と、泣き事のようなタイトルにしましたが、規制が少ない、と一般的に言われるオフショア。本当になんでもやりたい放題、と思われがちです。よく、「○○って出来ますか?」(いやいや、それやるならそのストラクチャーじゃなくってこっち使えば早いんだけど。。。)とか、「XXって感じでやりたんですけど。。。」(。。。やってもいいけど、あとで実務上絶対にハマるぞ。。。(汗))ってご相談を時折耳にします。
ファンド構造とやりたいことのギャップ、それと柔軟性の間にて
The Mutual Fund (Japan) Regulation の罠
で、そんななんでもありなケイマン諸島に、面白いレギュレーションがあるんです。その名も “The Mutual Fund (Japan) Regulation”。名前からも想像が難くないのですが、日本での公募投信として設定するケイマン諸島籍のユニット・トラストはこのレギュレーションに合致しないといけませんよ、と言わんがばかりのレギュレーションです。で、実際、これを通すとどうなるかというと。。。日本での海外籍公募投資信託の規則といえば、日本証券業協会の定める「外国証券の取引に関する規則」の第16条にある、「外国投資信託受益証券の選別基準」を満たさねばならない、というものなのですが、このケイマン諸島のレギュレーションを満たしていれば自然とこれを満たす、という仕掛けになっています。それに対して、例えばEU 域内のどこかで設定された公募ファンドがEUのどの国でも公募ファンドとして販売を自由にできるようにした UCITS というものがありますが、このUCITS の基準を満たしたとしても必ずしも前述の外国投資信託受益証券の選別基準を満たすわけではないのです。でも、ケイマンはなぜか。。。
Japan Regulation の表向きの狙い
実は、このJapan Regulation はこの選別基準をそのまま採用しているからにほかならないのです。まことしやかに言われている話によれば(多分そのとおりだと思うのですが)、日本とケイマン諸島のそれぞれのファンド設立の際に起用される最大手の弁護士事務所2社が数多く設立されるケイマン諸島籍の日本の公募向けユニット・トラストの日本における選別基準の合致の確認について繰り返し弁護士意見書などで確認するのが非効率であると考えてレギュレーションにしてしまえ、と導入された、らしいです(その結果、これらの事務所の寡占がより進むだろう、とも考えたと言われてます(しーっ))。確かにケイマン諸島の当局のお墨付きとあれば意見書も書きやすく、日本証券業協会に届け出る代行協会員(当該ファンドを日本に持ち込む責任を負う証券会社)も安心です。で、当然ながら、ケイマン諸島の当局にこのレギュレーションの合致を確認してもらわず普通のファンドとして当局に届け出て、選別基準を合致していることを逐次確認することも出来ます。ケイマン当局に出すか出さないか、の問題でしかない、という話でもあるわけですが。。。
ちなみに、実はこんな裏話
で、面白いことに、もともとケイマン諸島のファンド関連法はバーミューダ諸島のファンド関連法の一部を(そのまま)コピーされている、とされていますが、元ネタであったバーミューダ諸島が 2007年4月にこれらの法改正をしたことで日本向け公募向けユニット・トラストの認可プロセスをそっくり作るのを忘れた、という珍事が発生しました。当時は再保険やアメリカ向けビジネスで潤っていたので日本のことをすっかり忘れた、ということらしいのですが、数年たち日本向けのビジネスが激減したことに気づいたバーミューダ諸島の当局が慌ててその島の最大手の弁護士事務所に認可プロセスを作らせようとしたところ、一箇所だけ頑なに拒んば部分があったのです。それは、ケイマン諸島における Japan Regulation だったのですが、理由がとても簡単で、今適切に認可条件を定めても、将来日本で選別基準を変更されたらそれに追随して変更せねばならないのが解せなかった、そうなのです。ちなみに、2012年頃にやっとバーミューダ諸島にも日本の公募向けユニット・トラストの認可プロセスが導入されましたが、その時には既にケイマン諸島が新規案件の大半を占めていたので改めて新しい法規制を金融庁に説明して認可を受ける、という余計な手間を誰もしたがらないので、みんな引き続きケイマン諸島籍に流れています。
さて、バーミューダ諸島の懸念は長い間起きなかったのですが、つい執筆時で2ヶ月ちょっと前に発生してしまいました。これでやっと本題に入れます。長い枕でした(笑)
日本の公募投信のルールが大きく変わった
2014年12月1日に日本の公募向け外国籍ユニット・トラストの選別基準に新しい条項が入りました。これは、国内の公募投信と国内の公募投信が投資先とするファンド・オブ・ファンズ等に適用するルールをある意味そのまま移植することで、外国籍公募投信が抜け道とならないように、という手当がなされた、というものです。
で、どんな条項が入ったかというと、コンセプトで説明するならば
- 投資信託は分散投資するのが基本なのだから、最低10銘柄の証券は保有しましょうね。
- デリバティブ取引は大きく資産評価が動きかねないし取引先の信用リスクに大きく依存しかねないほどリスクが高いから、ファンド全体の取引についてもそのリスク量が純資産の80%までしか取ってはいけませんよ。
デリバティブ規制
集中投資規制
これはこれで、単純な単一資産/契約だけの仕組みもののファンドを許さない、ということの表れなのもしれませんが、1.はそれを厳密に全面に押し出した、といえます。というのも、これは正しくは「信用リスクの管理」という範疇において
信用リスクの適正な管理方法として、具体例として、一の者に係るエクスポージャーの投資信託財産の純資産総額に対する比率が次にあげる区分ごとのそれぞれ10% 、合計で20% を超えることのないように運用すること、および、価格、金利、通貨もしくは投資資産財産の純資産総額の変動等により当該比率を超えることとなった場合に、純資産価格の計算を行い、定められた比率を超えることが判明した日から一か月以内に当該比率以内となるよう調整を行い、通常の対応で一カ月以内に調整を行うことが困難な場合には、その事跡を明確にしたうえでできるだけ速やかに当該比率以内に調整を行う方法が考えられます。ただし、投資信託の設定当初、買戻し及び償還への対応並びに投資環境等の運用上やむを得ない事情があるときには、このような方法による必要はないと考えられます。
(a) 株式及び投資信託証券の保有:「株式等エクスポージャー」
(b) 有価証券(組合出資持ち分を含み、(a) に定めるものを除く)及び金銭債権((c) に該当するものを除く。)の保有:「債券等エクスポージャー」
(c) デリバティブ取引その他取引により生じる債権:「デリバティブ等エクスポージャー」
ということを行いなさい、と明示されました。特に上記の太字にしたところだけでも十分意味が通じるはずですが、要は、とある会社の発行する株式、債券、デリバティブ取引の3つにおいて、それぞれ 10%以下までなら持てます、もし複数のカテゴリーに渡って持つならば合計でも 20%以下までなら持てます、ということなのです。で、これですが、計算方法にリスクの考え方を入れるわけですからちょっと調整が入りまして。。。
まずは簡単なところで
なお、それぞれの計算方法については次の通り。
(a) 及び(b) は、当該有価証券及び金銭債権(以下「有価証券等」)を発行もしくは組成した者または債券の相手方(以下「発行体等」)に対するものとし、保有評価額または債権額(担保付取引の場合には当該担保の評価額、当該発行者等に対する債務がある場合には当該債務額を差し引くことが出来る。以下同じ)をもってエクスポージャーとすることが考えられます。
なお、次に掲げる有価証券等についてはエクスポージャーをゼロとすることが考えられます。
- 信用力が高いと認められる国等の中央政府、中央銀行、もしくは地方政府またはこれらが設立した政府機関の発行または保証する債権
- 現地通貨建ての中央政府、中央銀行、もしくは地方政府またはこれらが設立した政府機関の発行または保証する債権
- 国際機関の発行又は保証する債権
- コールローン、預金、CP(短期社債等を含む)、海外CDまたは金商法第2条第1項第18号に定める有価証券(第1号に定めるものを除く)については、満期までの期間が120日以内のもの
- 一か月以内の現先取引またはリバースレポ取引で、保有する有価証券等(上記1. から4. までに定めるものを除く)
このうち、信用力の高いと認められる国等とは、日本、アイルランド、アメリカ合衆国、イタリア、オーストラリア、オーストリア、オランダ王国、カナダ、UK 、シンガポール、スイス、スウェーデン、スペイン、デンマーク、ドイツ、ニュージーランド、ノルウェー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポルトガル、ルクセンブルク、香港、とされています。
とすると、私の2009年までの仕事は一つ、もしくはあっても2つの発行体の債券だけを保有する、ということは、ほぼ100%(2つの発行体の場合はそれでも、それぞれ10%を超える)のエクスポージャーなのでこれも出来ない、ということになります。
で、残るデリバティブ取引ですが、
(c) について、まず、下記のような取引を想定しています。
- デリバティブ取引
- 為替予約取引
- 信用取引(売付を目的としたものに限ります)
- 株式の借り入れ(売付を目的としたものに限ります)
- 有価証券の貸付
- 証券貸借取引(レポ、現金担保付債券借り入れ(「リバース・レポ取引」))
- 債権の借り入れ(リバース・レポ取引を含みます。)
- 債券(転換社債券、他社株転換可能債券、新株引受権付社債券及び新株予約券付社債券を除く)の空売り
- 現先取引(債券、CD、CP に係るものに限ります。)
- 金銭の貸し付け
- 資金の借り入れ(コール市場を通じたもの取引も含みます。)
- 外国為替の取引(2. に該当するものを除きます。)
- 発行日決済取引
このうち、為替予約取引(店頭デリバティブ取引に該当するものを除きます。)のエクスポージャーは取引の相手方に対するものとし、たとえば予約期日に応じてそれぞれ次の定めによることが考えられます。
- 120日以内に予約期日が到来するものについてはゼロ。
- 120日を超えるものについては、評価益の額をエクスポージャーとする。
おっと。為替予約取引のうち 120日以内に期日が来るものはゼロ、って、これは不思議ですね。これのお陰で、いわゆる通貨クラスの商品における高分配を下支えする高金利通貨との為替フォワードのほとんどが無罪放免になります(通常最大一ヶ月のロールですからね。)何故かアメリカのCFTC のルールでもこの120日以内の為替予約取引は対象外、のような話もあるので、この商品の取扱いというのはある意味需要や取引量などなどの観点で例外扱いなのでしょう。さて、これの続きを読み進めていきましょう。
これを除くデリバティブ等エクスポージャーの算出方法は、有価証券の発行者等及び取引の相手方に対するものとし、たとえば、それぞれ次の定めるものによることが考えられます。
- 有価証券の発行者等に対するエクスポージャーは、デリバティブ取引のうち有価証券等を対象(原資産)とするものについては、それぞれ次のように定めるところによる(ただし、原資産が上記の発行体によりエクスポージャーをゼロとできる有価証券等である場合を除きます。)ものとし、デリバティブ取引のうち、金融指標等(利子率、為替レート、株式指数、先物取引等)を対象とするものその他のデリバティブ取引等についてはゼロとする。
- 先物取引の買いについては、当該先物の評価額をエクスポージャーとする
- 先物取引の売りについては、エクスポージャーをゼロとする。
- コールオプションの買い及びプットオプションの売りについては、当該取引の店頭デリバティブ取引のうち、権利の数に原資産の価格を乗じた額をエクスポージャーとする。ただし、原資産の変化率に対するオプションの価格の感応度(デルタ)を勘案して計算することができるものとする。
- コールオプションの売り及びプットオプションの買いについては、エクスポージャーをゼロとする。
- 取引の相手方に対するエクスポージャーについては、それぞれ次に定めるところによるものとする。
- 市場デリバティブ取引及び外国市場デリバティブ取引についてはゼロ
- デリバティブ取引等(i. 及び為替予約取引を除く)については、評価益の額(当該取引に担保または証拠金が差し入れられている場合(クリアリングハウスで決済する場合を含む)には、当該担保または証拠金の評価額を差し引きものとする。)をエクスポージャーとする。
要はデリバティブ取引ですので、取引の相手方のリスクは当然として、取引にて参照する有価証券を持つという想定があることからその有価証券の発行体のリスクも勘案する、という、というダブルカウントをするそうです。が、大抵の場合、ここでいう金融指数等にまずなってしまう(それが幾ら独自にカスタマイズされた指数であっても、原資産自体が存在しないことにより)ので、たいていはゼロとみなして考えると、あとは取引の相手方のエクスポージャーとなり、これは評価益、すなわち負けていれば考える必要はなく、勝っていれば勝ち分を見ましょう、ということのようです。まぁ、そうですよね。勝ち分が将来引き渡されるわけですからそこだけ見ればいい訳です。ということは、実はデリバティブ取引の場合、取引開始当初は 0% のエクスポージャー、ということでもあります。
でも、ということは、この勝ち分が10%を超えてしまうといけない、ということでもあり、ある意味違和感がありますよね。といって、10%になりそうなら一旦デリバティブ取引を精算してファンドに取引相手から 10%程度の勝ち分の現金を払ってもらってデリバティブ取引を再度開始する(ことでエクスポージャーを0に戻す)、という回避の方法も考ええますが、精算する前の取引と同条件で取引に入れるとは限らない訳ですのであまり現実的でもなさそうですね。
回避スキーム?
まぁ、一つ思いつくところで、担保による相殺というルールを使うなら、差額決済のデリバティブ取引ではなく、full-funded swap といって、取引当初にファンドが取引相手に取引元本相当額を支払い、反対に取引相手はファンドに当初は取引元本相当額の担保を供出し、その後は評価額が増えるに従って取引相手から担保の追加供出を受ける、という取引にすれば、基本的に取引の評価額は想定元本に本来の経済効果の勝ち負けを合計した額になる一方で、取引相手から掛かる評価額相当額の担保が常に供出されているため評価額の全額が相殺されて常に 0になる、ことになります。こうすることで、ファンドが上記の定義による信用リスクが全くない状態で常に運営されていくことになります。
ただ、そのためには担保が基本的には「信用力の高いとされる国の国債」が使われる必要があって、この手の案件をするときにポジションのヘッジのために取引相手とされる会社さんが取得する株や社債がそのまま使えない、といって国債を塩漬けにするようなコストの高いことが出来ない、という声も実はちらほら聞こえています。また、信用リスクが 0になったとしても、デリバティブ取引の日々のリスク管理の観点でちゃんと80%の枠に収まっていることが日々管理できるかどうかは、管理会社もしくは運用者の実務的体制に大きく依存する、というか、ここまで来ると、ストラクチャーだけでは解決できない、実務インフラの要求レベルへの対応、という話に変わってきてしまいます(笑)
ということで、まぁ、これはオンショアの包括的要求がオフショアでの商品設計に大きく影響を与える一例、という、まぁ、長ったらしい話になってしまいましたが、本来はこれを持ち出すまでもなく、投資家、投資対象国、そしてファンド組成地の3つの間にある租税条約の基づくタックス・プランニングも、ファンドの組成に大きな要素ともなります。とはいえ、何故か日本ではこのタックス・プランニングをしさえすればほぼストラクチャリングは終わった、みたいな考えになる人が多いようですが、実際は最終的な投資効果に影響するのは税制だけではなくトータルのコストも合わせて勘案せねばならない、のですよ。なにせ、税金以上に余計なタックスブロッカーを作ったら意味が無いわけですしね。
ええ、ちょっと個人的にこの公募ファンドのルール改正をどこかで解説したかっただけ、なのです(笑)