組合型ファンド、ラスボス的事務:equalization

ファンドの世界でequalisation (あ、イギリス英語で書くと、ですよ。日本で最も通用しているアメリカ英語だと equalization、カタカナで書くとイクアライゼーションかイコライゼーションか、まあ、そもそも日本語で組合型ファンドにおけるこの論点をちゃんと語っているのをそもそも聞いたことがないので、以下文中は、以上のどれかで指しますが。。。)というと、このブログの中でならヘッジファンドのパフォーマンスフィーの計算の時に 、財務年度の途中で入った投資家と、年初(というかそれ以前)からずっと入っている投資家とで、年末時点のNAVを見たら、年間でそのファンドに投資したことで享受する資産の増加分が異なるので、その調整を後から入った投資家さんとファンドとの間で行い、年末になったらそれを踏まえてその時点で残っている投資家さんを全部揃えて綺麗に正月を迎える、というのがequalisation よ、という記事を書いています。

Equalisation 要は公平に、平等に

さて、組合型ファンドだって、ファーストクロージングで入った投資家ばかりではなく、セカンドだったりファイナルだったり、その他のクロージングで入る投資家さんだっている訳です。他方で、ファンドというのはファーストで入ってもらってお金をコールして集めたら投資してますよね?ということは、同じように入ったタイミングが異なることに対する調整が必要じゃないの?って気がしませんか?公平に、均等に扱う、だからequal-isation なのですが、実務的には無茶苦茶手間なのです。

かつ、海外の実例を見た上で、日本の投資事業有限責任組合のよくいう経産省雛形に基づく実務を見ていると、どうもなぁ、と思うことがあったり、さらには、これらを踏まえた時に、よく後から入ってきては、大きな顔をする某投資家が要求する話とか、ちょっと頭おかしいんじゃないの?と思うことがあるので、その辺りの、ちょっと日本のファンド業界、そんなことやってるからだめなんちゃうの?という話まで踏み込んで行こうと思います。

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ケイマン諸島にファンドを作って後悔した、って話を最近よく聞くけど、なんで相談してくれなかったの?という件

最近、色々な人がケイマン諸島に作ったけど、高いよね、面倒だよね、というのを聞くけど、そもそも、それ、本当にケイマンで作る必要があった?ってケースが多いように思って聞いています。ケイマン諸島は確かにファンドを作る意味では、世界中の「みんな」がするけど、今は21世紀、個性の時代なのだから、「みんな」と同じことをする必要があるの?

ということで、最初に大事なことを

絶対、人のいない浜辺=オフショアって思うでしょ?

実際、私のような日本に数少ない本物の、ファンドのストラクチャリングのプロはこう考えます。もう、私のビジネスのノウハウを大公開ですが、まぁ、国内のいろいろな事情を踏まえると、本当にこれで再現できる人っていないから公開するのです。

ファンドを作るときのレシピ

  • 投資対象と投資家のいる場所
  • それぞれの国や地域の法律とその書かれている言語、税金、そして
  • それらをつなぐ租税条約などの条約

すごく簡単でシンプルでしょ?で、このレシピをどう使うか、というと。。。

  1. 投資家はどこにいて、投資先はどこにある?
  2. 投資先の国の外国人に対する投資規制や税制を考える
  3. 投資家のいる国の海外投資に対する規制や税務を考える
  4. 二国間の租税条約や、その他の投資を阻害/支援する可能性のある条約を考える
  5. 検討結果として、第三国を入れることでコスト対比で税務が「劇的」に改善するか考える

あれ?ケイマンどこに行ったの?と思ったでしょ?そうなんです。実はセカンドオプションに過ぎないのです。もし、ここから先を読む時間がもう時間がない、という方は年間でそこそこコンサルフィーを頂けるノウハウを手に入れた、しめしめ、とここで離脱していただいても結構ですが、まだ時間があるぜ、という方は、なぜこのフローで考えるべきなのか、ちょっと下記のあれこれまとめたので見ていきましょう。

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オランダのプロ投資家って? – 世界のプロ投資家の世界から

いつもながら、と思いつつも、このプロ投資家って、気づいたらシリーズ化してしまい、個人的には調べて、知って、比較して楽しんでいるのですが、なかなかその楽しみというのが理解されないようです。

まぁ、それを知ってどうするの?何かのお得なの?と思うのは、当然ですよね。大抵のファンドな人からすれば、プロ投資家って人にあって出資して貰えばいいのであって、その法的根拠とか、その人に募集する際の制限なんてものはあまり気にしなくてもそれこそ「プロなんだからなんとかするでしょ」くらいに思っていても十分、プロのファンドの人の顔をしていられますからねぇ。

とはいえ、そもそも、これを調べることになった大きな理由というのが、某Ariake Secondary Fund なんて無名のケイマン諸島籍のファンドでセカンダリー投資をしていて私自身がファンドのいわゆるdirectorでUS-SECとか金融庁に諸般の登録で名前を出しつつ、コントローラーとして全ての取引の契約書のレビューと署名をしているわけですが、そうなると、セカンダリーで買ってこようとするファンドの持分の発行体であるファンドのGPにとっては新しく投資家になる新参者な訳ですので、それぞれが、その設立国や運用者のライセンス国、ファンドアドミの所在地などにおけるAML/KYTCは当然のこと、プロ投資家であることの表明保証を求めてくるのです。

で、過去の色々なプロ投資家の定義を見てわかる通り、どこかの国のプロ投資家であれば、他の国のプロ投資家として認めてくれる、なんて都合のいい話なんでどこにもなかったのですから、常にAML/KYTCだけでなく、求めてくる表明保証についてはしっかりと理解して、表明保証出来るかどうか検討する必要があるのです。

で、まぁ、ざっくりというと、それをやっていると、なんで他の(特に日本の)投資家っていうのはこんな意味のない表明保証を求められているからっていう理由だけでやっているの?という、馬鹿げたことを平気で受け入れてやっているなんていうことにも気付くし、ど直球のロジックとやんわりとしたアプローチでそんな馬鹿げた要求をまだ対応可能なものに変更させるネゴ能力もついてきた一方で、それすらしていないことが透けて見えてきた業界の人たちの顔を思い浮かべては。。。いや、これ以上言うと石を投げられるからやめておこう。

ということで、そんなことの繰り返しを気づけばもう数十ファンドでやっているため、こんなにストックが出来てしまった、という訳なのです。が、今回はなぜかオランダ。残念ながらベネルクス三国で行ったことがあるのはルクセンブルクだけでオランダには行ったことがない。とはいえ、数年前に、6ヶ月かけて一生懸命就労ビザを取って3ヶ月のインターンで受け入れた子の出身地がオランダですので、弟子のいる国、と思えば縁がある、とも言えますので、私的にはその意味では不思議はない、ということでいつものように、これ以上長い話に付き合えない方向けのセットはこちらからどうぞ。

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AMLCOとか MLROとか DMLROとか、知ってますか?準備できています? – 多分今ケイマン諸島籍ファンドで一番熱いネタの一つから

Rule is rule

常にコンテンツを書くのが遅い当ブログですので、最新の法規制の話を書こう、とすると気づくと締め切り後になりかねず、というのもありあまり触らないでおこうかな、とか思うこともあるのですが、最近だいたい2週間に一度程度、2000文字に起承転結をちゃんと入れて書かせていただいているサイトがありまして、そこでちょっと文字数少なめに取り上げた表題のネタがあるので、こちらでは普段通りのペースでちょっと書かせていただこうかな、と。クロスポストにならないように一から書きますので損はさせませんよ。

ケイマン諸島のAML/CTFはある意味OECD諸国で最先端(?)

Rule is rule大きく出てみましたが、今回のネタの確信ってここにあると個人的には思っています。何かというと、2018年の6月1日以降にケイマン諸島で設立されたファンドや、それ以前に設立されたファンドについては、その登録の有無を問わず、2018年9月30日までに、専任の Anti-Money Laundering Compliance Officer (AMLCO)、Money-laundering Reporting Officer (MLRO)とDeputy Money-laundering Reporting Officer (DMLRO)を任命して、Cayman Islands Monetary Authority (CIMA)に届け出る義務付けを行いました。

もともとケイマン諸島では AML Procedureを各ファンドが定めて投資家を受け入れる時に AML/CTF (Anti-money laundering / Combatting terrorist-financing) の調査を行うように定められていたのですが、これを一段厳しくして、この投資家 due diligence の遵法確認をする担当者を置き、またもし疑わしい場合には当局に届け出る責任者を定めるように求めた、ということです。

ファンドを設立したことのある人ならイメージはあるかもしれませんが、AML Procedure の導入前を考えると、ファンドの設立の時にファンドのスポンサーに対するdue diligence をファンドの口座開設の際に行い、その際にAML/CTFの側面での確認も行なっていました。他方で投資資金の出し手である投資家に対するdue diligence というのも一応は行なっていましたが、US-FATCA/CRSの観点での税務的側面での確認が主なものでした。となると、実は資金の大きな流れである、投資家の資金に対するAML/CTF的なチェック機能が不十分では、という問題が生じ得るのです。そこで、ケイマン諸島ではAML Procedureを導入するように規制をかけたのです。

とはいえ、その実効性という意味でいうならば、投資家の投資申し込みの手続きでの本人確認を行うのがファンド・アドミであり、現実的にその本人確認のプロセスもそのファンド・アドミの規制を行うその所在国における本人確認の要件に依存することになり、またその結果の疑わしい投資家などの情報収集という観点でも機能しづらいことが見えてきます。そこで、後者に対する対応として今回のAMLCO/MLRO/DMLROの登録制度を導入することとなったというわけです。著者の知る限り、ファンドレベルにまでAML/CTFの義務をここまで厳しく導入している国というのは実はありません。

ちなみに日本はどうなの?

日本におけるAML/CTFについては、世界的なAML/CTFへの対応強化の流れに合わせて、今年3月に金融機関等に対して従前より高いレベルでのAML/CTF対応を行う取引先 due diligence を行うようガイドラインが提示されました。このガイドラインの基本的な作りは政府間機関のひとつである金融活動作業部会 FATF (Financial Action Task Force)の第4次勧告に基づいたものでして、実は来年の後半に金融当局とランダムに選ばれた金融機関や金融商品取引業者へのヒアリングが行われてそのガイドラインの実効性や実務的組み込みの実態を調査されることになっています。特にランダムに選ばれた金融機関等というのが、悪意を持って取引を行おうとする人ならば規制に対して意識が薄かったりコスト的な観点で「狙い目」となる零細業者を入り口に選びがち、という現実を踏まえて、国内の金融当局がお勧めする「規模的にも実務的にも模範」というウィンドウドレッシングをさせない、という現実的なアプローチの検査をされる、ということなのです。

今年の前半あたりからこの辺りの実務、特にリスクベース・アプローチと呼ばれる、顧客の属性(資金の出所が怪しいとか、職業が微妙とか)だけでなく、金融商品取引業者が提供するサービスによってマネーローンダリングとかテロ組織への資金供給する可能性についても評価し、それぞれの可能性の高さによって取引開始すべきかどうか判断する、というプロセスをいかに日本中の隅々まで導入できるかがポイントになりそうです。

他方で、日本では犯罪収益移転防止法に基づく取引時における本人確認が行われてきました。この際、個人は本人確認の出来る書類(運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなど)の提示で済むのですが、法人の場合、個人を隠して取引が可能、ということで、法人の設立を証明する資料やその窓口での取引担当者の本人確認に合わせて、法人の支配的地位にある人(株主や取締役など)の情報を提供することが求められています。この考え方は日本に限らず世界中で同じように法人口座を開設する時にはその法人の支配的地位にある人の情報提供を求めます。

世界基準と日本基準の狭間には

さて、テクノロジーからサービスのクオリティまで、日本は世界の最先端にある、というのがどうも私たち日本人の矜持であり、信じるところではあるのですが、ではこの辺りの規制の実効性や妥当性という観点ではどうなのでしょうか。

FATF が2014年に定めた「透明性並び受益権に関する指針」(“FATF Guidance – Transparency and Beneficiary Ownership”)の中で、議決権保有者に関する所有権比率による基準として、数値的なものは特に決めないものの「例えば25%」と書いてあります。ということは、世界的な取り決めならば25%以下なら数値的にはどれでもよくないか?ということになり、日本は一番ゆるい25%を選んでいることになります。ええ、世界の最先端の日本が、です。

で、オフショアという金持ちの資産隠しのための楽園、ケイマン諸島での情報開示の規制はいくつか、というと、10%です。ちなみに、この10%というのはケイマン諸島だけでなく、オンショア、オフショア含めてかなり多くの国でも採用されていることが知られています。

資産を隠す、というだけではなく資産を世界中に移転させるための口座の開設や移転手続きをするために、その支配的権限をもつ個人の情報をより多く出させているのは、日本よりもオフショアだ、という事実があるのです。

じゃあ、情報を出せばいいじゃないか、と単純に思うかもしれませんが、本人確認資料を準備するのは思うほど簡単ではありません。本人が本人であり、またそこに税金を納めるだけ生活を根付かせている証拠なんてものは、その人の出生地や現在の居住地の発行する証明書であって、パスポートや運転免許証で本当に足りるかと言う問題がある一方、その写しを提出することになる訳ですからそのコピーが「本当にその写しである」という証明、そして日本人なら特に、それらの書類を発行する役所の文書が日本語である以上、「その記載内容が提出先に理解されるように翻訳され、その翻訳が正しく翻訳されている」、と言うことも証明せねばならないのです。(香港あたりだと広東語と英語の表記だからこんな問題はないんですよね。ま、役所が公用語以外の言語で責任持って公的文書を発行できるかどうか、でこう言うところに民間のコストが増加させてるんですよね。国内の手続きの効率化だけに止まらない話ですよね、この英語問題って。)

日本においてファンドレベルでのAML/CFT確認は必要?

さて、ちょっと話を別の角度から見たいと思います。

日本においては通常の有価証券等の取引というのは銀行か証券会社を経由して行われるケースがほとんどですので、これらの金融機関の口座開設時点での調査や継続的なモニタリングによる口座の実質的保有者の素性確認を行い続けていれば、公募や私募の国内投信や会社型ファンドの投資家に関するチェックが間接的に行われていることになるので、ファンドレベルで改めて調査を行う必要はない、と考えることが可能です。だから、日本でファンドレベルの調査なんて不要じゃないか、と結論づけるのはちょっと尚早です。

これらの金融機関の証券口座を作らずに投資できるファンド、というものが存在する、としたらどうでしょう。ケースは理論的には二つ考えられます。

一つは日本に取引口座を開設していない海外投資家が直接投資しようとするケース。これは国内のファンドが海外で募集したら、という話ですが、技術的には国内ファンドをマスターファンドにして、海外投資家向けの外国籍フィーダーファンドを作ってそこで投資家を受け入れる、なんてことがあれば、外国投資家が直接マスターに投資させろ、と言ってもおかしくはない、のです。ま、受け入れないことで事務的に発生させない可能性が高い話ではありますが。。。

もう一つは、現実に今そこにあるケースです。例えば プライベート・エクイティファンドやベンチャーキャピタルファンドで使われる投資事業有限責任組合スキームの場合、証券会社にその持分を販売させる、ということをほぼしませんし、通常よくわかっているプロ投資家相手ですから、直接の取引をするのがほとんどです。

とはいえ、これもいわゆる金商法第63条の適格機関投資家向け特例業務の登録をして一人の適格機関投資家と複数のプロじゃない個人向けの投資家を持ってくるという使い道をすると、プロじゃない個人投資家も直接投資することになります。銀行から組合に送金しながら組合契約にサインすればいいだけですからね。それなりの金額ですから銀行は送金の目的を確認しますが、ファンドのための調査ではなく、自身の取引に対するAML/CTFへの関与の有無のチェックに過ぎないのです。

言い方は悪いのですが、この手のスキームを使って個人から資金集めしたい、というニーズの背景に規制対応が面倒、コストが掛かる、というものが聞こえる一方で、じゃあ、その手間を惜しんで投資家保護の措置をちゃんと自主的に取っているか、といえばかなり否定的に見ざるを得ません。そんな世界ですので、AML/CTFに対する意識があるかといえば。。。

とはいえ、いわゆる63条業者と呼ばれる人たちはまだまし、です。それでもギリギリ法律の免除規定を使おうという努力と、最近ではかなりスタンダードの高くなった年次の事業報告を当局にしよう、と思っているからです。もっとひどい(!)のは、「コンプライアンスのスペシャリストが考え出した完璧な抜け道」と称して使っている「合同会社」を使った投資スキーム(と呼べるかどうかすら疑問な手口)です。金商法上、いわゆる2項証券ということで組合持分と同じ扱いであることから、その私募というのが適格機関投資家ではない投資家は最大500名まで募集することが出来る、という読み方をして、かつ直接縁故的に自分たちから営業せずに受け身にメーリングリストで自主的に申し込ませたりウェブサイトからの問い合わせ、といった、いわゆるリバース・ソリシテーションで合同会社の社員を集めれば募集行為にすら当たらないじゃない、的にやっているケースですね。ここまでくると、自分たちは金商法の外の世界だと考えている節もあるほどですから、AML/CTF意識なんて皆無、というか自身のMLのためにやっているんじゃないか、と思えるくらいです(ごめん、でも、正直そんな話に以前昔出くわしたからはっきり言わせてもらう)。と言いながらも、前述の通り、合同組合の持分は金商法の取り扱いの範囲内です。ですので、会社の事業として株式を取得することだ、といって自己運用するのは、自分の資産のためならばまだしも、赤の他人を巻き込むならば、63条特例業務くらいは届け出ろよ、と言う感じです。でも、これも間違えて投資するとなると、当然証券会社等を経由しないで持分の取得が可能なものなのですからこれらの金融機関でファンドの資金に対するAML/CTFの確認が抜け落ちるケースでもあるのです。

最近このスキームを使って投資家を集めているエンゲージメント投資が数件いると言う話を聞いたので、警鐘を鳴らす意味でちょっと触れて見ました。

まとめ

と言うことを考えてみると、実は金融機関以外にもファンドに資金がプールされて投資に振り向けられる以上は金融機関と同じように資金の流れをカバーする限りにおいてはAML/CTFのゲートキーパーにならざるを得ない、と言う世界的な潮流についていく必要があるのかもしれません。

ファンドを立ち上げて運営する、って格好のいい話です。でも、第三者のお金を責任持って運用する、と言うのはリターンを投資家に提供する前に、それ相当の社会的責任を負う話でもある以上、世の中がAML/CTFに対して厳しい姿勢を打ちだそうとするならば、それに追随するのもファンドがより社会のための器としての認知されるためには当然のこと、とこの投資の世界のエコシステムにいる人たちや入ってきたいと考える人たちに考えて欲しい、と思う次第です。

なぜプライベート資産への投資ってLPS / 組合方式を使うの?

投資ストラクチャーは喧々諤々やって決まるものです。

最近の私自身の個人的興味が投資信託形式でのストラクチャード・ファンドのようなリテール向けの世界からプライベート資産への投資の世界にそのウェイトが大きくなってきている中で、同様にこのプライベート資産への投資についてはこの投資難のご時世においては機関投資家の注目も上がってきていることもあり、その投資スキームへの問い合わせ、というより、なぜ従来までの上場株式や債券投資で使われている投資スキームが使えないのか、という問い合わせを受けることが増えてきました。

そこで、なぜプライベート資産への投資において、上場株などの慣れ親しんだ投資で使う投信と比べて、会計処理も投資の手続きも異なる組合方式を使うことになるのか、例によって分解しながら説明していこうかと思います。

その前に上場株式や債券投資では何が起きているのかを見ると

さて、いわゆる投資信託とかヘッジファンドといった”パブリック”な資産への投資をするファンドを考えてみたいと思います。

この資産クラス、一番わかりやすいのは上場株式の中でも、日中の取引高が比較的多い銘柄や外国為替あたりのいつでも売り買いできると考えやすいものを手始めに検討するならば、投資戦略として○○な条件に合致する銘柄を一定のルールで分散して(最近ならば厳選した2○銘柄に集中して、とかいうのもありますが)投資します、と設定すれば、よほどのマーケットクラッシュの起きている状況でなければ売買可能ですので、いつでも(戦略の持つ投資許容サイズの範囲ならば)幾らでも投資資金が入ってきても翌日以降の比較的早い段階で投資可能な状態にありますし、投資資金の引き上げに対しても現金化が比較的早く行うことが出来ます。こうなるといつでも不特定多数の投資家がファンドに参加し、また投資から撤退したいと思った時に出来るような仕組みを導入することが投資家にとっても、(投資家の資金には長くいて欲しいとは思うものの)ファンドを運営する側にとってもメリットがあります。

まぁ、この仕組みや取引する市場の流動性の都合、そして税制などのファンドの制度上の都合などからこの都合上お金が入ってきたらすぐに買えるものを買わねばならないことで、戦略で投資できる以上にお金が集まってしまうと戦略上ベストじゃないものを無理無理買ってパフォーマンスを落とさざるを得ない状態に陥る可能性もあるし、例えば全面安が読めるからポジションを全て現金化しちゃえ、とポートフォリオを全部現金にして置いておく、と言った大胆なことをすることが許されていないケース、というのもあるのですが。。。

ファンドの3つ仕組み、信託・ユニットトラスト、会社型、組合形式、で言うならば信託・ユニットトラストや会社型がこれら不特定多数の投資家が随時、その時々のポートフォリオの持分を切り売りするように設計されています。ポイントは、この「ポートフォリオの切り売り」というところで、例えば、その時のポートフォリオの1億円相当の持分を購入する、といってファンドに1億円を払えばその持分が交付されますが、投資家としてはその持分に支払うことで追加の債務や費用負担をすることがありません。もしファンドに取引や維持のための費用が発生するならばそこから支弁されますし、仮に投資が失敗したとしても、その一億円を超えて損失を負担することもありませんし、追加出資の義務もありません。この辺りは投資信託等に投資したことのある人ならばごく普通のこと、と感じるかと思います。

プライベート投資 – いつ投資出来るかわからないことにどう対応するか?

さて、プライベート投資を前述と比較しながら見てきましょう。

プライベート投資は一般的に投資がいつでも出来るものではありません。(誤解を承知で書くならば)上場株のように取引市場が存在して一つの銘柄に対して潤沢な量の証券が発行されていて、いつでも誰かが売り買い出来るように(HFT – 高頻度取引 – マネジャーのような)マーケットメイクしてくれる、なんてことはなく、都心の一等地の土地建物のようにそこに唯一存在する稀少性の高い不動産の取得案件がそう多くないように、気に入った企業のオーナー株主さんに数年かけて頼み込んで(でもいいし、仲良くなって飲みに行って心からの信頼を得てでもいいし、なんにせよ)世の中にそれしかないユニークな企業の株の大多数を引き受け「させて頂く」ことで初めてその企業の所有権と経営権を手にして思い描いた企業運営を始められる、とか、そういう努力の結果においてそんな隠れた私有企業の取得の際に融資を一緒になって行える、という投資機会なのです。

とすると、プライベート資産への投資機会は「年間で、そうだなぁ、うちのチームだと3-4件程度、一件あたりのチケットサイズが2-30億円くらい(すみません、どことは言いません。でもこれくらいのサイズ感の運用者さんとよくお話をさせて頂いていたので。。。)」という将来の予想は語れるものの、今この時点で買います!という確実な取引は存在しない可能性が極めて高い(まぁ、とはいうものの、そろそろ買える案件があるので、ということでプライベート資産への投資ファンドのファンドレイズにおいて説明しながらファーストクローズ – ファンドの最初の買収案件の決済のための資金調達 – を目指す訳なのですが。。。)のです。であれば、この瞬間にお金を預けてしまうより、案件がいついつに決済になるので、その数日前に送金してください、という投資資金がファンドの銀行口座で眠っているより投資家の手元で他に有効利用される方がよさそうです。

とすると、プライベート資産への投資するファンドというのは、パブリック資産への投資でいうならば、投資対象資産とその銘柄選別のための戦略に基づくポートフォリオに投資する、というよりは運用者のストックピックの能力の巧拙を品定めするかのごとく、運用者の投資案件の発掘から投資実行、そして回収といった一連のプロセスに対する投資ということになる一方で、資金の出入りだけ見てしまうと、運用者の作る将来の投資機会に対する出資約束とその実行、という将来債務を最初に負うこと、と理解できます。

この場合、ファンドの3形態のうち、会社型も信託・ユニットトラスト形式も、形は何であれ投資家に対して債務を要求する仕掛けにはなっていませんので、前述のような将来の出資の約束とその実行ということがこれらの仕組を使う限りにおいては実現可能とは思えてきませんね。そこで、組合形式の登場となるのです。

一応組合形式って説明するならば。。。

日本の法体系でお話をするならば、民法において、複数の個人や法人が出資して共同で事業を行うことについて合意する契約を組合契約と言います。これは世の中では任意組合として知られていますが、これに類するもので商行為を行うための商法上で規定されているのが匿名組合、あとはこのブログで何度か紹介している、投資事業有限責任組合法に基づいて設定される投資事業有限責任組合(日本版 LPS)とか、名前的には似ているものの根拠法が別になる、有限責任事業組合法に基づく有限責任事業組合 (世に言うLLP)なんかがあります。

あれ、健康保険組合とか、労働組合、生協だって生活協同組合だし、銀行っぽい信用組合(しんくみ、しんそ)だってそうでしょ?マンションの管理組合とかも組合って名前についてるじゃない?

ですよね。この辺りになると、確かに同じように一定の目的としての事業を行うために組合員から出資を受けて活動している、といえばその通りですよね。これらもそのための特別な法律を根拠にして設立されているのです。が、投資の世界で使うといえば、LPSかクラウドファンディングに使われる匿名組合あたりですので、ここではこれらに絞ることにします。

組合って前述のように、同じ志を持った人たちが一つの契約にみんなで揃って署名捺印して必要に応じて出資し、その結果の投資の果実を配分されて享受する、と言う仕組です。ですので、出資も締結した組合の成立日に全額行う、と定めずに必要に応じて出資をする形でも良いため、前述のようなキャッシュフローに対応できる、と言う訳なのです。

また、組合員の間での利益分配や出資割合についても契約上柔軟に定めることが出来るので、例えば特定の組合員がこの案件の出資は気にくわないからしない/都合上出来ないからしない、と言うような出資しない選択肢を与えることが出来ますし、その結果、その参加しなかった案件からの収益配分に当然に参加させない、といったことが出来ます。これはポートフォリオの持分を均等に配分される信託・ユニットトラストや会社型では実現できないことです。

と言うことは、実は組合ってすごくいいスキームなんじゃないの?なんで投資信託とかに使わないの?

って、そんな声が聞こえてきそうですよね。実際、アメリカからのヘッジファンド投資なんかでは、デラウェア州LPSとかを使うケースも多いそうです。事実、組合を締結したその日に出資約束額の全額を入金すれば通常の投信や会社型ファンドへの投資とあまり違いがなさそうに見えますしね。これはアメリカの税制に依るところが大きくて、ファンドの費用を純資産額の減少として扱うより、自分の支払った費用として認識する方が個人であっても税務上メリットが得られるケースがあるから、のようなのです。って、なぜ投資信託や株式ではそんな費用の計上を投資家サイドでせねばならないようなことが組合だと発生するのでしょうか。

実は、組合は事業共同体と言う性質から法人格が認められないそうなのです。となると、組合で行った事業の収支(と言うことは費用の支払いや資産売却益)や資産・負債の状況はその持分に合わせて投資家自身が直接行っているかのように取り扱わなければならない、のです。

日本でこれを実際に行うと何が起こるかと言うと。。。投資関連費用を毎年損金計上出来るならばする一方で投資対象を売却したらその年にキャピタルゲインとして納税申告する必要がある、のです。と言うことは。。。ほぼ毎年確定申告せねばならない、と言う意味です。

投資信託経由で投資している場合に、こんな手間はそうそうないですよね。なにせ費用は純資産額の減額ですし、保有有価証券は時価評価で純資産額が上下動するだけだし、投資対象が売却されたとしても純資産額の変動からは何が起きているか事細かにわかることもないのです。言い換えると、個別の投資対象の売却益をいちいち税務報告する必要がないのです。自分で税務的にしなければいけないのは、その投資信託を売却した時ですので、投資信託の保有期間に発生したファンドの中でのキャピタルゲインについては税務的にその利益が繰り延べられているのです。多分個人投資家は嫌がりますよね。

まぁ、いわゆるプライベートエクイティ投資と認知されているバイアウト戦略だとどうしても一口10億円(それより小額は要相談)からの、出来るだけプロの機関投資家向けで投資家の数も限定的に、仮にベンチャーキャピタル投資であっても投資額はより小額かも知れないものの10社投資して1社当たればいい、と言う個人が投資するにはハイリスクハイリターンそのものという世界ですので個人が入るには別の意味でも敷居が本来は高い投資ではあるのですが。。。

じゃあ、その逆で、投資信託でプライベート投資って出来ないの?

当然、考えますよね。日本人ですから。まぁ、そこが海外から理解してもらえないところでもあるのですが。。。

実際のところ、出来なくはない、と言う言い方をするしかないのです。かなり色々なところに歪みを生みながら、実際にやっちゃっている人たちがいます。

例えば。。。一番大きいところで、GPIF (年金積立金管理運用独立行政法人)さんの初の海外インフラ投資案件。これはパブリックだから言ってもいいですよね。インフラ投資もプライベート資産への投資の一環でして、初の投資で投資信託を使っているんですね。

私の知人のインド人がインドで株式投資をするにあたって未上場の頃から投資して、上場後も大きく育つまで付き合うと言う戦略を取っているファンドの運営方法を取っている、と言っていましたが、こちらも投資信託とほぼ同じインド籍のオープンエンドファンド。

まぁ、日本の投資信託ですと投資対象の流動性を、特に公募ファンドにおいてはかなり厳しく見ているのでそんなインドのファンドに投資することは出来ないですし、GPIFさんのケースも確か外貨建てですので日本の投資信託では私募であっても実現不可能(信託さんには日本の会計基準で外貨を扱えないですからね)。なので、どれもこれも海外だから出来ている、と言う言い方も出来る、のですが、上記の二つではちょっと事情が異なるのです。

インドが特別、ではなくて、流動性への考え方が異なる

まず、インドのケース。もし上記を見た投資信託協会か信託協会の関係者か、投信会社の人ならば、インドのルールが日本と異なって緩いからだよ、と言って切り捨てそうですが、実際のところ、未上場の時点での各銘柄への投資額はファンドの1%程度。投資後数年見てさらに目が出そうと思ったらアロケーションを増やしていくと言う戦略です。となるとそうやって育った結果、だいたい5年から7年くらいで手仕舞うか、するようなのですが、その頃にはだいたい3-5%程度のアロケーションをしているのです。日本の投資信託の分散どころじゃないですよ。UCITS準拠なくらいです。しかも、そこそこ大きい受託資産を抱えるファンドですので、そうやって成長した銘柄の卒業がちょうど流動性を担保できるような仕組みになっているので。

まさにこれはインドの投資信託が始まってからずっと運用し続けてきただけある、のです。常にプライベート資産への投資ポケットが存在する、だからいつ来ても投資可能、と出来る技なのです。通常なら待機資金をどうするの?と悩むところをこうやって解決するって、ある意味順当な話ではあるのですが。。。

じゃあ、GPIFさんは?

こちらは、実際に担当者に直接聞いたわけではないのですが、関わった関係者や、関わっただろう関係者たちの話を聞く限りでは、キャピタルコールに対応するようにしている、ようなのです。あれ?投資信託/ユニットトラストにはキャピタルコールのような組合形式で投資家が負うような債務というのを投資家が負うことはなかったはず、ですよね。ある意味投資家が自発的に追加投資をしない限り投資信託/ユニットトラストにはお金を入れる理由がない、のです。なので、普通に考えると、当初設定時点に予定投資先のコミットメント額を全額突っ込んでおく、というIRRの低下を無視した方法で実現する、と考えがち、なのです。

しかも、今は投資家の目線で話していますが、ユニットトラストを設定するにはtrustee / 受託者がいるのですが、このようなスキームですと投資対象となる組合に対しては自分が投資家になるのですから、組合員としての債務を負うことになります。片や債務を負い、もう片方に対して遡求できる仕掛けがないので、受託者はそんなリスクは通常取りたくない、のです。これが投資信託/ユニットトラストを使ってプライベート資産への投資を行うにあたって直面する問題、なのです。

さてこれをどうしたか。。というと。。。内緒です。これだけで多分数百万円単位のコンサルフィーを頂けるとお話なので(嘘)

ま、一言だけ言えば、これが出来たからと言って、公募投信には出来ません(やってる人は知ってますが)から、手頃にプライベート資産への投資が個人に手の届くようにできる、という話ではありません。でも、これを使ってプライベート資産への投資をしているのが、本当に国内でちゃんとしている機関投資家たちなので、出来ない話ではない、でもあれこれ関係者たちの苦労が通常より嵩んでいるんだろうな、ということは予想できます。実際、そのおかげでの副次的メリットも享受しているそうなので。。。おっと、これ以上多くは言えない言えない。。。

まとめ

と考えると、個人投資家の方へのコメントとしては。。。未公開株への投資、とか色々と個人、特に高齢の方への誘惑は多いと思いますが、こういう仕組み一つとって見ても、rest of us (普通な私たち)にこの手のハイリターンかもしれないけど、どう見てもハイリスクで投資にはコスト高な投資、というのは実はちょっと割りが合わない、と思って構えて見たほうが安心なんですよ、とFP的には言いたいです。

で、ストラクチャラー的に言えば、まぁ、この領域って実のところ、かなりフォーメーションって固まっているのでこう言ったちょっとしたイノベーションを加えるのって楽しいんですよねぇ。とは言え、関係者の制約条件の中でどこまで頑張ってみんなにとってメリットのある仕組みが作れるか、は腕と知恵の見せ所ですので、そういう機会にまた早く巡り会いたいものです。

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