CRS (Common Reporting Standards) で投資家に何が影響するのか?どう見てもあれ、なんですけどね。

CRS テンプレートが既に出来ているので白紙に自由に書けるわけではないですが。。。
CRS テンプレートが既に出来ているので白紙に自由に書けるわけではないですが。。。
この12月になって、ケイマン諸島の法律事務所からのニュースレターでこのトピックしか取り扱わない、というくらいこのところホットな出来事、といえば、表題にある CRS (Common Reporting Standards)。いつぞやの某諸般の事情での偉い人から言われた「ケイマン諸島って脱税天国でしょ」的な言葉に対する世界的に大掛かりな対応の一端として、今世界中の関係者を巻き込んでいるので、その概要と影響について簡単にまとめてみたいと思います。

CRS (Common Reporting Standards) ってなあに?

ケイマン諸島の動きだけを見ているとこの島特有の話に思えてきてしまうので、そもそもの大きな背景に目を向けるとしましょう。そのためには、時計の針をまずは 1997年まで戻しましょう。

ちょっと歴史の話でも

OECD の Automated Exchange of Information (AEOI) サイトによれば1997年当時から、OECD 諸国では情報交換に関する政策や技術について検討していましたが、当時から10年ほどは OECD 標準電磁フォーマット(OECD Standard Magnetic Format / SMF) だけが存在していたのです。 その横で 2003年にEU で EU Savings Directives が導入されたことで、多国間での AEOI のルールが初めて作られました。これによって、多国間での税務及び世界的な税務的透過性について色々と進歩が見られるようになったのです。ただ、次の大きな流れは、2010 年にアメリカが FATCA (Foreign Account Tax Compliance Act) が出てくるまでは特に大きなこともなかったのです。

FATCA が生んだ税務情報の国家間での情報交換の潮流

2013年、アメリカが世界中から extra-territorial (治外法権) 的だと言われた FATCA に対する税務情報の提供に関する、EU 主要5カ国(イギリス、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ)との政府間協定 (IGA)が相互提供の形をとることから、多くの国や地域がこれに追随しました。ちなみに、日本とスイスは IGA-model 2 と呼ばれる、国が情報提供に関与しないものでしたので、国内の各運用会社や銀行などが自分の責任でUS-IRSなどに届け出なければならなくなった、という経緯でもあるのです。
また、この年、OECD では AEOI と既存の膨大なプログラムについて、そして将来の在り方について講演をし、また、G20 サミットでその講演内容について後押しを受けることになるのです。

2014年の7月15日にまで進めてみましょう。この日、G20からの要請に基づいて、この Common Reporting Standards がOECD 評議会で承認されました。これにより、このルールに参加諸国がその国にある金融機関から情報を取得し、その情報に基づいて毎年他の国との間で自動的に税務情報を交換できる(Automated Exchange of Information)ようにするための枠組みが出来上がったのです。

これを受けて、2015年の8月にOECD が CRS 導入ハンドブックを作成し、同10月にケイマン諸島の税務当局が法制度を整え、この12月にCRS Regulation 2015 に対するガイダンスやフォーム(法人向け及び個人向け)、CRS 参加国リストや、報告義務免除の対象などを開示したのです。

2016年以降も引き続き秘密保持に関するルールや実務に関して OECD の部会の一つ、Global Forum が作成中であり、また、実際の AEOI の実効性に関する監視体制についても準備しているそうです。

なぜ弁護士事務所が「今」慌てて注意喚起せねばならなかった?

2015年8月のOECD によるCRS導入ハンドブックの公表を受けて、10月の法制度の制定、12月に実務要件の公表、と来て、これの目指すところが実は

  • 2016年1月からの新規取引口座開設の際にCRS対応で行う
  • 2016年12月末までに取引口座開設を行っている100万米ドル以上の残高のある個人に関する調査の完了
  • 2017年の12月末までにその他の既存口座に関する調査の完了
  • 2016年のCRSに関する届け出を2017年のそれぞれ定められた期限までに完了

というのがあるのですが、これはケイマン諸島がCRS に基づくAEOI を実施する最初の国の一つ(Early Adopter Groupと呼ばれています) だから、なのです。なお、Early Adopter Group とは

Argentina, Belgium, Bulgaria, Colombia, Croatia, Cyprus, the Czech Republic, Denmark, Estonia, the Faroe Islands, Finland, France, Germany, Greece, Greenland, Hungary, Iceland, India, Ireland, Italy, Korea, Latvia, Liechtenstein, Lithuania, Malta, Mauritius, Mexico, the Netherlands, Norway, Poland, Portugal, Romania, San Marino, Seychelles, Slovakia, Slovenia, South Africa, Spain, Sweden, and the United Kingdom; the UK’s Crown Dependencies of Isle of Man, Guernsey and Jersey; and the UK’s Overseas Territories of Anguilla, Bermuda, the British Virgin Islands, the Cayman Islands, Gibraltar, Montserrat, and the Turks & Caicos Islands

だそうで(Cyprus:キプロスについては、トルコがキプロス島の北半分に「北キプロス・トルコ共和国」を承認しているものの、国連で承認されていないことから、ここでいう「キプロス」とは、キプロス島の南半分を指している、という領土問題すら関与してくるのです。。。。)、実は、ケイマン諸島だけが大慌てではなく、UK-FATCA のあるイギリス本土はもとより我が(笑)Jerseyやバーミューダも、お隣の韓国も、そして日本でファンド設立国としてそれなりに有名なアイルランドも、影響があるはず、なのですが。。。あまり聞こえてこないですねぇ。。。それに対して、アメリカは、それでも自国のFATCA に固執するようですね。さすが We are the World な国。我が国は、といえば、まぁ、model 2なので、各金融機関がextra-territorial であってもちゃんと神の目を持って認知して、ここの国から求められる情報提供に対応していく。。。のでしょうか?ちょっと疑問がありますね。

その影響とは何が考えられるか

ファンド・アドミニストレーターが通常、投資家とのやりとりも担うことを考えると、CRS に基づく投資家の投資開始時や定期的な身元調査のを担うことになるでしょうから、FATCA に付け加えて手間がかかることが想定されます。その結果、day-1 での投資を開始したい、と思っても、不測の書類等の不備への対応をも考慮に入れて、より早めに色々な提出書類を準備していく必要が出てくる、ことになりそうです。以前書類を出したから、我はこの国を代表する投資家だ、そのうち出すから今は許して、なんて10年前あたりは許してくれたようなことを言ったところで今はダメでしょうね。

それ以上に、大きいのは、当然の事ながら、税務情報が今まで以上の精度でファンド設立地と投資家の本拠地との間で、しかも自動的にやりとりがされる、ということです。これは、いわば、冒頭に書いたように、「オフショア=資産を隠せる脱税天国」のイメージを払拭するものであり、だからこそ Early Adopter Group にケイマン諸島やジャージーといったトップクラスのオフショア地域が入ってきたのだと言えます。何度となく、ここでも主張していますが、オフショアは既に Tax Neutral = 税務的中立国なので、納税は投資家の所在地で適切に行ってくださいね、というのが今の税務の本流になっているのです。

さて、この流れ、今後どうなっていくのでしょうね。引き続きアップデートしていきたいと思います。

「配偶者控除と株の取引き」と「夫婦間の不動産贈与のコスト」 : CFP の試験の準備で間に合わない中で見つけたちょっとしたポイント

楽しくお勉強。。。なんて行かないけどさー
楽しくお勉強。。。なんて行かないけどさー
いや、ほんと、やばいです。
来週の今頃には CFP の試験の前半が終わっている頃なのですが、勉強が追いついておらず、ポテンシャルだけで受験することになりそうな。。。いや、なんとかする(笑)

だから、本当は今、記事なんて書いている暇はないのですが、とは言え、記事にして頭に入れておこうかな、という過去問からのポイントが二つほどあったので、忘れないうちに。。。

その 1. よく、夫婦間で不動産の贈与をすることがあろうかと思います。

当然、贈与なので贈与税の対象ですので相続税とか税控除枠との兼ね合いとかで複数の選択肢の中から選んでいくことになるのですが。。。どれをやっても取引コストがかかる。譲渡に伴って取得した側は不動産の移転登記をするので登録免許税がかかるし、その後に不動産取引税なんていうのもかかる。また、譲渡契約を作れば印紙税がかかる、はずなのですが、贈与の場合、実は印紙税は 200円ポッキリ。なぜかといえば、贈与というのはその贈与する対象物の評価額にかかわらず、そもそもが無償契約。なので、印紙税の決定する際の基準となる取引金額という意味では 0円。そりゃそうですよね。対価を払わずに所有権を移転するのですから。。。税務署も例によって認めてます。

このところ、不動産の取引にかかる印紙税は安くなったとはいえ、最高でも54万円ですので、結構バカにならないようにも見えてしまいます。とはいえ、印紙税の額で譲渡プランを決めることではないかもしれませんので、あれこれ実際の取引コストも踏まえて検討する必要があると言えます、なんてFPらしいことでも言ってみる(笑)

その 2. 奥様方の株の取引、そうそうない話ではないものの、とはいえ、あるはある話。

しかも、納税の際の諸々を考えると、証券会社で開設する口座は大抵は特定口座にして、源泉徴収してもらった方が何かと楽チン、ということかと思います。
それと、納税ということで、合わせて考えないといけないのが、配偶者控除。

よく、103万円の壁、130万円の壁、とか言いますけど、実際には合計所得金額が 38 万円を上回るかどうか、という話なのです。一般的に奥様方が株とか FXで(ミセスワタナベの正体、ですよねー)稼いでいる、という前提ではなく、一箇所でのパート/アルバイトという前提で考えていて、そうすると、給与所得なので給与所得控除の 65万円が使えるので、 65+38 = 103万円がパート/アルバイトで稼ぎつつもご主人の給与所得の計算の際の配偶者控除が使える、というだけの話なのです。なので、もし奥様が、パート/アルバイト以外に株やFXで稼いでいる、となると、当然103万円の上限が下がってきてしまう、はずなのですが、ここで一つポイント。

実は。。。次のそれぞれは合計所得金額に含まれないそうです。

  1. 上場株式等の配当や少額配当などで確定申告をしないことを選択したもの
  2. 特定口座の源泉徴収選択口座内の株式等の譲渡による所得で、確定申告をしないことを選択したもの
  3. 源泉分離課税とされる預貯金や公社債の利子など
  4. 源泉分離課税とされる抵当証券などの金融類似商品の収益
  5. 源泉分離課税とされる一定の割引債の償還差益
  6. 源泉分離課税とされる一時払養老保険の差益(保険期間等が5年以下のもの及び保険期間等が5年超で5年以内に解約されたもの)
源泉分離課税は、銀行の利息もそうなので、まぁ、そうでしょう、と納得できるのですが、最初の二つのように、確定申告しなければ計算の控除外、というのも、金額の多寡なんでしょうねぇ。ということで、証券口座は二つ持ってはいけない、前年度の負けの繰越をしない、という縛りが実はあるんですね。。ということは。。。もし、奥様の扶養者控除を当てにしつつも、株で稼いでもらおう、と思ったら、証券口座は一つだけ、勝手も負けても確定申告せずにニコニコ源泉徴収される、というのがよろしいようです。。。いいのか?それで。。。
さて。。。勉強しよっ

オフショアって、なあに?今更だけど、ついでにもう一つ。

絶対、人のいない浜辺=オフショアって思うでしょ?
絶対、人のいない浜辺=オフショアって思うでしょ?

前回、諸般の事情、と匂わせたことがありますが、その諸般の事情さまの偉い方からこんなありがたい言葉を頂戴したそうです。きっと読んでいるんだろうなぁ、と思いつつ、晒させていただくならば(晒すんだ、と思ったでしょ?)

「オフショアって、脱税天国とか投資詐欺とか悪いことをする場所というネガティブなイメージが先行する」

ええ、そうでしょうよ。直近で言えば、AIJ 事件は新聞を読んでいれば詐欺の手口がケイマン諸島のファンドを使ったものだったから、という印象だけを植え付けられていましたからね。それに、この脱税天国、tax haven がカタカナ英語で「タックス・ヘイブン」から「タックス・ヘブン」にすり替わった結果という、如何にも音だけで判断する日本人らしい(ベーッ、だ)理由があるわけです。そのおかげで、オフショアを仕事にしている私なぞ常に怪しい人扱い。風評被害です。実際に詐欺師がメインで詐欺を働いたのは日本国内でオフショアの関係者は問題がなかったのは後から出たけどまともにメディアは取り上げなかったし訂正すらしなかったのですから、扱いとしてはひどいものです。

と、言いつつも、期待できないマスメディアに依存せずに、自分からちゃんと発信して理解を得ることが一番大事、と思い、ぐっとこらえて下記のようにまとめてみました。本当は一番最初に書くべきだった内容ですが、今更、でも、今だからこそ。

そもそもオフショアってどこ?

オフショア、という言葉を聞いて、先ほどのような「どう自分が正しい知識と無関係な個人的な感覚と印象論でものを語る」かはさておき、筆者のように金融にとっぷりと身を浸かった人間と、例えば IT の開発に携わる人とでは、その印象は微妙に異なるはずです。こちらの世界だと、オフショア開発といえばベトナムやインドといった「海外の(低賃金な)開発拠点」をさしますよね。(ええ、私自身の1/10 はえせプログラマーのつもり、ですから一応両方を知っているつもりです。)

ファンドや証券化などのストラクチャー・ファイナンスといった金融の世界ですと、ケイマン諸島、ブリティッシュ・バージン諸島(BVI) 、バーミューダ、ジャージー島、ガーンジー島、モーリシャス、セイシェルあたりをまず指し、人によってはオランダ領アンチルス(2008年に既に解体されてましたね、そういえば)やマレーシア領ラブワン、香港、シンガポール、ミクロネシア、パナマ、バハマ、ニュージーランドなどなどを含めたり、あえて外したりします。ファンドの世界ですと、この他に有名なファンド設定地としてルクセンブルク、アイルランド、キプロス、マルタといったEU 加盟国を入れたがる人がいますし、オフショアに共通のあるルールに基づくと、ロンドンが実は世界最大のオフショアなんじゃない、という人すら出てきます。

で、オフショアってなんなの?

じゃあ、オフショアってどういう定義なの、と立ち返ればいいわけなのですが、その言葉の本源的なところを捕まえて語るならば、

オフショア(Offshore)は岸(shore)から離(off)れ海に流れる風、つまり「陸風」のこと。 反対語は、「海風」を意味するオンショア(Onshore)(cf. 海陸風)。 転じて陸から離れた沖合や、本拠の外の海外のことをさす。(Wikipedia)

となりますが、ITで使う際には「コスト」の要素も入れる必要があります(シリコンバレーでの開発をオフショアとは呼びませんよね。)し、同様に、金融、特にファンドの世界で見るならば、概して次の条件を満たす自国以外の国や地域を指す、と考えてよいかと思います。

  1. ファンドを設立するための法制度が完備されていて(従って、問題が起きた時に裁判をすることで解決出来る法務インフラや法制度の運営を管理する金融当局が整っている)
  2. かかる法制度に基づいて設立されたファンドに対して(特にその国の非居住者投資家に対する)一定の条件が満たされていると免税もしくは低税率での課税が適用される(ということで、それに満たさないファンドはその国の住人同様に課税されるリスクがある、ということでもあります。)
  3. 設立されたファンドに対する企業向け商業サービスの提供があること(従って、そのサービスを持って非居住者が居住することなくファンドを維持することが出来る、のです。)

この条件で見ると、前述の国や地域、都市であてはまるのは。。。

ケイマン諸島、ブリティッシュ・バージン諸島(BVI) 、バーミューダ、ジャージー島、ガーンジー島、モーリシャス、セイシェル、オランダ領アンチルス、マレーシア領ラブワン、香港、シンガポール、ルクセンブルク、アイルランド、キプロス、マルタ、ニュージーランド、

あたりになります。

オフショアっぽいのにオフショアじゃない。オフショアなのにオフショアじゃない振りしている。

というのも、ミクロネシアは実は法人税が税率が21%と日本のタックスヘイブン対策税制における外国子会社等に該当させないように設定されているので低税率にあたらないのです。ですので、持株会社や金融サービス会社の設立、あとは保険会社の設立には適しているとされていますが、ファンドの設立地には不向きと言えます。

また、ロンドンについては2つの意味でオフショア金融センターだと呼ばれていたのですが、一つは、世界最大のユーロダラー市場、すなわち、米国の外で取引される米ドルの流通市場という国外資産の非居住者の取引(いわゆる外外取引)に対する「場所貸し」、もう一つはファンド・マネジャーのような特定の業種(しかも一般的には高給取りになり得る、と思われている業種)に対する誘致目的での低税率の所得税の導入、や非居住者による不動産取引へのキャピタルゲイン課税の免除、といった、どちらかといえばオフショアの本来の意図というよりは「タックスヘイブン」の側面から来ていた話なのです。ちなみに、後者のうち優遇税制は金持ち優遇の批判が高まったことから終わり、それに伴ってロンドンからジャージー島やガーンジー島、スイスにその殆どが本拠地を移したと言われていますし、不動産取引への課税は2015年4月からそれぞれ始まっていますので、その意味ではロンドンは今では外外取引としてのオフショア市場として世界最大の取引量のある市場としての地位だけ(それでも十分なはずですが。。。)を保持している、と言えます。ですが、ファンドを始めとするストラクチャー商品を組成する本拠地としては非居住者にとってのメリットは見いだせません。

オフショアの偏見を正していただきます。

さて、少し世の中(というか、少なくとも、諸般の事情の某偉い人)にその偏見を払拭してもらわないといけないので、問題を整理しましょう。

1を見ればわかるように、ファンドの設立というのはそもそも当事国における法制度がしっかりしていないと世界中の投資を目的とした資金を集めては、そのファンドの目的の通りに投資が行われて、投資が終わった時に投資家の権利である投資資金と余剰収益を返還する、という約束事を法的に担保する仕組みがないことになり、誰もおっかなくて見向きもしない、という結果に終わるのです。その意味では、この日本語で書かれた文章を読んでいるあなたや私にとって一番安心して信頼できる日本の法律とファンド関連の権利義務関係を定める法制度という意味ではオフショア地域のそれはほとんど変わりがないか、さらに柔軟性や保全性を高めたものがあります。なぜかって?そうでなければ世界中のファンド設立地の間での競争に勝ってより多くの投資資金と投資事業、そしてそれに関連する雇用・ビジネスを誘致できないからです。

そこで絶対にこんな質問が出てくるのは容易に想像できます。

では、そんなにきっちりしているはずなのに、なぜオフショアを舞台にした詐欺案件が出てくるのか?

簡単なことです。同程度の法制度のある日本では詐欺案件がない、と言いきれますか?日本の金融商品取引法の第63条の適格機関投資家向け特例業務を用いて簡易的に設立された個人向けの投資案件で多くの高齢者などが詐欺を働かれた結果この特例業務の適用条件を変更しよう、という動きが起きていますよね?
同じように世界最大の投資家の本拠地であるアメリカ合衆国でも詐欺案件がなかった、でしょうか。Madoff はアメリカのオンショア・ファンドが舞台でしたよね?確かSEC監督下にあった運用会社が問題を起こしてませんでした?

オンショアだから安全で、オフショアだから危険、ではないのです。この辺りは以前の記事で書いていますのでこちらもご参照ください。

オフショア=低コスト、だから低クオリティ?

さて、先ほどの IT のオフショアの時にキーとなったのが「コスト」だと説明しましたが、ファンドにとってコストとはなんでしょう。

上記の3のような金融サービス会社に払う費用、例えば法務費用(弁護士先生ですね)、監査費用(会計士先生ですね)、ビークル管理費用(ファンド・アドミニストレーターや現地当局への登録・年次届け出費用)、資産保有・管理費用(カストディ、銀行、トラスティ)、ファンドの運営・統治費用(ディレクターや管理会社)、資産運用報酬(ファンド・マネジャー)あたりが必然的にかかります。

これもそこそこかかりますが、もっとインパクトのある「コスト」は、税金です。証券取引に関連するキャピタルゲイン課税や利金・分配金への源泉徴収、などなどありますが、利益の10-40% も取られる(アメリカが高税率の所得税から逃げるために国を捨てるのを防ぐために世界中に無理強いしている FATCA に至っては、もしアメリカの納税義務者でないことを証明できない場合には米国関連資産の売却額(利益相当分ではなく、元本も含めて、ですからね)の 30%を課税する)のは前述のサービス会社に払う費用から比べればとんでもないインパクトがあります。

そこで、ファンド設立地の一部、例えば、シンガポール、アイルランド、ルクセンブルク、キプロス、マルタ、ジャージー、ガーンジーあたりは、金融サービス会社への費用収入が設立地の雇用促進、結果として税収の増加につながることから、現地の金融サービス会社を使った場合にのみ取引に係る税金を減免する措置をとりますし、そもそも人の少ない(!)ケイマン諸島やBVI あたりは監査やトラスティは設立地にて当局からのライセンスを受けたもののみが受任することで課税関連を減免し、その他の機能、例えばアドミニストレーターは世界中のどこで行っても良いとすることでファンドの組成・運営に柔軟性を持たせることでより多くのファンド設定(と結果的にそれに伴う当局への当初及び年次の登録費用の支払い)を呼び込む、のです。

ちなみに、言いたくないですが、日本の私募投信を作る方が設立コストだけ見ればものすごく安いです。というのも、届け出書類はほぼ雛形状態ですので内容を埋めてコンプライアンス・オフィサーがチェックしたらおしまい。弁護士費用はほぼなし、なのですが。。。法務と法令遵守とがごちゃ混ぜになっているいい例、というべきかもしれません。それが正しいかどうかは本当に微妙です。

タックス・ヘイブンはタックスヘブン?

ところで、このいわゆるtax haven、正しく翻訳するなら「租税回避地」、ですが、ファンド設立地では課税しません、というだけの話、なのはよく誤解を生むのです。というのも、まず、オフショア拠点の居住者や前述のように非居住者による投資を行うためのファンドが適切にストラクチャーされなかったり手続きミスなどのせいで減免措置を受けられない場合には課税される、ので、まず租税回避地は全く課税しない、わけではないのです。そりゃそうです、現地の政府を維持するには税収が必要なのですから。

また、もっと大事なポイントとして、課税が行われる場所が、(1) 実際の投資活動が行われるところ、(2)投資活動の拠点、そして(3) 投資家の所在地、と3つ可能性があるうち、ファンド設立地が(2) にあたり、そこが租税回避地であり減免措置を受けたとしても、(1) や(3) で課税される可能性が残っているのです。例えば、(1) でいうならば、ケイマン諸島籍のファンドが日本国内で発行される国債や公社債を保有した場合の利金に対しては源泉徴収税が15%かかります。また、(3) について言うならば、単純なケースであれば私たちが日本の証券会社で購入したケイマン諸島籍のファンドを売却して利益が出た場合にはその利益に対して日本で課税されます。とすると、(3) のような最終投資家の課税問題は(2) としてオフショアというか租税回避地を使ったところで最終投資家の拠点で課税されるのです。ですが、(2) で課税されて(3) で課税されるよりは投資効率が高いので好ましいと考えることから(2) にオフショアが選ばれるのです。

お金だって人と同じように効率的に移動する。

結果として、飛行機のハブ空港に地方空港から飛行機が集まって人が集まり、ハブ空港間のフライトが増えることでより多くの人や物が効率よく運べるのと同じように、オンショアからオフショアに投資資金が集まり、オフショアからよりたくさん集まった資金を使って世界中に投資してリターンを上げていくことがより効率的であり、今は少なくともその流れでオフショアに資金が流れ込んでいるの事がある意味合理的な実務の結果による、世界的な流れなのです。

という事で、もし、ここまでちゃんと読みきってもらえたならば、その諸般の事情の某氏にもオフショアがいうほど怪しくも怖くもないところだと理解していただけたのではないか、そう期待してますし、そうでないとしたら、私の説明不足という事で、コメントでご指摘いただければ加筆をしていこう、と思うのでしたとさ。

外貨建債券が償還された場合の償還差益及び為替差損益の取扱い:FPらしい話でも

そーなんです。私、一応これを書いている今(2015年7月25日)のところ、2級FP技能士なんて国家資格(!)を持ってます。で、今鋭意これを AFP に格上げすべく通信教育で単位を取ろうとしている努力をダイエットの横でやっているのですが、ダイエットの話は余計ですね。ええ、これは与太話ブログではないのですから。。。

で、そうすると、個人向けの税務もある程度頭に入れるようにしておかないといけない、というか、投資信託商品とかの商品設計をするときにこの辺りも念頭に置いておかないといかないのですが、そんなときに、スマホの Google のブログカードにこんな記事がなぜか上がってきたんです。

外貨建債券が償還された場合の償還差益及び為替差損益の取扱い

えっと。。。これ、国税庁のホームページの一部だよねぇ。よくこんなの引っ張り出してきたねぇ。という感じ。外貨建て債券の償還時の税金のことなんて調べた覚えもないのに。。。
まぁ、でも、読んでみたら、ちょっと目から鱗がぼろぼろ落ちる内容でしたので、ちょっとご紹介してみようかと。とはいえ、展開としては前回のようにページからの引用にツッコミを入れるだけになりそうですが。。。

まず、話の前提はこんな感じ。

【照会要旨】
1万ドルで購入した米ドル建ての債券が同額の米ドルで償還されましたが、この場合、1万ドルを満期時の為替レートと購入時の為替レートでそれぞれ円換算し、その差額を償還差益又は為替差益として認識する必要はありますか。

  • 購入時のレート・・・1ドル=100円(円からドルへの交換と債券の取得は同日)
  • 払出時のレート・・・1ドル=120円
  • 差益・・・(120円-100円)×1万ドル=20万円

まぁ、外貨建て債券に投資したことのある人だとイメージがつきやすいですね。パー発行された外貨建て債券を円から外貨に入って投資して、数年経って債券が償還した時に円安が進んでいたので円価で評価しちゃうと儲かっちゃっていたけど

税金ってどーしよう

という状態ですね。本当に2-3年前に外貨建て債券を仕込んだ人たちにはとってもホットなトピックですよねぇ。

で、それに対する回答ですが

また全部引用しちゃうと長ったらしくなるので、要旨だけ持ってくるなら

【回答要旨】
照会の債券については、購入した金額と同額で償還されていますので、償還差益は発生しません。また、同一の外国通貨で支払われていますので、為替差益を所得として認識する必要はありません。

ん?税務署のホームページなのに、税金がかかりません、って言ってる文章がとっても不思議に思われるものの、税務署の見解なので仕方ない。とりあえず分析しましょう。上記の要旨は二つの観点で話をしていて、

  • 一つは外貨建て債券の償還なので、債券の償還益があるのか、という点での論点
  • もう一つが円から外貨に換えて投資している以上、為替差益が発生しているのでは、という点での論点

というその意味では真っ当な話なのですが、前者に対しては

購入した金額と同額で償還されていますので、償還差益は発生しません。

と言い切り、後者に対しても

同一の外国通貨で支払われていますので、為替差益を所得として認識する必要はありません。

と、断じてます。すごい。でも、確かにそうだよね。それぞれをさらに分析してくれています。

債券の償還益は?

債券の償還益かどうか、の論点ですが

1 償還差益について
外貨建取引とは、外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れその他の取引をいい、居住者が外貨建取引を行った場合には、その外貨建取引の金額の円換算額はその外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額として、その者の各年分の各種所得の金額を計算するものとされています(所得税法第57条の3第1項)。
公社債の償還差益とは、償還金額(又は償還により受ける金額)がその発行価額(又は取得価額)を超える場合におけるその差益をいい(租税特別措置法第41条の12第7項、第41条の13第1項、第2項)、その経済的実質は預金利子と類似していますが、利子所得には該当せず、雑所得として取り扱われています(所得税基本通達35-1(3))。
このように、償還差益は、償還金額がその発行価額を超える場合のその差益とされており、また、債券の償還によって発生する利子類似の所得であることから、外貨建債券の償還によって生ずる償還差益とは、外貨ベースでの償還差益にほかならず、これを上記外貨建取引の換算規定に従い、償還時の為替レートで円換算した金額が雑所得の収入金額になると解されます。
したがって、照会の債券については、購入した金額と同額で償還されていますので、償還差益は発生していません。

と、分析しているのですが、まず外貨建て取引がなんたるか(所得税法第57条の3第1項)と、その円建て評価額の算出基準(当該外貨取引を行った時の外国為替の売買相場)公社債の償還差益とはなんなのか(租税特別措置法第41条の12第7項、第41条の13第1項、第2項)とその税務上の取り扱い(一番厳しい雑所得扱い)、という定義に戻っています。

思った以上に厳密な議論をしますよね。そのお陰でその時々で議論の方向性が変わって課税するかどうかが変わる、という素地を作っているのかもしれませんが。。。

で、まず、
償還差益とは、償還額がその発行価格を超える場合のその差益
であると確認して、償還によって生じる発生する利子類似の所得という収益の性質を認識した上で、でも、雑所得扱いね、としていますが、この時の考え方は

外貨建て債券の場合には外貨ベースでの償還差益
であって、
償還時点の円価ベースでの償還額と投資時点の円価ベースの投資額との差額ではない
と計算根拠を明確にして、
投資額と償還額が外貨ベースで同じである以上、0 に償還時の通貨レートを用いて円価にしたところで 0 なので適用されない

と明確化しています。

で、為替差益は?

続いて、為替差益の論点についても

2 為替差損益について
外貨建債券の取得及び償還は外貨建取引に該当しますので、上記外貨建取引の換算規定に従い、償還金額及び発行価額をそれぞれ円換算すると差額が発生します。この差額は為替差損益とされるものですが、これを所得として認識すべきかどうかは、所得税法第36条《収入金額》に規定する「収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額」として実現しているかどうかにより判断することとなります。

照会の債券の償還のように、券面に表示された金額(元本相当額)と同じ金額が同一の外国通貨で支払われる場合の為替差損益は、単に債券購入時の円換算額と償還時の円換算額の評価差額にすぎず、同一の外国通貨である限り、為替差損益に相当する経済的価値が実現しているとは認められません。

したがって、照会の債券の償還時においては、為替差損益は収入すべき金額として実現しておらず、所得として認識する必要はありません。

言い換えると、前述で計算方法として使わない、とした
償還時点の円価ベースでの償還額と投資時点の円価ベースの投資額との差額において、本来外貨建取引に当たる外貨建て債券の取得から償還までの一連の流れについて、この差額は外貨建取引の換算規定に従うと為替差損益に該当するのでは、という考え方に対して、

所得税法第36条《収入金額》に規定する「収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額」として実現しているかどうかにより判断することとなります。照会の債券の償還のように、券面に表示された金額(元本相当額)と同じ金額が同一の外国通貨で支払われる場合の為替差損益は、単に債券購入時の円換算額と償還時の円換算額の評価差額にすぎず、同一の外国通貨である限り、為替差損益に相当する経済的価値が実現しているとは認められません。

と、償還した場合には外国通貨で支払われている場合には円価に戻していない以上、ただの評価益に過ぎず、実現益ではないから収入金額とはならない、としています。

そうすると、

したがって、照会の債券の償還時においては、為替差損益は収入すべき金額として実現しておらず、所得として認識する必要はありません。

言い換えると、

パー発行の外貨建て債券を発行時から取得して、償還まで持ち切って、外貨のまま保有する

と、この取引からは償還差益も為替差益も課税対象にはならない、という結論になってしまいますね。じゃあ、継続して外貨投資し続けようか、と思っちゃいますね(笑)

で、これを深読みしてみましょう

さて、一番興味深いのが、これに続く一文でして。。。

なお、外貨建の割引債又は割引発行の利付債のその元本部分(発行価額)に係る為替差損益についても同様です。

外貨建て債券投資をしている人たちの多くが、割引債やほぼそれに類する利付債(通貨のイールドとしては7%なのに、あえて 0.5%程度のクーポン支払いにして、あえて利付債にしながら割引債のようにディスカウントで取得可能にしている債券)への投資で、クーポンに課税される源泉徴収税を回避(oops)しようとしているかと思います。これに対して、発行/取得時点の割引された元本に対しては為替差損益の議論はしないよ、とだけ言っています。とすると、償還したときの投資元本として増加した償還差益と認識される部分については為替差損益の議論はない、と読めますが、償還差益として雑所得で課税します、ということなんでしょうね。ポイントとしては、税務署として、この償還差益を利子所得に類似する所得と認定しているにも関わらず雑所得扱いすることで、

利子所得なら源泉徴収の20.315% で許してあげるけど、割引債で先送りするなら雑所得として累進課税に当てちゃうからねー

という、ちょっとしたペナルティ的な意味合いを持たせているように読めてしまうのは気のせいでしょうか。いわば債券投資の収益構造が

  • クーポンは取得時の為替評価による円価での利息所得扱い
  • 償還差益は償還時の為替評価による円価での雑所得扱い
  • 投資元本は利益が実現化したときに為替差益扱い

で捕捉します、ということなのです。あ、ちなみに、償還ではなく売却した場合には

  • 利付債ならば譲渡は非課税
  • ディスカウント債ならば譲渡所得として総合課税(譲渡所得)

と、さらにややこしいことになっていましたね。

それに対して外国株の場合は

 

  • 配当金は取得時の為替評価による円価での配当所得扱い
  • 売買損益は投資時点の円貨相当額の投資元本と、売却時点の円貨相当額の回収金額との差額に対する譲渡所得扱い

と、元本の取り扱いが微妙に違うんですよねぇ。

さて、こんなに行数を費やしてあれこれ言っていますが、実は、来年からの株と債券への証券課税の一体化、ということで、債券の償還益・売却益とクーポンに対する課税も一括で 20.315% の申告分離課税(かつ、上場株式と損益通算可能)と、話でだいぶ整理がついてきたのですが、問題は、外貨建て債券の譲渡益/償還益を算出するための計算方法がこの税制変更で外国株と同じ形に代わるのでしょうか。明確にこの説明をしているひとがいないんですよねぇ。。。ただ、外国株式と同じにする方が合理性が高いですので、その覚悟で継続して投資するほうがいいかもしれませんね。

って残り半年になり、外国債券投資している人にとって、今売るか、来年以降売るか、悩ましい時期が続くかと思いますが、もし知らずにこれを見つけてしまったならば、検討する契機になればと思います。(これが一番重要)

tax planning って、実はいうほど(ぼそぼそ)

小人さん、寝ている間にやってくれませんか? 税金対応。。。
小人さん、寝ている間にやってくれませんか? 税金対応。。。
諸般の事情でいつも通りまた遅筆になってすみません。
個人的なサイトでやっとオフショア税制に対する非難轟々の世の中の声に対してまともな文章が書けたから、その勢いで、と思っていたら、モメンタムを失ってしまってました。

やっぱり継続的に書き続けなきゃいけませんねぇ。

は、さておいて。個人的なサイトで今が旬の学者さん集団に喧嘩を売ったわけですが当然相手にもされません。いや、いいんです、されても困りますから。でも、そこで触れたのがオフショアの税制の話なので、本当はここでもオフショアの税制とそれをオンショアで使うには、みたいな話をするのがいいのかもしれませんが、

FATCA

とかいう、某米国の富裕層の資産を国外に出さないようにするための法律のおかげ(いや、その前の JOBS 法とかもあるんだけど)で、世界中で高々3億人弱の国の1% いるかどうか分からない人たちの資金流出の捕捉に付き合わされるあたりから、クロスボーダーの資金の流れ、正確には非居住者の口座に関する情報の税務当局間開示ルールが出来上がりつつあるので、いわゆる租税回避、という観点での tax planning というのができない環境にある中においてはそうなると、

どこで税金を払うことが税負担の最小化を図れるか

という議論に変わりつつある、のが今時の流れ、といえます。というものの、なんでもいいから税金を減らしたい、なんていうモチベーションって働くんですよねぇ。なので、今回のお話。

ストラクチャリングと税金

さて。一般的にファンドの設立国を選ぶ時って、ファンド組成の観点でそれなりにしっかりした法制度(とそれを支える弁護士、会計士、アドミニストレーターの存在)があること、に続いて、税制上のメリット、謂わばキャピタルゲインが課税対象ではない、というメジャーな話から、ファンド投資の時の取引に掛かる証券取引税がかからないか、もしくは安価か、といったボディーブローのようにじわじわと効くものまで、様々な現地での「コスト」について考えるものです。

ですが、これと合わせて考えないといけないものとして、

投資家の居住する国とファンド設立国との間の租税条約
ファンド設立国と投資対象の所在国との間の租税条約

というものがあります。

前者は、とはいえ、ファンド設立国を導管としてみる(ということで、オフショアで設定したファンドで得た収益/損失を投資家の国で申告して納税する)ことがほとんどですので、ここは飛ばす(オンショア国で設定したファンドの場合は当然影響するので本来は考えるべきなのですが、あとでこの辺りにも触れる)こととします。

で、後者。案外これって気にしていないようで、こだわる人、というか、ここをこだわるとプロっぽく見えるらしいからかこだわるというかなんとかしようとする人が多いところ、なのですが。。。実際のところ、本源的な議論なの?と思うことが多いので、ちょっと深く話してみちゃいます。

で、ストラクチャリングでよくある勘違いなツボ

この手の話で一番(いや、本当に多いんです)多いのが、

ハイイールドボンドファンドを作りたいんだけど、クーポンに掛かる源泉税を回避したいから租税条約の観点でメリットの高いアイルランドでユニットトラスト作れないかなぁ。

という相談。その時についでに言われるのが

そういうことだから、現地に管理会社作ってくださいよー

えっと。。。こういう話をする(特に日系大手)証券会社な方々は、

お客の投資資金を最大限に活用するためなのだからそのコストは運用者が持つべきだ

的な発想がどこかにあるんでしょうねぇ。もしくは、そう思うのが当然くらいの勢い。でも、実際考えてみましょう。

よくある話

例えば、100億円相当のハイイールドボンドファンドがあるとします。このファンドはとりあえず、Markit iBoxx Global Developed Markets High Yield Index あたりをベンチマークにすることとすると(って、実はそんな ETF は iShares さんから出てますが)グローバル(と言いつつ、アセットの分布を単純に加重平均するとアメリカが6割強くらい)で、いくらハイイールドだからと言って、加重平均でのクーポンは。。。ざっくり平均 6.2%くらいらしい。

でも、例えば、アメリカで発行された債券のクーポンに対して、米国非居住者、例えばアメリカの外の国で設立されたファンド、への支払いの際には30% の源泉徴収税をかけていますので、 6.2% x (100-30)% = 4.34% だけがファンドの手元に届き、源泉徴収された 1.86% は税金として取られてしまいます。

100億の 1.86% は。。。まんまですね、1億8,600万円。もったいない。だからなんとかしたい。というのが主張です。

そのために、どうするか。ケイマン諸島だとアメリカと二重課税を回避する租税条約を結んでいないので、上記の課税が思いっきりかかってしまいます。で、そのファンドから日本の投資家に分配金を支払う、というとケイマン諸島では無税ですが、日本で 20% の源泉徴収が販売会社を通過するときに行われておしまい。日本の投資家の手元には、 4.34% x (100 – 20)% = 3.472% 、元々の 6.2% の 56%だけがたどり着いた計算になります。

なら、アメリカと租税条約を締結しているアイルランドならどうか?アメリカとアイルランドの租税条約のうち、income tax に関する条約が 1997年に締結されていて、それによると(Article 11)、相手国の料率に従う、とされていて、アイルランドの利金に対する課税が 20% なので、 6.2% x (100 – 20)% = 4.96% がファンドの手元に届き、源泉聴取されたのは 1.24%。ということは 1億 2,400万円。10%だけ減らせましたよねぇ。で、日本にたどり着くのが、 4.96% x (100 – 20)% = 3.968% と、元々の 64% となります。

で、そのための労力とコストって実際どうなの?

ということは、この年間 1億 2,400万円の課税負担を減らすためにアイルランドでユニットトラストを作ることのメリットが出るか、という議論になりますね。もし、日本に公募ファンドとして持ち込むとしたら、まず、現地に管理会社を設立して、現地で 3人ほど取締役を見つけて仕事をしてもらう必要があります。ちなみに、アイルランドでは最低でも 125,000ユーロか、3ヶ月分の会社運営経費のいずれかは最低資本で必要になります。日本の公募投信の管理会社への資本規制は会社の純資産が 5,000万円以上ですので、日本の規制を満たしていれば良さそうですが、ということは 5,000万円が会社で寝てしまう、と言う意味です。純資産なだけに。かつ、会社設立費用と、年間の維持費(住所を借りることから、年次登録費用、などなど、もちろん3人の取締役の役員報酬も含めて)を払わねばならないわけです。

で、もっと悩ましいのが、この維持費が仮に 1億 2,400万円を大幅にした回ろうが、そのコストをこのファンドが全部まかなってくれるか、という話です。前述の

お客の投資資金を最大限に活用するためなのだからそのコストは運用者が持つべきだ

という、意味不明の原理主義ですね。

で、大事なことを言い忘れていましたが、ちなみに、租税条約によって源泉徴収を負けてもらえる、ことになっていますが、源泉徴収の軽減の手続きをしないと軽減税率の適用にならなかったり、なったとしても実務的に多く源泉徴収されてしまうこともあります。その時は、

アメリカの税務当局に還付請求を行う

ことになるのですが。。。まぁ、スーパー時間がかかります。ものすごい手続きをやって疲れ果てた後に、忘れた頃に帰ってきます。だいたい、取られた年の翌年の10月くらい。これを未収収益にしてNAVを水増しすると、この税金を回収する前にファンドの全部を償還されたら、資金が戻る前に払うことになるので。。。資金が足りなくなりますね。こう言う時だけは現金主義というか実現主義の会計がコンサバでいいなぁ、と思っちゃいます。

まとめ

ええ、インセンティブ全くありません。

で、もっと大事なのが、実はこんな金利の減免措置ではなくて、キャピタルゲインに対する課税の観点なんですよねぇ。アイルランド、33%です (2015年現在)。ケイマン諸島、 0%です。仮に先ほどのファンドが一年で債券の入れ替えをして4億円(=ファンドのAUM でみて4%)の売却益を出したとしたら 4億円 * 33% = 1億3,200万円、のキャピタルゲイン課税があることになります。まぁ、一般的にアイルランド非居住者のみが投資するファンドと認定されれば非課税になりますが、スキームによってはこの辺りが使えないケースもあるので、

小事を追いかけて大事を逃す

なんてこともありえます。ということで、この税務周りは、専門家を入れながら、ファンドの期中だけでなくイグジットも念頭においた tax planning が必要よ、というメッセージでしたとさ。

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