さて。本当はもっと頻繁にネタを書いていくつもりでしたが、どうも図を書かねばなんて思い始めたらスピードが遅くなってすみません。元々の遅筆に輪をかけてしまっていて、自分でなんとかせねばとは思っているのですが。。。
ということで、今回が基本シリーズの第三回。日本ではプライベート・エクイティやベンチャー・キャピタルの世界で使われる事の多い、有限責任組合スキーム、もしくはリミテッド・パートナーシップ型についてです。といっても、この概念は、会社型やユニットトラスト型から比較すると一見分かりづらい部分があるのも事実なので、コーポレート・ガバナンスがどうの、という所よりは、これに類してまだ分かりやすい日本の法制度上の仕組みとしてある「匿名組合」というものとの比較を行う事で、まず仕組み自体に理解を進めていき、その上で、仕組み上の問題点を考えながらコーポレート・ガバナンスがどのように機能すべきか、という着目を上乗せしていこうと思います。
匿名組合とは?
さて、本筋に入る前の、前段階として、匿名組合という仕組みについて見てみたいと思います。匿名組合というのは、日本においては商法にて定められる仕組みで、名前は「組合」とあるものの、実際には出資する「匿名組合員」と実際にその出資に基づいて事業を行う「営業者」との間で
- 「匿名組合員」が「営業者」が行う予定のとある「事業」に対して「出資」をし、
- 「営業者」はその「事業」の終了時に「事業」から発生した損益を「匿名組合員」に返還する、
という双務契約なのです。絵的にいうと、こんな感じ。
で、この契約の結果、
- 「出資」された資本は匿名組合の財産になり
- 「事業」も「営業者」の名義で行われ(従って、「事業」に関して取得した資産も発生した負債も「営業者」の名義となり)
- そのため「匿名組合員」は契約期間中は当然終了後も「事業」として行われる「営業者」の行為について第三者としての権利を有せず、結果として
- 「事業」による損益は全額を「匿名組合員」に分配する(損失については出資額を上限とする)
という、お金は出すけど口もなにも出せない、とっても都合のいい出資者扱いであり、他方で、自分がとある事業を行いたいが表立ってすることが出来ない、関与していない体を取りたい、なんていうケースには、もし「営業者」がとっても第三者で信用のおける相手であればこれほど都合のいい仕組みはない、という代物です。(外国人による事業に対する規制のある東南アジアで名目上現地のパートナーに名前を出して事業を行うのに似てますね(笑))
また、最後にあるように、損失については出資額を上限とするので、匿名組合員としては事業に対するリスクは出資額の全額損失程度の有限責任で許してもらえるのも実はメリットがあるとも言えます。
投資有限責任組合とは?
とすると、投資家の観点から見れば、投資の責任が有限なのはよいとしても、自分の資産が営業者のそれと混同してしまうのは、営業者の信用状況に左右されることになり不安定(というか持ち逃げされるのは嫌だ)になるので困るので、もう少しこのあたりを投資家フレンドリーにならんかい、ということで、日本で導入されたのが有限責任組合という、海外の Limited Partnership の概念。特に投資の世界で使われるのが、法律上および実務上、有限責任組合より先に制定された法律に基づく「投資事業有限責任組合」というもの。
「有限責任組合員」が「無限責任組合員」が行う予定のとある「投資事業」に対して「出資」をし、「無限責任組合員」はその「投資事業」の終了時に「投資事業」から発生した損益を「有限責任組合員」に返還する、
という意味では、絵的にもご覧の通り、匿名組合と何の変わりもない。
で、じゃあ、何が違うか、というと、この組合は法律で登記する事で法人格を得るので、無限責任組合員が組合の目的である投資事業を行う際に、「組合としての」無限責任組合員名義で例えば銀行口座を開けて財産を所有し、また債務を負うことで無限責任組合員自身の資産や負債と区別される、というか、分別管理を求められる、のです。
とすると、
資産の分別管理が為されるし、もういいんじゃね?
でも、これはまだファンドの器としてのレベルというかレイヤーでの議論に過ぎません。ある意味、これで信託や会社型ファンドと同程度になった、だけです。
LPS とガバナンスの仕組みとは?
実際、この状況だと、無限責任組合員、あー、長ったらしいから、以下 GP と呼びますね、が予定している投資事業を本当に実行するかどうか(出来るかどうか、ではなく、するか、です。ええ、適切な案件がなかったのでしなかった、出来なかった、という事例が過去5年で散見されました。これって、無理矢理高値で掴んで元本既存するくらないならやらないという勇気、だったと私は個人的には思ってますが。。。)、という点で大きく GP に依存してますよね。つーか、ぶっちゃけ組合名義の印鑑を持っているGP による資産の持ち逃げ(笑)についてだってまだその懸念も残ってますし。
とすると、どうしたらいいんでしょう。
GP の会社としての構造を変えてしまえばいいんです。
一般的な GP って運用者の会社そのものがなってしまい(かつ、金融商品取引法第63条に基づく特定機関投資家向け特例業務の一環として運用運用業や第二種金融商品取引業のライセンスを取ったり取らなかったりしますが、それはまた別の問題として。。。)、運用判断からファンドの資産の管理保全を一手に引き受けているケースが、まぁほとんど。かつ、有限責任組合員(というか、GPをGPと呼ぶから、LPと呼びましょうか)への投資状況のご報告から投資時の資金請求、投資完了時の資金返還、ということは投資中の投資案件の時価評価とか組合としての帳簿作成、などなどを、一義的には自身の責任に基づく業務として行っているのが一般的。まぁ、投資中の資産なんて、現金なんて一瞬で非上場株式をずっと保管するのだからGP自身との混同だったり持ち逃げのリスクだなんて、結構そんなことされるチャンスなんて少ないじゃん、という前提でプロの方々は投資して、されているんですが。。。
LPSと投資家保護
とはいえ、個人を食い物にしようとする 63業者あたりだと、怖いっすよねぇ(笑)
としたら、どうしたらいいんでしょう。要はこれって、会社型でいうところの self-administration な訳ですからねぇ。同じアプローチで行くならば
GP から運用判断をする部分を切り離して、運用判断をする人は運用業に専念して、GPは運用判断に基づく執行とファンド(組合ですね、この場合)の資産の保有と保全に専念する。
のが第一歩でしょう。実際、SPC として投資導管として使う合同会社というのが不動産投資あたりでは一般的ですから、これをGP に据えて、従来 GP として投資判断等を行っていた会社さんが投資一任/助言業として動く、というのは(業登録することで発生するコストはさておき)出来る話です。
で、そうなると、そんな GPには会社型スキームと同じく、取締役会で取締役が提供された投資判断をLPと事前に締結している有限責任投資契約(LPA)などに定められている投資方針などを元に投資するかどうかを判断し、投資すると決定したら、GPの会社業務を行うアドミニストレーターが株式や債権の取得等を行う、と取締役と執行部分も切り離していくのです。
でも、その投資する為には LP に投資資金の請求をする訳ですが、これは LPA に基づく作業なので、組合の業務として取り扱うので組合のアドミニストレーション、と GPに対する業務と切り分けて考えることも出来ます(まぁ、GPの面倒を見るなら 組合というか LPS だって、と思いますが。。。)。同種の作業は LPA に基づく持ち分に対する財務情報などの投資情報の提供だったり、この他いろいろある訳ですが、AIJ 問題以降の年金による投資の際に第三者が行うアドミニストレーターが作成した運用報告書が必要、だったりしますから、このあたりは今後そういう解釈になるならキーになるところでしょう。
なんて考えると、構図はこんな風に変わってくるのでしょう。
世界基準のストラクチャー
さて。
ここまで、立場としての関係者をこういれると、という話をしていますが、例えば同一人物が兼務だってすることは可能です。例えば、運用者のキーパーソンがGPの取締役になる、というのが一番分かりやすいところです。そうなると、当然、同じ個人でも一方で運用者としての判断をし、他方でファンド運営のコーポレートガバナンスを保つ立場としてふるまうわけですので、投資家からすれば、その使い分けはちゃんとするでしょ、と期待しますし、実際はといえば運用者としての意思決定のバイアスがファンド運営のコーポレートガバナンスに多大に影響し得る、という実務的観点から見ての相反が同一人の中で発生することは容易に想像できてしまいます、よね?同一人物による兼務だけでなく、運用者とその実質的支配下に置かれた子会社が運用と執行をになっちゃう、とか。スキームの形式だけでなく、関係者の利害関係もスキームを見るときには気を付けないといけない、というのは、実はLPS スキームに限ったことではなく、会社型であってもユニットトラストであっても同じ。。。ということを書きそびれていたのでここで書いてます(笑)。
まとめ
ということで、とりあえずは当初の目的は果たせたと思いつつ、一旦今回の記事はおしまいにして、次は。。。どうやって展開させましょうかねぇ。。。