[投資のコストと効果] 保険商品の場合 – 積立利率変動型終身保険の場合

あけましておめでとうございます。
本年も当ブログをご愛顧のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

さて、今年から新シリーズを始めてみようかと。。。

前振り(笑)

保険商品って複雑だから。。。

年の瀬押し迫るある日、久しぶりに Prestia 大手町支店に行きました。というのも、長年使って来た ATMカードの磁気が読み取れなくなったようで、ATMで使えなくなったので再発行してもらうことにしたのです。

隠す話ではないのですが、私が社会に出て金融の世界の第一歩を踏み出したのはこの Prestia の元となるシティバンクの、最初はディーリング・デスクのバックオフィス、そこからリスクに異動して、最後の数年はこの大手町支店を含めた個人金融部門で販売されていた投資信託の輸入や事務サポート、販売支援システムの運営などをしていたのがもう16年も昔のことになっていました。

そんな昔話をちょっとしながら、昔のサインを思い出しながら書いたり(苦笑)しながら、当然対応してくれるスタッフさんは間持たせも含めて、保険商品とか不動産ローンとか何かお手伝い出来ないですか、なんて話を振ってくれるので、一応FPでもあるので、保険商品って投信よりもフィーが高いから銀行さんとかのインセンティブになるよね(だから投信を積極的には売って貰えないじゃない?(笑))、とはいえ勉強のために頂きますよ、と最新の取扱商品の資料などをもらって支店を後にしました。

そこで、ふと、思い出したのです。FPとしての目線は世の中にある資産運用・管理のための商品を理解して提案するところにある一方で、金融商品のストラクチャリングを生業としてやっているもう一人の自分の目線には、如何にして商品のフィーを合理的な範囲で下げることが出来るのか、もしくは、どこに(特に法外な)費用負担が潜んでいるのか見つけ出すことにあるのです。としたら、多分そういうそれぞれの商品に掛かる費用を横断的に分析することはFP的には商品提案としては大事だし、商品設計する側から見ても、どこで比較されるのかを理解することで強みを出していけるようになるのでは、と。

ということで、商品投資のステージごとにどんな費用負担が掛るのか、分解して説明していきたいと思います。本来ならばオフショアファンドを取り巻くネタを一貫してここで紹介すべきでしょうけれども、そんなに新しいことがある訳ではないので、それを期待して本ブログに来る人には申し訳ないと思いつつも、そういう商品の選択範囲のひとつとして海外籍のファンドというのがあって、と思ってもらえれば、幸いです。

さて、その第一回目ですが、折角保険商品の資料を頂いたので、それを読み解きながら保険商品って金融庁の森長官がいうように「コストが法外に高い」(笑)と言えるのか見てみたいと思います。(まぁ、彼が高いと言ったのは変額年金保険という投資信託の性質の強い保険商品なのですが、他方で、あのひとことで保険商品全般に高いイメージを作った可能性もあるので検証すべきところかもしれません。)

今回取り上げるのは、せっかく窓口で紹介してもらったこともあるので、こちらの積立利率変動型終身保険と呼ばれる商品にしたいと思います。あ、ちなみに、リンクを張っていることは私がお勧めする、という意味とは限りませんのでご注意を。

商品性をまず確認

さて、この手の商品を考えるにあたって、ざっとどんな経済効果があるのか見てみようと思います。多分に分かりづらいと言われそうですが、概略を説明しているのが、このリンクの先の契約締結前交付書面(契約概要・注意喚起情報)兼商品パンフレットの23ページ目にある商品の概要を追ってみることにしましょう。

保険商品なので、(1) 保険料をある一定の期間払い続けたのち(2) ある一定のライフイベントに基づき保険金が支払われる、というのが一般的ですが、この商品も(1) 「年払込満了」として、10年間もしくは15年間として一定に定められた期間、もしくは「歳払込満了」として、55歳から90歳までの5歳刻みで指定する年齢まで契約開始から継続して保険料を毎年支払い、(2) 被保険者、すなわちこの保険契約の支払い条件として判断基準となる、契約者、契約者の配偶者、もしくは契約者の二親等以内の血族の人が亡くなるか高度障害を負った時に、一定の保険金が支払われる、というものです。と言っても、イメージが湧きづらいでしょうから、13ページから16ページを見ながらイメージをつくってみましょう。

ここで、あなたが46歳男性、だと仮定すると、男性用のページである13ページの左端にある契約年齢が16歳から70歳までを前提にした表ができていますが、この時、46歳の右横にある数値は5,365.20米ドルという記載になっていると思います。この13ページの他の情報からこの保険商品の前提が「男性、年払いを10回、被保険者の死亡もしくは高度障害を負った時の受け取り保険金額 100,000米ドル」となっていることが読み取れることから、そのような条件の保険商品に46歳男性が加入するには、年に1回ごとに5,365.20米ドルを支払い、それを10回支払う必要があって、そうすればこの「合計最大支払額」 53,652.00米ドルに対して、被保険者が死亡したら 100,000米ドルを受け取ることができる、というように解釈できます。

さて、ここで二つほどポイントがあります。一つは、20ページの一番最初に書いてあることなのですが、上記の年払いを10回行う義務を保険契約者は負っているにも関わらず、もしその10回の途中で被保険者が死亡する、もしくは高度障害を負った場合にはそれ以降の保険料の支払いが免除になって保険金を受け取ることになる、ということです。ですので、上記ではあえて「合計支払額」ではなく、「合計最大支払額」と書いたのです。この点が保険商品とその他の金融商品との大きな違い、と言うところかもしれませんし、その分、金融商品的に言うならばオプションを買っている訳ですので、少なくともそのオプション料を保険料の中から支払っていることを理解する必要も出てきます。

ただ、この保険に入るときにその10年以内に死亡する可能性が予見できるから入ることはあまりなく、むしろ次のポイントがメリットとして検討され(またこのパンフレットでも強く前面に押し出されてい)る点でしょう。それは、「払い込まれた保険料の大半」が解約返戻金の原資に当てられているため、例えば13ページの解約返戻金の割合について、常にこの契約の最低保証利率である3%で運用されたとした場合、契約開始後20年で 120.4%となり、解約返戻金が64,597.00米ドルになる、というものです。当然積立利率とこの資料で称している運用利回りが上昇すればこの解約返戻金の割合は上昇し、契約開始後20年で、常に3.5%であれば132.5%、4.0%ならば145.7%になるという計算結果を提示しています。

ここでいくつか気付くべきところがありまして、もしこの保険商品と同じく毎年 5,365.20米ドルを積み立てながら、積み立てたお金を単純に3%で運用していくならば

  1. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.3439倍に
  2. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.3047倍に
  3. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.2667倍に
  4. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.2298倍に
  5. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.1940倍に
  6. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.1592倍に
  7. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.1255倍に
  8. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.0927倍に
  9. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.0609倍に
  10. 年目の支払額は10年目の終わりに 1.0300倍に

にそれぞれなるので、10年目の終わりの時点では毎年の払い込み額の 11.8077倍、もしくは総払い込み額の 1.18077倍である 63,351.18米ドルになります。 また、そこから 3%で複利運用が行われていくとすれば、その 1.3439倍である 総支払額の 1.5868倍、もしくは 85,138.69米ドルになるはず、ですが、「払い込まれた保険料の大半」が解約返戻金の原資に当てられる、というのは言い換えればその「大半」の残りは前述に述べた保険期間の途中での死亡等の際の保険金支払いのためのオプション料を含めた手数料等で取られている、という意味でもあるのです。

実際、20年間預けた場合のちょっとバラ色な数値を並べた後で見せるのが微妙なのですが、払い込み期間終了後の10年目の終わりの時の解約返戻金、というのが3%の運用の場合には前述の13-14ページにあるように98.3%、3.5%の運用で初めて101.8%、4%で回ったならば 105.4%と、それでも、3%に全額を投資して運用した場合に比べて13%から 20%ポイント弱減ることがわかります。ということは、毎年色々な名目で28ページに記載された費用として控除されているかが気になります。

理論値として費用を逆算することも可能なのですが、実際のところいつどれくらい、ということまでは不可能ではあるものの、年平均として払い込み期間終了時点(保険契約開始後10年間)で 3.22%が、もし払い込み期間終了から10年置いた(保険契約開始後20年間)場合ですと全期間を通じて 毎年預けている額に対して1.75%を費用として取られている計算になります。

このうち、死亡や高度障害のために支払う保険金額の 100,000米ドルのためのオプション料や保険商品の運用のための事務コスト、そして当然に商品を販売した保険代理店(この場合ならばプレスティア/SMBC信託銀行)への販売報酬などが含まれるのですが、上記のように期間が長くなると平均費用が下がるのは、死亡時の支払い保険金額へのオプション料が、年々解約返戻金が増加することにより実際の保険金額が 「100,000米ドル から解約返戻金を引いた差額」となることで下がっていく(ただし死亡率等が一定である前提ですが年々歳を重ねていくので死亡する確率的には上がっていく要素もないわけではない、のですが。。。)ことの恩恵を受けていることが長期になるほど費用が下がる仕組みではないかと予想されます。

いずれにせよこの商品が、20年間の運用期間と定めた場合に、最初に10年間に5,365.20米ドルを毎年払うことで総額53,652.00米ドルの投資に対して、向こう20年間に毎年 1.75%の費用を支払いながら3%の利回りで運用して64,597.00米ドルとなるか、いざという時は100,000米ドルを受け取る、という資金の流れが見えたかと思います。

また、これが運用期間が10年間に縮めると、費用負担が毎年3.22%で最終的な受け取りが52,739.91米ドルと支払った総額より減ってしまうという商品性も分かりました。ただ、この商品は終身商品なので解約はいつでも可能にはなっていますが、商品開始から10年未満での解約や減額の際には解約控除といって解約返戻金から更に手数料相当額(性別や年齢などの条件により定まるためこの時点でいくらになるのか不明、と更に不透明なもの)が控除される、と言う点も注意が必要です。

商品のまわりにある費用やメリットの検証

続いては、商品に内包される費用だけでなく、その周りに付随する費用やメリットについて検討してみたいと思います。

投資開始時

まず、投資する際のコストとして何が掛かるでしょう。一般的な金融商品と異なり、保険商品は投資対象の対価に付け加えた手数料等や不動産のような登記コストなどは発生しません。

とはいえ、もともと米ドル建てでの支払いですので、私たちが日本円で物事を考える以上、外貨預金や仕組み預金の結果等の事情で米ドルをたくさん抱えていない限りは、日本円/米ドルの為替レートによって日本円ベースでの支払額が左右されることになります。今回の商品は10年にわたって同じ米ドルベースでの金額を支払うことから、どうしてもその時々の為替レートの変動でそれぞれの日本円ベースでの支払額は変動しますが、10年掛けて為替レートを分散して米ドルを取得しているという見方もできますので、時と場合によっては、下記にて紹介する全期前納のために一括で米ドルに変えた時より円ベースで総額が少なくなる場合も起こり得ます。

他方で、今回対象としている保険商品のように長期にわたって分割して支払いを行なっていくタイプの場合、資料の11ページにあるように、契約期間が10年以下の場合、支払う総額を全期前納と言って、一括で支払うことが可能です。その場合、例えば3年後に発生する4回目の支払いについては、全期前納で保険会社に「預けた」保険料の一部を支払いに自動的に充当する、という形式を取ることから、保険会社が自ら設定する金利でこの全期前納で預かった保険料を運用した上で保険料に充当することから、全期前納する保険料の総額は、単純に支払い期間に発生する支払い保険料の総額より割り引かれた金額になる、次の「投資期間中」でも触れますが所得税の計算に(減税という形で)影響する生命保険料控除に対しても、保険料の支払いに充当される支払い期間の間は毎年適用することが出来る、というメリットがあります。

しかしながら、保険料として受理されていないので単純な預かり金に過ぎず、また保険約款(保険商品の一般的なお約束を定めた、申し込んだら否応無く適用される契約内容をまとめたもの)により任意に払い戻しを受けることが出来ないのですが、保険会社が破綻したときには、保険契約が消滅した場合、又は将来の保険料の払込みを要しなくなった場合は、全額返却されますので流動性に制限があるということは理解しておく必要があります。しかも、保険会社が破綻したときに保険料払込期間中に未経過部分の前納保険料を引き出す場合は、早期解約控除制度が適用される可能性がありますので。割引率と保険会社の将来の経営の安定性や信用度とを勘案して(もちろん財布の具合とも相談して)全期前納を選択するか、年払いを選択するか考えることになります。

投資期間中

保険商品ですので、途中で保険内容を変更しない限りにおいては保険料の変動が発生することはありませんので、何かしら追加で費用を負担することはありません。

その一方で、「投資開始時」で触れましたが、支払い保険料は払った年の所得税の計算をする際に、生命保険料控除の対象になります。なお、この保険商品は介護保険でも個人年金保険にも該当しないことから、生命保険契約等の適用になりますが、いずれの商品カテゴリーでもそれぞれ年間 80,000円以上の保険料の支払いはいくら支払っても 40,000円の所得控除となり、もし所得税率が20%の人ならば 8,000円の減税に留まることになります。特に生命保険契約等は生命保険契約ならなんでも適用されがちですので、もし既にこの他の生命保険契約による生命保険料控除を受けているならば当然にその減税メリットはさらに限定され、もしくは全くメリットを享受することができない可能性があることになります。

とはいうものの、減税効果は実質の投資金額の減少にもなるのでないよりはあったほうがお得なのは言うまでもありません。もし仮に前述の前提に従って8,000円の減税効果があったとした場合、年払いで5,365.20米ドル払って 8,000円が戻ってきたとしたら、現在のざっくりレートで1米ドル 115円換算でも、70米ドル弱は帰ってくるので実質負担が 毎年5,295.20米ドルになることから、総額の負担が 52,950.00 米ドルとなり、20年後の早期解約の形で処理した場合20年間3%で運用した成績として 64,597.00米ドルはを回収するとしたら、121.99%と、従来の120.4%とより1.5% ポイント向上することになります。

ちなみに、この計算は、最近はやりの個人型確定拠出型年金をやらないともったいないよ、と言う時に使う計算方法と同じですね。

投資回収時点

やっと、投資が終わって回収するときの話です。これが単純に二つに場合分け出来ればいい話、になればいいのですが。。。

途中解約する場合

元々この商品は終身保険ですので、通常ならば被保険者の死亡もしくは高度障害による保険金の払い出しで終わるのが商品性の意図するところですが、上記で散々書いた通り、かなり貯蓄性の高い商品ですので、被保険者に何かが起こる前に現金化することで運用結果を享受することが意図されて作られていると言ってもいいでしょう。実際、上記でも20年経って解約する場合、と10年で解約する場合、と盛んに計算していますので。。。

では、その場合にどんなコスト等が発生するか見てみましょう。まず、10年を超えた保険契約期間ならば解約手数料相当額を払う必要がないのがこの商品でした。また保険商品ですので、入り口同様特段何か手数料や不動産のような登記コストなどを負担することもありません。

としたら、10年間を最低利回りである3%で運用されていた場合、支払い総額の53,652.00米ドルに対して受取額は52,739.91米ドルになりますので、米ドルで見ると912.09米ドルほど目減りしていますので投資としては損が出たことになります。20年置いた場合には、支払い総額の53,652.00米ドルに対して受取額は64,597.00米ドルになりますので、米ドルで見ると10,945.00米ドルほど増えていますので投資としては利益が出たことになります。

ですが、日本円で考える以上、日本円ベースで損益を計算する必要が出てきます。何故かって?それは所得税の為です。はい、日本にいる以上所得が発生したら所得税の納税義務が課せられます。残念ながら、日本において世の中で一番高い取引コストはこの所得税とそれに関連する住民税です。

では、どうやって円ベースで計算するかというと、毎年の保険料の支払いの際の日本円相当額の合計と、解約返戻金の解約効力発生日におけるTTM(対顧客電信売買相場仲値)の差額で損益を計算せねばならない、のです。解約返戻金の円評価額は単純な掛け算で済むからいいですが、毎年の保険料の支払いはどうでしょう。年払いの場合ですと、過去10回のそれぞれの支払いの際の米ドルを調達した際の為替レートと円で支払った額を全部記録しておく必要があります。もし全期前納した場合は、前納した米ドルの円価相当額を記憶しておきましょう。もし遠い昔の外貨預金や仕組み預金で調達した米ドルを使うならば。。。その当時の米ドルに換えたときのレートで計算してください。外貨投資ってめんどうなのはこれなんですよね。。。

10年で回収する場合、米ドルベースで2%弱の損失ですから、案外円ベースで考えると勝ってしまっているケースもあり得ると思います。20年で回収する場合には米ドルベースで20%以上の利益ですのでさすがに円ベースで負けることは過去10年の円安基調を考えると想定しづらいと思います。

さて、損益が出ましたか?損の場合、一時所得は損失となります。この場合、もし同じ年に他の保険商品の解約などで収益が出たならばそれと合算することで納税対象額を減らすことが出来ますが、そこまで。一応、競馬や懸賞、福引の当選金と合算することは出来ますが、例えば不動産で得た収益(不動産所得や譲渡所得)や給与所得、為替で稼いだ利益(雑所得)などとの合算が出来ません。当然、不動産の譲渡損や、株や債券のように、損失を数年先まで繰越すことも出来ません。

では、利益が出た場合を考えましょう。他の保険商品からの利益などの合算の結果、最終的に利益が出た場合は、その額から最大50万円の特別控除金を差し引いて、それでもまだ利益があるならば、その1/2が所得税の課税対象となって、他の給与所得と合算して累進課税の対象となります。まぁ、利益から50万円さっぴいて、更にその1/2が課税対象なので、今後見ていく株や債券、不動産から見ればかなり優遇されていることになります。例えば、最終利益が30万円だったならば課税されない、ということですし、仮に保険期間の間ずっと為替レートが変わらず1米ドル100円だったと仮定して20年運用した結果は、109万4500円が利益に相当しますので、課税対象は

109万4500円 - 50万円 = 59万4500円

からその半額の29万4500円となり、所得税を20%と仮定するならば58,900円、と利益の5.4%程度に収まる計算になります。有価証券の譲渡益に対する20%課税より全然いいですよね。

余談ですが、なぜ、最大50万円かというと、もし最終利益が30万円だったならば、控除できる額が30万円しかない、と考えるからです。これがもし最終利益が100万円だったならば、最大の50万円を控除してもまだ50万円利益が残りますので最大額を使い切るケースになるのです。

保険金を受け取る時

結構がりがりと計算したりしたので、終わったつもりになっていますし、ここまで読み返すとそれだけも十分飽きるくらいの文章量になってきましたが、このケースもFP的には忘れてはいけないポイントです。というのも、前述のある意味投資目的の使い道が現役世代のための長期投資のツールになる一方で、相続を考えねばならない人たちにとって保険商品はこのケースでの、特に税務上の取り扱いが資産承継の大事なカギを握るからです。

といっても、資料の39ページを見ると分かるように、
契約者:本人 / 被保険者:配偶者 / 死亡保険金受取人:本人
ですと、前述の途中解約の場合と何ら変わりはなく受け取った保険金は一時所得の課税となるので、先ほどの税負担も併せて考えると、これのお陰で保険金殺人事件がなくならない、のかもしれません(苦笑)

とはいえ、これも、例えば、年間110万円の贈与税控除枠を使って向こう10年間、子や孫に60万円ずつ渡してそれでこの保険に被保険者を自分にして加入させることで、資産運用をしながら自分の死亡時に子孫の受取額を大きくする、という戦略に使うことはパンフレットの売り文句にあるようにいい使い道と言えるでしょう。

では、それ以外のまっとうなケースを考えてみましょう。例えば
契約者:本人 / 被保険者:本人 / 死亡保険金受取人:配偶者もしくは子

この場合、税務上の取り扱いは受け取った配偶者もしくは子の相続税としての課税対象になります。この場合、米ドルで受け取るので円価で評価する必要がありますが、その時はTTB(対顧客電信買相場)といって、もしわかりやすく言うならば為替レートが提示されたときの自分にとって安い方(例えば、TTMが100円で、手数料が1円と言われたら、TTBは99円、TTSは101円)になるのですが、この場合TTBで評価してもらえるのは課税対象額を小さくしてくれるという意味ではお得ですね。
また、相続の場合そもそも課税評価額の計算とかそれぞれの相続人に対する課税額の計算が複雑なところ、生命保険金に対する控除の方法はちょっと特殊で、

死亡保険金の総額に対して「500万円に法定相続人の数を掛けた額」を控除した残りが相続税の課税対象となり、個々の相続人への控除額は全ての相続人が受け取った保険金総額に対する自分が受け取った保険金の額の割合分だけ、上記の死亡保険金の控除総額が割り当てられるという計算になっています。ね?概念だけで説明するとめんどうでしょ?(苦笑)

とはいえ、ある程度の資産が見えているならば相続する額と相続税がある程度算出することが可能(というか、しておきましょうね)なので、その相続税の資金負担のために死亡保険金を使えるようにしてあげる、というプランを立てるのも大事です。あ、そうそう、死亡時に銀行口座は凍結されるので相続税の支払いにあてこむのは難しい一方で死亡保険金は直接相続人に振り込まれますので自由に使える、という保険ならではのメリットもあるのです。

あと、最後のケースも考えましょう。
契約者:本人 / 被保険者:配偶者 / 死亡保険金受取人:子

これも、ある意味配偶者の死亡時の資産移転や相続税の支払い対策に使える形ですが、この場合は資産移転が本人から子に行くため相続税対象ではなく贈与税の対象になります。ある意味一番税率の高いカテゴリーですが、他方で、相続時精算課税を使えば(そのためには親は65才以上、子供は20才以上で、予め税務署に届け出ておく必要がありますが)、届け出後親の相続開始までの間の資産の贈与に対してその時々においては総額2500万円までは無税、それ以上は一律20%の課税、そして相続時に生前贈与したという計算に基づき相続額を再計算して税額の精算をすることになります。この保険商品のベンチマークとして使っている死亡保険料が100,000米ドルなので、これだけならば相続時精算課税の枠内で収まる、と考えることが出来ます。

もし、相続時精算課税を使わないで暦年の110万円の控除額だけを使う場合、為替レートを1米ドル100円とすると。。。一番高い、子供が未成年の場合(一般贈与財産用)

(1,000万円 – 110万円) x 40% – 125万円 = 231万円

子供が成人の場合(特例贈与財産用)でも

(1,000万円 – 110万円) x 30% – 90万円 = 177万円

と、17%から23%の税負担を強いられることになります。とはいえ、支払い総額の53,652.00米ドルですから、それ以上の資産の移転が可能になることが分かります。

まとめ

さて、こうやってあれこれつらつらと書いてみましたが。。。保険商品って一般的な金融商品と似て非なるところが多いと感じることが多かった、というのが実際に手を動かしてみて感じたことです。特に最後の贈与のケースでの税引き後ですら単純な資産移転以上の効果がある、と思うと、費用が高いと揶揄される保険商品を回避して自分で3%以上の利回りの商品に投資する以上の意味が費用の支払う対価として評価する必要があるのかもしれません。

さて、こんな感じでいろいろな商品を評価していきたいと思います。
時間はかかると思います。でも、お付き合い頂ければ幸いです。

財産債務調書ってなんじゃ、と確定申告を作ると気付いた人、少ないと思いつつもちょっと書いてみる

そろそろ確定申告の季節ですね
そろそろ確定申告の季節ですね

もうそろそろ確定申告の季節がやってまいりますが、皆さん、ちゃんと一年掛けて準備しましたか?山のような生損保の支払い証明書と源泉徴収票、そしてふるさと納税の領収書に、医療費の領収書、ローンの残高証明書などなど、そんな書類の山と確定申告ソフトとにらめっこ、ですかね?

私もまんまそんな感じで、ちょうど今、自分の分の作成が一旦終わりました。でも、毎年のことながら、国税局のサイトの作成ソフトはよく出来てますよねぇ。正直なところ、外部のソフトを買って使う気がしないくらい、毎年ちゃんと法令等に対応して(そりゃそうだ)いるので、いろいろと遊んでみるのですが、今年ちょっとあれ?と思ったことがあったので、関連する人がどれくらいいるのかわからないのですが、そんなお話です。

財産と債務の明細書がなくなった?

よく考えてみると、こんなソフトを使って確定申告を作る人って

  • 医療費控除で所得税を取り返そうとする人
  • 住宅ローン控除で所得税を取り返そうとする人
  • ふるさと納税の控除を使って所得税を取り返そうとする人

が、基本的なところだと思うのですが、世の中にはこんな人もいるんですよねぇ。

  • 年収が2,000万円を超えるので年末調整しても確定申告をしないといけない人

ちなみに、26年の給与所得者の平均年収は、国税庁の調査によれば 415万円、だそうな。となると、ここに該当する人って何人なのかといえば、同じ資料を見ると、20.6万人、全体の0.4%程度、ということで、いるといえばいそうで、まぁ、普通に考えるとそんなに縁がなさそうな世界、かもしれません。

確定申告書、あれこれありますよねぇ。。。

が、このレベルの人たちに対して、どういうわけか平成26年度まで、確定申告の際に「財産と債務の明細書」という資料の提出を求めていたんです。何かといえば、確定申告でフローに当たる年間の所得についての開示を求める一方で、ストックに相当する自分の保有する資産と負債も開示するようにしていた、ということなんです。

で、もし覚えている人がいれば、ですが、昔々、高額納税者番付なんて言うものがありましたよね。あれでいくら税金を納めたかも公開されていたので、前年の年収もある程度逆算できる、なんて下世話な制度だったのですが、さすがにあれは誘拐とかも起こるのでやめたものの資産と負債については税務署にだけは開示を求めていたんですね。実際に国税庁のプログラムでもこの明細書が出てくるんです。

でも、今年、普通にこんな人たちのシナリオで確定申告資料を作ってみたら、出てこなかったんです。

財産債務調書の創設

平成27年度から、これまでの「財産と債務の明細書」に変わる制度として導入されたのが「財産債務調書」と呼ばれる資料の作成・提出義務。この対象となるのが

  1. 所得税等の確定申告書を提出しなければならない方で、
  2. その年分の総所得金額及び山林所得金額の合計額(注1)が 2 千万円を超え、かつ、
  3. その年の 12 月 31 日において、その価額の合計額が3億円以上の財産又はその価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産(注2)を有する方

は、その財産の種類、数量及び価額並びに債務の金額その他必要な事項を記載した財産債務調書を提出しなければなりません。
注1) 申告分離課税の所得がある場合には、それらの特別控除後の所得金額の合計額を加算した金額です。ただし、①純損失や雑損失の繰越控除、②居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除、③特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除、④上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除、⑤特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の繰越控除、⑥先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除を受けている場合は、その適用後の金額をいいます。
(注2) 「国外転出特例対象財産」とは、所得税法第 60 条の2第1項に規定する有価証券等並びに同条第2項に規定する未決済信用取引等及び同条第3項に規定する未決済デリバティブ取引に係る権利をいいます。

で。一体、それってどういうこと?

さて、何のこっちゃ、縁もない話だし、と思って流さずに、もしもそれだけ稼げるようになった時に困らないようにちょっと頭に入れてみましょう。
そもそも、条件の最初の二つで、確定申告しなければならない、総所得金額と山林所得金額の合計で、となってますが、そこに分離申告課税も含める、ということは、株式譲渡とか不動産譲渡の譲渡益で荒稼ぎした時にも引っかかる可能性がある、ということ、です。ほら、気をつけないとやばそうですね(笑)

ただ、資産評価額として3億円以上、もしくは「国外転出特例対象資産」で1億円以上持っていなければ対象にならない、そうなので、ひとまず安心、という人も増えたかもしれませんが、逆に、代々からの引き継いだ土地を持ったまんまだった、という人だと引っかかる可能性がありますね。しかも、「国外転出特例対象資産」というのが、端的にいえば株や債券、投資信託あたりなどを指していますから、株で大儲けしつつ、雪だるま式に膨れ上がったポジションが残っていると引っかかる可能性がある、ということでもあるんですね。確かに、株や債券、デリバティブのポジションなら非居住者になるために国外に持ち出して売り払うことで譲渡益に対する課税を逃れることが可能になりますからね。

で、このルールで何がしたいの?

ということで、なんとなく、この制度の目的が見えてきましたね。そうなんです。この数年、相続税に対する強化が進んでいる中で、相続税を逃れるために資産を海外に移転させる人たちが増えている中で、すでに国外に持ち出すときに資産に課税するルールが導入されていますが、その前にある程度捕捉しておきたい、ということの表れなのでしょう。その意味で資産を持っている人に絞り込んだ、という解釈も出来そうですね。

実際、世界的に US/UK FATCA が導入された背景に、先進国諸国から所得税や相続税を逃れるために資産を持ち出して、かつ非居住者になろうとする人が増えていることに対して、逃げ出せないようにしつつ、海外にすでに移転した資金の流れに対して非居住者のふりをしてコントロールしているようなケースに対応したい、ということがあるのです。ですので、ある意味今回のルールの改正はそこに海外、特にCRS、と歩調を合わせている、と思えば納得の行くところかもしれません。

が、悩ましいですよね。給与所得者の 0.4% の動きを捕捉してどれだけ税収に影響があるのか、という話のはずですが、そこが無視できない、という現実が各国の税務当局を動かしている、という事実でもあるわけですので。。。富の偏在化、と言われれば、それまで、かもしれませんし、それを持って金持ち批判するべき、とも思えないのです、個人的には(それは彼らが税収を支える人たちなのですから、非難して国外に逃げられるとダメージが大きい、という裏返しでもあることに気付くべきなのですが。。。)。

ということで、まぁ、こんな議論、気付いたら FPな話と思ったら、ファンドの世界の流れにもちゃんとからめて面白かった、と思っていただけたら感謝です。

「配偶者控除と株の取引き」と「夫婦間の不動産贈与のコスト」 : CFP の試験の準備で間に合わない中で見つけたちょっとしたポイント

楽しくお勉強。。。なんて行かないけどさー
楽しくお勉強。。。なんて行かないけどさー
いや、ほんと、やばいです。
来週の今頃には CFP の試験の前半が終わっている頃なのですが、勉強が追いついておらず、ポテンシャルだけで受験することになりそうな。。。いや、なんとかする(笑)

だから、本当は今、記事なんて書いている暇はないのですが、とは言え、記事にして頭に入れておこうかな、という過去問からのポイントが二つほどあったので、忘れないうちに。。。

その 1. よく、夫婦間で不動産の贈与をすることがあろうかと思います。

当然、贈与なので贈与税の対象ですので相続税とか税控除枠との兼ね合いとかで複数の選択肢の中から選んでいくことになるのですが。。。どれをやっても取引コストがかかる。譲渡に伴って取得した側は不動産の移転登記をするので登録免許税がかかるし、その後に不動産取引税なんていうのもかかる。また、譲渡契約を作れば印紙税がかかる、はずなのですが、贈与の場合、実は印紙税は 200円ポッキリ。なぜかといえば、贈与というのはその贈与する対象物の評価額にかかわらず、そもそもが無償契約。なので、印紙税の決定する際の基準となる取引金額という意味では 0円。そりゃそうですよね。対価を払わずに所有権を移転するのですから。。。税務署も例によって認めてます。

このところ、不動産の取引にかかる印紙税は安くなったとはいえ、最高でも54万円ですので、結構バカにならないようにも見えてしまいます。とはいえ、印紙税の額で譲渡プランを決めることではないかもしれませんので、あれこれ実際の取引コストも踏まえて検討する必要があると言えます、なんてFPらしいことでも言ってみる(笑)

その 2. 奥様方の株の取引、そうそうない話ではないものの、とはいえ、あるはある話。

しかも、納税の際の諸々を考えると、証券会社で開設する口座は大抵は特定口座にして、源泉徴収してもらった方が何かと楽チン、ということかと思います。
それと、納税ということで、合わせて考えないといけないのが、配偶者控除。

よく、103万円の壁、130万円の壁、とか言いますけど、実際には合計所得金額が 38 万円を上回るかどうか、という話なのです。一般的に奥様方が株とか FXで(ミセスワタナベの正体、ですよねー)稼いでいる、という前提ではなく、一箇所でのパート/アルバイトという前提で考えていて、そうすると、給与所得なので給与所得控除の 65万円が使えるので、 65+38 = 103万円がパート/アルバイトで稼ぎつつもご主人の給与所得の計算の際の配偶者控除が使える、というだけの話なのです。なので、もし奥様が、パート/アルバイト以外に株やFXで稼いでいる、となると、当然103万円の上限が下がってきてしまう、はずなのですが、ここで一つポイント。

実は。。。次のそれぞれは合計所得金額に含まれないそうです。

  1. 上場株式等の配当や少額配当などで確定申告をしないことを選択したもの
  2. 特定口座の源泉徴収選択口座内の株式等の譲渡による所得で、確定申告をしないことを選択したもの
  3. 源泉分離課税とされる預貯金や公社債の利子など
  4. 源泉分離課税とされる抵当証券などの金融類似商品の収益
  5. 源泉分離課税とされる一定の割引債の償還差益
  6. 源泉分離課税とされる一時払養老保険の差益(保険期間等が5年以下のもの及び保険期間等が5年超で5年以内に解約されたもの)
源泉分離課税は、銀行の利息もそうなので、まぁ、そうでしょう、と納得できるのですが、最初の二つのように、確定申告しなければ計算の控除外、というのも、金額の多寡なんでしょうねぇ。ということで、証券口座は二つ持ってはいけない、前年度の負けの繰越をしない、という縛りが実はあるんですね。。ということは。。。もし、奥様の扶養者控除を当てにしつつも、株で稼いでもらおう、と思ったら、証券口座は一つだけ、勝手も負けても確定申告せずにニコニコ源泉徴収される、というのがよろしいようです。。。いいのか?それで。。。
さて。。。勉強しよっ

外貨建債券が償還された場合の償還差益及び為替差損益の取扱い:FPらしい話でも

そーなんです。私、一応これを書いている今(2015年7月25日)のところ、2級FP技能士なんて国家資格(!)を持ってます。で、今鋭意これを AFP に格上げすべく通信教育で単位を取ろうとしている努力をダイエットの横でやっているのですが、ダイエットの話は余計ですね。ええ、これは与太話ブログではないのですから。。。

で、そうすると、個人向けの税務もある程度頭に入れるようにしておかないといけない、というか、投資信託商品とかの商品設計をするときにこの辺りも念頭に置いておかないといかないのですが、そんなときに、スマホの Google のブログカードにこんな記事がなぜか上がってきたんです。

外貨建債券が償還された場合の償還差益及び為替差損益の取扱い

えっと。。。これ、国税庁のホームページの一部だよねぇ。よくこんなの引っ張り出してきたねぇ。という感じ。外貨建て債券の償還時の税金のことなんて調べた覚えもないのに。。。
まぁ、でも、読んでみたら、ちょっと目から鱗がぼろぼろ落ちる内容でしたので、ちょっとご紹介してみようかと。とはいえ、展開としては前回のようにページからの引用にツッコミを入れるだけになりそうですが。。。

まず、話の前提はこんな感じ。

【照会要旨】
1万ドルで購入した米ドル建ての債券が同額の米ドルで償還されましたが、この場合、1万ドルを満期時の為替レートと購入時の為替レートでそれぞれ円換算し、その差額を償還差益又は為替差益として認識する必要はありますか。

  • 購入時のレート・・・1ドル=100円(円からドルへの交換と債券の取得は同日)
  • 払出時のレート・・・1ドル=120円
  • 差益・・・(120円-100円)×1万ドル=20万円

まぁ、外貨建て債券に投資したことのある人だとイメージがつきやすいですね。パー発行された外貨建て債券を円から外貨に入って投資して、数年経って債券が償還した時に円安が進んでいたので円価で評価しちゃうと儲かっちゃっていたけど

税金ってどーしよう

という状態ですね。本当に2-3年前に外貨建て債券を仕込んだ人たちにはとってもホットなトピックですよねぇ。

で、それに対する回答ですが

また全部引用しちゃうと長ったらしくなるので、要旨だけ持ってくるなら

【回答要旨】
照会の債券については、購入した金額と同額で償還されていますので、償還差益は発生しません。また、同一の外国通貨で支払われていますので、為替差益を所得として認識する必要はありません。

ん?税務署のホームページなのに、税金がかかりません、って言ってる文章がとっても不思議に思われるものの、税務署の見解なので仕方ない。とりあえず分析しましょう。上記の要旨は二つの観点で話をしていて、

  • 一つは外貨建て債券の償還なので、債券の償還益があるのか、という点での論点
  • もう一つが円から外貨に換えて投資している以上、為替差益が発生しているのでは、という点での論点

というその意味では真っ当な話なのですが、前者に対しては

購入した金額と同額で償還されていますので、償還差益は発生しません。

と言い切り、後者に対しても

同一の外国通貨で支払われていますので、為替差益を所得として認識する必要はありません。

と、断じてます。すごい。でも、確かにそうだよね。それぞれをさらに分析してくれています。

債券の償還益は?

債券の償還益かどうか、の論点ですが

1 償還差益について
外貨建取引とは、外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいい、居住者が外貨建取引を行った場合には、その外貨建取引の金額の円換算額はその外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとされています(所得税法第57条の3第1項)。
公社債の償還差益とは、償還金額(又は償還により受ける金額)がその発行価額(又は取得価額)を超える場合におけるその差益をいい(租税特別措置法第41条の12第7項、第41条の13第1項、第2項)、その経済的実質は預金利子と類似していますが、利子所得には該当せず、雑所得として取り扱われています(所得税基本通達35-1(3))。
このように、償還差益は、償還金額がその発行価額を超える場合のその差益とされており、また、債券の償還によって発生する利子類似の所得であることから、外貨建債券の償還によって生ずる償還差益とは、外貨ベースでの償還差益にほかならず、これを上記外貨建取引の換算規定に従い、償還時の為替レートで円換算した金額が雑所得の収入金額になると解されます。
したがって、照会の債券については、購入した金額と同額で償還されていますので、償還差益は発生していません。

と、分析しているのですが、まず外貨建て取引がなんたるか(所得税法第57条の3第1項)と、その円建て評価額の算出基準(当該外貨取引を行った時の外国為替の売買相場)公社債の償還差益とはなんなのか(租税特別措置法第41条の12第7項、第41条の13第1項、第2項)とその税務上の取り扱い(一番厳しい雑所得扱い)、という定義に戻っています。

思った以上に厳密な議論をしますよね。そのお陰でその時々で議論の方向性が変わって課税するかどうかが変わる、という素地を作っているのかもしれませんが。。。

で、まず、
償還差益とは、償還額がその発行価格を超える場合のその差益
であると確認して、償還によって生じる発生する利子類似の所得という収益の性質を認識した上で、でも、雑所得扱いね、としていますが、この時の考え方は

外貨建て債券の場合には外貨ベースでの償還差益
であって、
償還時点の円価ベースでの償還額と投資時点の円価ベースの投資額との差額ではない
と計算根拠を明確にして、
投資額と償還額が外貨ベースで同じである以上、0 に償還時の通貨レートを用いて円価にしたところで 0 なので適用されない

と明確化しています。

で、為替差益は?

続いて、為替差益の論点についても

2 為替差損益について
外貨建債券の取得及び償還は外貨建取引に該当しますので、上記外貨建取引の換算規定に従い、償還金額及び発行価額をそれぞれ円換算すると差額が発生します。この差額は為替差損益とされるものですが、これを所得として認識すべきかどうかは、所得税法第36条《収入金額》に規定する「収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額」として実現しているかどうかにより判断することとなります。

照会の債券の償還のように、券面に表示された金額(元本相当額)と同じ金額が同一の外国通貨で支払われる場合の為替差損益は、単に債券購入時の円換算額と償還時の円換算額の評価差額にすぎず、同一の外国通貨である限り、為替差損益に相当する経済的価値が実現しているとは認められません。

したがって、照会の債券の償還時においては、為替差損益は収入すべき金額として実現しておらず、所得として認識する必要はありません。

言い換えると、前述で計算方法として使わない、とした
償還時点の円価ベースでの償還額と投資時点の円価ベースの投資額との差額において、本来外貨建取引に当たる外貨建て債券の取得から償還までの一連の流れについて、この差額は外貨建取引の換算規定に従うと為替差損益に該当するのでは、という考え方に対して、

所得税法第36条《収入金額》に規定する「収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額」として実現しているかどうかにより判断することとなります。照会の債券の償還のように、券面に表示された金額(元本相当額)と同じ金額が同一の外国通貨で支払われる場合の為替差損益は、単に債券購入時の円換算額と償還時の円換算額の評価差額にすぎず、同一の外国通貨である限り、為替差損益に相当する経済的価値が実現しているとは認められません。

と、償還した場合には外国通貨で支払われている場合には円価に戻していない以上、ただの評価益に過ぎず、実現益ではないから収入金額とはならない、としています。

そうすると、

したがって、照会の債券の償還時においては、為替差損益は収入すべき金額として実現しておらず、所得として認識する必要はありません。

言い換えると、

パー発行の外貨建て債券を発行時から取得して、償還まで持ち切って、外貨のまま保有する

と、この取引からは償還差益も為替差益も課税対象にはならない、という結論になってしまいますね。じゃあ、継続して外貨投資し続けようか、と思っちゃいますね(笑)

で、これを深読みしてみましょう

さて、一番興味深いのが、これに続く一文でして。。。

なお、外貨建の割引債又は割引発行の利付債のその元本部分(発行価額)に係る為替差損益についても同様です。

外貨建て債券投資をしている人たちの多くが、割引債やほぼそれに類する利付債(通貨のイールドとしては7%なのに、あえて 0.5%程度のクーポン支払いにして、あえて利付債にしながら割引債のようにディスカウントで取得可能にしている債券)への投資で、クーポンに課税される源泉徴収税を回避(oops)しようとしているかと思います。これに対して、発行/取得時点の割引された元本に対しては為替差損益の議論はしないよ、とだけ言っています。とすると、償還したときの投資元本として増加した償還差益と認識される部分については為替差損益の議論はない、と読めますが、償還差益として雑所得で課税します、ということなんでしょうね。ポイントとしては、税務署として、この償還差益を利子所得に類似する所得と認定しているにも関わらず雑所得扱いすることで、

利子所得なら源泉徴収の20.315% で許してあげるけど、割引債で先送りするなら雑所得として累進課税に当てちゃうからねー

という、ちょっとしたペナルティ的な意味合いを持たせているように読めてしまうのは気のせいでしょうか。いわば債券投資の収益構造が

  • クーポンは取得時の為替評価による円価での利息所得扱い
  • 償還差益は償還時の為替評価による円価での雑所得扱い
  • 投資元本は利益が実現化したときに為替差益扱い

で捕捉します、ということなのです。あ、ちなみに、償還ではなく売却した場合には

  • 利付債ならば譲渡は非課税
  • ディスカウント債ならば譲渡所得として総合課税(譲渡所得)

と、さらにややこしいことになっていましたね。

それに対して外国株の場合は

 

  • 配当金は取得時の為替評価による円価での配当所得扱い
  • 売買損益は投資時点の円貨相当額の投資元本と、売却時点の円貨相当額の回収金額との差額に対する譲渡所得扱い

と、元本の取り扱いが微妙に違うんですよねぇ。

さて、こんなに行数を費やしてあれこれ言っていますが、実は、来年からの株と債券への証券課税の一体化、ということで、債券の償還益・売却益とクーポンに対する課税も一括で 20.315% の申告分離課税(かつ、上場株式と損益通算可能)と、話でだいぶ整理がついてきたのですが、問題は、外貨建て債券の譲渡益/償還益を算出するための計算方法がこの税制変更で外国株と同じ形に代わるのでしょうか。明確にこの説明をしているひとがいないんですよねぇ。。。ただ、外国株式と同じにする方が合理性が高いですので、その覚悟で継続して投資するほうがいいかもしれませんね。

って残り半年になり、外国債券投資している人にとって、今売るか、来年以降売るか、悩ましい時期が続くかと思いますが、もし知らずにこれを見つけてしまったならば、検討する契機になればと思います。(これが一番重要)

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