2年ぶりに、でしょうか。Irish Fund Industry Association 主催の年次セミナーに出席させていただきました。アイルランドのファンド業界の横の繫がりで構成されているこのいわゆる業界団体さんにとって、アイルランド籍のファンドの認知向上と利用促進が業界にとって利するので、ファンド設定の多い国の一つして日本においてアイルランドの今と今後の展望について発信してくれる興味深い年間イベントの一つですので、アイルランド籍ファンドに注目して関係者と色々協議した経緯はあるものの今まで残念ながら立てたことのない私としては顔を出させていただいているイベントの一つ、です。
どういうわけか昨年は開催後に開催されたことを知ったくらいぼんやりしてましたが、今年はたまたま出席を予定されていた方と飲んだ席であることを聞いて、慌てて登録した、という感じです。これでメーリングリストに入れてくれないかなぁ。。。
会の内容等は公式サイトから見ていただけるようになると思いますので、個人的な視点での雑感でも書きつつ、カリブ海地域の offshore ファンドと対極をなす、国際的な展開をしている onshore ファンドの現状を私なりにまとめてみようかと思います。
アイルランドのファンド業界が関連するファンドとは? – 総論的視点
アイルランドのファンド業界というと誰が入るのでしょう。彼らのメンバーディレクトリを見ると
- ファンド・アドミ(ちなみに、配られていたプレゼン資料で、結構平気で「管理会社」という誤訳をあちこちで当てられていました。お陰で日本語の資料で頭に入れるのを諦めました。特に共催会社さんが翻訳を手掛けていたと思うのですが、自身のサービスを管理会社と呼ばれて大丈夫なのでしょうか。。。)
- デポジタリ/預託機関(会社型ファンドにおける、ファンドの資産保全を行う機能ですが、実際に証券はグローバル・カストディに、資金は銀行にそれぞれファンド名義の口座で保全することから、その保全されている状態を監視・精査する役割が強い、とされています。これが UCITS V の目玉の一つでもあるのですが、なぜカストディとunit trust スキームと言葉を揃えなかったのか疑問があるのです、個人的には。。。)
- トラスティ(unit trust スキームにおける、いわゆる受託会社。)
- 監査会社
- 税務アドバイザー
- ファンド運用者
- ファンドのプロモーター(日本ではちょっと馴染みのない役割ですね。ファンドの企画し、全体的な関係者の起用のアレンジや運営に責任を負っているはず、の人、なので、日本では販売会社や運用会社の企画部門あたりの機能になるので兼務していることが多いので独立して語られることがない、からではありますが、アイルランド同様ケイマンもファンドの最初の届け出をするときにこのプロモーターが誰であるか、を当局は理解しようとします。)
- 法務アドバイザー(弁護士先生、ですよね)
- 管理会社サービス(以下でも取り上げますが、昨今ではファンドのガバナンス機能の欠落が問題とされてその機能を提供する管理会社のサービスが世界的に求められています。ついこの間某所でお話をしていたら管理会社外してフィーを減らせませんか、ということが某適格機関投資家さんの口から出たと聞いたので、どうも日本は未だにその世界的なスタンダードについていけていないようです。)
- 市場インフラサービス提供者(堅苦しい表現ですが、株式市場や市場データ提供会社、証券決済機関、のような資本市場のインフラ部分でサービスを提供するタイプの会社さんです。)
- その他サービス提供者(ファンド関連のデータ処理などのサービスを提供する会社がいますが、市場データ提供会社もいて、ちょっと整理出来ていないような。。。)
- その他(いわゆるコンサルタントや教育機関などの、上記のどれにも入らないような会社さん)
という感じですので、Irish Funds Industry Association、略して if の目指すところは、ファンドを設立する際に、アイルランド籍のファンドの設定の誘致があり、それがダメでも、アドミやカストディといったファンド設立国にある必要がないケイマン諸島籍のファンドのアドミ業務などを誘致したい、という目標があります。すべてはファンド設立と運用に関連する業務に対するサービス提供という形の雇用の維持促進やファンドの登記・年次届け出手数料といった税収増加につながっている、のは以前ご説明した通りかと思います。
じゃあ、アイルランドで何が出来る?
アイルランドのファンド・アドミだけを切り出してケイマン諸島籍のファンドのアドミとして機能させる、とか、グローバル投資がマンデートの他国籍のファンドであればサブカストディとしてサービスを提供する、ということも考え得るのですが、一般的にアイルランドのファンドというと、EU域へのリテール向け公募投資信託商品である UCITS (Undertakings for Collective Investment in Transferable Securities – 譲渡性証券への集団投資事業のこと。余談ですが、今更ながら何の略だっけ、とGoogleで検索したら検索結果の最初のページに自分のアジアファンドパスポートに関する記事が出てきてびっくりした(笑)) と、定義上はヨーロッパで設立されるファンドのうちUCITS 以外のファンドを意味することになっているAIF (Alternative Investment Fund: 日本だと、公募ファンド以外はすべて私募ファンド、になるのですが、原語にある Alternative がヘッジファンドやプライベートエクイティファンド、のような商品を想起させて、上場株ロングオンリーファンドだけど公募ではないファンドを排除しているイメージがあるのが個人的にはすごく気になっています。)の二つになります。まぁ、定義上、アイルランド籍のファンドをすべてカバーしているはず、ですが。。。
ファンドのストラクチャーで言うならば、ユニットトラスト形態と会社型形態の両方が主に建てられているようで、他方でLPS の法制度も進みつつある、ということではありました。確かに今までアイルランドの LPS って聞かなかったですね。過去においても日本との租税条約のメリットを勘案して、アイルランドに投資対象となる日本の会社の株式の保有を会社の事業目的とするSPC(Holding Co. と呼ばれるアレ、です。)を置く、というスキームが使われていましたが、LPS が整備されれば日本国外の投資家によるプライベートエクイティ投資の際の拠点に使えることも容易に連想できる、のはあの会場だと私以外にあと何人いただろう。。。
で、今年の論点はどこにあったの?
やはり UCITS V が今年の3月の発効を受けてEU各国で本格稼働することを受けて、IVからの変更点になるいくつかの点
- remuneration : 運用者の報酬に対するガイドライン
- depository : 会社型ファンドにおける資産保全を行う預託機関にその資金移動のモニタリングと照合の義務化の形での役割の強化
- fund governance : ファンドの運営・統治に対する強化
と、それに関連するサービス提供会社の対応状況、というところでしょうか。個人的にはこの数年幾つかのファンド・アドミ会社が投資家と投資資金をやり取りする口座と、実際にファンドの資産買い付けや売却時の回収、費用支払いといった、実際のファンド運営のための資金の管理口座とを分けているケースを見ていたので、なんでそんな手間なことを、と思っていたら、今年の7月からアイルランドでは投資家の資産保護のために Investor Money Regulations というのを導入していて、その背景に、カストディ口座と投資家対応のための口座を分けることでファンド・アドミの(翻訳の資料では管理会社と書いていますが原文を見るとアドミをさしてますからっ>誰だか知らないけど翻訳者様)破綻時の投資家保護を図ろうとする動きがあった、というのです。
ファンド・ガバナンスの強化についてもmanagement company の役割について随分あちこちで熱弁震わせていただいている身としては、世界的な流れはちゃんと管理会社がその独立性と中立性を機能させる方向にあると実感しました。CP86: Fund Management Company Effectiveness というアイルランド中央銀行のコンサルテーション・レターの中で管理会社やファンド・ビークルの取締役会の枠組みや実務的問題点などを議論して、アイルランド国内の規制として導入されて、特にセルフマネジメント型UCITS (運用者が自ら取締役としてビークル運営に参加する形態)については管理会社の責務を運用者が兼務することで、利益相反が発生することになるので、外部の管理会社を任命する流れになるだろうと見られています。
そういえば去年くらいまで大騒ぎしたあれは?
AIFMD (Alternative Investment Fund Management Directive: オルタナティブ投資ファンド運用者指令) は、といえばその運用がある程度安定してきたところで、次に来るはずの AIFM に関連したEU域外国での運用ライセンス保有会社に対するパスポートの付与が一年先送りになったことと、日本からの最大の関心事である日本の運用業届け出業者に対して今のところパスポートの付与について特に目立ってネガティブな意見がEU参加国からあがっていないこともあり問題なく進むだろう、に留まったことが背景にあるかと思います。
実際、AIFMD の枠組みであれこれ対応を考えるよりも、リキッド・オルタナとして UCITS のプラットフォームが見直され、またファンド・オブ UCITS ファンドが2008年の信用不安以降に急速にAUMを積み上げてきていること、そして、第三国へのパスポート付与について流動的なAIFMD の規制環境と比較して安定した UCITS IV を考えると、EU域内への商品提供をリキッド・オルタナとしての UCITS 商品で入っていく方が簡便であることも一因かもしれません。
ついこの間のイギリスのお祭り騒ぎについては?
また、2016年の8月、ということで、6月の Brexit (英国による EUからの離脱) による影響や今後の見通しにも触れざるをえないでしょうけれども、離脱することだけが決まっていて、これからのプロセスと結果としての離脱のタイミングが今後決まっていく現状においては、明確なことと不明な点を切り分けながら話さざるをえないのは仕方ないところでしょうね。
まとめ
実際にIrish structure を使って運用している方たちのパネルを聞けばよかったのですが、諸般の事情で早く切り上げねばならなくなったので聞きそびれたのが残念ではありましたが、改めて、ルクセンブルクと対比した金融当局を含めての柔軟性と、ケイマン諸島と対比したオンショアらしい当局の市場に対する関与、という点でいつかはアイルランドのファンド、作ってみたいものです。
おまけ
しかし、これは誰に言ったらいいんでしょうかねぇ。administrator を管理会社と訳してしまう翻訳家の多い現状(とそれをそのまま流してしまう依頼主も、ですが。。。)。せめて事務代行会社ですから。本当、お願いします。。。