ケイマン諸島でファンドをこれから作る時、気にするべき Guideline の考え方

ファンドの世界に限らずですが、金融の世界というのは、(私が経験したビジネスで言うと、デリバティブ取引から証券化、そしてファンドまで)ある一定のビジネスドメインが出来上がる頃には一定の商習慣や関係者間の一種の阿吽の呼吸みたいな不文律、なんてものも出来上がっていくものですが、面白いもので、そこそこ盛り上がりそうだ、というビジネスドメインには外部からビジネスチャンスを狙って入ってくる人たちなんてのもいて、過去の経験則と新しい領域との相似性を元に、もっとこうした方が合理的だ、なんて言い始めてだんだん物事が複雑になる傾向があったりします。また、そうやって、どんどん参加者が増えていくと、当然、金融当局なんて下世話なお節介焼きが入ってきては、やれ投資家保護だ、やれ市場の健全性だ、なんて今まで聞いたこともないような概念で法令なんて形で規制を強いてくる、やれやれ、なんて古参の市場参加者は思ったり思わなかったり。

しかも、それを称してエコシステムの醸成のために民官が協力しあって、なんて格好いいことを言う御仁というのも本当にどのビジネスドメインに複数、それこそ地元の町会にそれぞれ三人くらい偏屈親父がいて、その横で近所の民生委員のような、これまた町内に必ず一人はいそうな、区役所の職員か税務署の役人か、と思うくらいに堅物でお節介焼きと、行政からこう言われているから、あんたちゃんとこーしなさいよ、なんて言われて、何言ってやがるんだい、俺は昔からずっとこうしているんだ、なんて、あーでもない、こーでもない、とやっているのと同じようくらいの確率でいたりするわけで、まぁ、そう考えると、ビジネスだろうがご近所付き合いだろうと、人間のやっていることは規模と扱うお金の差程度であまり変わらないのかもしれません。

ケイマン諸島で始まった Guideline って?

で、ファンドの世界で、無駄に頑固でいじっぱりのルクセンブルクの関係者は絶対に表向きは認めない(のもあって、EUという大枠とは全く関係なくAMLや税務で常にケイマン諸島を最後までブラックリストにするのですよ。まー、国の嫉妬ってのも男の嫉妬くらいねちっこいですな。)だろうけど、実質的なところを見れば、ファンドの設立数やそのスキームに対する自由度などからケイマン諸島がどうしても一番大きな法域、と言わざるを得ません。ということは、たくさんの参加者がいて、法律の許す限りあれこれ自分のルールでファンドを運営して投資活動に勤しんでいるわけですが、そうなると、ファンドの運営という観点で、法令等で求めている最低限の実務的な手続きというものがあるはずだけど、本当にそれをやっているのか?という疑問が生じるのです。

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ケイマン諸島にファンドを作って後悔した、って話を最近よく聞くけど、なんで相談してくれなかったの?という件

最近、色々な人がケイマン諸島に作ったけど、高いよね、面倒だよね、というのを聞くけど、そもそも、それ、本当にケイマンで作る必要があった?ってケースが多いように思って聞いています。ケイマン諸島は確かにファンドを作る意味では、世界中の「みんな」がするけど、今は21世紀、個性の時代なのだから、「みんな」と同じことをする必要があるの?

ということで、最初に大事なことを

絶対、人のいない浜辺=オフショアって思うでしょ?

実際、私のような日本に数少ない本物の、ファンドのストラクチャリングのプロはこう考えます。もう、私のビジネスのノウハウを大公開ですが、まぁ、国内のいろいろな事情を踏まえると、本当にこれで再現できる人っていないから公開するのです。

ファンドを作るときのレシピ

  • 投資対象と投資家のいる場所
  • それぞれの国や地域の法律とその書かれている言語、税金、そして
  • それらをつなぐ租税条約などの条約

すごく簡単でシンプルでしょ?で、このレシピをどう使うか、というと。。。

  1. 投資家はどこにいて、投資先はどこにある?
  2. 投資先の国の外国人に対する投資規制や税制を考える
  3. 投資家のいる国の海外投資に対する規制や税務を考える
  4. 二国間の租税条約や、その他の投資を阻害/支援する可能性のある条約を考える
  5. 検討結果として、第三国を入れることでコスト対比で税務が「劇的」に改善するか考える

あれ?ケイマンどこに行ったの?と思ったでしょ?そうなんです。実はセカンドオプションに過ぎないのです。もし、ここから先を読む時間がもう時間がない、という方は年間でそこそこコンサルフィーを頂けるノウハウを手に入れた、しめしめ、とここで離脱していただいても結構ですが、まだ時間があるぜ、という方は、なぜこのフローで考えるべきなのか、ちょっと下記のあれこれまとめたので見ていきましょう。

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ケイマン諸島の2020年は昨年同様に協調路線へ

2020年1月8日にケイマン諸島政府とケイマン諸島金融当局 (Cayman Islands Monetary Authority – CIMA) は二つのファンドに関する法案のドラフトを公表したそうです。一つはクローズエンド型プライベートファンドの登録を求めるもの、もう一つはミューチュアルファンドのうち、今までCIMAへの登録不要とされていた Section 4(4)ファンドと呼ばれる投資家が15人未満のファンドのCIMAへの設立時の登録と年次監査とCIMAへの年次監査の提出を求めることとなるそうです。

政府とCIMAの狙い

ドラフトと共に発表された声明によると、いずれもケイマン諸島が国際社会の中で協力的な法域であることにコミットすべく、EUその他の国際的な提言に対応すべく、多くの他法域にて既存か提案されている法制度と同等の範囲とするもの、とのことです。

昨年のEconomic Substance の導入と 証券投資業法 (Securities Investment Business Law) の変更の時に感じた通り、EUをはじめとするケイマン諸島の主だったユーザーである国々の法制度や税制、BEPS のような議論に呼応するような法制度や規制を導入しつつある、というのが今回のドラフト公表のメッセージであり、今後のケイマン諸島の方向性を示したもの、と見るべきでしょう。

今回の影響は?

今回公表されたドラフトについては、まだドラフトレベルで議会での審議にかかっていないことから、変更ありきで読む必要があります。とは言え、大筋はこうなるだろう、は見えてくるでしょう。

プライベートファンド法

特に LPS形式のファンドについては従前CIMAへの登録が不要でしたが、これによって届出が必要になると思われます。というのも、届出対象となるクローズドエンド型のファンド、の特徴として

  • その主な事業が、投資資金のプールを目的または効果として意図した投資持分の募集および発行であり、投資リスクの分散を目的とし、かかるビークルによる投資から投資家が利益を得ることを可能としていること。
  • その投資持分が、かかるビークルの利益分配を受ける権利を付与するものであり、かつ投資家のオプションとして償還または買い戻しを受けることができないもの、すなわちクローズドエンド型のもの。
  • その目的または効果が、投資リスクの分散を目的とした投資家資金をプールするものであること。
  • 投資家がかかる投資ビークルに対して日常的支配権を有していないこと。
  • その投資ビークルが、全体として運用者またはその代理人によって直接的または間接的に運用されており、かかる運用者またはその代理人の報酬がビークルの資産または利益に基づき算定されていること。
  • それが本法案の別紙に記載される「非ファンド・アレンジメント」(non-fund arrangement)に該当しないこと。

Maples のニュースレター日本語版から引用)

と、どう頑張っても従来から見られる組合型のファンドのそれ、なのです。日本で言えば投資事業有限責任組合は登記によりその存在が公表され、一般的なケースならば金商法63条特例業務の届出を金融当局に提出して運営されている訳ですのでそれに近づいた、というべきかもしれません(登記のない匿名組合とか任意組合であって、第二種金融商品取引業が持分販売することでのみ流通するので、二種業者の年次事業報告で金融当局の知るところとなりますしね)。

で、これらに対して、年次評価方法や銀行口座、カストディに関する要件も求めていくようです。とは言え、この辺りは現実問題としてはそんなに影響はなさそうな気がしますがまだ固まったわけではないですので予断は禁物です。

ミューチュアルファンド法

こちらは前述のように、Section 4(4) ファンドという15人未満の投資家のファンドには従前までCIMAへの登録が免除されていたのが、登録義務が発生し(当初と年次の)登録費用が発生し、年次監査とそのCIMAへの提出義務も負うこととなる、のです。これは、登録免除の穴を塞ぎにかかっている、というのが見えてきます。

今後のファンド組成への影響は?

個人的には、ケイマン諸島籍の LPSの設立ニーズが日本から増える傾向にあると見ていますが、その費用等が上がることでその傾向に水が差されるか、というと、そうでもないようには思えます。が、設立のスピード感やコスト増加、というのは、新規設立する人よりも、従前から設定・運営してきている人たちにインパクトがより大きく受け止められるように思われます。

ESの時のGPを取り巻く議論は運よく対象外と結論づきましたが、登録義務が発生するのは運営コストの増大に繋がるので、仕方なし、と受け止め切れるかどうか。。。

とは言え、これについてはまだ確定したものでもなく、また今後実際にどう導入されるかのアナウンスを含めて動向を見ていきたいところです。

AMLCOとか MLROとか DMLROとか、知ってますか?準備できています? – 多分今ケイマン諸島籍ファンドで一番熱いネタの一つから

Rule is rule

常にコンテンツを書くのが遅い当ブログですので、最新の法規制の話を書こう、とすると気づくと締め切り後になりかねず、というのもありあまり触らないでおこうかな、とか思うこともあるのですが、最近だいたい2週間に一度程度、2000文字に起承転結をちゃんと入れて書かせていただいているサイトがありまして、そこでちょっと文字数少なめに取り上げた表題のネタがあるので、こちらでは普段通りのペースでちょっと書かせていただこうかな、と。クロスポストにならないように一から書きますので損はさせませんよ。

ケイマン諸島のAML/CTFはある意味OECD諸国で最先端(?)

Rule is rule大きく出てみましたが、今回のネタの確信ってここにあると個人的には思っています。何かというと、2018年の6月1日以降にケイマン諸島で設立されたファンドや、それ以前に設立されたファンドについては、その登録の有無を問わず、2018年9月30日までに、専任の Anti-Money Laundering Compliance Officer (AMLCO)、Money-laundering Reporting Officer (MLRO)とDeputy Money-laundering Reporting Officer (DMLRO)を任命して、Cayman Islands Monetary Authority (CIMA)に届け出る義務付けを行いました。

もともとケイマン諸島では AML Procedureを各ファンドが定めて投資家を受け入れる時に AML/CTF (Anti-money laundering / Combatting terrorist-financing) の調査を行うように定められていたのですが、これを一段厳しくして、この投資家 due diligence の遵法確認をする担当者を置き、またもし疑わしい場合には当局に届け出る責任者を定めるように求めた、ということです。

ファンドを設立したことのある人ならイメージはあるかもしれませんが、AML Procedure の導入前を考えると、ファンドの設立の時にファンドのスポンサーに対するdue diligence をファンドの口座開設の際に行い、その際にAML/CTFの側面での確認も行なっていました。他方で投資資金の出し手である投資家に対するdue diligence というのも一応は行なっていましたが、US-FATCA/CRSの観点での税務的側面での確認が主なものでした。となると、実は資金の大きな流れである、投資家の資金に対するAML/CTF的なチェック機能が不十分では、という問題が生じ得るのです。そこで、ケイマン諸島ではAML Procedureを導入するように規制をかけたのです。

とはいえ、その実効性という意味でいうならば、投資家の投資申し込みの手続きでの本人確認を行うのがファンド・アドミであり、現実的にその本人確認のプロセスもそのファンド・アドミの規制を行うその所在国における本人確認の要件に依存することになり、またその結果の疑わしい投資家などの情報収集という観点でも機能しづらいことが見えてきます。そこで、後者に対する対応として今回のAMLCO/MLRO/DMLROの登録制度を導入することとなったというわけです。著者の知る限り、ファンドレベルにまでAML/CTFの義務をここまで厳しく導入している国というのは実はありません。

ちなみに日本はどうなの?

日本におけるAML/CTFについては、世界的なAML/CTFへの対応強化の流れに合わせて、今年3月に金融機関等に対して従前より高いレベルでのAML/CTF対応を行う取引先 due diligence を行うようガイドラインが提示されました。このガイドラインの基本的な作りは政府間機関のひとつである金融活動作業部会 FATF (Financial Action Task Force)の第4次勧告に基づいたものでして、実は来年の後半に金融当局とランダムに選ばれた金融機関や金融商品取引業者へのヒアリングが行われてそのガイドラインの実効性や実務的組み込みの実態を調査されることになっています。特にランダムに選ばれた金融機関等というのが、悪意を持って取引を行おうとする人ならば規制に対して意識が薄かったりコスト的な観点で「狙い目」となる零細業者を入り口に選びがち、という現実を踏まえて、国内の金融当局がお勧めする「規模的にも実務的にも模範」というウィンドウドレッシングをさせない、という現実的なアプローチの検査をされる、ということなのです。

今年の前半あたりからこの辺りの実務、特にリスクベース・アプローチと呼ばれる、顧客の属性(資金の出所が怪しいとか、職業が微妙とか)だけでなく、金融商品取引業者が提供するサービスによってマネーローンダリングとかテロ組織への資金供給する可能性についても評価し、それぞれの可能性の高さによって取引開始すべきかどうか判断する、というプロセスをいかに日本中の隅々まで導入できるかがポイントになりそうです。

他方で、日本では犯罪収益移転防止法に基づく取引時における本人確認が行われてきました。この際、個人は本人確認の出来る書類(運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなど)の提示で済むのですが、法人の場合、個人を隠して取引が可能、ということで、法人の設立を証明する資料やその窓口での取引担当者の本人確認に合わせて、法人の支配的地位にある人(株主や取締役など)の情報を提供することが求められています。この考え方は日本に限らず世界中で同じように法人口座を開設する時にはその法人の支配的地位にある人の情報提供を求めます。

世界基準と日本基準の狭間には

さて、テクノロジーからサービスのクオリティまで、日本は世界の最先端にある、というのがどうも私たち日本人の矜持であり、信じるところではあるのですが、ではこの辺りの規制の実効性や妥当性という観点ではどうなのでしょうか。

FATF が2014年に定めた「透明性並び受益権に関する指針」(“FATF Guidance – Transparency and Beneficiary Ownership”)の中で、議決権保有者に関する所有権比率による基準として、数値的なものは特に決めないものの「例えば25%」と書いてあります。ということは、世界的な取り決めならば25%以下なら数値的にはどれでもよくないか?ということになり、日本は一番ゆるい25%を選んでいることになります。ええ、世界の最先端の日本が、です。

で、オフショアという金持ちの資産隠しのための楽園、ケイマン諸島での情報開示の規制はいくつか、というと、10%です。ちなみに、この10%というのはケイマン諸島だけでなく、オンショア、オフショア含めてかなり多くの国でも採用されていることが知られています。

資産を隠す、というだけではなく資産を世界中に移転させるための口座の開設や移転手続きをするために、その支配的権限をもつ個人の情報をより多く出させているのは、日本よりもオフショアだ、という事実があるのです。

じゃあ、情報を出せばいいじゃないか、と単純に思うかもしれませんが、本人確認資料を準備するのは思うほど簡単ではありません。本人が本人であり、またそこに税金を納めるだけ生活を根付かせている証拠なんてものは、その人の出生地や現在の居住地の発行する証明書であって、パスポートや運転免許証で本当に足りるかと言う問題がある一方、その写しを提出することになる訳ですからそのコピーが「本当にその写しである」という証明、そして日本人なら特に、それらの書類を発行する役所の文書が日本語である以上、「その記載内容が提出先に理解されるように翻訳され、その翻訳が正しく翻訳されている」、と言うことも証明せねばならないのです。(香港あたりだと広東語と英語の表記だからこんな問題はないんですよね。ま、役所が公用語以外の言語で責任持って公的文書を発行できるかどうか、でこう言うところに民間のコストが増加させてるんですよね。国内の手続きの効率化だけに止まらない話ですよね、この英語問題って。)

日本においてファンドレベルでのAML/CFT確認は必要?

さて、ちょっと話を別の角度から見たいと思います。

日本においては通常の有価証券等の取引というのは銀行か証券会社を経由して行われるケースがほとんどですので、これらの金融機関の口座開設時点での調査や継続的なモニタリングによる口座の実質的保有者の素性確認を行い続けていれば、公募や私募の国内投信や会社型ファンドの投資家に関するチェックが間接的に行われていることになるので、ファンドレベルで改めて調査を行う必要はない、と考えることが可能です。だから、日本でファンドレベルの調査なんて不要じゃないか、と結論づけるのはちょっと尚早です。

これらの金融機関の証券口座を作らずに投資できるファンド、というものが存在する、としたらどうでしょう。ケースは理論的には二つ考えられます。

一つは日本に取引口座を開設していない海外投資家が直接投資しようとするケース。これは国内のファンドが海外で募集したら、という話ですが、技術的には国内ファンドをマスターファンドにして、海外投資家向けの外国籍フィーダーファンドを作ってそこで投資家を受け入れる、なんてことがあれば、外国投資家が直接マスターに投資させろ、と言ってもおかしくはない、のです。ま、受け入れないことで事務的に発生させない可能性が高い話ではありますが。。。

もう一つは、現実に今そこにあるケースです。例えば プライベート・エクイティファンドやベンチャーキャピタルファンドで使われる投資事業有限責任組合スキームの場合、証券会社にその持分を販売させる、ということをほぼしませんし、通常よくわかっているプロ投資家相手ですから、直接の取引をするのがほとんどです。

とはいえ、これもいわゆる金商法第63条の適格機関投資家向け特例業務の登録をして一人の適格機関投資家と複数のプロじゃない個人向けの投資家を持ってくるという使い道をすると、プロじゃない個人投資家も直接投資することになります。銀行から組合に送金しながら組合契約にサインすればいいだけですからね。それなりの金額ですから銀行は送金の目的を確認しますが、ファンドのための調査ではなく、自身の取引に対するAML/CTFへの関与の有無のチェックに過ぎないのです。

言い方は悪いのですが、この手のスキームを使って個人から資金集めしたい、というニーズの背景に規制対応が面倒、コストが掛かる、というものが聞こえる一方で、じゃあ、その手間を惜しんで投資家保護の措置をちゃんと自主的に取っているか、といえばかなり否定的に見ざるを得ません。そんな世界ですので、AML/CTFに対する意識があるかといえば。。。

とはいえ、いわゆる63条業者と呼ばれる人たちはまだまし、です。それでもギリギリ法律の免除規定を使おうという努力と、最近ではかなりスタンダードの高くなった年次の事業報告を当局にしよう、と思っているからです。もっとひどい(!)のは、「コンプライアンスのスペシャリストが考え出した完璧な抜け道」と称して使っている「合同会社」を使った投資スキーム(と呼べるかどうかすら疑問な手口)です。金商法上、いわゆる2項証券ということで組合持分と同じ扱いであることから、その私募というのが適格機関投資家ではない投資家は最大500名まで募集することが出来る、という読み方をして、かつ直接縁故的に自分たちから営業せずに受け身にメーリングリストで自主的に申し込ませたりウェブサイトからの問い合わせ、といった、いわゆるリバース・ソリシテーションで合同会社の社員を集めれば募集行為にすら当たらないじゃない、的にやっているケースですね。ここまでくると、自分たちは金商法の外の世界だと考えている節もあるほどですから、AML/CTF意識なんて皆無、というか自身のMLのためにやっているんじゃないか、と思えるくらいです(ごめん、でも、正直そんな話に以前昔出くわしたからはっきり言わせてもらう)。と言いながらも、前述の通り、合同組合の持分は金商法の取り扱いの範囲内です。ですので、会社の事業として株式を取得することだ、といって自己運用するのは、自分の資産のためならばまだしも、赤の他人を巻き込むならば、63条特例業務くらいは届け出ろよ、と言う感じです。でも、これも間違えて投資するとなると、当然証券会社等を経由しないで持分の取得が可能なものなのですからこれらの金融機関でファンドの資金に対するAML/CTFの確認が抜け落ちるケースでもあるのです。

最近このスキームを使って投資家を集めているエンゲージメント投資が数件いると言う話を聞いたので、警鐘を鳴らす意味でちょっと触れて見ました。

まとめ

と言うことを考えてみると、実は金融機関以外にもファンドに資金がプールされて投資に振り向けられる以上は金融機関と同じように資金の流れをカバーする限りにおいてはAML/CTFのゲートキーパーにならざるを得ない、と言う世界的な潮流についていく必要があるのかもしれません。

ファンドを立ち上げて運営する、って格好のいい話です。でも、第三者のお金を責任持って運用する、と言うのはリターンを投資家に提供する前に、それ相当の社会的責任を負う話でもある以上、世の中がAML/CTFに対して厳しい姿勢を打ちだそうとするならば、それに追随するのもファンドがより社会のための器としての認知されるためには当然のこと、とこの投資の世界のエコシステムにいる人たちや入ってきたいと考える人たちに考えて欲しい、と思う次第です。

恒久的施設の定義等の変更がありました、って。。。?

このところ、みやたべろぐばかりアップしているので、たまには真面目なネタも。。。

国税局というところはご丁寧に色々な刊行物を作成しては登録されているオフィスの所在地に郵送してくれるのですが、そのお仕事の性質上専ら「税金」の話なので微妙に複雑、というかあまり読みたくないような話ばかりなので、どうしても封すら切るのをついぞ躊躇ってしまいます。

実はちゃんと読んでおかないと行けなかった税務署からのお知らせ

とはいうものの、この週末に他にも溜まったクレジットカード会社の月刊誌などを読んで廃品回収に回さねば、とざっと目を通したのが「源泉所得税の改正のあらまし」。ざっとのつもりが案外引っかかるものがあれこれありました。

例えば、4ページ目にある、2020年以降の適用ですが、給与所得控除の10万円の減額、ということはその分の課税所得が増えることで増税効果が発生する一方で、基礎控除の増額が合計所得が年間2400万円以下にだけ適用されて、前述の給与控除の減額と合わせて事実上何も変化がないものの、合計所得が年間2400万円を超えると基礎控除すら減額される、なんて知ってました?これって、給与所得だけの人たちにはほぼ関係ないけど、たとえば不動産所得だけの人とかにはちょっとしたメリット、ですよね。しかも給与所得で年収2400万を超える人って2016年の統計になるものの、この頃で。。。。2400万円という区切りがないのでざっくりした計算をするならば3000万円以上の人で247,970人いて、2000万から3000万の人で195,800人だから半分としても345,870人もいることになります。といっても、給与所得のある人が9,789,362人ですから全体の3.5%程度の人が対象になってくる、のです。それって。。。マイノリティへのペナルティにしか見えないですが。。。

実はかなりやばいルール変更も書いてあった

さて本題。この3ページ目にこっそり入っていたのが表題にもある「恒久的施設(PE)」の定義等の見直し。実はかなり海外から国内への投資を呼び込みたいプライベート投資にとってまずい変更になり得る変更なのです。

恒久的施設って?

まず恒久的施設ですが、ご存知ない方にざっくりとした説明をするならば。。。日本に住んで生活し、活動する私たちにとって、前述の給与所得も不動産を買って売却した時の差額の利益も、株や債券から発生する分配金や利息、これらの取得と売却の差額益、果てはせどりのごとく安く仕入れて売却したものならその差額の利益まで、国税局にその一部を税金として納めなければいけません。ですが、これが海外に住んで生活する人が同じことをやることは、手間はかかるものの出来ますが、その場合には国内に納税する際の住所がないことから日本の国税局からは課税されないのです。

当然ですが、その場合、その住んでいる国で課税されることになるので、ファンドならば有価証券の売却益に対して課税しないケイマン諸島のような所から証券取引を行って利益をできるだけ投資家に還元したい、と考えますし、物販を考えるならば、オンラインで受注を受けて、法人税の安い国に拠点を置いて発送をそこから行う、と考え始めるのです。これが恒久的施設と呼ばれる事業の本拠地、という考え方です。

で、この考え方ってこれだけ簡単な話じゃないの?

本来ならばこれくらいシンプルなはず、だったのですが、色々と考える人がいたり、会社などの都合で色々なケースというのが発生し始めます。例えば、先ほどのオンラインで複数の国の受注を受けよう、と考えた時に、オンラインで受け身に受注するのではなかなか売り上げが上がらないとなれば、海外から営業をかけることは難しいので現地に営業する誰かが欲しくなります。そうなると、国内に営業拠点を置くか、国内に営業の強いビジネスパートナーを置いて営業を任せるか、のどちらかを考えることになります。

後者のビジネスパートナーならば、他のビジネスをやりながら自分たちの商品の売り込みをする、というところで事業展開についてコントロールがある意味自分たちの思うように行かないものの、他方で契約書一枚の関係に過ぎないので国内に拠点があると言われる筋合いもなく今まで通り国内から上がった売り上げに対して課税はされないという税務的なメリットは残ります。

でも、やっぱり本腰で売りたい、ということで国内に資本を入れた子会社を作って営業をさせると先ほどのようなビジネスパートナーとの関係、のような話にはなりません。自分の所の物だけを売るためだけの会社なのですから、国内で在庫を抱えて売っている人と表向きは変わりはなく、仕入れと在庫管理と発送を国外に置いているからある意味国内から利益を隠しているようにも見えるのです。となると、これは実質には国内で活動しているのと同じなのだから国内の売り上げについては課税すべきでは、ということになり、その際に、この国内子会社はこの売り上げのスキームにおいて恒久的施設を国内に有している、なんていう話になるのです。子会社であっても事業の実質的な本拠がどこなのか、というのがポイントになるのです。

で、これを書きながら、私ごとながら、以前やっていたジャージー島の金融サービス業の会社の日本でのビジネスのことがちょうどわかりやすい話かな、とも思ったので少し触れるならば、この場合は海外(ジャージー島やバーミューダ)で行われる金融サービス業、ファンド・アドミ業務やファンドの管理会社業務についてはその事業の性質上などから日本国内に在庫、というかこの場合はサービス提供拠点を置くことは出来ませんが、利用者は国内にいますのでそのサービスの認知から利用のためのアイデア提供などを国内子会社を通じて行いました。しかも、イヤラシイことに(笑)その説明する相手というのが投資銀行や証券会社、投信委託会社、といったところであ流にも関わらず、でもそのサービスの対価を払うのは最終的にファンドに投資した投資家のみなさんが、しかもファンドの費用という形で間接的に、ということで、この国内子会社(というか、以前なら私)は前述のような「ものを売っている」のか、と言われると売っているのかもしれないが、性質上国内に機能を持って同等のことを行うかのごとく課税する、ということはなかなかしづらいものなのである一定のルールを入れることで恒久的施設を有しないと認知される代わりに代替的な形を通じて納税を行うことによって、税務当局とはうまくやっていたのです(私がやっていた頃はね。)。

で、その当時よく言われたことで、「このファンドの投資判断を東京でやってよ」と言われたのですが全部お断りしていました。サービスクオリティ悪くね?とか言われていたようですが、これを東京で(当時なら私が)やってしまうと、ファンドの判断が東京で行われている、ということで外国籍投資信託の管理会社については投信委託会社を脱法で行うことになると認知されるリスクが出るのが理由です。税務とはちょっと異なる話ではありますが、ここも投資家のみなさんにご迷惑をかけないという意味では大事な話でしたので頑固に譲らずにおりました。

この辺を一通りわかっている人、最近を見ていると少なくなったようなんでちょっと書いてみました。

で、ここで出てくる主体的な行動と課税の関係について話が及ぶのですが。。。

さて、今回の話の核心にだんだん入ってくるのですが、前述のケースからわかるように、海外から国内に営利行為を行って収益を上げる、というところで国内の拠点なりビジネスパートナーがどれだけその事業に関与しているかで国内に恒久的施設を有するという議論になる、というのが見えてきた(?)ところで、今回やばいなぁ、と思っているところに入っていこうかと思います。

なお、今回の変更の背景というのが、BEPS (Base Erosion and Profit Shifting – 税源浸食と利益移転)という世界的な国際税務取扱の取り決めに基づく恒久的施設の定義の国際的な統一に動いたことにある、というのをまず話の前提にあること、したがって著者のメインにある金融だけが狙い撃ちで行われている話ではない、のを分かった上であえてあれこれ書いていることをまずご理解いただこうかと思います(笑)

ちょっと歴史のお勉強を

税務の観点で国内への海外からの投資の議論が盛んだったのは2007年から2008年の投資事業有限責任組合法の改正の時でした。当時を思い出すとユニットトラストがメインだったのでLPS法によるこの恒久的施設の議論は影響ないか、と思って眺めていましたが、考えてみればユニットトラストの場合は税務的な整理が確立しているので変更しようがなかったのです。前述のような国内拠点での判断が行われて投資信託の脱法っぽいものが行われたとしてもそれでも投資信託と同等の器での投資である以上税務上の課税ポイントはケイマン諸島では発生することはなく、ユニットトラストの持分の売却時に投資家に対して行う、ことに変わりはなかったのですから。

さて、その当時、LPS法とその周辺、特にこの法律の主だったユーザーであるプライベート・エクイティやベンチャーキャピタルの運用者と投資家たち、そして、それらの人たちによる投資資金を呼び込みたいと考えていた経済産業省、の注目していたことは海外からの投資が税務的な理由で激減していたことにあります。それは何かというと、Shinsei Tax として悪名が知られていた国内企業を海外で保有し、海外で売却したとしてもその譲渡利益にに対して日本として源泉徴収が行える、というものです。なぜ Shinsei Tax と呼ばれるかというと、昔、とある銀行がありまして、諸般の事情で破綻して国有化した際に海外のプライベートエクイティファンドがその株を取得して腕利きな経営陣等を派遣して企業再生を果たす、といった時に、国内の議員さんたちがそんな海外のファンドが血税を使った銀行の株を海外で売却したらその利益は海外に止まってしまって納税者に還元されないではないか、と前述の税法改正をしたのです。その銀行、当時は日本長期信用銀行、今では新生銀行、として知られるところですのでかかる課税のきっかけになったことから、そう呼ばれていたのですが。。。若い人は知らないだろうなぁ(笑)

独立代理人の要件

で、この改正を行って海外からの投資家に対して安心感を与えるように行ったと同時に当時のこの恒久的施設の定義、特に独立代理人の定義を行うことで、海外ファンドが国内への投資を行うにあたっての国内での活動拠点のガイドラインを定めたのです。その際に定めた独立代理人の要件として

  1. 法的独立性: 代理人が代理人として行動する上で十分な裁量が与えられているか?
  2. 経済的独立性: 代理人がその収入を全面的に一人の本人に依存していないか?
  3. 通常業務性: 代理人の行為が慣習的に行われているものであるか?

をあげていました。これは大和総研さんの当時の資料がよくまとまっていますので、深く調べる際いはご参考に。ここで一番のポイントなのが、法的独立性で、実は裁量権が与えられていれば、本人との資本関係が100%であっても、独立性を測るにあたっては無関係であったのです。ということで、2008年以降のプライベートエクイティやベンチャーキャピタル投資、そして不動産投資の一部で海外からの投資資金を受けるファンドのストラクチャーを作る際にはこの独立代理人の要件を満たすように誰もが構築してきたのです。ええ、国内子会社と海外親会社との資本関係が100%であっても大丈夫だ、と信じて。。。

で、ここで独立代理人の定義が変わる、というのです!まさに、資本関係は関係ないよ、といっていたのが、50%を超えると独立代理人として見做されなくなる、というわけです。

やっと、事の問題が説明できました。ま、いつもなら10,000字を超えたところで問題提起しているから、今回はまだ早い方ですね(笑)

で、これってどうなるの?

当局と業界団体との事前の意見交換等も実は昨年末に行われていたのですが、実際のところ当局(といっても、国税庁ではなく金融庁なのですが)サイドとしてはこれの影響ってないんじゃないの、くらいの感覚のようでして、特段金融関係のための手当もされる事なく、年末の税務大綱に上がり、3月末に国会を通過して今日に至っているので、ただただ、この新しいルールに年明けに向けて対応していかねばならない、のです。やらないと、少なくとも海外投資家を抱えるケイマン諸島のファンドを使った投資を通じての投資資産の売却益に対して総合課税がかかってくること予見されます(参照リンクの4-5ページ目)。

とはいえ、先日某国内大手プライベートエクイティ投資会社さんの(比較的事務寄りの)パートナーさんと話をした際にもご存知なかったという反応があったので案外認知されていない事のようにも思えているのです(なので記事にしているのですが。。。)。

で、出来ることって?

スキームの見直し、ではあるのですが、一番影響があるのが独立代理人の定義、ですのでその変更点である資本関係と仕事の割合について見直すべき、という意見が出てくるのが想定されます。となると、国内拠点とファンドとの間の資本関係か、国内拠点の請け負っている仕事のうちファンドなどの資本関係の大きいところからの仕事の割合か、どちらをいじりやすいかと言えば。。。仕事の割合ってそう簡単に外部の仕事がくるはずもないですよね(苦笑)といって、資本関係をいじるべく外部の株主をよびこめるのか、というと。。。どうなのでしょう。

とは言え、規制対応はスポーツ同様事業でも当然に求められることですので、やらねば、なのですよねぇ。。。とりあえず、まずは担当の税理士先生とご相談でしょうね(って、この言葉は誰に向けられているのやら。。。sigh)

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