More on ETF: 運用会社の巨大化に伴う、大量保有は何か市場や投資家にとってデメリットって?

ETFやbitcoin の話を書いていると、どうも興味を持ってもらえることが多いようで、この数週間であれこれお仕事のオファーを頂いたりしていて本当に感謝です、というのもあるのですが、その陰に隠れて、当の本人は絶対に匿名でかつ内緒にして欲しい(というか、こんな形で公開されたくはない)はずなのですが、私にこれ以外にも(付き合っているのか、というくらいに何度も)メールを頂いたこともあることから、それに免じて今回のタイトルにあるような下記のブログネタに持ってこいのご質問をくれたのでご紹介したいと思います。(ごめんなさいね。忙しいから、回答含めて記事にさせて頂きますね。)

ETFの功罪 – 大量保有した場合の権利行使は?

質問です。

現在のETF業界は、ブラックロック、バンガード、ステートストリートの寡占が進んでいます。特にブラックロックとバンガードに至っては、指数採用頻度の高い多数大型株の、筆頭株主になりつつあります。もちろん、事実上の株式の管理は信託銀行にあるとは言え、議決権等の権利は運用会社に寄与させると考えております。このような運用会社の巨大化に伴う、大量保有は何か市場や投資家にとってデメリットに繋がる可能性があるのでしょうか?

ぜひ、専門家である宮田様の意見が聞いてみたいです。

残念ながら、ファンドの設立や運営については、多分日本で5本の指に入るくらいまともなセンスと投資家のことを考える専門家ではあると自負はします(これは本気ね。投資家のことを考えない、運用者の都合と自己満足を優先するストラクチャーをする輩が多いのが事実ですから)が、ファンドの運用方針とか戦略についてはかなり無頓着な私ですから、ファンドの保有する株式の議決権行使については本源的にはあまり気にしませんし、さらに言えば、その先にある運用会社の議決権行使の方針による市場への影響、なんてそうそうイメージすることもありません。

ですが、この昨今の日本版スチュワードシップコードのような話を踏まえるならば、次のような一般論程度は言えるとは思っています。

筆者の考えるETFによる大量保有に基づく議決権とその市場への影響とは

まぁ、当の本人にはメールで返した内容なので、記事としては手抜きですが、こんな感じです。

多分にご質問にある問題点は投資家のポジショニングを考える際に影響することでしょうから本来であれば自己の裁量により勘案すべきことと思いますが、私見を述べるならばETFだけが斯様な大量保有とされるポジションを抱えている訳ではないですのでそれを持って市場へのデメリット、という影響があると考えるのは早計でしょう。
そもそも会社への支配的、もしくは影響を及ぼす保有割合は日本のルールでいうならば大量保有届出を義務付けられている 5%ではなく50%でありまた、25%であったりと、ケースにより変わる訳ですので、ETFの市場規模がそこまで増えた時に初めてこの問題が現実のものになり得ると思われます。
# 日銀による J-REIT保有が過半を占めている、という話についても
# とはいえ、それぞれの J-REIT 銘柄の半数を超えて保有している訳ではないので
# 今の所は問題にはならないでしょう。多分。

他方で、運用会社としての大量保有による影響というのは、その運用方針による保有の仕方が問題になる話ですので、個々の運用会社のウェブサイト等で開示されている保有時の方針、例えば日本であれば日本版スチュワードシップコードの表明の有無などから運用会社ごとの対応を推して考えることと思います。

また、支配的保有であれば go-to-private のようなプライベートエクイティのような買収案件ですので市場への影響より個別銘柄のその他の少額投資家への影響、という問題に話が変わることになります。

その上で申し上げますが、ETFのような支配的目的での保有でない保有で結果的に影響を多少なり与える保有になった場合にも経済的効果のみを目的とする以上、議決権を留保するという権利行使をすることもある、と理解すべきです。これはETFが市場に現れる前の日本の機関投資家が取っていた方針でもあるので別段新しい話ではありません。

少額投資家の利益と思われていたETFが増えれば増えるほど、その意味では会社運営の観点で監視し、利益を主張し得る立場にあるはずの議決権が死蔵される可能性が上がるという意味にもなりえること理解しておく方が良いでしょう。これらを勘案して、それでもETFの動きを見て同調して保有する(することで死蔵に加担する)のか、その他の大量保有者の動きを見るのかをして、個別銘柄やETFを保有し/売り越すのかを考えるのがETF趨勢の時代におけるポジショニングの構築、ではないでしょうか。

ま、何も言ってないじゃないか、と言われそうですが、実際には二つの考え方が支配すると言ってもいいけどそれがどっちに転ぶかは知らん、としか言いようがないのです。

スチュワードシップコードという名の経営への関与 – お前らPE崩れか?

いや、まじで。スチュワードシップコードって大量かどうかはさて置いたとしても、運用会社として取得保有するならば長期的に保有して株主としての地位を使って取締役会と対話してその株式の評価額の向上に関与すべし、という話なのです。それって、友好的なアクティビストとどう違うんでしょう。本気で経営にテコ入れて企業価値を押し上げたいならば PEのように過半数以上保有して経営陣を送り込んで交代して投資家の思う経営をさせる方がより効果的だ、というのは PEファンドがすでに証明しているはずなのです。

いずれにせよ、この取締役会はクズいから不信任ということでショートします、だって取締役会への大きなアピールのはず、なのですが、どうも理解されずにロング側に立った話でしかしないのは

「株式は長期保有がマスト、というか短期売買で株式市場を下げるようなこと(= 株は売ること)はするなよ、分かってるよな?」

という国や与党から押し付けられた大人の事情、としか個人的には思えないのは私だけでしょうか。

経済的効果だけ欲しいから余計なことは言わない – 希望的マグロな投資でいいの?

と言って、この株の経済的な効果だけ欲しいから議決権行使は何があっても行使しない、という運用会社や適格機関投資家が大多数だったのは、本当にこの数年までの超長期の話。曰く自分たちの意見が株価を動かしたなんて思われたくないから、なんて、どこの誘い受けの乙女だよ。そもそも議決権を行使したところで株価がそれ通りに反応するとは限らないのだから、思い上がるなよ、という気もする(ええ、著者は株式市場なんて所詮は企業努力による株価向上など投資家のセンチメントの前には相関性の極めて低いイベント、くらいにしか思っていませんのは、前回までの ETFの取引価格の構成要素の議論を見ていただければ一目瞭然ですね。)訳です。その意味では議決権行使をするしないに関わらず株価が動くのだから行使せずに受け身でい続けたって問題はなさそうに思えるし、どうもこのセクションの論調だってそうだろ、と言われかねない。

とは言え、経済効果とは本当に株価の上昇や下降を口を開けてぼんやり黙って見て享受していれば良い、のだろうか。株価と議決権行使などのイベントが極めて低い相関性だ、と言ったところで、株主である以上、その権利ではなく義務として議決権の行使の判断をすべきなのは、株式というものが投資家のための株式の流通市場にて取引されようがされまいが、その本源的価値を向上するのが取締役会であり株主の役割であることに違いがないから、その使命は果たすべきだとは思うのです。

とすれば、誰かさんによるその企業価値の創造に第三者的にタダ乗りする運用会社って、選球眼はあるけどどうよ?としか思えなくなるのです。

で、ETFが大量保有することの影響っていいの?悪いの? -結果論に過ぎないのだから気にするな

でも、ETFってそういうタダ乗りの箱、なのですよね。結局のところ。だって、自分でどの株がいいか悪いか判断せずに丸っと保有しているだけに過ぎないのですから。その意味では影響が良いほうでも悪い方でも、出たとしても気にする必要だってないのかもしれません。

ETFを保有することが投資家の市場全体への参与を束ねているだけに過ぎない一方で個別株という個性についてはあまり配慮していない、のですから、個性がどう振る舞ったところで、日経 225であればたかだか数パーセントの影響に過ぎないのです。そりゃ、個別の株主総会への影響なんて仮に株価への影響があったところで指数全体から見れば気にならなくなりますね。

ということで、ETFで投資するなら、他人のコストストラクチャーもガバナンス的な命令系統も何もあったものではない、むしろ気にせずETFの対象戦略だけを気にする方が良いのではないか?という結論にここではしたいと思います。というか、結局そこを看破した稼げる紙としてETFにはあって欲しい方がニーズが強いから、なのでしょう。

あーあ、こんなんでいいのか?(笑)

ETF の続き、というよりファンドや証券そのものの本質的なところをもうちょっとだけ書かないといけない気がしたので

元々このブログで意図していたのがオフショアのファンドのイロハ的、とある意味金融商品でも割とニッチである意味上級者向けな(だから、読者層も極めて限られている)ところだったところに、AFPなんてものを著者が取得してしまい、かつ30代男性読者の金融リテラシーを補わねば、という人向けの記事をいくつか書いたものですから、投資というものを細かくかみ砕くような記事をちらちら書いてしまったおかげで、ETFの記事をポストした後に数人の方からのこの記事に対するフィードバックを聞いているとどうやらプロ向けと初心者向けの間の部分が抜け落ちた構造になってしまっていないか、ということに気づかされることがありまして。。。

そこで、ちょっとだけ ETF の話の延長をしつつ、ファンドへの投資ということや証券の取引の本質的なところをいくつかかいつまんでみようかな、と思ったのが今回の記事の狙い、と思ってください。

Bitcoin してる?

現物資産っぽいbitcoin (イメージに過ぎません(笑))AIMA Japan の創設メンバーの一人で、時々(当の二人に自覚症状は全くないものの、オルタナ系ファンド業界では有名な2mの大男から“Dangerous Men” の称号を一緒に頂くほどのハードな)飲みにお付き合い頂いているオルタナファンド投資の日本での第一人者、白木さんと珍しく(?)素面で話した時に聞かれたのがこの一言。このリンク先でも彼が取り扱うように、ビットコインなどの仮想通貨というもののあり方というのが投資の世界でもいろいろな形でかかわることが想定されつつあるのですが、ではどんな風に、というのはまだいろいろな可能性もあり見えてきそうで来ないというのが、fintech 特有の「急に現れる未来感」なのかもしれません。

といって、ある意味著名な投資家である彼と同じような投資家目線での高尚なことは書けませんから、ここでちょっと取り上げたいのは、仕組み的なところで一つ。

このところ、出てくるだろう、と言われ続けて世の中に登場してこなかったもの、として言われるのがbitcoin ETF。その名の通り、bitcoin を裏付けにしたファンドの持ち分を上場させたもの、なのですが、過去に何社もトライしつつも当局のストップによって出来ずにいるものです。

といいつつ、実は今、米国 NASDAQ の登竜門と目されている OTCQXに、Glayscale 社というところが GBTCというティックコードで上場させているものが多分事実上のbitcoin ETFなのでしょう。ETFではないファンド、であれば、4年前にジャージー島で私募で作っているという話を聞いていて、実際にGlobal Advisors というジャージー島のファンドが2014年からのトラックレコードが示されていますから、多分そういう形で世界中のあちこちでファンドの組成を行っていたと思われます。実際、Forbes の記事によれば今年7月の時点で13ファンドがETFではないにせよ、bitcoinなどに関連して投資をしているようです。ちなみに、このGlobal Advisors のGABIはケイマン諸島の証券取引所、The International Exchange に上場しているそうな。とはいえ、この上場の意味は。。。前回のETFの記事で説明した広義の意味での「届出目的の上場」と思ってもいいかもしれませんね。

あ、余談ですが、このGlobal Advisorsは2017年6月にAltcoin (bitcoin 以外の仮想通貨)の一つで有名なEthereum platform の通貨、 Ether 建のファンド、CoinShare Fund I を立ち上げて、その他のAltcoin のICO(Initial Coin Offering)やその後のステージで所有者間で流通しているものの取得するなどして運用していくそうな。感覚的にはAltcoinは株みたいな資金流通手段になっているから株と同じようにタイミングを見て売り買いして運用できる、というのを示していくように見えてきます。

で、ここで一つポイントにしたいのが、bitcoin って実際のところETFにしなくとも比較的手軽に口座を開けて取得可能なもの、ですよね。実際に近所のIT好きな店主のいる喫茶店でのコーヒーのお支払いに(そして、それと同じくらい手軽にdark web 経由で依頼したアンダーグラウンドな活動の対価として)bitcoin、のように決済にも使える訳ですから。ではなぜ、わざわざ(GBTCの場合なら年率2%の)フィーを払ってでもETFになったbitcoin を持ちたい、というか投資したいのでしょう。

bitcoin ETFだけに限らない 「ETF する」ことのご利益(その1)

なぜそれをするのか?という質問は、ファンドに限らず、また事業に限らず、ある意味すべての行動において問われるものですが、特にお金が絡むものならば「誰かが」儲かるからそれをする訳でして、ということは、その金融商品にはそのメリットをデザインされて作られているのです。では、bitcoin ETFの場合、フィーを払っても得たいメリットとはいったい何か、ですね。

bitcoin に限らず実際には現物資産を裏付けにした ETF やファンド全般に当てはまることなのですが、ファンドという金融資産にすることで、これらの資産を直接取得・売却することで得られた利益に対する課税と異なる課税ルールを適用出来るように変換するのです。

どういうことかといえば、bitcoinの場合でいえば、話を単純にするため(というのも、bitcoin についてはいろいろなところで課税利益が発生するようなので。。。)に単純にお金を払って bitcoin を取得し後日売却してお金を得た、とすると、取得した価格と売却した価格の差額が利益になります。この利益については日本に住む個人であれば雑所得として取り扱われるそうです。この場合、ざっくり言えば給与所得等と合算して累進課税の計算の対象となります。(もし、確定申告を要しない給与所得だけの人の雑所得が年間20万円以下であれば確定申告しなくともよいそうです。ですが、住宅ローン減税のための控除を受けたい、年間2000万円以上の給与所得がある、など確定申告しなければならない場合には、雑所得が20万円未満でも申告対象になるので注意が必要です。)

これがもし(というのも、ごく一般的な日本の居住者では多分にGBCTの取引できる人がいないと思えるので、仮に出来たら、という前提で書きます。ただ、これがこの記事を書いて時間が経って、日本国内で普通に組成・上場されたら、その時の法令等に従ってくださいね。)bitcoin ETFを取引して結果差益が出たならば、株式の譲渡差益と同じ「上場株式等に係る譲渡所得」として申告分離課税の20%の対象になります。

実は同種の議論が既にあって、例えば金の積立投資ならば譲渡所得扱い(なので、差益に対して50万円の控除をした額、ただし、5年を超える保有期間ならばその控除後の額を1/2に圧縮した額、が給与所得等と合算して累進課税の対象になるのです)なのですが、金のETFならば株式扱い、になるのです。

あと、似たところでは、一般に FX と呼ばれる為替証拠金取引での差益がbitcoin と同じく雑所得扱い(というか、為替差損益の取り扱いが雑所得だからbitcoinが類似性から雑所得扱いになった、というべきか)のところ、その上場バージョンである「くりっく365」であればその差益は上場株式等と同じ申告分離課税の20%の対象になります。

課税区分の変換だけじゃない税制面でのメリット – 多分みんなはこっちを見ている

また、ETFにする、ということは上場株式と同じ商品の取り扱いになる、ということですので、日本ならばNISA口座での取得が可能になる、ということでその非課税性を享受することが可能になる、のです。実際、GBCT のウェブサイトを見ると、米国のIRA (individual retirement account: 個人退職口座)での取得が可能という税制面でのメリットを謳っています。そう思うと、bitcoin を直接保有することでの税制面での影響とどちらが有利か、考えますよね。

まぁ、金のETF をNISA口座のメリットの出る期間保有するなら個人に適用される累進課税税率次第ですが、同じ期間だけ金の直接保有する方がメリットがありそうにも思えますが。。。

ということで、NISA の話もどこかでしないといけませんね。。。

それ以外のメリットってあるの?

それ以外、って、言われても税制面が一番投資家にとってその最終損益に影響する要因ですから大事、といえば大事だと個人的には思いますが、それ以外に経済合理性の観点であるのか、というと正直ストラクチャーを見る限りはメリットはないと思っています。

というのは、ファンドというワンステップを入れる、ということは、そのファンドを維持・管理するためのコストが当然に発生します。ということは、その費用をだれかが負担する(ということはそれらのサービス提供者はこれに絡むことの経済合理性のある理由はそこからのフィー収入が発生するから、ですね。)かといえば、当然ファンドの投資家が、ファンドの資産の一部から、となるのです。ということは直接保有することに比較してその費用分だけ収益が減少するのは誰が見ても明らかです。ということは直接保有に対して費用分を差し引いても税制面でのメリットがあるからやる、メリットがなければやらない、というのが合理的行動に基づく投資の選択、ですよね(心理学だか経済学だか学んだことがないのでこの言葉遣いが正しいのか知りませんが。。。)。

と言いつつも、これが個人ではなく行動規範に制限のある法人になるとちょっと話が変わってきます。前回のETFに関する記事でちらっと触れた、世界中のどこかで上場していないと投資できないという機関投資家の投資対象の縛り、ありましたよね。それに、BBB格付けのない債券は投資不適格、ということで機関投資家は投資しない(といいつつ、バンクローンとかCとか平気でありますけどなにか?)、というようなリスク管理などの事情で彼らは投資行為がいろいろと狭められているのです。

としたら、そういう人に向けて商品化するためには器とか形式上の整えが必要だ、ということになってくるのです。

ファンドじゃないと買えない!

例えば、日本で言えば信託銀行の信託口座からしか投資の出来ない年金投資家であれば、その受託者の受託者責任によって求められ、また銀行として果たさねばならない(ということは商業的な範疇で言うならば最大限にエラーフリー – 間違いを起こさない – であることを求める)「善良な管理者の注意義務」を全うしながらbitcoin の取引用の口座を開設、維持管理することが出来るか、と言えば、まぁ無理でしょう。金融庁検査に入られて検査官が理解できるような説明がつかないでしょうね(べーっ、だ)。となると、実際に受託者が現物資産を保有するのではなく、金融商品化された上場株式と同等のETFならば、上場基準等々を満たしている訳だから大丈夫だろう、という説明で切り抜けられる、と判断して受け入れることになるのではないかな、と理解しています。

例えば銀行。銀行も実物資産を保有するファンドへの投資が出来ないという規制があるようで、例えば卑金属を保有する可能性のあるファンドへの投資出来ない、という話を聞いたことがある(でも、不動産を保有したりREITに投資したりするから、いわゆる商品取引系の資産がダメなのかもしれませんね。そこまで調べませんけど。)ので、もしかしたらbitcoin ETFにしたところでだめ、と言われるかもしれません。とはいえ、銀行も担当部署の都合で、外国債券の形での仕組債はダメだけどそんな仕組債を単一資産として保有するファンドならば投資できる、という大人な事情を抱えることもあるので、 ファンドにする、という経済的合理性を超える理由というのはこうやって出来る事だってあるのです。そもそも、考えてみれば、(J-)REITなんかも不動産の直接保有を金融商品に変換している商品ですが、銀行が大家さんな事業をやることはなくとも、J-REITでも私募REITでもいいから投資するあたりは、そういう事例としてみるには分かりやすかったかもしれませんね。

ちょっと余談:ひと手間掛けることで化ける金融商品たち

さて、ちょっと余談でも(ちょっと、と言いながら長くなりそうですね)。
さて、今までファンドで投資対象の性質を変える、という話をしていますが、こんな金融商品の性質を変えることが出来る機能を持っているのはファンドだけではないのです。

例えば、アメリカ株をやったことのある人なら聞いたことがあると思うのが ADR(American Depository Receipt)。これは、アメリカ国外の企業がアメリカの証券取引所に上場する(ということは米ドル建てで資金調達する)にあたって、本国で(第三者割当で)発行した株式を米国内のDepository に預け、それによって発行された預託証書 (Depository Receipt)を上場させたもの、です。これによって実は本国の法律に基づいて発行された株式が米国内で米国法に基づく証券ということで間接的に流通させることが出来る、という仕組みなのですが、これを応用して、例えば日本で上場・流通させたい時には日本国内の信託を使ってJDR(Japan Depository Receipt)化して上場させる上場信託というスキームがあり、同じことを欧州でやると GDR (Global Depository Receipt)と呼ばれます。

で、なぜ、この話をしたか、というと、イスラム金融に基づいて作られた金融商品をGDR化して非イスラムな投資家に対してアクセスを与えている、という面白いことをして(大儲けして)いる知人がヨーロッパにいて、上記のファンドによるコンバージョン同様に商品性のコンバージョンというのが金融の世界ではあちこちで行われている、という話をしたくなった、だけなのですが。。。

ファンドが変換するのは税務上の性質だけではなく課税のタイミングも変える

さてと。資産の直接投資とファンド経由の投資を税務上の取り扱いの観点で比較したならば、もう一つ税務上での性質の変換を行っている点があります。あまりに当然すぎて気にならないことでもあるものの、極めて重要なことなのでここでご紹介したいと思います。

それは、ファンドを経由して投資すると課税されるタイミングをファンドの持ち分の売却の時点まで遅らせることが出来る、ということです。

例えば、こういう例をみると分かりやすいかもしれません。直接保有する場合とファンドのポートフォリオとして保有する場合と下記の全く同じポートフォリオの入れ替えを行うとします。なお、話を単純化するためにポートフォリオには銘柄Xしか持たないで入れ替えと言いつつも持ち分を増減させるだけ、取引コストや維持コストも0とします。

  1. 2017年5月:ポートフォリオに 銘柄Xを単価100円で10,000単位取得
  2. 2017年11月:ポートフォリオの銘柄Xの、3,000単位を単価110円で売却
  3. 2018年6月:ポートフォリオの銘柄Xの、3,000単位を単価90円で売却
  4. 2019年3月:ポートフォリオの銘柄Xの、4,000単位を単価120円で売却

さて、上記を直接保有した形で取引した場合、2017年末は30,000円(=3,000 単位 x (110 – 100) 円)の売却益、2018年は30,000円(=3,000 単位 x (90 – 100) 円)の売却損が、2019年は単年で見ると80,000円(=4,000 単位 x (120 – 100) 円)の売却益が出ましたが(日本の税務ルールを適用するならば)前年の売却損があるので繰り越し欠損を充当することで50,000円 (=80,000円 – 30,000円)の課税利益が出たことになります。

もしこれをファンドで行ったとして、2017年4月末にこのファンドに100万円(100円 x 10,000単位)投資したとしたら、その持ち分を2019年3月末まで途中で手放さずに持ち続ける限りはこの3回の売却損益を課税申告することはなく、また、これらに関係なくファンドの持ち分を取得した価格と売却した価格との差額である 80,000円 (= 1,080,000 = (330,000 + 270,000 + 480,000)  – 1,000,000) が2019年の課税利益、となるのです。

こうしてみると、結果だけ見ると同額の課税利益が発生するものの直接保有すると利益を出した年に細かく税務処理をすることになるところ、ファンドであれば持ち分を売却する時点まで2017年の売却益を課税されずに繰り延べることが出来るということが分かるかと思います。 このメリットは、この例でいうならば、2017年の売却益に対して20%の課税がされる、ということは、6,000円が手元から無くなっている訳ですから2018年の頭に再投資をするための資金が330,000円ではなく 324,000円だったことになり(この例では再投資をしていないので実感できませんが)投資効率がファンドに比べると直接保有だと(キャピタルゲインタックス分だけ)落ちる、ということなのです。

よく節税の教科書あたりだと、これを例えば大きめの経費等が発生する年に含み益のある投資商品を売却して実現利益にして大きめの経費にぶつけることで課税利益を圧縮する、なんて簡単に書きますが、問題は手元にそんなに都合よく含み益のある投資商品をもっているのか(全部負けてたらどーすんだよっ!)と思うのですが、利益の繰り延べが出来るというのは、含み益の実現化のタイミングを自分の都合で出来る、というメリットがある、と解されるのです。

まぁ、そのためにはファンドでキャピタルゲイン課税がなされないこと、なのですが、日本なら投資信託のようなものならば課税しないことになっているので実現しやすいのですが、日本の会社では法人税がかかるので使えない、ですね。

そこで、キャピタルゲイン課税のない国に会社を作ってそこで投資行為全般を集約してしまえば、日本で利益を実現したいタイミングまで海外で運用を行っていけば税務のタイミングをコントロール出来ますよ、というのが、実は以前書いた記事のひとつである、個人で海外に法人と銀行口座を持つメリット、という以前の記事の総まとめにもなるわけなのですが。。。。

と、気付けばだいぶ話がbitcoin ETFから離れてしまったので一気に引き戻しましょう。

bitcoin ETFだけに限らない 「ETF する」ことのご利益(その2)

ETFにすることで、投資家の側に立ってみると

  • 投資単位が小口化される – 前回のETFの記事で見た通り、日経225ならば現物株で5.3億円程度で構築できるポートフォリオに10,000円前後で参加できる。
  • 流動性が証券取引所が動いている時間ならばいつでも、しかも価格は瞬時に – 通常のファンドならば最短でも一日一回、しかも価格の確定は申し込んだ翌日以降にならないとわからない。

といったメリットを提供されていると考えられます。なお、前回の記事から再三申し上げますが、ここではファンドの運用報酬が安い、というのはETFでは取引所での価格確定のメカニズムが入ることで投資家の投資のリターンに事実上影響がない、という立場を取っています。というのも、これから説明することがETFの価格構成要素としては大きな影響を与えるものであって、それゆえ本源的なファンドとしてのETFの資産価値を構成する運用報酬などが価格の構成要素としての影響力が事実上ない、と考えているからです。

ETFにすることでETFの発行・流通に関連する関係者の大きなメリット – 流通量のコントロールを通じた価格形成が可能になるということ

これは何を言いたいのか、というと、ETFではないファンドが投資戦略を実行するために「資金募集」を行う際には、そのファンドの持分を時価相当額で発行してその代わりとして資金を受け入れます。ということは、この通常のファンドの持分の発行というのはファンドの投資戦略への需要と一致した量だけ、しかも小口化してより多くの投資家が保有できる形で、発行されていると考えることができます。

当然、ファンドを作るときにある程度当初の投資見込みを勘案してファンドというのは設定するかどうかを検討されますが、とはいえ、一般的な株のIPOや債券の売り出し、果てはaltcoinの ICO (Initial Coin Offering) のように、ある程度需要を見込んだ上での一定量の持分の発行に対してそこから最終的な需要と供給のバランスで価格が決まる、というような持分の取引価格の決め方をすることはありません。また、これらの持分は一度発行されたならばその発行量は柔軟に調整される、ということも(下記に述べることを除けば)ありません。bitcoin や altcoin に至っては金貨同様にマイニングによって僅かずつとはいえ増えはしますが減ることはまずありませんね。

とすると、株や債券、bitcoinやaltcoin の価格というのは一度発行されると、その後の流通市場において、本源的には原資産の評価額というよりは純粋にかかる持分に対する需要と供給のバランスによってその評価額(いわゆる売買価格)が決まるのです。その時にその需要や供給の判断材料として使われるものが、株や債券ならばその会社の業績や債務に対する返済能力、今後の事業の見通しといったファンドで置き換えるならばその会社の事業「戦略」や財務状況のようなミクロ、また、その会社を取り巻く市場環境などのマクロの両方なのですし、bitcoinや altcoinであればその参加者の増加による流動性の多寡や利用できる利便性、そしてこれらのcoinの仕組みの堅牢性(もしくはその脆弱性が判明すること)、などでしょうか。

では、ETFはどうなのか、といえば株や債券と一緒で、それこそ日経225ならばおよそ5.3億の単位で持分が投資信託から市場参加者に交付されて市場の売買の供せられるわけですが、では、市場での日経225への需要がこの5.3億の整数の倍数だけあるのか、といえば。。。当然一致することはないですよね。確かに日本銀行が日本で売買されているETFの75%程度をこの記事を書いているときには保有しているとブルームバーグが試算してますが、であったとしても、残る25%の需要に合致しているとは言い切れないでしょう。

だからこそ、前回の記事でも書いたように、同じ日経225のETFが世の中に7種類も存在していても、それぞれの発行体等への需要が均一してあるはずもなく、流通量の多いETFになればなるほど市場参加者の価格へのコンセンサスが原資産の動きに近いものに構築されやすく(されやすいだけで一致する保証はどこにもなく)、逆に流通量が少ないと少ない意見での価格構成ですから原資産よりもその時に売りたい・買いたいという需要と供給の原理に大きく依存される、のです。

とすると、実は発行数の少ない証券というのはその希少性から取得したい人の需要を満たしづらいことから価格が上昇しやすい、と一般には考えられています。また、流通量が(需要以上に)増えすぎてしまうと、需要と供給のバランスが崩れて需要が減って供給過多になることで自然と価格が下落し易くなります。

後者の面白い例として、閉じた世界としてのオンラインRPGゲームのなかで、プレイヤーが無限に貨幣を取得できるメカニズムになっていると時間が経つにつれて全てのプレイヤーが金持ちになるので貨幣価値が下がって一気にインフレになった、という事例があります。要はファンドの持分ですら必要以上に増えてしまうと価値が下がりえる、ということなのです。

そのファンドの実例の一つとしてあげるならば、前回紹介したベトナムの上場ファンドですが、ベトナムの株式市場全体が大きく値を下げたことを受けて、上場ファンドの取引価格が急落し、原資産となるファンドの純資産額よりも大きく下回ることになったのです。それを受けてファンドの運用会社が投資家の利益というべき取引価格と純資産価格との乖離を減らすために取ったアクションというのが

  • 分配金を多く出すことで投資家の需要を掘り起こす
  • ファンドが持分を自分で買い戻すことで流通量を減らして需要と供給のバランスを調整する
だったのです(実際に、ヨーロッパを中心に投資家へのロードショーを行うことで投資家を増やす、という努力もしていましたが)。

とすると、株も債券も一応は発行数を減らす方法が(株なら自己取得、債券ならば部分償還)ありますが、あまり機動的に行うことが出来ません。でも、ETFであればマーケットメイカーである市場参加者の裁定取引の一環でその流通量(ひいては価格の調整)をコントロールすることも可能なのです。

ということで、一旦キリをつける、ということで

実際、この記事を書くのに2ヶ月近くあれこれ時間をかけてしまいました。その間Bitcoin の世界もあれこれ変わったようですが、他方で Bitcoin ETFについてはBitcoin の先物がないからまだダメよ、という US-SECの見解が出て来たので、何か進展があるのかもしれません。

という中で、ファンドに形を変換する、ETFとして流通性を強化する、小口化する、という投資家にとってメリットと思われるものは色々あるので止めはしませんが、まぁ、通常は、とある資産を裏付けに新しい証券を作り出すことで取得価格と販売価格の差額で儲けて、追加発行する際も自分が発行する元手以上の価格の時に行いますし、買い戻しをするのは本来の価値より市場価格が低く評価されているときに買い戻す(これ、大手系列の子会社がIPOして長い時間を経てまたグループの完全子会社になるべく上場廃止する、のとあまり変わらないですよね。。。)、ということが出来るのは全ての価格を知り、調整できるからですから

ギャンブルにおいては胴元が必ず勝つ

という原則は覚えておくべきですし、投資家を儲けさせるために取引コストの負担をするなどの胴元が自腹を切ることなど利益供与になるので今時は出来ないししたくもないことだからあり得ない、と心得ておくべきでしょう。

海外に銀行口座、持つのはメリット?デメリット? – 今時のオフショア投資の拠点はどこがベスト?

お気付きのことと思いますが、このところ既に連載中止が決まったものの、Soldieで掲載されることを前提としたネタ選びをして書いておりますが、他方で、2,000文字の制限を本気で守る気があるのか?というくらいの情報量で毎回書いているのもばればれでして、おかげさまで、現在鋭意文章をがっつり書いては削るという作業に終始しております。

オフショアのイメージか、バカンスか実際のところ、簡便で分かりやすいコンテンツにしようと思った時に、最初にできるだけ書けるところまで書いて、そこからどれだけ省けるか、もしくは冗長的なところがないか、という自分の脳内整理をしているような感じではあるものの、おかげさまで、最初の稿として書いているこのブログの記事を読まされる皆様はきっと長すぎてたまったものじゃない、できればどこかで切って二部構成とかにしてよ、と思っていると察しますが。。。ごめんなさい。てんこ盛りが信条の私、引き続きおつきあいくださいませ。

さて、海外に銀行口座を持つ、というのは、色々な海外資産への投資をしたい人にとってはやってみたいことであり、また投資の第一歩、でもあるのですが、他方で、今時のCRS/FATCA の影響を受けて非居住者口座の開設には結構困難がつきまとう、というのも現実としてあります。そこで、海外に銀行口座をもつメリット、デメリットを考えながら、それでも海外に銀行口座を持って投資をするならばどこがいいのか、という話を筆者の経験を踏まえてお話ししていこうかと思います。

なお、今回の記事の前提として、私と同じ、日本に永住している日本国籍の人、というのがありますので、例えば、シンガポール(でも、香港でも、マレーシアでも、どこでもいいですが日本以外)に永住権があって今も日本国外に住んでいる日本国籍の人、とか、日本語が読み書きできてなぜかこんなブログを読んでいるアメリカ国籍だけど日本に住んでいる人、というのはまた話が変わってくるのでご注意を。

海外に銀行口座を持つ、その前に忘れないでおきたいこと

さて、海外投資の冒険の始まり、と思いきや、そもそも海外に資産を保有することに関するいくつか大事なことをお話しておくべき、と思います。

まず、一つ目に、海外で発生するいかなる所得はちゃんと所得税の申告をしなければいけない、ということです。

結構勘違いされることなのですが、日本国籍で日本に住所のある、いわゆる日本の居住者については、その個人の所得税の課税対象は世界中で発生した所得です。よく日本から離れて住む非居住者の方の話として、非居住者だから日本国外で発生した所得については日本国内に納税義務がない、という話があることから、その逆パターンとして、居住者だから、国内の所得にのみ課税権が及ぶ、と思いがち、です。ですが、このブログの読者の大半である(だから、日本の外に住んでいる人が読んでいるのも知ってますからねー)日本に住み、生活しているあなた、まずはここを基本として読み進めてくださいね。

多分直感的にわかる実例

でも、例えば、日本の証券会社に口座を持って、ニューヨークの株式市場(NYSEやNASDAQ)で取引されている米国株の取引をしている場合、その取引自体はアメリカ国内で起こっていますが、米国内では米国の非居住者ということからそのキャピタルゲイン課税はなく、日本の居住者としての有価証券の譲渡に伴う課税は発生することになるのです。しかも、2017年からは外国証券取引についてもいわゆる特定口座のルールが適用されるので、取得時と売却時の円建てでの売買価格を自分で記録しておかなくとも、証券会社のシステムで計算され(源泉徴収すらされ、時には通年で見たら源泉徴収しすぎていたあら返金までされ)て、年明けの確定申告での提出も簡便化される、というのが現状です。

そう考えると、これがアメリカ国内に個人の銀行口座(と証券口座)を持って同じ取引を行なったとしても同じ課税関係にある、ということは想像にかたくないです。言い換えるならば、課税・非課税を考えるのは口座の所在地ではなく、取引の成立した場所、と口座の所有者の納税地の二つで考える、ということです(ただし、取引の成立した場所に関して言えば、口座を管理する銀行やブローカーがその口座の所有者が米国の非居住者であると認知して、それに対応する税務処理を行えば、という前提です。これはCRS/FATCAの話に絡むので後ほど改めて解説しましょう)。で、日本は所得の発生場所が全世界で見ている、ということなので日本の居住者である限りはアメリカで稼ごうが、日本で稼ごうが、東南アジアの片隅でこっそり稼ごうが、稼ぎは全て申告して納税せねばならない、のです。

そう考えると、例えば日本から取引可能な外国株、例えば米国株や中国株、シンガポール株、あるいは、証券会社が限定されるものの、ベトナム株や中東株のようなマイナーな市場であっても、については、楽天証券やSBI証券、マネックス証券のような大手オンライン証券であれば特定口座を通じて取引可能ならば税務の面で、現地に口座を開けずに国内からアクセスした方が楽、とは言えます。じゃあ、外国株式を取引するならば海外に口座を開けなくてもいいじゃないか、と思えてきますが、そうとも言えないのです。

現地だから出来ること – 日本では出来ないこと

海外に口座を開けることで出来る取引の醍醐味は、日本では出来ないことが出来る、という所にあります。

前述の外国株に関して言えば日本の大手オンライン証券で十分に思えてきますが、実は三社を集めたところで出来る市場というのは

  • SBI証券:米国株(海外ETFを含む)、中国株、韓国株、ロシア株、ベトナム株、インドネシア株、シンガポール株、タイ株、マレーシア株
  • マネックス証券:米国株(海外ETFを含む)、中国株
  • 楽天証券:米国株(海外ETFを含む)、中国株(香港と上海A株)、シンガポール株、タイ株、マレーシア株、インドネシア株

ですので、例えば欧州株や豪州、新興国株式の預託証券(DR: Depository Receipt)の取引については大和証券やSMBC 日興証券、みずほ証券や三菱UFJモルガン・スタンレー証券のような大手証券会社にいくことになります。

また、フィリピン株やイスラエル株になるとさらに限定的になってアイザワ証券くらい。

どうですか?自分が取引したい国がありましたか?あってもまだ安心できません。なぜかって?それは、証券会社で国として取引可能であっても銘柄として取り扱っていない銘柄がある場合があるからです。事情は色々あるようですが、株式市場へのアクセスが証券会社として確保されていても取り扱えない銘柄があるとそれは買いたくても買えない、のです。

例えば、S-REITと呼ばれるシンガポール版のREIT (不動産ファンド)。これは非居住者個人では取得不可、のようなので、仮にシンガポール証券所での取引のある証券会社ですらS-REITを扱うことができないようなのです。

例えば、今流行りのETF。このところの国内投信の月次ベースでのファンドへの流入額のランキングで必ずトップになっているのがETFですが、国内で投資可能な銘柄数、というとこれを書いている2017年の6月現在で国内もので163、外国もので47の計210銘柄(日本取引所グループ調べ)。これだけあれば世界中のETFを全部カバーしているのでは?と思えそうですが、ETFの発行体が異なると同じ指数(例えばNikkei 225とかTOPIXとか JPX日経400とか)のETFを作るので、重複したものがいくつも存在することになります。それに対して、ETFの大手、iSharesを例にとると、世界中で700以上のETFを上場しているそうですが、本国であるアメリカではそのうちの337にしかアクセスができないのです。なぜかって?日本の場合、海外ものを国内に持ち込もうとする場合には、マーケットメイクをしてくれる(ということは、ETF業界で結構問題になっている「流動性」を提供してくれる)証券会社を2社確保しなければいけなかったり、あまり売れなくとも継続的な届出の費用を負担しなければいけなかったり、など、費用対効果の面でワークしないと判断されるケースが多いから、でしょう。

じゃあ、質問です(って、どこかの芸人さんのフレーズ?いえいえ)。
国内でアクセスできないけど投資したい銘柄があるときはどうしたらいいのでしょーかっ。(だから、意識してないって。)

現地の証券会社に口座を開いて投資するしかない、としか言いようがないのです。
その代わり、特定口座のメリットを享受することは出来ず、超手間のかかる一般口座での確定申告と、そのための円換算の手間が待っているのです。

まだある、覚えておいてほしいこと

実は、まだ、大きなポイントの一つ目でしかなかったのですよ(苦笑)

では二つ目は、というと、海外での契約締結が違法性を問われる可能性があるものが存在する、ということです。

結構怖い表現を使っていますが、どういうことかと実例を挙げていうならば、保険商品のことです。以前、海外で販売されている保険商品を日本に持ち込みたいんだけど、という相談を受けた時の記事に書いたのがこんなこと。

これの問題点は、保険料の払込期間の生命保険保険料控除の適用外であること、以上に、そもそも海外の生命保険を日本の居住者が旅行先に行ったついでに加入したといって入ることの保険法上の問題があります。保険法では海外の保険会社が日本に参入するには国内拠点の設置を義務付けています。となると、非居住者は現地の法律の適用を受けるからよしとしても、旅行先にいい運用商品があるといって買うことの合法性のリスクを海外の保険会社が負うのか(と言っても、日本の金融当局の監視外の企業ですので何もできませんが)、旅行者が罰せられるのか(罰するってどういうこと?保険業を営むわけでないので法律を知っているとは限らない訳ですし)、ということでなんか扱いが微妙なのです。この点は実はもう少し整理したいところではあるのですが、少なくとも保険代理店のような仲介をしたら確実に怒られそうなのは分かるのですが。。。

もしちょっとだけ細かく書くならば、保険業法の第186条というのが外国の保険会社と日本の居住者との関わり合いを規定している条文なのですが、

第186条(日本に支店等を設けない外国保険業者等)

  1. 日本に支店等を設けない外国保険業者は、日本に住所若しくは居所を有する人若しくは日本に所在する財産又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に係る保険契約(政令で定める保険契約を除く。次項において同じ。)を締結してはならない。ただし、同項の許可に係る保険契約については、この限りでない。
  2. 日本に支店等を設けない外国保険業者に対して日本に住所若しくは居所を有する人若しくは日本に所在する財産又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に係る保険契約の申込みをしようとする者は、当該申込みを行う時までに、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣の許可を受けなければならない。

により、1項は外国の保険業社さんは日本で営業したかったらちゃんと支店を出しなさいね、という方針が示されている一方で2項により、もし日本に住んでいるあなたが国内に支店を有しない保険業社さんの保険商品を買うならば、あなたが内閣総理大臣から許可を受けなさいね、という流れを示されているのです。

でも、これ、国内法です。海外の人は基本知らないと思っていいです(まぁ、日本の外で散々保険商品を海外に来た日本人に売りさばいた人は知っているはず、ではありますが。。。)し、日本にいないのですから処罰することが出来ません。となると、お咎めの対象は2項に基づいて国内居住者に向かいます。ちなみに、これの罰則は第337条によって、50万円までの過料だそうです。
ということは、海外に旅行中に向こうで保険商品を買うと罰せられちゃう、というのが論理的な結論になります。と言って、今のところそれで過料を払わされた話は聞いたことはありませんが、某所で匿名で聞いた(ので本当は口外してはいけないと言われているのですが)ところによると、これについてはかかる保険商品の国外販売によるトラブルがあとを立たない(そりゃそうです、元々保険商品のアフターケアは国内生保でもあれこれ問題があったくらいですから、国内代理店がないのに複雑で日本語ではない契約書で締結した外もの保険商品なら起きても不思議ではないですよね。。。)ことから、その関係する外国企業複数と金融監督官庁との間の調整がだいぶ進んでいるので早晩決着がつく、とも言われています。そうなると、一網打尽、となるか、それとも。。。
とはいえ、日本では終身保険や年金保険が一般的であることから、最近になって海外で売られているような貯蓄目的の保険商品が国内で売られるようになったりしたものの、まだ、海外での保険商品が魅力的に見えるものは数多くあるのは事実です。

fly-and-buy は保険だけじゃない – ヘッジファンドを買いにちょっと豪華旅行でも

さて、この手の、日本人が海外旅行のついでに海外の保険商品を買う(もしくは、そのついでを装わせるべく、海外に保険商品を買いに行くツアーを企画して参加させる)ケース(こういうのをfly-and-buyというそうです)、というのは、保険商品だけではないのです。

知人が一時期勤めていた某世界最大級のCTA(コモディティ・トレーディング・アドバイザー)の運営しているファンド商品を含む複数のヘッジファンドを、日本の富裕層個人投資家に販売するために、シンガポールの超一流ホテル、Fullerton Hotel に宿泊して、そこのバンケットルームでの豪華な食事付きのセミナーに参加して、日本国外だから、ということで募集行為を行う、という旅行を企画して参加者を募っていた、という業者が(某ナンチャラとかいうプライベートバンクのふりした輩含めて)複数いるのはこの業界だと有名な話でして、他方で、こういう人たちの言い分としては

「日本の金融行政は海外籍のファンドの販売に厳しすぎる。要求されるライセンスは取得に時間はかかるし維持コストも掛かりすぎる。これでは国内の投資家の投資ニーズに合わない。(だから助言ライセンスで投資家の申し込みの手伝いをする、イギリスでいうところのIFA –  individual financial adviserをやっているんだ(注:助言でこれをやるのは違法です。))」

なんて言っています。けど、(金商法63条適格機関投資家特例を使って個人にファンドを売ろうとしている連中も含めてだけど)お前ら売るだけで、売ったあとちゃんと正しくフォローしてるか?出来るか?一人も消◯者庁に駆け込ませないように出来るか?というか、そういうのが多いから規制のハードルが上がるんだって。

とはいえ、確かに fly-and-buyで投資信託商品を買う、というのは前述の上場株式や上場ファンドのような現地での開示内容よりも少ない開示内容で行われ、また、特に富裕層個人向けに紹介されるようなプロ向けの私募ファンド、になると、コストを下げるために開示頻度も低かったり(本当はそれでもやるべきなんですよ、今は21世紀なんだし)と、さもすれば詐欺まがいにすら見えるものだってありますから、本当は日本の金融監督官庁としては国民を守り自らに苦情が来ないようにするために、この辺りのやばそうなものには投資しないようにしたい、という希望はあるはず、ですが、なにぶん海外で起きていることですからね。。。投資するなら自分の責任でちゃんと安心出来るまで調べられるか、ゼロになってもいいものだけにしろよ、ときっと思っているでしょうね。

実際、最近のヘッジファンドなどの目論見書を見ていると、保険商品で日本人が海外で契約しようとすると違法性を孕むことと同じことを想定しているのか

「本目論見書を入手し、またその上で投資の申し込みをすることにより違法となる場合にはかかる国や地域における居住者の投資を拒否することができる。」

という文言が結構あちこちで入り始めています。とはいえ、日本にある投資信託で満足できない、という気持ちはまぁ、わからないでもないですよね。投資戦略に偏りがありますから。例えばスリランカの株式ファンドとかマレーシアのESGファンドに投資したい、と思っても、多分今、ほぼ出来ませんから。。。

その他、海外でしか出来ない投資といえば。。。

まぁ、不動産投資、ですよね。現地のアパートから、コンドミニアムあたりを買って賃貸に出して、定期的な収入を得つつ、日本の税制の想定を超えるような耐久性を武器に税務のメリットすら追求したい(確か、テキサスの木造家屋の案件は、そのいい例だったはず。湿気の多い
日本の木造住宅の減価償却は22年ですが、テキサスの木造家屋だと耐用年数が全然長いことから、築25年くらいのものを取得して、日本の減価償却として4年(=22×0.2)で建物部分を加速度的に償却可能、というのがあちこち吹聴されていますね。)、と思う人もいると思います。この場合は当然がっつり日本の税法に基づく確定申告が必要になりますし、その際には前述のような円換算を全てにおいてやらねばならなくなりますが。。。
それとか、フィリピンだと不動産の外国人保有規制があるため現地パートナーを持って、そいつ名義で取得・保有させる、なんてやってたりしますしね。(この場合、国内での税務申告ってどうなるんだろう。形式上このパートナーと匿名組合契約を結んだことにするのかしら。。。)いずれにしたって、これらをやろうとしたら賃料の回収もあるので現地銀行が必要になりそうですよね。

じゃあ、どこでどう銀行口座を開くのがいいの?

で、どこでどの銀行を開くのがいいのでしょうか。

個人的には香港のHSBCが日本から近いし、その後の海外展開という意味でも Premier 口座を開けるのがお勧め、ではありますが、CRS/FATCA 以前から香港の銀行はHSBCだけでなくCitibank も日本の旅行者による銀行口座の開設に後ろ向きになっている、というのを聞いています。多分当局からの要請があったのでしょうね。

ちなみに、同じアジアのオフショア、シンガポールは、というと、島自体が裕福になっているからか、口座維持の額のレベルがちょっと高すぎる感じがします。HSBCならばPremier 繋がりならばまだいいのですが、シティバンクだと3,000万円相当以上、仮に日本の旧シティバンクのゴールド口座のホルダーだと言っても免除されません。とはいえ、まだアジアはいい方でしょう。多分パスポートの原本を見せつつ、utility billing の英訳を持って行くことで自分の自宅の所在地の証明をすることで済むか、念のため、すでにその銀行に取引のある人に紹介してもらっていくか、することでなんとか頑張れるとは思います。

問題はヨーロッパ。多分に、ジャージーでも今ではうるさいはずです。ヨーロッパにおいては銀行取引は信用取引ですので、誰かさんの紹介状が必要になるのは間違い無いでしょう。その流れがカリブ海の島々ですら起きているのですから。。。

その意味でいうと、実はアメリカは穴場だったり(って、最近行っていないのでなんともいえませんが、自国のFATCAさえ守ればいいだけの人たちですから、元来甘々な身元確認はヨーロッパほどは厳格にはなれないでしょう。。。)

個人的には日本が一番甘い国の一つだと思っていますが(ぼそっ)

口座も開けた後の維持が結構面倒

ちなみに、HSBCの話をすると、シンガポールとベトナムに関しては口座を最後に使ってから1年間何も動かさないと、口座にロックがかかってATMでお金が下ろせなくなります。ロックがかかったら、銀行の窓口に行って解除してもらうことになるのですが。。。。まぁ、面倒です。

もう一つの銀行口座の開設方法 – 法人を作ってしまう

さて、誰かの紹介状を取り付けることが求められるけど、誰もそんな相手の信用しそうな紹介者なんていない、というときにはこの手も考える必要があるかもしれません。それは、現地法人を作ってしまう、のです。

実は、維持コストがそれなりに掛かる一方で、前述の投資に関する細々とした為替などの計算や毎年の確定申告などがほぼ不要になるのです。なぜか、法人名義での契約ですので、個人としての計上が発生せず、利益も会社に留保されたまま、なので株式としての評価額が増えるだけで、実現化するまでは課税されない、のです。

ええ、これが本来のファンドのメリットの一つ、課税の先送り、なのです。いわば、一人ファンドを作っちゃいましょうよ、ということなのです。そうすれば、会社設立を手伝ってくれる現地の会社が銀行も紹介してくれるので、開設も比較的しやすいのです。

とはいえ、これも会社を作って追加投資して、最終的に回収するときに清算しつつ確定申告にも上がるものですので、完璧に逃げられるわけでは無いですし、維持費用を上回るリターンを出さないと維持費が払えなくなる、という面倒もあります。

まとめ

海外投資、儲かりそうだから、というイメージはありますが、個人的あれこれ口座開けて見ましたが、あまり投資せずに財布がわりに使っていたことから、さほどのメリットを享受できなかったように感じています。まさに、

クレジットカードでゴールドより上を持つことでメリットが得られるか?

というのと同じ世界です。とはいえ、国内での限界を感じたら確かに海外の商品を、と思うのも当然です。ただそこは日本の法律や規制で守られていない世界ですので、本当にご注意を。

今さらだけど、ヘッジファンドってなんだっけ? – 「オルタナ投資」という言葉が氾濫する世の中で改めて

あなたにとっての「オルタナ投資」とは?

数年前のこと、オルタナ投資、という言葉を使う時に皆が必ずしもヘッジファンドを意図せずに使っている、ということに気付きました。その時は、とある米系の銀行さんでカストディビジネスを主に行いながらファンドアドミを提供する、という会社さんなのですが、カストディビジネスを主に行うとなると、資産を保有してなんぼ、のビジネスモデルである以上、ヘッジファンドのような資産が事実上プライムブローカーが保有する戦略にお付き合いすることはほぼない、と個人的に思っていました。

そんな彼らから「最近、オルタナ投資の世界にも手を広げているのですよ」と聞いたときに、これはアドミ勝負に転換したのか?と思いつつも、このパートナー制で極めてコンサバで堅い社風の会社が薄利多売に来るとは思えなかったので半信半疑に聞いてみると、なんと彼らのいう「オルタナ投資」というものは、「不動産ファンド」や「バンクローン」といった、従来ファンドの投資対象という意味ではメジャーではなかったことから取り扱われなかった資産クラスのカストディを行う、という意味だったのです。ある意味納得する一方で、「オルタナティブ」の言葉の懐の深さというか、なんでも当てはめることが出来ちゃういい加減さ、というのを感じつつ、今後「オルタナ投資」という言葉を使う時には気を付けねば、と思った瞬間でもあったのです。

で、そういえばヘッジファンドって

what is your judge?昔は投資信託(ミューチュアル・ファンド)ではないもの全般をヘッジファンドと呼んでいたこともあって、オルタナ投資といえばヘッジファンドを意図するものと解されていた時期もあったなぁ、とふと思い出しました。というのも、私がヘッジファンドに片足を突っ込み始めた頃に読んだ解説書にこうあったのです。

ヘッジファンドは、ミューチュアル・ファンドの抱える以下の当局の規制を回避すべく私募ファンドとして設定されたものを意味するのです。

  1. 借り入れ規制
  2. 空売り規制
  3. 報酬体系

どういうことか、というと、日本の投資信託を例に説明するならば、日本で投資信託を設定する際にその運用方針として

  1. 借り入れは解約代金支払い目的及び分配金再投資型投資信託の分配金支払い目的に限られる
  2. 空売りはその建て玉の時価総額が純資産額を上回らないこと
  3. 投資対象の株式については上場していること
  4. 先物などのデリバティブ取引はヘッジ目的に限る

投信協会のレベルで定められており(実際には今の投資制限は集中投資規制やデリバティブ規制、などかなり複雑で高度化されたもののなっています。)、また、報酬体系についても日次取引等高頻度の投資家の出入りが想定されるため、公平な成功報酬体系を導入することができないのです。

そこで、それらの規制や業界の投資制限等から敢えて外れることで、投資信託の範疇である単純な買い持ちだけの投資戦略ではなく、例えば純資産額の3倍から10倍程度の借り入れを行って買い持ちのポジションを純資産額の数倍にしたり空売りのポジションを作ることで市場の下降傾向においてもリターンを出せることを目指せるような自由な投資戦略の設計と、その原動力となるべく成功報酬制を導入できるようにしたのがヘッジファンド、だとされていたのです。今思えば、単純なロングファンド以外であってもただの私募投信でしかないのですが、確かにいわゆるミューチュアル・ファンドと異なる(オルタナティブな)投資手法を取れるようにしている、と言われればその通りですね。というより敢えて取っているわけですから。

しかも、運用者が自分の資金もそのファンドに入れることで投資家と利益を一にする、という発想を持ち込んだのも興味深いものだなぁ、なんて初学者だった私は思ったのですが、これも国内の投資信託の立ち上げの時にスポンサーである投信会社さんがシードマネーを入れて立ち上げるのを考えれば、案外一緒なのかもしれませんね。

じゃあ、ヘッジファンドって一体どんな運用をするの?

確かに、借り入れや空売り、デリバティブを使った運用をする、と言われて、あれもこれもヘッジファンドに見える場合もありますが、例えば、完全なショート・ファンド、いわば全部買い持ちのロングファンドの真逆で絶対に株価が下落するだろうと思われる銘柄を全部売り持ちするファンド、は、どう見てもヘッジファンド、とは言えなさそうですよね。ヘッジのかけらも見えないのですから。また、一時期流行って、また最近また注目されていると言われている130/30(ワンサーティ・サーティ)も、30%の借り入れをして買い持ちのポジションを投資元本の130%にするものの、同時に売り持ちのポジションを投資元本の30%を作ることで相殺後のポジションがちょうど投資元本になるようにすることで、市場の下落局面では売り持ちのポジションで収益機会をめざしながら、上昇局面では通常のロングファンド以上の収益を確保しよう、という発想のファンド、なども、単純な買い持ちと売り持ちのポジションを掛け合わせただけ、にしか見えませんし実際のところヘッジではないですしね。

じゃあ、そもそもヘッジファンドのヘッジ、という言葉が何を示すのか、改めて見て見ましょう。

ヘッジ (hedge)とは、英語で本来「生垣」とか「垣根」、「防御物」を指し、そこから、保険という意味が出てきたり、動詞として「大きな損失が出ないように手を打つ」こと、という意味合いを持つようになりました。英語で hedgehogと呼ばれるハリネズミは身を守るために全身針だらけ、ですから。

多分、ヘッジファンドを知らなくとも、国内投信に投資したことのある人ならば、例えば米ドル建ての資産に投資するファンドに、「ヘッジあり」コースと「ヘッジなし」コースとが準備されているのに気づいているかもしれません。この時のヘッジ、とは、外国為替リスクに対するヘッジを意味するのですが、どういうことかといえば、投資家が円建てて投資しているけれども、投資対象が米ドル建てなので、仮に投資対象の評価が当初の10,000米ドルから増えも減りもしなくても、円/米ドル通貨レートが1米ドルあたり100円から1米ドルあたり90円や110円に変動するだけでこのファンドの評価額が変わってしまいます。そこで、通貨レートの変動を「ヘッジ」することで、円建ての投資という観点で米ドルの日本円に対する価格変動による投資資産価値の変動が抑えられるのが好ましいと思う人がいるのでファンドがヘッジするヘッジありコースを作ると投資します、という人が出てくるのです。

ちなみに、この「為替ヘッジ」、どうやるかというと、仮に当初の投資金額が100万円、為替レートが1米ドルあたり100円とします。この時に当初の投資金額全額を1ドルあたり100円で交換して10,000米ドルを手に入れて投資するのですが、その為替を取る時に同時に、1ヶ月先に予め1米ドルあたり101円の先渡し取引をして、一ヶ月後の為替レートの変動を先に固定してしまう、のです。この場合、この為替レートで先渡し契約が出来たとしたら、投資元本の10,000米ドルがそのままの10,000米ドルで帰ってきた一ヶ月後まで残ると仮定して、この1ヶ月で、

10,000米ドル x  101 円/ドル = 101万円

に増えていることになります。ちなみに、ファンドも一ヶ月で終わることがありませんので、この約束の一ヶ月後に、予め決めていた 101円/ドルで10,000米ドルを円に売り戻したら、その日のレート、例えば100円50銭とすると、で10,000米ドルをまた買いながら、先の一ヶ月後の先渡し取引に入ることになります。そうすると、101万円が一旦手元に戻るものの、 100.50 x 10,000米ドル = 100万5000円を米ドル調達のために支払うことになります。結果として、実際には二つの取引を相殺することで米ドルの移動はなし、円の移動は、101万円 – 100万5000円 = 5,000円の受け取り、という追加の収益が発生することになりますが、もしその日のレートが101.50円だったならば、逆に 101万円 – 101万5000円 = 5,000円のマイナス、となり支払い義務を負うことになります。

ここで、いくつか気づくことや、気づいて欲しいことがあったりします。

まず、今ドルを買って、一ヶ月後に先渡しレートで売る、ということをした結果、今回適当なレートをつけたので、1ドルあたり 101 – 100 = 1円の利益がもたらされたのですが、実際の先渡しレートは、この場合ならば、日本円と米ドルのそれぞれの一ヶ月の金利で自動的に決まります。とはいえ、ある意味、この金利の差によってこのような将来の利益(か損失)がこの瞬間にヘッジすることで確定する、のです。これをもし今ヘッジせずに一ヶ月後の為替レートに運を任せることだって当然出来ますが、その瞬間のレートを見るまでは利益(もしくは損失)額が決まりません。その代わり、為替レートがヘッジした 1米ドル101円より大きく上回って例えば102円まで変動すればその利益(1ドルあたり2円)を享受することになりますし、当然のことながら、100円を割り込んでしまうと損失を計上することになります。

ここでお気づきだと思いますが、ヘッジファンド、というのは、このようなある一定の状況下に於いてヘッジすることで確定できる利益の機会を見つけて投資するファンド、なのです。その意味では、将来大化け(上の例で言えば、一ヶ月後に為替レートが100円から120円に極端な円安に走ったり)する可能性を捨てて確実にあげられる1ドルあたり1円の利益を積み上げていく、という、見た目や話と大きく違ったかなり地道な投資戦略なのです。

もう一つは、今の前提はヘッジをかけたい資産、要は10,000米ドル、が一ヶ月後にそのまま10,000米ドルのまま、というちょっと特殊な状況にある、ということです。どういうことか、というと、この10,000米ドルは債券なり株なり、何かしらの投資資産に化けているでしょうから、一ヶ月後にいくらになっているのかはわからない、のです。例えば10,000米ドル元本の米国債だったとすれば、1ヶ月の米ドル金利分程度は増えているでしょうし、株だったらそれこそ大化けしているか大負けしているか(笑)。とすると、一ヶ月後に10,000米ドルの売りの先渡し契約はその時の投資資産の評価額によって、もし資産が増えて11,000米ドルになっていればヘッジが資産に対して過小であったと言えるし、逆に9,000米ドルになっていたら、ヘッジが資産に対して過大であった、と言えます。

ヘッジが過小であったり過大であった場合の影響を見るならば、(先ほどの先渡しレート101円、実勢レートが100.50円の仮定)

  1. 投資資産が10,000米ドルだった場合、実勢レートでの評価が 10,000 x 100.50 = 1,005,000円に、ヘッジポジションの(101-100.50) x 10,000 = 5,000円の計 1,010,000円 (= 10,000 x 101.00)
  2. 投資資産が9,000米ドルだった場合、実勢レートでの評価が 9,000 x 100.50 = 904,500円に、ヘッジポジションの(101-100.50) x 10,000 = 5,000円の計 909,500円 (=9,000 x 101.056)
  3. 投資資産が11,000米ドルだった場合、実勢レートでの評価が 11,000 x 100.50 = 1,105,500円に、ヘッジポジションの(101-100.50) x 10,000 = 5,000円の計 1,110,500円 (=11,000 x 100.9545)

という仕上がりになります。これを、「ヘッジしていると言っても完璧にヘッジすることは難しい」と解釈するもよし、「ならば期間を短くして為替の変動要因の影響を小さくすればいいんだ」と解釈するもよし、様々ですが、一つここで言いたいことは、「ヘッジ」というのはヘッジした瞬間の前提に対してのみ機能している、ということなのです。
なぜこの話をしているのかって?それが今後の話の展開の鍵を握るから、ですよ(笑)

ヘッジファンドは何をヘッジしまくって稼ごうとするの?

さて、ヘッジの基礎を見たところで、では、実際にヘッジファンドがどこに収益の源泉を見出そうとしているのか、いわゆる投資戦略、というのを見ていこうかと思いますが、ご存知の通り、著者はファンドの組成や運営が得意であって、投資戦略の評価を云々することをある意味放棄した仕事の仕方をしている、のはよく知られたこと(まじかぁ。。。)、ですので、ここから先は結構ざっくりとマユツバ的なことになって、結果、これを読んで実践しても保証の限りではない、というかいつも通りの自己責任で、ということを予め申し上げておきます。

と、いつものちょっとした責任逃れの一文を書いたところで、先ほどの為替ヘッジの本質をまず考えて見たいと思います。この為替ヘッジによる収益は、確かに二つの通貨の金利差から生じるものですが、他方で、もう一つポイントになるのは時間軸における今とある一定の将来の二点というズレがある、のです。実際、収益性を高めるために、金利差を広げる通貨ペアを見つけることも一つで、ミセスワタナベたちが日本円と高金利通貨だったオーストラリアドルのペアでキャリートレードをすることで、日々値洗いと決済をすることから1日分の金利差相当のキャッシュを得て色々とお買い物に興じ、それが高じて取引元本も(夫には内緒で)さらに増えて日々のキャッシュをより多く得ようとして、最後に市場がバーストした時に(以下略)たのがいい例でしょう。でも、もう一つの方法として時間を長くとる、というのも手法としては取り得るものです。まぁ、通常長い時間での案件をやるか、といえば、その間に起こるその他の変動要因を踏まえれば取りづらい、というのが実際ですが。。。

とはいえ、なんとなく、ヘッジでの収益源というのが見えてきましたね。何か二つのズレから生じる価格差を使えばいい(しかも、その差が大きければ大きいほど好ましい)、のです。人によって、また事象によっては、これをヘッジと言わずに時間的な収斂性のある価格差に対するアービトラージ(裁定取引)ということもありますが、ある意味二つの評価の間に生じた価格差が収益源、だとしたら、確かに確実に刈り取れる収益に思えてきます。

  • 例えば、複数の株式市場に上場している株式の価格。異なる通貨での評価であり、また異なる国での企業評価でもあることから一物二価になるチャンスがありそうです。
  • 例えば、為替ヘッジの延長で、現物市場と先物市場。分かりやすくいうならば日経225のETFと最大三ヶ月先の受け渡しの日経225先物の価格差を利用する、というもの。もしくは、一時期マネー雑誌で取り上げられていた、株主優待狙いの「個別株の現物買い+CFDでの売りポジション」の価格差を狙う、なんていうのもありです。

まぁ、パッと思いついたもの、ですのですでに多くの人たちが手がけているはずで、裁定機会というのは参加者が増えれば増えるほど減るもの、とされていますので、このような機会を継続的に見出そうとするのは大変なことです。となると、他の人が手を出さないような裁定機会を探していくことになるのです。

ペアトレード – ヘッジファンドの代表的な取引方法の説明書

さてここまでは、一つの資産の複数の評価方法による価格のズレ、という観点で見てきていた、というのに気づいて頂いていたでしょうか。当然、わかりやすい一方でそれならばより多くの人の目も引きやすいわけですので結果的にそのような価格差の発生するチャンスが取り合いになるし価格差も小さくなりますので、別の視線 – 二つの資産の価格差 – で探す必要があるのですが、ヘッジファンドの取引の説明というと、このペアトレードがよく使われるので、話の流れ的にもちょうどいいのでご紹介して見ましょう。

一つの資産では裁定取引の機会の限度が出てきそうでした。では、複数の投資対象の間にある関係性で考えたらどうなるか、というのがペアトレードです。例えば、ある一つの業界を考えると景気動向などの影響の受け方は基本的には同じですので株価の推移も多かれ少なかれ似たようなものになりそうです。でも、その業界内でも伸び盛りの会社(=評価が相対的に低い会社)と、伸び悩んでいる会社(=評価が相対的に高い会社)とがあるので、その二つの株価の関係が時間が経つと適正になる、と考えて、評価の低い会社を買い、高い会社を売る、という取引を行うのがペアトレード、と呼ばれています。10年前に盛んに使われた実例が、

JALを売って ANA を買う

でした。10年前は航空会社業界は伸びていましたが、実際に JALは一旦破綻しましたしね。今だとどうなんでしょう。

それはともかく、一つの業界(セクター)の中で見ると適正より高値で取引されているものはセクター全体で短期間で上昇したとしてもその中での相対的に高値に見られ、過小評価されているものも同じ上昇の中にあっても相対的に過小評価されるという意味では変わらないでしょう。ただ、これらの過大評価、過小評価は時間とともに(市場における情報の完全性などのおかげで)解消されていく、ということで、このペアトレードはセクターの動きに対して収益性はあまり関係ない、ように思えてきます。このようなセクターの動きに対して収益性が連動しない取引手法(戦略)を、セクター・ニュートラルと呼ぶこともあります。

さて、考えて見ると、世の中はそんなセクターが集まって株式市場が出来上がっていると見ることが出来るので、色々なセクター・ニュートラルな戦略をまとめると株式市場全体の動きに収益性が連動しない投資手法ができそうな気がしますよね。こうなると、株式市場の動きが下落しても収益を上げることが出来るわけですのでロングオンリー戦略からすれば夢のような(?)手法とも言えます。これをマーケット・ニュートラルと呼ぶことになります。

でも、株式市場全体の動き、って何でしょう。日本の株式市場で見るならば、本源的には東証一部・二部、JASDAQなどなど、株式の取引の出来る市場の発行株全部に、それぞれの株価を掛け合わせたものの合計が日本の株式市場全体、と見たら良いような気がします。でも、一般的に見られているのは東証一部の時価総額を1968年1月4日のそれを100として指数化したもの、TOPIX であったり、これまた東証一部で主に取引されている225銘柄を選んでその株価を合計して銘柄数である225で割った単純なもの(実際には、1960年4月を100とした指数なので、その後の株式分割/併合の影響を考慮するため今は24.917になっているそうです。)、日経225だったりしますが、これらの指数が市場全体の動きとして捉えて考えることになります。このような市場の平均的な動き方をベータ(β)と呼びます。

多分、世界中で多くの人が訳が分からなくなるというギリシャ文字の示す世界

さて、ベータの話が出たので(今さら)脱線ついでに、ベータに始まるギリシャ文字の世界の話でも。株を買って稼ごう、という話になると、この市場平均に勝てるかどうか、というのが一つの目安(ベンチマーク)になるのですが、実際に買って(ヘッジ戦略ならば更に売って)出来上がったそれぞれの株のポジションは多かれ少なかれこのベータの動きに連動する値動きをするはずです。というのも、この株単体の動きですら指数の動きに影響するのですから当然に指数との相関性(β値)を見ることが出来ます。とすると、個別株の値動きは、市場全体に引きずられて動く部分、すなわちβ連動部分と、その個別株固有の値動きの部分とに分解することが可能だと考えて、市場の動きに関係しない固有の値動きだけを切り出せば絶対収益になる!と結論づけることが出来たりします。この、個別株固有の値動き部分を、β連動部分と対比してアルファ(α)と呼ぶことがあり、ヘッジファンドは如何にβヘッジをすることでこのアルファを抜き出すことで絶対収益を生み出すか、という話にだんだん変わってくることがわかるかと思います。

(余談しかないこのブログでよく使う接続語ですが)ちなみに、このアルファ、公募投信で特に大和証券さんあたりが取り扱っている商品にαとつくことが多かったのですが、この時のアルファは上述の個別株のアルファやそれから派生した、運用技術の付加価値としてのアルファ(それに対してベータは、運用者の誰もが一般的に市場の動きに伴って生み出すパフォーマンス、を指すことがあります)ではなく、月次分配金を払うために通貨先物やオプションの売りでプレミアムを得よう、などの追加的な運用があることを示すアルファ、のようです。

まぁ、これは自分でそんな商品に加担していうのもなんですが、前述に挙げた為替ヘッジはヘッジと言いつつもポジション/リスク管理の観点で言えば、投資元本相当の為替の先物のポジションを本来の投資に上乗せしているので、事実上投資元本の2倍(これに投資対象の株や株式指数のオプションを入れれば3倍)のポジションをファンドが抱えている訳でして、それを為替のヘッジに使えば値動きは抑えられる効果を得るものが、経済効果の方向を変えるべく通貨の組み合わせを選んでは高金利通貨との金利差を利用したりオプションを売ることでキャッシュをひねり出す道具(α)に化けていた、という訳です。当然、現金化した分だけ将来の(かつ本源的な投資目的とは異なる)リスクは残るので、今や二階建て/三階建て/四階建て商品で月次分配を目指す、というのが過度の月次分配競争に対する当局からの監視に置かれて今では姿をひそめたのですが。。。

さて、本来の(いや、まだ脱線状態か。。。)アルファベータの話に戻すとして、では、このアルファやベータ、ベータ値などなどは正確に測れ、結果として本当にマーケット・ニュートラルでアルファだけ抜き出せるのか、というところにもし持論で述べるならば、まぁ理論的に無理でしょ?とか思ってます。というのも、市場が終わった状態でその日までの値動きと指数との動きの相関性からベータ値が計算され、アルファに相当する部分がこれだけだったんだ、という統計上の計算までは可能です。ですが、それが翌朝の市場が始まった後も引き続き有効な情報なのか、と言えば、いろいろな意味で無理があるのは、それが過去の事実に基づく統計上の情報に過ぎず未来の株価の構成要素の一つになりえても突然の市場介入(REITなんていい例ですよね。)や(未だにこれはアウトだと思っているのですが)テレビで占い師が「あんたの会社の株、上がるわよ」と流言を流布したのにみんなが乗っちゃう、的な意図的かどうかは別にした市場操作、(会計監査の結果からポケモンGOの影響まで)隠れていた事実が明らかになったことで投資家の動向が左右される、などなど、それ以外の要素も当然影響するから、と考えています。とすると、マーケット・ニュートラルって目指して作るけど実際には出来ないんじゃないの?というのが個人的な意見だったりします。ほら、言ったでしょ?ヘッジはヘッジした瞬間の前提に基づいて成立するにすぎない、って。

じゃあ、ベータとかアルファとか、意味はないのか?というとそんなことはないと思っています。市場に連動して投資しなければいけない投資家、というのがいらっしゃいます。例えば私たちの大事な年金を運用している人たちですね。彼らにとっては将来の債務、すなわち私たちへの将来の年金支払い、というのはその支払い時点までのインフレ等が影響してその額が決まるので、インフレ等に動きが近いとされる市場の動き(まぁ、これも日本の株価とインフレ率の長期にわたる相関関係を見ると、どうなのよ、という話もありますけど、じゃあ、代わりに何を投資の基本軸に考えねばならないか、というと予定利率という数値目標は存在するものの、結局市場のパフォーマンスの何かを選ぶほかない、という現実的な選択肢に落ち着いている、ということでもあるようですが。。。)にパフォーマンスを作っていくことの方がALMの都合上よい(というか、仮に絶対収益型の投資でガンガン稼いでも、年金を払い終わって最後に解散するときに余らせても困る、という方が分かりやすいですかね。。。)のでベータ投資が基本になっていく(けどベータ投資もコスト負けするからちょっとは絶対収益系に投資して費用分は稼がないとね、的なことも考えてほしいし、やっているところもあるようです)、のは至極まっとうに思えるのです。他方で、当然市場連動してみんなで大崩れ、も困るので市場に連動しない、アルファ追求型の投資もだからこそ存在する、と思うのですよ。

とはいえ、今時はスマートベータなんてものがあって、幅を利かせてますが、正直いえば、そもそものベータのロジックから考えたらば、スマートベータって、単にベータの本源的単純合算に経済的根拠っぽい色付けをしているだけだから、スマートかもしれないけどベータじゃない、意図的にベータに特徴のあるトラッキングエラーを大幅に起こさせている、もしくはプライベートインデックスの一種、なんじゃないの、とは思ってますが、そんなこと言うと指数ベンダーさんとETF屋さんのお友達から刺されそうなのでこれくらいにします。

アルファベータだけじゃない株式戦略

さて、これだけギリシャ文字の話をしていると、ヘッジファンドっていうのはある意味煎じ詰めるとアクティブ運用のファンドのうちベータヘッジしているものだけなのか、と思われそうなので、もう少し、そうでないものも紹介しておくべきでしょう。

前述で株価の構成要因についてちらっと書いたこと、覚えてますか。

突然の市場介入(REITなんていい例ですよね。)や(未だにこれはアウトだと思っているのですが)テレビで占い師が「あんたの会社の株、上がるわよ」と流言を流布したのにみんなが乗っちゃう、的な意図的かどうかは別にした市場操作、(会計監査の結果からポケモンGOの影響まで)隠れていた事実が明らかになったことで投資家の動向が左右される

これって、理由はさておき、人為的な価格の変動があった状態を指してますよね。よくこの変動を取引量が増えているところから見つけて「ウーェイ」しちゃうのがある意味デイトレさんたちが稼ぐ方法、と言われるのですが、見方を変えると、これってある意味本来の価格とのかい離が発生している状態だから、祭りが終われば元の値段に戻るんじゃない?と考えるのも一つです。まさに本来の価格に収れんする裁定取引(アービトラージ)の考え方ですよね。また、これはさもすればインサイダーとも言われかねないのですが、ある程度の企業調査をしていたりすると近々大化けするような商品やサービスの発表が予想される、となると株価が上がることが容易に想像できる、だから先に仕込んじゃおう、という投資手法もありですよね。イベントで大きく値動きするのを予想して先んじて仕込んで待つ、イベントドリブン、と呼ばれています。

まぁ、いずれも価格のゆがみが発生している、もしくは発生するという仮説に基づく投資手法で、その仮説に基づけばリスクフリーでの収益を目指す、というものです。ということは、当然仮説が正しければいいのですが、仮説が外れていたら。。。というのは前述のセクター/マーケット・ニュートラルとも同じ、というのはヘッジとはヘッジした瞬間の前提にのみ機能する、のですから。。。

で、ヘッジファンドって株しかできないの?いえいえ。。。

さて、まだまだ話が長くなりそうなサブタイトルですね。分ければいいのに、と言われそうですが、まぁ、一気に書いちゃいましょうよ、一気に読んじゃいましょうよ。その前に、株での投資手法、一般的に行けそうなものを書いてみましたが、「俺の独創的で美しい手法が取り扱われてないじゃないか!」というお叱りが聞こえそうにも。。。いや、そんな独創的な手法ならばこんなところで公開されるのはもったいないのでこっそり教えてください。

で、ヘッジ投資手法、株以外はないのか、と言えば当然あります。今時の人たちだと名前を聞いたことのない人も多いような気がする、90年代のヘッジファンドで有名だったLTCM がやっていた金利曲線の歪みに裁定取引の機会を見出す方法とか(そういえば、90年の終わりころにシティにいたころにワラント商品の投資家さん向けのリーフレットの中で、「天王洲図書館分室より」なんて金融よもやま話を好き放題書かせていただいていた時にLTCM の投資手法と破綻した経緯を取り上げたのをふと思い出しました。あの記事、もう残ってませんでしたが、あれも今のブログの原型みたいなものですね。懐かしいなぁ。。。)ありますが、個人的に投資商品のアンバンドリング化について最近えらーい長官様がいろいろおっしゃっていただいている一方で、いや、個人がやろうとしたら現実的に難しくね?と思うところもあるので、そんな投資商品のアンバンドリング化を交えた話でも(って、これだけでも充分一つのネタになるのですが。。。)

CBアーブ – 転換社債を分解する

CB – 転換社債ってご存知ですよね。FPジャーナルでもこの間の号で取り上げられていたので、思わずあれこれ考えたのですが、どういうものかというと、社債、なのですが、ある一定の条件で社債の元本を株に交換できる権利がある社債なのですが、この一定の条件というのが、株価幾らで何株を償還時の元本額に替えて交付する、という条件ですので、この定められた株価(例えば一株1,000円)を市場で上回って(例えば一株1,200円)いれば、この転換社債を持っていればその株を1,000円で調達して1,200円で売却可能ですから儲かりますし、市場価格が900円と条件を下回っていると、これは交換しないで元本を現金で受け取って市場で調達した方が有利だ、ということがわかります。

このような経済効果のデリバティブ、ありますよね。個別株のストライクプライスが1株1,000円のコールオプションですね。ということは、このCBというのは債券にこのコールオプションが組み合わさった商品だということがわかります。

さて、コールオプションを持っている状態、ですので、債券を取得するときに、このコールオプションを買っている状態になっていますので、コープオプションのプレミアムを支払っていることになります。でも、債券に埋め込まれているので払っている実感がありません。でも、ちゃんとよく出来たもので、CBのクーポンレートは同じ会社が同じタイミングで同じ期間で発行する債券よりも通常は低くなります。というのも、経済効果的には金利を低くする代わりにその等価のプレミアムが必要とするコールオプションを債券保有者に対して付与している、と考えるから、なのです。

とすると、CBを保有する、ということは金利が通常より低いとはいえこの債券の発行体の社債を保有しながらその会社の株のコールオプションを保有していることと同じになります。会社の株のコールオプションですが、個別株オプションの市場があれば同じストライクプライスと権利行使日(とヨーロピアン: 行使日のみ行使可能、かアメリカン:行使日までいつでも行使可能、かの違い)が一致すればそのプレミアムがわかりますし、仮に市場の取引がなくとも、株式オプションですので計算は可能といえば可能です。そこで、CBのうち、その価格を低金利社債の部分の価値(ボンドフロアーとも呼ばれています。というのも、CBにとって、株が無価値になってオプションの価値が0になったとしてもこの社債の価値が残ってキャッシュフローを生み出すから、です。)とオプション部分に分けることが出来て、このオプションのプレミアムに相当するものが市場で取引されているならば市場でオプションを売って低く抑えられているクーポンの現在価値に置き換えることで、同じ会社の社債と比較することが可能になります。さらに同じような国債があればショートポジションを作ることでその会社のクレジットリスクを切り出したことになりますので、これとクレジットデフォルトスワップとの間での裁定取引機会が作れる、というものです(と思います、保証しませんが)。

ここでわかることは、CBの構造上の裁定取引をするには、多分にセカンダリーマーケットで債券を仕込むよりプライマリー市場、当初発行の時の引き受けの際のプライシングの隙間を突いて償還まで買い持ちする方がポジションを作るが良さそう、というかセカンダリーで買ってきた時に合わせてあれこれデリバティブを使ったヘッジポジションを組むのが大変です。

でも、それ以上に、このCB戦略に限らず、というか、ヘッジファンドに限らず、ここで強く主張したいのが、複数の資産を組み合わせて作り出した合成ポジションを持っている時に、投資期間完了の途中でポジションを崩すとなるとあれこれ同時にポジションの売却をせねばならないものの、ほぼ同時に売却することが出来ないことから当初意図してヘッジして確保したヘッジ効果による利益が実現化する際に目減りし、場合によっては売却しきれずに損失にすら化ける可能性がある、ということです。ですので、一つの投資商品が複数の商品の組み合わせで出来ていて、かつそれぞれの手数料等が安いからといってその組み合わせを買って商品の合成が仮に出来たとしても(実際、うまく同日、もしくは同タイミングで買って合成するのだって大変なことです)、途中で解約することでお互いの商品の相互作用が崩れるので本当に売却のタイミングがずれて損失に転じるリスクが高まる、というのは、個人でも機関投資家でも複数の商品を同時に取り扱える体制がない限りは理解すべきだと強く言いたいと思っています。

さて、CB戦略については、上記もある一方で、そもそも一銘柄あたりの発行額や発行件数も少なく、そこに隠れている裁定部分がかなり小さいことから、レバレッジをかけながら数多くのCBで裁定取引をしないと儲からないし、こんなものは日次流動性には到底無理な戦略、ということなのです。

その他のヘッジファンド戦略 – バナナCTAはおやつヘッジファンドに入りますか?

ここまで、まぁヘッジファンドといえば金融商品を使った取引、と言うことで株や債券が、と言う話をしてきましたが、そんなことをやっていたらSoldieの連載がストップすることに。ちゃんと次の記事をアップできてなかったのが原因なのですが。。。

グローバル・マクロって最近よく聞くけど。。。

さて、株、債券ときたら、通貨戦略。有名なところで、ジョージ・ソロスが率いていたクォンタム・ファンドが、1992年9月に、その当時イギリスが加盟していたヨーロッパ諸国との通貨連動制度(欧州為替相場メカニズム: ERM)と当時の経済政策の不十分さから人為的にポンドが本来よりも高止まりしているとみて、イングランド中央銀行にポンド売りを2日続けて浴びせ続けたところ、イングランド中銀の買い支え資金が尽きたことからその翌日にERMから脱退して変動為替相場制に移行し、ユーロに併合されることなく今度Brexit するので当面も併合はないだろう、と言うのがありますが、これも通貨レートの景気などの環境から本来あるべき水準と政策誘導による環境との間のアービトラージ、と見ることができます。まぁ、クォンタム・ファンドは、通貨だけでなく、株式、債券、先物などでポジションを作っていたことから、どちらかといえばグローバル・マクロ戦略だ、と認知されています。

で、もっとよく聞くCTAって。。。

そして、通貨やグローバル・マクロまで来るとあとは、金や大豆といった商品取引系、いわゆるCTAとかマネージド・フューチャーズじゃないか、と思うのですが、個人的にだいぶお仕事させて頂いた立場で言うのも何ですが、このマネージド・フューチャーズの戦略というのが、一般的にはトレンド・フォローといって、商品市場や株式指数、通貨などの価格の推移(トレンド)を短期(5日間程度)、中期(20営業日/一ヶ月程度)と長期(90日/一四半期)で見て、上昇トレンドならば買いポジションを、下降トレンドならば売りポジションを、それぞれの市場で見ながら、トレンドの方向が変わったらそれに合わせたポジション取りをする、というものですから、どちらかというとヘッジというよりは、上がっているならちょっと後追いで買いで入って、ピークでは売らないけどピークをちょっと過ぎたあたりで売って利益確定する、という感じですので、個人で株を投資している人からすれば、「それってスイングトレードしてんじゃね?」と思われるでしょう。まさにその通りです。いわゆるシステマティックトレードです。でも、それを株銘柄ではなく、商品先物や株式/債券指数、為替など、以前一緒にお仕事させて頂いた世界最大のCTA (ちなみに、CTAは Commodity Trading Advisor: 商品取引顧問業者を意味するので、ファンドの戦略でCTAと呼ぶのが本来的には。。。というのがあるのですが、それでも結構みんな使ってますのでここでもCTAともマネージド・フューチャーズとも呼びます)さんは世界中の120の市場をモニターし、データを集めて分析しているということですから、規模が違います。とはいえ、基本スイングトレードですから、安く買って高く売っているのでヘッジファンドなの?と言われると個人的には違うと思うのですが、先物取引のようなデリバティブを使っているとどうもヘッジファンドの扱いになるようでして。まぁ、昔から儲かるオルタナティブ投資戦略という意味で括られてきているから、かもしれません。

で、よくCTAとグローバルマクロは同じ括りで比較されるのですが、実際のところは、グローバル・マクロ戦略の中に、ある意味人の介在が入らないシステムトレード系としてのマネージド・フューチャーズが入り、それとは別にクォンタム・ファンドがそうであるようにシステム管理するというよりは人の裁量に基づく取引を基本とする投資をする、というスタイルと二つに分かれるのです。

で、戦略をあれこれ見て行ったけど、実際のところ儲かるの?

さて、投資する側からすれば、ヘッジファンドというのは、ある意味日々ヘッジされたポジションを積み上げて収益をロックインし、投資完了時に収益を実現化していくということを繰り返していくのでまず負けないし、その昔は結構稼いでいたという話を聞くので投資家さんもリーマン・ショックで離れた人たちが戻り、さらに多くの新規の投資家、特に機関投資家が増えたとされていて、投資残高はすでにリーマン・ショック直前の頃を上回っています。さらに、業界関係者もビッグ・ビジネスということで集まったようで、AIMA の最近の調査によると、ヘッジファンド業界に関わる人は、運用者からファンドアドミ、弁護士や監査人など含めて世界中で400,000人いるそうな。おかげで、10年前に比べてヘッジファンドのビジネスが、スタートアップの零細企業にその成長とその結果の両方に対して賭けてみる、というようなものから、投資家も運用者もより「企業的」なアプローチでの投資と関係を求められるようになったようにも感じています。

でも、これだけ多くのヘッジファンド戦略をとる人たちとその投資資金が増え、さらに当然ロングオンリーの投資額もこのところの世界的な低金利でリターンを求めて同様に増えたこと、さらには高頻度取引(High Frequent Trading / HFT) の存在のおかげで市場の裁定取引機会が減っていることや中央銀行等による市場介入が増えたことでの半恒常的な人為的市場形成がなされている、といった今まで想定していた市場を前提とした戦略構成が機能しづらくなってきているようで2015年から2016年は多くのマネジャーたちにとって厳しい時期だったのは確かですし、そのおかげで従前にヘッジファンドの代名詞でもあった報酬体系 – two-twenty – がパフォーマンスが出ていないのに高すぎる、という批判にさらされて値下げの提案やファンドの解散を余儀なくされたものも出てきた、のもニュース等で聞こえてきています。

とはいえ、その環境下でも新しいアプローチの投資機会を見つけてファンドを立ち上げる人も、以前より数は減ったものの毎年います(とはいえ、業界的には絶賛募集中ですが)から、まだこのヘッジファンドに勝機があるとみる人もいます。また、ベータ投資への相関性を外す投資をしながら、市場のダウンサイドリスクを回避したいと考える投資家からすればヘッジファンド投資はポートフォリオに入れるべき投資戦略であることは(前述のメカニズムの説明が正しくなされていれば)納得できるところかと思いますし、もっというならば

単体で投資して大儲けする対象ではなくなった

のだけは確か、かもしれません。

ハブ・アンド・スポークス – お金と情報は集まるところに集まって力を産む、だからファンドはオフショアに行く

つい先日のこと。とある著名な中小型のプライベート・エクイティを運営されている方に人のご紹介がてらお話を伺うことが出来ました。プライベート・エクイティの運営戦略も今や単純に未公開株を買って上場したところを売る、という単純なものではなく、VCからの延長でそのまま一気に上場させる手伝いをするものや、破綻しかかっている上場株を再生すべくTBOで買い集めて非上場化して会社を綺麗にして、再上場するようなターンアラウンド、私の以前いた会社の母体がそうだったように、企業の一部門を切り出して企業化していく、などなど、色々な戦略というかシナリオで投資をしているのですが、今回お会いさせていただいた方はその一つの事業承継を主軸に行なっている方でした。

となると比較的小ぶり、と言われそうですが、それでも最終的な投資額の目標が150億、実際にはローンを使ったりするので投資する企業価値の合計は300億以上にはなるのではないかと思います。それでも中小型、と日本では呼ばれ、アメリカのPE業界と比較すると、下手をすれば小型どころかマイクロ、とまで言われかねないサイズ感ですが、この彼にとっての今回のチームで最初となるこのファンドには海外の投資家を含めるものの大多数が国内の機関投資家を占めていた、というのです。

実際、関わりを持たせて頂くようになったこの10年を見ていても、日本の大型株のプライベート・エクイティは海外の投資家と国内の投資家とが程よく混ざり合った投資家の顔ぶれが続いていますが、中小型株となると、いくつかの例外を除くとそのファンドの募集する額に対してほぼちょうどか多いくらいに国内の投資家からの資金が入ってくるので、国内スキームと国内投資家とのお付き合いにとどまるケースになってしまっているそうです。そのいくつかの例外、というのは、最初から海外の投資家と国内の投資家とに投資家を分散させて置きたい、という意識を持って投資家回りをして募集している、という準備もあり、また、やはりそれなりにいいパフォーマンスを過去に出して海外の投資家に認知されている、というのもあるとも見られています。

他方で、海外からの国内に投資する際の税務上の規制(いわゆるShinsei Tax:新生銀行に対する海外の投資家による再生プランの一環での株式再上場の際、血税が使われての再生でもあったのことから課税の難しかった海外投資家に対する譲渡利益への源泉徴収義務の強化が、一般的な海外からの国内企業への過半数株式保有の形での投資にまで適用されると解釈されたこと、が、海外からの国内へのPE投資への阻害要件になっていた、とされています。)や、国内スキーム(国内投資有限責任組合スキーム)での会計処理の特異性(IFRSなどは投資対象の時価評価を求めるのに対して、国内スキームでは原則簿価計上)や報告書等の言語、などが海外投資家を日本から遠ざけていた、と言われた時期が長かったともされています。

とすると、国内の中小型株のプライベート・エクイティは国内の投資資金がぐるぐる国内で回っているだけ、という見方をすることができるのですが、それでも、銀行が今や地元の有力企業の株式を保有することで支援することが難しくなった今、国内の機関投資家の資金をハブのごとく集中化して未公開株への投資を通じて事業育成に役立てている、という意味では、ファンドの役割の一つ、お金を大きく集めてまとまった投資を可能とする、ということを実践している証左になるのかと思います。

ハブ・アンド・スポーク – 物流から金融まで、小さなものを大きくまとめて効率よく移転する構図


さて、今更ですが、ハブ・アンド・スポークってご存知、ですよね。ご存知の方は「ファンドがお金のハブとして果たす役割」まで読み飛ばしていただいても良いかと思いますが、そうでない方のために念のための解説をすると、自転車の車輪をこんな風に思い出していただくとわかるかと思いますが、車輪の中心の車軸受けをハブ、そこに向かって車輪から伸びている数々の棒をスポークとそれぞれ呼ばれています。

そこで、外側の輪っかを忘れてもらって、たくさんのスポークの両端の関係だけを想像していただきたいのですが、ある意味ハブにスポークの一端が集中している、と見えますよね。このように、ある種の中央集中型の構造をハブ・アンド・スポーク型と呼ばれているのです(数学のトポロジーの授業と計算機科学の授業を受けたことのある人なら、なんだ、スター型じゃないか、といいそうですが、まぁ、グッとこらえてもらって。。。)。

で、このタイヤ一つだけを見るとどこかの国のような中央集権型システムの構造にしか見えてこないのですが、上記の絵のように二つのタイヤを並べて、ハブ同士を繋いだ構造を想像していただいて、これが物流、例えば飛行機のネットワークに当てはめるとどうなるでしょう。地方空港から成田や関西空港に移動し、そこで乗り換えてアジアやアメリカ、ヨーロッパに移動する、という流れとの類似性が見えてきませんでしょうか。

例えば、二つの国があってそれぞれに首都と衛星都市があるとします。

それぞれの都市が、歴史的繋がりや需要から飛行機を思い思いに飛ばすと。。。

ある意味全て直行便ばかりですが、行きたいところに行こうとしてもいけなかったり、航空会社も飛行機の有効的利用も出来ませんからコストがどうしても高くついてしまいます。そこで、このハブ・アンド・スポーク型の航路の設定をすると。。。

と、ハブとなる首都と衛星都市をむすび、また首都同士を結ぶことで、確かに1回から2回の乗り換えが発生するものの、飛行機は使い回しが聞いたり単純な往復だけですので飛行距離の短い中小型飛行機を当て、首都間は旅客人数が多く見込めることから大型機で運行することでより効率化が測れ(移動コストも次第と下がるだろう状況にな)るのです。

ファンドがお金のハブとして果たす役割

ハブ・アンド・スポーク型の流れとしてのファンドの役割を見て行きましょう。
企業は成長のための増資のための投資家やギリギリの日々を生き延びるために運転資金の調達など、色々な財政状況や事情などで資金調達をしたいと考えていますし、投資家もその投資額の大小からリスクの取り方、投資経験や知識、投資機会の情報の有無、などなど様々です。

もし、この資金の出し手と資金需要との間をつなぐ人がいないと、

互いの情報のミスマッチで投資できない、もしくは資金調達できない、という場合があったり、仮に出来たとしても資金需要に見合った投資を受けられなかったり、もしくは投資できてもおもて向きは安心できるように見えて実は倒産しかかっているところだったため回収の見込みが立たなくなった、などの投資できているけれどもミスマッチ状態が続く、という場合も起こり得るのです。

考えて見るとわかりますが、よく企業を立ち上げて少し経つと古い友達が「一枚噛ませろ」と、50万円程度(いや、程度といってはいけないかもしれませんが)の投資をさせろ、という話を持ちかけてくるケースがありますが、拙著の「外資系企業の簡単な作り方(笑)」に書いた通り、50万円って、資本規制を求められる業種でない限り、スタートアップの会社の事実上の最低資本金、なのですよね。となるとスタートアップで自分の意思で始めた会社の経営権の半分を投機目的(持ちかけた側からすれば信用しているから確実に倍にしてくれ、という都合のいい話)に渡すか、といえば、まぁ、Noですよね。仮に50万円ならそれくらいの会社乗っ取りの話になりそうなものですが、とはいえ株主構成を考えての1万円とか少額を言われると。。。預かった方も何も使えないのが実際ですよね。却って50万円の方が設備投資に回せてビジネスに貢献してくれるかもしれません。

では、この話を上場株投資をする側に回って一気に切り替えたとしても似たような問題は起こります。1万円で株式って何が買えるでしょう。2017年5月9日現在で日本国内の上場株だと、35銘柄は1万円で買えるようです(取引手数料は除く)。とはいえ、ざっと見る限り、監査報告書に事業継続に疑義がついたり上場廃止直前の監視ポスト入りしそうだったりと、まぁ、おっかないものがゴロゴロ。それならば、1万円で買えるETFというのが72ほどあるのでそちらを買う方が分散が効いていていいのかもしれません。

50万円ならどうでしょう。3225銘柄になります。それなりの流動性の見込める大型株も56社入ってきますので、いざという時に逃げられる銘柄を仕込める、かもしれませんし、一発逆転を狙いたい小型株も2,901社ありますから、調べに調べ抜けば夢が叶うかもしれません。でも、50万円で分散を効かせたいと思うと、ポートフォリオ理論に基づいて最低数である20銘柄くらい持たないといけませんが、そうなると一銘柄2.5万円。先ほどの1万円ほど狭くはないですが楽天証券さんのスクリーニングの機能の都合上、ざっくり3万円で見ると、3万円で買える株が204社、大型株としてみずほフィナンシャルホールディングが(そしてこれだけ)、中型でも双日、オリコ、あとガンホーが入ってきます。とはいえ、実際、20銘柄を買い揃える取引コストが高くつきそうですね。楽天証券さんを例にとれば、10万円までの取引で139円(消費税込みで150円)、ですから平均2.5万円を20銘柄で 取引コストが3000円になる計算です。50万円に対して0.6%ですか。保有期間中ずっとコストの掛かる投信よりいい、と思われるかもしれませんが、投資するまでの銘柄選定と売却目標額の設定、実際の投資、そして投資後のモニタリングと投資回収(目標額達成でも、損切りルールに基づくものでも)、ということを日々自分でやり続けなければいけないのです。しかも、もともと204社の投資可能銘柄範囲で満足のいく投資対象が20銘柄出てくるのかどうか。平均して10銘柄の内の1つに投資する、というと結構妥協が入ってくることになります。

株の投資ではなく、貸し付けたとしたらどうでしょう。何もなければ、定期的に元利金を支払ってくれるかもしれません。でも、払わなくなった時にどうやって回収すれば良いでしょう。知人が社長をやっている会社への貸付ならば、社長に直々に談判して支払わせる、なんて出来ますが、それだって相手の会社のキャッシュフローが回っていれば、です。事実、大勢に影響のない利息額すらコストだから何とか出来ないか、と、社長業をすると考えてもおかしくないのです(し、実際にそう言われて「おいおい、誰の入れ知恵だ?そんなふざけた事言った会計士と話しようか?」と押し返したこともあります)。となると、実際、貸付は株より回収の優先順位としては高いものの、それだって毎月の回収の手間は大変なのです。(いや、ほんと、金貸し商売は高利貸しになりますよ。じゃないと回収できなかった時の元本棄損のリスクが高すぎますから。。。)

では直接企業(?)に貸し付けるのではなく、同種の性質を持ちつつ譲渡性のある債券を購入する、としたらどうでしょう。また楽天証券さんにお手伝いいただいて、買えそうな債券を、と思ったのですが、1万円で買えるのは個人向けの国債。FPの試験でも取り上げられる商品ですが、他方で金融の世界の教科書で考えると、国債はリスクプレミアムの乗っていない、ある意味その通貨の中では一番リスクフリー、したがってその国では一番安い金利が付与されている、と考える商品です。個人向け国債は金利の下限として 0.05%が定められていますので、一年で最低でも税引き前で1万円の投資額に対して5円の利息がもらえる計算になります(それに対して20.315%の源泉徴収税が掛かりますので実質3円)。となると、もっと高い金利の商品を探したくなるのですが、楽天証券さんではこの時点で社債の取り扱いが0。大抵取り扱いとして上がっても国債と比較して金利が高いことからあっという間に売れてしまう、というのが実際です。仮にあったとしても最低取引単位が銘柄によって幅があるものの、最低でも50万円は下回らないことから、なかなか取引額の都合で取り組みづらい投資対象、と思えてきます。

そう考えると、残念ながら、金融の世界で50万円の投資というのは結構少額の扱いにならざるを得なくなり、むしろそんな50万円を多くの人から集めて束ねて数億、数十億円にして、それを厳選した投資先に振り分け、監視し、回収する、という一連の投資行為を管理する仕組みにコストを払って委ねた方が、自分の通常の仕事ができていいのでは、と考えることになります(無理やり?(笑))。その仕組みが、ファンド、なのです。


絵的にもハブ・アンド・スポークになったでしょ?実際、冒頭にご紹介したプライベート・エクイティ投資がまさにこの図の通りになっているのです(投資家は50万円を出す個人ではなく、数億円単位の投資をする機関投資家ではあるのですが。。。)。

飛行機の世界に国際線があるようにファンドにだって。。。

私たちは日本にいて、(間接的にお金を預けている銀行や生命保険、年金などを通じて、もしくは)自分の意思で直接に日本に拠点のあるファンドに投資をしていることが多いのですが、でも、そうなると投資対象が日本の株や債券、不動産に限定されてしまいそうです。投資の基本が分散、と言われるならば、投資対象となる国や地域、投資資産も分散した方がいいに決まっています。でも、そのような資産に日本からリサーチして投資判断することは難しいのは想像に難くないですね。

「投資信託に米国株投資ファンドやUS REITファンドとか欧州株ファンドとか、ブラジル国債ファンドとかあるじゃない?」

ええ、おっしゃる通りです。でも、そのようなファンドが日本から直接海外の株や債券、REIT(不動産投資信託)などを買っているのでしょうか。答えとしては、そういうファンドも実際にあるので否定はしないけれども、そればかりではない、のです。

日本の投資家に向けたファンドに多いのが、日本の投資家(もっといえばそのファンドの国内での販売会社)のために設定されるファンドですので、その投資資金だけで100億から1000億円単位になるため、単独で投資対象を得意分野とする現地の運用会社のアドバイスを受けながら直接投資を行うことが可能になっていたケースが多かったのです。とはいえ、そのためにはそれぞれのファンドを設定するために投資対象の国と日本との間の租税条約やそれに基づくキャピタルゲイン税(源泉徴収税)の取り扱いを調べ、外国人としての投資規制を理解し、現地の証券取引の実務と日本におけるファンドの実務とのギャップを調べて出来るだけ日本ルールに合わせるような方法論を編み出し、ということを繰り返してきたのです。

とはいえ、これでは複数の国に向けてのファンドの設定となると同じ調査を一から繰り返すことになり、またそれぞれファンドの運用期間中の税制変更の監視や変更の際の対応についての協議・検討を行うことになるので、実際のファンド運営はかなりの手間が生じることになります。なかなか非効率ですよね。

そこで、海外の大手運用会社などが一般に行うこと、として、世界中の投資家が等しく入れるような税制的に中立な場所であるオフショアにファンドを設定して、そこから投資対象の国への投資を行う、という仕組みです。これにより、多くの投資家が経験している自国からオフショアへの投資にかかる税務と実務の負担を投資家が負い、オフショアから投資対象国での投資行為に関する税務や実務の負担をファンドとその運用者が負う、という役割の線引きを置くことで、ファンド設立や運営にかかるコストを集約化することにより下げ、また、一般的な投資ファンドの設立国であるオフショアへの投資ならば一般的な投資家が経験して理解を持っているはずなので、通常の投資と同じく、特段の負担を強いることはないようにしているのです。こうすることで、より多くの投資家からの投資資金を集める素地、すなわちより多くの国で同じ戦略の投資商品を販売するための土台が出来るのです。

前者はより単発の直行便であるチャーター便的な発想(個別の投資家の要望に寄り添った形)で作られていますし、後者はよりハブ・アンド・スポークを使った定期便的な発想(世界中の多くの投資家の要望の最大公約数を満たすような形)になっている、とも言えるでしょう。こういうと、日本発のファンド商品が従来までは特に、リテール向け商品ですら比較的大きなサイズでのファンドの設定が出来たことを武器に日本の商習慣に合致する商品を作れてこれたのがわかるかと思います。

最近見られる傾向は?

ヘッジファンドの全投資額に関する統計によれば、2016年にはリーマンショック直前の2007年の全投資額を上回った、ということが示されていたと記憶していますが、2007年当時と比べて投資家層がより機関投資家や年金、そしてファミリーオフィスのような機関投資家化した富裕層に入れ替わってきていることから、ファンドの運営体制もより企業的であることを求められており、そのためより効率的で多くの実績のあるオフショアでのフラッグシップファンドでの投資資金の一元化と投資家の所在国に向けての入り口となるファンド(フィーダーファンド)の構造を求められるようになってきています。実際に、それが増加していることからケイマン諸島ではマスターファンド規制が2013年から導入されています。その意味で世界的に投資資金がハブの機能を果たすオフショアに一旦流れ込み、投資先となる世界中に、運用者の意思に基づく振る舞いをしながら動いている、という流れは今後も続くのだと思います。

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