Say something more on ICO: もう少し勉強してみて思う、リパッケージ商品との類似性とETFとの相違点

前回の記事でICOってさー、なんて書いちゃった訳ですが、その後色々とお話をする機会を頂いたり(その流れで今時の MLM – Multi-Label-Marketing – な人たちに捕まりそうになったりしましたが。。。)、Etherがらみのデータ消失による2億ドル以上の資産評価額の消失や、これまたEther がらみのICOによる詐欺事件とか起きて、色々と学びましたので、それを絡めつつ、以前書いた金融商品の非創造性の記事を深めるようなネタでも。。。

本当は NISAとか iDeCo のネタ書いて Soldie 的な読者さんでも増やしたいのに。。。(嘘)

ICO はリパッケージなトークンを発行するのが一般的?

さて、冒頭で書いた詐欺事件の話。Ether を裏付けにした、と言うか、Ether と等価交換できると言うトークンをICOで発行して資金調達をしたらそのままトンズラした、と言うことらしいのです。しかも、今時らしく、その発行したチームとは基本 Twitter で情報のやり取り出来るようにしていたがICO以降twitter での反応はなくなり、ICO関連のウェブサイトもなくなり、と言う、夜逃げのネット版みたいな状態なのだとか。

多分、ここでポイントになるのがいわゆるcryptocurrency といったときに、世の中にこの記事を書き初めている(2017/11/30)時点でcryptocurrency market capitalisation によると1326ほどのcryptocurrency が6997もあると言うどこかしらの取引所で取引されている(市場規模で$329,456,400,661、そのうちbitcoinは55%を占めているような)のですが、そのうちcoinと token の二つに大きく分かれるということをまず理解としないといけないようです。

そもそも coin とtoken の違いって?

で、coin と token の違いは、と言うと、coin と言うのは bitcoin がopen source で作られていることから、そのコードを利用して新しい機能等を付け加えられて作られた、いわば bitcoin の親戚、で altcoin とも呼ばれているもの。前回の記事でICOするのにそこまで作るの?と思ったのがこのレベルのもの。それだって916も存在するようだ。。。

で、token と言うのが実は前回取り上げたQash も含まれるもので、これは実はEthereumのような altcoin の blockchain プラットフォームのフォーマットに従って、資産を裏付けにしながら比較的簡単に機能拡張しながら作ることが可能なもの、らしく、ICOに実に適したもの、なのだとか。なので、このtoken を使ってのICOが世の中一般に言われるICOのようだ。だから、Etherと等価交換なtoken での詐欺とか、と言う話になる訳だ。ちなみに、まともに動いているtoken は Qash 含めて409あるそうな。token の方が altcoin より簡単だ、という割に altcoin より少ないのが不思議な気がするが。。。

と言うことは、ICOってある意味altcoinやbitcoin を裏付けにしたリパッケージじゃん、と言うことになるのですよ。実際、最近聞いた話では ICO では詐欺事件等の印象も悪いから、ということで、投資銀行な人たちが TGE (Token Generating Event) という言葉を再発明してイメージを一新して行こうとしている、という話らしい、が、看板を掛け替えたところで、というのはここの読者ならばお分かりだろう。。。

さて、この Token って、資産を裏付けにして兌換性をある意味提供する、となれば株とかの世界ならば、ファンドかETFのようなもの、とも言える訳です。しかも、金融商品と違って、独自の拡張機能が付いてくることもある、というのが open source の世界らしい。金融の場合は、どうしたって(日経225ならば最低5億の最低取引単位のような)原資産の性質の呪縛しかない訳ですから。

といって、普通に金融商品がリパッケージされる、というのは分かりづらいかもしれないのでまずはちょっとその辺りでも解説を。。。

金融商品のリパッケージの手法その1 – 資産ポートフォリオを小口化する

ETFを含めた、ファンド、という商品は、いわゆるバランスシートを見たときに、単純にいえば、資産として投資対象と現金を、反対側には債務は(未払費用を除けば)なく、あとは投資家の持分がある、という状態です。ということは、保有する資産の評価額がそのまま投資家の持分全体の評価額になり、自分の持分については、といえばその全体の持分合計に対する自分の持分の割合だけ(ファンドの保有する資産の何か特定の資産に一対一で紐づけられることなく)資産ポートフォリオを保有している状態にある、といえます。

絵でいえばこんな感じで、よく法律っぽい言葉で言うならば各持分が pari-passu 、各持分の間に優先劣後関係はなく、全てが等しく扱われる、と言うもの。

この場合、例えば日経225ETFを例にするならば、資産ポートフォリオは255銘柄の最小単位である 5.3億の倍数でしか組むことが出来ないのですが、投資家の持分については、商品設計上、例えば10,000円単位の小口で53,000口集めることで 5.3億を募集して投資を募ればいい訳で、そうなると、5.3億円相当の資産ポートフォリオが 10,000円単位の持分 53,000口に細分化されることになるのです。

この場合経済効果は各持分に対して均等にかつ公平に配分される、というのもキーになります。言い換えると、日経225ETFを持ったら、ETFのうち、トヨタが俺のもの、なんてことにはならないのです。これは、よくある馬主ネタ「ああ、俺、あの馬の尻尾のオーナー」のようなことはない、のです(一口馬主だって尻尾だけオーナーに、とはなりませんからっ)

なので、大口投資家がETFをブロック取引がわりに使えることから、大口なだけに5.3億相当のETFを持って現物を引き出せる訳ですが、そのときには好き嫌いにかかわらず上記の例で言えば、トヨタだけ 5.3億円相当引き出せる、のではなく、ポートフォリオの構成銘柄 255を受け取ることになる、のです。

ちなみに、その昔のこと、仕組債のマーケットメイクをしているときに債券が事実上買い集めたけど償還まで持ち続けるのはきつい、といった時に、所有していた仕組債を SPCあたりに持たせて、債券の金利部分をスワップで簡単な固定金利などに変換した上で、このキャッシュフローを担保とした債券を SPCに発行させては別の投資家に売りさばく、なんてことをフロントがやっていたなぁ、なんて思い出すと、実はファンド持分だけでなく、発行体にとって負債だって資産に対して等配分なリパッケージだって出来るんだ、とも言えます。ま、やる側からすれば、マーケットでスプレッドを持って買い集めて、かつスワップでも稼ぎ、オフバランスまでしているのですから誰のための案件だったのやら。。。

金融商品のリパッケージの手法その2 – 資産ポートフォリオへの権利に優先劣後をつける

さて、リパッケージのもう一つのメリット、と言えば小口化の過程で資産ポートフォリオの本来の収益特性を分解して複数のリスク特性の商品を作り出すことが可能だと言うことなのですが、どう言うことかといえば、以前の記事で紹介したこんな感じでしょうか。

資産ポートフォリオのキャッシュフロー、元本や利益、についてその配分方法として複数の投資家の間に優先劣後関係を入れて、安定して先にもらえる人はリターンは低めで、元本を完全に回収できないリスクを追いつつ支払いが後回しになる人にはリターンが高い、とするのです。これによって、複数のリスク特性の投資家に対するアクセスが一つの資産を裏付けにしても作れるのです。

こう書くと、例えばCLOや以前の記事のようなレバレッジをかけて UCITSに投資するファンド、のようなイメージが先行しがち、ですが、マイホームを銀行からお金を借りながら購入したら、転勤させられるから人に貸して、転勤が終わって帰ってきたら家族構成が変わったので手狭だから売る、なんてケース(ってどんなケースだ?)ですと実質的には同じで、取得時に頭金として置く分が上記で言えば元本の毀損リスクが高い劣後証券のポジションで、銀行からのローンが優先証券に値して、売却時には売却金はまずローンの返済に回理、もしローン返済に足りなかったら、頭金は毀損したことになるし、仮にローン返済後に頭金以上に手元に残ったらいい投資だった、といってピンと来るでしょうか。

しかも、最近のアメリカあたりだと、資産ポートフォリオをプライベートエクイティファンドが買いに行く個別の投資先の企業として、優先証券にあたるところに銀行がローンを出せなくなってきたことから、ローンを専業で出すファンドがいてそこから出て来ては担保をしっかり取った形でのローン、劣後証券に当たる部分が案件のスポンサーになるプライベートエクイティファンドからでて、もしこれで足りなかったらメザニンローンを出すような前述のローン提供ファンドから高めの金利で埋め合わせる、と言う構造になり、と言うことは、優先証券やメザニンなんかが束になった(その一の時のような投資家間で均等にリスクを分ける)ダイレクトレンディング・ファンド、のようなプライベート・デット投資の商品として提供されることになるのです。

まぁ、一時期流行ったバンクローンファンドの投資対象も、その意味では格付けで言うところのCとかのような機関投資家的には投資不適格な企業に対して銀行が審査した上でローンを一旦出して、バンクローンの取引市場を通じて売却したものを束ねたものですから、似たようなもの、と言えばそれまで、です。とは言え、流動性の違いやローンの貸出先の性質の違い、担保の質や管理、などの点でポートフォリオの質と生み出すリターンが違って来るのでこの辺りはストラクチャーよりも運用者の手腕がもろにでて来るところ、ではあるのですが。。。

いずれにせよ、この優先劣後のストラクチャー、資産がBBBとかBとかいった低格付けのポートフォリオから確率論的に安全だと思われる程度のキャッシュフローの上澄みだけを優先部分に当てることでAAA格付けの商品を作り出せる、的な「格付け(ベーっだ)エンジニリアリング」が出来るので、案外無から有を作り出す魔法のように思われますが、その付けを劣後が払うことになるので全体のリスク量は変らないので優先劣後のストラクチャーの中でのゼロサムゲームが行われているに過ぎず、サブプライム問題のようなポートフォリオ全体の質の劣化なんて起きれば優先すら大変なことになった、が10年も前には起こったわけです。

また、先ほどの馬主的な言い方をすれば、まさに「このトヨタのキャッシュフロー部分は俺の」的な事が(資産と持分とが法的には紐付けになっていないものの契約書上の割り当て的には)言えてしまう、のは一般的に見れは不思議なことであり、金融工学的な側面にも見えてしまいますよね。

で、リパッケージって何がいい、と思われてるの?

結局のところ、pari-passu であれば小口化であったり、スワップを使えばキャッシュフローの変更などができますが、キャピタルストラクチャーを変えてしまえば、リスク特性も変える事ができるので投資家の幅を広げる事もでき得る、とも考える事ができるかも知れません。といっても、このリスク特性を変えるのは特定の投資家には与えないようにしてこちらの投資家に寄せている、のである以上どこかしらに偏在するのは、ポートフォリオ自体に何かの手を加えたわけではないから、ポートフォリオ全体のリスクが変わったわけではない(上記の絵でいえば、左側は何ら変わっていないけど、右側はキャピタルストラクチャーによってリスクの取り手とその対価としてのリターンが調整されている)にすぎないのです。その意味ではゼロサムゲーム、とも言えるのです。

ICOと言うか TGE におけるリパッケージって、どうよ

で、話を冒頭に戻すとするならば、Token が原資産をもとに発行されてある意味等価交換可能なもの、とされている訳ですが、そもそも bitcoin における最低取引単位、と言うのが、546Satoshi で、この Satoshi と言うのが 1億分の1BTC だそうですから、最近の高騰で 1BTC 100万円としても 1 Satoshi が 0.01円、したがって最低取引単位は  5.46円、と言うことになりますわな。と思うと。。。ETFのような細分化できない訳じゃなさそうだ。ほんと、なんでそのまま取引しないんでしょうね、と思うのは私だけでしょうか。

そこが、Token がプログラムである以上、機能的な向上もおまけで付いて回っているから、と言うバランスシートの左側が何も変わっていない、のではなく、変わっていて、それ特有だから評価出来るので、と言うこと、になりそうですね。そこは ICOと言うか TGEをするスポンサーへの信認の証、かも知れませんね。

としたら、10件に1件しか本物はいない、のはその通り、なのかも知れませんが、まぁ、所詮はデジタルデータ、ですからねぇ。

Say something on cryptcurrency: ICOって儲かるの?

(著者注:2017年11月19日にあれこれ加筆修正しました。まずは書いてそれから加筆修正する、と言う方がよりたくさん書けるような気がしたので遅筆な私にとって良いような気がして実践して見ました。)

この間某ヘッジファンド関連で仲良くさせて頂いている方から呑みの席で

「なんか、最近ETFネタばかり書いてるじゃない?あれ、bitcoin に流れるんじゃなかったの?」

あ、読んでくれてるんだ、とそっちを喜んでしまった自分がいたのは内緒なのですが、どうもbitcoin ETFの話を軸にあれこれ書かせて頂いたことで、最近ちらほらと、bitcoin関連のお問い合わせを頂くようになってきました。(で、ETFの仕組み関連の問い合わせはぱったりなくなったのは。。。嫌になっちゃったからかな(笑))

で、そのお問い合わせの中で必ず出てくるフレーズが

「ICOやりたいんですよね」

うん、最近、ICOで資金調達、なんて話は、仮想通貨というか暗号通貨、というかcryptocurrency という表現でbitcoin を含んだ全般的な話をする時の総称ですけど、そんな話をしていると、bitcoinの売買益でフェラーリを数台買ってリース業を始める、なんて類の結局のところ、日本にいるならば仮想通貨は取引対象に過ぎなくて生活して儲けた結果の評価をするための通貨は日本円じゃないと食えないから泡銭をロンダリングしてんじゃん、という話を同じくらい頻繁に聞こえてきますが、普通に聞いているとよくわからないですよね。それがなぜ儲かるのか、とか、そもそもの仕組みとか。

とはいえ、これってファンドでもオフショアでもなんでもない話なんですよね。それでも、日本が世界に誇る(ことにはまだまだならないだろう)ファンドのストラクチャラーによる ICOの解説、聞きたい?

ということで、この手の話をする時に、ストラクチャラーとしてみるのは法的な作り付けと、経済的な効果の二つ。なので、それぞれの側面で、ICOというより cryptocurrency とそれを ICOしたい企業との関係で考えてみたいと思います。

cryptcurrency とICOを含めたその売買の法的側面とは?

そもそも、bitcoin や ether、最近だと、ICOした Qashなどなど、いわゆる cryptocurrency とは一体なんなんでしょう。Qash で ICOした Quoinex のウェブサイトの下に思いっきり答えが書いてあります。

仮想通貨は、日本円やドルなどのように国がその価値を保証している「法定通貨」ではありません。インターネット上でやりとりされる電子データです。

法定通貨が「国がその価値を保証している」、という表現は正直疑問はあります(その昔のイギリスポンドが1ポンド紙幣をイングランド銀行に持ち込むと1ポンド(450g)の金を受け取れた、というような支払いの裏付けがなく、国の信用力/法的強制力が裏付け、ですからね。)が、法律で定められた通貨としての円のようなものではなく、仮想通貨はそもそも、ただの電子データ、なのです。いくら、暗号化された取引履歴を元にしたもの、とは言え。。。

ICOで資金調達、ってことはIPOに似てるからそのICOした会社の株とか、会社の保証みたいなものじゃないの?

会社が資金調達する、というと、通常は銀行などからの借り入れ、といういつか返さなければならない債務を負うか、会社の権利の一部を株式という形で渡す代わりに債務と異なって返さなくともいい資金を得るか、のどちらかです。IPO(Initial Public Offering)というのはその株式での資金調達の方法の一つで、その会社が初めて(initial)公開(Public)市場、すなわち株式市場にて取引できる環境を通じて、株式を提供する(Offering)ことをさします。なお、上場しない企業だって、第三者割当て、という形で第三者な投資家から株式譲渡を通じて株式での資金調達が可能です。

では、ICO (Initial Coin Offering)はこのどちらに当てはまるのでしょう。これを書いている2017年11月現在、進行形で進んでいるICOをしているのはQUOINEという会社さんですが、ここは3.5億のQash トークンをICOして134億円相当の資金調達をしたそうなのですが、実はこの会社の株式はすでにベンチャーキャピタル数社などが取得しています。そんな状態で134億円の株式を世界98ヶ国およそ5,000人弱の不特定多数に発行したら古くからいるベンチャーキャピタルの支配権が薄まってしまいますので困りますよね。

ということは、どうやら、ICOでQashトークンという電子データを売って134億円相当を資金調達した、というよりも売り上げた、と考えた方が良さそうですね。

そうなると、会社の側からすればcryptocurrency のインフラの維持という義務は負うものの cryptocurrency の構造に内包されていると考えてしまえばさしたる負担ではなさそうで、そうなると、通常に資金調達したい会社がその権利を売ったわけでも借金しているわけでもない、と考えるのが良さそうです。ある意味、会社の側からすればお得なお話、ですよね。「電子データ」を売り切っちゃったわけですから。。。(となると、この会社のとって資金調達、とはいえ売上ですので収益扱いになるので巨額に集めた = 巨額の売上が計上されるのでそれ相応の税金の負担も発生する、ということになりますよね。。。インフラの維持は半永久的、に対して。。。)

じゃあ、ICOは何を求めて集まったの?

と考えた時に、この5,000人弱のQashトークンという「ただの電子データ」を手に入れた人はQuoine 社に何を期待して買ったのでしょう。単純にいえば、Qashの値上がり、ですが、それを裏付ける取引の流動性の高さや安定性の期待、他のcryptocurrencyや法定通貨との交換の簡便性、はたまた普段のショッピングなどでの決済の汎用性などがその取引量を増やして値上がりに繋がる背景ともいえて、実際にQuoine社はそのような取引所としてのインフラを提供することのために資金調達をしてサーバーの増強などに使う、とされています。

ちなみに、IPOの後の株と同じで、ICOしたこの会社、Qashトークン全体の時価総額が増えたとしても、自分たちが調達できたのは最初に売った時に手にした134億「だけ」です。野に放たれたcryptocurrency の値上がりを享受するのは、ICOによる売り出し市場以降で手元のQashトークンを誰かさんに取引所経由で売却した時に実際の利益になる(冒頭で触れたbitcoin長者的な、安く仕込んで高く売った人、のような例ですね。)、のも株を同じですね。

その意味では、cryptocurrencyと株式との類似性、というのが見えてきます。そこで cryptocurrency の経済的なメリット、デメリット、と言う観点で話を進めていきましょう。

ICOになぜこれだけの注目が集まるの?

企業の資金調達の手法として、今までは株式や債券などを使ってきましたが、金融行政や過去からの商習慣などから資金調達できる範囲も通常は一つの国で、その国の規制にも続いた形に合わせる必要があり、結果としてだいたい調達資金の1%程度が手数料として銀行や証券会社、弁護士などに払わねばなりませんでしたし、いわゆる有価証券で上場していたりすると、四半期ごとに報告書を作成して提出する義務もついてまわります。しかも馬鹿高い監査を受ける必要すらあります。その労力たるやかなりのもので、おかげで上場廃止した方が本来的な株主や会社のためではないのか?という声が上がるのも当然です。

それに対して、もともと国の縛りのないcryptocurrencyならば、取引所にアクセスできる人ならば世界中だれでも、ということで、より幅の広い人たちからICOへの参加を求めることもできますし、何よりいわゆる有価証券ではないことから、定期的な報告もいらなければ会社の何か、ではないので会社の監査等に縛られることもありません。もちろん証券会社や銀行の関与も不要ですから、高い手数料を支払う必要もありません。

そして、流通市場も全世界的ですから、市場参加者もその国へのアクセスが可能な人たちだけ、という狭い市場ではないこと、そして、法定通貨に縛られていないから24時間365日常に動いている流動性の枯渇の心配のない投資対象、と言えちゃうんじゃないの、と信者さんたちは言うのでしょうね。多分。

で、本当に全てがバラ色なの?

どうなんでしょうね。個人的には流動性の問題は市場参加者が常に一定に存在する、と言う仮説は成立し得ないと考えていますから、何かのショックで流動性が枯渇してもおかしくはない、と言うのは多分地球上で一番流動性の高い取引と言われる為替の世界ですら起こると考えていますので。。。「絶対」はないのですから、そもそも。

そもそも、ICOをやりたい、という企業が自社のcryptocurrencyを作ってICOすればいい、という話なのでしょうけど、そのためにはcryptocurrencyの仕組みを作らねばならないでしょうし、Quoinex のような取引所で取り扱ってもらえるように条件を適合させる必要もあります。

となると、while-label 化された取引所での取り扱い実績のある cryptocurrencyを使って自社ブランドをつけて、とするのが早そうですが。。。それってあのcryptocurrencyもこの cryptocurrency も仕組みは一緒、なので資金調達したい会社のブランド・知名度に依存する、ことになるのかもしれません。となると流通量や取引量勝負?ほぼ日経225連動ETFで見た風景と変わらなくなってきますね。とすればcryptocurrency は一定数出てきては入れ替わって淘汰されていく、のでしょう。では淘汰されたcryptocurrency の末路ってどうなるのでしょうね。株で言うところの紙切れ?いや、ただの電子データになるのでしょう。。。

まぁ、そもそも売りっぱなしモデルですから、資金調達したい会社からすればICOしてあとは cryptocurrency の仕組み上の堅牢性と投資家と取引所にリスクだけ丸投げ、にすらなりかねないのですので、そう考えると、ICOで一番美味しい思いをするのは、ICOした人だけ、ですな。

あとはセカンダリー市場で常に市場リスクに晒され続けながらボールの受け渡しをし続けていきながら一喜一憂し、Ms. Watanabe たちのような高級バッグや高級ランチに興じたり、フェラーリを買う人もいれば、「電子データになっちゃった」と笑って次に行くか、はたまた金融系の監督官庁に「よくわからない取引に巻き込まれた」と泣きついて、と言う風景がcryptocurrency でも起こるのかもしれませんね、ってすでに起きてるか。。。

ETF の続き、というよりファンドや証券そのものの本質的なところをもうちょっとだけ書かないといけない気がしたので

元々このブログで意図していたのがオフショアのファンドのイロハ的、とある意味金融商品でも割とニッチである意味上級者向けな(だから、読者層も極めて限られている)ところだったところに、AFPなんてものを著者が取得してしまい、かつ30代男性読者の金融リテラシーを補わねば、という人向けの記事をいくつか書いたものですから、投資というものを細かくかみ砕くような記事をちらちら書いてしまったおかげで、ETFの記事をポストした後に数人の方からのこの記事に対するフィードバックを聞いているとどうやらプロ向けと初心者向けの間の部分が抜け落ちた構造になってしまっていないか、ということに気づかされることがありまして。。。

そこで、ちょっとだけ ETF の話の延長をしつつ、ファンドへの投資ということや証券の取引の本質的なところをいくつかかいつまんでみようかな、と思ったのが今回の記事の狙い、と思ってください。

Bitcoin してる?

現物資産っぽいbitcoin (イメージに過ぎません(笑))AIMA Japan の創設メンバーの一人で、時々(当の二人に自覚症状は全くないものの、オルタナ系ファンド業界では有名な2mの大男から“Dangerous Men” の称号を一緒に頂くほどのハードな)飲みにお付き合い頂いているオルタナファンド投資の日本での第一人者、白木さんと珍しく(?)素面で話した時に聞かれたのがこの一言。このリンク先でも彼が取り扱うように、ビットコインなどの仮想通貨というもののあり方というのが投資の世界でもいろいろな形でかかわることが想定されつつあるのですが、ではどんな風に、というのはまだいろいろな可能性もあり見えてきそうで来ないというのが、fintech 特有の「急に現れる未来感」なのかもしれません。

といって、ある意味著名な投資家である彼と同じような投資家目線での高尚なことは書けませんから、ここでちょっと取り上げたいのは、仕組み的なところで一つ。

このところ、出てくるだろう、と言われ続けて世の中に登場してこなかったもの、として言われるのがbitcoin ETF。その名の通り、bitcoin を裏付けにしたファンドの持ち分を上場させたもの、なのですが、過去に何社もトライしつつも当局のストップによって出来ずにいるものです。

といいつつ、実は今、米国 NASDAQ の登竜門と目されている OTCQXに、Glayscale 社というところが GBTCというティックコードで上場させているものが多分事実上のbitcoin ETFなのでしょう。ETFではないファンド、であれば、4年前にジャージー島で私募で作っているという話を聞いていて、実際にGlobal Advisors というジャージー島のファンドが2014年からのトラックレコードが示されていますから、多分そういう形で世界中のあちこちでファンドの組成を行っていたと思われます。実際、Forbes の記事によれば今年7月の時点で13ファンドがETFではないにせよ、bitcoinなどに関連して投資をしているようです。ちなみに、このGlobal Advisors のGABIはケイマン諸島の証券取引所、The International Exchange に上場しているそうな。とはいえ、この上場の意味は。。。前回のETFの記事で説明した広義の意味での「届出目的の上場」と思ってもいいかもしれませんね。

あ、余談ですが、このGlobal Advisorsは2017年6月にAltcoin (bitcoin 以外の仮想通貨)の一つで有名なEthereum platform の通貨、 Ether 建のファンド、CoinShare Fund I を立ち上げて、その他のAltcoin のICO(Initial Coin Offering)やその後のステージで所有者間で流通しているものの取得するなどして運用していくそうな。感覚的にはAltcoinは株みたいな資金流通手段になっているから株と同じようにタイミングを見て売り買いして運用できる、というのを示していくように見えてきます。

で、ここで一つポイントにしたいのが、bitcoin って実際のところETFにしなくとも比較的手軽に口座を開けて取得可能なもの、ですよね。実際に近所のIT好きな店主のいる喫茶店でのコーヒーのお支払いに(そして、それと同じくらい手軽にdark web 経由で依頼したアンダーグラウンドな活動の対価として)bitcoin、のように決済にも使える訳ですから。ではなぜ、わざわざ(GBTCの場合なら年率2%の)フィーを払ってでもETFになったbitcoin を持ちたい、というか投資したいのでしょう。

bitcoin ETFだけに限らない 「ETF する」ことのご利益(その1)

なぜそれをするのか?という質問は、ファンドに限らず、また事業に限らず、ある意味すべての行動において問われるものですが、特にお金が絡むものならば「誰かが」儲かるからそれをする訳でして、ということは、その金融商品にはそのメリットをデザインされて作られているのです。では、bitcoin ETFの場合、フィーを払っても得たいメリットとはいったい何か、ですね。

bitcoin に限らず実際には現物資産を裏付けにした ETF やファンド全般に当てはまることなのですが、ファンドという金融資産にすることで、これらの資産を直接取得・売却することで得られた利益に対する課税と異なる課税ルールを適用出来るように変換するのです。

どういうことかといえば、bitcoinの場合でいえば、話を単純にするため(というのも、bitcoin についてはいろいろなところで課税利益が発生するようなので。。。)に単純にお金を払って bitcoin を取得し後日売却してお金を得た、とすると、取得した価格と売却した価格の差額が利益になります。この利益については日本に住む個人であれば雑所得として取り扱われるそうです。この場合、ざっくり言えば給与所得等と合算して累進課税の計算の対象となります。(もし、確定申告を要しない給与所得だけの人の雑所得が年間20万円以下であれば確定申告しなくともよいそうです。ですが、住宅ローン減税のための控除を受けたい、年間2000万円以上の給与所得がある、など確定申告しなければならない場合には、雑所得が20万円未満でも申告対象になるので注意が必要です。)

これがもし(というのも、ごく一般的な日本の居住者では多分にGBCTの取引できる人がいないと思えるので、仮に出来たら、という前提で書きます。ただ、これがこの記事を書いて時間が経って、日本国内で普通に組成・上場されたら、その時の法令等に従ってくださいね。)bitcoin ETFを取引して結果差益が出たならば、株式の譲渡差益と同じ「上場株式等に係る譲渡所得」として申告分離課税の20%の対象になります。

実は同種の議論が既にあって、例えば金の積立投資ならば譲渡所得扱い(なので、差益に対して50万円の控除をした額、ただし、5年を超える保有期間ならばその控除後の額を1/2に圧縮した額、が給与所得等と合算して累進課税の対象になるのです)なのですが、金のETFならば株式扱い、になるのです。

あと、似たところでは、一般に FX と呼ばれる為替証拠金取引での差益がbitcoin と同じく雑所得扱い(というか、為替差損益の取り扱いが雑所得だからbitcoinが類似性から雑所得扱いになった、というべきか)のところ、その上場バージョンである「くりっく365」であればその差益は上場株式等と同じ申告分離課税の20%の対象になります。

課税区分の変換だけじゃない税制面でのメリット – 多分みんなはこっちを見ている

また、ETFにする、ということは上場株式と同じ商品の取り扱いになる、ということですので、日本ならばNISA口座での取得が可能になる、ということでその非課税性を享受することが可能になる、のです。実際、GBCT のウェブサイトを見ると、米国のIRA (individual retirement account: 個人退職口座)での取得が可能という税制面でのメリットを謳っています。そう思うと、bitcoin を直接保有することでの税制面での影響とどちらが有利か、考えますよね。

まぁ、金のETF をNISA口座のメリットの出る期間保有するなら個人に適用される累進課税税率次第ですが、同じ期間だけ金の直接保有する方がメリットがありそうにも思えますが。。。

ということで、NISA の話もどこかでしないといけませんね。。。

それ以外のメリットってあるの?

それ以外、って、言われても税制面が一番投資家にとってその最終損益に影響する要因ですから大事、といえば大事だと個人的には思いますが、それ以外に経済合理性の観点であるのか、というと正直ストラクチャーを見る限りはメリットはないと思っています。

というのは、ファンドというワンステップを入れる、ということは、そのファンドを維持・管理するためのコストが当然に発生します。ということは、その費用をだれかが負担する(ということはそれらのサービス提供者はこれに絡むことの経済合理性のある理由はそこからのフィー収入が発生するから、ですね。)かといえば、当然ファンドの投資家が、ファンドの資産の一部から、となるのです。ということは直接保有することに比較してその費用分だけ収益が減少するのは誰が見ても明らかです。ということは直接保有に対して費用分を差し引いても税制面でのメリットがあるからやる、メリットがなければやらない、というのが合理的行動に基づく投資の選択、ですよね(心理学だか経済学だか学んだことがないのでこの言葉遣いが正しいのか知りませんが。。。)。

と言いつつも、これが個人ではなく行動規範に制限のある法人になるとちょっと話が変わってきます。前回のETFに関する記事でちらっと触れた、世界中のどこかで上場していないと投資できないという機関投資家の投資対象の縛り、ありましたよね。それに、BBB格付けのない債券は投資不適格、ということで機関投資家は投資しない(といいつつ、バンクローンとかCとか平気でありますけどなにか?)、というようなリスク管理などの事情で彼らは投資行為がいろいろと狭められているのです。

としたら、そういう人に向けて商品化するためには器とか形式上の整えが必要だ、ということになってくるのです。

ファンドじゃないと買えない!

例えば、日本で言えば信託銀行の信託口座からしか投資の出来ない年金投資家であれば、その受託者の受託者責任によって求められ、また銀行として果たさねばならない(ということは商業的な範疇で言うならば最大限にエラーフリー – 間違いを起こさない – であることを求める)「善良な管理者の注意義務」を全うしながらbitcoin の取引用の口座を開設、維持管理することが出来るか、と言えば、まぁ無理でしょう。金融庁検査に入られて検査官が理解できるような説明がつかないでしょうね(べーっ、だ)。となると、実際に受託者が現物資産を保有するのではなく、金融商品化された上場株式と同等のETFならば、上場基準等々を満たしている訳だから大丈夫だろう、という説明で切り抜けられる、と判断して受け入れることになるのではないかな、と理解しています。

例えば銀行。銀行も実物資産を保有するファンドへの投資が出来ないという規制があるようで、例えば卑金属を保有する可能性のあるファンドへの投資出来ない、という話を聞いたことがある(でも、不動産を保有したりREITに投資したりするから、いわゆる商品取引系の資産がダメなのかもしれませんね。そこまで調べませんけど。)ので、もしかしたらbitcoin ETFにしたところでだめ、と言われるかもしれません。とはいえ、銀行も担当部署の都合で、外国債券の形での仕組債はダメだけどそんな仕組債を単一資産として保有するファンドならば投資できる、という大人な事情を抱えることもあるので、 ファンドにする、という経済的合理性を超える理由というのはこうやって出来る事だってあるのです。そもそも、考えてみれば、(J-)REITなんかも不動産の直接保有を金融商品に変換している商品ですが、銀行が大家さんな事業をやることはなくとも、J-REITでも私募REITでもいいから投資するあたりは、そういう事例としてみるには分かりやすかったかもしれませんね。

ちょっと余談:ひと手間掛けることで化ける金融商品たち

さて、ちょっと余談でも(ちょっと、と言いながら長くなりそうですね)。
さて、今までファンドで投資対象の性質を変える、という話をしていますが、こんな金融商品の性質を変えることが出来る機能を持っているのはファンドだけではないのです。

例えば、アメリカ株をやったことのある人なら聞いたことがあると思うのが ADR(American Depository Receipt)。これは、アメリカ国外の企業がアメリカの証券取引所に上場する(ということは米ドル建てで資金調達する)にあたって、本国で(第三者割当で)発行した株式を米国内のDepository に預け、それによって発行された預託証書 (Depository Receipt)を上場させたもの、です。これによって実は本国の法律に基づいて発行された株式が米国内で米国法に基づく証券ということで間接的に流通させることが出来る、という仕組みなのですが、これを応用して、例えば日本で上場・流通させたい時には日本国内の信託を使ってJDR(Japan Depository Receipt)化して上場させる上場信託というスキームがあり、同じことを欧州でやると GDR (Global Depository Receipt)と呼ばれます。

で、なぜ、この話をしたか、というと、イスラム金融に基づいて作られた金融商品をGDR化して非イスラムな投資家に対してアクセスを与えている、という面白いことをして(大儲けして)いる知人がヨーロッパにいて、上記のファンドによるコンバージョン同様に商品性のコンバージョンというのが金融の世界ではあちこちで行われている、という話をしたくなった、だけなのですが。。。

ファンドが変換するのは税務上の性質だけではなく課税のタイミングも変える

さてと。資産の直接投資とファンド経由の投資を税務上の取り扱いの観点で比較したならば、もう一つ税務上での性質の変換を行っている点があります。あまりに当然すぎて気にならないことでもあるものの、極めて重要なことなのでここでご紹介したいと思います。

それは、ファンドを経由して投資すると課税されるタイミングをファンドの持ち分の売却の時点まで遅らせることが出来る、ということです。

例えば、こういう例をみると分かりやすいかもしれません。直接保有する場合とファンドのポートフォリオとして保有する場合と下記の全く同じポートフォリオの入れ替えを行うとします。なお、話を単純化するためにポートフォリオには銘柄Xしか持たないで入れ替えと言いつつも持ち分を増減させるだけ、取引コストや維持コストも0とします。

  1. 2017年5月:ポートフォリオに 銘柄Xを単価100円で10,000単位取得
  2. 2017年11月:ポートフォリオの銘柄Xの、3,000単位を単価110円で売却
  3. 2018年6月:ポートフォリオの銘柄Xの、3,000単位を単価90円で売却
  4. 2019年3月:ポートフォリオの銘柄Xの、4,000単位を単価120円で売却

さて、上記を直接保有した形で取引した場合、2017年末は30,000円(=3,000 単位 x (110 – 100) 円)の売却益、2018年は30,000円(=3,000 単位 x (90 – 100) 円)の売却損が、2019年は単年で見ると80,000円(=4,000 単位 x (120 – 100) 円)の売却益が出ましたが(日本の税務ルールを適用するならば)前年の売却損があるので繰り越し欠損を充当することで50,000円 (=80,000円 – 30,000円)の課税利益が出たことになります。

もしこれをファンドで行ったとして、2017年4月末にこのファンドに100万円(100円 x 10,000単位)投資したとしたら、その持ち分を2019年3月末まで途中で手放さずに持ち続ける限りはこの3回の売却損益を課税申告することはなく、また、これらに関係なくファンドの持ち分を取得した価格と売却した価格との差額である 80,000円 (= 1,080,000 = (330,000 + 270,000 + 480,000)  – 1,000,000) が2019年の課税利益、となるのです。

こうしてみると、結果だけ見ると同額の課税利益が発生するものの直接保有すると利益を出した年に細かく税務処理をすることになるところ、ファンドであれば持ち分を売却する時点まで2017年の売却益を課税されずに繰り延べることが出来るということが分かるかと思います。 このメリットは、この例でいうならば、2017年の売却益に対して20%の課税がされる、ということは、6,000円が手元から無くなっている訳ですから2018年の頭に再投資をするための資金が330,000円ではなく 324,000円だったことになり(この例では再投資をしていないので実感できませんが)投資効率がファンドに比べると直接保有だと(キャピタルゲインタックス分だけ)落ちる、ということなのです。

よく節税の教科書あたりだと、これを例えば大きめの経費等が発生する年に含み益のある投資商品を売却して実現利益にして大きめの経費にぶつけることで課税利益を圧縮する、なんて簡単に書きますが、問題は手元にそんなに都合よく含み益のある投資商品をもっているのか(全部負けてたらどーすんだよっ!)と思うのですが、利益の繰り延べが出来るというのは、含み益の実現化のタイミングを自分の都合で出来る、というメリットがある、と解されるのです。

まぁ、そのためにはファンドでキャピタルゲイン課税がなされないこと、なのですが、日本なら投資信託のようなものならば課税しないことになっているので実現しやすいのですが、日本の会社では法人税がかかるので使えない、ですね。

そこで、キャピタルゲイン課税のない国に会社を作ってそこで投資行為全般を集約してしまえば、日本で利益を実現したいタイミングまで海外で運用を行っていけば税務のタイミングをコントロール出来ますよ、というのが、実は以前書いた記事のひとつである、個人で海外に法人と銀行口座を持つメリット、という以前の記事の総まとめにもなるわけなのですが。。。。

と、気付けばだいぶ話がbitcoin ETFから離れてしまったので一気に引き戻しましょう。

bitcoin ETFだけに限らない 「ETF する」ことのご利益(その2)

ETFにすることで、投資家の側に立ってみると

  • 投資単位が小口化される – 前回のETFの記事で見た通り、日経225ならば現物株で5.3億円程度で構築できるポートフォリオに10,000円前後で参加できる。
  • 流動性が証券取引所が動いている時間ならばいつでも、しかも価格は瞬時に – 通常のファンドならば最短でも一日一回、しかも価格の確定は申し込んだ翌日以降にならないとわからない。

といったメリットを提供されていると考えられます。なお、前回の記事から再三申し上げますが、ここではファンドの運用報酬が安い、というのはETFでは取引所での価格確定のメカニズムが入ることで投資家の投資のリターンに事実上影響がない、という立場を取っています。というのも、これから説明することがETFの価格構成要素としては大きな影響を与えるものであって、それゆえ本源的なファンドとしてのETFの資産価値を構成する運用報酬などが価格の構成要素としての影響力が事実上ない、と考えているからです。

ETFにすることでETFの発行・流通に関連する関係者の大きなメリット – 流通量のコントロールを通じた価格形成が可能になるということ

これは何を言いたいのか、というと、ETFではないファンドが投資戦略を実行するために「資金募集」を行う際には、そのファンドの持分を時価相当額で発行してその代わりとして資金を受け入れます。ということは、この通常のファンドの持分の発行というのはファンドの投資戦略への需要と一致した量だけ、しかも小口化してより多くの投資家が保有できる形で、発行されていると考えることができます。

当然、ファンドを作るときにある程度当初の投資見込みを勘案してファンドというのは設定するかどうかを検討されますが、とはいえ、一般的な株のIPOや債券の売り出し、果てはaltcoinの ICO (Initial Coin Offering) のように、ある程度需要を見込んだ上での一定量の持分の発行に対してそこから最終的な需要と供給のバランスで価格が決まる、というような持分の取引価格の決め方をすることはありません。また、これらの持分は一度発行されたならばその発行量は柔軟に調整される、ということも(下記に述べることを除けば)ありません。bitcoin や altcoin に至っては金貨同様にマイニングによって僅かずつとはいえ増えはしますが減ることはまずありませんね。

とすると、株や債券、bitcoinやaltcoin の価格というのは一度発行されると、その後の流通市場において、本源的には原資産の評価額というよりは純粋にかかる持分に対する需要と供給のバランスによってその評価額(いわゆる売買価格)が決まるのです。その時にその需要や供給の判断材料として使われるものが、株や債券ならばその会社の業績や債務に対する返済能力、今後の事業の見通しといったファンドで置き換えるならばその会社の事業「戦略」や財務状況のようなミクロ、また、その会社を取り巻く市場環境などのマクロの両方なのですし、bitcoinや altcoinであればその参加者の増加による流動性の多寡や利用できる利便性、そしてこれらのcoinの仕組みの堅牢性(もしくはその脆弱性が判明すること)、などでしょうか。

では、ETFはどうなのか、といえば株や債券と一緒で、それこそ日経225ならばおよそ5.3億の単位で持分が投資信託から市場参加者に交付されて市場の売買の供せられるわけですが、では、市場での日経225への需要がこの5.3億の整数の倍数だけあるのか、といえば。。。当然一致することはないですよね。確かに日本銀行が日本で売買されているETFの75%程度をこの記事を書いているときには保有しているとブルームバーグが試算してますが、であったとしても、残る25%の需要に合致しているとは言い切れないでしょう。

だからこそ、前回の記事でも書いたように、同じ日経225のETFが世の中に7種類も存在していても、それぞれの発行体等への需要が均一してあるはずもなく、流通量の多いETFになればなるほど市場参加者の価格へのコンセンサスが原資産の動きに近いものに構築されやすく(されやすいだけで一致する保証はどこにもなく)、逆に流通量が少ないと少ない意見での価格構成ですから原資産よりもその時に売りたい・買いたいという需要と供給の原理に大きく依存される、のです。

とすると、実は発行数の少ない証券というのはその希少性から取得したい人の需要を満たしづらいことから価格が上昇しやすい、と一般には考えられています。また、流通量が(需要以上に)増えすぎてしまうと、需要と供給のバランスが崩れて需要が減って供給過多になることで自然と価格が下落し易くなります。

後者の面白い例として、閉じた世界としてのオンラインRPGゲームのなかで、プレイヤーが無限に貨幣を取得できるメカニズムになっていると時間が経つにつれて全てのプレイヤーが金持ちになるので貨幣価値が下がって一気にインフレになった、という事例があります。要はファンドの持分ですら必要以上に増えてしまうと価値が下がりえる、ということなのです。

そのファンドの実例の一つとしてあげるならば、前回紹介したベトナムの上場ファンドですが、ベトナムの株式市場全体が大きく値を下げたことを受けて、上場ファンドの取引価格が急落し、原資産となるファンドの純資産額よりも大きく下回ることになったのです。それを受けてファンドの運用会社が投資家の利益というべき取引価格と純資産価格との乖離を減らすために取ったアクションというのが

  • 分配金を多く出すことで投資家の需要を掘り起こす
  • ファンドが持分を自分で買い戻すことで流通量を減らして需要と供給のバランスを調整する
だったのです(実際に、ヨーロッパを中心に投資家へのロードショーを行うことで投資家を増やす、という努力もしていましたが)。

とすると、株も債券も一応は発行数を減らす方法が(株なら自己取得、債券ならば部分償還)ありますが、あまり機動的に行うことが出来ません。でも、ETFであればマーケットメイカーである市場参加者の裁定取引の一環でその流通量(ひいては価格の調整)をコントロールすることも可能なのです。

ということで、一旦キリをつける、ということで

実際、この記事を書くのに2ヶ月近くあれこれ時間をかけてしまいました。その間Bitcoin の世界もあれこれ変わったようですが、他方で Bitcoin ETFについてはBitcoin の先物がないからまだダメよ、という US-SECの見解が出て来たので、何か進展があるのかもしれません。

という中で、ファンドに形を変換する、ETFとして流通性を強化する、小口化する、という投資家にとってメリットと思われるものは色々あるので止めはしませんが、まぁ、通常は、とある資産を裏付けに新しい証券を作り出すことで取得価格と販売価格の差額で儲けて、追加発行する際も自分が発行する元手以上の価格の時に行いますし、買い戻しをするのは本来の価値より市場価格が低く評価されているときに買い戻す(これ、大手系列の子会社がIPOして長い時間を経てまたグループの完全子会社になるべく上場廃止する、のとあまり変わらないですよね。。。)、ということが出来るのは全ての価格を知り、調整できるからですから

ギャンブルにおいては胴元が必ず勝つ

という原則は覚えておくべきですし、投資家を儲けさせるために取引コストの負担をするなどの胴元が自腹を切ることなど利益供与になるので今時は出来ないししたくもないことだからあり得ない、と心得ておくべきでしょう。

ハブ・アンド・スポークス – お金と情報は集まるところに集まって力を産む、だからファンドはオフショアに行く

つい先日のこと。とある著名な中小型のプライベート・エクイティを運営されている方に人のご紹介がてらお話を伺うことが出来ました。プライベート・エクイティの運営戦略も今や単純に未公開株を買って上場したところを売る、という単純なものではなく、VCからの延長でそのまま一気に上場させる手伝いをするものや、破綻しかかっている上場株を再生すべくTBOで買い集めて非上場化して会社を綺麗にして、再上場するようなターンアラウンド、私の以前いた会社の母体がそうだったように、企業の一部門を切り出して企業化していく、などなど、色々な戦略というかシナリオで投資をしているのですが、今回お会いさせていただいた方はその一つの事業承継を主軸に行なっている方でした。

となると比較的小ぶり、と言われそうですが、それでも最終的な投資額の目標が150億、実際にはローンを使ったりするので投資する企業価値の合計は300億以上にはなるのではないかと思います。それでも中小型、と日本では呼ばれ、アメリカのPE業界と比較すると、下手をすれば小型どころかマイクロ、とまで言われかねないサイズ感ですが、この彼にとっての今回のチームで最初となるこのファンドには海外の投資家を含めるものの大多数が国内の機関投資家を占めていた、というのです。

実際、関わりを持たせて頂くようになったこの10年を見ていても、日本の大型株のプライベート・エクイティは海外の投資家と国内の投資家とが程よく混ざり合った投資家の顔ぶれが続いていますが、中小型株となると、いくつかの例外を除くとそのファンドの募集する額に対してほぼちょうどか多いくらいに国内の投資家からの資金が入ってくるので、国内スキームと国内投資家とのお付き合いにとどまるケースになってしまっているそうです。そのいくつかの例外、というのは、最初から海外の投資家と国内の投資家とに投資家を分散させて置きたい、という意識を持って投資家回りをして募集している、という準備もあり、また、やはりそれなりにいいパフォーマンスを過去に出して海外の投資家に認知されている、というのもあるとも見られています。

他方で、海外からの国内に投資する際の税務上の規制(いわゆるShinsei Tax:新生銀行に対する海外の投資家による再生プランの一環での株式再上場の際、血税が使われての再生でもあったのことから課税の難しかった海外投資家に対する譲渡利益への源泉徴収義務の強化が、一般的な海外からの国内企業への過半数株式保有の形での投資にまで適用されると解釈されたこと、が、海外からの国内へのPE投資への阻害要件になっていた、とされています。)や、国内スキーム(国内投資有限責任組合スキーム)での会計処理の特異性(IFRSなどは投資対象の時価評価を求めるのに対して、国内スキームでは原則簿価計上)や報告書等の言語、などが海外投資家を日本から遠ざけていた、と言われた時期が長かったともされています。

とすると、国内の中小型株のプライベート・エクイティは国内の投資資金がぐるぐる国内で回っているだけ、という見方をすることができるのですが、それでも、銀行が今や地元の有力企業の株式を保有することで支援することが難しくなった今、国内の機関投資家の資金をハブのごとく集中化して未公開株への投資を通じて事業育成に役立てている、という意味では、ファンドの役割の一つ、お金を大きく集めてまとまった投資を可能とする、ということを実践している証左になるのかと思います。

ハブ・アンド・スポーク – 物流から金融まで、小さなものを大きくまとめて効率よく移転する構図


さて、今更ですが、ハブ・アンド・スポークってご存知、ですよね。ご存知の方は「ファンドがお金のハブとして果たす役割」まで読み飛ばしていただいても良いかと思いますが、そうでない方のために念のための解説をすると、自転車の車輪をこんな風に思い出していただくとわかるかと思いますが、車輪の中心の車軸受けをハブ、そこに向かって車輪から伸びている数々の棒をスポークとそれぞれ呼ばれています。

そこで、外側の輪っかを忘れてもらって、たくさんのスポークの両端の関係だけを想像していただきたいのですが、ある意味ハブにスポークの一端が集中している、と見えますよね。このように、ある種の中央集中型の構造をハブ・アンド・スポーク型と呼ばれているのです(数学のトポロジーの授業と計算機科学の授業を受けたことのある人なら、なんだ、スター型じゃないか、といいそうですが、まぁ、グッとこらえてもらって。。。)。

で、このタイヤ一つだけを見るとどこかの国のような中央集権型システムの構造にしか見えてこないのですが、上記の絵のように二つのタイヤを並べて、ハブ同士を繋いだ構造を想像していただいて、これが物流、例えば飛行機のネットワークに当てはめるとどうなるでしょう。地方空港から成田や関西空港に移動し、そこで乗り換えてアジアやアメリカ、ヨーロッパに移動する、という流れとの類似性が見えてきませんでしょうか。

例えば、二つの国があってそれぞれに首都と衛星都市があるとします。

それぞれの都市が、歴史的繋がりや需要から飛行機を思い思いに飛ばすと。。。

ある意味全て直行便ばかりですが、行きたいところに行こうとしてもいけなかったり、航空会社も飛行機の有効的利用も出来ませんからコストがどうしても高くついてしまいます。そこで、このハブ・アンド・スポーク型の航路の設定をすると。。。

と、ハブとなる首都と衛星都市をむすび、また首都同士を結ぶことで、確かに1回から2回の乗り換えが発生するものの、飛行機は使い回しが聞いたり単純な往復だけですので飛行距離の短い中小型飛行機を当て、首都間は旅客人数が多く見込めることから大型機で運行することでより効率化が測れ(移動コストも次第と下がるだろう状況にな)るのです。

ファンドがお金のハブとして果たす役割

ハブ・アンド・スポーク型の流れとしてのファンドの役割を見て行きましょう。
企業は成長のための増資のための投資家やギリギリの日々を生き延びるために運転資金の調達など、色々な財政状況や事情などで資金調達をしたいと考えていますし、投資家もその投資額の大小からリスクの取り方、投資経験や知識、投資機会の情報の有無、などなど様々です。

もし、この資金の出し手と資金需要との間をつなぐ人がいないと、

互いの情報のミスマッチで投資できない、もしくは資金調達できない、という場合があったり、仮に出来たとしても資金需要に見合った投資を受けられなかったり、もしくは投資できてもおもて向きは安心できるように見えて実は倒産しかかっているところだったため回収の見込みが立たなくなった、などの投資できているけれどもミスマッチ状態が続く、という場合も起こり得るのです。

考えて見るとわかりますが、よく企業を立ち上げて少し経つと古い友達が「一枚噛ませろ」と、50万円程度(いや、程度といってはいけないかもしれませんが)の投資をさせろ、という話を持ちかけてくるケースがありますが、拙著の「外資系企業の簡単な作り方(笑)」に書いた通り、50万円って、資本規制を求められる業種でない限り、スタートアップの会社の事実上の最低資本金、なのですよね。となるとスタートアップで自分の意思で始めた会社の経営権の半分を投機目的(持ちかけた側からすれば信用しているから確実に倍にしてくれ、という都合のいい話)に渡すか、といえば、まぁ、Noですよね。仮に50万円ならそれくらいの会社乗っ取りの話になりそうなものですが、とはいえ株主構成を考えての1万円とか少額を言われると。。。預かった方も何も使えないのが実際ですよね。却って50万円の方が設備投資に回せてビジネスに貢献してくれるかもしれません。

では、この話を上場株投資をする側に回って一気に切り替えたとしても似たような問題は起こります。1万円で株式って何が買えるでしょう。2017年5月9日現在で日本国内の上場株だと、35銘柄は1万円で買えるようです(取引手数料は除く)。とはいえ、ざっと見る限り、監査報告書に事業継続に疑義がついたり上場廃止直前の監視ポスト入りしそうだったりと、まぁ、おっかないものがゴロゴロ。それならば、1万円で買えるETFというのが72ほどあるのでそちらを買う方が分散が効いていていいのかもしれません。

50万円ならどうでしょう。3225銘柄になります。それなりの流動性の見込める大型株も56社入ってきますので、いざという時に逃げられる銘柄を仕込める、かもしれませんし、一発逆転を狙いたい小型株も2,901社ありますから、調べに調べ抜けば夢が叶うかもしれません。でも、50万円で分散を効かせたいと思うと、ポートフォリオ理論に基づいて最低数である20銘柄くらい持たないといけませんが、そうなると一銘柄2.5万円。先ほどの1万円ほど狭くはないですが楽天証券さんのスクリーニングの機能の都合上、ざっくり3万円で見ると、3万円で買える株が204社、大型株としてみずほフィナンシャルホールディングが(そしてこれだけ)、中型でも双日、オリコ、あとガンホーが入ってきます。とはいえ、実際、20銘柄を買い揃える取引コストが高くつきそうですね。楽天証券さんを例にとれば、10万円までの取引で139円(消費税込みで150円)、ですから平均2.5万円を20銘柄で 取引コストが3000円になる計算です。50万円に対して0.6%ですか。保有期間中ずっとコストの掛かる投信よりいい、と思われるかもしれませんが、投資するまでの銘柄選定と売却目標額の設定、実際の投資、そして投資後のモニタリングと投資回収(目標額達成でも、損切りルールに基づくものでも)、ということを日々自分でやり続けなければいけないのです。しかも、もともと204社の投資可能銘柄範囲で満足のいく投資対象が20銘柄出てくるのかどうか。平均して10銘柄の内の1つに投資する、というと結構妥協が入ってくることになります。

株の投資ではなく、貸し付けたとしたらどうでしょう。何もなければ、定期的に元利金を支払ってくれるかもしれません。でも、払わなくなった時にどうやって回収すれば良いでしょう。知人が社長をやっている会社への貸付ならば、社長に直々に談判して支払わせる、なんて出来ますが、それだって相手の会社のキャッシュフローが回っていれば、です。事実、大勢に影響のない利息額すらコストだから何とか出来ないか、と、社長業をすると考えてもおかしくないのです(し、実際にそう言われて「おいおい、誰の入れ知恵だ?そんなふざけた事言った会計士と話しようか?」と押し返したこともあります)。となると、実際、貸付は株より回収の優先順位としては高いものの、それだって毎月の回収の手間は大変なのです。(いや、ほんと、金貸し商売は高利貸しになりますよ。じゃないと回収できなかった時の元本棄損のリスクが高すぎますから。。。)

では直接企業(?)に貸し付けるのではなく、同種の性質を持ちつつ譲渡性のある債券を購入する、としたらどうでしょう。また楽天証券さんにお手伝いいただいて、買えそうな債券を、と思ったのですが、1万円で買えるのは個人向けの国債。FPの試験でも取り上げられる商品ですが、他方で金融の世界の教科書で考えると、国債はリスクプレミアムの乗っていない、ある意味その通貨の中では一番リスクフリー、したがってその国では一番安い金利が付与されている、と考える商品です。個人向け国債は金利の下限として 0.05%が定められていますので、一年で最低でも税引き前で1万円の投資額に対して5円の利息がもらえる計算になります(それに対して20.315%の源泉徴収税が掛かりますので実質3円)。となると、もっと高い金利の商品を探したくなるのですが、楽天証券さんではこの時点で社債の取り扱いが0。大抵取り扱いとして上がっても国債と比較して金利が高いことからあっという間に売れてしまう、というのが実際です。仮にあったとしても最低取引単位が銘柄によって幅があるものの、最低でも50万円は下回らないことから、なかなか取引額の都合で取り組みづらい投資対象、と思えてきます。

そう考えると、残念ながら、金融の世界で50万円の投資というのは結構少額の扱いにならざるを得なくなり、むしろそんな50万円を多くの人から集めて束ねて数億、数十億円にして、それを厳選した投資先に振り分け、監視し、回収する、という一連の投資行為を管理する仕組みにコストを払って委ねた方が、自分の通常の仕事ができていいのでは、と考えることになります(無理やり?(笑))。その仕組みが、ファンド、なのです。


絵的にもハブ・アンド・スポークになったでしょ?実際、冒頭にご紹介したプライベート・エクイティ投資がまさにこの図の通りになっているのです(投資家は50万円を出す個人ではなく、数億円単位の投資をする機関投資家ではあるのですが。。。)。

飛行機の世界に国際線があるようにファンドにだって。。。

私たちは日本にいて、(間接的にお金を預けている銀行や生命保険、年金などを通じて、もしくは)自分の意思で直接に日本に拠点のあるファンドに投資をしていることが多いのですが、でも、そうなると投資対象が日本の株や債券、不動産に限定されてしまいそうです。投資の基本が分散、と言われるならば、投資対象となる国や地域、投資資産も分散した方がいいに決まっています。でも、そのような資産に日本からリサーチして投資判断することは難しいのは想像に難くないですね。

「投資信託に米国株投資ファンドやUS REITファンドとか欧州株ファンドとか、ブラジル国債ファンドとかあるじゃない?」

ええ、おっしゃる通りです。でも、そのようなファンドが日本から直接海外の株や債券、REIT(不動産投資信託)などを買っているのでしょうか。答えとしては、そういうファンドも実際にあるので否定はしないけれども、そればかりではない、のです。

日本の投資家に向けたファンドに多いのが、日本の投資家(もっといえばそのファンドの国内での販売会社)のために設定されるファンドですので、その投資資金だけで100億から1000億円単位になるため、単独で投資対象を得意分野とする現地の運用会社のアドバイスを受けながら直接投資を行うことが可能になっていたケースが多かったのです。とはいえ、そのためにはそれぞれのファンドを設定するために投資対象の国と日本との間の租税条約やそれに基づくキャピタルゲイン税(源泉徴収税)の取り扱いを調べ、外国人としての投資規制を理解し、現地の証券取引の実務と日本におけるファンドの実務とのギャップを調べて出来るだけ日本ルールに合わせるような方法論を編み出し、ということを繰り返してきたのです。

とはいえ、これでは複数の国に向けてのファンドの設定となると同じ調査を一から繰り返すことになり、またそれぞれファンドの運用期間中の税制変更の監視や変更の際の対応についての協議・検討を行うことになるので、実際のファンド運営はかなりの手間が生じることになります。なかなか非効率ですよね。

そこで、海外の大手運用会社などが一般に行うこと、として、世界中の投資家が等しく入れるような税制的に中立な場所であるオフショアにファンドを設定して、そこから投資対象の国への投資を行う、という仕組みです。これにより、多くの投資家が経験している自国からオフショアへの投資にかかる税務と実務の負担を投資家が負い、オフショアから投資対象国での投資行為に関する税務や実務の負担をファンドとその運用者が負う、という役割の線引きを置くことで、ファンド設立や運営にかかるコストを集約化することにより下げ、また、一般的な投資ファンドの設立国であるオフショアへの投資ならば一般的な投資家が経験して理解を持っているはずなので、通常の投資と同じく、特段の負担を強いることはないようにしているのです。こうすることで、より多くの投資家からの投資資金を集める素地、すなわちより多くの国で同じ戦略の投資商品を販売するための土台が出来るのです。

前者はより単発の直行便であるチャーター便的な発想(個別の投資家の要望に寄り添った形)で作られていますし、後者はよりハブ・アンド・スポークを使った定期便的な発想(世界中の多くの投資家の要望の最大公約数を満たすような形)になっている、とも言えるでしょう。こういうと、日本発のファンド商品が従来までは特に、リテール向け商品ですら比較的大きなサイズでのファンドの設定が出来たことを武器に日本の商習慣に合致する商品を作れてこれたのがわかるかと思います。

最近見られる傾向は?

ヘッジファンドの全投資額に関する統計によれば、2016年にはリーマンショック直前の2007年の全投資額を上回った、ということが示されていたと記憶していますが、2007年当時と比べて投資家層がより機関投資家や年金、そしてファミリーオフィスのような機関投資家化した富裕層に入れ替わってきていることから、ファンドの運営体制もより企業的であることを求められており、そのためより効率的で多くの実績のあるオフショアでのフラッグシップファンドでの投資資金の一元化と投資家の所在国に向けての入り口となるファンド(フィーダーファンド)の構造を求められるようになってきています。実際に、それが増加していることからケイマン諸島ではマスターファンド規制が2013年から導入されています。その意味で世界的に投資資金がハブの機能を果たすオフショアに一旦流れ込み、投資先となる世界中に、運用者の意思に基づく振る舞いをしながら動いている、という流れは今後も続くのだと思います。

「SWIFT の闇」ってほんと? – お金が国境を超える仕掛けを改めて考える

今どきはスマホでお金が世界中を移動する ように思えますが。。。

ちょっと告知、なのですが、 Soldie という金融を分かりやすく説明するニュース・コラム・サイトに寄稿させて頂くことになりました。といって、私が書けることと言えば、「オフショア」金融の話ですので、そのあたりをあれこれ怪しげに書く予定ではあるのですが、これがなかなかチャレンジングなものでして、まずこのサイトの対象がミドルエイジ男性で、目指すことが金融リテラシーを多くの人に、ということなので、当ブログに来るだろう金融に籍を置いて狙ってググった人か、ニュースでわからない「オフショア」とかいう怪しい単語が出たからググったら(運悪く)来ちゃった人か、と言えばどちらかと言えば後者の、金融知識の比較的浅い人向けです。ということは、

「わかってるよね?どれくらい知ってる?まじかぁ(JK風に)じゃあその辺は省きつつも。。。これはね(かくかくしかじかだらだら続く)」

という、金融の知識と私の性格をある程度知ってるだろうことを前提に、無駄な情報てんこ盛りに文字数無制限で、読む人が「これ、いつ終わるの?」、と変な不安を感じさせるかの如く書いている当ブログの性質と真逆の、2,000文字程度、簡潔に分かりやすい言葉でまとめるようにして(無駄なくというより個性を入れる余裕もなく)説明しなければならない、のです。

となると、本来個人的には書きたいと思うことも書ききれず、個性を発揮することもなので。。。すみません、ここでは個人的欲求を発散してもいいですか(笑)

「SWIFTの闇」とは?

今どきはスマホでお金が世界中を移動する ように思えますが。。。橘玲という作家さんがいて、オフショア投資とかマネロンだとかそういうのをあれこれ勉強して書いている方がいます。私も一時期読んでいた時期もありましたが、自分でそこに書かれたことをやってみたりしているうちに読むこともなくなった、のですが、その彼の本の一つ、たしかお金持ちになれる黄金の羽根の拾い方 知的人生設計のすすめの中で、自分がオフショアのとある口座に送金しようとしたら途中で誰にもお金のありかが分からなくなった、ということをして「SWIFTの闇」と称したのを思い出したのです。曰く、オフショアのプライベートバンクの口座は別のオフショアの銀行の下にぶら下がっていて、さらにそのオフショアの銀行は別のオンショアの銀行にぶら下がり、そのオンショアの銀行がやっと大手銀行にぶら下がるから、入れ子の状態になっているため、送金情報のチェーンがどこかで切れると届かなくなる、というのです。2017年の世界ならばブロックチェーンを使って取引情報の監査をしつつ仲介するものを排除しながら送金すればいいじゃないか、とでも言いそうな話ではありますが、銀行には銀行伝統の方法があるので。。。

しかし、そもそものお金の流れを考えるとこの銀行口座の多段構造と呼ばれるものの理由と、性質を理解することが出来、くだんの送金中の消失問題を解決する方法論も見えてくる(というか、そうやってこの10年以上ファンドの買い付けや償還資金に関連する問題を(信託を含めた)銀行員や証券会社員よりも多く解決してきた、というか、言っちゃなんですが海外送金をちゃんと理解する金融マンは残念ながら多くはなく、お金が届かない、とクレームすれば仕事に足りるほうが多い – 文句ある人、いつでもどーぞ、な)のです。

お金を動かす – 何が必要?

本来、送金業務とは為替、と呼ばれていました。今では外国為替という言葉と、それが円を売って米ドルを買う、という意味に理解されることの方が多いのですが、法律あたりを見てもらうと分かる通り、為替とは本来、「現金を授受する代わりに、手形、小切手、証書のようなものを使って金銭のやり取りをすること、またはそれに使われる手形などの総称」とググると出てきます。その意味において、最近で一番身近に使える為替というと、郵便小為替、でしょうか。

送金の一番の基本 – 為替での決済

この図のように、郵便小為替を郵便局で買って、相手に郵送すると、相手が郵便局に小為替を持ち込むと郵便局が小為替にある金額を渡してくれる、というものです。ある意味、郵便局が小為替の裏付けとなる資金を預かって(郵便局の全国に広がるネットワークによって)どこに持ち込んでも預かった資金を引き渡す約束をしているのが小為替、と理解することが出来ます。

でも、これってPaypal と一緒じゃない?Paypal にお金を預けて、それをメールで送るよ、と相手に連絡したら、相手がPaypal に口座を開けて初めてその送金すると言われた金額を引き出せるようし

いやいや、Amazon ギフトを買ってコードをメールで相手に教えることで事実上個人間の資金決済ができるじゃない?

仰る通り。Paypal や今だと Line Pay などの私人間の送金の仕組みは郵便小為替を置き換えたもの、と見ることが出来ますし、その事業者は送金目的だけのために預かっている、という意味で資金決済法にある資金移動業を行っている、ということが出来ますし、それが整備されるまでは銀行法に基づく銀行業の一つ、として扱われていました。また、プリペイドカードも、郵便小為替と同じような証書として使える訳です(ので、ギフトコードの詐欺も多発するからブロックチェーンで多重譲渡を回避する、みたいな話にも展開しかねない話なのです)から、前払式支払い手段ということでこちらも資金決済法に定められたものになっているのです。

いずれにせよ、送金の時に、あとはこの資金移動業者に事実上資金を預けることになるのを理解して任せられるかどうか、(回収した後にどこまで自分で自由に使える資金になるのか、それともLine スタンプに化ける以外ない、という流動性の低いものになるのか?)を判断すべき、なんていうと金融の人は信用リスクだとか(私は格付け会社が嫌いなので信用しませんが、とはいえ一般的には)格付けがどうだとか、色々とうるさいねぇ、と言われる話に突入するのです。

今ならスマホやオンラインバンキングを使って送金できるじゃない? – 銀行の提供する決済手段

さて、資金決済をみんな揃って為替で済めばいいのですが、そうなるとこの記事もここで終わりとなるので、ある意味書いている私が困るものの、それ以上に為替を物理的に紛失したときのリスクが受け取り側にあるのを嫌うこともあるし、一般的には郵便局もゆうちょ銀行になったことも含めて、銀行を使った送金システムを使うことになります。でも、今や円で送金しようとすると、平日の午前9時から午後3時までなら瞬時に送金できちゃうし、同じ銀行内なら24時間いつでも、というところが散見されているし、みんなそういうものだと思ってますよね。でも、ちゃんとこの仕組みを理解しておかないと米ドル送金の問題とかわからなくなるのでちょっとうざいですがステップワイズに説明していこうと思います。

銀行送金の基礎の基礎

まず、同じA銀行で同じX支店に口座を持っている二人が送金する場合、絵的にはこんな感じ。支店さんの事務 – Aさんの残高を減らしてBさんの口座を増やす – ことで送金手続き完了。そうなのです。銀行内では残高を付け替えるだけなので銀行としては預金総額では一緒であり将来の支払い債務総額(=口座残高の合計額)では一緒、という話なのです。だから口座の付け替えだけの手間なので手数料が表を見ると一番安いのです(笑)

ここでいくつか注意したいことがあります。まずは、あまり気にならない話ではあるのですが、銀行にとって私たちの口座残高は債務で、預けた資金は資産になります。一般的な会計と異なるのでたまに間違いそうになるのですが銀行からみるとそうなのです。となると、債務に対しては資産の裏付けが必要になる、のですが、Bさんへの支払いの裏付けは送金指示かそれ以前にAさんから現金を受け取っているかそのほかの人からの送金を受けている結果としての残高として確認しているのでそれ以上はいらないのです。また、Bさんからすれば残高が増えているので、小為替を好きな時に換金できるのと同じように好きな時に現金を引き出せばいいだけなのです。実はこの先の議論で、この資産の裏付け、というのがキーワードになるのでここは(大学受験の勉強と同じく)押さえておきましょう。

銀行内の応用編 – でも、これが分からないと世界はおろか日本に行けない

続いて、同じA銀行だけど別の支店に口座を持っている場合。絵を見ると、AさんのX支店と BさんのY支店の間に本店が挟まっています。なぜでしょう。幾つか複雑な理由が存在します。

まず、X支店では、Aさんの口座残高を減らすことは出来ても、Y支店にあるBさんの口座を直接触ることが出来ません。そうすると、間に何かを挟むことになるのですが、一番手っ取り早いのは前述の同じ支店での口座間の送金と同じように、X支店にY支店の口座を作って、その残高を増やし、「Y支店さん、そちらの残高を増やしたけど、それはBさんへの送金の依頼に基づいてだから、Bさんの残高を増やしてあげてね」という連絡をしてあげて、それを受けてY支店は額の増えているX支店にある自分の口座に相当するだけのBさんの口座残高を増やすことになります。

ここで、ちょっと頭が混乱しそうですね。X支店がY支店の口座を増やすところまでは先ほどの話と似ているからいいかもしれません。でも、それを受けてY支店は何かを減らすわけではなく増やしてますよね。これは、Y支店からすると自分のX支店の口座は資産ですので、資産が増えた=支払いの裏付けが増えたけど、これなんでだっけ?ああ、送金指図でBさんの口座残高が増えたから、なのね、とBさんの口座を増やす(=Y支店の債務も増える)ことで送金完了、となる、のです。

さて、送金がこの一件だけならば、いいのかもしれませんが、そもそも、この銀行がX支店とY支店しかなくて、Y支店がX支店に口座を開けている、から出来るものの、このような一方向な話で銀行業務が済みそうでしょうか。このままでは永遠にX支店にあるY支店口座は膨れ上がっていきそうですし、仮にY支店のCさんがX支店のDさんに送金する、となれば今の逆方向である、Y支店にX支店の口座を作ってCさんの口座残高を減らしてX支店の口座の残高を増やして。。。ということが起きることになります。でも、そうなるとY支店のX支店口座も同じように一方向で膨れ上がりそうです。となると、膨れ上がるのを嫌って、互いが互いにいちいち債権債務を相殺する、なんて手間ですよね。

しかも、今は2支店だけの話ですが、これが全国100店舗、となったら、X支店は99店舗の口座を開けて、毎日相殺を99店舗とすることになり、また送金指示という意味でもP2Pのセッションが銀行内で99+98+…+1 の5000本が必要となる、ということは送金情報が同じ銀行内であちこちにかなり錯綜することになってしまいます。

そこで、実際にどうするかというと、それぞれの支店は本店に口座を開けておき、Aさんの残高を減らして本店の残高を増やしたのち、

  1. 本店に「送金依頼に基づき、X支店の残高を減らしてBさんの口座のあるY支店の残高を増やしてください」と、
  2. Y支店には「本店のY支店の口座の残高を増やすのでBさんの口座の残高を増やしてください」、という指示を

それぞれにします。そうすることで、

  • X支店は、本店にあるX支店の口座の残高(資産ですね)が減ると同時にX支店にある本店の口座残高を増やし、また同額だけAさんの口座残高が減ります。(ただし、X支店の現金はこの瞬間は動きません。)
  • Y支店は、本店の口座残高が増えたのを見て、同額だけY支店の本店口座の残高を減らすと同時にBさんの口座残高を増やします。(Y支店でBさんが引き出さない限りはY支店の現金は動きません。)
  • 本店は、前述の同一支店内の送金と同じく、X支店の口座残高を減らし、Y支店の口座残高を増やします。(こちらも、本店の現金は動きません。)

こうすると、前述のP2Pのようなセッションが発生することなく(むしろ本支店間のハブアンドスポーク型というか、ツリー型の情報伝達構造になる)、また相殺とか日々せずとも、管理が可能になりそうですね。実際は、システム上銀行全体で口座/勘定を管理しているので、支店間の通知とか実際に起きていないでしょうけど、第X次オンラインシステム導入前の前時代的に情報と資金との移動をみるならば、というところでは、上記が分かりやすい、ということで書いてみました。ちなみに、各支店にある本店口座を今時ですと銀行勘定と呼ぶこともあります。

今後の話の展開として、キーになるところを押さえたいと思います。一つは資金がどこにあるか、もう一つが送金の情報のルートです。

資金の裏付けという観点でみると、現金の移動はこの一連の流れでは起きていませんよね。銀行全体、という観点で裏付け資産であるAさんからの現金がX支店に置きっぱなしなのでオッケー、と考えるのです。Y支店単体で見ると、そこには対応する現金の準備がないまま、引き出される可能性がある、ということですが、預金量に対する物理的な現金の準備というのは別途管理するので、大丈夫でしょう(今どきは他行のATMで引き出したりするので現金の保有管理はさらに難しい問題になっているとは思いますが)、というか、ここでは別の問題ということにして気にしないでおきましょう(笑)

そして情報のルートについては、上記で番号付けした、

  1. X支店とY支店の残高を管理する本店への付け替えの指示、と
  2. Y支店の口座を増やした理由がBさんへの振り込み、というY支店への指示

の二つの指示が飛ぶ、ということです。これが世界規模になっても、実は同じ構造になっていることに、後ほど触れる予定ですので覚えておいてくださいね。

日本国内で円はどうやって送金されるのか?

ということで、次に銀行間を跨いで送金がされる、一般的な送金のメカニズムを見てましょう。絵を見ると分かりますが、銀行の本支店が二組あって、それに挟まれるようにあるのが日本銀行、そして矢印で円を描いているのが送金データのやり取りをする、全銀ネット(全国銀行資金決済ネットワーク)の全国銀行データ通信システム(全銀システム)です。

実際にP銀行 X支店のAさんの口座から Q銀行Y支店のBさんの口座に送金をする、と言う時に、何が起こるかというと、

  1. AさんがP銀行X支店に送金指示を出す。
  2. 送金指示を受けて、P銀行はX支店にあるAさんの口座残高を減らして、本店にある銀行勘定を増やします
  3. 送金指示は全銀システムを通じてQ銀行に送られます。
  4. 送金指示を受けて、Q銀行は本店にある銀行勘定を減らしてY支店にあるBさんの口座を増やします。
  5. 全銀システムは一日の送金情報を集計して、この取引による日本銀行にあるP銀行の当座預金を減らしてQ銀行の当座預金を増やすことを含めたすべての取引の集計結果の残高の増減を午後4時15分の決算尻と呼ばれるタイミングで行います。

実際、送金が1億円を超える場合にはRTGS(RealTime Gross Settlement:即時グロス決済)と呼ばれる、送金手続きをした瞬間に5の日本銀行の当座預金の付け替えを行うのですが、それより少ない場合にはその日の終わりまで事実上Q銀行は送金のための資金を受け取れないことにはなっています。が、そこは最長8時間ということと、1億円未満と少額(?)であることや、同種の送金が他にもたくさんあるため、P銀行とQ銀行の間で相殺されることもあるので、決済リスク – 支払いの担保となる資金が手元にない – ということで実務上飲み込んでいる、というのが現実なのですが、私たちが通常、平日の昼間にお金が振り込まれた、というのがだいたいリアルタイムに送金されたように感じるのはこのお陰、なのです。

ここでポイントなのが前述のように、資金の担保が同じ銀行ならば支店網のどこかにあればよかったのが銀行を跨いだ時には、その日1日の送金情報をまとめて、結果として相殺された状態ではあるものの、日本銀行にある全国の銀行の名義の当座預金残高の間の付け替えの形で見ることになる、ということと、送金指示の情報が、全銀システムでの、(a)資金移動の情報と、(b)送金先のQ銀行への送金詳細の情報、の二つになる、というところに、同じ銀行の支店間取引との類似性と相違点がみられる、というところです。

さて、今までの話は、実は日本に住んでいる人の間の銀行口座間の円の資金の送金方法についてでした。と、なぜこんなに回りくどく言っているか、というと、実はいわゆる普通の私たちのように日本に住む人の銀行口座から(例えばケイマン諸島のファンドでも、台湾の保険に加入するための口座でも、スイスにあるあなたの隠し資産を管理する(笑)口座でもいいのですが)海外にある円口座に送金をしたり、海外にある円口座の間での送金をする、と言ったように、日本に住んでいない、非居住者に保有する円を送金するときには、前述の全銀システムとは異なる送金システムを使うことで、国内にある円と国外にある円の流れを区別されるのです。

とはいえ、実際の資金と情報の流れは前述の全銀システムで送金情報を管理し、日本銀行の当座預金間の付け替えで銀行間の資金移動が管理される、というのとほぼ似た状況になります。その意味では、送金の流れを示す絵はこのように前回と同じ絵を使うことになります。大きな違いがある、とすれば、

  1. 送金情報を伝達するのが、全国銀行協会の外国為替円決済制度に基づく日銀ネット
  2. 資金移動も、日銀ネットでの送金情報の伝達と同時に日本銀行の当座預金決済を利用した次世代 RTGSによる即時決済を使っている

という二つの点が挙げられます。

と言いつつも、とうとう非居住者の口座の話が出てきたので、海外送金のもっとも本質的な部分に話が突入することになります。

コルレス銀行?なにそれ美味しいの?

例えば、私たちが日本に住んでいれば、その近所の銀行の性質を持つ金融機関なら、よほど特殊な銀行や信金、信組さん、労働金庫にJAさんなどに口座を開けない限り、その銀行等の本店は日銀ネットに参加していますので、送金するときには支店から本店、本店から日銀、という流れで進めばよかったのです。ですが、パッと思いつくところで、海外の銀行の日本支店、例えば、(すでに個人金融部門が撤退した)HSBCならばまだ法人金融部門があることから日銀ネットに参加していますので香港やジャージーなどにある海外のHSBCの支店から円を送金しようと思えばHSBCの東京支店を通じて日銀ネット経由で送金が可能ですが、同じイギリス(笑)系のロイズバンクTSBのような現地ではそこそこ大きいけれども海外展開をしていないけれども円預金を扱う銀行となると当然に日本法人がないので日銀ネットへのアクセスがないので送金できないように思えてきます。それに日銀ネットへのアクセスがない以上に、これらの銀行が円資産をどう保有するか、という問題も発生します。

そこで、日銀ネットに銀行として接続していない銀行は、日銀ネットに接続している銀行に銀行口座を開設してそこで円資産を保管し、それを裏付けとして銀行顧客への送金業務を提供することになります。このような送金の際の中継地点の機能を果たしてくれる銀行を「コルレス銀行(Correspondent Bank)」と言います。
ただ、送金は銀行口座という資金の担保だけでなく、前述の

  1. X支店とY支店の残高を管理する本店への付け替えの指示、と
  2. Y支店の口座を増やした理由がBさんへの振り込み、というY支店への指示

に対応する

  1. 送金元となる銀行とコルレス銀行との間の通信手段、と
  2. 送金元となる銀行と送金先の銀行との間の通信手段

として日銀システム以外の通信手段が必要になることが想像できると思います。今なら「インターネット!」と言いたくなりますが、為替業務はインターネットが始まる前からありますので別の何かがあるのは想像がつきますね。それが、今回の記事にある SWIFT (Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication SCRL 日本語訳としては「国際銀行間金融通信協会」) なのです。これは1973年にベルギーで設立された非上場会社ですが、元々はヨーロッパでの証券決済のシステムとして始まったものが金融全般の通信フォーマットの共通化や2005年に本格稼働しているSWIFT Net と呼ばれる、金融版インターネットの提供などが主な仕事になっています。

そこで、円送金ならば送金元とコルレス銀行の間の送金指図を SWIFTのメッセージで送り、それに基づきコルレス銀行が送金先(のコルレス銀行)に日銀ネット経由の外為円決済で送金し、また、送金元から送金先の銀行へもSWIFTのメッセージで送ることで送金指図の詳細を通知する、という流れになるのです。

で、世界でお金はどうやって回っているの?

では、これが米ドル送金ならばどうなるの?という疑問があると思いますが、基本は一緒です。例えば日本の某SMBC信託銀行の某大手町支店にある米ドル預金から某ジャージー島の某HSBCの自分の口座に送金したい、と某私が思うと、SMBC信託銀行の米ドルでのコルレスバンクであるCitibank N.A. New York に対してSWIFTで送金先のコルレスバンクであるHSBC USA に送金することを指示し、Citibank N.A. New York はそのSMBC信託銀行の口座を減額してCHIPS、もしくは FedWire と呼ばれる米国内の銀行間の送金ネットワークを通じてHSBC USA に送金を実行します。

また、SWIFTで送金先である HSBC Jersey に対してその送金の詳細を伝えることで送金先である口座に入金処理することを伝えるのです。それを受けて HSBC Jersey は、といえば、自分たちの米ドルのコルレスバンクであるHSBC USAにある自分たちの口座に該当する米ドルに着金を確認したら送金先である口座の残高を増やすことになります。

ね?基本は円送金と何にも変わりがないでしょ?ということで、海外に送金をする際には その通信手段としてのSWIFTがキーを握る、というところまでわかっていただけたかと思います。

余談ですが、この米ドルの送金でもう一つ気づきたいことがあります。例えば、日本で今日付で送金手続きをした、としても、Jerseyで米ドルが着金したことがわかるのは早くとも明日のJersey時間が始まってからになる、ということです。

というのも、米ドルの資金移動が実際に起こるのが今日のニューヨーク時間ですので、HSBC USAでHSBC Jersey の米ドル口座が増える時にはジャージー島は今日のジャージー島のビジネスの終わった時間ですので彼らの営業時間のうちには着金作業が出来ない、というよりも知る由も無いのです。ですので、翌日のジャージー島の朝以降にHSBC USD にある自分たちの口座が増えているか確認して、初めて送金当日付で入金があったよ、とあたかも過去日付での記録がされる、という仕掛けなのです。ちなみに、送金手続きの締め切りはファンドなどの世界では結構早く、送金したい日付の2営業日前までの送金指図をしてほしい、と言われることがあります。一つは時差の問題(着金確認が翌営業日になることが多い)、もう一つはコルレスバンクへの送金指図の締め切りが1日一回の通信の中でやることが多いからか、結構早い、ということがあります。

もしこれが豪ドルの送金ならばどうなるの?ともう一つ例を出したいと思います。これは実は私が以前、毎月のごとく、某銀行の投資信託の事務部隊から「お金が届かないのです」と何度となく言われたものの、仕組みをそれ以上に説明したのに全く理解がされなかった、という曰く付きの例です。

某 HSBC Securities Services に豪ドル口座を持つ某ケイマン諸島籍投資信託が某私の古巣の銀行の豪ドル口座を投資信託の買い戻し資金を送金する、とします。その時、某ケイマン諸島籍投資信託(の、実際にはファンドアドミ)は、その買い戻し資金である豪ドルの送金を某 HSBC Securities Services に豪ドル口座から某HSBC 香港と、その豪ドルのコルレスバンクでである HSBC Sydney を経由して某 C●t●bank Sydney に送金し、その送金の詳細を SWIFTで送ることで、C●t●bank Sydney は  C●t●bank 東京支店の豪ドル口座に着金があったことを知らせ、銀行の海外送金部署が投資信託の部署に送金があったことを伝える、というのが送金の際の流れになります。

支払日当日の二日前に送金指図を行い、送金を行って、その証拠としての SWITF の送金指図のメッセージを渡しても、その日の昼前になっても(円送金のように)着金確認ができない、と電話が毎月あったのですが、思い出してみましょう。オーストラリアは日本より一時間時差が先に進んでいて、送金が仮にシドニーで朝一で行われたとしても着金があってそれが某私の古巣の銀行の豪ドル口座に着金したという処理をするのはC●t●bank Sydneyの都合とタイミング、そして、その着金したことを確認するのは彼らの同僚の海外送金部署とそこが使うシステムの確認頻度の問題なので、すでにファンドには手の出せないところなの、むしろ自社グループ内でSWIFTメッセージを使って解決する他ない、のです。というか、外部の人間が出来たら銀行の構造上問題がある話、なのですが。。。最後までわかってもらえなかったですね、内緒ですが。
(関係者の方、読んでも怒らないでくださいね。というか未だに同じことやってないか心配なのですから。)

じゃあ、このSWIFTの何が闇、だというの?

やっと本題です。ふぅ。このSWIFTの闇の話の一つの例をこんな風にしてみたいと思います。

あなたが、資金を日本政府からどうしても隠したくなって、ベリーズという中米の国に会社を作ってそこに送金したくなった、という刺激的な話にします。いや、ベリーズに会社を作って、世界中の面白そうな会社を買収していこうと思い立った、にしましょう。まぁ、送金の話をする都合上はどっちでも変わりはないのですが。。。

その際、あなたはこの記事で何度も陰日なたとなく出てくる某SMBC信託銀行にある米ドル預金口座からこのベリーズに作った会社の口座に送金する、のですが、その際にどうなるか、というと。。。

ベリーズには国際的な銀行が存在しないので、現地にあるプライベートバンクに銀行口座を作ることになります。このプライベートバンク(例えば、Atlantic International Bankというのですが)、これも当然米国内に銀行口座を持っていることもなく、どこかにコルレスバンクになってもらう必要があるのですが、幸か不幸か米国内の大手銀行から小さい銀行に至るまで銀行取引をさせてもらえません。考えてみてください。普通に考えても、日本の銀行さんは非居住者の口座は簡単に開けてくれませんし、仮に居住者であっても、法人だと口座開設のハードルはあるのですから、これと同様で誰もが簡単に米ドル口座を作れるはずがない(と思いたいのだけど、アメリカの本人確認って。。。)、のです。そこで、米国外で米ドル口座の取引のある銀行(この場合、Crown Agents Bankなのですが、個人的に聞いたことはなかったのですが、グループの日本語のサイトのあるNGO等からスピンオフした金融サービスグループの会社のようです。通りで名前からして仰々しいわけだ。)に銀行口座を開くことでコルレスバンクになってもらうことになるのですが、そのコルレスバンクすら実は米国内に銀行法人を持っていないのです。でも、幸い米国内の大手銀行(この場合、Bank of New York)に銀行口座を持つことが出来ましたので、ここがコルレスバンクにとってのコルレスバンクになるのです。絵にしてみるとこんな感じでしょうか。日本国内での送金の時にはみられない多重構造が出来上がっているのがわかります。

この時、送金元である某 SMBC信託銀行は、コルレスバンクである Citibank N.A. に対して、Bank of New York Mellon (BoNY)) に送金指示と、同時にAtlantic International Bank (AIB) にも送金したからおたくのお客の誰々の口座に入金してあげて、という指示をそれぞれ SWIFT経由ですることになるのですが、そうなると問題なのは、BoNYとAIBの間にある Crown Agents Bank にも、おたくの BoNYの口座に入金があったのはおたくの口座の一つ、AIBのものだから入金してあげて、という指示をしなければならない、のです。SWIFTにはそうするために中継地点になる intermediary bank 向けのメッセージも準備されてはいるので、個別にSWIFTメッセージを送るのにコストがかかるなどの理由で送金元のコルレスから伝えてね、的に扱うこともあるので、実はこれによって送金情報のチェーンが見失われることがあるのです。そうなると、先ほどの豪ドルの送金の話同様、送金の担保となる資金は動いているのに、どの口座に入金するのか手間取ったりその情報が適切に伝わらないから、ということで「闇に消えていく」というのです。

しかも、この多段構造、例えば前述のベリーズの会社があなたのただの投資会社ならばいいのですが、これが銀行ライセンスを取って知人たちの資金だけを管理するプライベートバンクを始める、なんて言えば。。。さらに階層が増えることになるのでより途中で送金情報が失われる可能性が高くなる、のです。

では、闇な雲の切れ目はどこにあるの?

さて、これって確かに、オフショアと呼ばれる国や地域に限定される話かというと、そうでもなさそうですよね。例えば香港やシンガポールで設立されたファンドなどにそこの通貨の送金をしようとしたら、前述のような多段構造にはそうそうならないのです。逆に、例えば日本国内でオーストラリアドルを送金しようとしたら(実務的な経験がないことから)多段構造にはなっていないけれどもこれに近い状況に陥りそうです(なので、日本国内で日本円以外を送金するのはできるけれどもかなり嫌がられますよね)。ということで、送金先の現地通貨以外の送金の場合は闇とは言わないけれどもオンショアだろうともすんなりいかないもの、と思う方が妥当なのです。
ではもし、実際に送金することになって、途中で届かなくなった、という時にどうしたら良いでしょう(そんなことになる人はそうそういないと思いますが。。。)。著者の経験から言えば次のステップで解決しています。
  1. 送金を依頼した銀行に既に現地での銀行間での送金が完了していることを確認させる  - 裏付け資産が移動していなければ情報が届いていても入金処理してもらえませんから
  2. 送金先の相手に SWIFTメッセージを渡して、その銀行に対して送金指示の証左があるのだから着金確認しているならば入金しろ、と言ってもらう – 送金指示が届かない、埋もれている、という状態ならば送っている証拠を見せてそれで対応してもらう。SWIFTメッセージが、暗号化された形で送られることもあって、その写しを見せるだけでもその指示の確証性が高いと認知されているのです。
  3. 仮に着金確認ができないから入金できない、と言われたならば、通常この場合は intemediary bank なので、その送金元は既に送金済みだからコルレスに確認しろ、と促す
  4. 最後まで諦めないで相手を動かす(爆)

まとめ

いや、これ、まとまらないって。しかも2000文字にまとめるって。。。どうしましょう(笑)Soldie での記事がどれだけ原型をとどめないか、楽しみにしてください。ってそっちのまとめか?
なんにせよ、送金業務って本来は銀行の根幹業務なのですが、外国送金ってこれまで貿易か投資か、というところで国内送金に比べて件数も多いわけではないので携わる人自体多くはなかったものだと思います。かくいう私とて、自分で送金担当部署にいたわけではないのですが。。。
とは言え、ファンド運営という観点では着金して、投資対象を買うために送金して、というのが出来てなんぼ、ですので、この辺りは他人任せにせず、また、ちゃんとスムーズにいかないことを他人のせいにして怒るのではなく、自分でタイムラインで理解してリスク管理することをオススメします。
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