東京版 EMPファンド構想を勝手に紐解いて解説しちゃいます

2018年4月27日に東京都が発表した「東京版EMPファンド創設」補助金交付について、オフィシャルで要綱が開示されているのですが、どうしても「EMPファンド」という言葉が先行しているからか、このプログラムに対してなかなか意図されているものが伝わっていないように、先日のAIMA Japan Forum 2018で話した人たちからの印象を受けました。まぁ、実際のところ関与できそうな人は一握り、という感もあるのですが、多くの人のもつ過大な期待をちょっとだけ正常値に戻すべく、一体誰が何をして、結果東京都がどうなるのか、というのをまとめてみたいと思います。

EMPって?

まず、EMPです。 Emerging Managers Programです。某北の国が使うとか言われているElectro-magnetic Plus – 電磁パルスではありません。Emerging Manager、すなわち新興運用者を発掘して育成するプログラムです。どういうことか、というと、ヘッジファンドのような腕に覚えのあるファンド・マネジャーが、例えば大きな組織にいるものの自分の腕を試したい、企業でもらう給料以上に稼ぎたい、一生に一度は自分が自分のボスになりたい、などの理由で自分のファンドを立ち上げたい、という夢を実現しようとするのですが、そのためには自分の会社を作って、その会社で資産運用業の登録を行って、投資家を募り(ということは相手にお金を出してもらえるように説得して)、ファンドを設定して、やっとファンドが運用できるようになるのです。

でも、自分で会社を設定して、資本を入れて人を集めて会社のルールを定めてファンド運用に必要な投資運用業のライセンスを当局に届け出て、とするだけで最低でも半年以上の時間と数千万円の会社の資本含めた元手が必要になります。

閑話休題 – いい機会なので一言

なので、適格機関投資家向け特例業務を使って資産運用業の登録をせずにファンドを安く立てたいとか言っちゃう人は常に一定数いらっしゃるようで、またそんな問い合わせを時折受ける(しかも丁寧に返事しても返事しないんですよ、大抵の場合。。。)のですが、人様のお金を預かって正しく運用して、適切なリターンを返すのが運用者の仕事なのでそれなりの運用の体制や環境、そして法令遵守へのコミットメントを示せない運用者に対しては、少なからずまともな投資経験を持つ機関投資家の多くはお金を預けるに足らず、と言う判断をし、そうでない(と言うことは良からぬ意図を持つか、投資ということに本源的な意味で無知な)機関投資家が名前貸しのような形でファンドの組成に手を貸し、その大半が残念ながら財務局のホームページで行政処分や悪質な無登録運用者として名前を挙げられて、二度と表で資金調達が出来なくなるか別の詐欺的手法を使って資金集めを行うかのいずれかの道を歩むことになるのです。自分は違う、ちゃんとやる、という人が実際ほとんどですが、その後そのほとんどが消息不明になっているのも事実です。

ですので、少なくとも当方にコンサルを、とおっしゃる前に、上記を踏まえて方向性をご検討ください。もし手頃に特例業務を届ければいいや、程度ならば、適当なコストを払うことで適当な書類を何も考えずに出してくる行政書士や弁護士などはいくらでもいますので、そちらの方が早いと思います。その後どうなるかは知りませんが。。。

投資家から見た EMPって

さて、投資家から見た場合、見ず知らずの人間に10億なりをお金を預けて運用させよう、なんて思える特異な人って。。。そうそういなさそうですよね。実際に、AIMA Japan Forum 2018の最後のパネルであった投資家パネルで登壇された国内大手投資家であるゆうちょ銀行、みずほ銀行、年金基金連合会、と言ったオルタナ投資については陣容も経験値も国内有数の人たちでしたが、そんな彼らですら、今回のEMP構想に対しては協力したいが諸手を挙げて参加する、とはその場では言いませんでした。それくらい投資家というのは慎重に投資対象を選ぶものなのです。

ですので、著名なヘッジファンド運用会社などで成功を収めて、そのトラックレコードを再現できる環境ができる、というならばまだ預けてもいいかも、と思うかもしれませんけれども、そんな過去の栄光すらない場合なかなか難しいのが現実ですので、こう言った「起業をしよう!」という人の気持ちをペキペキに折り、スタート時は自分たちの退職時の蓄えと、もしいいスポンサーがいればその人たちからの投資(このようなファンドのスタート時に設定のためにいれてもらう資金をシードマネー、といいます)で、スタートすることになるのです。

実際に2008年の信用不安に端を発した市場の混乱(ええ、あえてリーマン・ショックなんて言いません。)のあと、米国の銀行等への自己勘定での投資に対する規制により事実上退社を迫られた、腕利きのトレーダーたちの多くは自分でファンドを立てるべく独立するよりも、大型のファンド運用会社に入ってそのファンドの受任残高の一部を管理する形を取ることでより多くの投資家の信頼を(大型ファンド運用会社の名前と信用力で)得ながらファンド運営をして言った、という現実すら存在するのです。

インキュベーション・プラットフォームという存在

とはいうものの、運用業界もそんなスターマネジャーばかりの立ち上がりに期待したのでは先細ってしまうので、可能性のあるありそうな運用者を発掘して育成しないといけない、という意識も業界の中ではあるのも事実です。投資家の一部で、そんな駆け出しの運用者に早い段階で運用者自体に投資して大きく成功した経験を持つ人も少なくないのも事実でして、かくいう著者も2006年から2007年にかけてそう言った前途有望なファンド運用者の卵を発掘して育てて(その分の見返りをたっぷり稼がせてもらおう!)というインキュベーション・プラットフォームの設立と当初の数ファンドの運営に携わっていました。そのプラットフォームには、そういうファンド運用者の卵と数多く面談して、その中でも有望と思える人をプラットフォームに連れてきて運用する、という目利きの機能と、そういう運用者たちが負担なくファンドを立ち上げ(て、同時に投資する人たちやプラットフォームが将来的に儲けられ)る仕組みを兼ね備えているのです。

でも、このプラットフォームであれば運用者も投資家も世界中のどこにいたっていいんですよね。実際にそんなインキュベーション・プラットフォームは世界の主要な都市で投資家や目利きたちによって立ち上がっていますし、私が関与したプラットフォームでもケイマン諸島籍のファンドに仕立てて、アジア拠点の現地の投資運用ライセンスを持つ会社を通じてファンド名義で証券の売買執行をしていました。その時の証券の売買のアイデアを見つけていたのは日本にもいましたし、香港やシンガポールにいても場所は関係なく同じように機能するようになっていました。

EMPを東京がやる – なぜ?

さて、今回の東京都には金融都市機能の再生、という大前提があります。そのため、この数年間、JIAMという海外の運用会社や fintech企業の国内誘致を行うコンソーシアムが欧米からアジアの金融都市で東京への誘致活動をしてきています。そこに平仄を合わせるべく、東京都と金融庁とが2017年4月に海外運用会社による国内拠点に対する運用業の届出に対する英語での対応や届出プロセスの迅速化の制度を立ち上げています。その結果を受けて、昨年一社、確かイギリスで大手の生保系の運用会社が国内拠点の立ち上げと運用業の届出をこの仕組みをフルに使って行った、というアナウンスが出ていました。

しかし、このような大手運用会社の日本拠点が立ち上がっても、実質的には国内の投資資金がこの拠点の作る海外ファンドのフィーダーを経由して海外で運用される巨大なファンドに取り込まれるだけですので、運用拠点と言ってもさほど大きな体制を要することもありません。単純に右から左に流すだけ、の運用の頭を使わない仕組みを作るだけです(って、お前が昔ジャージー島やケイマン諸島でやっていた外国籍投資信託だって、単一資産を持ち続けるだけの頭を使わない仕組みだったじゃないか、と言われそうですね。ええ、その意味では全く同じです)。

となると、もし金融都市としての東京に拠点を置いて運用スキルを持つ運用者事業を育成したいとなると、そう言った腕に覚えのある運用者で東京に会社を立ち上げたいという野望を持った人や海外の運用会社で東京にオフィスと実質的な運用拠点を置くことで国内資産の投資運用したいという企業のプールに対して、東京で運用ビジネスをするメリットを感じさせるものを提供することが早道、のようです。そして、その運用者が喉から手が出るほどほしいものとは。。。投資資金への比較的容易なアクセスする手段、と言えるでしょう。

とはいえ、東京都が直接投資家と運用者のプールを闇雲にマッチングする、というのは、運用者からすれば紹介して話す機会がもらえるのでラッキーと思えるものの、投資家からすれば東京都の紹介とはいえ、素性のよくわからない運用者を片っ端から会って検討するなんてことは現実的ではない、ただのうざい話になるので、運用者のプールに一定のフィルターを掛ける目利きが入ることでより現実的な投資ストーリーに繋がるのではないか、と考えたのでしょう。

ということで、これらの運用者の卵から優秀なタレントを発掘し育成する目利きとなるゲートキーパー、そして早期投資に慣れた投資家がいて、そんな投資家と新興運用者とをマッチさせるためのゲートキーパーによるファンド・プラットフォームが必要になる、というストーリーが出来上がります。

ここで一つ疑問が出てくるかと思います。東京都の役割は?

前述のストーリーの中で二つほど疑問が出てくることになります。

一つは、東京都が投資家になっちゃえばいいんじゃないか?という疑問です。これ、「東京都のEMP」だから、東京都がシードマネーを出すのでは、とみんなが思ってしまうわけですが、実は東京都はシードマネーを出しませんし、出せません。大きな声ではいえないのでザクっと書きますが、きらぼし銀行の一部となった新銀行東京の一件があって出資ができない一方で補助金を出すことは可能、という縛りがあるそうです。

そこで、もう一つの質問の答えに繋がります。それは、出資しないのに東京都はどうやって誘致をしようというの?

それは、東京都がファンドプラットフォームの運営費用の一部を補助金の形で負担する、のです。ここでポイントなのが、ファンドプラットフォームを通じて投資される新興マネジャーの運営費用や新興マネジャーのファンドの運営費用ではなく、ファンド・プラットフォームの運営費用です。これは本来シードマネーを提供する投資家がゲートキーパーに対する運用手数料やファンドの維持費用を負担するところの一部を東京都が肩代わり、ということなのです。

確かに運用費用はパフォーマンスを押し下げる要因とは言えるものの、その負担が最大半分軽減されるから、といってもファンドの運用成績が思いっきり下がったら軽減された費用なんて意味がない、と言えるかもしれませんが、リスクマネーを供給する投資家へのできる限りのサポート、というところ、でしょうか。

で、最終的にEMPって誰が東京都に申請するの?

ということで、この構図が見えてくると、東京都が申請を受けるのは投資家と目利きとなるゲートキーパーがペアになって、EMPを立ち上げるので補助金を申請します、という形になってくるというのがわかります。しかもポイントがゲートキーパーと投資家のマッチングは自分たちで頑張ってやって、というスタンス、というか、ゲートキーパーに投資家を捕まえて連れてこい、と言っているというか。。。でも、投資家がキーになるこのプログラムとしては仕方のないところかもしれません。

じゃあ、新興マネジャーはどうしたらいいのでしょう。

EMPの申請の通ったゲートキーパーに「シードマネーを出してくださいよー」、と働きかける他になさそうです。東京都には今年4月以降に運用業の届出をした企業に対する補助金プログラムがあるのでそれには申請可能でしょうけれども、それはEMPとは異なる話ですので、シードマネーが欲しい場合には、ゲートキーパーが誰になったかをまず調べてから、ということのようです。なお、東京版EMPレベルでは戦略に縛りはありません。ゲートキーパーが掛けるかも知れませんが、ここでヘッジ限定とかすると対象となる新興マネジャーの選択肢を自ら敢えて狭めることになるのでしないだろうな、と思う一方で目利きの効く戦略の都合もあるので、最終的にどこまでバラエティに富む新興マネジャーのラインナップになるのかも興味のあるところです。

まとめ

さて、この仕掛け、ここまでよくぞこぎつけたものだ、という評価もあります。なにせ、この手の試みは今までここまで公開されたことすらなかったのです。そこから見れば頑張った、というべきでしょう。あとは実際に機能するか、というのは世の中のプレーヤーたちにこれが響いたか、という結果を見る他になさそうです。

さて、誰がゲートキーパーになるのかな。私も新興マネジャーとして売り込みに行く準備をしなきゃ(笑)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

error: This Content is protected !! この記事は印刷不可です。