オルタナティブ投資のインセンティブ・フィーの計算って(ヘッジ ・ファンド編)

このお肉を切り分けるようにパフォーマンスフィーを分けられるかな。。。
このお肉を切り分けるようにパフォーマンスフィーを分けられるかな。。。
ということで、オルタナ投資のメジャーなもう一つといえばヘッジファンド。
これのインセンティブ ・フィーというのは、サラリーマンにして長者番付トップなんてのをその昔は作り出したくらいなので、それはそれなりに有名な話。

いわゆる 2%/20% (two-twenty) という報酬体系ね。

といっても、もしかしたら未だもって投資信託しか知らなーい、という読者が間違えて来ちゃうかもしれないので、軽い比較を用いて説明するとしたら、

日本の投資信託の「信託報酬」というのはお預かりする資産(通常は純資産、正確に言えばこの信託報酬とやらの前日までの控除後の資産)から、その日の純資産額に信託報酬のレートをかけて日割りすることで差っ引かれるので、いい日も悪い日も、預けている資産ベースで取られます。というか、規制でそう決めてるから、ということでそういう報酬体系でやってね、というのが日本の投資信託だったり、アメリカの mutual funds だったりします。

それに対して、私募というのはそういう縛りに締め付けられないので、報酬だって好きなように投資家と相対で決めることができます。例えば、パフォーマンスフィーのように、元本を超えるリターンをあげたら、その2割はもらいます、とか、最初の 100億までは通常の 75%の運用報酬しか取りません、などなど。もちろん、それらを達成するために運用方針も、投資信託ならちゃんと資産を分散することでリスクを軽減させるようにする、とか無限のロスのリスクを負わないために売り建ててはいけないとか、勝てば倍儲かるけど負けると倍負けるような、レバレッジをかけるためにローンを借りてはいけない、とかすぐに資金化出来ないような資産に投資しないとか、全ては投資家保護の名のもとに規制される様々な縛りを全部取っ払って、ある意味儲けるために手段を選ばないし、その結果反対にゼロになるくらい大きな損を被っても(むかつきはすれど)金融庁などに「インチキだ」と駆け込むことなく、選んだ自分と市場とタイミングが合わなかったんだ、とちゃんと諦められるプロの投資家に対してだけ提供するべくデザインされているのです。

で、本題。

ヘッジファンドのインセンティブフィーってそもそもどういうもの?

前述のいわゆる 2%/20% (two-twenty) という報酬体系。まぁ、これが
1.5% / 15% になってもいいのですが、前者の 1.5% とか 2% という奴はいわゆる基本となる運用報酬、投資信託でいうところの信託報酬なんかに相当する部分。なので、ファンドが勝っても負けても払わなければいけない報酬なので、特段問題はないのですが、後者の 15% とか 20%というのは、当初投資家さんから預かった資金から増やした部分について、15%なり 20%なりを報酬としていただきますよ、という成功報酬に相当する部分なのです。
と考えると、前者はファンドが勝っている時に参加しようが負けている時に参加しようがそれぞれの持ち分に比例して負担額が一定の比率で充てがわれるので特段問題はないです。問題は、成功報酬、というものの習性です。

インセンティブフィーの仕組み

例えば、2/20 のファンドを今日始めます、というタイミングで投資家Aと B と C が入ったならば、みんな同じタイミングですので、それぞれの投資家さんの投資持ち分の単位あたりの元本(例えば便宜上 USD 100.00としましょうか)というのはみんな一緒ですので、成功報酬の計算方法も投資持ち分の単位あたり USD 100.00 を超えた部分に 20%をかけて、何単位を持っているか掛ければおしまい、という単純計算で終わる話なのです。が。

投資家の間で公平に取るには悩ましい問題に化ける。。。

例えば、前述のファンドが一ヶ月経って、ちょっと負けたので投資持ち分の単位あたり USD 95.00 になったとします(以降、単純に投資持ち分の単価あたり、といった場合には成功報酬を含めた運用関連の報酬や費用がすべて控除されていると思ってください。言い換えると、成功報酬の控除前の話をするときには「成功報酬の控除前の」投資持ち分の単位あたり、と前置きますのでご注意を)。そこで入る投資家 D と最初に入った投資家 A (でも Bでも Cでもいいのですが) との違いを見てみましょう。

もし、このファンドがひたすら下がれば、当然成功報酬なんて発生しないで怒りだけが積み上がるので考えなくともいいのですが、翌月に投資持ち分の単位あたり USD 100.00 に戻ったとします。投資家 A の立場で考えると当然元に戻っただけなので成功報酬など発生しません(というか、早く USD 100を超えろよ、と思っています)。でも、投資家 D の立場から見ると、スタートが USD 95.00ですので、USD 5ほどこのファンドマネジャーは稼いでくれたことになります。とすると、20%の報酬に相当する USD 1 を払う必要が出てきます。

更に翌月に投資持ち分の単位あたり USD 104.00になるケースを考えると、USD 100.00から成功報酬の控除前の投資持ち分の単位あたり105.00 で、USD 5稼いでいるので 20% の USD 1を成功報酬を控除して USD 104.00になっているので、投資家 D からすれば USD 95.00から USD 105.00までの USD 10.00 を稼いでいるので USD 2を成功報酬として徴収する必要があるのに USD 1.00しか控除していないことになって、同じファンドの同じ条件で入っている投資家 A (や Bや C) からみると不公平になってしまいます。

Equalisation という年次清算の考え方

さて、どうしたらいいでしょう。

もし、このタイミングで投資家 Dがファンド投資をやめれば、そこで買戻しの代金の一部から 投資持ち分の単位あたりUSD 1に相当する額を追加で控除して払い出せば調整終了となりますが、これではファンドから出るときだけしか回収できないので、ファンドマネジャーとしてはそこまで待っていられないし、未回収の USD 1 から複利で運用している/されている状態なのも監査の観点から見てあまり健全とはいえないかもしれません。

そこで、財務年度末にこのような不公平を是正する Equalisation ということを行います。このケースの場合、USD  95から USD 100 に持ち上げた分の成功報酬に相当する投資持ち分の単位あたりUSD 1をファンド(を経由してファンドマネジャー)が回収するには、相当額分の投資持ち分を強制に買い戻して、その買戻し代金を追加の成功報酬分として徴収するのです。こうすれば、次の財務年度の開始時点では投資家Dは他の投資家 A (やBやC)と同条件になるのです。

まぁ、これはまだわかりやすいシナリオでの調整の仕方です。ですが実は、もう一つの厄介なシナリオがあるのですが。。。

いつでも公平に取る、というのはややこしや。。。

前述からの例で行くと。。。今ファンドの投資持ち分の単位あたり USD 104.00でしたね。ここで投資家 E が入ったとします。

で、このファンドが USD 108.00 まで上昇して財務年度末を迎えたとしましょうか。ちなみに、この時、成功報酬控除前の投資持ち分の単位あたり USD 110.00 になります。 って、計算が面倒なので都合のいい数字を使っているのがバレバレですが(笑)

そうすると、投資家 Aから Cについては、USD 100.00から入って、USD 110.00まで稼いで貰ったので上昇分のUSD 10 (=110-100) について成功報酬を 20% 、すなわち USD 2 (=10 x 20%) を払うので投資家の手元には USD 108 (=110 -2 )残ることになります。
Dについては、先ほどの強制買い取りのルールでちゃんと調整された後 USD 108になるので割愛しますね。

で、問題は投資家E。単純に考えると、USD 104で入って、そこからの上昇分に対して成功報酬を払えばいいのだから、となるのですが、計算ロジック上この投資家Eの基準点はどこになるのかが悩ましい。というのも、お気づきかもしれませんが、ファンドの取引価格に成功報酬を控除した後の価格で表示しているようにみえるのですが、成功報酬の計算が関係する以上どうしてもパフォーマンスを控除前で考えておくほうがフェアな計算が出来そうなので、そちらで考えてみましょう。実際、ファンドマネジャーも控除前の資産を運用していて、成功報酬は経理上の数値に過ぎず、報酬が支払われるのは少なくともequalisation を行う財務年度末以降なのですから。。。

投資家Eが入るタイミングでは控除前はUSD 105、財務年度末は USD 110 なので 5 儲けたので 1 (=5 x 20%) が成功報酬として支払われるべき、となるのですが、控除前が USD 110 となると、この投資家 Eだけ控除後の値段が USD  109 (=110 -1 )となるので他の投資家の USD 108 と調整 (equalisation) が必要になります。調整すべきは USD 1。これはどこに隠れているでしょう。。。

あ、控除前の USD 105と控除後の USD 4の差ですね。

言い換えると、投資家 E は投資する際に、控除後の USD 104 をファンドに入れるのではなく、控除前の USD 105 をファンドに入れていることで初めて、というか他の既存の投資家AからD と公平になるような、上記のシチュエーションが出来上がるのです。

でも、この USD 1はどうしましょうか。投資家 E に equalisation の時に返しましょうか。いえいえ。せっかくファンドにお金を入れて頂いているので、これはequalisation の一環として、財務年度末時点の単位あたりの価格で強制的にこのUSD 1で買っていただくことで調整します。このUSD 1 に相当する部分は equalisation credit と呼ばれています。なぜでしょう。その理由は上記のシナリオがバラ色すぎるからなのです。

というのも、次のケースを考えてみましょう。
控除後がUSD 104、ということは控除前が USD 105 で投資家が Eで入り、財務年度末に USD 100と、設定当初に戻ってしまった場合です。この場合、投資家 A/B/C の立場で考えると、成功報酬の控除は起きませんね。なにせ、USD 100で始まって USD 100で終わるのですから。では、投資家 Eの場合はどうでしょう。単純に控除前が USD 105で始まり、控除前が USD 100で終わっていますので当然成功報酬を支払う必要などありませんね。目減りしているくらいですから。

でも、ちょっと不思議ですよね。投資するときに成功報酬控除後の投資持ち分の単位のパフォーマンスをみて良さそうだから投資すると決めたのに、いざ入ってみると成功報酬の控除前の単価で入るなんて。これでは投資家 A のこの期間のパフォーマンスは -3.84% (=[100/104 – 1] x 100) なのに、投資家 Eだけ同じ期間で -4.76% (= [100/105 -1] x 100) となっておかしくなります。といって、入るときに控除後の USD  104しかいれない、となると前述のように投資時点での他の投資家と条件が同じにならなくなるのです。

そのため、控除前の価格で入るものの、控除後の価格とequalisation credit を持つ、ということで、従前から入る投資家と条件を公平にする、という手当が必要になった、というもので、強制買い付けは equalisation credit が途中で入ってからequalisation されるまでの間もファンドに資金として入っていることからそのまま運用資産となるため持ち分に正式に組み入れる手続きとするためなのです。

ただ、儲かっているときは、まぁ、いいですよね。問題は負けたとき、です。上記の負けているシナリオのように、equalisation creditは消滅するリスクを負っています。まぁ、既存の投資家の同じ期間の成功報酬控除前の持ち分も同じ状態ですから一緒といえば一緒、なのですが、投資家Eの gross の投資評価という観点で見るとどうしても、これは -3.84% の運用ではなく -4.76% の運用、と見ざるをえないことは否定できません。

まぁ、儲かっていれば、なんて言ってしまいましたが、よくよく計算すると、アップサイドのシナリオでも、投資家 A のように成功報酬控除後でUSD 104->USD 108 となった場合は 3.84% ですが、投資家E の観点では結局 USD 105->USD 109 (USD 104->USD 108 に equalisation credit の USD 1がやっと投資持ち分換算されるので 108+1 = 109 と同じ) の3.80%になります。後から入ると実はちょっと不利、のように見えますねぇ。でも、最初から、もしくは各財務年度末にリセットされたところから最大 11ヶ月の遅れて入ってきた分様子見をして入ってきている訳ですから、この分だけリスク・リターンの上で調整されている、と思うほかないかもしれませんね。

ヘッジファンドを公募に!

さてさて。
ヘッジファンド投資って、それでも絶対リターン追求という観点で魅力的なので公募ファンドで募集したい!なんて声がそれでも聞こえるのですが、じゃあ、単純に日本の公募ファンドで海外のヘッジファンドを買ったら実現できないか?というと、諸般の事情で出来ません(きっぱり)ダメな理由をもしあげるとするならば。。。

 

  • 公募投信の投資できる海外ファンドの制限があって、例えばファンドで出来る借りいれは純資産価格を10%を超えてはいけない、とか、空売りは純資産価格を超えては行けない、など、公募投信そのものの投資制限とほぼ同じ制限があるので、通常のヘッジファンドの運用方針にそぐわない
  • 流動性の観点で、通常日次流動性を提供し、一般的に当日買い付け/買い戻しを受け付けて数日後に取引の決済を行う公募ファンドに対して、通常のヘッジファンドが月次流動性で、買い付けは取引日の数日前に資金の送金と同時、買戻しは取引後から数週間から一ヶ月以上後、という大きなギャップがある

のが一般的な理由なのですが、今までの成功報酬も一般的な日本の公募ファンドや私募ファンドで買い付けるのに難しい理由の一つに挙げられます。というのも、追加型のファンド、すなわちいつでも投資できる(というか、投資機会が設定時一回きりではない)ファンドの場合、投資家が複数、しかもバラバラのタイミングで投資してきたとします。しかし、海外のヘッジファンドの立場からすると、バラバラに日本のファンドが追加投資してきているだけ、にしか見えないため、国内のファンドの個別の投資家の間の成功報酬の調整を国内ファンドレベルでせねばならなくなるのですが、通常、そのような個別の管理は出来ない、というのが一般的です。ですので、もしやるとしたら、各投資家が同じ条件で入れる単位型、すなわち設定時のみ投資可能、という場合のみになるのです。なので、もし継続的に投資したい、となると、毎月毎月単位型を設定していくことになるので非効率、というかコストが高止まりしてしまう、というのが実務的な現実のようです。

ファンドの基本- LPS型ファンドとその関係者

さて。本当はもっと頻繁にネタを書いていくつもりでしたが、どうも図を書かねばなんて思い始めたらスピードが遅くなってすみません。元々の遅筆に輪をかけてしまっていて、自分でなんとかせねばとは思っているのですが。。。

ということで、今回が基本シリーズの第三回。日本ではプライベート・エクイティやベンチャー・キャピタルの世界で使われる事の多い、有限責任組合スキーム、もしくはリミテッド・パートナーシップ型についてです。といっても、この概念は、会社型ユニットトラスト型から比較すると一見分かりづらい部分があるのも事実なので、コーポレート・ガバナンスがどうの、という所よりは、これに類してまだ分かりやすい日本の法制度上の仕組みとしてある「匿名組合」というものとの比較を行う事で、まず仕組み自体に理解を進めていき、その上で、仕組み上の問題点を考えながらコーポレート・ガバナンスがどのように機能すべきか、という着目を上乗せしていこうと思います。

匿名組合とは?

さて、本筋に入る前の、前段階として、匿名組合という仕組みについて見てみたいと思います。匿名組合というのは、日本においては商法にて定められる仕組みで、名前は「組合」とあるものの、実際には出資する「匿名組合員」と実際にその出資に基づいて事業を行う「営業者」との間で

匿名組合
  • 「匿名組合員」が「営業者」が行う予定のとある「事業」に対して「出資」をし、
  • 「営業者」はその「事業」の終了時に「事業」から発生した損益を「匿名組合員」に返還する、

という双務契約なのです。絵的にいうと、こんな感じ。

で、この契約の結果、

  • 「出資」された資本は匿名組合の財産になり
  • 「事業」も「営業者」の名義で行われ(従って、「事業」に関して取得した資産も発生した負債も「営業者」の名義となり)
  • そのため「匿名組合員」は契約期間中は当然終了後も「事業」として行われる「営業者」の行為について第三者としての権利を有せず、結果として
  • 「事業」による損益は全額を「匿名組合員」に分配する(損失については出資額を上限とする)

という、お金は出すけど口もなにも出せない、とっても都合のいい出資者扱いであり、他方で、自分がとある事業を行いたいが表立ってすることが出来ない、関与していない体を取りたい、なんていうケースには、もし「営業者」がとっても第三者で信用のおける相手であればこれほど都合のいい仕組みはない、という代物です。(外国人による事業に対する規制のある東南アジアで名目上現地のパートナーに名前を出して事業を行うのに似てますね(笑))

また、最後にあるように、損失については出資額を上限とするので、匿名組合員としては事業に対するリスクは出資額の全額損失程度の有限責任で許してもらえるのも実はメリットがあるとも言えます。

投資有限責任組合とは?

とすると、投資家の観点から見れば、投資の責任が有限なのはよいとしても、自分の資産が営業者のそれと混同してしまうのは、営業者の信用状況に左右されることになり不安定(というか持ち逃げされるのは嫌だ)になるので困るので、もう少しこのあたりを投資家フレンドリーにならんかい、ということで、日本で導入されたのが有限責任組合という、海外の Limited Partnership の概念。特に投資の世界で使われるのが、法律上および実務上、有限責任組合より先に制定された法律に基づく「投資事業有限責任組合」というもの。

投資事業有限責任組合

「有限責任組合員」が「無限責任組合員」が行う予定のとある「投資事業」に対して「出資」をし、「無限責任組合員」はその「投資事業」の終了時に「投資事業」から発生した損益を「有限責任組合員」に返還する、

という意味では、絵的にもご覧の通り、匿名組合と何の変わりもない。

で、じゃあ、何が違うか、というと、この組合は法律で登記する事で法人格を得るので、無限責任組合員が組合の目的である投資事業を行う際に、「組合としての」無限責任組合員名義で例えば銀行口座を開けて財産を所有し、また債務を負うことで無限責任組合員自身の資産や負債と区別される、というか、分別管理を求められる、のです。

とすると、

資産の分別管理が為されるし、もういいんじゃね?

と思っちゃってますよね。書いてる自分でも一瞬これ以上いっか、と思ったり(笑)

でも、これはまだファンドの器としてのレベルというかレイヤーでの議論に過ぎません。ある意味、これで信託や会社型ファンドと同程度になった、だけです。

LPS とガバナンスの仕組みとは?

実際、この状況だと、無限責任組合員、あー、長ったらしいから、以下 GP と呼びますね、が予定している投資事業を本当に実行するかどうか(出来るかどうか、ではなく、するか、です。ええ、適切な案件がなかったのでしなかった、出来なかった、という事例が過去5年で散見されました。これって、無理矢理高値で掴んで元本既存するくらないならやらないという勇気、だったと私は個人的には思ってますが。。。)、という点で大きく GP に依存してますよね。つーか、ぶっちゃけ組合名義の印鑑を持っているGP による資産の持ち逃げ(笑)についてだってまだその懸念も残ってますし。

とすると、どうしたらいいんでしょう。

GP の会社としての構造を変えてしまえばいいんです。

一般的な GP って運用者の会社そのものがなってしまい(かつ、金融商品取引法第63条に基づく特定機関投資家向け特例業務の一環として運用運用業や第二種金融商品取引業のライセンスを取ったり取らなかったりしますが、それはまた別の問題として。。。)、運用判断からファンドの資産の管理保全を一手に引き受けているケースが、まぁほとんど。かつ、有限責任組合員(というか、GPをGPと呼ぶから、LPと呼びましょうか)への投資状況のご報告から投資時の資金請求、投資完了時の資金返還、ということは投資中の投資案件の時価評価とか組合としての帳簿作成、などなどを、一義的には自身の責任に基づく業務として行っているのが一般的。まぁ、投資中の資産なんて、現金なんて一瞬で非上場株式をずっと保管するのだからGP自身との混同だったり持ち逃げのリスクだなんて、結構そんなことされるチャンスなんて少ないじゃん、という前提でプロの方々は投資して、されているんですが。。。

LPSと投資家保護

とはいえ、個人を食い物にしようとする 63業者あたりだと、怖いっすよねぇ(笑)

としたら、どうしたらいいんでしょう。要はこれって、会社型でいうところの self-administration な訳ですからねぇ。同じアプローチで行くならば

GP から運用判断をする部分を切り離して、運用判断をする人は運用業に専念して、GPは運用判断に基づく執行とファンド(組合ですね、この場合)の資産の保有と保全に専念する。

のが第一歩でしょう。実際、SPC として投資導管として使う合同会社というのが不動産投資あたりでは一般的ですから、これをGP に据えて、従来 GP として投資判断等を行っていた会社さんが投資一任/助言業として動く、というのは(業登録することで発生するコストはさておき)出来る話です。

で、そうなると、そんな GPには会社型スキームと同じく、取締役会で取締役が提供された投資判断をLPと事前に締結している有限責任投資契約(LPA)などに定められている投資方針などを元に投資するかどうかを判断し、投資すると決定したら、GPの会社業務を行うアドミニストレーターが株式や債権の取得等を行う、と取締役と執行部分も切り離していくのです。

でも、その投資する為には LP に投資資金の請求をする訳ですが、これは LPA に基づく作業なので、組合の業務として取り扱うので組合のアドミニストレーション、と GPに対する業務と切り分けて考えることも出来ます(まぁ、GPの面倒を見るなら 組合というか LPS だって、と思いますが。。。)。同種の作業は LPA に基づく持ち分に対する財務情報などの投資情報の提供だったり、この他いろいろある訳ですが、AIJ 問題以降の年金による投資の際に第三者が行うアドミニストレーターが作成した運用報告書が必要、だったりしますから、このあたりは今後そういう解釈になるならキーになるところでしょう。

なんて考えると、構図はこんな風に変わってくるのでしょう。

世界基準のストラクチャー

さて。

ここまで、立場としての関係者をこういれると、という話をしていますが、例えば同一人物が兼務だってすることは可能です。例えば、運用者のキーパーソンがGPの取締役になる、というのが一番分かりやすいところです。そうなると、当然、同じ個人でも一方で運用者としての判断をし、他方でファンド運営のコーポレートガバナンスを保つ立場としてふるまうわけですので、投資家からすれば、その使い分けはちゃんとするでしょ、と期待しますし、実際はといえば運用者としての意思決定のバイアスがファンド運営のコーポレートガバナンスに多大に影響し得る、という実務的観点から見ての相反が同一人の中で発生することは容易に想像できてしまいます、よね?同一人物による兼務だけでなく、運用者とその実質的支配下に置かれた子会社が運用と執行をになっちゃう、とか。スキームの形式だけでなく、関係者の利害関係もスキームを見るときには気を付けないといけない、というのは、実はLPS スキームに限ったことではなく、会社型であってもユニットトラストであっても同じ。。。ということを書きそびれていたのでここで書いてます(笑)。

まとめ

ということで、とりあえずは当初の目的は果たせたと思いつつ、一旦今回の記事はおしまいにして、次は。。。どうやって展開させましょうかねぇ。。。

日本でオフショアというと、ケイマン諸島となりがちですが。。。なぜ?

皆さんこんにちは。

emichanproduction であれこれ書いていましたが、内容の整理を含めて、金融、特にオフショア・ファンドやその動向等については、こちらのブログでまとめていこう、と思い立ちました。あれこれテンコ盛り、は個人的には好きですが、どうもそういう人ばかりではないようなので(笑)
ケイマン諸島ではないですが、イメージはこんな感じ
写真はケイマン諸島ではないですが、こんなイメージをしますよね?

なぜケイマン諸島?

さて、その栄えある第一回ですが、ちょうど書いている本日、プライベート・エクイティやベンチャー・キャピタルの世界ではなくてはならない方から、こんな質問を頂戴したのです。

「オフショアでタックスメリットを取ってファンドを組成する場合に、ケイマンの他、デラウェアなども考えられるかと思いますが、一般的にケイマンを選択されるケースの方が多いように思うのですが、それは何故なのでしょうか。レギュレーション等で多少違いがあるように記憶しているのですが。。。」

ですよねぇ。他にもオフショア金融センターなんて幾らでもあるじゃないですか。でも、なぜか最初に出てくるのはケイマン諸島。なぜなんでしょうねぇ。

ということで、そんな疑問について、ちょっと考えてみました。

そもそもオフショアとは?

日本から見たオフショアのファンド設定地の著名なところは、やはりケイマン諸島が最初に名前が出て、その他に、バーミューダ、ブリティッシュ・バージン諸島(BVI)あたりが出て、その他、(我らが)チャネル諸島ジャージー島 / ガンジー島、などが出てきますが、この他にも、オランダ領アンティル、マレーシア・ラブアン島、ミクロネシア、モーリシャス、セイシェル、香港、シンガポールなどなど、いわゆる非居住者にとって税制面でのメリットからファンド設定地として使う事が可能ではあるけれども。。。という所は結構多いのも事実です。

それに、オフショアでなくとも、アイルランド、ルクセンブルク、そして前述のアメリカ合衆国デラウェア州、といったいわゆる先進国に入ってくるような、オフショアに対比されるオンショアというでも、国際的なファンドを立てる選択肢も当然あります。

他にもたくさんあるのに、なぜケイマン諸島?

なのに、なぜ、日本だと国外でファンドを作るとなると、まずケイマン諸島籍を考える事になるのでしょうか。

法制度の優位性

法制度としては、実はケイマン諸島のファンド関連法の基礎はバーミューダのファンド関連法の大半をコピーした、とされています(ただし、バーミューダ自体が<2007年4月にファンド関連法の枠組みを大きく変更してしまったので、そのオリジナルというのはあるようなないような、という状態にはあります)ので、ケイマン諸島とバーミューダ、あと似たところでBVIを比較するとこの3つの地域はそう違いはない、と思えてきます。

とすると、それ以外の違い、ということになるのですが。。。

一つには日本の法制度における歴史的経緯が大きく影響していると考えております。
1990年代に海外のファンドを持ち込むという時には、普通にジャージー島籍のファンドも持ち込まれていましたし、ルクセンブルク籍やアイルランド籍、私の過去の実体験ではフランス籍のファンドも持ち込んでいました。当時は、個別に投資対象や税制等を考えてプランして、当局に届け出ても案件ごとに設定地にも問題がないか確認する事がほとんどだったように記憶しております。

公募の世界で、ですが、2004年に当局への届け出の方法が電子的な形 (EDINET) に変わったことでファンドの設定地として一度当局に持ち込まれて通れば基本的には再確認の必要がないため設立地の「相乗り」が可能になるという状態が生まれた事から、誰かが既に通したファンド設定地を使う、というメリットが使う側に生まれました。その意味では、ケイマン諸島、バーミューダ、アイルランド、ルクセンブルクがほとんどで、あと BVI もあったのですがここはライブドア事件の簿外取引の舞台になった事からそれ以降当局が許さなくなった、とされる背景があります。

バーミューダも 2007年の法改正の後、既に類似の法制度のあるケイマン諸島がある中でバーミューダの新しい法制度を当局にチャレンジするメリットを誰も見いださない事からほとんど見なくなりました。ちなみに、ジャージー島は、元々プロ向けのファンドを作る法制度にある為、公募ファンドを作る時でも最終投資家の身元確認が必要となるため日本の外国籍投資信託のストラクチャーでは対応し切れないので公募に向いていないことから公募ファンドに使われたことがありません。

ちなみに、この裏側には、ファンドの設定地を拠点とする法律事務所と日本の法律事務所の間のつながりの深さ、も実は影響していたようです。ファンドを誘致したいケイマン諸島やルクセンブルク、アイルランドは2000年を前後して、現地の弁護士事務所と日本の弁護士事務所との間で人事交流が進んで、相互理解を深め、さらには法務作業を円滑に進めるべく現地の弁護士事務所が現地当局に働きかけをする事で、より日本の法制度に親和性の高い枠組みを作れるようにしていく、という当局と民間の間の対話が進められていたのも事実です。

ですので、ファンド設定地の寡占状態は実は弁護士事務所の寡占状態も作り出すという感じでもあるのです。

で、以上は公募の世界ですが、案件数としては私募もそれなりにあるものの、このあたりの規制の考え方等は自然と公募の影響をうけますので、実績の多いところにだんだんノウハウも人の理解も集中してきた、というトレンドが出来上がったようです。

金融センターの立ち位置

二つ目に、オフショア・センターの中の、ケイマン諸島の立ち位置があります。

実際、ヨーロッパへの/からの投資を考えた場合に、案件の実績数を見るとジャージー島やガンジー島の方がメジャーです。これも、ヨーロッパの歴史的背景に基づく結果のようです。ですが、アジアやアメリカからの、という視点になると、日本同様にケイマン諸島が多いそうです。

このあたりは、非居住者への税制がパススルーであるケイマン諸島が世界的な投資資金のハブというか入り口となって集約することで、大きな流れとしての資金の集約化と投資への効率化が進められているようです。他方、特定の国や地域との間の租税条約上のメリットのあるオフショア・センターは、その投資先の国や地域に対する法制度/>税制面でメリットを活かしたゲートウェイに徹することがある意味オフショア・センター間の競争で生き残る方法になっているようです。

その結果、オンショアの投資資金がファンド・オブ・PEファンドのように一旦ケイマン諸島やジャージー島などの税制上ニュートラルなオフショアに設定されたファンドに集まり、同様にオフショアに設定される特定の地域やテーマに基づく投資の為のファンドに入った後に、投資対象の地域に(例えばインドならばモーリシャスやシンガポール、中国なら香港のような非居住者にとっての税制や外国為替規制上のメリットのあるゲートウェイを通じて)流れていく、という分業の構図が出来上がってきたようです。

無論、このケースですと、日本と投資対象国との間の租税条約上のメリットを活かせない、という声も普通にあがります。
ですが、上記の考え方は複数国からより多くの資金を集めて運用することを考えた場合の最大公約数としてのメリットの追求ですので、あとは、個別の投資家の為のカスタマイズ(セパレート・アカウントや共同投資/コ・インベストメント)と上記のようなものとの間での全体での費用対効果の面などの観点で棲み分けが進むように思われます。
その意味で考えると、日本発の投資案件で使うケイマン諸島籍ファンドの使い方は、それでもセパレート・アカウントにより近い性質があるので、常に他のファンド設定地と税制面などの比較をされ続ける可能性は否めません。

ファンド組成でのメリット

三つ目に、ファンド設定の時の柔軟性の高さが他のファンド設定地より高い、という特筆すべき点があります。というのも、例えば、

  • 免税ファンドを設定するのに、ファンド設定地の当局に登録/認可を受けたファンド関係者の数がケイマン諸島だと監査人ともう一つ程度(ユニットトラストだとトラスティ、LPS だと。。。下手したら不要)。そのお陰でアドミやカストディ、管理会社や運用会社を世界中の好きなところにいる会社に委託することが可能になります。これが、例えばアイルランドだと、GP会社の取締役の複数名が居住者でないと駄目、アドミもアイルランド籍の会社でなければ駄目、要はアイルランドに雇用を生まないものは駄目、など、結構うるさいです。
  • ファンドの契約書類等の当局への提出について事前の当局によるレビューが不要。実はオンショアのルクセンブルクやアイルランドはもとより、オフショアのバーミューダですら、ファンド設定の2-4週間前に最終ドラフトの提出と当局によるレビューと修正が入る事があるので、ファンドの設定のスケジュールが読めない、という不確定要素を含むことになるのです。一方ケイマン諸島ですと、ケイマン諸島法の弁護士による契約書の実効性、正当性等の法律意見書と(国際的な銀行等)著名なスポンサーの発行するスポンサーレターの提出で大抵は受理されて、後日修正、というのはほぼなし。その分、一緒に働くべき弁護士事務所を選ぶ必要も出てきますが、その結果、過去には2週間でファンドを設定したなんてこともあります(二度としたくないですが。。。)。他方、事前レビュー等がないため、ファンドの登録完了の証明となるライセンスの受領が4-8週間後ですので、その間、本当にファンドが適切に登録されたのか、という微妙に不安定な状況にあることになりますが、ファンドの運営上は問題がないとされています。

というところで、色々な意味で使い勝手がそれなりにあることでケイマン諸島に案件が集まりやすくなっている、と言えるかもしれません。

念のためのディスクレマーを。。。

あ、ちなみに、実務からの経験則で書いていますので、法規制等の背景に付いては微妙な誤りや時代的なずれがあるかもしれません。そのあたりは読者の皆様の責任にて上記を踏まえて頂ければと存じます。ではでは。

error: This Content is protected !! この記事は印刷不可です。