たまには、頂き物の本のご紹介でも:Q&A投資事業有限責任組合の法務・税務(改訂版)

緊急事態宣言以降、家に閉じこもっては全てがWork-From-Home で出来る様にクラウドコンピューティングを学びながらオフィス環境をクラウドに急ピッチで移しつつ、朝起きて、家事を片付けてはいつもより早い時間から仕事を始め、気づけば昼になるから適当に家にある食材で昼食を作り、また仕事をしていると、ついぞ普段より長い時間モニターに向かいつつ、生産性が落ちないように(いいなぁ、パッティングの練習している人たち。。。)自分の仕事のログをつけながら作業なんてしていると、だんだん気持ちも体もヤバイ方向に向かっているなあ、と感じていました。

その気付きもあり、モニターに向かう時間を区切り、Offの時間には出来るだけモニターと仕事のことを考えないように本を読むように、という生活習慣を作っていたのがこのところですが、とはいえ、そんな繰り返しの毎日とはいえ、このブログを書くことは自分にとっての数少ない楽しみなので、まぁ、やめられない。頑張って毎月一本は書きたいなぁ、と思って、このところシリーズで書いていましたが、上記のようにモニターに向かう時間が実質減るとどうしても書くための時間を確保するところから始まると共に、何を書こうか、というのをあれこれ考えてしまいます。

久しぶりに熟読系の読書をしていたところに、奴はやってきた

そんな中、ハウ・トゥー:バカバカしくて役に立たない暮らしの科学を読んで、エクストリームなことを真面目に考える(例えば、とある川を渡るのに全米の電気を全部突っ込んで凍らす、というを真面目に計算する、とか)学者ってのは、贅沢なアホだなぁ、と5分に一回は涙を流しながら笑い、そんな物理頭になったところで最新の相対性理論に関する読み物、時間は存在しないなんて読みながら、ああ、物理数学、夢だよねぇ。。。なんて、オタクにすらなるガッツがなかった中途半端な理学生だったことをひた隠しにしている社会人(って、私だけか。。。)に是非読んでもらいたい、と最近ではヒットな本を読んでいる最中に、何やら見たことのない出版社さんから、何やら分厚い郵送物が。。。

見ると、いつも公私に渡ってお世話になっているWithers 弁護士法人の大森先生名義での発送。封を開けると立派な装丁の本が一冊。タイトルが。。。「Q&A投資事業有限責任組合の法務・税務(改訂版)

って、なんで?と思ったら、一枚のしおりのように差し込まれた「謹呈 著者」。え?先生、こんな高い本、いいの?と、慌ててメールしたら

(大森先生)あ、すみません。こちらから連絡する前に出版社がいきなり送りつけたようで。。。

(私)いや、先生、そうじゃなくて(汗)こんないい本もらっちゃっていいんですか?

(大森先生)次版へのご意見を頂ければ。。。

ということで、読みました。500ページを超える力作を。まぁ、大森先生を始め、これまた15年以上だからファンドのビジネスに足を突っ込む前の証券化のころからお世話になっているGT東京法律事務所の大橋先生、AIMA関連を経由してお世話になっているMorgan Lewis 法律事務所の文永先生、などファンドビジネスに携わっているならばこの誰かしらにお世話になったことのある人が多い、という(元White & Case法律事務所の卒業生の)弁護士の先生方や税理士の先生方、総勢11人に、最近新しいチャレンジを始めたというこの11人の元締めとも言えるMorgan Lewis のIR Headの秦さんが(きっと先生方の締め切り管理をガッツリやったんだろうなぁ。。。(笑))タッグを組んだものなので、まぁ、しっかりしたものなんだろう、と本編を始めに読むより先に後書きを読んで本編予想してしまうのは、グインサーガ育ち?(笑)

とはいえ、なんか、弁護士先生たちの同窓会みたいな感じでいいなぁ。初版から10年経って、業界の中で認知されている人たちが再結成して、以前の仕事のアップデートをしながら横のつながりを確認し(ついでに本が売れたら。。。それ以上は言うまい(笑))ていく(しかも、もう次版を視野に入れている)って、羨ましい。通常ファンド自体が、10年経ったら後片付けだから、下手をしたら当初手掛けていた運用・運営サイドの関係者は誰も残っていないことだってあり得るのですから。。。

奴の素性は軽く説明したから、感想でも。。。

ということで、まぁ、500ページ、普通の小説や、前述のようなある程度筋書きのあるストーリーを読むならば、まぁ、著者の作る流れに乗って読んでいけば、書き手次第とはいえ、流れに身を任せて読み進められるのですが、なにぶん、この本はタイトルに「投資事業有限責任組合」と「法務と税務」と書いてある以上、法律と関連税務の解説書。一応「Q&A」とあるから一問一答形式になっているけれども、こちらの質問、というより(言い方が悪いが)解説のための質問になっているので、いわゆる Rest of us / 残りの私たち、の質問の仕方じゃないので、これは私の悩みじゃなーい!と言いたくなるかもしれません。ですので、最初から最後まで読破しよう(なんなら意見してやろう!)、と考えた私が本当に悪うございました。ごめんなさい。ある意味悩ましいクライマックスの手前の謎解きみたいなのがひたすら続く、読み物として読んだら脳が疲弊すること間違いない本です。

ですので、感想の前に言います。

この本、国内のバイアウトファンドやベンチャーキャピタルファンドの投資担当「以外」の人、是非買ってください。(もし初版を買っていたらアップデートのために!)でも、買ったら辞書だと思って手元に置いてください。

え?それって積読のため?ええ、私は先生たちの回し者です(笑)とはいえ、辞書としてはよく出来ていますので、困ったときに開いてまず参照にするには一番いい資料だと思います。

ちゃんと、仕事したよな。じゃあ、本題に入ろうか(笑)

実際に、読んでいる最中に、いくつかの組合関連の案件を検討することになったのですが、基本に戻って考えるのに役立ちましたし、最初から最後まで読んであれこれ(それこそ、それまで読んでいた物理系の本を読んでいたから、限界条件でものを考える訓練の結果が出てきた脳味噌で)事象を想定して、本当か?と考えて検証して行った私が言うんです。他に、そんな偉そうなことを責任持って言える人、この国のオルタナ運用業界で何人いると思っていますか?(笑)

読み物ではなく、辞書と言い切りました。そのこころは(あれ、この言い回し、どこかで見たなぁ。。。w)

この本の構成は Q&Aになっている、と言いました。その通り、シンプルな質問に対して、法的/税務的背景に基づいて回答をしていく、と言う作りがひたすら続きます。と書きましたが実際のところ、概要としての法律の背景に始まり、その背景となる「投資事業有限責任組合法」に基づいて投資事業有限責任組合を設立し、登記させるのに必要な、そしてやってはいけないこと、その際に類似する商法上の匿名組合や民法上の任意組合、さらには有限責任事業組合法上の有限責任事業組合(あ、一般的にLLPって呼ばれるあれね)やこれと対比されるLLCこと合同会社との様々な角度からの法的性質の違いについてが、ものすごくきっちりと整理されています(これを読むと、私がなぜLPSと匿名組合を対比して組合形式の説明をしたかがよりわかると思います)。さらには、ページは飛びますが、ケイマン諸島やルクセンブルク、アイルランドにおける一般的なファンド向けのスキームの紹介もついてきますので、この整理は投資の際のストラクチャリングにおいて、どの法的構成を使うべきかの選択に使えるツールになると思います(あ、でも、これくらいは普通に頭に入れておきましょうね。試験に出ますよ。)

また、個人的に好きなパートは、投資事業有限責任組合で人を雇うには、と言う質問に対する検討の部分です。確かに法人格がない投資事業有限責任組合だって技術的には人を雇うことが可能ですし、回答にあるような形になるはなりますよ、法律的には。

とはいえ、雇われる側としてはファンドの資産しか裏付けにない(!)期間限定プロジェクトでしかない(笑)投資事業有限責任組合に(しかも、健康保険と厚生年金が任意適用だからない可能性が高いんですよ!)雇用されたいか、と言う質問をされたならば、余程GPをする会社に雇われたくないけど組合に関わりたい、と言う強い事情がない限りは普通はGP会社に雇われた方が安定した(?)雇用を選ぶでしょう。

また、組合を作る側からしても、組合を設定し、登記して、投資も終わって、と言うところに、失業。。いや雇用保険と労災保険の(いい雇用者でありたいならば任意適用の健保・厚年も)加入手続きを、しかも新規事業所として一からやりたいか、といえば、最近は e-Govで手軽に(?)出来るとはいえ、その後の保険料の支払い手続きとか毎月の給料の源泉徴収、果ては年末調整に至るまで、これ全部をGP会社と分けてやらねばならない二度手間を考えると、その手間を惜しむ以上にこいつとはこのプロジェクト以外では関わりたくない、と言う強い(人事担当としての私情含めた)事情がない限りは、まぁ、ありえない話だなぁ、と。

この辺りは、実際に手を動かして人事労務総務経理をやっている当事者からしたら「技術的には可能だけど、費用対効果、と言うかこっちの手間暇を考えてよー」と言う、弁護士的な机上の空論、的なところではあるものの、まぁ、これをやるからこそ、法人格のあるなしの違いというのはわかるのかな(特に事務屋がやめてくれー、と強く思う気持ちを強化する)、議論であったなぁ、と思います。こう考えるのは嫌いじゃないんですよ。実際にやるのはやめてね(特に某社長!)

金商法とファンドの関係も実はここで解説中

法律周りの中盤は、組合はファンドだから、ということでファンドの募集・運用に関する金融商品取引法上の位置づけや取り扱い方、ええ、いわゆる金融商品取引業者となるか特例業者となるのか、それとも極めて難しいけど適用免除を取るための選択肢を示してくれています。多分このブログをググってきちゃった人の半分は、金商法登録がコストがかかって面倒だから逃げたいんだけど、という期待をしてくると思うのですが、まぁ、ここを読んでいただけると日本は厳しいし、なぜ厳しいかというと、そういうことを緩めると中途半端か詐欺師まがいが大手を振って運用業界に入ってくるから、生半可な覚悟でくるなよ、というメッセージがこのパートを通じて財務省の強い意図が見えてきます。

実は。。。著作陣の一人と、「金商法登録に何か抜け道ないかなぁ。。。」って飲んだ席で検討をしたことがあるのですが。。。まぁ、ないねー、という話になりました。ご安心ください。まっすぐやりましょう(笑)

そして、実は組合をやるのに一番大事なのは。。。

法務編の最後は組合から投資する時にどうしても逃げられない規制関係に関する解説になります。

特に外為法についてはちょうど昨年から今年にかけて、特にVC協会を中心として、AIMA などの海外の運用関連業界もこの新しい変更について、投資への阻害が日本への投資資金流入の阻害となる、ということ含めて議論し、この5月に施行されたのですが、どうしても書籍ですと印刷する(というか、原稿を校了する)タイミングとの兼ね合いでこの辺りが議論中、というところで終わってしまっているのは。。。仕方のない話です。同様に上場株式の取得・売却に関するところも詳細にカバーをしていますがこの辺りも法制度が適宜更新されていますので、当然のことながら本全般に10年前の初版からの変更点などもフォローされていますので、それこそ次版で整理されたところを拝見したいところです。

でも、投資でもっと大事な議論に突入しましょう

ええ、一番大事な税務ですよ。特に、この10年で税務関連で一番大きな議論だったのが、デラウェアLPSがパススルー税制の適用ではない、ということに対する判例に基づく解説は実は、その判例の背景となる前編でのスキームごとの法的特徴の解説を上手く活かしたものですので、税務スキームを検討する時には、スキームの名前に囚われる事なくその本質に基づいた検討をしなければ税務署やその先の裁判においても戦えない、とまた強く感じるものでした。

税理士の先生の執筆は確か二人しかいないはずなのに、税務解説も実は結構力が入っていましてページ数も半分近かったのですが、それくらい投資に税務が大事だ、というのがわかると思うのですが、他方で、税務はどうしても税務署に提出する申告書をどう埋めるのか、というのもポイントですので、気付いたらページが積み上がったのかもしれません。(ここの解説をあっさりさせているのは、踏み込んだらそれだけで3つくらいブログねたに出来るような面白い話なので、そこは買って読んでもらったほうがいいだろう、という判断であって、手抜きではないですよw)

特に、中盤は組合の国内投資家への影響、後半は海外投資家への影響、という事で、組合運営のみならず、投資対象と投資家の募集の際の対象を踏まえて検討する際の参考になります。特に国内投資家周りに関する議論は、税法が投資事業有限責任組合が特別扱いされておらず、他の組合とまとめて取り扱われていますから、投資事業有限責任組合が諸般の都合で使えず(まぁ、あの理由が一番大きいはずなのですが、あれについては多くは語るまい。。。)任意組合を使って投資をしているや匿名組合を使った投資の時にも参考になりますので、本のタイトルに関わらず、手元にぜひおいて頂きたいものです(よいしょっ)

まとめ

という事で、弁護士先生や税理士先生のうち、ファンドに特化した人たちだからこそ書ける本、という一言でまとめていいと断言します。まぁ、実際に運用する時に手をどうやって動かすか、というところについては、一方では法律上こうだから、という基本がある(ので、この本が手放せない、1番の理由なのですが)一方で、他方で、法律上は特に定まっていないところについて現実的にどうするのか(日本以外にいる投資家の本人確認なんて、一番いい例ですよね)、というのはどうしても残るのは。。。実務が法務や税務だけで動かないから、なわけで、そこは実務家である運用会社や業務代行会社(ファンドアドミ)がそれぞれのベストプラクティスを法務や税務を踏まえて作り上げていくことになりますが、ここはきっと、先生たちが事務所を離れたのに再集結して本をアップデートしたのと同じように、実務家たち(私も入れてもらえるかな。。。)も知恵を持ち寄り、情報を交換しながら互いの悩みを解決していくのがいいのでしょうね。

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