金商法第63条に基づく適格機関投資家等特例業務を行うファンドの規制変更 – 法規制のバックドアを抜けた先にあるものは?

扉の向こうに待つものは?
金融商品取引法(以下、略して「金商法」と参照するかもしれません。って、契約書みたい。。。)といえば、日本における金融商品取引の要、と言える法律であり、これに沿って日本の金融行政が動いているわけですが、行政の思惑と、プレイヤーの希望とが常に一致する訳はなく、時として一方的な規制変更、得てして規制強化において
「当局の規制が余計な負担ばかり増やして効率的な業務遂行が出来ない!」
「規制が高すぎて参入出来ない!」
なんて言い訳や恨み節をつい口にしがちなのも事実。

そんな中、その規制の変更に関して業界からの物言いなどのお陰で一旦差し戻しになり、2年掛けてようやく日の目をみる規制変更が、この記事を書いている2016年2月の翌月である3月1日から施行されるものがあるのです。案外当局もちゃんと市井の声を聞くんだ、なんて思ったり(笑)

それが、表題にある金商法第63条に基づく、適格機関投資家等特例業務に対する規制の変更なのですが、事実上規制強化なので色々な形で「困る」という声を聞くのも事実です。あちこちで聞きます。マジで。

でも、個人的にはそれでいいんじゃないの?と思うところも多く、なので、過去の記事においても何度となくこの特例業務に対してそういうバックドア・アプローチの人たちに対して厳しいコメントをしているのはお察しの通りです。ちゃんと読んでくれてれば、そういうお手伝いはしないことはわかっていただけるのですが、どうも世の中には、背景はどうであれファンドを作ってしまえば手数料稼げるからいい、程度に思っていたり、そもそも読まずに問い合わせをしてくる人もいらっしゃるので、なーんか一緒にされてしまっているようでもあることから、ちょっとそのあたりの線引きをする意味も含めて、この記事ではこの点について書いてみようかと思います。

そもそもこの特例業務ってなんのためにあるの?

ファンドを作って、投資家を呼び込んで、その資金を運用する。その一連の流れにおいて、金融業という規制業種においては一人で全部をやることが「出来ません」。

  • 「作る」は法規制等から投資家と運用する人との間の利害関係を調整する役割を果たす「弁護士」さんをはじめ、もしまともなファンドを作るならば、資産管理をする「トラスティ」/「受託銀行」や「ビークルの取締役」とそこに任命された「カストディ」や「銀行」、またその運営の実務を担う「アドミニストレーター」などと一緒に相互監視のもとで作り上げます。
  • 投資家を呼び込むのは、その投資家持分として提供するものによって株式形態か投資信託証券のような第1項有価証券ならば「第1種金融商品取引業者」が、LP持分や匿名組合出資持分などのような第2項有価証券ならば「第2種金融商品取引業者」が、それぞれ投資家に対して商品の説明義務を負いながら勧誘行為を行って、投資家の同意を得て投資してもらうことになります。
  • そして、実際の運用も第三者の資金を、いわゆる善管注意義務を払いながら投資対象を選別して投資することの出来る体制を整えた「投資運用業者」が行うことになります。

上記は日本ではまだ規制業種になっていないものもあります(ファンド・アドミニストレーターがそれに当たります。)が、海外では第三者の投資資金の管理・評価を行うことを重要視して認可制になっているケースが増えていますので、その意味ではどれ一つとして、「自分は出来るんだ!」という根拠のない自信だけで出来るビジネスではないものばかり、と言ってもいいでしょう。

とはいえ、現実を見ると厳しすぎる

ただし、実際にそれぞれの役割について、日本で登録しようとしても、必要となる法人を作り、資本金を準備し、人的資源を配置し、また、事務所を構えて、としたところでやっと登録の受付が行われ、数ヶ月から1年程度の登録のための当局とのやり取りをしている横で、本来やりたい業務が出来ないので収益源がないまま耐えねばならない、というのは実際のところ厳しすぎる、という声が出ても仕方のないところでしょう。
事実、それが新規プレーヤーの参入規制になっているのも事実ですし(言い換えると、既存のプレーヤーは守られている、という見方も出来るのですが。。。)、規制の比較的緩いとされる国(シンガポールですかね。でも、緩かったのを厳しくしたので、さらに緩いラブアンやタイあたりにさらに移動したという話も聞こえてきています。香港はちなみに言う程はゆるくないですよ。)に人が流れたのも隠しようのない現実でもあります。

で、当局はどうしたか

Rule is ruleそこで、二つの方法を提示してきました。一つは、金融商品取引法が導入された 2007年のタイミングから導入されたこの金商法第63条に基づく適格機関投資家向けの特例業務による簡易な規制のレイヤーの導入、もう一つは投資運用業に運用資産などに制限をかけた、いわば lite version の投資運用業の制定、でした。後者はざっくり言えばプロ投資家向けの運用会社の設立を促進して、成功したら、フルスケールの運用会社に登録変更してもらう、という投資運用業の育成の目的が背景にあったのですが、他方で、このコンセプトが合うのがヘッジファンドの運用業者で、プライベート・エクイティのような自らが GP会社になって運用するケースにはそぐわないようで、PE やベンチャーキャピタルはもっぱら前者を使い、正しくリスク評価が出来る機関投資家のようなプロ向けのファンドを組成、募集、運営している、という線引きが出来ていました。

ところで、そもそもこの特例業務って何を指すの?

先ほどの、ファンドの流れを思い出して欲しいのですが、一番肝になるのが、「投資家を呼び込み」、「その資金を運用する」ことでした。金商法が証取法と呼ばれていた時には、自分で会社を作り、自己募集によって投資家を集めて、その会社の取締役としてその判断により資金を自己運用するという建てつけでファンドを運用していたケースが大きかったのです。この特例業務はある意味その延長線上にいて、本来金融商品取引業者の必要なところを自己募集することが出来、投資運用業者が運用するところを自己運用出来るように特例業務の扱いにした、のです。そのため、本来規制の下に置かれるべき役割が規制から外れる以上、投資家側がそのリスクが許容でき、またリスクを判断することの出来る適格機関投資家や、少人数の一般投資家に限定されるようにしたのです。その根底にある考え方は、投資家保護にあるわけです。

でも実際はどうだったの?

この特例業務、前述のようにPEや VC といった、プロしか居られない世界ならば、本来想定した通りの使われ方をしていましたから、そこに問題があったわけではありません。問題だったのは、先ほどの記載にもあった「リスクが許容でき、またリスクを判断することの出来る適格機関投資家や、少人数の一般投資家」の最後、少人数の一般投資家、だったのです。本来の意図としては、プロ同等の経験を持つ運用者個人などを想定していたのですが、金融庁の無登録で金融商品業を行う者の名称等についてにある通り、少人数で想定されている49名を超える一般投資家にアクセスしたりするなど、一度この登録をしたら法規制を逸脱して募集行為を行うことが出来てしまう「バックドア」が出来てしまったのです。その結果、消費者庁を始め、消費者保護団体からこのスキームを使ったファンドによる被害の報告をたくさん受けることとなったのです。

バックドアを閉めるには?

2014年の見直しのためのワーキンググループで一度このバックドアを閉める、すなわち
  • 形式上、適格機関投資家が入ることで特例業務が成立してしまうので、例えば知り合いの同種の投資事業有限責任組合に入ってもらう、とか
  • 入る予定です、といいつつ最終的に入らない、とかのように
本来入るはずだった投資家が入っていない状態を作らないようにする、こともあったのですが、事実上ヘッジファンド用になったプロ向け投資運用業者がプロ投資家だけと仕事するように、PE/VC用の特例業務も適格機関投資家にだけ提供する、くらいの厳しさが必要では、という声すら上がったのは、特例業務を適用するスキームが投資事業有限責任組合か匿名組合といった、一般投資家では理解できないスキームを使い(とはいえ、スキームが難解だから被害が出るわけではないのです。理解できないものの上で理解できない投資をするとなれば、何を理解して投資させたのか説明がつかない、というもっと深い問題になるのです。)被害が発生したと考えれば一般に複雑とされる金融商品に一般投資家を近づけてくれるな、というメッセージが発せられてもおかしくはないのです。

とはいえ、バックドアが必要な人もいる。そして国もまた然り。

とはいうものの、この時の結論はとある一部の人たちから大問題だと声があったのです。それはVCへの投資を行なっている個人投資家や自己投資をファンドへのコミットとして行っていた運用者たちからすれば、VCのようなリスクの極めて高い投資に正しく投資する層がそもそも厚くないのに、その大事な一部すら規制で外されたのでは投資が続けられなくなり、結果として新興企業の育成の妨げになる、のです。当然、国内の事業育成は国の重要課題でもあるわけですから、この声は一般投資家の被害と同じように無視できないものとなり、一度パブリックコメントを受けてそのまま施行、となったはずのものは一度取り下げられて、このいわゆる普通な資力もリスク許容度もない一般投資家を外して保護しながら、リスクの取れる個人投資家をどのように取り込めるか、というものすごく難しい問題に向き合うことになったのです。

結果、来月からどうなるのか?

この同じ個人なのに、リスク許容度の異なる二者を分ける、という問題は
  • ファンドの運用者の関係者
  • 金融資産を1億円以上持ち、証券口座を1年以上保有する個人
  • 業務執行組合員等として投資性金融資産を 1 億円以上保有すると見込まれる個人
を個人が入るときの適格機関投資家以外の投資家の条件としたことで一度妥結したようです。確かに、これなら、ファンドの運用側の関係者ですので、やっていることを理解しているだろう人でしょうし、証券投資の経験が1年以上で金融資産も1億以上であればリスク許容度も高いだろう、という判断になったのでしょう。
この他にも、ベンチャーキャピタル特例、というベンチャーキャピタル投資の特例が導入されたり、投資家保護がなされていない場合には特例業務が認められない、ということで、適格機関投資家に投資事業有限責任組合だけではダメ、とか外国法人も国内に代理人を置くことで逃げられないようにする、などの手当てがなされています。
それ以上に重いのが、届出書の内容の拡充、でしょう。その意味では、本来軽減させるべきところも、ビジネスへのコミットメントをするべく当局等をちゃんと向き合わねばいけない、というメッセージが出てきた、ということなのでしょう。

まとめ

結局、業として特殊性のあるビジネスを行うのが金融業である以上、コストや自分がやりたいタイミングだけの理由で、規制当局と向き合わない方法を選択する、というのは、対外的にはあまり好ましくないメッセージを発している、と理解した方が良いのだと思います。特に投資を過去に何度となくしている適格機関投資家の多くは、多くの運用者を見てきていることを考えれば、法規制の中で事業を行うというのがビジネスへのコミットメントを示している、と解し、逆にそうでないならば、そうでない理由があるだろう、と自然と考えるでしょう。
残念ながら、ヘッジファンドを含む、オルタナティブ投資の世界は以前とは比べ物にならないほど、大きくなり、結果として投資家から institutional player の体制を整えていないならば投資するに能わず、と判断されるのが趨勢です。実際に、特例業務を使ってファンドを運用している人でその先にステップアップできる人はいないわけではないものの、ほとんどおらず、残りは信頼できない、というように見られている、のです。
であれば、ビジネスにコミットして将来大きく運用したい、というのであれば、特例業務のような exemption を武器にすることなく、多くの運用者と同じく、規制と真正面から向き合う、そんな道を進むべきであり、進んでいることを明示すべき、なのだと思います。
そういう人であれば長期にわたって信頼関係を築きながらお手伝いしたい、そう思っておりますのでお声がけください。

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