オフショアって、なあに?今更だけど、ついでにもう一つ。

絶対、人のいない浜辺=オフショアって思うでしょ?

前回、諸般の事情、と匂わせたことがありますが、その諸般の事情さまの偉い方からこんなありがたい言葉を頂戴したそうです。きっと読んでいるんだろうなぁ、と思いつつ、晒させていただくならば(晒すんだ、と思ったでしょ?)

「オフショアって、脱税天国とか投資詐欺とか悪いことをする場所というネガティブなイメージが先行する」

ええ、そうでしょうよ。直近で言えば、AIJ 事件は新聞を読んでいれば詐欺の手口がケイマン諸島のファンドを使ったものだったから、という印象だけを植え付けられていましたからね。それに、この脱税天国、tax haven がカタカナ英語で「タックス・ヘイブン」から「タックス・ヘブン」にすり替わった結果という、如何にも音だけで判断する日本人らしい(ベーッ、だ)理由があるわけです。そのおかげで、オフショアを仕事にしている私なぞ常に怪しい人扱い。風評被害です。実際に詐欺師がメインで詐欺を働いたのは日本国内でオフショアの関係者は問題がなかったのは後から出たけどまともにメディアは取り上げなかったし訂正すらしなかったのですから、扱いとしてはひどいものです。

と、言いつつも、期待できないマスメディアに依存せずに、自分からちゃんと発信して理解を得ることが一番大事、と思い、ぐっとこらえて下記のようにまとめてみました。本当は一番最初に書くべきだった内容ですが、今更、でも、今だからこそ。

そもそもオフショアってどこ?

オフショア、という言葉を聞いて、先ほどのような「どう自分が正しい知識と無関係な個人的な感覚と印象論でものを語る」かはさておき、筆者のように金融にとっぷりと身を浸かった人間と、例えば IT の開発に携わる人とでは、その印象は微妙に異なるはずです。こちらの世界だと、オフショア開発といえばベトナムやインドといった「海外の(低賃金な)開発拠点」をさしますよね。(ええ、私自身の1/10 はえせプログラマーのつもり、ですから一応両方を知っているつもりです。)

ファンドや証券化などのストラクチャー・ファイナンスといった金融の世界ですと、ケイマン諸島、ブリティッシュ・バージン諸島(BVI) 、バーミューダ、ジャージー島、ガーンジー島、モーリシャス、セイシェルあたりをまず指し、人によってはオランダ領アンチルス(2008年に既に解体されてましたね、そういえば)やマレーシア領ラブワン、香港、シンガポール、ミクロネシア、パナマ、バハマ、ニュージーランドなどなどを含めたり、あえて外したりします。ファンドの世界ですと、この他に有名なファンド設定地としてルクセンブルク、アイルランド、キプロス、マルタといったEU 加盟国を入れたがる人がいますし、オフショアに共通のあるルールに基づくと、ロンドンが実は世界最大のオフショアなんじゃない、という人すら出てきます。

で、オフショアってなんなの?

じゃあ、オフショアってどういう定義なの、と立ち返ればいいわけなのですが、その言葉の本源的なところを捕まえて語るならば、

オフショア(Offshore)は岸(shore)から離(off)れ海に流れる風、つまり「陸風」のこと。 反対語は、「海風」を意味するオンショア(Onshore)(cf. 海陸風)。 転じて陸から離れた沖合や、本拠の外の海外のことをさす。(Wikipedia)

となりますが、ITで使う際には「コスト」の要素も入れる必要があります(シリコンバレーでの開発をオフショアとは呼びませんよね。)し、同様に、金融、特にファンドの世界で見るならば、概して次の条件を満たす自国以外の国や地域を指す、と考えてよいかと思います。

  1. ファンドを設立するための法制度が完備されていて(従って、問題が起きた時に裁判をすることで解決出来る法務インフラや法制度の運営を管理する金融当局が整っている)
  2. かかる法制度に基づいて設立されたファンドに対して(特にその国の非居住者投資家に対する)一定の条件が満たされていると免税もしくは低税率での課税が適用される(ということで、それに満たさないファンドはその国の住人同様に課税されるリスクがある、ということでもあります。)
  3. 設立されたファンドに対する企業向け商業サービスの提供があること(従って、そのサービスを持って非居住者が居住することなくファンドを維持することが出来る、のです。)

この条件で見ると、前述の国や地域、都市であてはまるのは。。。

ケイマン諸島、ブリティッシュ・バージン諸島(BVI) 、バーミューダ、ジャージー島、ガーンジー島、モーリシャス、セイシェル、オランダ領アンチルス、マレーシア領ラブワン、香港、シンガポール、ルクセンブルク、アイルランド、キプロス、マルタ、ニュージーランド、

あたりになります。

オフショアっぽいのにオフショアじゃない。オフショアなのにオフショアじゃない振りしている。

というのも、ミクロネシアは実は法人税が税率が21%と日本のタックスヘイブン対策税制における外国子会社等に該当させないように設定されているので低税率にあたらないのです。ですので、持株会社や金融サービス会社の設立、あとは保険会社の設立には適しているとされていますが、ファンドの設立地には不向きと言えます。

また、ロンドンについては2つの意味でオフショア金融センターだと呼ばれていたのですが、一つは、世界最大のユーロダラー市場、すなわち、米国の外で取引される米ドルの流通市場という国外資産の非居住者の取引(いわゆる外外取引)に対する「場所貸し」、もう一つはファンド・マネジャーのような特定の業種(しかも一般的には高給取りになり得る、と思われている業種)に対する誘致目的での低税率の所得税の導入、や非居住者による不動産取引へのキャピタルゲイン課税の免除、といった、どちらかといえばオフショアの本来の意図というよりは「タックスヘイブン」の側面から来ていた話なのです。ちなみに、後者のうち優遇税制は金持ち優遇の批判が高まったことから終わり、それに伴ってロンドンからジャージー島やガーンジー島、スイスにその殆どが本拠地を移したと言われていますし、不動産取引への課税は2015年4月からそれぞれ始まっていますので、その意味ではロンドンは今では外外取引としてのオフショア市場として世界最大の取引量のある市場としての地位だけ(それでも十分なはずですが。。。)を保持している、と言えます。ですが、ファンドを始めとするストラクチャー商品を組成する本拠地としては非居住者にとってのメリットは見いだせません。

オフショアの偏見を正していただきます。

さて、少し世の中(というか、少なくとも、諸般の事情の某偉い人)にその偏見を払拭してもらわないといけないので、問題を整理しましょう。

1を見ればわかるように、ファンドの設立というのはそもそも当事国における法制度がしっかりしていないと世界中の投資を目的とした資金を集めては、そのファンドの目的の通りに投資が行われて、投資が終わった時に投資家の権利である投資資金と余剰収益を返還する、という約束事を法的に担保する仕組みがないことになり、誰もおっかなくて見向きもしない、という結果に終わるのです。その意味では、この日本語で書かれた文章を読んでいるあなたや私にとって一番安心して信頼できる日本の法律とファンド関連の権利義務関係を定める法制度という意味ではオフショア地域のそれはほとんど変わりがないか、さらに柔軟性や保全性を高めたものがあります。なぜかって?そうでなければ世界中のファンド設立地の間での競争に勝ってより多くの投資資金と投資事業、そしてそれに関連する雇用・ビジネスを誘致できないからです。

そこで絶対にこんな質問が出てくるのは容易に想像できます。

では、そんなにきっちりしているはずなのに、なぜオフショアを舞台にした詐欺案件が出てくるのか?

簡単なことです。同程度の法制度のある日本では詐欺案件がない、と言いきれますか?日本の金融商品取引法の第63条の適格機関投資家向け特例業務を用いて簡易的に設立された個人向けの投資案件で多くの高齢者などが詐欺を働かれた結果この特例業務の適用条件を変更しよう、という動きが起きていますよね?
同じように世界最大の投資家の本拠地であるアメリカ合衆国でも詐欺案件がなかった、でしょうか。Madoff はアメリカのオンショア・ファンドが舞台でしたよね?確かSEC監督下にあった運用会社が問題を起こしてませんでした?

オンショアだから安全で、オフショアだから危険、ではないのです。この辺りは以前の記事で書いていますのでこちらもご参照ください。

オフショア=低コスト、だから低クオリティ?

さて、先ほどの IT のオフショアの時にキーとなったのが「コスト」だと説明しましたが、ファンドにとってコストとはなんでしょう。

上記の3のような金融サービス会社に払う費用、例えば法務費用(弁護士先生ですね)、監査費用(会計士先生ですね)、ビークル管理費用(ファンド・アドミニストレーターや現地当局への登録・年次届け出費用)、資産保有・管理費用(カストディ、銀行、トラスティ)、ファンドの運営・統治費用(ディレクターや管理会社)、資産運用報酬(ファンド・マネジャー)あたりが必然的にかかります。

これもそこそこかかりますが、もっとインパクトのある「コスト」は、税金です。証券取引に関連するキャピタルゲイン課税や利金・分配金への源泉徴収、などなどありますが、利益の10-40% も取られる(アメリカが高税率の所得税から逃げるために国を捨てるのを防ぐために世界中に無理強いしている FATCA に至っては、もしアメリカの納税義務者でないことを証明できない場合には米国関連資産の売却額(利益相当分ではなく、元本も含めて、ですからね)の 30%を課税する)のは前述のサービス会社に払う費用から比べればとんでもないインパクトがあります。

そこで、ファンド設立地の一部、例えば、シンガポール、アイルランド、ルクセンブルク、キプロス、マルタ、ジャージー、ガーンジーあたりは、金融サービス会社への費用収入が設立地の雇用促進、結果として税収の増加につながることから、現地の金融サービス会社を使った場合にのみ取引に係る税金を減免する措置をとりますし、そもそも人の少ない(!)ケイマン諸島やBVI あたりは監査やトラスティは設立地にて当局からのライセンスを受けたもののみが受任することで課税関連を減免し、その他の機能、例えばアドミニストレーターは世界中のどこで行っても良いとすることでファンドの組成・運営に柔軟性を持たせることでより多くのファンド設定(と結果的にそれに伴う当局への当初及び年次の登録費用の支払い)を呼び込む、のです。

ちなみに、言いたくないですが、日本の私募投信を作る方が設立コストだけ見ればものすごく安いです。というのも、届け出書類はほぼ雛形状態ですので内容を埋めてコンプライアンス・オフィサーがチェックしたらおしまい。弁護士費用はほぼなし、なのですが。。。法務と法令遵守とがごちゃ混ぜになっているいい例、というべきかもしれません。それが正しいかどうかは本当に微妙です。

タックス・ヘイブンはタックスヘブン?

ところで、このいわゆるtax haven、正しく翻訳するなら「租税回避地」、ですが、ファンド設立地では課税しません、というだけの話、なのはよく誤解を生むのです。というのも、まず、オフショア拠点の居住者や前述のように非居住者による投資を行うためのファンドが適切にストラクチャーされなかったり手続きミスなどのせいで減免措置を受けられない場合には課税される、ので、まず租税回避地は全く課税しない、わけではないのです。そりゃそうです、現地の政府を維持するには税収が必要なのですから。

また、もっと大事なポイントとして、課税が行われる場所が、(1) 実際の投資活動が行われるところ、(2)投資活動の拠点、そして(3) 投資家の所在地、と3つ可能性があるうち、ファンド設立地が(2) にあたり、そこが租税回避地であり減免措置を受けたとしても、(1) や(3) で課税される可能性が残っているのです。例えば、(1) でいうならば、ケイマン諸島籍のファンドが日本国内で発行される国債や公社債を保有した場合の利金に対しては源泉徴収税が15%かかります。また、(3) について言うならば、単純なケースであれば私たちが日本の証券会社で購入したケイマン諸島籍のファンドを売却して利益が出た場合にはその利益に対して日本で課税されます。とすると、(3) のような最終投資家の課税問題は(2) としてオフショアというか租税回避地を使ったところで最終投資家の拠点で課税されるのです。ですが、(2) で課税されて(3) で課税されるよりは投資効率が高いので好ましいと考えることから(2) にオフショアが選ばれるのです。

お金だって人と同じように効率的に移動する。

結果として、飛行機のハブ空港に地方空港から飛行機が集まって人が集まり、ハブ空港間のフライトが増えることでより多くの人や物が効率よく運べるのと同じように、オンショアからオフショアに投資資金が集まり、オフショアからよりたくさん集まった資金を使って世界中に投資してリターンを上げていくことがより効率的であり、今は少なくともその流れでオフショアに資金が流れ込んでいるの事がある意味合理的な実務の結果による、世界的な流れなのです。

という事で、もし、ここまでちゃんと読みきってもらえたならば、その諸般の事情の某氏にもオフショアがいうほど怪しくも怖くもないところだと理解していただけたのではないか、そう期待してますし、そうでないとしたら、私の説明不足という事で、コメントでご指摘いただければ加筆をしていこう、と思うのでしたとさ。

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