ETFの功罪 – 大量保有した場合の権利行使は?
現在のETF業界は、ブラックロック、バンガード、ステートストリートの寡占が進んでいます。特にブラックロックとバンガードに至っては、指数採用頻度の高い多数大型株の、筆頭株主になりつつあります。もちろん、事実上の株式の管理は信託銀行にあるとは言え、議決権等の権利は運用会社に寄与させると考えております。このような運用会社の巨大化に伴う、大量保有は何か市場や投資家にとってデメリットに繋がる可能性があるのでしょうか?
ぜひ、専門家である宮田様の意見が聞いてみたいです。
残念ながら、ファンドの設立や運営については、多分日本で5本の指に入るくらいまともなセンスと投資家のことを考える専門家ではあると自負はします(これは本気ね。投資家のことを考えない、運用者の都合と自己満足を優先するストラクチャーをする輩が多いのが事実ですから)が、ファンドの運用方針とか戦略についてはかなり無頓着な私ですから、ファンドの保有する株式の議決権行使については本源的にはあまり気にしませんし、さらに言えば、その先にある運用会社の議決権行使の方針による市場への影響、なんてそうそうイメージすることもありません。
ですが、この昨今の日本版スチュワードシップコードのような話を踏まえるならば、次のような一般論程度は言えるとは思っています。
筆者の考えるETFによる大量保有に基づく議決権とその市場への影響とは
まぁ、当の本人にはメールで返した内容なので、記事としては手抜きですが、こんな感じです。
多分にご質問にある問題点は投資家のポジショニングを考える際に影響することでしょうから本来であれば自己の裁量により勘案すべきことと思いますが、私見を述べるならばETFだけが斯様な大量保有とされるポジションを抱えている訳ではないですのでそれを持って市場へのデメリット、という影響があると考えるのは早計でしょう。
そもそも会社への支配的、もしくは影響を及ぼす保有割合は日本のルールでいうならば大量保有届出を義務付けられている 5%ではなく50%でありまた、25%であったりと、ケースにより変わる訳ですので、ETFの市場規模がそこまで増えた時に初めてこの問題が現実のものになり得ると思われます。
# 日銀による J-REIT保有が過半を占めている、という話についても
# とはいえ、それぞれの J-REIT 銘柄の半数を超えて保有している訳ではないので
# 今の所は問題にはならないでしょう。多分。他方で、運用会社としての大量保有による影響というのは、その運用方針による保有の仕方が問題になる話ですので、個々の運用会社のウェブサイト等で開示されている保有時の方針、例えば日本であれば日本版スチュワードシップコードの表明の有無などから運用会社ごとの対応を推して考えることと思います。
また、支配的保有であれば go-to-private のようなプライベートエクイティのような買収案件ですので市場への影響より個別銘柄のその他の少額投資家への影響、という問題に話が変わることになります。
その上で申し上げますが、ETFのような支配的目的での保有でない保有で結果的に影響を多少なり与える保有になった場合にも経済的効果のみを目的とする以上、議決権を留保するという権利行使をすることもある、と理解すべきです。これはETFが市場に現れる前の日本の機関投資家が取っていた方針でもあるので別段新しい話ではありません。
少額投資家の利益と思われていたETFが増えれば増えるほど、その意味では会社運営の観点で監視し、利益を主張し得る立場にあるはずの議決権が死蔵される可能性が上がるという意味にもなりえること理解しておく方が良いでしょう。これらを勘案して、それでもETFの動きを見て同調して保有する(することで死蔵に加担する)のか、その他の大量保有者の動きを見るのかをして、個別銘柄やETFを保有し/売り越すのかを考えるのがETF趨勢の時代におけるポジショニングの構築、ではないでしょうか。
ま、何も言ってないじゃないか、と言われそうですが、実際には二つの考え方が支配すると言ってもいいけどそれがどっちに転ぶかは知らん、としか言いようがないのです。
スチュワードシップコードという名の経営への関与 – お前らPE崩れか?
いや、まじで。スチュワードシップコードって大量かどうかはさて置いたとしても、運用会社として取得保有するならば長期的に保有して株主としての地位を使って取締役会と対話してその株式の評価額の向上に関与すべし、という話なのです。それって、友好的なアクティビストとどう違うんでしょう。本気で経営にテコ入れて企業価値を押し上げたいならば PEのように過半数以上保有して経営陣を送り込んで交代して投資家の思う経営をさせる方がより効果的だ、というのは PEファンドがすでに証明しているはずなのです。
いずれにせよ、この取締役会はクズいから不信任ということでショートします、だって取締役会への大きなアピールのはず、なのですが、どうも理解されずにロング側に立った話でしかしないのは
「株式は長期保有がマスト、というか短期売買で株式市場を下げるようなこと(= 株は売ること)はするなよ、分かってるよな?」
という国や与党から押し付けられた大人の事情、としか個人的には思えないのは私だけでしょうか。
経済的効果だけ欲しいから余計なことは言わない – 希望的マグロな投資でいいの?
と言って、この株の経済的な効果だけ欲しいから議決権行使は何があっても行使しない、という運用会社や適格機関投資家が大多数だったのは、本当にこの数年までの超長期の話。曰く自分たちの意見が株価を動かしたなんて思われたくないから、なんて、どこの誘い受けの乙女だよ。そもそも議決権を行使したところで株価がそれ通りに反応するとは限らないのだから、思い上がるなよ、という気もする(ええ、著者は株式市場なんて所詮は企業努力による株価向上など投資家のセンチメントの前には相関性の極めて低いイベント、くらいにしか思っていませんのは、前回までの ETFの取引価格の構成要素の議論を見ていただければ一目瞭然ですね。)訳です。その意味では議決権行使をするしないに関わらず株価が動くのだから行使せずに受け身でい続けたって問題はなさそうに思えるし、どうもこのセクションの論調だってそうだろ、と言われかねない。
とは言え、経済効果とは本当に株価の上昇や下降を口を開けてぼんやり黙って見て享受していれば良い、のだろうか。株価と議決権行使などのイベントが極めて低い相関性だ、と言ったところで、株主である以上、その権利ではなく義務として議決権の行使の判断をすべきなのは、株式というものが投資家のための株式の流通市場にて取引されようがされまいが、その本源的価値を向上するのが取締役会であり株主の役割であることに違いがないから、その使命は果たすべきだとは思うのです。
とすれば、誰かさんによるその企業価値の創造に第三者的にタダ乗りする運用会社って、選球眼はあるけどどうよ?としか思えなくなるのです。
で、ETFが大量保有することの影響っていいの?悪いの? -結果論に過ぎないのだから気にするな
でも、ETFってそういうタダ乗りの箱、なのですよね。結局のところ。だって、自分でどの株がいいか悪いか判断せずに丸っと保有しているだけに過ぎないのですから。その意味では影響が良いほうでも悪い方でも、出たとしても気にする必要だってないのかもしれません。
ETFを保有することが投資家の市場全体への参与を束ねているだけに過ぎない一方で個別株という個性についてはあまり配慮していない、のですから、個性がどう振る舞ったところで、日経 225であればたかだか数パーセントの影響に過ぎないのです。そりゃ、個別の株主総会への影響なんて仮に株価への影響があったところで指数全体から見れば気にならなくなりますね。
ということで、ETFで投資するなら、他人のコストストラクチャーもガバナンス的な命令系統も何もあったものではない、むしろ気にせずETFの対象戦略だけを気にする方が良いのではないか?という結論にここではしたいと思います。というか、結局そこを看破した稼げる紙としてETFにはあって欲しい方がニーズが強いから、なのでしょう。
あーあ、こんなんでいいのか?(笑)