Tokyo Asset Management Forum に参加しつつ、最近の動向に関して雑感など

東京都がそのお知らせとか新着情報に載せずにある意味こっそりと開催した、Tokyo Asset Management Forum。ご存知の方も多いかと思いますが、筆者の最近の仕事の多くがあけぼの投資顧問でのwebmaster 兼総務労務人事経理といった雑務一般、ということもあり、後述の理由にて参加させていただきました。

新興運用会社は金のなる木になれるか?

実は書きかけの記事があれこれあるものの、このブログでの東京版EMPの記事がよく纏まっているので人に紹介しているんです、なんて今日とある方に言われたことから、光栄に思いつつもそうなると結構読まれているんだな、と思い、言葉遣いに気をつけ。。。る必要もないですよね(笑)前回同様、率直なまとめを踏まえつつ、またたまたま執筆する数日前の AIMA の日本支部の定例会で共有されたちょっと驚く話も交えて、たまには旬なタイミングで書いてみようかな、と思った次第です。

Tokyo Asset Management Forumとは?

引用しております告知ページにもありますように

東京都では、昨年11月に、「国際金融都市・東京」構想を公表いたしました。

 今般、本構想において取組の一つとして掲げている新興資産運用業者育成プログラム(EMP)等の導入促進に向け、EMPの認知度向上を図るとともに、新興資産運用業者からのプレゼンテーション等を行うセミナーを開催することとなりましたので、下記のとおり、お知らせいたします。

※ Emerging Managers Programの略。アセットマネージャーを志す候補者を発掘して資金を提供し、若手のマネージャーの育成を支援すること

Tokyo Asset Management Forumの開催について

という趣旨で、機関投資家と報道向けをメインとしつつ、ゲートキーパーのようなアセットオーナーと投資家を結ぶ役割だったり、上記の Emerging Managerに該当するけどプログラムの最後の新興資産運用業者のプレゼンテーションに呼ばれなかった運用会社さん、など150名程度の参加があったそうです。

今年は実は2回目で1回目は昨年。その際には諸般の事情があって参加出来なかったのですが、EMPが発表される前だったことで色々と不明瞭な状況で演目が進んだのに比べて今年は既に EMPの詳細が開示され、EMP に賛同し(EMに対して投資するファンドの運営費用の一部を東京都が補助することが確定し)た「東京版EMPファンド運営事業者」も3社決定していますので、EMPファンド運用事業者の裏側にいる国内適格機関投資家だけでなく、その他の適格機関投資家に対する EM の紹介をするショーケース的意味合いも強かったと思います。

で、そのEMって誰?

前述の東京都政策企画局の Tokyo Asset Management Forum の告知ページのプログラムの最後に、「資産運用業者プレゼン」とあり、国内外の16の新興資産運用会社がプレゼンすることになっております。1時間20分に16社ですので、一社あたりの持ち時間はなんと4分。いわゆるエレベーターピッチ、エレベーターで乗り合わせた人に降りるまでの短い時間に売り込むことが出来る程度に簡潔に縮めたプレゼンを求められたのですが、時間通りに終わらす人、時間が過ぎても少しくらいは、とだらだら話す人、と色々と性格が出るようです。

余談ですが

個人的に、こういう短い時間を区切ってプレゼンをすることでスキルを磨いたり、よりインパクトのあるプレゼンをする機会を作ってみたいんですよね。ロンドンに Ignite London というイベントがあって、そこは一人の持ち時間は5分。時間が過ぎたらマイクや照明の電源が落ちて終了、という仕掛けがあるステージでのプレゼン、観客も立ってすぐそばで見る、という緊張感があるのでいつかやってみたいんですよね。こんな感じで。。。

それはさておき、今回の16社、この告知で名前を出していないので多分表に出してはいけない、ということは、日経やブルームバーグが取材に来ていたのでまずないとは思うものの、まぁ実名を一社だけ出すならば、著者の所属するあけぼの投資顧問。はい、プライベート・エクイティやベンチャーキャピタル・ファンドの持分のセカンダリー取得を戦略とするファンドを運用しております。ヘッジファンドでも伝統的資産の運用でもありません。しかも、会社のメンバーを見ると、私のほか、AIMA の日本支部の副会長の白木信一郎を始めとする、オルタナ運用業界に普通に10年以上いる人間ばかり。平均年齢とか聞いちゃいけないくらい高い(笑)オヤジベンチャーですので、「若手のマネジャー」という言葉が全く似合いません。でも、会社としてはまだ創業から3年、金融商品業法登録から2年ですから、東京版EMP の定義でいうEM にちゃんと当たります。

一応会社名は出しませんが、海外で既に USD 1bil を優に超える運用資産のある企業も数社登場しました。ついこの間ニュースで日本進出が報じられた某運用会社さんもです。当然、本社の創業は20年前、とか普通にありますが、日本拠点の設立が最近かこれから、ということで金融商品業法登録も今年、もしくはこれから、ということですので、EMP的にはEM、なのです。

と考えると、既に報じられている EMPファンド運営事業者の3社がこの16社だけから選ぶことはないものの、とはいえ、実はこの16社に代表されるような、本当に新たに企業を興した、という意味の若手の新興ファンドマネジャーから、当社のような顔ぶれだけは古いが業歴が浅いファンドマネジャー、そして、この数年内に海外から日本に拠点を作り国内の業法登録を済ませたところまで、案外選択肢は広いことが見えてきます。まぁ、これ、裏を返して読むと、本来の目的が見えてくるんですよね。。。制度設計的に野心をよく反映するように出来ているのですが、おっと誰が読んでいるかわからないからこれ以上はやめておこうか(って、これでも十分怒られるか笑)

あと、その定義をちゃんと読むとわかるのですが、知られていないことの一つに、我があけぼの投資顧問が普通にEMの顔をしてプレゼンを出来たように、EMPの制度上、採用される戦略に縛りがない、のです。新興マネジャーの育成プログラム、というとどうしてもヘッジファンド、と思いがちなのですが、実はタイミングさえ合えば(って、PE/VCにはこれが一番難しい)今年以降、立ち上がるビンテージのファンドへの投資だって期待できたはず、なのです。これはJIAMの有友氏のパネルでのプレゼンでも語られていたのですが、PE/VC界隈でのEMPの認知度の極めて低いことが見事に災いしましたが、それ以上に、EMPファンド運営事業者さんにPE/VC関連戦略がそもそも理解して選択できるのか、がもっとハードルを引き上げてしまったようにも思えます。もしこの物言いが失礼、だとしたら、ぜひ理解したことを示すべく、あけぼの投資顧問の来年のファンドへの投資をご検討ください(と、ラブコールしたりして)。

東京がそれなりに盛り上がっているところ、こんなニュースが

さて、AIMAの月例会でさらっと報告があって、みんながそれを聞いて「あーあ」と声にしてしまったニュースでも。

シンガポールの金融当局 (MAS)が、2018年11月13日にプレスリリースしたのが、USD 5 bilをシンガポール政府が投じて、既存、これから立ち上げるを問わずシンガポールにコミットするPEファンドやインフラファンドに資金供給をする、private markets program (PMP)を立ち上げた、というものです。

いつもながらシンガポールというのはその政策の方向性と手法に目を見張るものが有ります。今後伸びているくプライベート市場に、既存の企業とファンドをマッチングさせる MATCHとこのPMPを組み合わせて非上場企業の育成化と共に、資産運用業界の活性化と海外企業の誘致も行っていく、というのが見えてきます。そしてそのための資本リスクをとる、と明言しているのです。

特にこの最後の部分は、過去の新銀行東京の一件以降、議会が絶対に都としての出資を認めづらいところにある、けど補助金ならば、という選択に帰結したことを聞いているものの、これで差がつけられるなぁ、という印象はどうしてもぬぐえません。「あーあ」という声が出るのもわかっていただけたかと思います。

まとめ

ということで、東京版EMP、今後はEMが徐々に採用されていくことになるとは思います。あとは、どれだけの結果が残していけるのか、に次の道筋が決まっていくだけに、気になるところです。それ以上に、あけぼの投資顧問が採用されるのかが、個人的に気になって仕方ないのですが、スキーム上、第二種金融商品への投資そのものが許されているのか(特に国内受託者のポイントとして)など、クリアーにする機会があるのか、今後に注目です。いや、注目してください。

AMLCOとか MLROとか DMLROとか、知ってますか?準備できています? – 多分今ケイマン諸島籍ファンドで一番熱いネタの一つから

Rule is rule

常にコンテンツを書くのが遅い当ブログですので、最新の法規制の話を書こう、とすると気づくと締め切り後になりかねず、というのもありあまり触らないでおこうかな、とか思うこともあるのですが、最近だいたい2週間に一度程度、2000文字に起承転結をちゃんと入れて書かせていただいているサイトがありまして、そこでちょっと文字数少なめに取り上げた表題のネタがあるので、こちらでは普段通りのペースでちょっと書かせていただこうかな、と。クロスポストにならないように一から書きますので損はさせませんよ。

ケイマン諸島のAML/CTFはある意味OECD諸国で最先端(?)

Rule is rule大きく出てみましたが、今回のネタの確信ってここにあると個人的には思っています。何かというと、2018年の6月1日以降にケイマン諸島で設立されたファンドや、それ以前に設立されたファンドについては、その登録の有無を問わず、2018年9月30日までに、専任の Anti-Money Laundering Compliance Officer (AMLCO)、Money-laundering Reporting Officer (MLRO)とDeputy Money-laundering Reporting Officer (DMLRO)を任命して、Cayman Islands Monetary Authority (CIMA)に届け出る義務付けを行いました。

もともとケイマン諸島では AML Procedureを各ファンドが定めて投資家を受け入れる時に AML/CTF (Anti-money laundering / Combatting terrorist-financing) の調査を行うように定められていたのですが、これを一段厳しくして、この投資家 due diligence の遵法確認をする担当者を置き、またもし疑わしい場合には当局に届け出る責任者を定めるように求めた、ということです。

ファンドを設立したことのある人ならイメージはあるかもしれませんが、AML Procedure の導入前を考えると、ファンドの設立の時にファンドのスポンサーに対するdue diligence をファンドの口座開設の際に行い、その際にAML/CTFの側面での確認も行なっていました。他方で投資資金の出し手である投資家に対するdue diligence というのも一応は行なっていましたが、US-FATCA/CRSの観点での税務的側面での確認が主なものでした。となると、実は資金の大きな流れである、投資家の資金に対するAML/CTF的なチェック機能が不十分では、という問題が生じ得るのです。そこで、ケイマン諸島ではAML Procedureを導入するように規制をかけたのです。

とはいえ、その実効性という意味でいうならば、投資家の投資申し込みの手続きでの本人確認を行うのがファンド・アドミであり、現実的にその本人確認のプロセスもそのファンド・アドミの規制を行うその所在国における本人確認の要件に依存することになり、またその結果の疑わしい投資家などの情報収集という観点でも機能しづらいことが見えてきます。そこで、後者に対する対応として今回のAMLCO/MLRO/DMLROの登録制度を導入することとなったというわけです。著者の知る限り、ファンドレベルにまでAML/CTFの義務をここまで厳しく導入している国というのは実はありません。

ちなみに日本はどうなの?

日本におけるAML/CTFについては、世界的なAML/CTFへの対応強化の流れに合わせて、今年3月に金融機関等に対して従前より高いレベルでのAML/CTF対応を行う取引先 due diligence を行うようガイドラインが提示されました。このガイドラインの基本的な作りは政府間機関のひとつである金融活動作業部会 FATF (Financial Action Task Force)の第4次勧告に基づいたものでして、実は来年の後半に金融当局とランダムに選ばれた金融機関や金融商品取引業者へのヒアリングが行われてそのガイドラインの実効性や実務的組み込みの実態を調査されることになっています。特にランダムに選ばれた金融機関等というのが、悪意を持って取引を行おうとする人ならば規制に対して意識が薄かったりコスト的な観点で「狙い目」となる零細業者を入り口に選びがち、という現実を踏まえて、国内の金融当局がお勧めする「規模的にも実務的にも模範」というウィンドウドレッシングをさせない、という現実的なアプローチの検査をされる、ということなのです。

今年の前半あたりからこの辺りの実務、特にリスクベース・アプローチと呼ばれる、顧客の属性(資金の出所が怪しいとか、職業が微妙とか)だけでなく、金融商品取引業者が提供するサービスによってマネーローンダリングとかテロ組織への資金供給する可能性についても評価し、それぞれの可能性の高さによって取引開始すべきかどうか判断する、というプロセスをいかに日本中の隅々まで導入できるかがポイントになりそうです。

他方で、日本では犯罪収益移転防止法に基づく取引時における本人確認が行われてきました。この際、個人は本人確認の出来る書類(運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなど)の提示で済むのですが、法人の場合、個人を隠して取引が可能、ということで、法人の設立を証明する資料やその窓口での取引担当者の本人確認に合わせて、法人の支配的地位にある人(株主や取締役など)の情報を提供することが求められています。この考え方は日本に限らず世界中で同じように法人口座を開設する時にはその法人の支配的地位にある人の情報提供を求めます。

世界基準と日本基準の狭間には

さて、テクノロジーからサービスのクオリティまで、日本は世界の最先端にある、というのがどうも私たち日本人の矜持であり、信じるところではあるのですが、ではこの辺りの規制の実効性や妥当性という観点ではどうなのでしょうか。

FATF が2014年に定めた「透明性並び受益権に関する指針」(“FATF Guidance – Transparency and Beneficiary Ownership”)の中で、議決権保有者に関する所有権比率による基準として、数値的なものは特に決めないものの「例えば25%」と書いてあります。ということは、世界的な取り決めならば25%以下なら数値的にはどれでもよくないか?ということになり、日本は一番ゆるい25%を選んでいることになります。ええ、世界の最先端の日本が、です。

で、オフショアという金持ちの資産隠しのための楽園、ケイマン諸島での情報開示の規制はいくつか、というと、10%です。ちなみに、この10%というのはケイマン諸島だけでなく、オンショア、オフショア含めてかなり多くの国でも採用されていることが知られています。

資産を隠す、というだけではなく資産を世界中に移転させるための口座の開設や移転手続きをするために、その支配的権限をもつ個人の情報をより多く出させているのは、日本よりもオフショアだ、という事実があるのです。

じゃあ、情報を出せばいいじゃないか、と単純に思うかもしれませんが、本人確認資料を準備するのは思うほど簡単ではありません。本人が本人であり、またそこに税金を納めるだけ生活を根付かせている証拠なんてものは、その人の出生地や現在の居住地の発行する証明書であって、パスポートや運転免許証で本当に足りるかと言う問題がある一方、その写しを提出することになる訳ですからそのコピーが「本当にその写しである」という証明、そして日本人なら特に、それらの書類を発行する役所の文書が日本語である以上、「その記載内容が提出先に理解されるように翻訳され、その翻訳が正しく翻訳されている」、と言うことも証明せねばならないのです。(香港あたりだと広東語と英語の表記だからこんな問題はないんですよね。ま、役所が公用語以外の言語で責任持って公的文書を発行できるかどうか、でこう言うところに民間のコストが増加させてるんですよね。国内の手続きの効率化だけに止まらない話ですよね、この英語問題って。)

日本においてファンドレベルでのAML/CFT確認は必要?

さて、ちょっと話を別の角度から見たいと思います。

日本においては通常の有価証券等の取引というのは銀行か証券会社を経由して行われるケースがほとんどですので、これらの金融機関の口座開設時点での調査や継続的なモニタリングによる口座の実質的保有者の素性確認を行い続けていれば、公募や私募の国内投信や会社型ファンドの投資家に関するチェックが間接的に行われていることになるので、ファンドレベルで改めて調査を行う必要はない、と考えることが可能です。だから、日本でファンドレベルの調査なんて不要じゃないか、と結論づけるのはちょっと尚早です。

これらの金融機関の証券口座を作らずに投資できるファンド、というものが存在する、としたらどうでしょう。ケースは理論的には二つ考えられます。

一つは日本に取引口座を開設していない海外投資家が直接投資しようとするケース。これは国内のファンドが海外で募集したら、という話ですが、技術的には国内ファンドをマスターファンドにして、海外投資家向けの外国籍フィーダーファンドを作ってそこで投資家を受け入れる、なんてことがあれば、外国投資家が直接マスターに投資させろ、と言ってもおかしくはない、のです。ま、受け入れないことで事務的に発生させない可能性が高い話ではありますが。。。

もう一つは、現実に今そこにあるケースです。例えば プライベート・エクイティファンドやベンチャーキャピタルファンドで使われる投資事業有限責任組合スキームの場合、証券会社にその持分を販売させる、ということをほぼしませんし、通常よくわかっているプロ投資家相手ですから、直接の取引をするのがほとんどです。

とはいえ、これもいわゆる金商法第63条の適格機関投資家向け特例業務の登録をして一人の適格機関投資家と複数のプロじゃない個人向けの投資家を持ってくるという使い道をすると、プロじゃない個人投資家も直接投資することになります。銀行から組合に送金しながら組合契約にサインすればいいだけですからね。それなりの金額ですから銀行は送金の目的を確認しますが、ファンドのための調査ではなく、自身の取引に対するAML/CTFへの関与の有無のチェックに過ぎないのです。

言い方は悪いのですが、この手のスキームを使って個人から資金集めしたい、というニーズの背景に規制対応が面倒、コストが掛かる、というものが聞こえる一方で、じゃあ、その手間を惜しんで投資家保護の措置をちゃんと自主的に取っているか、といえばかなり否定的に見ざるを得ません。そんな世界ですので、AML/CTFに対する意識があるかといえば。。。

とはいえ、いわゆる63条業者と呼ばれる人たちはまだまし、です。それでもギリギリ法律の免除規定を使おうという努力と、最近ではかなりスタンダードの高くなった年次の事業報告を当局にしよう、と思っているからです。もっとひどい(!)のは、「コンプライアンスのスペシャリストが考え出した完璧な抜け道」と称して使っている「合同会社」を使った投資スキーム(と呼べるかどうかすら疑問な手口)です。金商法上、いわゆる2項証券ということで組合持分と同じ扱いであることから、その私募というのが適格機関投資家ではない投資家は最大500名まで募集することが出来る、という読み方をして、かつ直接縁故的に自分たちから営業せずに受け身にメーリングリストで自主的に申し込ませたりウェブサイトからの問い合わせ、といった、いわゆるリバース・ソリシテーションで合同会社の社員を集めれば募集行為にすら当たらないじゃない、的にやっているケースですね。ここまでくると、自分たちは金商法の外の世界だと考えている節もあるほどですから、AML/CTF意識なんて皆無、というか自身のMLのためにやっているんじゃないか、と思えるくらいです(ごめん、でも、正直そんな話に以前昔出くわしたからはっきり言わせてもらう)。と言いながらも、前述の通り、合同組合の持分は金商法の取り扱いの範囲内です。ですので、会社の事業として株式を取得することだ、といって自己運用するのは、自分の資産のためならばまだしも、赤の他人を巻き込むならば、63条特例業務くらいは届け出ろよ、と言う感じです。でも、これも間違えて投資するとなると、当然証券会社等を経由しないで持分の取得が可能なものなのですからこれらの金融機関でファンドの資金に対するAML/CTFの確認が抜け落ちるケースでもあるのです。

最近このスキームを使って投資家を集めているエンゲージメント投資が数件いると言う話を聞いたので、警鐘を鳴らす意味でちょっと触れて見ました。

まとめ

と言うことを考えてみると、実は金融機関以外にもファンドに資金がプールされて投資に振り向けられる以上は金融機関と同じように資金の流れをカバーする限りにおいてはAML/CTFのゲートキーパーにならざるを得ない、と言う世界的な潮流についていく必要があるのかもしれません。

ファンドを立ち上げて運営する、って格好のいい話です。でも、第三者のお金を責任持って運用する、と言うのはリターンを投資家に提供する前に、それ相当の社会的責任を負う話でもある以上、世の中がAML/CTFに対して厳しい姿勢を打ちだそうとするならば、それに追随するのもファンドがより社会のための器としての認知されるためには当然のこと、とこの投資の世界のエコシステムにいる人たちや入ってきたいと考える人たちに考えて欲しい、と思う次第です。

なぜプライベート資産への投資ってLPS / 組合方式を使うの?

投資ストラクチャーは喧々諤々やって決まるものです。

最近の私自身の個人的興味が投資信託形式でのストラクチャード・ファンドのようなリテール向けの世界からプライベート資産への投資の世界にそのウェイトが大きくなってきている中で、同様にこのプライベート資産への投資についてはこの投資難のご時世においては機関投資家の注目も上がってきていることもあり、その投資スキームへの問い合わせ、というより、なぜ従来までの上場株式や債券投資で使われている投資スキームが使えないのか、という問い合わせを受けることが増えてきました。

そこで、なぜプライベート資産への投資において、上場株などの慣れ親しんだ投資で使う投信と比べて、会計処理も投資の手続きも異なる組合方式を使うことになるのか、例によって分解しながら説明していこうかと思います。

その前に上場株式や債券投資では何が起きているのかを見ると

さて、いわゆる投資信託とかヘッジファンドといった”パブリック”な資産への投資をするファンドを考えてみたいと思います。

この資産クラス、一番わかりやすいのは上場株式の中でも、日中の取引高が比較的多い銘柄や外国為替あたりのいつでも売り買いできると考えやすいものを手始めに検討するならば、投資戦略として○○な条件に合致する銘柄を一定のルールで分散して(最近ならば厳選した2○銘柄に集中して、とかいうのもありますが)投資します、と設定すれば、よほどのマーケットクラッシュの起きている状況でなければ売買可能ですので、いつでも(戦略の持つ投資許容サイズの範囲ならば)幾らでも投資資金が入ってきても翌日以降の比較的早い段階で投資可能な状態にありますし、投資資金の引き上げに対しても現金化が比較的早く行うことが出来ます。こうなるといつでも不特定多数の投資家がファンドに参加し、また投資から撤退したいと思った時に出来るような仕組みを導入することが投資家にとっても、(投資家の資金には長くいて欲しいとは思うものの)ファンドを運営する側にとってもメリットがあります。

まぁ、この仕組みや取引する市場の流動性の都合、そして税制などのファンドの制度上の都合などからこの都合上お金が入ってきたらすぐに買えるものを買わねばならないことで、戦略で投資できる以上にお金が集まってしまうと戦略上ベストじゃないものを無理無理買ってパフォーマンスを落とさざるを得ない状態に陥る可能性もあるし、例えば全面安が読めるからポジションを全て現金化しちゃえ、とポートフォリオを全部現金にして置いておく、と言った大胆なことをすることが許されていないケース、というのもあるのですが。。。

ファンドの3つ仕組み、信託・ユニットトラスト、会社型、組合形式、で言うならば信託・ユニットトラストや会社型がこれら不特定多数の投資家が随時、その時々のポートフォリオの持分を切り売りするように設計されています。ポイントは、この「ポートフォリオの切り売り」というところで、例えば、その時のポートフォリオの1億円相当の持分を購入する、といってファンドに1億円を払えばその持分が交付されますが、投資家としてはその持分に支払うことで追加の債務や費用負担をすることがありません。もしファンドに取引や維持のための費用が発生するならばそこから支弁されますし、仮に投資が失敗したとしても、その一億円を超えて損失を負担することもありませんし、追加出資の義務もありません。この辺りは投資信託等に投資したことのある人ならばごく普通のこと、と感じるかと思います。

プライベート投資 – いつ投資出来るかわからないことにどう対応するか?

さて、プライベート投資を前述と比較しながら見てきましょう。

プライベート投資は一般的に投資がいつでも出来るものではありません。(誤解を承知で書くならば)上場株のように取引市場が存在して一つの銘柄に対して潤沢な量の証券が発行されていて、いつでも誰かが売り買い出来るように(HFT – 高頻度取引 – マネジャーのような)マーケットメイクしてくれる、なんてことはなく、都心の一等地の土地建物のようにそこに唯一存在する稀少性の高い不動産の取得案件がそう多くないように、気に入った企業のオーナー株主さんに数年かけて頼み込んで(でもいいし、仲良くなって飲みに行って心からの信頼を得てでもいいし、なんにせよ)世の中にそれしかないユニークな企業の株の大多数を引き受け「させて頂く」ことで初めてその企業の所有権と経営権を手にして思い描いた企業運営を始められる、とか、そういう努力の結果においてそんな隠れた私有企業の取得の際に融資を一緒になって行える、という投資機会なのです。

とすると、プライベート資産への投資機会は「年間で、そうだなぁ、うちのチームだと3-4件程度、一件あたりのチケットサイズが2-30億円くらい(すみません、どことは言いません。でもこれくらいのサイズ感の運用者さんとよくお話をさせて頂いていたので。。。)」という将来の予想は語れるものの、今この時点で買います!という確実な取引は存在しない可能性が極めて高い(まぁ、とはいうものの、そろそろ買える案件があるので、ということでプライベート資産への投資ファンドのファンドレイズにおいて説明しながらファーストクローズ – ファンドの最初の買収案件の決済のための資金調達 – を目指す訳なのですが。。。)のです。であれば、この瞬間にお金を預けてしまうより、案件がいついつに決済になるので、その数日前に送金してください、という投資資金がファンドの銀行口座で眠っているより投資家の手元で他に有効利用される方がよさそうです。

とすると、プライベート資産への投資するファンドというのは、パブリック資産への投資でいうならば、投資対象資産とその銘柄選別のための戦略に基づくポートフォリオに投資する、というよりは運用者のストックピックの能力の巧拙を品定めするかのごとく、運用者の投資案件の発掘から投資実行、そして回収といった一連のプロセスに対する投資ということになる一方で、資金の出入りだけ見てしまうと、運用者の作る将来の投資機会に対する出資約束とその実行、という将来債務を最初に負うこと、と理解できます。

この場合、ファンドの3形態のうち、会社型も信託・ユニットトラスト形式も、形は何であれ投資家に対して債務を要求する仕掛けにはなっていませんので、前述のような将来の出資の約束とその実行ということがこれらの仕組を使う限りにおいては実現可能とは思えてきませんね。そこで、組合形式の登場となるのです。

一応組合形式って説明するならば。。。

日本の法体系でお話をするならば、民法において、複数の個人や法人が出資して共同で事業を行うことについて合意する契約を組合契約と言います。これは世の中では任意組合として知られていますが、これに類するもので商行為を行うための商法上で規定されているのが匿名組合、あとはこのブログで何度か紹介している、投資事業有限責任組合法に基づいて設定される投資事業有限責任組合(日本版 LPS)とか、名前的には似ているものの根拠法が別になる、有限責任事業組合法に基づく有限責任事業組合 (世に言うLLP)なんかがあります。

あれ、健康保険組合とか、労働組合、生協だって生活協同組合だし、銀行っぽい信用組合(しんくみ、しんそ)だってそうでしょ?マンションの管理組合とかも組合って名前についてるじゃない?

ですよね。この辺りになると、確かに同じように一定の目的としての事業を行うために組合員から出資を受けて活動している、といえばその通りですよね。これらもそのための特別な法律を根拠にして設立されているのです。が、投資の世界で使うといえば、LPSかクラウドファンディングに使われる匿名組合あたりですので、ここではこれらに絞ることにします。

組合って前述のように、同じ志を持った人たちが一つの契約にみんなで揃って署名捺印して必要に応じて出資し、その結果の投資の果実を配分されて享受する、と言う仕組です。ですので、出資も締結した組合の成立日に全額行う、と定めずに必要に応じて出資をする形でも良いため、前述のようなキャッシュフローに対応できる、と言う訳なのです。

また、組合員の間での利益分配や出資割合についても契約上柔軟に定めることが出来るので、例えば特定の組合員がこの案件の出資は気にくわないからしない/都合上出来ないからしない、と言うような出資しない選択肢を与えることが出来ますし、その結果、その参加しなかった案件からの収益配分に当然に参加させない、といったことが出来ます。これはポートフォリオの持分を均等に配分される信託・ユニットトラストや会社型では実現できないことです。

と言うことは、実は組合ってすごくいいスキームなんじゃないの?なんで投資信託とかに使わないの?

って、そんな声が聞こえてきそうですよね。実際、アメリカからのヘッジファンド投資なんかでは、デラウェア州LPSとかを使うケースも多いそうです。事実、組合を締結したその日に出資約束額の全額を入金すれば通常の投信や会社型ファンドへの投資とあまり違いがなさそうに見えますしね。これはアメリカの税制に依るところが大きくて、ファンドの費用を純資産額の減少として扱うより、自分の支払った費用として認識する方が個人であっても税務上メリットが得られるケースがあるから、のようなのです。って、なぜ投資信託や株式ではそんな費用の計上を投資家サイドでせねばならないようなことが組合だと発生するのでしょうか。

実は、組合は事業共同体と言う性質から法人格が認められないそうなのです。となると、組合で行った事業の収支(と言うことは費用の支払いや資産売却益)や資産・負債の状況はその持分に合わせて投資家自身が直接行っているかのように取り扱わなければならない、のです。

日本でこれを実際に行うと何が起こるかと言うと。。。投資関連費用を毎年損金計上出来るならばする一方で投資対象を売却したらその年にキャピタルゲインとして納税申告する必要がある、のです。と言うことは。。。ほぼ毎年確定申告せねばならない、と言う意味です。

投資信託経由で投資している場合に、こんな手間はそうそうないですよね。なにせ費用は純資産額の減額ですし、保有有価証券は時価評価で純資産額が上下動するだけだし、投資対象が売却されたとしても純資産額の変動からは何が起きているか事細かにわかることもないのです。言い換えると、個別の投資対象の売却益をいちいち税務報告する必要がないのです。自分で税務的にしなければいけないのは、その投資信託を売却した時ですので、投資信託の保有期間に発生したファンドの中でのキャピタルゲインについては税務的にその利益が繰り延べられているのです。多分個人投資家は嫌がりますよね。

まぁ、いわゆるプライベートエクイティ投資と認知されているバイアウト戦略だとどうしても一口10億円(それより小額は要相談)からの、出来るだけプロの機関投資家向けで投資家の数も限定的に、仮にベンチャーキャピタル投資であっても投資額はより小額かも知れないものの10社投資して1社当たればいい、と言う個人が投資するにはハイリスクハイリターンそのものという世界ですので個人が入るには別の意味でも敷居が本来は高い投資ではあるのですが。。。

じゃあ、その逆で、投資信託でプライベート投資って出来ないの?

当然、考えますよね。日本人ですから。まぁ、そこが海外から理解してもらえないところでもあるのですが。。。

実際のところ、出来なくはない、と言う言い方をするしかないのです。かなり色々なところに歪みを生みながら、実際にやっちゃっている人たちがいます。

例えば。。。一番大きいところで、GPIF (年金積立金管理運用独立行政法人)さんの初の海外インフラ投資案件。これはパブリックだから言ってもいいですよね。インフラ投資もプライベート資産への投資の一環でして、初の投資で投資信託を使っているんですね。

私の知人のインド人がインドで株式投資をするにあたって未上場の頃から投資して、上場後も大きく育つまで付き合うと言う戦略を取っているファンドの運営方法を取っている、と言っていましたが、こちらも投資信託とほぼ同じインド籍のオープンエンドファンド。

まぁ、日本の投資信託ですと投資対象の流動性を、特に公募ファンドにおいてはかなり厳しく見ているのでそんなインドのファンドに投資することは出来ないですし、GPIFさんのケースも確か外貨建てですので日本の投資信託では私募であっても実現不可能(信託さんには日本の会計基準で外貨を扱えないですからね)。なので、どれもこれも海外だから出来ている、と言う言い方も出来る、のですが、上記の二つではちょっと事情が異なるのです。

インドが特別、ではなくて、流動性への考え方が異なる

まず、インドのケース。もし上記を見た投資信託協会か信託協会の関係者か、投信会社の人ならば、インドのルールが日本と異なって緩いからだよ、と言って切り捨てそうですが、実際のところ、未上場の時点での各銘柄への投資額はファンドの1%程度。投資後数年見てさらに目が出そうと思ったらアロケーションを増やしていくと言う戦略です。となるとそうやって育った結果、だいたい5年から7年くらいで手仕舞うか、するようなのですが、その頃にはだいたい3-5%程度のアロケーションをしているのです。日本の投資信託の分散どころじゃないですよ。UCITS準拠なくらいです。しかも、そこそこ大きい受託資産を抱えるファンドですので、そうやって成長した銘柄の卒業がちょうど流動性を担保できるような仕組みになっているので。

まさにこれはインドの投資信託が始まってからずっと運用し続けてきただけある、のです。常にプライベート資産への投資ポケットが存在する、だからいつ来ても投資可能、と出来る技なのです。通常なら待機資金をどうするの?と悩むところをこうやって解決するって、ある意味順当な話ではあるのですが。。。

じゃあ、GPIFさんは?

こちらは、実際に担当者に直接聞いたわけではないのですが、関わった関係者や、関わっただろう関係者たちの話を聞く限りでは、キャピタルコールに対応するようにしている、ようなのです。あれ?投資信託/ユニットトラストにはキャピタルコールのような組合形式で投資家が負うような債務というのを投資家が負うことはなかったはず、ですよね。ある意味投資家が自発的に追加投資をしない限り投資信託/ユニットトラストにはお金を入れる理由がない、のです。なので、普通に考えると、当初設定時点に予定投資先のコミットメント額を全額突っ込んでおく、というIRRの低下を無視した方法で実現する、と考えがち、なのです。

しかも、今は投資家の目線で話していますが、ユニットトラストを設定するにはtrustee / 受託者がいるのですが、このようなスキームですと投資対象となる組合に対しては自分が投資家になるのですから、組合員としての債務を負うことになります。片や債務を負い、もう片方に対して遡求できる仕掛けがないので、受託者はそんなリスクは通常取りたくない、のです。これが投資信託/ユニットトラストを使ってプライベート資産への投資を行うにあたって直面する問題、なのです。

さてこれをどうしたか。。というと。。。内緒です。これだけで多分数百万円単位のコンサルフィーを頂けるとお話なので(嘘)

ま、一言だけ言えば、これが出来たからと言って、公募投信には出来ません(やってる人は知ってますが)から、手頃にプライベート資産への投資が個人に手の届くようにできる、という話ではありません。でも、これを使ってプライベート資産への投資をしているのが、本当に国内でちゃんとしている機関投資家たちなので、出来ない話ではない、でもあれこれ関係者たちの苦労が通常より嵩んでいるんだろうな、ということは予想できます。実際、そのおかげでの副次的メリットも享受しているそうなので。。。おっと、これ以上多くは言えない言えない。。。

まとめ

と考えると、個人投資家の方へのコメントとしては。。。未公開株への投資、とか色々と個人、特に高齢の方への誘惑は多いと思いますが、こういう仕組み一つとって見ても、rest of us (普通な私たち)にこの手のハイリターンかもしれないけど、どう見てもハイリスクで投資にはコスト高な投資、というのは実はちょっと割りが合わない、と思って構えて見たほうが安心なんですよ、とFP的には言いたいです。

で、ストラクチャラー的に言えば、まぁ、この領域って実のところ、かなりフォーメーションって固まっているのでこう言ったちょっとしたイノベーションを加えるのって楽しいんですよねぇ。とは言え、関係者の制約条件の中でどこまで頑張ってみんなにとってメリットのある仕組みが作れるか、は腕と知恵の見せ所ですので、そういう機会にまた早く巡り会いたいものです。

恒久的施設の定義等の変更がありました、って。。。?

このところ、みやたべろぐばかりアップしているので、たまには真面目なネタも。。。

国税局というところはご丁寧に色々な刊行物を作成しては登録されているオフィスの所在地に郵送してくれるのですが、そのお仕事の性質上専ら「税金」の話なので微妙に複雑、というかあまり読みたくないような話ばかりなので、どうしても封すら切るのをついぞ躊躇ってしまいます。

実はちゃんと読んでおかないと行けなかった税務署からのお知らせ

とはいうものの、この週末に他にも溜まったクレジットカード会社の月刊誌などを読んで廃品回収に回さねば、とざっと目を通したのが「源泉所得税の改正のあらまし」。ざっとのつもりが案外引っかかるものがあれこれありました。

例えば、4ページ目にある、2020年以降の適用ですが、給与所得控除の10万円の減額、ということはその分の課税所得が増えることで増税効果が発生する一方で、基礎控除の増額が合計所得が年間2400万円以下にだけ適用されて、前述の給与控除の減額と合わせて事実上何も変化がないものの、合計所得が年間2400万円を超えると基礎控除すら減額される、なんて知ってました?これって、給与所得だけの人たちにはほぼ関係ないけど、たとえば不動産所得だけの人とかにはちょっとしたメリット、ですよね。しかも給与所得で年収2400万を超える人って2016年の統計になるものの、この頃で。。。。2400万円という区切りがないのでざっくりした計算をするならば3000万円以上の人で247,970人いて、2000万から3000万の人で195,800人だから半分としても345,870人もいることになります。といっても、給与所得のある人が9,789,362人ですから全体の3.5%程度の人が対象になってくる、のです。それって。。。マイノリティへのペナルティにしか見えないですが。。。

実はかなりやばいルール変更も書いてあった

さて本題。この3ページ目にこっそり入っていたのが表題にもある「恒久的施設(PE)」の定義等の見直し。実はかなり海外から国内への投資を呼び込みたいプライベート投資にとってまずい変更になり得る変更なのです。

恒久的施設って?

まず恒久的施設ですが、ご存知ない方にざっくりとした説明をするならば。。。日本に住んで生活し、活動する私たちにとって、前述の給与所得も不動産を買って売却した時の差額の利益も、株や債券から発生する分配金や利息、これらの取得と売却の差額益、果てはせどりのごとく安く仕入れて売却したものならその差額の利益まで、国税局にその一部を税金として納めなければいけません。ですが、これが海外に住んで生活する人が同じことをやることは、手間はかかるものの出来ますが、その場合には国内に納税する際の住所がないことから日本の国税局からは課税されないのです。

当然ですが、その場合、その住んでいる国で課税されることになるので、ファンドならば有価証券の売却益に対して課税しないケイマン諸島のような所から証券取引を行って利益をできるだけ投資家に還元したい、と考えますし、物販を考えるならば、オンラインで受注を受けて、法人税の安い国に拠点を置いて発送をそこから行う、と考え始めるのです。これが恒久的施設と呼ばれる事業の本拠地、という考え方です。

で、この考え方ってこれだけ簡単な話じゃないの?

本来ならばこれくらいシンプルなはず、だったのですが、色々と考える人がいたり、会社などの都合で色々なケースというのが発生し始めます。例えば、先ほどのオンラインで複数の国の受注を受けよう、と考えた時に、オンラインで受け身に受注するのではなかなか売り上げが上がらないとなれば、海外から営業をかけることは難しいので現地に営業する誰かが欲しくなります。そうなると、国内に営業拠点を置くか、国内に営業の強いビジネスパートナーを置いて営業を任せるか、のどちらかを考えることになります。

後者のビジネスパートナーならば、他のビジネスをやりながら自分たちの商品の売り込みをする、というところで事業展開についてコントロールがある意味自分たちの思うように行かないものの、他方で契約書一枚の関係に過ぎないので国内に拠点があると言われる筋合いもなく今まで通り国内から上がった売り上げに対して課税はされないという税務的なメリットは残ります。

でも、やっぱり本腰で売りたい、ということで国内に資本を入れた子会社を作って営業をさせると先ほどのようなビジネスパートナーとの関係、のような話にはなりません。自分の所の物だけを売るためだけの会社なのですから、国内で在庫を抱えて売っている人と表向きは変わりはなく、仕入れと在庫管理と発送を国外に置いているからある意味国内から利益を隠しているようにも見えるのです。となると、これは実質には国内で活動しているのと同じなのだから国内の売り上げについては課税すべきでは、ということになり、その際に、この国内子会社はこの売り上げのスキームにおいて恒久的施設を国内に有している、なんていう話になるのです。子会社であっても事業の実質的な本拠がどこなのか、というのがポイントになるのです。

で、これを書きながら、私ごとながら、以前やっていたジャージー島の金融サービス業の会社の日本でのビジネスのことがちょうどわかりやすい話かな、とも思ったので少し触れるならば、この場合は海外(ジャージー島やバーミューダ)で行われる金融サービス業、ファンド・アドミ業務やファンドの管理会社業務についてはその事業の性質上などから日本国内に在庫、というかこの場合はサービス提供拠点を置くことは出来ませんが、利用者は国内にいますのでそのサービスの認知から利用のためのアイデア提供などを国内子会社を通じて行いました。しかも、イヤラシイことに(笑)その説明する相手というのが投資銀行や証券会社、投信委託会社、といったところであ流にも関わらず、でもそのサービスの対価を払うのは最終的にファンドに投資した投資家のみなさんが、しかもファンドの費用という形で間接的に、ということで、この国内子会社(というか、以前なら私)は前述のような「ものを売っている」のか、と言われると売っているのかもしれないが、性質上国内に機能を持って同等のことを行うかのごとく課税する、ということはなかなかしづらいものなのである一定のルールを入れることで恒久的施設を有しないと認知される代わりに代替的な形を通じて納税を行うことによって、税務当局とはうまくやっていたのです(私がやっていた頃はね。)。

で、その当時よく言われたことで、「このファンドの投資判断を東京でやってよ」と言われたのですが全部お断りしていました。サービスクオリティ悪くね?とか言われていたようですが、これを東京で(当時なら私が)やってしまうと、ファンドの判断が東京で行われている、ということで外国籍投資信託の管理会社については投信委託会社を脱法で行うことになると認知されるリスクが出るのが理由です。税務とはちょっと異なる話ではありますが、ここも投資家のみなさんにご迷惑をかけないという意味では大事な話でしたので頑固に譲らずにおりました。

この辺を一通りわかっている人、最近を見ていると少なくなったようなんでちょっと書いてみました。

で、ここで出てくる主体的な行動と課税の関係について話が及ぶのですが。。。

さて、今回の話の核心にだんだん入ってくるのですが、前述のケースからわかるように、海外から国内に営利行為を行って収益を上げる、というところで国内の拠点なりビジネスパートナーがどれだけその事業に関与しているかで国内に恒久的施設を有するという議論になる、というのが見えてきた(?)ところで、今回やばいなぁ、と思っているところに入っていこうかと思います。

なお、今回の変更の背景というのが、BEPS (Base Erosion and Profit Shifting – 税源浸食と利益移転)という世界的な国際税務取扱の取り決めに基づく恒久的施設の定義の国際的な統一に動いたことにある、というのをまず話の前提にあること、したがって著者のメインにある金融だけが狙い撃ちで行われている話ではない、のを分かった上であえてあれこれ書いていることをまずご理解いただこうかと思います(笑)

ちょっと歴史のお勉強を

税務の観点で国内への海外からの投資の議論が盛んだったのは2007年から2008年の投資事業有限責任組合法の改正の時でした。当時を思い出すとユニットトラストがメインだったのでLPS法によるこの恒久的施設の議論は影響ないか、と思って眺めていましたが、考えてみればユニットトラストの場合は税務的な整理が確立しているので変更しようがなかったのです。前述のような国内拠点での判断が行われて投資信託の脱法っぽいものが行われたとしてもそれでも投資信託と同等の器での投資である以上税務上の課税ポイントはケイマン諸島では発生することはなく、ユニットトラストの持分の売却時に投資家に対して行う、ことに変わりはなかったのですから。

さて、その当時、LPS法とその周辺、特にこの法律の主だったユーザーであるプライベート・エクイティやベンチャーキャピタルの運用者と投資家たち、そして、それらの人たちによる投資資金を呼び込みたいと考えていた経済産業省、の注目していたことは海外からの投資が税務的な理由で激減していたことにあります。それは何かというと、Shinsei Tax として悪名が知られていた国内企業を海外で保有し、海外で売却したとしてもその譲渡利益にに対して日本として源泉徴収が行える、というものです。なぜ Shinsei Tax と呼ばれるかというと、昔、とある銀行がありまして、諸般の事情で破綻して国有化した際に海外のプライベートエクイティファンドがその株を取得して腕利きな経営陣等を派遣して企業再生を果たす、といった時に、国内の議員さんたちがそんな海外のファンドが血税を使った銀行の株を海外で売却したらその利益は海外に止まってしまって納税者に還元されないではないか、と前述の税法改正をしたのです。その銀行、当時は日本長期信用銀行、今では新生銀行、として知られるところですのでかかる課税のきっかけになったことから、そう呼ばれていたのですが。。。若い人は知らないだろうなぁ(笑)

独立代理人の要件

で、この改正を行って海外からの投資家に対して安心感を与えるように行ったと同時に当時のこの恒久的施設の定義、特に独立代理人の定義を行うことで、海外ファンドが国内への投資を行うにあたっての国内での活動拠点のガイドラインを定めたのです。その際に定めた独立代理人の要件として

  1. 法的独立性: 代理人が代理人として行動する上で十分な裁量が与えられているか?
  2. 経済的独立性: 代理人がその収入を全面的に一人の本人に依存していないか?
  3. 通常業務性: 代理人の行為が慣習的に行われているものであるか?

をあげていました。これは大和総研さんの当時の資料がよくまとまっていますので、深く調べる際いはご参考に。ここで一番のポイントなのが、法的独立性で、実は裁量権が与えられていれば、本人との資本関係が100%であっても、独立性を測るにあたっては無関係であったのです。ということで、2008年以降のプライベートエクイティやベンチャーキャピタル投資、そして不動産投資の一部で海外からの投資資金を受けるファンドのストラクチャーを作る際にはこの独立代理人の要件を満たすように誰もが構築してきたのです。ええ、国内子会社と海外親会社との資本関係が100%であっても大丈夫だ、と信じて。。。

で、ここで独立代理人の定義が変わる、というのです!まさに、資本関係は関係ないよ、といっていたのが、50%を超えると独立代理人として見做されなくなる、というわけです。

やっと、事の問題が説明できました。ま、いつもなら10,000字を超えたところで問題提起しているから、今回はまだ早い方ですね(笑)

で、これってどうなるの?

当局と業界団体との事前の意見交換等も実は昨年末に行われていたのですが、実際のところ当局(といっても、国税庁ではなく金融庁なのですが)サイドとしてはこれの影響ってないんじゃないの、くらいの感覚のようでして、特段金融関係のための手当もされる事なく、年末の税務大綱に上がり、3月末に国会を通過して今日に至っているので、ただただ、この新しいルールに年明けに向けて対応していかねばならない、のです。やらないと、少なくとも海外投資家を抱えるケイマン諸島のファンドを使った投資を通じての投資資産の売却益に対して総合課税がかかってくること予見されます(参照リンクの4-5ページ目)。

とはいえ、先日某国内大手プライベートエクイティ投資会社さんの(比較的事務寄りの)パートナーさんと話をした際にもご存知なかったという反応があったので案外認知されていない事のようにも思えているのです(なので記事にしているのですが。。。)。

で、出来ることって?

スキームの見直し、ではあるのですが、一番影響があるのが独立代理人の定義、ですのでその変更点である資本関係と仕事の割合について見直すべき、という意見が出てくるのが想定されます。となると、国内拠点とファンドとの間の資本関係か、国内拠点の請け負っている仕事のうちファンドなどの資本関係の大きいところからの仕事の割合か、どちらをいじりやすいかと言えば。。。仕事の割合ってそう簡単に外部の仕事がくるはずもないですよね(苦笑)といって、資本関係をいじるべく外部の株主をよびこめるのか、というと。。。どうなのでしょう。

とは言え、規制対応はスポーツ同様事業でも当然に求められることですので、やらねば、なのですよねぇ。。。とりあえず、まずは担当の税理士先生とご相談でしょうね(って、この言葉は誰に向けられているのやら。。。sigh)

東京版 EMPファンド構想を勝手に紐解いて解説しちゃいます

2018年4月27日に東京都が発表した「東京版EMPファンド創設」補助金交付について、オフィシャルで要綱が開示されているのですが、どうしても「EMPファンド」という言葉が先行しているからか、このプログラムに対してなかなか意図されているものが伝わっていないように、先日のAIMA Japan Forum 2018で話した人たちからの印象を受けました。まぁ、実際のところ関与できそうな人は一握り、という感もあるのですが、多くの人のもつ過大な期待をちょっとだけ正常値に戻すべく、一体誰が何をして、結果東京都がどうなるのか、というのをまとめてみたいと思います。

EMPって?

まず、EMPです。 Emerging Managers Programです。某北の国が使うとか言われているElectro-magnetic Plus – 電磁パルスではありません。Emerging Manager、すなわち新興運用者を発掘して育成するプログラムです。どういうことか、というと、ヘッジファンドのような腕に覚えのあるファンド・マネジャーが、例えば大きな組織にいるものの自分の腕を試したい、企業でもらう給料以上に稼ぎたい、一生に一度は自分が自分のボスになりたい、などの理由で自分のファンドを立ち上げたい、という夢を実現しようとするのですが、そのためには自分の会社を作って、その会社で資産運用業の登録を行って、投資家を募り(ということは相手にお金を出してもらえるように説得して)、ファンドを設定して、やっとファンドが運用できるようになるのです。

でも、自分で会社を設定して、資本を入れて人を集めて会社のルールを定めてファンド運用に必要な投資運用業のライセンスを当局に届け出て、とするだけで最低でも半年以上の時間と数千万円の会社の資本含めた元手が必要になります。

閑話休題 – いい機会なので一言

なので、適格機関投資家向け特例業務を使って資産運用業の登録をせずにファンドを安く立てたいとか言っちゃう人は常に一定数いらっしゃるようで、またそんな問い合わせを時折受ける(しかも丁寧に返事しても返事しないんですよ、大抵の場合。。。)のですが、人様のお金を預かって正しく運用して、適切なリターンを返すのが運用者の仕事なのでそれなりの運用の体制や環境、そして法令遵守へのコミットメントを示せない運用者に対しては、少なからずまともな投資経験を持つ機関投資家の多くはお金を預けるに足らず、と言う判断をし、そうでない(と言うことは良からぬ意図を持つか、投資ということに本源的な意味で無知な)機関投資家が名前貸しのような形でファンドの組成に手を貸し、その大半が残念ながら財務局のホームページで行政処分や悪質な無登録運用者として名前を挙げられて、二度と表で資金調達が出来なくなるか別の詐欺的手法を使って資金集めを行うかのいずれかの道を歩むことになるのです。自分は違う、ちゃんとやる、という人が実際ほとんどですが、その後そのほとんどが消息不明になっているのも事実です。

ですので、少なくとも当方にコンサルを、とおっしゃる前に、上記を踏まえて方向性をご検討ください。もし手頃に特例業務を届ければいいや、程度ならば、適当なコストを払うことで適当な書類を何も考えずに出してくる行政書士や弁護士などはいくらでもいますので、そちらの方が早いと思います。その後どうなるかは知りませんが。。。

投資家から見た EMPって

さて、投資家から見た場合、見ず知らずの人間に10億なりをお金を預けて運用させよう、なんて思える特異な人って。。。そうそういなさそうですよね。実際に、AIMA Japan Forum 2018の最後のパネルであった投資家パネルで登壇された国内大手投資家であるゆうちょ銀行、みずほ銀行、年金基金連合会、と言ったオルタナ投資については陣容も経験値も国内有数の人たちでしたが、そんな彼らですら、今回のEMP構想に対しては協力したいが諸手を挙げて参加する、とはその場では言いませんでした。それくらい投資家というのは慎重に投資対象を選ぶものなのです。

ですので、著名なヘッジファンド運用会社などで成功を収めて、そのトラックレコードを再現できる環境ができる、というならばまだ預けてもいいかも、と思うかもしれませんけれども、そんな過去の栄光すらない場合なかなか難しいのが現実ですので、こう言った「起業をしよう!」という人の気持ちをペキペキに折り、スタート時は自分たちの退職時の蓄えと、もしいいスポンサーがいればその人たちからの投資(このようなファンドのスタート時に設定のためにいれてもらう資金をシードマネー、といいます)で、スタートすることになるのです。

実際に2008年の信用不安に端を発した市場の混乱(ええ、あえてリーマン・ショックなんて言いません。)のあと、米国の銀行等への自己勘定での投資に対する規制により事実上退社を迫られた、腕利きのトレーダーたちの多くは自分でファンドを立てるべく独立するよりも、大型のファンド運用会社に入ってそのファンドの受任残高の一部を管理する形を取ることでより多くの投資家の信頼を(大型ファンド運用会社の名前と信用力で)得ながらファンド運営をして言った、という現実すら存在するのです。

インキュベーション・プラットフォームという存在

とはいうものの、運用業界もそんなスターマネジャーばかりの立ち上がりに期待したのでは先細ってしまうので、可能性のあるありそうな運用者を発掘して育成しないといけない、という意識も業界の中ではあるのも事実です。投資家の一部で、そんな駆け出しの運用者に早い段階で運用者自体に投資して大きく成功した経験を持つ人も少なくないのも事実でして、かくいう著者も2006年から2007年にかけてそう言った前途有望なファンド運用者の卵を発掘して育てて(その分の見返りをたっぷり稼がせてもらおう!)というインキュベーション・プラットフォームの設立と当初の数ファンドの運営に携わっていました。そのプラットフォームには、そういうファンド運用者の卵と数多く面談して、その中でも有望と思える人をプラットフォームに連れてきて運用する、という目利きの機能と、そういう運用者たちが負担なくファンドを立ち上げ(て、同時に投資する人たちやプラットフォームが将来的に儲けられ)る仕組みを兼ね備えているのです。

でも、このプラットフォームであれば運用者も投資家も世界中のどこにいたっていいんですよね。実際にそんなインキュベーション・プラットフォームは世界の主要な都市で投資家や目利きたちによって立ち上がっていますし、私が関与したプラットフォームでもケイマン諸島籍のファンドに仕立てて、アジア拠点の現地の投資運用ライセンスを持つ会社を通じてファンド名義で証券の売買執行をしていました。その時の証券の売買のアイデアを見つけていたのは日本にもいましたし、香港やシンガポールにいても場所は関係なく同じように機能するようになっていました。

EMPを東京がやる – なぜ?

さて、今回の東京都には金融都市機能の再生、という大前提があります。そのため、この数年間、JIAMという海外の運用会社や fintech企業の国内誘致を行うコンソーシアムが欧米からアジアの金融都市で東京への誘致活動をしてきています。そこに平仄を合わせるべく、東京都と金融庁とが2017年4月に海外運用会社による国内拠点に対する運用業の届出に対する英語での対応や届出プロセスの迅速化の制度を立ち上げています。その結果を受けて、昨年一社、確かイギリスで大手の生保系の運用会社が国内拠点の立ち上げと運用業の届出をこの仕組みをフルに使って行った、というアナウンスが出ていました。

しかし、このような大手運用会社の日本拠点が立ち上がっても、実質的には国内の投資資金がこの拠点の作る海外ファンドのフィーダーを経由して海外で運用される巨大なファンドに取り込まれるだけですので、運用拠点と言ってもさほど大きな体制を要することもありません。単純に右から左に流すだけ、の運用の頭を使わない仕組みを作るだけです(って、お前が昔ジャージー島やケイマン諸島でやっていた外国籍投資信託だって、単一資産を持ち続けるだけの頭を使わない仕組みだったじゃないか、と言われそうですね。ええ、その意味では全く同じです)。

となると、もし金融都市としての東京に拠点を置いて運用スキルを持つ運用者事業を育成したいとなると、そう言った腕に覚えのある運用者で東京に会社を立ち上げたいという野望を持った人や海外の運用会社で東京にオフィスと実質的な運用拠点を置くことで国内資産の投資運用したいという企業のプールに対して、東京で運用ビジネスをするメリットを感じさせるものを提供することが早道、のようです。そして、その運用者が喉から手が出るほどほしいものとは。。。投資資金への比較的容易なアクセスする手段、と言えるでしょう。

とはいえ、東京都が直接投資家と運用者のプールを闇雲にマッチングする、というのは、運用者からすれば紹介して話す機会がもらえるのでラッキーと思えるものの、投資家からすれば東京都の紹介とはいえ、素性のよくわからない運用者を片っ端から会って検討するなんてことは現実的ではない、ただのうざい話になるので、運用者のプールに一定のフィルターを掛ける目利きが入ることでより現実的な投資ストーリーに繋がるのではないか、と考えたのでしょう。

ということで、これらの運用者の卵から優秀なタレントを発掘し育成する目利きとなるゲートキーパー、そして早期投資に慣れた投資家がいて、そんな投資家と新興運用者とをマッチさせるためのゲートキーパーによるファンド・プラットフォームが必要になる、というストーリーが出来上がります。

ここで一つ疑問が出てくるかと思います。東京都の役割は?

前述のストーリーの中で二つほど疑問が出てくることになります。

一つは、東京都が投資家になっちゃえばいいんじゃないか?という疑問です。これ、「東京都のEMP」だから、東京都がシードマネーを出すのでは、とみんなが思ってしまうわけですが、実は東京都はシードマネーを出しませんし、出せません。大きな声ではいえないのでザクっと書きますが、きらぼし銀行の一部となった新銀行東京の一件があって出資ができない一方で補助金を出すことは可能、という縛りがあるそうです。

そこで、もう一つの質問の答えに繋がります。それは、出資しないのに東京都はどうやって誘致をしようというの?

それは、東京都がファンドプラットフォームの運営費用の一部を補助金の形で負担する、のです。ここでポイントなのが、ファンドプラットフォームを通じて投資される新興マネジャーの運営費用や新興マネジャーのファンドの運営費用ではなく、ファンド・プラットフォームの運営費用です。これは本来シードマネーを提供する投資家がゲートキーパーに対する運用手数料やファンドの維持費用を負担するところの一部を東京都が肩代わり、ということなのです。

確かに運用費用はパフォーマンスを押し下げる要因とは言えるものの、その負担が最大半分軽減されるから、といってもファンドの運用成績が思いっきり下がったら軽減された費用なんて意味がない、と言えるかもしれませんが、リスクマネーを供給する投資家へのできる限りのサポート、というところ、でしょうか。

で、最終的にEMPって誰が東京都に申請するの?

ということで、この構図が見えてくると、東京都が申請を受けるのは投資家と目利きとなるゲートキーパーがペアになって、EMPを立ち上げるので補助金を申請します、という形になってくるというのがわかります。しかもポイントがゲートキーパーと投資家のマッチングは自分たちで頑張ってやって、というスタンス、というか、ゲートキーパーに投資家を捕まえて連れてこい、と言っているというか。。。でも、投資家がキーになるこのプログラムとしては仕方のないところかもしれません。

じゃあ、新興マネジャーはどうしたらいいのでしょう。

EMPの申請の通ったゲートキーパーに「シードマネーを出してくださいよー」、と働きかける他になさそうです。東京都には今年4月以降に運用業の届出をした企業に対する補助金プログラムがあるのでそれには申請可能でしょうけれども、それはEMPとは異なる話ですので、シードマネーが欲しい場合には、ゲートキーパーが誰になったかをまず調べてから、ということのようです。なお、東京版EMPレベルでは戦略に縛りはありません。ゲートキーパーが掛けるかも知れませんが、ここでヘッジ限定とかすると対象となる新興マネジャーの選択肢を自ら敢えて狭めることになるのでしないだろうな、と思う一方で目利きの効く戦略の都合もあるので、最終的にどこまでバラエティに富む新興マネジャーのラインナップになるのかも興味のあるところです。

まとめ

さて、この仕掛け、ここまでよくぞこぎつけたものだ、という評価もあります。なにせ、この手の試みは今までここまで公開されたことすらなかったのです。そこから見れば頑張った、というべきでしょう。あとは実際に機能するか、というのは世の中のプレーヤーたちにこれが響いたか、という結果を見る他になさそうです。

さて、誰がゲートキーパーになるのかな。私も新興マネジャーとして売り込みに行く準備をしなきゃ(笑)

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