ファンドにおける中立性は誰の為といえば、投資家の為。

こんなべたなことがあったとは到底思わないけど でもねぇ。。。sigh

こんなべたなことがあったとは到底思わないけど でもねぇ。。。sigh最近、「わが社に新人が入った時に(本ブログを)読ませるようにしています。」と、言って頂くことがあり、ちょっと内容以上に文調(と誤字脱字)に慎重にならねば、なんて思って書くペースが遅くなってます。ごめんなさい。

さて、いきなりの表題、何があったんだ、と思われそうですが、ご存知の通り著者は第三者がファンドに関与することで最終的に世界的な標準となっているファンド・ガバナンスが適切に機能したファンドを日本市場で理解を得て、普及していきたいと考えて仕事の機会を頂戴したり、こうやってインターネットの隅っこでいろいろ書かせていただいている(と上記の事情で舌を噛みそうな言葉使いになっております。。。)のですが、そんな中、ちょっと残念なニュースが飛び込んできたのでご紹介しつつ、表題の目指すところについてちょっと私情全開で書かせていただこうかと思います。

独立系ファンド・アドミが詐欺行為に幇助?

こんなニュースが今月とびこんできました。

Private Fund Administrator Charged With Gatekeeper Failures

ざっくりとした内容は次の通りです(が、当局のプレスリリースですので、内容の正確性はプレスリリースをご覧いただき、個人個人でGoogle Translation など使って翻訳するなりして理解してください。下記は著者のいつものざっくり要約ですので正確性は保証しません!)

米国SEC はファンドに事務代行業務を提供する会社が、2つの顧客に関して、その問題に対して留意せず、また不完全な会計処理を修正しなかったことに対して、350,000米ドル以上の罰金を支払うことに同意したことを公表しました。

Apex Fund Services (US) が明白な詐欺の兆候を見逃し、もしくは無視し、米国SEC から詐欺として処分を受けた二つのファンドと契約して、帳簿を記録して財務諸表を作り、そしてそれぞれのファンドの投資家向けの報告書を作成していたことを米国SEC が調査していました。

「ファンド・アドミはファンドの資産評価とその存在について正しい情報を提供することを確実にする責務を負っているが、Apex はそのゲートキーパーとしての役割を果たさず、SEC の介入までの間それぞれの運用会社の固執するスキームを本質的に可能とさせていた」とSECの高官は説明してた。(以下略)

ファンド・アドミが果たすべき役割とは?

ここで興味深いのは、米国金融当局はファンド・アドミがファンドのゲートキーパーとしての責務を果たすべき、と考えている、ということです。言い換えるならば、ファンドが投資家の資産として適切にファンドの契約書などに記載されているように運用に使われるかどうか、ということを監視する役目としてファンド・アドミに期待されている、ということなのです。

これは、Madoff 事件以降の米国当局のスタンスとして捉えるべきことでもあると思います。それまでアメリカではヘッジファンドの運用とアドミを運用者が兼務する、もしくは運用者の関連会社が行うことで費用を抑えるなどの効果を求めていたところ、Madoff 事件を受けて運用者とアドミの間に資本関係のないことを求めているのです。その意味ではアドミにはより中立的な立場(もしくは少なくとも運用者に相対する立場)でファンドの運営の管理を期待されていた、ということでもあったのです。

ところが、今回の事件においては、第三者的立場でファンドの運営にかかわるべきだったファンドアドミが、運用者のある意味いいなりになって運用に関連性の薄い送金先に送金を行ったり、ファンドの評価や投資家の持分について誤ったまま投資家に送付し続けていた、というところに、詐欺事件の幇助ということも手伝って当局の期待を満たさなかったと言う事での罰金処分となったと言えます。

では、一般的にアドミに求められるものは何でしょう。

ファンドの運営に関する事務一般を執行すること、というのが基本にある中で、ファンドの評価や資金や証券と言った保有資産の保有・移転に関する指示(保有自身はカストディアンが行います)、投資家の異動(投資持ち分の購入による保有者としての名義登録や、譲渡に基づく持ち分移動の記録、そして売却に基づく地位喪失といった履歴や個別投資家の持ち分管理自体はトランスファーエージェント、日本で言うところの名簿管理・名義書換業務にあたりますが、通常兼務するか投資家管理に特化した兄弟会社に実務を集約するので、アドミが一元的に窓口になるケースが一般的ですので、厳密にはアドミの仕事ではないものの、広義の意味でアドミの業務としてここでは扱うとします)やそれに関連して投資家の(FATCA/CRS対応を含めた)本人確認などが通常期待されています。

これらの業務は投資・運用からみると比較的「受け身」になりがちなのは、それらの業務が指示や依頼を端として業務が始まることが大きい事や、その性質上独自の判断や情報(資産評価情報は特に)に基づいて行うことが極めて少なく、また与えられた指示や情報に基づいて行った作業結果に誤りがあった場合の影響の大きさもあるため、でもあります。そのため、アドミ契約をよく見ると結構免責条項が入っている、と言われるのですが、自らの事務エラーではない限りは外部からの情報に極めて多くを依拠しているので自らを守る必要性が高くなっている今は当然に求められるものではありますし、では依頼されたものはすべてやるから免責か、というと対投資家などを考えてファンドの契約書関連にないことはしない、とすることでファンドのために役割を果たす、という立ち位置を明確にしているものがほとんど、ではあるのです。

では、この業務上の役割から要請されるものと、前述の行政当局が期待するものとの間に不整合があったのか、というと個人的には基本的にはないはず、と思う一方で、AIJ 事件以降に年金の資産を受託する日本の信託銀行に対する過度の期待に似たものがあるのでは、という感覚が残るのは正直なところではあります。それは比較的受け身になりがちな業務に指示や情報の再精査を積極的に求めている、というところの温度差、でしょうか。現実問題として、ファンドの契約書にない払い先などについては、当然に見つけ出してしかるべきところですので、温度差であって実務上は基本的には組み込まれているもの、だとは思うのです。

とすれば今回の問題は、ゲートキーパー機能への疑念、という取り上げ方をされていますが、実質的なアドミのファンドの諸々の契約書類に書かれた業務の不適切な執行であり、適切な執行への故意もしくは重過失での不作為であった、と理解する方がすんなり腹に落ちるのかもしれません。

今回の事件の意味するところ

これがすべて、だとは思わないものの 波及的効果だけは起きてほしくないなぁ、とさて、今回の事件から私たちは何を学ぶべきなのでしょうか。

いろいろな解釈が可能になってしまいました。

一番願わしくない解釈はこうでしょう。

「だから、独立系のアドミは信頼ならない。はやり大手企業系ですべてを抱えてその企業の責任としてファンドを管理運営せねばならない。」

果たして本当ですか?残念ながら、大手銀行系アドミによる毎年のNAV算出のエラーに基づく損害賠償金の額は年々増えているそうです。これは米系だから、欧州系だから、(もちろん日系だから)では片付かない問題になっていますし、だからこそ前述のアドミ契約での免責条項にNAV算出に関する免責が年々長くなっていることでもあるのです。

また、前述のオフショアを中心とした海外のファンドの潮流としての、ファンド運営の第三者性の担保という話に思いっきり逆行している話だということにも気付いてほしいところです。当然に一つの案件からの収益の抱え込みは企業グループにとっては効率的な収益源になるため狙いたいのは分かりますし、商品販売の際に、「グループで責任もって面倒見ています!」という言い方をしたいのもよくわかります。でも、ファンドの関係者間の利益相反をどうやって解決するのか、考えてください。ファンドは誰の投資のためであって、誰の利益を最終的に最大化するのか(それはフィーの値下げで利益幅をわずかに広げるのが最大化と呼ばないことにも気付くべきことです)、今一度考えて頂きたいところです。

これ以上書くと某社さんの上層部から怒られそうですので、次の解釈に。

「外部のアドミでも結託可能なのか。じゃあ、詐欺案件出来そうなアドミ、小さいところをだまし込んで。。。」

えっと、なめるなよ(怒)では次。

「外部のアドミでも結託される可能性があるのか。そうしたらむしろ自社のアカウントに運用権限を与える形での運用に限定するかな。。。」

大手機関投資家さまでしたら、確かに可能なお話です。マネージド・アカウントの元々の発想がそうですから、アリだと思いますが、失礼ながら御社の事務担当の方が付いてこられるでしょうか。。。

「外部のアドミでも信頼を汚されるリスクがあるならやはり内製化したほうが。。。」

ちょっと待ってください。今回は詐欺の意図をもった運用者がまずありきなのです。しかも一人はSEC登録しないで運営していたくらいなので、詐欺師は法の外からやってくるのです。ですので、大事なことは、ファンドの関係各社を見て、適切な情報開示を要求して対応することを見ながら、このファンドが信頼できるのかどうか投資家が判断して詐欺案件に捕まらないようにする、ことでもあるのです。

「AIJ の時も独立系だったので、独立系なんてもう信じない。やっぱり確固たる企業系列の会社さんにおねがいするのが確実では」

仰ることはよくわかります。悔しいかな、運用についてもパフォーマンスと同じくらい運用会社の知名度が投資選択の際の重要視される要素になっているのも事実ですから、アドミにしても当然のお話なのです。

ですが、大手の画一的な装置産業的なアドミサービスがある一方で、中堅以下では個別対応をすることで柔軟なサービスの対応が可能になるアドミサービスが存在し、また、運用金額のサイズで大手の方がキャパシティーが合う、小さすぎて大手では受けないので中堅に、というようなすみ分けがなされているのが現状です。また、10年も昔では銀行系のアドミがほとんどであったこの世界も、今では銀行系以上に独立系/プライベートエクイティの投資を受けたアドミが徐々に数を増やしているので、その中から選別を進めていくことになりますし、当然のことながら、今回のような事件があると淘汰されるきっかけになってしまう、ということなので、そこは表層だけを眺めるという機能停止にならないで頂きたいなぁ、というのが個人的な見解であり、願いでもあります。

「じゃあ、アドミは今後どうしたらいいのでしょう。」

基本に立ち返って、アドミとしての業務がなんであり、何をして何をしてはいけないのか、それが起きないようにするにはどういう仕組みを組織に導入すべきなのか、それを考えていくしかないのでしょうね。特に今回のリリースを読む限り、担当者レベルでの幇助なのか、それともチームごとなのか、ということが分からないため判断しづらいところではあるのですが、他方で、そもそもそういうことが可能になる管理体制を本来は問うべきところでしょう。これは知人を介して聞ければとは思っているのですが、いずれにせよ、その改善なくば少なくとも日本では次に進めないだろうな、というのも、これは誰もが思うところかと思います。

じゃあ、普通に仕事をしている私たちは安泰かというと、いい機会なのでそういうことが出来ない仕組みになっているのか見直すいい機会かもしれません。こういう時に使われるテクニックであるソーシャルエンジニアリングとはそういうないと思われている隙間をほころびから広げていくものですから、常に業務プロセスを評価し、またその評価方法も適切な評価が出来るのか評価しなおす、という意識も必要になると思われます。

まとめ(本当にまとまる?)

AIJの時がいい例なのですが、一社が事故を起こすと、同業他社に影響が起こるのがどうも金融系のこの業界の常のようですが、他方で、この手の問題は一社だけの問題として自社には関係ない、と放置できないのも現実です。ですので、ちょうど2016年も半期を終えたところ、ということで自社の運営方法の再評価のタイミングと捉えてみるのもいいのかもしれませんし、投資家や運用者の方々に申し上げたいのは、とはいえ、業界の問題か、業界の一部分の問題か、一社の問題か、一社の一部の問題か、という切り分けを手間が掛るもののしてフェアな目で見て頂けたら、と切に願うばかり、です。

AIMA Japan フォーラム 2016 、無事終わりました!

白木さん、3年間の会長職お疲れ様でした。

白木さん、3年間の会長職お疲れ様でした。
白木さん、3年間の会長職お疲れ様でした。
このブログを読んで頂いている方の半分は多分ご存知のことと思いますが、このブログの筆者は世界的なヘッジファンドの業界団体、Alternative Investment Management Association (AIMA) の日本での活動の2009年からお手伝いをさせて頂いておりまして(と、今、こちらのウェブサイトでの自己紹介をみて確認しました。もう7年もお手伝いしていたか。。。)、特に私の得意分野、というより、出来ることが翻訳作業とプロセス管理、というところで、業界標準となっているヘッジファンドの関係者の調査をするための Due Diligence Format の翻訳をしつつ、年次で開催しております一日がかりのイベントの担当をさせて頂いております。

今年も東証ホールで6月8日に開催いたしましたが、当日の参加者の方たちから結構好評を頂いたので、ちょっとどんな会だったのか、こちらでご紹介したいと思います。

AIMA Japan フォーラムってなにするの?

ざっくり言えば、一日掛けていろいろなプレゼンテーションやパネルディスカッションを聞くことでヘッジファンドを中心としたオルタナ投資の今、が分かるイベントです。

今年は(気付いたら)特に話の軸になるテーマを決めずに演目が一気に埋まった(というより、アイデアが集まりすぎてスロットを増やすために一つ一つのスロットを35分、と平均的な大人の集中力の持続可能な時間すれすれに縮めて、それでも一つ演目を諦めた、という裏話もあります)のですが、例年はその年の市場の注目すること、例えば昨年ならば「日本でのコーポレートガバナンスコードの導入とその影響」、のようなものを軸にして、それぞれの演目が構成されていきます。

今年は前述の通り特に軸になるテーマはなかったものの、自然とコーポレートガバナンスコードが導入されて一年経ったことに対する評価であったり、アベノミクスの第三の矢の話だったり、投資家の動向調査であったり、当局の規制の直近のアップデートであったり、パナマ文書の影響までも入った、タイムリーな話が盛りだくさんな会になりました。そのお陰もあってどのセッションにおいても会場のかなりの席が埋まる、という大盛況な会になりました。

ちなみに、今回の内容については、オフレコの内容もそれなりにあったこともあり、総括もしないでおこうと思います。じゃないと、来なくてもわかる、では困りますからね(笑)

ちなみに Educational Sessions というのもやってます(笑)

はい、昨年は実はAIMA Hedge Fund Forum として10周年を迎えた年でしたので、ちょっと記念ということもあり、それ以上に、国内での新しい世代の関係者をもっと増やしていきたい、ということを執行委員の間で議論されたこともあって、メイン・イベントの前日の午後の2時間に教育的な無料セッションを行うことで、いわゆる若手の人たちが気軽に参加して学んでもらえるようなイベントを始めよう、という試みがされました。
で、これが思った以上に好評だったので、今年もやったのですが、こちらも登録者数も実参加者数も前年を上回る結果となりました。今年は特に、スピーカーがすべて英語圏の人たち(と言いつつ、一人は頑張って日本語で話してくれましたが。。。)でしたので、英語に自信の持てない人たちから参加しづらい、という声を頂き、急きょ同時通訳を入れることを決めました。それも増員の一因になったようです。

今年はそんなによかったの?

おかげさまで、スポンサー数が過去最高で、事前登録数もスポンサー様による招待を含めて過去最高、そして、実参加者数もまだ正確な数字を見ていませんが過去最高水準になると実感しています。一番席が埋まっていなかったセッションですら空席がそんなに見られませんでしたから。

で、今年はなんでそんなによかったの?

CFA Institutes の CEO は Paul Smith さんといいます。どこかで聞いたことがあるような。。。
CFA Institutes の CEO は Paul Smith さんといいます。どこかで聞いたことがあるような。。。

なんででしょうねぇ。多分、私以上に(笑)オルタナ投資のマニアならば、AIMA とオルタナ投資の分析に関する世界的な資格である CAIA (Certified Alternative Investment Analyst) を提供する教育機関CAIA Association、そして証券アナリストの世界的な資格、Chartered Financial Analyst の組織、CFA InstitutesのそれぞれのCEO が一堂に会した、という世界的にも稀な場になった、というのがあるものの、そんなのは本当にマニア向けの話であって(笑)、

例えば基調講演に、河野太郎国務大臣と日銀の原田委員にそれぞれお願いしたことで、政府と中央銀行のそれぞれから、それぞれの立場で何に注目し、何をしようとしているのかが聞けるのでは、という期待感が高まったから、というのは一つ大きかったのかと理解しています。

また、正直そんなに安くはない参加費用ですのでそれでも聞きたい、と思って頂けた方が増えたのも一因だと思いますが、他方で、過去最大のスポンサー数だったことから、スポンサー各社さんのお声がけで招待されて関心を持って来て頂けた方も自然と過去最高になったのも当然にあるかと思います。

でも、無料だと案外あっさりといかなくてもいいや、と思いがちのところを実参加者数としても通常の会だと70%程度のところを上回るのはいつもながら、本当に関心を持って参加を受けて頂いている方が多いんだな、という熱意でもあり、こちらは開催する側からすれば毎度とても感謝しているところです。

スポンサーの数が過去最大になったことについてもちょっと考えてみたいと思います。実は、毎年スポンサーの方にスポンサーのお願いをするのが年明けも4月の中旬から、というのが過去ずっと続いていました。でも、外資系の会社さんですと翌年の予算は11月くらいにはある程度、日本の企業さんでも3月には決まっている、というのが通常ですので、予め予算を組んでもらえていない状態でお願いをして無理無理出して頂いていた、というのが過去の実際だったようです。

それに対して、今年はアジア地域には11月にアジア地域全体へのパッケージとして、日本国内でも3月になるかどうか、というところで、ある程度の値段的な目安を話しながら予算への組み入れをお願いし始めてみました。
とはいえ、日本の市場への関心が薄ければ当然出して頂けない訳ですから、この環境下でも日本への関心がまだ強い会社さんが多かったんだ、ということが分かったのも、日本に軸を置いて仕事をしている身としては喜ばしいことだと理解しています。

来年はどうする?どうなる?

どうなるんでしょうねぇ。2日イベントにしよう、という声があがってますし、そうなれば個人的にはそろそろ運用者のパネルだけではなくアドミやトラスティのようなファンドのインフラを担当する関係者のパネルを久しぶりにやって、実務的な観点での近年の規制強化への対応について話をして多くの人に理解を求めるようなことをしたいな、と思っているのでそのチャンスも広がるかな、と思っていますが。。。

実際に仕事をしながら会の運営をしていくのは結構大変なんですよ。マジで(笑)
なので、よかったよ、という声を聴くと嬉しいし、頑張っちゃいますが、もう少し一緒に頑張りたいな、という人が欲しいな、というのも事実。なので、業界含めて一緒に盛り上げたい、という方大募集です(笑)

なんにせよ、また来年もこのイベントでお目に掛りましょう!
#って誰に言ってるんだか。。。

合同会社の社員になって一緒に儲け話に乗らないか?

投資家さんを集めるのってこんなに和気藹々ではないのですが
知らない人を共同経営者に迎えるってこういう雰囲気にはならないような。。。

本来ならば、「パナマ・ペーパー」のことを書くのが本来のブログの目的であるオフショアの金融事情をご紹介するところですので自然なこと、なのですが、 当然のことながらレポートそのものを読んでいませんし、内容の意味もよくわからずに無駄に大騒ぎして民衆を煽り立てるメディアの情報もあまり耳にしていないので、その状態で何かを語るのもどうかなぁ、と思いつつも、掻い摘んで話すならば。。。

いや、一旦いろいろ書いたけど、やっぱりやめた。いろいろ面倒が多そうだから。。。

さて、表題にある本題にいきましょうか。

believe or not – 世の中にはこんな人がいます。

個人的に流し読みをしている、某怪しい人が主宰するメルマガがあります。本人曰く、某メーカーに就職して、アジア某国で英語も話せないのに成功しながら、プライベートでメルマガで荒稼ぎしたら副業禁止だったので会社をクビになり、アジア某国に拠点を移して似たようなネット系の商売をしている人たちと横のつながりを生かしていろいろと投資案件をしたり、スピ系のネタで人の性格などをプロファイリングをしたり、派手に遊んでいるのをメルマガで流しながら、ちょっとタチが悪いとネットでは評判の投資助言業者のシグナル配信のサービスの宣伝をしたり、仲間内限定で為替相場との相関性の高い株の信用取引のロジックを共有してデイトレで稼いでいるのを見せながら自分のメルマガの有料サービスに誘導したり、と、まぁ、怪しいそうなので眺めているのですが、その中でちょっとこれはヤバかろう、というのがあったので、注意喚起の意味を含めてちょっとご紹介してみようと思います。

基本的にこの連中の商売に加担する気もないので出来るだけ検索に使えそうなキーワードは外すようにしていますが。。。知っている人が読むと分かるかな。すでに上記だけでも十分特定できそうですが。。。

話の前に、まず金融商品取引法の復習から

以前の記事で書いた通り、現在の金融商品取引法において、個人が機関投資家が参加するようなハイリスク・ハイリターンな事業投資系の案件に投資をしようと思うと、適格機関投資家向けではない一般的な私募案件に仕立ててもらって参加するほかはありませんでした。

また、逆にそんな事業投資や不動産投資などをちょっと広めの個人から投資資金を募って運用したい、と思うと、本来ならば資産運用業(この場合一任運用業)の届け出をしなければならないのですが、届け出が受理されるまでに運用やコンプライアンスなどの複数の部門の責任者を雇い続けていかねばならないので、事業を行うまでに資金的問題が起こり得る、など運営コストの負担が大きすぎるという事業開始の際のハードルが存在します。そこを回避したい、といって匿名組合や投資事業有限責任組合の無限責任会社を金融商品取引法第63条に基づく適格機関投資家向け特例業務を行う事業者として届け出て、またそのために適格機関投資家から形式上でもいいから投資資金を受けることで特例業務を行うようにして、私募での個人へのアプローチをする、というルートを目指す人が後を絶たなかったわけです。

私募の本当のハードル

上記のリンク先の記事で最近のルール変更で個人向け投資勧誘へのハードルが上がったことをご紹介していますが、ハードルが上がる前から、実はそもそも個人向け私募勧誘には一つの大きな問題があったのです。何かといえば、通常、証券会社などで私募であっても公募であっても、商品勧誘を行っても 100%投資する、はずはないのです。10人に一人、もしくはもっと低い確率で投資すると考えられています。でも、考えてみれば当然ですよね。常に余剰資金があるとは限らないですし、私募案件になればリスクリターンが高くなるので、投資対象への理解などがないものには投資しない、と判断する人が増えて当然なのです。

でも、例えば投資信託ならば私募は如何なる6か月の間に49人までにしか「勧誘」を行ってはいけないのです。投資ではないのです。勧誘なのです。ということは、6か月に49人勧誘して、実際に投資するのはよくても5人行けばいい方。一人当たり、1,000万円としても 5,000万円。個人の資金からすれば十分大きく思えますが、事業投資ともなれば微妙に足りず、不動産投資ならば全然足りない計算になるのです。確かに理論上、最初の6ヶ月と次の6か月で全く別の49人ずつにアプローチすれば各半年ごとに5人ずつ徐々に積みあげて50人を超えた投資家を受け入れることは可能ですが、投資自体一括投資というものだと十分集まらない、という話になるでしょうし、投資スキームの設立費用等が最初の5人に大きく負担させることになるので、投資タイミングの違いでの不公平感も発生しやすくなるのです。

私募のハードルを越える

そこで。考えました(私が、ではないですよ。)。

もし、美味しい投資話にいつでも乗りたい、という投資家候補を最大 499人常にプールすることのできる仕組みがあれば、上記の10%の投資家のヒットレートが格段に上がるので運営管理報酬が大きく期待できる、と。そのために、投資事業に継続的に参加することが会社の目的となる合同会社を作って、その投資家候補をそれぞれ合同会社の社員として出資をさせて、社員集会という名前の投資情報提供を行えばいいのではないか。投資も社員からの追加出資をまとめて一本にすれば企業投資家としての参加になるので個人投資家のハードルもなくなるし、投資の分配も合同会社なので参加した社員にだけ分配することも当然可能。仮に社員が個人で共同投資の形をとるとしても、社員が最大499名だから私募の範疇に収まるから問題はないだろう。

ちなみに、なぜ499名か。それは事業投資につかう匿名組合も投資事業有限責任組合の投資持分も、そして合同会社の社員持分も、全部、金融商品取引法上、いわゆる第2項有価証券なので、私募の上限が499名。下手な株や債券、投資信託より上限が大きいので都合もいい。

しかも、社員として当初入るのに、後から入ると諸々のトレーニング費用など、と名目で徐々に高くする、といえば慌てて我先に、と入って提灯で釣り上げた案件などに食いつこうとするだろう。

この、秘密結社的で、日本でまだなじみの薄い合同会社のスキームを使えばリターンのより大きいと思われる案件に参加したいと思っている個人をうまく取り籠めるんじゃないか。しかも、そういう投資をしてみたいとメルマガに参加しているわけだからここでもヒットレートは高いだろうし。。。

という事で、そんな投資プラットフォームの勧誘がメールマガジンで配信されているんです。時々。

でも、ちょっと待ってくださいな。

確かに、一度合同会社の社員になれば投資機会も私募の範囲で紹介されるしその範囲で自分の責任で投資すればいい話、ではあるのですが。。。そもそも合同会社の持分をメールマガジンやそれに連動するウェブサイトでその存在を公共の閲覧となるインターネットで知らしめて参加について投資家候補から問い合わさせる、リバース・ソリシテーションを行うのって、実は私募ではなくて公募に当たるんじゃないの?

日本では、金融商品を公共の閲覧に具することで紹介することや、その存在を知らしめて投資家候補から問い合わせをさせることで自ら紹介しないリバース・ソリシテーションも、勧誘行為に当たる、という判断がされています。なので、私募商品が一般的に証券会社の窓口やお店の窓に並んでいない、のです。しかも、今回は自己募集、ですからねぇ。。。お友達とかに資本参加を求めるならまだしも、何人参加しているのかわからないですが、メルマガを通じて不特定多数への声がけって。。。やばいんじゃない?しかも、この投資スキーム、メルマガ曰く、日本の金融商品取引のコンプライアンスを知り尽くした、M&A の名手、とされる人が考えて作り、投資案件もソーシングしてくる、という触れ込みもあるんですが。。。

なんか大丈夫なんですかねぇ。というか、こういう話も世の中でてくるようになってきたんだなぁ、と思うと、パナマ・ペーパーどころじゃないような気がしている著者でした。
常に言いますが、投資は自己責任で。

金商法第63条に基づく適格機関投資家等特例業務を行うファンドの規制変更 – 法規制のバックドアを抜けた先にあるものは?

扉の向こうに待つものは?
扉の向こうに待つものは?
金融商品取引法(以下、略して「金商法」と参照するかもしれません。って、契約書みたい。。。)といえば、日本における金融商品取引の要、と言える法律であり、これに沿って日本の金融行政が動いているわけですが、行政の思惑と、プレイヤーの希望とが常に一致する訳はなく、時として一方的な規制変更、得てして規制強化において
「当局の規制が余計な負担ばかり増やして効率的な業務遂行が出来ない!」
「規制が高すぎて参入出来ない!」
なんて言い訳や恨み節をつい口にしがちなのも事実。

そんな中、その規制の変更に関して業界からの物言いなどのお陰で一旦差し戻しになり、2年掛けてようやく日の目をみる規制変更が、この記事を書いている2016年2月の翌月である3月1日から施行されるものがあるのです。案外当局もちゃんと市井の声を聞くんだ、なんて思ったり(笑)

それが、表題にある金商法第63条に基づく、適格機関投資家等特例業務に対する規制の変更なのですが、事実上規制強化なので色々な形で「困る」という声を聞くのも事実です。あちこちで聞きます。マジで。

でも、個人的にはそれでいいんじゃないの?と思うところも多く、なので、過去の記事においても何度となくこの特例業務に対してそういうバックドア・アプローチの人たちに対して厳しいコメントをしているのはお察しの通りです。ちゃんと読んでくれてれば、そういうお手伝いはしないことはわかっていただけるのですが、どうも世の中には、背景はどうであれファンドを作ってしまえば手数料稼げるからいい、程度に思っていたり、そもそも読まずに問い合わせをしてくる人もいらっしゃるので、なーんか一緒にされてしまっているようでもあることから、ちょっとそのあたりの線引きをする意味も含めて、この記事ではこの点について書いてみようかと思います。

そもそもこの特例業務ってなんのためにあるの?

ファンドを作って、投資家を呼び込んで、その資金を運用する。その一連の流れにおいて、金融業という規制業種においては一人で全部をやることが「出来ません」。

  • 「作る」は法規制等から投資家と運用する人との間の利害関係を調整する役割を果たす「弁護士」さんをはじめ、もしまともなファンドを作るならば、資産管理をする「トラスティ」/「受託銀行」や「ビークルの取締役」とそこに任命された「カストディ」や「銀行」、またその運営の実務を担う「アドミニストレーター」などと一緒に相互監視のもとで作り上げます。
  • 投資家を呼び込むのは、その投資家持分として提供するものによって株式形態か投資信託証券のような第1項有価証券ならば「第1種金融商品取引業者」が、LP持分や匿名組合出資持分などのような第2項有価証券ならば「第2種金融商品取引業者」が、それぞれ投資家に対して商品の説明義務を負いながら勧誘行為を行って、投資家の同意を得て投資してもらうことになります。
  • そして、実際の運用も第三者の資金を、いわゆる善管注意義務を払いながら投資対象を選別して投資することの出来る体制を整えた「投資運用業者」が行うことになります。

上記は日本ではまだ規制業種になっていないものもあります(ファンド・アドミニストレーターがそれに当たります。)が、海外では第三者の投資資金の管理・評価を行うことを重要視して認可制になっているケースが増えていますので、その意味ではどれ一つとして、「自分は出来るんだ!」という根拠のない自信だけで出来るビジネスではないものばかり、と言ってもいいでしょう。

とはいえ、現実を見ると厳しすぎる

ただし、実際にそれぞれの役割について、日本で登録しようとしても、必要となる法人を作り、資本金を準備し、人的資源を配置し、また、事務所を構えて、としたところでやっと登録の受付が行われ、数ヶ月から1年程度の登録のための当局とのやり取りをしている横で、本来やりたい業務が出来ないので収益源がないまま耐えねばならない、というのは実際のところ厳しすぎる、という声が出ても仕方のないところでしょう。
事実、それが新規プレーヤーの参入規制になっているのも事実ですし(言い換えると、既存のプレーヤーは守られている、という見方も出来るのですが。。。)、規制の比較的緩いとされる国(シンガポールですかね。でも、緩かったのを厳しくしたので、さらに緩いラブアンやタイあたりにさらに移動したという話も聞こえてきています。香港はちなみに言う程はゆるくないですよ。)に人が流れたのも隠しようのない現実でもあります。

で、当局はどうしたか

Rule is ruleそこで、二つの方法を提示してきました。一つは、金融商品取引法が導入された 2007年のタイミングから導入されたこの金商法第63条に基づく適格機関投資家向けの特例業務による簡易な規制のレイヤーの導入、もう一つは投資運用業に運用資産などに制限をかけた、いわば lite version の投資運用業の制定、でした。後者はざっくり言えばプロ投資家向けの運用会社の設立を促進して、成功したら、フルスケールの運用会社に登録変更してもらう、という投資運用業の育成の目的が背景にあったのですが、他方で、このコンセプトが合うのがヘッジファンドの運用業者で、プライベート・エクイティのような自らが GP会社になって運用するケースにはそぐわないようで、PE やベンチャーキャピタルはもっぱら前者を使い、正しくリスク評価が出来る機関投資家のようなプロ向けのファンドを組成、募集、運営している、という線引きが出来ていました。

ところで、そもそもこの特例業務って何を指すの?

先ほどの、ファンドの流れを思い出して欲しいのですが、一番肝になるのが、「投資家を呼び込み」、「その資金を運用する」ことでした。金商法が証取法と呼ばれていた時には、自分で会社を作り、自己募集によって投資家を集めて、その会社の取締役としてその判断により資金を自己運用するという建てつけでファンドを運用していたケースが大きかったのです。この特例業務はある意味その延長線上にいて、本来金融商品取引業者の必要なところを自己募集することが出来、投資運用業者が運用するところを自己運用出来るように特例業務の扱いにした、のです。そのため、本来規制の下に置かれるべき役割が規制から外れる以上、投資家側がそのリスクが許容でき、またリスクを判断することの出来る適格機関投資家や、少人数の一般投資家に限定されるようにしたのです。その根底にある考え方は、投資家保護にあるわけです。

でも実際はどうだったの?

この特例業務、前述のようにPEや VC といった、プロしか居られない世界ならば、本来想定した通りの使われ方をしていましたから、そこに問題があったわけではありません。問題だったのは、先ほどの記載にもあった「リスクが許容でき、またリスクを判断することの出来る適格機関投資家や、少人数の一般投資家」の最後、少人数の一般投資家、だったのです。本来の意図としては、プロ同等の経験を持つ運用者個人などを想定していたのですが、金融庁の無登録で金融商品業を行う者の名称等についてにある通り、少人数で想定されている49名を超える一般投資家にアクセスしたりするなど、一度この登録をしたら法規制を逸脱して募集行為を行うことが出来てしまう「バックドア」が出来てしまったのです。その結果、消費者庁を始め、消費者保護団体からこのスキームを使ったファンドによる被害の報告をたくさん受けることとなったのです。

バックドアを閉めるには?

2014年の見直しのためのワーキンググループで一度このバックドアを閉める、すなわち
  • 形式上、適格機関投資家が入ることで特例業務が成立してしまうので、例えば知り合いの同種の投資事業有限責任組合に入ってもらう、とか
  • 入る予定です、といいつつ最終的に入らない、とかのように
本来入るはずだった投資家が入っていない状態を作らないようにする、こともあったのですが、事実上ヘッジファンド用になったプロ向け投資運用業者がプロ投資家だけと仕事するように、PE/VC用の特例業務も適格機関投資家にだけ提供する、くらいの厳しさが必要では、という声すら上がったのは、特例業務を適用するスキームが投資事業有限責任組合か匿名組合といった、一般投資家では理解できないスキームを使い(とはいえ、スキームが難解だから被害が出るわけではないのです。理解できないものの上で理解できない投資をするとなれば、何を理解して投資させたのか説明がつかない、というもっと深い問題になるのです。)被害が発生したと考えれば一般に複雑とされる金融商品に一般投資家を近づけてくれるな、というメッセージが発せられてもおかしくはないのです。

とはいえ、バックドアが必要な人もいる。そして国もまた然り。

とはいうものの、この時の結論はとある一部の人たちから大問題だと声があったのです。それはVCへの投資を行なっている個人投資家や自己投資をファンドへのコミットとして行っていた運用者たちからすれば、VCのようなリスクの極めて高い投資に正しく投資する層がそもそも厚くないのに、その大事な一部すら規制で外されたのでは投資が続けられなくなり、結果として新興企業の育成の妨げになる、のです。当然、国内の事業育成は国の重要課題でもあるわけですから、この声は一般投資家の被害と同じように無視できないものとなり、一度パブリックコメントを受けてそのまま施行、となったはずのものは一度取り下げられて、このいわゆる普通な資力もリスク許容度もない一般投資家を外して保護しながら、リスクの取れる個人投資家をどのように取り込めるか、というものすごく難しい問題に向き合うことになったのです。

結果、来月からどうなるのか?

この同じ個人なのに、リスク許容度の異なる二者を分ける、という問題は
  • ファンドの運用者の関係者
  • 金融資産を1億円以上持ち、証券口座を1年以上保有する個人
  • 業務執行組合員等として投資性金融資産を 1 億円以上保有すると見込まれる個人
を個人が入るときの適格機関投資家以外の投資家の条件としたことで一度妥結したようです。確かに、これなら、ファンドの運用側の関係者ですので、やっていることを理解しているだろう人でしょうし、証券投資の経験が1年以上で金融資産も1億以上であればリスク許容度も高いだろう、という判断になったのでしょう。
この他にも、ベンチャーキャピタル特例、というベンチャーキャピタル投資の特例が導入されたり、投資家保護がなされていない場合には特例業務が認められない、ということで、適格機関投資家に投資事業有限責任組合だけではダメ、とか外国法人も国内に代理人を置くことで逃げられないようにする、などの手当てがなされています。
それ以上に重いのが、届出書の内容の拡充、でしょう。その意味では、本来軽減させるべきところも、ビジネスへのコミットメントをするべく当局等をちゃんと向き合わねばいけない、というメッセージが出てきた、ということなのでしょう。

まとめ

結局、業として特殊性のあるビジネスを行うのが金融業である以上、コストや自分がやりたいタイミングだけの理由で、規制当局と向き合わない方法を選択する、というのは、対外的にはあまり好ましくないメッセージを発している、と理解した方が良いのだと思います。特に投資を過去に何度となくしている適格機関投資家の多くは、多くの運用者を見てきていることを考えれば、法規制の中で事業を行うというのがビジネスへのコミットメントを示している、と解し、逆にそうでないならば、そうでない理由があるだろう、と自然と考えるでしょう。
残念ながら、ヘッジファンドを含む、オルタナティブ投資の世界は以前とは比べ物にならないほど、大きくなり、結果として投資家から institutional player の体制を整えていないならば投資するに能わず、と判断されるのが趨勢です。実際に、特例業務を使ってファンドを運用している人でその先にステップアップできる人はいないわけではないものの、ほとんどおらず、残りは信頼できない、というように見られている、のです。
であれば、ビジネスにコミットして将来大きく運用したい、というのであれば、特例業務のような exemption を武器にすることなく、多くの運用者と同じく、規制と真正面から向き合う、そんな道を進むべきであり、進んでいることを明示すべき、なのだと思います。
そういう人であれば長期にわたって信頼関係を築きながらお手伝いしたい、そう思っておりますのでお声がけください。

CRS (Common Reporting Standards) で投資家に何が影響するのか?どう見てもあれ、なんですけどね。

CRS テンプレートが既に出来ているので白紙に自由に書けるわけではないですが。。。
CRS テンプレートが既に出来ているので白紙に自由に書けるわけではないですが。。。
この12月になって、ケイマン諸島の法律事務所からのニュースレターでこのトピックしか取り扱わない、というくらいこのところホットな出来事、といえば、表題にある CRS (Common Reporting Standards)。いつぞやの某諸般の事情での偉い人から言われた「ケイマン諸島って脱税天国でしょ」的な言葉に対する世界的に大掛かりな対応の一端として、今世界中の関係者を巻き込んでいるので、その概要と影響について簡単にまとめてみたいと思います。

CRS (Common Reporting Standards) ってなあに?

ケイマン諸島の動きだけを見ているとこの島特有の話に思えてきてしまうので、そもそもの大きな背景に目を向けるとしましょう。そのためには、時計の針をまずは 1997年まで戻しましょう。

ちょっと歴史の話でも

OECD の Automated Exchange of Information (AEOI) サイトによれば1997年当時から、OECD 諸国では情報交換に関する政策や技術について検討していましたが、当時から10年ほどは OECD 標準電磁フォーマット(OECD Standard Magnetic Format / SMF) だけが存在していたのです。 その横で 2003年にEU で EU Savings Directives が導入されたことで、多国間での AEOI のルールが初めて作られました。これによって、多国間での税務及び世界的な税務的透過性について色々と進歩が見られるようになったのです。ただ、次の大きな流れは、2010 年にアメリカが FATCA (Foreign Account Tax Compliance Act) が出てくるまでは特に大きなこともなかったのです。

FATCA が生んだ税務情報の国家間での情報交換の潮流

2013年、アメリカが世界中から extra-territorial (治外法権) 的だと言われた FATCA に対する税務情報の提供に関する、EU 主要5カ国(イギリス、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ)との政府間協定 (IGA)が相互提供の形をとることから、多くの国や地域がこれに追随しました。ちなみに、日本とスイスは IGA-model 2 と呼ばれる、国が情報提供に関与しないものでしたので、国内の各運用会社や銀行などが自分の責任でUS-IRSなどに届け出なければならなくなった、という経緯でもあるのです。
また、この年、OECD では AEOI と既存の膨大なプログラムについて、そして将来の在り方について講演をし、また、G20 サミットでその講演内容について後押しを受けることになるのです。

2014年の7月15日にまで進めてみましょう。この日、G20からの要請に基づいて、この Common Reporting Standards がOECD 評議会で承認されました。これにより、このルールに参加諸国がその国にある金融機関から情報を取得し、その情報に基づいて毎年他の国との間で自動的に税務情報を交換できる(Automated Exchange of Information)ようにするための枠組みが出来上がったのです。

これを受けて、2015年の8月にOECD が CRS 導入ハンドブックを作成し、同10月にケイマン諸島の税務当局が法制度を整え、この12月にCRS Regulation 2015 に対するガイダンスやフォーム(法人向け及び個人向け)、CRS 参加国リストや、報告義務免除の対象などを開示したのです。

2016年以降も引き続き秘密保持に関するルールや実務に関して OECD の部会の一つ、Global Forum が作成中であり、また、実際の AEOI の実効性に関する監視体制についても準備しているそうです。

なぜ弁護士事務所が「今」慌てて注意喚起せねばならなかった?

2015年8月のOECD によるCRS導入ハンドブックの公表を受けて、10月の法制度の制定、12月に実務要件の公表、と来て、これの目指すところが実は

  • 2016年1月からの新規取引口座開設の際にCRS対応で行う
  • 2016年12月末までに取引口座開設を行っている100万米ドル以上の残高のある個人に関する調査の完了
  • 2017年の12月末までにその他の既存口座に関する調査の完了
  • 2016年のCRSに関する届け出を2017年のそれぞれ定められた期限までに完了

というのがあるのですが、これはケイマン諸島がCRS に基づくAEOI を実施する最初の国の一つ(Early Adopter Groupと呼ばれています) だから、なのです。なお、Early Adopter Group とは

Argentina, Belgium, Bulgaria, Colombia, Croatia, Cyprus, the Czech Republic, Denmark, Estonia, the Faroe Islands, Finland, France, Germany, Greece, Greenland, Hungary, Iceland, India, Ireland, Italy, Korea, Latvia, Liechtenstein, Lithuania, Malta, Mauritius, Mexico, the Netherlands, Norway, Poland, Portugal, Romania, San Marino, Seychelles, Slovakia, Slovenia, South Africa, Spain, Sweden, and the United Kingdom; the UK’s Crown Dependencies of Isle of Man, Guernsey and Jersey; and the UK’s Overseas Territories of Anguilla, Bermuda, the British Virgin Islands, the Cayman Islands, Gibraltar, Montserrat, and the Turks & Caicos Islands

だそうで(Cyprus:キプロスについては、トルコがキプロス島の北半分に「北キプロス・トルコ共和国」を承認しているものの、国連で承認されていないことから、ここでいう「キプロス」とは、キプロス島の南半分を指している、という領土問題すら関与してくるのです。。。。)、実は、ケイマン諸島だけが大慌てではなく、UK-FATCA のあるイギリス本土はもとより我が(笑)Jerseyやバーミューダも、お隣の韓国も、そして日本でファンド設立国としてそれなりに有名なアイルランドも、影響があるはず、なのですが。。。あまり聞こえてこないですねぇ。。。それに対して、アメリカは、それでも自国のFATCA に固執するようですね。さすが We are the World な国。我が国は、といえば、まぁ、model 2なので、各金融機関がextra-territorial であってもちゃんと神の目を持って認知して、ここの国から求められる情報提供に対応していく。。。のでしょうか?ちょっと疑問がありますね。

その影響とは何が考えられるか

ファンド・アドミニストレーターが通常、投資家とのやりとりも担うことを考えると、CRS に基づく投資家の投資開始時や定期的な身元調査のを担うことになるでしょうから、FATCA に付け加えて手間がかかることが想定されます。その結果、day-1 での投資を開始したい、と思っても、不測の書類等の不備への対応をも考慮に入れて、より早めに色々な提出書類を準備していく必要が出てくる、ことになりそうです。以前書類を出したから、我はこの国を代表する投資家だ、そのうち出すから今は許して、なんて10年前あたりは許してくれたようなことを言ったところで今はダメでしょうね。

それ以上に、大きいのは、当然の事ながら、税務情報が今まで以上の精度でファンド設立地と投資家の本拠地との間で、しかも自動的にやりとりがされる、ということです。これは、いわば、冒頭に書いたように、「オフショア=資産を隠せる脱税天国」のイメージを払拭するものであり、だからこそ Early Adopter Group にケイマン諸島やジャージーといったトップクラスのオフショア地域が入ってきたのだと言えます。何度となく、ここでも主張していますが、オフショアは既に Tax Neutral = 税務的中立国なので、納税は投資家の所在地で適切に行ってくださいね、というのが今の税務の本流になっているのです。

さて、この流れ、今後どうなっていくのでしょうね。引き続きアップデートしていきたいと思います。

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