合同会社の社員になって一緒に儲け話に乗らないか?

投資家さんを集めるのってこんなに和気藹々ではないのですが
知らない人を共同経営者に迎えるってこういう雰囲気にはならないような。。。

本来ならば、「パナマ・ペーパー」のことを書くのが本来のブログの目的であるオフショアの金融事情をご紹介するところですので自然なこと、なのですが、 当然のことながらレポートそのものを読んでいませんし、内容の意味もよくわからずに無駄に大騒ぎして民衆を煽り立てるメディアの情報もあまり耳にしていないので、その状態で何かを語るのもどうかなぁ、と思いつつも、掻い摘んで話すならば。。。

いや、一旦いろいろ書いたけど、やっぱりやめた。いろいろ面倒が多そうだから。。。

さて、表題にある本題にいきましょうか。

believe or not – 世の中にはこんな人がいます。

個人的に流し読みをしている、某怪しい人が主宰するメルマガがあります。本人曰く、某メーカーに就職して、アジア某国で英語も話せないのに成功しながら、プライベートでメルマガで荒稼ぎしたら副業禁止だったので会社をクビになり、アジア某国に拠点を移して似たようなネット系の商売をしている人たちと横のつながりを生かしていろいろと投資案件をしたり、スピ系のネタで人の性格などをプロファイリングをしたり、派手に遊んでいるのをメルマガで流しながら、ちょっとタチが悪いとネットでは評判の投資助言業者のシグナル配信のサービスの宣伝をしたり、仲間内限定で為替相場との相関性の高い株の信用取引のロジックを共有してデイトレで稼いでいるのを見せながら自分のメルマガの有料サービスに誘導したり、と、まぁ、怪しいそうなので眺めているのですが、その中でちょっとこれはヤバかろう、というのがあったので、注意喚起の意味を含めてちょっとご紹介してみようと思います。

基本的にこの連中の商売に加担する気もないので出来るだけ検索に使えそうなキーワードは外すようにしていますが。。。知っている人が読むと分かるかな。すでに上記だけでも十分特定できそうですが。。。

話の前に、まず金融商品取引法の復習から

以前の記事で書いた通り、現在の金融商品取引法において、個人が機関投資家が参加するようなハイリスク・ハイリターンな事業投資系の案件に投資をしようと思うと、適格機関投資家向けではない一般的な私募案件に仕立ててもらって参加するほかはありませんでした。

また、逆にそんな事業投資や不動産投資などをちょっと広めの個人から投資資金を募って運用したい、と思うと、本来ならば資産運用業(この場合一任運用業)の届け出をしなければならないのですが、届け出が受理されるまでに運用やコンプライアンスなどの複数の部門の責任者を雇い続けていかねばならないので、事業を行うまでに資金的問題が起こり得る、など運営コストの負担が大きすぎるという事業開始の際のハードルが存在します。そこを回避したい、といって匿名組合や投資事業有限責任組合の無限責任会社を金融商品取引法第63条に基づく適格機関投資家向け特例業務を行う事業者として届け出て、またそのために適格機関投資家から形式上でもいいから投資資金を受けることで特例業務を行うようにして、私募での個人へのアプローチをする、というルートを目指す人が後を絶たなかったわけです。

私募の本当のハードル

上記のリンク先の記事で最近のルール変更で個人向け投資勧誘へのハードルが上がったことをご紹介していますが、ハードルが上がる前から、実はそもそも個人向け私募勧誘には一つの大きな問題があったのです。何かといえば、通常、証券会社などで私募であっても公募であっても、商品勧誘を行っても 100%投資する、はずはないのです。10人に一人、もしくはもっと低い確率で投資すると考えられています。でも、考えてみれば当然ですよね。常に余剰資金があるとは限らないですし、私募案件になればリスクリターンが高くなるので、投資対象への理解などがないものには投資しない、と判断する人が増えて当然なのです。

でも、例えば投資信託ならば私募は如何なる6か月の間に49人までにしか「勧誘」を行ってはいけないのです。投資ではないのです。勧誘なのです。ということは、6か月に49人勧誘して、実際に投資するのはよくても5人行けばいい方。一人当たり、1,000万円としても 5,000万円。個人の資金からすれば十分大きく思えますが、事業投資ともなれば微妙に足りず、不動産投資ならば全然足りない計算になるのです。確かに理論上、最初の6ヶ月と次の6か月で全く別の49人ずつにアプローチすれば各半年ごとに5人ずつ徐々に積みあげて50人を超えた投資家を受け入れることは可能ですが、投資自体一括投資というものだと十分集まらない、という話になるでしょうし、投資スキームの設立費用等が最初の5人に大きく負担させることになるので、投資タイミングの違いでの不公平感も発生しやすくなるのです。

私募のハードルを越える

そこで。考えました(私が、ではないですよ。)。

もし、美味しい投資話にいつでも乗りたい、という投資家候補を最大 499人常にプールすることのできる仕組みがあれば、上記の10%の投資家のヒットレートが格段に上がるので運営管理報酬が大きく期待できる、と。そのために、投資事業に継続的に参加することが会社の目的となる合同会社を作って、その投資家候補をそれぞれ合同会社の社員として出資をさせて、社員集会という名前の投資情報提供を行えばいいのではないか。投資も社員からの追加出資をまとめて一本にすれば企業投資家としての参加になるので個人投資家のハードルもなくなるし、投資の分配も合同会社なので参加した社員にだけ分配することも当然可能。仮に社員が個人で共同投資の形をとるとしても、社員が最大499名だから私募の範疇に収まるから問題はないだろう。

ちなみに、なぜ499名か。それは事業投資につかう匿名組合も投資事業有限責任組合の投資持分も、そして合同会社の社員持分も、全部、金融商品取引法上、いわゆる第2項有価証券なので、私募の上限が499名。下手な株や債券、投資信託より上限が大きいので都合もいい。

しかも、社員として当初入るのに、後から入ると諸々のトレーニング費用など、と名目で徐々に高くする、といえば慌てて我先に、と入って提灯で釣り上げた案件などに食いつこうとするだろう。

この、秘密結社的で、日本でまだなじみの薄い合同会社のスキームを使えばリターンのより大きいと思われる案件に参加したいと思っている個人をうまく取り籠めるんじゃないか。しかも、そういう投資をしてみたいとメルマガに参加しているわけだからここでもヒットレートは高いだろうし。。。

という事で、そんな投資プラットフォームの勧誘がメールマガジンで配信されているんです。時々。

でも、ちょっと待ってくださいな。

確かに、一度合同会社の社員になれば投資機会も私募の範囲で紹介されるしその範囲で自分の責任で投資すればいい話、ではあるのですが。。。そもそも合同会社の持分をメールマガジンやそれに連動するウェブサイトでその存在を公共の閲覧となるインターネットで知らしめて参加について投資家候補から問い合わさせる、リバース・ソリシテーションを行うのって、実は私募ではなくて公募に当たるんじゃないの?

日本では、金融商品を公共の閲覧に具することで紹介することや、その存在を知らしめて投資家候補から問い合わせをさせることで自ら紹介しないリバース・ソリシテーションも、勧誘行為に当たる、という判断がされています。なので、私募商品が一般的に証券会社の窓口やお店の窓に並んでいない、のです。しかも、今回は自己募集、ですからねぇ。。。お友達とかに資本参加を求めるならまだしも、何人参加しているのかわからないですが、メルマガを通じて不特定多数への声がけって。。。やばいんじゃない?しかも、この投資スキーム、メルマガ曰く、日本の金融商品取引のコンプライアンスを知り尽くした、M&A の名手、とされる人が考えて作り、投資案件もソーシングしてくる、という触れ込みもあるんですが。。。

なんか大丈夫なんですかねぇ。というか、こういう話も世の中でてくるようになってきたんだなぁ、と思うと、パナマ・ペーパーどころじゃないような気がしている著者でした。
常に言いますが、投資は自己責任で。

7週間でケイマン諸島でユニットトラストを立ち上げる方法

ファンドを作るのは建築物を作るのに相通じる?
ファンドを作るのは建築物を作るのに相通じる?
たまには、最近の仕事のことでも。
つい先週にとあるヘッジファンドの日本国内向け私募フィーダーファンドを設定して国内のとある適格機関投資家様に投資していただいたのですが、ヘッジファンド単体への投資となるフィーダーを一つ、とはいえ、実際に7週間で仕上がりました。これを早いと思うか、遅いと思うか、これでその人の最近のファンド設定への時間軸の感覚が見えてきます。ぶっちゃけいえば、アンブレラ・トラストを一から立ち上げるという意味での新規設定でこれは異様な早さ、の扱いになりつつあります。確かにその昔2週間で立ち上げたこともあるのですが、今は昔。世の中の環境の変化でこれくらいは、というレベル感が変わりつつあるのが現実です。

あ、サブファンドを作る場合はまた別の議論があるのですがここでは本当に一から、ということに限定するものの、今回は、その辺りを踏まえた、最短レベルでの立ち上げについてちょっと振り返りつつ、実はファンドを立ち上げるのってこんなに大変!というのを少しでも実感していただければ、というのが、目標とします。

まず、ファンドを立ち上げるって何をするの?

そもそも、ファンドを立ち上げるって、どういうことを意味するのでしょうか。簡単にまとめると次の通りでしょう。

  1. 投資対象と投資戦略を決める
  2. 上記を実行するためのストラクチャーとその設立地を決める
  3. ストラクチャーに求められるサービスを提供するサービスプロバイダーを選定する
  4. ストラクチャーに基づくビークルの設立や募集のための目論見書、そしてこのビークルとサービスプロバイダーとの間のサービス提供に関する契約を作る
  5. 設立されたビークルの設立地における登記や関係当局への届け出を行う
  6. 必要に応じて、ファンドを募集・販売する国における、販売・募集のための事前届け出を行う

で、やっと募集「は」始められるのです。

で、実際、何するの?

ちなみに、上記のそれぞれについて、今回私がどうしたか、というと

  1. とあるヘッジファンドのフィーダーですので、そのヘッジファンドを投資対象として、ファンドの資産のほとんどを投資して持ち続ける、という戦略になります。
  2. 将来のシリーズ化を念頭に置いて、ケイマン諸島籍のアンブレラ・トラストにぶら下がるシリーズ・トラストにクラス構造を入れてみました。
  3. ユニット・トラストのストラクチャーですので、ケイマン諸島の金融当局に届け出ているトラスティ・プロバイダーで過去に付き合いのあるところをトラスティに、ユニット・トラストのガバナンスと管理監督を考えた場合と将来の公募ファンドの設立も視野に入れることで、信託宣言型ではなく信託契約型を採用するため、管理会社の機能を提供する会社を1社、ケイマン諸島で設立して今回の管理会社とし、アドミニストレーターとカストディとしては以前から付き合いのある、ファンド・オブ・ヘッジファンドのアドミとしてはアジア随一のクオリティを誇る銀行系アドミ会社にそれぞれをお願いすることにしました。なお、このファンドの日本国内での販売のために金融商品取引業者の届け出をしているとある会社さんに販売会社として動いてもらうことにもなっています。
  4. アンブレラ・トラストの設立のために基本信託約款を、今回の戦略のためのシリーズ・トラストを設定するために補遺信託約款をそれぞれトラスティと管理会社の間で締結し、また、シリーズ・トラストと管理会社、そしてアドミ会社との間でファンドの純資産額の算出などの事務管理代行業務に関するアドミ契約を、またトラスティとカストディとの間で資産保全のためのカストディ契約をそれぞれ締結します。合わせて、管理会社と販売会社さんとの間でユニットの募集・販売に関する取り決めを定める販売契約も締結します。ということは、これらの契約書がそれぞれ必要になります。
  5. 今回、ケイマン諸島でのユニット・トラストの設立ですので、トラストとしての登記が必要になるとともに、ケイマン諸島金融当局(CIMA)にMutual Funds Law Article 4(3) regulated mutual fund としての届け出を行います。
  6. 今回は国内の適格機関投資家への募集・販売のみ、ですので当初募集開始前までに外国投資信託に関する届出書を提出します。

でも、これで本当に終わり?しかも、7週間って余裕じゃないの?

いい勘してますね。ファンドのセットアップ = 目論見書を作る、ではないんですよね。ファンドが実際に動き出したら必要になるものも予め準備する必要があるのも、文字どおりセットアップ、です。それは何か、といえばファンドの名義の銀行口座や証券口座を開けること、です。

なんだ、口座開設?余裕じゃん。なんのためにカストディ契約結んでるの?

普通はそう思いますよね。契約を結べば自動的に開けて当然。
そんなのは残念ながら、このテロリストから広域ほにゃらら組織、果ては某国の政府高官関係者 (PEPs – Politically Exposed Persons、という言葉があって口座開設の時には注意するように、と海外ではお達しがでるくらいですからね、マジで)まで、ヤバめのお金の移動を制限しようという世界的な動きがあり、また、FATCA でアメリカのためになんで日本で(ブツブツ)なんて言っていたのは今は昔、FATCA も US- と UK- とが出来、さらにFATCA をその他の多国間への拡張の柱になるの CRS まで、自国の富裕層のお金を国外に逃がさない網をあちこちの国が張り始めた結果、銀行口座を開設するために、自分が誰であることを証明し、もしその「自分」が会社やファンドの場合、設立に関わる関係者が一体誰であるのか(少なくともちゃんと名の通った人なのか、それとも黒い影がちらつくのか)を確認する義務を金融機関は負うことになってしまっているのです。

そのため、口座開設のプロセスとして、そのような資料の提出があってから5週間かかる、というのは、ファンドアドミが銀行口座や証券口座をファンドのために開設するシンガポールやダブリン、ルクセンブルクなどでは普通なことになってしまっているのです。確かに、今思えば2015年の12月に CRS の記事を書いた時にこのことは容易に想像できていたわけですし、実際、その覚悟は始める前にはありました。

もちろん、その提出しなければいけない書類の一つに、ユニットトラストや会社型ファンドならば設立した国での登記証明書が入ってきますが、ユニットトラストの場合、信託約款の署名ののち登記に持ち込むのが通常ですし、他の目論見書との平仄を合わせて作る都合もあるので、その署名を行うのも募集を開始する数日前に他の契約書とまとめて、というのがよくある流れ、でした。しかし、もしそれをやれば、目論見書はできたものの口座が向こう5週間以内は開設できていないので、当初募集期間を始めたとしてもまだ口座が開設されていないので買付申込書に送金先口座を明示することが出来ず、そこで目論見書を交付しても投資家も送金先が明示されないので、申し込んでも入金できず買付不成立、ということになりかねないのです。

と言って、口座が開く5週間を何もせずに待つのか、というと、それも困ったちゃんですが、その時点では他には何も出来ない状態になっていますので待つしかないのです。

ということは、すべてのドキュメンテーションを2週間で終わらせて5週間ぼーっとしてたのか?

いえいえ、無理です。通常、目論見書でもその他の契約書でも、最低4回から5回の加筆修正が必要で、その間には法的/ビジネス的背景を持った交渉が発生します。一回のドラフトの作成・レビュー・修正には最初の二回くらいは一回転で2週間、それから徐々にレビューと修正箇所が減ることで契約書のターンアラウンドの時間が縮まるものの平均1週間と見積もっても、だいたい6週間はかかるとみてよいでしょう。

さて、どうやったのでしょう。

企業秘密です。

というと怒られそうですので種を明かすと、実は契約書類の骨組みとなる信託約款だけ最初の2週間で署名して登記、そこからカストディの審査に入ったのです。
というのも、信託約款で定めるべきことは本当に基本的なこと(ファンド営業日や取引日、ファンドの基本通貨など)だけで、実際の運用等については目論見書に記載することから、ファンドの基本構造だけ先にしっかり固めて信託約款だけ先にすすめることが可能なのです。とはいえ、この基本構造をしっかり固められるか、というと常にできる話ばかりではないのも現実なのですが。。。

しかし、こんなやり方は実際はちょっと乱暴なんですけどねぇ。契約書面の承認を各関係者が二回行わなければならないので手間も増えます(手間は増えてもセットアップってあまり評価されないんですよねぇ。。。やれたかどうか、でしか判断ができないので。。。)し、いくら前倒しにしたところで、5週間で確実に口座が開く確証はないのも事実。さらに言えば、今回はヘッジファンドのフィーダーなので単純でしたが、本気で証券取引をする普通のファンドの場合、証券執行する証券会社に取引口座を開く、とか、発生しますのでさらに複雑にまた時間も読めなくなるので、そろそろファンドの設定を◯週間でやることを投資条件にするのは勘弁してほしいな、とは思うんですよねぇ。予算の都合とかはわかるのですが。。。

金商法第63条に基づく適格機関投資家等特例業務を行うファンドの規制変更 – 法規制のバックドアを抜けた先にあるものは?

扉の向こうに待つものは?
扉の向こうに待つものは?
金融商品取引法(以下、略して「金商法」と参照するかもしれません。って、契約書みたい。。。)といえば、日本における金融商品取引の要、と言える法律であり、これに沿って日本の金融行政が動いているわけですが、行政の思惑と、プレイヤーの希望とが常に一致する訳はなく、時として一方的な規制変更、得てして規制強化において
「当局の規制が余計な負担ばかり増やして効率的な業務遂行が出来ない!」
「規制が高すぎて参入出来ない!」
なんて言い訳や恨み節をつい口にしがちなのも事実。

そんな中、その規制の変更に関して業界からの物言いなどのお陰で一旦差し戻しになり、2年掛けてようやく日の目をみる規制変更が、この記事を書いている2016年2月の翌月である3月1日から施行されるものがあるのです。案外当局もちゃんと市井の声を聞くんだ、なんて思ったり(笑)

それが、表題にある金商法第63条に基づく、適格機関投資家等特例業務に対する規制の変更なのですが、事実上規制強化なので色々な形で「困る」という声を聞くのも事実です。あちこちで聞きます。マジで。

でも、個人的にはそれでいいんじゃないの?と思うところも多く、なので、過去の記事においても何度となくこの特例業務に対してそういうバックドア・アプローチの人たちに対して厳しいコメントをしているのはお察しの通りです。ちゃんと読んでくれてれば、そういうお手伝いはしないことはわかっていただけるのですが、どうも世の中には、背景はどうであれファンドを作ってしまえば手数料稼げるからいい、程度に思っていたり、そもそも読まずに問い合わせをしてくる人もいらっしゃるので、なーんか一緒にされてしまっているようでもあることから、ちょっとそのあたりの線引きをする意味も含めて、この記事ではこの点について書いてみようかと思います。

そもそもこの特例業務ってなんのためにあるの?

ファンドを作って、投資家を呼び込んで、その資金を運用する。その一連の流れにおいて、金融業という規制業種においては一人で全部をやることが「出来ません」。

  • 「作る」は法規制等から投資家と運用する人との間の利害関係を調整する役割を果たす「弁護士」さんをはじめ、もしまともなファンドを作るならば、資産管理をする「トラスティ」/「受託銀行」や「ビークルの取締役」とそこに任命された「カストディ」や「銀行」、またその運営の実務を担う「アドミニストレーター」などと一緒に相互監視のもとで作り上げます。
  • 投資家を呼び込むのは、その投資家持分として提供するものによって株式形態か投資信託証券のような第1項有価証券ならば「第1種金融商品取引業者」が、LP持分や匿名組合出資持分などのような第2項有価証券ならば「第2種金融商品取引業者」が、それぞれ投資家に対して商品の説明義務を負いながら勧誘行為を行って、投資家の同意を得て投資してもらうことになります。
  • そして、実際の運用も第三者の資金を、いわゆる善管注意義務を払いながら投資対象を選別して投資することの出来る体制を整えた「投資運用業者」が行うことになります。

上記は日本ではまだ規制業種になっていないものもあります(ファンド・アドミニストレーターがそれに当たります。)が、海外では第三者の投資資金の管理・評価を行うことを重要視して認可制になっているケースが増えていますので、その意味ではどれ一つとして、「自分は出来るんだ!」という根拠のない自信だけで出来るビジネスではないものばかり、と言ってもいいでしょう。

とはいえ、現実を見ると厳しすぎる

ただし、実際にそれぞれの役割について、日本で登録しようとしても、必要となる法人を作り、資本金を準備し、人的資源を配置し、また、事務所を構えて、としたところでやっと登録の受付が行われ、数ヶ月から1年程度の登録のための当局とのやり取りをしている横で、本来やりたい業務が出来ないので収益源がないまま耐えねばならない、というのは実際のところ厳しすぎる、という声が出ても仕方のないところでしょう。
事実、それが新規プレーヤーの参入規制になっているのも事実ですし(言い換えると、既存のプレーヤーは守られている、という見方も出来るのですが。。。)、規制の比較的緩いとされる国(シンガポールですかね。でも、緩かったのを厳しくしたので、さらに緩いラブアンやタイあたりにさらに移動したという話も聞こえてきています。香港はちなみに言う程はゆるくないですよ。)に人が流れたのも隠しようのない現実でもあります。

で、当局はどうしたか

Rule is ruleそこで、二つの方法を提示してきました。一つは、金融商品取引法が導入された 2007年のタイミングから導入されたこの金商法第63条に基づく適格機関投資家向けの特例業務による簡易な規制のレイヤーの導入、もう一つは投資運用業に運用資産などに制限をかけた、いわば lite version の投資運用業の制定、でした。後者はざっくり言えばプロ投資家向けの運用会社の設立を促進して、成功したら、フルスケールの運用会社に登録変更してもらう、という投資運用業の育成の目的が背景にあったのですが、他方で、このコンセプトが合うのがヘッジファンドの運用業者で、プライベート・エクイティのような自らが GP会社になって運用するケースにはそぐわないようで、PE やベンチャーキャピタルはもっぱら前者を使い、正しくリスク評価が出来る機関投資家のようなプロ向けのファンドを組成、募集、運営している、という線引きが出来ていました。

ところで、そもそもこの特例業務って何を指すの?

先ほどの、ファンドの流れを思い出して欲しいのですが、一番肝になるのが、「投資家を呼び込み」、「その資金を運用する」ことでした。金商法が証取法と呼ばれていた時には、自分で会社を作り、自己募集によって投資家を集めて、その会社の取締役としてその判断により資金を自己運用するという建てつけでファンドを運用していたケースが大きかったのです。この特例業務はある意味その延長線上にいて、本来金融商品取引業者の必要なところを自己募集することが出来、投資運用業者が運用するところを自己運用出来るように特例業務の扱いにした、のです。そのため、本来規制の下に置かれるべき役割が規制から外れる以上、投資家側がそのリスクが許容でき、またリスクを判断することの出来る適格機関投資家や、少人数の一般投資家に限定されるようにしたのです。その根底にある考え方は、投資家保護にあるわけです。

でも実際はどうだったの?

この特例業務、前述のようにPEや VC といった、プロしか居られない世界ならば、本来想定した通りの使われ方をしていましたから、そこに問題があったわけではありません。問題だったのは、先ほどの記載にもあった「リスクが許容でき、またリスクを判断することの出来る適格機関投資家や、少人数の一般投資家」の最後、少人数の一般投資家、だったのです。本来の意図としては、プロ同等の経験を持つ運用者個人などを想定していたのですが、金融庁の無登録で金融商品業を行う者の名称等についてにある通り、少人数で想定されている49名を超える一般投資家にアクセスしたりするなど、一度この登録をしたら法規制を逸脱して募集行為を行うことが出来てしまう「バックドア」が出来てしまったのです。その結果、消費者庁を始め、消費者保護団体からこのスキームを使ったファンドによる被害の報告をたくさん受けることとなったのです。

バックドアを閉めるには?

2014年の見直しのためのワーキンググループで一度このバックドアを閉める、すなわち
  • 形式上、適格機関投資家が入ることで特例業務が成立してしまうので、例えば知り合いの同種の投資事業有限責任組合に入ってもらう、とか
  • 入る予定です、といいつつ最終的に入らない、とかのように
本来入るはずだった投資家が入っていない状態を作らないようにする、こともあったのですが、事実上ヘッジファンド用になったプロ向け投資運用業者がプロ投資家だけと仕事するように、PE/VC用の特例業務も適格機関投資家にだけ提供する、くらいの厳しさが必要では、という声すら上がったのは、特例業務を適用するスキームが投資事業有限責任組合か匿名組合といった、一般投資家では理解できないスキームを使い(とはいえ、スキームが難解だから被害が出るわけではないのです。理解できないものの上で理解できない投資をするとなれば、何を理解して投資させたのか説明がつかない、というもっと深い問題になるのです。)被害が発生したと考えれば一般に複雑とされる金融商品に一般投資家を近づけてくれるな、というメッセージが発せられてもおかしくはないのです。

とはいえ、バックドアが必要な人もいる。そして国もまた然り。

とはいうものの、この時の結論はとある一部の人たちから大問題だと声があったのです。それはVCへの投資を行なっている個人投資家や自己投資をファンドへのコミットとして行っていた運用者たちからすれば、VCのようなリスクの極めて高い投資に正しく投資する層がそもそも厚くないのに、その大事な一部すら規制で外されたのでは投資が続けられなくなり、結果として新興企業の育成の妨げになる、のです。当然、国内の事業育成は国の重要課題でもあるわけですから、この声は一般投資家の被害と同じように無視できないものとなり、一度パブリックコメントを受けてそのまま施行、となったはずのものは一度取り下げられて、このいわゆる普通な資力もリスク許容度もない一般投資家を外して保護しながら、リスクの取れる個人投資家をどのように取り込めるか、というものすごく難しい問題に向き合うことになったのです。

結果、来月からどうなるのか?

この同じ個人なのに、リスク許容度の異なる二者を分ける、という問題は
  • ファンドの運用者の関係者
  • 金融資産を1億円以上持ち、証券口座を1年以上保有する個人
  • 業務執行組合員等として投資性金融資産を 1 億円以上保有すると見込まれる個人
を個人が入るときの適格機関投資家以外の投資家の条件としたことで一度妥結したようです。確かに、これなら、ファンドの運用側の関係者ですので、やっていることを理解しているだろう人でしょうし、証券投資の経験が1年以上で金融資産も1億以上であればリスク許容度も高いだろう、という判断になったのでしょう。
この他にも、ベンチャーキャピタル特例、というベンチャーキャピタル投資の特例が導入されたり、投資家保護がなされていない場合には特例業務が認められない、ということで、適格機関投資家に投資事業有限責任組合だけではダメ、とか外国法人も国内に代理人を置くことで逃げられないようにする、などの手当てがなされています。
それ以上に重いのが、届出書の内容の拡充、でしょう。その意味では、本来軽減させるべきところも、ビジネスへのコミットメントをするべく当局等をちゃんと向き合わねばいけない、というメッセージが出てきた、ということなのでしょう。

まとめ

結局、業として特殊性のあるビジネスを行うのが金融業である以上、コストや自分がやりたいタイミングだけの理由で、規制当局と向き合わない方法を選択する、というのは、対外的にはあまり好ましくないメッセージを発している、と理解した方が良いのだと思います。特に投資を過去に何度となくしている適格機関投資家の多くは、多くの運用者を見てきていることを考えれば、法規制の中で事業を行うというのがビジネスへのコミットメントを示している、と解し、逆にそうでないならば、そうでない理由があるだろう、と自然と考えるでしょう。
残念ながら、ヘッジファンドを含む、オルタナティブ投資の世界は以前とは比べ物にならないほど、大きくなり、結果として投資家から institutional player の体制を整えていないならば投資するに能わず、と判断されるのが趨勢です。実際に、特例業務を使ってファンドを運用している人でその先にステップアップできる人はいないわけではないものの、ほとんどおらず、残りは信頼できない、というように見られている、のです。
であれば、ビジネスにコミットして将来大きく運用したい、というのであれば、特例業務のような exemption を武器にすることなく、多くの運用者と同じく、規制と真正面から向き合う、そんな道を進むべきであり、進んでいることを明示すべき、なのだと思います。
そういう人であれば長期にわたって信頼関係を築きながらお手伝いしたい、そう思っておりますのでお声がけください。

ベリーズにようこそ!と言われました

ベリーズ、どーこだ?
ベリーズ、どーこだ?

気づいたら旧暦のお正月、皆様、明けましておめでとうございます(笑) 本年も、本ブログと管理人をどうぞよろしくお願い申し上げます。

さて。色々と書きたいネタも徐々に積み上がりつつあるのですが、その中で今年最初のネタとして面白いものが飛び込んできたので是非にご紹介しようかと。 ベリーズ(Belize)ってご存知ですか?間違えて Google検索でヒットしてくることを期待してあえて書きますが。。。

Berryz○房
右のような、Berryz ◯房ではありませんよ。そんなに可愛い話ではありませんので悪しからず。

ウィキ的解説をすると

右上の地図の、左中心の黄色く彩られた場所、これがベリーズ(BELIZE)です。昔は英領ホンジュラスとも呼ばれていた地域でもありますが、1973年に改称したという英連邦王国の一国、だそうです。ちなみに、この地図をよく見ると、ケイマン諸島がカリブ海の沖、キューバとの中間に位置し、BVIとよく略される英領バージン諸島は地図の右上の黄色い海域の一番北西に位置し、バーミューダがその左に。。。

って、バーミューダはそんなところにはなくてもっと北東の孤島だし、実際の BVI から市民権をお手軽に(と言っても USD 250,000以上ですが)「売っている」と言われるセントクリストファーネビス(St. Kitts and Nevis)、そして南に下ったグレナダに至る小アンチルス諸島は地図の中央右のプエルトリコ (Puerto Rico) の右から下に連なる小さな島々を拡大しただけだから黄色いんだ、と気付いたり。この地図にも騙されないようにしましょうね。

って、ダメだ、本論に入れない。お世話になっている業界の方に
「ブログやってますよね」
なんて言われたから(笑)ちゃんと書かなきゃ、と思えば思うほど余計な情報を入れてしまう。。。

オフショアセンター的解説をすると

さて、本腰を入れましょう。今回、Belize のとあるサービスプロバイダーの方から、LinkedIn 経由で連絡があったんです。

「Belize で会社設立から、金融サービス業のライセンスの取得、現地法に基づく信託の設立などをやっております。いかがですか?」

いかがですか、と言われても。。。確かに、簡単に海外に会社を作れるならば外資系企業グループを自分で作ろうプロジェクトの大事な詰めである、海外持株会社をそこに任せることはできるけど。。。

そもそもベリーズのメリットってなんでしょう。

ベリーズに会社を作り、所有する理由

オフショアならどこでもいいのか、という議論は後に回すとして、この国に非居住者として会社を作り持株会社のような使い方やもっと真面目な「国際的な金融ビジネス」をするためのライセンスを持ってビジネスをする時に、どんなメリットがあるのでしょう。
この業者さんは、こんなリストをくれました。ベリーズに International Business Company (IBC: 国際ビジネス会社、と訳しましょうか。)を持つメリットとして
  • 個人の名前を使わずにビジネスを行えます(shi 補足:そりゃ、そうですよね。法人ですから)
  • 現地の税金の納税義務がありません (shi 補足:当然、出来るビジネスが国外だけならば国内源泉のビジネスではないので税金を捕捉出来ないから税金がかけられない、ですよね。。。(汗))
  • あなたの資産を会社名義にすることで守ることができます(shi 補足:まぁ、そうですよ。とはいえ、個人名義で会社の株を保有するから株価だけ上昇しますので相続的にはあまり意味がないのです。。。)
  • 株主と取締役はベリーズの登記所に登録されないのであなたのプライバシーは守られます(shi 補足:その意味では守られるけど。。。株主はさておき、取締役が登記されないとしたら、会社の取引相手は何を持って会社の代表権限を持って契約に署名する、と認知するのだろう。。。(汗))
  • いかなる通貨の口座を保有できます(shi 補足:日本くらいです、法定通貨しか帳簿上記帳できないなんて。ということで、他でもできますが、何か?)
  • ベリーズに貸しオフィス、あります(shi補足:オフショアらしい!)
  • 複数の IBCの取締役や株主になれます(shi補足:それ、ベリーズならではか???)
  • IBC 名義で船舶の保有が出来ます(shi 補足:船舶の管理会社をやりたいならありですねぇ。ちなみに、ベリーズはマグロの密漁する船の登記が集中しているという噂もあります。)
  • ベリーズの IBC のために洗練された (Sophisticated) 銀行システムが提供されています(shi 補足:これがなかったらむしろ開けたくないです。)
  • 24時間以内にIBC が設立されます (shi 補足:きたっ!)

だそうです。じゃあ、なぜベリーズなの?という質問に対する回答として

  • 会社設立は素早く、お安く – 指図を受け取ると、登記は通常1日以内に完了して書類も顧客に送付されます。(shi 補足:きたっ!)
  • 会社定款だけが登記所に提出され、取締役や株主の情報は登記上のオフィスにて管理されるため秘密が完全に守られます (shi 補足:ということは取締役であることの公証は公的機関はしない、ということなのか。。。)
  • ベリーズ国内でのビジネスをする、もしくはと規制下にある金融サービスへのいくつかの制限を除けば、納税と当局届け出不要(shi 補足:でも、年次登記管理手数料はいるよね?)
  • ベリーズはアメリカの2大ハブ都市、マイアミとヒューストンから近いので、ベリーズへの旅行は簡単でいつも歓迎されます!(shi 補足:歓迎される、って言われてもねぇ。。)
  • ベリーズは英語の国ですので意思疎通がしやすいと多くの人に受け入れられています(shi 補足:私日本人、英語、ワカリマセーン)

と。。。なんだろう、いわゆるケイマン諸島にみんなが抱くイメージをリアルにやっている場所のように思えてきた。とはいえ、実際、登記に 500米ドル、年間維持コストが300米ドル、と言われたら、シャレで作ってみたくなってきた。。。

取り敢えずのまとめ – なぜ今までベリーズではなかったのか?

ということで、もしご興味のある方、ご一報ください。お手伝いいたしますので。

って書くとアクセスとか仕事の依頼が来るかな?実際、ベリーズで検索して動画サイトを見ると富裕層向けと思しき人たち向けの海外資産移転の先としてベリーズを奨励する動画とか結構あるんですよね。でも、今、出国税が掛かる時代ですからねぇ。どうやって移転しましょう(笑)それが FP の仕事だろ?と言われそうですが。。。
ちなみに、ベリーズで International asset protection and management のビジネスをするためのライセンスが、曰く “low level of regulation” の元、取れるそうです。とはいえ、このライセンスでケイマン諸島籍のファンドを作って募集して運用する、と言って、どれだけ投資家が信用して投資するか。。。正直、金商法63条特例業務を使って個人投資家に投資商品を組成して投資勧誘するのと同じくらい業界で信頼をなくしそうな気がしてなりません。。。それは実際のビジネスをする人の中身とは関係なく、見た目、もしくはその選択肢を取ったこと自体に対する、同業他社を含めた周りの評価が、今はそういうこと、なのだと思います。
それは、実はオフショア金融センターが一生懸命、自分たちはクリーンなんだ、G7 よりももっとしっかりしているんだ(事実ですからね!)、と声を上げたとしても、思い込みをどうしても払拭しきれていない現状とも重ね合わせることができるのが、本当に残念ですが。。。
なので、まぁ、これから伸びるだろうビジネスを作るんだ、そんな会社グループをベリーズに持株会社を作るんだ、という小さく生んで大きく育てるという夢のある人にはいいところ、かもしれませんね。(あ、当然ですが、外資系企業だからといって、国内での利益には税金がかかりますので、税引き後の配当だけが持ち株会社に移転することが可能なのは。。。言わなくともわかりますよね?)

(追記)
ちなみに、ベリーズで会社を作って、自分を外資系企業グループの社長にする方法を紹介してみました。やってみたいですか?

CRS (Common Reporting Standards) で投資家に何が影響するのか?どう見てもあれ、なんですけどね。

CRS テンプレートが既に出来ているので白紙に自由に書けるわけではないですが。。。
CRS テンプレートが既に出来ているので白紙に自由に書けるわけではないですが。。。
この12月になって、ケイマン諸島の法律事務所からのニュースレターでこのトピックしか取り扱わない、というくらいこのところホットな出来事、といえば、表題にある CRS (Common Reporting Standards)。いつぞやの某諸般の事情での偉い人から言われた「ケイマン諸島って脱税天国でしょ」的な言葉に対する世界的に大掛かりな対応の一端として、今世界中の関係者を巻き込んでいるので、その概要と影響について簡単にまとめてみたいと思います。

CRS (Common Reporting Standards) ってなあに?

ケイマン諸島の動きだけを見ているとこの島特有の話に思えてきてしまうので、そもそもの大きな背景に目を向けるとしましょう。そのためには、時計の針をまずは 1997年まで戻しましょう。

ちょっと歴史の話でも

OECD の Automated Exchange of Information (AEOI) サイトによれば1997年当時から、OECD 諸国では情報交換に関する政策や技術について検討していましたが、当時から10年ほどは OECD 標準電磁フォーマット(OECD Standard Magnetic Format / SMF) だけが存在していたのです。 その横で 2003年にEU で EU Savings Directives が導入されたことで、多国間での AEOI のルールが初めて作られました。これによって、多国間での税務及び世界的な税務的透過性について色々と進歩が見られるようになったのです。ただ、次の大きな流れは、2010 年にアメリカが FATCA (Foreign Account Tax Compliance Act) が出てくるまでは特に大きなこともなかったのです。

FATCA が生んだ税務情報の国家間での情報交換の潮流

2013年、アメリカが世界中から extra-territorial (治外法権) 的だと言われた FATCA に対する税務情報の提供に関する、EU 主要5カ国(イギリス、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ)との政府間協定 (IGA)が相互提供の形をとることから、多くの国や地域がこれに追随しました。ちなみに、日本とスイスは IGA-model 2 と呼ばれる、国が情報提供に関与しないものでしたので、国内の各運用会社や銀行などが自分の責任でUS-IRSなどに届け出なければならなくなった、という経緯でもあるのです。
また、この年、OECD では AEOI と既存の膨大なプログラムについて、そして将来の在り方について講演をし、また、G20 サミットでその講演内容について後押しを受けることになるのです。

2014年の7月15日にまで進めてみましょう。この日、G20からの要請に基づいて、この Common Reporting Standards がOECD 評議会で承認されました。これにより、このルールに参加諸国がその国にある金融機関から情報を取得し、その情報に基づいて毎年他の国との間で自動的に税務情報を交換できる(Automated Exchange of Information)ようにするための枠組みが出来上がったのです。

これを受けて、2015年の8月にOECD が CRS 導入ハンドブックを作成し、同10月にケイマン諸島の税務当局が法制度を整え、この12月にCRS Regulation 2015 に対するガイダンスやフォーム(法人向け及び個人向け)、CRS 参加国リストや、報告義務免除の対象などを開示したのです。

2016年以降も引き続き秘密保持に関するルールや実務に関して OECD の部会の一つ、Global Forum が作成中であり、また、実際の AEOI の実効性に関する監視体制についても準備しているそうです。

なぜ弁護士事務所が「今」慌てて注意喚起せねばならなかった?

2015年8月のOECD によるCRS導入ハンドブックの公表を受けて、10月の法制度の制定、12月に実務要件の公表、と来て、これの目指すところが実は

  • 2016年1月からの新規取引口座開設の際にCRS対応で行う
  • 2016年12月末までに取引口座開設を行っている100万米ドル以上の残高のある個人に関する調査の完了
  • 2017年の12月末までにその他の既存口座に関する調査の完了
  • 2016年のCRSに関する届け出を2017年のそれぞれ定められた期限までに完了

というのがあるのですが、これはケイマン諸島がCRS に基づくAEOI を実施する最初の国の一つ(Early Adopter Groupと呼ばれています) だから、なのです。なお、Early Adopter Group とは

Argentina, Belgium, Bulgaria, Colombia, Croatia, Cyprus, the Czech Republic, Denmark, Estonia, the Faroe Islands, Finland, France, Germany, Greece, Greenland, Hungary, Iceland, India, Ireland, Italy, Korea, Latvia, Liechtenstein, Lithuania, Malta, Mauritius, Mexico, the Netherlands, Norway, Poland, Portugal, Romania, San Marino, Seychelles, Slovakia, Slovenia, South Africa, Spain, Sweden, and the United Kingdom; the UK’s Crown Dependencies of Isle of Man, Guernsey and Jersey; and the UK’s Overseas Territories of Anguilla, Bermuda, the British Virgin Islands, the Cayman Islands, Gibraltar, Montserrat, and the Turks & Caicos Islands

だそうで(Cyprus:キプロスについては、トルコがキプロス島の北半分に「北キプロス・トルコ共和国」を承認しているものの、国連で承認されていないことから、ここでいう「キプロス」とは、キプロス島の南半分を指している、という領土問題すら関与してくるのです。。。。)、実は、ケイマン諸島だけが大慌てではなく、UK-FATCA のあるイギリス本土はもとより我が(笑)Jerseyやバーミューダも、お隣の韓国も、そして日本でファンド設立国としてそれなりに有名なアイルランドも、影響があるはず、なのですが。。。あまり聞こえてこないですねぇ。。。それに対して、アメリカは、それでも自国のFATCA に固執するようですね。さすが We are the World な国。我が国は、といえば、まぁ、model 2なので、各金融機関がextra-territorial であってもちゃんと神の目を持って認知して、ここの国から求められる情報提供に対応していく。。。のでしょうか?ちょっと疑問がありますね。

その影響とは何が考えられるか

ファンド・アドミニストレーターが通常、投資家とのやりとりも担うことを考えると、CRS に基づく投資家の投資開始時や定期的な身元調査のを担うことになるでしょうから、FATCA に付け加えて手間がかかることが想定されます。その結果、day-1 での投資を開始したい、と思っても、不測の書類等の不備への対応をも考慮に入れて、より早めに色々な提出書類を準備していく必要が出てくる、ことになりそうです。以前書類を出したから、我はこの国を代表する投資家だ、そのうち出すから今は許して、なんて10年前あたりは許してくれたようなことを言ったところで今はダメでしょうね。

それ以上に、大きいのは、当然の事ながら、税務情報が今まで以上の精度でファンド設立地と投資家の本拠地との間で、しかも自動的にやりとりがされる、ということです。これは、いわば、冒頭に書いたように、「オフショア=資産を隠せる脱税天国」のイメージを払拭するものであり、だからこそ Early Adopter Group にケイマン諸島やジャージーといったトップクラスのオフショア地域が入ってきたのだと言えます。何度となく、ここでも主張していますが、オフショアは既に Tax Neutral = 税務的中立国なので、納税は投資家の所在地で適切に行ってくださいね、というのが今の税務の本流になっているのです。

さて、この流れ、今後どうなっていくのでしょうね。引き続きアップデートしていきたいと思います。

error: This Content is protected !! この記事は印刷不可です。