% (two-twenty) という報酬体系ね。

といっても、もしかしたら未だもって投資信託しか知らなーい、という読者が間違えて来ちゃうかもしれないので、軽い比較を用いて説明するとしたら、

日本の投資信託の「信託報酬」というのはお預かりする資産(通常は純資産、正確に言えばこの信託報酬とやらの前日までの控除後の資産)から、その日の純資産額に信託報酬のレートをかけて日割りすることで差っ引かれるので、いい日も悪い日も、預けている資産ベースで取られます。というか、規制でそう決めてるから、ということでそういう報酬体系でやってね、というのが日本の投資信託だったり、アメリカの mutual funds だったりします。

それに対して、私募というのはそういう縛りに締め付けられないので、報酬だって好きなように投資家と相対で決めることができます。例えば、パフォーマンスフィーのように、元本を超えるリターンをあげたら、その2割はもらいます、とか、最初の 100億までは通常の 75%の運用報酬しか取りません、などなど。もちろん、それらを達成するために運用方針も、投資信託ならちゃんと資産を分散することでリスクを軽減させるようにする、とか無限のロスのリスクを負わないために売り建ててはいけないとか、勝てば倍儲かるけど負けると倍負けるような、レバレッジをかけるためにローンを借りてはいけない、とかすぐに資金化出来ないような資産に投資しないとか、全ては投資家保護の名のもとに規制される様々な縛りを全部取っ払って、ある意味儲けるために手段を選ばないし、その結果反対にゼロになるくらい大きな損を被っても(むかつきはすれど)金融庁などに「インチキだ」と駆け込むことなく、選んだ自分と市場とタイミングが合わなかったんだ、とちゃんと諦められるプロの投資家に対してだけ提供するべくデザインされているのです。

で、本題。

ヘッジファンドのインセンティブフィーってそもそもどういうもの?

前述のいわゆる 2%/20% (two-twenty) という報酬体系。まぁ、これが
1.5% / 15% になってもいいのですが、前者の 1.5% とか 2% という奴はいわゆる基本となる運用報酬、投資信託でいうところの信託報酬なんかに相当する部分。なので、ファンドが勝っても負けても払わなければいけない報酬なので、特段問題はないのですが、後者の 15% とか 20%というのは、当初投資家さんから預かった資金から増やした部分について、15%なり 20%なりを報酬としていただきますよ、という成功報酬に相当する部分なのです。
と考えると、前者はファンドが勝っている時に参加しようが負けている時に参加しようがそれぞれの持ち分に比例して負担額が一定の比率で充てがわれるので特段問題はないです。問題は、成功報酬、というものの習性です。

インセンティブフィーの仕組み

例えば、2/20 のファンドを今日始めます、というタイミングで投資家Aと B と C が入ったならば、みんな同じタイミングですので、それぞれの投資家さんの投資持ち分の単位あたりの元本(例えば便宜上 USD 100.00としましょうか)というのはみんな一緒ですので、成功報酬の計算方法も投資持ち分の単位あたり USD 100.00 を超えた部分に 20%をかけて、何単位を持っているか掛ければおしまい、という単純計算で終わる話なのです。が。

投資家の間で公平に取るには悩ましい問題に化ける。。。

例えば、前述のファンドが一ヶ月経って、ちょっと負けたので投資持ち分の単位あたり USD 95.00 になったとします(以降、単純に投資持ち分の単価あたり、といった場合には成功報酬を含めた運用関連の報酬や費用がすべて控除されていると思ってください。言い換えると、成功報酬の控除前の話をするときには「成功報酬の控除前の」投資持ち分の単位あたり、と前置きますのでご注意を)。そこで入る投資家 D と最初に入った投資家 A (でも Bでも Cでもいいのですが) との違いを見てみましょう。

もし、このファンドがひたすら下がれば、当然成功報酬なんて発生しないで怒りだけが積み上がるので考えなくともいいのですが、翌月に投資持ち分の単位あたり USD 100.00 に戻ったとします。投資家 A の立場で考えると当然元に戻っただけなので成功報酬など発生しません(というか、早く USD 100を超えろよ、と思っています)。でも、投資家 D の立場から見ると、スタートが USD 95.00ですので、USD 5ほどこのファンドマネジャーは稼いでくれたことになります。とすると、20%の報酬に相当する USD 1 を払う必要が出てきます。

更に翌月に投資持ち分の単位あたり USD 104.00になるケースを考えると、USD 100.00から成功報酬の控除前の投資持ち分の単位あたり105.00 で、USD 5稼いでいるので 20% の USD 1を成功報酬を控除して USD 104.00になっているので、投資家 D からすれば USD 95.00から USD 105.00までの USD 10.00 を稼いでいるので USD 2を成功報酬として徴収する必要があるのに USD 1.00しか控除していないことになって、同じファンドの同じ条件で入っている投資家 A (や Bや C) からみると不公平になってしまいます。

Equalisation という年次清算の考え方

さて、どうしたらいいでしょう。

もし、このタイミングで投資家 Dがファンド投資をやめれば、そこで買戻しの代金の一部から 投資持ち分の単位あたりUSD 1に相当する額を追加で控除して払い出せば調整終了となりますが、これではファンドから出るときだけしか回収できないので、ファンドマネジャーとしてはそこまで待っていられないし、未回収の USD 1 から複利で運用している/されている状態なのも監査の観点から見てあまり健全とはいえないかもしれません。

そこで、財務年度末にこのような不公平を是正する Equalisation ということを行います。このケースの場合、USD  95から USD 100 に持ち上げた分の成功報酬に相当する投資持ち分の単位あたりUSD 1をファンド(を経由してファンドマネジャー)が回収するには、相当額分の投資持ち分を強制に買い戻して、その買戻し代金を追加の成功報酬分として徴収するのです。こうすれば、次の財務年度の開始時点では投資家Dは他の投資家 A (やBやC)と同条件になるのです。

まぁ、これはまだわかりやすいシナリオでの調整の仕方です。ですが実は、もう一つの厄介なシナリオがあるのですが。。。

いつでも公平に取る、というのはややこしや。。。

前述からの例で行くと。。。今ファンドの投資持ち分の単位あたり USD 104.00でしたね。ここで投資家 E が入ったとします。

で、このファンドが USD 108.00 まで上昇して財務年度末を迎えたとしましょうか。ちなみに、この時、成功報酬控除前の投資持ち分の単位あたり USD 110.00 になります。 って、計算が面倒なので都合のいい数字を使っているのがバレバレですが(笑)

そうすると、投資家 Aから Cについては、USD 100.00から入って、USD 110.00まで稼いで貰ったので上昇分のUSD 10 (=110-100) について成功報酬を 20% 、すなわち USD 2 (=10 x 20%) を払うので投資家の手元には USD 108 (=110 -2 )残ることになります。
Dについては、先ほどの強制買い取りのルールでちゃんと調整された後 USD 108になるので割愛しますね。

で、問題は投資家E。単純に考えると、USD 104で入って、そこからの上昇分に対して成功報酬を払えばいいのだから、となるのですが、計算ロジック上この投資家Eの基準点はどこになるのかが悩ましい。というのも、お気づきかもしれませんが、ファンドの取引価格に成功報酬を控除した後の価格で表示しているようにみえるのですが、成功報酬の計算が関係する以上どうしてもパフォーマンスを控除前で考えておくほうがフェアな計算が出来そうなので、そちらで考えてみましょう。実際、ファンドマネジャーも控除前の資産を運用していて、成功報酬は経理上の数値に過ぎず、報酬が支払われるのは少なくともequalisation を行う財務年度末以降なのですから。。。

投資家Eが入るタイミングでは控除前はUSD 105、財務年度末は USD 110 なので 5 儲けたので 1 (=5 x 20%) が成功報酬として支払われるべき、となるのですが、控除前が USD 110 となると、この投資家 Eだけ控除後の値段が USD  109 (=110 -1 )となるので他の投資家の USD 108 と調整 (equalisation) が必要になります。調整すべきは USD 1。これはどこに隠れているでしょう。。。

あ、控除前の USD 105と控除後の USD 4の差ですね。

言い換えると、投資家 E は投資する際に、控除後の USD 104 をファンドに入れるのではなく、控除前の USD 105 をファンドに入れていることで初めて、というか他の既存の投資家AからD と公平になるような、上記のシチュエーションが出来上がるのです。

でも、この USD 1はどうしましょうか。投資家 E に equalisation の時に返しましょうか。いえいえ。せっかくファンドにお金を入れて頂いているので、これはequalisation の一環として、財務年度末時点の単位あたりの価格で強制的にこのUSD 1で買っていただくことで調整します。このUSD 1 に相当する部分は equalisation credit と呼ばれています。なぜでしょう。その理由は上記のシナリオがバラ色すぎるからなのです。

というのも、次のケースを考えてみましょう。
控除後がUSD 104、ということは控除前が USD 105 で投資家が Eで入り、財務年度末に USD 100と、設定当初に戻ってしまった場合です。この場合、投資家 A/B/C の立場で考えると、成功報酬の控除は起きませんね。なにせ、USD 100で始まって USD 100で終わるのですから。では、投資家 Eの場合はどうでしょう。単純に控除前が USD 105で始まり、控除前が USD 100で終わっていますので当然成功報酬を支払う必要などありませんね。目減りしているくらいですから。

でも、ちょっと不思議ですよね。投資するときに成功報酬控除後の投資持ち分の単位のパフォーマンスをみて良さそうだから投資すると決めたのに、いざ入ってみると成功報酬の控除前の単価で入るなんて。これでは投資家 A のこの期間のパフォーマンスは -3.84% (=[100/104 – 1] x 100) なのに、投資家 Eだけ同じ期間で -4.76% (= [100/105 -1] x 100) となっておかしくなります。といって、入るときに控除後の USD  104しかいれない、となると前述のように投資時点での他の投資家と条件が同じにならなくなるのです。

そのため、控除前の価格で入るものの、控除後の価格とequalisation credit を持つ、ということで、従前から入る投資家と条件を公平にする、という手当が必要になった、というもので、強制買い付けは equalisation credit が途中で入ってからequalisation されるまでの間もファンドに資金として入っていることからそのまま運用資産となるため持ち分に正式に組み入れる手続きとするためなのです。

ただ、儲かっているときは、まぁ、いいですよね。問題は負けたとき、です。上記の負けているシナリオのように、equalisation creditは消滅するリスクを負っています。まぁ、既存の投資家の同じ期間の成功報酬控除前の持ち分も同じ状態ですから一緒といえば一緒、なのですが、投資家Eの gross の投資評価という観点で見るとどうしても、これは -3.84% の運用ではなく -4.76% の運用、と見ざるをえないことは否定できません。

まぁ、儲かっていれば、なんて言ってしまいましたが、よくよく計算すると、アップサイドのシナリオでも、投資家 A のように成功報酬控除後でUSD 104->USD 108 となった場合は 3.84% ですが、投資家E の観点では結局 USD 105->USD 109 (USD 104->USD 108 に equalisation credit の USD 1がやっと投資持ち分換算されるので 108+1 = 109 と同じ) の3.80%になります。後から入ると実はちょっと不利、のように見えますねぇ。でも、最初から、もしくは各財務年度末にリセットされたところから最大 11ヶ月の遅れて入ってきた分様子見をして入ってきている訳ですから、この分だけリスク・リターンの上で調整されている、と思うほかないかもしれませんね。

ヘッジファンドを公募に!

さてさて。
ヘッジファンド投資って、それでも絶対リターン追求という観点で魅力的なので公募ファンドで募集したい!なんて声がそれでも聞こえるのですが、じゃあ、単純に日本の公募ファンドで海外のヘッジファンドを買ったら実現できないか?というと、諸般の事情で出来ません(きっぱり)ダメな理由をもしあげるとするならば。。。

 

  • 公募投信の投資できる海外ファンドの制限があって、例えばファンドで出来る借りいれは純資産価格を10%を超えてはいけない、とか、空売りは純資産価格を超えては行けない、など、公募投信そのものの投資制限とほぼ同じ制限があるので、通常のヘッジファンドの運用方針にそぐわない
  • 流動性の観点で、通常日次流動性を提供し、一般的に当日買い付け/買い戻しを受け付けて数日後に取引の決済を行う公募ファンドに対して、通常のヘッジファンドが月次流動性で、買い付けは取引日の数日前に資金の送金と同時、買戻しは取引後から数週間から一ヶ月以上後、という大きなギャップがある

のが一般的な理由なのですが、今までの成功報酬も一般的な日本の公募ファンドや私募ファンドで買い付けるのに難しい理由の一つに挙げられます。というのも、追加型のファンド、すなわちいつでも投資できる(というか、投資機会が設定時一回きりではない)ファンドの場合、投資家が複数、しかもバラバラのタイミングで投資してきたとします。しかし、海外のヘッジファンドの立場からすると、バラバラに日本のファンドが追加投資してきているだけ、にしか見えないため、国内のファンドの個別の投資家の間の成功報酬の調整を国内ファンドレベルでせねばならなくなるのですが、通常、そのような個別の管理は出来ない、というのが一般的です。ですので、もしやるとしたら、各投資家が同じ条件で入れる単位型、すなわち設定時のみ投資可能、という場合のみになるのです。なので、もし継続的に投資したい、となると、毎月毎月単位型を設定していくことになるので非効率、というかコストが高止まりしてしまう、というのが実務的な現実のようです。

OPERA、お好きですか?

OPERA と言っても、オペラを聞こうってわけではないですよ。

<div<金融の、しかもオフショアのファンドの話だけをする、って宣言したのに
なぜ、著者に似つかわしくないオペラの話をここでしようとするのか?

と、思ったあなた。正しいです。無理です。ご安心ください。

出来ません

でも、Open Protocol Enabling Risk Aggregation というファンドのリスク管理の為のオープンなデータ通信に関する取り決めについてなら、ちょっとは話せますが、聞いちゃいますか?

ファンドの世界のOPERAってなに?

さて、OPERA。左記のリンクに飛べば分かるのですが、ヘッジファンドのリスク分析をやり取りする為の情報フォーマットをオープンソースで決めましょう、ということで、著名なファンド・オブ・ヘッジファンドの運用者や、プライム・ブローカー、アドミニストレーターやヘッジファンド・データベース/リスク分析会社、などなどが参加してますね(Working Group を参照の事)。で、この目的は、といえば、共通のデータフォーマットでやり取りすればリスク分析等を行う時に簡単にデータベースに取り込みやすいからいいよね、というところでしょうか。確かに、フォーマットも何もないと、どの情報を、どの位置に、どの計算根拠で、なんてことをそれぞれの作り手に聞きながら、データ取り込みのマッピングを個別対応させたり、計算方法の違いの調整をしたり、なんて、手間が増えますからねぇ。その意味では共通フォーマット、というコンセプトは皆の為、ではありますな。

で、中身を見ていくと(download から、あなたの所属等を開示したら提供されます)、最初にファンドやその運用会社に関する定量的情報をいれるフォーマット(ちなみに、人間が読みやすいように Excel フォーマットと、コンピュータが理解しやすい XML 言語と二つありますので、ご自分の属性にあわせて見ていく方がよろしいかと。。。)、続いて、株式ポートフォリオについてのパフォーマンス分析、セクターアロケーション分析や発行体の地域分析、所有銘柄 top10の一覧、などなどが 入っていきます。続いて、債券ポートフォリオ、CTA 向けの先物市場、などなど、アセットクラス別にそれぞれ似たような分析情報を入れるコラムが続きます。

マニュアルも読むと分かりますが、計算式もちゃんと定義されているので、ポートフォリオ情報が SQL データベースにでも奇麗に入っていればロジックを組んで吐き出させれば出来てしまいそうです。

で、どんなご利益があるの?

が。これ、究極的には誰の為、なんでしょう。個人的には FoF がリスク分析をする為に、シングルの運用者、もしくはそのアドミか PB あたりに出させる為の共通フォーマット、程度にしか見えてこないんですよねぇ。まぁ、個別投資をしている機関投資家やSWF なんかも恩恵を受けるとは思いますが、シングルのアドミや PB から見れば運用者からこれに対応するリスク分析をOPERA フォーマットで作って送って欲しい、なんて言われそうですからねぇ。。。

個人的に思ったこととしては。。。うーむ。いまいち。

あと、これでは銀行投資家の要求する BIS 規制に対応するレポーティングには全く使えません。債券とかの分析で発行体の分析を格付け別に行う、なんてこのフォーマットはしませんからねぇ。BIS 規制の要求するように格付けごとに分類するならば、個別の四半期末におけるファンドの保有するアセットや負債などの情報提供を求めにくる、ことになるんだと思います。まぁ、OPERA フォーマットのリスク分析については、これを使うのは銀行だけではないですかねぇ、FoFなどの事情が前に押し出されるでしょうから。。。

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