AIMA Japan フォーラム 2016 、無事終わりました!

白木さん、3年間の会長職お疲れ様でした。

白木さん、3年間の会長職お疲れ様でした。
白木さん、3年間の会長職お疲れ様でした。
このブログを読んで頂いている方の半分は多分ご存知のことと思いますが、このブログの筆者は世界的なヘッジファンドの業界団体、Alternative Investment Management Association (AIMA) の日本での活動の2009年からお手伝いをさせて頂いておりまして(と、今、こちらのウェブサイトでの自己紹介をみて確認しました。もう7年もお手伝いしていたか。。。)、特に私の得意分野、というより、出来ることが翻訳作業とプロセス管理、というところで、業界標準となっているヘッジファンドの関係者の調査をするための Due Diligence Format の翻訳をしつつ、年次で開催しております一日がかりのイベントの担当をさせて頂いております。

今年も東証ホールで6月8日に開催いたしましたが、当日の参加者の方たちから結構好評を頂いたので、ちょっとどんな会だったのか、こちらでご紹介したいと思います。

AIMA Japan フォーラムってなにするの?

ざっくり言えば、一日掛けていろいろなプレゼンテーションやパネルディスカッションを聞くことでヘッジファンドを中心としたオルタナ投資の今、が分かるイベントです。

今年は(気付いたら)特に話の軸になるテーマを決めずに演目が一気に埋まった(というより、アイデアが集まりすぎてスロットを増やすために一つ一つのスロットを35分、と平均的な大人の集中力の持続可能な時間すれすれに縮めて、それでも一つ演目を諦めた、という裏話もあります)のですが、例年はその年の市場の注目すること、例えば昨年ならば「日本でのコーポレートガバナンスコードの導入とその影響」、のようなものを軸にして、それぞれの演目が構成されていきます。

今年は前述の通り特に軸になるテーマはなかったものの、自然とコーポレートガバナンスコードが導入されて一年経ったことに対する評価であったり、アベノミクスの第三の矢の話だったり、投資家の動向調査であったり、当局の規制の直近のアップデートであったり、パナマ文書の影響までも入った、タイムリーな話が盛りだくさんな会になりました。そのお陰もあってどのセッションにおいても会場のかなりの席が埋まる、という大盛況な会になりました。

ちなみに、今回の内容については、オフレコの内容もそれなりにあったこともあり、総括もしないでおこうと思います。じゃないと、来なくてもわかる、では困りますからね(笑)

ちなみに Educational Sessions というのもやってます(笑)

はい、昨年は実はAIMA Hedge Fund Forum として10周年を迎えた年でしたので、ちょっと記念ということもあり、それ以上に、国内での新しい世代の関係者をもっと増やしていきたい、ということを執行委員の間で議論されたこともあって、メイン・イベントの前日の午後の2時間に教育的な無料セッションを行うことで、いわゆる若手の人たちが気軽に参加して学んでもらえるようなイベントを始めよう、という試みがされました。
で、これが思った以上に好評だったので、今年もやったのですが、こちらも登録者数も実参加者数も前年を上回る結果となりました。今年は特に、スピーカーがすべて英語圏の人たち(と言いつつ、一人は頑張って日本語で話してくれましたが。。。)でしたので、英語に自信の持てない人たちから参加しづらい、という声を頂き、急きょ同時通訳を入れることを決めました。それも増員の一因になったようです。

今年はそんなによかったの?

おかげさまで、スポンサー数が過去最高で、事前登録数もスポンサー様による招待を含めて過去最高、そして、実参加者数もまだ正確な数字を見ていませんが過去最高水準になると実感しています。一番席が埋まっていなかったセッションですら空席がそんなに見られませんでしたから。

で、今年はなんでそんなによかったの?

CFA Institutes の CEO は Paul Smith さんといいます。どこかで聞いたことがあるような。。。
CFA Institutes の CEO は Paul Smith さんといいます。どこかで聞いたことがあるような。。。

なんででしょうねぇ。多分、私以上に(笑)オルタナ投資のマニアならば、AIMA とオルタナ投資の分析に関する世界的な資格である CAIA (Certified Alternative Investment Analyst) を提供する教育機関CAIA Association、そして証券アナリストの世界的な資格、Chartered Financial Analyst の組織、CFA InstitutesのそれぞれのCEO が一堂に会した、という世界的にも稀な場になった、というのがあるものの、そんなのは本当にマニア向けの話であって(笑)、

例えば基調講演に、河野太郎国務大臣と日銀の原田委員にそれぞれお願いしたことで、政府と中央銀行のそれぞれから、それぞれの立場で何に注目し、何をしようとしているのかが聞けるのでは、という期待感が高まったから、というのは一つ大きかったのかと理解しています。

また、正直そんなに安くはない参加費用ですのでそれでも聞きたい、と思って頂けた方が増えたのも一因だと思いますが、他方で、過去最大のスポンサー数だったことから、スポンサー各社さんのお声がけで招待されて関心を持って来て頂けた方も自然と過去最高になったのも当然にあるかと思います。

でも、無料だと案外あっさりといかなくてもいいや、と思いがちのところを実参加者数としても通常の会だと70%程度のところを上回るのはいつもながら、本当に関心を持って参加を受けて頂いている方が多いんだな、という熱意でもあり、こちらは開催する側からすれば毎度とても感謝しているところです。

スポンサーの数が過去最大になったことについてもちょっと考えてみたいと思います。実は、毎年スポンサーの方にスポンサーのお願いをするのが年明けも4月の中旬から、というのが過去ずっと続いていました。でも、外資系の会社さんですと翌年の予算は11月くらいにはある程度、日本の企業さんでも3月には決まっている、というのが通常ですので、予め予算を組んでもらえていない状態でお願いをして無理無理出して頂いていた、というのが過去の実際だったようです。

それに対して、今年はアジア地域には11月にアジア地域全体へのパッケージとして、日本国内でも3月になるかどうか、というところで、ある程度の値段的な目安を話しながら予算への組み入れをお願いし始めてみました。
とはいえ、日本の市場への関心が薄ければ当然出して頂けない訳ですから、この環境下でも日本への関心がまだ強い会社さんが多かったんだ、ということが分かったのも、日本に軸を置いて仕事をしている身としては喜ばしいことだと理解しています。

来年はどうする?どうなる?

どうなるんでしょうねぇ。2日イベントにしよう、という声があがってますし、そうなれば個人的にはそろそろ運用者のパネルだけではなくアドミやトラスティのようなファンドのインフラを担当する関係者のパネルを久しぶりにやって、実務的な観点での近年の規制強化への対応について話をして多くの人に理解を求めるようなことをしたいな、と思っているのでそのチャンスも広がるかな、と思っていますが。。。

実際に仕事をしながら会の運営をしていくのは結構大変なんですよ。マジで(笑)
なので、よかったよ、という声を聴くと嬉しいし、頑張っちゃいますが、もう少し一緒に頑張りたいな、という人が欲しいな、というのも事実。なので、業界含めて一緒に盛り上げたい、という方大募集です(笑)

なんにせよ、また来年もこのイベントでお目に掛りましょう!
#って誰に言ってるんだか。。。

パナマ・ペーパーで大騒ぎしてますが、これの本当の問題ってなんですの?

レポートを見てなにを舞い上がるのか。。。
レポートを見てなにを舞い上がるのか。。。

これを慌ててアップしようとしている今日(笑)、その日本時間の早朝(2016/May/10日本時間午前3時)に、いわゆるパナマ文書、とかパナマ・ペーパー、とか言われるパナマの法律事務所から流出されたとされる文書の全貌が公表されました。

あ、ちなみに、一通り見ましたが、ごく普通の人、なんだろうなぁ、という日本人の名前が1000人近くさらされているのもどうなの?と思ったりしましたが、念の為確認しましたが私の名前はありませんでした(笑)

台湾が Province of China という扱いなのに怒っている人がいるだろうな、ということと、日本にいるとされる外国人の名前の多さ、そして多分、知人ひとりの名前を見つけたのはさておいて。

オフショアのファンドを生業の一つとしている私的には、変な風評被害になりかねないなぁ、とずーっと気になっていることではあるものの、なんで世の中がこれにそんなに騒ぎ立てているのか、本質じゃないところで騒いでるようにしか見えないので、「擁護するとはけしからん」という声が聞こえることを前提に、ちょっときわめて個人的な視点でまとめてみようかと思います。

ちょっと注目してほしいと思っている点

  1. どういう訳か顧客の情報機密性の高いはずの弁護士事務所、しかもパナマなんてオフショアの金融センターとしては極めて微妙な国の法律に携わる事務所から情報が出た、というのが個人的には何かしらの悪意があるようにしか思えない。実際、これをリークしたのがジャーナリスト集団ですので、別の意図で追いかけていた流れで見つけたんでしょうけど。。。言い換えると、情報自体が盗難品の可能性があるわけです。信ぴょう性はあるでしょうけれども、その情報ソースと取得方法について誰も違法性を問わないのはなんでしょう。クラッカーたち(世の中的にはハッカーと呼ぶでしょうけど、IT geek 的には人様のサーバーに不法に入りこむ連中はハッカーではなくクラッカーと呼ぶべきと、20年以上前から主張してますので、わたくし。。。)による被害、とされていますが、この連中はいったい誰に頼まれたのか。。。
  2. 確かにパナマは 2000年までは FATF (Financial Action Task Force) のブラックリストに、つい今年の2月まではグレーリストに載っているほど、反マネーローンダリング/反テロリストへの資金供給に対して協力的ではありませんでしたが、今では協力的になっている(というより、最近の方向転換を歓迎されてグレーリストから外れたばかり)なので、いわゆる US/UK FATCA や CSR (Common Standard Reportings) を通じての税務情報交換協定に協力的。ということは、ここに記されている、アメリカが指定した独裁国家の独裁者の家族、のような人を含むいわゆる各国の政府高官関係者など (PEPs: Politically Exposed Persons、ってこの間の記事で紹介しましたよね)が今のこの時代に自己の資金管理のためのオフショアの会社などを作り、取引口座を開ける、というのが難しいのが今のルール。この間ファンドを作った時ですら、かなり厳しい手続きを求められました。言い換えると、ここに名前が上がってきている諸国の政府高官から大金持ち、セレブリティたちは、昔のヨーロッパの富裕層が資金とその秘匿性を守るために作った仕組みに乗っかって、20世紀後半から21世紀の最初の7年の間にその当時のルールに基づいて行ったことの結果である以上、その当時の居住国と口座開設国の双方の国での法制度上の問題点や現在の法制度との違いを問うことをせずに、後だしジャンケンで、今の世の中で解いている倫理上の問題点を突き上げて資産隠しで税金逃れ、といるとみることが出来ます。ぶっちゃけ、最近かなり増えた、自分のその瞬間に感じた主観だけが正義と大声で言えば通ると思い込んでいる、よくいる近視眼的な連中と変わらない、というか、時代遅れの情報を引っ張り出して騒いでいるゴシップと変わらないようにしか見えませんが、そういうと怒られるのかな。
  3. 以上のことをここではパナマに限って話しているものの、私たちが普通にファンドを組成するときのように複数の国の複数の投資ビークルなどを組み合わせた投資スキームを使うのは(日本国内で売られている公募投資信託ですら)普通のことなのです。しかし、パナマ・ペーパーで「も」パナマ以外のオフショアの様々な関与をつまびらかにして、オフショアがいかにお金に汚らしいか、のように見せてますが、オフショアとオンショアを結び、オフショアとオフショアを結び、オンショアとオンショアを結ぶ、世界中の銀行と中央銀行をつなぎ合わせたお金の流れるネットワークは、今や世界中の情報の流れを一手に担っているインターネットと同じ社会インフラであり、またこれと対比する説明をするならば、ウェブサーバーが情報に意味づけをして再配信する役割をするのと同じように、ファンドなどの投資ビークルなどはお金がその力を特定の目的のために使われるように集めて利用する役割を担っているわけです。そこにはオンショア/オフショアの違いはなく、利用する人の意図によって使われ方や影響が大きく変わる、というのは情報インフラであるインターネットが誰もが分け隔てなく使えるがために、人助けにもテロリストの情報発信にも同じように使われるのと変わりがない、のです。(これも怒られるんだろうなぁ。(笑))
  4. ちなみに、今回オフショアの舞台としてあげられている国として、パナマはもとより、BVI、バハマ、(あと、本ブログでもご紹介したベリーズか(笑))のようなカリブ海の島々だけでなく、香港、セイシェル諸島、ジャージー島、ガーンジー島、マン島といった英連邦系オフショア地域、マルタやキプロスのようなEU 加盟国でもファンド設立に使われる国、シンガポール、そして、ニュージーランドやイギリス、ワイオミング州といった、一見オンショアのはずなのに非居住者が設定すると非課税になるメリットを生かせるスキームの存在するオンショアまで、縦横無尽に使われていることがわかります。が、実は日本の信託勘定も非居住者が設立して使うと非課税のメリットがあることが海外では知られています。なので、オフショアがとかオンショアが、という観点で租税回避地をつるし上げるのは早計ではないかな、と。
  5. ちなみに、今回ケイマン諸島とバーミューダがほとんど出てきてませんが、前項のそれぞれの国のビークル管理の観点で比較するとこの二つの地域は個人資産を抱えるには維持費などがかかりすぎる、ので敬遠されていたのかもしれません。

で、結局これで得するのは誰?

各国の税務当局だけ、な気がしてるのは私だけ?でも、こんな租税回避地に逃げたいと思わせる課税ルールを作った自分たちの結果、という反省がないんですよね。ええ、私は働いた人たちが正しく報われて、かつ社会インフラの費用は国民全部が公平に負担する仕掛けを作るべき、と考えているフラット・タックス信者ですので、こんな累進課税の結果のなれの果て、である今回の騒動については、すべては課税ルールが悪いから起きただけじゃねーの、くらいにしか思ってません。はい。
とまぁ、久しぶりに、個人的なブログで書くぐらいの私的感情丸出しになりましたが、ゴシップの人たちから比べれば公平性を保つように書いたつもりですのでご容赦を。

[追記 10/May/2016 23:51 JST]

ちなみに、interactive 版で企業名や名前を入れると関連するオフショアでの会社や他の関連する人物などが図示されます。ある意味わかりやすいのですが、わかりやすすぎて個人の住所とおぼしき情報まで出てきますので、正直こんな社会的制裁を加えることに疑義を覚えずにはいられません。

7週間でケイマン諸島でユニットトラストを立ち上げる方法

ファンドを作るのは建築物を作るのに相通じる?
ファンドを作るのは建築物を作るのに相通じる?
たまには、最近の仕事のことでも。
つい先週にとあるヘッジファンドの日本国内向け私募フィーダーファンドを設定して国内のとある適格機関投資家様に投資していただいたのですが、ヘッジファンド単体への投資となるフィーダーを一つ、とはいえ、実際に7週間で仕上がりました。これを早いと思うか、遅いと思うか、これでその人の最近のファンド設定への時間軸の感覚が見えてきます。ぶっちゃけいえば、アンブレラ・トラストを一から立ち上げるという意味での新規設定でこれは異様な早さ、の扱いになりつつあります。確かにその昔2週間で立ち上げたこともあるのですが、今は昔。世の中の環境の変化でこれくらいは、というレベル感が変わりつつあるのが現実です。

あ、サブファンドを作る場合はまた別の議論があるのですがここでは本当に一から、ということに限定するものの、今回は、その辺りを踏まえた、最短レベルでの立ち上げについてちょっと振り返りつつ、実はファンドを立ち上げるのってこんなに大変!というのを少しでも実感していただければ、というのが、目標とします。

まず、ファンドを立ち上げるって何をするの?

そもそも、ファンドを立ち上げるって、どういうことを意味するのでしょうか。簡単にまとめると次の通りでしょう。

  1. 投資対象と投資戦略を決める
  2. 上記を実行するためのストラクチャーとその設立地を決める
  3. ストラクチャーに求められるサービスを提供するサービスプロバイダーを選定する
  4. ストラクチャーに基づくビークルの設立や募集のための目論見書、そしてこのビークルとサービスプロバイダーとの間のサービス提供に関する契約を作る
  5. 設立されたビークルの設立地における登記や関係当局への届け出を行う
  6. 必要に応じて、ファンドを募集・販売する国における、販売・募集のための事前届け出を行う

で、やっと募集「は」始められるのです。

で、実際、何するの?

ちなみに、上記のそれぞれについて、今回私がどうしたか、というと

  1. とあるヘッジファンドのフィーダーですので、そのヘッジファンドを投資対象として、ファンドの資産のほとんどを投資して持ち続ける、という戦略になります。
  2. 将来のシリーズ化を念頭に置いて、ケイマン諸島籍のアンブレラ・トラストにぶら下がるシリーズ・トラストにクラス構造を入れてみました。
  3. ユニット・トラストのストラクチャーですので、ケイマン諸島の金融当局に届け出ているトラスティ・プロバイダーで過去に付き合いのあるところをトラスティに、ユニット・トラストのガバナンスと管理監督を考えた場合と将来の公募ファンドの設立も視野に入れることで、信託宣言型ではなく信託契約型を採用するため、管理会社の機能を提供する会社を1社、ケイマン諸島で設立して今回の管理会社とし、アドミニストレーターとカストディとしては以前から付き合いのある、ファンド・オブ・ヘッジファンドのアドミとしてはアジア随一のクオリティを誇る銀行系アドミ会社にそれぞれをお願いすることにしました。なお、このファンドの日本国内での販売のために金融商品取引業者の届け出をしているとある会社さんに販売会社として動いてもらうことにもなっています。
  4. アンブレラ・トラストの設立のために基本信託約款を、今回の戦略のためのシリーズ・トラストを設定するために補遺信託約款をそれぞれトラスティと管理会社の間で締結し、また、シリーズ・トラストと管理会社、そしてアドミ会社との間でファンドの純資産額の算出などの事務管理代行業務に関するアドミ契約を、またトラスティとカストディとの間で資産保全のためのカストディ契約をそれぞれ締結します。合わせて、管理会社と販売会社さんとの間でユニットの募集・販売に関する取り決めを定める販売契約も締結します。ということは、これらの契約書がそれぞれ必要になります。
  5. 今回、ケイマン諸島でのユニット・トラストの設立ですので、トラストとしての登記が必要になるとともに、ケイマン諸島金融当局(CIMA)にMutual Funds Law Article 4(3) regulated mutual fund としての届け出を行います。
  6. 今回は国内の適格機関投資家への募集・販売のみ、ですので当初募集開始前までに外国投資信託に関する届出書を提出します。

でも、これで本当に終わり?しかも、7週間って余裕じゃないの?

いい勘してますね。ファンドのセットアップ = 目論見書を作る、ではないんですよね。ファンドが実際に動き出したら必要になるものも予め準備する必要があるのも、文字どおりセットアップ、です。それは何か、といえばファンドの名義の銀行口座や証券口座を開けること、です。

なんだ、口座開設?余裕じゃん。なんのためにカストディ契約結んでるの?

普通はそう思いますよね。契約を結べば自動的に開けて当然。
そんなのは残念ながら、このテロリストから広域ほにゃらら組織、果ては某国の政府高官関係者 (PEPs – Politically Exposed Persons、という言葉があって口座開設の時には注意するように、と海外ではお達しがでるくらいですからね、マジで)まで、ヤバめのお金の移動を制限しようという世界的な動きがあり、また、FATCA でアメリカのためになんで日本で(ブツブツ)なんて言っていたのは今は昔、FATCA も US- と UK- とが出来、さらにFATCA をその他の多国間への拡張の柱になるの CRS まで、自国の富裕層のお金を国外に逃がさない網をあちこちの国が張り始めた結果、銀行口座を開設するために、自分が誰であることを証明し、もしその「自分」が会社やファンドの場合、設立に関わる関係者が一体誰であるのか(少なくともちゃんと名の通った人なのか、それとも黒い影がちらつくのか)を確認する義務を金融機関は負うことになってしまっているのです。

そのため、口座開設のプロセスとして、そのような資料の提出があってから5週間かかる、というのは、ファンドアドミが銀行口座や証券口座をファンドのために開設するシンガポールやダブリン、ルクセンブルクなどでは普通なことになってしまっているのです。確かに、今思えば2015年の12月に CRS の記事を書いた時にこのことは容易に想像できていたわけですし、実際、その覚悟は始める前にはありました。

もちろん、その提出しなければいけない書類の一つに、ユニットトラストや会社型ファンドならば設立した国での登記証明書が入ってきますが、ユニットトラストの場合、信託約款の署名ののち登記に持ち込むのが通常ですし、他の目論見書との平仄を合わせて作る都合もあるので、その署名を行うのも募集を開始する数日前に他の契約書とまとめて、というのがよくある流れ、でした。しかし、もしそれをやれば、目論見書はできたものの口座が向こう5週間以内は開設できていないので、当初募集期間を始めたとしてもまだ口座が開設されていないので買付申込書に送金先口座を明示することが出来ず、そこで目論見書を交付しても投資家も送金先が明示されないので、申し込んでも入金できず買付不成立、ということになりかねないのです。

と言って、口座が開く5週間を何もせずに待つのか、というと、それも困ったちゃんですが、その時点では他には何も出来ない状態になっていますので待つしかないのです。

ということは、すべてのドキュメンテーションを2週間で終わらせて5週間ぼーっとしてたのか?

いえいえ、無理です。通常、目論見書でもその他の契約書でも、最低4回から5回の加筆修正が必要で、その間には法的/ビジネス的背景を持った交渉が発生します。一回のドラフトの作成・レビュー・修正には最初の二回くらいは一回転で2週間、それから徐々にレビューと修正箇所が減ることで契約書のターンアラウンドの時間が縮まるものの平均1週間と見積もっても、だいたい6週間はかかるとみてよいでしょう。

さて、どうやったのでしょう。

企業秘密です。

というと怒られそうですので種を明かすと、実は契約書類の骨組みとなる信託約款だけ最初の2週間で署名して登記、そこからカストディの審査に入ったのです。
というのも、信託約款で定めるべきことは本当に基本的なこと(ファンド営業日や取引日、ファンドの基本通貨など)だけで、実際の運用等については目論見書に記載することから、ファンドの基本構造だけ先にしっかり固めて信託約款だけ先にすすめることが可能なのです。とはいえ、この基本構造をしっかり固められるか、というと常にできる話ばかりではないのも現実なのですが。。。

しかし、こんなやり方は実際はちょっと乱暴なんですけどねぇ。契約書面の承認を各関係者が二回行わなければならないので手間も増えます(手間は増えてもセットアップってあまり評価されないんですよねぇ。。。やれたかどうか、でしか判断ができないので。。。)し、いくら前倒しにしたところで、5週間で確実に口座が開く確証はないのも事実。さらに言えば、今回はヘッジファンドのフィーダーなので単純でしたが、本気で証券取引をする普通のファンドの場合、証券執行する証券会社に取引口座を開く、とか、発生しますのでさらに複雑にまた時間も読めなくなるので、そろそろファンドの設定を◯週間でやることを投資条件にするのは勘弁してほしいな、とは思うんですよねぇ。予算の都合とかはわかるのですが。。。

CRS (Common Reporting Standards) で投資家に何が影響するのか?どう見てもあれ、なんですけどね。

CRS テンプレートが既に出来ているので白紙に自由に書けるわけではないですが。。。
CRS テンプレートが既に出来ているので白紙に自由に書けるわけではないですが。。。
この12月になって、ケイマン諸島の法律事務所からのニュースレターでこのトピックしか取り扱わない、というくらいこのところホットな出来事、といえば、表題にある CRS (Common Reporting Standards)。いつぞやの某諸般の事情での偉い人から言われた「ケイマン諸島って脱税天国でしょ」的な言葉に対する世界的に大掛かりな対応の一端として、今世界中の関係者を巻き込んでいるので、その概要と影響について簡単にまとめてみたいと思います。

CRS (Common Reporting Standards) ってなあに?

ケイマン諸島の動きだけを見ているとこの島特有の話に思えてきてしまうので、そもそもの大きな背景に目を向けるとしましょう。そのためには、時計の針をまずは 1997年まで戻しましょう。

ちょっと歴史の話でも

OECD の Automated Exchange of Information (AEOI) サイトによれば1997年当時から、OECD 諸国では情報交換に関する政策や技術について検討していましたが、当時から10年ほどは OECD 標準電磁フォーマット(OECD Standard Magnetic Format / SMF) だけが存在していたのです。 その横で 2003年にEU で EU Savings Directives が導入されたことで、多国間での AEOI のルールが初めて作られました。これによって、多国間での税務及び世界的な税務的透過性について色々と進歩が見られるようになったのです。ただ、次の大きな流れは、2010 年にアメリカが FATCA (Foreign Account Tax Compliance Act) が出てくるまでは特に大きなこともなかったのです。

FATCA が生んだ税務情報の国家間での情報交換の潮流

2013年、アメリカが世界中から extra-territorial (治外法権) 的だと言われた FATCA に対する税務情報の提供に関する、EU 主要5カ国(イギリス、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ)との政府間協定 (IGA)が相互提供の形をとることから、多くの国や地域がこれに追随しました。ちなみに、日本とスイスは IGA-model 2 と呼ばれる、国が情報提供に関与しないものでしたので、国内の各運用会社や銀行などが自分の責任でUS-IRSなどに届け出なければならなくなった、という経緯でもあるのです。
また、この年、OECD では AEOI と既存の膨大なプログラムについて、そして将来の在り方について講演をし、また、G20 サミットでその講演内容について後押しを受けることになるのです。

2014年の7月15日にまで進めてみましょう。この日、G20からの要請に基づいて、この Common Reporting Standards がOECD 評議会で承認されました。これにより、このルールに参加諸国がその国にある金融機関から情報を取得し、その情報に基づいて毎年他の国との間で自動的に税務情報を交換できる(Automated Exchange of Information)ようにするための枠組みが出来上がったのです。

これを受けて、2015年の8月にOECD が CRS 導入ハンドブックを作成し、同10月にケイマン諸島の税務当局が法制度を整え、この12月にCRS Regulation 2015 に対するガイダンスやフォーム(法人向け及び個人向け)、CRS 参加国リストや、報告義務免除の対象などを開示したのです。

2016年以降も引き続き秘密保持に関するルールや実務に関して OECD の部会の一つ、Global Forum が作成中であり、また、実際の AEOI の実効性に関する監視体制についても準備しているそうです。

なぜ弁護士事務所が「今」慌てて注意喚起せねばならなかった?

2015年8月のOECD によるCRS導入ハンドブックの公表を受けて、10月の法制度の制定、12月に実務要件の公表、と来て、これの目指すところが実は

  • 2016年1月からの新規取引口座開設の際にCRS対応で行う
  • 2016年12月末までに取引口座開設を行っている100万米ドル以上の残高のある個人に関する調査の完了
  • 2017年の12月末までにその他の既存口座に関する調査の完了
  • 2016年のCRSに関する届け出を2017年のそれぞれ定められた期限までに完了

というのがあるのですが、これはケイマン諸島がCRS に基づくAEOI を実施する最初の国の一つ(Early Adopter Groupと呼ばれています) だから、なのです。なお、Early Adopter Group とは

Argentina, Belgium, Bulgaria, Colombia, Croatia, Cyprus, the Czech Republic, Denmark, Estonia, the Faroe Islands, Finland, France, Germany, Greece, Greenland, Hungary, Iceland, India, Ireland, Italy, Korea, Latvia, Liechtenstein, Lithuania, Malta, Mauritius, Mexico, the Netherlands, Norway, Poland, Portugal, Romania, San Marino, Seychelles, Slovakia, Slovenia, South Africa, Spain, Sweden, and the United Kingdom; the UK’s Crown Dependencies of Isle of Man, Guernsey and Jersey; and the UK’s Overseas Territories of Anguilla, Bermuda, the British Virgin Islands, the Cayman Islands, Gibraltar, Montserrat, and the Turks & Caicos Islands

だそうで(Cyprus:キプロスについては、トルコがキプロス島の北半分に「北キプロス・トルコ共和国」を承認しているものの、国連で承認されていないことから、ここでいう「キプロス」とは、キプロス島の南半分を指している、という領土問題すら関与してくるのです。。。。)、実は、ケイマン諸島だけが大慌てではなく、UK-FATCA のあるイギリス本土はもとより我が(笑)Jerseyやバーミューダも、お隣の韓国も、そして日本でファンド設立国としてそれなりに有名なアイルランドも、影響があるはず、なのですが。。。あまり聞こえてこないですねぇ。。。それに対して、アメリカは、それでも自国のFATCA に固執するようですね。さすが We are the World な国。我が国は、といえば、まぁ、model 2なので、各金融機関がextra-territorial であってもちゃんと神の目を持って認知して、ここの国から求められる情報提供に対応していく。。。のでしょうか?ちょっと疑問がありますね。

その影響とは何が考えられるか

ファンド・アドミニストレーターが通常、投資家とのやりとりも担うことを考えると、CRS に基づく投資家の投資開始時や定期的な身元調査のを担うことになるでしょうから、FATCA に付け加えて手間がかかることが想定されます。その結果、day-1 での投資を開始したい、と思っても、不測の書類等の不備への対応をも考慮に入れて、より早めに色々な提出書類を準備していく必要が出てくる、ことになりそうです。以前書類を出したから、我はこの国を代表する投資家だ、そのうち出すから今は許して、なんて10年前あたりは許してくれたようなことを言ったところで今はダメでしょうね。

それ以上に、大きいのは、当然の事ながら、税務情報が今まで以上の精度でファンド設立地と投資家の本拠地との間で、しかも自動的にやりとりがされる、ということです。これは、いわば、冒頭に書いたように、「オフショア=資産を隠せる脱税天国」のイメージを払拭するものであり、だからこそ Early Adopter Group にケイマン諸島やジャージーといったトップクラスのオフショア地域が入ってきたのだと言えます。何度となく、ここでも主張していますが、オフショアは既に Tax Neutral = 税務的中立国なので、納税は投資家の所在地で適切に行ってくださいね、というのが今の税務の本流になっているのです。

さて、この流れ、今後どうなっていくのでしょうね。引き続きアップデートしていきたいと思います。

オフショアでの商品設計はオフショアだけで完結。。。するはずがないっ!

商品のストラクチャーを考える時は こんな感じです。。。

と、泣き事のようなタイトルにしましたが、規制が少ない、と一般的に言われるオフショア。本当になんでもやりたい放題、と思われがちです。よく、「○○って出来ますか?」(いやいや、それやるならそのストラクチャーじゃなくってこっち使えば早いんだけど。。。)とか、「XXって感じでやりたんですけど。。。」(。。。やってもいいけど、あとで実務上絶対にハマるぞ。。。(汗))ってご相談を時折耳にします。

ファンド構造とやりたいことのギャップ、それと柔軟性の間にて

商品のストラクチャーを考える時は こんな感じです。。。
ええ、やろうとすれば大抵のことは3つの基本ストラクチャーの本来の構造を無視してでも出来る位、オフショアのファンドのための法制度は柔軟に出来るようです。でも、これって本質論を蔑ろにしている自己満足な技術的な議論では、なんですよね。例えばケイマン諸島。会社型でもユニット・トラストでも、LPS 型でも、当局への届け出については大別して3つのカテゴリーがあって、最低どれかに入れるべく、それぞれの条件(例えば関係者に当局への業法上の届け出がされているか、とか、投資家の数と最低投資金額と投資家の特性での制限だったりとか)に合わせねばなりませんから、極端な話、日本人の(当然ケイマン諸島では何事も無免許な)個人が数人で「君は受託会社で信託設定を宣言して、僕が一任運用者ってことで指名するってことでファンド作っちゃおうぜ。どうせ仲間うちなんだし」と、やったところでケイマン諸島の金融当局はさすがに受け入れません(笑)

The Mutual Fund (Japan) Regulation の罠

で、そんななんでもありなケイマン諸島に、面白いレギュレーションがあるんです。その名も “The Mutual Fund (Japan) Regulation”。名前からも想像が難くないのですが、日本での公募投信として設定するケイマン諸島籍のユニット・トラストはこのレギュレーションに合致しないといけませんよ、と言わんがばかりのレギュレーションです。で、実際、これを通すとどうなるかというと。。。日本での海外籍公募投資信託の規則といえば、日本証券業協会の定める「外国証券の取引に関する規則」の第16条にある、「外国投資信託受益証券の選別基準」を満たさねばならない、というものなのですが、このケイマン諸島のレギュレーションを満たしていれば自然とこれを満たす、という仕掛けになっています。それに対して、例えばEU 域内のどこかで設定された公募ファンドがEUのどの国でも公募ファンドとして販売を自由にできるようにした UCITS というものがありますが、このUCITS の基準を満たしたとしても必ずしも前述の外国投資信託受益証券の選別基準を満たすわけではないのです。でも、ケイマンはなぜか。。。

Japan Regulation の表向きの狙い

実は、このJapan Regulation はこの選別基準をそのまま採用しているからにほかならないのです。まことしやかに言われている話によれば(多分そのとおりだと思うのですが)、日本とケイマン諸島のそれぞれのファンド設立の際に起用される最大手の弁護士事務所2社が数多く設立されるケイマン諸島籍の日本の公募向けユニット・トラストの日本における選別基準の合致の確認について繰り返し弁護士意見書などで確認するのが非効率であると考えてレギュレーションにしてしまえ、と導入された、らしいです(その結果、これらの事務所の寡占がより進むだろう、とも考えたと言われてます(しーっ))。確かにケイマン諸島の当局のお墨付きとあれば意見書も書きやすく、日本証券業協会に届け出る代行協会員(当該ファンドを日本に持ち込む責任を負う証券会社)も安心です。で、当然ながら、ケイマン諸島の当局にこのレギュレーションの合致を確認してもらわず普通のファンドとして当局に届け出て、選別基準を合致していることを逐次確認することも出来ます。ケイマン当局に出すか出さないか、の問題でしかない、という話でもあるわけですが。。。

ちなみに、実はこんな裏話

で、面白いことに、もともとケイマン諸島のファンド関連法はバーミューダ諸島のファンド関連法の一部を(そのまま)コピーされている、とされていますが、元ネタであったバーミューダ諸島が 2007年4月にこれらの法改正をしたことで日本向け公募向けユニット・トラストの認可プロセスをそっくり作るのを忘れた、という珍事が発生しました。当時は再保険やアメリカ向けビジネスで潤っていたので日本のことをすっかり忘れた、ということらしいのですが、数年たち日本向けのビジネスが激減したことに気づいたバーミューダ諸島の当局が慌ててその島の最大手の弁護士事務所に認可プロセスを作らせようとしたところ、一箇所だけ頑なに拒んば部分があったのです。それは、ケイマン諸島における Japan Regulation だったのですが、理由がとても簡単で、今適切に認可条件を定めても、将来日本で選別基準を変更されたらそれに追随して変更せねばならないのが解せなかった、そうなのです。ちなみに、2012年頃にやっとバーミューダ諸島にも日本の公募向けユニット・トラストの認可プロセスが導入されましたが、その時には既にケイマン諸島が新規案件の大半を占めていたので改めて新しい法規制を金融庁に説明して認可を受ける、という余計な手間を誰もしたがらないので、みんな引き続きケイマン諸島籍に流れています。

さて、バーミューダ諸島の懸念は長い間起きなかったのですが、つい執筆時で2ヶ月ちょっと前に発生してしまいました。これでやっと本題に入れます。長い枕でした(笑)

日本の公募投信のルールが大きく変わった

2014年12月1日に日本の公募向け外国籍ユニット・トラストの選別基準に新しい条項が入りました。これは、国内の公募投信と国内の公募投信が投資先とするファンド・オブ・ファンズ等に適用するルールをある意味そのまま移植することで、外国籍公募投信が抜け道とならないように、という手当がなされた、というものです。

で、どんな条項が入ったかというと、コンセプトで説明するならば

  1. 投資信託は分散投資するのが基本なのだから、最低10銘柄の証券は保有しましょうね。
  2. デリバティブ取引は大きく資産評価が動きかねないし取引先の信用リスクに大きく依存しかねないほどリスクが高いから、ファンド全体の取引についてもそのリスク量が純資産の80%までしか取ってはいけませんよ。
で、それぞれを説明していくならば、まず比較的簡単な2. から。

デリバティブ規制

これはファンドの仕組み上、デリバティブ取引(金利/為替/株式/指数スワップ及びオプション、先物、先渡取引、などなど)を使うファンドというものがヘッジ目的でもそうでない(言い換えるならば、それ自身が投資目的という意味の)目的でも、増えてきているものの、それぞれの目的だからといって、リスク管理を怠ってはいけませんよ、という趣旨から(か?)、日々、デリバティブ取引のリスク量を適正な方法(例えば銀行でリスク管理するときに使う標準的手法とか、一般的なリスク管理で使われる VaR – Value at Riskとか、欧州の公募ファンド規制であるUCITs で求めているリスク管理手法と言った、一般に適正とされる方法)で算出して、それが純資産額の 80%を超えないようにしましょうね、ということを管理会社等(管理会社、もしくは運用者)が行っているファンドでなければ日本の公募市場に持ち込んじゃ駄目よ、というルールです。(ちなみに、ヘッジ目的でない場合のVaRなり標準的手法なりで計算する場合、デリバティブ取引だけでなく全体のポートフォリオで見なければならない、ともされています。)
言ってしまえば、単一のスワップに投資することが目的のファンドを作るときに、ファンドの目論見書に「これこれこういうスワップに入ること」が投資目的だからそれ通りにやっていればいいんだ、では日本に持ち込めない、ということなのです。ええ、私の昔の仕事そのままでは機能しない、という意味です。

集中投資規制

これはこれで、単純な単一資産/契約だけの仕組みもののファンドを許さない、ということの表れなのもしれませんが、1.はそれを厳密に全面に押し出した、といえます。というのも、これは正しくは「信用リスクの管理」という範疇において

信用リスクの適正な管理方法として、具体例として、一の者に係るエクスポージャーの投資信託財産の純資産総額に対する比率が次にあげる区分ごとのそれぞれ10% 、合計で20% を超えることのないように運用すること、および、価格、金利、通貨もしくは投資資産財産の純資産総額の変動等により当該比率を超えることとなった場合に、純資産価格の計算を行い、定められた比率を超えることが判明した日から一か月以内に当該比率以内となるよう調整を行い、通常の対応で一カ月以内に調整を行うことが困難な場合には、その事跡を明確にしたうえでできるだけ速やかに当該比率以内に調整を行う方法が考えられます。ただし、投資信託の設定当初、買戻し及び償還への対応並びに投資環境等の運用上やむを得ない事情があるときには、このような方法による必要はないと考えられます。

(a) 株式及び投資信託証券の保有:「株式等エクスポージャー」

(b) 有価証券(組合出資持ち分を含み、(a) に定めるものを除く)及び金銭債権((c) に該当するものを除く。)の保有:「債券等エクスポージャー」

(c) デリバティブ取引その他取引により生じる債権:「デリバティブ等エクスポージャー」

ということを行いなさい、と明示されました。特に上記の太字にしたところだけでも十分意味が通じるはずですが、要は、とある会社の発行する株式、債券、デリバティブ取引の3つにおいて、それぞれ 10%以下までなら持てます、もし複数のカテゴリーに渡って持つならば合計でも 20%以下までなら持てます、ということなのです。で、これですが、計算方法にリスクの考え方を入れるわけですからちょっと調整が入りまして。。。

まずは簡単なところで

なお、それぞれの計算方法については次の通り。
(a) 及び(b) は、当該有価証券及び金銭債権(以下「有価証券等」)を発行もしくは組成した者または債券の相手方(以下「発行体等」)に対するものとし、保有評価額または債権額(担保付取引の場合には当該担保の評価額、当該発行者等に対する債務がある場合には当該債務額を差し引くことが出来る。以下同じ)をもってエクスポージャーとすることが考えられます。
なお、次に掲げる有価証券等についてはエクスポージャーをゼロとすることが考えられます。

  1. 信用力が高いと認められる国等の中央政府、中央銀行、もしくは地方政府またはこれらが設立した政府機関の発行または保証する債権
  2. 現地通貨建ての中央政府、中央銀行、もしくは地方政府またはこれらが設立した政府機関の発行または保証する債権
  3. 国際機関の発行又は保証する債権
  4. コールローン、預金、CP(短期社債等を含む)、海外CDまたは金商法第2条第1項第18号に定める有価証券(第1号に定めるものを除く)については、満期までの期間が120日以内のもの
  5. 一か月以内の現先取引またはリバースレポ取引で、保有する有価証券等(上記1. から4. までに定めるものを除く)

このうち、信用力の高いと認められる国等とは、日本、アイルランド、アメリカ合衆国、イタリア、オーストラリア、オーストリア、オランダ王国、カナダ、UK 、シンガポール、スイス、スウェーデン、スペイン、デンマーク、ドイツ、ニュージーランド、ノルウェー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポルトガル、ルクセンブルク、香港、とされています。

とすると、私の2009年までの仕事は一つ、もしくはあっても2つの発行体の債券だけを保有する、ということは、ほぼ100%(2つの発行体の場合はそれでも、それぞれ10%を超える)のエクスポージャーなのでこれも出来ない、ということになります。

で、残るデリバティブ取引ですが、

(c) について、まず、下記のような取引を想定しています。

  1. デリバティブ取引
  2. 為替予約取引
  3. 信用取引(売付を目的としたものに限ります)
  4. 株式の借り入れ(売付を目的としたものに限ります)
  5. 有価証券の貸付
  6. 証券貸借取引(レポ、現金担保付債券借り入れ(「リバース・レポ取引」))
  7. 債権の借り入れ(リバース・レポ取引を含みます。)
  8. 債券(転換社債券、他社株転換可能債券、新株引受権付社債券及び新株予約券付社債券を除く)の空売り
  9. 現先取引(債券、CD、CP に係るものに限ります。)
  10. 金銭の貸し付け
  11. 資金の借り入れ(コール市場を通じたもの取引も含みます。)
  12. 外国為替の取引(2. に該当するものを除きます。)
  13. 発行日決済取引

このうち、為替予約取引(店頭デリバティブ取引に該当するものを除きます。)のエクスポージャーは取引の相手方に対するものとし、たとえば予約期日に応じてそれぞれ次の定めによることが考えられます。

  1. 120日以内に予約期日が到来するものについてはゼロ。
  2. 120日を超えるものについては、評価益の額をエクスポージャーとする。

おっと。為替予約取引のうち 120日以内に期日が来るものはゼロ、って、これは不思議ですね。これのお陰で、いわゆる通貨クラスの商品における高分配を下支えする高金利通貨との為替フォワードのほとんどが無罪放免になります(通常最大一ヶ月のロールですからね。)何故かアメリカのCFTC のルールでもこの120日以内の為替予約取引は対象外、のような話もあるので、この商品の取扱いというのはある意味需要や取引量などなどの観点で例外扱いなのでしょう。さて、これの続きを読み進めていきましょう。

これを除くデリバティブ等エクスポージャーの算出方法は、有価証券の発行者等及び取引の相手方に対するものとし、たとえば、それぞれ次の定めるものによることが考えられます。

  1. 有価証券の発行者等に対するエクスポージャーは、デリバティブ取引のうち有価証券等を対象(原資産)とするものについては、それぞれ次のように定めるところによる(ただし、原資産が上記の発行体によりエクスポージャーをゼロとできる有価証券等である場合を除きます。)ものとし、デリバティブ取引のうち、金融指標等(利子率、為替レート、株式指数、先物取引等)を対象とするものその他のデリバティブ取引等についてはゼロとする。
    1. 先物取引の買いについては、当該先物の評価額をエクスポージャーとする
    2. 先物取引の売りについては、エクスポージャーをゼロとする。
    3. コールオプションの買い及びプットオプションの売りについては、当該取引の店頭デリバティブ取引のうち、権利の数に原資産の価格を乗じた額をエクスポージャーとする。ただし、原資産の変化率に対するオプションの価格の感応度(デルタ)を勘案して計算することができるものとする。
    4. コールオプションの売り及びプットオプションの買いについては、エクスポージャーをゼロとする。
  2. 取引の相手方に対するエクスポージャーについては、それぞれ次に定めるところによるものとする。
    1. 市場デリバティブ取引及び外国市場デリバティブ取引についてはゼロ
    2. デリバティブ取引等(i. 及び為替予約取引を除く)については、評価益の額(当該取引に担保または証拠金が差し入れられている場合(クリアリングハウスで決済する場合を含む)には、当該担保または証拠金の評価額を差し引きものとする。)をエクスポージャーとする。

要はデリバティブ取引ですので、取引の相手方のリスクは当然として、取引にて参照する有価証券を持つという想定があることからその有価証券の発行体のリスクも勘案する、という、というダブルカウントをするそうです。が、大抵の場合、ここでいう金融指数等にまずなってしまう(それが幾ら独自にカスタマイズされた指数であっても、原資産自体が存在しないことにより)ので、たいていはゼロとみなして考えると、あとは取引の相手方のエクスポージャーとなり、これは評価益、すなわち負けていれば考える必要はなく、勝っていれば勝ち分を見ましょう、ということのようです。まぁ、そうですよね。勝ち分が将来引き渡されるわけですからそこだけ見ればいい訳です。ということは、実はデリバティブ取引の場合、取引開始当初は 0% のエクスポージャー、ということでもあります。

でも、ということは、この勝ち分が10%を超えてしまうといけない、ということでもあり、ある意味違和感がありますよね。といって、10%になりそうなら一旦デリバティブ取引を精算してファンドに取引相手から 10%程度の勝ち分の現金を払ってもらってデリバティブ取引を再度開始する(ことでエクスポージャーを0に戻す)、という回避の方法も考ええますが、精算する前の取引と同条件で取引に入れるとは限らない訳ですのであまり現実的でもなさそうですね。

回避スキーム?

まぁ、一つ思いつくところで、担保による相殺というルールを使うなら、差額決済のデリバティブ取引ではなく、full-funded swap といって、取引当初にファンドが取引相手に取引元本相当額を支払い、反対に取引相手はファンドに当初は取引元本相当額の担保を供出し、その後は評価額が増えるに従って取引相手から担保の追加供出を受ける、という取引にすれば、基本的に取引の評価額は想定元本に本来の経済効果の勝ち負けを合計した額になる一方で、取引相手から掛かる評価額相当額の担保が常に供出されているため評価額の全額が相殺されて常に 0になる、ことになります。こうすることで、ファンドが上記の定義による信用リスクが全くない状態で常に運営されていくことになります。

ただ、そのためには担保が基本的には「信用力の高いとされる国の国債」が使われる必要があって、この手の案件をするときにポジションのヘッジのために取引相手とされる会社さんが取得する株や社債がそのまま使えない、といって国債を塩漬けにするようなコストの高いことが出来ない、という声も実はちらほら聞こえています。また、信用リスクが 0になったとしても、デリバティブ取引の日々のリスク管理の観点でちゃんと80%の枠に収まっていることが日々管理できるかどうかは、管理会社もしくは運用者の実務的体制に大きく依存する、というか、ここまで来ると、ストラクチャーだけでは解決できない、実務インフラの要求レベルへの対応、という話に変わってきてしまいます(笑)

ということで、まぁ、これはオンショアの包括的要求がオフショアでの商品設計に大きく影響を与える一例、という、まぁ、長ったらしい話になってしまいましたが、本来はこれを持ち出すまでもなく、投資家、投資対象国、そしてファンド組成地の3つの間にある租税条約の基づくタックス・プランニングも、ファンドの組成に大きな要素ともなります。とはいえ、何故か日本ではこのタックス・プランニングをしさえすればほぼストラクチャリングは終わった、みたいな考えになる人が多いようですが、実際は最終的な投資効果に影響するのは税制だけではなくトータルのコストも合わせて勘案せねばならない、のですよ。なにせ、税金以上に余計なタックスブロッカーを作ったら意味が無いわけですしね。

ええ、ちょっと個人的にこの公募ファンドのルール改正をどこかで解説したかっただけ、なのです(笑)

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