Why Japanese – なぜ日本で「投資スキーム = 投資信託」なのか ?

コロナ禍のおかげで、というと何やら微妙な表現ではあるものの、2020年の春以降、セミナーというイベントがだいぶオンライン化され、(寝る時間さえ気にしなければ)どこにいても世界中のセミナーに参加できるようになり、オフショア・オンショアの法制度の変更などの最新情報から、今絶賛売り出し中のファンド・スキーム向けのビークルの紹介とその実例(って、シンガポールの VCC – Variable Capital Companyとか、香港の OFC – Open-ended Fund Company のことなのですけどね)などを耳で(笑)勉強出来るいい環境になりました。

日本らしく。しかも奥に行けば行くほど。。。

そんな中、以前本を頂戴した Withers 弁護士事務所の大森先生と、我が盟友である山本先生が、7月の終わり頃に全編英語で(ということは、海外に向けて)日本でファンドビジネスをするには、という話を、ファンドの販売と運用の両方の観点で説明する、というウェビナーを行いました。その内容の意図したオーディエンスの平均を想像するに、日本には投資家という金脈があって成功している近所の運用会社がいるから自分たちも行けるに違いない、と思って日本の外から聞いていただろうなぁ、というところなので、時々、おっと、それをいうと日本に来るインセンティブが(以下略)、という発言があったなぁ、と思いつつも、きている自分もクスッと笑いつつ「現実はそうだよねぇ。。。」と頭をうな垂れる、というシーンも何度かありました。そんな中に、山本弁護士から

「日本でファンドを売るならば、unit trust 売れない。なぜならば。。。」

という説明をする件があり、個人的にちょうど国内税制と、とある国への商品設計の背景について調べていて、基本的には同じ理由が根っこにあることから、大きくうなづきつつも、過去に4000億円ほど外国籍公募投資信託で預からせていただいた身として、これ以外にも大きな障害があることを体験していることから、それだけじゃないんだよねぇ、とも思ったのです。

そして、これを書いている数週間前に、もう10年以上の付き合いになる Maples の香港の(イケメンでナイスガイな)パートナー、Nick Harrold 弁護士による、なぜ日本が Unit Trust を使いたがるか、という動画を配信し始めていて、JID – Japan is Different の説明というのがここで改めて必要になる環境になったのだなぁ、と思っていました。

ということで、実は、この記事は7月のセミナーを受けて8月にslideshare にアップロードしたプレゼンをベースに、弁護士先生たちと違った視点による私家版「なぜ日本でファンド投資は投資信託が主流なのか」という解説をしていきたいと思います。と言っても、日本にいて日本語でこの記事を読む人のほとんどにとって、再発見以外のメリットがない、と言わせない、本当のファンド・ストラクチャリングの基本の考え方に迫りますのでご期待を。

Very basic – 世の中には3つのスキームがある。

世の中にはファンドに使えるストラクチャーが3つあり、一つは前述のシンガポールのVCCや香港のOFC、ジャージー島のProtected Cell Company、ケイマン諸島の Segregated Portfolio Company のような変動資本株式を機動的に発行できる会社型スキーム、続いては、スポンサーの会社と投資家とで資産を共同保有出来るようにする、日本で言えば投資事業有限責任組合や、ケイマン諸島の Exempted Limited Partnership、米国デラウェア州などの Limited Partnership、米国の一部で見られるLimited Liability Limited Partnershipなどの組合スキーム、そして、今回のテーマとなっている、資産の保有や管理を第三者に対して契約に基づいて委任する、日本なら投資信託、ケイマン諸島やアイルランドなら Unit Trust、ルクセンブルクならば FCP – Fonds Commun de Placement に見られる契約型に大別されます。

世界中を見回すと、投資のスポンサーシップとかダウンサイドリスクの責任の取り方とか成功報酬の分配方法などなどを踏まえると結構会社型と組合型が多いのですが、日本の投資家さんに持ち込もうというと、大抵投資信託に、それが無理ならせめてケイマン諸島籍の unit trust にして持ってきて、と言われます。一枚レイヤーを増やすことで費用が追加されるし、投資信託なら受託銀行が、unit trust なら trustee がその投資資産や戦略などによっては受けられない、という第三者を巻き込むならではの問題点が発生するから、そのまま投資してよ、とゴリ押ししたくなる気持ちはとてもよくわかります。

Why Japanese – なぜ投資信託?

でも、投資家にも投資家の事情があるのです。大別すれば次の二つに分かれます

  1. 投資家にとって一番税務のダウンサイドが低いのが投資信託や外国籍投資信託 (Unit trust)だから
  2. 日本のファンド持分販売の担い手である証券会社が高度にファンドの関係各社とネットワークで繋がった投資信託専用の販売システムを使うから

とは言え、山本弁護士がウェビナーで前置きとして強調したように、これは個人や機関投資家のような日本国内における課税対象となる投資家について当てはまる話であり、年金のような非課税投資家については当てはまらない、ということを最初に考慮する必要があります。

言い換えると、ストラクチャーを考えるにあたっては、まず投資家の税務を最優先に検討すべきだ、ということなのです。なぜかって?運用報酬の1.5%やファンド・アドミ報酬の 0.10%を 1bps 削るのに交渉という名前のパワーゲームをしたところで、源泉所得税やキャピタルゲイン税が通常掛からないところスキームを間違えて 30%かかってしまう、というロスの前には誤差にすぎないのです。でも、この議論は非課税投資家にとっては(非課税投資家であるステータスを正しく現地の税務当局に届け出る限りにおいては)影響がないところなのでスキームにこの制限がかからないのです。

そこで、スキームごとの税務を検証すると

まず、組合型。これは一般的に法人格のない組織で資産と負債を組合員で共有するため、投資家である組合員はそれぞれの持分に割り当てられる収益と費用(そして資産と負債)を毎年税務報告に取り込むことになります。そのため、例えばある年に資産売却に伴うキャピタルゲインを再投資した場合、投資信託や会社型ファンドの場合NAVの増加の形でしか認識できないことからキャピタルゲイン税の先送りが出来るところ、組合の場合はその年の収益としてキャピタルゲインを取り込むことでその年に課税される、という税務上のメリットを享受できないのです。とは言え、組合型のスキームをとる投資の場合、あまり再投資を行わずに回収資金を分配の形で組合員に還元するので、オープンエンド型のファンドで通常行われる再投資によって投資家が納税原資をファンドから回収できない、という事態に陥らないのであまり問題とされていないのです。さりとて、法人ならばまだしも、個人が組合スキームに投資して、毎年損益取り込みをして納税手続きをする、というのはハードルが高いのも事実です。

では、信託型の場合は、といえば、ざっくり言えば上場株式の課税と同じなので、信託持分の譲渡益には個人では 20.315%の申告分離課税、法人では法人所得税の対象、配当金も法人なら15%の源泉徴収税、個人ならば20.315%の源泉分離課税、総合課税か分離申告課税の3つからの選択、になります。言い換えると、投資信託のポートフォリオの中で、資産の入れ替えの結果キャピタルゲインが発生し、その後再投資を行ったとしても、投資家の持分の評価額が増加するだけでポートフォリオに対しては課税されずにいて、投資持分を売却した時のキャピタルゲイン課税が掛かる、という課税時点の繰延が行える、というメリットがあります。

そして、会社型の場合は、と言えば、未上場株式の課税と同じで、ファンド持分の譲渡益には個人では 20.315%の申告分離課税、法人では法人所得税の対象、配当金も法人・個人共に20.42%の源泉徴収税、になります。と書くと、税率って誤差の範囲だから会社型でも問題ないじゃない、と見えますよね?でも、会社型には税制上、より大きな問題が隠れているのです。

外国子会社合算税制って知ってます?

まず、会社型ファンドを設定するには機動的に株式を発行できる会社を設立できる法制度が必要です。ですが、日本にはそのような制度はありません。未上場の株式会社や合同会社はVCCや Segregated Portfolio Company のように時価に合わせた株式や持分を(極端な話、日次で)発行し、または買い戻して償却する、もしくは不特定の第三者に譲渡する、ということが出来ません。従って、会社型ファンドの議論はもっぱら外国籍の会社の株式保有の議論が絡んで来るのですが、その際に大きな影を落とす税制が「外国子会社合算税制」です。聞いたことありますか?

これは「タックスヘイブン課税」としても知られるもので、この税制の狙っているものは、国内企業が海外の低税率国にリース会社や海外子会社の持ち株会社を設立して、海外での収益をこのような会社に集約して再投資を行う、という合法的節税行為に対して(本来日本政府の課税権が及ばないはず)の国外純利益にも関わらず課税する、というなかなかひどい税制です。

とは言え、この税制を投資資産を保有するだけのいわばペーパーカンパニーのようなファンドに当てはめると、日本からの投資家がファンドの50%以上いる場合にこの税制が適用になり、その税制適用の会社株式を10%以上保有すると連結決算の対象になるのです。その結果、その年の純利益に対して課税がかかるため、ファンドから決算に基づく分配がなくてもその分の税金を納めなければならなくなる、という投資家にとっては税務の繰延メリットがない上に納税原資の手当てを別途する必要がある、という、メリットを全く感じさせない投資スキームに仕上がってしまうのです。

じゃあ、税制適用を回避すべく日本外の投資家を常に50%以上維持すればいいのでは、とか、仮に税制適用であっても10%未満しか保有しないようにすればいいのでは、と考えるかもしれません。でも、自分の持分が10%以上になりそうになったら売却する、というモニタリングと投資管理をし続けてまでしたい投資ですか?日本以外の投資家が50%以上を維持し続けられますか?という投資家構成をコントロールできるか(特に逃げ遅れやすい日本の投資家ですよ?)、というと正直疑問ですよね。なので、現実問題として会社型スキームが使えない、という結論に落ち着くのです。

投資信託ならばなんでもいい、わけではない

とは言え、投資信託の器を使えば税制のメリットが本当に受けられるか、というとそんなことはなく、前述の上場株式と同等の税制が適用になるのは「証券投資信託」だけです。これはどういう投資信託かというと、株式や債券、国内外の投資信託と言った金融商品取引法第2条第1項に定められた有価証券を50%以上保有する投資信託を指しています。

これの裏返しとして、例えば不動産や不動産信託受益権、組合型ファンドの投資持分と言った金融商品取引法第2条第2項に定められた「みなし」有価証券などを50%以上組み込んだ結果、1項有価証券の割合が 50%未満の投資信託は証券投資信託にならないことから、法人信託税制が適用されます。

法人信託税制とは、言ってしまえば信託勘定レベルで法人所得税計算がされて納税義務が発生する、というものです。これのおかげで年間の純利益に対して法人税がかかるため、何度も繰り返している、ファンドのメリットの一つである課税の繰延効果が得られなくなる、再投資の効率が下がる、と言ったことが起こるのです。

ということで、消去法で考えていくと、税制のデメリットの回避と課税の繰延メリットを追求すると、どうしても、投資信託やunit trust 形式の外国籍投資信託を通じて株や債券、投資信託やunit trust、会社型のファンドへの投資をする、という形態にならざるを得ないことになる、のです。

投資信託の国内インフラの光と影

でもさ、例えばLuxembourg のUCITSでSICAV形式のもの(”Société d’Investissement à Capital Variable”、 従って会社型ファンド)でヨーロッパの投資家がたくさんいるようなものや、米国の 40-Actの会社型ファンドで米国投資家がほとんどのものを日本の外国籍公募会社型投信として売れば、流石に投資家で全体の10%も買うことがないのだから問題ないんじゃないの?と頑張る人、いますよね。(というか、実際にいます。)

でも、安心してください。あなたの理論的頑張りはある一つの抜け穴を除いて実務上の困難という形で既に塞がっています。

日本の証券会社のシステムインフラは国内仕様

日本の証券会社で一般に取り扱われている商品は、まずは国内株式、続いて仕組債を含んだ公社債、その後に国内籍公募投資信託となり、会社によっては外国籍公募投資信託や生命保険と言ったものが並びます。国内株式や公社債、国内籍公募投資信託はそれぞれ、取引所や名義管理をする保振(証券保管振替機構)や信託会社、投信会社と言った、証券の決済のための関係者との間を繋ぐインフラに直結して、証券事故を起こさないように高度に管理されています。ある意味、証券事故を起こす一番大きな原因である人の手を、ほぼ介することなく処理できるようにされているのです。それが出来る最大の理由は、証券決済のサイクルの標準化が行われていることでして、その反動として、標準に合わない証券はシステムに載らない、のです。

株や債券は商品として決済スケジュールが決まっているので問題ないのですが、投資対象によって決済スケジュール(申し込んでから資金化するまでの日数)がバラバラの投資信託の場合、それでも、上場株や債券の決済日に1営業日付け加えたくらいが一般的になるので、そういう商品設計が基本となってくるのです。

じゃあ、より良いインフラを提供すれば?

というと、そんな柔軟性のないシステムなんて、より性能のいいシステムで駆逐すればいいじゃないか、とか、自社商品だけを取り扱うためのシステム端末を導入して貰えばいいじゃないか、という柔軟な頭の持ち主の素敵なアイデアがごく普通に出てきますよね。

とは言え、例えば二つのシステム端末を使う場合、発注の作業と、顧客の資金と証券管理のための入力と二つ行うことになるので、システム間の整合性の確認をどこで、しかも誰が、かつ手作業で、行うの?ということになります。ほら、そんなところに証券事故が口を開けて待っているじゃないですか。

また、より性能のいいシステム、と言っても既存のシステムデータの入れ替えから利用方法の再教育、特に柔軟な対応が可能ということは商品の情報入力がより複雑になる、という意味ですので、時間的な事務コスト増はもとより、証券以外の関係各社全員への導入の同意を取り付けることの難しさ(何せ、証券システムの大半は大手証券会社系列のシステム会社の商品ですから。。。)、そして、システムにつきもののプログラムエラーによる証券事故の発生リスクの増加との見合い、という話になります。なので、そう簡単に行かないのです。

システムに載らない商品はどうなるの?

例えば、外国籍公募投資信託の場合、それでもシステム対応じゃないと全国に広がる支店ネットワークをカバーできませんから、専用システムを導入せざるを得ません。通常は証券決済システムのオプションとして提供をされているのですが、導入費用が数千万円レベルとそこそこ高い。それもあってか、メガ証券四社と中堅証券数社、そして銀行数行でしか外国籍公募投資信託は売られていません。しかも、システム自体が日本の投資信託の(ということは日本株の)延長の商品を前提に作られているため、ヘッジファンドのような月次決済、だけど決済日は15営業日後、なんてものは取り扱えないため、昔は手作業で頑張ってくださいました。でも、今は証券事故を嫌ってこの手の変則的な決済のものは受けてもらえません。

そして、お待たせしました。外国籍公募会社型投資信託ですが、投信と言って外国株式でもあるので、米国株をはじめとする外国株式システムに載せているケースがほとんど、だそうです。とは言え、上述のような特殊な決済スケジュールのものは手作業になるため、採用はなかなか難しいようです。

ということで、どうしても、システムに乗せて売ることから決済・管理することまで行いたい、というニーズを踏まえると、国内籍公募投資信託一択、になってしまうのです。

とはいえ、世の中の投資商品へのニーズの多様化も事実ですので

私募ファンド、という形で限定された投資家向けに立ち上げるケースというのもあり得ますが、この辺りになると本部の金融法人営業部隊だけ、とか、ニッチ商品専業の小規模販売会社での取り扱いになることから、当然大がかりなシステムではなく手作業か独自の管理方法などで対応しますので取り扱ってくれます。

とはいえ富裕層向けにしたいから募集人数は少ないんだけど、事務周りを考えると公募にしてよ、というニーズが昔はありましたので、この辺りは会社さんの考え方とか、ファンドを売る側の収益性との兼ね合いとか、チャンス含めて色々とあるとは思います。

さらにいえば、投資のニーズがプライベート資産に移行しているので

投資スキームが自然と投資機会ごとに出資する組合型ファンドに移行していきます。こうなると、運用者側の資金ニーズに合わせたキャピタルコールで投資資金を出してもらい、投資回収したら資金を回収する、という流れになりますので、オープンエンド型のファンドのような常に何かに投資しなければいけない、ということになりません。もはや商品単体の出入りに対してシステム的な対応が、という世界にはならなくなっていきます。無論、そういう投資ですので投資家を選ぶ、わけですが、そうでない投資家も同様に投資のニーズが高まるのですから、売りたい人も増えますので、こうやって投資家や販売会社、そしてファンド側でいろいろなことを考え、手当てして裾野が広がっていくのかもしれません。

まとめ

ということで、最大公約数的には信託型の商品での投資が一般的、という背景を理解しつつ、それでも新しいスキームと戦略を普及していくには、ということを考えてみると、今までのような横車を押すようなアプローチとは違った、誰もが取り扱いやすい売り方、投資の仕方が出てくるかもしれません。とはいえ、基本的な税制とビークル周りの法制度がまず変わらないと、なんですよねぇ。この辺りもニーズ次第で法律も変わるでしょう。多分。

おまけ

二つほど告知があります。

一つは、この記事は山本弁護士がやったようにどちらかというと日本以外の読者に向けるべき内容なので、近々英語訳します。元々このブログの英文版は海外の関係者からも求められていたので、まず手始め、という感じかな、と。なので、日本語の記事のペースがさらに落ちますが、よかったら英文版も読んでいただいて日本語版との違いを楽しんでいただければと思います。

あともう一つはこの記事から、Amazon Polly を使って読み上げファイルを作り、podcastingなんてはじめようと思います。自分の声で録音しなさい、と怒られそうですが、舌を噛みそうなので機械に頼ることにしました。ちゃんと登録ができたら Podcast で見つかると思いますので、広告が入らないこともあり、ぜひこちらにも登録してくださいね。

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